- 1 -主文 原判決を次のとおり変更する。 (1)控訴人は,被控訴人B1に対し,6325万9724円及びこれに対する平成13年7月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)控訴人は,被控訴人B1に対し,平成18年4月28日から被控訴人B1が死亡するまでの間,ア平成18年4月28日から平成19年4月27日までの分として年額171万2095円を平成18年10月28日限り,平成19年4月28日から平成20年4月27日までの分として同額を平成19年10月28日限り,平成20年4月28日から平成21年4月27日までの分として同額を平成20年10月28日限り,平成21年4月28日から平成22年4月27日までの分として同額を平成21年10月28日限りそれぞれ支払え。 イ平成22年4月28日から平成23年4月27日までの分として年額136万1551円を平成22年10月28日限り支払え。 ウ平成23年以降の毎年4月28日から翌年4月27日までの分として各年額118万6275円を上記と同様に毎年10月28日限りそれぞれ支払え。 (3)控訴人は,被控訴人B2及び同B3に対し,それぞれ155万円及びこれに対する平成13年7月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4)被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を控- 2 -訴人の負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。 この判決は,主文1項(1)ないし(3)に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1当事者の求めた裁判 控訴人(1)原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 (2)被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 (3)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする 事実及び理由 第1当事者の求めた裁判 控訴人(1)原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 (2)被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 (3)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 被控訴人ら(1)本件控訴をいずれも棄却する。 (2)控訴費用は,控訴人の負担とする。 第2事案の概要等 事案の要旨本件は,被控訴人らが,控訴人の設置する小学校のプールにおいて,平成13年7月19日に発生した,同校の児童であった被控訴人B1が水泳の練習中に溺れ,重篤な後遺障害が残ったという事故に関し,同校の教諭らに監視上及び救護上の過失があったと主張して,控訴人に対し,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償として,被控訴人B1につき2億2228万6707円,被控訴人B2及び同B3につき各550万円並びにこれらに対する事故後である平成13年7月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。 原判決は,教諭らの監視義務違反の過失を認め,被控訴人らの各請求のうち,被控訴人B1につき1億7072万2349円,被控訴人B2及び同B3につき各220万円並びにこれらに対する遅延損害金の各支払を求める限度でこれらを認容した。これに対し,控訴人が,上記敗訴部分を不服として控訴した。 - 3 - 前提事実(争いのない事実,各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨により認定した事実)(1)当事者被控訴人B1(平成2年8月C日生)は,後記(3)の本件事故当時,V市W区X丁目Y番Z号所在のV市立U小学校(以下「本件小学校」という。)の5年1組に在籍していた(本件事故当時10歳)。被控訴人B2及び同B3は,被控訴人B1の両親である。 控訴人は,本件小学校を設置する地方公共団体である。本件小学 小学校(以下「本件小学校」という。)の5年1組に在籍していた(本件事故当時10歳)。被控訴人B2及び同B3は,被控訴人B1の両親である。 控訴人は,本件小学校を設置する地方公共団体である。本件小学校の校長A1(以下「A1校長」という。),教諭A2(以下「A2教諭」という。)及び教諭A3(以下「A3教諭」という。)は,後記(3)の本件事故当時,いずれも控訴人の公権力の行使に当たる公務員であった。 (2)水泳クラブ本件小学校では,6年生の全員と5年生の希望者を対象に,放課後,同校の25メートル屋外プール(以下「本件プール」という。)で水泳の練習を行う水泳クラブを設けていた。同クラブには,50メートル以上泳ぐことができてV市小学校体育連盟主催の水泳記録会(平成13年7月24日開催)に向けての練習を行う選手コースと,25メートル以上泳げるようになることを目標として練習を行う皆泳コースが設けられていた。(原審証人A2)(3)本件事故の発生水泳クラブの練習は,平成13年7月16日から始まった。そして,同月19日の練習は,終業式の放課後午後2時から,A2教諭及びA3教諭(以下「本件両教諭」という。)の指導の下に行われた(以下,当日の水泳クラブの練習を「本件練習」という。)。本件練習において,選手コース及び皆泳コースの児童がそれぞれ3列に並んでスタート地点から泳ぎ始め,前の児童が中間地点の白線を越えると次の児童が泳ぎ始めるという練習(以下「流し練習」という。)を行っているときに,皆泳コースに参加していた被控訴人- 4 -B1が本件プール内で溺れ,意識不明となる本件事故が発生した。被控訴人B1は,プールサイドに引き上げられて救命措置を採られたものの,心肺停止の状態のまま救急車によりE会F病院(以下「F病院」という。)に搬送された。 F病院での 識不明となる本件事故が発生した。被控訴人B1は,プールサイドに引き上げられて救命措置を採られたものの,心肺停止の状態のまま救急車によりE会F病院(以下「F病院」という。)に搬送された。 F病院での心肺蘇生術の結果,控訴人B1は,蘇生はしたが,その後も昏睡状態が続いた。(甲5,乙1,原審証人A2)(4)その後の経過等被控訴人B1は,平成13年10月25日,控訴人から,肢体不自由(溺水,心肺停止による四肢・体幹機能障害)により身体障害等級1級に認定され,身体障害者手帳の交付を受けた。また,被控訴人B1は,平成14年7月24日,日本体育・学校健康センターから,障害見舞金として3370万円を受領した。(甲7) 争点 (1)A1校長,A2教諭及びA3教諭(以下「本件教諭ら」という。)の過失の有無(被控訴人らの主張)本件事故は,以下のような本件教諭らの過失によって発生したものであるから,控訴人は,国賠法1条1項に基づき,被控訴人らの損害を賠償すべき義務がある。 ア本件事故の発生状況控訴人は,本件練習の最後に行われた3回目の流し練習(以下「最後の流し練習」という。)中に本件事故は発生したとし,その開始時刻及び119番通報時刻を基に,被控訴人B1に異変が生じてから救護されるまでは短時間であったと主張する。 しかし,控訴人がその開始時刻と主張する午後3時35分というのは,何ら客観的な根拠がない上,本件事故直後,本件教諭らは被控訴人B3に対して,最後の流し練習の開始時刻を午後3時30分と説明していたのであ- 5 -るから,上記主張を信用することはできない。本件練習は午後3時40分に終える予定であったことからすると,むしろ午後3時30分ころに最後の流し練習が始められたとみる方が自然である。そして,児童らが練習コースである25メートルを泳 はできない。本件練習は午後3時40分に終える予定であったことからすると,むしろ午後3時30分ころに最後の流し練習が始められたとみる方が自然である。そして,児童らが練習コースである25メートルを泳ぎ切る時間も控訴人らの想定より長くかかる可能性は十分にあること,被控訴人B1をプールサイドへ引き上げるまで,周囲には相当多数の児童らがいてなかなか引き上げられなかったこと,被控訴人B1はプールの底に沈んでいたとの診療録の記載や被控訴人B1はもっと長い時間沈んでいたはずであるとのF病院の医師の話等からすると,被控訴人B1が溺れてからプールサイドへ引き上げられるまでの時間は,控訴人が主張するような30秒ないし1分以内であるとは考えられず,相当の時間が経過していたはずである。また,被控訴人B1はゴール付近までバタバタ足をしていたと述べる児童もおり,泳いでいたのか,もがいていたのかは定かでなく,被控訴人B1が溺れた際,もがくことがなかったかどうかは不明であるというほかない。 イ本件事故の原因被控訴人B1が溺れた状態でむやみに長時間経過したことはないであろうことは理解できる。しかし,10分以内に救命措置が行われたとしても,100パーセント蘇生するものではない。むしろ,呼吸停止から2分以内でも10パーセントは蘇生せず,4分以内でも50パーセントは蘇生しないとの見解もある。また,意識回復の点では,3分ないし4分以内に回復させることが脳機能の回復に大切である。本件では,少なくとも3分以上経過していたことは確実である。そうすると,仮に本件事故の原因が突然の意識消失によるものであったとしても,本件教諭らの過失による責任は否定されない。 医師の見解によっても,被控訴人B1には心疾患の疑いがあるというにとどまり,心疾患による意識消失が先行したものと断定すること 失によるものであったとしても,本件教諭らの過失による責任は否定されない。 医師の見解によっても,被控訴人B1には心疾患の疑いがあるというにとどまり,心疾患による意識消失が先行したものと断定することは到底でき- 6 -ない。むしろ,本件事故は,被控訴人B1の疲労による溺水や錐体内出血,気管内吸水等による窒息などの原因によるものと考えるのが相当である。 ウ監視上の過失(ア)水泳の授業においては,児童が溺水するなどして重大な事故が発生する危険があるから,本件教諭らは,本件練習に当たり,安全面に配慮した練習内容を設定するとともに,十分な監視態勢を採り,児童の動静に十分な注意を払うべき義務があったのに,これを怠り,①指導及び監視者が本件両教諭の2名しかいないのに,選手コースの児童に高度な危険を伴う飛び込みの練習をさせるのと同時に,泳ぎの苦手な皆泳コースの練習を行わせた,②本件両教諭の間では,指導及び監視の役割分担について明確な取り決めをしていなかった,③指導及び監視者を増員したり,本件プールに監視台を設置するなどの措置を講じなかった,④監視能力のない児童に対し,十分な指導もしないで練習中の児童相互間の監視を委ねた,⑤被控訴人B1の監視を怠ったという過失がある。 