平成16(わ)123

裁判年月日・裁判所
平成18年4月20日 岡山地方裁判所
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判決文本文24,785 文字)

- 1 -主文被告人両名は無罪。 理由 (本件公訴事実)本件公訴事実(ただし,訴因変更後のもの。)は,下記のとおりである。すなわち,被告人株式会社甲(以下,「被告会社」という。)は,岡山県総社市ab番地(平成13年10月31日以降は同市ac番地d)に本店を置き,A県知事の登録を受けて採石業等を営む事業者,被告人乙は,被告会社の代表取締役として,同社の業務全般を統括管理し,作業員の指揮監督及び安全管理等の業務に従事するとともに,採石業務管理者として,岩石の採取に伴う災害の防止に関する職務を負っているものであるが,第1被告人乙は,被告会社が,A県知事の認可を受けて,昭和47年ころから,同市e字fg番地h所在の通称「f山」(標高271メートル)北側斜面に位置する岩石採取場において,作業員らに地山の掘削及び岩石採取等の作業を行わせるに当たり,同作業を誘因とする地山の崩壊等により作業員らに危険を及ぼすおそれがあったのであるから,あらかじめ地山の形状,地質及び地層の状態を調査した上,掘削面の安全なこう配を維持しつつ,最も安全とされる階段掘削法(ベンチカット法)を用いるなど,作業員らの生命・身体の安全を確保するための万全の措置を講じることはもとより,地山の形状等や岩石崩落の状況等から,大規模な地山の崩壊が予測し得る場合には,これによる死傷事故を確実に回避し得るような安全な場所に作業員らを待避させるべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,あらかじめ地山の形状,地質及び地層の状態を全く調査せず,岩石に亀裂が多く地層が「流れ盤」を呈しているなど,地山が掘削等の誘因により崩壊し易い素因を備えていることを看過したまま,平成10年ころから,階段掘削法を用いないで地山の掘削等を進めるなど,作業員ら- 2 -の生命・身体の安全を確保するための ,地山が掘削等の誘因により崩壊し易い素因を備えていることを看過したまま,平成10年ころから,階段掘削法を用いないで地山の掘削等を進めるなど,作業員ら- 2 -の生命・身体の安全を確保するための万全の措置を講じないで,高さが約230メートル,こう配がのり尻部約72度,中腹部約63度という急傾斜の掘削面を形成させて,大規模な地山の崩壊の危険を生じさせ,平成12年6月22日ころ,東側掘削面の岩石等が崩落し,さらに平成13年3月12日早朝,西側掘削面の岩石等が崩落したことから,大規模な地山の崩壊の危険が迫っていることを予測し得たのに,大規模な地山の崩壊など起こらないものと軽信し,そのころ同作業のため同採石場に来た作業員らを,大規模な地山の崩壊による死傷事故を確実に回避し得るような安全な場所に待避させなかった過失により,同日午前10時13分ころ,地山を山頂から北側斜面にかけての広範囲にわたり崩壊させて約150万立方メートルに及ぶ岩石等を崩落させ,よって,同採石場にいた作業員であるB(当時67歳),同C(当時32歳)及び同D(当時56歳)を岩石等で生き埋めにし,よって,即時同所において,上記B及び上記Cをそれぞれ胸郭運動の障害により窒息死させ,上記Dを不明の原因により死亡させた,第2被告人乙は,被告会社の業務に関し,平成13年3月12日,上記岩石採取場において,労働者である上記Bらを使用して,採石作業を行うに当たり,地山の崩壊等による労働者の危険を防止するため,あらかじめ,当該採石作業に係る地山の形状,地質及び地層の状態を調査した上,その調査により知り得たところに適応する採石作業計画を定め,かつ,当該採石作業計画により作業を行わなければならないのに,これらを行わないで採石作業を行い,もって,採石の業務における作業方法から生ずる危険を防止 り知り得たところに適応する採石作業計画を定め,かつ,当該採石作業計画により作業を行わなければならないのに,これらを行わないで採石作業を行い,もって,採石の業務における作業方法から生ずる危険を防止するため必要な措置を講じなかったというものである。 なお,検察官は,業務上過失致死罪の関係で,被告人乙は,①あらかじめ(すなわち,昭和47年ころから本件岩石採取場において掘削を開始する前に)地山の形状,地質及び地層の状態を調査すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,- 3 -あらかじめ地山の形状,地質及び地層の状態を全く調査せず,岩石に亀裂が多く地層が「流れ盤」を呈しているなど,地山が掘削等の誘因により崩壊し易い素因を備えていることを看過した過失,②掘削面の安全なこう配を維持しつつ,最も安全とされる階段掘削法を用いて,本件現場の崩落を防ぎ,作業員らの生命・身体の安全を確保すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,平成10年ころから,階段掘削法を用いないで地山の掘削等を進めるなど,作業員らの生命・身体の安全を確保するための万全の措置を講じないで,高さが約230メートル,こう配がのり尻部約72度,中腹部約63度という急傾斜の掘削面を形成させて,人の死傷の結果を伴う規模の地山の崩壊の危険を生じさせた過失,③平成12年6月22日ころ,本件岩石採取場の北側斜面東側において,岩石等の崩落が発生したことにより,その後,再び北側斜面の岩石等が崩落する危険が生じたのであるから,地山の形状,地質及び地層の状態を調査するなどして安全が確認できるまで,みだりに本件岩石採取場に作業員らを立ち入らせないことによって,作業員らの生命・身体の安全を確保すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,平成12年6月22日ころに発生した東側掘削面の岩石等の崩落後も地 件岩石採取場に作業員らを立ち入らせないことによって,作業員らの生命・身体の安全を確保すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,平成12年6月22日ころに発生した東側掘削面の岩石等の崩落後も地山の形状,地質及び地層の状態を調査することなく,漫然,同日ころ以降もみだりに本件岩石採取場に作業員らを立ち入らせていた過失,④地山の形状等や岩石の崩落状況等から,人の死傷の結果を伴う規模の地山の崩壊が予測し得る場合には,これによる死傷事故を確実に回避し得るような安全な場所に作業員らを待避させるべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,平成13年3月12日早朝西側掘削面の岩石等が崩落したことから,人の死傷の結果を伴う規模の地山の崩壊の危険が迫っていることを予測し得たのに,そのような地山の崩壊など起こらないものと軽信し,そのころ,同作業のため同採取場に来た作業員らを,いかなる規模の地山の崩壊が発生した場合にも死傷事故を確実に回避し得るような安全な場所に待避させなかった過失があり,被告人乙には,以上の4つの注意義務とその違反としての過失行為があるのであって,いずれか一つでも過失が認められれば,同被告人は業務上過失致死の罪責を負うものであると- 4 -釈明した。 (当裁判所の判断) 当公判廷において取り調べた証拠によれば,以下の事実を認めることができる。 (かっこ内に検察官請求証拠番号を記す。)(1) 被告会社は,被告人乙の義(養)父であるEが個人で始めた商店を前身とし,昭和32年に有限会社となり,昭和39年4月ころから砕石・山土の採取販売を開始し,平成8年7月に組織変更により被告会社が設立された。 被告人乙は,大学を卒業し,土木関係の会社に勤務した後,昭和45年4月,被告会社に入社し,当初は土木部長,昭和46年4月に専務取締役兼土木部長,昭和 成8年7月に組織変更により被告会社が設立された。 被告人乙は,大学を卒業し,土木関係の会社に勤務した後,昭和45年4月,被告会社に入社し,当初は土木部長,昭和46年4月に専務取締役兼土木部長,昭和63年10月に代表取締役となり,本件大崩落時に至った。なお,Bは昭和32年以前から被告会社ないしその前身である商店において稼働し,本件岩石採取場(以下,「採石場」という。)における工場長で現場責任者として,Dは平成元年から採石場においてそれぞれ稼働していた。Cは,砕石を積んで運び出す被告会社専属のダンプカー運転手として採石場に出入りしていた。(検30,68,85,87)(2) 被告会社は,岡山県総社市e字fg番地h所在の通称f山の北側斜面(以下,「本件地山」という。)において採石場を設け,岩石採取を行うこととし,昭和47年,本件地山の斜面18万2889平方メートルについて,その共有者F外35名との間の契約により岩石採取を行う権限を取得し,採石法32条の3第1項に基づく採石業者としてのA県知事の登録を受けるとともに,A県に対し採取計画認可申請を行い,その認可を受けた。認可の期間は当初3年間であったが,その後4年ないし5年ごとに更新が繰り返され,平成9年2月に採取の期間を同年4月1日から平成14年3月31日までの5年間とする採取計画認可申請を行い,平成9年3月31日にその認可を受けた。その認可に係る採取計画認可申請書によれば,岩石の賦存の状況(地形,地質,岩石の走向,傾斜,厚さについて記載)欄に,「全山黒色粘板岩,幅452メートル,奥行- 5 -330メートル,傾斜52度」,年間採取量について「平成9年ないし平成13年まで毎年11万トンないし13万トン」,採掘方法欄に「露天掘,階段採掘法,階段の高さ20メートル,階段の巾20メートル,掘削こう 0メートル,傾斜52度」,年間採取量について「平成9年ないし平成13年まで毎年11万トンないし13万トン」,採掘方法欄に「露天掘,階段採掘法,階段の高さ20メートル,階段の巾20メートル,掘削こう配1:0. 6」,予想される災害の態様欄に「当採石場は表土が少なく岩盤が露出し岩質が硬く,死石がないので崩壊の危険はない。山は急斜面なので落石の無いよう出来るだけ計画どうりベンチカットにし,・・」などの内容が記載され,その認可書においては,「採掘終了時の残壁は崩壊を防止し得る安全勾配を保持し,できる限り階段状とすること」などの認可条件が記載されている。 他方,被告人乙は,昭和48年4月,採石業務管理者試験に合格し,以後継続して被告会社の主たる業務管理者の地位にあった。(検27,30,31,69,70)(3) 本件大崩落当時の採石場の構造をみると,掘削面に続いてその北側に平坦な「土場」と称する,その奥行きが東側から中央にかけて70ないし80メートル,その西側20ないし30メートルの広場があり,その土場に続いて北側には,東部分に高さ10メートルくらいの地山の土手,西部分に高さ30メートルくらいのクラッシャーランと呼ばれる五,六万立方メートルくらいの砕石を集めた台地状の山が形成されており(以下,その土手とクラッシャーランを併せて「土手等」という。),土場はその土手等によって囲まれた盆地状になっており,崩落等があった場合でも,同所には10万立方メートル程度の規模の岩石であれば,これを留めることが可能な広さ,容積を有していた。その土手等の北側にはクラッシャー等と呼ばれる破砕選別機械等が設備されていたほか,製品原石の堆積場,廃車バスを改造した事務所などが所在し,さらにその北側は東西に延びる市道と接し,市道の北側はi川の河川敷が広がっていた。 (検71,80 呼ばれる破砕選別機械等が設備されていたほか,製品原石の堆積場,廃車バスを改造した事務所などが所在し,さらにその北側は東西に延びる市道と接し,市道の北側はi川の河川敷が広がっていた。 (検71,80,82,132,証人G)(4) 採石場での作業内容は,地山の岩盤を穿孔して火薬を装填し,岩盤を発破し,発破によって切り崩した岩石をパワーショベルやブルドーザーを用いて下に落とすずり出しなどの作業(以下,「発破ずり出し作業」という。)をし,その- 6 -岩石を上記破砕選別機械により砕石し,これをダンプカーにより運び出すというものである。そして,被告会社は,昭和60年ころから平成10年7月ころまでの間は有限会社H(代表取締役I。以下,「H」という。)に発破ずり出し作業を請け負わせ,同月ころ以降は,すでにある発破後の岩石を砕石等して運び出す作業をし,平成11年6月から有限会社J(代表取締役K。以下,「J」という。)に発破ずり出し作業を請け負わせた。その作業方法は,Hについては,作業を開始した当時,頂上よりかなり下の地点からその下の中腹辺りまで階段状の掘削が進んでいたため,中腹地点よりさらに下に向けて階段状に順次発破ずり出し作業を行い,下場まで掘削が進むと,また上部から同じ方法で下場まで同作業を行うというものであった。そのころに形成された小段の形状は,奥行き幅が,大型ブルドーザー2台が対向して通行できるくらい,高さが,パワーショベルが腕を伸ばしたくらいのものであった。Jについては,本件地山斜面西側において,上方から下方に向けて発破ずり出し作業を行い,それにより階段状の掘削面が三,四段形成されていた。また,各段の実際の掘削の方法についても,計画では高さ20メートル,奥行き幅20メートルとされていたが,実際上は,高さについてはパワーショベルの腕の届く により階段状の掘削面が三,四段形成されていた。また,各段の実際の掘削の方法についても,計画では高さ20メートル,奥行き幅20メートルとされていたが,実際上は,高さについてはパワーショベルの腕の届く範囲,奥行き幅については大型ブルドーザーによる作業が可能になる程度といった方法で施工されていた。そして,複数の階段状の掘削面が残壁として出現する際には各段の奥行き幅は数メートル程度であった。そのようにして掘削が行われた結果,採石場の東側掘削面と中央付近掘削面の岩盤が露出して断崖状の斜面を形成し,西側は,ブルドーザー等の通り道となる「く」の字状に幾重にも折れ曲がった作業道が頂上近くまで延び,それぞれの外側には樹木が生い茂っていた。 (検45[抄本],58[抄本],60[抄本],証人L,同K)(5) そのような中で平成12年6月22日,本件地山東側の岩盤3万ないし4万立方メートル(検27添付平面図1/500,証人L)が崩落したが,人身被害を出すことなく,その崩落岩石は上記土場の中に納まった。被告人乙は,当該崩落部- 7 -分は約30年くらい前に掘削した後掘削していなかった部分であったこと,その崩落前に大雨が降ったこと及びその辺りはその崩落前から表面部分が崩れやすいものと認識していたことなどから,掘削作業が原因となって当該崩落が生じたのではなく,その大雨の影響による当該箇所の岩盤の緩みが原因で崩落が生じたものと判断し,また,当面その辺りの斜面を掘削する予定はなかったため,崩落の原因調査を行わなかった。