主文 被告人を罰金10万円に処する。 その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 被告人から金10万円を追徴する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和元年7月21日施行の第25回参議院議員通常選挙に際し、広島県選出議員選挙の選挙人であり、かつ、同選挙に立候補する決意を有していたAの選挙運動者であるが、同人に当選を得しめる目的をもって、同人への投票及び投票 取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、同年5月29日頃、広島市B区C丁目D番E号F株式会社駐車場に駐車中の自動車内において、同人の配偶者であるGから、現金10万円の供与を受けたものである。 (証拠の標目) 省略(争点に対する判断)第1 本件の争点本件の争点は、被告人が、令和元年5月29日頃(以下、平成31年・令和元年の記載は省略。)、判示場所で、当時衆議院議員であったGから現金10万円(以 下「本件10万円」という。)の交付を受けた受供与について、判示選挙(以下「本件選挙」という。)に際し、Gの妻Aに当選を得しめる目的をもって、同人への投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることに対する報酬の趣旨(以下「本件買収の趣旨」という。)が含まれていたか、また、被告人がそのことを認識していたか、である。 第2 前提となる事実(関係証拠により容易に認められる。) 1 本件選挙におけるAの状況について本件選挙に向け、定員2名の広島選挙区では、H党から現職のIが公認されて立候補を予定していたが、3月上旬頃、H党本部は、他の現職も立候補 る。) 1 本件選挙におけるAの状況について本件選挙に向け、定員2名の広島選挙区では、H党から現職のIが公認されて立候補を予定していたが、3月上旬頃、H党本部は、他の現職も立候補を表明している中、H党広島県支部連合会(以下「県連」という。)の反対を押し切る形で当時広島県議会議員であったAを本件選挙の二人目の候補者として公認し、3月 20日、Aは本件選挙に立候補することを表明した。しかし、県連が本件選挙においてIのみを支援する旨決定したことから、Aは、県連の支援を得ずに本件選挙での当選を目指すことになった。本件選挙は7月4日公示され、Iら現職2名やAを含む7名が立候補し、同月21日に投開票が行われた。 2 Gの本件選挙におけるAの当選に向けた活動状況等 G及びAは、4月上旬頃、広島市内に、Aの本件選挙対策事務所を設け、主にGがその公設秘書を含む事務所スタッフに指示をし、地元の挨拶回り、チラシやポスター、Aの後援会の入会申込書の配布等を行い、本件選挙でのAの当選に向けて活動を行っていた。 3 A及びGと被告人の関係性について 被告人は、Gの選出選挙区内にあるB区で平成25年に行われた広島県議会議員補欠選挙において、AとGの支援を得て立候補して初当選して以降、県議会ではAと同じ会派に所属して活動し、Gを含め互いの選挙でも種々支援し合うなど、協力関係にあった。被告人は、4月の地方選挙でもGらの支援を得て再選を果たした。被告人は、こうした関係から、5月当時、本件選挙においてAを支援する 考えであり、AもGもそのように認識していた(実際、既に、被告人は、Aの依頼でうぐいす嬢の手配の協力をしていた。)。 また、被告人は、平成28年頃以降、Gから毎年夏と冬に各10万円を氷代、餅代などとして受け取ってお もそのように認識していた(実際、既に、被告人は、Aの依頼でうぐいす嬢の手配の協力をしていた。)。 また、被告人は、平成28年頃以降、Gから毎年夏と冬に各10万円を氷代、餅代などとして受け取っており、平成29年以降は、事後的にGの秘書等と調整して何らかの方法で領収証を整え、被告人の後援会の収支報告書に、当時Gが支 部長を務めていたH党広島県第三選挙区支部(以下「第三支部」という。)からの 寄附金として計上していた。 4 本件10万円授受の経緯・状況について被告人は、5月14日、Gの秘書を通じ、Gから、被告人の支援者である判示記載の会社のJ代表取締役会長(以下「J」という。)との面会を取り付け、同行して欲しい旨依頼された。これを受け、被告人は、面会の約束を取り付け、同月 29日、同社に赴き、判示記載の自動車で来たGと合流し、GがJと面会する際に同席した。