主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中250日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,ほか数名と共謀の上,広島○○デパートの商品券(額面1000円)を偽造し,これを用いて,換金の名目で現金を詐取しようと企て,平成12年8月13日ころから同月24日ころまでの間,広島県呉市○○丁目○○番○○号所在のAビル203号室の当時の被告人方において,行使の目的をもって,ほしいままに,パーソナルコンピューター及びカラープリンター等を使用して,上記商品券1354枚を偽造した上,X1と共謀の上, 1 上記X1が,同年8月21日午後4時2分ころ,広島市○○区○○町○○番○○号所在の株式会社Bにおいて,同店店員Cに対し,上記偽造に係る商品券のうち98枚を真正なもののように装って提出し,換金を請求してこれを行使し,同人をしてその旨誤信させ,よって,即時同所において,同人から商品券換金代金として現金7万8400円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた 2 上記X1の知人であるDが,同日午後6時9分ころ,上記Bにおいて,同店店員Eに対し,前記偽造に係る商品券のうち224枚を上記同様の方法で提出して行使し,同人をして上記同様に誤信させ,よって,即時同所において,同人から商品券換金代金として現金17万9200円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた 3 上記X1の知人であるFが,同月24日午後零時32分ころ,上記Bにおいて,前記Cに対し,前記偽造に係る商品券のうち567枚を上記同様の方法で提出して行使し,同人をして上記同様に誤信させ,よって,即時同所において,同人から商品券換金代金として現金45万3600円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた 4 上記Fの知人であ 方法で提出して行使し,同人をして上記同様に誤信させ,よって,即時同所において,同人から商品券換金代金として現金45万3600円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた 4 上記Fの知人であるGが,同日午後3時40分ころ,上記Bにおいて,前記Eに対し,前記偽造に係る商品券のうち465枚を上記同様の方法で提出して行使し,同人をして上記同様に誤信させ,現金を詐取しようとしたが,同人に偽造であることを看破されたため,その目的を遂げなかったものである。 (証拠)(省略)(事実認定の補足説明)被告人は,判示事実全部について,捜査段階では全面的に否認しており,起訴完了後約3か月が経過した本年2月19日に至って,事実については一応認めたものの,その動機は長期間の勾留によって疲れたというものであり,その供述内容は具体性に乏しく,多くの虚偽が含まれており,必ずしも信用できないものであるから,事実認定の理由について補足的に説明する。 1 証拠上明らかに認められる事実関係各証拠によれば,次の事実が認められる。 (1) 本件商品券の鑑定についてX1及びDが換金した商品券合計322枚は,その後本物の千円の○○デパート商品券403枚とともにHに売却され,Hは,そのうち200枚を支払のため○○デパート店員に交付したが,Hの手元に残っていたもののうち222枚及び○○デパート店員に交付されたもののうち100枚が,サイズや番号の配列などから偽造であることが明らかなものであったため,警察に提出され,Fが換金した567枚及びGが換金しようとした465枚は,いずれも他の商品券と混ざることなく,警察によって押収された。そして,Hが提出した222枚のうち1枚,○○デパート店員が提出した100枚のうち1枚,Fが換金した567枚のうち3枚,Gが換金しようと いずれも他の商品券と混ざることなく,警察によって押収された。そして,Hが提出した222枚のうち1枚,○○デパート店員が提出した100枚のうち1枚,Fが換金した567枚のうち3枚,Gが換金しようとした465枚のうち1枚から,いずれも被告人の指紋が検出された。 (2) 本件商品券を作成した機器について本件商品券は,その印刷されている数字のフォントが本物の商品券とは異なり,全て同一の手段,機器によって偽造されたものであり,そのドットパターンから判読されるINSPECTION番号は(省略)であり,このINSPECTION番号を有する機器は,I社製のカラープリンターである○○(機体番号省略),本体機番(省略)である。上記プリンターは,平成12年5月23日に,J社呉支店から被告人にリースされ,同日,Aビル203号室の被告人方に設置された。 