(検72,73,76,82,証人M,同L,同K)なお,それより前に生じた崩落としては,平成9年7月23日ころ,台風による大雨のため崩落があったとN地方振興局建設部管理課係員による採石立入検査現地調査書に記録されているが,その規模,崩落箇所等は明らか ,それより前に生じた崩落としては,平成9年7月23日ころ,台風による大雨のため崩落があったとN地方振興局建設部管理課係員による採石立入検査現地調査書に記録されているが,その規模,崩落箇所等は明らかではなく,その後上記平成12年6月22日の崩落まで特に目立った崩落があったことは記録されていない。(検27)(6) そして,平成13年3月12日本件大崩落が発生したのであるが,そこに至る経過は以下のとおりである。すなわち,同日午前6時13分ころ,二,三分の間隔をおいて2回,本件地山中央やや西側部分において,小規模な岩盤の崩落が生じた。被告人乙は,同日午前6時30分ころ,これを目撃した採石場の近隣住民であるOから通報を受け,午前7時過ぎころ,採石場に赴き,上記クラッシャーランの上から,数分程度の間,採石場の様子を見渡したり,耳を澄まして音を聞いたりして,本件地山の様子を確認したが,斜面中腹部の岩盤が崩落して一辺が10メートルくらいの四角形状に薄皮をめくるようにずれ落ちて,土場に11トンダンプカー四,五台分くらいの岩石が堆積しているのを認めたものの,その他には崩落した箇所を確認できなかったため,既に出勤してきていたダンプカー運転手Mにも特にその確認した状況を告げたり,崩落に注意するように指示するなどの行動をとることもなく採石場を立ち去った。(検42,47[抄本],48[抄本],49[抄本],52,72,73,80,82,被告人質問第17回公判)(7) その当日採石場に出勤してきたのは,上記B,D,Cのほか,被告会社従業- 8 -員P,J従業員L,上記Mの6名である。当日は,午前7時5分ころにMが,午前7時45分ころにDが,その後午前7時50分ころまでにB,L及びPがそれぞれ出勤し,そのころCもダンプカーで出勤して来た。B,D,Pの3名は, 記Mの6名である。当日は,午前7時5分ころにMが,午前7時45分ころにDが,その後午前7時50分ころまでにB,L及びPがそれぞれ出勤し,そのころCもダンプカーで出勤して来た。B,D,Pの3名は,岩盤の一部が崩落していることに気付き,話し合った結果,当日は作業を中止し,地山の様子を監視することとしたが,Lは,本件大崩落が発生するまで,本件地山の西側斜面上部において,バックホーによる破砕岩のずり出し作業を行っていた。BとPは,事務所の中にいたり,事務所の外で地山の様子を見たりしていた。Dは,ほとんど事務所内にいたが,途中,CとMのダンプカーへ砕石を積載する作業を行った。CとMは,午前8時10分ころダンプカーに乗って採石場を出発し,取引先に砕石を運搬したが,その後,Mは採石場に戻り,DがMのダンプカーに砕石を積載すると,午前9時10分ころ,Mは再び,ダンプカーに乗って採石場を出て上記取引先に向かった。その後,Cが採石場に戻ってきた。午前9時過ぎころ,斜面中腹やや西寄りの岩盤の表面がはがれ落ち,ダンプカー1台分くらい量の落石が採石場西寄りの土場に堆積した。 その様子を見たPは,Bにこれを知らせた。その後,BとPが採石場の西端付近において山肌を監視していたが,そのころには,採石場東側斜面上部の岩盤等から人間の頭程度の大きさの岩石が10分ないし20分ごとに不規則に落石する状況であったところ,午前10時ころになって,再び斜面中腹やや西寄りの岩盤の表面がはがれてすべり落ちた。そのとき,Bが「タイヤショベルを移動する。」と言い,Pが制止したのを無視して上記破砕選別機械設備南側に停めていたタイヤショベルのところまで歩いて行った。午前10時過ぎころ,Dは,事務所の少し西側に立っており,Pからの,大丈夫かという呼びかけに対し,両手を上にして丸の形を作り,大 選別機械設備南側に停めていたタイヤショベルのところまで歩いて行った。午前10時過ぎころ,Dは,事務所の少し西側に立っており,Pからの,大丈夫かという呼びかけに対し,両手を上にして丸の形を作り,大丈夫だという合図をした。Cは,事務所南側に停止させたダンプカーの側に立っていた。しかし,Bがショベルカーを運転して,元いた場所の方に戻ろうとする途中,午前10時13分ころ,まず,斜面中腹中央西寄りの高さ約30メートル,横幅約30メートルの岩盤がはが- 9 -れ落ち,続けて,本件地山の山頂を越え,その南側やや下辺りから山頂自体がずり落ちる態様で採石場北側斜面全体が崩れ落ちるように崩落した。Bはタイヤショベルに乗ったままの状態でずり落ちてきた岩石などに押し出され,DとCは岩石等に埋まった。PとLは西の方向に向かって走って逃げたため,崩落に巻き込まれることを免れた。その崩落した岩石等は,採石場の北側の市道を覆い,i川流域内にまで及んだ。(検1,3,32,36[抄本],37[抄本],42,50[抄本],52,証人L)本件大崩落の結果,B及びCは,いずれも胸郭運動の障害により窒息死し,Dは不明の原因により死亡した。(検10ないし25)本件大崩落によって流出した岩石等の量は,複数の専門家が独自の立場から計算しているところ,そのいずれか1つを厳密に科学的に間違いないものとして採用することはできないものの,これらはいずれも相応の根拠を有しているものであり,それらの計算によると,その量は少なくとも76万8000立方メートル,最大で150万立方メートルと計算されている。(検8,102,132,証人Q,同R,同G)(8) 本件大崩落の原因について,その後の専門家による調査等によれば,本件地山は,舞鶴層群に属する粘板岩ないし粘板岩起源の岩石で構成されていたが, る。(検8,102,132,証人Q,同R,同G)(8) 本件大崩落の原因について,その後の専門家による調査等によれば,本件地山は,舞鶴層群に属する粘板岩ないし粘板岩起源の岩石で構成されていたが,層理面が傾斜とほぼ同一方向の流れ盤を呈しており,かつ層理面に沿った節理及び層理面と高角度に斜交する節理が発達し,高角度の傾斜を有する断層が多数あり,それらの中には断層破砕帯を挟在させているものもあったことから,斜面が不安定になると,層理面に沿って崩壊しやすく,また,崩壊する場合にはすべり面となる層理面が深い場合も多く,規模が大きな崩壊を起こす構造を有していた。(証人G,検132等)なお,弁護人請求証人Sの供述及び同人作成の「メモ送付の件」と題する書面添付の「総社市岩盤崩壊個所の地質について」と題する書面及び末尾添付図(弁6)によれば,同添付図F1ないしF4と記載された4箇所の層理面と高角- 10 -度をなす断層等が本件大崩落の大きな原因ないし素因として作用したことが判明している。 そして,本件地山がそのような構造ないし素因を有した上,被告会社による本件地山の掘削によりその形状が変更された結果,本件地山の安定が崩れて本件大崩落が発生した。なお,ダイナマイトによる岩盤の発破や降雨,地震等が本件大崩落の要因になったものではないことが判明している。 