- 1 -平成20年10月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成18年(ワ)第348号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成20年9月3日判決主文 被告は,原告に対し,1576万1616円及びこれに対する平成17年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを5分し,その3を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求被告は,原告に対し,4400万円及びこれに対する平成17年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,平成17年2月25日に広島県福山市a町内にある被告管理の水路にその開口部から転落し,それによって脳挫傷の傷害を負い,四肢の機能障害及び意識障害によるコミュニケーション能力低下等の後遺障害が残った原告が,上記転落事故は,原告が上記水路開口部に面している被告管理の市道から転落したものであり,被告の設置管理にかかる上記水路又は上記市道の設置若しくは管理に瑕疵があったために発生したものであるとして,国家賠償法(以下「国賠法」という)2条1項に基づき,被告に対し,入院雑費,休業損害,入通院慰謝料,。 逸失利益,後遺障害慰謝料,介護費等の損害金合計のうち4400万円の限度で- 2 -の支払を求めるとともに上記金額に対する事故日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実(当事者間に争いのない事実及び挙示する証拠又は弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)(1)当事者等ア原告は,昭和7年b月c日生まれの主婦であり,夫である甲(昭和6年d月e日生まれ以下甲という いのない事実及び挙示する証拠又は弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)(1)当事者等ア原告は,昭和7年b月c日生まれの主婦であり,夫である甲(昭和6年d月e日生まれ以下甲というと共に肩書住所地所在の住居別。 「」。),(紙図面(添付省略)表示のBの位置)に長年の間居住して生活してきた。 イ被告は広島県福山市a町fg-h乙方付近を起点とする市道i幹線以,(下「本件市道」という)及び本件市道に沿う水路(以下「本件水路」と。 いう)を管理する地方公共団体であり,本件市道及び本件水路はいずれ。 も被告が管理する営造物である。 (2)本件事故の発生,,()原告は平成17年2月25日午後2時30分ころ別紙図面添付省略記載の事故発生ヶ所(以下「本件事故現場」という)において,甲運転の。 (「」。),4ドアの軽四自動車以下本件自動車というから降車して間もなく本件市道の前記乙方北東に接する部分の北東側に面している本件水路の開口部(以下「本件水路開口部」という)から本件水路に転落した(以下「本。 件事故」という。 。)(3)本件事故現場付近の状況(乙1~3,9,16,証人甲,証人丙)本件事故現場は,広島県福山市a町所在の国道2号線北側の山間部に位置し,付近は農地,民家が点在し,本件水路付近の交通量は閑散であり,本件市道は,主として地元の人が通行する状況にあった。 本件市道は,北西から南東に走るアスファルト舗装された平坦な幹線道路,,。 であり車道と歩道の区別がされておらず路側帯も設けられていなかったまた本件事故現場付近における本件市道の北東側は急勾配ののり面となっ,,- 3 -ている雑草の生えた土面を経て本件水路開口部に面しており,本件市道がのり面と接する境界部分の路 られていなかったまた本件事故現場付近における本件市道の北東側は急勾配ののり面となっ,,- 3 -ている雑草の生えた土面を経て本件水路開口部に面しており,本件市道がのり面と接する境界部分の路面はアスファルト舗装が一部はげかかっていた。 