平成14(ネ)553 土地明渡請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成15年9月4日 福岡高等裁判所 長崎地方裁判所 大村支部 平成12(ワ)142
ファイル
hanrei-pdf-4149.txt

判決文本文11,436 文字)

主文 1 原判決主文第1項を次のとおり変更する。 (1) 控訴人は,被控訴人に対し,別紙物件目録2記載の土地を明け渡せ。 (2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを3分し,その2を控訴人の,その1を被控訴人の各負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要と主たる争点等 1 別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地1」という。)を控訴人が占有していることは当事者間に争いがない。 2 本件事案は,次のとおりである。 (1)ア訴訟承継前被控訴人Aは,控訴人に対し,所有権に基づく返還請求権を行使して,主位的に本件土地1の,予備的に本件土地1の一部である同目録2記載の土地(以下「本件土地2」という。)の各明渡しを求めた(原判決はこのように整理し,当審における口頭弁論においても,特にこの点に触れることなく推移している。)。 イしかし,本件土地1が本件土地2を包含する関係にあることからすれば,アの請求の実質は,全部(本件土地1),一部(本件土地2)の関係にあり,講学上の主位的,予備的請求の関係に立つものではない。 この点を念頭において,以下判断する。 (2) 原審は主位的請求を認容した(ただし,その範囲は一部正確を欠いている。正確には,本判決別紙物件目録1記載のとおりである。)。 (3) そこで,控訴人は,いずれの請求についても棄却を求めて,控訴した。 3 被控訴人の訴訟承継Aは,当審係属中の平成14年5月2日死亡し,孫の被控訴人が遺産分割方法を指定する公正証書遺言により単独で別紙物件目録3 いずれの請求についても棄却を求めて,控訴した。 3 被控訴人の訴訟承継Aは,当審係属中の平成14年5月2日死亡し,孫の被控訴人が遺産分割方法を指定する公正証書遺言により単独で別紙物件目録3記載の土地(以下「b番cの土地」という。以下,諫早市a町所在の土地については地番のみで特定することがある。)を相続取得し,本件訴訟手続を受継した。 4 争点(1) 主な争点は,b番cの土地とこれに南接する同目録4記載の土地(以下「e番の土地」という。)との境界(以下「本件境界」という。)がどこかである。 (2) 不動産登記法17条にいう地図(以下「法17条地図」という。)に当たる甲3,及び送付嘱託を受けて本件記録に編綴されているe番・b番cの土地の地図写(左側上部欄外余白に「法17条地図」と表示されていることから分かる。)を復元すると,法17条地図に記載された本件境界は,別紙図面1記載のP1とP2の各点を直線で結んだ線(以下「P1・P2線」との要領でいう。)となる(これについては,双方の主張(訴状の「請求の原因」欄三,原審における答弁書の「請求の理由に対する認否,主張」欄三等),及びこれまでの争い方をみれば当事者間に争いはないと認められる。 なお,甲4参照)。 (3) 被控訴人は,原審において,当初,本件境界をP1・P2線であると主張していた(訴状参照)。 (4) これに対し,控訴人は,甲3(及び本件記録中のe番・b番cの土地の地図写)の地図作製に際しての現地測量には,e番の土地所有者(Bの相続人ら)は誰も立ち会っていないなどと主張して,本件境界は別紙図面1(以下,同図上の点は,符号でのみ特定する。)上の3,5,4,Y1,Y2,Y3の各点を順次直線で結んだ線(以下「控訴人主張線」という。)であると主張した。 (5) そこ て,本件境界は別紙図面1(以下,同図上の点は,符号でのみ特定する。)上の3,5,4,Y1,Y2,Y3の各点を順次直線で結んだ線(以下「控訴人主張線」という。)であると主張した。 (5) そこで,被控訴人も(4)の主張に対抗して,本件境界は92,93,94,96,95,100及び2の各点を順次直線で結んだ線(以下「被控訴人主張線」という。)であると主張するに至った。 (6) その結果,現時点では,被控訴人は被控訴人主張線が,控訴人は控訴人主張線が,それぞれ本件境界であると主張して争っている。 (第2の2(1)参照) 5 当裁判所の判断順序(1) 法17条地図は,不動産登記法17条に根拠を有し,登記された土地の位置及び区画を現地において明らかにするものでなければならない。