平成18(行ウ)603等 更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年2月14日 東京地方裁判所 租税
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判決文本文21,420 文字)

- 1 -主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 第603号事件関係芦屋税務署長が平成17年5月31日付けで原告Aに対してした平成16年分の所得税の更正の請求に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。 第604号事件関係芦屋税務署長が平成17年5月31日付けで原告Bに対してした平成16年分の所得税の更正の請求に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。 第606号事件関係目黒税務署長が平成17年5月31日付けで原告Cに対してした平成16年分の所得税の更正の請求に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。 第607号事件関係吹田税務署長が平成17年5月31日付けで原告Dに対してした平成16年分の所得税の更正の請求に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告らが,その平成16年分所得税につき,同年2月に土地及び建物を譲渡したことに伴う譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を所得税法69条1項の規定に従い他の各種所得の金額から控除すべきであるとして更正の請求をしたところ,各処分行政庁が,平成17年5月31日付けで,原- 2 -告らの上記更正の請求に更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから,原告らが,上記損失の金額が生じなかったものとみなす租税特別措置法31条1項後段の規定は平成16年法律第14号により改正され同年4月1日に施行されたものであるが,これを同年1月1日にさかのぼって適用するものとする同改正法附則は租税法律主義を定めた憲法の規定に違反するから,上記通知処分も違法となると主張して,それらの取消しを求めた事案である。 関係法令( )所得税法(平成18年法 て適用するものとする同改正法附則は租税法律主義を定めた憲法の規定に違反するから,上記通知処分も違法となると主張して,それらの取消しを求めた事案である。 関係法令( )所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの) 所得税法69条1項は,損益通算につき,総所得金額,退職所得金額又は,,,山林所得金額を計算する場合において不動産所得の金額事業所得の金額山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは,政令で定める順序により,これを他の各種所得の金額から控除すると定めている。 ( )租税特別措置法(以下「措置法」という。ただし,平成16年法律第1 ,「」。 4号による改正の前後で区別し同改正前のものを改正前措置法というまた,同改正以後のものを「改正措置法」ということがある)。 改正措置法31条1項は,前段において,個人の土地若しくは土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)又は建物及びその附属設備若しくは構築物(以下「建物等」という。)で,その年1月1日において所有期間が5年間を超えるものの譲渡をした場合には,当該譲渡による譲渡所得については,所得税法22条及び89条並びに165条の規定にかかわらず,他の所得と区分し,その年中の当該譲渡による譲渡所得の金額に対し,長期譲渡所得(保有期間が5年を超える資産の譲渡による所得)の金額の100分の15に相当する金額の所得税を課すると定め,後段において,前段の場合に,長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは,所得税法その他所得税に関する法令の適用については,当該損失の金額は生じなかったものとみ- 3 -なすと定めている。 ( )平成16年法律第14号(所得税法等の一部を改正する法律) 平成16年法律第14号(所得税法等 する法令の適用については,当該損失の金額は生じなかったものとみ- 3 -なすと定めている。 ( )平成16年法律第14号(所得税法等の一部を改正する法律) 平成16年法律第14号(所得税法等の一部を改正する法律)附則(以下「」。),,本件改正附則という27条1項は改正措置法31条の規定につき個人が平成16年1月1日以後に行う同条1項に規定する土地等又は建物等の譲渡について適用し,個人が同日前に行った改正前措置法31条1項に規定する土地等又は建物等の譲渡については,なお従前の例によると定めている。 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)( )原告らによる不動産の取得 ア原告らは,昭和55年8月30日に,別紙物件目録3ないし7記載の各土地を,昭和56年5月7日に,同目録1及び2記載の各土地(以下,上記各土地を併せて「本件各土地」という。)を購入し,それぞれその持分(原告Bにつき25分の7,原告Dにつき25分の6,原告Cにつき25分の6,原告Aにつき25分の6)を取得した。 イ原告Bは,Eとともに,昭和57年3月31日,本件各土地上に,別紙,(,物件目録8記載の建物を建築しその持分原告Bにつき100分の36Eにつき100分の64)を取得した。原告B及び同Aは,Eの死亡による相続によって,同人の上記建物の持分のうち原告Bが100分の51,同Aが100分の13をそれぞれ取得した。 また,原告らは,昭和57年3月31日,本件各土地上に別紙物件目録9記載の建物(以下,別紙物件目録8記載の建物と併せて「本件各建物」という。)を建築し,その持分(原告Bにつき100分の31,原告Dにつき100分の23,原告Cにつき100分の23,原告Aにつき100分の23)を取得し 紙物件目録8記載の建物と併せて「本件各建物」という。)を建築し,その持分(原告Bにつき100分の31,原告Dにつき100分の23,原告Cにつき100分の23,原告Aにつき100分の23)を取得した。 - 4 -( )本件各土地及び本件各建物の譲渡(以下「本件譲渡」という。)(甲1の1~ 4)ア原告らは,平成15年12月26日,株式会社F(以下「F」という。)との間で,本件各土地及び本件各建物を譲渡する旨の売買契約を締結した。 イ原告らは,平成16年2月26日,Fとの間で,上記アの売買契約に係る本件各土地の面積及び売買代金を変更する合意をした。 ウ原告らは,上記ア及びイの合意に従い,平成16年2月26日,本件各土地及び本件各建物の代金残額を受領し,Fに対して本件各土地及び本件各建物を引き渡した。 ( )平成16年分所得税についての原告らの確定申告及び更正の請求並びに 原告らに対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下,これらの各通知処分を併せて「本件各通知処分」という。)及び不服申立てア原告A(別表1-1参照)(ア)原告Aは,平成17年3月15日,芦屋税務署長に対し,分離長期譲渡所得の金額を0円,納付すべき税額を2600万1600円として確定申告をした。 (イ)原告Aは,平成17年3月29日,芦屋税務署長に対し,分離長期譲渡所得の損失金額を1億1288万4478円,還付金の額に相当する税額を2141万0083円とする更正の請求をした。 (ウ)芦屋税務署長は,平成17年5月31日,上記(イ)の更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。 (エ)原告Aは,平成17年7月4日,芦屋税務署長に対して異議申立て,,,。 をしたが同署長は同年9月22日同原告の異議申立てを棄却した(オ)原告 べき理由がない旨の通知処分をした。 (エ)原告Aは,平成17年7月4日,芦屋税務署長に対して異議申立て,,,。 をしたが同署長は同年9月22日同原告の異議申立てを棄却した(オ)原告Aは,国税不服審判所長に対し,平成17年10月7日付けで審査請求をしたが,同審判所長は,平成18年5月16日,同原告の審査請求を棄却する裁決をし,同年6月2日,同裁決が同原告に送達され- 5 -た。 イ原告B(別表1-2参照)(ア)原告Bは,平成17年3月15日,芦屋税務署長に対し,分離長期譲渡所得の金額を0円,納付すべき税額を2583万5700円として確定申告をした。 (イ)原告Bは,平成17年3月29日,芦屋税務署長に対し,分離長期譲渡所得の損失金額を2億0339万9249円,還付金の額に相当する税額を4905万7708円とする更正の請求をした。 (ウ)芦屋税務署長は,平成17年5月31日,上記(イ)の更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。 (エ)原告Bは,平成17年7月4日,芦屋税務署長に対して異議申立て,,,。 をしたが同署長は同年9月22日同原告の異議申立てを棄却した(オ)原告Bは,国税不服審判所長に対し,平成17年10月7日付けで審査請求をしたが,同審判所長は,平成18年5月16日,同原告の審査請求を棄却する裁決をし,同年6月2日,同裁決が同原告に送達された。 ウ原告C(別表1-3参照)(ア)原告Cは,平成17年3月14日,目黒税務署長に対し,分離長期譲渡所得の金額を0円,納付すべき税額を2601万3700円として確定申告をした。 (イ)原告Cは,平成17年3月29日,目黒税務署長に対し,分離長期譲渡所得の損失金額を1億0062万5922円,還付金の額に相当する税額を1624 を2601万3700円として確定申告をした。 (イ)原告Cは,平成17年3月29日,目黒税務署長に対し,分離長期譲渡所得の損失金額を1億0062万5922円,還付金の額に相当する税額を1624万9123円とする更正の請求をした。 (ウ)目黒税務署長は,平成17年5月31日,上記(イ)の更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。 (エ)原告Cは,平成17年7月4日,目黒税務署長に対して異議申立て- 6 -,,,。 をしたが同署長は同年9月21日同原告の異議申立てを棄却した(オ)原告Cは,国税不服審判所長に対し,平成17年10月6日付けで審査請求をしたが,同審判所長は,平成18年5月16日付けで同原告の審査請求を棄却する裁決をし,同年6月2日,同裁決が同原告に送達された。 エ原告D(別表1-4参照)(ア)原告Dは,平成17年3月15日,吹田税務署長に対し,分離長期譲渡所得の金額を0円,納付すべき税額を2601万7900円として確定申告をした。 (イ)原告Dは,平成17年3月29日,吹田税務署長に対し,分離長期譲渡所得の損失金額を1億0062万5922円,還付金の額に相当する税額を1624万4923円とする更正の請求をした。 (ウ)吹田税務署長は,平成17年5月31日,上記(イ)の更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。 (エ)原告Dは,平成17年7月4日,吹田税務署長に対して異議申立て,,,。 をしたが同署長は同年9月12日同原告の異議申立てを棄却した(オ)原告Cは,国税不服審判所長に対し,平成17年10月7日付けで審査請求をしたが,同審判所長は,平成18年5月16日付けで同原告の審査請求を棄却する裁決をし,同年6月2日,同裁決が同原告に送達された。 ( ,国税不服審判所長に対し,平成17年10月7日付けで審査請求をしたが,同審判所長は,平成18年5月16日付けで同原告の審査請求を棄却する裁決をし,同年6月2日,同裁決が同原告に送達された。 ( )本件訴え(顕著な事実) 原告らは,平成18年11月6日,東京地方裁判所に本件各通知処分の取消しを求めて本件訴えを提起した。 ( )改正措置法の立法に係る経緯(甲2から5まで,乙7から14まで,1 8)ア内閣は,平成16年2月3日,所得税法等の一部を改正する法律案(改- 7 -正措置法の原案を含む)を第159回国会に提出した。 。 イ上記アの法律案は,平成16年2月12日衆議院予算委員会において,,,同月17日衆議院本会議において同月24日衆議院予算委員会においてそれぞれ審議された。そして,同月26日及び27日衆議院財務金融委員会において,同年3月1日衆議院予算委員会第七分科会議において,それぞれ審議され,その後衆議院本会議で可決された。同法律案は,同月12日参議院本会議において,同月15日参議院予算委員会において,それぞれ審議され,その後参議院本会議において可決され,同月31日成立し,所得税法等の一部を改正する法律(平成16年法律第14号)として公布された。 