本件水路開口部の北側に本件水路を跨いで南西から北東に走るコンクリート舗装された甲所有の私道(以下「本件私道」という)があり,その私道が。 本件水路を跨ぐ部分は橋(以下「橋」という)になっていた。本件事故現。 場となった本件水路開口部は,本件市道と本件私道とが接する部分の東側ににあり,本件市道の北東側に面していた。 本件水路は,本件事故現場付近において,南西から北東に走る本件私道の北西側に沿って北東から南西に流れ,本件私道が本件市道と接する手前の部分で南に向きを変えて本件私道の橋の下を通って北から南に流れている。そして本件水路開口部は垂直方向の横断面が凹型のコンクリート造りとなっ,,ており,縦約1.4m,横約1m,コンクリート造りの上部から底部までの深さは約1.05mないし1.27mである。本件市道と本件水路開口部までの間は急勾配ののり面となっており,路面がのり面を経て本件水路開口部のコンクリート壁の上部に接しており,コンクリート造りの上部から本件市道までの高さは,約0.77mないし0.94mであり,本件水路開口部の南側は暗渠となっている。 また,本件水路は,昭和50年代初めころ,山陽自動車道の建設に伴い,地元の要望により,当時の建設省が,改修をして上記のような形状になり,水路が詰まらないように上流から流れてくる落ち葉,倒木等を拾い上げるためや当時あった水田の排水のために本件水路開口部のように開口部が設けられたが,本件事故発生当時,水田の排水のための利用はされていなかった。 (4)原告の受傷,治 れてくる落ち葉,倒木等を拾い上げるためや当時あった水田の排水のために本件水路開口部のように開口部が設けられたが,本件事故発生当時,水田の排水のための利用はされていなかった。 (4)原告の受傷,治療状況及び後遺障害(甲3,4)原告は,本件事故により,脳挫傷の傷害を負って,丁病院に搬入され,事窩故日から平成17年3月6日までの10日間,丁病院で入院治療(後頭蓋血腫除去術,減圧術,脳室ドレナージ術施行)を受けた。 - 4 -原告は,さらに同月7日,戊病院へ転院し,同病院で少なくとも同年10月21日まで入院治療を受けた(229日間。原告は,戊病院において,)点滴加療,リハビリ療法を受け,内科的に全身管理を行ったが経口摂取不能なため,同年7月29日胃ろう造設術を施行し,同年8月18日合併症として水頭症が認められたため,同年9月22日にV-Pシャント術が施行された。 平成17年10月25日(当時73歳)に症状が固定したが,原告には,脳性による四肢の機能障害(自動値は,右肩関節は前方挙上45度,後方挙上10度,側方挙上0度,左肩関節はいずれも0度,右肘関節は伸展0度,屈曲50度,左肘関節は伸展0度,屈曲90度,左右手関節は背屈掌屈いずれも0度,右股関節は伸展0度,屈曲105度,左股関節はいずれも0度,右膝関節は伸展0度,屈曲135度,左膝関節はいずれも0度,両足関節は背屈,底屈いずれも0度,手指・足指の運動障害(両手指及び両足指のい)),,(,,ずれも自動運動の角度0度頚部胸腰部に可動制限頚部は前屈0度後屈50度,左屈10度,右屈10度,左回旋20度,右回旋10度。胸腰部は,屈曲10度,伸展0度,左屈25度,右屈25度)を残す脊柱の運。 動障害,通常の衣服を着用して明らかに変形が分かる脊柱・体幹骨・長管骨の変形,言語機 屈10度,左回旋20度,右回旋10度。胸腰部は,屈曲10度,伸展0度,左屈25度,右屈25度)を残す脊柱の運。 動障害,通常の衣服を着用して明らかに変形が分かる脊柱・体幹骨・長管骨の変形,言語機能障害として意識障害によるコミュニケーション能力低下,そしゃく機能障害として流動食以外摂取できない,日常生活動作としても移動,立体応用動作,食事動作,衣服着脱動作,その他全てが全くできないという後遺障害が残った。 争点及び争点についての当事者双方の主張(1)本件水路又は本件市道の設置若しくは管理の瑕疵の有無ア原告の主張被告は,本件事故現場につき,容易に歩行者その他が2m下方のコンクリート製の水路に転落する危険性を予見でき,かつ転落した場合には,頭- 5 -部等打撲により重篤な意識障害が発生する危険性も予見できるにもかかわ,,,,らず漫然これを放置しガードレール又はガードパイプ等を設置して転落事故を未然に防ぐ義務を怠り,本件事故を発生させたものである。 ,,本件事故現場の営造物の形状から人が滑落することは容易に推測できそれが子どもや原告のような高齢者であるならば,自力ではい上がることができず重篤な結果を惹起することも容易に推測でき,また,路面から水,,路部分に至る中途はコンクリートの枠の構造になっているのであるから滑落者が,原告のように,頭などを打って,気を失ったり,脳挫傷を発生させたりする重篤な結果を招来することも容易に推測できる。 ,,,被告は本件水路を管理するに至った当時本件水路には開口部がありかつ中途は,コンクリートの枠の構造になっているのであるから,蓋をするとか,中途に,ネットや金網で滑落防止の構造を配慮すべきであり,かつ,上記配慮をすることは極めて容易であったにもかかわらず,本件事故が発生する ンクリートの枠の構造になっているのであるから,蓋をするとか,中途に,ネットや金網で滑落防止の構造を配慮すべきであり,かつ,上記配慮をすることは極めて容易であったにもかかわらず,本件事故が発生するまでは,損害の発生を防止する措置を何らしていない。 したがって,被告には,本件水路又は本件市道の設置若しくは管理に瑕疵がある。 イ被告の反論ないし主張営造物の瑕疵とは,営造物が通常有する安全性,換言すれば,相対的安全性を欠いていることをいい,この瑕疵の有無は,当該営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況を総合考慮して決定されるものであって,事故当時の状況からみて,当該営造物を利用する人たちが通常の注意を払ってもその危険を避けることができない程度に当該営造物として期待される通常の安全性を欠いていることが必要であり,事故が当該営造物の設置管理者において通常予測することができない事故者ないし被害者の行為に起因する場合は,設置管理者である被告がその責任を負わない。 本件事故においては,①原告又は甲は,本件事故現場付近の状況を知悉- 6 -していたこと,②本件私道の通行について甲が危険を感じておらず,本件私道の本件水路開口部側では脱輪等の事故を惹起していないこと,原告の長女巳も本件私道の通行に危険を感じていなかったこと,③そのため,原告らが本件私道から本件水路開口部への転落防止策を行っていないこと,④本件水路開口部への転落事故は本件事故のほかには1件も報告等されておらず,長年本件事故現場近隣に居住し,本件事故現場付近に農地を所有する甲も,本件事故のほかには,本件水路開口部への転落事故は聞知していないこと,⑤本件事故現場付近は,人家が点在する山間の田園地帯に存しており,このような箇所に存する水路については,ガードパイプ等の設置されていない状況は, は,本件水路開口部への転落事故は聞知していないこと,⑤本件事故現場付近は,人家が点在する山間の田園地帯に存しており,このような箇所に存する水路については,ガードパイプ等の設置されていない状況は,他の同種水路でもよく見られるものであること,⑥本件事故当時の天候から,本件水路開口部等の認識は十二分に可能であったこと,⑦本件水路開口部は,開口する十分な理由があったこと,⑧原告が本件水路開口部付近にわざわざ降車すべき物理的な理由はなかったこと,⑨原告の諸症状(平成11年6月に脳梗塞,左片麻痺の傷病を発症し,平成14年8月には頭位眩暈症,平成15年4月には慢性硬膜下血腫症,平成16年4月には転倒による肋骨骨折,平成17年2月10日の診断においても「転倒に注意」との主要症状があった)及びその年齢(昭。 