平成13(行ウ)25 遺族保障年金等支給処分取消請求

裁判年月日・裁判所
平成14年7月9日 名古屋地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-7720.txt

判決文本文21,196 文字)

主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告が原告に対し平成7年8月1日付、平成8年8月1日付、平成9年7月31日付、平成10年8月1日付、平成11年8月1日付でした労働者災害補償保険法(以下単に法ということがある)による遺族補償年金等の支給に関する各処分(以下一括して本件各処分という)を取り消す。 第2 事案の概要本件は、下記1(2)の労災事故に関して原告がした労災保険法所定の遺族補償年金の給付請求に対する本件各処分の取消を求める事案である。 1 争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実(1) 原告及びAA(昭和26年8月18日生)は、下記(2)の事故当時、伊藤忠商事株式会社に勤務していた者である。原告は、その妻であり、両者の長男B(昭和57年6月4日生)とともに、Aの収入によって生計を維持していた。 (2) 労災事故の発生Aは、平成6年4月26日、台湾への業務出張からの帰国途中に、搭乗していた飛行機の墜落事故によって死亡した(以下本件事故という)。 (3) Aの平均賃金額法8条の3第1項1号、8条1項、労基法12条による本件事故時のAの平均賃金日額は、2万6334円(以下本件平均賃金額という)であった。 (4) 本件各処分等(本件各処分が、それぞれ当時の労災保険法及び関連労働省令に準拠して行なわれたこと自体は、当事者間に争いがない)原告は、本件事故に基づき、法12条の8第1項4号の遺族補償年金の給付を請求し、被告は、平成6年10月26日付、平成7年8月1日付、平成8年8月1日付、平成9年7月31日付、平成10年8月1日付、平成11年8月1日付で、それぞれ下記①ないし⑥のとおり、本件平均賃金額に基づく法8条の3第1項の年金給付基礎日額(同③以下は、同項2号及び下記各 日付、平成9年7月31日付、平成10年8月1日付、平成11年8月1日付で、それぞれ下記①ないし⑥のとおり、本件平均賃金額に基づく法8条の3第1項の年金給付基礎日額(同③以下は、同項2号及び下記各ウの告示に基づくスライド後の金額。以下スライド制が適用される場合、給付基礎日額はスライド後のものをいう)が、各年8月1日(ただし、下記①については前年8月1日)の基準日にAの属する年齢階層において、後示(6)の改正法に基づく法8条の3第2項、8条の2第2項2号及び下記各アの告示(以下一括して本件告示という)の定める最高限度額である下記各アの金額を超過しているとして、年金給付基礎日額を、それぞれ上記最高限度額と同額とし、これに基づいて算定した年金額(下記②以下は当年8月から翌年7月までの分)を下記各イのとおり決定・変更する旨の処分(以下下記①の処分を先行処分という。残りの下記②ないし⑥が本件各処分である)をした(甲1、乙1、乙4)。 ① 平成6年10月26日付処分ア平成5年労働省告示84号所定の2万0182円イ 311万6100円② 平成7年8月1日付処分ア平成7年労働省告示95号所定の2万0730円イ 333万3400円③ 平成8年8月1日付処分ア平成8年労働省告示74号所定の2万0872円イ 335万6200円ウ平成8年労働省告示73号④ 平成9年7月31日付処分ア平成9年労働省告示88号所定の2万2550円イ 362万6000円ウ平成9年労働省告示87号⑤ 平成10年8月1日付処分ア平成10年労働省告示112号所定の2万2583円イ 363万1300円ウ平成10年労働省告示111号⑥ 平成11年8月1日付処分ア平成10年労働省告示82号所定の2万2566円イ 362万8600円ウ平成10年労働省 2万2583円イ 363万1300円ウ平成10年労働省告示111号⑥ 平成11年8月1日付処分ア平成10年労働省告示82号所定の2万2566円イ 362万8600円ウ平成10年労働省告示81号(5) 原告の審査請求等本件各処分に対し、原告は、給付額を不服として、愛知労働者災害補償保険審査官に審査請求をしたが棄却され、更に労働保険審査会に対する再審査請求も平成13年2月6日付で一括して棄却され、その頃同裁決書の送達を受けたため、同年5月22日本件訴訟を提起した。 (6) 労災保険法の昭和61年改正(以下単に61年改正という)① 従前、労災保険給付には、支給額算定の基礎となる給付基礎日額に関して、法施行規則9条1項4号本文の最低額保障の定め以外に、格別の制限がなかったが、昭和61年法59号(以下61年改正法といい、これによる法の下記改正内容と一括して同様に表示することがある。逆に、改正前の法の内容を単に旧法という)に基づき改正された法8条の2第2項(その後平成2年法40号により、更に法8条の3第2項、8条の2第2項に改正)によって、年金たる保険給付の給付基礎日額について労働者の年齢階層毎に労働省令による最低限度額及び最高限度額の定めが置かれ、その給付基礎日額が、当該労働者の年齢の属する年齢階層に応ずる最低限度額を下回り又は最高限度額を超える場合は、当該最低限度額又は最高限度額(以下単に最低限度額又は最高限度額という)とすることとされた(以下同改正を一括して本件限度額設定といい、そのうち最高限度額の設定を本件上限設定という)。 ② 61年改正法は、一部を除き昭和62年2月1日(以下本件施行日という)から施行され、本件限度額設定も、同日以降新規に年金を受けることとなるものについて適用されているが(同法附則1条)、経過措置として 61年改正法は、一部を除き昭和62年2月1日(以下本件施行日という)から施行され、本件限度額設定も、同日以降新規に年金を受けることとなるものについて適用されているが(同法附則1条)、経過措置として、上記時点において年金たる保険給付を受ける権利を有している者(以下経過措置対象者という)については、上記時点の当該年金たる保険給付にかかる給付基礎日額が最高限度額を超える場合には、当該給付基礎日額を基礎として給付額を算定し、ただし、当該超える間はスライド制を適用しないこととされた(同4条1、2項)(以下一括して本件経過措置という)。 