令和5(ワ)959 未払賃金等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年4月24日 福岡地方裁判所
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判決文本文7,646 文字)

主文 1 被告は、原告に対し、71万7495円並びに別紙割増賃金計算書の各月の「未払法内残業代」及び「未払法外等割増賃金」の「合計」欄記載の金額に対する「賃金支払日」欄記載の日の翌日から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 原告は、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 3 被告は、原告に対し、令和4年10月から本判決確定の日まで、毎月25日限り、1か月30万5000円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の請求を棄却する。 5 訴訟費用は、被告の負担とする。 6 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 主文第1項ないし第6項と同旨 2 被告は、原告に対し、59万3877円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え(付加金請求)。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、被告に雇用されていた原告が、被告から支払われるべき令和2年4 月分から令和4年7月分までの残業代に未払があるほか、被告から令和4年9月30日付けでされた解雇(以下「本件解雇」という。)は無効である旨主張して、期限の定めのない労働契約に基づき、被告に対し、令和2年4月分から令和4年7月分までの未払残業代の支払、それに伴う付加金の支払、被告の従業員としての地位確認並びに本件解雇日以降の賃金、遅延損害金等の支払を求め た事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、各項掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者(争いがない。) 金、遅延損害金等の支払を求め た事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、各項掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者(争いがない。)ア原告は、平成30年4月から被告において事務局員として稼働していた者である。 イ被告は、昭和46年1月1日に設立された、九州地区内における公益財団法人日本ゴルフ協会主催競技の運営及び同協会からの委託を受けた事業を行っている権利能力なき社団である。 ⑵ 原告の賃金単価等(争いがない。)ア被告における原告の賃金は、基本給29万円及び職務手当1万5000 円の計30万5000円であり、毎月20日締め(前月21日から当月20日までの分)の25日払いとされている。 イ原告と被告の労働契約上の月平均所定労働時間数は、138.8時間である。 ウ各月の算定基礎賃金を各月の月平均労働時間数で除した原告の1時間当 たりの残業代の単価は、別紙割増賃金計算書の「賃金単価」欄記載のとおり2197円である。 エ割増賃金の割増率は、労働基準法所定のとおり、時間外割増賃金125%、深夜早朝割増賃金25%、法定休日割増賃金135%である。 ⑶ 原告の労働時間等(争いがない。) アゴルフ大会出張時における事務局員の概ねの作業時間① 競技前日 12時から18時まで(6時間)② 競技実施日(最終日以外) 6時から約19時まで(約12時間)③ 競技実施最終日 6時から約16時まで(約10時間)イ纏めてではなくとも原告は毎日合計1時間の休憩時間を取れていたが、 被告は原告の具体的な稼働時間を明示する資料を有しないため、ゴルフ大 会出張時の休み時間は0とする。 イ纏めてではなくとも原告は毎日合計1時間の休憩時間を取れていたが、 被告は原告の具体的な稼働時間を明示する資料を有しないため、ゴルフ大 会出張時の休み時間は0とする。 ウ原告の主張する残業代(請求元本)は、別紙割増賃金計算書のとおり71万7495円である。一方、被告の主張する残業代(請求元本)は、別紙割増賃金計算書(被告主張分)のとおり64万8015円である。 ⑷ 本件解雇(争いがない。) ア被告は、令和4年7月19日付け解雇予告通知書(甲8)により、原告に対し、同年8月30日をもって原告を解雇する旨予告したが、原告が保有していた有給日数に鑑み、解雇年月日は同年9月30日とされた。 イ被告が原告を解雇した理由は、令和4年8月22日付け解雇理由証明書(甲9)記載のとおり、①令和4年6月1日及び同月22日に原告から退 職の意思表示があり、被告が原告の退職に伴う事務作業を進めていた後に原告が翻意して被告に混乱を生じさせたこと、②原告において、組織内における相互協力意識が欠落し、コミュニケーション能力が低く、被告事務局のA事務局長(以下「A局長」という。)からの再三の注意にもかかわらず改善されなかったことである。 ⑸ 本件解雇後の事情(争いがない。)ア被告は、令和4年10月31日、原告の口座に退職金として128万1800円(原告手取り額102万0057円)を振り込んだ。 イ原告は、令和4年11月21日以降、給与の6割相当の失業保険の仮給付を受けたが、本件訴訟で解雇無効が確定すれば返還する意向を示してい る。 3 争点⑴ 出張日当が未払残業代に充当されるか⑵ 本件解雇が無効か 4 争点に関する当事者の主張 ⑴ 争点⑴(出張日当が未払残業 すれば返還する意向を示してい る。 3 争点⑴ 出張日当が未払残業代に充当されるか⑵ 本件解雇が無効か 4 争点に関する当事者の主張 ⑴ 争点⑴(出張日当が未払残業代に充当されるか)について (原告の主張)ア賃金は、労働の対価として支払われるものであり、出張日当は賃金に該当せず、出張日当が未払残業代に充当される余地はない。 イ仮に出張日当が賃金(固定残業代)に該当するとしても、固定残業代として有効と認められるためには、それが時間外労働や深夜労働の趣旨で支 払われることが雇用契約当事者間で合意されていることが必要である。被告の就業規則上、出張日当は「別途定める旅費規則」により支給されるものであり、早出・残業・深夜手当については「役職者は適用外」としている一方で、出張日当は役職者にも支払われるとされており、出張日当が割増賃金の趣旨で支払われていないことは明らかである。また、給与明細に も、出張日当の記載はされていない。さらに、出張日当の額は、ゴルフ大会における個々人の作業時間に応じて定められているわけでもない。したがって、出張日当は固定残業代に当たらない。 (被告の主張)ア被告の事務局員就業規則・附属規則(甲7)8条において、時間外、休 日及び深夜手当の時間単価は次のとおりとする(但し、出張の場合は除く)と規定され、旅費規則(甲7)8条において、職員の出張に当たっては、旅費実費及び宿泊費並びに日当(事務局員は自宅から会場まで40㎞未満2500円、40㎞以上5000円)が支給されることが規定されている。 また、職員がゴルフ大会のために出張した場合、残業が定型的に想定され るが、大会の規模、場所や期間ないし就業時間は様々であり、厳密 0円、40㎞以上5000円)が支給されることが規定されている。 また、職員がゴルフ大会のために出張した場合、残業が定型的に想定され るが、大会の規模、場所や期間ないし就業時間は様々であり、厳密な就業時間の管理を実施することも困難であることから、被告は出張時の残業代については固定残業代制度を採用し、所定労働時間内の就業であっても出張日当を定額の固定残業代として支払うことにしたものである。 イ仮に出張日当が固定残業代として認められないとしても、出張日当の実 質は出張を伴うゴルフ大会時の残業の対価として職員に支払われる金員で あり、原告は実質的に残業代の支払を得ていて経済的損失は生じていないから、未払残業代に充当すべきである。 ⑵ 争点⑵(本件解雇が無効か)について(原告の主張)ア原告が被告に対して待遇が改善されなければ退職する意向であると伝え て待遇の改善を求めたことはあるが、確定的に退職の意思表示をしたものではなく、原告と被告との間に退職合意は存在しない(令和4年6月1日及び同月22日に原告から退職の意思表示をした事実はない。)。被告の主張を前提としても、原告は令和4年7月1日に退職を翻意し、同月6日にA局長にメールを送付した後にA局長は解雇を留保したのであるから、そ れまでの原告の退職に関する言動を本件解雇の効力の判断において考慮することは不合理である。 イ被告の原告の勤務態度や能力に関する指摘は抽象的に過ぎるし、何らの根拠なく一方的に能力・適性の欠如と評価しているだけであり、解雇事由には到底該当しない。A局長が令和4年4月26日に原告に送ったメール の内容からは、A局長が他の従業員に比べて原告を高く評価していたことが認められる。 ウ仮に原告に至ら けであり、解雇事由には到底該当しない。A局長が令和4年4月26日に原告に送ったメール の内容からは、A局長が他の従業員に比べて原告を高く評価していたことが認められる。 