昭和29(う)2979 国家公務員法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和30年9月20日 東京高等裁判所 棄却
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【DRY-RUN】主    文      本件各控訴はいずれもこれを棄却する。          理    由  本件控訴の趣意は検事田中万一名義の控訴趣意書及び弁護人中村登音夫ならびに 同山田義夫提出の各控訴趣意書記

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判決文本文5,341 文字)

主文本件各控訴はいずれもこれを棄却する。 理由本件控訴の趣意は検事田中万一名義の控訴趣意書及び弁護人中村登音夫ならびに同山田義夫提出の各控訴趣意書記載のとおりであり、検察官の控訴趣意に対する答弁は中村弁護人提出の答弁書記載のとおりであるつこにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。 第一、検察官の控訴趣意ならびにこれに対する中村弁護人の答弁について記録を調査すると原判決は本件公訴事実の内、被告人両名か共謀の上、各原判示日時頃AまたはBに対し寄附金を要求し、かつ同人等からそれぞれ金二十二万円づつを受領したという事実につき、所論摘録のような理由に基き、右は被告人Cの立候補届出前もしくは投票終了後の行為であるから昭和二四年九月一九日人事院規則一四―七(以下単に人事院規則と略称する)第五項第一号に違反しないと判示して無罪の言渡をしたことが認められる。所論は右人事院規則にいわゆる「特定の候補者」とはひとり立候補届出をした者に限らず、未だその届出をしないでも、立候補の決意を有している者を含むのは勿論、かつて候補者であつた者までも包含するから、その者のために寄附金を要求し、もしくは受領した時期が立候補届出前或いは選挙終了後であつても、前掲人事院規則に違反するにかかわらず、原判決がこれを無罪としたのは法令の適用を誤つ<要旨第一>たものであると主張する。そこでまず立候補届出前の行為について考えてみると、人事院規則一四―七(政治</要旨第一>的行為)第五項第一号にいう「特定の候補者」とは「法令の規定に基く立候補届出または推薦届出により候補者としての地位を有するに至つた特定人」を指称するものと解すべきであつて、「立候補しようとする特定人」を含まないことは、既に最高裁判所判例(昭和三 法令の規定に基く立候補届出または推薦届出により候補者としての地位を有するに至つた特定人」を指称するものと解すべきであつて、「立候補しようとする特定人」を含まないことは、既に最高裁判所判例(昭和三〇年三月一日第三小法廷、判例集九巻三号三八一頁以下)の存するところであるから、未だ立候補届出をしていない者のために寄附金を要求する行為が同条項にいう「特定の候補者を支持し」たことにならないことは論をまたないところである。次に選挙終了後の寄附金受領行為についてみると、公職選挙における「候補者」たる資格は投票の終了によつて喪失するものであるから、右規則にいわゆる「特定の候補者」という中に「侯補者たりし者」まで包含するものと解することは文理上無理である。してみれば、選挙終了後候補者たりし者のために、前記人事院規則第六項第三号所定の行為をしても、同規則に違反しないと解するを相当とする。要するに右規則にいわゆる「特定の候補者」とは原判決が詳細に判示しているとおり、「立候補届出から投票終了までの特定人」を指すものと解すべきであるところ、本件事案において、寄附金を要求したのは立候補届出前であり、それを受領したのは投票終了後であることは、公訴事実自体に徴して明白であるから、原判決が所論のように判示して右事実は罪とならないと判断したのは相当である。所論は公職選挙法の規定や、旧衆議院議員選挙法に関する大審院の判例を引用して原判決の法令の解釈に誤りがあると主張しているが、所論で指摘している公職選挙法や旧衆議院議員選挙法の諸規定と本件で問題となつている国家公務員法の規定とは、両者立法の目的を異にし、その対象も同一ではないから、彼を以て此を律することは相当でない。而して原判決が無罪とした被告人等の行為が国家公務員の行為としてまことに好ましからざるものとする所論について 、両者立法の目的を異にし、その対象も同一ではないから、彼を以て此を律することは相当でない。