令和6(行コ)102 難民不認定処分取消等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年2月27日 大阪高等裁判所 棄却 大阪地方裁判所 令和4(行ウ)112
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判決文本文6,564 文字)

令和6年(行コ)第102号難民不認定処分取消等請求控訴事件令和7年2月27日大阪高等裁判所第2民事部判決 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要等(以下、控訴人(原審被告)を「被告」、被控訴人(原審原告)を「原告」という。それ以外の略称は、いずれも原判決の例による。別紙は、原判決添付のものを指す。人証は、原審におけるものである。) 1 事案の概要 チュニジア共和国(チュニジア)の国籍を有する外国人男性である原告は、チュニジアにおいて、同性愛者であることを理由に家族から暴力を受け、警察官に助けを求めても逮捕を示唆され保護を受けられなかったことなどから、帰国すると同性愛者であることを理由に迫害を受けるおそれがあるとして、令和5年法律第56号による改正前の出入国管理及び難民認定法(入管法)61条 の2第1項に基づいて難民認定申請(本件申請)をしたが、大阪出入国在留管理局長(大阪入管局長)から、難民の認定をしない処分(本件不認定処分)を受けた。原告は、本件不認定処分について審査請求(本件審査請求)をしたが、法務大臣から、本件審査請求を棄却する旨の裁決(本件裁決)を受けた。 本件は、原告が、被告を相手に、原告は難民に該当するなどと主張して、本 件不認定処分及び本件裁決の取消しを求める事案である。 原審は、原告は難民に該当すると認められるから本件不認定処分は違法であるとして、本件不認定処分の取消請求を認容し、本件裁決の取消しを求め 認定処分及び本件裁決の取消しを求める事案である。 原審は、原告は難民に該当すると認められるから本件不認定処分は違法であるとして、本件不認定処分の取消請求を認容し、本件裁決の取消しを求める訴えは、訴えの利益が消滅し、不適法であるとして却下した。被告は、これを不服とし、原告の請求の全部棄却を求めて本件控訴を提起した。 2 前提事実 原判決の「事実及び理由」第2の1(原判決2頁21行目~5頁6行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。 3 争点及び争点に関する当事者の主張原判決の「事実及び理由」第2の2及び3(原判決5頁7行目~8頁14行目)に記載のとおりであるから、別紙を含め、これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 判断の骨子当裁判所も、原告は難民に該当すると認められるから本件不認定処分は違法であり、その取消請求は理由があるから認容すべきであり、本件裁決の取消しを求める訴えは、訴えの利益を欠き、不適法であるから却下すべきであると判 断する。その理由は、当審における当事者の主張を踏まえ、後記2のとおり補足説明を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」第3の1及び2(原判決8頁16行目~56頁4行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 補足説明⑴ 被告は、原判決が根拠としたチュニジアにおけるLGBTをめぐる状況に 関する報告等の中には、①記載内容が抽象的すぎて、チュニジアのLGBTが置かれた客観的状況を具体的に認定する根拠とはなり得ない記載、②情報源が明らかにされていないため、その信用性を確認することが困難な記載、③特定の集団の利益を代表したり擁護したりすることを目的とするNGOや人権団体の報告を根拠としており、人権問題の深刻さを殊更に強調する内容 されていないため、その信用性を確認することが困難な記載、③特定の集団の利益を代表したり擁護したりすることを目的とするNGOや人権団体の報告を根拠としており、人権問題の深刻さを殊更に強調する内容 となっている可能性が否定できない記載が散見されるとして、これらの報告 等に基づく出身国情報(難民認定申請者の迫害のおそれに関連する出身国の政治社会情勢等に関する情報)の認定は慎重にすべきである旨主張するので、検討する。 アドイツ財団声明(乙17)、米国国務省報告〔2018年版〕~〔2022年版〕(甲5、12、13、乙16、18、22)、難民研究フォーラム レポート〔2020年版〕(甲6)、AP通信記事(甲7)には、具体的事例を紹介することなく総論的な政治社会情勢を説明する記載や、記事中で情報源が明らかにされていない記載が含まれていることは、被告が指摘するとおりである。 しかし、上記報告等が具体的事例や情報源に言及していないからといっ て、それだけでその記載内容の信用性が直ちに低下するとはいえない。 