主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,金3343万1494円及びこれに対する平成12年10月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要等本件は,Aの相続人である原告が,D病院(以下「被告病院」という。)を開設・運営する被告に対し,Aが大腸癌を原発性癌とする転移性肝臓癌により死亡したのは,同病院勤務の医師がAの大腸癌を見落とした等の過失に起因するものであると主張して,診療契約の債務不履行に基づく損害賠償として3343万1494円の支払い及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成12年10月19日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。 1 前提となる事実(証拠により認定した事実は末尾に証拠を掲げた。)(1) 当事者Aは,明治43年1月2日生まれの女性である。 原告は,Aの長男である。 被告は,神戸市a区b町c丁目d番e号所在の被告病院を開設・運営している。 (2) 事実経過ア被告病院での診療経過Aは,平成2年12月10日,口渇,食欲減退,便秘がちを訴え,被告病院において,同病院勤務の内科医B医師の診察を受け,同月18日には,注腸レントゲン検査を受けた。同検査の結果,盲腸相当部に顆粒状変化が認められ,検査所見として「回盲部を中心にできれば大腸ファイバースコープ」との注記がなされた。しかし,B医師は,Aに対し,大腸内視鏡検査を実施しなかった。 その後,A 顆粒状変化が認められ,検査所見として「回盲部を中心にできれば大腸ファイバースコープ」との注記がなされた。しかし,B医師は,Aに対し,大腸内視鏡検査を実施しなかった。 その後,Aは,平成5年5月20日,被告病院を再度受診し,それからも継続的に被告病院に通院し,B医師の診察を受けたが,平成6年8月ころまでの間,同医師から大腸について,特に異常の指摘は受けなかった。 イ腫瘍発見の経緯B医師は,平成6年10月3日に実施した腹部エコー検査で,Aの肝左葉に腫瘤を発見したことから,同月8日に腹部CT検査を実施した。その結果,同腫瘤は肝細胞癌の疑われる病巣であることが判明した。 Aは,同年11月16日,被告病院に入院し,翌17日,腹部血管造影検査を受けた。その結果,Aは肝臓癌と診断された。 他方,同月16日に実施された血液検査では,大腸癌等の悪性腫瘍がある場合に高値を示す大腸腫瘍マーカーであるCEAの値が72.7ng/mlと極めて高い数値を示した。また,このころ,Aには,CEA値の異常に加え,食欲の減退,倦怠感の増強,貧血,体重の減少,顕微血尿等も認められた。 Aは,同月21日,いったん被告病院を退院した後,同年12月1日,被告病院において注腸レントゲン検査を受けた。同検査結果判明後,B医師は,Aに結腸下垂との診断をした。 ウ兵庫医科大学病院への転院その後,原告は,兵庫医科大学病院にて診察を受けたい旨をB医師に述べ,同医師に平成7年1月27日付けで同病院への診療情報提供書を作成してもらった。同医師は,同文書で「CEAの上昇を認め注腸しましたが著変ありませんでした。」と申し送った。 Aは,同年 医師に平成7年1月27日付けで同病院への診療情報提供書を作成してもらった。同医師は,同文書で「CEAの上昇を認め注腸しましたが著変ありませんでした。」と申し送った。 Aは,同年2月16日,同病院に入院し,検査の結果,肝臓は転移先であり,大腸に原発性癌が存在することが判明した。その大腸癌の部位は,平成2年12月18日に被告病院で実施された注腸レントゲン検査において,「回盲部を中心にできれば大腸ファイバースコープ」と記載のあった部位と同じ部位であった。 Aは,平成7年3月23日,兵庫医科大学病院において手術を受けた。 Aの病態は,多発性で肝臓転移を伴う上行結腸癌(組織学的には高分子腺癌)で,開腹手術によって右半結腸は切除されたが,侵襲と予後を考慮して肝腫瘤の切除は行われなかった。 エ Aの死亡Aは,同年5月9日,同病院を退院し,同年7月12日に社会保険神戸中央病院に転院したが,同年9月12日死亡した(死亡時年齢85歳)。Aの死因は,転移性肝臓癌であり,その原因は大腸癌にあった(甲1)。 (3) 原告の相続原告は,Aの死亡に基づく損害賠償請求権を全て相続した(甲2の1・2,甲3の1~4)。 2 争点(1) 診療契約締結の時期(原告の主張)被告病院は,遅くとも平成2年ころからAからの診療依頼を受けて診療契約を締結した。 (被告の主張)Aの初診は同年12月10日であり,同日,Aと被告病院との間に,同人の訴え(口渇,食欲減退,便秘がち)に対応する診療契約が成立し,同月20日まで同契約が継続したことは認める。 しかし,Aは,同日から約2年半後の平成5年5月20日まで被告病院を 同人の訴え(口渇,食欲減退,便秘がち)に対応する診療契約が成立し,同月20日まで同契約が継続したことは認める。 しかし,Aは,同日から約2年半後の平成5年5月20日まで被告病院を受診していないのであり,同日以降,新たな診療契約が締結されたとみるべきである。 (2) 被告の注意義務違反ア平成2年12月段階での注意義務違反(ア) 検査義務違反(原告の主張)a 平成2年12月18日に実施された注腸レントゲン検査像によれば,回盲部に結節集簇型の側方伸展型腫瘍の存在を認めることができる。これは,癌を十分疑うべき所見であり,細胞検査をすれば早期癌と診断された可能性が高い。ところが,B医師は,同検査における検査所見として「回盲部を中心にできれば大腸ファイバースコープ」との記載があり,内視鏡検査の必要性を指摘されていたにもかかわらず,同検査を行わずに漫然とこれを放置した。 b 仮にその段階での細胞検査で良性であったとしても,放置すれば癌化するおそれがあるから,これを切除すべきであった。 (被告の主張)a 上記事実のうち,注腸レントゲン検査の検査所見として,「回盲部を中心にできれば大腸ファイバースコープ」との記載があること及びB医師が内視鏡による検査を実施していないことは,それぞれ認め,その余は否認ないし争う。 b そもそも,Aは50歳代のとき,虫垂切除術を受けており,その際に回盲部は切除されて存在しない。原告の主張する「回盲部」とは,回腸(小腸)最終端と上行結腸(大腸)下端との吻合部(以下「本件吻合部」という。)