ウ改正措置法31条を含む上記所得税法等の一部を改正する法律(平成16年法律第14号)は,平成16年4月1日施行された。 争点 本件の争点は,平成16年3月31日に公布され同年4月1日に施行された改正措置法31条1項後段の規定を同年1月1日以後同年3月31日までの間に行われた土地等又は建物等の譲渡について適用するものとする本件改正附則27条1項の規定が,憲法84条,30条から導かれる租税法律主義に違反するか否かであり,これに対する摘示すべき当事者の主張は,別紙「争 れた土地等又は建物等の譲渡について適用するものとする本件改正附則27条1項の規定が,憲法84条,30条から導かれる租税法律主義に違反するか否かであり,これに対する摘示すべき当事者の主張は,別紙「争点に対す」。 ,「」る当事者の主張記載のとおりであるなお上記の適用について遡及適用か否かを巡って用語上の問題がないではないが,以下においては,説明の便宜上,上記の適用のような場合を含め,施行日前の事象についても改正法令を適用する場合一般を「遡及適用」ということとする。 第3争点に対する判断 租税法規の遡及適用と租税法律主義,( )平成16年2月26日に本件各土地及び本件各建物の代金残額を受領し これをもって平成16年において本件譲渡によって収入すべき金額に当たる- 8 -ことについては,当事者間に争いがないところ,原告らは,当該譲渡に伴う譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を所得税法69条1項に従い他の各種所得の金額から控除することができる(損益通算をすることができる)と信じ,かかる信頼の下ですべての取引を完了していたのであって,それにもかかわらず,改正措置法31条1項後段の規定を本件譲渡について適用するとすれば,本件譲渡時における租税法規に従って課税が行われるものと信じた納税者の信頼を著しく裏切り,その経済生活における予測可能性や法的安定性を甚だしく損なうことから,本件改正附則27条1項は租税法律主義を定めた憲法84条,30条に違反すると主張する。 ( )確かに,行政法規をその公布の前に終結した過去の事実に適用すること は,一般国民の生活における予測を裏切り,法的安定性を害するものであることを否定することができず,これをむやみに行うことは許されないというべきである。このことは,国民の納税義務を定め,これに と は,一般国民の生活における予測を裏切り,法的安定性を害するものであることを否定することができず,これをむやみに行うことは許されないというべきである。このことは,国民の納税義務を定め,これにより国民の財産権への侵害を根拠付ける法規である租税法規の場合にはより一層妥当するものである。したがって,租税法規を遡及して適用することは,それが納税者に利益をもたらす場合は格別,過去の事実や取引を課税要件とする新たな租税を創設し,あるいは過去の事実や取引から生ずる納税義務の内容を納税者の不利益に変更するなど,それによって納税者が不利益を被る場合,現在の法規に従って課税が行われるとの一般国民の信頼を裏切り,その経済生活における予測可能性や法的安定性を損なうものとして,憲法84条,30条から導かれる租税法律主義に反し,違憲となることがあるものと解される。 しかし,遡及処罰を禁止している憲法39条とは異なり,同法84条,30条は,租税法規を遡及して適用することを明示的に禁止するものではないから,納税者に不利益な租税法規の遡及適用が一律に租税法律主義に反して違憲となるものと解することはできない「租税は,今日では,国家の財政。 需要を充足するという本来の機能に加え,所得の再分配,資源の適正配分,- 9 -景気の調整等の諸機能をも有しており,国民の課税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件等を定めるについて,極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである(最高裁昭和60年3月27日大法廷判決・民」集39巻2号247頁。したがって,課税要件等に限らず,租税法規を納)税者に不利益に遡及適用することについても,上記の諸般の事情の下,その合理的な必要性が認められるときは,租税法 法廷判決・民」集39巻2号247頁。したがって,課税要件等に限らず,租税法規を納)税者に不利益に遡及適用することについても,上記の諸般の事情の下,その合理的な必要性が認められるときは,租税法律主義に反しないものとして許容される余地があるものと解される。そして,この場合,納税者に不利益な遡及適用が租税法律主義に反しないものといえるかどうかは,その遡及適用によって不利益に変更される納税者の納税義務の性質,その内容を不利益に変更する程度,及びこれを変更することによって保護される公益の性質などを総合的に勘案し,その変更が合理的なものとして容認されるべきものであるかどうかによって判断すべきである(財産権の遡及的制約に関する最高裁昭和53年7月12日大法廷判決・民集32巻5号946頁参照。 )以下,この見地から検討する。 本件改正附則27条1項についての具体的検討( )まず,所得税納税義務の性質及び改正措置法31条1項後段の規定を遡 及適用することによって納税者が不利益を被る程度についてみる。 所得税はいわゆる期間税であり,これを納付する義務(納税義務)は,国税通則法15条2項1号の規定により暦年の終了の時に成立し,また,その年分の納付すべき税額は,原則として所得税法120条の規定により確定申告の手続によって確定するところ,譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を各種所得の金額から控除する(損益通算する)ことは,所得税の納税義務が成立した後の納付すべき税額を確定する段階で初めて行うものであり,個々の譲渡の段階で行うものではない。そして,所得税に関する法規が暦年の途中に改正され,これがその年分の所得税について適用される場合,暦年- 10 -の最初から当該改正法の施行までの間に行われた個々の取引についてみれば,当該改正法が遡及して適 税に関する法規が暦年の途中に改正され,これがその年分の所得税について適用される場合,暦年- 10 -の最初から当該改正法の施行までの間に行われた個々の取引についてみれば,当該改正法が遡及して適用されるとみることができるものの,所得税の納税義務が成立するのはその暦年の終了の時であって,その時点では当該改正法が既に施行されているのであるから,納税義務の成立及びその内容という観点からみれば,当該改正法が遡及して適用されその変更をもたらすものであるということはできない。 