平成18(受)263 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年4月15日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 広島高等裁判所 平成15(ネ)149
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判決文本文9,674 文字)

- 1 -主文原判決のうち上告人敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人大竹たかしほかの上告受理申立て理由第3の1について 本件は,弁護士会である被上告人が,受刑者からの人権救済の申立てを受け,調査の一環として被害状況を目撃したとされる他の受刑者との接見を求めたところ刑務所長がこれを許さなかったことは違法であり,それによって被上告人の社会的評価等が低下したとして,上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償を求める事案である。 原審が適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1)被上告人は,広島弁護士会会則40条に基づき人権擁護委員会を設置している(以下,被上告人の人権擁護委員会を単に「人権擁護委員会」という。)。人権擁護委員会は,「弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする。」と定めた弁護士法1条1項をその設置の根拠とするものであり,被上告人は,人権擁護委員会の任務について,同会則50条で,「人権擁護委員会は,基本的人権を擁護するため,人権侵犯についての情報を収集し,必要に応じて行政庁その他に対し警告を発し,処分若しくは処分の取消しを求め,又は問責の手段を講じ,また,人権を侵犯された者に対し救護その他適切な措置をとることを職務とする。」と定めている。 (2)広島刑務所に服役中の受刑者甲は,平成9年6月10日,人権擁護委員会- 2 -に対し,同刑務所のA職員から暴行を受けたとして人権救済を申し立て,同申立ては,同月13日に受理された。人権擁護委員会は,予備調査委員としてB弁護士を選任し,同弁護士において申立人である甲本人に接見して事情を聴取するなどの予備調査を行った結果,上記の申立てについては 立ては,同月13日に受理された。人権擁護委員会は,予備調査委員としてB弁護士を選任し,同弁護士において申立人である甲本人に接見して事情を聴取するなどの予備調査を行った結果,上記の申立てについては理由がないとは即断できず,事実の有無を判断するために,暴行を行ったとされるA職員及び被害状況を目撃したとされる受刑者乙から直接事情を聴く必要性が高いと判断して,正式な調査である本調査に移行することとし,本調査委員としてB弁護士外1名を選任した。B弁護士らは,同年7月30日,広島刑務所長に対し,調査の一環として乙との接見を同年8月20日に行いたい旨申し入れたところ,同刑務所長は,同月7日,施設の管理運営上の理由等から上記申入れには応じられない旨回答して,乙との接見を許さなかった。 被上告人の会長であったC弁護士及び人権擁護委員会の委員長であったD弁護士は,同年12月15日,広島刑務所長に対し,再度乙との接見を申し入れたが,同刑務所長は,人権救済の申立人以外の被収容者との接見は認められない旨説明して,これを許さなかった。 (3)広島刑務所に服役中の受刑者丙は,平成10年4月1日,人権擁護委員会に対し,同刑務所のA職員から他の受刑者の面前で名誉を毀損されたとして人権救済を申し立て,同申立ては,翌2日に受理された。人権擁護委員会は,予備調査委員としてE弁護士を選任し,同弁護士において申立人である丙本人に接見して事情を聴取するなどの予備調査を行った結果,上記の申立てについては理由がないとは即断できず,事実の有無を判断するために被害状況を目撃したとされる受刑者丁から直接事情を聴く必要性が高いと判断して,正式な調査である本調査に移行するこ- 3 -ととし,本調査委員としてE弁護士外1名を選任した。E弁護士らは,同年6月22日,広島刑務所長に対し,調査の から直接事情を聴く必要性が高いと判断して,正式な調査である本調査に移行するこ- 3 -ととし,本調査委員としてE弁護士外1名を選任した。E弁護士らは,同年6月22日,広島刑務所長に対し,調査の一環として丁との接見を行いたい旨申し入れたところ,同刑務所長は,同月24日,E弁護士に対し,施設の管理運営上の理由等から上記申入れには応じられない旨回答して,丁との接見を許さなかった。 