主文 1 原判決を取り消す。 2 奈良地方裁判所が同裁判所平成12年(ケ)第4号不動産競売事件について平成12年10月3日に作成した配当表の順位2番の項の「配当実施額等」の欄のうち,「公債権グループ奈良社会保険事務所」に対する配当額「733万3564円」及び公債権用配当表の「配当実施額等」の欄のうち被控訴人への配当額「733万3564円」をいずれも「0円」に,同配当表の順位3番の項の「配当実施額等」の欄のうち控訴人への配当額「1330万3279円」を「2063万6843円」にそれぞれ変更する。 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 奈良地方裁判所が同裁判所平成12年(ケ)第4号事件につき作成した平成12年10月3日付け配当表のうち,被控訴人に対する配当額733万3564円の部分を取り消し,同金額を控訴人に配当すると変更する。 (3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人本件控訴を棄却する。 第2 事案の概要 1 事案の概要は,次のとおり付け加えるほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。 2(1) 原判決書1頁25行目の「配当期日において」を削る。 (2) 同2頁9行目の「根抵当権」の次に「(極度額1億4000万円)」を加える。 (3) 同2頁11行目の末尾に続けて「本件競売申立書には,被担保債権として6つの貸付金元本合計1億9105万円と遅延損害金が記載されていて,請求債権は,上記6つの貸付金元本合計1億9105万円の内金1億円と記載されている。 控訴 けて「本件競売申立書には,被担保債権として6つの貸付金元本合計1億9105万円と遅延損害金が記載されていて,請求債権は,上記6つの貸付金元本合計1億9105万円の内金1億円と記載されている。 控訴人は,平成12年9月2日,執行裁判所に対し債権計算書を提出しているが,これには,債権額合計2億4685万5832円と記載され,その内訳として6つの貸付金元本合計1億4699万1115円と利息損害金合計9986万4717円が記載されている。」を加える。 (4) 同2頁23行目の「奈良社会保険事務所」を「公債権グループ奈良社会保険事務所」に改める。 (5) 同3頁13行目の次に改行して次のとおり加える。 「(9) なお,原判決別紙物件目録記載2の不動産について,執行裁判所は,平成12年11月14日の配当期日において,第1順位として控訴人に対する手続費用35万8981円,第2順位として控訴人に対する2039万1019円を配当実施額とする配当表を作成し,配当を実施した。」を加える。 (6) 同3頁14行目から同頁21行目までを次のとおり改める。 「2 争点(1) 控訴人は,配当期日後に控訴人の根抵当権付私債権に優先する公債権を第三者納付したが,この第三者納付の効果を本件配当異議訴訟において主張することができるか。 (控訴人の主張)配当異議訴訟においては,配当期日後に生じた事由であっても異議事由として主張することができる。配当期日にすでに生じている事由しか主張できないとすることは,民事訴訟の原則に反し,権利関係の確定という実体面と,配当手続の迅速化という手続面を混同するものである。また,配当期日後に生じた事由を主張できないとすると,不当利得返還請求等の紛争 いとすることは,民事訴訟の原則に反し,権利関係の確定という実体面と,配当手続の迅速化という手続面を混同するものである。また,配当期日後に生じた事由を主張できないとすると,不当利得返還請求等の紛争を後日に残すことになり,不当である。本件では,控訴人の根抵当権に優先する公債権は第三者納付によって消滅し,被控訴人の債権の優先権は消滅した。 (被控訴人の主張)配当異議の訴えの原因は,配当を受ける当事者の地位の安定性や配当への期待並びに異議の申出の濫用を防止するために,配当期日に存在していたことが必要であって,配当期日後に生じた事由は異議事由にならない。また,本件においては,被控訴人の公債権は控訴人のした第三者納付によっても消滅しないから,被控訴人に配当が実施されても,不当利得にはならない。