なお,皆泳コースの児童らが少しは泳ぐことができる者であったとしても,水泳技能が未熟な者であったことには変わりなく,溺水事故の危険性が低かったとはいえない。また,練習方法によって本件プール内にいる児童の数を限定しようとしたとしても,想定時間どおりに児童らがみな泳ぐとは限らず,現実にはゴール付近に児童がたまり,本件両教諭の監視能力をはるかに超えていた可能性がある。 (イ)控訴人は,被控訴人B1が心疾患を有しており,その疾患に基づく突発的な失神が本件事故の原因であると主張する。しかし 付近に児童がたまり,本件両教諭の監視能力をはるかに超えていた可能性がある。 (イ)控訴人は,被控訴人B1が心疾患を有しており,その疾患に基づく突発的な失神が本件事故の原因であると主張する。しかし,被控訴人B1は,失神の既往歴を有するものの,胸部レントゲン等の検査で異常を指摘されたことはなく,心疾患を有するとの確定診断を受けたことはない。 また,控訴人は,本件事故の際に被控訴人B1は手足をばたつかせなかったし,水を吸い込んでもいなかったとして,被控訴人B1が突発的に失神- 7 -したと主張する。しかし,本件両教諭又は他の児童らは,被控訴人B1の様子を見ていないから,本件事故時の状況を上記のように断定することはできない。A2教諭が被控訴人B1に人工呼吸をした際,被控訴人B1は白い物や水を吐き出しているのであるから,水を吸い込んでいないともいえない。本件事故は,健常者の溺水と何ら変わるところがない。 エ救護上の過失心停止等を伴う水難事故においては,その救助が一分一秒を争うものであることは周知の事実である。被控訴人B1の異常に気付いた児童から知らせを受けた本件両教諭は,被控訴人B1を直ちに水中から引き上げ,気道確保,人工呼吸及び心臓マッサージ等の救命措置を採るほか,119番通報を行って適切な救命措置を受けさせるべき義務があったのに,これを怠り,A3教諭が本件事故発生を職員室に知らせに行って養護教諭らと本件プールに戻り,もう一度職員室に行って119番通報を行っており,本件事故直後に上記通報をしなかった過失がある。 (控訴人の主張)ア本件事故の発生状況本件事故は,本件練習のうち,最後の流し練習を行っている時に発生した。その時間的経過は,次のとおりである。 午後3時35分,A3教諭の号令により最後の流し練習の開始が告げられ,プールサイド 発生状況本件事故は,本件練習のうち,最後の流し練習を行っている時に発生した。その時間的経過は,次のとおりである。 午後3時35分,A3教諭の号令により最後の流し練習の開始が告げられ,プールサイドで休息を取っていた児童らがスタート台の後方に移動して縦列に並び,1番目の児童が泳ぎ始めたのは,午後3時35分30秒ころである。皆泳コースの児童の泳力からすると,プールの中間地点付近に到達するまでの時間は約30秒であり,その時点で次の児童がスタートすることになっていたから,2番目ないし3番目のスタートであった被控訴人B1が泳ぎ始めたのは,午後3時36分00秒ないし午後3時36分30秒ころである。被控訴人B1の直後を泳いでいた児童(以下「5年生男子児童」- 8 -という。)が中間地点に達したころ,被控訴人B1はゴール付近を泳いでおり,被控訴人B1の泳力からすると,それは午後3時37分00秒ないし午後3時37分30秒のことといえる。その5年生男子児童は,ゴール付近まで泳ぎ着いた時,うつ伏せの状態で水面に浮いている被控訴人B1に気付いた。更に後から泳いできた2名の児童ら(以下それぞれ「6年生女子児童」及び「6年生男子児童」という。)が被控訴人B1をプールサイドに引き上げる一方,5年生男子児童は事態を知らせるためにA2教諭のところへ向かった。もっとも,6年生女子児童が大声で呼んだため,5年生男子児童が駆けつけるよりも早く,被控訴人B1の異変に気が付いたA2教諭は,直ちに被控訴人B1のところに駆けつけ,プールサイドに引き上げられた被控訴人B1に対し,意識,呼吸及び心拍などを確認して,救命措置を開始した。一方,A3教諭は,職員室へ向かい,本件事故の発生を養護教諭,A1校長等に知らせた後,本件プール付近に戻ったところ,被控訴人B1の状態に変化がないこと 吸及び心拍などを確認して,救命措置を開始した。一方,A3教諭は,職員室へ向かい,本件事故の発生を養護教諭,A1校長等に知らせた後,本件プール付近に戻ったところ,被控訴人B1の状態に変化がないことを聞き,119番通報した。この通報時刻は,午後3時41分とのことである。A3教諭の一連の行動は,後日の再現結果によれば,2分10秒程度を要したことから,上記119番通報時刻から逆算すると,少なくとも午後3時38分ころには被控訴人B1がプールサイドに引き上げられたことになり,本件事故発生からの時間は,30秒ないし1分にすぎない。そして,その後,気道の確保,人工呼吸,心臓マッサージ等の救命措置が遅くとも午後3時39分ころには行われたのであり,本件事故発生後の約1分30秒後には救命措置が行われていることになる。 搬送されたF病院において,除細動器(以下「AED」という。)を使用しての蘇生措置により被控訴人B1が蘇生したのは,搬送後約30分,本件事故発生から約50分経過してのことであった。 イ本件事故の原因被控訴人B1には,突然,水中で意識消失発作が起こったものである。そ- 9 -して,血液の希釈が認められなかったということは,水をほとんど飲んでおらず,早期に救出されたことを示している。 通常,溺水後又は水中で意識消失発作発生後10分以内に救命措置(気道確保,人工呼吸)をすれば蘇生し,仮に心停止しても再開するのであるが,本件事故においては,意識消失発作発生後3分以内には救命措置が行われており,通常なら確実に蘇生するはずである(なお,人工呼吸によって吐瀉したということは,人工呼吸の効果があったことの表れである。)。 にもかかわらず,被控訴人B1が蘇生しなかったということは,何らかの病気(器質的な心臓や肺などの循環器等の病気)が原因となった可能性が高 たということは,人工呼吸の効果があったことの表れである。)。 にもかかわらず,被控訴人B1が蘇生しなかったということは,何らかの病気(器質的な心臓や肺などの循環器等の病気)が原因となった可能性が高い。被控訴人B1の既往症である意識消失障害は,何らかの心疾患が基礎にあり,水泳中のゴール付近で息をこらえることにより,意識消失発作(及び心肺機能の停止)が起こったものと考えるのが最も妥当である。 本件は,AEDによる救命措置でなければ蘇生させることができない心停止が水泳中に起こったものである。そして,本件事故当時,AEDは医師以外の者が取り扱うことができず,救急車にさえ備えられていなかったのであり,本件両教諭には,その点に関してなす術がなかったといわざるを得ない。 ウ監視上の過失(ア)被控訴人B1は,本件事故以前に失神で4回倒れ,自律神経失調症ないし起立性低血圧症の可能性があると診断されており,何らかの心疾患を有していた可能性があった。本件事故の際,被控訴人B1には溺れるときに一般的にみられるような手足を激しく動かすという状況はなく,水を吸い込んでもいなかった。したがって,本件事故は,被控訴人B1が突然何の兆候もなく,本件プール内で失神したために発生したものと考られる。本件両教諭は,被控訴人B2又は同B3から,被控訴人B1に上記のような症状があることを知らされておらず,被控訴人B1が本件練習中に- 10 -体調が悪くなった様子もなかったから,本件事故の発生を予見できたとはいえないし,直ちに異常に気付くことも困難であった。また,被控訴人B1は,本件事故当時,身長134.3センチメートルで,16メートルは泳ぐことができ,本件練習においては,本件プールのスタート地点である最深部(95センチメートル)からゴール地点である最浅部(65センチメ 本件事故当時,身長134.3センチメートルで,16メートルは泳ぐことができ,本件練習においては,本件プールのスタート地点である最深部(95センチメートル)からゴール地点である最浅部(65センチメートル)へ向かって泳いでいたから,苦しくなればいつでもその場で足をついて休むこともできたものである。被控訴人B1を含めて本件練習に参加していた児童は,いずれもある程度の距離を泳ぐことができたから,水中で身体や呼吸のバランス及び判断力等を失って溺れるという危険性は考えられず,本件両教諭が本件事故の発生を予見できたとは到底いえない。 (イ)本件両教諭は,本件練習において,主に,A3教諭が選手コースを,A2教諭が皆泳コースをそれぞれ担当するという役割分担をしていた。本件事故当時は,たまたま,児童の一人が質問してきたので,A3教諭がこれに対応する間,A2教諭が選手コースの飛び込み指導を行っていたにすぎない。本件両教諭は,それぞれ児童らの水泳の監視のみならず,児童らの水泳技能向上のための指導を行うべき立場にあり,一人一人の児童の詳細な動きは分からなくても,指導の間もプール全体を見渡し,異変が生じれば直ちに発見できる状態にあった。そして,本件両教諭は,本件練習において,選手コース及び皆泳コースともに,前の児童が本件プールの中央に到達した時点で次の児童が泳ぎ始めるという練習方法を採り,本件プール内に入水している児童の数を限定して監視するほか,練習中は児童相互間で注意し合い,異常を見つけた場合には直ちに本件両教諭に知らせるよう指導していた。実際,児童ら相互の監視態勢が機能していたため,被控訴人B1の異変が直ちに発見され,速やかに救命措置が講じられた。これらの事情からして,本件練習における監視態勢に問- 11 -題はなく,本件両教諭の監視義務に関する過 態勢が機能していたため,被控訴人B1の異変が直ちに発見され,速やかに救命措置が講じられた。これらの事情からして,本件練習における監視態勢に問- 11 -題はなく,本件両教諭の監視義務に関する過失もない。 (ウ)上記ア(本件事故の発生状況)のとおり,本件事故発生から約1分30秒後には被控訴人B1に対して救命措置が行われている。また,上記イ(本件事故の原因)のとおり,被控訴人B1に生じた異常は,単なる溺水又は自律神経失調症若しくは起立性低血圧症の外に何らかの原因があるとしか考えられない。したがって,仮に本件両教諭が被控訴人B1を常時監視し,その異常な状態を直ちに発見して救助し,救命措置を施していたとしても,本件事故の結果を防ぐことはできなかったものである。 すなわち,仮に被控訴人らが主張する監視義務違反が認められるとしても,それと本件事故の結果との間には因果関係がない。 エ救護上の過失A2教諭は,被控訴人B1の異常に気付いた児童からの知らせを受け,直ちに被控訴人B1のところに駆けつけ,気道確保,人工呼吸及び心臓マッサージを行い,他方,A3教諭は,本件事故を職員室に知らせに行き,被控訴人B1の様子とA2教諭の救命措置の状況を確認するためにA1校長らとともに本件プールに戻り,被控訴人B1の様子に変わりがないことを聞いて,直ちに119番通報を行ったものであり,本件教諭らに救護上の過失はない。 (2)損害額(被控訴人らの主張)被控訴人B1は,救急搬送されたF病院で,蘇生後脳症,胃潰瘍,心室性期外収縮,僧帽弁逆流,僧帽弁逸脱と診断され,脳保護を含む全身管理を受けたが,昏睡状態が継続し,回復の見込みはない。被控訴人B1は,平成13年10月25日,控訴人から身体障害者等級1級の認定を受けた。 ア被控訴人B1の損害下記(サ)のとおり合計2億 む全身管理を受けたが,昏睡状態が継続し,回復の見込みはない。被控訴人B1は,平成13年10月25日,控訴人から身体障害者等級1級の認定を受けた。 ア被控訴人B1の損害下記(サ)のとおり合計2億2583万8936円となるので,その一部である2億2228万6707円を請求する。 - 12 -(ア)入院雑費被控訴人B1は,平成13年7月19日から平成14年7月末日まで378日間入院したので,1日当たり1600円として,60万4800円の入院雑費を要した。 (計算式)1600円×378日=60万4800円(イ)介護費用被控訴人B1は,本件事故当時10歳11か月であったから,11歳として算定すると,その平均余命は67.07年であるから,本件事故時から67年間にわたり近親者又は職業付添人の付添介護を必要とするところ,被控訴人B3(昭和35年4月G日生)が67歳に達するまでの26年間は同人による付添介護が可能であるが,それ以降の41年間は職業付添人による付添介護が必要であり,中間利息をライプニッツ方式により控除すると(以下の中間利息についても同じ。),6327万9174円となる。 (計算式)①近親者8000円×365日×14.3751=4197万5292円②職業付添人1万2000円×365日×(19.2390-14. 3751)=2130万3882円③合計6327万9174円(ウ)自宅改装費用被控訴人B1の介護のため,自宅にエレベーターを設置する等の改装工事が必要であり,その費用1413万6465円(消費税込み)を要した。 (エ)エレベーター保守費上記エレベーターの保守費として毎年5万8800円を要するから,- 13 -改装工事が完了した平成14年から被控訴人B1の平均余命までの66年間にわたる保守費用は,中間利息 )エレベーター保守費上記エレベーターの保守費として毎年5万8800円を要するから,- 13 -改装工事が完了した平成14年から被控訴人B1の平均余命までの66年間にわたる保守費用は,中間利息を控除すると,107万5257円となる。 (計算式)5万8800円×(19.2390-0.9523)=107万5257円(オ)介助器具購入費用被控訴人B1の介護のために購入した介助器具とその価格及び耐用年数は原判決添付の別表1のとおりであり,平成14年から66年間にわたる介助器具購入費用は,中間利息を控除すると,609万9803円となる。 (計算式)33万3565円×(19.2390-0.9523)=609万9803円(カ)介助自動車購入費用被控訴人B1の介護のために介助用の普通乗用自動車及び軽四輪自動車各1台が必要であり,平成14年から66年間にわたる介助自動車購入費用は,それぞれの購入価格を耐用年数で除し,中間利息を控除すると,合計1642万6832円となる。 (計算式)①普通自動車298万9769円÷6年=49万8294円②軽四輪自動車200万円÷5年=40万円③合計(49万8294円+40万円)×(19.2390-0. 9523)=1642万6832円(キ)逸失利益被控訴人B1は,18歳から67歳まで49年間の就労が可能であった- 14 -が,本件事故によりその労働能力を100パーセント喪失した。その逸失利益は,平成12年賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計の年収560万6000円を基に中間利息を控除すると,7238万5793円となる。 (計算式)560万6000円×(18.6985-5.7863)=7238万5793円(ク)慰謝料被控訴人B1は,本件事故により家族で生活する楽しみや将 すると,7238万5793円となる。 (計算式)560万6000円×(18.6985-5.7863)=7238万5793円(ク)慰謝料被控訴人B1は,本件事故により家族で生活する楽しみや将来の希望を一気に奪われ,その肉体的・精神的苦痛には筆舌に尽くし難いものがある。そればかりか,控訴人は,本訴において本件事故の責任を被控訴人B1に転嫁するかのような主張を展開して,更なる精神的苦痛を与えた。 被控訴人B1の入通院や後遺症による慰謝料は6500万円を下らない。 (ケ)既払金上記(ア)ないし(ク)の合計額は2億3900万8124円であるところ,被控訴人B1は日本体育・学校健康センターから障害見舞金3370万円を受領したので,残存損害額は2億0530万8124円となる。 (コ)弁護士費用本訴提起のために要した弁護士費用のうち,上記(ケ)の残存損害額の1割に相当する2053万0812円は本件事故と相当因果関係がある。 (サ)以上合計2億2583万8936円イ被控訴人B2及び同B3の固有の損害(ア)慰謝料被控訴人B1の両親である被控訴人B2及び同B3は,本件事故により被控訴人B1の生命侵害に匹敵する程度の精神的苦痛を受けており,その慰- 15 -謝料は各自500万円を下らない。 (イ)弁護士費用本訴提起のために要した弁護士費用のうち,上記(ア)の1割に相当する各自50万円は本件事故と相当因果関係がある。 (ウ)以上合計各自550万円ウ損害からの控除について控訴人が損害からの控除を主張する後記の各手当や年金は,将来受給することが確実とまではいえないから,その控除は認められない。 (控訴人の主張)ア被控訴人らが受給した公的給付について被控訴人らが本件事故に伴って受けた給付の種類,その金額及び現実に給付は受けていな ことが確実とまではいえないから,その控除は認められない。 (控訴人の主張)ア被控訴人らが受給した公的給付について被控訴人らが本件事故に伴って受けた給付の種類,その金額及び現実に給付は受けていないが給付を受けることが確実な給付の金額は,以下のとおりである。 (ア)障害児福祉手当72万4390円障害児福祉手当は,特別児童扶養手当等の支給に関する法律(以下「特別児童扶養手当等支給法」という。)により設けられた制度で,20歳未満の重度障害児を対象に支給される(平成17年4月時点で月額1万4430円,平成18年4月時点で月額1万4380円)。 被控訴人B1は,平成14年2月から平成18年4月27日までに,68万1150円を受給した。そして,同年5月に同年2月から4月までの3か月分の4万3240円の給付を受けることは確実である。 (イ)特別児童扶養手当255万5700円特別児童扶養手当は,特別児童扶養手当等支給法により設けられた制度で,20歳未満の重度障害児を扶養している父母又は養育者を対象に手当が支給される(平成17年4月時点で月額5万0900円,平成1- 16 -8年4月時点で月額5万0750円)。被控訴人B2又は同B3は,平成14年4月から平成17年11月までに230万1350円を受給し,平成18年4月に平成17年12月から平成18年3月までの4か月分の20万3600円を受給する予定である。また,同年4月分として5万0750円の給付を受けることも確実である。 (ウ)日本体育・学校健康センターからの障害見舞金3370万円イ被控訴人らの損害からの控除について障害児福祉手当及び特別児童扶養手当の目的は,「精神又は身体に障害を有する児童の福祉の増進を図ること」とされている。一方,被控訴人らの主張する介護費用,自宅改装費,エレベ らの損害からの控除について障害児福祉手当及び特別児童扶養手当の目的は,「精神又は身体に障害を有する児童の福祉の増進を図ること」とされている。一方,被控訴人らの主張する介護費用,自宅改装費,エレベーター保守費,介護器具購入費及び介護自動車購入費(以下,併せて「生活関係費」という。)は,被控訴人B1の生活環境の整備,すなわち,福祉の増進を図るためのものである。 上記生活関係費の支出と上記各手当との間には同質性が認められる。しかも,上記生活関係費に関して,被控訴人B1の損害として主張されているが,実際は,被控訴人B2又は同B3が同B1のために支出するものであるから,本来は被控訴人ら全員の損害というべきである。したがって,上記ア(ア)の障害児福祉手当及び(イ)の特別児童扶養手当の各金額は,上記生活関係費から控除されるべきである。 ウ被控訴人B1が本件口頭弁論終結後に受ける給付について将来においても被控訴人B1の状況が変わらなければ,被控訴人B1に対して以下の給付がされるから,仮に,定期金賠償が命じられる場合には,これらを被控訴人B1の損害額から控除されなければならない。 ①障害児福祉手当②特別児童扶養手当③特別障害者手当(特別児童扶養手当等支給法により設けられた制度である。被控訴人B1が20歳以上のときに,月額2万64- 17 -40円(平成18年4月時点)が支給される。)④障害基礎年金(国民年金法により設けられた制度である。被控訴人B1が20歳に達した日の属する月の翌月から,被控訴人B1の症状からすると,1級の障害基礎年金年額99万0100円(平成18年4月時点),月額8万2508円が支給される。)第3当裁判所の判断 事実関係前提事実,証拠(各項末尾に記載のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 0円(平成18年4月時点),月額8万2508円が支給される。)第3当裁判所の判断 事実関係前提事実,証拠(各項末尾に記載のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)本件事故の経緯等ア本件プールの形状等本件プールは,縦25メートル,横8メートルの5コースの屋外プールである。スタート地点の水深は,1コース側の最深部が110センチメートル,5コース側の最深部が95センチメートルで,ゴール地点に向かって浅くなっており,最浅部であるゴール地点の水深はいずれも65センチメートルである。スタート地点から12.5メートルの中間地点の底には白線が引かれている。一方,被控訴人B1は,平成13年6月30日現在,身長134.3センチメートル,体重29.6キログラム,座高71.7センチメートルであった。(甲2,乙2,3,8)イ本件小学校における水泳学習本件小学校では,平成13年6月中旬から水泳の正課授業を始めるほか,同年7月16日から水泳クラブの練習を始めていた。本件小学校は,水泳の正課授業を始める前に,児童の健康状態等を調査するため,児童の保護者に水泳学習に当たって特別な配慮を要するか否かを照会していたが,被控訴人B3は,被控訴人B1について,特別な配慮は不要と回答していた。 - 18 -また,本件小学校では,水泳学習に当たり,児童の当日の体温,排便の有無,朝食摂取の有無を記載させて,保護者に児童が当該日の水泳学習に参加するか否かの押印をさせる「水泳カード」を設け,水泳学習日ごとに児童に持参させていた。