主文 1 被告は,原告Aに対し,2312万2976円及びこれに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,770万7658円及びこれに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Cに対し,770万7658円及びこれに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は,原告Dに対し,770万7658円及びこれに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 原告らのその余の請求を棄却する。 6 訴訟費用はこれを10分し,その1を原告らの,その余を被告の各負担とする。 7 この判決は,第1項から第4項までに限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,2574万7594円及びこれに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,858万2531円及びこれに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Cに対し,858万2531円及びこれに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は,原告Dに対し,858万2531円及びこれに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の下請会社の従業員として船舶の修繕作業等に従事していた亡Eの相続人である原告らが,亡Eは,被告の亡Eに対する安全配慮義務違反により,石綿粉じんにばく露した結果,中皮腫等にり患して死亡したとして,被告に対 社の従業員として船舶の修繕作業等に従事していた亡Eの相続人である原告らが,亡Eは,被告の亡Eに対する安全配慮義務違反により,石綿粉じんにばく露した結果,中皮腫等にり患して死亡したとして,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償金合計5149万5187円及びこれに対する請求の趣旨及び原因の変更申立書送達の日の翌日である平成23年5月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 争いのない事実等(証拠を掲げたもののほかは当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア原告Aは亡Eの妻であり,原告B,原告C及び原告Dは,亡Eの子である。亡Eは,平成22年9月6日,死亡し,原告Aが2分の1,原告B,原告C及び原告Dが各6分の1の割合で,亡Eの権利義務をそれぞれ承継した。 イ被告は,船舶の建造・修繕等を目的とする株式会社であり,木津川沿いに大阪製造所(以下「本件製造所」という。)を所有し,そこには船舶部門の修繕ドックや工場などが存した。 ウ亡Eは,昭和42年4月10日から平成18年12月21日までの間,被告の下請会社である株式会社Fに勤務し,主として本件製造所の修繕ドックなどの作業場において,船舶の修繕作業に従事していた。 (2) 亡Eの作業状況等ア本件製造所においては,被告の従業員が,作業員全員が参加する朝礼において,作業の安全管理等について指示を行い,作業員が作業をする間,作業状況を把握するため巡回を行い,現場監督を務めていた。 イ本件製造所において修繕されていた船舶は,機関室等に石綿製品が使用されていた。 (3) 亡Eの発病亡Eは,平成21年8月頃,中皮腫にり患し,同22年9月6日,中皮腫により死亡した(甲エ4,6,9)。 2 争点及びこれに 船舶は,機関室等に石綿製品が使用されていた。 (3) 亡Eの発病亡Eは,平成21年8月頃,中皮腫にり患し,同22年9月6日,中皮腫により死亡した(甲エ4,6,9)。 2 争点及びこれに対する当事者の主張(1) 亡Eの本件製造所における石綿ばく露の有無及び死亡との間の因果関係の有無【原告らの主張】ア亡Eを含む作業員は,本件製造所において,船舶の修繕のために,石綿布を取り外したり,パイプ等を取り替えたりする際,飛散した粉じんを吸引するなど,様々な機会に様々な形態において石綿粉じんにばく露していた。 イ石綿は,中皮腫の主要な原因物質であり,亡Eは,本件製造所において船舶の修繕に従事する以外の機会に石綿にばく露していたことはない。 ウしたがって,亡Eが中皮腫にり患し,これにより死亡した原因が,亡Eが本件製造所における石綿粉じんへのばく露であることは明らかである。 【被告の主張】ア亡Eが本件製造所で担当していた作業の内容は石綿粉じんを発生させるものではなかったから,亡Eが本件製造所での作業において石綿粉じんにばく露することはなかった。 イ亡Eは,本件製造所以外での作業歴を有し,喫煙歴も有しており,これらが原因で中皮腫にり患した可能性がある。 ウしたがって,亡Eが中皮腫にり患し,これにより死亡した原因が,本件製造所における石綿粉じんへのばく露であるとは限らない。 (2) 被告の安全配慮義務違反の有無【原告らの主張】ア予見可能性石綿の危険性については,各種研究によって順次指摘されており,遅くとも昭和30頃までには,石綿が発がん性を有することが明らかにされ,遅くとも同35年ないし45頃までには,石綿と中皮腫の関連性が明らかにされた。我が国においても,同30年代から石綿粉じんの発がん くとも昭和30頃までには,石綿が発がん性を有することが明らかにされ,遅くとも同35年ないし45頃までには,石綿と中皮腫の関連性が明らかにされた。