2 争点本件の争点は、61年改正による本件上限設定の有効性である。 (1) 原告の主張① 本件処分ないし本件上限設定は、次項以下のとおり違法ないし違憲無効であり、原告には、遺族補償年金として、本件平均賃金額2万6334円を年金給付基礎日額とし、これに、法16条の3別表第1(平成7年法35号による改正前のもの)所定の受給資格者2人の場合の給付日数193日と、法施行令2条所定の厚生年金調整率0・8を乗じて得た406万6000円が支給さるべきである。よって、これと異なる本件各処分の取消を求める。 ② 61年改正法及びそれに基づく本件告示並びに本件処分は、以下のとおり労災保険制度の趣旨を逸脱し、不合理であって違法・無効である。 ア 61年改正によって、本件施行日以降新規に年金を受けることとなる者(以下本件改正法対象者という)については本件上限設定が適用されるが、経過措置対象者は、本件経過措置によって、最高限度額を超える場合であっても、61年改正法施行以前の給付基礎日額が年金給付基礎日額とされており、これは旧法の給付基礎日額によって算定された年金を既得権として保護するものである。 イ本件上限設定がなかった場合、原告は、前示 も、61年改正法施行以前の給付基礎日額が年金給付基礎日額とされており、これは旧法の給付基礎日額によって算定された年金を既得権として保護するものである。 イ本件上限設定がなかった場合、原告は、前示①のとおり本件平均賃金額に基づき年額406万6000円の年金を受給できたはずなのに、本件各処分による支給額は前示1(4)②ないし⑥の各イのとおりであって、その差額は年額70万円にも達し、年金額のほぼ3分の1を減額するという処分であり、低減額の甚だしさにおいて、不合理な差別的取扱である。 ウ本件事故時のAの月収は79万0020円だったが、これに対し、先行処分による給付基礎日額2万0182円は、月収60万5460円の労働者の場合の平均賃金額であり、同処分及びこれに後続する本件各処分は、Aを上記月収額の稼働能力に相応する労働者と評価するとともに、原告の生活水準を、甚だしい格差のある上記労働者の家族のそれに固定するものであって、著しく合理性が欠如している。 エ個別的労使関係における労災事件での損害賠償=補償内容は、労賃に応じた相応の補償がなされるべきであるという照応の原則に依拠しており、これは、労災保険料が、事業主がその事業に使用するすべての労働者に支払う賃金の総額を基礎に算定されていること(労働保険徴収法11条2項)にも対応するものであるが、61年改正は、その前後の被災労働者を差別することによって「垂直的」照応を欠如させるとともに、稼働能力の高度な被災労働者をそれ以下の労働者と等しく扱うことで、「水平的」照応を損なうものであって、違法である。 ③ 61年改正法及びそれに基づく本件告示は、その前後によって労災遺族の補償内容に甚だしい差異を生じさせるものであって、憲法14条に違反し無効である。 すなわち、61年改正によって、本件改正法対象者は、なんら合理 正法及びそれに基づく本件告示は、その前後によって労災遺族の補償内容に甚だしい差異を生じさせるものであって、憲法14条に違反し無効である。 すなわち、61年改正によって、本件改正法対象者は、なんら合理的根拠なく最高限度額を画されてしまい、本件告示によって、経過措置対象者に比して遺族年金額を甚だしく制限されることになったが、これは、被災労働者の遺族に平等に付与されていた権利ないし利益を制限する処分であり、原告を不当に差別するものであって、憲法14条に違反する。 ④ 61年改正法及びそれに基づく本件告示は、以下のとおり憲法25条に違反し無効である。 ア憲法25条2項あるいは国際人権規約11条1項は、社会保障法における給付内容に関する義務規範であって、国家に対し、国民に対する社会保障水準を絶えず上昇させる規範的義務を課しており、いったん到達した社会保障給付水準は、合理的理由がなければ、廃止、切下げすることができない。しかるに、原告は、本件上限設定により、従来労災保険法という社会保障制度上受給できると期待していた遺族年金額よりはるかに低額の年金しか受給できなくなっており、憲法25条に違反する。 イ一般に、労災補償制度は、憲法25条2項の防貧政策の系列に属するものと理解されているが、実質的には被災労働者の家族、遺族の最低限度の文化的生活を維持するための救貧政策として機能しており、原告と同様の境遇にある母子世帯にあっては事実として救貧的機能を果たしている。 したがって、労災補償制度には絶対的基準があって、これに関する立法裁量にも限界があり、その内容を低減する施策は違憲である。また、従来労働者に保障されていた実定法上の権利は、憲法に由来するものであって、その自由権的効果から補償内容を自由に改変することはできず、憲法上の既得権保護効果があると理解すべき る施策は違憲である。また、従来労働者に保障されていた実定法上の権利は、憲法に由来するものであって、その自由権的効果から補償内容を自由に改変することはできず、憲法上の既得権保護効果があると理解すべきである。 ウ 61年改正は、若年時被災労働者が低額年金のまま据え置かれているのに対し、壮年時被災労働者への年金支給額が高額のまま固定されているとして、その格差是正を目的として行なわれたものであるが、我が国の労災補償は、はなはだ低水準に留まっており、給付基礎日額は、賞与を除き、遺族の数に応じて153日ないし245日分であるから、その最高額は、年収額の67パーセントを下回ることが明らかである。Aの場合も、生前の年収1448万9340円に対し、旧法時の給付基礎日額である本件平均賃金額によって計算した年金額406万6000円でも、その28パーセントに過ぎず、壮年時被災労働者の遺族への支給は、おおむね年収の30パーセントに過ぎない。また、被災労働者への一般的還元率もほぼ50パーセントであって、民間の保険よりはるかに低率である。 したがって、壮年時被災労働者に対する給付が高額だったとの被告の主張の前提は不当であり、原告の生存権を侵害するもので違憲である。 エ保険制度の性質上、支給格差は当然あり得るものであるから、制度改正の根拠としては、それ以上に、予測できず、是正しなければ制度が維持できないほどの重大な格差が生じている等の事情がなければならない。