換言すれば,登記された土地の区画を現地において示す能力(現地指示能力)を有するものであることを要する。したがって,現地の筆界について相隣接する所有者間に争いがあるときは,その区画を復元できる能力(現地復元能力)を有するものでなければならない。 (以上につき,三省堂発行「判例先例コンメンタール新編不動産登記法1」211ページ,今泉朝男論文「地図および建物所在図をめぐる諸問題」239ページ以下,日本評論社発行「新不動産登記講座②総論Ⅱ」331ページ,テイハン発行「民法と登記・上」444ページ参照)。 (2) 甲3(及び本件記録中のe番・b番cの土地の地図写。以下かっこ内を省略する。)の法17条地図は,関係書証(甲9の1~9)からも分かるとおり,長崎地方法務局の地図作製作業を経て作製されたものと認められる(前掲今泉論文239・253ページ参照)。 (3) ところで,法務局の地図作製作業を定めた法規はないが,同作業は,すべて登記の先例(なお,該 法務局の地図作製作業を経て作製されたものと認められる(前掲今泉論文239・253ページ参照)。 (3) ところで,法務局の地図作製作業を定めた法規はないが,同作業は,すべて登記の先例(なお,該当先例がない場合は,その備付目的からみた解釈)に委ねられている(前掲「判例先例コンメンタール新編不動産登記法1」211ページ)。 (4) 昭和52年9月3日民三第4473号通達による現行の「不動産登記事務取扱手続準則」(以下「準則」という。)は,これまで積み重ねられた各種の先例によって事務取扱いに確定した基準となっているものを取り入れて体系的に整理したものである(キンザイ発行「条解=不動産登記事務取扱手続準則・新版」(以下「条解」という。)前書き3~4ページ参照)。 (5) 準則は,ア 87条1項で,登記官に実地調査の励行を促している。 (条解111ページ)イこれを受けて94条では,(ア) 実地調査をする場合,あらかじめ土地所有者その他利害関係人に通知する等,調査上支障がないように諸般の手配をすること(1項),(イ) 土地の所有者又は管理人の立会を求め,必要があるときは,隣地の所有者又は利害関係人等の立会を求めること(2項),(ウ) 質問又は検査をする場合の手続(3項),(エ) 実地調査を完了した場合において,必要があるときは地積測量図等を作製すること(4項),(オ) (エ)の測量図等の作製については,不動産登記法施行細則42条ノ4及び42条ノ6の規定によること(5項)を定めている。 (以上,条解127ページ)ウ(ア) 1項の規定は,無駄足等を踏まないための当然の規定である。 (イ) 2項の規定は,現地調査を実施する 5項)を定めている。 (以上,条解127ページ)ウ(ア) 1項の規定は,無駄足等を踏まないための当然の規定である。 (イ) 2項の規定は,現地調査を実施する場合には土地の所有者又は所有者に代わって管理している者に事情を聴取しなければ分からないことが多いことから,まず,所有者または管理者の立会を求めることとするとともに,地積の測量図の正確性を確認する場合等においては,隣地との関係が問題となるので,その測量が隣地の所有者の立会いのもとに行われたものかどうか,また,それら立会者に異存がないような測量図が作製されているものかどうかというようなことを確認する必要があるので,事案の内容により,所有者又は管理者のみの立会いだけでは不十分で,所有者又は管理者以外の者の立会いを求めることが相当である場合には,それらの者の立会いを求めて調査すべき旨を定めたものである。 (ウ) 3項は,当然の注意規定である。 (エ) 4項は,実地調査を完了した場合において,登記官が図面の作製が必要であると判断した場合には,地積測量図等を作製すべきことを明らかにしたものである。 (オ) 5項は,図面を作製する場合の準拠規定を定めた当然の規定である。 (以上,条解127~128ページ)エ現行の準則より前の昭和37年4月20日民事甲第1175号法務省民事局長通達による「不動産登記事務取扱手続準則」75条,83条も,現行準則87条,94条とほぼ同旨の規定を定めていた(大蔵省印刷局発行・藤原勇喜著「公図の研究」451・453ページ参照)。 (6) 以上のように考察を進めてくれば,まず第1に,甲3の法17条地図が,先例に従って適法に作製されたものかどうかを論じるのが相当である。というのは 「公図の研究」451・453ページ参照)。 (6) 以上のように考察を進めてくれば,まず第1に,甲3の法17条地図が,先例に従って適法に作製されたものかどうかを論じるのが相当である。