に該当するところ,同吻合部の上行結腸は狭窄もなく伸展性も良好であり,腫瘍の存 在しない。原告の主張する「回盲部」とは,回腸(小腸)最終端と上行結腸(大腸)下端との吻合部(以下「本件吻合部」という。)に該当するところ,同吻合部の上行結腸は狭窄もなく伸展性も良好であり,腫瘍の存在は認められない。ただ,同吻合部結腸に顆粒状変化を認めたのみである。 かかる顆粒状変化は通常あまり認められるものではないが,Aの結腸粘膜に認められた顆粒状の所見は,以前の虫垂切除術による影響である可能性が高く,腫瘍と見るべきものではない。 c 上記検査所見については,本件吻合部の顆粒状変化が通常あまり認められない所見であるために注記されたものであって,これ自体当然のことであり,B医師もかかる注記を無視したわけではない。上記注腸検査の画像からすると,「便秘がち」につながる所見や癌を疑う所見は得られず,また,自覚所見,該当部の圧痛,腫瘤触知の有無などの診察所見,便潜血,血液検査などの検査結果から,悪性腫瘍が疑われなかったこと,本件吻合部は手術による癒着のため大腸内視鏡でも正確な診断をなし得る画像を得られない可能性が高く,他方において,当時,Aは80歳の高齢であり,大腸内視鏡検査は,当時かなりの苦痛を伴う検査であったことから,B医師は直ちに大腸内視鏡検査は勧めず,しばらく経過観察することとしたものである。したがって,同医師のかかる判断は適切であったといえる。 d また,平成3年5月23日に原告のみが来院し,B医師と面会した際,同医師はAに胃カメラ及び大腸内視鏡検査を受けさせるよう勧めたのに対し,Aの体調はよいとのことで,原告はAに同検査を受けさせなかった。平成4年6月25日に原告が来院した際にも,原告はAの体調は良好である旨報告しており,食欲や便通などの腹部症状に異常があるとの訴えは ,Aの体調はよいとのことで,原告はAに同検査を受けさせなかった。平成4年6月25日に原告が来院した際にも,原告はAの体調は良好である旨報告しており,食欲や便通などの腹部症状に異常があるとの訴えはなかった。さらに,Aは平成5年5月20日以降,継続的にB医師の診察を受けているが,風邪症状,骨粗鬆症の症状,高血圧,胃ポリープ等が認められたものの,診察時の問診に対しても,食欲・便通の異常を訴えることはなかった。触診でも腹部に異常は認められず,また,平成6年5月12日に検尿,検血,血液生化学検査,腫瘍マーカー検査(CEA,AFP,CA19-9),同月13日に便潜血検査をそれぞれ実施したが,検尿で潜血がプラスとなったのみで他に異常はなく,大腸癌に特に注意を向けなければならないデータは得られていない。 したがって,後方的に見ても,B医師が平成2年12月の時点において本件吻合部の顆粒状変化を癌と疑うべき腫瘍と診断せず,大腸内視鏡検査を勧めなかったことが医学的に不適切であったとはいえない。 (被告の主張に対する原告の反論)a 被告は,平成2年12月18日の注腸レントゲン検査像によれば,腫瘍の存在は認められず,本件吻合部結腸に顆粒状変化を認めたのみであったと主張する。 しかし,被告のいう顆粒状変化は,通常あまり認められるものではない。被告は,顆粒状の所見を回盲部切除術による影響である可能性が高いと判断したと主張するが,仮に,本件吻合部に顆粒状の変化が生ずることがあったとしても,その場合,顆粒状の変化は本件吻合部に沿って生ずるはずであり,本件のように広く周状に生ずることはない。よって,本件のような顆粒状の変化が認められる場合には,これを腫瘍性病変と判断してさらに精 ても,その場合,顆粒状の変化は本件吻合部に沿って生ずるはずであり,本件のように広く周状に生ずることはない。よって,本件のような顆粒状の変化が認められる場合には,これを腫瘍性病変と判断してさらに精査すべきである。 b 被告は,B医師が大腸内視鏡検査をしなかった理由として,手術による癒着のため同検査でも正確な診断をなし得る画像を得られない可能性が高いこと,同検査はかなりの苦痛を伴うことを主張するが,同検査に伴う苦痛云々は同検査を実施する医師の技術の問題であり,癒着云々の影響は結果の問題であって,いずれも同検査を実施しなかった理由にはなり得ない。周状に広がる顆粒状の病変を腫瘍と疑えば,同検査を実施することは不可欠であったのであり,B医師は,腫瘍との疑いを全く抱かなかったからこそ,同検査をしなかったのである。 (イ) 説明義務違反(原告の主張)B医師は,上記注腸レントゲン検査に関して,Aや同人に付き添ってきた原告に対して,大腸回盲部に腫瘍が認められること,これにより大腸内視鏡検査の必要があることを説明すべきであったにもかかわらず,これを怠った。 (被告の主張)否認ないし争う。 B医師は平成2年12月20日,A及び原告に対して,同月18日に実施された注腸レントゲン検査の結果を説明し,その際,本件吻合部の顆粒状変化を指摘して,経過を観察する旨説明している。また,平成3年5月23日に原告のみが来院した際にも,大腸につき便秘等の症状があれば大腸内視鏡検査をするよう勧めている。 よって,B医師に説明義務違反はない。 イ平成6年8月までの経過観察義務違反(原告の主張) 秘等の症状があれば大腸内視鏡検査をするよう勧めている。 よって,B医師に説明義務違反はない。 イ平成6年8月までの経過観察義務違反(原告の主張)(ア) 本件では,Aによる便秘がちという愁訴を受けて平成2年12月18日に注腸レントゲン検査が実施され,その結果,顆粒状変化が認められているところ,これは腫瘍性病変が疑われる所見であったのであるから,具体的な愁訴がなくても,少なくとも1年に一度程度注腸レントゲン検査を実施し,あるいは便潜血検査(3回連続法)を少なくとも6か月に1回行うなどの経過観察を行うべきであった。 (イ) とりわけ,Aは平成5年5月20日以降,平成6年8月までの間,体調不良を訴え続けて,被告病院を受診し,通院治療を続けていたのであり,その際,Aには,体重の減少,食事量の減少,貧血傾向(血中ヘモグロビン値が平成5年8月には12.7g/dl,平成6年5月には11.0g/dl,同年8月には9.4g/dlと低下している。),便潜血等の症状が認められたのであるから,これらの症状と,平成2年12月18日実施の注腸レントゲン検査所見と照らし合わせれば,B医師において,貧血や便潜血等の症状が大腸腫瘍部位からの出血に伴う症状であることを疑うことは容易であって,同医師は大腸内視鏡検査等を実施すべきであった。 (ウ) にもかかわらず,同医師は,大腸については何ら検査を実施せず,漫然これを放置した。 (被告の主張)(ア) 平成5年5月20日時点において,原告に体重減少が認められたこと及び平成6年5月以降,Aが貧血傾向にあったことはそれぞれ認め,その余は否認ないし争う。 (イ) そもそも,平成2年12月20日 5月20日時点において,原告に体重減少が認められたこと及び平成6年5月以降,Aが貧血傾向にあったことはそれぞれ認め,その余は否認ないし争う。 (イ) そもそも,平成2年12月20日以降平成5年5月19日までの間,Aは一度もB医師の診察を受けず,その間4回来院した原告は,Aの体調は良好である旨B医師に報告しており,食欲・便通の異常の訴えは一切なかった。また,B医師は原告に対して,3回(平成3年5月23日,平成4年6月25日,平成5年1月18日)にわたって,Aに大腸内視鏡検査を受けさせるよう勧めたが,原告は,Aの体調は良好であるとして,それらの検査を受けさせなかった。 このように,B医師の経過観察は不可能であったのであるから,同医師に経過観察を怠った事実がないことは明らかである。 (ウ) また,平成5年5月20日以降平成6年9月5日までの間,Aは継続的にB医師の診察を受けており,風邪症状,骨粗鬆症の症状,高血圧,胃ポリープ等が認められたが,B医師の問診に対し,食欲・便通の異常の訴えはなく,むしろ,体調良好,食欲良好,便通正常との説明がほとんどであった。触診でも腹部に異常は認められていない。体重減少の説明は,平成5年5月20日になされているが,その後,体重が継続して減少している事実は認められなかった。 貧血傾向は,平成6年5月以降に認められたが,同月12日に実施した3種の腫瘍マーカーの検査の結果,CEA(大腸)2.3ng/ml,AFP(肝臓)2.0ng/ml以下,CA19-9(膵臓)0.1U/mlであり,いずれも正常で,同月13日の便潜血検査の結果も陰性,同年7月18日の外来時にも,Aは問診において黒色便はない旨答えている。 以上のように,平成 (膵臓)0.1U/mlであり,いずれも正常で,同月13日の便潜血検査の結果も陰性,同年7月18日の外来時にも,Aは問診において黒色便はない旨答えている。 以上のように,平成6年8月までの間に,大腸癌に特に注意を向けなければならないデータは全くといってよいほど得られていなかったのであるから,その間にB医師において大腸内視鏡検査を実施しなかったことが義務違反に該当することはない。 ウ平成6年9月以降の注意義務違反(原告の主張)(ア) 平成6年9月から11月にかけての,腹部エコー検査(同年10月3日),腹部CT検査(同月8日),MRI検査(同月18日),腹部血管造影検査(同年11月17日)等の各検査により,Aには肝臓癌が発見された。しかし,この肝臓癌について,原発性肝臓癌では通常悪化する肝機能が正常であり,肝硬変,慢性肝炎,C型肝炎等が見られないこと,肝臓癌が多発していること,肝臓癌特有の腫瘍マーカーであるAFP値が2.0ng/ml以下と正常値を示していることからして,B医師は転移性を疑うべきであった。 そして,Aには貧血傾向が認められたこと,大腸癌の腫瘍マーカーであるCEAの値が同年11月16日時点で72.2ng/mlと高値であること等からすると,原発巣として大腸癌の存在を疑い,大腸を精査・検査すべきであった。 また,同年12月1日に実施された注腸レントゲンの画像からも大腸癌を読みとることは十分可能であった。 (イ) ところが,同レントゲンの透視所見には「結腸下垂」との記載しかないのであり,B医師は,この段階でも大腸癌の存在を看過した。 (被告の主張)原告の上記(ア)について, ころが,同レントゲンの透視所見には「結腸下垂」との記載しかないのであり,B医師は,この段階でも大腸癌の存在を看過した。 (被告の主張)原告の上記(ア)について,平成6年10月以降の腹部エコー検査等の各種検査(ただし,同年10月18日のMRI検査は否認する。)により,Aに肝臓癌が発見されたこと,Aに貧血傾向が見られ,同年11月16日時点でCEAの値が72.2ng/mlであること,上記(イ)につき,レントゲンの透視所見に「結腸下垂」の記載しかないことについては,いずれも認める。 しかし,以下のとおり,同年12月1日の注腸レントゲン画像から大腸癌を読みとることができたこと及びB医師が大腸癌の存在を看過したことについては争う。 肝臓癌との関係について,同年10月3日の腹部超音波検査では血管腫が最も考えられ,同年10月8日の腹部CT検査では肝細胞癌が疑われ,同年11月17日の腹部血管造影検査では,肝左葉内側域に血管に富んだ腫瘍が疑われるというように,直ちに転移性肝腫瘍とは考えにくい検査結果であった。 また,同年12月1日に注腸レントゲン検査を実施したが,その時点では既にCEAが高値を示していたことから,B医師は大腸癌の存在を十分に疑ってレントゲン画像を読影した。しかし,大腸(特に本件吻合部付近)に狭窄もなく,便潜血は陰性であり,回盲部の自他覚所見からしても,進行癌に相当する所見はどこにも認めることはできなかった。 兵庫医科大学病院における開腹手術の結果,上行結腸癌の肝転移が判明したが,前述したAの受診状況,Aの訴えや説明,既往歴,腹部症状,各種検査結果から考えると,平成6年12月1日の時点までの間に大腸内視鏡検査をしなか 院における開腹手術の結果,上行結腸癌の肝転移が判明したが,前述したAの受診状況,Aの訴えや説明,既往歴,腹部症状,各種検査結果から考えると,平成6年12月1日の時点までの間に大腸内視鏡検査をしなかったことが直ちに注意義務違反であると決めつけることはできず,この点でもB医師に過失はない。 (3) 因果関係ア死亡との因果関係(原告の主張)Aの直接の死因である肝臓癌は,大腸癌が転移したものであるところ,その大腸癌は被告の前記各注意義務違反により末期に至るまで発見されなかった。 その結果,早期治療を行うことができなかったため,大腸癌を根治し,あるいは肝臓への転移を防止する機会を逸して,Aを転移性肝臓癌で死亡させるに至ったのであるから,Aの死亡と被告の前記各注意義務違反との間には因果関係がある。 (被告の主張)上記事実のうち,「Aの直接の死因である肝臓癌は,大腸癌が転移したものである」ことは認め,その余は否認ないし争う。 イ適切な治療を受ける機会の喪失(原告の主張)肝臓癌への転移以降で大腸癌を発見しても死亡が防げなかった段階であっても,Aには適切な治療を受ける利益があり,被告の前記(2)ウ(平成6年9月以降)の注意義務違反によって,その機会さえ失ったのであるから,被告の同注意義務違反と治療機会喪失との間にも因果関係がある。 (被告の主張)否認ないし争う。 (4) Aの損害(原告の主張)ア入院雑費金22万8000円Aが大腸癌または肝臓癌のために入院加療を受けた期間は,被告病院において平成6年11月16 原告の主張)ア入院雑費金22万8000円Aが大腸癌または肝臓癌のために入院加療を受けた期間は,被告病院において平成6年11月16日から同月21日まで6日間,兵庫医科大学病院において平成7年2月16日から同年5月9日まで83日間,社会保険神戸中央病院において平成7年7月12日から同年9月12まで63日間であり,その合計日数は152日間である。 入院雑費は一日あたり1500円が相当であるから,この金額に上記期間を乗じた合計額である金22万8000円が入院雑費である。 イ入通院慰謝料金275万円Aの入院期間は上記のとおり152日間,すなわち約5か月間である。 Aが肝臓癌であることが判明した以降の在宅を含む療養期間は,平成6年11月17日から平成7年9月12日までの約10か月のうち,上記入院期間である5か月を除いた約5か月間である。 以上のように,入院期間5か月及び療養期間5か月を余儀なくされたことによってAが被った精神的苦痛は,金275万円を下ることはない。 ウ逸失利益金625万3494円Aは死亡時85歳で,一人暮らしであり,兵庫県市町村職員共済組合から公務外遺族共済年金として年額135万6800円(平成7年4月改訂分)及び国民年金から年額金40万3300円の老齢年金(平成6年10月改訂分)をそれぞれ受給していた。Aの平成7年当時の簡易生命表による平均余命は6年間であり,Aは同期間,上記各金額を下らない年収を得られたはずである。 よって,上記合計額176万0100円に,平均余命までの6年間のラ 成7年当時の簡易生命表による平均余命は6年間であり,Aは同期間,上記各金額を下らない年収を得られたはずである。 よって,上記合計額176万0100円に,平均余命までの6年間のライプニッツ係数5.0756を乗じ,生活費として3割を控除した金額625万3494円がA死亡による逸失利益である。 エ死亡慰謝料金2000万円早期癌を発見する機会を逃し,本来ならば救命できるはずであったAが死亡したことによる精神的苦痛は金2000万円を下らない。 オ葬儀費用金120万円葬儀費用としては金120万円を下らない。 カ弁護士費用金300万円原告は,被告に対する損害賠償請求を弁護士に依頼しなければならなかったので,弁護士費用として,少なくとも300万円が相当因果関係のある損害として認められるべきである。 キまとめ以上のアないしカの合計額3343万1494円が,A死亡による損害である。 (被告の主張)不知ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 事実認定前記前提となる事実に加え,証拠(甲1,2の1・2,甲3の1~4,19~24,28,32,乙1,2,29,30,33,34)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 被告病院での診療経過及び腫瘍発見の経緯別紙A診療経過一覧表記載のとおりと認められ,その概要は,以下のとおりである。 ア被告病院での診療経過Aは,平成2年 での診療経過及び腫瘍発見の経緯別紙A診療経過一覧表記載のとおりと認められ,その概要は,以下のとおりである。 ア被告病院での診療経過Aは,平成2年12月10日,口渇,食欲減退,便秘がちを訴え,被告病院において,同病院勤務のB医師の診察を受けた。同日の検査において,便潜血は認められず(乙1の46頁),同月13日の問診でも,「便秘がちで少量の普通便,血液付着はなく,腹満感もない。」とのことであった(同20頁)。 同月18日には,注腸レントゲン検査が実施され,その結果,盲腸相当部(本件吻合部)に顆粒状変化が認められた。そのため,検査所見として「回盲部を中心にできれば大腸ファイバースコープ」との注記がなされ,B医師は ,同月20日,これについてA及び原告に説明して,経過観察をする旨を伝えた(同20頁,乙29,30)。 その後,平成3年5月23日に原告のみが来院し,Aの体調はよいと述べたので,B医師は,大腸について症状があれば内視鏡検査を受けさせるよう勧めた(乙1の21頁)。また,平成4年6月25日にも原告が来院し,Aの体調は良好と述べた(同21頁)。平成5年1月18日及び同年5月13日にも原告が来院し,5月13日の来院の際には,同月20日の胃内視鏡検査の予約をした(同21頁)。 Aは,同月20日,約2年半ぶりにB医師の診察を受けたところ,体重減少が認められたものの,自覚症状はないとのことであった。その後,Aは,平成6年8月まで,継続的にB医師の診察を受けたが,体重減少は認められず,概ね食欲良好,便通正常とのことであった。また,その間の各種検査結果でも,平成6年5月12日のCEA値は正常値である2.3ng/mlであり,同月13日の B医師の診察を受けたが,体重減少は認められず,概ね食欲良好,便通正常とのことであった。また,その間の各種検査結果でも,平成6年5月12日のCEA値は正常値である2.3ng/mlであり,同月13日の便潜血検査も陰性であった。ヘモグロビン値も同年8月24日に貧血傾向(ヘモグロビン値9.4g/dl)が認められるまで,平成2年12月10日では12.9g/dl,平成5年8月5日では12.7g/dl,平成6年5月12日では11.0g/dlであった(同48頁)。 イ腫瘍発見の経緯B医師は,平成6年8月24日,Aに上記貧血傾向を認めたので,腹部エコー検査を予約し,同年10月3日,腹部エコー検査により,Aの肝左葉に腫瘤を発見した。そして,同月8日の腹部CT検査によって,同腫瘤が肝細胞癌が疑われる病巣であることが判明した。 Aは,同年11月16日に腹部血管造影検査を受けるため,被告病院に入院し,翌17日,同検査を受けた。その結果,Aは肝臓癌と診断された。 他方,同月16日に実施された血液検査の結果,CEAの値は72.7ng/mlと極めて高い数値を示した。また,このころ,Aには,CEA値の異常に加え,食欲の減退,倦怠感の増強,貧血,体重の減少,顕微血尿等も認められた。 Aは,同月21日,被告病院を退院したが,同年12月1日,被告病院で注腸レントゲン検査を受けた。そして,B医師は,同検査結果判明後,Aに結腸下垂の診断をした。 (2) 兵庫医科大学病院への転院その後,原告は,兵庫医科大学病院にて診察を受けたい旨B医師に述べ,同医師に平成7年1月27日付けで同病院への診療情報提供書を作成してもらった。