被控訴人B3は,本件事故日の被控訴人B1が体温36.6度の平熱で,排便もあり,朝食も取ったことから,その旨を上記カードに記載し,本件練習に参加する旨の押印をして,これを被控訴人B1に持参させた。(乙4,5,原審証人 事故日の被控訴人B1が体温36.6度の平熱で,排便もあり,朝食も取ったことから,その旨を上記カードに記載し,本件練習に参加する旨の押印をして,これを被控訴人B1に持参させた。(乙4,5,原審証人A2)ウ被控訴人B1の泳力等被控訴人B1のクラスの水泳の正課授業は,天候等の都合もあり,平成13年6月26日から開始された。担任であるA2教諭は,被控訴人B1らクラスの児童らに対し,水の中で溺れた真似をしたり,ふざけたりしてはいけないこと,体調が悪くなったと感じたときは無理をしないこと,様子のおかしい児童がいる場合にはすぐに知らせることなどを指導した。A2教諭は,同月28日,水泳学習の目安とするため,被控訴人B1を含む児童らの泳げる距離を測定したところ,被控訴人B1は,16メートル泳ぐことができた。本件事故当時,被控訴人B1は,本件プールの25メートルを泳ぎながら辿り着くには約1分を要した。その後,水泳の練習は,同年7月4日と5日に正課授業が行われたが,同月16日に水泳クラブの練習があるまで行われなかった。(乙5,7,原審証人A2)エ水泳クラブの練習水泳クラブには選手コースと皆泳コースとがあり,両コースの児童は本件プールで並行して練習を行っていた。水泳クラブの指導は,対象児童が5,6年生で,A3教諭及びA2教諭の担任する学年であることや,A3教諭が体育主任,A2教諭が同副主任であることから,本件両教諭が中心となって行っている。本件両教諭の間では,暗黙の了解で,主に,A3教諭が選手コースの指導及び監視を,A2教諭が皆泳コースの指導及び監視をそれぞれ- 19 -担当することとしていた。(原審証人A2)オ本件練習の内容被控訴人B1は,皆泳コースを希望して,平成13年7月16日から同月18日まで水泳クラブの練習に毎日参加し,同月19 れぞれ- 19 -担当することとしていた。(原審証人A2)オ本件練習の内容被控訴人B1は,皆泳コースを希望して,平成13年7月16日から同月18日まで水泳クラブの練習に毎日参加し,同月19日午後2時から午後4時まで予定されていた本件練習に参加した。本件練習に参加した児童は,選手コース33名及び皆泳コース32名であり,両コースの児童が同時に本件プールに入るときは,選手コースの児童がおおむね1コースから3コースまでを,皆泳コースの児童がおおむね4コースと5コースを3つに区切って使用していた。流し練習においては,前の児童が中間地点の白線を越えてから次の児童は泳ぎ始めるよう指導されていたが,それ以上に,本件両教諭がプール内の児童の人数を把握したり,制限したりすることはなかった。 本件練習では,準備運動等の後,午後2時45分ころから午後3時ころまでの間,選手コース及び皆泳コースの児童がそれぞれ1回目の流し練習を行った。その際,25メートルを泳ぐことができない皆泳コースの児童は,苦しくなったところで立ち上がり,そこから再び泳ぎ始めるものとされていた。上記流し練習の後,選手コースの児童は引き続いて50メートルのタイム測定を行い,その間,皆泳コースの児童はプールサイドで休憩した。午後3時15分ころから午後3時25分ころまで,2回目の流し練習が行われた。いったん全員がプールサイドに上がった後,選手コースの児童は更に引き続いてタイム測定を行い,その間皆泳コースの児童はプールサイドで休憩していた。選手コースのタイム測定終了後,午後3時35分ころ,A3教諭が児童に「残り5分間だけ自由に泳いで練習してよい」旨述べて最後の流し練習をすることとなった。 (乙1,5ないし7,14,15,原審証人A2)カ本件事故の経過- 20 -1組目の児童がスター 諭が児童に「残り5分間だけ自由に泳いで練習してよい」旨述べて最後の流し練習をすることとなった。 (乙1,5ないし7,14,15,原審証人A2)カ本件事故の経過- 20 -1組目の児童がスタートして最後の流し練習が開始した直後,1コースのスタート台付近にいたA2教諭は,皆泳コースの指導及び監視に当たるために,いったん5コース側のプールサイドの方に移動し始めた。しかし,1コースの児童の一人が「先生,自由練習ということは自由にしていいということですか」と練習の趣旨に関して質問をし,3コースのスタート台上にいたA3教諭がこれに答えようと1コースのスタート台付近に移動したので,A2教諭は,代わりに3コースのスタート台付近に行き,選手コースの児童に飛び込みの姿勢等を指導していた。このように本件両教諭が,選手コースの児童の指導をしていたため,皆泳コースの児童を全く見ていなかった間,皆泳コースをスタート台から泳ぎ始めた被控訴人B1は,ゴール手前付近まで泳いで来ていた。この様子を被控訴人B1の後を泳いで本件プールの半分位のところで認めていた5年生男子児童は,その後ゴールに達した時,ゴール付近の水面にうつ伏せのまま失神状態で浮かんでいる被控訴人B1に気付いたが,被控訴人B1が失神状態にあるとはすぐには分からなかった。その後,別の女子児童が声をかけたが,同人もB1が失神状態にあるものとは思わなかった。更にその後ゴールに達した6年生女子児童は,上記5年生男子児童が被控訴人B1の手を引いている姿を見て,当初,同人らがふざけているものと考えて注意したが,やがてその異変に気付き,被控訴人B1をプールサイドに引き上げようとした。しかし,一人では引き上げることができなかったため,その時ちょうどゴールに達していた6年生男子児童と協力してプールサイドに引き上げた の異変に気付き,被控訴人B1をプールサイドに引き上げようとした。しかし,一人では引き上げることができなかったため,その時ちょうどゴールに達していた6年生男子児童と協力してプールサイドに引き上げた。児童らは,上記行動を取る一方で,本件プール内から「先生」などと声を出して本件両教諭に,被控訴人B1の異変を知らせた。 (乙1,7,14,15,19,20,26,原審証人A2)キ119番通報の経過児童らの声を聞いたA2教諭は,直ちに本件プールサイドに引き上げられ- 21 -た被控訴人B1のところに駆けつけ,被控訴人B1に対し,気道を確保して人工呼吸と心臓マッサージを繰り返したところ,被控訴人B1は白い物を吐瀉した。一方,A3教諭は,職員室に行って本件事故の発生を知らせ,A1校長及び養護教諭とともに本件プールに戻ったが,被控訴人B1の状態に変化がないため,再び職員室に戻り,午後3時41分ころ,119番通報をした。その間,A1校長は人工呼吸をし,同養護教諭は心臓マッサージを続けたが,被控訴人B1は水や水のような物を吐瀉するだけで呼吸や心拍は回復しなかった。午後3時47分ころ救急車が到着し,午後4時02分ころ被控訴人B1はF病院に搬送された。(乙1,14,15,19,20,26,原審証人A2,V市W消防署に対する調査嘱託の結果)ク本件事故後の被控訴人B1の状態等搬送直後の採血データでは,水による血液の希釈は認められなかった。 また,心肺停止の状態で強い肺水腫があり,心臓がある程度安定して動くまで同病院で約30分間,AEDを使用しての心肺蘇生術を要した。これにより,心肺機能は回復したものの,なお昏睡状態が続いた。さらに,肺損傷が認められ,水様の痰が多く吸引される状態であった。F病院では,平成13年7月19日から同年8月10日ころまで集中治療 た。これにより,心肺機能は回復したものの,なお昏睡状態が続いた。さらに,肺損傷が認められ,水様の痰が多く吸引される状態であった。F病院では,平成13年7月19日から同年8月10日ころまで集中治療室において,また,その後一般病棟において,脳保護を含む全身管理が行われたが,平成14年1月31日に至っても,被控訴人B1は昏睡状態のままであった。このように明らかな改善の見通しがないことから,同日,同病院小児科医師H(以下「H医師」という。)は,被控訴人B1を,精神・神経の後遺障害として昏睡状態と頭部CT検査での大脳半球の萎縮が,胸腹部臓器等の後遺障害として心室性期外収縮,僧帽弁逆流及び僧帽弁逸脱がそれぞれ認められるとして,蘇生後脳症(溺水)により症状固定と診断した。被控訴人B1は,同年5月までF病院に入院した後,V総合療育センター(以下「療育センター」という。)に転院し,介護に必要な自宅の改装が完了した同年8- 22 -月上旬に療育センターを退院した。被控訴人B2と同B3との間には,被控訴人B1の外に姉妹の子供がいる。被控訴人B3は,本件事故当時,食材の宅配を業とする会社にパートタイム勤務をしていたが,本件事故後,被控訴人B1の看護のためにこれを退職し,被控訴人B1の入院中,朝から夕方までその付添看護に当たり,療育センターにおいて,入浴や着替え等の介護方法についても指導を受け,退院後は自宅で被控訴人B1を介護している。 被控訴人B1は,昏睡状態のままで,現在も意識は回復していない。 (甲5,6,28の3,乙10,F病院に対する調査嘱託の結果,原審被控訴人B3)(2)被控訴人B1の既往症等被控訴人B1は,平成12年(当時小学4年生)の1学期から夏休みころにかけて,3回ほど友達との遊戯中などに突然意識を失うことがあり,同年11月25日に 控訴人B3)(2)被控訴人B1の既往症等被控訴人B1は,平成12年(当時小学4年生)の1学期から夏休みころにかけて,3回ほど友達との遊戯中などに突然意識を失うことがあり,同年11月25日にも自宅近くで友達と遊んでいた際,意識を失って倒れることがあった。連絡を受けた被控訴人B3がその場に赴いた時には,既に被控訴人B1の意識は回復していたが,被控訴人B3はそのままタクシーに乗車させ,V市立K病院(以下「K病院」という。)で受診させることにした。K病院では,平成12年11月25日から同年12月4日にかけて,胸部レントゲン,頭部CT,心電図,心エコー,ホルター心電図,脳波検査等の各検査及び診察が行われ,徐脈傾向(1分当たり40回ないし50回)はあるが特に異常はなく,ホルター心電図で心室性不整脈を認めたものの,正常範囲で日常生活に支障を来すものではないと判断されたことから,同月20日,被控訴人B1は起立性調節障害の可能性が高いとの診断に至った。 K病院小児科の医師L(以下「L医師」という。)は,平成12年12月20日,被控訴人B3に対し,日常生活上特別な注意をすることはないが,早寝早起き,運動,十分な睡眠を取るなどの規則正しい生活を行わせるよう指導するとともに,半年後に再受診させるよう指示した。そして,被控訴人B1は,- 23 -平成13年7月2日,頭痛を訴えて同病院で受診したものの,その間に意識消失発作が起こったこともないことから,上記医師は,規則正しい生活をするよう再び指導したにとどまり,それ以上に特別な注意は与えなかった。 (乙12,13,原審被控訴人B3)(3)溺水に関する知見溺水とは,水により,自分自身で呼吸できなくなる状態のことをいう。溺者は,いつでも大きな声を出して助けを求めたり,もがいたりしているとは限らず,いつの ,原審被控訴人B3)(3)溺水に関する知見溺水とは,水により,自分自身で呼吸できなくなる状態のことをいう。溺者は,いつでも大きな声を出して助けを求めたり,もがいたりしているとは限らず,いつの間にかいなくなったという場合も多く見られる。溺者は,水面で溺れている場合と,水中で浮上できずに溺れてしまう場合とがあり,急性心不全,脳卒中,強いパニックなどの場合には,手足を動かせなくなり,すぐに水に沈むことが多い。また,水を飲んで呼吸に失敗した者は,声が出ず,しばらく水面でもがいていることが多い。 溺水の場合,予期せぬ水没によりパニックとなり,もがく動作が起こる。 また,水を吸い込まぬようにするために息こらえを来す場合と,咽頭痙攣を起こす場合がある。前者の場合は,やがてあえぎ呼吸が生じ,声門弛緩から水の吸引を経て湿性溺水に至る。後者の場合は,咽頭痙攣が持続するため,水は流入しないものの,低酸素状態から意識喪失を経て乾性溺水に至る。いずれの場合も,低酸素状態が持続すると,心停止を来す。溺水の原因は,何らかの事故による突然の水没による湿性溺水(約85~90パーセント)と乾性溺水(約10~15パーセント)が主なものであるが,その他溺水の原因としては,水中における心室細動等の致死性不整脈,てんかん発作,重篤な脳血管障害等の心肺異常を来す疾患の可能性もまれではあるが存在する。 さらに,泳ぎのうまい者や浅い場所での溺水の原因として,錐体内出血や気管内吸水と呼ばれるものがある。錐体内出血は,遊泳中,呼吸のタイミングを誤まり,鼻や口から水を吸い込んだ際に,耳管に水が入ることによって起きる。この場合,耳管に水の栓ができ,さらに水中で嚥下運動が繰り返さ- 24 -れると,耳管を満たす水の栓がピストンのように耳管内を往復することにより,鼓室内圧の急変が生じ,鼓室 ることによって起きる。この場合,耳管に水の栓ができ,さらに水中で嚥下運動が繰り返さ- 24 -れると,耳管を満たす水の栓がピストンのように耳管内を往復することにより,鼓室内圧の急変が生じ,鼓室に連続して腔を作る乳様蜂巣も内圧急変の影響を受ける結果,乳様蜂巣内の被膜や毛細血管が陰圧,陽圧の繰り返しによって揺さぶられ,ついには破綻し錐体内出血を起こすものである。次に,気管内吸水であるが,一般には,泳いでいるときに気管内に水が吸引すること自体あり得ない。しかし,ゴールを目前に夢中になるとか,他の人と競泳に夢中になるとかの場合,ひどい呼吸切迫感から,突然,水を気管に吸ってしまうことが起こり得る。このような気管内に水を吸引した人のうちのごく一部の人が,極端な徐脈から一過性心停止まで起こし,急激な血圧低下から意識消失を来して沈むことがある。 溺れ始めて8分ないし10分は,肺に水が入らないよう喉頭を閉じる反射がある。口に水が急に入り,声門が閉じて窒息状態になり,肺には水が流れ込まないが酸素も入らないことになる。この間に蘇生法を行えば予後が比較的良好といわれる。 (甲11,34,35,37,当審証人P(書面尋問))(4)水泳指導における注意事項旧文部省作成ないし監修の水泳指導・水泳事故防止の手引書(甲3,4,12)及び文部科学省スポーツ・青少年局長の各都道府県教育委員会教育長あての通知(甲25)によれば,監視の際の注意事項として,夏休み中の水泳指導や自由時間の水泳では,専任の監視係を設けることが重要であること,集団で水泳を行う場合には,引率者や指導者の責任分担を明確にして,指導・監督が徹底するようにし,班の編成に当たっては,引率者の指導・監督が全員に行き届く程度の人数に編成すること,監視者の位置はプール全体を見渡すことができ,プールの角部分 の責任分担を明確にして,指導・監督が徹底するようにし,班の編成に当たっては,引率者の指導・監督が全員に行き届く程度の人数に編成すること,監視者の位置はプール全体を見渡すことができ,プールの角部分などが死角にならないようなところとすること,水面上はもちろんのこと,水底にも視線を向けることが必要であることが指摘されている。これらの注意事項は,上記溺水の特徴,多様性を踏ま- 25 -えた指摘といえる。(甲3,4,12,25)(5)本件事故及び被控訴人B1の健康状態に関する医師の意見アL医師の意見(ア)自律神経失調障害ないし起立性調節障害とは,いわゆる立ちくらみや脳貧血と呼ばれる症状で,自律神経のアンバランスにより,起立時や運動時に血圧の維持ができず,脳血流が悪くなり,意識が遠のいたり,内臓にうっ血して気分が悪くなる状態をいう。体重及び日常生活習慣(慢性の睡眠不足・運動不足などで増悪する。)に起因することが多いが,限定された特定の原因はない。 被控訴人B1には意識喪失の症状が見られたが,心電図や頭部CT等からは特に異常が見られず,頭痛を訴えていたことから,自律神経失調障害ないし起立性調節障害と診断した。 (イ)一般的に,水中で意識喪失発作(失神状態)が起こった場合,数分で沈むが,その間はほぼ無呼吸状態であるからほとんど水を飲むことはない。通常,発作は4,5分間であり,発作が止まったら水を飲んでもがき暴れることになる。したがって,被控訴人B1がもがくことがなかったとすれば,完全には溺れたわけではなく,水中で意識消失発作が起こったにとどまると考えるのが普通である。起立性調節障害による意識消失発作は,頭に血がよくめぐってないので倒れてしまうが,4,5分間横にしていたら血液がめぐり意識は回復する。長く水に沈まないと水は飲まない。溺水 ると考えるのが普通である。起立性調節障害による意識消失発作は,頭に血がよくめぐってないので倒れてしまうが,4,5分間横にしていたら血液がめぐり意識は回復する。長く水に沈まないと水は飲まない。溺水者の血液の希釈を認めないということは,長時間水に沈んでいない,余り水を飲んでいないことを示す。よって,医学的には長時間溺れておらず,早く救出したことの表れと捉えられる。 溺水後10分以内に救出及び人工呼吸がされれば,仮に心停止していても蘇生する。単なる失神状態の場合,救出が3分以内であれば必ず目を覚ますし,人工呼吸によって,被控訴人B1が吐瀉したということは,- 26 -人工呼吸の効果があったことの表れである。それでも蘇生しなかったということは,何らかの他の病気(器質的に心臓や肺など循環器等の病気)が原因となった可能性が高い。一般的にはスポーツ死的な症状が考えられる(現在,原因は分からないが,心臓に原因があることも考えられる。)。被控訴人B1には血液の希釈が認められなかったことからも,水を飲んで(溺水状態で)脳に支障を来したのではなく,突然脳に異常が発生した可能性が考えられる。また,心停止時間が30分あれば,無酸素性の脳障害が2次的に起こる。 蘇生までの時間が重要であり,すぐに蘇生しなかったのであれば,救助して人工呼吸を開始するまでの時間が1分であるか3分であるかは大差がない。(乙13,18)イH医師の意見(ア)溺水の場合,身体が低酸素状態となり,それが長時間に及ぶと脳に障害が生じる。溺水の場合,もがくことが多いと思われるが,短時間で意識がなくなったときなど,もがくことのない状況も考えられる。溺水のうち,80パーセントから90パーセントの症例は水による窒息であるが,10パーセントから15パーセントの症例は咽頭痙攣による窒息である。 なくなったときなど,もがくことのない状況も考えられる。溺水のうち,80パーセントから90パーセントの症例は水による窒息であるが,10パーセントから15パーセントの症例は咽頭痙攣による窒息である。窒息以外に副交感神経反射による心停止の例もある。一般的に,咽頭痙攣の場合等溺れても水を飲まないことがある。文献によると,水没後3分後に心停止,3分以内であれば容易に蘇生し得るとされている。 4分ないし6分間脳血流が途絶すると,脳細胞は不可逆的変化を起こす。 (イ)被控訴人B1の場合,水吸引等の所見がマイナスとされているのは,搬入時の胸部X線撮影において肺に所見が見られなかったことによるものと思われる。血液の希釈が採血データに影響するためには1キログラム当たり22ミリリットル(被控訴人B1の場合550ミリリットル)以上の水を飲むことが必要である。その後の胸部X線写真の変化からする- 27 -と,多量ではないがある程度の水が肺内に浸入したものと考えられる。 被控訴人B1がF病院に搬送された当時の採血データでは,強いアシドーシス(pH6.80),高アンモニア血症(401μg/dl)が認められた。この値は,病院へ搬送されるまで救命措置が継続して行われていたことを考えると非常に高い値である。よって,心肺停止の時間が長かった可能性があると考えられる。 本件事故後の被控訴人B1に水様の痰が多量にひかれたのは,肺に吸い込まれた水がそのまま痰になっているわけではなく,溺水後の肺水腫,呼吸急迫症候群に伴う分泌物が多量であったということである。被控訴人B1の症状は,溺水による低酸素状態が原因である。(甲36)ウQ大学医学部歯学部付属病院医師Rの意見被控訴人B1が水泳中にもがき暴れることなくプールに浮かんでいたという状況から,通常の溺水と考えるよりも平成12年1 よる低酸素状態が原因である。(甲36)ウQ大学医学部歯学部付属病院医師Rの意見被控訴人B1が水泳中にもがき暴れることなくプールに浮かんでいたという状況から,通常の溺水と考えるよりも平成12年11月に見られた意識消失発作が水泳中に起こった可能性が高いと推察される。意識消失発作の原因は確定できないが,被控訴人B1が遅くとも3分以内に救助されたとすれば,その後の救命措置にもかかわらず心肺停止状態が続き,F病院での電気ショック等により約30分後に蘇生した状況を踏まえ,心臓疾患が原因である可能性が疑われる。突然意識を失うような心臓疾患としては,心室細動や完全房室ブロックが考えられるが,これらの不整脈は,潜水など息をこらえることによって誘発されることがある。したがって,被控訴人B1の場合,プールの水面にうつ伏せの状態で発見されたのは,水泳中に持病である心臓疾患から意識消失発作を起こしたのではないかと推察される。 (乙21)エ財団法人M病院N病院医師Pの意見被控訴人B1の肺内への水の吸引が少なかった点について,乾性溺水の場合には水の吸引はごくわずかであるが,被控訴人B1は,もがくことがなか- 28 -ったことからするとその可能性は考え難い。そこで,突発的な心停止,意識喪失により生体反応がなくなったため,あえぎ呼吸も生じなかったものと考えられる。 水没時間が3分以内であったにもかかわらず,蘇生に30分ないし40分もかかったとすれば,何らかの心臓の異常を考えざるを得ない。心肺停止による無酸素時間が5分以内であれば,高い確率で意識は回復する。10分以上であれば,予後不良因子として報告されている。 本件事故後の被控訴人B1に水様の痰が多量にひかれたのは,少量ではあるが溺水による水の肺内への浸入とそれによる肺炎があったこと,さらに,蘇生による人工 上であれば,予後不良因子として報告されている。 