むしろ、上記報告等は、それぞれ異なる機関によってさまざまな情報源に基づいて作成されたものであるにもかかわらず、①チュニジアの刑法には、同性間の合意による性交(ソドミー)を犯罪行為として、3年以下の懲役刑に処する旨の同性間性交処罰規定が置かれており、同規定の下で、 LGBTの人々は、警察から、性的活動及び性的指向についての尋問などのために逮捕等の身体拘束を受けることがあり、逮捕等については、その者の外見だけで判断されることがあること、②チュニジアの刑法には、「倫理及び公衆道徳の侵害」を犯罪行為として、6か月の懲役刑及び1000ディナールの罰金刑に処する旨の倫理侵害処罰規定が置かれており、LG BTの人々は、 があること、②チュニジアの刑法には、「倫理及び公衆道徳の侵害」を犯罪行為として、6か月の懲役刑及び1000ディナールの罰金刑に処する旨の倫理侵害処罰規定が置かれており、LG BTの人々は、そのような性的指向を有すること自体が「倫理及び公衆道徳の侵害」であるとの法適用の下で、処罰を受けることがあること、③警察等の捜査機関が、LGBTの人々に対し、同性間性交処罰規定や倫理侵害処罰規定を適用し、積極的に起訴する傾向にあること、④チュニジアの裁判所は、任意の肛門検査を拒否する者を同性間性交処罰規定に基づき有 罪と仮定することが多いため、LGBTの人々は、肛門検査を事実上強要 されていることという重要な点について、おおむね共通する記載が見受けられることからすれば、その記載内容は信用することができるというべきである。 イまた、ドイツ財団声明は、ジェンダー民主主義等を掲げて活動を行っている政治財団によるものであり(甲26、乙35)、米国国務省報告〔20 18年版〕~〔2022年版〕の中には、人権に関するNGOの報告を根拠とする記載がみられることは、被告の指摘するとおりである。 しかし、これらの報告等において、人権問題の深刻さを強調するべく、事実が誇張又は歪曲して記載されていることをうかがわせる具体的な事情は認められず、かえって、チュニジア政府代表が、性的指向を根拠とする 差別を憲法違反であることを正式に認めたとする記載(ドイツ財団声明③)、チュニジアの2019年9月の大統領選挙において、ゲイであることを公言する候補者1名が立候補したとする記載(米国国務省報告〔2019年版〕②)や、チュニジアの一部の裁判所においてLGBTに対して寛容な判断が示されたとする記載(米国国務省報告〔2021年版〕④)など、 チ 名が立候補したとする記載(米国国務省報告〔2019年版〕②)や、チュニジアの一部の裁判所においてLGBTに対して寛容な判断が示されたとする記載(米国国務省報告〔2021年版〕④)など、 チュニジアにおけるLGBTの人々をめぐる人権状況に改善がみられることを示す事実に関する記載もあることからすれば、これらの報告等の内容が、特定の主義主張を背景として不正確な偏ったものとなっているとは認め難い。 ウしたがって、被告の上記主張は採用することができず、上記報告等に基 づき、チュニジアのLGBTの人々が上記①~④の状況にあることを認めることができる。 ⑵ 被告は、チュニジアにおいて、同性間性交処罰規定違反や倫理侵害処罰規定違反を理由に逮捕等の身体拘束や訴追を受ける者は、LGBTの推定人口に比して少数にとどまっており、原告自身も、警察に対して自身が同性愛者 であることを申告したにもかかわらず、逮捕されることも暴行を受けること もなかったことや、原告が2019年11月末頃までチュニジアでゲイが禁じられていることを知らなかった旨供述していることからすれば、チュニジアにおいて、LGBTの人々が、単に第三者をしてLGBTであることをうかがわせるような振る舞いや行動を行ったことのみをもって、同性間性交処罰規定違反や倫理侵害処罰規定違反を理由に逮捕等の身体拘束や訴追を受け ているとは考え難く、むしろ前記⑴の報告等の記載からは、逮捕等の身柄拘束や訴追を受けるのは、LGBTであることをうかがわせるような振る舞いや行動をしたことに加え、活動家などの一定の属性が認められる場合に限られることがうかがわれるから、原告がチュニジアに帰国した場合に、同性愛者であることを理由に逮捕等の身柄拘束や訴追を受ける現実的なおそれがあ るとは 活動家などの一定の属性が認められる場合に限られることがうかがわれるから、原告がチュニジアに帰国した場合に、同性愛者であることを理由に逮捕等の身柄拘束や訴追を受ける現実的なおそれがあ るとはいえないと主張する。 しかし、チュニジアにおいては、同性間性交処罰規定や倫理侵害処罰規定が現在も効力を有しており、これらに基づき、同性愛者の身柄拘束や訴追が可能な状況にあり、実際にも、そのような運用がされていることが認められるのであるから、そのこと自体をもって、原告が帰国すれば、同性愛者であ ることを理由とする逮捕等の身柄拘束や訴追を受ける現実的なおそれがあると評価すべきである。 被告は、LGBTの推定人口に比して、身柄拘束や訴追を受ける者が少数であることを指摘するが、それは、LGBTの人々が、社会的非難や身柄拘束・訴追をおそれて、自己の性的指向を秘匿せざるを得ない状況となってい ることの帰結とも考え得るところであるから、そのことをもって、上記現実的なおそれを否定することはできない。原告も、2019年11月末頃までチュニジアでは同性間性交が刑事処罰の対象になっていることを知らなかったというだけで、チュニジアの社会において同性愛の性的志向が望まれないことは認識しており、男性との恋愛関係や自己の性的志向を周囲に気づかれ ないようにしていたことは、前記引用に係る原判決が認定するとおりである。 