和7年生)に照らせば,原告はいわゆる健常者とは言い難く,この原告の身体症状等が本件事故の発生と因果関係がある可能性が高く,また,甲の年齢(昭和6年生,身体的状況(平成16年11月30日多発性脳梗塞)により治療を受けており,左上肢の不全麻痺等の症状があったこと,平成),17年2月2日から同月10日まで戊病院で入院治療を受けていたこと,,甲が本件事故当日脱輪事故を起こしていること等に鑑みれば本件事故は甲の運転態様が正常でないため惹起された可能性が大きいものであり,このような本件事故発生状況からすれば,本件事故発生当時,原告が本件水路開口部に転落することは通常予見し難く,⑩仮に,原告主張の事故発生- 7 -状況を前提にしても,本件私道を使用しているのが原告ないし甲らその関係者のみであること等に鑑みれば,それ以外の一般人が同様の事故に遭遇することは考え難いことに照らし,本件水路開口部は,通常人であれば,これに転落負傷することは一般的に考えら のが原告ないし甲らその関係者のみであること等に鑑みれば,それ以外の一般人が同様の事故に遭遇することは考え難いことに照らし,本件水路開口部は,通常人であれば,これに転落負傷することは一般的に考えられないところであり,本件水路開口部を含む本件水路の相対的安全性に問題はないから,本件水路等の管理に瑕疵は存しないものというべきである。 また,本件事故の発生原因の重要な要素となった本件私道を所有利用する原告ないし甲が,いったん事故が発生するやこれを被告の責任と主張することは民法1条3項の趣旨に照らしても許されない。 (2)本件水路又は本件市道の設置若しくは管理の瑕疵と原告の受傷との間の相当因果関係の有無ア原告の主張被告が,本件水路開口部に蓋をするか,路面から水路部分に至る中途にネットや金網で滑落防止の構造をとるか,ガードパイプの設置をするなどの,本件事故を未然に防止する手だてをしていたならば,原告は滑落することはなかったのであるから,本件水路又は本件市道の管理の瑕疵と原告の受傷との間に相当因果関係がある。 イ被告の反論原告の本件水路への落下起点は,本件市道とは特定できず,甲所有の本件私道上の橋上ないしその付近と推認することも十分可能であり,かつ,橋を含む私道全体の安全管理は甲ないし原告が負担すべきものであるから,本件事故と被告の本件水路又は本件市道の管理の瑕疵との間には相当因果関係がない。 (3)過失相殺の割合ア被告の予備的主張仮に,被告に何らかの法的責任が認められるとしても,本件事故発生状- 8 -況や(1)イに指摘する諸事情に照らすと,その責任割合は,信義則ないし過失相殺の法理に照らし,損害額の10%を超えることはない。 イ原告の反論原告が滑落した点において原告にも過失はあるが,その割合は50%にとどまる。 (4) らすと,その責任割合は,信義則ないし過失相殺の法理に照らし,損害額の10%を超えることはない。 イ原告の反論原告が滑落した点において原告にも過失はあるが,その割合は50%にとどまる。 (4)損害額ア原告の主張(ア)入院雑費35万8500円1日1500円×239日=35万8500円(イ)休業損害(主婦労働分)220万0800円全年齢女子平均賃金月額27万5100円の8か月分(ウ)入通院慰謝料100万円(エ)逸失利益(主婦労働分)3267万8578円全年齢女子平均賃金月額27万5100円の14年間分(オ)後遺障害慰謝料3000万円(カ)介護費1806万5675円73歳の女子平均余命14年間分の1日5000円の介護費1日5000円×365日×9.899=1806万5675円(キ)弁護士費用400万円(ク)損害賠償請求の限度4400万円過失相殺を考慮して,上記(ア)ないし(キ)の合計のうち,4400万円を限度として請求する。 イ被告の反論損害額について争う。 原告は,平成11年6月に脳梗塞,左片麻痺の傷病を発症し,平成14年8月には頭位眩暈症,平成15年4月には慢性硬膜下血腫症,平成16- 9 -年4月には転倒による肋骨骨折,平成17年2月10日の診断においても「転倒に注意」との主要症状があったので,原告のこのような身体症状に照らし,休業損害,逸失利益の算定にあたり,全年齢女子平均賃金額を基礎にこれを算定することは極めて不当である。 