被上告人は,①弁護士及び弁護士会が行う基本的人権の擁護活動は弁護士法1条1項ないし弁護士法全体に根拠を有するものであるから,人権擁護委員会の調査活動は法律上保護された利益であって,広島刑務所長が同委員会に対して乙及び丁との接見を許さなかったことは,上記利益を侵害する行為であり,平成17年法律第50号による改正前の監獄法(以下「旧監獄法」という。)45条2項に基づく同刑務所長の裁量権を逸脱し又は濫用するものとして,国家賠償法1条1項の適用上も違法となる,②上記行為によって被上告人の社会的評価や社会からの信頼が低下し,被上告人は非財産的損害を被ったと主張している。 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断し,被上告人の請求を,損害賠償金60万円及びその遅延損害金の支払を求める限度で認容した。 (1)受刑者と外部の者との接見について,旧監獄法45条2項は,「特ニ必要アリ」と認められる場合に,例外的に親族以外の者との接見を許す旨規定しているところ,この規定は,受刑者と親族以外の者との接見を許すことによって,受刑者の性向,行状,刑務所内の管理・保安の状況,当該接見の相手方,接見の目的,その他の具体的な事情の下において,受刑者に教化上好ましくない影響を与え,あるいは,刑務所内における規律及び秩序の維持に重大な障害を生ずるおそれの存在が,十分な根拠に基づいて, 相手方,接見の目的,その他の具体的な事情の下において,受刑者に教化上好ましくない影響を与え,あるいは,刑務所内における規律及び秩序の維持に重大な障害を生ずるおそれの存在が,十分な根拠に基づいて,具体的,客観的かつ合理的に認められる場合に接見を制限する趣旨のものと解すべきである。そして,個別具体的な接見について,同項- 4 -にいう「特ニ必要アリ」と認められる場合に該当するかどうかの判断は,原則として,刑務所内の実情に詳しい刑務所長の合理的な裁量にゆだねられているものと解されるが,その判断が,およそ具体的な根拠を欠くものであったり,合理性が認められず,著しく妥当性を欠くようなものである場合には,裁量権の逸脱又は濫用があるものとして,国家賠償法1条1項の適用上,違法となるというべきである。 (2)本件においては,受刑者乙及び受刑者丁との接見を許すことにより,当該受刑者に教化上好ましくない影響を与え,あるいは,刑務所内における規律及び秩序の維持に重大な障害を生ずるおそれの存在が,十分な根拠に基づいて,具体的,客観的かつ合理的に認められるということはできず,それにもかかわらず,広島刑務所長が当該受刑者の意向を確かめることなく,人権擁護委員会の委員等の弁護士が申し入れた上記各受刑者との接見を許さなかった措置(以下「本件各措置」という。)は違法であり,同刑務所長にはこの点について過失があったものというべきである。 (3)被上告人は,その人権擁護委員会による調査活動が妨げられたことにより,社会からの期待や信頼に結果として十分に応えられなかったという意味においてその社会的評価が低下したものと認められ,被侵害利益の内容,侵害の態様等にかんがみると,損害賠償の額は本件各措置のそれぞれにつき各30万円が相当である。 しかしながら,原審の上記判断は においてその社会的評価が低下したものと認められ,被侵害利益の内容,侵害の態様等にかんがみると,損害賠償の額は本件各措置のそれぞれにつき各30万円が相当である。 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 公務員による公権力の行使に国家賠償法1条1項にいう違法があるというためには,公務員が,当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の- 5 -法的義務に違反したと認められることが必要である(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁昭和61年(オ)第1152号平成元年11月24日第二小法廷判決・民集43巻10号1169頁,最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁等参照)。ところで,旧監獄法45条2項は「受刑者及ビ監置ニ処セラレタル者ニハ其親族ニ非サル者ト接見ヲ為サシムルコトヲ得ス但特ニ必要アリト認ムル場合ハ此限ニ在ラス」と規定し,受刑者については親族以外の者との接見を原則として禁止する一方,刑務所長において特に必要ありと認める場合はこれを許すこととしているが,この規定は,受刑者と外部の者との接見が,受刑者の身分上,法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため必要である場合や,受刑者の改善更生に資する場合がある反面,刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生じ,受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあることも否定できないことから,接見の対象となる受刑者の利益と施設内の規律及び秩序の確保並びに適切な処遇の実現の要請(以下「規律及び秩序の確保等の要請」という。)