そうすると,暦年の最初から当該改正法の施行までの間に行われた個々の取引についてみれば,譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額の多寡に応じた不利益を被るということも想定できるが,本件改正附則27条1項により改正措置法31条1項後段の規定を平成16年1月1日から同年3月31日までに行われた譲渡について適用したとしても,納税者の平成16年分所得税納税義務の内容自体について着目するならば,さかのぼって不利益に変更されたということはできない。 ( )さらに,遡及適用によって保護される公益の性質につき,原告らは,納 税者の予測可能性や法的安定性を犠牲にしても,改正措置法31条1項後段の定める土地等又は建物等の譲渡損失の損益通算の禁止の措置をあえて平成16年1月1日に遡及して適用しなければならない合理的理由を認めることができず,本件改正附則27条1項は違憲,無効であると主張する。 確かに,平成16年1月1日から同年3月31日までの間に土地等又は建物等の譲渡をした者が,当該譲渡時に公布・施行されていなかった改正措置法31条1項後段の規定の適用を受けることとなれば,上記( )でも指摘し たとおり,当該譲渡時には存在した損益通算の制度を利用できなくなること。 ,による一定の不利益を受 れていなかった改正措置法31条1項後段の規定の適用を受けることとなれば,上記( )でも指摘し たとおり,当該譲渡時には存在した損益通算の制度を利用できなくなること。 ,による一定の不利益を受け得ることは否定することができないそうするとこのような不利益が上記( )で論じたように納税義務の内容自体の不利益変 更には該当しないとしても,改正措置法31条1項後段の規定の適用時期を平成16年1月1日以後としたことに何ら合理性がないものであれば,本件- 11 -改正附則27条1項が租税法律主義に違反し,違憲となる余地があるといわざるを得ない。 そこで,以下においては,本件改正附則27条1項の合理性の有無について検討することとする。 ア所得税は,納税者の各暦年に生じた所得を10種類の所得に区分して把握し,さらに,これを総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額に区分し,最終的にはこれを総合した上で課税負担させようとしている(所得税法21条1項。そうすると,ある所得に損失が生じた場合には,これを)他の所得から控除して課税対象となるべき所得の金額を確定させるのが,適正な課税負担の考え方に合致することになる。 しかしながら,所得の性質からみて,ある所得の損失を他の所得から控除するのが相当ではないとするものもあり,これらのものについては,損益通算の対象外とされている(措置法41条の4,37条の10第1項,41条の14第1項。 )譲渡所得については,種々の特別措置が設けられているところ,土地等又は建物等の譲渡所得については,土地政策等の観点から所得税法本則による課税方法によらず,租税特別措置として,他の所得と区分して本則の負担よりある部分は軽課し,ある部分は重課する仕組みをとることが相当とされることから,分離課税(総合所得税制度の下において,特 則による課税方法によらず,租税特別措置として,他の所得と区分して本則の負担よりある部分は軽課し,ある部分は重課する仕組みをとることが相当とされることから,分離課税(総合所得税制度の下において,特定の種類の所得を他の種類の所得と合算せず,分離して課税すること)とされている(措置法28条の4,31条,32条。また,平成16年度の税制改)正前における土地等又は建物等の長期譲渡所得に対する課税制度は,利益が生じた場合には,26パーセント(うち地方税6パーセント)の比例税率による分離課税を行い,他方,損失が生じた場合には,最高税率50パーセントで総合課税の対象となる他の所得の金額から控除が認められることとなるというものであり,これが不均衡であり,適正な租税負担の要請- 12 -を損なうおそれがあるとの指摘がされていた。 そうすると,土地等又は建物等の長期譲渡所得について損益通算制度を廃止することは,同所得に分離課税方式が採られていたこととの整合性を図り,かつ,損益通算がされることによる不均衡を解消して適正な租税負担の要請にこたえ得るものとして合理性があったということができる。 そして,平成16年度税制改正における譲渡所得についての損益通算の廃止は,長期譲渡所得の特別控除の廃止及び税率の引き下げ(改正措置法31条,32条)と相まって,使用収益に応じた適切な価格による土地取引を促進し,特に,収益性の高い土地の流動性を高め,土地市場を活性化させる目的を有しており,これにより土地価格の下落に歯止めがかかることを期待してされたものである(乙6,14。したがって,これらの措)置を全体として早急に実施する必要性があったことも肯定することができる。 他方,改正措置法31条1項後段の規定の適用を平成17年分所得税以降とするならば,その適用となる平成17 って,これらの措)置を全体として早急に実施する必要性があったことも肯定することができる。 他方,改正措置法31条1項後段の規定の適用を平成17年分所得税以降とするならば,その適用となる平成17年1月1日までの間に,節税目的で,すなわち損益通算を目的として,土地等又は建物等が大量に安価で売却され,土地価格の下落に歯止めを掛けようとした上記政策目的を阻害することが予想された(乙6,14。このことも,本件改正附則27条)1項により改正措置法31条1項後段の規定の適用時期を平成16年1月1日以後としたことの合理性を基礎付けるものといえる。 原告らは,上記のような節税目的での安売りといった事態が発生するおそれは抽象的なものにすぎず,具体的な経済分析が行われていないから,本件改正附則27条1項の立法事実としての具体性や客観性を欠いていると主張する。しかし,証拠(乙24の1~3,25,26)及び弁論の全趣旨によれば,平成15年12月に平成16年度税制改正の概要が公表された直後,同月中に土地等又は建物等を売却するよう強く勧める不動産会- 13 -社,税理士等が少なからず存在していたことが認められ,このことからす,,れば改正措置法31条1項後段の規定の適用時期が遅くなればなるほどそれまでの間に含み損を抱えた不動産の安値での売却が促進される具体的な危険があったと認めることができるから,その危険が抽象的で根拠がないとする上記原告らの主張には理由がない。 