本件事故後の被控訴人B1に水様の痰が多量にひかれたのは,少量ではあるが溺水による水の肺内への浸入とそれによる肺炎があったこと,さらに,蘇生による人工換気の影響と浸水による肺胞のサーファクタントの消失,肺水腫の出現等の要因が重なり,時間の経過とともに分泌物(痰)となり,吸引されたものと考えるのが相当である。 (当審証人P(書面尋問))オS診療所医師Tの意見(ア)本件事故当日,F病院に搬送された被控訴人B1を診察・治療した。 そして,プールに水没し窒息した状況,その他低酸素血症,代謝性アシドーシスの存在,胸部レントゲン上の肺水腫,頭部CT上の脳浮腫などの合併症の存在などから,被控訴人B1の状態を溺水と判断した。肺内への水の吸入は少量であったが,反射的な咽頭痙攣のため,肺内への水の吸入が少なかったことが考えられる。溺水の原因としては,単に水泳中に溺れたか,溺れてしまう身体的変化が存在(出現)したかのいずれかが想定される。突然,身体に著しい呼吸循環動態の変化が生じた場合は,もがく時間がほとんどない(目立たない)ことがあり得る。水泳中に突然意識を失った場合は,水中に沈んでしまうことが考えられる。 (イ)一般に,心(肺)停止から5分以上経過すると蘇生率は約25パーセントに下がると言われている。発見から搬入まで約20分ほど経過し- 29 -ており,かつ,搬入時も心(肺)停止状態であったことから,通常であれば蘇生の可能性は極めて低い状態にあったと考えられる。しかし,水の中という低体温状態で経過したために組織が保護され,むしろ30分後にも反応し,蘇生できたのではないかと考えられる。一般に,水没後3分後に心停止に至るとされている。心肺停止後意識回復が期待できる標準的な目安は5分以内と考えられる。 組織が保護され,むしろ30分後にも反応し,蘇生できたのではないかと考えられる。一般に,水没後3分後に心停止に至るとされている。心肺停止後意識回復が期待できる標準的な目安は5分以内と考えられる。 (ウ)搬送時に行われたAEDを使用したカウンターショック後の結果であるので評価が困難であるが,第2病日後の心エコー検査では,心臓の壁運動が全体的に悪く,駆出率が43パーセントと正常の60パーセント以上を満たしておらず,僧帽弁閉鎖不全症の逆流の程度が1度,三尖弁閉鎖不全症の逆流の程度が1度と心機能に異常があることが認められた。併せて,入院前の4回の失神の既往から,被控訴人B1に心疾患が基礎にあった可能性は否定できない。(当審証人T(書面尋問)) 争点(1)(本件教諭らの過失の有無)について(1)監視上の過失についてア被控訴人B1が本件プール内で失神状態にあった時間についてまず,最後の流し練習の開始時刻が何時であったかである。この点,A2教諭は,原審証人尋問及び陳述書(乙14)において,A3教諭が最後の流し練習を始めるに当たり,プールサイドに上がっていた児童全員に,「後5分で終わりにする」旨の指示をした際,本件プールに設置された時計が午後3時35分であったことを確認した旨供述する。また,A3教諭も,その陳述書(乙15)において,午後3時40分までに練習を終わらせるため,「残り5分間だけ自由に泳いで練習してよい」と児童らに伝えた旨供述する。しかし,上記供述以外には,最後の流し練習の開始時刻に関する直接的証拠はない。特に,本件事故の発生が最後の流し練習を開始した直後であったことは上記認定のとおりであるから,その開始の状況は重要な- 30 -事実と考えられるにもかかわらず,5年生男子児童や6年生女子児童の警察官及び検察官に対する供述調書 し練習を開始した直後であったことは上記認定のとおりであるから,その開始の状況は重要な- 30 -事実と考えられるにもかかわらず,5年生男子児童や6年生女子児童の警察官及び検察官に対する供述調書(乙19,20,26)には,最後の流し練習開始の状況に関する記述がいずれも見当たらないことには疑問が生じる。しかし,上記認定の1コースの児童がした質問内容からすると,A3教諭の児童に対する上記発言はあったものと,ひいては,この発言が午後3時35分ころにあったものと認められ,結局,最後の流し練習が開始したのは,その時刻以降と認めるのが相当である。 次に,上記認定のとおり,本件プールのゴール付近を泳いでいた被控訴人B1は,その後を泳いで本件プールの半分位にいた5年生男子児童に目撃されていた。しかし,その後上記5年生男子児童がゴールに達してから被控訴人B1に気付くまでの時間,更には6年生女子児童が同人らに声をかけ,被控訴人B1を本件プールから引き上げようとするまでの時間がどのくらいであったかは,皆泳コースの児童らのスタート順,スタート間隔,各自の泳力,当時の疲労度などの要素にも関わり,分単位の誤差は容易に生じることが考えられる。これらの事情に照らすと,最後の流し練習の開始時刻が午後3時35分以降であっても,開始時刻から被控訴人B1に異変が生じるまでの時間を分単位で正確に認定することは困難であるといわざるを得ない。確かに,上記認定のとおり本件事故の119番通報時刻が午後3時41分ころである以上,被控訴人B1が本件プール内で失神状態に陥り,その後本件プールから引き上げられるまでの時間は,おおむね数分程度と認めることはできるが,控訴人が主張するように被控訴人B1が本件プール内で失神状態にあった時間が30秒ないし1分以内であるとか,本件事故発生後3分以 ら引き上げられるまでの時間は,おおむね数分程度と認めることはできるが,控訴人が主張するように被控訴人B1が本件プール内で失神状態にあった時間が30秒ないし1分以内であるとか,本件事故発生後3分以内に救命措置が開始されたとまで認定するには,未だ至らないといわなければならない。 イ被控訴人B1の本件プール内での状況について本件練習中の児童らの中に,被控訴人B1がもがいている様子を目撃した- 31 -者は全く認められない。このことからすると,被控訴人B1は特にもがくことなくうつ伏せのまま失神状態になって浮かんでいたものと推認するのが相当である。 この点に関して,F病院の「基礎データー」と題する書面(甲28の1)の「現病歴」欄には,本件事故に関して学校プールの授業中他の生徒が底に沈んでいる被控訴人B1を発見した旨の記載が,診療録(甲28の2)には,被控訴人B1が浮いていた状態から沈んでしまったところを子供たちが発見し引き上げた旨の記載がそれぞれ存するが,F病院に対する調査嘱託の結果等によっても,これらの記載がされるに至った具体的な経緯は明らかでない。しかし,これらの記載内容はいずれも伝聞内容にすぎないから,上記証拠を採用することは困難である。その他被控訴人B1が水中に沈んでいたことを基礎付ける証拠はない。 ウ監視上の注意義務違反の有無ついて本件練習に参加していた児童の数(65名),本件プール内で泳ぐ児童数が制限されていなかったこと,危険性の高い飛び込み練習における事故防止,水泳記録会へ向けた技能指導,泳力の不十分な児童に対する指導及び事故防止等,本件練習を指導する本件両教諭には多くの役割が求められていたことに照らすと,その児童数及び練習内容を前提とする限り,これらの指導及び監視のすべてを2名の本件両教諭で行うことには,態勢として無 止等,本件練習を指導する本件両教諭には多くの役割が求められていたことに照らすと,その児童数及び練習内容を前提とする限り,これらの指導及び監視のすべてを2名の本件両教諭で行うことには,態勢として無理があったというべきである。そして,上記事実関係に認定したとおり,コースを泳ぎ終えた後続の児童ら数名が,被控訴人B1の異変に気付き,これらの児童によって呼びかけられるまで,偶々選手コースの児童を指導していた本件両教諭は,そのこともあって皆泳コースの児童の動静を見ていなかったため,この異変に全く気付かなかったというのである。その意味で,本件両教諭には,本件練習を行うに当たり,水泳中の児童らの動静に目を配り,その安全を図るべき注意義務を尽くさなかった過失があった- 32 -ものといわざるを得ない。 この点,控訴人は,被控訴人B1はもがくことなく水面にうつ伏せの状態にあったから,その異常を発見することは不可能であり,本件両教諭が児童らの監視を怠った事実はない旨主張する。 しかし,溺水者が常に激しくもがく動作を行うとは限らないのであり,もがく動作が見られないことは溺水として特異なケースであるとまではいえないから,プール内で特に動くこともなく浮いている者についても,注意を払うべきであったことに変わりはないといわなければならない。しかも,流し練習という動きのある状態の中で,水面にうつ伏せの状態といういわば静の状態にある被控訴人B1は,ある意味注意を引く状態にあったと考えられ,その意味からも,本件両教諭が被控訴人B1の異常を発見することが不可能とは言い難い。被控訴人B1にもがく動作が見られなかったことは,本件教諭らの注意義務違反を否定する根拠にはならないというべきである。 (2)救護上の過失について上記事実関係に認定したとおり,児童からの知らせを受け 訴人B1にもがく動作が見られなかったことは,本件教諭らの注意義務違反を否定する根拠にはならないというべきである。 (2)救護上の過失について上記事実関係に認定したとおり,児童からの知らせを受け,A2教諭は,直ちに被控訴人B1のところに駆けつけ,気道確保,人工呼吸及び心臓マッサージを行ったこと,A3教諭は,本件事故をA1校長及び養護教諭に知らせに行った後,本件プールに戻り,被控訴人B1の様子が変わっていないことを聞いて119番通報を行ったことが認められる。A3教諭が119番通報を行ったのは,A1校長及び養護教諭に本件事故を知らせに行った後のことであるが,まず一報をA1校長及び養護教諭に行い,並行して行われていた救命措置の状況を確認した上で,119番通報を行ったことは必ずしも不適切な判断であったとは認められない。これらの経過からすると,本件教諭らに救護措置に関して過失があったということはできない。 (3)因果関係について- 33 -ア本件事故当時,本件プールでは流し練習,すなわち,児童らは各コースごとに順次一定方向に泳いでいたのであるから,本件両教諭の監視義務が尽くされていれば,失神状態に陥って水面に浮かんだ状態の被控訴人B1を速やかに発見して救出することに,特段の障害はなかったものと認められる。そして,一般に,水没後3分後に心停止に至り,心停止後少なくとも3分以内であれば容易に蘇生し得るとされているから,本件プール内で失神状態に陥った被控訴人B1の場合も,その異変が生じた時点で直ちに発見していれば,重篤な後遺障害を発生させることなく救助できた高度の蓋然性があったというべきである。したがって,上記監視上の過失と本件事故との間には相当因果関係が認められる。 イこれに対し,控訴人は,被控訴人B1の異常は,被控訴人B1の基礎疾患 救助できた高度の蓋然性があったというべきである。したがって,上記監視上の過失と本件事故との間には相当因果関係が認められる。 