実際には、旧法下でも、給付年金額は事故前の生活水準を維持できるほど高額でなく、被告が最も高額と主張する年金の支給例が増加傾向にあるとか、その増加により労災保険制度が維持できなくなるなどの事情はなく、顕著で不合理な格差は存在しなかった。61年改正が、制度上当然あり得る高額受給者を敵視し排除しようとするのは、動機に 増加傾向にあるとか、その増加により労災保険制度が維持できなくなるなどの事情はなく、顕著で不合理な格差は存在しなかった。61年改正が、制度上当然あり得る高額受給者を敵視し排除しようとするのは、動機においても違法である。 また、仮に労災保険給付の格差が問題となるとしても、最低限度額の引上げによって解消すべきものであり、ほかにも若年労働者の保険料の引上げや国庫扶助の増額その他の代替施策もあり得たのであるから、本件上限設定には目的と手段の合理的関連性が欠如している。 オ社会保険では、被保険者が保険料を拠出することにより、直接財源の負担に参加しているから、保険料拠出と給付との対応関係が最も重視されなければならず、費用負担の程度に応じて給付水準を決定する給付原則は、あらゆる保険制度を領導する指導理念である。労災保険制度では、所得比例保険料が課されているから、所得比例給付が実現されねばならないのであって、本件上限設定は不合理である。 なお、労災保険制度上、公平の観点から、財源は主として使用者が負担すべきものとされているが、労災補償は、使用者の受給権者に対する損害の填補の意味があるから、保険料の負担者が誰であるかによって労災補償の内容が左右されてよいわけではない。しかも、使用者は、保険料を労働者を使用した事業以外から調達しているわけではなく、実質的には労働者が保険料を負担しているのである。 カ社会保険は、被災労働者の生活水準の維持安定を基本目標としており、防貧装置としての労災保険給付は、稼得労働者を失い、緊急事態に陥った家族共同体の従来の生活水準の維持に焦点を合わせるべきである。また、労災保険制度は救貧制度としての性質も帯有しているから、本件上限設定は、原告の生存権を侵害し、憲法25条に違反している。 ⑤ ILO条約は、本件上限設定のように従来の労災 を合わせるべきである。また、労災保険制度は救貧制度としての性質も帯有しているから、本件上限設定は、原告の生存権を侵害し、憲法25条に違反している。 ⑤ ILO条約は、本件上限設定のように従来の労災保険の給付水準を低下させる措置を是認しているわけではなく、社会保障内容の不断の向上を求めているのであるから、61年改正法は、同条約に違反し無効である。 ⑥ 行政訴訟においては、行政行為の内容によって主張立証責任を分配するのが通説であり、国民の自由を制限し、義務を課す行政行為については、行政庁側が要件事実について立証責任を負担する。本件は、原告に労災補償給付の低減という重大な不利益をもたらした被告側が、61年改正と本件告示の合理性について主張立証責任があるというべきである。 本件の場合、61年改正に当たり、立法府がどのような資料に基づき、どのような事実を認定したのか、立法府がどのような根拠・基準に基づく、予測的・評価的事実を認定したのか、立法府が認定した事実が存在するのか、立法府の事実認定の過程は合理的であるのか、目的それ自体の合法性と合理性、目的と手段の間に合理的関連性があるのか、他事を考慮しなかったか、もし制度改変に関するいくつかの選択肢があり得るのに、本件各処分の基礎となった法改正だけを採用したとすれば、その他の選択肢を排除したことに合理性があるのか、立法府が採用した具体的給付基準が合理的であるのか、事実から基準への当てはめは合理的であるのかを、逐一司法審査すべきであって、これらすべてにおいて、事実や合理性の存在は、被告の主張立証責任に属するが、被告が責任を果たしたとは到底いい難い。 (2) 被告の主張① 前示(1)①ないし⑥の主張はいずれも争う。 憲法14条は、形式的平等を規定したものでなく、合理的区別を許容しており、また憲法25条2項 被告が責任を果たしたとは到底いい難い。 (2) 被告の主張① 前示(1)①ないし⑥の主張はいずれも争う。 憲法14条は、形式的平等を規定したものでなく、合理的区別を許容しており、また憲法25条2項も、広範な立法裁量を許容しているのであって、それが著しく合理性を欠き、明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ない場合を除き、裁判所の司法判断には適しない。一方、労災保険制度をどのようなものとして維持し、どのように改めるのが相当かは、立法府が、その時点における条件、一般的な国民生活の状況、国の行なう社会保障制度の在り方、使用者の負担する保険料額等の諸事情を総合勘案して政策判断により決定すべき事項であって、その広範な裁量に委ねられているというべきである。そして、次項以下②③のとおり、61年改正には合理的な目的があり、本件限度額設定が同目的に適うものだったことは明らかであり、改正後の支給額も相当な程度に達しているから、内容も合理的というべきである。 したがって、本件限度額設定が著しく合理性を欠き、明らかに立法府の裁量権限を逸脱濫用するものといえないことは明白であって、その点から前示(1)②イ、ウ、同④イ、エ、カの主張は失当である。 ② 61年改正は、従前以下のとおり存在した制度面の不均衡、不平等を是正するため、一般的労働者の年齢階層別の賃金実態等に基づき、年金たる保険給付にかかる給付基礎日額に年齢階層別の最低限度額及び最高限度額を設定することとしたもので、合理的な立法目的に基づいている。 ア労災保険の給付基礎日額は、原則として被災前3か月間に支払われた賃金から算出される平均賃金相当額によっているが(法8条1項、労基法12条)、これを年金給付の算定基礎として用いた場合、一般的に賃金水準が低い若年被災労働者は低額のまま据え置かれることが多いのに対し、壮年 算出される平均賃金相当額によっているが(法8条1項、労基法12条)、これを年金給付の算定基礎として用いた場合、一般的に賃金水準が低い若年被災労働者は低額のまま据え置かれることが多いのに対し、壮年被災労働者は高額の年金が支給される場合があるなど、受給者相互の大きな格差が生じて、生涯にわたり解消されなかった。 