我が国においても,同30年代から石綿粉じんの発がん性,予防の重要性,環境ばく露の危険性が各種文献等によって指摘されており,昭和35年にはじん肺法が制定された。 したがって,被告は,亡Eが本件製造所で就労を開始した同42年頃には,作業員が石綿にばく露することにより中皮腫や肺がんといった重大な健康被害を発症する危険性を認識することができたというべきである。 イ結果回避義務違反被告は亡Eを本件製造所において船舶の修繕作業に当たらせ,被告の従業員がその作業の管理監督をしていたなど,被告は,亡Eに対して実質的に支配を及ぼしていたのであるから,亡Eの生命,身体等を保護するよう配慮する義務を負っていた。 上記アのとおり,被告は,遅くとも昭和42年頃までには,作業員が石綿にばく露することにより中皮腫や肺がんといった重大な健康被害を発症する危険性を認識することができたのであるから,これを回避するため,亡Eを含む作業員の安全に配慮する義務があったというべきである。しかしながら,被告は,以下のとおり,(ア) 作業環境管理義務違反,(イ) 作業条件管理義務違反,(ウ) 健康管理義務違反等の義務違反があり,安全配慮義務に違反しているというべきである。 (ア) 作業環境管理義務違反作業員の石綿粉じんばく露を防止するためには,作業現場での粉じんの発生を抑制し,あるいは粉じんが大気中に飛散しないよう必要な措置を執り,粉じん作業と非粉じん作業の混在を避け,作業現場に堆積した粉じんが飛散しないように配慮することが必要である。 そのため,被告には,粉じん作業と非粉じん作業との混在化を防ぐ義務,労働現場 を執り,粉じん作業と非粉じん作業の混在を避け,作業現場に堆積した粉じんが飛散しないように配慮することが必要である。 そのため,被告には,粉じん作業と非粉じん作業との混在化を防ぐ義務,労働現場に堆積した石綿粉じんが飛散しないようにする義務,船舶の修繕作業に従事する作業員に対し,撒水や噴霧の湿潤化を行わせる措置を執る義務があったというべきである。 ところが,被告は,亡Eを含む作業員に,石綿等の粉じんが発生する状態でエンジンの修繕作業等を行わせ,石綿粉じんが発生する作業から隔離せずに,粉じん作業との混在作業を行わせ,さらに堆積した粉じんに散水するなどの湿潤化策も行わないなど,亡Eを含む作業員が被告の労働現場で粉じんにばく露しないための措置を全く執らなかった。 (イ) 作業条件管理義務違反粉じんの体内侵入を防ぐには,防護衣・防じんマスク等の保護具の着用が有効であり,万が一粉じんにばく露した場合でも,作業着や皮膚に付着した粉じんを速やかに洗い流すなどしてできる限り体内侵入を防止すべきである。 そのため,被告には,粉じんの体内侵入を防止するための措置として,作業員に最適な呼吸用保護具を支給してこれを確実に着用させる義務,洗浄設備を設置して作業員に手洗い等をさせ,これを可能とするために洗浄設備等を設置する義務があったというべきである。 ところが,被告は,亡Eを含む作業員に防護衣や呼吸用保護具(防塵マスク)を支給して着用させるなどの措置を執らなかった。また,仮に被告がマスクを支給していたとしても,その性能は粉じんばく露防止にとって有効で装着するに適したものではなかったため,防塵対策にとって不十分であったというべきである。さらに,被告は,亡Eを含む作業員に必ず手洗い・洗顔・洗身及びうがいを実施させる措置を執らず,また,作業員が で装着するに適したものではなかったため,防塵対策にとって不十分であったというべきである。さらに,被告は,亡Eを含む作業員に必ず手洗い・洗顔・洗身及びうがいを実施させる措置を執らず,また,作業員がスムーズにこれらを実施できるような洗浄設備を設置することを怠った。 (ウ) 健康管理義務違反作業員がじん肺等の職業性疾患にり患しないためには,作業員自身がじん肺等の発生メカニズムや粉じんの有害性,危険性を認識することが有効である。 そのため,被告には,作業員に粉じんの有害性,危険性を認識させるため,作業員に対する定期的な安全衛生教育を実施する義務,定期健康診断を受けさせる義務,作業場内に粉じんの取扱上の注意事項等を表示して注意喚起をする義務があったというべきである。 ところが,被告は,亡Eを含む作業員に対し,粉じんにばく露することによって生じる健康被害の危険性について何らの教育も受けさせず,また,胸部エックス線検査を含む定期健康診断等を実施しなかった。さらに,被告は,作業場内に石綿等の取扱上の注意事項等の表示を行わなかった。 【被告の主張】ア予見可能性被告は,アスベスト製品の製造に関与していない会社であり,少なくとも平成元年頃までは,製品として流通している断熱材であるアスベスト布の危険性を認識することは不可能であった。 また,亡Eは,断熱材であるアスベスト布を取り替える作業を行っておらず,シリンダーカバーと排気管との継手部分のボルトを外すに当たって,アスベスト布を外す程度であった。この作業は全体の作業工程の1%未満に過ぎず,アスベスト布の外部はアルミ箔で覆われていたため当該作業においてアスベストが飛散することはなかったのであるから,亡Eは本件製造所においてほとんどアスベストに曝されておらず,被告において,亡E ぎず,アスベスト布の外部はアルミ箔で覆われていたため当該作業においてアスベストが飛散することはなかったのであるから,亡Eは本件製造所においてほとんどアスベストに曝されておらず,被告において,亡Eが石綿ばく露により中皮腫にり患することを予見することはできなかった。 イ被告の結果回避義務違反原告らの主張は否認し,争う。 被告は,以下のとおり,石綿ばく露の危険性を排除するための対策を講じており,結果回避義務を尽くしていた。 (ア) 被告は,昭和50年9月3日頃,被告が作業員等に対して安全衛生管理のために指示していた内容を明文化するため,本社造船所安全衛生関係規則集(乙イ1。以下「本件安全規則」という。)を制定した。本件安全規則(乙イ1)において,被告は,作業員に対し,作業に当たって,防じんマスク等の保護具を着用することを義務付けている。 (イ) 被告は,昭和47年6月8日以降,作業場内の安全衛生管理のために,労働災害防止協議会を設置し,防じんマスク等の保護具の着用を指示していた。 (ウ) 被告は,作業場内に安全点検員を置き,安全衛生管理のために巡回をし,本件安全規則(乙イ1)等が遵守されていない場合には是正指導をするなどしていた。 (エ) 被告は,安全衛生管理のための啓発活動として,本件製造所内にポスターを貼り,防じんマスク等の保護具の着用を促していた。また,被告は,毎朝の朝礼において,作業員に対し,本件安全規則(乙イ1)等を遵守するよう指導し,防じんマスク等の保護具の着用を促していた。 (3) 亡Eの損害額【原告らの主張】亡Eは,石綿ばく露により中皮腫にり患し,これにより死亡したことにより,以下のとおり,合計5149万5189円の損害を被った。 ア治療費 7万3695円イ付添看護費 98万 亡Eは,石綿ばく露により中皮腫にり患し,これにより死亡したことにより,以下のとおり,合計5149万5189円の損害を被った。 ア治療費 7万3695円イ付添看護費 98万4000円[算定根拠]1日当たり6000円×入院日数164日ウ入院雑費 9万円[算定根拠]1日当たり1500円×入院日数164日エ休業損害 949万1760円[算定根拠]1日当たりの平均賃金1万3183円×1か月当たりの平均労働日数20日×休業期間36か月(平成19年8月30日から同22年9月6日まで)オ逸失利益 976万5851円[算定根拠]年齢別平均給与月額31万4800円×0.4(生活費控除)×12か月×6.463(平成22年9月時点での亡Eの就労可能期間8年間に相当するライプニッツ係数)カ入通院慰謝料 417万円入院164日,通院期間31か月キ葬儀関係費 98万5538円ク死亡慰謝料 2800万円ケ労災支給分 -674万7035円コ弁護士費用 468万1380円【被告の主張】原告らの主張する損害額は争う。亡Eの中皮腫り患は,亡Eの喫煙も原因となっているのであるから,過失相殺により,少なくとも原告らの請求する額の7割が減額されるべきである。 なお,原告らは,当初は慰謝料3000万円及び弁護士費用300万円のみを請求していたにもかかわらず,証拠調べ手続の終了後になって請求を拡張しており,かかる訴えの変更は,著しく訴訟を遅延するものであり,又,信義則に反するため,却下されるべきである第3 当裁判所の判断 1 認定事実争いのない事実等に加え,証拠(後掲各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件製 信義則に反するため,却下されるべきである第3 当裁判所の判断 1 認定事実争いのない事実等に加え,証拠(後掲各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件製造所における亡Eの作業環境等ア被告の下請会社の従業員に対する支配状況亡Eは,昭和42年4月10日から平成18年12月21日までの間,被告の下請会社である株式会社Fの従業員として,被告の作業場である本件製造所内で,船舶の修繕作業等に従事していた(争いなし)。 亡Eを含む株式会社Fの作業員らは,被告と株式会社Fとの間の契約(乙イ2)により,被告の定めた本件安全規則(乙イ1)を遵守しなければならないものとされていた。 本件製造所においては,亡Eの就業期間中,被告の従業員が,作業員全員が参加する朝礼において,作業の安全管理等について指示を行い,作業員が作業をする間,作業状況を把握するための巡回をし,本件製造所内での作業の現場監督を務め,下請会社の作業員に対し,具体的指示をすることもあった(甲エ5)。 イ亡Eを含む作業員の石綿製品に対する接触状況本件製造所で修繕していた船舶の内部には,機関室の断熱材に石綿布が使用されており,機関室の部品の修繕作業をする際には,この石綿布を取り外す作業をする必要があった(証人K,亡E本人)。被告は,機関室の石綿布を取り外す作業を外部の専門業者に委託しており,原則として亡Eら作業員が石綿布を取り外す作業をすることはなく,作業員の作業時間と専門業者の作業時間を区別することとしていたものの,作業員が石綿布を取り外す作業をすることもあり,石綿布の取り外し作業の間に作業員がその現場で別の作業をすることもあった(乙エ6,証人K)。また,作業員が,石綿布を取り外す専門業者が来る前に,断熱材を固定する針金の一部 り外す作業をすることもあり,石綿布の取り外し作業の間に作業員がその現場で別の作業をすることもあった(乙エ6,証人K)。また,作業員が,石綿布を取り外す専門業者が来る前に,断熱材を固定する針金の一部をはがしてパイプ等に巻き付けられている布団状の断熱材を広げて機関室の部品のボルトを緩めることもあり,その際,石綿布が落下してしまうこともあった(乙エ6,証人K,亡E本人)。作業員は,石綿布の取り外し作業の途中でその現場に入ってしまうと,繊維状の石綿が服の隙間から入り込んで「ちくちく」としたかゆみを感じることがあった(乙エ6)。 本件製造所で扱う船舶には,石綿布のほかにも,パイプ,バルブ,パッキン等にも石綿製品が使用されており,亡Eを含む作業員が修繕作業の際に,船舶内及び作業場内でこれらの石綿製品を取り外すことがあった(証人K,亡E本人)。 