なお,被告人は,同年4月上旬ころ,上記会社呉支店にパソコンとプリンターの購入を申し入れ,同社が,同月28日に,パソコン機体番号省略)とともにモノクロのプリンターを搬入したところ,被告人がプリンターをカラープリンターに変更するよう要求したものである。また,被告人は,同年6月10日に,電気店から,スキャナ1台を購入しているし,本件発覚後,Aビル203号室から押切式裁断機が押収されている。 (3) 本件商品券を印刷した用紙の購入について被告人は,同年7月中旬ころ,呉市○○丁目所在のK紙業を訪れ,同店店員Lに対して,「X」と名乗った上,○○デパートの商品券1枚を示し,「これと同じ厚さの紙をください。」と言った。同じ厚さの紙がなかったので,同人は,これに近い厚さの四六判90キロの紙30枚を全紙で販売した。被告人は,同年8月18日にも同店を訪れ,KT上質,57・5キロの紙A判250枚をA4サイズにカット 。同じ厚さの紙がなかったので,同人は,これに近い厚さの四六判90キロの紙30枚を全紙で販売した。被告人は,同年8月18日にも同店を訪れ,KT上質,57・5キロの紙A判250枚をA4サイズにカットしてもらい,2000枚を購入した。その後,被告人は,同年9月5日と同月22日にも,同店から大量の上質紙を購入している。 (4) Aビル203号室のゴミについて同年9月28日にAビル203号室にあった掃除機の中のゴミの中に紙片が含まれており,これの中には,前記のINSPECTION番号が判読されるものや,本件偽造商品券の地紋様と同形態のマークが認められるものがある。 (5) 被告人のノートや電話の記録について押収された被告人のノートには,大阪○○デパートや錦糸町○○デパートの電話番号のほか,博多,岡山,大阪などの金券ショップの電話番号が記載されており,被告人の携帯電話から,8月19日に大阪○○デパートと博多,岡山,大阪の金券ショップ5店に電話がかけられている。また,8月3日,14日,19日にBに,20日に横浜○○デパートに電話がかけられている。さらに,被告人の携帯電話とX1の携帯電話との間で,8月1日から9月2日までの間に,被告人から113回,X1から45回電話連絡を取り合っている。 2 X1の供述の検討(1) 以上の事実を前提として,本件について被告人と接触があったと認められる唯一人であるX1の供述について検討するに,その要旨は,次のとおりである。 8月9日か10日ころ,被告人から,「明日荷物を運ぶけえ手伝うてくれ,ちょっとした金儲けの仕事がある。」と言われ,その翌日ころ,被告人の車で広島駅近くのマンションから段ボール箱とカラープリンターを運び出し,Aビル203号室に入れた。段ボール箱の中身はパソコン等だと思う。8月19 金儲けの仕事がある。」と言われ,その翌日ころ,被告人の車で広島駅近くのマンションから段ボール箱とカラープリンターを運び出し,Aビル203号室に入れた。段ボール箱の中身はパソコン等だと思う。8月19日,被告人から電話で,「東京の○○デパートで広島○○デパートの商品券が使えるか聞いてみてくれ。」と言われて電話番号を教えられた。私が,「それは本物なんですか。」と聞いたら,被告人は「偽物なんじゃ。」と答えた。東京や大阪方面で換金するよう指示され,断ったら,広島で換金するよう言われた。8月21日に取りあえず300枚換金し,うまくいけば増やすよう言われた。8月21日に203号室に行ったら,パソコンとプリンターがセットされており,40から50歳の小太りの男Mがパソコンを操作し,30から35歳の長身のスポーツ刈りの男が,プリンターから出てくる商品券を床の上に積み上げており,裁断前のものを数センチの高さに積んだものがいくつかあり,テーブルの上に10束くらい置いてあった。隣の部屋に被告人がいて,輪ゴムでとめられた商品券の束が置いてあった。被告人が,「2人は偽造のプロなんじゃ。わしが計画したんじゃ。」「これからいろいろな金券ショップへ商品券を換金しに行ってもらう。忙しゅうなるで。」「今日は試しに300枚換金に行く。うまくいったら二,三日後に1000枚換えに行く。」と言い,「これから行くで。」と言って商品券3束を私に渡して,被告人が運転する車に乗せて,広島駅北口で下ろされ,換金が終わったら電話するよう言われた。4か所で換金を断られたことを被告人に知らせたら,被告人からBに行くよう指示されたので,Bに行って1束出したら換金できた。残りの200枚は,Fに換金してもらうためFの家で待っていたら,Fの彼女が来たので,200枚の換金を頼み,戻ってきた彼女から現金1 からBに行くよう指示されたので,Bに行って1束出したら換金できた。残りの200枚は,Fに換金してもらうためFの家で待っていたら,Fの彼女が来たので,200枚の換金を頼み,戻ってきた彼女から現金17万9200円を受け取ってから被告人と落ち合い,報酬として2万5000円をもらった。8月22日夕方,203号室に行くと,Mがパソコンを操作し,偽造商品券の出来具合を点検しながら,35歳くらいの男に裁断させていた。被告人が,これを100枚ずつ数えて私に渡したので,私が輪ゴムをかけた。