主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求地方公務員災害補償基金大阪府支部長が原告に対し,地方公務員災害補償法に基づき平成24年8月30日付けでした公務外認定処分を取り消す。 第2 事案の概要等 1 本件事案の概要(1) 大阪府の職員であったAは,平成23年3月11日午後2時46分に発生した宮城県沖を震源地とする巨大地震(以下「東日本大震災」という。)の被災支援のため岩手県に避難所等を巡回する自動車運転手業務に従事するために派遣されていたところ,同派遣中に死亡した。 Aの妻である原告は,Aが死亡したのは公務上の災害によるものであるとして地方公務員災害補償基金大阪府支部長(以下「処分行政庁」という。)に対し,公務災害認定請求をしたところ,処分行政庁は,平成24年8月30日,Aに生じた疾病は公務上の災害とは認められないとして公務外認定処分(以下「本件処分」という。)をした。 (2) 本件は,原告が被告に対し,本件処分の取消しを求める事案である。 2 前提事実(争いがない事実及び後掲証拠等により容易に認められる事実)(1) 当事者等ア A(昭和36年○月○○日,死亡時49歳)は,昭和56年10月1日から大阪府技能員として採用され,平成22年4月1日からは大阪府○○保健所企画調整課の技師として,自動車運転業務等に従事していた。 イ原告は,Aの妻である。 (2) 東日本大震災の発生及びAの被災地派遣 ア東日本大震災においては,東北地方を中心として,甚大な被害が生じた。 岩手県□□町は,上記地震に伴う津波に襲われたほか,同町□□地区を中心にして大規模な火災が発生し,広範囲が消失するなど人的,物的な被害が発生した。 イ(ア) 大阪 心として,甚大な被害が生じた。 岩手県□□町は,上記地震に伴う津波に襲われたほか,同町□□地区を中心にして大規模な火災が発生し,広範囲が消失するなど人的,物的な被害が発生した。 イ(ア) 大阪府は,東日本大震災に係る被災地支援のため,医師,保健師らと共に,公衆衛生チームを構成し,Aは,同チームの一員として,平成23年4月3日から同月7日まで間,被災地である岩手県△△市及び同県□□町に派遣された(以下「第1次派遣」という。)。 (イ) また,Aは,第1次派遣と同様に公衆衛生チームの一員として,同年5月12日から岩手県△△市及び同県□□町に派遣された(以下「第2次派遣」といい,第1次派遣と併せて「本件被災地派遣」という。)。 (ウ) Aは,本件被災地派遣において,岩手県△△保健所管内で現地に数か所ある避難所等を巡回する自動車運転業務に従事していた。 (3) 本件疾病の発症及びAの死亡Aは,平成23年5月14日午後9時20分頃,宿泊先のホテルにおいて頭痛を訴え,岩手県立△△病院(以下「△△病院」という。)に搬送されたものの,同月20日,死亡した(なお,Aの死因となった疾病が,脳出血であるか,脳幹出血であるかについては当事者間に争いがあるが,以下においては,同疾病について,「本件疾病」と呼称することとする。)。 (4) 本件訴訟に至る経緯ア原告は,平成23年7月21日,処分行政庁に対し,本件疾病が公務上の災害であるとして,公務災害認定請求を行ったが,処分行政庁は,平成24年8月30日,本件疾病は公務外の災害であるとする公務外認定処分(本件処分)をした(甲2)。 イ原告は,本件処分を不服として,平成24年10月23日付けで,地方公務員災害補償基金大阪府支部審査会に対し審査請求をしたところ,同審 査会は,平 定処分(本件処分)をした(甲2)。 イ原告は,本件処分を不服として,平成24年10月23日付けで,地方公務員災害補償基金大阪府支部審査会に対し審査請求をしたところ,同審 査会は,平成25年9月11日,審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲3)。 ウ原告は,上記裁決を不服として,平成25年10月10日付けで,地方公務員災害補償基金審査会に対し再審査請求をしたところ,同審査会は,平成26年5月8日,再審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲1)。 エ原告は,平成26年11月6日,本件訴えを提起した(裁判所に顕著な事実)。 第3 本件の争点本件の争点は,本件疾病の公務起因性の有無(本件疾病の発症と公務との間の相当因果関係の有無)という点である。 第4 争点に関する当事者の主張(原告) 1 公務起因性の判断基準について(1) 地方公務員災害補償法(以下「地公災法」という。)31条の「職員が公務上死亡した場合」とは,職員が公務に基づく負傷又は疾病に起因して死亡した場合をいい,その負傷又は疾病と公務との間には相当因果関係が存在することが必要であるところ,地方公務員災害補償制度(以下「地公災制度」という。)が公務に内在する危険が現実化した場合に職員に発生した損害を補償する制度であることからすれば,公務と疾病の発症との間の相当因果関係の有無は,当該疾病が公務に内在する危険の現実化として発症したと認められるかによって判断すべきである。 (2) そして,本件のような被災職員の脳出血が地公災法施行規則別表第1第8号「相当の期間にわたって継続的に行う長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務に従事したために生じた」ものであるかどうかを検討することが必要となるが,脳血管性疾患は,被災職員の年齢,血圧, 号「相当の期間にわたって継続的に行う長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務に従事したために生じた」ものであるかどうかを検討することが必要となるが,脳血管性疾患は,被災職員の年齢,血圧,血管病変等の個体的要因に生活要因,職務上の要因がそれぞれ相互に作用して発 症するものと考えられるため,上記の個体要因や生活要因が相対的に有力であるか,公務上の要因が有力であるかによって,公務との相当因果関係を判断すべきである。 なお,被告は,「心・血管疾患及び脳血管の公務上災害の認定について」(平成13年12月12日付け地基補第239号。以下「理事長通知」という。)」及び「心・血管疾患及び脳血管の公務上災害の認定について」の実施及び公務起因性判断のための調査事項について」(平成13年12月12日地基補第240号。以下「認定基準」という。)に基づき判断すべきであると主張するが,これらはいずれも行政組織内の内部指令に留まるものであって,法令としての性質を有していないばかりか,本件のような東日本大震災のような地震・津波の観測史上最大の複合大規模災害への複数回,複数日にわたる支援業務などは想定されずに作成された基準であって,あまりにも過重な要件を課すものであり,本件においてこれらを適用するのは不適当である。 2 本件疾病発症と公務との間に相当因果関係が認められること(1) 被災地への派遣そのものによる負担Aは,第2次派遣について,気が進まず,原告に対しても「行きたくない。」と漏らしていたが,上司から被災地への支援は重要な公務であると言われ,断ることができなかった。また,Aは,短期間に2回も被災地に赴かねばならず,その精神的な負担は大きいものであった。 (2) Aが異常な出来事・突発的事態に遭遇したこと 要な公務であると言われ,断ることができなかった。また,Aは,短期間に2回も被災地に赴かねばならず,その精神的な負担は大きいものであった。 (2) Aが異常な出来事・突発的事態に遭遇したこと東日本大震災は,地震及び津波が発生した平成23年3月11日だけで終わったものではなく,同年5月の段階でも体感できる余震が続いており,「また同じことが起きるのではないか。」という強い恐怖と不安があった。また,直接被災地で大震災を体験しなかった者であっても,被災地に赴けば破壊された風景,余震,匂い,埃,異臭,復旧していないインフラ等から震災を追 体験したもので,このような状況下における被災地での公務は,Aにとって,公務に関連して異常な出来事・突発的事態に遭遇したものといえる。 (3) 自動車運転業務が急激な環境変化や極度の精神的緊張を伴うものであったことア Aは,平成22年まで病院勤務であり,本件被災地派遣当時,保健所に異動して自動車運転業務を開始してまだ1年しか経過していなかった。