ウ仮に原告に至らない点があったとしても、被告は令和4年7月7日に解雇を留保し原告の勤務態度を見るとしてからわずか2週間未満の同月19日に解雇予告通知を出しており、被告は解雇までに原告に十分な改善の機 会を与えていない。 エしたがって、本件解雇は無効である。 (被告の主張)ア被告の事務局は、正社員6名ないし正社員5名と派遣社員1名という少数の職員が各業務を分担して遂行する体制であり、業務多忙時、特にゴル フ大会の準備運営時には事務局員の相互協力が必要不可欠であり、職員に は他の職員の仕事量を慮って助け合う協調性が求められる。 イ原告は、被告に就職以来一貫して他の職員らとコミュニケーションを取ることが殆どなく協調性に欠け、原告が自己判断した仕事の範囲に拘って他の職員との共同、共助の意識も見られず、被告の役員やA局長に対しては上司を上司とも思わない非礼な態度や言動が目立っていた。原告は、A 局長から再三注意指導を受けたにもかかわらず、これを改善できないままであったことからすれば、就業規則22条5号の「技能低劣で業務の遂行に必要な能力を欠く」の解雇事由に該当する。 ウ原告からの退職及び後任選任手続着手の申出があり、A局長がその辞職の意思をメール及び口頭で受理確認し、理事長も原告の辞職を承認し、既 に原告の後任者を募集するほか、原告の退職意思を最終確認した上で、退職金額に関して自己都合退職とするか会社都合退職とするか等の手続を進め、原告の利益のために解雇予告通知を作成し、発出する時点で原告から退職を翻意する申出 るほか、原告の退職意思を最終確認した上で、退職金額に関して自己都合退職とするか会社都合退職とするか等の手続を進め、原告の利益のために解雇予告通知を作成し、発出する時点で原告から退職を翻意する申出がされたため、後任の選任や被告の事務作業に深刻な混乱を生じさせたことから、就業規則22条4号の「業務の都合上やむを 得ないとき」の解雇事由に該当する。 エ被告にとって、原告の示す反省と謝罪、勤務態度改善の決意は、口先だけの一時凌ぎにすぎないことは、令和4年7月6日から2週間の経過を見るだけでも明らかであった。 オしたがって、本件解雇は有効である。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(出張日当が未払残業代に充当されるか)について⑴ 被告は、就業規則・附属規則8条と旅費規則8条の規定の整合性を合理的に解釈すれば、出張日当は固定残業代であると解すべきであるし、仮に固定残業代に該当しなくても、出張日当の実質を考慮すれば未払残業代に充当す べきである旨主張する。 ⑵ しかし、出張日当は被告の旅費規則8条において、残業時間の有無や長短にかかわらず一定金額が支払われるものと定められていること、被告の賃金規則2条では役職者には残業手当が支払われないと規定されているのに、被告の旅費規則8条では事務局長・次長にも旅費日当が支給されると規定されていることに照らすと、出張日当が残業代の趣旨で支払われていたとは考え 難い(対価性を有しない)。また、出張日当が固定残業代の趣旨であることを被告から原告に説明し、原告がそれに同意していた事実を認めるに足りる証拠はない(明確区分性を有しない)ことからすれば、出張日当の支払により原告は相応の経済的利益を得ていることを踏まえても、出張日当は、被告の従業員がゴルフ大会等の に同意していた事実を認めるに足りる証拠はない(明確区分性を有しない)ことからすれば、出張日当の支払により原告は相応の経済的利益を得ていることを踏まえても、出張日当は、被告の従業員がゴルフ大会等の出張の際に必要とする交通費及び宿泊費以外の経 費を補填するために支払われるものであり、形式的にも実質的にも固定残業代に該当するとはいえず、未払残業代には充当されないと解される。よって、被告の上記主張を採用することはできない。 2 争点⑵(本件解雇が無効か)について⑴ 被告は、少人数の事務局の中でコミュニケーションや協調性が重要である にもかかわらず、それに反していた原告の就業態度や言動が就業規則22条5号の「技能低劣で業務の遂行に必要な能力を欠く」の解雇事由に該当する旨主張する。 確かに、被告の事務局は、正社員6名又は正社員5名と派遣社員1名という少数の職員が各業務を分担して遂行する体制であり、業務多忙時、特にゴ ルフ大会の準備運営時には事務局員の相互協力が必要不可欠であり、職員には他の職員の仕事量を慮って助け合う協調性が求められるところ、A局長の陳述(乙5)・供述(証人A)によれば、原告が大会時に役員等へ挨拶をしないことや些細なことで不機嫌になったり、出張時の旅費精算について自分勝手な申出をしたりするなど、周囲との協調性に欠ける面があったことが認め られる。 