控訴人は,配当期日前に第三者納付することが可能であったにもかかわらず,配当期日後に,被控訴人の正当に配当を受ける地位を消滅させるために,被控訴人に劣後する公債権について第三者納付をしたものであり,このような第三者納付は権利の濫用というべきである。 (2) 控訴人の本件競売における請求債権は不特定であるという理由で,控訴人は優先弁済権を主張することが許されないか。 (被控訴人の主張)競売の申立書には,請求債権を特定して記載しなければならない。被担保債権の一部について請求する場合には,被担保債権の一部を特定して記載し,債権者が行使する優先弁済請求権の範囲を明らかにする必要がある。申立書において請求債権が特定していない申立ては違法であって,債権者は配当に際して優先弁済権を主張することができないというべきである。控訴人の本件競売の申立書では,複数の被担保債権の元本の がある。申立書において請求債権が特定していない申立ては違法であって,債権者は配当に際して優先弁済権を主張することができないというべきである。控訴人の本件競売の申立書では,複数の被担保債権の元本の一部分を請求債権とする旨記載されているが,その内訳は記載されておらず,請求債権は特定されていない。また,控訴人が執行裁判所に提出した債権計算書には,申立書に請求債権として記載されていない損害金債権が記載されているほか,被担保債権として記載されていない利息債権までもが記載されており,かつ元本債権についても請求債権1億円を超える残元本全額が記載されていて,いずれの請求債権につき優先弁済を主張するのかが特定されていない。したがって,控訴人は被控訴人に対して優先弁済権を主張できないだけでなく,執行裁判所は,控訴人に対して配当を実施することもできないというべきである。」第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について(1) 引用した事案の概要と証拠(甲1ないし8(枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によると,本件配当の法律関係の要点及び紛争の実情は,次のとおりである。 ① 控訴人の本件根抵当権は原判決別紙物件目録記載1の土地(以下「1の土地」という。)び同記載2の土地(以下「2の土地」という。)の2筆の土地に設定された共同根抵当権であり,平成8年5月30日に設定登記されている。 ② 控訴人は,被担保債権として,現在においても,被控訴人主張の競売申立書記載の被担保債権のうち,合計1億円を超える元本債権を有している(後記2の土地の売却代金の配当を含む競売申立後の弁済により元本が減少したが,この弁済を控除しても1億円を超える残元本債権がある。)。 ③ 被控訴人(奈良県)は交付要求したが,交付要求に係る地方税債権は平成8 金の配当を含む競売申立後の弁済により元本が減少したが,この弁済を控除しても1億円を超える残元本債権がある。)。 ③ 被控訴人(奈良県)は交付要求したが,交付要求に係る地方税債権は平成8年5月31日から平成11年5月31日までの期間に係るものであるから,控訴人の根抵当権の被担保債権(以下「A私債権」という。)が優先し,被控訴人の地方税債権(以下「B地方税債権」という。)はA私債権に劣後する(地方税法14条の10)。 ④ 社会保険事務所(国)も交付要求したが,交付要求に係る社会保険料債権中733万3564円(以下「C公課債権」という。)は法定納期限が前記根抵当権設定前のものであるから,C公課債権はA私債権に優先し,A私債権はC公課債権に劣後する(国税徴収法16条参照)。 ⑤ B地方税債権はC公課債権に優先し,C公課債権はB地方税債権に劣後する(地方税法14条)。 ⑥ ③ないし⑤の優先関係は,地方税法14条の20の柱書の規定に該当する。したがって,同条の20各号の規定により,AないしC債権に配当されるべき金額は次のとおりになる。 A私債権に優先する公債権グループの総額(地方団体の徴収金及び国税等に充てられるべき金額の総額)はC公課債権の金額である733万3564円になる。このグループ内ではB地方税債権がC公課債権に優先するから,B地方税債権に733万3564円が充てられる。残余がA私債権に充てられる。 ⑦ 1の土地及び2の土地は個別に売却され,配当期日も各別に定められたところ,1の土地の売却及び配当期日が先行した。本件異議は1の土地の売却代金の配当表についてされたものである。 ⑧ 本件配当表は,本判決別紙のとおりである。B地方税債権に手続費用に次ぐ優先順位で 1の土地の売却及び配当期日が先行した。本件異議は1の土地の売却代金の配当表についてされたものである。 ⑧ 本件配当表は,本判決別紙のとおりである。B地方税債権に手続費用に次ぐ優先順位で配当し,次順位でA私債権に配当するというものであるから,配当期日における権利関係に基づく配当表としては,③ないし⑥の優先順位と配当金額の認定に沿うものであり,異議の原因となるべき理由はなかった。 ⑨ しかし,本件配当表による配当では,配当後にもC公課債権は依然としてA私債権に優先する公課債権として残存することになるが,このように一度優先権を行使した公債権も,後にされる2の土地の売却代金の配当手続で再び優先権があるものとして取り扱われることになる(最判平成11年4月22日,裁判集民事193号141頁)。 ⑩ そこで,控訴人は,後に行なわれる2の土地の売却代金の配当手続でC公課債権が再度優先公債権として取り扱われることを防ぐため,とりあえず本件配当期日において,B地方税債権に対する配当額は全額A私債権に配当されるべきである旨の異議を申し出た上,本件配当期日の3日後に,C公課債権に対して第三者納付をして,C公課債権を消滅させた。 ⑪ C公課債権が存在しないものとすれば,本件配当表は上記異議申出のとおり変更されるべきである。 ⑫ 2の土地の売却代金の配当期日は⑩の第三者納付後であったため,A私債権に優先する公債権グループの行使はなく,A私債権(その残額)は,手続費用に次ぐ優先順位で配当を受けることができた。 (2) (1)の事実関係によると,本件配当表の記載は,本件配当期日現在の法律関係による限りでは正当であったが,本件配当異議訴訟の口頭弁論終結時点においては,本件配当表中B地方税債権に対する配当実施 (2) (1)の事実関係によると,本件配当表の記載は,本件配当期日現在の法律関係による限りでは正当であったが,本件配当異議訴訟の口頭弁論終結時点においては,本件配当表中B地方税債権に対する配当実施額733万3564円は0円とされ,同額がA私債権に配当されるべき法律関係にあるから,本件配当表は相当でなく,したがって,上記法律関係に合致するよう変更されるべきである。 被控訴人は,配当期日後に生じた事由は配当異議訴訟において異議の原因とすることは許されないと主張する。しかし,配当異議の訴えは,民事執行の手続で作成された配当表に基づく分配に不服を申し出た者がある場合に,その者が提起する通常の民事訴訟であるから,特別の根拠のない限り,事実審の口頭弁論終結の時の法律関係に基づいて判決されるべきであり,したがって,配当異議訴訟の原告及び被告の双方は,ともに,事実審の口頭弁論の終結時までに生じた一切の事由を攻撃防御の方法とすることが許されると解するのが相当である。配当異議の訴えは,配当期日に適法な配当異議申出をした者だけが提起することができるが,このような当事者適格に関する定めがあるからといって,これをもって,配当異議の訴えの原因を配当期日までに生じた事由に限ることの根拠とすることは困難である。 また,配当異議の訴えでそのような制約を設けると,配当表に基づく配当の当否を民事訴訟で審理判決したにもかかわらず,後に更に不当利得の成否を審理判断する民事訴訟が必要になる場合が生じるが,このことは実際上も相当とは思われない。 以上のことは,配当異議を申し出た者が申出の当時には何も異議理由がないことを認識していたとしても,それだけで別異に解すべきことになるとは思われない。 被控訴人は,配当期日において配当表に基づいて配当を受ける当事者の地位 が申出の当時には何も異議理由がないことを認識していたとしても,それだけで別異に解すべきことになるとは思われない。 被控訴人は,配当期日において配当表に基づいて配当を受ける当事者の地位の安定性や配当への期待の保護あるいは配当異議の申出の濫用防止の観点をもって,配当異議の訴えの原因を配当期日までに生じた事由に限るべきことの根拠としている。しかし,配当期日は,当該期日に異議の申出がない限りで配当表に基づく配当がされる期日であって,当該期日に異議の申出があれば,異議に係る配当の実施は無条件で留保される。