さらに,本件大崩落のすべり面の形状等についてみるに,これを厳密に科学的に確定することはできないが,その滑り線の上部は本件地山の山頂を越えた反対側である南側斜面標高約270メートルの地点,その下部は本件地山北側斜面標高約100メートルの地点であり,その間の高低差は約170メートル,すべり面の長さは約240メートル,すべり面の傾斜角度は直線滑りとして約45度であったものと考えられる。(検7,110,証人T 斜面標高約100メートルの地点であり,その間の高低差は約170メートル,すべり面の長さは約240メートル,すべり面の傾斜角度は直線滑りとして約45度であったものと考えられる。(検7,110,証人T,同U)(9) これに対し,被告会社において,昭和47年以降本件大崩落までの間,本件地山の地質,地層の状態等について,当初の認可申請をする際の調査以外には,改めて専門家に調査を依頼したり,ボーリング調査等をしたりすることはなかった。 なお,Vの警察官調書等(検54,129[不同意部分を除く],130)によれば,本件採石場山頂付近西側で,平成12年11月8日とその後の平成13年1月6日ころまでの間に合計2回岩盤が崩落したかのような供述がなされているが,上記のとおりJが平成11年6月ころから本件採石場の作業に従事するようになり,同社は被告人乙と協議の上山頂部付近の西側から掘削することを計画し,その準備のため,山頂部に向けた作業道を作り,山頂部の表土を留める場所を作っていたものであるところ(証人K,被告人質問第18回公判),平成12年11月8日にVが撮影した写真(検130)には,山頂部付近にショベルカーが撮影されていることからすると,Vがその日に目撃した状況は,Jが上記山頂付近を造成するための作業であった可能性が大きく,また,平成13年1月6日にVが撮影した写真(検- 11 -130)には,その後の作業の結果山肌が変容した状況が撮影されているだけであるとみることができるから,上記各崩落の事実を認めることはできない。 また,証人Mは,本件採石場における掘削方法について,平成11年6月にJが発破ずり出し作業を開始する前,掘削面の最下部にBとPが爆薬を装填して発破する方法で掘削作業をしていた旨供述するが,他方で,Mは,その際にも斜面下部を発破した結 削方法について,平成11年6月にJが発破ずり出し作業を開始する前,掘削面の最下部にBとPが爆薬を装填して発破する方法で掘削作業をしていた旨供述するが,他方で,Mは,その際にも斜面下部を発破した結果,その上部が崩れる場面を見てはいないとも供述していること,Mはチャーター運転手であって,1日に10数回程度,石材を積載するために,本件採石場にダンプカーを乗り入れることはあったが,掘削作業現場に立ち入ることは多くなく,掘削作業を詳細に目撃しうる状況にはなかったと認められること,被告会社では発破によってずり出した岩石をさらに発破を用いて細かくする小割作業を行っていたと認められ(検70),Mは,この小割作業を目撃して,斜面下部を発破していると誤認した可能性を否定しきれないことなどに照らすと,被告会社が,平成11年6月以前に,斜面下部に爆薬を装填して発破する方法で掘削していたということはできない。 上記の認定事実を前提として検察官の主張する各訴因が認められるかについて以下検討する。 (一) 先ず,あらかじめ(すなわち,昭和47年ころから本件現場において掘削を開始する前に)地山の形状,地質及び地層の状態を調査すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,あらかじめ地山の形状,地質及び地層の状態を全く調査せず,岩石に亀裂が多く地層が「流れ盤」を呈しているなど,地山が掘削等の誘因により崩壊し易い素因を備えていることを看過した過失があるとの検察官の主張について検討する。 上記のとおり,被告会社において,昭和47年以降本件大崩落までの間,本件地山の地質,地層の状態等について,当初の認可申請をする際の調査以外には,改めて専門家に調査を依頼したり,ボーリング調査等をしたりしてはいない。 - 12 -しかし,被告会社において,A県に対し採取計画認可申請をする 態等について,当初の認可申請をする際の調査以外には,改めて専門家に調査を依頼したり,ボーリング調査等をしたりしてはいない。 - 12 -しかし,被告会社において,A県に対し採取計画認可申請をするにあたり,岩石の賦存の状況や崩落の危険性の有無等についての調査に基づき採取計画認可申請書を作成提出しているところ,その内容をみると,上記1・のとおり,採石の対象となる本件地山の地質は全山黒色粘板岩で,その幅452メートル,奥行330メートル,その傾斜52度であること,その地山は表土が少なく岩盤が露出し岩質が硬く,死石がないので崩壊の危険はないこと等とされており,その内容は,流れ盤構造を有していることや断層及び節理の存在等を除けば,上記1(8)に記述した本件事故後の専門家による地質等の調査結果と符合するものである。そして,証人Gの供述及び照会事項回答書(検132)に証人S及び「メモ送付の件」と題する書面(弁6)等(本件地山の地質や地層の状況,特に本件大崩落の素因となった諸断層の存在及び層理面との角度,その発見可能性等について,上記両証人がそれぞれ供述等しているところ,両者はともにW大学防災研究所地盤災害研究部門に所属し,Gは地球物理方面,Sは地質鉱物学方面を専門領域とするため,やや違った観点ないし視点からの供述があるものの,全体としてみると両者の各供述の間に矛盾はないと理解される。)を検討すると,流れ盤構造を有することについては,流れ盤であること自体は珍しいことではなく,そのことから直ちに地山の崩壊が予測できるものではないこと,上記のとおりの断層及び節理を有することについては,それらの節理の発達程度は,この地域の舞鶴層群の地層としては普通に見られるものであって,それ自体特殊なことではなく,また,それらは外見からこれを見出すのは困難であること 節理を有することについては,それらの節理の発達程度は,この地域の舞鶴層群の地層としては普通に見られるものであって,それ自体特殊なことではなく,また,それらは外見からこれを見出すのは困難であること等の事情を認めることができる。また,上記平成12年6月の崩落が発生したものの,その崩落後においても,認可権者であるAからもその崩落の原因が断層等の地質構造に起因することについての特段の指摘を受けたことはなく,それらの断層や節理の存在等を認識させるに足る事情があった状況も認められない。したがって,本件においては,被告人乙において,その崩落の原因が大雨が降ったことによる当該箇所の岩盤の緩みにあると考えたのも不合理ではな- 13 -く,上記断層や節理の存在等についての認識を全く有していなかったのも無理はないと考えられる。また,地質,地層の状態を調査する方法として,ボーリング調査や弾性波探査等の方法もあり,崩落の予知の方法として伸縮計を設置するという方法もあるが,上記両証人の各供述等によれば,上記の断層は地層と高角度をなしているものが多いことからボーリング調査をしてもその状況の発見は困難であったことが認められ,弾性波探査や伸縮計の設置についても,相当の費用を要することなどから当時他の採石場においてもそのような探査や設備の設置等が行われることはなく,また,それらを必要とするような具体的兆候があったともいえない。これらの事情からすると,被告会社において,ボーリング調査,弾性波探査,伸縮計の設置等をすべき義務があったと言うのは難きを強いるものと言わざるを得ない。