令和5(う)24 電子計算機使用詐欺被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年6月11日 広島高等裁判所 棄却 山口地方裁判所 令和4(わ)69
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判決文本文14,390 文字)

令和6年6月11日宣告広島高等裁判所令和5年第24号電子計算機使用詐欺被告事件原審山口地方裁判所令和4年(わ)第69号、第77号、第86号、第98号 主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は、弁護人山田大介(主任)、永井翔太郎、関口慶太及び齋藤理央共同作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書並びに令和5年12月31日付け、令和6年1月4日付け、同月8日付け及び同年3月4日付け各補充書面に記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官作成の答弁書、答弁補充書及び答弁補充書2に記載のとおりであるから、これらを引用する。 論旨は、要するに、⑴刑法246条の2の解釈の前提となる事実を誤認して同条の解釈適用を誤り、被告人に電子計算機使用詐欺罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認ないし法令適用の誤りがある、⑵原審には、審理を尽くさないまま不意打ち的な認定をするなど、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある、というものである。 そこで、記録を調査して検討する。なお、弁護人の主張内容に鑑み、以下、控訴理由の論理的順序にかかわらず、事実誤認ないし法令適用の誤りをいう論旨に対する判断を示した後に訴訟手続の法令違反をいう論旨に対する判断を示すこととする(なお、略称については、特に断らない限り原判決のそれと同様である。)。 第1 原判決の判断概要等 1 原判決が認定した犯罪事実の要旨は、A銀行B支店の被告人口座に、阿武町が住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金として4630 万円を誤って振込入金したことを知った被告人が、被告人口座に振り込まれた本件誤振込金が被告人に無関係なものであることを認識しているものの、その旨をA銀行に告知してい 金として4630 万円を誤って振込入金したことを知った被告人が、被告人口座に振り込まれた本件誤振込金が被告人に無関係なものであることを認識しているものの、その旨をA銀行に告知していないため、⑴本件誤振込金についてデビットカード情報を利用して決済代金の支払委託等をすることが許されないにもかかわらず、インターネットに接続した携帯電話機を操作して、被告人口座を決済口座とするデビットカード情報を利用して支払委託等の依頼をする旨の虚偽の情報(なお、「振込依頼等をする旨の虚偽の情報」との記載部分は、前提となる当該事実摘示からして、(決済代金の)「支払委託等をする旨の虚偽の情報」の明白な誤記と認める。)をA銀行の電子計算機に与えて同銀行のCデビット資金精算口口座の預金残高を合計330万0406円分増加させて財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作るなどし、合計アメリカ合衆国2万4000ドル余り相当のオンラインカジノサービスを利用し得る地位を得て、もって財産上不法の利益を得た(原判示第1の事実)、⑵本件誤振込金について振込依頼等をすることが許されないにもかかわらず、インターネットに接続した携帯電話機を操作して、A銀行の電子計算機に対し、被告人口座から複数の第三者名義の口座に振込を依頼する旨の虚偽の情報を与え、上記第三者らの預金残高を合計4292万4691円増加させて財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作るなどし、オンラインカジノサービスを同合計金額相当分利用し得る地位を得て、もって財産上不法の利益を得た(原判示第2の1ないし3の各事実)、というものである。 