同医師は,同文書で「CEAの上昇を認め注腸しました その後,原告は,兵庫医科大学病院にて診察を受けたい旨B医師に述べ,同医師に平成7年1月27日付けで同病院への診療情報提供書を作成してもらった。同医師は,同文書で「CEAの上昇を認め注腸しましたが著変ありませんでした。」と申し送った。 同年2月16日,Aは,同病院に入院し,検査の結果,肝臓は転移先であり,大腸に原発性癌が存在することが判明した。そして,大腸癌の部位は,平成2年12月18日に実施された注腸レントゲン検査において,「回盲部を中心にできれば大腸ファイバースコープ」と記載のあった部位と同じ部位であった。 同年3月23日,Aは同病院において手術を受け,これにより,大腸癌は摘出されたものの,肝臓癌は摘出できなかった。Aの病態は,多発性で肝臓転移を伴う上行結腸癌(組織学的には高分子腺癌)で,開腹手術によって右半結腸を切除した。ただ,侵襲と予後を考慮して肝臓癌の切除は行われなかった。 (3) Aの死亡Aは,同年5月9日,同病院を退院し,同年7月12日に社会保険神戸中央病院に転院したが,同年9月12日死亡した。Aの死因は,転移性肝臓癌であり,その原因は大腸癌にあった。 2 事実認定の補足説明(1) 原告は,A及び原告は平成3年から体調不良を訴えて被告病院を受診したのに「体調良好」と記載されたカルテ(乙1)は後に改ざんされたものであると主張し,また,平成2年12月18日に撮影されたとして提出されているレントゲン写真(甲9,乙4~7)はCのものであり,Aのものではないと主張するので以下補足して説明する。 (2) カルテの改ざんについてまず,カルテ(乙1)の記載について検討するに,同カルテの形状につき,検証の結果(起訴前の証拠保全)と比較しても,同 で以下補足して説明する。 (2) カルテの改ざんについてまず,カルテ(乙1)の記載について検討するに,同カルテの形状につき,検証の結果(起訴前の証拠保全)と比較しても,同検証後に改ざんされた形跡は何ら窺われない。 次に,同カルテの内容についても,原告はAの体調が良好であれば,原告本人が被告病院に来院することはないはずであると主張するが,平成2年12月20日以降平成5年5月20日までの約2年半もの間,Aは被告病院の眼科を複数回にわたって受診している(乙31)にもかかわらず,B医師の診察を全く受けていないのであり,その間,原告がAの代わりに被告病院に来院してB医師と面会しているが,その回数も4回に過ぎないことからすると,かかる期間内において,特段Aに体調不良があったものと認めることはできない。 また,平成5年5月以降の診療経過については,確かにAは継続的にB医師の診察を受けているが,一般的に,体調に特に問題がなくとも,現状の体調を維持するために受診し,投薬を受けることは,特に高齢者においてはしばしば見受けられることであること,平成5年8月21日の救急患者診療録(乙1の12頁)においても,A自身は特段体調不良を訴えていないことからすれば,B医師の診察を継続的に受けているからといって,必ずしもAが体調不良を訴えていたとは認められない。 このように,継続的に受診していることと体調不良を訴えていないことは必ずしも矛盾しないのであるから,カルテの内容としても不自然とはいえず,その外,本件において同カルテの改ざんを窺わせる事情は認められない。 以上の次第で,同カルテが改ざんされたと認めることはできない。 (3) レントゲン写真について原告が 件において同カルテの改ざんを窺わせる事情は認められない。 以上の次第で,同カルテが改ざんされたと認めることはできない。 (3) レントゲン写真について原告が指摘する上記レントゲン写真(甲9,乙4~7)について,それぞれ「C」との記載の上にAとの修正紙が貼付されていることが認められる。 しかし,これは,平成2年当時のレントゲン撮影は,現在のような患者の氏名を直接フィルムに印字する方法ではなく,患者の氏名カードを差し込む方法で撮影がなされていたもので,その場合,誤って別人の氏名カードが差し込まれて撮影がなされるといったミスの発生が往々にしてあったところ,上記Aのレントゲン写真も,Aに対する撮影の際,Cの氏名カードが誤って差し込まれて撮影され,そのため,修正紙によってその氏名の訂正を行ったものであることが認められる(乙34)。したがって,上記レントゲン写真が,Aを撮影したものではなく,Cを撮影したものであるのとの被告の主張は採用できない。 3 争点(1)(診療契約の締結時期)について本件において,平成2年12月10日,Aと被告病院との間に,同人の訴え(口渇,食欲減退,便秘がち)に対応する診療契約が成立し,同月20日まで同契約が継続したことは当事者間に争いがない。 原告は,上記診療契約が同月20日以降も継続していたと主張するのに対し,被告は,Aは,同日から約2年半後の平成5年5月20日まで被告病院を受診していないことから,同診療契約は平成2年12月20日に終了しており,再来院があった平成5年5月20日以降,新たな診療契約が締結されたとみるべきであると反論する。 そこで検討するに,確かにAは,平成2年12月20日以降,平成5年5月20日まで被 ており,再来院があった平成5年5月20日以降,新たな診療契約が締結されたとみるべきであると反論する。 そこで検討するに,確かにAは,平成2年12月20日以降,平成5年5月20日まで被告病院を受診していない。しかし,前記認定のとおり,B医師は,平成2年12月20日,A及び原告に対し,注腸レントゲン検査の結果を説明し,経過観察をする旨伝えているのであって,同日をもって診療を打ち切る旨を伝えたわけではないこと,そして,その後,Aの来院はなかったものの,原告は何度か来院し,Aの経過を伝え,また,B医師においても,大腸内視鏡検査を勧めたりもしていたこと,それらの経過を経て平成5年5月20日からAは再び継続的に受診するようになったことからすれば,上記診療契約は,受診の中断はあったにせよ,平成2年12月20日以降もこれが継続していたものと認めるのが相当である。 4 争点(2)ア(平成2年12月段階での注意義務違反)について(1) 検査義務違反について原告は,平成2年12月18日に実施された注腸レントゲン検査によると,Aの回盲部に結節集簇型の側方伸展型腫瘍の存在を認めることができ,これは癌を十分疑うべき所見であるから,大腸内視鏡検査を実施する必要があったにもかかわらず,同検査を行わずに漫然とこれを放置したことが被告の過失であると主張する。 