したがって,被告会社において,上記認可申請をするに際して行われた調査の内容を越えた調査義務があったとはいえず,上記認可申請時の調査をもって法令の要求する調査義務を果たしていたと認められる。 そう したがって,被告会社において,上記認可申請をするに際して行われた調査の内容を越えた調査義務があったとはいえず,上記認可申請時の調査をもって法令の要求する調査義務を果たしていたと認められる。 そうすると,この点についての検察官の主張は採ることができない。 (二) 次に,掘削面の安全なこう配を維持しつつ,最も安全とされる階段掘削法を用いて,本件地山の崩落を防ぎ,作業員らの生命・身体の安全を確保すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,平成10年ころから,階段掘削法を用いないで地山の掘削等を進めるなど,作業員らの生命・身体の安全を確保するための万全の措置を講じないで,高さが約230メートル,こう配がのり尻部約72度,中腹部約63度という急傾斜の掘削面を形成させて,人の死傷の結果を伴う規模の地山の崩壊の危険を生じさせた過失があるとの検察官の主張について検討する。 (1) 先ず,階段掘削法の意味について検討するに,専門書(日本砕石協会発行「採石読本上巻」[弁護人請求証拠番号1]等)によると,階段掘削法というのは,岩石等の採掘対象物を,上部より階段状に掘削する方法であるとこ- 14 -ろ,検察官は,本件において,上記認可にかかる階段掘削法における高さ20メートル,奥行き幅20メートルというのは掘削後の残壁の状態を指すかのような主張をする。 しかし,捜査関係事項照会回答書(検27)添付の採取計画認可申請書添付横断図等によれば,掘削後の階段構造の残壁の底辺(以下,「ベンチ部分」という。)の奥行き幅は明らかに20メートルに満たない幅のものとして図示されて,それが認可されていること,上記1(2)の認可書における「採掘終了時の残壁は崩壊を防止し得る安全勾配を保持し,できる限り階段状とすること」との認可条件においても,ベンチ部分についての具体的な奥行き ,それが認可されていること,上記1(2)の認可書における「採掘終了時の残壁は崩壊を防止し得る安全勾配を保持し,できる限り階段状とすること」との認可条件においても,ベンチ部分についての具体的な奥行き幅についての指示はなく,できる限り階段状とすることという表現からすると,場合によっては奥行き幅がなくてもよいかのような理解すら可能であること,さらには,捜査関係事項照会回答書(検27)添付の採石立入検査現地調査書及び被告人乙の供述によれば,採取計画を認可したA県N地方振興局建設部管理課の職員が,本件採石工場に定期的に立入検査を行い,採取区域,採取の方法等(掘削方法等),災害防止等についての点検をし,指摘すべき事項があれば,その旨の指摘を行うなどの活動を行っており,その立入検査は,複数名のA県職員が図面を見ながら30分から1時間くらいの時間をかけて行うというものであるが,本件採石場における残壁の状況が上記高さ20メートル,奥行き幅20メートルといったものでないことは明らかであり,これが認可内容と異なるものであれば,何らかの指摘がなされているはずであるのに,そのような指摘は全くなされていないことをも併せみると,上記認可に係る階段掘削法の内容とされている「高さ20メートル,奥行き幅20メートル」,「掘削こう配1:0.6」との意味は,各段の掘削過程における掘削方法を指していると解される。したがって,当初の第1段目はその高さ及び奥行き幅を目処にして掘削するが,第2段目を掘削する際は,第1段目のベンチ部分の奥行き幅につき,第3段目を採掘する際は第2段目のベンチ- 15 -部分の奥行き幅につき,以下第4段目,第5段目等の下部に掘り進んでいく場合には,それぞれその直前のベンチ部分の奥行き幅につき,20メートルの幅をそのまま残すことは求められておらず,第 - 15 -部分の奥行き幅につき,以下第4段目,第5段目等の下部に掘り進んでいく場合には,それぞれその直前のベンチ部分の奥行き幅につき,20メートルの幅をそのまま残すことは求められておらず,第2段目以降は,その残壁及びその上部の残壁を全体として,崩壊を防止し得る程度のこう配を保持する階段状態を残すことで足りると認められる。 そして,被告会社において地山の上部から下部に順次階段状に掘削していく方法で掘削が行われていたこと自体は,I,K,X及び被告人乙が,それぞれ各段の高さ及び奥行き幅の程度については若干区々となる供述をしているものの,一致して供述しており,そのような方法以外のたとえば傾斜面採掘法などを採用していた様子は証拠上窺われない。 以上の諸点からすると,被告会社において,継続して階段掘削法による掘削が行われていたと認められる。 これに対し,証人Mは,「平成10年12月当時,e採石場では,階段掘削法によって掘削されている部分は全くなかった。その後Jが階段掘削法で掘削を始めたがそれは全体の中ではごく一部であった。」旨の供述をしているが,その供述については,Mは証言時本件採石場の航空写真写しに階段掘削法が行われていなかった場所を図示しているところ,その図示した範囲には,その写真上に何段かの階段状の掘削面が写し出されているほか,Mが末尾に記載したその掘削面の状況はほぼ垂直に記載されており,後記Yが作成した断面図等によって認められる現実の掘削面の角度と大きく相違していること等からすると,Mの証言は信用性が乏しいと言わざるを得ない。 なお,検察官は,その論告において,その主張に係る「最も安全とされる階段掘削法」における注意義務の内容としては,「掘削面の安全なこう配を維持して本件採石場の崩落を防ぎ,作業員らの生命・身体の安全を確保すべき注意 ,その論告において,その主張に係る「最も安全とされる階段掘削法」における注意義務の内容としては,「掘削面の安全なこう配を維持して本件採石場の崩落を防ぎ,作業員らの生命・身体の安全を確保すべき注意義務」であり,その内容は,掘削後の状況が,高さ約20メートル,奥行き幅約20メートルになるようにし,平均傾斜角度が45度となるよう- 16 -に掘削することであると初めて明確に主張するに至った。しかし,そのような態様の階段掘削法が採取計画認可の条件になっていないことは上記したとおりであり,実質的な注意義務の内容として考えた場合でも,本件大崩落前には上記断層や節理の状況が判明していなかったのであるから,被告会社に対して,そのような態様の掘削方法を採ることを要求することはできない。 (2) 次に,高さが約230メートル,こう配がのり尻部約72度,中腹部約63度という急傾斜の掘削面を形成させて,人の死傷の結果を伴う規模の地山の崩壊の危険を生じさせた過失があるとの検察官の主張について検討する。 ア先ず,客観的な掘削面の状況について検討するに,株式会社Y(以下,「Y」という。)は,本件崩壊事故後,総社警察署からの依頼により,「総社市e地内・採石場岩石崩落事故現場測量図面化委託業務作業報告書」と題する書面(図面添付〔検97〕。以下,その図を「検97図面」と言う。),図面(「総社市e地内・採石場岩石崩落事故現場測量図面化委託業務」等と記載のもの,メッシュ入り)(検101),図面(検103[不同意部分を除く]添付のもの。検97と検101の各図面を基にして作成されたもの。 以下,「検103図面」という。)