イまた、労働者の稼得能力は一般に高齢時には低下するにもかかわらず、労災年金額は低下する仕組になっておらず、事故により失われた労働者の稼得能力を補填するという労災保険制度本来の趣旨・目的に照らし疑問があった。 ウ更に、失業中のアルバイトあるいは反対に長時間に及ぶ残業等の事情により、低賃金であるいは著しく多額の賃金を得て就労中に被災した場合、上記のような偶然的事情によって給付基礎日額が左右されるため、これを年金のように給付期間が長期間に及ぶものの算定基礎として使用する場合、是正する必要があった。 エそのほか、厚生年金等においては、給付の算定基礎となる標準報酬月額に上限が設けられているため、これら改正が行なわれた社会保険制度等の公的年金あるいは通常の労働者の所得に比較して、著しく均衡を失する高額の年金の支給例が、労災保険の年金給付中に生じていた。 ③ 61年改正後の保険給付は、以下のとおり国際的に最高水準を規定しているILO121号条約及び121号勧告の水準を満たすものであり、内容的にも合理的なものである。 ア年金給付基礎日額の最低限度額と最高限度額は、統計調査を基礎として、年齢階層毎に、当該階層に属する労働者のうち、それぞれ賃金の低い方から5パーセント目(第1・二十分位数)と、高い方から5パーセント目(第19・二十分位数)の労働者が受給する1か月当たり賃金とされている(法8条の2第3項、法施行規則9条の4)。 イただし、最高限度 5パーセント目(第1・二十分位数)と、高い方から5パーセント目(第19・二十分位数)の労働者が受給する1か月当たり賃金とされている(法8条の2第3項、法施行規則9条の4)。 イただし、最高限度額については、ILO121号条約19条が、すべての保護対象者の75パーセントの者と比較して同等以上であることを要求していることから、上記アによって算定される最高限度額が全労働者(男女計・年齢計)の第3・四分位数を下回る場合には、当該第3・4分位数に基づく金額を当該年齢階層の最高限度額とし(法施行規則9条の4第4項)、また最低限度額については、給付基礎日額の最低保障額(法施行規則9条1項4号本文)に満たない場合は、その金額を当該年齢階層の最低限度額とするとされている(法施行規則9条の4第2項)。 ④ また、もともと労災保険制度は、労災によって被災労働者に生じた損害の一部を簡易迅速に補償する制度として出発し、労基法上の使用者の補償責任を基礎とし、平均賃金を基礎に算出された定率的な補償を主な事業目的とするものであり、その財源は、もっぱら使用者からの保険料によってまかなわれているのであるから、労災保険給付は、かならずしも被災労働者の従前の賃金の基礎とする必要はないし、当該被災労働者やその家族の従前の生活程度を完全に補償しなければならないものでもない。 そして、遺族補償年金の受給権は、労災保険法という実定法に基づく権利であって、経過措置対象者は、61年改正当時すでに具体的権利としての遺族年金受給権を有していたのに、本件改正法対象者は、同改正前に具体的権利を有していなかった者であるから、両者の年金受給権の内容の差異を直ちに不合理ということはできないし、平成6年に死亡したAが61年改正前の給付内容について期待を有していたともいえない。また、憲法25条2項ない なかった者であるから、両者の年金受給権の内容の差異を直ちに不合理ということはできないし、平成6年に死亡したAが61年改正前の給付内容について期待を有していたともいえない。また、憲法25条2項ないし国際人権規約11条1項が具体的義務を規定したともいえないから、原告の前示(1)②ア、ウ、同③、同④ア、同⑤の主張も失当である。 以上の事情に加えて、本件事故時のAの手取年収額974万円に対し、先行処分による遺族年金額は、遺族特別年金を含め389万5200円(非課税額)であり、更に厚生年金保険法による遺族厚生年金、遺族基礎年金を加えた合計金額は563万円余りとなることからすれば、原告に支給される労災年金額とAの生前の収入との間に著しく不合理な格差が生じているとはいえないのであって、これらの点からも前示(1)②ウ、同④ウの主張は失当である。 ⑤ 更に、労災保険の保険料は、労働者の平均賃金額毎に一律でなく、多数の事業所を事業の種類毎に集団として分類し、災害率が高い業種ほど保険料率が高く、保険料の負担額も多額となっており、また中規模以上の事業については、いわゆるメリット制を採用して、事業所毎に保険料率が上下する仕組になっている。そして、労災保険の事業運営に当たり、労働者からは保険料が徴収されていない。 したがって、前示①ないし③の事情も併せれば、原告主張のような照応の原則等を取るべき根拠はなく、前示(1)②エ、同④オの主張も失当である。 第3 当裁判所の判断 1 労災保険制度の趣旨・性質及び立法府の裁量(1) 現行の労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行ない、併せて、上記事情により負傷し、疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、 る労働者の負傷、疾病、障害又は死亡に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行ない、併せて、上記事情により負傷し、疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、適正な労働条件の確保を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする制度であるが(法1条)、当初同制度は、労基法75条以下が規定する使用者の労働者に対する災害補償責任を前提として、その填補を目的とする責任保険として出発したものであり、たとえば、労災保険からの給付については、使用者が労基法上の責任を免れることとされている(労基法84条1項)のは、この故である。また、労災保険の保険料は、後示(2)のとおり原則として使用者が拠出するものとされている。そうすると、以上の点において、労災保険制度は、同制度を管掌する政府と使用者とが労働者を被保険者として締結する、他人のためにする責任保険契約としての機能を果たしているということができる。 