2 原判決は、阿武町職員が本件誤振込金を被告人口座に振り込んだ時点において、被告人とA銀行との間に本件誤振込金相当額の普通預金契約が成立し、被告人が同銀行に対し本 各事実)、というものである。 2 原判決は、阿武町職員が本件誤振込金を被告人口座に振り込んだ時点において、被告人とA銀行との間に本件誤振込金相当額の普通預金契約が成立し、被告人が同銀行に対し本件誤振込金相当額の預金債権を有するとした上で、被告人は本件送金行為等に及ぶまでの間に本件誤振込の 事実を知っていたのであるから、信義則上本件送金行為等の時点で同銀行に対する告知義務があり、受取人としては誤振込の事実を知った後直ちにこれを被仕向銀行に告知しなければならないと解すべきであると指摘し、被告人は告知義務に違反している状態で本件送金行為等を行ったのであり、被仕向銀行に調査等手続をする利益が認められ受取人に告知義務があるにもかかわらず、告知義務に違反して受取人が上記調査等手続の完了までの間に誤振込金相当分について権利行使することを許すのであれば、上記調査等手続を執る利益を侵害する行為を許すことになるから、告知義務に違反している受取人が誤振込金相当額の権利行使をすることは信義則に基づき許されず、本件送金行為等は正当な権利行使とはいえないとの判断を示し、さらに、原判決は、本件送金行為等の際、被告人によって入力された本件送金行為等に関する情報は、被告人が直接入力した情報等だけでなく、その前提として本件送金行為等が正当な権利行使であるという情報も含まれていると解されるから、本件送金行為等が正当な権利行使でないにもかかわらず、本件送金行為等が正当な権利行使であるという情報をA銀行の電子計算機に与えていると指摘し、本件各入力行為は電子計算機使用詐欺罪の「虚偽の情報を与えた」という要件に該当し、その結果オンラインカジノサービスを利用し得る地位を得ているのであるから、同罪の「財産上不法の利益を得た」と認められるなどと説示して、判示各事 使用詐欺罪の「虚偽の情報を与えた」という要件に該当し、その結果オンラインカジノサービスを利用し得る地位を得ているのであるから、同罪の「財産上不法の利益を得た」と認められるなどと説示して、判示各事実について電子計算機使用詐欺罪が成立するとの判断を示したものである。 第2 事実誤認ないし法令適用の誤りをいう論旨について 1 その論旨は、まず、被告人には本件誤振込の事実を本件被仕向銀行に告知する義務があるとした原判決には事実誤認ないし法令適用の誤りがある、というものである。 ⑴ 所論は、要旨、平成15年判例は被仕向銀行が実施する調査、照会 等の手続の利益を認めているが、誤振込に係る預金の払戻しであることを秘して行われた預金払戻請求による払戻しと、これを告知した上での払戻しとでは社会通念上別個の払戻しに当たり、誤振込を秘してされた預金の払戻請求は詐欺罪に該当するとされており、また、調査等に必要にして合理的な期間だけ支払を早めたという期間の差異だけに着目すれば社会通念上別個の払戻しとはいえないなどとも指摘し、信義則上の告知義務を前提に財産犯が成立するのは、被仕向銀行の調査等の結果として預金債権の成立が否定される可能性がある場合であるなどと主張した上、本件において、本件被仕向銀行は、被告人による告知を待たずに、振込依頼人である阿武町や本件仕向銀行から本件誤振込の事実を告げられ組戻し手続の要請を受けていたため、自行の入金手続に誤りがないかどうかを確認する一方、本件仕向銀行及び同銀行を通じて振込依頼人に対し、当該振込の有無に関する照会を行うなどの措置については既に終了しており、誤振込金相当額の債権が成立していることは明らかであって、本件被仕向銀行が成立の否定されるような預金債権をそれと知らずに払い戻すリスクはなくなっている を行うなどの措置については既に終了しており、誤振込金相当額の債権が成立していることは明らかであって、本件被仕向銀行が成立の否定されるような預金債権をそれと知らずに払い戻すリスクはなくなっているから、本件被仕向銀行はもはや被告人の請求に粛々と応じるしかないのであって、また、被告人が誤振込の事実を告知するか否かによって有意な支払時期の差異も生じないのであるから、本件被仕向銀行には、原判決がいうような「誤振込金についてどのように処理をするのが相当かを早急に検討する必要」や「その原因行為の有無について受取人がどのように認識しているかを知る必要」はないなどというのである。