平成15(わ)1337 殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反,詐欺被告事件

裁判年月日・裁判所
平成16年9月24日 神戸地方裁判所
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判決文本文10,444 文字)

主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中230日をその刑に算入する。 押収してあるナイフ1本(平成16年押第7号の1)及び鞘1本(同押号の2)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)第1 他人に譲渡する目的で,金融機関から預金通帳及びキャッシュカードを詐取しようと企て, 1 Bと共謀の上,(1)(平成16年4月28日付け起訴状記載の公訴事実第1関係)平成15年8月29日,神戸市a区b町c番地所在のCビル1階株式会社D銀行E支店において,同支店行員Fらに対し,真実は,開設した預金口座を前記Bが使用する意思がなく,交付を受けた同口座の預金通帳及びキャッシュカードは第三者に譲渡する意思であるのにこれを秘し,前記Bにおいて,同人名義の普通預金口座(総合口座)の開設並びに同口座に係る総合口座通帳及びキャッシュカードの交付を申し込み,前記Fらをして,前記Bが,同銀行の普通預金規定等に従い,総合口座通帳等を第三者に譲渡することなく前記B自ら利用するものと誤信させ,よって,そのころ,同所において,同支店行員Gから,前記B名義の預金口座開設に伴う同人名義の総合口座通帳1通の交付を受け,さらに,同年9月25日,名古屋市d区e町f番g号所在の前記B方に前記B名義のキャッシュカード1枚を郵送させてその交付を受け,(2)(平成16年4月28日付け起訴状記載の公訴事実第2関係)平成15年8月29日,神戸市h区i町j丁目k番l号所在の株式会社H銀行I支店において,同支店行員Jらに対し,真実は,開設した預金口座を前記Bが使用する意思がなく,交付を受けた同口座の預金通帳及びキャッシュカードは第三者に譲渡する意思であるのにこれを秘し,前記Bにおい I支店において,同支店行員Jらに対し,真実は,開設した預金口座を前記Bが使用する意思がなく,交付を受けた同口座の預金通帳及びキャッシュカードは第三者に譲渡する意思であるのにこれを秘し,前記Bにおいて,同人名義の普通預金口座(総合口座)の開設並びに同口座に係る総合口座通帳及びキャッシュカードの交付を申し込み,前記Jらをして,前記Bが,同銀行の普通預金規定等に従い,総合口座通帳等を第三者に譲渡することなく前記B自ら利用するものと誤信させ,よって,そのころ,同所において,前記Jから,前記B名義の普通預金口座(総合口座)開設に伴う同人名義の総合口座通帳1通の交付を受け,さらに,同年9月17日,同所において,前記Jから同キャッシュカード1枚の交付を受け,2(平成16年3月30日付け起訴状記載の公訴事実第1関係)K及びLと共謀の上,別紙1記載(添付省略)のとおり,平成15年8月29日から同年10月7日までの間,前後4回にわたり,京都府福知山市m町n丁目o番地所在のM労働金庫N支店ほか3か所において,同支店係員Oほか3名に対し,真実は,開設した預金口座を前記Lが使用する意思がなく,交付を受けた同口座の預金通帳及びキャッシュカードは第三者に譲渡する意思であるのにこれを秘し,前記Lにおいて,同人名義の預金口座の開設並びに同口座に係る預金通帳及びキャッシュカードの交付を申し込み,前記係員らをして,前記Lが,各金融機関の預金規定等に従い,預金通帳を第三者に譲渡することなく自ら利用するものと誤信させ,よって,それぞれ,そのころ,同所において,前記係員らから,前記L名義の預金口座開設に伴う同人名義の総合口座通帳など合計4通の各交付を受け,さらに,同年9月6日から同年10月16日までの間に,同府船井郡p町qr番地所在の前記L方ほか1か所において,前記係 