イまた,原告らは,仮に改正措置法31条1項後段の規定を早期に適用する必要性があったとしても,これが施行された平成16年4月1日以降の土地等又は建物等の譲渡について適用すれば足り,同年1月1日までさかのぼって適用することはやはり違憲であると主張する。 しかし,所得税のような期間税にあっては,期間 施行された平成16年4月1日以降の土地等又は建物等の譲渡について適用すれば足り,同年1月1日までさかのぼって適用することはやはり違憲であると主張する。 しかし,所得税のような期間税にあっては,期間計算を乱すことは納税申告事務及び徴収事務を混乱させるおそれがあり,また,同じ暦年において取扱いが異なることにより不平等が発生するという問題もあるので,暦年の途中から新たな措置を実施することが望ましいものとはいえない。したがって,そのような不利益を上回る必要性が認められない限り,暦年の途中から取扱いを変更する措置を採ることを回避することに合理性が認められるというべきである。そして,前記アにおいて検討したところによれば,改正措置法31条1項後段の規定を暦年の途中である平成16年4月1日から適用することについて,上記のような不利益を上回る必要性を見いだすことはできない。よって,原告らの上記主張も採用することはできない。 ( )最後に,平成16年1月1日以降の土地等又は建物等の譲渡につき損益 通算ができなくなることに関する納税者の予測可能性の点について検討する。 ア証拠(甲2ないし5,乙7ないし14,18)によれば,改正措置法が施行されるまでの経過は以下のとおりであったことが認められる。 (ア)政府税制調査会は,平成15年12月15日「平成16年度の税,- 14 -制改正に関する答申」を公表したが,そこには,土地等又は建物等の長期譲渡所得について損益通算を廃止することは盛り込まれていなかった。 (イ)与党である自由民主党は,同月17日,平成16年度税制改正大綱を決定し,その要旨は翌18日のG新聞に掲載されたところ,そこには土地等又は建物等の長期譲渡所得について損益通算を廃止することが記載されていた。 (ウ)同月19日に財務省が決定し 年度税制改正大綱を決定し,その要旨は翌18日のG新聞に掲載されたところ,そこには土地等又は建物等の長期譲渡所得について損益通算を廃止することが記載されていた。 (ウ)同月19日に財務省が決定した平成16年税制改正の大綱及び平成16年1月16日の閣議において決定された平成16年度の税制改正の要綱においても,土地等又は建物等の長期譲渡所得について損益通算を廃止することが盛り込まれ,その内容が所得税法等の一部を改正する法律案となり,前記前提事実( )のとおり国会での審議を経て,同年3月 31日,平成16年法律第14号として公布された。 イ上記ア(ア)ないし(ウ)の事実によれば,遅くとも,自由民主党の決定した平成16年度税制改正大綱がG新聞に掲載された平成15年12月18日には,その周知の程度は完全ではないにしても,平成16年分所得税から土地等又は建物等の長期譲渡所得について損益通算制度が適用されなくなることを納税者において予測することができる状態になったということができる。したがって,確かにかなり切迫した時点ではあったにせよ,平成16年1月1日以降の土地等又は建物等の譲渡について損益通算ができなくなることを納税者においてあらかじめ予測できる可能性がなかったとまではいえない。 ( )以上の検討によれば,本件改正附則27条1項により改正措置法31条 1項後段の規定を平成16年1月1日から同年3月31日までの間に行われた土地等又は建物等の譲渡について適用することは,その個々の譲渡についてみれば納税者が一定の不利益を受け得ることは否定できないものの,納税- 15 -者の平成16年分所得税の納税義務の内容自体を不利益に変更するものではなく,遡及適用をすることに合理的な必要性が認められ,かつ,納税者においても,既に平成15年12月の時点 のの,納税- 15 -者の平成16年分所得税の納税義務の内容自体を不利益に変更するものではなく,遡及適用をすることに合理的な必要性が認められ,かつ,納税者においても,既に平成15年12月の時点においてその適用を予測できる可能性がなかったとまではいえないのであるから,これらの事情を総合的に勘案すると,当該変更は合理的なものとして容認されるべきものである。したがっ,。 て本件改正附則27条1項が租税法律主義に反するということはできない まとめ以上のとおり,本件改正附則27条1項は憲法84条,30条から導かれる租税法律主義に反しないから,原告らの平成16年分の所得税を算定するに当たり,本件譲渡に伴う長期譲渡所得の計算上生じた損失額については,改正措置法31条1項後段の規定が適用され,これが発生しなかったものとみなされ,,るので上記規定が適用されないことを理由にした原告らの更正の請求につき更正をすべき理由がないとした本件各通知処分はいずれも適法である。 第4 結論 よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,訴訟費用について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部裁判長裁判官大門匡裁判官倉地康弘裁判官小島清二- 16 -(別紙)争点に対する当事者の主張(原告らの主張)改正措置法31条を平成16年1月1日にさかのぼって適用することは,租税法律主義に違反し,かつ,納税者の予測可能性を侵害する違憲なものであるので,同条の適用を前提とする本件各通知処分は違法である。 ( )憲法に不利益遡及立法を禁止する明文規定はないが,租税法律主義(憲 法84条,30条)は,納税者の信頼を裏切り,法的安定性を害するよう で,同条の適用を前提とする本件各通知処分は違法である。 ( )憲法に不利益遡及立法を禁止する明文規定はないが,租税法律主義(憲 法84条,30条)は,納税者の信頼を裏切り,法的安定性を害するような不利益遡及立法を禁止するものであることが明らかというべきである。 この点に関して,東京高等裁判所平成11年11月11日判決(税務訴訟資料245号261頁)は,不利益遡及立法の禁止が憲法上の要請であることを確認した上で,その例外を認めるためには納税者の予測可能性や法的安定性を犠牲にしてもやむを得ない合理性が不可欠であるとしている。