而して原判決が無罪とした被告人等の行為が国家公務員の行為としてまことに好ましからざるものとする所論については異論がないが、さればといつて、合目的論的解釈ということを重視するあまり、刑罰法規の拡張解釈をすることは厳に慎しまねばならないから、右の見地に立脚する検察官の所論には左袒し難い。即ち原判決にはなんら法令適用の誤りは存しないから論旨は理由がない。 第二、中村弁護人(C被告人関係)の控訴趣意について一、論旨第二点について所論は、国家公務員法第一一〇条第一項第一七号、同法第一一一条の規定を根拠として、国家公務員法違反の罪については、刑法第六五条の適用がないと主張する。けれども国家公務員法違反罪にも刑法総則の適用のあることは、刑法第八条及び国家公務員法第一条の規定に照らして明白である。所論援用にかかる国家公務員法第一一〇条第一項第一七号及び第一一一条は、国家公務員法違反罪の内、特に同条所定の行為について特別の処罰規定を設けたのであるから同条項に該当する一部の行為については、刑法第六五条の適用が排除される<要旨第二>場合もありうるけれども、本件事案のように、国家公務員法第一一〇条第一項第一七号または同法第一一一条</要旨第二>のいずれにも該当しない行為については、刑法第六五条の適用があるものといわなければならないから、原判決がC被告人の行為に対し、刑法第六五条第一項を適用したのは相当であり原判決には所論のような法令適用の誤りは存しない。所論は独自の見解に立脚し、原判決の法令適用を非議するものであつてこれを採用することはできない。本論旨も理由がない。 二、論旨第三点について国家公務員法第一〇二条第一項は「職員は、政党又は政治的目的のため 見解に立脚し、原判決の法令適用を非議するものであつてこれを採用することはできない。本論旨も理由がない。 二、論旨第三点について国家公務員法第一〇二条第一項は「職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない」と定め、「政治的行為」の内容を人事院規則に委任していることはまことに所論のとおりである。所論は一片の行政規定である人事院規則に右のような広汎な委任をするのは、著しく公務員の基本的人権を侵害し、憲法の精神に反するものであると主張する。よつて按ずるに、国民の基本的人権は最大の尊重を必要とすること、国家公務員の基本的人権といえどもその除外例とはならないことは論をまたないところではあるが、人類の共同生活を否定しない限り、個人の基本的人権も公共の福祉のために必要の限度においては制限を受けなければならないこと、国家公務員は全体の奉仕者たる特殊性から、その個人たる基本的人権は一般の国民のそれ以上に制約を受けるべき性格を帯びていることもまた多言を要しないところである。しかしながら、公共の福祉のためとはいえ、個人の基本的人権を制限することは重大なことがらであるから、その制限は、憲法に特別の明文のない限り、国家最高の機関である国会の意思表示たる法律、もしくはその委任を受けた命令によつてなさなければならないものと解すべく、これはその対象たる個人が国家公務員である場合でもまた同様に解すべきものであることはことがらの性質上当然といわねばならない。而して法律によつて基本的人権を制限する場合はともかく、法律の委任による命令によつて制限する場合において、特に注意しなければならないのは、法律の授権の ことはことがらの性質上当然といわねばならない。而して法律によつて基本的人権を制限する場合はともかく、法律の委任による命令によつて制限する場合において、特に注意しなければならないのは、法律の授権の仕方である。その授権の仕方があまりに広汎に過ぎると、基礎たる法律はいわゆる「枠の法律」となり終り、国会の立法権の放棄という結果を招来するから、委任事項の性質や、委任すべき機関の性格、その国家組織における地位などから勘案して、授権の仕方が不相当であるときはその授権法規自体が憲法に違反するものと断定すべきであるか、所論は本件国家公務員法第一〇二条第一項の授権の仕方はまさに右に該当する違憲の規定であると主張するのである。 そこで(一) まず同条項の委任事項の内容が適当であるかどうかについて検討すると、国家公務員法第一〇二条第一項は、その前段において、「職員は政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、もしくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与してはならない」と制限せらるべき政治的行為の内容を具体的に例示した上、これに続いて「選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない」としている。