平成24(行ウ)322等 各生活環境被害調停申請却下決定取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年9月10日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文72,309 文字)

平成26年9月10日判決言渡平成24年(行ウ)第322号(以下「第1事件」という。),同年(行ウ)第580号(以下「第2事件」という。) 各生活環境被害調停申請却下決定取消請求事件 主文 1 本件各訴えのうち「事実及び理由」中の第1の1(2)記載の請求に係る部分を却下する。 2 本件各訴えのその余の部分に係る各事件原告らの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は各事件原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 第1事件(1) 公害等調整委員会が平成23年11月28日付けで第1事件原告らのうち別紙2原告目録(1)記載のものに対してした温室効果ガスの過剰排出に伴う生活環境被害調停申請事件(公調委同年(調)第3号)に係る申請を却下する決定(以下「本件却下決定1」という。)を取り消す。 (2) 公害等調整委員会が平成23年11月28日付けで第1事件原告らのうち別紙2原告目録(1)記載のものに対してした温室効果ガスの過剰排出に伴う生活環境被害調停申請事件(公調委同年(調)第4号)に係る申請を却下する決定(以下「本件却下決定2」という。)を取り消す。 (3) 公害等調整委員会が平成24年3月26日付けで第1事件原告らのうち別紙2原告目録(2)記載のものに対してした温室効果ガスの過剰排出に伴う生活環境被害調停申請事件(公調委同年(調)第3号)に係る申請を却下する決定(以下「本件却下決定3」といい,本件却下決定1及び本件却下決定2と併せて「本件各却下決定」という。)を取り消す。 2 第2事件公害等調整委員会が平成24年3月26日付けで第2事件原告ら(以下第1事件原告らと併せて単に「原告ら」ということがある。)に対してした温室効果ガスの過剰排出に伴う生活環境被害調停申請事 事件公害等調整委員会が平成24年3月26日付けで第2事件原告ら(以下第1事件原告らと併せて単に「原告ら」ということがある。)に対してした温室効果ガスの過剰排出に伴う生活環境被害調停申請事件(公調委同年(調)第3号)に係る申請を却下する決定(本件却下決定3)を取り消す。 第2 事案の概要等 1 本件は,我が国に住所を有する個人25名並びにいわゆる環境保護団体及び特定非営利活動法人(第1事件原告らのうち別紙2原告目録(1) 記載のもの)が,公害紛争処理法26条1項の規定に基づいてした調停の申請に係る本件却下決定1及び本件却下決定2の取消しを求めるとともに,ツバルに住所を有する個人18名及び我が国に住所を有する個人2名(第1事件原告らのうち別紙2原告目録(2)記載のもの及び第2事件原告ら)が,同項の規定に基づいてした調停の申請に係る本件却下決定3の取消しを求める事案である。 2 関係する法規の定め(1) 公害紛争処理法ア公害紛争処理法1条は,同法は,公害に係る紛争について,あっせん,調停,仲裁及び裁定の制度を設けること等により,その迅速かつ適正な解決を図ることを目的とする旨を定める。 イ公害紛争処理法2条は,同法において「公害」とは,環境基本法2条3項に規定する公害をいう旨を定める。 ウ公害紛争処理法3条は,公害等調整委員会は,同法の定めるところにより公害に係る紛争についてあっせん,調停,仲裁及び裁定を行う旨を定める。 エ公害紛争処理法26条1項は,公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合においては,当事者の一方又は双方は,公害等調整委員会規則で定めるところにより中央委員会に対し, 政令で定めるところにより審査会等に対し, 害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合においては,当事者の一方又は双方は,公害等調整委員会規則で定めるところにより中央委員会に対し, 政令で定めるところにより審査会等に対し,書面をもって,あっせん,調停又は仲裁の申請をすることができる旨を定める。 (3) 環境基本法ア環境基本法1条は,同法は,環境の保全について,基本理念を定め,並びに国,地方公共団体,事業者及び国民の責務を明らかにするとともに,環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより,環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し,もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする旨を定める。 イ環境基本法2条1項は,同法における「環境への負荷」とは,人の活動により環境に加えられる影響であって,環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものをいう旨を定める。 ウ環境基本法2条2項は,同法において「地球環境保全」とは,人の活動による地球全体の温暖化又はオゾン層の破壊の進行,海洋の汚染,野生生物の種の減少その他の地球の全体又はその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全であって,人類の福祉に貢献するとともに国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するものをいう旨を定める。 エ環境基本法2条3項は,同法において「公害」とは,環境の保全上の支障のうち,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む。),土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下(鉱物の掘採のための土地の掘削によるものを除く。以下同じ。)及び悪臭によって,人の健康又は生活環境(人の生活に密 水の状態又は水底の底質が悪化することを含む。),土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下(鉱物の掘採のための土地の掘削によるものを除く。以下同じ。)及び悪臭によって,人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。以下同じ。)に係る被害が生ずることをいう旨を定める。 3 前提となる事実(各項の末尾に掲記した証拠若しくは弁論の全趣旨により容 易に認定することができる事実又は当裁判所に顕著な事実。以下「前提事実」という。)(1) 当事者等ア第1事件原告P1は,我が国内外の自然保護,環境保全に関する事業を行い,もって不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とする団体(法人でない社団)であり,第1事件原告特定非営利活動法人P2は,地球温暖化を防止し持続可能な社会の実現に寄与することを目的とする特定非営利活動法人であり,その他の第1事件原告らは,いずれも日本に住所を有する個人(26名)である。 イ第2事件原告らは,日本に住所を有する個人1名を除き,いずれもツバルに住所を有する個人である。 (2) 本件却下決定1及び本件却下決定2に至る経緯ア第1事件原告らのうち別紙2原告目録 (1) 記載のものを含む110名は,平成23年9月16日,公害等調整委員会に対し,公害紛争処理法26条1項の規定に基づき,被申請人をP3株式会社ほか10社(P4株式会社,P5株式会社,P6株式会社,P7株式会社,P8株式会社,P9株式会社,P10株式会社,P11株式会社,P12株式会社及びP13株式会社。以下,P3株式会社を含むこれらの法人を総称して「本件電力会社ら」という。)とする調停の申請(以下「本件申請1」という。)をし,公害等調整委員会は,同日,これを受け付けた( 会社及びP13株式会社。以下,P3株式会社を含むこれらの法人を総称して「本件電力会社ら」という。)とする調停の申請(以下「本件申請1」という。)をし,公害等調整委員会は,同日,これを受け付けた(公調委同年(調)第3号事件)(甲18,乙1,4)。 上記の申請において,事業活動の行われた場所は,本件電力会社らの火力発電所の所在地とされ,被害の生じた場所は,「地球上,北極圏及び各申請人住所周辺」とされ,調停を求める事項は,被申請人らは各自事業活動に伴う二酸化炭素排出量を1990年(平成2年)比29%以上削減することを求めるとされており,上記の第1事件原告らを含む申請人らの調 停の申請の適法性に関する主張の要旨は,「大気中の温室効果ガス濃度がこのまま放置されて上昇し,地球の平均気温が2度以上上昇した場合には異常気象に伴う洪水,疫病,熱中症などの生命身体の被害をもたらすほか,食糧危機,それに伴う地域紛争などが生じるほか,自然生態系に打撃を与えて多くの種の絶滅を招く。