というのは,アこれが肯定されれば,当事者が合意したところの本件境界が必然的に定まるから,これによって,双方の土地所有権の範囲を合意したものとして,被控訴人の請求の当否が判断でき,イこれが否定されれば,次に,他の資料によって本件境界を見つけだす作業に取りかかり,ウ次に,控訴人の時効取得の当否についての検討に取りかかるのが順序というべきだからである。 第3 甲3の法17条地図は,適法に作製されたものか 1 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記した証拠により容易に認められる事実)(1) 現在のb番c,b番d及びe番の土地の位置関係は,別紙図面3(甲3)記載のとおりである。 (2) b番cの土地の変遷と所有関係ア b番の土地は,従前,北側及び西側に位置するb番イの土地(353. 71平方メートル。甲14~16,乙21,24)と南東側に位置するb番ロの土地(72.06平方メートル。甲16,17,乙43。いずれもA所有)が,昭和51年11月24日に合筆されてできた土地であり,同番イと同番ロの土地の南側は,いずれもe番の土地の北側と境界を接していた。これら3筆の土地の位置関係は,別紙図面2(甲11)のとおりであった。 〔甲1,11,14ないし17,乙21,24,43〕イ b番の土地は,平成元年7月17日,北側のb番d(320.45平方メートル。甲1)の土地と南側の同番c(176.68平方メートル。甲15)の土地に分筆された。 〔甲1,3,12,15〕 平成元年7月17日,北側のb番d(320.45平方メートル。甲1)の土地と南側の同番c(176.68平方メートル。甲15)の土地に分筆された。 〔甲1,3,12,15〕ウ(ア) Aは,生前,b番cの土地を被控訴人に単独で相続させる旨遺産分割の方法を指定する公正証書遺言をした。 (イ) Aは,平成14年5月2日,死亡した。 (ウ) よって,b番cの土地の現在の所有者は被控訴人である。 〔以上,弁論の全趣旨(被控訴人のした訴訟手続受継申立てを控訴人が争わないこと)〕(3) e番の土地の所有関係ア e番の土地は,もとCの所有であったが,その姪Bが譲り受けて所有者となった(甲2,乙22,55)。 イ Bは,その夫のDとともに,e番の土地を管理した。 ウ Dは昭和31年,Bは昭和50年2月14日,いずれも死亡した。 エ亡Bの相続人は,長女E,長男F,二男G(大正4年生まれ。昭和15年,Bの叔母Cと養子縁組。),二女H,四男控訴人(大正14年生まれ)及び五男I,四女Jの7名である。 〔以上,甲2,乙22,27ないし29,40,42,44,55,原審での控訴人供述〕(4) 居住関係ア b番cの土地A(明治43年生まれ。K・L間の長男)は,M(大正4年生まれ)と昭和12年婚姻し,第二次大戦中に現在のb番cの土地にあった家屋(乙50)に転居し,昭和46年建て替え,平成元年増築した家屋(甲24,乙30,50,52)に居住して今日に至っている(ただし,Aは,平成14年5月2日死亡したことは前記した。)。 〔甲22~24,乙30,50,52,原審証人M証言〕イ e番の土地( 居住して今日に至っている(ただし,Aは,平成14年5月2日死亡したことは前記した。)。 〔甲22~24,乙30,50,52,原審証人M証言〕イ e番の土地(ア) 東側部分控訴人(大正14年生まれ)は,物心が付いたころから,同番の土地にあった家屋で両親と居住し,昭和9年ころ,同所にあった母屋に両親と移り,同24年婚姻して,同母屋を改造して両親と別世帯となり,同47年増築(同番の土地東側部分に当たる。)して居住し,現在に至っている。 (イ) 西側部分G(大正4年生まれ)は,昭和10年召集を受け,同14年除隊後,帰省して(ア)の母屋で両親と居住を開始して,長崎刑務所に就職し,同15年C'姓を残すためCの養子になり,同16年満州中央銀行に入社して中国に渡り,同21年引き揚げて,(ア)の母屋で両親らと居住を再開し,同23年長崎刑務所に再就職し,翌24年控訴人が別居して以降は,同番の土地西側部分にある家屋で,両親とともに居住してきた。したがって,Bあての郵便物もほとんどGが目にしていた。 Gは,同50年同刑務所を定年退職後,三井生命諫早営業所の正職員の外交員として平成12年ころまで勤務した。 (この間の昭和31年に父Dが,同50年に母Bがそれぞれ死亡したことは前記した。)。 (ウ) 控訴人及びGを除く,Bの他の子5名は,みなe番の土地を離れて居住している。 