福岡高(),等裁判所昭和48年10月31日判決訟務月報19巻13号220頁も不利益遡及立法が原則として許されないとした上で,例外的に納税者が十分,,予測できるような形で不利益遡及立法が予告され周知されている場合には納税者の信頼を害することもなく,納税者の予測可能性と法的安定性の面からも問題ないことから,このような場合に限って憲法違反にならないとしている。 ( )改正措置法は,平成16年3月26日に成立し,同月31日に公布され た。同法31条1項後段の規定は,本件改正附則27条1項により同年1月1日にさかのぼって適用される。そうすると,同日から同年3月31日までに行われた不動産の譲渡についても,その譲渡損失の損益通算が否定されることになるから,本件改正附則27条1項が不利益遡及立法に該当し,租税法律主義を定める憲法84条及び30条に違反し許容されないのが原則であ- 17 -る。また,本件においては,上記東京高裁判決及び福岡高裁判決が判示した例外として不利益遡及立法が許容される具体的事情を見いだすことはできない。 ,,本件の立法は所得税の課税年度開始前に一般的にしかも十分に周知され納税者が予測できたも 決及び福岡高裁判決が判示した例外として不利益遡及立法が許容される具体的事情を見いだすことはできない。 ,,本件の立法は所得税の課税年度開始前に一般的にしかも十分に周知され納税者が予測できたものとはいえない。特に本件で問題となっている不動産の譲渡は,個人が容易に行い得る取引の部類に属しないものであるから,租税法規に対する納税者の信頼は厚く保護される必要がある。このことは期間税である所得税においても変わらない。本件改正附則27条1項は,このような納税者の信頼を裏切り,予測可能性と法的安定性を著しく害するものにほかならず,違憲で無効であるというべきである。 ( )期間税は,所得税・法人税等のように年,月をもって定期に課される課 税であって,相続税,印紙税等のように随時に生ずる租税(随時税)と区分して分類されている。期間税は,一定の期間内に累積する課税物件を対象として課される租税についてその課税物件を当該期間の終了時に累積計算して納税義務を成立させるものであり,期間税においても課税物件の対象の存否(課税要件を構成する個々の課税物件についてその時点で施行されている法令に基づく所得計算の累計)が問題となるのであって,期間税であるから不利益遡及立法に当たらないとする被告の主張は当を得ていない。期間税について,年度の途中で納税者に不利益な改正がされ,年度の初めにさかのぼって適用することも,そのような改正が年度開始前に一般的にしかも十分に予測されているような特殊な事情があるものでない限り違憲である。改正措置法31条は課税期間開始前に一般的に,しかも十分に予測されたものとはいえず,所得税が期間税であることを理由として,本件改正附則27条1項を憲法上の要請である不利益不遡及の禁止の例外に当たるものとして正当化することは到底許されない。 ( ) 分に予測されたものとはいえず,所得税が期間税であることを理由として,本件改正附則27条1項を憲法上の要請である不利益不遡及の禁止の例外に当たるものとして正当化することは到底許されない。 ( )被告は,所得税法における過去の改正例を挙げるが,これらの規定はい - 18 -ずれも合憲性について司法判断がされたものではない。また,被告の挙げる改正例は,いずれも取引の予測可能性に無関係なものか,又は極めて影響の少ないものである。 さらに,過去の所得税法の改正の経緯をたどると,納税者に不利益な改正で,かつ,取引の予測可能性に深く関係し,納税者の経済生活に与える影響が大きいと考えられるものについては,その適用時期を当該年分の初日にさかのぼらせるのを避けるのがこれまでの立法の建前である。 (被告の主張)( )不利益不遡及の原則の意義 憲法30条,84条は,租税法律主義を採用している。租税法律主義は,不利益不遡及の趣旨を包含すると解されており,過去の事実や取引を課税要件とする新たな租税を創設し,あるいは過去の事実や取引から生ずる納税義務の内容を納税者の不利益に変更する遡及立法を許さないとする趣旨のものである。 新たに制定された法律は,その制定前の行為や事実については,さかのぼって適用されないのが原則であるが,場合によっては法令が過去の時点までさかのぼり,過去の事象に対して適用されることがあり,これを遡及適用という。このような遡及適用を認める立法を遡及立法という。 遡及立法は,すでに発生,成立している状態に対し,法令が後から規制を加え,その法律関係を変更するものであり,このことから,租税法における不利益不遡及の原則をとらえれば,既に成立した納税義務の内容を納税者に不利益に変更する遡及立法又は遡及適用を許さない原則をいうものと解される。 ( を変更するものであり,このことから,租税法における不利益不遡及の原則をとらえれば,既に成立した納税義務の内容を納税者に不利益に変更する遡及立法又は遡及適用を許さない原則をいうものと解される。 ( )改正措置法31条1項後段を本件譲渡に適用しても,既に成立した納税 義務の内容を変更するものではないことア所得税の納税義務は,暦年の終了の時に成立する(国税通則法15条1- 19 -項1号,2項。 )所得税には所得の計算期間についての定めはないが,所得税法23条ないし35条の規定からすると,所得税はその年中(1暦年中)の所得ごとに計算される。 イ国税通則法15条1項は,納税義務が成立する場合には,原則として,国税に関する法律の定める手続により,その国税についての納付すべき税額が確定される旨規定し,同法16条1項は,国税についての納付すべき税額を確定する手続について,申告納税方式又は賦課課税方式のいずれかの方式による旨規定しているところ,所得税法は,申告納税方式を採用している(所得税法120条。 )したがって,原則として,所得税の納税義務は,暦年の終了の時に成立し,その年分の納付すべき税額は,所得税法120条の規定による確定所得申告の手続により確定することとなる。 ウ所得税法は,所得を10種類に分類し各種所得ごとに所得の金額を計算して,これを合算して課税標準を求めることとし,各種所得の金額は1暦年を単位として,その期間ごとに計算,合算がされて課税標準となる総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額を計算する。