また,Aは,どちらかといえば自動車の運転が苦手であり,自動車を運転する際には緊張していたが,同運転業務は,全く知らない土地・道路で,初対面の人を乗せた走行であって,また,運転する自動車がレンタカーであり,傷を付けることがないように運転することを余儀なくされるなど特に緊張とストレスを伴うものであった。 イ上記のとおり,Aは,保健所勤務から間がなく,元々面識のある保健師もいない中で,公衆衛生チームの一員として行動することは「機構・組織改革」に匹敵するほど従前の業務とは異なるものであった上,被災地支援に来た以上,被災地の役に立たなければならないというプレッシャーがあった。 ウ特にAが派遣された岩手県□□町は,道路脇にがれき 」に匹敵するほど従前の業務とは異なるものであった上,被災地支援に来た以上,被災地の役に立たなければならないというプレッシャーがあった。 ウ特にAが派遣された岩手県□□町は,道路脇にがれきが山積みとなっており,見通しや路面の状態も悪く,多くの車両が走行しているにもかかわらず交差点の信号機が故障し続けているというところもあり,運転にはストレスを伴った。 エ保健師らは,避難所において遺族らの話を聞くなどして精神的負荷を感じていたが,運転業務に従事する者も避難所で遺族らの話を聞くことがあり,Aにおいても,被災地の状況を目の当たりにすることで同様の精神的負荷があったというべきである。 (4) 被災派遣期間の全てが勤務時間といえること上記(2)のとおり,被災地は未だ大震災の渦中にあったところ,Aは, 第2次派遣出発日である5月12日について,午前7時50分に自宅を出発してから就寝するまで,13時間を超える拘束を受けていた。また,派遣先においては,ライフラインの回復が十分ではなく,派遣中の昼食は毎日カップラーメンであった。Aを含む男性職員は,宿泊先においても,一室に4ないし6名が寝る状態であり,同室者のいびきが気になり,十分な睡眠を取ることができなかった。 以上のとおり,本件被災地派遣においては,心の安まるときはなく,就寝時間も眠れない状態にあったのであるから,本件被災地派遣されている時間全てが勤務時間とみるべきである。 (5) 被災地では早期の治療を受けることができなかったことAは,平成23年5月14日の午前中から強い頭痛を訴えており,これは脳出血の前駆症状であった可能性が高いものである。しかし,被災地支援業務の特殊性から,被災地支援で避難所への巡回をしている間は,たとえ頭が 成23年5月14日の午前中から強い頭痛を訴えており,これは脳出血の前駆症状であった可能性が高いものである。しかし,被災地支援業務の特殊性から,被災地支援で避難所への巡回をしている間は,たとえ頭が痛くともそれを訴えることも,病院に行くこともできない状況にあったもので,仮に,同日の昼から夕方の時点で早めに診察を受けていれば,救命できていた可能性が高かったと考えられる。 なお,被告は,同日夕方頃には病院に行くことが可能であったと主張するが,被災地支援に来ていて,支援者が医療を受けるなどとは到底言える状況ではなかった。 3 Aの死因及び素因の点について(1) Aの死因の点についてAの死因となった本件疾病は,臨床の経験が豊富なB医師による所見によれば,脳内出血との所見を示しているところ,これは同人の治療を行った△△病院の担当医師の診断とも一致しているものである。 なお,被告は,原告の供述に依拠してAが発症したのは,脳幹出血であると主張するが,Aの症状,CT所見,B医師による所見等によれば,脳内出 血とみるべきであり,原告が主治医から「脳幹」という言葉を聞いた可能性はあるものの,そのことをもって,Aが脳幹出血を発症したとはいえない。 (2) Aの素因の点についてア高血圧についてAの平成15年から平成22年までの健康診断による血圧は,収縮期114~150㎜Hg,拡張期70~102㎜Hgであり,B医師によれば,この程度の血圧の場合には「正常~軽度高血圧」として生活,食事療法を勧め,薬物治療を勧めることはない程度のものであり,脳出血を引き起こすほどの状態ではなかった。同人の日頃の軽症高血圧に,本件被災地派遣という特殊な職務に伴う職業的なストレスや一時的な塩分摂取量の増加などが加わった 勧めることはない程度のものであり,脳出血を引き起こすほどの状態ではなかった。同人の日頃の軽症高血圧に,本件被災地派遣という特殊な職務に伴う職業的なストレスや一時的な塩分摂取量の増加などが加わったことにより,重度の高血圧が生じ,脳出血に結びついた可能性が高い。 イ飲酒習慣についてAに飲酒の習慣があり,γ-GTPの測定値が上昇していたことは認められるにしても,脳出血がそれのみの要因で起きるとは考え難い上,△△病院においても凝固能は正常と診断されており,脳出血の頻度を上げる大きな要因とみるべきではない。 ウその他の素因等についてAの平成22年のBMIは25.8であり,肥満というよりは,ほとんど標準とみなして良い程度の数値である。 エ小括以上からすると,Aに係る素因は,いずれも本件疾病の発症の有力な要因とみなすことはできない。 4 結論以上のとおり,Aは,被災派遣により過重で長時間に及ぶ職務,強度の精神的過重性が認められる長時間職務に従事していたのであり,通常の職務と比較 して特に過重な職務に従事していたといえ,早期の治療を受けることもできなかったものである一方,Aに係る素因は,いずれも本件疾病の発症の有力な要因とみなすことはできないことからすると,本件疾病の発症と公務との間には相当因果関係(公務起因性)があると認められる。 (被告) 1 公務起因性の判断基準(1) 地公災制度について地公災制度は,公務に内在し,又は随伴する危険が現実化して職員に傷病等を負わせた場合には,使用者に何らの過失がなくとも,職員の損失を補償するのが相当であるという危険責任の法理に基づくものであるから,公務起因性を肯定するためには,公務と疾病発症との間に条件関係が 病等を負わせた場合には,使用者に何らの過失がなくとも,職員の損失を補償するのが相当であるという危険責任の法理に基づくものであるから,公務起因性を肯定するためには,公務と疾病発症との間に条件関係があることに加えて,社会通念上,疾病発症が公務に内在する危険が現実化したものであると認められる関係,すなわち,公務が相対的に有力な原因として疾病が発症したものと認められる関係(相当因果関係)が必要である。 なお,相当因果関係があることの立証責任は,被災者側が負担すべきである。 (2) 脳血管疾患の公務上外の認定基準についてア疾病の発症については,一般的にその発症原因が明らかではなく,職員が元々有していた素因や基礎疾患が疾病の発症に大きく寄与していることも多く,公務起因性の判断においては個々の事案に即して,医学的知見をも参考にして総合的に行うべきである。 本件は,公務に関連して脳出血を発症したとして公務災害認定請求されたものであり,地公災法施行規則別表第1第8号「相当の期間にわたって継続的に行う長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務に従事したために生じた」か否かについて,具体的に理事長通知及び認定基準に基づき判断すべきである。 イ理事長通知においては,脳血管疾患が公務上の災害と認められる場合の要件について,①発症前に,職務に関連してその発生状態を時間的,場所的に明確にし得る異常な出来事・突発的事態に遭遇したこと,②発症前に,通常の日常の職務(被災職員が占めていた職に割り当てられた職務であって,正規の勤務時間「1日当たり平均概ね8時間勤務」内に行う日常の職務をいう。以下同じ。)に比較して特に過重な職務に従事したことのいずれかに該当したことにより,医学経験則上,心・血管疾患及び脳血管疾患の発症の基 時間「1日当たり平均概ね8時間勤務」内に行う日常の職務をいう。以下同じ。)に比較して特に過重な職務に従事したことのいずれかに該当したことにより,医学経験則上,心・血管疾患及び脳血管疾患の発症の基礎となる高血圧症,血管病変(動脈硬化症等をいう。以下同じ。)等の病態を加齢,一般生活によるいわゆる自然的経過を早めて著しく増悪させ,当該疾患の発症原因とするに足る公務による強度の精神的又は肉体的負荷(以下「過重負荷」という。)を受けていたことが明らかに認められることが必要であるとされており,本件においてもこの要件を満たすか否かという点を検討すべきである。 ウ 「異常な出来事・突発的事態に遭遇したこと」とは,次に掲げる場合である。 ①医学経験則上,対象疾患を発症させる可能性のある爆発物,薬物等による犯罪又は大地震,暴風,豪雨,洪水,高潮,津波その他の異常な自然現象若しくは火災,爆発その他これらに類する異常な状態に職務に関連して遭遇したことが明らかな場合,②対象疾患の発症前に日常は肉体的労働を行わない職員が,勤務場所又はその施設等の火災等特別な事態が発生したことにより,特に過重な肉体的労働を必要とする職務を命じられ,当該職務を行っていた場合,③対象疾患の発症前に暴風,豪雪,猛暑等異常な気象条件下で長時間にわたって職務を行っていた場合,④その他,対象疾患の発症前に緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態並びに急激で著しい作業環境の変化の下で職務を行っていた場合 エ 「通常の日常の職務に比較して特に過重な職務に従事したこと」とは,医学経験則上,対象疾患を発症させる可能性のある特に過重な職務に従事したことをいい,勤務形態・時間,業務内容・量,勤務環境,精神的緊張の状況及び疲労の蓄積等の面で特に過重 職務に従事したこと」とは,医学経験則上,対象疾患を発症させる可能性のある特に過重な職務に従事したことをいい,勤務形態・時間,業務内容・量,勤務環境,精神的緊張の状況及び疲労の蓄積等の面で特に過重な職務の遂行を余儀なくされた,次に掲げる場合等である。 ①発症前1週間程度から数週間(「2~3週間」をいう。)程度にわたる,いわゆる不眠・不休又はそれに準ずる特に過重で長時間に及ぶ時間外勤務を行っていた場合,②発症前1か月程度にわたる,過重で長時間に及ぶ時間外勤務(発症日から起算して,週当たり平均25時間程度以上の連続)を行っていた場合,③発症前1か月を超える,過重で長時間に及ぶ時間外勤務(発症日から起算して,週当たり平均20時間程度以上の連続)を行っていた場合」 2 異常な出来事・突発的事態に遭遇したとはいえないこと合計5日間の本件被災地派遣におけるAの職務従事状況については,道路脇にがれきが山積みで見通しが悪く,かなり運転に注意が必要であった等の状況が認められる。 しかしながら,①Aは,東日本大震災の地震,津波等の災害に直接遭遇したものではないこと,②第1次派遣の時点で,既に避難所間の道路の大部分は車が通れるようにがれきが除去されている状況にあったこと,③実際にAによる避難所間の運転は,7㎞・10分から30㎞・40分程度が中心でも最も長い移動でも50㎞・60分である(時速に換算すると45~50㎞/h)から,それ自体長距離かつ長時間に及ぶものではないこと,④がれき等のために所要時間が増加しているともいえないこと,⑤Aが運転中にがれき等に衝突したり,走行面を外れて転落しそうになったりする等の突発的事象も認められないこと,以上の点からすると,本件については,理事長通知に定められた上記1(2)ウ記載の各要件に該当す 運転中にがれき等に衝突したり,走行面を外れて転落しそうになったりする等の突発的事象も認められないこと,以上の点からすると,本件については,理事長通知に定められた上記1(2)ウ記載の各要件に該当するような事情はうかがえず,Aが異常な出来事・突発 的自体に遭遇したということはできない。 3 通常の日常の職務に比較して特に過重な職務に従事したとはいえないこと(1) 過重で長時間に及ぶ時間外勤務はないことア Aの時間外勤務については,平成22年11月16日から平成23年3月15日までは全く時間外勤務がなかったものの,同年3月16日から4月14日までは14時間30分,4月15日から5月14日までは13時間20分の本件被災地派遣に伴う時間外勤務が生じている。 イしかしながら,第1次派遣(平成23年4月3日から同月7日)に伴う時間外勤務のうち8時間30分は,4月3日(日)の週休日に現地に移動したことによるものであり,被災地における時間外勤務は,同月4日の1時間50分,同月5日の1時間35分,同月6日の2時間35分であった。 また,第2次派遣(平成23年5月12日から同月16日までの予定)についてみると,Aは,同派遣前である同年4月29日から5月5日までは休日と年次有給休暇により,同月7日,8日は週休日により十分に休養を取った上で,被災地に向い,その後の時間外勤務は同月12日が1時間,13日が約3時間,14日が約10時間30分というものであった。 ウ本件被災地派遣におけるAの職務従事時間は,朝は早くとも午前7時30分頃から遅くとも午後7時頃まであって,昼食休憩が確保されていることはもちろん,車内待機時間も相当あったことが認められる。そして,勤務時間外には,宿泊所であるホテルにおいて自由時間や睡眠時間も十分 0分頃から遅くとも午後7時頃まであって,昼食休憩が確保されていることはもちろん,車内待機時間も相当あったことが認められる。そして,勤務時間外には,宿泊所であるホテルにおいて自由時間や睡眠時間も十分に確保できている。 エ以上の状況に照らすと,Aが,過重で長時間に及ぶ職務に従事していたものとは認められない。 (2) 強度の精神的,肉体的過重性が認められるような職務従事状況にないこと原告は,本件当時,Aが通常の運転業務とは比較にならない著しい緊張を 要するものであったと主張する。しかし,①既に避難所間の道路の大部分は,車が通れるようにがれきを除去している状況にあったこと,②避難所間の運転は長期間かつ長時間に及ぶものではなかったこと,③Aは,現地において,○○保健所と同様の運転業務に従事し,その内容は,保健師らを乗せて保健所,役場,避難所などを運転し,保健師らが各所で業務をしている間は駐車した自動車で待機をしているというものであって,同人は,保健師らが担当していた公衆衛生業務そのものは従事しておらず,上記各所に立ち入ることはなく,保健師らと共同して行う業務もなかったこと,④深夜勤務や緊急呼び出し等もなく,従事した日数も合計でわずか5日間と短いものであったこと,以上の点に照らすと,Aの職務従事状況等に医学的経験則に照らして,強度の精神的,肉体的な過重性があったとは認められない。 4 Aの死因及び早期治療の可能性について(1) 原告は,原告本人尋問において,主治医から,Aの脳幹が破裂し,出血がひどい状況にあった旨供述しているところ,その病態等に照らすと,Aの死因となった本件疾病は脳幹出血であるとみられる。 (2) ところで,脳幹出血は,高血圧性脳出血の中でも最も重症なタイプであり,急激に発症し,短 った旨供述しているところ,その病態等に照らすと,Aの死因となった本件疾病は脳幹出血であるとみられる。 (2) ところで,脳幹出血は,高血圧性脳出血の中でも最も重症なタイプであり,急激に発症し,短時間のうちに昏睡状態に陥るものであって,本件においてもAは直ちに重篤となっており,緊急搬送されるも手の施しようがなかったものである。そうすると,本件疾病については,業務ゆえに治療の機会を喪失したものとはいえない。 また,Aは,本件疾病発症当日,いつもどおり業務を終え,入浴をし,ビールを飲んでいたのであって,このような当日の過ごし方を見れば,同人は夕方頃には病院に行くことは十分に可能であったといえ,受診をしなかったのはAの判断によるものである。 5 Aの素因について(1) 脳卒中の危険因子 ア脳卒中(脳梗塞,脳出血及びくも膜下出血をいう。)は,危険因子を有する者しか起こらず,その危険因子は,年齢,性別(男性),高血圧,糖尿病,脂質異常,喫煙,心室細動,大量飲酒などがあるとされている。なお,くも膜下出血と狭義の脳出血とは,初発の出血場所の違いがあるが,発症後には両者の区別が困難であって,いずれにしても共通の危険因子があると認められている。 イまた,脳幹出血は,高血圧性脳出血の一種であるところ,高血圧性脳出血の背景には,未治療又は一旦治療をしていたがそれを止めてしまった高血圧があり,特に40代,50代の男性に好発し,飲酒習慣等も影響しているとされている。 (2) Aに係る素因の存在以下のとおり,Aには,脳卒中に係る複数の危険因子が認められる。 ア高血圧脳卒中治療ガイドラインによれば,高血圧は,脳出血と脳梗塞に共通の最大の危険因子であり,血圧が高いほど脳卒中の発症率は高くなり, は,脳卒中に係る複数の危険因子が認められる。 ア高血圧脳卒中治療ガイドラインによれば,高血圧は,脳出血と脳梗塞に共通の最大の危険因子であり,血圧が高いほど脳卒中の発症率は高くなり,最高血圧が正常血圧とされる140㎜Hg以下であっても,120㎜Hg以上であると,至適血圧120㎜Hg以下に比べて,発症頻度が有意に高いことが報告されている。 近年に測定されたAの血圧は,いずれも至適血圧である120㎜Hgを超えるものであって,Aが高血圧であることは明らかである。 