平成27(ワ)220 報酬請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年4月28日 大分地方裁判所
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判決文本文7,249 文字)

平成28年4月28日判決言渡し同日原本領収裁判所書記官平成27年(ワ)第220号報酬請求事件口頭弁論終結日平成28年2月4日中間判決 主文 本件訴えを却下すべきであるとする被告の本案前の抗弁には,いずれも理由がない。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,1720万8720円及びこれに対する平成27年6月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,太陽光発電事業に関し,被告との間で,測量等や環境アセスメントに関する役務提供契約が締結されているとして,これらの契約に基づき,その未払報酬1720万8720円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年6月20日から支払済みまで商事法定利率の年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠等により容易に認められる事実) 当事者等(争いがない。)ア原告は,太陽光による発電事業及びその管理,運営,コンサルタント業務等を目的とし,a市内の肩書地に本店を置く株式会社である。 イ被告は,太陽光発電による発電,電気の供給及び販売等を目的とし,東京都b区内の肩書地に本店を置く合同会社である。 本件契約の締結(甲1,2,5の5,弁論の全趣旨)ア原告及び被告は,平成26年5月30日,原告が被告に対し,被告が同年1月に大分県別府市内に購入した土地において,太陽光発電所を稼働する事業を行うことを目的に,原告が土地境界等の確認のための土地調査といった上記事業に必要な許認可等の取得のための役務提供を行う契約(以下「本件契約」という。)を締結した。 イ本件契約に関し,交わされ 業を行うことを目的に,原告が土地境界等の確認のための土地調査といった上記事業に必要な許認可等の取得のための役務提供を行う契約(以下「本件契約」という。)を締結した。 イ本件契約に関し,交わされた役務提供契約書(以下「本件契約書」という。当時の被告の商号は「A合同会社」)は,左側に日本語の,右側に英語の条項が並列して設けられており(日本語の条項と英語の条項とでいずれが優先するかを定めた規定はない。),そのうち「4 その他」における4.5条(以下「本件条項」という。)として,左側に「本契約書は,国連売買条約(国際物品売買契約に関する国連条約)を除外したシンガポールの法律に準拠する。シンガポールは紛争解決の除外地域とする。」と記載(以下「本件日本語条項」という。)され,右側に「ThisAgreementisgovernedbytheSingaporeLawunderexclusionoftheUNSalesConvention(UnitedNationsConventiononContractsfortheInternationalSaleofGoods). TheexclusivelocationtosettledisputesisSingapore.」と記載(以下「本件英語条項」という。)されている。 本件契約は,被告が本件契約書の文案を作成し,平成26年5月17日に原告にこれを交付し,その後,締結に至っている(乙1の1及び2,弁論の全趣旨)。 2 争点及びこれに対する当事者の主張本中間判決の対象となる争点は,本件訴えの適法性であるが,具体的には,原告及び被告間において,専属的な国際裁判管轄をシンガポール共和国(以下 「シンガポ これに対する当事者の主張本中間判決の対象となる争点は,本件訴えの適法性であるが,具体的には,原告及び被告間において,専属的な国際裁判管轄をシンガポール共和国(以下 「シンガポール」という。)とする合意の成否及び有効性,並びに民訴法3条の9による訴え却下の可否である。 (被告の主張) 本件英語条項の後段を抄訳すると,紛争解決のための専属地はシンガポールとするとなり,これは,本件契約から生じる紛争に関する紛争解決機関,すなわち,本件訴えに関する第一審の専属的合意管轄は,シンガポールの裁判所とすることを定めたものである。 