前記L名義の預金口座開設に伴う同人名義の総合口座通帳など合計4通の各交付を受け,さらに,同年9月6日から同年10月16日までの間に,同府船井郡p町qr番地所在の前記L方ほか1か所において,前記係員らから,前記L名義のキャッシュカード合計4枚の各交付を受け,3(平成16年3月30日付け起訴状記載の公訴事実第2関係)前記K及びPと共謀の上,別紙2記載のとおり,平成15年9月8日,前後4回にわたり,兵庫県三田市s町t番u号所在の株式会社Q銀行R支店ほか3か所において,同支店係員Sほか3名に対し,真実は,開設した預金口座を前記Pが使用する意思がなく,交付を受けた同口座の預金通帳及びキャッシュカードは第三者に譲渡する意思であるのにこれを秘し,前記Pにおいて,同人名義の預金口座の開設並びに同口座に係る預金通帳及びキャッシュカードの交付を申し込み,前記係員らをして,前記Pが各金融機関の預金規定等に従い,預金通帳を第三者に譲渡することなく自ら利用するものと誤信させ,よって,それぞれ,そのころ,同所において,前記係員らから,前記P名義の預金口座開設に伴う同人名義の普通預金通帳など合計4通の各交付を受け,さらに,同月10日から同月14日までの間に,京都府船井郡x町字y字前z番地所在のT郵便局ほか1か所において,前記係員らから,前記P名義のキャッシュカード合計4枚の各交付を受け,もって,それぞれ人を欺いて財物を交付させた第2(平成15年11月21日付け起訴状記載の各公訴事実関係) 1 平成15年11月1日午前10時6分ころ,神戸市長田区α町β丁目γ番Uδ号室前通路において,X(当時24歳)に対し,憤激のあまり,同人が死亡するかも知れないことを認識しながら,あえて,所携のナイフ(刃体の長さ約18センチメートル。平成16年押第7号の1)でその背 Uδ号室前通路において,X(当時24歳)に対し,憤激のあまり,同人が死亡するかも知れないことを認識しながら,あえて,所携のナイフ(刃体の長さ約18センチメートル。平成16年押第7号の1)でその背部を1回突き刺すなどしたが,同人に加療約25日間を要する背部刺創等の傷害を負わせたに止まり,同人を死亡させるに至らなかった 2 業務その他正当な理由による場合でないのに,1記載の日時場所において,同記載のナイフ1本を携帯したものである。 (証拠の標目)―括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号―省略(補足説明)第1 争点判示第2の1の罪について,弁護人は,被告人には,被害者Xに対する殺意はなかったから傷害罪が成立するに止まる旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするところ,当裁判所は,関係各証拠によれば,被告人には,被害者に対する未必的殺意が認められると判断した。以下,補足して説明する。 第2 前提事実 1 関係各証拠によれば,以下の各事実が認められる。 (1) 凶器の性状等判示第2の1の犯行で使用されたナイフ(以下「本件ナイフ」という。)は,刃体の長さ約18センチメートル,最大幅2.8センチメートル,最大厚さ0.4センチメートルの鋼鉄製の鋭利なナイフであって,高い殺傷能力を備えた凶器である。本件ナイフは,被告人において,刃物に詳しい知人から教示を受け,鉄板を削り出し研磨して自ら作ったもので,鍔を備え,握り部分には麻縄が巻かれて力が入りやすくなっており,被告人は,日頃,これを護身用として持ち歩いていた。 (2) 創傷の部位,程度被害者の被った背部の創傷は,背部下方のほぼ中央,脊柱(横突起),肋骨等の奥に腎臓などの主要臓器が存在する人体の枢要部位の,刺入口の長さ約2. 5センチメートル,比較的硬い 創傷の部位,程度被害者の被った背部の創傷は,背部下方のほぼ中央,脊柱(横突起),肋骨等の奥に腎臓などの主要臓器が存在する人体の枢要部位の,刺入口の長さ約2. 5センチメートル,比較的硬い筋肉である傍脊柱筋を貫き,後腹膜腔に達する深さ約5ないし8センチメートルの刺創である。刺創の深さは本件ナイフの刃体の長さに比べれば浅いが,犯行後ナイフの刃先がわずかに折れ曲がっていたことや,被告人がゴリッという音がして刃先が骨のようなものに当たった感触を得た旨供述していること,この刺創を生じさせるにはかなり強い力を加えて刺突する必要がある旨の救急治療を担当した医師の供述に照らすと,刺創の深さが本件ナイフの刃体の長さに比べて浅いとはいえ,それは,刺突時にナイフの刃先が助骨または横突起に当たったためであると認められるから,打撃が弱かったと推認できず,客観的には,かなり強い力を加えて刺突したと考えてよい刺創である。 (3) 犯行に至る経緯被害者は,平成15年(以下,日付はいずれも平成15年をいう。)10月24日,11月1日までに返済する約束で,被告人から10万円を借り受け,さらに10月31日,いわゆる「飛ばしの携帯電話」10台を1台1万円で買わないかなどと嘘を言い,被告人から10万円を被害者の預金口座に振り込ませてこれを騙し取った。被告人は,同日午後6時ころ,前記携帯電話の受渡場所として被害者に指定された場所に自車を運転し知人のYとともに赴いたが,被害者は現れず,被害者に騙されていると確信し,同日午後11時30分ころ,被害者を神戸市内に呼び出し,前記Y運転の自車後部座席に被害者を乗せ,背後に暴力団組織が存在することをほのめかすなどして前記金員の返済等を迫ったが,被害者が被告人を騙したことを認めず,しかも返済する意向も示さなかった び出し,前記Y運転の自車後部座席に被害者を乗せ,背後に暴力団組織が存在することをほのめかすなどして前記金員の返済等を迫ったが,被害者が被告人を騙したことを認めず,しかも返済する意向も示さなかったため立腹し,本件ナイフを被害者の首筋に突き付けて脅すと,ようやく被害者は嘘をついていたことを認めた。しかしながら,被害者は,なおも種々弁解して返済を拒む態度を続けるなどしたため,さらに場所を移動しながら詰問を続け,翌11月1日午前3時ころ判示Uδ号室の被害者宅に至った。 その後,被告人は,害意のないことを示すため,いったんは被害者に本件ナイフを渡したり,被害者と警察署に行くこととして被害者宅を出たものの再び被害者宅に戻るなどしつつ,なおも前記10万円の返済を要求していたが,被害者は,同日午前9時30分ころ,被告人に「帰ってくれ。」と言い放ち,本件ナイフを返還して被告人を被害者宅から外に出し,被害者宅前の判示U4階通路部分において,被告人に背を向けてベランダ様の通路の手すりにもたれかかり,建物の外を見て被告人を無視する態度をとった。 (4) 被告人は,その供述によれば「頭にカーッと血が逆流して,頭の中が真っ白になるほど腹が立った」状態となって,背中と右腰のズボンとの間にしまっていた本件ナイフを鞘から抜いて右手に持ち,被害者の背後から左手を回してその口元を塞ぎ,その体を手前に引き寄せ,本件ナイフで被害者の右腰から背中付近を手加減をせずに突き刺した。 (5) 犯行後の状況被害者は,被告人に攻撃された後,向き直り,被告人ともみ合いになり,その手をつかんで本件ナイフを通路上に押し下げるようにし,左足で本件ナイフを踏んで押さえ付けるとともに,大声で助けを求め,これを聞き付けた近隣住民が警察官を呼び,被告人は駆 被告人ともみ合いになり,その手をつかんで本件ナイフを通路上に押し下げるようにし,左足で本件ナイフを踏んで押さえ付けるとともに,大声で助けを求め,これを聞き付けた近隣住民が警察官を呼び,被告人は駆け付けた警察官に逮捕された。 警察官が本件現場に駆け付けた際,被告人と被害者は,通路上にひざまずいており,警察官が本件ナイフを取り上げようとした際,被告人の手がこわばって本件ナイフを手放すことができない状態であった。 2 検察官は,1(4)の犯行態様につき,①被告人は被害者を1回刺突した後さらに2度目の攻撃となる刺突行為に及ぼうとした,②その際「おまえを殺すしかないねん。」などと言った旨主張し,被害者の検察官に対する供述調書中には,その旨を明言する供述記載がある。 しかし,被害者は,公判廷では,前記①②の2点につき,要約すれば,「突然,背中にどんという衝撃を受け,振り向くと,被告人が中腰の姿勢でナイフを両手で持って,足を踏み出して近付こうとしていたため,やられると思い,右手で被告人の両手を上から押さえ,左手でナイフの刃の下から持つようにして防御し,下に下ろしてナイフを足で踏みつけた,その際,何で刺すねんと自分が言ったことは憶えている,被告人が発言した内容はよく憶えていないが,捜査段階で,お前を殺すしかないねんと言うたと述べているなら,そうかも知れない。」旨述べるものの,極めて曖昧な供述をするに止まっているところ,攻撃が1度のみか否か,さらにその際,被告人が「殺す。」