平成14(わ)43 非現住建造物等放火被告

裁判年月日・裁判所
平成14年6月19日 山口地方裁判所
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判決文本文4,341 文字)

主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 押収してあるライター1個(押収番号省略)を没収する。 理由 (犯罪事実)被告人は,平成14年2月4日午後8時50分ころ,山口県阿武郡a町bc番地所在のA鉄道株式会社B支社C鉄道部D線E駅待合室において,自己の鬱憤や憂さを晴らすため,上記待合室内に設置された傘立てに立てかけられていた傘に火を放てば同駅駅舎にも燃え移ることを認識しながら,所携のライター(押収番号省略)で同傘に点火して放火し,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない同社所有に係る一部木・鉄骨造亜鉛メッキ鋼板・スレート葺平家建,一部木造瓦葺平家建の同駅駅舎(床面積合計約233.045平方メートル)に燃え移らせ,よって,これを全焼させて焼損したものである。 (証拠の標目)~省略(法令の適用)被告人の判示行為は,刑法109条1項に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入することとし,押収してあるライター1個(押収番号省略)は,判示非現住建造物放火の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用してこれを被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 本件は,被告人が,E駅の待合室で列車の到着を待っていたところ,高校生からじろじろ見られたこと等から馬鹿にされたと感じ,日頃の生活が不安定だったこともあって,憂さや鬱憤を晴らすため,前記待合室内にあった傘に火を付け,これにより同駅駅舎を焼損させた事案である。 2 証拠(省略)によれば,次の事実が 馬鹿にされたと感じ,日頃の生活が不安定だったこともあって,憂さや鬱憤を晴らすため,前記待合室内にあった傘に火を付け,これにより同駅駅舎を焼損させた事案である。 2 証拠(省略)によれば,次の事実が認められる。 被告人は,平成2年3月に高等学校を卒業した後,海上自衛隊に入隊し,次いで陸上自衛隊に入隊したが,平成5年秋ころ,部下に殴られて傷害を負ったこともあって,同自衛隊を除隊した。被告人は,幼少時には,火に対して恐怖感を持っていたが,海上自衛隊在籍当時,火に対する恐怖感が薄れるとともに,火を見ると気持ちがすっきりする感覚を覚えるようになった。また,被告人は,陸上自衛隊を除隊したころから人間不信に陥り,いわゆる対人恐怖症のような精神的に不安定な状態となった。 被告人は,その後,複数の運送会社を転職し,運転免許が失効した平成7年4月以降は,土木作業員,とび職,解体業など日雇いの職を転々としていたが,平成7年ころには,再び精神的に不安定な状態になり,F病院,次いでG病院の青春期内科に合計で1年間余り入院したこともあった。 被告人は,平成10年2月に実父を亡くしたが,被告人の実母や実姉は,当時居住していた社宅を出て,近隣のマンションで生活するようになった。被告人の実母や実姉は,被告人が不定期に同社宅に戻り,社宅内の家財道具を質入れすることが続いたため,被告人が同社宅中に入れないように扉に措置を講じた。被告人は,同年5月,同社宅に戻り,中に入ろうとしたところ,扉が開かないようになっていたことに憤慨し,発泡スチロール製のトレイに点火し,これを同社宅の扉の開口部から内部に投げ込み,玄関の一部と下駄箱を焼損する放火事件を起こした。この件については,社宅所有者らが被害申告をしなかったが,被告人は,H病院に入院することになった。 これを同社宅の扉の開口部から内部に投げ込み,玄関の一部と下駄箱を焼損する放火事件を起こした。この件については,社宅所有者らが被害申告をしなかったが,被告人は,H病院に入院することになった。 同病院を退院した後,被告人は,名古屋市,神戸市,横浜市,東京都内,川口市などで建設業,発掘調査,ケーブル工などの日雇いの職を転々としていたが,その間にも,日頃の鬱憤や憂さを晴らすため,ゴミ捨て場のゴミ,民家の窓のすだれ,電柱に貼ってあるポスターやホテルの絨毯に火を点け,これによって気持ちを落ち着かせることがあった。 被告人は,平成13年10月には福岡県内に戻り,平成14年になってからは,日雇いの職もほとんどせずに野宿して浮浪者のような生活を送っていた。被告人は,北九州市や下関市では適当な職を見付けることができず,平成14年2月2日には所持金が1000円程度になってしまったため,職を求めて山陰方面に向かおうと考え,同日朝,徒歩でdを出発し,下関市までたどり着いた。被告人は,I駅からD線の列車に乗り,途中,e町役場,f町役場で行路困窮者扶助費の支給を受けながら,同日夜,g町に到着したが,g町役場で行路困窮者扶助費の支給を渋られたため,自ら119番通報して救急車を呼び,長門市所在のJ病院に入院した。 