との調整を図るものであることが明らかである。受刑者との接見 から,接見の対象となる受刑者の利益と施設内の規律及び秩序の確保並びに適切な処遇の実現の要請(以下「規律及び秩序の確保等の要請」という。)との調整を図るものであることが明らかである。受刑者との接見を求める者が,接見の対象となる受刑者の利益を離れて当該受刑者との接見について固有の利益を有している場合があることは否定し得ないが,旧監獄法45条2項の規定が,このような受刑者との接見を求める者の固有の利益と規律及び秩序の確保等の要請との調整を図る趣旨を含むものと解することはできない。 したがって,旧監獄法45条2項は,親族以外の者から受刑者との接見の申入れを受けた刑務所長に対し,接見の許否を判断するに当たり接見を求める者の固有の- 6 -利益に配慮すべき法的義務を課するものではないというべきである。 また,弁護士及び弁護士会が行う基本的人権の擁護活動が弁護士法1条1項ないし弁護士法全体に根拠を有するものであり,その意味で人権擁護委員会の調査活動が法的正当性を保障されたものであるとしても,法律上人権擁護委員会に強制的な調査権限が付与されているわけではなく,この意味においても広島刑務所長には人権擁護委員会の調査活動の一環として行われる受刑者との接見の申入れに応ずべき法的義務は存在しない。なお,前記事実関係によれば,同刑務所長は,人権擁護委員会所属の弁護士に対し,同委員会に人権救済を申し立てた甲や丙との接見は許しているのであるから,人権救済を申し立てていない乙や丁との接見を許さなかったからといって,被上告人の社会的評価や社会からの信頼が低下することにはならず,人権擁護委員会の調査活動を行う利益が違法に侵害されたということはできない。 以上によれば,広島刑務所長の本件各措置について,国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない。 そう ず,人権擁護委員会の調査活動を行う利益が違法に侵害されたということはできない。 以上によれば,広島刑務所長の本件各措置について,国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない。 そうすると,上記と異なる見解の下に,被上告人の請求の一部を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は結論において正当であるから,上記部分につき,被上告人の控訴を棄却することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦夫の補足意見がある。 裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。 - 7 -私は,法廷意見に賛同するものであるが,本件事案にかんがみ,以下のとおり補足意見を述べる。 弁護士法は,「弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする。」(同法1条1項)と定めるが,それを受けて,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)では,会則に,日弁連の会内組織として人権擁護委員会の設置を定め,同委員会は,「基本的人権を擁護するため,人権侵犯について調査をなし,人権を侵犯された者に対し,救護その他適切な措置をとり,必要に応じ本会を通じ,又は,本会の承認を経て官公署その他に対し,警告を発し,処分若しくは処分の取消しを求め,又は問責の手段を講ずることを任務とする。」(日弁連会則75条1項)と規定している。また,被上告人を含む各単位弁護士会でも,ほぼ同様の会則を設けている。 日弁連及び被上告人を含む各弁護士会では,各会に所属する弁護士を委員とする人権擁護委員会を組織し,委員会として,広く民事,刑事に係る人権侵犯事案のほか, 弁護士会でも,ほぼ同様の会則を設けている。 日弁連及び被上告人を含む各弁護士会では,各会に所属する弁護士を委員とする人権擁護委員会を組織し,委員会として,広く民事,刑事に係る人権侵犯事案のほか,人種,民族,性等にかかわる差別問題や医療,社会保障等,基本的人権にかかわる諸問題に積極的に取り組み,人権問題の解決に向けての種々の提言を行うほか,立法提案などの諸活動を行い,また,個別の人権侵犯申立事案に対しては,その事案に対応して調査を行い,人権侵犯行為者に対する警告,告発を行う等,人権を侵犯された被害者の救済を図るとともに,人権侵犯事案の再発防止のため積極的に取り組んできたことは公知の事実であり,社会からも高く評価されているところである。 