他方、従前から労災保険法は、単に上記のような労基法上の災害補償責任の填補にとどまらず、以下のとおり、更にそれを超える内容・種類の各種給付や福祉事業を創設しており、たとえば、(a)昭和35年の長期傷病者補償給付制度を皮切りに、その後に遺族補償年金、障害補償年金、傷病補償年金などの保険給付が本格的に年金化され、(b)昭和27年に休業補償給付に導入されて以降、各種の年金や一時金にスライド制が導入され、(c)昭和51年には、新たに労働福祉事業(法第3章の2)が設けられ、それ以降、各種特別支給金や援護費等の支給、労災病院や各種リハビリテーション施設等の設置運営などの福祉事業が開始されたほか、(d)昭和48年の通勤災害保護制度や、小規模事業主や一人親方など労働者でない者についての特別加入制度の創設など、使用者の災害補償責 ハビリテーション施設等の設置運営などの福祉事業が開始されたほか、(d)昭和48年の通勤災害保護制度や、小規模事業主や一人親方など労働者でない者についての特別加入制度の創設など、使用者の災害補償責任を前提としない諸領域にも保険事業が拡充されている。 したがって、上記諸点を考慮すれば、労働者災害補償保険制度は、保険制度の形式を取っているものの、これを固有の意味における責任保険というのは妥当ではなく、実質的には、直接労働者及びその遺族の保護と福祉の増進を目的とする社会保障たる性質を有する法制度というべきであり、また、たとえば、これに第三者のためにする保険契約に関する民法538条又は商法648条の規定を適用ないし類推適用することもできないというのが相当である。 (2) 次に、もともと労災保険制度は、使用者の有責無責を問わず、業務上の原因に基づき被災した労働者に定額の給付を行なうことを目的とした制度であり、適用事業であれば、使用者は当然に保険関係に加入することとされ(法3条1項、労働保険徴収法3条)、また保険制度自体がほぼ全額使用者の拠出する保険料によって維持されている(労働保険徴収法10条以下。なお、法26条、25条2項は、それぞれ国庫補助と被災労働者の一部負担を規定しているが、実際は僅少又は名目的なものである)。更に、労災保険制度は、前示のとおり労基法75条以下の災害補償責任を前提としているところ、労基法は、刑罰をもって使用者にその履行を強制している(同法119条1号)。 したがって、以上を前提とする労災保険制度は、前示(1)判示の責任保険たる機能を有する領域においても、使用者等の故意、過失を前提とする不法行為や安全配慮義務違反の場合とは異なり、事故によって被災労働者に生じた全損害の填補を目的とするものとは認められないし、被災労働者やその遺 有する領域においても、使用者等の故意、過失を前提とする不法行為や安全配慮義務違反の場合とは異なり、事故によって被災労働者に生じた全損害の填補を目的とするものとは認められないし、被災労働者やその遺族の生活水準の維持自体を実現しようとする制度でもないというべきである。 (3) 更に、労災保険制度の保険料について、詳しく検討するに、同制度における一般保険料(労働保険徴収法10条1号)は、当該事業で使用されるすべての労働者に支払われる賃金総額に一般保険料にかかる保険料率を乗じて算定されているが(同法11条)、このうち労災保険料は、単純に対象となる労働者の賃金総額だけによって一律に定められているものではなく、適用事業を業種毎に一括して、それぞれの災害率、労働福祉事業の種類内容その他の事情を考慮して労働大臣が決定することとされており(同法12条2項)、実際の保険料率は1000分の6から同134に至るまで、事業の種別毎に災害率に応じて大幅な高低がある(同法施行規則別表1。平成10年4月1日現在)。また、一定規模以上の事業には、いわゆるメリット制が採用されており、個々の事業毎に過去3年間の業務災害による保険料負担額と給付額との収支率に応じて、一定範囲で労災保険料が上下することとされている(同法12条3項)。 したがって、仮に個々の労働者に関して拠出される労災保険料を想定するとしても、労災保険全体を通じてみれば、その金額と被災労働者又は遺族に対する保険給付額との間に厳密な対応関係の認められないことは明らかである。 (4) 他方、憲法25条1項は、福祉国家の理念に基づき、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運営すべきことを国の責務として宣言した規定であり、同条2項は、同様の理念に基づき、社会的立法及び社会的施策の創造拡充に努力 に基づき、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運営すべきことを国の責務として宣言した規定であり、同条2項は、同様の理念に基づき、社会的立法及び社会的施策の創造拡充に努力すべきことを国の責務として宣言した規定であるが、同条1項は、国が個々の国民に対し上記義務を具体的、現実的に負担する趣旨を規定したものではなく、同条2項による社会保障その他の社会的立法により、個々の国民の具体的、現実的な生存権が設定・充実されてゆくことを予定しているというべきである。他方、上記「健康で文化的な最低限度の生活」の概念は、極めて抽象的、相対的なものであり、その具体的内容は、個々の時点における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況のほか、使用者の負担する保険料等の諸事情を総合勘案して政策判断により決定すべき事項であって、立法府の広範な裁量に委ねられているというべきであるから、その施策が著しく合理性を欠き、明らかに上記裁量の逸脱・濫用というべき場合を除き、これを違憲ということはできないというのが相当である。 したがって、前示(1)判示のとおり社会保障制度の一環たる性質を有する労災保険制度の給付要件・内容等を決定・変更するに当たっても、立法府には同様の広範な裁量権が与えられていると解される。 (5) そして、前示(1)判示のとおり、社会保障たる性質を有する労災保険制度には、民法538条あるいは商法648条を適用ないし類推適用することができないのであるから、労災保険制度が被保険者たる労働者にとって不利益に法律改正された場合であっても、すでに労災事故が発生して特定の保険給付の受給権が具体的に発生しているなど特段の事情がある場合を除き、改正前にすでに保険関係の対象となっていた労働者が、従前の法律の内容に関して、立法上当然に保 ても、すでに労災事故が発生して特定の保険給付の受給権が具体的に発生しているなど特段の事情がある場合を除き、改正前にすでに保険関係の対象となっていた労働者が、従前の法律の内容に関して、立法上当然に保護さるべき既得の具体的法的利益又は地位を有するということはできないのであって、問題の法律改正が労働者にとって従前より不利益な内容を含むとの一事をもって、直ちに当該法律改正が著しく合理性を欠くとか、前示(4)判示の立法府に与えられた裁量権を明らかに逸脱・濫用しているということはできないと解すべきである。 また、前示(2)(3)判示のとおり、もともと労災保険制度が、発生した全損害の填補や当該労働者と遺族の生活水準の維持自体を目的とする制度でない点や、個々の労働者に関する労災保険料額と保険給付額との間に厳密な対応関係を有するものでない点を考慮すれば、これらと相反する事情を主張して、前示立法裁量の逸脱・濫用等を基礎づけることもできないというのが相当である。 (6) 更に、上記(4)の違憲主張の主張立証責任に関して検討するに、個々の保険給付に関する決定が、労災保険法及び委任を受けた関係省令に従っている場合、当該処分の有効性を争う当事者は、憲法違反等によって上記法令が無効であることを主張立証しなければならないのは当然であり、また、その違憲の根拠が憲法25条違反にある場合には、前示(4)のような同条の規範的性質を前提としたうえで、同判示のような立法府の裁量違反を基礎づけるに足りる事実の主張立証責任を負うと解するのが相当であって、単に特定の労災保険制度の内容が不合理である等の理由だけでは直ちにその無効を根拠づけるには足りないし、また、行政庁側が法律の制定・改正について、当然にその適法性や内容的正当性を主張立証する責任を負うものでもないというのが相当である。 ある等の理由だけでは直ちにその無効を根拠づけるには足りないし、また、行政庁側が法律の制定・改正について、当然にその適法性や内容的正当性を主張立証する責任を負うものでもないというのが相当である。 2 原告の主張に対する判断前示1に判示したところに基づいて、以下判断する。 (1) 本件処分等の制度趣旨の逸脱及び不合理性の有無(前示第2、2(1)②の主張について)① この点につき、原告は、61年改正法、本件告示及び本件各処分が、上記主張アないしエの事情から、労災保険制度の趣旨を逸脱しており、不合理であって違法無効だと主張している。 しかしながら、前示1(6)判示のとおり、このような事情は、直ちに法令等の無効をもたらすものでないことが明らかであり、したがって本件各処分の有効性を争う事情ともなり得ないから、原告の上記主張は、それ自体失当といわねばならない(なお、(a)前示第2、2(1)②アの主張は、経過措置対象者と本件改正法対象者との差別をいう点で、前示第2、2(1)③の違憲主張と、(b)前示第2、2(1)②ウの主張は、被災労働者の収入面の格差がそのまま保険給付の格差に反映されるべき旨をいう点で、第2、2(1)④エの違憲主張と、(c)前示第2、2(1)②エの主張は、個々の被災労働者に関する保険料と保険給付との対応関係を保全すべき旨をいう点で、第2、2(1)④オの違憲主張と、それぞれ一部主張の趣旨・根拠を共通にしているが、上記の各違憲主張が採用できないことは、いずれも後示のとおりであって、仮に前示第2、2(1)②ア、ウ、エの主張が、違憲主張の根拠事由として援用されたとしても、これを採用するに由ないことは明らかである)。 ② また、上記の主張立証責任に関連して、原告は、前示第2、2(1)⑥のとおり、被告に61年改正と本件告示の合理性についての主 として援用されたとしても、これを採用するに由ないことは明らかである)。 ② また、上記の主張立証責任に関連して、原告は、前示第2、2(1)⑥のとおり、被告に61年改正と本件告示の合理性についての主張立証責任があると主張しているが、法令の無効を主張する側が、その点に関する主張立証責任を負担するものであることは、前示1(6)判示のとおりである。原告の主張は、違憲立法審査権の趣旨に反する独自の見解というべきであって、容易に採用することができない。 (2) 憲法14条違反の成否(前示第2、2(1)③の主張について)① 原告の上記主張は、経過措置対象者と本件改正法対象者とが、本来同等の保険給付を受けるべき立場にありながら、本件上限設定によって不当に差別されている趣旨をいうものである。 ② そこで、まず経過措置対象者と本件改正法対象者の法的地位の異同について検討するに、経過措置対象者は、前示第2、1(6)②のとおり、本件施行日の時点において年金たる保険給付の受給権を取得している者であるところ、これに対し、本件改正法対象者は、前示1(5)第1段に判示のとおり、61年改正前にすでに保険関係の対象となっていた場合においても、旧法の内容に関して、立法上保護さるべき既得の法的利益ないし地位を有していたということはできないのであるから、両者の法的立場には、かならずしも同一性が認められないというのが相当である。 ③ 次に、61年改正の経過についてみるに、乙5ないし乙9、乙12、乙14、乙17、乙18によれば、以下の立法事実を認めることができる。 アすなわち、61年改正前には、労災保険の給付基礎日額は、原則として被災前の3か月間に支払われた賃金から算出される平均賃金相当額によることとされ(法8条1項、労基法12条)、年齢階層のいかんによらない一律の最低保障額の定め は、労災保険の給付基礎日額は、原則として被災前の3か月間に支払われた賃金から算出される平均賃金相当額によることとされ(法8条1項、労基法12条)、年齢階層のいかんによらない一律の最低保障額の定めが法施行規則9条4号本文に置かれていたにすぎなかった。一方、労災保険制度全体の中では、次第に年金たる保険給付の占める役割が増大していたところ、上記のようにして算出された給付基礎日額をそのまま年金給付の算定基礎として用いた結果、以下のような問題を生じていることが指摘されていた。 a 一般的に賃金水準が低い若年時に被災した労働者は、年金が低額のまま据え置かれることとなるのに対し、壮年時に被災した労働者は、賃金水準が高く、高額の年金が支給される場合があるなど、受給者相互の間に大きな格差が生じ、かつこれが生涯にわたって解消されないこと。 