ウ被告による作業員に対する防具等の支給等の不存在亡Eを含む作業員は,作業着や工具を自前で用意しており,被告から防じんマスクや防護衣の支給を受けていなかった(亡E本人)。本件安全規則(乙イ1)によれば,作業員は,必要となったときにのみ保護具の貸出しを受けることとなっていた(乙イ1)。 エ本件安全規則の内容等被告は,昭和50年9月3日頃,本件安全規則(乙イ1)を制定した。 本件安全規則(乙イ1)によれば,作業員は保護具を着用することとされていたが,防じんマスク等の着用が義務付けられるのは,① 作業標準によって保護具の使用が規定されている場合と,② 安全管理者が保護具の使用を指示した場合のみであった。被告は,亡Eを含む作業員に対し,ガーゼマスクの着用を指示したことがあったものの,防じんマスクや防護衣の着用を指示したことはなかった(亡E本人)オ作業員の石綿の危険性に対する認識の欠如被 被告は,亡Eを含む作業員に対し,ガーゼマスクの着用を指示したことがあったものの,防じんマスクや防護衣の着用を指示したことはなかった(亡E本人)オ作業員の石綿の危険性に対する認識の欠如被告の管理職従業員であるKには,平成17年頃までは,市場に流通している石綿製品を扱う限りにおいては危険性がないものとの認識しかなかった(証人K)。 カ被告の作業員に対する安全教育の状況被告は,平成17年頃,作業員に対し,専門業者による特別教育を実施した(証人K)。被告は,被告及び下請会社の従業員が石綿ばく露による健康被害に基づいて労災認定されたことがあったにもかかわらず,同特別教育の際,そのことを報告しなかった(甲ウ3,証人K)。 (2) 亡Eの本件製造所以外での勤務歴等亡Eは,昭和34年8月27日から同35年6月1日までの間,G株式会社H出張所に勤務し,溶鉱炉内に入れるスクラップや銑鉄などの調合をしていた(甲エ5)。同溶鉱炉は耐火煉瓦の平炉であり,亡Eが同出張所での作業において石綿にばく露していたことをうかがわせる具体的な形跡はない(甲エ5)。 亡Eは,同年6月1日から同40年9月13日までの間,I株式会社J工場に勤務し,耐火煉瓦の窯のガラスの材料に不具合がないかを確認する仕事をしていたが,亡Eが同工場での作業において石綿にばく露していたことをうかがわせる具体的な形跡はない(甲エ5)。 亡Eは,同41年6月1日から同42年2月28日までの間,船舶で鮮魚を運搬する仕事をしていたが,同船舶はディーゼルエンジンの船であり,排気管に冷却水を使っていたので,その機関室に石綿製品は使用されていなかった(甲エ5)。 (3) 亡Eの中皮腫り患及びその原因ア石綿と中皮腫との関係に関する知見中皮腫は,胸膜や腹膜の中皮にできる悪性 水を使っていたので,その機関室に石綿製品は使用されていなかった(甲エ5)。 (3) 亡Eの中皮腫り患及びその原因ア石綿と中皮腫との関係に関する知見中皮腫は,胸膜や腹膜の中皮にできる悪性腫瘍であり,現在のところ標準的な治療方法はなく,診断確定からの生存期間は7ないし17か月程度とされている(甲ア21,甲ウ1)。 中皮腫の発生機序は現在においても未解明の部分が多いが,中皮腫の原因の大半は石綿ばく露によるものであり,石綿のほかにはエリオナイト(繊維状ゼオライトの一種)がその原因物質であることが知られているほかは,他の物質が中皮腫の原因となることを疫学的に立証する研究はほとんどなくい(甲ウ1,2)。石綿ばく露による中皮腫の特徴としては,短期間に低濃度の石綿にばく露しただけでも中皮腫にり患する危険性があること,初回の石綿ばく露から中皮腫り患まで平均40年程度の長い潜伏期間があることなどがあげられる(甲ア7,17,21,23,40,41,甲ウ1,2)。 岡山大学地球物質科学センターの中村栄三らは,平成21年7月27日頃,肺組織中の含鉄タンパク質小体へ放射性ラジウムが蓄積することなどが中皮腫の原因であり,石綿ばく露のほかに喫煙によっても中皮腫にり患する可能性があるとの研究結果を発表した(乙ウ2)。 イ亡Eの中皮腫り患及び死亡に至る経緯亡Eは,平成19年8月30日,亡Eの右胸に大量の胸水が溜まっていることが判明したため,L病院へ入院して治療を受け,良性石綿胸水と診断された(甲エ1,2)。 亡Eは,同病院を退院した後,同病院に通院して治療を受けていたが,その後,肺の石灰化が進み,びまん性胸膜肥厚にり患し,同21年8月頃,中皮腫にり患し,同22年9月6日,中皮腫により死亡した(甲エ4,6,9)。 2 争点(1)(亡Eの 院して治療を受けていたが,その後,肺の石灰化が進み,びまん性胸膜肥厚にり患し,同21年8月頃,中皮腫にり患し,同22年9月6日,中皮腫により死亡した(甲エ4,6,9)。 2 争点(1)(亡Eの本件製造所における石綿ばく露の有無及び死亡との間の因果関係)について(1) 亡Eの石綿ばく露の機会前記認定事実のとおり,本件製造所での船舶の修繕作業においては,断熱材の取り外し作業は主として専門業者が行っていたものの,亡Eを含む作業員がその現場で別の作業をすることもあったことが認められ,その際,亡Eを含む作業員が石綿にばく露する機会があったということができる。 また,前記認定事実のとおり,亡Eを含む作業員が断熱材の取り外し作業をすることもあったこと,亡Eを含む作業員自身もが専門業者が来る前に断熱材周辺の針金を外したときなどに断熱材が落下することがあったこと,亡Eを含む作業員が断熱材を広げてボルトを緩める作業をしていたこと,本件製造所で扱っていた船舶には,断熱材以外にもパイプやパッキンなどに石綿製品が使用されており,亡Eを含む作業員がその取り外し作業をすることがあったことなどが認められ,その際,亡Eを含む作業員が石綿にばく露する機会があったということができる。 