そして,所得税法69条1項は,上記計算において,不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは,政令で定める順序によりこれを他の各種所得の金額から控除する旨規定してい ,上記計算において,不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは,政令で定める順序によりこれを他の各種所得の金額から控除する旨規定している。 譲渡所得の金額は,その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し,その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とされている。すなわち,譲渡所得の金額の計算は,1暦年を単位としてその期間ごとにされるものであって,個々の譲渡をした都度計算がされる- 20 -ものではない。 損益通算は,所得税の納税義務が成立し,納付すべき税額を確定する段階において,その年間における総所得金額等を計算する際に,譲渡所得等の金額の計算上損失が生じている場合には,その金額を他の各種所得の金額から控除するという制度であって,個々の譲渡等の段階において適用されるものではない。また,その対象となる譲渡所得の金額の計算も,個々の譲渡の都度されるものではなく,1暦年を単位とした期間で把握されるものである。 エそうすると,暦年の途中で損益通算に関する規定の改正が行われた場合には,年間の所得を単位として改正法を適用するのが適当であり,その適用を当該暦年の初日からとすることは当然のことといえる。したがって,平成16年4月1日から施行された改正措置法31条1項後段が,本件改正附則27条1項により同年1月1日以後に行う譲渡についてすると規定,。 していることは当然のことがらを注意的に定めたものと解すべきであるそして,平成16年分の所得税の納税義務は暦年の終了の時である平成16年12月31日に成立し,翌年の3月15日までに申告することにより納付すべき税額が確定するものであるが,損益通算は,個々 きであるそして,平成16年分の所得税の納税義務は暦年の終了の時である平成16年12月31日に成立し,翌年の3月15日までに申告することにより納付すべき税額が確定するものであるが,損益通算は,個々の譲渡が行われた時に適用されるものではなく,暦年の終了後,平成16年分の課税標準を計算する過程において適用するものである。したがって,平成16年4月1日に施行された本件改正附則27条1項に基づき,同年1月1日から同年3月31日までに行われた譲渡について改正措置法31条1項後段の規定を適用し,損益通算を認めなかったとしても,この時期は,いまだ平成16年分の所得税の納税義務は成立していないのであるから,所得税の納税義務の内容を変更するものではない。 オ本件改正附則27条2項及び3項は,施行日前に死亡した者,施行日前に平成16年分の所得税につき所得税法127条の規定による申告書を提- 21 -出した者及び同年分の所得税に係る措置法31条の規定を適用するに当たっては,土地建物等の譲渡による所得以外の他の所得との損益通算及び長期譲渡所得の100万円特別控除については従前通り適用する旨規定し,施行日前に既に所得税の納税義務が成立又は確定している場合には,成立した納税義務の内容を変更することとならないよう配慮しているものである。 また,過去の同種の改正,損益通算に関する規定については,改正過程において,暦年の途中に施行された場合でも,その適用がその暦年の初日(1月1日)からとされている。その例は次のとおりである。 (ア)昭和25年の税制改正により,所得の計算上一時所得以外の所得の損失について,他の所得と損益通算が認められることとなり,当該改正,(。 法が同年4月1日に施行されたが昭和25年分1月1日からの意味以下,同じ)以後の所得税について適用 上一時所得以外の所得の損失について,他の所得と損益通算が認められることとなり,当該改正,(。 法が同年4月1日に施行されたが昭和25年分1月1日からの意味以下,同じ)以後の所得税について適用されている。 。 (イ)昭和27年の税制改正において,退職所得が損益通算の対象外とされ,当該改正法が同年4月1日から施行されたが,昭和27年分以後の所得税について適用されている。 (ウ)昭和36年の税制改正において,趣味・娯楽の資産の譲渡による所得等の損失について損益通算が廃止されることとなり,当該改正法が同年4月1日から施行されたが,昭和36年分以後の所得税について適用されている。 (エ)昭和37年の税制改正により,生活に通常必要でない資産についての災害に係る雑損失と譲渡所得以外の所得との損益通算が廃止さることとなり,当該改正法が同年4月1日から施行されたが,昭和37年分以後の所得税について適用されている。 (オ)現行所得税法においても,昭和43年の税制改正において,雑所得の金額の計算上生じた損失と他の所得との損益通算が廃止されることと- 22 -なり,当該改正法が同年4月20日から施行されたが,昭和43年分の所得税について適用されている。 ( )暦年途中に施行された改正法をその暦年の初日にさかのぼって適用する ことは憲法に違反しないことア仮に,本件改正法27条1項により,平成16年の終了時において,同年1月1日から同年12月31日までの間の譲渡により生じた損失が,他の譲渡による損益と合算してもなお解消されなかった場合に,その損失を他の各種所得と損益通算することができなくなることをもって,納税者にとって不利益な立法がされたものと解する余地があるとしても,改正措置法31条1項後段を平成16年1月1日以後に行われる譲渡に適用する 他の各種所得と損益通算することができなくなることをもって,納税者にとって不利益な立法がされたものと解する余地があるとしても,改正措置法31条1項後段を平成16年1月1日以後に行われる譲渡に適用することが,憲法に反するものではない。 すなわち,憲法30条は,国民の納税義務を定め,同法84条は,租税法律主義を採用しているが,個々の具体的な租税法規の定立については,立法機関である国会にゆだねているこの点につき判例においても租。 ,,「税は,今日では,国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え,所得の再分配,資源の適正配分,景気の調整等の諸機能をも有しており,国民の課税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件等を定めるについて,極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。