診察の結果,特に異常も認められなかったため,被告人は,同月4日午後2時30分ころ,J病院を退院し,再びh市役所,i市役所,j町役場で行路困窮者扶助費の支給を受けながら,同日午後7時28分ころ,D線の列車でE駅に到着した。被告人は,a町役場に赴いて行路困窮者扶助費の支給を受けた後,同日中にk町まで行こうと思い,午後8時前ころ,E駅に戻り,同駅の待合室内で列車の到着を待っていた。 同日午後8時31分ころ,E駅に山陰方面から下関方面 いて行路困窮者扶助費の支給を受けた後,同日中にk町まで行こうと思い,午後8時前ころ,E駅に戻り,同駅の待合室内で列車の到着を待っていた。 同日午後8時31分ころ,E駅に山陰方面から下関方面に向かう列車が到着したが,被告人は,同列車から降車した男子高校生と目線が合い,女子高校生が待合室の出入口扉を閉めずに立ち去ったため,これらの者から浮浪者と馬鹿にされたと感じた。そして,高校生らから馬鹿にされたことや生活が安定しないことに対する鬱憤,憂さを晴らすため,放火することを思い立ち,E駅の待合室内売店の脇に設置してあった傘立てに立てかけてあった傘を発見して,これに火を点けて燃やせば,E駅駅舎に火が燃え移ることを認識しながら,前記の傘に放火することを決意した。 被告人は,ライターで傘に点火した後,傘が燃えるのをその場でしばらく眺め,いったん駅舎の外に出たが,駅舎の様子を振り返ったところ,待合室内に火柱が上がり,煙が駅舎の外側にも上がっていた。これを見た被告人は,駅舎が全焼するかもしれないと考え,やり過ぎたと感じ,また,後日被告人の犯行であることが発覚した際の有利な事情とするため,自ら119番通報した。被告人は,消防からの通報を受けて現場に到着した警察官に対し,当初,放火したのは被告人ではない旨否認していたが,警察官から任意同行を求められてこれに応じ,事情聴取を受けて,自らの犯行であることを認めるに至った。 3 以上のように,被告人は,E駅で偶然会った男子高校生と目線が合い,女子高校生が待合室の扉を閉めなかったというだけの理由で,自己が馬鹿にされたと思い込んで立腹し,駅舎に火が燃え移ることを認識しながら本件犯行に及んだものであるが,その動機は自己の鬱憤や憂さを晴らすためのみであり,一時的な激情に駆られて放火がもたらす重大な結果や危険 されたと思い込んで立腹し,駅舎に火が燃え移ることを認識しながら本件犯行に及んだものであるが,その動機は自己の鬱憤や憂さを晴らすためのみであり,一時的な激情に駆られて放火がもたらす重大な結果や危険性を顧みないその態度は,厳しく非難されるべきである。E駅は,単に被告人と高校生らとのやりとりの場となっただけで,本来被告人の憤りと何の関係も持たず,同駅所有者にはこれを焼損されるといういわれは全くない。本件犯行により同駅舎は全焼したといってよく,内部の動産等に生じたものを含めればその損害額は2000万円を超えているところ,これらの損害について被害弁償は全くされていない。さらに,E駅は,a町の玄関口としてそのシンボル的建物といってよく,その焼失による有形無形の影響は,日々鉄道を利用する地域住民の被る不便さにとどまらず,町全体の振興にもかかわるものであって,これら本件犯行により生じた結果も重大である。また,本件は,住宅や商店などが立ち並ぶ地域にほど近い場所で敢行されたものであり,付近の多くの住民に多大な不安感,危惧感を与えたことも無視することはできない。 被告人は,本件以前にも放火歴があり,放火行為の持つ極めて大きな危険性を顧みることなく,単に鬱憤を晴らすための手段として安易に放火行為に走る傾向が認められるのであって,同種再犯のおそれも否定することができない。また,放火行為は,上記被告人の性癖と同様の傾向を持つものにより模倣される危険性も高い。 このように,本件については,一般予防及び特別予防のいずれの観点からも,同種犯行の続発を予防する必要性が高く,被告人の刑責は重いといわなければならない。 4 もっとも,本件犯行は,被告人の性癖に根ざしているものではあるが,多分に偶発的で,計画的なものではなく,被告人には,積極的に駅舎全体を全焼させて 高く,被告人の刑責は重いといわなければならない。 4 もっとも,本件犯行は,被告人の性癖に根ざしているものではあるが,多分に偶発的で,計画的なものではなく,被告人には,積極的に駅舎全体を全焼させてやろうとの企図があったとまでは認め難いこと,人身損害は生じていないこと,本件犯行後,駅舎全焼との重大な結果を生じる可能性があることに気づき,自ら火災の発生を119番通報していること,被告人は,当初こそ犯行を否認するなどしていたが,その後は事実関係を認め,反省悔悟の情を示し,将来,本件犯行によって生じた被害を一部でも弁償したいなどとも述べていること,被告人の生活状態は芳しくない点があるといわざるを得ないものの,前科はないことなど,被告人にとって酌むべき情状も存するところである。 以上の諸事情を総合考慮の上,本件は駅舎という公共的な建物を全焼させたという重大事犯であり,相当期間の実刑判決はやむを得ないが,量刑は主文掲記のとおりとするのが相当であると判断した。 5 よって,主文のとおり判決する。 (求刑・懲役5年,押収してあるライター1個の没収)平成14年6月19日山口地方裁判所第3部裁判長裁判官小島正夫裁判官山口浩司裁判官安部勝

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