確かに,証拠(甲9,乙7)及び鑑定の結果によれば,上記レントゲン検査の結果,本件吻合部には粗大結節及び顆粒状粘膜構造が認められ,同変化が吻合部から離れた広い範囲に及んでいること,比較的伸展性が保たれていること等に鑑みると,これを,Aが50歳代に受けた虫垂切除術による肉芽形成と即断することは相当ではなく,腫瘍性病変(結節集簇様(型)病変あるいは側方進展型腫瘍と呼 でいること,比較的伸展性が保たれていること等に鑑みると,これを,Aが50歳代に受けた虫垂切除術による肉芽形成と即断することは相当ではなく,腫瘍性病変(結節集簇様(型)病変あるいは側方進展型腫瘍と呼ばれる腫瘍性病変)の可能性も視野に入れて二元的に考える必要があったというべきである。 ところが,B医師は,Aの本件吻合部の顆粒状変化は,Aが50歳代に受けた虫垂切除術による肉芽形成によるものであって,腫瘍であるとは考えにくいとして,この時点ではそれが腫瘍性の変化であることを強く疑わず,高齢で,手術後の癒着も考えられるAには検査の負担も大きいとして,大腸内視鏡検査を直ちに行うことはせず,経過観察をすることとしたものである(乙1,26,29,30)。 しかし,上記のとおり,本件においては,腫瘍性の病変の可能性も視野に入れて二元的に考える必要があったことを考慮しても,結節性集簇様(型)病変あるいは側方進展型腫瘍と呼ばれる腫瘍の発症頻度は低く,平成2年当時の医学的知見としても,まれな腫瘍として症例報告されていたにとどまり,診断や治療法など臨床的にその取扱いが検討され始めた時代であったと認められること(乙22,28,鑑定,弁論の全趣旨)からすれば,一般市中病院の医師であるB医師が,Aの顆粒状変化を,以前の手術によるものと考え,その時点で腫瘍性病変を強く疑わなかったのも無理からぬところがあるというべきである。 また,上記のとおり,本件においては,腫瘍性の病変の可能性も視野に入れて二元的に考える必要があったとしても,当時,Aに対して大腸内視鏡検査を直ちに実施すべきであったかというと,それはまた別問題であって,結節集簇様(型)病変あるいは側方伸展型腫瘍と呼ばれる腫瘍の発症頻度は低く,平 ったとしても,当時,Aに対して大腸内視鏡検査を直ちに実施すべきであったかというと,それはまた別問題であって,結節集簇様(型)病変あるいは側方伸展型腫瘍と呼ばれる腫瘍の発症頻度は低く,平成2年当時の医学的知見としても,まれな腫瘍として症例報告されていたにとどまり,診断や治療法など臨床的にその取扱いが検討され始めた時代であったことは前記認定のとおりであり,また,上記腫瘍は,腺腫であることが多く,その病変の発育速度は非常に緩徐であるとされていること(鑑定),Aは,平成2年12月13日の問診においても,便に血液付着もなく,腹満感もないと答えていること(乙1の20頁) ,本件において大腸内視鏡検査を実施しても,虫垂切除術による癒着により,本件吻合部に内視鏡を挿入することが困難となり,十分な検査結果が得られない可能性があること(乙28),当時,Aは高齢(80歳)であり,大腸内視鏡検査は現在ほど苦痛なく行える検査ではなく(鑑定),前処置としての多量の下剤服用による頻回の排便の苦痛や,同検査施行時の送気による苦痛を伴い,しかも,本件吻合部まで内視鏡を挿入するには時間を要することからすれば,苦痛もさらに増大すること(鑑定),生検による穿孔の危険性もあること(乙28),注腸レントゲン検査の検査所見としても,大腸内視鏡検査につき「できれば」とあるのみで(乙1の9頁),検査実施につきB医師の裁量に委ねていることを総合考慮すると,平成2年12月時点において,大腸内視鏡検査を直ちに実施することが不可欠であったとまでは認められず,当面は経過観察を行い,病態に変化が認められた時点でこれを実施するものとすることも,医学的に相当な選択であったと認められる(鑑定,乙28)。 この点,原告は大腸内視鏡検査に伴う苦痛は医師の技術によって 行い,病態に変化が認められた時点でこれを実施するものとすることも,医学的に相当な選択であったと認められる(鑑定,乙28)。 この点,原告は大腸内視鏡検査に伴う苦痛は医師の技術によって回避ないし軽減が可能であり,虫垂切除術による癒着の影響によって十分な検査結果の得られない可能性は検査を実施してみなければわからない問題であると主張する。しかし,検査に伴う上記苦痛は,大腸内視鏡検査にある程度不可避的に伴うものと認められ,その全てを医師の技術によって克服できるものとは認められない。また,医師が検査を実施するか否かの判断にあたり,検査の必要性と,検査が患者に与える苦痛の程度及び検査によって得られる結果の期待可能性とを衡量することはいわば当然であって,期待どおりの結果を得られるかどうかは検査を実施してみなければ分からないという理由から,苦痛を伴うことが明らかな検査を常に実施しなければならないとはいえない。よって,原告の主張には理由がない。 以上により,平成2年12月当時,B医師が大腸内視鏡検査を実施しなかったことが,診療契約に反する検査義務違反とはいえない。 (2) 説明義務違反について原告は,平成2年12月18日になされた注腸レントゲン検査の結果につき,B医師がA及びこれに付き添って来た原告に対して,本件吻合部に腫瘍のあること及び大腸内視鏡検査の必要があることを説明すべきであったのにこれを怠った旨主張する。 そこで,検討するに,前記1の(1),4の(1)で認定の事実,証拠(乙1,26,29,30)及び弁論の全趣旨によれば,B医師は,平成2年12月18日の注腸レントゲン検査の結果につき,本件吻合部の顆粒状変化は,Aが50歳代に受けた虫垂切除術による炎症性の病変で,腫瘍と ,26,29,30)及び弁論の全趣旨によれば,B医師は,平成2年12月18日の注腸レントゲン検査の結果につき,本件吻合部の顆粒状変化は,Aが50歳代に受けた虫垂切除術による炎症性の病変で,腫瘍とは考えにくいとして,腫瘍性病変については強く疑わなかったこと,そして,高齢(80歳)で前記手術の癒着のあることも考えられるAには,大腸内視鏡検査は大きな負担と苦痛を与えることも考慮し,直ちに大腸内視鏡検査は実施せずに経過観察を行い,病態に変化があった時点で大腸内視鏡検査を行うこととでよいと判断したこと,その結果,B医師は,平成2年12月20日,来院したA及び原告に対し,同月18日のレントゲン検査の結果として,本件吻合部に顆粒状変化が病変として認められ,できれば大腸内視鏡検査による精査との所見が付されていることを告げたうえ,「この顆粒状変化は以前の手術によるもので,腫瘍とは考えにくい。