そして,配当表自体,十分な資料に基づいて作成されるものではなく,それ自体に実体的な権利義務関係を確定させる効果もなく,異議ある部分の配当受領請求権の存否は,あげて通常訴訟たる配当異議訴訟によって決着を図る構造とされているのである。しかも,配当異議の申出には理由を付すことが求められていない。このようなことに鑑みると,配当期日で作成された配当表に配当を受けるべき債権者と記載されている者であっても,被控訴人主張のように配当異議訴訟における攻撃防御方法を制約させるほどに安定性への配慮又は期待の保護が与えられるべき者であるとは考えがたい。 また,配当異議の申出の濫用防止の観点も,被控訴人主張のような攻撃防御方法に関する一律の制約を設けることによって図られるべきものとは思われず,個々の配当異議訴訟において個別に判断されるべき性質のものと考えるのが相当である。そして,ちなみに,この観点から本件について具体的に控訴人の第三者納付の主張を制限すべきものであるかどうか検討しても,これを積極に認めることはできない。すなわち,B地方税債権は,第一次的にはA私債権に劣後するものであり,C公課債権だけがA私債権に優先するものであった。換言すれば, べきものであるかどうか検討しても,これを積極に認めることはできない。すなわち,B地方税債権は,第一次的にはA私債権に劣後するものであり,C公課債権だけがA私債権に優先するものであった。換言すれば,C公課債権がなければ,第一次的には,B地方税債権は1土地及び2土地の競売においては配当に与ることができなかったものであり,控訴人は,C公課債権の第三者納付をしておけば,1土地及び2土地の双方の売却代金の配当において,B地方税債権に優先されることはなかったのである。そして,A私債権がC公課債権にだけ劣後しB地方税債権に優先することは,私債権の根抵当権者の予測可能性に基礎を置く第一次的な合理的調整結果であるから,C公課債権が後行の2の土地の売却代金に関する配当で反復的にA私債権に優先するものとして取り扱われ,結局A私債権がC公課債権及びB地方税債権の双方に劣後する結果となることは,A私債権の根抵当権者について公平な結果とはいいがたいと思われる。第三者納付自体は本件配当期日の前後を問わずに行われ得るものであるが,たまたま控訴人の第三者納付が本件配当期日前に行われず,配当期日後に行われたことについて,敢えて被控訴人の本件配当に関する期待や安定性を損なう目的でそのようにされたと認めるに足りる証拠はない。なお,本件第三者納付は,本件配当異議の訴えの提起期間内に行われている。以上の諸事情に照らすと,本件配当異議の訴えで控訴人の第三者納付の主張を制限する合理的理由があり,あるいはそれが相当であるとは認められないというべきである。 2 争点(2)について証拠(乙1,2)によると,本件不動産競売申立書及び債権計算書の記載は被控訴人主張のとおりであり,この記載によると,被担保債権及び請求債権は特定されていると認められ,請求債権の特定に欠けるところは 証拠(乙1,2)によると,本件不動産競売申立書及び債権計算書の記載は被控訴人主張のとおりであり,この記載によると,被担保債権及び請求債権は特定されていると認められ,請求債権の特定に欠けるところはないと考えられる。したがって,その余の点を判断するまでもなく,争点(2)に関する被控訴人の主張は,採用することができない。 3 以上によると,控訴人のした第三者納付により,C公課債権は消滅した。したがって,B地方税債権はA私債権に優先して配当を受けることはできないから,本件配当表中の「公債権グループ奈良社会保険事務所」に対する配当実施額及び公債権用配当表中奈良県奈良県税事務所に対する配当実施額はいずれも0円に改められ,配当表中の控訴人に対する配当実施額は2063万6843円に改められるべきである。控訴人は,このような配当表の変更を請求しているものと解される。 よって,控訴人の請求は理由があるから,認容すべきであり,これを棄却した原判決は相当でないから,これを取り消して控訴人の請求を認容することとし,訴訟費用の負担について民訴法67条,61条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第6民事部 裁判長裁判官加藤英継 裁判官小見山進 裁判官大竹優子・
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