そして,一般に石綿製品を取り扱う際には石綿粉じんが飛散することがあることに加え,実際に本件製造所内の作業においても,断熱材の取り外し作業に立ち会ってしまうと体が「ちくちく」としたかゆみを感じるほどの石綿粉じんに接することがあったのであるから,亡Eは,本件製造所内での作業の中で,石綿粉じんにばく露しており,その程度は健康被害を惹起するのに十分なものであったものということができる。 他方,前記認定事実のとおり,亡Eは,本件製造所以外の場所での就業歴を有することが認められ 石綿粉じんにばく露しており,その程度は健康被害を惹起するのに十分なものであったものということができる。 他方,前記認定事実のとおり,亡Eは,本件製造所以外の場所での就業歴を有することが認められるが,亡Eがそれらの場所での作業において石綿にばく露していたことをうかがわせる具体的な形跡はない。 (2) 亡Eの本件製造所での石綿ばく露と中皮腫り患との間の因果関係訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りる。 石綿は中皮腫の主たる原因物質であり,低濃度の石綿ばく露であっても中皮腫を惹起するものとされ,中皮腫り患のほとんどが石綿ばく露によるものであるとされている一方,石綿以外の物質が中皮腫の原因となることを疫学的に立証する研究はほとんどないから,ある者が石綿にばく露していたこと及びその後に中皮腫にり患した場合には,石綿ばく露が中皮腫り患の原因であることと矛盾すると考えられる特段の事情がない限り,石綿ばく露と中皮腫り患との間の因果関係が認められるものいうべきである。 そして,前記(1)のとおり,亡Eは,本件製造所で約40年間にわたって石綿にばく露していた一方,他に亡Eが石綿にばく露する機会があったとは認められず,本件全証拠によっても,亡Eの本件製造所内での石綿ばく露が中皮腫り患の原因であることと矛盾すると考えられる特段の事情はうかがわれないから,亡Eの本件製造所内での石綿ばく露と中皮腫り患との間には,因果関係が認められるというべきである。 これに対し,被告は,亡Eが喫煙歴 であることと矛盾すると考えられる特段の事情はうかがわれないから,亡Eの本件製造所内での石綿ばく露と中皮腫り患との間には,因果関係が認められるというべきである。 これに対し,被告は,亡Eが喫煙歴を有することを指摘し,亡Eの中皮腫り患は喫煙が原因であったと主張し,被告の援用する論文(乙ウ1,2)には,石綿のほか喫煙によっても肺に放射性ラジウムが貯まり,中皮腫は放射性ラジウムによる局所的に強い内部被爆によって生じるものであると指摘する部分がある。しかしながら,被告の援用する論文(乙ウ1,2)は中皮腫の発生メカニズムに関する仮説の一つを提示するものに過ぎず,これが一般的な支持を得ていると認めるに足りる証拠はないから,直ちにこれを採用することはできない。 (3) 亡Eの本件製造所における石綿ばく露の有無及び死亡との間の因果関係についてのまとめ以上のとおり,亡Eは,本件製造所内において,健康被害を惹起するのに十分な石綿にばく露しており,これが原因で中皮腫にり患し,その結果死亡したものということができる。 3 争点(2)(被告の結果回避義務違反の有無)について(1) 被告の亡Eに対する安全配慮義務の存在について労働契約上の使用者は,支配下にある労働者に対し,労働者の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮する義務を負っているものと解すべきであり,この安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものである。そして,このことは,元請会社が下請会社の労働者に対して実質的に支配を及ぼしている場合にも変わらないというべきである。 これを本件についてみると,前記認定事実のとおり,亡Eは,被 べきものである。そして,このことは,元請会社が下請会社の労働者に対して実質的に支配を及ぼしている場合にも変わらないというべきである。 これを本件についてみると,前記認定事実のとおり,亡Eは,被告の下請会社である株式会社Fの従業員として,被告の管理する本件製造所で船舶の修繕作業に従事していたこと,株式会社Fの従業員は被告の定めた本件安全規則(乙イ1)等を遵守することを義務付けられていたこと,本件製造所においては,被告の従業員が,現場監督を務め,亡Eを含む作業員に対して作業や安全管理などについての指示をし,作業状況把握のための巡回を行っていたことからすると,下請会社の従業員は,被告の作業員と同様に,被告によって作業等を管理されていたというべきであるから,被告は,亡Eに対し,実質的に使用者に近い支配を及ぼしていたというべきである。 そうすると,被告は,亡Eに対して信義則上,安全配慮義務を負っていたというべきである。 (2) 被告の予見可能性についてア予見可能性の基礎となる事実証拠(後掲各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,石綿肺を中心とする石綿の危険性に関する知見,法規制等について,以下の事実を認めることができる。 (ア) 海外における知見等a 石綿肺石綿粉じんのばく露を原因とする肺疾患が原因となって死亡した事例は,1906年頃,英国において初めて報告され,その後,各国でも同様の症例が報告された(甲ア7)。これらの肺疾患は,1924年,W.E.クックによって石綿肺と名付けられ,その頃,石綿ばく露により石綿肺を引き起こす危険性があるとの知見が確立された(甲ア7)。 