主文 被告人を罰金10万円に処する。 その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 広島地方検察庁で保管中の現金20万円(令和4年広地領第496号符号1)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和元年7月21日施行の第25回参議院議員通常選挙に際し、広島県選出議員選挙の選挙人であり、かつ、同選挙に立候補する決意を有していたAの選挙運動者であるが、同人に当選を得しめる目的をもって、同人への投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、平成31年3月23日頃、広島県山県郡B町CD番地E被告人方において、前記Aの配偶者であるFから、現金20万円(令和4年広地領第496号符号1)の供与を受けた。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断)第1 受領の意思について 1 本件の争点は、Fが判示の現金20万円(以下「本件現金」という。)を被告人方に置いて立ち去った後、被告人に本件現金を受領する意思、すなわち、自由に処分し得るものとして自己の所得に帰属せしめる意思があったと認められるかである。 2 証拠から認められる事実⑴ 被告人は、平成17年から広島県山県郡B町の町議会議員を務めており、平成31年当時は同町議会議長の立場にあった。 ⑵ 被告人は、平成31年3月23日頃、被告人方応接間でFと面会した際、Fから、Aが判示参議院議員通常選挙に立候補する予定となったので応援してほしいなどと依頼されるとともに、本件現金が入った白色封筒(以下「本件封筒」という。)を差し出されて同応接間のテーブル上に置かれた。被告人は、「具合悪いです。」などと言って受取りを拒否し で応援してほしいなどと依頼されるとともに、本件現金が入った白色封筒(以下「本件封筒」という。)を差し出されて同応接間のテーブル上に置かれた。被告人は、「具合悪いです。」などと言って受取りを拒否したが、Fは、そのまま被告人方から退出した。被告人は、本件封筒には、Aを本件選挙に当選させるための選挙運動等をすることに関する現金が入っているであろうと分かったので、とっさに本件現金を返還しようとしてFを追いかけたが、同人は既に車に乗り込み走り去っていたため、その場で返還することができなかった。 ⑶ 被告人は、応接間に戻った後、妻と共に本件封筒内を確認し、予想通り本件現金が入っていたため、本件封筒に「3/23 12: 50 G 置き逃げ!! 返せ!!」と記載し、妻に指示して、一時的に保管する趣旨で被告人方2階の和ダンス引き出しに入れた。 その後、被告人は、妻から、本件現金を返還したのかと何度も聞かれたが、それには答えず、同月下旬頃になると、妻とも相談の上、本件現金を本件封筒から別の白色封筒に移し替えて被告人方の金庫に入れた。 ⑷ 被告人は、令和元年6月頃に、Aの事務所でFと面会し、本件選挙後である同年9月頃には、B町で開催されたAの当選を祝う打上げに参加してFと会ったが、これらの機会に本件現金を持参しなかった。被告人は、Fの事務所所在地を知っていたほか、F及びその秘書の携帯電話番号も知っていたが、本件現金の処遇について何らの相談もしておらず、令和2年3月25日に検察官へ本件現金を提出するまで、本件現金を金庫から取り出したこともなかった。 3 検討⑴ 被告人は、Fが本件現金を置いて立ち去った直後にFを追いかけたり、本件封筒に「返せ」と記載するなどしており、このような行動は、そのときに被告人が本件現金を返還する意思を 3 検討⑴ 被告人は、Fが本件現金を置いて立ち去った直後にFを追いかけたり、本件封筒に「返せ」と記載するなどしており、このような行動は、そのときに被告人が本件現金を返還する意思を有していたことをうかがわせるものではある。他方、その後、被告人は、本件現金を捜査機関に提出するまでの約1年の間に、Fと会った機会に本件現金を直接返還することができたほか、Fの秘書等を通じて返還したり、Fの事務所に郵送したりすることも可能であったにもかかわらず、FやAの予定を調べたのみで、返還へ向けた具体的な行動をしていない。