80歳と高齢で以前の手術による癒着が考えられる人に大腸内視鏡検査は苦痛が大きすぎるのでこのまま経過観察していきましょう。」との説明をしたことが認められる。 なお,原告の陳述書(甲19)中には,前記認定と異なり,上記レントゲン検査の結果について,何ら異常がないとの簡単な説明しか受けていないとの部分があるが,にわかに措信できず,他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。 以上のとおりで,B医師は,本件吻合部の顆粒状変化を以前の手術による病変と考え,これが腫瘍性病変であることを強く疑わなかったことから,同病変が腫瘍であるとか,大腸内視鏡検査が直ちに必要であるといった説明はしていないことが認められる。しかし,B医師が上記病変につき腫瘍性病変を強く疑わなかったことは,当時の一般市中病院の医療水準に照らすとやむを得なかったと考えられることは前記 必要であるといった説明はしていないことが認められる。しかし,B医師が上記病変につき腫瘍性病変を強く疑わなかったことは,当時の一般市中病院の医療水準に照らすとやむを得なかったと考えられることは前記4の(1)で認定したとおりであり,また,B医師は,腫瘍性病変であるとは考えにくいとは判断したものの,その可能性を全く否定していたわけではなく,経過観察の必要性を認め,病態の変化があれば,その時点で大腸内視鏡検査をすることとして,その旨を上記のとおり説明したものであり,かつ,本件において直ちに大腸内視鏡検査を実施せず,経過観察をすることが医学的に相当な選択であると認められることも前記4の(1)で認定したとおりであることからすれば,B医師が行った平成2年12月18日の注腸レントゲン検査の結果の説明及びそれに基づくB医師の判断と今後の治療方針についての説明は,いずれも相当な説明であったと認められるし,患者に対する情報開示の点でも欠けるところはないものであったと認めることができる。 したがって,B医師に,平成2年12月18日の注腸レントゲン検査の結果に対する説明義務違反があったものとは認められない。 5 争点(2)イ(平成6年8月までの経過観察義務違反)について(1) 上記のとおり,B医師としては,平成2年12月18日の注腸レントゲン画像(甲9,乙7)について,これを以前の虫垂切除術による肉芽形成と即断せず,腫瘍性病変をも視野に入れて二元的に考えるべきであったことからすれば,平成2年12月時点で大腸内視鏡検査を直ちに実施しないとしても,腫瘍性病変の可能性も考慮して,Aの体調について変化(特に腹痛,貧血,体重減少)がないか定期的に問診し,かつ,少なくとも6か月ごとに便潜血検査,血液検査による腫瘍マーカーの測定をし,これら しても,腫瘍性病変の可能性も考慮して,Aの体調について変化(特に腹痛,貧血,体重減少)がないか定期的に問診し,かつ,少なくとも6か月ごとに便潜血検査,血液検査による腫瘍マーカーの測定をし,これらについて異常が認められれば,次なる段階として大腸内視鏡検査を実施するという経過観察をしなければならない義務があったというべきである(鑑定,乙28)。 (2) ところが,前記認定のとおり,平成2年12月20日から平成5年5月20日までの約2年半にわたって,B医師はAを一度も診察しておらず,何らの検査も実施されていない。また,Aは,同日以降継続的にB医師の診察を受け,その都度問診が行われているものの,平成6年5月12日に血液検査による腫瘍マーカー測定,同月13日に便潜血検査がそれぞれ実施されるまでは,これらの大腸に関する検査が全くなされていない。 この点に関して,被告は,Aが上記の期間来院せず,また,その間来院した原告に対して同医師は大腸内視鏡検査を受けさせるよう勧めたにもかかわらず,原告がAに同検査を受けさせなかったのであるから,そもそも経過観察をすることが不可能だったのであり,同医師に経過観察義務違反はないと主張する。 しかし,上記の理由により経過観察をすることとした以上,医師としては,単に患者に自覚症状があった場合に来院するのを待つのではなく,患者に自覚症状がない場合であっても,腫瘍性病変の可能性も視野に入れて,上記便潜血検査,血液検査を受けるよう患者に対して積極的に働きかけなければならないというべきである。 しかるに,本件においてB医師は,前記認定のとおり平成3年5月23日に来院した原告に対して,Aに大腸内視鏡検査を受けさせるよう勧めてはいるものの,それは,あくまで「症状があれば」との しかるに,本件においてB医師は,前記認定のとおり平成3年5月23日に来院した原告に対して,Aに大腸内視鏡検査を受けさせるよう勧めてはいるものの,それは,あくまで「症状があれば」との限定を付した上での消極的な働きかけに過ぎず(乙1の21頁),自覚症状がなくても半年に一度上記便潜血検査及び血液検査を受けるよう積極的に働きかけたとまでは認められない。 したがって,この点に関する被告の主張には理由がなく,B医師には,平成2年12月20日から平成6年5月12日までの経過観察義務違反が認められる。 (3) 他方,原告が主張する平成6年5月12日から同年8月までの経過観察義務違反については,B医師が同年5月12日に血液検査による腫瘍マーカー測定,同月13日に便潜血検査をそれぞれ実施し,その6か月後の同年11月にもそれらの検査を実施していること,同年5月の上記検査において,いずれも異常が認められなかったこと,この期間におけるB医師による継続的な問診の結果,Aには腹痛等の自覚所見が認められず,むしろ体調良好との回答が多く見受けられること,同年7月18日の問診でも黒色便がない旨答えていることを考慮すると,上記期間において,特に大腸に注意を向けなければならない所見は認められず,よって,大腸内視鏡検査を実施すべき状況にあったとは認められない。 したがって,平成6年5月12日から同年8月までの期間については,B医師が経過観察を怠ったとは認められない。 