- 1 -主文原判決を破棄する。 被告人を懲役10年に処する。 原審における未決勾留日数中120日を上記刑に算入する。 押収してあるブースターケーブル1組(岡山地方裁判所平成18年押第14号の1)を没収する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人難波秀明作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に各記載されたとおりであるから,これらを引用する。 論旨は,要するに,量刑不当の主張であって,被告人を懲役11年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である,というのである。 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。 本件は,被告人が,内妻と共謀し,( )平成17年9月12日午前3時ころ,岡 山県浅口郡a町(現岡山県浅口市)内の林道において,殺意を持って,当時28歳の男性の頸部をバスタオルやブースターケーブルで強く締め付けて窒息死させ,( )そのころ,上記林道付近の雑木林内に上記男性の死体を放置して遺棄したとい う,殺人及び死体遺棄の事案であるが,本件殺人は,あらかじめ被害者に睡眠導入剤等を服用させた上,バスタオルで頸部を絞め,更に確実に殺害するためブースターケーブルで頸部を絞めたものであり,その態様は冷酷かつ残虐であったこと,被害者は,全く抵抗できない状態にされて生命を奪われ,しかも暑さの厳しい時期に山中で死体を野ざらしにされたもので,その結果が重大かつ凄惨であったことはもとより,一人息子を突然奪われたことにより母親が受けた衝撃の程度も大きかったことなどを考慮すると,犯情は甚だ芳しくなく,被告人の刑事責任は重いといわなければならない。 しかしながら,本件殺人の犯行に至った経緯につき,関係証拠によると,被告人は,平成14年1月ころ内妻と同居し,同年10月ころ内妻の子3人を引き取った- 2 -が,パニック障害等のため精神的に不安 しかしながら,本件殺人の犯行に至った経緯につき,関係証拠によると,被告人は,平成14年1月ころ内妻と同居し,同年10月ころ内妻の子3人を引き取った- 2 -が,パニック障害等のため精神的に不安定な状態にあった内妻の面倒を見るうち,勤務先の退職を余儀なくされ,生活費に窮して借金を重ね,自己破産の申立てをして平成17年1月ころ免責決定を受け,被害者と同じ勤務先でアルバイトをする傍ら別の会社で警備員の仕事にも就いたが,なお生活は経済的に苦しく,勤務先の同僚から5万円を借りるなどしたこと,被告人は,同年4月ころから被害者と付き合い始めて使い走りとして利用されるようになり,同年7月初めころ,被害者から借りていた軽四自動車で被害者を迎えに行く約束をしたのにその約束を守れなかったことから,被害者から取引先との交渉に失敗したことによる賠償金の支払を求められ,同月中に5万円を支払ったこと,被告人は,同月25日,被害者から紹介された男性から返せる見込のないまま15万円を借り入れただけでなく,同年8月ころ,被害者から,上記の同僚からの借金5万円を買い取ったと言われて8万円を支払う約束をさせられ,更に,上記軽四自動車を運転中に脱輪事故を起こしたため,これを25万円で買い取ると共に迷惑料10万円を支払うよう要求されたほか,別の自動車を被害者から7万円で買い取ることになったこと,被告人は,同月29日,内妻を庇ってうそを言ったため被害者から一方的に暴行を受け,いったん解放されたものの,被害者から呼び出されて内妻と共に被害者方に赴き,被害者がヤクザから借りた金員の返済のためとの理由で,被害者に毎月15日限り元利金17万円ずつ2年間支払う約束をさせられ,被告人を借主,内妻を連帯保証人,借入金額を408万円とする借用証書を作成させられ,その後も被害者が内妻に執ように ためとの理由で,被害者に毎月15日限り元利金17万円ずつ2年間支払う約束をさせられ,被告人を借主,内妻を連帯保証人,借入金額を408万円とする借用証書を作成させられ,その後も被害者が内妻に執ように電話で金策を迫った末,同年9月10日には金策のため内妻を連れ回したことが分かり,内妻にまで理不尽な要求をする被害者を許せないと思ったこと,被告人は,同月11日,被害者から迎えに来るように言われて被害者を被告人方に連れてきた際,被害者から自宅に取立が来るから帰れないなどと言われたため,そのまま居座られるかも知れないと思い,隙を見て警察に相談に行き,警察官から被害者に注意すると言われたものの,仮に逮捕されても短期間で釈放される見込であるとも聞き,そうであれば逆恨みされてどんな目に遭うか分からないと思って警察官の申し出を断った- 3 -が,帰宅後,内妻の疲れ切った姿や家の中の重苦しい雰囲気から,警察に相談しても被害者を捕まえてもらうことはできないし,これ以上被害者のため義務のない金策に走り回ることにも疲れたなどと考え,被害者を殺害するほかないと決意するに至り,内妻に打ち明けて殺害方法等を相談したことなどが認められ,以上の経緯に照らすと,被告人は,被害者が無謀な要求を繰り返し,時には暴力を振るい,被告人の内妻にまで金策を迫った上,被告人方に居座る気配を示したため,このまま被害者の理不尽な言動を容認した場合,内妻や娘達にも危害が及ぶかもしれないと考え,しかも警察に相談しても被害者を捕まえてもらうことができないため,この上は被害者を殺すほかないと決意するに至ったということができる。 