〔以上,乙40,42,44,53の13・14,55,原審(第3回口頭弁論)での控訴人供述,G証言,当審控訴人供述〕ウ控訴人と被控訴人間の身分関係等Aの父Kは,控訴人の父Dの母の弟に当たるから,控訴人は,Aにとって叔父の子という関係になり,しかも,K,A 訴人供述,G証言,当審控訴人供述〕ウ控訴人と被控訴人間の身分関係等Aの父Kは,控訴人の父Dの母の弟に当たるから,控訴人は,Aにとって叔父の子という関係になり,しかも,K,A側と,D=B,控訴人・G側では,長年,隣同士で居住してきた関係にある。 〔甲20,21,乙27,29,原審(第3回口頭弁論)控訴人供述,G証言,当審控訴人供述〕エ本件境界付近は,他人からの目隠しや寒風避けに雑木等,木が植えられる「くね」と呼ばれる状況にあり,A及びBの子どもらにとっては,子ども時代(昭和初年ころ)は,格好の遊び場であった。 〔乙1,26,原審M証言,原審(第3回口頭弁論)控訴人供述,原審(第4回口頭弁論)控訴人供述,G証言,当審控訴人供述〕(5) 境界付近の土地の客観的形状ア 92・93・94・96・95・100・2線南側には,幅20ないし30センチメートル,深さ約20センチメートルの側溝が存在する。 イ同側溝の北側にはほぼ垂直の石垣及びブロック塀が60ないし140センチメートルの高さで築かれ,その北側もきつい傾斜の斜面となっている。 〔以上,甲6の7・8・11~14,乙53の2~15及び検証の結果〕ウ P1・P2線の少し南のあたりから北側は,西側が高く,東側が低いという形状となっているため,東西方向では傾斜しているが,南北方向としてはほぼ平坦な土地となっている。 〔甲6の1~6・9,乙46の1・2,乙47の1~4,乙53の21・22及び検証の結果〕エ 83・82・49・4線を北端として,1段のブロックが積まれている。 〔甲6の2~5・9,乙46の1・2,乙47の1~4,乙53の21 3の21・22及び検証の結果〕エ 83・82・49・4線を北端として,1段のブロックが積まれている。 〔甲6の2~5・9,乙46の1・2,乙47の1~4,乙53の21・22・28及び検証の結果〕オ Y3・Y2・Y1線を南端として,幅約30センチメートル,深さ約40センチメートルの側溝が存在する。 〔甲6の3~5,乙46の1・2,乙53の28・29及び検証の結果〕カ 2点には置き石があり,2・P1・3・5・4線のあたりには石積みが存する。 〔甲6の1・2,乙47の1,乙53の21・22及び検証の結果〕(6) 本件係争地の占有状況現在,控訴人は,本件土地1及びこれに含まれる本件土地2を占有している(控訴人は本件係争地の西側はGも占有していると主張するが,控訴人も共同占有していることについては争いがない。)。 2 法17条地図の作製作業第2の5(1)ないし(5)の認定判断及び第3の1の前提事実に,証拠〔甲1~3,7,8,9の1~9,23(Mの陳述書),乙40(控訴人本人の陳述要旨録取書),56,原審・当審証人M,証人G,原審・当審での控訴人本人〕を加えれば,次のとおり認められ,後に証拠判断をする以外,この認定を動かすに足りる的確な証拠はない。 (1) 長崎地方法務局は,昭和51年8月,諫早市a町について法17条地図を作製するため,同町の住民に境界確定のための立ち会いを依頼し,b番イ,同番ロ及びe番の土地については,同年9月2日に現地で調査を行うこととなり,境界確定のための現地調査への立ち会いを求めるべく,ア b番イと同番ロの土地所有者であるAあてに(甲9の1・2),イ e番の土地所有者名義人であるBあて(甲9の6 を行うこととなり,境界確定のための現地調査への立ち会いを求めるべく,ア b番イと同番ロの土地所有者であるAあてに(甲9の1・2),イ e番の土地所有者名義人であるBあて(甲9の6・7)に(Bは前年の2月14日に死亡していたが,長崎地方法務局は,そのことを知らなかったものと推測される。)それぞれ郵便はがきで郵送した。 〔甲9の1・2,6・7〕(2) Bの二男であるGは,BがGに境界確定のための一切の権限を委任する旨を証する書面の代理人氏名欄に自らの氏名を自署し(甲9の6),同書面を長崎地方法務局に返送した。 【Gは,当審で甲9の6に署名した記憶はないとも証言する(31項)が,自分の筆跡のようでもあるとも証言し(同項,56・57項),また乙56(同人の陳述録取書1項)では自署であることを自認していること及び原審(第4回口頭弁論)控訴人供述43項に照らすと,上記のとおり認定するのが相当である。】(3) 昭和51年9月2日の調査には,ア b番イ及び同番ロの土地の所有者としてはAがMとともに立ち会った。 