第3当裁判所の判断 本件事故発生状況について(1)証拠(甲8,乙9,証人甲,原告法定代理人巳)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア甲は,左椎骨動脈狭窄症等を患っていたところ,本件事故当日の朝,定期検査の受診のために本件自動車を運転 拠(甲8,乙9,証人甲,原告法定代理人巳)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア甲は,左椎骨動脈狭窄症等を患っていたところ,本件事故当日の朝,定期検査の受診のために本件自動車を運転し,原告を同伴者として(なお,原告にも,主な既往症として平成11年6月に発症した脳梗塞による左片麻痺があった,戊病院に向け出発したが,駐車場を出てすぐに本件私。)道で右前輪を脱輪させ,近くに住んでいる乙に助けを求め,同人にフォークリフトで車を引き上げてもらった。 イ甲は,受診を終えた後,原告を助手席側の後部座席に乗せ,病院から本,。 ,件自動車を運転して帰路につき本件事故現場付近に差し掛かった甲は本件市道を南東から北西に走行してきたが,車庫入れのために,いったん本件私道への入り口を通過した後,後退して切り返し,本件私道の入り口付近で停車して,原告を降車させ,原告に「バックするよ」と告げて本件自動車を本件私道に入車させて後退させ始めた。本件自動車が1m50㎝「」,から2mくらいバックした時に原告の待ってという声が聞こえたので甲は本件自動車を止めて運転席から降り,原告のいた方を見たが,原告の姿は見えなくなっていた。甲が,本件自動車を降りて足をついた位置は本件私道の中央付近であり,甲が本件自動車から降りたとき,助手席側の後部座席のドアが30㎝くらい開いていた。 ウ甲は,本件事故現場まで戻って原告を探したところ,原告が本件水路開- 10 -口部の底面に右側を下にして頭を南東側に向けて手足を曲げた状態で真横に倒れているのを発見し,自ら引き上げようと試みたが,引き上げることができなかったので,乙に助けを求め,乙らが原告を引き上げた。 エ本件事故から1週間後,甲が本件事故現場を再度見に行ったところ,橋から50ないし60㎝くらい離れたの げようと試みたが,引き上げることができなかったので,乙に助けを求め,乙らが原告を引き上げた。 エ本件事故から1週間後,甲が本件事故現場を再度見に行ったところ,橋から50ないし60㎝くらい離れたのり面上に,幅10㎝足らず,長さ約30ないし40㎝の滑ったような跡があった。原告の長女巳も,後日,乙らと共に本件事故現場を確認した際,のり面から本件水路開口部のコンクリート上部にかけて,草のはげた跡,滑ったような跡(以下「本件痕跡」という)を認め,乙らからもそのような説明を受けた。 。 (2)そして,前記前提事実記載の本件事故現場付近の状況や傷害の内容と,上記認定事実を総合すれば,原告が事故現場付近で本件自動車から降りて,甲が本件自動車を後退させるのを見ていたところ,甲の運転する本件自動車の後部座席ドアが開いていたか,走行位置が本件私道の南側に寄りすぎていたため脱輪の危険があったかのいずれかに気づいて,甲に「待って」と声をかけた際,足を一歩踏み出したことにより,本件市道から本件水路の開口部へと続くのり面に足をとられ,そのまま滑って水路に転落し,後頭部をコンクリート部分に強打したものと推認することができる。 (3)被告は,①乙第3号証の写真では,原告主張のような人間が滑り落ちた際の痕跡は確認できない,仮に,そのような痕跡が存したとしても,当該痕跡は,救助作業にあたった者の履物跡とも考えられる,②甲が原告の「待って」という声を聞いた後,突然原告の姿が見えなくなったこと,それ以外には原告の声は全く聞いていないことからすれば,原告が突然,悲鳴を上げる間もなく本件水路開口部へ落下したものと推認され,そのような落下状況に至るのは,本件私道上の橋上付近から落下する場合しか考え難く,これに対して,原告主張のとおり本件市道側部分から滑落したのであれば,多少と く本件水路開口部へ落下したものと推認され,そのような落下状況に至るのは,本件私道上の橋上付近から落下する場合しか考え難く,これに対して,原告主張のとおり本件市道側部分から滑落したのであれば,多少とも時間的余裕があり,悲鳴等を発するのが自然である,③原告主張のとおり滑- 11 -り落ちたのであれば,甲が原告を発見したとき,原告の姿勢及び上半身が垂直になっていることが一般的であると考えられるが,原告が横倒しに倒れていたというのであるから,この状態も原告が橋上付近から落下したという被告の主張とよく一致するものというべきであると指摘して,本件事故発生状況を争っている。 