これらの事情は、被告人に本件現金を返還する意思があったとするにはそぐわないものであり、Fの意向を受け入れて本件現金を受領する意思を有するに至ったことをうかがわせるものである。 ⑵ この点について、被告人は、町議会議長として、Fに陳情して功を奏した町の事業を継続すること等の町の利益を考えると、地元選挙区選出の現職の衆議院議員であるFとの関係を維持せざるを得ないから、Fの不興を買わないように返還の名目や機会等を見計らう必要があったが、それを考えあぐねているうちに、その機会を失っただけで、終始返還の意思はあったなどと供述する。しかし、平成31年3月下旬当時、このような被告人とFとの間の関係性は、将来的にも相当期間継続することが見込まれる状況にあった。そのため、Fが本件現金を置いて立ち去った後に、本件現金の返還方法を検討したときには、被告人の前記考えによる限り、本件現金を早期にそのままFに返還するのはおよそ現実的でないことが明らかであり、それを被告人も認識したものと認められる。このことは、被告人が、間もなく、本件現金を、一時的な保管場所と考えていた 和ダンス引き出しから金庫に移し替えたことに示されている。また らかであり、それを被告人も認識したものと認められる。このことは、被告人が、間もなく、本件現金を、一時的な保管場所と考えていた 和ダンス引き出しから金庫に移し替えたことに示されている。また、被告人は、本件現金をそのまま返してしまうとFの機嫌を損ねてしまうので、それと悟られないよう祝賀会等における祝い金等の別の名目でFに現金を渡す方法を検討していたと述べているが、これは、もはや返還ではなく、Fとの関係を維持し、町の利益を図るために本件現金を一旦自分のものとした上で別の目的に使用するものである。そうすると、被告人は、町の利益を図るなどの思惑もあって、消極的であるにせよ、本件現金を自由に処分し得るものとして自己の所得に帰属せしめる意思の下、Fが本件現金を供与してきた趣旨を受け入れたものと認められる。被告人に個人的な利益を得る意思があったか否かによって、この判断は左右されないし、被告人が述べるような事情があるからといって、本件現金をFに返還するのが不可能であったということもできない。 ⑶ 以上の次第であり、被告人には受領の意思が認められるから判示事実を認定した。 第2 公訴権濫用の主張について 1 弁護人は、検察官が、当初から起訴することを予定していたのに、被告人に対し、F及びAについての捜査に協力して自白したら不起訴とする旨を暗に示すという司法取引的、利益誘導的な違法な取調べを行い、被告人から供述を獲得した上で、このような捜査を隠蔽するため、被告人を一旦不起訴処分とし、検察審査会の起訴相当の議決が出るや、本件を起訴したものであるから、公訴権を濫用したものであると主張する。 2 しかし、被告人は、初めて検察官に呼び出されて出頭した時点から、捜査に積極的に協力しようと考えて、本件について事実経過をありのまま供述し、 あるから、公訴権を濫用したものであると主張する。 2 しかし、被告人は、初めて検察官に呼び出されて出頭した時点から、捜査に積極的に協力しようと考えて、本件について事実経過をありのまま供述し、その後も同じ内容の供述を続けていたというのであるか ら、明示的・暗示的を問わず検察官からの不起訴約束等の働きかけによって供述をしたとはいえない。弁護人の主張は前提を欠いており、採用できない。 (法令の適用)罰条公職選挙法221条1 項4号、1号刑種の選択罰金刑を選択労役場留置刑法18条没収公職選挙法224条前段(量刑の理由)本件は、現職の町議会議長であった被告人が、国政選挙に当たり、買収金の供与を受けた事案であり、選挙の公正を直接侵害し、議会制民主主義の根幹を危うくする犯行であって、選挙犯罪の中では悪質で重い類型である。もっとも、前記のとおり、受供与の態様は、受動的・消極的なものであった。以上の各事情のほか、被告人が本件の発覚後に議長の職を辞していること、他の受供与者に対する処分との公平性等も踏まえた上で、被告人に対しては、懲役刑ではなく、主文の罰金刑にとどめるのが相当であると判断した。 (検察官の求刑罰金20万円、主文掲記の没収)令和5年3月6日広島地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官石井寛 裁判官藤丸貴久 裁判官髙田優 田優
▼ クリックして全文を表示