という発言をしたか否かは,それ自体強く印象に残るべきことがらであることや,前記犯行現場に至る道中に,被告人が被害者に対し,「お前を殺すしかないねん。」という脅し文句を用いたことは,被告人及び被害者が一致して供述するところであって,そのことが供述の混乱を招いてい ることや,前記犯行現場に至る道中に,被告人が被害者に対し,「お前を殺すしかないねん。」という脅し文句を用いたことは,被告人及び被害者が一致して供述するところであって,そのことが供述の混乱を招いていた可能性が高いことをも考え合わせると,これらの点について,被害者が捜査段階においては明確な記憶がありながら,その後その記憶が減退するものとは容易に考えられないなど,この点に関する前記被害者の検察官調書の信用性は十分ではない。そして,一方で,犯行時の状況についての被告人の供述中,被告人が被害者を刺したところ被害者が自ら本件ナイフを抜いたとする点については,両手で抜いたのか片手で抜いたのかについて供述の変遷があり,背部を刺された被害者が自ら体勢上優位な被告人の抵抗を排して本件ナイフを抜くことができたとする供述の信用性は十分ではないし,殺意を否定する被告人の供述に不自然な点があることも検察官指摘のとおりであるけれども,他方,被害者の公判供述は,全体として検討しても,本件犯行(被害)に至る経緯やその後の状況に関し,少なからぬ供述の変遷がみられるだけでなく,随所に曖昧な部分があり,不自然な供述も存在する。そうすると,被害者の供述は,捜査段階から一貫し,客観的状況とも一致する,大まかな流れの部分では信用性を有するものの,同人の捜査段階の供述のみによっては,被告人が2度目の刺突行為に及ぼうとし,また「おまえを殺すしかない」と言ったという事実を認めるには十分でない。 この点,検察官は,さらに,被害者の供述内容が,判示現場に残された血痕の付着位置や被害者の左手切創の部位,程度等の客観的証拠関係に符合するとし,また,「おまえを殺すしかないねん。」という発言が犯行に至る経緯に照らして自然であるとして,被害者の供述が信用できるとする。しかし,検察官主張の客観 切創の部位,程度等の客観的証拠関係に符合するとし,また,「おまえを殺すしかないねん。」という発言が犯行に至る経緯に照らして自然であるとして,被害者の供述が信用できるとする。しかし,検察官主張の客観的証拠関係は,被告人が被害者に対し2度目の攻撃をしたという被害者の供述の信用性を必ずしも裏付けるものとはいえない。すなわち,血痕についてみると,本件ナイフが通路上に押さえ付けられた経過に関しては被告人と被害者との供述は一致しているのであるから,検察官のこの主張はほとんど意味を持たないし,また,被害者の被った左手の切創は左手首内側に存在する2か所の長さ約3ないし4センチメートルの浅い切創であるが,被告人が供述するようなもみ合いにより被害者がこの切創を負ったと考えても不思議ではなく,かえって,被害者の前記検察官調書中の「左手でナイフの刃の部分をつかんで(防御した)」旨の供述記載とは,手の平に傷害を負っていない点において客観的証拠関係と矛盾するとすら評しうるのである。さらに,「おまえを殺すしかないねん。」という発言が犯行に至る経緯に照らして自然であるという点についてみると,確かにそのような発言があったとしても不自然ではなく,前記のとおり,現に,犯行に至る経過中に被告人が被害者に対し,脅し文句としてそのような言辞を弄した事実が認められるのであるが,犯行直後にそのような発言があったこととは必ずしも結びつくものではなく,また,被害者は,前記検察官調書中においては,判示刺突行為直後被告人に「何で刺すねん。」といったら被告人が「おまえを殺すしかないねん。」といったと供述しているところ,公判廷では,「何で刺すねん。」と尋ねた点については明確に供述しながら,その直後に,被害者の質問に答える形でなされたはずの被告人の発言について記憶がないとしているのであって,刺 供述しているところ,公判廷では,「何で刺すねん。」と尋ねた点については明確に供述しながら,その直後に,被害者の質問に答える形でなされたはずの被告人の発言について記憶がないとしているのであって,刺突行為の直後,被告人が「おまえを殺すしかないねん。」といった旨の被害者の供述の信用性は十分ではない。