しかしながら,①の点については,乙第3号証の写真④に写っているのり面の中程,橋から50ないし60㎝離れた辺りに少し草がはげて土面がむき出しになっている本件痕跡の存在を認めることができ,甲も,その部分につき滑ったような跡と証言しているものと認められる。また,甲は,救助の際に原告がポリタンク側のコンクリート部分から引き上げられてコンクリー,,ト上端部分を通って南側に引っ張られて救助されたのを見たと証言しているところ,そのような救助方法は本件市道側から引き上げるよりも自然であっ,,てポリタンク側の枯れ草が踏みつぶされていないこととも矛盾しないから上記の甲証言部分は優に信用しうるところであって,本件痕跡が,被告指摘のような救助作業にあたった者の履物跡であるとはにわかに認め難い。 また,②の点についても,本件市道側ののり面も相当の急勾配であることなどの本件事故現場付近の状況に照らせば,甲が「待って」という声以外,に原告の悲鳴等を聞かなかったことが,前記認定に係る本件事故発生状況と矛盾するともいえない。 さらに,③の点についても,のり面に足をとられて,そのまま足を下にして何ら 甲が「待って」という声以外,に原告の悲鳴等を聞かなかったことが,前記認定に係る本件事故発生状況と矛盾するともいえない。 さらに,③の点についても,のり面に足をとられて,そのまま足を下にして何ら体勢を崩すことなく滑り落ちたのであれば,被告指摘のとおり,上半身が垂直になっているのが自然といえなくもないけれども,滑り落ちる際の落ち方やのり面又は本件水路開口部底部の滑りやすさ等からすると,上記のような滑落をしたものとは一概にはいえず,原告が体勢を整えようとしたりして体勢が斜めになったりすること,若しくは,後頭部を強打した後にその痛みで姿勢を変えることも十分に考えられるのであるから,原告が発見され- 12 -た時の姿勢や上半身が垂直になっておらず,横向きに水平に倒れていたからといって,本件事故発生状況と矛盾するものとはいえない。 したがって,被告指摘の点は,いずれも前記認定に支障をもたらすものではなく,他に前記認定を左右するに足る証拠はない。 本件水路又は本件市道の設置若しくは管理の瑕疵の有無について(1)ア国賠法2条1項にいう「公の営造物の設置又は管理の瑕疵」とは,その営造物が通常有すべき安全性を欠く状態をいい,このような瑕疵があったとみられるか否かは,当該営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的,個別的に判断すべきものであるところ,当該営造物の利用に付随して死傷等の事故の発生する危険性が客観的に存在し,かつ,それが通常の予測の範囲を超えるものでない限り,管理者としては,同事故の発生を未然に防止するための安全施設を設置する必要があるものというべきである。 イこれを本件についてみるに,本件水路開口部は,前提事実に認定のとおり,凹型のコンクリート造りであって,その上部から底部までの深さは約1.05m 全施設を設置する必要があるものというべきである。 イこれを本件についてみるに,本件水路開口部は,前提事実に認定のとおり,凹型のコンクリート造りであって,その上部から底部までの深さは約1.05mないし1.27mであり,また,本件市道から本件水路開口部上部までの高さは約0.77mないし0.94mであり,本件市道から本,,件水路の底部までは約2mにも及ぶ構造であったこと本件水路開口部は本件水路が詰まらないように上流から流れてくる落ち葉等を拾い上げるためや水田の排水のために設置されていたが,本件事故当時,水田の排水のための利用はされていなかったこと,本件市道は,主として地元住民が利用していたが,本来,幹線道路であることからすると,地元住民にとどまらず,広く一般に通行利用されることが想定されるところ,本件市道から本件水路開口部までの間に存在するのり面は相当の急勾配であって,のり面と本件市道との境のアスファルト舗装がはがれかけた部分があるため,通行する者が,同部分やのり面に足をとられ,そのまま本件水路内に転落- 