イこれに対し,控訴人は,被控訴人B1の異常は,被控訴人B1の基礎疾患を原因とするものであり,仮に本件両教諭がその異常な状態を直ちに発見して救助し,救護措置を施していたとしても,本件事故の結果を防ぐことはできなかったとして,相当因果関係はない旨主張する。 確かに,被控訴人B1には,過去に4度失神したことがあり,起立性調節障害の診断を受けていたこと,本件事故の第2病日後の心エコーの結果には,心疾患の存在をうかがわせる所見があったことが認められる。しかし,上記起立性調節障害は,それ自体直接心疾患の存在を推測させるものとはいえず,本件事故前に被控訴人に心臓に異常を認めるような検査結果は存在しなかったものである。また,上記心エコー検査の結果も,本件事故後の救護の際のAED使用の影響が否定できない。その他,被控訴人B1の基礎疾患の可能性を指摘するものは,本件プール内で失神状態にあった時間が3分以内という短時間であったことを前提とするものであり,確かに,被控訴人B1が失神状態に陥ってから数分以内に本件プールから引き上げられている。しかし,だからといって,被控訴人B1の基礎疾患の内容が上記のように明確でない本件では,本件事故原因のすべてを被控訴人B1の基礎- 34 -疾患に帰するのは早計と考える。結局,本件において,本件事故が救護不能な被控訴人B1の基礎疾患を原因とするものであったとする確たる根拠は未だ認め難い。控訴人の上記主張は採用できない。 なお,これに関連して,控訴人は,本件事故当時,被控訴人B1は,水泳中のゴール付近で息をこらえることにより,既往症である意識消失発作が起こったものであるとも主張する。 しかし,もがく 採用できない。 なお,これに関連して,控訴人は,本件事故当時,被控訴人B1は,水泳中のゴール付近で息をこらえることにより,既往症である意識消失発作が起こったものであるとも主張する。 しかし,もがく動作がなかったことをもって溺水のきっかけが突然の上記意識消失発作であったと断定するだけの証拠はないから,上記主張も採用できない。また,被控訴人B1が過去に起こした意識消失発作はいずれも短時間で回復していたのであるから,仮に溺水のきっかけが同様の意識喪失発作であったとしても,やはり救護不能な事態であったとする根拠とはならないというべきである。 ウもっとも,上記説示のとおり被控訴人B1が失神状態で本件プール内に浮いていたのが比較的短時間であったにもかかわらず,被控訴人B1が蘇生するまでに相当の時間を要したのは,上記認定のとおりである。そして,この蘇生に関する上記医師らの各意見を総合すると,一般に,水没後心停止までの時間はおよそ3分であり,心停止から3分以内であれば蘇生の可能性が高く,5分以内でも相当の確率で意識回復ないし蘇生するというものである。これからすると,上記認定の本件事故の時間的経過は,正に予後の経過が二分されるような微妙な場合に当たることになる。他方,上記説示のとおり本件事故との直接的関係を確定できないが,被控訴人B1には,4度の失神歴を伴う起立性調節障害の存在や本件事故後の心エコー検査における異常が認められたものである。これらの事実からすると,蘇生の遅れ,ひいては重篤な後遺障害の発生に関し,被控訴人B1自身の身体的素因が影響している可能性が相当程度認められることは否定できない。そして,溺水の原因及び機序は多種多様であり,救出までの時間と蘇生ないし重篤- 35 -な後遺障害の発生との関係についても,ことの性質上,確定した医学的知 が相当程度認められることは否定できない。そして,溺水の原因及び機序は多種多様であり,救出までの時間と蘇生ないし重篤- 35 -な後遺障害の発生との関係についても,ことの性質上,確定した医学的知見に乏しく,不明な点が多いなどの事情に照らすと,この被控訴人B1の身体的素因の影響に関して,確定には至らないものの,相当程度の可能性をもって,民法722条2項の類推適用による損害賠償の減額事由として考慮するのが相当である。 争点(2)(損害額)について(1)入院雑費56万7000円被控訴人B1の障害の程度からすれば,症状固定後を含めた全入院期間について,その必要があったものと認められる。上記認定事実のとおり,平成13年7月19日から平成14年7月末日までの378日間,被控訴人B1は入院していた。入院雑費は,1日当たり1500円の限度で認めるのが相当である。したがって,入院雑費は上記金額となる。 (計算式)1500円×378日=56万7000円(2)入院付添費245万7000円被控訴人B1の障害の程度,年齢及び被控訴人B3の看護状況等からすれば,上記入院期間(378日)を通じて被控訴人B31名の付添看護の必要性があったものと認められる。上記入院期間の入院付添費は,1日当たり6500円の限度で認めるのが相当であるから,上記金額となる。 (計算式)6500円×378日=245万7000円(3)介護費用ア退院後自宅での被控訴人B1の介護は,これまで主として被控訴人B3が行ってきており,被控訴人B1の上記認定の後遺障害の程度からすれば,将来にわたる介護の必要性も,これを優に認めることができる。そこで,この介護費用は,1日当たり8000円の限度で認めるのが相当である。 ところで,介護費用その他の生活関係費は,もともと将来にわたって定 来にわたる介護の必要性も,これを優に認めることができる。そこで,この介護費用は,1日当たり8000円の限度で認めるのが相当である。 ところで,介護費用その他の生活関係費は,もともと将来にわたって定期的に支出を要する費用である。そして,被控訴人B1の年齢や後遺障害の- 36 -程度からして,その介護は今後相当長期間に及ぶことが予想される一方,その間に,被控訴人B1の身体状態,医療・看護技術その他の医療環境,被控訴人B1に対する介護状況等に関して著しい変更が生じる可能性は大きいと考えられる。しかも,本件事故による損害賠償の負担が問題となっている控訴人は,人口約甲万人を擁する地方公共団体であるから,その支払能力に関して,将来の不安を考慮する必要はほとんどないことになる。その意味で,本件のような国家賠償において,被控訴人B1の将来の介護費用は,正に民事訴訟法117条1項が予定する定期金賠償によることがふさわしい場合であるといわなければならない。被控訴人B1は,この介護費用等についても一時金賠償の方法による請求をして,積極的に定期金賠償の方法による請求を求めていなかったが,平成18年4月27日の当審最終口頭弁論期日において,この介護費用等につき,定期金賠償の方法によるとして判断されても異存ない旨述べるに至った。そこで,当裁判所は,被控訴人B1の介護費用のうち,当審最終口頭弁論期日までの過去分については一時金賠償の方法により,その後の将来分については定期金賠償の方法により,それぞれその賠償を命じることとする。 イ過去分について1092万8000円平成14年8月1日から平成18年4月27日までの1366日間の既発生の介護費用は,下記計算式により上記金額となる。 (計算式)8000円×1366日=1092万8000円ウ将来分について将 平成14年8月1日から平成18年4月27日までの1366日間の既発生の介護費用は,下記計算式により上記金額となる。 (計算式)8000円×1366日=1092万8000円ウ将来分について将来の介護費用は,年額292万円の限度で認めるのが相当である。 (計算式)8000円×365日=292万円(4)自宅改装費1413万6465円証拠(甲13,21(写真1ないし7・11ないし13),22の1ないし4,原審被控訴人B3)によれば,被控訴人B1の自宅は,その介護のため- 37 -に玄関前道路から玄関まで車いす用のエレベーターを設置したり,介護用の居室及び浴室の増設工事等を行い,その費用として1413万6465円を要したことが認められる。被控訴人B1の後遺障害の内容・程度からすると,上記費用支出は,いずれもその必要性・相当性があるというべきであるから,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 (5)エレベーター保守費ア過去分について22万0056円証拠(甲14)によれば,エレベーター保守費として平成14年8月27日から平成15年8月26日までの1年分として5万8800円を要したことが認められる。そこで,平成14年8月27日から平成18年4月27日までの間の既発生分の費用として,下記の計算式の数値を基に22万0056円を下らないものと認めるのが相当である。 (計算式)5万8800円÷365日×1366日=22万0056円(円未満切捨て)イ将来分について(3)の介護費用について説示したと同様の理由により,将来分については,定期的な支出が見込まれるから,これを定期金賠償の方法によることとし,年額5万8800円の限度で認めるのが相当である。 (6)介護器具購入費用ア過去分について124万8355円証拠(甲15,2 期的な支出が見込まれるから,これを定期金賠償の方法によることとし,年額5万8800円の限度で認めるのが相当である。 (6)介護器具購入費用ア過去分について124万8355円証拠(甲15,21(写真8ないし10),原審被控訴人B3)によれば,被控訴人B1の介護のために,原判決添付の別表1の「品名」欄記載の器具等が必要であり,その価格は同表の「価格(円)」欄,その耐用年数は同表の「耐用年数」欄,価格を耐用年数で除した1年当たりの金額は「1年当たりに要する費用(円)」欄に各記載のとおりであって,年額の合計は- 38 -33万3565円であることが認められる。そこで,平成14年8月1日から平成18年4月27日までの間の既発生分の費用として,下記の計算式の数値を基に124万8355円を下らないものと認めるのが相当である。 (計算式)33万3565円÷365日×1366日=124万8355円(円未満切捨て)イ将来分について(3)の介護費用について説示したと同様の理由により,将来分については,定期的な支出が見込まれるから,これを定期金賠償の方法によることとし,年額33万3565円の限度で認めるのが相当である。 (7)介護自動車購入費用ア過去分について100万円証拠(甲16ないし19,21(写真14ないし18),原審被控訴人B3)によれば,平成14年7月14日,被控訴人B2が所有していた自動車を下取りに出して後部座席部分にリフトが設置された普通自動車を298万9769円(車体本体価格266万円)で,同年10月25日,被控訴人B3が所有していた自動車を下取りに出して後部に車いすを固定可能な軽自動車を200万円で,それぞれ購入したことが認められる。これらの自動車は,被控訴人B1の介護に伴う移動に必要であるが,2台必要であること 有していた自動車を下取りに出して後部に車いすを固定可能な軽自動車を200万円で,それぞれ購入したことが認められる。これらの自動車は,被控訴人B1の介護に伴う移動に必要であるが,2台必要であることについてはこれを認めるに足りる証拠はなく,また,被控訴人B1の介護以外に他の用途にも使用可能であるから,その全額を本件事故による損害と認めるのも相当でない。