このような所論は、要するに、㋐「振込先の口座を誤って振込依頼をした振込依頼人からの申出があれば、受取人の預金口座への入金処理が完了している場合であっても受取人の承諾を得て振込依頼前の状態に戻す組戻しという手続が執られていること」、㋑「受 取人から誤った振込があった旨の指摘があった場合にも、自行の入金処理に誤りがなかったかどうかを確認する一方、振込依頼先の銀行及び同銀行を通じて振込依頼人に対し、当該振込みの過誤の有無に関する照会を行うなどの措置が講じられていること」といった平成15年判例が指摘する銀行実務のうちの上記㋑の点に着目し、上記調査、照会等の手続や原判決がいう調査等手続は、誤記帳や誤発信の有無を確認して債権の成否に関する調査をすることをいうと理解した上で、本件被仕向銀行は、被告人による告知がなくても、振込依頼人や本件仕向銀行の申告により債権の成否に関する調査を行い本件誤振込に係る債権が成立することを判断できている以上、原判決がいうところの調査等手続を執る利益は認められず、被告人には信義則上の告知義務は認められないなどというものと解される。 し を行い本件誤振込に係る債権が成立することを判断できている以上、原判決がいうところの調査等手続を執る利益は認められず、被告人には信義則上の告知義務は認められないなどというものと解される。 しかしながら、まずもって、そのような所論は、平成15年判例が指摘する銀行実務において、受取人が誤った振込があるとの認識を有していることを被仕向銀行に明らかにすることが前提とされており、受取人による告知は、受取人が誤振込であると認識していることを被仕向銀行が知ることに重要な意義があることを看過したものであり、平成15年判例や原判決を正解しないものといわざるを得ないのである。平成15年判例のいう上記銀行実務㋐は、振込依頼人から誤振込の申出がされたという事実関係から、仕向銀行の誤発信や被仕向銀行の誤記帳はいずれも否定されることを前提に、受取人が誤振込である旨の認識があることを被仕向銀行に明らかにした上、受取人の承諾により組戻し手続が執られるというものである。また、上記銀行実務㋑は、受取人が被仕向銀行に対し誤振込がある旨申し出ることにより被仕向銀行は受取人の認識を把握できるが、その申出が受取人からのものであり、なお誤発信や誤記帳の可能性も否定されないため、自行 の入金処理の誤りの有無の確認や、仕向銀行及び同銀行を通じて振込依頼人に対し、当該振込の過誤の有無に関する照会等を行うなどの手続が執られるというものであり、この場合、被仕向銀行が上記確認、照会等を行うに先立ち受取人が被仕向銀行に対し誤振込がある旨告知していることから、上記確認、照会等により誤記帳や誤発信は認められず預金債権が成立すると判断される場合にも、関係者の共通理解の下で、組戻し手続その他紛争を生じさせない円滑な処理が進められることとなるものである。 平成15年判例が指摘 り誤記帳や誤発信は認められず預金債権が成立すると判断される場合にも、関係者の共通理解の下で、組戻し手続その他紛争を生じさせない円滑な処理が進められることとなるものである。 平成15年判例が指摘するように、このような銀行実務は、普通預金規定、振込規定等の趣旨に沿った取扱いであり、安全な振込送金制度を維持するために有益なものである上、銀行が振込依頼人と受取人との紛争に巻き込まれないためにも必要なものということができ、また、振込依頼人や受取人等関係者間での無用な紛争の発生を防止するという観点から、社会的にも有意義なものであるというべきであり、それ故に、銀行にとって、払戻請求を受けた預金が誤った振込によるものか否かは、直ちにその支払に応ずるか否かを決する上で重要な事柄であり、受取人について、自己の口座に誤った振込があることを知った場合には、銀行に上記の措置を講じさせるため、誤った振込があった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があると解されるのであり、加えて、社会生活上の条理からしても、誤った振込については、受取人において、これを振込依頼人等に返還しなければならないのであって、誤った振込金額相当分を最終的に自己のものとすべき実質的な権利はないのであるから、そのような告知義務があることは条理上も当然のことというべきである。