b 肺がん石綿肺に伴う肺がんに関する事例は,1930年代から報告され始め,海外においては,石綿が発がん性を有することが徐々に明らかにされていっ 険性があるとの知見が確立された(甲ア7)。 b 肺がん石綿肺に伴う肺がんに関する事例は,1930年代から報告され始め,海外においては,石綿が発がん性を有することが徐々に明らかにされていった(甲ア5,9,22)。リチャード・ドールは,1955年,疫学的手法によって石綿の発がん性を明確にし,この報告によって,石綿の発がん性に関する知見が確立された(甲ア7,24,25)。 c 中皮腫J.C.ワグナーとC.A.スレグスは,1959年,じん肺の国際会議において,南アフリカ共和国の石綿鉱山周辺において4年間に発生した33例の中皮腫のうち32例が石綿鉱山の従事者等であったと報告し,ワグナーは,1960年,中皮腫に関する調査結果を発表し,短期間の石綿ばく露でも中皮腫にり患する可能性があることを指摘した(甲ア21,23)。その後も,多くの研究者によって石綿と中皮腫との関係に関する研究がなされ,1960年代には石綿ばく露によって中皮腫にり患する危険性があるとの知見が確立された(甲ア1,7,21,24,27)。 昭和41年には,東京において第9回国際癌学会が開催され,石綿とがんとの関連性に関する論文が発表された(甲ア39,40)。 (イ) 我が国における知見等a 石綿肺わが国においても,粉じんが石綿肺や肺がん等の健康被害の原因物質であることは戦前から指摘されており,黒田静らが昭和14年頃に海外の情報等を紹介するなど,粉じんの危険性に関する研究が行われていた(甲ア10,12)。 b 肺がん石綿が発がん性物質であることは,我が国においても昭和20年代から指摘されており,遅くとも同34年頃までには,ドールらの研究(甲ア25)が紹介されるなど,様々な海外の事例や知見が報告がされた(甲ア13,30ないし33)。同35年頃にな においても昭和20年代から指摘されており,遅くとも同34年頃までには,ドールらの研究(甲ア25)が紹介されるなど,様々な海外の事例や知見が報告がされた(甲ア13,30ないし33)。同35年頃になると,我が国における肺がんを合併した石綿肺の剖検例が報告され,また,石綿による肺がんを理由とする労災認定がされた事例が現れた(甲ア6,11)。 c 中皮腫中皮腫に関するワグナーらの研究(甲ア23)は,昭和35年頃,我が国における研究者らにも知られていた(甲ア20)。 上記第9回国際癌学会での報告(甲ア39,40)は,同42年頃,我が国においても紹介され,極めて低濃度で短期間のばく露であっても,石綿ばく露により中皮腫にり患する危険性があることが紹介された(甲ア17)。 (ウ) 我が国における規制等昭和22年に制定された労働基準法及び労働安全衛生規則では,粉じん作業の危害予防策が定められ,労働基準法施行規則35条では,「粉じんを飛散する場所における業務に因るじん肺症およびこれに伴う肺結核」を業務上疾病として労災補償の対象となることを定めた。また,労働安全衛生規則は,屋外において著しく粉じんを飛散する作業場においては,使用者が注水その他粉じん防止の措置を講ずべき義務を負うこと規定し(同規則175条),粉じんを発散し,衛生上有害な場所における業務においては,使用者がその作業に従事する労働者に使用させるために防護衣,保護めがね。呼吸用保護具等適当な保護具を備える義務を負うことを規定した(同規則181条)。 同35年3月31日に制定,公布され,同年4月1日に施工されたじん肺法は,同法が適用される「粉じん作業」について,「石綿製品を積層し,縫い合わせ,切断し,研まし,仕上げし,若しくは包装する場所における作業」を含むとし,使用者に対 れ,同年4月1日に施工されたじん肺法は,同法が適用される「粉じん作業」について,「石綿製品を積層し,縫い合わせ,切断し,研まし,仕上げし,若しくは包装する場所における作業」を含むとし,使用者に対し,粉じんの発生の抑制,保護具の使用その他について適切な措置を講ずるよう努めること,常時粉じん作業に従事する労働者に対してじん肺に関する予防及び健康管理のために必要な教育を行うこと,じん肺健康診断を就業時に実施することなどを義務付けた。 イ判断安全配慮義務の前提として,使用者が認識すべき予見義務の内容は,生命・健康という被害法益の重大性に鑑み,安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り,必ずしも生命・健康に対する傷害の性質,程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないというべきである。 これを本件についてみると,前記ア(予見可能性の基礎となる事実)によれば,海外においては,石綿による健康被害の可能性について,石綿肺の危険性が1930年頃,発がん性が1955年頃,中皮腫との関連性が1960年代までには確立されていたということができ,わが国においても,戦前から石綿の危険性は指摘されており,昭和35年にじん肺法が制定された頃までの間には,広く一般的に石綿粉じんが石綿肺などの危険性を有するとの知見が確立していたということができる。また,遅くとも第9回国際癌学会の結果が報告された同42年頃までには,少なくとも我が国の研究者や関係行政庁においては,石綿が発がん性を有し,中皮腫とも強い関連性を有しているとの認識が相当程度深まっていたということができる。 そうすると,造船作業の現場において一般に大量の石綿が使用されていることに照らせば,造船会社である被告においても,遅くとも亡Eが本件製造所内での作業を開始した昭和42年頃までには とができる。 