申請人らを含めて地球に住む人々の生命,身体,自然生態系に深刻な打撃を与える。」などとされていた(乙1)。 イ P14ほか9名の個人(なお,この9名の個人に第1事件原告らのうち別紙2原告目録(1)記載のものは含まれていない。)等は,平成23年9月16日,大阪府公害審査会に対し,公害紛争処理法26条1項の規定に基づき,被申請人を本件電力会社らとする調停の申請をし,大阪府公害審査会は,同日,これを受け付けた。なお,上記の申請において調停を求める事項等は,上記アと同様であった(乙2)。 ウ大阪府知事は,平成23年9月30日,関係都道府県知事との間で,公害紛争処理法27条3項の規定に基づき,連合審査会を置くことについて協議したが,協議が調わなかったため,同年10月5日,公害等 ウ大阪府知事は,平成23年9月30日,関係都道府県知事との間で,公害紛争処理法27条3項の規定に基づき,連合審査会を置くことについて協議したが,協議が調わなかったため,同年10月5日,公害等調整委員会に対し,同条5項の規定に基づき,上記の申請に係る関係書類を送付した(公調委同年(調)第4号事件)(乙2,5,弁論の全趣旨)。 エ公害等調整委員会は,上記ア及びイの各申請につき,いずれも平成23年10月12日付けで,各「公害調停申請書」からは,本件電力会社らにつき問題とされる二酸化炭素等の排出について環境基本法2条3項が「公害」として挙げるもののいずれに該当するのか,及び,該当するとした場合における法的な根拠が明らかではないとして,現行法制度下において,いかなる法的な根拠により,上記のいずれに該当するのかについて明らかにするように補正を求めた(乙4,5)。 オ第1事件原告らのうち別紙2原告目録 (1) 記載のものを含む上記ア及びイの各申請の申請人らは,平成23年11月1日,公害等調整委員会に 対し,上記エの補正の求めに対して意見書を提出し,本件電力会社らによる二酸化炭素の排出は環境基本法2条3項の「大気の汚染」,「水質の汚濁」及び「地盤の沈下」に当たると主張した(乙6,弁論の全趣旨)。 カ公害等調整委員会は,平成23年11月28日,上記ア及びイの各申請について,公害紛争処理法26条1項所定の「公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合」に当たらない不適法なものであり,かつ,その欠陥は補正することはできないとして,それぞれ申請を却下する旨の決定(本件却下決定1及び本件却下決定2)をした(甲1,2)。 上記の各決定の理由の要旨は,次のとおりである。①上記の各申請の申請人らが申請に ことはできないとして,それぞれ申請を却下する旨の決定(本件却下決定1及び本件却下決定2)をした(甲1,2)。 上記の各決定の理由の要旨は,次のとおりである。①上記の各申請の申請人らが申請に至った理由として述べているのは,詰まるところ,地球温暖化問題である。②「地球環境保全」施策と「公害」対策の本質的な相違を前提に,個別の規律を設けている現行法体系を踏まえれば,地球温暖化問題は,公害紛争処理法2条において引用された環境基本法2条3項の「公害」としてではなく,一義的には,同条2項の「地球環境保全」として取り組まれるべき課題であると考える。③公害紛争処理制度は,特定の原因者と特定の被害者との間に生じた具体的な紛争の解決を図る制度であるが,二酸化炭素等の排出による地球温暖化問題は,日常生活や様々な規模の事業活動といった,人類全体の多様な活動から生じる環境負荷の集積によって生じる問題であり,国内の排出主体の一部である被申請人らのみとの間における互譲により根本的に解決できる問題ではない。④なお,「公害に係る被害」については,現に生じている被害のみならず,将来発生する被害を含むと解されるが,漠然として具体性を欠く被害まで含むと解釈することは,公害に係る個別の紛争解決を目的とする公害紛争処理制度には適さず,およそ調停の対象となるためには,一定の事実とそれによって生ずる利益の侵害との間に相当明確な関係が求められるところ,上記 の各申請の申請書の記載からは,何らかの汚染物質が大気中に排出される「大気の汚染」等により申請人らの個々の生活環境等にもたらされる被害及び被申請人らの事業活動との結び付きが,客観的に相当程度明らかであるとはいえず,「公害に係る被害」に当てはまると考えることはできない。 (3) 本件却下決定3に至る経緯ア第1 たらされる被害及び被申請人らの事業活動との結び付きが,客観的に相当程度明らかであるとはいえず,「公害に係る被害」に当てはまると考えることはできない。 (3) 本件却下決定3に至る経緯ア第1事件原告らのうち別紙原告目録 (2) 記載のもの及び第2事件原告らは,平成24年3月13日,公害紛争処理法26条1項の規定に基づき,被申請人を本件電力会社らとする調停の申請(以下「本件申請3」といい,本件申請1及び上記(2)イの申請と併せて「本件各申請」という。)をし,公害等調整委員会は,同月14日,これを受け付けた(公調委同年(調)第3号事件)(乙3,弁論の全趣旨)。 なお,上記の申請において調停を求める事項等は,上記(2)アと同様であった(乙3)。 イ公害等調整委員会は,平成24年3月26日,上記アの申請について,本件却下決定1及び本件却下決定2と同様の理由により,これを却下する旨の決定(本件却下決定3)をした(甲3)。 (4) 本件訴えの提起第1事件原告らは,平成24年5月11日,第1事件を提起し,第2事件原告らは,同年8月24日,第2事件を提起し,当裁判所は,平成25年3月7日,第2事件に係る口頭弁論を第1事件に係る口頭弁論に併合した(当裁判所に顕著な事実)。 第3 争点(第1事件及び第2事件)本件各申請の適法性第4 争点に関する当事者の主張の要点(以下における当事者の表記については,特に必要のない限り,第1事件原告及び第2事件原告をいずれも「原告」と表記し,第1事件及び第2事件被告を「被 告」と表記する。)(原告らの主張の要点) 1 「公害」該当性(1) 環境基本法2条2項の「地球環境保全」と同条3項の「公害」の関係ア環境基本法は「地球環境保全」と「公害」を峻別していないこと )(原告らの主張の要点) 1 「公害」該当性(1) 環境基本法2条2項の「地球環境保全」と同条3項の「公害」の関係ア環境基本法は「地球環境保全」と「公害」を峻別していないこと(ア) 環境基本法の立法者は地球温暖化を「公害」であると捉えていること環境基本法の立法者は,「公害」を「健康・生活環境に係る被害」と説明した上で,地球温暖化による気候変動は「水位の上昇による財産被害,植生の変化による農作物被害等の生活環境被害,熱帯病の蔓延等の健康被害を生ずる」問題で,「公害・自然環境の両分野にまたがる」問題であると捉えている(甲8・61ないし62頁)。 また,地球温暖化への対策についても,「単に事業活動に伴う公害の防止を図り,製品の使用等に伴う公害の防止に資するよう努める責務があるとするだけでなく,利用する原材料等についても環境負荷の低減に資するよう努めるなど事業活動のあらゆる段階で環境配慮を徹底することを求める」と説明していること(甲8・68頁)からも明らかなとおり,立法者は,「地球環境保全」の問題である地球温暖化問題に対しては,従来の「公害」対策である排出源対策もその対策の一つとしていることが分かる。 したがって,立法者は,定義上も対策面からも,「公害」と「地球環境保全」の問題を峻別しておらず,地球温暖化は「公害」であり,公害防止策が必要であると把握していることは明らかである。 (イ) 環境法専門家は地球温暖化は「公害」であると捉えていること環境法の専門家も,「現代の環境保全上の支障ないし公害」は,個別的には非難に値しない多数人の日常行為の集積によってもたらされるものが多いとし,その例として,二酸化炭素による地球温暖化を挙げてお り(甲9・30ないし31頁), の支障ないし公害」は,個別的には非難に値しない多数人の日常行為の集積によってもたらされるものが多いとし,その例として,二酸化炭素による地球温暖化を挙げてお り(甲9・30ないし31頁),「地球環境保全」問題である地球温暖化は「公害」であると明確に述べている。 (ウ) 目的規定(環境基本法1条)環境基本法の前身である公害対策基本法は,目的規定である1条に「公害」対策であることを明確にしているのに対し,環境基本法は,目的規定である1条では,「公害」と「地球環境保全」上の問題を峻別することなく,それらを一体の「環境の保全」の問題と捉え,同一の理念(同法3条及び4条)の下に,総合的かつ計画的に規律することを目的としている。 (エ) 定義規定(環境基本法2条)環境基本法2条2項は,「地球環境保全」を「地球の全体又はその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全」と規定していることから,「地球環境保全」の上位概念として「環境の保全」があり,したがって,同法は,「地球環境保全としての環境の保全」と「地球環境保全以外の環境の保全」とを想定していることがわかる。 一方,同法は,「公害」については,「環境の保全上の支障のうち」(同条3項)と規定し,「公害」の上位概念として「環境の保全上の支障」があることが分かる。