また,本件日本語条項も,シンガポールを排他的に紛争解決を担う地域とする趣旨と解される。すなわち,本件条項は,前段で,国連売買条約の適用を排除するために「除外」という文言を使用していることに照らせば,本件条項において,除外とは他を排斥する趣旨で用いられていると理解でき,本件日本語条項は,シンガポールの裁判所を専属的な(他の国を排斥する)国際裁判管轄を定めたものというべきである。このように解することは,本件条項前段でシンガポール法を準拠法としていることからすれば,シンガポール法に則って,シンガポールの裁判所以外の裁判所で裁判を遂行するなどというのはおよそ不合理であることとも整合する。また,本件契約書では,「国立公園」とすべきところ(具体的には阿蘇くじゅう国立公園のことを指す。)を,「国定公園」と誤訳していることに照らすと,まず英語の条項が設けられ,これを日本語に翻訳して作成されたことは明らかであって,本件日本語条項も,本件英語条項と合理的に整合するよう解釈されるべきである。 なお,原告の請求は,測量等の役務提供に基づく報酬を請求する部分と,環境アセスメントにおける役務提供に基づく報酬を請求 ,本件日本語条項も,本件英語条項と合理的に整合するよう解釈されるべきである。 なお,原告の請求は,測量等の役務提供に基づく報酬を請求する部分と,環境アセスメントにおける役務提供に基づく報酬を請求する部分とで,訴訟物を異にするかも明らかでないが,いずれにせよ,本件契約書で定められた許認可の取得に必要とされる役務提供に含まれるものとして,本件契約が適用され,本件条項により,その専属的国際裁判管轄はシンガポールの裁判所 となるものというべきである。 そうでないとしても,本件訴えについては,これを却下すべき特別の事情(民訴法3条の9)が認められる。 すなわち,本件条項は,準拠法をシンガポール法と定めているのであるから,シンガポールの裁判所で審理することが,その適正迅速な解釈運用に適う。また,被告はドイツ連邦共和国を本拠地とするBのアジア事業管理拠点であるシンガポールのCのグループ企業であるため,同社の危機管理方針として,アジア地域における紛争の解決はシンガポールで行うこととしており,本件条項を設けたものであるから,被告は,シンガポールで紛争が解決されることに合理的な期待を有しているし,原告と被告との間で,義務履行地等の条件については原告の意向を尊重して日本国内とする代わりに,紛争解決はシンガポールで行うという被告の要望が承諾されたことも交渉の結果として合理性がある。 以上によれば,シンガポールに専属的な国際裁判管轄が認められなければ,被告の予測可能性が奪われるし,さらに,本件契約の締結に同席した多くの被告の関係者がシンガポールを含む日本国外にいることに照らすと,日本で証人尋問等を実施することとなれば,なおのこと訴訟の遂行に多大な労力や時間,また言語上の困難が生じることとなって,当事者間の衡平を害する。 なお,本件 ールを含む日本国外にいることに照らすと,日本で証人尋問等を実施することとなれば,なおのこと訴訟の遂行に多大な労力や時間,また言語上の困難が生じることとなって,当事者間の衡平を害する。 なお,本件契約書に不備があるとしても,原告及び被告が内容を確認した上で締結に至っていることからすると,その責任を被告のみが負うとするのは妥当でない。 以上によれば,本件契約に関する紛争について,シンガポールの裁判所で行うことには十分な合理性があり,本件条項により日本には国際裁判管轄がないか,あるいは,民訴法3条の9所定の特別の事情があるものとして,本件訴えは却下されるべきである。 (原告の主張) 本件日本語条項は,文理上,シンガポールでは訴えの提起等の紛争の解決を行わないことを意味しているものとしか解釈のしようがない。そして,本件契約書では,日本語と英語のいずれが優先するかは定められていないところ,本件契約締結に至るまでの交渉は全て日本語で行われ,義務履行地も日本である上,その対価も日本円で支払われることとされていたことからすれば,本件契約書における英語の条項は,日本語の条項を理解するための参考にすぎないものというべきである。 そうでないとしても,本件英語条項も一般的に専属的合意管轄を定める際に用いられる文言(例えば「exclusivejurisdiction」等)ではなく,極めて不自然ないし意味の不明な表記であって,これから専属的な国際裁判管轄をシンガポールの裁判所とする旨を定めているとは読み取れない。