そうすると、本件において、振込依頼人である阿武町や本件仕向銀行から、本件被仕向銀行に対し本件振込が誤振込であるとの申出がなされていても、銀行実務に沿った事務処理 を円滑に遂行する必要からして、受取人たる被告人が当該振込について誤振込であると認識していることを、本件被仕向銀行に対し申し出ていない被告人に、信義則上、また社会生活上の条理からしても、告知義務がなお否定されないことは当然の帰結であると解されるので 振込について誤振込であると認識していることを、本件被仕向銀行に対し申し出ていない被告人に、信義則上、また社会生活上の条理からしても、告知義務がなお否定されないことは当然の帰結であると解されるのである。 原判決の説示には、振込依頼人から誤振込である旨の申出を受けたにすぎない本件被仕向銀行が本件振込を誤振込であると判断できたかのような言辞がみられ、また、本件被仕向銀行が知る必要のある事実が原因行為に関する事情であるかのようにとられかねない適切さを欠く説示部分もみられないではないものの、原判決は、平成15年判例が指摘する銀行実務の目的を踏まえ、その目的達成のために被仕向銀行に調査等手続を執る利益が認められ、その利益を実質的なものとするために被告人に信義則による告知義務が認められると説示し、本件においても、本件被仕向銀行が誤振込の事実を実際には知っているという事情があったとしても、上記銀行実務の目的達成のために、被告人が原因行為の有無等についてどのように認識しているかをなるべく早く知る必要があるから被告人に告知義務が認められるとの判断を示しているのであり、その判断の核心部分は前述したところの趣旨に沿った判断と解することができるのである。そのような原判決の判断に誤りがあるとはいえない。 ⑵ また、所論は、原判決が、本件被仕向銀行が調査等の手続を執る利益が具体的にどのようなものかを検討しておらず、また、誤振込があったことを告知して振込依頼をする場合と告知しない場合とでその後の手続がどのように異なるのか、社会通念上別個の払戻しに当たるといえるかどうかを具体的に検討していないなどと原判決を論難する。 しかしながら、所論は、いずれも、前述したとおり、受取人が誤振込である旨告知することによって初めて、被仕向銀行による確認、照 どうかを具体的に検討していないなどと原判決を論難する。 しかしながら、所論は、いずれも、前述したとおり、受取人が誤振込である旨告知することによって初めて、被仕向銀行による確認、照会等を通じて銀行実務の目的を達成できることを看過したものであって、平成15年判例や原判決を正解しないものといわざるを得ないのである。なお付言するに、誤振込があったことを受取人が告知すれば、被仕向銀行は、直ちに受取人に対し組戻し手続に応じるよう説得でき、受取人がこれに応じず払戻請求等をする場合も、受取人が誤振込である旨認めている事実を踏まえ、組戻し手続に応じさせるための説得に時間をかけて払戻し等に応じる時期を遅らせるとの判断をし、場合によっては受取人の権利行使を拒否するといった判断をすることも可能であるのに対し、振込依頼人から誤振込であるとの申出がされたにとどまり受取人から告知がされないまま払戻請求等を受けた場合、被仕向銀行は、受取人に対し直ちに組戻し手続に応じるよう説得することはできず、振込依頼人から誤振込の申出がされたということを告げた上で受取人の認識を確かめることができるにとどまると考えられるのである。このように、被告人が誤振込であると告知するか否かで、その後の被仕向銀行が執る手続が質的に異なってくることは明らかであり、原判決も、明示はしていないものの、このような判断を当然の前提としているものと解されるのである。 ⑶ また、所論は、銀行が振込依頼人と受取人の紛争に巻き込まれない利益があることを理由に、その原因行為の有無等につき受取人がどのように認識しているのかをなるべく早期に被仕向銀行が知る必要があるという原判決の説示について、預金債権はその原因行為の有無等にかかわらず、振込依頼人から受取人の預金口座に振込みがあった時に成立する ように認識しているのかをなるべく早期に被仕向銀行が知る必要があるという原判決の説示について、預金債権はその原因行為の有無等にかかわらず、振込依頼人から受取人の預金口座に振込みがあった時に成立すると解されるのに、被仕向銀行に誤振込の事実を知る必要があり、それが刑事罰によって保護されるべき程に強いものであれば、 被仕向銀行が調査をしなかったことが過失とされて振込依頼人から損害賠償を請求されることにもなりかねず、誤振込は本来は振込依頼人と受取人間の原因関係をめぐるトラブルなのに、銀行を紛争に巻き込むことにもなり、結局、被仕向銀行に原因関係の調査義務を認め、被仕向銀行に調査のためのコストを掛けることをも求めることになり、さらには、銀行利用者としても、銀行から、原因関係の調査を理由として取引に制約を受ける危険性が増大し、その結果銀行取引全体のコストが増大し、安価で多数の取引を可能とする社会の基本インフラともいうべき銀行の送金システム全体を不安定なものとし、国民全体の利益を阻害するおそれがあるなどと縷々原判決を論難する。 しかしながら、所論がいう「調査」の対象は、その主張内容からして振込依頼人と受取人との原因関係の有無そのものをいうものと解され、前述したとおり、原判決にはそのようにとられかねないような適切さを欠く説示部分があるものの、被告人に認められる告知義務の内容は本件振込が誤振込であることの認識であり、前述した銀行実務の在り方からすれば、上記告知義務によって本件被仕向銀行に対し原因関係の調査を求めることにはならないことは明らかというべきである。 被告人の告知義務を否定した場合、振込依頼人である阿武町からは、4630万円にも及ぶ本件振込が誤振込であり、しかもその原資が公金であると主張され、被告人からの払出請求に応じないよう求 うべきである。 被告人の告知義務を否定した場合、振込依頼人である阿武町からは、4630万円にも及ぶ本件振込が誤振込であり、しかもその原資が公金であると主張され、被告人からの払出請求に応じないよう求められ、他方において、被告人との間では誤振込相当額の預金債権が成立しているという状況にある本件被仕向銀行において、被告人が誤振込である旨の認識を有していることを知ることができないまま、被告人から債務不履行責任を追及されるリスクを負担して権利行使を拒否するか、振込依頼人から損害賠償請求を受けるリスクを負担して被告人の権利行使に応じるかの判断を迫られるのである。被告人の告知義務を否定 する所論は、むしろ、本件被仕向銀行を振込依頼人と受取人との原因関係をめぐる紛争に巻き込み、振込依頼人や受取人ほか関係者間の無用の紛争を招くものであり、ひいては安全な振込送金制度の円滑な運用を妨げるものであるといわざるを得ないのである。 ⑷ また、所論は、①原判決は「誤って受取人口座に金銭が振り込まれた事実を知った後、直ちにこれを被仕向銀行に告知しなければならない」とするが、そのような根拠は見出せない上、そのような積極的な告知義務を認めれば、誤振込が行われ受取人がそのことを知った後、被仕向銀行に連絡せず払戻等も行わずにただ放置した場合にも、銀行との関係で不法行為と認定されるおそれが生じ不当である、②原判決は、誤振込の際、受取人が被仕向銀行に連絡し、組戻し手続が行われるという解決方法を唯一の前提として論を進め、誤振込を知った受取人が銀行への告知義務を果たさなければ振込依頼をすることが許されないというもので、誤振込事案において組戻し手続を介さない解決方法を全て違法化して処罰可能とするものである、③原判決は、信義則上の告知義務について、受取人側からの なければ振込依頼をすることが許されないというもので、誤振込事案において組戻し手続を介さない解決方法を全て違法化して処罰可能とするものである、③原判決は、信義則上の告知義務について、受取人側からの即時積極的な義務と曲解し、何ら留保を付けることもなく、銀行が誤振込を知った場合で必要な調査を終了していたとしても、なお課される強い義務として拡張し処罰の輪郭をあやふやなものとするもので罪刑法定主義にも反するし、また、本件においては、平成15年判例の事案と比べても告知義務の根拠となる利益は著しく低く、何らかの信義則上の義務が観念されるとしても、そのような弱い信義則上の義務によっておよそ実現不可能な行為を行う義務を重い刑罰でもって科すことは正当化されないなどと縷々主張するのである。 