しかし、証拠(甲10、乙4、5、証人A、原告本人)によれば、特に令和4年4月25日以降原告は周囲との協調性やA局長等の上司や関係者に対する礼儀や配慮に欠ける面があったものの、自らの守備範囲と考える業務は特段の問題なく遂行し、被告のインスタグラムを更新するなどしており、A局長も原告の事務処理能力はプラス評価していたこと、A局長からの令和 慮に欠ける面があったものの、自らの守備範囲と考える業務は特段の問題なく遂行し、被告のインスタグラムを更新するなどしており、A局長も原告の事務処理能力はプラス評価していたこと、A局長からの令和 4年6月22日及び同年7月1日の指導に対し同月6日に反省ないし改善の意向を示すメールを送っていたことが認められ、これらの事実に照らすと、原告が周囲との協調性に欠けることや、原告の言動により繰り返し不快な思いを抱かされていたA局長において原告に十分な改善の姿勢があると捉えなかったことについては一定程度理解できることを踏まえても、原告が被告 の業務を行うための技能が低劣であり、被告の業務の遂行に必要な能力を欠いていたとまではいえない。よって、被告の上記主張を採用することはできない。 ⑵ 被告は、原告は一旦退職の意思を示しており、そのために後任の選任や被告の事務作業に深刻な混乱を生じさせたことから、就業規則22条4号の 「業務の都合上やむを得ないとき」の解雇事由に該当する旨主張する。 しかし、原告は被告に正式に退職届を書面で提出したわけではないし、証拠(甲10、原告本人)によれば、令和4年7月19日に本件解雇予告通知が書面でされる前に原告はA局長に対し自らの待遇に係る不満を繰り返し述べているが、それは、自らの貢献度に比して年収約366万円という自らの 給与が低いと感じており、入社から4年経過した令和4年4月期の時点でも昇給額が自らの期待に沿うものではなかったために、退職ないし就労意欲の減退(給与分しか働かない)を示唆ないし仄めかしていたにすぎないことがうかがわれ、明示的な退職意思を示していたとはいえない。また、被告は本件解雇後に原告の後任者を雇用しておらず(証人A)、被告の事務作業に深刻 な混乱が生じたかは定かでないこ たにすぎないことがうかがわれ、明示的な退職意思を示していたとはいえない。また、被告は本件解雇後に原告の後任者を雇用しておらず(証人A)、被告の事務作業に深刻 な混乱が生じたかは定かでないことに照らすと、本件解雇が被告の業務の都 合上やむを得ないときにされたとまではいえない。よって、被告の上記主張を採用することはできない。 ⑶ したがって、本件解雇は無効であるというべきである。 3 まとめ⑴ 上記のとおり、出張日当は固定残業代ではなく未払残業代に充当されない (上記1)し、本件解雇は無効である(上記2)から、原告の被告に対する令和2年4月分から令和4年7月分までの未払残業代の支払、被告の従業員としての地位確認並びに本件解雇日以降の賃金、遅延損害金等の支払請求はいずれも理由がある。 ⑵ もっとも、証拠(乙2)によれば、原告はゴルフ大会以外の事務所勤務日 には基本的に残業がなく、コロナ禍の影響や家庭の状況を考慮されて毎日1時間の時短勤務を許容されていたことが認められ、ゴルフ大会は早朝から始まり天候等によっては長時間の勤務が必要となる場合があることから被告は交通費や宿泊費に加えてゴルフ大会業務に携わる職員に日当を支給していたもので、原告において本件解雇まで残業代の不支給に不満を述べていた 形跡も見当たらないことに照らすと、ゴルフ大会期間中の割増賃金の不払により原告が受けた不利益の程度が大きいとまではいえないし、被告が同期間中の残業代を支払わなかった経緯や態様が悪質であるともいえないから、本件においては、被告に対し労働基準法114条に基づく付加金の支払を命ずることはしないこととする。 第4 結論以上によれば、原告の請求は主文記載の限度(未払残業代の支払、被告の従業員としての地位確 に対し労働基準法114条に基づく付加金の支払を命ずることはしないこととする。 第4 結論以上によれば、原告の請求は主文記載の限度(未払残業代の支払、被告の従業員としての地位確認並びに本件解雇日以降の賃金、遅延損害金等の支払請求)で理由があるから認容し、その余(付加金請求)は理由がないから棄却すべきである。よって、主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第5民事部裁判官中辻󠄀 雄一朗別紙割増賃金計算書は掲載省略

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