テーブルの上には30束くらいあった。 Mは頭頂部がはげた男である。偽造商品券は1枚の用紙に2枚か4枚印刷されていた。8月23日夜,被告人から電話で,「明日,商品券1000枚をBで換金してこい。」と言われ,翌朝,呉駅近くで,被告人から「今日はお前に任せる。夕方までに換金して,終わったら連絡せえ。」と言われて,○○デパート商品券100枚を輪ゴムでとめたものを10束渡された。広島に行き,Fに6束の換金を頼んだら引き受けてくれ,その後Fから現金45万円くらいを受け取った。このことを被告人に報告したら,残りも夕方までに換金するよう言われた。残りの換金もFに頼んだが,Fはなかなか戻ってこなかったので,被告人から「まだか。」と催促された。Fを捜し出して,一緒にBに行ってみたら,20歳くらいの女が男と話していた。呉駅で被告人と会い,45万3000円を渡したら,7万円をくれた。その後被告人から電話で指示され,8月25日夜に203号室の紙屑をゴミ袋に入れて捨て,ゴミは掃除機で吸い取った。このときはパソコンやプリンターは床の上に下ろされていたが,9月2日にはなくなっていた。 (2) 上記のX1の供述は,内容が自然で具体的である上,X1から商品券の換金を頼まれたF,Dや本件に使用されたパ きはパソコンやプリンターは床の上に下ろされていたが,9月2日にはなくなっていた。 (2) 上記のX1の供述は,内容が自然で具体的である上,X1から商品券の換金を頼まれたF,Dや本件に使用されたパソコン等を一時的に保管していたNの供述とも符合しているばかりでなく,203号室を検証したときにはパソコンやプリンターはなく,掃除機の中に紙片を含むゴミが残されていたことや,被告人のノートに各地の○○デパートや多くの金券ショップの電話番号が記載されており,その多くに被告人が電話をかけていること,そのころ被告人とX1とが電話により頻繁に連絡を取り合っていることなどの事実とも合致していることから,全体として,十分に信用することができる。 なお,上記Nの供述によれば,被告人とX1とがパソコンやカラープリンター等をN方から運び出してAビル203号室に戻したのは,8月13日であることが認められる。 3 以上,1によって認められる各事実及びX1の供述によれば,被告人は,パソコンやプリンター等を再度Aビル203号室に搬入した日である8月13日からGが換金に失敗した日である同月24日までの間,同所において,X1がMと呼び,被告人がOと呼ぶ男及びX1が言う30から35歳くらいの長身でスポーツ刈りの男と共謀して,パソコン(機体番号省略)やカラープリンター(機体番号省略)等を使用して,本件商品券を偽造した上,X1に命じて,Bにおいて,偽造した商品券を換金し,あるいは換金しようとした事実を優に認定することができる。 (累犯前科)(省略)(法令の適用)(省略)(弁護人の主張に対する判断)弁護人は,本件について被告人の責任能力を争い,その主張の内容は必ずしも明らかではないが,その要旨は,被告人には精神的疾患による入院歴があり,幻聴等があったところ,本件当時 人の主張に対する判断)弁護人は,本件について被告人の責任能力を争い,その主張の内容は必ずしも明らかではないが,その要旨は,被告人には精神的疾患による入院歴があり,幻聴等があったところ,本件当時は,商品券を偽造しろという陰の声に命じられ,これに逆らうことができずに本件を敢行したものであり,また,被告人は,現在でも,拘置所内において幻聴が聞こえているから,被告人には責任能力が著しく減弱しており,心神耗弱の状態にあるというものと解される。 ところで,被告人が陰の声に強制されて本件を敢行したとの主張は,平成12年8月ころテレビで○○デパートのニュースを見ていたとき,たまたま同棲相手Pの娘であるQが○○デパートの商品券を持っており,陰の声が,「商品券を作れ」と命令したとの被告人の当公判廷での供述を前提とするものであるが,QやPは,ここ数年○○デパートの商品券を手にしたことはない旨供述している上,前記のとおり,被告人は,それより前の同年7月中旬ころには,○○デパートの商品券と同質の用紙を購入して偽造の準備を始めていることが認められるから,その主張は,事実関係において前提が欠けていると言うべきである。 また,被告人は,捜査段階から時々頭痛を訴え,当公判廷においても第1回公判において,裁判官に対して「頭痛がする。何か声が聞こえる。」と訴えたり,その後平成12年12月20日の検察官調書において「人の話が聞こえてくる。小学生が話すようなたわいもない内容で,医者に診てもらわなくても生活に支障がない程度である。」