他方,国民の基本的人権の侵犯に対しては,法務省人権擁護局が,人権侵犯事件に係る調査並びに被害の救済及び予防に関する事務をつかさどり(法務省設置法4- 8 -条26号,法務省組織令8条),具体的には法務局長又は地方法務局長は,被害者等からの申出又は人権擁護委員等からの通報に基づき,人権侵犯事件の調査を行い,調査の結果,人権侵犯の事実があると認めるときは,必要な措置を執ることを要請し,あるいは説示し,また,文書による勧告や通告,告発等の措置を講ずるものとしている(人権侵犯事件調査処理規程2条,8条,14条)。また,人権侵犯事案に係る国民に身近な機関としては,法務省所管の人権擁護委員会がある。その委員は,市町村長が,市町村議会の意見を聞いて推薦した候補者の中から,法務大臣が弁護士会及び都道府県人権擁護委員連合会の意見を聴いて委嘱するもので(人権擁護委員法6条),その委員は,人権擁護のための啓発活動のほか,個々の人権侵犯事案についても「調査及び情報の収集をなし,法務大臣への報告,関係機関への勧告等適切な措置を を聴いて委嘱するもので(人権擁護委員法6条),その委員は,人権擁護のための啓発活動のほか,個々の人権侵犯事案についても「調査及び情報の収集をなし,法務大臣への報告,関係機関への勧告等適切な措置を講ずること」をその職務としている(同法11条3号)。これらの法務省所管の各機関の活動が,国民の人権擁護のために重要な機能を果たしてきたこともまた公知の事実である。 ところで,本件のごとき拘禁施設内における人権侵犯事案,殊に刑務所の職員による被収容者に対する人権侵犯事案の調査においては,事案の性質上,刑務所及び被収容者に関する関連法規についての知識が不可欠であり,また,その調査は組織的に取り組む必要があるところ,刑務所を所管する法務省の一部局である人権擁護局がかかる事案に対応することは,人権侵犯を主張する被害者の納得という面から必ずしも適切ではない。他方,弁護士会の人権擁護委員会は,それが第三者機関であること及びその調査に必要とされる知識を有し,また調査態勢を整えることができるところから,かかる事案の調査を行い,必要に応じて適宜の処理を行うのに最も適していると言える。なお,平成18年に施行された刑事施設及び受刑者の処遇- 9 -等に関する法律(平成18年法律第58号により法律の題名が「刑事収容施設及び被収容者の処遇等に関する法律」に改められた。)では,刑事施設視察委員会が設けられ(同法7条1項),被収容者は刑事施設の職員の検査を経ることなく同委員会に対して信書を発することができ(同法9条4項),被収容者は人権侵犯事案につき同委員会に事実上申告をなすことができるようになったが,同委員会は,個別の人権侵犯事案について調査等をする機関ではなく,刑事施設の運営に関し意見を述べる権限を有するにすぎない(同法7条2項)。 したがって,今日,被収容者が刑務所 ができるようになったが,同委員会は,個別の人権侵犯事案について調査等をする機関ではなく,刑事施設の運営に関し意見を述べる権限を有するにすぎない(同法7条2項)。 したがって,今日,被収容者が刑務所内での人権侵犯の被害の救済を申告できる外部の機関としては,事実上,弁護士会の人権擁護委員会が唯一の機関と言えるのである。 本件のごとく刑務所内で刑務所職員から暴行を受け,あるいは侮辱されたとして,被収容者から人権が侵犯されたとの申立てがなされた場合,当該刑務所長は,被収容者の人権を確保しつつ刑務所内の秩序を維持すべき責任者として,当該申立てに係る事実の有無について,職権により調査すべき義務が存することはいうまでもない。 しかし,それに加えて,その申立人が弁護士会の人権擁護委員会に対して,人権侵犯に対する救済の申立てをなし,同委員会が調査を開始した場合には,同調査は,弁護士会の使命の一つである公益活動として行われ,その調査内容の公正さが担保されるものであり,また,申立人の弁護士による援助を求める権利に対応するものであることからして,刑務所長は,刑務所の秩序維持に支障を来すべき具体的なおそれがない限り,被収容者の人権を確保すべき立場にある者として,事案の解明を図る調査の一環として同委員会の調査に誠実に対応することが望ましく,また- 10 -調査結果の客観性を担保するとの観点からも社会的に要請されているものといえる。 本件は,被収容者2名からの各申立てに基づき被上告人の人権擁護委員会の委員らが,各申立人と面談して聴取り調査をなしたうえで,広島刑務所長に対して各申立人が目撃者と主張する他の被収容者との接見を申し入れたところ,刑務所長においてその接見申入れを拒否したことの違法性を問うものである。 