イ飲酒習慣出血性脳卒中(脳出血やくも膜下出血)の発症率と飲酒量との間には直線的な正の相関関係があり,飲酒過多による肝機能障害の指標であるγ-GTP値上昇を呈する群では,血圧値や脂質値にかかわらず,脳出血発症が増加する傾向がある。 Aは,平成22年の健康診断において,飲酒について「毎日」飲酒し, 1日当たりの飲酒量は「3合以上」と回答していることに加えて,近年の健康診断の肝臓・胆道系検査結果を見てもいずれも基準値を大きく超え,同年の健康診断においては脂肪肝と指摘され,アルコール性肝障害・脂肪肝で,過度の飲酒により,肝臓に脂肪が沈着し,炎症が生じているとされているのであって,これらに照らせば,Aに長年のアルコール多飲歴があったことは明らかである。 ウその他の素因について肥満は,メタボリックシンドロームの重要な要素であり,その特有の腹部内臓肥満は,糖尿病,脂質異常症,高血圧を次々と引き起こし,心血管イベントの発症リスクを高めるとされている。 Aは,平成22年の健康診断においてメタボリックシンドロームの基準に該当し,総合判定では,高尿酸血症,耐糖能異常疑い,腹囲径高値,生活習慣病(肥満,高血圧,中性脂肪高値)と指摘 めるとされている。 Aは,平成22年の健康診断においてメタボリックシンドロームの基準に該当し,総合判定では,高尿酸血症,耐糖能異常疑い,腹囲径高値,生活習慣病(肥満,高血圧,中性脂肪高値)と指摘されている。 (3) 小括以上のとおり,Aには,高血圧,大量飲酒が認められ,肥満・メタボリックシンドロームと判定されていたもので,本件疾病発症の要因は,生活習慣に基づく上記各素因にあるというべきである。 6 結論以上によれば,Aについては,本件被災地派遣業務を含む公務に従事したことにより,医学的経験則に照らして,本件疾病の発症要因とするに足りる強度の精神的,肉体的負荷を受けたとは認められない上,Aには複数の素因(危険因子)があることに照らすと,本件疾病の発症に公務起因性があるとは認められない。 第5 争点に対する判断 1 認定事実前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を 認めることができる。 (1) Aの経歴等Aは,昭和56年10月1日,大阪府技能員に任命され,大阪府○○センターにおいて医療機器操作手として勤務していたが,平成22年4月1日,大阪府○○保健所企画調整課の技師として,自動車運転手業務(公用車の運転業務,同車の整備及び洗車業務)に従事することとなった。 (2) 第1次派遣の状況等ア被災地に対する公衆衛生チームの派遣等(ア) 大阪府は,東日本大震災に係る被災地支援のため,医師,保健師,管理栄養士等で構成される公衆衛生チームを被災地に派遣することとし,Aについても,同チームが岩手県△△保健所管内で現地に数か所ある避難所を巡回する際の自動車の運転業務に従事するために被災地に派遣された。 (イ) 第1次派遣は,平成23年4月3日から同月 し,Aについても,同チームが岩手県△△保健所管内で現地に数か所ある避難所を巡回する際の自動車の運転業務に従事するために被災地に派遣された。 (イ) 第1次派遣は,平成23年4月3日から同月7日までであった(以下の年月日は,特に断らない限り,いずれも平成23年を指す。)。 (以上については,当事者間に争いがない。)イ第1次派遣中におけるAの業務内容等(ア) 4月3日同日は,被災地までの移動日であった。 ① 第1次派遣に係る公衆衛生チームは,同日午前6時55分に伊丹空港に集合し,同空港から秋田空港に空路で移動し,その後,同空港からJR秋田駅まではバスで,同駅から盛岡駅までは新幹線で,同駅から△△駅まではバスでそれぞれ移動し,△△駅からはレンタカーで△△保健所に移動し,同保健所から宿泊先であるホテルまで同レンタカーで移動した。 ② 同チームが宿泊先のホテルに到着したのは午後5時35分頃であ った。 なお,Aの勤務時間は,午前9時から午後5時30分までであり,休憩は45分とされていたところ,同日は休日であったため,被災地への移動に係る午前9時から午後5時30分までの8時間30分が時間外勤務とされている。 (イ) 4月4日① Aは,同日午前7時40分から車両点検を行い,午前8時10分から同時30分までホテルから△△保健所に移動するために運転業務に従事した。その後,同保健所で保健師等がミーティングをしている際,Aは車内で待機していた。Aが走行した道路は,車が通行できるようにがれきが除去されてはいるものの,周囲には各所に倒壊家屋やがれきの山が見られるという状況であった。 Aは,午前9時10分から午前10時20分まで△△保健所から□□町役場まで運転業務に従事し,その後,同町□ 去されてはいるものの,周囲には各所に倒壊家屋やがれきの山が見られるという状況であった。 Aは,午前9時10分から午前10時20分まで△△保健所から□□町役場まで運転業務に従事し,その後,同町□□地区の家庭訪問に伴う運転業務を行い,昼食を挟んで,午後2時55分頃まで,□□地区の家庭訪問に伴う運転業務に従事した。 △△保健所から□□町役場までの道路は,車が通行できるようにがれきが除去されていたが,一部に行き止まりがあったほか,周囲には倒壊家屋やがれきの山が見られ,悪臭があったり,見通しの悪い箇所があったりした。また,□□地区の訪問地域の道路にもがれきの山があり,見通しの悪い箇所があった。 Aは,同地区内の訪問先を小刻みに移動していた。 ② 保健師等は,午後2時55分から午後3時40分頃までの間,□□町役場で引継ぎを行ったところ,その際,Aは車内で待機していた。 ③ Aは,午後3時40分頃から午後4時30分までは□□町役場から△△保健所までの運転業務に従事し,その後,保健師等は,午後4時 30分から午後6時30分までは保健師等が△△保健所でミーティングを行ったところ,その際には,Aは車内で待機していた。 ④ Aは,上記ミーティング終了後の午後6時30分から同時45分までは△△保健所から宿泊先のホテルまでの運転業務に従事した。 ⑤ 同日におけるAの運転業務は,□□地区の家庭訪問時間を除き,合計で2時間35分程度であり,最も長い距離,時間を要した運転業務は,△△保健所から□□町役場までの28㎞,1時間10分というものであった。また,Aに係る同日の時間外勤務時間は,午前8時10分から午前9時までの50分と,午後5時45分から午後6時45分までの1時間の合計1時間50分であった。 (ウ) 4月5日① Aは,午 た。また,Aに係る同日の時間外勤務時間は,午前8時10分から午前9時までの50分と,午後5時45分から午後6時45分までの1時間の合計1時間50分であった。 (ウ) 4月5日① Aは,午前8時5分から同時20分まで宿泊先のホテルから△△保健所までの運転業務に従事し,午前9時から同時39分まで同保健所から▲▲中学校までの運転業務に従事した。 Aは,同中学校到着後,午後零時5分まで車内で待機していた。 ② その後,Aは,午後零時5分から同時20分まで同中学校から□□町役場までの運転業務に従事し,同役場で昼休憩を取った後,午後1時20分から午後3時45分まで□□地区の家庭訪問に伴う運転業務に従事した。保健師等は,午後3時45分から午後4時20分まで□□町役場で引継ぎを行ったところ,その際,Aは,車内で待機していた。 ③ Aは,午後4時20分から午後5時30分までは,□□町役場から△△保健所に向けての運転業務に従事していたところ,この際自動車に設置されていたカーナビの誤った指示により道を間違え,通常以上に長距離を走行することになった。 Aは,同保健所に到着後,車内で待機していた。 ④ Aは,午後6時30分から同時45分までは,同保健所から宿泊先のホテルまでの運転業務に従事した。 ⑤ 同日におけるAの運転業務は,□□地区の家庭訪問時間を除き,合計で2時間34分程度であり,最も長い距離,時間を要した運転業務は,△△保健所から□□町役場までの28㎞,1時間10分というものであった。また,Aに係る同日の時間外勤務時間は,午前8時5分から午前9時までの55分と,午後5時45分から午後6時25分の40分の合計1時間35分であった。 (エ) 4月6日① Aは,午前8時5分から同時20分まで宿泊先のホテルから△△保 5分から午前9時までの55分と,午後5時45分から午後6時25分の40分の合計1時間35分であった。 (エ) 4月6日① Aは,午前8時5分から同時20分まで宿泊先のホテルから△△保健所までの運転業務に従事し,午前8時45分から午前9時20分まで同保健所から□□町生活改善センターまでの運転業務に従事した。 Aは,同センターで午前10時30分まで車内で待機していた。 ② その後,Aは,午前10時30分から同時35分まで同センターから▲▲小学校までの運転業務に従事し,同小学校で午前11時40分まで車内で待機した後,午前11時40分から午後零時10分まで同小学校から▲▲中学校まで,午後零時10分から同時30分まで同中学校から□□町役場までの各運転業務に従事した。 ③ □□町役場における昼食休憩の後に,午後1時10分から午後3時25分までは□□地区の家庭訪問に伴う運転業務に従事し,午後3時45分から同時55分まで□□町役場から▲▲中学校までの,午後4時10分から午後5時までは同中学校から△△保健所までの各運転業務に従事した。 △△保健所到着後に保健師等は,ミーティングを行ったが,その際,Aは,車内で待機していた。 そして,上記ミーティング終了後の午後6時10分から同時40分 まで同保健所から宿泊先のホテルまでの運転業務に従事した。 ④ 同日におけるAの運転業務の時間は,□□地区の家庭訪問時間を除き,合計で3時間15分程度であり,最も長い距離,時間にかかる運転業務は▲▲中学から△△保健所までの17.9㎞,50分のものであった。Aに係る同日の時間外勤務時間は,午前8時10分から午前9時までの50分と,午後5時45分から午後6時40分の55分の合計1時間45分であった。 (オ) 4月7日同 ものであった。Aに係る同日の時間外勤務時間は,午前8時10分から午前9時までの50分と,午後5時45分から午後6時40分の55分の合計1時間45分であった。 (オ) 4月7日同日は派遣先から大阪に帰任するために,午前7時に宿泊先のホテルを出発し,4月3日の行程とほぼ同様の行程で,午後4時10分に伊丹空港に到着し,解散した。 (カ) 業務従事中のトラブルの有無等Aが,第1次派遣中における運転業務において,事件やトラブルに遭遇することはなく,体調不良の訴えもなかった。 (3) 第2次派遣の状況等ア第2次派遣の概要等(ア) Aは,第1次派遣終了後の4月26日頃,上司から再度の被災地派遣を打診された。Aは,これに応諾し,第2次派遣に参加することになった。 (イ) 第2次派遣は,5月12日から同月16日までの予定であった。 なお,Aは,第2次派遣前の5月2日に年休を取得しており,その前後も国民の休日又は週休であったため,4月29日から5月5日まで連続して休息をとることが可能であった。 (以上については,当事者間に争いがない。)イ第2次派遣中におけるAの業務内容等(ア) 5月12日 ① Aは,同日午前9時07分発の新幹線で,新大阪から盛岡駅まで移動し,その後,バスで△△市に移動した後,タクシーで宿泊先のホテルに向かった。 ② ホテルには午後6時15分頃に到着し,同所で,食事などを摂った後,午後8時から午後9時までの間,引継ぎを行った。 (イ) 5月13日① Aは,午前7時30分から車両点検等に従事し,午前8時から同時15分までホテルから△△保健所までの運転業務に従事し,さらに,午前9時15分から午前10時まで同保健所から□□町役場までの運転業務に従事 は,午前7時30分から車両点検等に従事し,午前8時から同時15分までホテルから△△保健所までの運転業務に従事し,さらに,午前9時15分から午前10時まで同保健所から□□町役場までの運転業務に従事した。 ② Aは,午前10時25分から同時45分までは□□町役場から生活改善センター・▲▲保育所までの運転業務に従事し,その後,同センターから□□町役場まで午後零時10分から同時40分まで同センターから□□町役場までの運転業務に従事した。 ③ Aは,同役場で昼食休憩を経た後,午後1時30分から同時45分まで同役場から▲▲中学・格技場までの運転業務に従事し,その後,午後2時45分から同時55分まで同中学から■■集会所までの運転業務に従事し,午後3時15分から同時50分まで同集会所から宿泊先のホテルまでの運転業務にそれぞれ従事した。 Aは,保健師等が避難所等を巡回して被災者のケアなどを行っている間(おおむね30分ないし1時間程度)は,車内で待機していた。 また,Aが運転業務に従事していた道路の状況については,道路脇にがれきが山積みになっており,見通しが悪くなっており,運転には注意が必要な状況であった。 ④ Aは,午後4時から同時10分まではホテルから△△保健所までの運転業務に従事し,また,午後6時から同時15分までは同保健所か らホテルまでの運転業務に従事した。そして,Aは,ホテル到着後は,同時40分頃まで車両整備等を行った。 ⑤ Aの同日の運転業務の時間は合計約3時間15分であり,最も長い距離,時間にかかる運転業務は,△△保健所から□□町役場までの30㎞,45分というものであった。また,Aに係る同日の時間外勤務時間は,午前7時30分から午前9時までの1時間30分と,午後5時45分から午後7時10分までの1時間25分の 所から□□町役場までの30㎞,45分というものであった。また,Aに係る同日の時間外勤務時間は,午前7時30分から午前9時までの1時間30分と,午後5時45分から午後7時10分までの1時間25分の合計2時間55分であった。 (ウ) 5月14日① Aは,午前7時45分から車両点検等を行い,午前8時15分から同時30分まで宿泊先のホテルから△△保健所までの運転業務に,同時45分から同9時25分まで同保健所から□□町役場までの運転業務に従事した。午前9時30分から同時45分まで同保健所から▲▲中学・格技場までの,午前11時45分から午後零時までは同中学から■■集会所までの運転業務に従事した。その後昼食休憩を挟んで,午後1時35分から同時50分まで同集会所から生活改善センター・▲▲保育所までの,午後2時50分から午後3時50分までは,同保育所から△△保健所までの運転業務に,それぞれ従事した。 Aは,保健師等が被災者のケアをしている間(概ねそれぞれ約1時間ないし2時間程度)は,車内で待機していた。 ② Aは,午後5時30分から同時40分まで△△保健所から宿泊先のホテルまでの運転業務に従事した後,午後6時10分まで車両整備を行った。 ③ Aの同日における運転業務時間は合計約2時間50分間であり,最も長い距離,時間にかかる運転業務は,生活改善センター・▲▲保育所から△△保健所までの50㎞,1時間というものであった。 なお,同日は週休(土曜日)であったため,Aの時間外勤務は,午前7時45分から午後6時10分までの合計9時間25分であった(ただし,合計1時間の休憩を除く。)。 (エ) 業務従事中のトラブルの有無等Aが,上記運転業務に従事している間,事件やトラブルに遭遇することはなく,同人から 計9時間25分であった(ただし,合計1時間の休憩を除く。)。 (エ) 業務従事中のトラブルの有無等Aが,上記運転業務に従事している間,事件やトラブルに遭遇することはなく,同人から保健師らに対して,体調不良の訴えなどをすることもなかった。 ウ宿泊先のホテルでの行動等Aは,大阪府から派遣されている職員ら4ないし6名程度と共に,宿泊先ホテルの10畳ほどの和室の居室(定員5名)に宿泊していた。 Aは,上記運転業務が終了し宿泊先のホテルに戻って以降は,翌日の業務開始まで,緊急又は特別の業務が生じるということはなく,夕食を摂ったり,入浴をしたり,また,お酒を飲むなどして他の職員らと歓談するなど自由に過ごしていた。 なお,原告は,派遣期間中の全ての時間が勤務時間と捉えるべきであると主張するが,上記したような宿泊ホテルでの状況に加え,本件全証拠を精査しても,Aが本件被災地派遣中に十分な睡眠が取れなかったことを認めるに足りる的確な証拠も存しないことに照らすと,原告の同主張は採用できない。 エ余震の状況等第2次派遣中,福島県沖や宮城県沖を震源地とするマグニチュード2. 7から5.7程度の余震が発生していたものの,岩手県△△市周辺で発生した余震は,以下のとおりであり,これらの余震によって,Aの業務が中断するということはなかった。 5月12日震度1 2回同月13日震度3 1回 同月14日震度1 1回(4) 本件疾病発症時の状況等ア Aは,5月14日の午後6時10分頃業務を終了し,宿泊先のホテルにおいて夕食及び入浴を終え,午後8時30分頃から同じく大阪府より被災地派遣業務に従事していたC及びDらとビールを飲むなどして,歓談していたが,頭痛がするなどと言ったため,Cが所持していた鎮 ホテルにおいて夕食及び入浴を終え,午後8時30分頃から同じく大阪府より被災地派遣業務に従事していたC及びDらとビールを飲むなどして,歓談していたが,頭痛がするなどと言ったため,Cが所持していた鎮痛剤をもらって服用した。 