したがって,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断にゆだねるほかはな」いとされている(最高裁昭和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁。 )したがって,国会により,暦年の途中に改正された法を,その施行日以前である暦年の初日にさかのぼって適用する旨の立法がされたとしても,その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法の内容が上記目的との- 23 -関連で不合理であることが明らかでない限り,憲法に反することにはならないというべきである。 イ土地税制は,各般の総合的な土地政策の一環をなすものであるところ,土地税制の在り方を考えるに当たっては,土地基本法1条,2条,15条に規定された,理念が重要な指針となる。 土地建物等の譲渡損益は,取得時から相当期間の経過によって生じるため,その のであるところ,土地税制の在り方を考えるに当たっては,土地基本法1条,2条,15条に規定された,理念が重要な指針となる。 土地建物等の譲渡損益は,取得時から相当期間の経過によって生じるため,その譲渡の時期は納税者の任意の判断により決めることができ,それにより譲渡損益を一度に実現することができるのに対し,事業所得や給与所得などの経常所得は,毎年毎年の労働や勤労などの成果により生ずるものである。このように,土地建物等の譲渡損益と事業や給与などの経常所得とは,性格が異なることから,土地建物等の譲渡損益を,他の所得と通算することには問題がある。改正前措置法における土地建物等の長期譲渡所得に係る損益通算の制度は,分離課税の対象となる土地建物等の長期譲渡所得に対する課税については,利益が生じた場合には26パーセントの比例税率による分離課税とされていたが,損失が生じた場合には最高税率50パーセントで総合課税の対象となる他の所得の金額から控除することができることとなっており,このような制度は,主要諸外国の例のない不均衡なものであった。平成16年度税制改正は,土地は,土地基本法の定めのとおり,公共性のある資産であることを前提に,譲渡損益と経常所得との性格の違いを踏まえながら,利益と損失の課税の取扱いの均衡や土地市場の活性化といった観点から行われた。 居住者に対する所得税の課税は,すべての所得を合算した金額に対して行われるのが原則であるが,所得税法では,退職所得及び山林所得に対しては総合課税の例外としてそれぞれ分離課税とされ,措置法においては,総合課税に対する多くの例外が定められている(同法3条,3条の3,8条の2,8条の3,28条の4,31条及び32条。 )- 24 -また,平成16年度税制改正においては,資産性所得一体化の流れの中で,土地建物 る多くの例外が定められている(同法3条,3条の3,8条の2,8条の3,28条の4,31条及び32条。 )- 24 -また,平成16年度税制改正においては,資産性所得一体化の流れの中で,土地建物等の長期譲渡所得に対する税率及び損益通算等の取扱いを株式等に対する課税に合わせることにより,土地建物等の長期譲渡所得に対する課税を完全な分離課税の形にするため,土地譲渡益課税につき,長期譲渡所得の税率引下げ(26パーセントから20パーセントへ)と他の所得との損益通算及び100万円特別控除の廃止とが一つのパッケージとして措置されることとなった。 ウ損益通算の廃止は,税率の引き下げと一つのパッケージとしてともに一体で早急に実施することが,使用収益に応じた適切な価格形成を実現し,特に収益性の高い土地の流動性を高め,土地市場の活性化を早急に図るために適切かつ必要であることから実施されたものである。本件の損益通算の廃止は,土地本来の使用収益目的とは離れた損益操作や節税目的の土地の売却を防止しながら,使用収益に応じた適切な価格形成の実現を土地市場で図ることを意図して行われたものであり,損益通算を維持するためにパッケージ全体の適用を1年間遅らせることは適当ではなく,平成16年1月1日以後の土地建物等の譲渡について損益通算を認めないこととされたものである。これは,損益通算の廃止の適用時期を遅らせるとすれば,その間に節税のための損益通算を目的とした安売りによる土地の売却を招いて,土地市場に不測の影響を及ぼすことが予測されたことによる。 なお,念のため付言すると,平成16年度税制改正の内容は,平成15年12月17日に与党において「平成16年度税制改正大綱」が取りまとめられ,同月18日に大きく報道されていた。 また,平成16年度税制改正においては,土地等又は建物 16年度税制改正の内容は,平成15年12月17日に与党において「平成16年度税制改正大綱」が取りまとめられ,同月18日に大きく報道されていた。 また,平成16年度税制改正においては,土地等又は建物等の譲渡損失を他の所得と損益通算することは認められなくなったが,住宅価格が下落する中,ライフステージに応じた住み替え等をきめ細かく支援する観点から「特定の居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除」の特例,- 25 -制度を拡充し「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び,繰越控除」の特例制度に改組し,また,上記特例との選択により,新たに「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」の特例制度が創設され,居住用財産を譲渡した場合の譲渡損失の金額の一部について,一定の要件の下に他の所得との損益通算及び繰越控除を認め,あるいは,居住用財産を譲渡して買換えによって生じた純損失の金額の一部について他の所得との損益通算及び繰越控除を認め,居住用財産については,譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の拡充・創設などの配慮がされている。 エこのように,本件改正附則27条1項の規定の立法目的は正当であり,また,平成16年1月1日以後の譲渡について本件改正法を適用することは,上記立法目的との関連で不合理であることが明らかとは到底いえず,憲法に違反するものではない。

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