また,原告及び被告は,本件契約を締結するにあたり,役務提供の範囲や代金等の条件に専ら関心を有しており,準拠法等の条項について意識することはなかった(末尾の記名押印欄に,被告の表記として「D」という明らかに 告及び被告は,本件契約を締結するにあたり,役務提供の範囲や代金等の条件に専ら関心を有しており,準拠法等の条項について意識することはなかった(末尾の記名押印欄に,被告の表記として「D」という明らかに誤った記載のまま契約締結に至っていることは,このことを端的に表している。)。 そうであるとすれば,本件契約を締結しているからといって,シンガポール法を準拠法とする合意が成立しているものということはできず,不備のある本件契約書の文面を作成したのは被告であるから,このように解しても,不当な不利益を与えるものではない。 以上によれば,本件条項があるからといって,原告と被告との間で,専属的な国際裁判管轄の合意が成立しているものとはいえない。 また,本件契約は,日本国内に本店を置く会社同士が,日本国内で締結したもので,その義務履行地も日本国内において,日本法に則った許認可等の取得に関する役務を提供するというものであることからすれば,その契約に 関する紛争について,シンガポール法を適用し,またシンガポールの裁判所で裁判を行う合理的な理由はないのであるから,本件条項は,前段後段ともに,甚だしく不合理であって,公序法に照らして無効であるというべきであり,民訴法3条の9が定める特別の事情もないというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 民訴法3条の7は,一定の法律関係に基づく訴えについて,書面による合意により,いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかを定めることができるものとしているところ,当該合意が成立している場合には,それが甚だしく不合理で公序法に違反する場合に限り,無効となるものと解される(最高裁昭和50年11月28日第三小法廷判決・民集29巻10号1554頁)。 2 まず,本件条項の後段は,一般的な表現(甲 が甚だしく不合理で公序法に違反する場合に限り,無効となるものと解される(最高裁昭和50年11月28日第三小法廷判決・民集29巻10号1554頁)。 2 まず,本件条項の後段は,一般的な表現(甲6,7)と異なり,原告及び被告間のいかなる法律関係に適用されるかについて何らの制約も設けていないことからすると,そもそも一定の法律関係に基づく訴えに関する合意ということはできず,民訴法3条の7第2項に定める要件を満たしているということはできない。なお,被告は,本件条項は,本件契約に基づく紛争に関する合意である旨を主張しているようにも解されるが,そのような明示の定めはなく,採用できない。 3 さらに本件条項全体について検討しておくと,被告が原告に対して本件契約書の文案を送付し,原告においてこれを確認した上で本件契約の締結に至っていることからすれば,原告及び被告間において,本件契約書の内容で意思の合致が見られたものといえる。 しかしながら,被告は本件条項を法律の専門家ではない者に起案及び翻訳をさせたと自認しているところ,まず,本件日本語条項の後段は,それ自体で文意を読み解くのが極めて困難な表記であり(同条項のみを自然に解釈すれば, シンガポールでは紛争解決を行わないことを定めていると理解することもでき,本件条項の前段が明確に国連売買条約の適用を除外すると定めていることと同列には扱えない。),本件英語条項も,直訳すれば,シンガポールを紛争を解決するための排他的な場所として定めていることとなろうが,これが国際裁判管轄を当然に意味しているかは明らかでない。結局,本件日本語条項及び本件英語条項は,いずれも極めて不明瞭な規定であり,整合的に理解することも困難というほかない。そうであるとすると,原告にとって,本件条項が,専属的な国際裁判管轄 らかでない。結局,本件日本語条項及び本件英語条項は,いずれも極めて不明瞭な規定であり,整合的に理解することも困難というほかない。