しかしながら、上記所論①については、被告人が、振込依頼人から告げられて誤振込の事実を十分に承知していながら、その日のうちに 自己の用途に費消するため誤振込に係る債権を行使したという本件事実関係をみれば、前述したとおり、本件において、信義則上も条理上からしても、被告人が誤振込の事実を知った以上直ちに告知すべき義務があったという原判決の判断が不当で誤りがあるなどとはいえない。 放置した場合等仮定の事実関係を前提に原判決の判断を論難する所論は当を得た主張とはいえない。上記所論②についてみても、原判決は、本件においては関係者全員が組戻し手続によって解決することを前提に動いていたことを踏まえて説示しているにすぎず、それ以外の相当な解決方法を否定しているものではなく、その場合にまで告知義務に違反することに起因する犯罪が成立するとまでいうものではないから、所論は原判決を的確に論難するものとはいえない。上記所論③は、前述したとおり、平成15年判例で指摘されている その場合にまで告知義務に違反することに起因する犯罪が成立するとまでいうものではないから、所論は原判決を的確に論難するものとはいえない。上記所論③は、前述したとおり、平成15年判例で指摘されている銀行実務の実際を正解しないまま、同判例を踏まえた原判決の説示を論難しているものであって、およそ採用の限りではない。 ⑸ なお、所論は、被告人が本件各送金行為等をするに当たり誤振込の事実について入力を求められておらず、仮に自らその情報を入力しようとしても入力する場面がなかったなどという事実を前提として、システム上、振込等に係る債権が誤振込によって生じたものかについて関心は払われていないのであり、それにもかかわらず情報入力者が誤振込による旨の告知が必要であると判断することは困難であるなどと指摘し、このような点も被告人の告知義務を否定する根拠であるかのような主張をもするのである。 しかしながら、本件において、被告人に告知義務が認められる理由は前述したとおりであり、他方で、後述するとおり、所論が指摘する支払委託や振込依頼の各手続は、通常の利用者すなわち権利行使に当たり告知義務が必要であるなどといった何らかの制限を有していない 者であることが当然の前提として求められているのであって、当該手続内で告知を求められない、告知内容を入力する場面がないといった事情は、告知義務を課せられた者が果たすべき義務を否定する理由にはおよそならないのである。被告人は告知義務を果たすことが可能でありながら、自己の意思で上記のような支払委託や振込依頼の手続を執っているのであり、所論が指摘する事実は本件において告知義務を否定する理由にならないことは明らかというべきである。対面と非対面で告知義務の有無の判断は何ら異ならない旨を説示する原判決もそのような趣旨 ているのであり、所論が指摘する事実は本件において告知義務を否定する理由にならないことは明らかというべきである。対面と非対面で告知義務の有無の判断は何ら異ならない旨を説示する原判決もそのような趣旨をいうものと解され、その旨の原判決の判断に誤りはない。 2 論旨は、さらに、被告人が本件送金行為等をするに当たり虚偽の情報を入力したと判断した原判決には事実誤認ないし法令適用の誤りがあるというのであるが、その点に関する所論は、要旨、被告人と本件被仕向銀行との間に本件誤振込金相当額の普通預金債権が成立し、被告人が同銀行に本件誤振込金相当額の預金債権を有しており、誤送金によって成立した普通預金契約に基づく受取人から被仕向銀行に対する支払委託や振込依頼については、不当利得返還債務の履行手段を目的としたものに限定されることはなく民法上の権利行使として可能であり、また、権利者と情報入力者の人格の同一性を偽った場合にそれが虚偽の情報に当たるにしても、その射程はそれ以上には及ばないなどと指摘した上で、①被告人が入力した情報は、自己の預金口座について、自己のパスワードを使用して、有効に成立した預金残高の範囲で送金依頼等をしたものであり、虚偽の情報を入力していないにもかかわらず、原判決は、被告人が入力した情報に「正当な権利行使であるという情報」が含まれることについて、証拠によらずに認定し犯罪事実においても正当な権利行使であるという情報を与えたとは示していない、②刑法246条の2 にいう「情報」に、被害者とされたA銀行において利害関係を負わない「原因関係の有無」までは含まれないにもかかわらず、原判決は、預金契約の原因関係まで取り込んで刑法246条の2の「虚偽の情報」に当たるとの判断をしており、その法解釈ないし法適用は不意打ちでもあり罪刑法 因関係の有無」までは含まれないにもかかわらず、原判決は、預金契約の原因関係まで取り込んで刑法246条の2の「虚偽の情報」に当たるとの判断をしており、その法解釈ないし法適用は不意打ちでもあり罪刑法定主義にも違反する、③A銀行の普通預金規定等は、払戻請求者が「正当な権限」を有することを求めてはいるが、それは主体の同一性の問題であり、それ以上に預金成立時の原因行為の有無などを確認することを求めていないなどというのである。 