この点につき,原判決は,(量刑の理由)の中で被告人のために酌むべき事情として「被害者も被告人に対し,理不尽な金銭の要求や法外な利息の請求を行い,被告人が月々の給料では到底支 たということができる。 この点につき,原判決は,(量刑の理由)の中で被告人のために酌むべき事情として「被害者も被告人に対し,理不尽な金銭の要求や法外な利息の請求を行い,被告人が月々の給料では到底支払うことのできない多額の借用証書に署名をさせるなどした上,被告人方に居座る気配を示すなどして,本件を誘発させたものであること」や「本件犯行に及ぶ直前,警察に相談するなど精神的にも追いつめられていたこと」を指摘しており,この点は是認できるものの,他方において,原判決は,被告人が警察に援助を求めたり弁護士に相談したりなど適切な対応をすれば,被害者の殺害を避けられたので,犯行動機は短絡的で浅はかというほかないと非難するが,本件犯行に至るまで被害者が一方的に被告人やその内妻に対して粗暴かつ理不尽な言動を重ねたことや被告人が思い余って犯行当日に交番に相談に行った事実,被害者の報復を恐れる余り警察等の援助を受けることを断念した事実等を軽視するものであり,被告人にとってやや酷であるといわざるを得ない。また,原判決は,被告人が自己破産をして免責決定を受けた後も借金を重ねたことや被害者から借りていた自動車の運転中に脱輪事故を起こしたことなどから,被告人自身が被害者の理不尽な要求を招いた面があると評価していることが窺われるが,被告人は,免責決定を受けた後も,給料だけでは生活が苦しかったため,同僚等から借金せざるを得なかったものであるし,被害者との関係も,被害者に使い走りとして利用されるうち,- 4 -被害者との約束を守れなかったことで賠償金5万円を支払わされ,脱輪事故を理由に車両買取代金25万円及び迷惑料10万円を支払うよう要求されるなど,いわば金蔓として利用されるようになったものであるから,被告人が被害者の理不尽な要求を招いたと評価するのは相当でないというべ 理由 に車両買取代金25万円及び迷惑料10万円を支払うよう要求されるなど,いわば金蔓として利用されるようになったものであるから,被告人が被害者の理不尽な要求を招いたと評価するのは相当でないというべきである。 その他,被告人が反省の情を示していること,前科がないことなど,被告人のため斟酌すべき諸事情に徴すると,本件は,計画的に敢行された冷酷かつ残虐な犯行で,その結果が重大かつ凄惨である上,被害者の母親に大きな衝撃を与えたことを考慮しても,上記のとおり被害者の落ち度が甚だ大きい点に照らすと,被告人を懲役11年(求刑懲役12年)に処した原判決の量刑は重過ぎて不当というべきである。 論旨は理由がある。 よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により当裁判所において更に判決する。 原判決が認定した罪となるべき事実に原判決が掲げる法令を適用し,上記諸事情を勘案し,かつ,共犯者である内妻が本件犯行につき懲役9年の判決を受けており,これとの刑の均衡にも配慮する必要があること,内妻が本件犯行で果たした役割は決して小さくないものの,被害者の殺害を持ち掛けたのは被告人であることなどを考慮して,被告人を懲役10年に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中120日を上記刑に算入し,押収してあるブースターケーブル1組(岡山地方裁判所平成18年押第14号の1)は原判示第1の殺人の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,原審及び当審における訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととし,主文のとおり判決する。 平成18年11月8日広島高等裁判所岡山支部第1部- 5 -裁判長裁判官安原浩裁判官河田充規裁判官西川 し書を適用して被告人に負担させないこととし,主文のとおり判決する。 平成18年11月8日広島高等裁判所岡山支部第1部- 5 -裁判長裁判官安原浩裁判官河田充規裁判官西川篤志
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