Gは、Jに対し、Aのポスターの掲示や同社社員によるAの後援会入会申込書への記入など、本件選挙におけるAの当選に向けた支援を依頼したところ、それまで一貫してIを支援していたJも被告人への配慮等から、できる限りのことはする旨応じた(なお、実際、同社本社の外壁にAのポスター1枚が貼 られ、記入済みの上記申込書数枚が返送された。)。面会後、Gは、被告人に上記自動車に乗るよう促し、運転手には降りるよう指示したことから、Gと被告人が同車両内で二人きりとなった。Gは、被告人に対し、被告人の地方選挙結果等について総括し、被告人の後援会長の話題に触れた後、本件10万円の入った封筒を差し出した。被告人は、一度は受け取りを断ったものの、Gからいつものだと いう趣旨のことを言われて同封筒を受け取った。 5 本件10万円の取扱いについて被告人は、同日中に同封筒を被 を差し出した。被告人は、一度は受け取りを断ったものの、Gからいつものだと いう趣旨のことを言われて同封筒を受け取った。 5 本件10万円の取扱いについて被告人は、同日中に同封筒を被告人の後援会の会計を管理する夫に手渡し、中に本件10万円が入っていることを同人とともに確認し、その後、本件10万円を費消した。また、令和2年5月11日、被告人の後援会の令和元年度収支報告 書に第三支部からの寄附金として本件10万円を計上した。 第3 争点に対する検討 1 当裁判所の判断上記前提事実及び関係証拠によれば、Gは被告人に対し、本件10万円を、個別具体的な対価性を明言することなく、被告人に利益を得させるものとして供与 している。そして、G及び被告人は、被告人が複数回当選を重ねた現職県議であ って選挙運動の経験・実績や立場を有するなどAが立候補を予定する本件選挙でも一定の選挙運動が可能な人物であること、上記選挙情勢やAを含めた互いの関係性から被告人が本件選挙においてAに当選を得させるため、投票とりまとめ等種々の支援をすることを現に期待し期待されていることを相互に認識していた。 さらに、Gは、本件選挙の公示日が約1か月後に迫った時期に、上記のとおり被 告人の仲立ちでAの当選に向け有利に影響し得るJとの面会が実現し、Aのポスター掲示等を依頼した直後に、二人きりの車中において、被告人に本件10万円を渡しており、その期待が強く顕在化している経緯、時期、場所での供与となっている。本件10万円がそうした期待と関りがないことを窺わせる事情は、上記交付の経緯の中でも見当たらないし、後記のとおり寄附金である旨の主張はこの 評価を妨げるものではない。例年の寄付金と同金額であることがこうした趣旨にとって過少ともいえな を窺わせる事情は、上記交付の経緯の中でも見当たらないし、後記のとおり寄附金である旨の主張はこの 評価を妨げるものではない。例年の寄付金と同金額であることがこうした趣旨にとって過少ともいえない。したがって、本件10万円の供与には、Gにとって、被告人がかかる期待に沿う行為をすることを促進する目的、すなわち本件買収の趣旨があったと推認できる。また、同様に、被告人自身も、Gが本件買収の趣旨を含む目的で本件10万円を供与したと認識していたと推認できる。 2 現金供与の趣旨(Gの認識)にかかる弁護人の主張について弁護人は、金額、時期及び他に氷代に相当する金銭供与がないこと等から本件10万円は例年と同趣旨の寄附金であり、Gの現金供与の趣旨について、①Aと被告人の関係性からして供与がなくても被告人が選挙を応援するのは当然であるからGに買収の動機・目的はない、②被告人が受け取った金額は、同時期にGか ら供与を受けた他の議員と比較して少なく、被告人の意思に影響する手段たりえず、本件買収の趣旨は含まれていない、③Jとの面会直後であることには特別な意味はないなどと主張する。 しかしながら、寄附金はその交付の経緯、状況、金額等により趣旨・目的が性質付けられるものであり、会計上、第三支部からの寄附金として処理される金銭 供与であっても、現実の供与者であるGの意思がこの性質に影響を与えることは 当然である。そして、①長期間にわたる政治的・人的関係により選挙において協力関係にある者に対して、選挙に臨むに当たり、関係性を維持・強化するためといった理由から寄附金等の名目で金銭を供与する動機は十分にあり得るし、その際、供与の経緯、時期、場所、態様等によっては、協力関係の維持等にとどまらず、当該選挙における選挙活動等を期待す 化するためといった理由から寄附金等の名目で金銭を供与する動機は十分にあり得るし、その際、供与の経緯、時期、場所、態様等によっては、協力関係の維持等にとどまらず、当該選挙における選挙活動等を期待する意味を伴うことは当然あり得ること である。