を作成しているところ,その作成について,証人Qは,「Z市から本件採石場を平成9年9月10日に撮影した航空写真を,A県から本件採石場を平成12年6月6日に撮影し の。 以下,「検103図面」という。)を作成しているところ,その作成について,証人Qは,「Z市から本件採石場を平成9年9月10日に撮影した航空写真を,A県から本件採石場を平成12年6月6日に撮影した航空写真を借り受け,また,この2葉の航空写真に加え,Yが平成13年3月14日に撮影した本件採石場の航空写真を基に,解析図化機を用いて,本件採石場を図面化していき,検97,検101の各図面を作成した。解析図化機を用いれば航空写真を立体視することができるが,そのようにして捉えた数値をキャドーというコンピューターのシステムに展開すると画面の中に表現できることとなる。そのような作業を大体7年から8年の経験を有する熟練者が行っている。作成した図面の精度は水平距離で1.0メートル以内の誤差,標高点及び等高線は0.5メートル以内の誤差に,ただ- 17 -し,平成9年航空写真にかかる図面では,標高点及び等高線は0.333メートル以内の誤差である。航空写真上に樹木がある部分や影になっている部分は周辺の地表面が現れている部分から読みとって地形を判断しているので等高線の精度は劣っている。今回作成した図面は現地での精度チェックができなかったので上記の誤差は建前であって,実際の誤差とは異なる。」などと供述している。その証人Qの供述によれば,Yが作成した検97図面及び検103図面は,弁護人の指摘する,歪みが発生するなどの問題点を考慮したとしても,航空写真に基づき,熟練した作業員が専門の器械を用いて実際の掘削面の形状との誤差が最小限となるように作成されたものであること,本件採石場の掘削がなされている部分は,樹木が生育しておらず,岩盤が見える状態であり,解析図化機による観測が容易であって,Qの述べる以上の誤差は生じないと認められること,Yのパンフレット(検96)に 件採石場の掘削がなされている部分は,樹木が生育しておらず,岩盤が見える状態であり,解析図化機による観測が容易であって,Qの述べる以上の誤差は生じないと認められること,Yのパンフレット(検96)によれば,同社は空中写真測量について相当程度の調査能力と実績を有していることからすると,上記検97図面や検103図面は,厳密に真実の掘削面の状況を再現したものではないものの,ほぼ本件大崩落前の掘削面の形状を表しているものと認められる。 そして,捜査関係事項照会回答書(断面図添付。検7。以下,この断面図を「検7断面図」という。)及び証人Uの供述によれば,Uは,上記Y作成の図面に依拠して災害発生前断面図を作成しており,その断面図は,大学で防災工学を専攻し,その後地盤関連の掘削工事の安全に関する研究に従事してきたUがその専門的知見に基づき作成したもので,ほぼ実際の掘削面を表したものとしての相応の信頼性があると認められるところ,その断面図によれば,本件大崩落前ころ,その掘削面ののり尻部の斜度が約72度,中腹部のそれが約63度であったものと認められる。 したがって,本件大崩落前,検察官主張に係る傾斜角度の掘削面が出現していたことが認められる。 - 18 -イ①しかし,地山の斜面の崩壊,特に大規模な崩壊が問題となる本件事案においては,斜面の全体的な傾斜角度が重要であるから,先ずその点についてみるに,上記検7断面図においてのり尻部であると認められる18と記載されている地点とのり肩部であると認められる52と記載されている地点の間の高低差は約200メートル,水平距離は約120メートル,その傾斜角度は約60度であるものの,地山の崩落においては,滑り面より上の地山の重量が滑りに対する抵抗力を上回り崩落したのであり,すべり面より下の地山は,崩落に影響を及ぼしていな 約120メートル,その傾斜角度は約60度であるものの,地山の崩落においては,滑り面より上の地山の重量が滑りに対する抵抗力を上回り崩落したのであり,すべり面より下の地山は,崩落に影響を及ぼしていない以上,重視すべき傾斜角度は,滑り線の下部とのり肩部の間のものとみるのが相当であるから,上記検7断面図のうち「すべり線の推定」と題する「図-4」によれば,同図に25と記載されている地点(標高約100メートルの地点)が推定滑り線の下端であるところ,その地点と同図に52と記載される地点の間の高低差は約160メートル,水平距離は約100メートル,その傾斜角度は約58度である。 なお,証人Uの供述によれば,滑り面の下部は地点25よりもっと下方の可能性があるというのであるが,Uは,そのような可能性を考慮しても,滑り面の下部は上記地点25とするのが相当と判断していると考えられ,また,上記「メモ送付の件」と題する書面(弁6)によれば,S教授は,滑り面の下部は標高約120メートル以上の地点であるとしていることも考慮すると,滑り面の下部は検7断面図の図-4の25地点とみて検討するのが相当と考えられる。 ②加えて,Yは,検103図面において,本件採石工場の掘削面を12等分し,各横断面の斜度を算出しているが,その12等分された各横断図における平均斜度は,平成9年9月10日及び平成12年6月6日時点(上記した同月22日の崩落後は,同年末ころまでその崩落岩石を製品化して出荷する作業を行い,新たな岩盤発破は行っておらず,平成1- 19 -3年1月以後本件大崩落時までは本件地山頂上の下部西側を発破等していただけであるから,基本的には本件大崩落時の掘削面は平成12年6月時点のそれと大差ないものと認められる。)とも約56度前後である。 ウまた,上記のとおり,採取計画認 地山頂上の下部西側を発破等していただけであるから,基本的には本件大崩落時の掘削面は平成12年6月時点のそれと大差ないものと認められる。)とも約56度前後である。 ウまた,上記のとおり,採取計画認可申請及び認可決定にかかる掘削方法は,掘削面の全体的なこう配が高さが1に対し奥行き幅が0.6の割合(約59度)であり,上記(二)(1)のとおりその下段の採掘に進む場合には,その割合が0.6のベンチ部分をさらに切り崩すことも許されていたのであるから,残壁の全体としてのこう配は約59度を上回る急角度になることも容認されていたといわなければならない。 エなお,検97図面及び検103図面によっても,一部分を取り出せば,平成9年9月10日及び成12年6月6日時点において,80度前後に及ぶ傾斜角を有する掘削面が認められ,それらの部分は上記各角度を算定した線の外側に膨らんだ部分であるから,滑り面より上の地山の重量を増すものであるが,その滑り面より上の岩体部分に占める程度は大きくない上,残壁の全体としてのこう配が約59度を上回る急角度になることも容認されていたことをも併せみると,その点が上記立論に影響を及ぼすとは考えられない。 オ検察官が主張するように,被告人乙が,各段とも残壁の高さ20メートル,そのベンチ部分の奥行き幅20メートルの残壁を残す方法で階段掘削法を用いて掘削作業を行っていれば,平均こう配は最大限でも約45度となり,本件大崩落は生じなかったものと認められるが(検7,131[不同意部分を除く]),被告人乙は,当時大崩落の素因となる流れ盤や断層等の存在を知らず,また,その存在を認識し,あらためて地山の地質や地層等を調査しなければならないと動機づけられる状況もなかったから,その当時の知り得た地山の状況を前提として,これに一応は適応した掘削を行って を知らず,また,その存在を認識し,あらためて地山の地質や地層等を調査しなければならないと動機づけられる状況もなかったから,その当時の知り得た地山の状況を前提として,これに一応は適応した掘削を行っていたと考えられる。 - 20 -カこれらの諸点を併せみると,検察官が主張するとおり掘削面ののり尻部の斜度が約72度,中腹部のそれが約63度であったことを前提としても,そのことによって,被告人乙が,急傾斜の掘削面を形成させて,人の死傷の結果を伴う規模の地山の崩壊の危険を生じさせた過失があるということはできない。 (三) 次に,上記平成12年6月22日ころの岩盤の崩落が発生したことにより,その後,再び斜面の岩盤が崩落する危険が生じたのであるから,さらに地山の形状,地質及び地層の状態を調査するなどして安全が確認できるまで,みだりに本件採石場に作業員らを立ち入らせないことによって,作業員らの生命・身体の安全を確保すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,地山の形状,地質及び地層の状態を調査することなく,漫然,同日ころ以降もみだりに本件採石場に作業員らを立ち入らせていた過失があるとの検察官の主張について検討する。 (1) 先ず,上記のとおり,平成12年6月22日ころ,採石場東側残壁において3万ないし4万立方メートルの岩盤が崩落したことが認められるところ,上記証人Gに同Sの各供述等を併せみると,その崩落の原因はその付近に存在した断層によるもので,その断層は上記1(8)に記述した本件大崩落の発生に寄与した断層と同種ないしその一部であったものと考えられる。したがって,平成12年6月の崩落の後,被告人乙において,徹底的な地質,地層の調査等を行っておれば,本件大崩落に寄与した断層等を発見することができ,本件大崩落を予見することができたのではないかという たがって,平成12年6月の崩落の後,被告人乙において,徹底的な地質,地層の調査等を行っておれば,本件大崩落に寄与した断層等を発見することができ,本件大崩落を予見することができたのではないかということも一応検討しなければならない。 (2) しかし,被告人乙が,その崩落の原因調査を行わなかった理由は,当該崩落の原因は大雨による当該箇所の岩盤の緩みにあると判断したためであるが,そのころ相当量の降雨があったことは事実であり,その崩落後においても,認可権者であるA県からもその崩落の原因が断層等の地質構造に起因するこ- 21 -とについての特段の指摘を受けたことはなく,採石場において被告会社が形成していた掘削面は傾斜及び残存ベンチ部分のいずれにおいても認可条件に適合していたことに加え,上記諏訪浩は,「本件地山の地質構造を知っているのであれば,本件大崩落規模の崩壊を予想することもできるが,そうでなければその予見は困難である。平成12年6月の崩落を念頭に置いたとすると,その際の崩壊土量3万ないし4万立方メートルの数倍程度の崩壊しか予見できないのではないかと思われる。」との見解を述べ,被告人乙が本件大崩落の発生を予見しなかったのも無理はないとの見解を示していることをも併せみると,被告人乙において,その崩落の原因が大雨による当該箇所の局所的な岩盤の緩みにあると考えたとしてもそれが不合理であるとはいえず,その崩落を契機として採石作業を中止して本件地山の地質構造等についての徹底した調査を行う必要性を認識しなかったとしてもやむを得ないものである。 (3) したがって,平成12年6月22日の崩落があったからといって,被告人乙に対し,あらためて,地山の形状等の調査を行うべき義務が生じると認めることはできない。 そうすると,この点についての検察官の主張も採るこ って,平成12年6月22日の崩落があったからといって,被告人乙に対し,あらためて,地山の形状等の調査を行うべき義務が生じると認めることはできない。 そうすると,この点についての検察官の主張も採ることができない。 (四) さらに,地山の形状等や岩石の崩落状況等から,人の死傷の結果を伴う規模の地山の崩壊が予測し得る場合には,これによる死傷事故を確実に回避し得るような安全な場所に作業員らを待避させるべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,平成13年3月12日早朝西側掘削面の岩石等が崩落したことから,人の死傷の結果を伴う規模の地山の崩壊の危険が迫っていることを予測し得たのに,そのような地山の崩壊など起こらないものと軽信し,そのころ,同作業のため採石場に来た作業員らを,いかなる規模の地山の崩壊が発生した場合にも死傷事故を確実に回避し得るような安全な場所に待避させなかった過失があるとの検察官の主張について検討する。 - 22 -(1) この点,訴因の記載に従い,平成12年6月22日の崩落をも含めて検討するに,本件大崩落以前に採石場において生じた最大規模の崩落は平成12年6月の崩落であったが,その規模は3万ないし4万立方メートルの岩石が崩落するというものであり,本件大崩落とは全く規模を異にし,かつ,その原因が大雨による岩盤の緩みにあると判断した経緯に不合理な点はないことは上記したとおりである。また,本件大崩落当日の早朝,被告人乙が上記Oからの電話連絡を受けて自ら採石場に赴いて確認した崩落の規模は11トンダンプカー四,五台分くらいの小規模なものであり,被告人乙が同所に数分滞在して,地山の様子を観察したところ,特に異常を窺わせるような状況にはなかったことことに加え,上記Gは,その証人尋問及び同人作成の回答書(検132)において,「本件採石工場で長 告人乙が同所に数分滞在して,地山の様子を観察したところ,特に異常を窺わせるような状況にはなかったことことに加え,上記Gは,その証人尋問及び同人作成の回答書(検132)において,「本件採石工場で長年働いてきたBら従業者においては,当日午前9時10分ころには,採石場のほぼ全幅にわたって大きく崩壊する状況が差し迫っていることが予見可能であったと思われるが,地質構造を知らない上記従業者には,崩落する岩体の総体積を予見するのは難しい。崩落の規模を予想したとしても,前年6月の崩落量の数倍程度の崩落で済み,崩落岩石は土場の中に納まるだろうと考えたであろう。」との見解を述べていることなどを併せみると,本件大崩落当日の被告人乙が認識した上記崩落を本件大崩落の予兆として認識しなかったこともやむを得なかったというほかない。したがって,被告人乙が本件大崩落当日,そのような大崩落が起きることを予見することができかったのはやむを得なかったと認められる。 (2) また,被告人乙は,本件大崩落当日午前7時過ぎ以後も本件採石場に留まり,更に地山の状況を監視すべきであったということもいえないではなく,そのようにすればその後に続く多数回の小崩落を認識することができたのであるが,過去最大の崩落であった上記平成12年6月の崩落量が3万ないし4万立方メートルであったことからすると,被告人乙において本件大崩落当日発生するかも知れない崩落として予見可能な崩落量は最大でその数倍程度- 23 -と言わなければならないから,結局その程度の崩落量は土場の中に納まると考えられることになる。 (3) したがって,上記ア,イいずれの検討によっても,被告人乙に,検察官の主張する従業員らを採石場外の安全な場所に退避させるべき注意義務があったとはいえない。 (4) そうすると,この点についても検察 ) したがって,上記ア,イいずれの検討によっても,被告人乙に,検察官の主張する従業員らを採石場外の安全な場所に退避させるべき注意義務があったとはいえない。 (4) そうすると,この点についても検察官の主張は採ることができない。 (5) なお,検察官は,最高裁判所判決(昭和61年(あ)第193号平成元年3月14日第2小法廷・最高裁判所刑事判例集43巻3号262頁)を引用して,被告人乙には,およそ人に対する死傷の結果を伴う崩落発生についての予見可能性があれば足り,本件の規模の崩落の発生まで予見可能である必要はないとの主張をする。しかし,その最高裁判決の判示に照らせば,その事案において被告人に課せられていたのは,制限速度を守り,ハンドル,ブレーキなどを的確に操作して進行すべき業務上の注意義務であり,およそ業務として自動車を運転する場合,その事案における後部荷台に同乗者がいることが認識可能でない場合であっても,そのような注意義務が発生すると考えられる。これに対し,本件においては,上記検察官釈明に係る4つの注意義務が問題とされ,それぞれの前提事実によって注意義務の存否,その内容を異にするのであるから,上記判決と本件は事案を異にしており,検察官のその主張は失当である。 (五) 業務上過失致死罪についての小括結局,本件大崩落は,被告人乙を含む誰もが予見し得なかった大規模なものであるというほかなく,以上に述べたとおり,検察官の主張するいずれの訴因も成り立たず,被告人乙に過失犯は成立しない。 労働安全衛生法違反について検察官の主張する公訴事実は上記のとおりであり,検察官は,平成13年3月12日当時,被告人乙には,労働安全衛生法21条1項,労働安全衛生規則(以- 24 -下,「規則」という。)399条,400条1項に基づき,「あらかじめ,当該採石 であり,検察官は,平成13年3月12日当時,被告人乙には,労働安全衛生法21条1項,労働安全衛生規則(以- 24 -下,「規則」という。)399条,400条1項に基づき,「あらかじめ,当該採石作業に係る地山の形状,地質及び地層の状態を調査した上,その調査により知り得たところに適応する採石作業計画を定め,かつ,当該採石作業計画により作業を行わなければならないのに,これらを行わないで採石作業を行い,もって,採石の業務における作業方法から生ずる危険を防止するため必要な措置を講じなかった」から,労働安全衛生法119条1号の罪が成立すると主張する。そこで,検討するに,本件事案の場合,訴因に掲げる平成13年3月12日時点においては,地山の崩落の急迫した危険があったのであるから,労働安全衛生法25条が優先して適用される場合であると考えられ,そのような場合に同法21条1項に基づく危険防止措置義務は問題とならないと考える余地があるが,被告人乙においてそのような急迫した危険を認識していなかったことは上記のとおりであるので,訴因に従い,その内容を証拠に照らして検討しても,以下のとおり,同条項違反の罪は成立しない。 (1) 先ず,労働安全衛生規則399条においては,「事業者は,採石作業を行うときは,地山の崩壊,掘削機械の転落等による労働者の危険を防止するため,あらかじめ,当該採石作業に係る地山の形状,地質及び地層の状態を調査し,その結果を記録しておかなければならない」と規定しているところ,被告会社がA県知事に申請した採取計画認可申請書に係る一件書類(検27)等によれば,被告会社においては,採石場における採取計画認可申請において,本件地山の所在地,面積,地目等のほか,上記1(2)のとおり,本件地山の形状は,その幅452メートル,奥行330メートル,その傾斜 れば,被告会社においては,採石場における採取計画認可申請において,本件地山の所在地,面積,地目等のほか,上記1(2)のとおり,本件地山の形状は,その幅452メートル,奥行330メートル,その傾斜52度をなすものであること,その地質は,全山黒色粘板岩で,表土が少なく岩盤が露出し岩質が硬く,死石がないこと等の性質を有すること,地層は,粘板岩という堆積地層であること等の調査結果を明らかにし,その結果を記録していることが認められる。そして,本件地山の地層が流れ盤構造を有し,断層及び節理が存在していたことは上記1(8)のとおりであるが,それらの点について,被告会社に調査義務がなか- 25 -ったことも上記3(一)で述べたとおりである。したがって,被告人乙及び被告会社において,規則399条違反はない。 (2) 次に,規則400条は,その第1項において「あらかじめ,前条(399条)の規定による調査により知り得たところに適応する採石作業計画を定め,かつ,当該採石作業計画により作業を行わなければならない」と規定し,第2項において,当該採石作業計画において示されていなければならない事項を具体的に規定しているところ,上記採取計画認可申請書に係る一件書類によれば,同項1号については,露天掘りの階段掘削法であること,同項2号については,掘削面の高さが20メートル,こう配が1:0.6であること,同項3号については,掘削は地山の上部から下部に掘り進めること及び掘削面の段の奥行きが20メートルであること,同項4号は本件採石場では不要で,同項5号については,機械掘りで使用火薬が3号桐ダイナマイトであること等,同項6号については,主に破砕機(ブレーカー)小松ユンボPC-200により破砕すること等がそれぞれ明示されており,同項7号ないし10号についても,同採取計画認 火薬が3号桐ダイナマイトであること等,同項6号については,主に破砕機(ブレーカー)小松ユンボPC-200により破砕すること等がそれぞれ明示されており,同項7号ないし10号についても,同採取計画認可申請書の記載上自ずから明らかにされているところである。したがって,規則400条に違反しているところはない。 (3) 以上のとおり,被告人乙及び被告会社には,労働安全衛生法21条1項,労働安全衛生規則399条,400条1項違反があったとは認められず,労働安全衛生法119条1号,122条の罪は成立しない。 公訴棄却の主張に対する判断弁護人は,本件訴因は刑事訴訟法256条3項に違反する不特定な訴因であって,同法338条4号により公訴棄却されるべきであると主張するが,変更後の訴因はもとより,変更前の当初の訴因も,一応は,裁判所に対し審判対象を限定し,被告人両名に対し防御の範囲を示しているものであると認められるから,この点についての弁護人の主張は採ることができない。 結論 - 26 -結局本件各公訴事実についてはいずれも犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人両名に対し無罪の言渡しをする。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑禁錮2年[被告人乙],罰金50万円[被告人甲])平成18年4月20日岡山地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官松野勉裁判官岡本康博裁判官大河三奈子は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官松野勉

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