〔原審M証言〕イ e番の土地には,戦後,控訴人が東側にある家屋に,Gが西側にある家屋にそれぞれ居住しており,Bの他の相続人5名は,みな同地を離れて居住していたので,所有者の側では,生前のBと同居していたGが立ち会った。 ウその際,A所有のb番ロとGら所有のe番の土地間の境界につき,境界を示す溝があったなどということでAとG間において意見が相違して境界を確定することができず,後日測量を行う日までに当事者間で話し合いをしておくこととなった。そこで,(ア) b番ロの土地の「土地調査書」の所有者意見欄には,Aが「本人」と署名して して境界を確定することができず,後日測量を行う日までに当事者間で話し合いをしておくこととなった。そこで,(ア) b番ロの土地の「土地調査書」の所有者意見欄には,Aが「本人」と署名して押印し(甲9の5),(イ) e番の土地の「土地調査書」の所有者意見欄には,Gが「G」と署名して押印した(甲9の8)。 〔以上,甲9の5・8,G証言〕【Gは,当審証言で甲9の8の所有者意見欄の「G」名の署名をした覚えはない,字は似ているような似ていないようななどとあいまいに言うかと思えば(33項),自己の筆跡であることを全面否定し(58~59項)また,土地調査に同人は立ち会った記憶がないとも証言し(34項),他方,測量に来たことは記憶にあるようであり(66~67項),陳述録取書(乙56)でも同様の陳述をする。原審証人Mも,現地調査に立ち会ったのはF(Bの長男のこと)と証言し(32・135項),陳述する(甲23)。しかしながら,甲9の8の所有者意見欄のGの上には(養子)との記載がある。秘密の暴露という大げさな事項ではないが,G側若しくは,控訴人が現地調査に立ち会ったことを推認させる事実である。しかも,土地調査は昭和51年のことである。今となっては,高齢のMの証言が不明確であっても致し方ない。これらのことに,原審(第4回口頭弁論)控訴人供述45項を合わせれば,上記認定は左右されない。】(4) その後A側とB側とでどのような話し合いがされたかは証拠上明らかでないが,何らかの話し合いはされたようで,AとB側の代表者としてGがAと話し合って,本件境界(b番イの土地及び同番ロの土地とe番の土地の境界(合意成立が昭和51年11月24日の合筆後であれば,b番の土地とe番の土地の境界))をP1・P2線と確定した(甲 としてGがAと話し合って,本件境界(b番イの土地及び同番ロの土地とe番の土地の境界(合意成立が昭和51年11月24日の合筆後であれば,b番の土地とe番の土地の境界))をP1・P2線と確定した(甲3)。 (5)アその後,昭和52年3月1日,各筆の面積を測定し,調整をするための測量が行われた(甲7,8)。 イその結果,b番の土地の面積は424.77平方メートルから497. 14平方メートルに72.37平方メートル増加することとなり(甲1),e番の土地の面積は634.71平方メートルから589.99平方メートルに44.72平方メートル減じることとなって(甲2),同年4月1日,錯誤を原因としてその旨の地積更正登記が両土地についてなされた。 3 上記2の認定によれば,次のとおり認定判断される。 (1) 昭和51年8,9月ころ,Bの相続人側では,ア e番の土地には,戦後,控訴人が東側にある家屋に,Gが西側にある家屋にそれぞれ居住しており,Bの他の相続人5名は,みな同地を離れて居住していたので,同地については,Gと控訴人のみが強い関心があったと推認される。 イ Gは,大戦を挟んで,Bが昭和50年2月14日死亡するまで30年近く,B(父Dが昭和31年に死亡するまでは同人とも)と同居していた者であることからすれば,誰よりも,Bの意向を知りうる立場にあった。 ウ Bあての長崎地方法務局からの葉書による現地立会の依頼にも,葉書を受け取ったGが,2(3)イ認定のとおり,昭和51年9月2日の現地調査に立ち会った。 エ上記アの居住関係に照らしても,その後の本件境界確定作業の協議にも,Gが中心になって,控訴人とも意見調整をした上,Bの他の相続人5名の意向も踏まえて,2(3)(4)認定のとおり,A側との話し合いに臨 上記アの居住関係に照らしても,その後の本件境界確定作業の協議にも,Gが中心になって,控訴人とも意見調整をした上,Bの他の相続人5名の意向も踏まえて,2(3)(4)認定のとおり,A側との話し合いに臨んだと推認される。 オ Gは,第3の1(4)イ(イ)認定の職歴が示すとおり,豊富な知識経験を有する人物である。 カ第2の5(1)ないし(5)認定の法17条地図の作製作業に照らして,長崎地方法務局が,B側の意見を無視して法17条地図を作製するとは解し難い。 