また、被告は、実際に身柄拘束や訴追を受けるのは、同性愛者であるという事実に、活動家などの一定の属性が加わった場合に限られるかのように主張するが、前記⑴の報告等からはそのような傾向は読み取ることができず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。仮にそのような傾向が見受けられるとしても、それ自体として処罰の対象とはならない属性 主張するが、前記⑴の報告等からはそのような傾向は読み取ることができず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。仮にそのような傾向が見受けられるとしても、それ自体として処罰の対象とはならない属性が加わること によって、同性愛者として処罰を受けるということは、まさに、同性愛者であることを理由とする身柄拘束や訴追を受ける現実的なおそれがあるというべきである。被告の上記主張は、上記評価を左右するものではない。 ⑶ 被告は、米国国務省報告〔2018年版〕・〔2020年版〕・〔2021年版〕やAP通信記事には、チュニジア警察がLGBTに関するデモに際して 参加者の安全を確保するための措置を講じたことや、警察官がLGBTの者を襲撃する事件が発生した際に、当該警察官が停職処分とされたり、内部調査が行われたりしたことが記載されており、これらのことからすれば、チュニジア政府の対応として、LGBTの人々が同性愛等の性的指向を有することを理由に危害を加えられている事件を放置し、非国家主体による迫害を放 置・助長しているとはいえないと主張する。 しかし、チュニジアにおいては、LGBTの人々を処罰する同性間性交処罰規定や倫理侵害処罰規定が存在し、実際に、これらの規定に基づく身柄拘束や訴追が行われているため、LGBTの人々が、自己の直面する暴力被害等を警察等の国家機関に申告して保護を求めることが困難な状況にあると認 められることは、前記引用に係る原判決の認定するとおりである。そして、LGBTの者を襲撃した警察官が停職処分とされるなどしたとしても、そもそも警察官がLGBTの者を襲撃するという事件が発生するということ自体、チュニジアにおいてLGBTの人々の安全が脅かされていることを意味する。 特に、2021年以降、LGBTの個人 したとしても、そもそも警察官がLGBTの者を襲撃するという事件が発生するということ自体、チュニジアにおいてLGBTの人々の安全が脅かされていることを意味する。 特に、2021年以降、LGBTの個人の逮捕が増加し、LGBTの人々に 対する警察による暴力が激しさを増しているとの報告がみられることは、前 記引用に係る原判決が認定するとおりである。 これらのことからすれば、被告が指摘する上記各出来事があったとしても、チュニジア政府が、非国家主体によるLGBTの人々に対する迫害に対して効果的な措置を講じているとはいい難く、これを放置しているとの評価を免れないものというべきである。 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。 ⑷ 被告は、原告が家族から車でひかれそうになった後に、警察に保護を求めたにもかかわらず、同性愛者であることを申告したとたん、誹謗中傷の言葉を投げかけられるなどして、保護を受けられなかったとする原告の供述に関し、警察が原告を保護しなかったのは、原告が同性愛者であることが理由と は限らず、また、警察官が原告に対し、原告が同性愛者であることを理由に暴言を吐いたことを、警察の組織的な行為と評価することはできないし、原告の家族らの原告に対する違法行為等を助長するものと評価することもできないから、この出来事をもって、チュニジア政府が、非国家主体によるLGBTの人々に対する迫害を放置・助長していると評価することはできないし、 チュニジア政府に迫害対象者を効果的に保護することが期待できない状況にあるとはいえないと主張する。 しかし、原告が警察に保護を求めた経緯からすれば、単なる家族間のトラブルとして黙認すべき事案とは思われず、警察官が原告を保護しない理由について合理的な 状況にあるとはいえないと主張する。 しかし、原告が警察に保護を求めた経緯からすれば、単なる家族間のトラブルとして黙認すべき事案とは思われず、警察官が原告を保護しない理由について合理的な説明をした事実も認められない。 むしろ、原告を保護しなかったにとどまらず、原告が同性愛者であると申告したとたんに、警察官が態度を変え、原告に対する誹謗中傷の言葉を投げかけ、投獄を示唆するような発言をしたことからすれば、警察官は、原告が同性愛者であることを主な理由として原告を保護しなかったと推認されるのであり、このような警察官の対応は、チュニジア政府が、非国家主体による 同性愛者に対する迫害を放置しているという実態を反映したものと評価すべ きである。 したがって、被告の上記主張は採用できない。 第4 結論よって、本件不認定処分の取消請求は理由があるから認容すべきであり、本件裁決の取消しを求める訴えは不適法であるから却下すべきであるところ、こ れと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第2民事部 裁判長裁判官 三木素子 裁判官 田中俊行 裁判官 大川潤子 裁判官 大川潤子

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