しかしながら、まず、所論がその主張の前提とする判例についてみるに、平成8年判例は、誤振込によって成立した預金債権を第三者が差し押さえたのに対し振込依頼人が第三者異議の訴えを提起したものであり、受取人が成立した債権について権利行使した事案ではないし、また、平成20年判例は、受取人が被仕向銀行に対し払戻請求をしているものの、その請求は第三者によって払い出された自己の金銭の取戻しの側面を有していた事案である。そして、各判例共に、誤振込金一般について、受取人が民法上無制約に権利行使可能であるとは判示していないのであって、平成15年判例は、誤った振込については受取人においてこれを振込依頼人等に返還しなければならない関係にあり、誤った振込金額相当分を最終的に自己のものとすべき実質的な権利はないなどと指摘した上、受取人に告知義務を認めていることは、受取人が、誤振込に係る債権についておよそ制約なく権利行使できるものではないことを前提としているものと解されるのである。なお、平成18年判例の説示が人格の同一性を偽った場合に虚偽の情報を入力したことになると理解されるにしても、虚偽の情報がそれに限定されると説示しているとは解されないのであるから、所論はその主張の前提とする各判例を正解しないものといわざるを得ないのである。 とになると理解されるにしても、虚偽の情報がそれに限定されると説示しているとは解されないのであるから、所論はその主張の前提とする各判例を正解しないものといわざるを得ないのである。 そこで、上記所論①についてみるに、所論は、要するに、実際に入力した情報のみを取り上げて、本件送金行為等が正当な権利行使であるという情報も含んで入力した事実はなくそのような入力を求められてもいないなどというのであるが、本件において、被告人が情報を入力した電子計算機は、利用者が銀行職員等と対面することなく即時に支払委託や振込依頼を行う手続を支えるものであって、そのような手続を安全円滑に機能させるためには、その利用者は権利行使に当たり告知義務が必要であるなどといった何らかの制限を有していない者であることが当然の前提として求められていると解されるのである。したがって、被告人が上記電子計算機に振込依頼等をする情報を入力した以上は、権利行使に何ら制限のない権利者として権利を行使する旨の情報を入力したことになるとみるべきであり、原判決が、直接入力した情報等だけでなく、その前提として、本件送金行為等が正当な権利行使であるという情報も含まれていると解し、本件送金行為等が正当な権利行使ではないにもかかわらず本件各入力行為を正当な権利行使であるという情報を与える入力操作をしたと判断したことに誤りはない。その上で、原判決は、犯罪事実の項において、本件誤振込を認識している被告人が、その旨A銀行に告知していないため、支払委託や振込依頼等をすることが許されないのに、上記のような振込依頼等をすることによって虚偽の情報を与えたと的確に摘示しているのである。そのような原判決について、電子計算機使用詐欺罪の「情報」の解釈にも要件該当性の判断にも誤りを見出すことはできない ような振込依頼等をすることによって虚偽の情報を与えたと的確に摘示しているのである。そのような原判決について、電子計算機使用詐欺罪の「情報」の解釈にも要件該当性の判断にも誤りを見出すことはできないのである。上記所論②についてみても、前述したとおり、被害者であるA銀行において、受取人が誤振込であることないし原因関係がないことを認識していると知ることには重要な意義があるから、これについて同銀行が利害関係を負わないなどということはできないのであって、所論は平成15年判例の趣旨を正解しないものといわ ざるを得ない。また、原判決が預金契約の原因関係まで取り込んで刑法246条の2の「虚偽の情報」に当たるとの判断をしているものでないことは、その判断内容全体の趣旨から明らかであり、所論は原判決を正解しているとはいえない。