したがって,このような被害者の供述のみで,また,前記のとおり,被告人の供述に不合理で信用できない部分があるということから,検察官が主張する事実の認定ができるものでもない。 第3 判断 1 以上の認定事実に照らすと,被告人は,前記のような経過で犯行当日被害者に騙されていたと知り,そのことを認めず,虚言を弄してのらりくらりと応対する同人への憤りを強めていたところ,犯行直前,被害者が被告人を無視するような態度を見せるや,急激に極度に興奮し,激情のおもむくまま,殺傷能力が高いことを熟知している本件ナイフで,無防備の被害者に対し,人体の枢要部である背部めがけて,相当に強い力で一突きする攻撃を加えたものであって,その際,被告人において被害者の生命に対する格別の配慮をした形跡はなく,本件ナイフでこのような攻撃を加えれば被害者が死亡するであろうことは十分認識できたと認められるから,被告人には殺意(未必的殺意を含む。)があったと優に認められる。 2 被告人は,捜査段階から一貫して被害者を殺害するつもりはなく懲らしめるつもりであったと弁解するが,被害者は被告人が攻撃を加えた当時被告人に背を向けて無防備の状態にあったのであり,そのような被害者に対し,極めて殺傷能力の高い本件ナイフで手加減することなくその背部を刺突したとしながら,被害者が死に至ることはないと考えたとするのみの弁解は不自然であり,採用することはできない。 3 もっとも,被告人は,被害者の心臓部 い本件ナイフで手加減することなくその背部を刺突したとしながら,被害者が死に至ることはないと考えたとするのみの弁解は不自然であり,採用することはできない。 3 もっとも,被告人は,被害者の心臓部などさらにその身体の重要部分を攻撃することもできる状況にあったと認められ,前述のような犯行に至る経緯や犯行動機は,一時の激情による犯行を窺わせるもので,被告人が明確に意図して被害者の死亡を欲したとまで考えられるほどのものではない。そして,前述のとおり,被告人が最初の刺突行為直後,被害者に2度目の攻撃を加えようとしたとは認め難い上,被告人は圧倒的に優位な体勢で被害者を襲っていながら同人に比較的簡単に本件ナイフを通路上に押さえ付けられており,犯行直後に現場に駆け付けた近隣の者の供述によれば,被告人は,暴れることもなく,手が硬直してナイフを放すことができず,うろたえた様子であったというのであり,刺突により激情が急激に冷めて我に返った様子が窺われるのであって,その攻撃態様は執拗なものではなかったこと,その他本件は,被害者の態度に激高した被告人が極度に興奮した上敢行した突発的な犯行であることなど前認定の諸事情に徴すれば,その殺意は未必的なものに止まると認めるのが相当である。 第4 以上のとおりであって,殺意を否定する弁護人の主張は理由がない。 (法令の適用)被告人の判示第1の1ないし3の各所為はいずれも(1の各所為については(1),(2)各別に,2の各所為については別紙1の番号ごと,3の各所為については別紙2の番号ごとに)刑法60条,246条1項に,判示第2の1の所為は同法203条,199条に,判示第2の2の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当するところ,各所定刑中判示第2の1の罪について有期懲役刑を,判示第2の2の罪について 1の所為は同法203条,199条に,判示第2の2の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当するところ,各所定刑中判示第2の1の罪について有期懲役刑を,判示第2の2の罪について懲役刑をそれぞれ選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第2の1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役5年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中230日をその刑に算入し,押収してあるナイフ1本(平成16年押第7号の1)は判示第2の1の殺人未遂の用に供した物,鞘1本(同押号の2)はその従物でいずれも被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれらを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,①共犯者と共謀の上,他人に譲渡する目的で銀行預金口座の開設を申し込み,銀行預金通帳及びキャッシュカードを詐取した8件の詐欺の各事案(判示第1),②被害者との金銭トラブルから被害者の背後からその背部を未必の殺意をもって本件ナイフで刺突したが,未遂に終わった殺人未遂及び銃砲刀剣類所持等取締法違反の事案(判示第2)である。 