6 争点(2)ウ(平成6年9月以降の注意義務違反)について(1) 前記認定のとおり,Aには,平成6年11月16日における血液検査でCEAの値が72.7ng/mlと極めて高い数値を示したこと,同月17日の腹部血管造影検査において肝細胞癌との診断がなされ (1) 前記認定のとおり,Aには,平成6年11月16日における血液検査でCEAの値が72.7ng/mlと極めて高い数値を示したこと,同月17日の腹部血管造影検査において肝細胞癌との診断がなされたにもかかわらず,肝臓癌についての腫瘍マーカーであるAFPは2.0ng/ml以下と正常値であること(乙2の12頁),同時期においてAに貧血傾向が認められ(同10頁),体重の減少も認められたこと(同6頁),同年12月1日に実施された注腸レントゲン検査の画像と平成2年12月18日に実施された同検査の画像とを比較読影することにより,進行癌(大腸癌)を疑うことは可能であったこと(鑑定)からすれば,少なくとも平成6年12月1日時点においては,肝臓癌の原発巣として大腸癌を疑い,大腸を精査すべきであったものと認められる。 (2) しかるに,B医師は,同日以降も大腸を精査するために必要な大腸内視鏡検査を一度も実施せずに,結腸下垂との誤った診断を下したのであり,この点について,同医師に注意義務違反が認められる。 7 争点(3)(因果関係)について(1) 上記のように,B医師には,平成2年12月20日から平成6年5月12日までの間の経過観察義務違反及び平成6年12月1日以降の注意義務違反がそれぞれ認められる。そこで,かかる注意義務違反と死亡との因果関係について,以下検討する。 ア平成2年12月から平成6年5月までの経過観察義務違反との間の因果関係前記認定のとおり,同期間内において,Aに腹痛等大腸に特に注意を向けなければならないような愁訴は認められていないこと,貧血についても,平成6年5月12日においてヘモグロビン値が11.0g/dlであり,Aのような高齢者においては特に異常な数値とはいえないこと(弁論の全趣 ればならないような愁訴は認められていないこと,貧血についても,平成6年5月12日においてヘモグロビン値が11.0g/dlであり,Aのような高齢者においては特に異常な数値とはいえないこと(弁論の全趣旨),体重減少についても,平成5年5月20日に,Aが2年半ぶりに受診した際に一度認められたのみで,その後は認められていないこと,便潜血反応は平成2年12月10日及び平成6年5月13日のいずれの検査においても認められていないこと,CEA値についても,平成6年5月12日の検査では正常値であったことからすると,同月以前に経過観察として便潜血検査,血液検査を実施したとしても異常が認められる可能性は低いと考えられ,さらに進んで大腸内視鏡検査を実施するに至る可能性も低いものと認められる。 また,そもそも平成6年5月まではCEA値が正常値であることからすると,本件吻合部の顆粒状変化は,同月以降に進行癌に推移したものと認められること(鑑定),同顆粒状変化のような表層拡大型大腸腫瘍の結節集簇様病変は,一般に腺腫のことが多く,癌腫は認めても腺腫内癌であること(鑑定)からすれば,平成2年12月以降平成6年5月までの間の同顆粒状変化は必ずしも癌腫であったとは認められない。加えて,虫垂切除術による本件吻合部の癒着の可能性もないとはいえないことからすると,本件において仮に平成2年12月から平成6年5月までの間に大腸内視鏡検査を実施したとしても,大腸癌であるとの診断に至った可能性は低いといわざるを得ない。 とすると,本件において上記期間について,B医師が経過観察を怠った過失は認められるが,たとえ経過観察をしたとしても,本件吻合部の顆粒状変化につき大腸癌と診断がなされ,切除されるに至った可能性は低いのであるから,経過観察義務違反とAの て,B医師が経過観察を怠った過失は認められるが,たとえ経過観察をしたとしても,本件吻合部の顆粒状変化につき大腸癌と診断がなされ,切除されるに至った可能性は低いのであるから,経過観察義務違反とAの死亡との因果関係は認められないというべきである。 イ平成6年12月以降の注意義務違反との間の因果関係前記認定のとおり,平成6年12月1日の時点において,B医師は大腸内視鏡検査を実施せずに結腸下垂との誤った診断をした注意義務違反が認められるが,本件吻合部における顆粒状変化は,同時期には既に進行癌に推移していたと認められること(鑑定),同時点においては大腸癌も相当大きくなっていたはずであること(乙29)からすれば,同時点において同検査を実施しておれば,大腸癌を発見できた高度の蓋然性が認められる。 しかし,仮に当該時点で大腸癌であるとの診断がなされたとしても,Aの死因は転移性肝臓癌であり,これについては,同時点において既に発見され,抗癌剤等の医療水準にかなった治療が施されていたのであって,仮に同時点において原発巣が大腸癌であると診断されたとしても,肝臓癌による死亡を回避し得たとは認められない。とするならば,同時点において大腸癌であると診断されたとしても,死亡を回避し得た高度の蓋然性があったとは認められないから,上記注意義務違反とAの死亡との間には,相当因果関係が認められないというべきである。 (2) なお,原告は,平成6年12月以降の注意義務違反については,Aはこれにより適切な治療を受ける機会を奪われたとも主張するところ,確かに,医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には損害賠償責任が認められると解される( たとも主張するところ,確かに,医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には損害賠償責任が認められると解される(最高裁平成9年(オ)第42号同12年9月22日第2小法廷判決・民集54巻7号2574頁参照)。しかし,本件においては,上記のとおり,平成6年12月の時点で既にAの死因である肝臓癌に対して,医療水準にかなった治療が施されていたものと認められ,同時点で原発巣が大腸癌であると診断されたとしても,肝臓癌の治療に影響を及ぼしたとは認められない。とするならば,仮に同時点において大腸癌に対して医療水準にかなった治療が施されていたとしても,肝臓癌による死亡を回避することにより,本件死亡時点においてなお生存していた相当程度の可能性があったとは認めることができない。 よって,この点に関する原告の主張にも理由がない。 8 結論以上の次第で,原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく理由がないから ,これを棄却することとし,よって,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判長裁判官上田昭典裁判官太田敬司裁判官北岡裕章
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