また、②例年の寄附金として意味のある金額である以上、金額的には買収金としても意味があるというべきであるし、供与者と受供与者との関係、受供与者の立場、期待できる本件選挙での協力内容等は様々であり、金額について他の議員と単純に比較する意味はない。上記1のとおり、③本件選挙での支援といえる上記面会を実現させた直後に供与したことは、通常、本件選挙の選挙運動に おける被告人の支援への期待が顕在化した状況での供与として、その意味を左右することは明らかである。なお、Gは、被告人自身の地方選挙の結果に関し叱咤激励する狙いがあり、厳しいことを言うからには被告人のことを本当に期待し、応援している気持ちを表すものとして本件10万円を渡した、本件選挙におけるAへの応援や得票といったことすら考えていなかったと供述するが、直前の面会 内容を敢えて除外する極めて不自然なものであり、Aや被告人との関係からすれば、被告人らをかばうためのものと考えられ、Gの上記供述は文字どおりには信用できない。 以上によれば、弁護人の主張を検討しても、本件10万円の供与に本件買収の趣旨があったとの前記認定は何ら左右されない。 3 本件買収の趣旨の認識にかかる被告人供述及び弁護人の主張について被告人は本件10万円について、第三支部から被告人の後援会への寄附金であるとの認識しかなく、本件買収の趣旨の認識がなかった旨供述する。また、弁護人は、①被告人は、Aとの従前の関係性から、金銭供与などなくてもAの支援をするのは当然と考 部から被告人の後援会への寄附金であるとの認識しかなく、本件買収の趣旨の認識がなかった旨供述する。また、弁護人は、①被告人は、Aとの従前の関係性から、金銭供与などなくてもAの支援をするのは当然と考えており、本件買収の趣旨があるとは受け取りようがなく、② 本件10万円が例年の寄附金と金額や時期において異なる点がなく、Gから現金 を受け取る際、いつものである旨言われたことから、例年同様の寄附金と認識したのであって、かかる認識は例年の寄附金と同様に後援会の事務所経費として費消したことによっても裏付けられているなどと主張する。 被告人は、上記認識の理由として、Gが現金の入った封筒を差し出したが、何のお金か分からなかったため、受け取りを拒否すると、Gからいつものである旨 言われたので、例年の寄附金だと分かって受け取った旨述べる。しかし、何のお金か分からなかったならば断わるのではなく趣旨を尋ねるはずであるし、上記1で検討したとおり、Gが被告人に対し本件選挙での支援等の期待をしていることを被告人も認識していたことや例年と異なる供与の場所、経緯等からすれば、被告人が本件現金を受け取ることを一度は断った旨の供述は、被告人自身が本件1 0万円の供与に本件買収の趣旨が含まれている蓋然性を認識し、その受取りをちゅうちょしたことの現れといえる。また、同様に、Gがいつものである旨発言した点も、本件買収の趣旨が被告人に伝わったと認識し、ちゅうちょする被告人が受け取りやすくするための発言と考えられるし、被告人にもそれは容易に理解できたと推認できる。すなわち、寄附金としての形式があるとしても、その供与を、 Gが被告人に対して抱く上記のような期待に沿う行為を促す趣旨で行うことは何ら妨げられないことは明らかなことであるから、本件買収の趣旨 。すなわち、寄附金としての形式があるとしても、その供与を、 Gが被告人に対して抱く上記のような期待に沿う行為を促す趣旨で行うことは何ら妨げられないことは明らかなことであるから、本件買収の趣旨の認識を否定する被告人の供述は信用できない。本件10万円の使途は上記評価を何ら左右しない。 以上によれば、弁護人の主張を踏まえても、被告人に本件買収の趣旨の認識が あったとの前記認定は揺るがない。 (法令の適用) 1 罰条公職選挙法221条1項4号、1号 2 刑種の選択 罰金刑 3 労役場留置刑法18条(金5000円を1日に換算) 4 追徴公職選挙法224条後段(判示収受した10万円の現金は既に費消して没収することができない。) (量刑の理由)被告人は、国政選挙における買収金として現金10万円の供与を受けたもので、議会制民主政治の根幹をなす選挙において、その公正さを直接害する悪質な行為である。自身も選挙により選出された現職の県議会議員でありながら、安易に買収金を受容した意思決定は強い非難を免れない。また、経緯等のほか、前科がないこと 等の諸事情を考慮しても、公民権停止の期間を短縮すべき情状は窺われない。 (求刑罰金10万円、金10万円の追徴)令和5年7月19日広島地方裁判所刑事第1 部裁判長裁判官日野浩一郎 裁判官小川貴紀 裁判官辻󠄀 沙穂里 沙穂里
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