b また、労働者の稼得能力は高齢時には低下するのが一般的であるにもかかわらず、年金給付額は低下する仕組になっていないため、現役の高齢者の所得実態との間に不均衡を生じていること。 c 更に、失業中のアルバイト等なんらかの偶発的な事情により低賃金で就労中に被災した場合や、反対に長時間に及ぶ残業等なんらかの事情により、通常より著しく多額の賃金を得ている最中に被災した場合など、偶然的事情によって給付基礎日額が左右されることがあるため、これを年金のように給付期間が長期間に及ぶものの算定基礎として使用するのは妥当とはいえないこと。 イそして、外国の例をみても、西ドイツやフランスの労災給付では、年金の場合、被災前1年間の賃金を基礎として決定されていたほか、西ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、アメリカ等では、年金についてなんらかの最高限度の定めが置かれていた。 ウそこで、前示アのような制度面の不均衡 れていたほか、西ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、アメリカ等では、年金についてなんらかの最高限度の定めが置かれていた。 ウそこで、前示アのような制度面の不均衡、不平等を是正するため、一般的労働者の年齢階層別の賃金実態等に基づき、年金たる保険給付にかかる給付基礎日額に年齢階層別の最高限度額及び最低限度額を設定することとされ、統計調査を基礎として、年齢階層毎に、当該階層に属する労働者のうち、それぞれ賃金の高い方から5パーセント目(第19・二十分位数)と、低い方から5パーセント目(第1・二十分位数)の労働者が受給する1か月当たり賃金をもって、それぞれ年金給付基礎日額の最高限度額と最低限度額とすることとされた(61年改正後の法8条の2第3項、法施行規則9条の4)。なお、最高限度額を上記のとおり定めるに当たっては、当時の社会保険における標準報酬月額の最高額を日額に換算した数額が、ほぼ上記第19・二十分位数に見合うことも参考とされている。 エそして、上記の最高限度額及び最低限度額の具体的決定に当たっては、(a)20歳未満から、以下5歳刻みで65歳以上まで11段階の年齢階層を定めたうえ、(b)労働省作成の「賃金構造基本統計」によって、従業員5人以上の民営事業所に雇用される常用労働者(パートタイム労働者を除く)の「きまって支給する現金給与額」(月額)を基礎として、前示第19及び第1・二十分位数の日額を年齢階層別・男女別に定め、(c)被災労働者の男女別割合を考慮して上記(b)の男女別の二十分位数を加重平均することにより、各年齢階層毎の最高限度額及び最低限度額を決定することとされた(61年改正後の法施行規則9条の3、9条の4第1項)。 オ一方、ILO121号条約19条は、年金その他の定期的支払金につき最高限度額を 各年齢階層毎の最高限度額及び最低限度額を決定することとされた(61年改正後の法施行規則9条の3、9条の4第1項)。 オ一方、ILO121号条約19条は、年金その他の定期的支払金につき最高限度額を設ける場合には、熟練男子筋肉労働者の賃金以上であること、また熟練男子筋肉労働者とは、すべての被保護者の75パーセントの平均所得と同等以上の所得を有する者であるか、これと選択可能な他の条件を満たす者であること、以上の趣旨を定めていたために(同条3、6項)、上記エによって算定される最高限度額が全労働者(男女計・年齢計)の第3・四分位数を下回る場合には、当該第3・四分位数に基づく金額をもって当該年齢階層の最高限度額とされた(法施行規則9条の4第4項)。 また、最低限度額については、これが従前から定められていた年齢階層によらない、前示アの給付基礎日額の最低保障額に満たない場合、その金額を当該年齢階層の最低限度額とすることとされた(法施行規則9条の4第2項)。 カそして、61年改正法は、一部を除き昭和62年2月1日から施行され、本件限度額設定も、同日以降新規に年金を受けることとなるものについて適用されているが(同法附則1条)、経過措置として、上記時点において年金たる保険給付を受ける権利を有していた経過措置対象者については、上記時点の当該年金たる保険給付にかかる給付基礎日額が最高限度額を超える場合には、当該給付基礎日額を基礎として給付額を算定し、ただ当該超える間はスライド制を適用しないこととされた(同4条1、2項)。 ④ 以上②③の事情に基づき検討するに、(a)前示②のとおり、経過措置対象者と本件改正法対象者の地位には、かならずしも法的な同一性が認められないうえ、(b)61年改正には、給付基礎日額を、そのまま年金たる保険給付の算定基礎としていたことに伴う 示②のとおり、経過措置対象者と本件改正法対象者の地位には、かならずしも法的な同一性が認められないうえ、(b)61年改正には、給付基礎日額を、そのまま年金たる保険給付の算定基礎としていたことに伴う前示③アaないしcのような制度面の不均衡、不平等を是正するという合理的な目的があり、かつ、(c)本件上限設定を含む本件限度額設定は、上記の法改正目的に適合する合理的な手段だったということができる。また、(d)前示③ウの最高限度額及び最低限度額の設定水準は、旧法時における給付水準から著しく隔絶するものでないことは明らかであり、(e)前示③エの具体的決定方法にも格別問題となるような点は認められないし、(f)前示③オによれば、61年改正後の最高限度額は、ILO条約の要求する給付水準を満足していると考えられる。そして、(g)前示③カの本件経過措置の内容によれば、経過措置対象者は、旧法当時の保険給付水準を維持されるが、その後スライド制(法8条の3第1項2号。ただし、平成2年法40号による改正前は法施行規則中で規定)が適用されないこととなる結果、経過措置対象者と本件改正法対象者との給付格差は順次縮小・解消するよう制度上の配慮がなされていたことが明らかである。 したがって、以上によれば、61年改正による本件上限設定によって、経過措置対象者と本件改正法対象者とを異別に扱うことには合理的理由があるというべきであって、本件改正法対象者を不当に差別するものとはいえないから、憲法14条違反の主張には理由がないというのが相当である。 (3) 憲法25条違反の成否(前示第2、2(1)④の主張について)① 同アの主張についてこの点につき、原告は、憲法25条2項あるいは国際人権規約11条1項によって、国に、国民に対する社会保障水準を上昇させる規範的義務が課されていることを 1)④の主張について)① 同アの主張についてこの点につき、原告は、憲法25条2項あるいは国際人権規約11条1項によって、国に、国民に対する社会保障水準を上昇させる規範的義務が課されていることを前提に、労災保険制度の給付水準を切下げることができない旨を主張している。 しかしながら、憲法25条2項が国に上記のような具体的義務を負わせていると解せられないことは、前示1(4)に判示したところから明らかであり、かえって、憲法は、社会保障制度の範疇に属する労災保険の給付内容の変更等についても、立法府に広範な裁量権を与えていると認めることができる。また、国際人権規約11条1項が同様の具体的義務を規定していると解すべき根拠もない。 したがって、そのほか、前示1(5)第1段判示のとおり、本件改正法対象者が旧法の内容に関して既得の法的利益等を有していたとは認められない点も考慮すれば、原告の上記主張は容易に採用することができない。 ② 同イの主張についてこの点につき、原告は、労災保険制度が憲法25条1項の救貧政策に属すること、ないし事実としてそのような救貧的機能を果たしていることを前提として、保険給付の内容には絶対的基準があり、その低減は違憲である旨を主張している。 しかしながら、労災保険制度が社会保障制度として憲法25条2項の防貧政策たる範疇に属するものであって、憲法25条1項の救貧政策とは異質なものであることは、前示1(1)(4)に判示したところから明らかである。 また、原告の具体例をみても、乙10、乙11、乙15、乙16によれば、(a)本件事故時のAの年収約1464万円から、税金等を控除した後の手取年収額は約974万円程度と推認されるところ、(b)これに対し、先行処分の段階で、原告への支給が決定された遺族補償年金の額は年額311万6100円であり、これに 64万円から、税金等を控除した後の手取年収額は約974万円程度と推認されるところ、(b)これに対し、先行処分の段階で、原告への支給が決定された遺族補償年金の額は年額311万6100円であり、これに遺族特別年金77万9100円を加えると、労災保険からの支給総額は年額389万5200円となり、全額非課税であり、更に、(c)厚生年金保険法による遺族厚生年金、遺族基礎年金を加えると、年額563万円余りとなるのであって、この数額からしても、労災保険上の遺族補償年金が救貧的機能を果たす程度の内容にすぎないとは容易に認め難い。 したがって、原告の上記主張は、その前提を認めることができず、いずれも容易に採用することができない。なお、そのほか原告は、旧法の労災給付について憲法上の自由権的効果があるとも主張するが、独自の見解であって採用できない。 ③ 同ウ、エの主張についてこの点について、原告は、(a)旧法時の壮年時被災労働者への年金支給額が高額でなかったとか、(b)保険制度の性質上、支給格差は当然あり得ることであるとの理由をもって、若年時被災労働者への年金支給額との格差是正をいう61年改正は、その目的が不合理である等と主張している。 しかしながら、前示1(4)判示のとおり、労災保険の給付内容の決定・変更等に関して立法府に与えられた裁量権は広範なものであって、違憲の問題を生ずるのは、その施策が著しく合理性を欠き、明らかに裁量権の逸脱・濫用である場合に限られるところ、単に上記(a)(b)のような事情だけで上記裁量権の逸脱等を基礎づけることができないのは見易い道理というべきである。 そのうえ、61年改正が上記格差の是正だけを目的としたものでないことは、前示(2)③アb、cに認定のとおりであって、特に高齢労働者の稼得能力の低下が年金給付額に反映されておらず、現役 うべきである。 そのうえ、61年改正が上記格差の是正だけを目的としたものでないことは、前示(2)③アb、cに認定のとおりであって、特に高齢労働者の稼得能力の低下が年金給付額に反映されておらず、現役の高齢者の所得実態との間に不均衡を生じている問題については、給付額になんらかの上限設定をするのが適切な解決策であることは明らかである。 また、前示②第3段認定の事実も考慮すれば、旧法時の労災給付水準が、原告主張のような低水準に留まっていたとも容易に考え難い。 したがって、原告の上記各主張も直ちに採用することができない。 ④ 同オ、カの主張についてこの点について、原告は、(a)社会保険では、費用負担の程度に応じて給付水準を決定すべきであり、所得比例保険料が課されている労災保険制度では、所得比例給付が実現されねばならないとか、(b)労災保険給付は、家族共同体の従来の生活水準の維持に焦点を合わせるべきであるとの理由により、61年改正による本件上限設定が不合理である旨を主張している。 しかしながら、もともと労災保険法が、制度上上記(a)(b)のような特質を有するものではなく、したがって、これらを理由として、立法府に与えられた裁量権の逸脱・濫用等を根拠付けることができないことは、前示1(5)第2段に判示したとおりであって、原告の上記各主張も容易に採用できない。 (4) ILO条約違反の成否(前示第2、2(1)⑤の主張について)この点について、原告は、ILO条約が、国に社会保障内容の不断の向上を求めている等として、61年改正法の同条約違反を主張しているが、そもそも同条約が国に具体的義務を課した法的規範である旨を主張しているものではないし、そのように解すべき特段の事情も見当たらないから、上記主張も採用できない。 3 結論上の次第で、原告の請求は、いずれも理由が 約が国に具体的義務を課した法的規範である旨を主張しているものではないし、そのように解すべき特段の事情も見当たらないから、上記主張も採用できない。 3 結論上の次第で、原告の請求は、いずれも理由がない。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判官夏目明徳

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る