13 -する危険性が十分にあったことが認められ,これらの事実に照らすと,本件水路開口部付近を通行する者が,本件水路内に転落することによって死傷等の事故の発生する危険性があり,管理者である被告としては,かかる転落事故を未然に予測し,これを防止するための安全施設を設置する等の対策を講ずる必要があったものといえ,また,ガードパイプ等の設置は被告にとって容易である上,その設置によって,本件市道及び本件水路の利用に支障を生じることもなかったものということができる。 ウ被告は,本件事故が,被告において通常予測することができない原告の行為に起因するものである旨主張するが,前記1で認定したところによると,本件事故は,甲が原告を本件事故現場付 ということができる。 ウ被告は,本件事故が,被告において通常予測することができない原告の行為に起因するものである旨主張するが,前記1で認定したところによると,本件事故は,甲が原告を本件事故現場付近の本件市道に降ろした後,原告が甲の運転若しくは本件自動車のドアの状態について注意喚起しようとして足を踏み出したことによりのり面に足をとられたことに起因するものと認められるところ,同乗者を自動車から降車させる際に道路の中央部ではなく道路端に降ろすことは,通常想定される事態であるし,また,道路端に降りた者が,他の車が来てこれをよけようとしてとっさに足を出したり,足がふらついたり,他のことに気を取られるなどの理由でのり面に足をとられることも十分予測し得る事態というべきである。すなわち,仮に甲の運転や本件自動車のドアの状態について注意喚起しようと足を踏み出すという原告の具体的な行動自体を予測できなかったとしても,他の類似の行動によってのり面に足をとられる程度のことは被告において通常予測し得べき事態ということができる。 (2)以上によれば,本件水路又は本件市道については,その利用に付随して死傷等の事故の発生する危険性が客観的に存在し,かつ,それが通常の予測の範囲を超えるものとは認められないから,被告において,本件水路又は本件市道の管理に瑕疵があったというべきである。 本件水路又は本件市道の設置若しくは管理の瑕疵と原告の受傷との間の相当- 14 -因果関係の有無について前記認定のとおり,本件水路又は本件市道の管理に瑕疵があり,かつ,原告が足を滑らせた地点が本件市道側であることが推認できるから,本件水路又は本件市道の管理の瑕疵と原告の受傷との間に相当因果関係が認められる。 被告は,甲の運転が原因で転落したのであるから,相当因果関係がないとも主張 地点が本件市道側であることが推認できるから,本件水路又は本件市道の管理の瑕疵と原告の受傷との間に相当因果関係が認められる。 被告は,甲の運転が原因で転落したのであるから,相当因果関係がないとも主張するが,前記認定したところによれば,甲の運転は,本件事故のきっかけとなっているものの,本件事故の原因になったものとは認め難く,甲の運転に不手際があったことが,上記の相当因果関係を否定する事情となるものではない。 そうすると,被告は原告に対し,国賠法2条1項に基づき,本件事故によって原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。 過失相殺の割合について証拠(乙16,17,原告法定代理人巳,証人丙)によれば,本件水路への転落事故が本件事故以前にはなかったこと,本件事故以前に地元住民から被告に本件水路の危険性に関する情報は上がってなかったことが認められ,これに加えて,前記1で認定した本件事故の発生状況のほか原告が本件事故現場付近に長年居住しており,本件市道及び本件水路の状況につき十分認識していたものと認められることからすると,原告には本件事故現場の状況に照らし自らの運動能力をわきまえて危険を回避すべき注意義務を怠った過失があり,これが本件事故の発生を招いた大きな要因になっているものといわざるを得ないから,原告側の過失として,7割5分の過失割合を認めるのが相当である。 