結局,これらの事情やその耐用年数などを考慮して,介護自動車購入費用の過去分について,相対的に低額な上記軽自動車の価格を基に100万円の限度で本件事故と相当因果関係がある損害と認めるのが相当である。 - 39 -イ将来分について(3)の介護費用について説示したと同様の理由により,将来分については,定期的な支出が見込まれるから,定期金賠償の方法によることとし,その必要性,耐用年数,上記過去分の額等を考慮して,年額25万円の限度で認めるのが相当である。 (8)逸失利益7307万1431円被控訴人B1は,症状固定時11歳であり,本件事故により労働能力を100パーセント喪失したものと認められる。そして,18歳から67歳まで49年間の就労可能期間につき,年収565万9100円(平成13年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者の全年齢平均年収額)を基礎として中間利息を控除する下記計算式の数値を基に7307万1431円の限度で認めるのが相当である。 (計算式)565万9100円×(18.6985-5.7863)=7307万1431円(円未満切捨て)(9)慰謝料被控訴人B1の入院状況,後遺障害の内容及び程度等にかんがみると,本人の傷害分として300万円,後遺障害分として2800万円の合計3100万円,両親である被控訴人B2及び同B3の分として各200万円の限度でそれぞれ認めるの 遺障害の内容及び程度等にかんがみると,本人の傷害分として300万円,後遺障害分として2800万円の合計3100万円,両親である被控訴人B2及び同B3の分として各200万円の限度でそれぞれ認めるのが相当である。 (10)被控訴人B1の合計損害額(ただし,弁護士費用分を除く。)一時金賠償((1),(2),(3)イ,(4),(5)ア,(6)ア,(7)ア,(8),(9))の合計額は1億3462万8307円となり,定期金賠償((3)ウ,(5)イ,(6)イ,(7)イ)の合計額は356万2365円となる。 (11)素因減額上記2(3)ウで説示したとおり,被控訴人B1の後遺障害には,被控訴人B1- 40 -自身の身体的素因が影響している可能性が相当程度認められる。そこで,民法722条2項に類推適用により,これをもって被控訴人らの損害額の3割を減額することは,損害の公平な分担という損害賠償法理からやむを得ないといわなければならない。その結果,この素因減額後の被控訴人らの損害額は,次のとおりとなる。 ア被控訴人B1の損害額①一時金賠償の合計額は9423万9814円(円未満切り捨て)②定期金賠償の合計額は年額249万3655円(円未満切り捨て)イ被控訴人B2及び同B3の各損害額は各140万円(12)損害の填補ア障害見舞金について3370万円被控訴人B1は,日本体育・学校健康センターから障害見舞金として上記金額を受領したから,一時金賠償の方法により支払われるべき金額からこれを控除することになる。 イ特別児童扶養手当等支給法に基づく各手当について(ア)特別児童扶養手当等支給法は,精神又は身体に障害を有する児童の福祉の増進を図ることを目的として,上記各手当を支給することとしている。そして,本件事故による被控訴人B1の上記損害のうち,生活 (ア)特別児童扶養手当等支給法は,精神又は身体に障害を有する児童の福祉の増進を図ることを目的として,上記各手当を支給することとしている。そして,本件事故による被控訴人B1の上記損害のうち,生活関係費(上記(3)ないし(7))は,正に特別児童扶養手当等支給法の目的である障害を有する児童の福祉のために使用される費用に当たる。そうすると,その規定に基づき国ないし都道府県知事や市町村長が支給する各手当と地方公共団体である控訴人が支払義務を負う上記生活関係費は,同質のもので重なり合いが認められるから,上記各手当の受給によっても賄うことのできない費用をもって実質的な損害と捉えるのが相当ということになる。しかも,国と控訴人は,いずれも公的機関であるから,各手当分を控除することによって,本来損害賠償義務を負うべき者が不当- 41 -に損害を免れるという関係にもない(各手当については求償や代位の問題が生じる余地もない。)。上記各手当のうち既に支給された過去分を被控訴人B1の一時金賠償額から,また,今後支給されるであろう将来分をその定期金賠償の合計額(年額)からそれぞれ控除するのが相当である。 (イ)過去分の控除について328万0090円証拠(乙24)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人らは,平成18年4月分までの障害児福祉手当として合計72万4390円,同じく特別児童扶養手当として合計255万5700円をそれぞれ受領し又は受領が確実であることが認められる。したがって,この合計328万0090円を上記一時金賠償の合計額から控除する。 (ウ)将来分の控除について各手当の将来における支払の確実性に関しては,公的扶助であることからすれば,支払能力に問題はないということができる。また,支給基準について大幅な変動があった場合には,民事調停手続,最終 控除について各手当の将来における支払の確実性に関しては,公的扶助であることからすれば,支払能力に問題はないということができる。また,支給基準について大幅な変動があった場合には,民事調停手続,最終的には民事訴訟法117条1項本文が規定する判決の変更を求める訴えにより解決を図ることが相当である。そこで,将来分については,定期金賠償の合計額(年額)から現在の基準に基づく1年当たりの各手当の合計額を控除すべきことになる。現在の支給額は,20歳未満の重度障害児を対象とする障害児福祉手当が月額1万4380円,20歳未満の重度障害児の扶養者を対象とする特別児童扶養手当が月額5万0750円,20歳以上の重度障害者を対象とする特別障害者手当が月額2万6440円である。そして,被控訴人B1が満20歳に達するのは,平成22年8月C日である(当事者間に争いがない。)。したがって,これらを基にすると,将来分の控除額は,それぞれ次のとおりとなる。(なお,支払時期について後述のとおり。以下同様。)- 42 -①平成18年4月28日から平成22年4月27日までの分については年額78万1560円(計算式)(1万4380円+5万0750円)×1278万1560円=②平成22年4月28日から平成23年4月27日までの分については年額47万2040円(計算式)(1万4380円+5万0750円)×4+2万6440円×8 =万2040円③平成23年4月28日以降の分については年額31万7280円(計算式)2万6440円×1231万7280円=ウ障害基礎年金について障害基礎年金は,国民年金法に基づき政府が管掌するものであるから,その支給の確実性に問題とすべき余地はない。また,将来において,被控訴人B1の状態や給付基準に大きな変動が生じた場合に 礎年金について障害基礎年金は,国民年金法に基づき政府が管掌するものであるから,その支給の確実性に問題とすべき余地はない。また,将来において,被控訴人B1の状態や給付基準に大きな変動が生じた場合には,上記と同様に,民事調停手続,最終的には民事訴訟法117条1項本文が規定する判決の変更を求める訴えにより解決を図ることが相当である。すなわち,支給の不確定性を理由に損害からの控除を否定すべき理由はないというべきである。そして,被控訴人B1には,20歳に達した日の翌月である平成22年9月から年額99万0100円(1か月当たり8万2508円)の給付が見込まれるから,これを定期金賠償の合計額(年額)から控除すべきことになる。結局,この控除額は,次のとおりとなる。 ①平成22年4月28日から平成23年4月27日までの分については年額66万0064円(計算式)- 43 -8万2508円×866万0064円=②平成23年4月28日以降の分については年額99万0100円(13)被控訴人B1の上記損害填補後の損害額(ただし,弁護士費用を除く。)ア一時金賠償5725万9724円(計算式)9423万9814円-3370万円-328万0090円=5725万9724円イ定期金賠償平成18年4月28日から被控訴人B1が死亡するまでの間,毎年4月28日から翌年4月27日までの分の被控訴人B1に対する定期金賠償の合計額(年額)として以下の金額を,損害の公平な分担を考慮して,その半年を経過した平成18年10月28日を初回に毎年10月28日,その1年分を支払うよう命じるのが相当である。 (ア)平成18年4月28日から平成22年4月27日までの分は年額171万2095円(計算式)249万3655円-78万1560円=171万2095円(イ)平 払うよう命じるのが相当である。 (ア)平成18年4月28日から平成22年4月27日までの分は年額171万2095円(計算式)249万3655円-78万1560円=171万2095円(イ)平成22年4月28日から平成23年4月27日までの分は年額136万1551円(計算式)249万3655円-47万2040円-66万0064円=136万1551円(ウ)平成23年4月28日以降の分は年額118万6275円(計算式)249万3655円-31万7280円-99万0100円=118万6275円- 44 -(14)弁護士費用本件事案の内容,審理期間や内容,請求額と認容額などの本件にあらわれた諸般の事情を総合すると,本件事故と相当因果関係がある被控訴人B1に係る弁護士費用としては600万円,被控訴人B2及び同B3に係る弁護士費用としては各15万円の限度で認めるのが相当である。 (15)以上より,被控訴人B1の一時金の合計額は6325万9724円,被控訴人B2及び同B3の損害の合計額は各155万円となる。 結論 以上のとおり,被控訴人らの請求は,一時金賠償としてそれぞれ上記3(15)記載の金額及びこれらに対する本件事故後である平成13年7月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を,被控訴人B1に関する定期金賠償として上記3(13)イ記載の金額の支払をそれぞれ求める限度で理由があるから,その限度で認容するが,その余は理由がないから,これを棄却するのが相当である。したがって,これと異なる原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第5民事部裁判官前川高範裁判官伊丹恭裁判長裁判官中山弘幸は,退官につき署名押印をすることができない。 - 45 -裁判官前川 として,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第5民事部裁判官前川高範裁判官伊丹恭裁判長裁判官中山弘幸は,退官につき署名押印をすることができない。 - 45 -裁判官前川高範
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