判示第1の各犯行は,被告人において,詐取した預金通帳等がいわゆる「おれおれ詐欺」の犯罪の振込先として利用されるなど不正な目的に使用されることを知りつつ,これら通帳等を売却して利益を得る目的で,いずれの犯行についても犯行を主導して,判断能力が十分とはいえない未成年の共犯者に銀行預金通帳等を多数回にわたって作らせ,これらを詐取したものであるが,その動機に酌量の余地のない常習的な職業的犯行というべきであって,その果たした役割や犯行態様に照らしても犯情は良く 年の共犯者に銀行預金通帳等を多数回にわたって作らせ,これらを詐取したものであるが,その動機に酌量の余地のない常習的な職業的犯行というべきであって,その果たした役割や犯行態様に照らしても犯情は良くない。そして,被告人はこれら詐取した預金通帳等を売却して利益を得,また被告人らが詐取した預金通帳に係る銀行口座が現実に他の詐欺事件に利用されているのであって,結果も重大である。また,被害者金融機関に対する直接,間接的被害はもとより,社会に与えた影響も軽視し得ない。 判示第2の各犯行は,金銭上のトラブルに端を発し,激高して犯行に及んだものであるが,被告人から金銭を騙し取ったにもかかわらず,その追及に対して不誠実な態度をとり続けた被害者にも,それ自体としては大きな落ち度は認められるとはいえ,このことにより本件犯行がいささかも正当化されるものではなく,犯行動機は身勝手で短絡的であるというほかはない。犯行態様は,被害者の口元を押さえ付けた上,未必的殺意をもって,背後から鋭利なナイフで被害者の背部を一突きにするという極めて危険な態様のものである。幸い,被害者は加療約25日間を要する背部刺創等の傷害を負ったに止まったものの,被害者が負った心身の苦痛は大きく,その被害感情も厳しいが,後記債権放棄を除き被害弁償はなされていない。そして,平素から本件ナイフを持ち歩いていたことが本件殺人未遂の犯行につながったものであるから,本件ナイフの所持自体も厳しく非難されるべきである。 さらに,本件各犯行内容やそれに至る経緯からみても,被告人の日常の生活態度には怠惰で反社会的な面が強く窺われ,その規範意識の歪みや乏しさには深刻なものがある。そうすると,被告人の刑事責任は相当に重いといわざるを得ず,後述するような事情をいかに考慮しても,本件は弁護人が主張するような,被告人に対 強く窺われ,その規範意識の歪みや乏しさには深刻なものがある。そうすると,被告人の刑事責任は相当に重いといわざるを得ず,後述するような事情をいかに考慮しても,本件は弁護人が主張するような,被告人に対し刑の執行を猶予することを考慮すべき事案では全くない。 しかしながら,判示第1の各犯行については,被告人の背後にさらに被告人を各犯行に駆り立てた者が存在し,判示第2の各犯行については,前述の経過のもとなされた偶発的犯行で,殺意は未必的なものに止まること,被告人は被害弁償金として被害者から騙し取られた20万円について債権放棄をしたこと,被告人に前科がないこと,介護を要する父親がいることなど,被告人のために斟酌すべき事情も認められるから,これらの事情を総合考慮して,主文の刑に処するのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 平成16年9月24日神戸地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官杉森研二裁判官橋本一裁判官沖敦子は差し支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官杉森研二

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