と供述したものの,陰の声に命じられて本件を犯したとは主張していなかったところ,第2回公判後である平成13年2月19日から突然上記のような供述をするようになったものであり,その供述の時期及び経緯が作為的であるばかりでなく,Pの供述によっても,同人 は主張していなかったところ,第2回公判後である平成13年2月19日から突然上記のような供述をするようになったものであり,その供述の時期及び経緯が作為的であるばかりでなく,Pの供述によっても,同人が被告人と同棲を始めた平成12年4月ころ以後,被告人が独り言をつぶやいたり,姿が見えない誰かと言葉を交わすなど幻覚や幻聴の兆候や精神的異常を感じたことはないと供述していることや,被告人には過去数回精神科病院に入院の経歴があるものの,その都度幻覚妄想が消失し,最後に通院した平成2年8月には,カルテに「調子がよい」と記載されており,幻覚幻聴があることをうかがわせる記載はないこと,被告人はその後3回正式裁判を受け,そのうち2回服役しながら,上記のような主張をした形跡がないこと,さらに,本件犯行が,時間をかけて周到に計画準備され,被告人自身が表面に出ないように実行され,換金が失敗した後は速やかにほとんど全ての証拠が隠滅されたことなどに照らせば,被告人に,本件当時幻覚や幻聴がなかったことは明らかである。 次に,被告人には現在においても幻聴が聞こえているとの主張については,被告人は,これを幻聴ではなく,現実の声であると供述するものの,その内容から考えて幻聴の存在を供述するものと解されるところ,この供述は,精神鑑定等責任能力を争うための証拠請求をすべて却下された後に初めてされたものであり,その供述内容は,答えをはぐらかしたり,場当たり的で一貫しないものであり,到底信用できず,自己の責任能力を軽減するための虚偽であることは明らかである。 以上により,被告人には,本件当時も現在も,責任能力の減弱がないことが明らかである。よって,弁護人の主張は採用しない。 (量刑の事情)本件は,被告人が,ほか数名と共謀の上,○○デパートの千円の商品券1354枚を偽造し,X1 当時も現在も,責任能力の減弱がないことが明らかである。よって,弁護人の主張は採用しない。 (量刑の事情)本件は,被告人が,ほか数名と共謀の上,○○デパートの千円の商品券1354枚を偽造し,X1と共謀して,これを金券ショップで換金の名目で行使して,889枚の換金に成功して71万1200円を詐取し,465枚については,偽造であることを見破られて,現金を詐取することができなかった事案である。 本件は,高性能のパソコンやカラープリンターを借り入れ,本物の商品券と紙質が似通っている用紙を紙店から大量に購入し,暴力団関係者を通じて,いわゆる偽造のプロを雇い入れるなどして,かなり前から周到な準備をした上で敢行されたものであり,さらに,被告人は,本件の首謀者でありながら,表面的には自分の顔を出さないで,若いX1を引き込んで換金の実行をさせたものであって,誠に悪質と言うべきである。 デパートの商品券は,デパートにおいては現金と同様の役割を果たしているものである上,換金や贈答などにより,一般社会にも広く出回っていることから,その信用力は強い保護を要するところ,本件で被告人らが偽造した商品券は,金券ショップにおいて偽造であることに気付かずに換金され,これを買い受けた顧客を通じて,支払の手段としてデパートに渡り,そこでも偽造であることが直ちには分からなかったもので,極めて巧妙に偽造されたものであって,商品券に対する信用性を著しく傷つけかねない反社会的な犯行である。 本件で換金された商品券は889枚であり,詐取した金額は71万円余とかなりの高額に及んでおり,本件の結果は甚大であるだけでなく,被告人が購入した用紙の量などを考慮すれば,もしHが偽造の疑いを持たなければ,偽造とその換金の額はさらに大きくなり,被害が拡大することは必定だったのであって,極めて危険 の結果は甚大であるだけでなく,被告人が購入した用紙の量などを考慮すれば,もしHが偽造の疑いを持たなければ,偽造とその換金の額はさらに大きくなり,被害が拡大することは必定だったのであって,極めて危険な犯行と言うべきである。 そして,被告人は,換金が失敗したと知るや,速やかにパソコンやプリンター等を撤去し,室内に犯行の痕跡を残さないようX1に指示するなどして証拠を隠滅しただけでなく,本件の捜査,公判を通じて種々不合理な弁解を繰り返し,自己の刑事責任を否定したり,軽減を図ったものであって,反省悔悟の念はうかがわれず,また,被告人が平成11年8月に刑務所を出所してから,その年のうちに暴力団組織に入り,組活動を続けていたことをも考慮すれば,再犯の可能性は大きいと言うべきである。 以上の点にかんがみれば,被告人の刑事責任は重大であり,被告人の年老いた母親が被告人の帰りを待っており,被告人の更生に協力する旨述べていることや被告人が長期間勾留されていることなど,被告人にとってしんしゃくできる事情を考慮しても,被告人に対しては厳罰をもって臨む必要がある。 よって,主文のとおり判決する。 (立会検察官横山和可子,弁護人足立修一)平成13年12月25日広島地方裁判所刑事第一部裁判官山森茂生
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