損害額について(1)入院雑費原告の傷害の程度,治療状況に照らすと,入院雑費は,1日1500円が相当であるから,1日1500円×入院日数239日=35万8500円と算定される。 - 15 -(2)休業損害(主婦労働分)(),,,, 証拠 原告法定代理人巳によれば原告は本件事故当時主婦として家事全般を1人で行っていたことが認められ,本件事故当時72歳という年齢 -(2)休業損害(主婦労働分)(),,,, 証拠 原告法定代理人巳によれば原告は本件事故当時主婦として家事全般を1人で行っていたことが認められ,本件事故当時72歳という年齢であったこと及び原告の脳梗塞等の既往症に鑑みれば,休業損害を算定するに当たり,その基礎収入は平成17年度賃金センサス第1巻・第1表の産業計・企業規模計・学歴計の女性労働者の全年齢平均の賃金額である343万4400円の5割である171万7200円と認めるのが相当であるから,休業損害は,次のとおりとなる。 計算式171万7200円÷365日×239日=112万4413円円()(未満切捨て。以下同じ)。 (3)入通院慰謝料原告の傷害,治療状況に照らすと,入通院慰謝料は280万円と認めるのが相当である。 (4)逸失利益(主婦労働分)原告の後遺障害の程度に照らすと,原告は後遺障害により日常生活動作が全くできないのであるから労働能力喪失率は100%と認められ,原告の基礎収入は前記の年額171万7200円と認めるのが相当であり,原告は,症状固定時73歳であり,73歳女性の平均余命16.38年(平成17年簡易生命表)の2分の1に相当する8年間は家事労働に従事可能であったと認めるのが相当であるから,次のとおりの逸失利益が発生したことが認められる。 (計算式)171万7200円×6.4632(8年ライプニッツ係数)=1109万8607円(5)後遺障害慰謝料原告の後遺障害の程度に照らすと,原告の後遺障害は,後遺障害等級1級1号相当であるところ,原告には平成11年6月に発症した脳梗塞による左- 16 -片麻痺の既往症があり,原告の四肢の機能障害の程度として,右上下肢よりも左上下肢の程度が重いのは,既往症にも起因するものと推認されるから,これら原 成11年6月に発症した脳梗塞による左- 16 -片麻痺の既往症があり,原告の四肢の機能障害の程度として,右上下肢よりも左上下肢の程度が重いのは,既往症にも起因するものと推認されるから,これら原告の既往症にも鑑みれば,後遺障害慰謝料は,2400万円をもって相当と認められる。 (6)介護費原告の後遺障害の程度からすると,常時介護を要する状態であるから,1日5000円の介護費の平均余命16年間分のうち原告主張の14年間分と,. ()して1日5000円×365日×9898614年ライプニッツ係数=1806万4945円の介護費を認めるのが相当である。 (7)弁護士費用以上の損害額の合計は5744万6465円となり,過失相殺の法理に照らし7割5分を控除した損害額は,1436万1616円となるところ,本件事案の内容や上記損害額に照らすと,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害は,140万円が相当である。 (8)損害額合計1576万1616円第4結論以上によれば,原告の本件請求は,国賠法2条1項に基づく損害賠償金1576万1616円及びこれに対する本件事故日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し,その余は失当であるから棄却し,被告の仮執行免脱の宣言の申立てについては,,。 その必要がないものと認めてこれを却下することとして主文のとおり判決する広島地方裁判所福山支部金馬健二裁判長裁判官- 17 -山口格之裁判官長谷川利明裁判官
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