キ今となっては,長時間の経過により確たる証拠がないが,そのことは,やむを得ないことであり,証拠の乏しさを,控訴人,被控訴人いずれの側の有利・不利にも使い難い。 (2) そうとすれば,Gは,Bの全相続人を代表して,上記(1)エの話し合いに応じた結果,2(4)認定のとおり,本件境界をP1・P2線と確定させたものと推認するのが相当である。 これに反する証拠(特に,証人G証言35項)は,いずれも確たる根拠に欠け,採用し難い。 4 まとめ以上によれば,(1) 甲3の法17条地図は,先例に従って適法に作製されたものであるから,当事者が合意した本件境界はP1・P2線である。 (2) したがって,P1・P2線の北側にある本件土地2は,被控訴人の所有に帰することを合意したものと認めるのが相当である。 第4 控訴人の時効取得の成否そこで,次に,控訴人の時効取得の成否について検討を進める。 1 控訴人の主張(1) 控訴人とGは,昭和52年4月5日,本件土地2を含む本件土地1を占有した。 (2) 控訴人とGは,平成9年4月5日,本件土地2を含む本件土地1を占有していた。 (3) 控訴人とGには,占有のはじめ,所有の意思を有したことに過失がない 2を含む本件土地1を占有した。 (2) 控訴人とGは,平成9年4月5日,本件土地2を含む本件土地1を占有していた。 (3) 控訴人とGには,占有のはじめ,所有の意思を有したことに過失がない。 (4) 控訴人は,原審において,それぞれ,上記10年ないし20年の時効を援用する旨意思表示した。 2 被控訴人の認否及び主張(1) 時効取得の主張を争う。 (2) 控訴人が本件土地2を含む本件土地1の占有を開始したのは,平成4年である。 3 当裁判所の判断(1) 時効取得の要件としての一定範囲の土地の占有を継続したというためには,その部分につき,客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けなければならないと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷判決昭和46年3月30日・裁集民102号371頁ページ参照)。 (2) 本件についてこれをみれば,ア本件境界付近は,第3の1(4)エ認定のとおり,「くね」と呼ばれる状況にあり,A及びBの子どもらにとっては,子ども時代(昭和初年ころ)は,格好の遊び場であった。 イ本件境界付近の客観的状況は,第3の1(5)認定のとおりである。 ウ本件係争地の現在の占有状況は,第3の1(6)認定のとおりである。 (3) 控訴人が依拠するN証言によっても,控訴人主張の昭和52年4月5日から,控訴人が,本件土地1につき,客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けてきたとは言い難いところ,他に,これを認めるに足りる的確な証拠はない。 (4) 以上を総合すれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の時効取得の主張は採用できない。 第5 結論 1 以上の次第で,(1) 本件土地2は被控訴人所有のb番cの土地に含まれるところ,(2) 控訴人は,本件土地2を 判断するまでもなく,控訴人の時効取得の主張は採用できない。 第5 結論 1 以上の次第で,(1) 本件土地2は被控訴人所有のb番cの土地に含まれるところ,(2) 控訴人は,本件土地2を占有している。 (3) したがって,被控訴人は,控訴人に対し,本件土地2の所有権に基づく返還請求権を行使して,同地を明け渡すように請求することができるから,ア同地の明渡し請求(原判決のいう予備的主張)は理由があるが,イ同地の範囲を超えて本件土地1全部の明渡し(原判決のいう主位的請求)は,一部(同超える部分は)理由がない。 2 1(3)と趣旨を異にする原判決は一部不当であり,本件控訴は,この限りで一部理由がある(第2の2(1)イ参照)から,この趣旨に従って,原判決主文第1項を変更する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,民事訴訟法297条により,同法61条,64条本文,67条2項を適用して定める。 4 よって,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第1民事部裁判長裁判官簑田孝行裁判官駒谷孝雄裁判官藤本久俊(別紙物件目録及び図面の掲載は省略)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る