イ Aは,午後9時20分頃,「痛い,痛い。」と言いながら居室の畳に横になったことから,同じく被災地派遣業務に従事し,同ホテルに滞在していたE医師が同人の様子を診たところ,Aの状態は,発語が明瞭で見当識が保たれ,四肢の麻痺もなく歩行も正常であったため,同医師は,血圧計を測っただけで自室に戻った。 ウところが,その後,Aは,失禁,痙攣を起こして意識障害の状態となった。 そこで,E医師は,Dに対し,救急車を呼ぶように指示し,同ホテルに滞在していた看護師がAの血圧を測定したところ,210/130㎜Hgであった。その後,Aの意識は回復し,見当識が保たれていることが確認されたので,E医師はAに救急車で治療に向かう旨を伝えた。 E医師は,救急車到着後に緊急隊員に対して,Aがくも膜下出血の疑いがあり,CTの撮れる病院に搬送して欲しい旨の要請を行った後,Aの状況を説明できる者として,救急車に同乗した。 Aを乗せた救急車は,午後9時45分頃には△△病院に到着し,同院で当直医師による診察が始まり,CT撮像などが行われ,脳外科医からE医師に対して家族に連絡を取るように要請があったため,同医師は原告に電話をした。 (5) Aの治療経過 ア Aは,△△病院に到着した時点において,JCS200(「ジャパンコーマスケール」を指し,同200は刺激をしても覚醒しない状態であり,痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる程度を指す。)と診断され,除脳硬直を呈し,右瞳孔散大,呼吸不全などを来しており,脳ヘルニアの スケール」を指し,同200は刺激をしても覚醒しない状態であり,痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる程度を指す。)と診断され,除脳硬直を呈し,右瞳孔散大,呼吸不全などを来しており,脳ヘルニアの進行がうかがわれた。そのため,同病院では,Aに対し,直ちに経口挿管,人工呼吸器を装着し,保存的治療が開始された。 イ 5月15日,原告を含めたAの親族が△△病院を訪れたところ,同院のF医師は,原告らに対し,Aの脳に回復不能なダメージが生じており,積極的に治療を行える状態になく,延命のみを目的とする治療を開始せざるを得ず,現時点での血圧は低下しており,長期間の生存にはほとんど期待が持てない旨の説明を行った。 ウ Aは,入院後,徐々に血圧が低下し,5月20日午後10時11分,死亡が確認された。死因は,脳出血(右前頭葉)とされている。 エ Aが同院に入院中に撮られた頭部CTによると,右前頭葉に約60mlの巨大な血腫の存在が確認された。 また,F医師作成の回答書には,出血は,右前角から両側脳室内に流入し,右側脳室,第Ⅲ脳室,第Ⅳ脳室を介し,クモ膜下腔にまで流れている,第Ⅲ~第Ⅳ脳室では鋳型形成し,両側脳室下角がわずかに開大,血腫周辺は著名に圧排されている,血圧は高値,心電図は心房細動,血液検査は,軽度の肝機能障害,凝固能は正常とそれぞれ記載されている。 F医師は,脳出血の一般的機序について,高血圧性脳出血が最も多く,その他同部位の脳腫瘍や血管奇形等が出血源となる場合もあるとしている。 (6) Aの健康状態等についてア血圧Aが受診した健康診断及び人間ドック時において測定された血圧の値は,次のとおりであった。なお,健康診断における血圧の基準値は,収縮期が 130㎜Hg未満,拡張期が83㎜Hgとされている。 ( した健康診断及び人間ドック時において測定された血圧の値は,次のとおりであった。なお,健康診断における血圧の基準値は,収縮期が 130㎜Hg未満,拡張期が83㎜Hgとされている。 (ア) 平成22年10月5日 138/92㎜Hg(イ) 平成21年11月6日 138/88㎜Hg(ウ) 平成20年9月10日 130/80㎜Hg(エ) 平成19年6月27日 148/102㎜Hg(オ) 平成18年11月7日 146/100㎜Hg(カ) 平成17年12月26日 124/90㎜Hg(キ) 平成16年7月9日 150/98㎜Hg(ク) 平成15年7月14日 114/70㎜Hgイ肝機能及び飲酒習慣Aが受診した健康診断及び人間ドック時において測定された肝機能に関する検査結果は,次のとおりであった。 (ア) 平成22年10月5日GOT 100,GPT 103,γ-GTP 394(イ) 平成21年11月6日GOT 81,GPT 91,γ-GTP 389(ウ) 平成20年9月10日GOT 112,GPT 131,γ-GTP 441(エ) 平成19年6月27日GOT 81,GPT 92,γ-GTP 308(オ) 平成18年11月7日GOT 55,GPT 73,γ-GTP 255(カ) 平成17年12月26日GOT 56,GPT 72,γ-GTP 276(キ) 平成16年7月9日GOT 78,GPT 90,γ-GTP 243 (ク) 平成15年7月14日GOT 31,GPT 32,γ-GTP 98ところで,GOTの基準値は8~37(IU/l。以下同じ。),GPTのそれは4~45,γ-GT (ク) 平成15年7月14日GOT 31,GPT 32,γ-GTP 98ところで,GOTの基準値は8~37(IU/l。以下同じ。),GPTのそれは4~45,γ-GTPのそれは10~92であるところ,上記のとおり,Aに係る検査数値は,上記(ク)に係るGOT及びGPTを除き,いずれも基準値を超えるものであった。また,Aは,平成22年10月5日の問診結果の中で,飲酒頻度について「毎日」,1日当たりの飲酒量について「3合以上」とそれぞれ回答している。 ウその他の検査結果その他の主な検査結果の測定値は,次のとおりである。 (ア) 平成22年10月5日 BMI 25.8 中性脂肪 178(イ) 平成21年11月6日 BMI 25.5 中性脂肪 223(ウ) 平成20年9月10日 BMI 25.0 中性脂肪 194(エ) 平成19年6月27日 BMI 25.4 中性脂肪 232(オ) 平成18年11月7日 BMI 24.9 中性脂肪 198(カ) 平成17年12月26日 BMI 24.4 中性脂肪 312(キ) 平成16年7月9日 BMI 22.8 中性脂肪 193(ク) 平成15年7月14日 BMI 21.0 中性脂肪 136BMIの基準値は25未満,中性脂肪については30~149(mg/dl)であるところ,Aに係るBMIについては平成19年以降,中性脂肪については平成16年以降,いずれも基準値を超えている。 エ平成22年10月5日の総合所見等本件疾病発症から最も近い平成22年10月5日におけるAの健康診断の総合判定は,高尿酸血症,便潜血反応陽性,耐糖能異常疑い,アルコール性肝障害・脂肪肝,腹囲径高値及び生活習慣病(肥満,高血圧,中性 本件疾病発症から最も近い平成22年10月5日におけるAの健康診断の総合判定は,高尿酸血症,便潜血反応陽性,耐糖能異常疑い,アルコール性肝障害・脂肪肝,腹囲径高値及び生活習慣病(肥満,高血圧,中性脂肪高値)というものであるほか,Aは,メタボリックシンドロームに該当する旨 の診断を受けている。 オ Aに対する高血圧治療の有無等上記のとおり,Aは,高血圧等を健康診断で指摘されていたものの,それらについて通院投薬などの治療を受けていたとは認められない。 (7) 本件に関連する医学的知見ア脳出血等の一般的な知見等(ア) 脳出血等の病態等脳出血とは,頭蓋内に起こる出血の総称であり,脳出血の多数を占めるのは,高血圧が原因となる高血圧性脳出血であるが,脳動脈瘤,脳腫瘍など高血圧以外の原因による脳出血もある。 (イ) 脳血管疾患の危険因子脳血管疾患の発症には血管病変が前提となり,大部分は動脈硬化が原因となる。動脈瘤や動脈硬化は,短期間に進行するものではなく,長い年月をかけて徐々に進行し,その進行には,加齢,食生活,生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等の個人に内在する要因関与が大きいとされている。 このような脳血管疾患ないし脳卒中の危険因子としては,年齢,男性,高血圧,糖尿病,脂質異常,喫煙,心房細動,飲酒などが挙げられている。 (ウ) 高血圧高血圧は,脳出血の最大の危険因子であり,血圧値と脳卒中発症率との関係は段階的かつ連続的な正の相関関係にあり,特に脳出血においてはこのような傾向が強いとされている。 脳卒中治療ガイドライン2015によれば,降圧目標として,通常の場合は140/90㎜Hg未満が,糖尿病等を有する場合は130/80㎜Hg未満が挙げられている。 