さらに、所論は原判決が自己の見解と異なる法解釈等をしていると論難しているにすぎず、その法解釈ないし法適用は不意打ちであり罪刑法定主義にも違反するなどという所論も採用の限りではない。また、上記所論③についてみても、普通預金規定で求められている正当な権限を有するとは主体の同一性に限られるという所論の主張は、普通預金規定等の文言とも整合しない独自の解釈に基づくものといわざるを得ないのであって、およそ採用の限りではない。 3 なお、前述したとおり、原判示第1の「振込依頼等をする旨の虚偽の情報」との記載部分は、前提となる当該事実摘示からして、(決済代金の)「支払委託等をする旨の虚偽の情報」の明白な誤記と認められるところ、所論は、原判決は、デビットカード決済(原判示第1の事実)について特別な検討を加えずに、インターネットバンキング(原判示第2の各事実)と同様の処理とみているが、両者は直接情報入力をする相手方、入力された情報内 決は、デビットカード決済(原判示第1の事実)について特別な検討を加えずに、インターネットバンキング(原判示第2の各事実)と同様の処理とみているが、両者は直接情報入力をする相手方、入力された情報内容、入力時の情報、その後の処理等多くの点が全く異なっているのにそのような処理方法等を一切認定していないなどともいうのである。しかしながら、関係証拠によれば、犯罪事実の項の原判示第1に摘示するとおり、被告人が、デビットカードを決済手段として利用し、インターネット上に情報を入力することによって、最終的に被告人口座に係る銀行であるA銀行の電子計算機に対し具体的な決済金額の支払委託をする旨の虚偽の情報を与えたという事実は優に認定することができるのであって、この点に関する原判決の認定判断に誤りはなく、その事実摘示全体が不合理であるなどとはいえない。 4 以上のとおり、原判決を縷々論難する所論を検討してみても、受取人 が被仕向銀行に対し誤った振込があるとの認識を告知することは被仕向銀行にとって必要な情報であり、平成15年判例がいう確認、照会等の手続を含む銀行実務に照らし手続上の重要な要素というべきであって、そのような事柄を踏まえた上、被告人に告知義務を認め、本件送金行為等が正当な権利行使とはいえないとの判断を示し、被告人に電子計算機使用詐欺罪の成立を認めた原判決に事実の誤認あるいは法令適用の誤りがあるなどとは認められない。 事実誤認ないし法令適用の誤りをいう論旨は理由がない。 第3 訴訟手続の法令違反をいう論旨について所論は、その趣旨が必ずしも明らかではないが、原審の訴訟手続には、信義則上の告知義務の前提となる重要な事実について審理が尽くされておらず、「虚偽の情報」の解釈や要件該当性を検討する機会も与えられずに不意打ち の趣旨が必ずしも明らかではないが、原審の訴訟手続には、信義則上の告知義務の前提となる重要な事実について審理が尽くされておらず、「虚偽の情報」の解釈や要件該当性を検討する機会も与えられずに不意打ち的な認定をし、さらには、長期にわたって打合せ期日における非公開の手続により進行され、裁判の公開原則に違反するおそれもあるなどと縷々主張し、原審の訴訟手続の違法をいうものと解される。 しかしながら、原審記録によれば、所論が指摘する事実関係の認定及び証拠関係、さらには法令解釈の点においても、主張立証の機会が相応に与えられ十分に審理が尽くされていたものとみることができ、不意打ち的な認定判断などと論難されるような手続的な事情は何ら見受けられないのであり、また、打合せ期日を重ねて公判審理及び判決に至った訴訟経過にも特段の問題は見出せないのであり、その主張は単に原審の訴訟指揮に対する不満を述べているにすぎないといわざるを得ないのである。 訴訟手続の法令違反をいう論旨も理由がない。 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 令和6年6月11日広島高等裁判所第1部 裁判長裁判官森浩史 裁判官家入美香 裁判官富張真紀は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官森浩史

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