そうすると,造船作業の現場において一般に大量の石綿が使用されていることに照らせば,造船会社である被告においても,遅くとも亡Eが本件製造所内での作業を開始した昭和42年頃までには,石綿が人の生命,身体に重大な障害を与える危険性があることを十分に認識することができ,かつ,認識すべきであったということができる。そして,前記認定事実のとおり,本件製造所においても,石綿製品が使用されており,実際に作業中に石綿が飛散することがあったことなどに照らせば,被告が商品化された石綿製品を取り扱っていたことを考慮しても,本件製造所における作業において,亡Eを含む作業員が石綿にばく露することによりその生命,身体に重大な障害を与える危険性があることを十分予見することができ,予見すべきであったということができる。 (3) 被告の安全配慮義務違反についてア被告の安全配慮義務の内容前記(2)のとおり,被告は,遅くとも昭和42年頃までには,石綿の有する危険性を認識できたというべきであり,亡Eが本件製造所で勤務する際に石綿にばく露することで重大な健康被害を被るおそれがあったことを予見できたというべきであるから,同年以降,作業員が石綿粉じんを吸引しないようにするための措置を執るべきであった。そして,前記認定事実で認定した石綿粉じんによる健康被害の蓋然性,本件製造所における作業内容,同年頃までの知見や法令等による規制などに照らせば,被告は,同年以降,安全配慮義務の具体的内容として,(ア) 石綿粉じんの生じる作業とそうでない作業を隔離するなどして可能な限り作業員が石綿粉じんに接触する機会を減少できるような作業環境を構築するとともに,作業場に堆積した粉じん等が飛散しないように撒水等をする設備ないし態勢を整える義務(作業環境管理義務),(イ) な限り作業員が石綿粉じんに接触する機会を減少できるような作業環境を構築するとともに,作業場に堆積した粉じん等が飛散しないように撒水等をする設備ないし態勢を整える義務(作業環境管理義務),(イ) 粉じんの飛散するおそれのある場所で作業する作業員が石綿粉じんを吸入しないように,作業員に対して防じんマスクを支給し,その着用を指示指導するなどして,作業員の防じんマスク着用を徹底させ,作業着や皮膚に付着した粉じんの吸入を防ぐため,粉じんの付着しにくい防護衣等を支給し,付着した粉じんを洗浄できる設備を整え,作業後には必ず粉じんを落とすように指導する義務(作業条件管理義務),(ウ) これらの態勢や作業環境を整えるとともに,作業員にも石綿粉じんの危険性を認識させるため,必要な安全教育を実施する義務(健康管理義務)を負っていたというべきである。 イ被告の安全配慮義務違反の内容(ア) 作業環境管理義務違反前記認定事実によれば,本件製造所における石綿布の取り外し作業等について,石綿布の取り外しは原則として専門業者が行い,配管工や機械工などの作業員の作業との混在作業を避けるとの方針を一応採っていたことがうかがわれるが,他方で,石綿布の取り外し作業をしない作業員が石綿布の取り外し作業の現場付近で別の作業をしていたことがあることが認められるから,被告は,石綿布の取り外し作業に伴う石綿粉じん飛散の際の作業の分離を徹底していなかったというべきである。 また,前記認定事実によれば,被告の扱っていた船舶には,石綿布以外にも,パイプやパッキン等に石綿製品が使用されている箇所があり,亡Eら作業員が機関室のみならず作業場でも石綿製品の取り外し作業をすることがあったことが認められ,その際石綿粉じんが飛散することがあったと推認することができるところ,その際,被 れている箇所があり,亡Eら作業員が機関室のみならず作業場でも石綿製品の取り外し作業をすることがあったことが認められ,その際石綿粉じんが飛散することがあったと推認することができるところ,その際,被告が石綿粉じんが生じる作業とそうでない作業を分離していたことや,石綿粉じんの飛散を防止するために撒水や換気をする設備ないし態勢を整えていたことはうかがわれない。 (イ) 作業条件管理義務違反前記認定事実のとおり,被告は,本件製造所において,亡Eを含む作業員に対し,防じんマスク及び防護衣等を支給していなかったことが認められる。また,被告は,本件安全規則(乙イ1)において,作業員に防じんマスクを着用するように義務付けていたことが認められるが,本件安全規則(乙イ1)は石綿の危険性を前提とするものではなく,着用が義務付けられている場合が安全管理者が保護具の使用を指示した場合のみに限られていることに加え,実際にはガーゼマスクの着用が指示されていたのみであったことに照らせば,被告の作業員に対するマスク着用の指導は極めて不十分なものであったというべきである。 (ウ) 健康管理義務違反前記認定事実によれば,被告は,平成17年,作業員に対する特別教育を実施したが,その具体的内容は明らかではなく,その際においても,被告又は下請会社の従業員が石綿ばく露により健康被害を生じたことを原因とする労災認定事例を作業員に紹介していなかったことが認められるから,被告における安全教育の内容は,それ以前から石綿の危険性を告知するのには不十分なものであったと推認することができる。 また,被告の管理職従業員であるKも,商品として流通している石綿製品を扱う限りにおいては危険性があるとは認識していなかった旨の証言をしており,このことからも,被告が作業員に対する必要な安 きる。 また,被告の管理職従業員であるKも,商品として流通している石綿製品を扱う限りにおいては危険性があるとは認識していなかった旨の証言をしており,このことからも,被告が作業員に対する必要な安全教育を実施していなかったことをうかがうことができる。 