強いとされている。 脳卒中治療ガイドライン2015によれば,降圧目標として,通常の場合は140/90㎜Hg未満が,糖尿病等を有する場合は130/80㎜Hg未満が挙げられている。 日本高血圧学会作成に係る高血圧治療ガイドラインでは,Ⅰ度高血圧は,収縮期血圧が140~159(かつ/または)拡張期血圧が90~99,Ⅱ度高血圧は,収縮期血圧が160~179(かつ/または)拡張期血圧が100~109,Ⅲ度高血圧は,収縮期血圧が180以上(かつ/または)拡張期血圧が110以上,とそれぞれ分類されており,血圧に基づいた脳心血管リスクについては,Ⅰ度高血圧は低リスク,Ⅱ度高血圧は中等リスク,Ⅲ度高血圧は高リスクとそれぞれされている。 (エ) 大量飲酒出血性脳出血(脳出血やくも膜下出血)の発症率と飲酒量との間には,直線的な正の相関関係があるとされている。また,大量飲酒(エタノール450g/週以上)者は,機会飲酒者と比べ,全脳卒中の発症率が68%増加し,特に出血性脳卒中の中でもくも膜下出血の発症率が著しく増加したとの研究が存在する。 イ B医師作成の意見書の概要B医師作成の意見書(B意見書)の概要は,次のとおりである。 (ア) Aの死因Aの死因については,同人の診療録,頭部CTの所見及び担当医の診断内容などからみて「右前頭葉を中心とする脳内出血及び脳室内穿破」ということになる。また,上記頭部CT所見及び担当医の診断内容などに照らすと,脳幹出血の可能性はないものと思われる。 (イ) 脳出血のリスクファクターについて脳出血のリスクファクターについては,①高血圧,②糖尿病,③高脂血症,④ストレス,⑤タバコ,⑥肥満,⑦飲酒が挙げられ,これらは動脈硬化の指標でもある。 ま スクファクターについて脳出血のリスクファクターについては,①高血圧,②糖尿病,③高脂血症,④ストレス,⑤タバコ,⑥肥満,⑦飲酒が挙げられ,これらは動脈硬化の指標でもある。 また,業務や職場環境のストレスについても要因となり,震災などの大災害の際,一般住民より行政職員において血圧の上昇が見られる研究 結果もある。 (ウ) Aの主たる発症原因についての考察Aと同様に被災地に派遣された大阪府職員は,いずれも現地における業務上の精神的重圧,ストレスについて語り,身体的にもギリギリの状態で勤務していたと訴えており,日中と夜間の区別や勤務中と勤務外の区別もなく,1日24時間緊張を強いられたことが窺える。上記の職員全員が「Aが亡くなったことと被災地での業務がもたらすストレスとは無関係とは思えません。」というのが,真実であり,同意見である。 祖父が脳梗塞という家族歴については,祖父の時代とAの時代とでは,時代背景や生活様式,食生活が異なっており,直接それが遺伝的因子とみるのは困難である。 Aの血圧については,収縮期114~150㎜Hg,拡張期70~102㎜Hgであり,この程度の血圧の場合は,「正常~軽度高血圧」として生活・食事・運動療法を勧め,薬物療法を勧めることのない血圧であり,脳出血を引き起こすほどの状態であったとは考えにくい。 Aの飲酒歴があったのは確かなようであり,特にγ-GTPの上昇は著しく,γ-GTP上昇により脳出血を引き起こす頻度も高くなるが,臨床的にγ-GTPが300~400台であっても,その多くに脳出血が生じるわけでなく,あくまで一因子と捉えるべきである。 肥満の基準について,Aの測定値はBMIの基準値 (25)をやや上回る程度(25.8)であり,ほぼ標準と見なしてよい。 その多くに脳出血が生じるわけでなく,あくまで一因子と捉えるべきである。 肥満の基準について,Aの測定値はBMIの基準値 (25)をやや上回る程度(25.8)であり,ほぼ標準と見なしてよい。 (エ) Aの頭痛を訴えたことと本件被災地派遣中における業務との因果関係について頭痛は,頭蓋内疾患の前兆として捉えられることがあるところ,被災地においては我慢に我慢を重ね,ぎりぎりのところまで病院を受診しなかったというのが実態であり,それはAと同様に被災地に派遣された者 の陳述からしても明らかである。これが,Aが住む大阪であれば,頭痛が始まった午前中,ないしは午後の早い段階で最寄りの病院を訪れたであろうことが推測される。出張中などで治療が遅れるのは近場になじみの医療機関がないためであり,被災地であればなおさらであり,本件被災地派遣中であったことは脳出血を悪化させ,死に至らしめたことの最大の原因である。 2 判断 (1) 公務起因性の判断基準ア地公災制度は,公務に内在又は随伴する危険が現実化して職員に疾病等の結果をもたらした場合には,使用者等に過失がなくとも職員の損失の補填の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから,地公災法にいう「公務上の災害」とは,職員が公務に起因して負傷又は疾病を発症した場合をいい,公務と疾病等との間に条件関係が存在することのみならず,社会通念上,その疾病等が公務に内在又は随伴する危険が現実化したと認められる関係,すなわち,相当因果関係があることを要すると解するのが相当である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。 イそして,本件のような脳血管疾患にあっては,その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変等が が相当である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。 イそして,本件のような脳血管疾患にあっては,その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変等が加齢や一般生活等における種々の要因によって長い年月の間に徐々に進行し,増悪して発症に至るのがほとんどであり,公務に特有の疾病とはいえず,発症から直ちにその原因が公務であることを推認できるというわけではない。そうすると,当該職員と同程度の年齢・経験等を有し,基礎疾患を有していても通常の職務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者を基準として,公務による負荷が,医学的経験則に照らし,客観的に,脳血管疾患の発症の基礎となる病変を,自然的経過を超えて著しく増悪させ得るものと 認められる場合に,当該疾患の発症は業務に内在する危険が現実化したものと評価して,業務起因性を認めるのが相当である。 ウなお,被告は,公務起因性の判断に当たっては,理事長通知及び認定基準に基づいて判断すべきである旨主張する。確かに,同通知等は,専門家による検討結果を踏まえたものであり,一定の合理性を有するものとは認められるものの,飽くまでも迅速かつ画一的に公務上外に係る処分をするために下部行政機関に対して運用の基準を示した通達等であって,もとより裁判所を法的拘束するものとはいえない。したがって,公務起因性の判断に当たっては,上記判示した観点から判断するのが相当である。 (2) 本件における公務起因性の有無ア本件被災地派遣における負荷について原告は,Aが従事した被災地における自動車運転業務が,急激な環境変化や極度の精神的緊張を伴うものであり,しかも被災地の役に立たなければならいというプレッシャーもあって,派遣期間中の全 て原告は,Aが従事した被災地における自動車運転業務が,急激な環境変化や極度の精神的緊張を伴うものであり,しかも被災地の役に立たなければならいというプレッシャーもあって,派遣期間中の全ての時間が勤務時間として捉えられるべきであると主張する。 (ア) この点,確かに,東日本大震災によって,Aが派遣された岩手県△△市等を含め,東北地方を中心として,甚大な被害が生じたと認められるところ(前記前提事実(2)ア),上記認定したAの本件被災地派遣における自動車運転業務の内容に照らすと,同業務は,Aが○○保健所において従事していた業務内容とは異なる事情があり,Aとしても,同業務に対応するに当たって,ある程度困難な面があったことは否定できない。 (イ) しかしながら,①本件被災地派遣におけるAの業務は,Aが○○保健所において日常的に従事していた自動車運転業務と全く異なる肉体労働等に従事していたというものではないこと(認定事実(2), (3)),②Aは,第1次派遣から第2次派遣を通じて運転業務従事中に大震災に起因する事故,トラブル等に巻き込まれることもなく,余震の発生により運転業務等を中断するに至ったという事実も認められないこと(認定事実(2)イ(カ),(3)イ(エ),(3)エ),③Aが,実際に避難所等を巡回するために自動車を運転していた時間は,1日に長くても3時間程度であり,そのうち最も長時間の連続運転であっても1時間10分程度であること(認定事実(2)イ(イ)ないし(エ),(3)イ(イ)ないし(ウ)),④Aは,保健師らが避難所等で被災者等のケアにあたっている時間や同じく保健師らが△△保健所等においてミーティングを行っている時間については(約1時間ないし2時間程度),いずれも車内で待機していたこと(認定 保健師らが避難所等で被災者等のケアにあたっている時間や同じく保健師らが△△保健所等においてミーティングを行っている時間については(約1時間ないし2時間程度),いずれも車内で待機していたこと(認定事実(2)イ(イ)ないし(エ),(3)イ(イ)ないし(ウ)),⑤本件被災地派遣時におけるAの時間外勤務時間についてみると,休日であった4月3日及び5月14日については,休憩時間を除く全ての勤務時間が時間外勤務時間となっているものの,その他の日については長くても3時間程度であり,第1次派遣に係る時間外勤務時間は合計13時間40分程度,第2次派遣に係る時間外勤務時間は合計12時間20分程度であり(認定事実(2)イ(ア)②,(2)イ(イ)⑤,同(ウ)⑤,同(エ)④,(3)イ(イ)⑤,同(ウ)③),また,深夜にわたる業務や徹夜等が必要となる業務は存在しなかったこと(なお,認定事実(3)ウで説示したとおり,Aの本件被災地派遣期間中の全ての時間が勤務時間であるとは認められない。),⑥Aは,運転業務終了後,宿泊先のホテルで入浴,食事,睡眠が可能な状況にあり,業務終了後に緊急ないし特別な業務に従事することは予定されておらず,実際にそのような業務が生じることはなかったこと(認定事実(3)ウ),⑦公衆衛生チームには○○保健所以外の保健師らも 参加していたが,Aがそれらの職員と何らかの軋轢やトラブルがあったとは認められず,同じく大阪府から派遣された職員との間で強い精神的緊張があったことを認めるに足りる的確な証拠は認められないこと,⑧Aは,第2次派遣直前の4月29日から5月5日まで,連続して休日が確保されていたこと(認定事実(3)ア(イ)),以上の点を認めることができる。 (ウ) 以上認定説示した各点に鑑みれば,客観的にみて,被災地派遣中 月29日から5月5日まで,連続して休日が確保されていたこと(認定事実(3)ア(イ)),以上の点を認めることができる。 (ウ) 以上認定説示した各点に鑑みれば,客観的にみて,被災地派遣中のAに係る勤務実態が過酷な状況にあったとは認め難い。そうすると,Aが従事した運転業務については,上記(ア)で説示したAに係る本件被災地派遣における業務に伴う一定程度の困難さという点を最大限に考慮したとしても,同業務に係る負荷が,医学的経験則に照らし,客観的に,脳血管疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得るものであったと評価することはできない。 イ異常な出来事等との遭遇の点について原告は,被災地の異常な状況が当時も継続しており,Aは,異常な出来事・突発的事態に遭遇したことで強い精神的緊張を受けたと主張する。 しかしながら,①上記認定したとおり,被災地においては,がれきの山等が残っており,未だ復興半ばという状況であったとしても(認定事実(2)イ(イ),(3)イ(イ)③),Aが本件被災地派遣されたのは東日本大震災の発生から1か月ないし2か月経過した時点であって,A自身が巨大地震や津波に遭遇したものではないこと,②Aが従事していた業務は,被災者に対するケアや行方不明者等の捜索等といった客観的にも精神的な負荷が相当に重いと考えられる業務ではなく,○○保健所と同様の運転業務であったこと,③本件疾病の発症当日やその直前等に何らかの精神的な衝撃を受け得る事象(強度の余震等)に遭遇したも のとは認められないこと(認定事実(3)エ),以上の点に照らすと,原告の上記主張を採用することはできない。 ウ早期の治療可能性(治療機会の喪失)の点について原告は,Aが本件疾病発 とは認められないこと(認定事実(3)エ),以上の点に照らすと,原告の上記主張を採用することはできない。 ウ早期の治療可能性(治療機会の喪失)の点について原告は,Aが本件疾病発症日の午前中から頭痛を訴えており,被災地支援のために巡回していたために,病院に行くことができなかったもので,被災地支援という業務の特殊性から治療を受けることができなかった旨主張する。 しかしながら,①Aに本件疾病が発症したのは,当日の業務終了後に業務から解放され,宿泊先で食事,入浴などを済ませ,同僚らと飲酒歓談していた時点であること(認定事実(4)ア),②仮に,Aが,本件疾病発症当日の午前中から頭痛等が生じていたとしても,上記認定したAの業務内容や1日の行動スケジュール等に照らして,Aが,被災地に派遣されているという業務の性質上,巡回に同行している保健師らに頭痛を訴えたり,医療機関を受診することが不可能ないし著しく困難であったとは認められないこと,③Aが本件疾病発症後においても業務に従事せざるを得ず,そのために治療を受けることができなかったという客観的な状況にあったとはいえないこと,④上記認定事実(4)において認定したとおり,同日午後9時20分頃,頭痛を訴えたAについて,E医師がその病状等を確認し,救急車出動の指示を出した後,Aは,同時45分頃には△△病院に搬送され,同院において診断等が行われたこと,以上の点が認められ,これらAの業務内外の状況,本件疾病発症時の状況及びその後の治療経過等の事情からすると,Aが被災地に派遣されたことにより,本件疾病に係る治療機会を喪失したとは認められず,原告が主張するような被災地派遣業務の特殊性という点をもって,業務に内在した危険が現実化したと評価することはできない。したがって,原告の上記主張 り,本件疾病に係る治療機会を喪失したとは認められず,原告が主張するような被災地派遣業務の特殊性という点をもって,業務に内在した危険が現実化したと評価することはできない。したがって,原告の上記主張は採用できない。 エ Aの素因(リスクファクター)の点について(ア) Aには脳出血の最大のリスクファクターとされている高血圧の既往症があり,平成16年頃から正常域を超える測定値が連続しており,直近の測定値も138/92㎜Hgであって,収縮期血圧についてはかろうじて降圧目標である140㎜Hgを下回るものの,拡張期血圧については90㎜Hgを超えるものであった(認定事実(6)ア,同(7)ア(ウ))。 (イ) また,Aについて,肝機能障害を示すγ-GTPが直近の測定値で394と基準値(10~92)を大きく超えたものであるところ,Aは,平成22年10月5日の問診結果の中で,飲酒の機会について「毎日」,飲酒量も「3合以上」と回答していること(認定事実(6)イ)や直近の健康診断において,アルコール性肝障害・脂肪肝と診断されていること(認定事実(6)エ)からすると,Aの飲酒歴はある程度長期間継続していたものと認められ,これらの点に照らすと,上記γ-GTPの数値傾向は,平成16年頃から継続していたものと推認できる。 (ウ) 以上のとおり,Aには,高血圧及び飲酒歴という脳出血発症に係る複数の危険因子が少なくとも平成16年から本件疾病発症時点である平成23年頃まで存在していたと認められる。 オ B意見書について上記1(7)イのとおり,B医師は,Aの主たる発症原因等についての意見書を提出しているが,同意見書が前提とする事実関係は,上記認定説示した事実関係とは異なるものであり,その限りにおいて, 上記1(7)イのとおり,B医師は,Aの主たる発症原因等についての意見書を提出しているが,同意見書が前提とする事実関係は,上記認定説示した事実関係とは異なるものであり,その限りにおいて,本件において,同意見書に係る意見内容を採用することはできないといわざるを得ない。 (3) 小括 以上認定説示した諸事情を総合的に勘案すると,Aが本件被災地派遣において従事した業務(運転業務)と本件疾病発症との間に相当因果関係があるとは認められず,本件疾病発症及びAの死亡が公務上のものであるとはいえない。 第6 結論以上のとおりであって,Aの死亡について公務外と認定した本件処分は適法であり,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官内藤裕之 裁判官三重野真人 裁判官新城博士
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