その接見申入れを拒否する理由としては,平成9年12月の申 て各申立人が目撃者と主張する他の被収容者との接見を申し入れたところ,刑務所長においてその接見申入れを拒否したことの違法性を問うものである。 その接見申入れを拒否する理由としては,平成9年12月の申入れに対して,刑務所長は,被上告人の会長らに対し,「苦情,不服を申し出た者から名前の出た受刑者と面会することについては,その受刑者にとって直接利害関係のない事項であり,弁護士であっても法令上,原則的には許可の対象とはならない。仮に許可したとすれば,好訴性のある受刑者は,頻繁に苦情,不服の申立てを行うことや数多くの受刑者名を記載しながら訴えを提起することが予想されるなど,刑務作業や職員配置等の管理運営上の支障が生じることから,一般論として,申立てに関係のない職員や受刑者との面会には応じられない。」と述べた(1審判決108頁)というのであり,また,平成10年6月の申入れに対して,担当職員が担当委員の弁護士に電話にて,「申入れのあった受刑者との接見は,施設の管理運営上の理由等から認められない。」旨通知した(1審判決123~124頁)というのである。そして,その接見申入れの拒否に当たって,刑務所側では,被上告人の委員とその接見の申入れがなされた被収容者との接見を認めることによって,当該被収容者の教化に具体的にどのような影響を与えるかが検討されてはおらず,また,当該被収容者に対して,上記委員との面談に応じる意向の有無についての確認も行われていない。 - 11 -本件では,刑務所長が,被上告人の委員が要請した,委員による刑務所職員からの直接の事情聴取や他の被収容者との接見にも応じなかったところから,当該申立て事案は,いずれも中止処理とされたようで,被上告人の人権擁護委員会に救済を申し立てた被収容者両名は,同委員会の調査活動によって事案を解明されたいとい 容者との接見にも応じなかったところから,当該申立て事案は,いずれも中止処理とされたようで,被上告人の人権擁護委員会に救済を申し立てた被収容者両名は,同委員会の調査活動によって事案を解明されたいという,所期の目的を達成することができなかった。もっとも,刑務所長には,被上告人の人権擁護委員会の委員の調査活動に応ずべき法的義務が存するわけではなく,また,本件において,刑務所長は,被上告人の調査活動を積極的に妨害したわけでもないから,本件において刑務所長が執った措置の違法性が問題となる余地はない。 しかし,上記のとおり弁護士会の人権擁護委員会の行う個別の人権侵犯申立て事件に対する調査は,弁護士会の公益活動の一環として行われるものであり,これまでにも幾多の事案において,その調査活動を踏まえた告発,警告,意見によって,個々の人権侵犯事案の被害者の救済が図られるとともにその再発防止という予防的な効果をもたらしていることは顕著な事実である。また,弁護士会の人権擁護委員会の過去の活動実績もあって,例えば,精神病院や養護施設のごとき比較的閉鎖性の高い施設においても,同委員会の調査活動の存在が,施設内での人権侵犯事案の発生を防止するという機能を果たしていることも認められるところである。刑務所等の拘禁施設においても,被収容者に対する人権侵犯事案が生じた場合に,被収容者の申立てにより,第三者機関たる弁護士会の人権擁護委員会の調査により事案の解明が図られることになれば,かかる調査が行われ得るという事実のみで,被収容者に対する人権侵犯事案の発生を抑止する効果が期待できるのである。 上記のとおり,刑事収容施設における人権侵犯事案については,刑事施設視察委- 12 -員会に事実上申告することができるようになったものの,弁護士会の人権擁護委員会は,事実上,個々の申立て である。 上記のとおり,刑事収容施設における人権侵犯事案については,刑事施設視察委- 12 -員会に事実上申告することができるようになったものの,弁護士会の人権擁護委員会は,事実上,個々の申立て事案に対応できる唯一の第三者機関であるところから,その調査活動が果たすべき役割は大きいと言える。刑事収容施設の長は,人権擁護委員会の調査活動の意義を理解し,その調査活動に対して誠実かつ柔軟な対応をなすことが望まれよう。また,そのような対応を重ねる中で,刑事収容施設の抱える諸問題につき,広く弁護士を始めとする社会の理解を得られることになると思われる。 (裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官田原睦夫裁判官近藤崇晴)

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