そうであるとすると,原告にとって,本件条項が,専属的な国際裁判管轄を定めているものと理解することは相当に困難であったものと容易に推認され,単に本件契約書の文案を事前に送付していることのみをもって,原告も十分に内容を吟味し,自己の訴訟遂行上の負担を受け入れて,シンガポールの国際裁判管轄に服することを承認したものとは認められない。 これに加え,前提事実,証拠(甲1,甲5の5)及び弁論の全趣旨によれば,本件契約は,いずれも日本国内に本店を置く原告と被告との間で,被告が大分県別府市内で購入した土地において太陽光発電事業を行うに際し,そのための調査等を原告が行った上で,日本法に則って必要な許認可等を得ることを目的とし,その役務提供も全て日本国内で行われること,その対価も日本円で支払われることが予定されていたものと認められる。そうであれば,本件契約は,本来的に日本国内において完結する内容であったといえ,殊更,シンガポール法に則って,シンガポールの裁判所で裁判を行う合理的な理由は何ら見出せない。 さらにいえば,被告が本案に対する認否反論を一切していないため,本案の争点は依然として不明であるところ,事実関係に争いが生じ,証人尋問等を要することとなった事態を想定してみたとしても,少なくとも原告が申請すると予想される証人は日本国内にいるものと考えられることに照らすと,証拠が日本国外に偏在しているものと認めるに足りる主張立証があるということはでき ない。そして,本件訴えをシンガポールの裁判所で行うことを余儀なくされるとすれば,原告が負うこととなる訴訟遂行上の負担は極めて重いものとなると予想される一方,被告は,日 いうことはでき ない。そして,本件訴えをシンガポールの裁判所で行うことを余儀なくされるとすれば,原告が負うこととなる訴訟遂行上の負担は極めて重いものとなると予想される一方,被告は,日本国内に本店を置き,現に大分県内で太陽光発電事業を進めていた会社であることに照らせば,日本の裁判所において応訴することが過度な負担となるとは必ずしもいえない。 以上を総合すれば,本件条項の後段は,その対象とする範囲が漠然としているばかりでなく,その表記も不明瞭であって,原告に予想を超える過度な不利益を強いるものである上,その内容は,契約当事者の本店所在地や義務履行地等のいずれからみても,合理的な理由を何ら見出し難いものであるから,甚だしく不合理な規定であるといわざるを得ない。また,シンガポール法を準拠法とする本件条項の前段部分も,同様にその内容に何ら合理的な理由がないこと,単一の本件条項において,準拠法と紛争解決地の定めとは,一体として規定されているものと理解せざるを得ないことも併せ考慮すると,本件条項は,全体として公序法に反し無効なものと判断するのが相当である。その結果,準拠法は原則に従い日本法となる。 そして,上記判示によれば,民訴法3条の9により本件訴えを却下すべき特別な事情があるということもできないことも明らかである。 4 これに対し,被告は,被告がドイツ連邦共和国を本拠地とするBのアジア事業管理拠点であるシンガポールのCのグループ企業であるため,同社の危機管理方針として,アジア地域における紛争の解決をシンガポールで行うこととしており,被告には,この点について合理的な期待が生じていること等を主張する。 しかしながら,被告の主張する危機管理方針がいかなるものであるか具体的な主張立証はないところ,上記判示によれば,被告は,日 被告には,この点について合理的な期待が生じていること等を主張する。 しかしながら,被告の主張する危機管理方針がいかなるものであるか具体的な主張立証はないところ,上記判示によれば,被告は,日本においても事業を行うに足りる拠点を有しているものであって,シンガポールで裁判を行うこと について特段の利益があるとはにわかに想定し難い。かえって,本件契約は日本国内で完結するものであって,契約内容等を正確に理解する上でも日本の裁判所が適していると考えられることに照らせば,少なくとも,本件契約に関する紛争をシンガポールの裁判所で行うとの期待について,これを保護すべき合理的な理由があるということはできず,被告の上記主張は採用できない。 5 よって,本件訴えを却下すべきであるとする被告の本案前の抗弁はいずれも理由がないから,主文のとおり中間判決する。 大分地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官竹内浩史 裁判官藤田晃弘 裁判官工藤優希

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