そして,他に被告が作業員に対して安全教育や啓発活動を実施したことを認めるに足りる証拠はないから,被告が亡Eを含む作業員に対して石綿の危険性に関する具体的な安全教育を実施したことはなかったと推認することができ,また,仮に被告が何らかの安全教育を実施していたとしても,極めて不十分なものであったということができる。 ウ被告の安全配慮義務違反についてのまとめ以上によると,被告は,少なくとも,(ア) 粉じん作業と非粉じん作業の隔離を徹底せず,粉じん作業によって生じた粉じんの飛散を十分に防止しなかった点,(イ) 防じんマスクを支給せず,又はその着用を徹底せず,防護衣等を支給しなかった点,(ウ) 必要な安全教育をしなかった点において,本件製造所の作業員が石綿粉じんを吸引しないようにするための措置を怠っていたというべきであり,その結果,亡Eは,本件製造所において石綿粉じんにばく露したものというべきであるから,亡Eに対する安全配慮義務違反に基づく責任を免れない。 4 争点(3)(亡Eの損害額)について(1) 亡Eの被った損害額についてア治療費 7万3695円証拠(甲エ15の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,亡Eは,中皮腫等の治療のために7万3695円を要したことが認められる。 イ付添看護料 98万4000円証拠(甲エ13,19,20)及び弁論の全趣旨によれば,亡Eは,中皮腫等の治療のために164日間入院したことが認められ,付添看護費98万4000円(1 。 イ付添看護料 98万4000円証拠(甲エ13,19,20)及び弁論の全趣旨によれば,亡Eは,中皮腫等の治療のために164日間入院したことが認められ,付添看護費98万4000円(1日当たり6000円)を要したことが認められる。 ウ入院雑費 9万円証拠(甲エ13)及び弁論の全趣旨によれば,亡Eは,中皮腫等の治療のために164日間入院したことが認められ,少なくとも入院雑費9万円を要したことが認められる。 エ休業損害 949万1760円証拠(甲エ11,13,22の1ないし8)及び弁論の全趣旨によれば,亡Eは,中皮腫等の治療のために平成19年8月30日から同22年9月6日までの3年余りの期間休業を余儀なくされ,同19年1月から8月までの間は月額平均27万5865円の収入を得ていたことが認められるから,亡Eは,中皮腫等にり患していなければ,上記治療期間中,949万1760円(少なくとも月額26万3660円)の収入を得ることができたことが認められる。 オ逸失利益 855万7994円証拠(甲エ9,11,22の1ないし8)及び弁論の全趣旨によれば,亡Eは,中皮腫にり患していなければ,以下の計算式のとおり,855万7994円を得ることができたと認められる。 [計算式]亡Eの平成19年当時の平均給与月額27万5865円×0.4(生活費控除)×12か月×6.463(同22年9月時点での亡Eの就労可能期間8年間に相当するライプニッツ係数)カ入通院慰謝料 361万円証拠(甲エ13,14の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,亡Eは中皮腫等の治療のために合計5か月間入院し,合計133日間通院したことが認められ,この入通院期間に加え,中皮腫には一般的な治療法がないことなど本件にあらわれた一切の 及び弁論の全趣旨によれば,亡Eは中皮腫等の治療のために合計5か月間入院し,合計133日間通院したことが認められ,この入通院期間に加え,中皮腫には一般的な治療法がないことなど本件にあらわれた一切の事情を考慮すると,亡Eの入通院慰謝料の額は361万円とするのが相当である。 キ葬儀関係費 98万5538円証拠(甲エ16)及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,亡Eの葬儀費用として98万5538円を負担したことが認められる。 ク死亡慰謝料 2500万円亡Eが死亡するに至った経緯のほか,被告の安全配慮義務違反の内容など本件にあらわれた一切の事情を考慮すると,亡Eの死亡慰謝料は2500万円とするのが相当である。 ケ労災支給分 -674万7035円亡E及び原告らが,亡Eの中皮腫り患等に基づいて休業補償等として674万7035円を得たことには争いがないため,これを亡Eの被った損害額から控除するのが相当である。 コ弁護士費用 420万円本件により亡Eに生じた弁護士費用は,420万円と認めるのが相当である。 (2) 過失相殺について被告は,亡Eの喫煙が中皮腫の原因であるとし,これを理由として過失相殺すべきであると主張しているが,前記2のとおり,喫煙が中皮腫の原因となることを認めるに足りる証拠はないから,被告の主張は採用できない。 (3) 亡Eの損害額のまとめしたがって,亡Eの被った損害額は合計4624万5952円と認められる。 なお,被告は,原告らの請求の拡張に対して異議を申し立てるが,拡張後の原告らの主張は,書証のみによって審理が可能であり,新たに証拠調べが必要となるものではなく,これにより本件訴訟手続が著しく遅滞するとまではいえないから,原告らの請求の拡張は,適法というべきである。 第4 結論 は,書証のみによって審理が可能であり,新たに証拠調べが必要となるものではなく,これにより本件訴訟手続が著しく遅滞するとまではいえないから,原告らの請求の拡張は,適法というべきである。 第4 結論以上によれば,原告らの請求は,主文第1項ないし第4項の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第9民事部 裁判長裁判官矢尾渉 裁判官佐藤達文 裁判官松波卓也
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