このことは右法条が国家公務員の政治的行為は一切禁止する趣旨ではないという点に、大きな意義の存することは勿論であるが、それと同時に、人事院規則に委任される事項の範囲、即ち人事院規則で定めうべき政治的行為は右に例示的に定められた程度或いはそれ以下の事項に限定されることを明らかにしたものと解せられるのである。換言すれば、国家公務員法第一〇二条第一項が人事院規則に委任した「政治的行為」は無制限ではなく、そこには一定の限界の存することが認められるが、その程度の限界の定め方は、全体の奉仕者である国家公務員がその中立性を維持す 務員法第一〇二条第一項が人事院規則に委任した「政治的行為」は無制限ではなく、そこには一定の限界の存することが認められるが、その程度の限界の定め方は、全体の奉仕者である国家公務員がその中立性を維持する上からいつてまことにやむを得ない制限であるといわざるをえないから、その授権の方法は委任事項に関する限り適当であるというべく、問題はむしろこれに基いて定められた人事院規則が右授権の範囲を逸脱したかどうかという点にかかつているというべきである。そこで右の委任命令である人事院規則一四―七をみると、それは裁判所法第五二条第一号のような抽象的規定を置かず、特定の「政治的目的」と特定の「政治的行為」とをそれぞれ列挙して、これらの「政治的目的」をもつて、これらの「政治的行為」をすることを禁止または制限することを原則とし、その運用上の弊害を防止しようと配慮していることが認められるが、同規則に列挙された「政治的目的」と「政治的行為」を禁止することは国家公務員の中立性を保持し、公共の福祉を満足するに最小限のものと認められるから、同規則の規定内容はいずれも国家公務員法第一〇二条第一項の精神に合致し、毫もその授権の範囲を逸脱していないと認められるのである。 (二) 次に立法を委任された機関が適当であるかどうかという面から検討すると、授権の相手方は人事院である。人事院は内閣の所轄の下にある官庁ではあるが、一般の行政官庁と異り内閣に対して著しい独立性を有している。即ち、(1)憲法第七三条第四号が本来内閣の行政事務の一つとして規定している官吏に関する事務は包括的に人事院に委任され、内閣としてはこれに干渉する制度が認められていないこと、(2)人事院を構成する人事官は身分保障を有し、内閣は任意にこれを罷免できない。また人事官の弾劾訴追権も国会にあり、行政機関には属しないこ され、内閣としてはこれに干渉する制度が認められていないこと、(2)人事院を構成する人事官は身分保障を有し、内閣は任意にこれを罷免できない。また人事官の弾劾訴追権も国会にあり、行政機関には属しないこと、(3)人事院は広大な委任立法権が与えられ、また人事院指令を発することができる。(4)人事院は自からその内部機構を管理し、国家行政組織法は人事院には適用がないこと、(5)人事院は内閣を経由せずして直接に国会に対し報告、勧告、意見の申出その他研究の成果を提出することが出来ること、(6)人事院の経費の要求、及び応急予備円の設定に関し、国会、裁判所、会計検査院に類似した特権が認められていることなどからみて、人事院は一般の行政官庁とは著しく異つた特殊の性格をもつている機関であり、政治的意図によつて左右され難い官庁であることが明らかであるから国会がその立法権の一部を委任授権する相手方としては、人事院は通常の行政官庁よりもはるかに信頼度の高い機関であるということができる。 <要旨第三>かようにみてくると、国家公務員法第一〇二条第一項はその委任事項の内容からいうも、また委任の相手方た</要旨第三>る機関の面からいつても、毫も不当なところはないから、その授権の仕方は相当であるというべく、従つて同条項は憲法に違反しないのは勿論。これが罰則である同法第一一〇条第一項第一九号も違憲でないといわねばならない。従つて、原判決が原判示事実に対し右各法条を適用したのは相当であつて、論旨は理由がない。 (その他の判決理由は省略する。)(裁判長判事花輪三次郎判事山本長次判事下関忠義) 次判事下関忠義)

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