したがって,同法は,「環境の保全上の支障のうち,公害に該当するもの」と「環境の保全上の支障のうち,公害に該当しないもの」と想定しているといえる。 このことは,各定義の定められた内容を見れば一層明らかである。すなわち,「地球環境保全」は,"事態のスケール"に着目した概念である。これに対して,「公害」とは,環境保全上の支障の結果として現れる"現象の性質"に着目した概念である。したがって,両概 かである。すなわち,「地球環境保全」は,"事態のスケール"に着目した概念である。これに対して,「公害」とは,環境保全上の支障の結果として現れる"現象の性質"に着目した概念である。したがって,両概念は,着眼点が全く異なるのであり,定義上,両者が排斥し合う関係にはなく,それぞれ重なり合う部分も存在する。 このように概念上,「地球環境保全」の問題と「公害」は重なり合う部分が存在することから,これらの定義規定上は,環境基本法が両者を峻別して規定しているとは到底いえない。 また,そもそも,それぞれの定義規定に「公害に該当するものを除く」,「地球環境保全上問題となるものを除く」などの除外文言は書かれていないのであり,この点からも,環境基本法における定義上,両者は峻別されていないことが明らかである。 (オ) 環境基本法の構造からの検討環境基本法が「公害」と「地球環境保全」上の問題を峻別していないことは,以下のとおり,同法の構造からも明らかである。 a 各規定の対象環境基本法の各規定は,別紙4「基本法の各条項の対象(詳細)」に記載のとおり「地球環境保全」及び「公害」を含む「環境の保全上の支障」に対する基本理念,責務,指針,施策等を共通に規定し,それらを踏まえ,「地球環境保全」及び「公害」のそれぞれの性質に即した施策・対策を規定する法構造となっている。そして,同法全体では,「地球環境保全」と「公害」を峻別せずに両者にまたがって適用される規定が圧倒的多数を占める。 このように,同法においては,「地球環境保全」施策と「公害」対策に共通する領域があることを前提とした上で,「地球環境保全」施策と「公害」対策それぞれに特有の対策を想定しているのであり,両者を峻別した法体系になっていない。 保全」施策と「公害」対策に共通する領域があることを前提とした上で,「地球環境保全」施策と「公害」対策それぞれに特有の対策を想定しているのであり,両者を峻別した法体系になっていない。 b 第2章の構成環境基本法の第2章では,「環境の保全に関する基本的施策」として,個別的な施策に関する規定が列挙されている。 同章の第1節14条では,環境保全のための施策の策定・実施に関 する基本的な指針として,「各種の施策相互の有機的な連携を図りつつ総合的かつ計画的に行わなければならない」と定められている。そして,第2節以下の環境保全全般の施策,公害施策及び地球環境保全施策は,いずれも14条に定められた指針にのっとり,環境基本法という一つの法体系の下に定められた個別的施策として並列的に相互関連性をもって実施されるべきものとして,「公害」と「地球環境保全」は同じ章に規定されているのである。 このことは,第2章の中に規定されている「地球環境保全」の問題も対象とされる環境基本計画(同法15条)と公害防止計画(同法17条及び18条)が相互に排斥するものではないことからも明らかである。 また,仮に,「地球環境保全」の問題については,第2章の中の第6節以外の規定の適用対象外だとすれば,国際的な環境保全上の支障については,国内に排出源が存在する場合にも,規制的措置(同法21条)が採り得ないことになり,不合理な結果となることは明らかであり,地球環境保全の問題について,第2章第6節以外の規定を適用対象外とするような解釈は採り得ないことからも,両者は峻別されるものではない。 c 環境基本法第2章第5節の具体的条文の定めからの検討環境基本法が,公害対策と地球環境保全とを峻別して規定しているものでないことは,同法 者は峻別されるものではない。 c 環境基本法第2章第5節の具体的条文の定めからの検討環境基本法が,公害対策と地球環境保全とを峻別して規定しているものでないことは,同法第2章第5節の具体的条文の定めからも読み取ることができる。 (a) 環境基本法21条の規制措置の置かれ方について環境基本法第1章第5節のうち21条は,国が,環境の保全上の支障を防止するために講じることが義務付けられる規制措置を規定したものであり,一つの条文の中に公害対策を目的とする規制措置 (1項1号,2号及び5号)と,地球環境保全を目的とする規制措置(1項4号及び5号)のいずれもが並列のものとして置かれていることになる。 (b) 公害対策と地球環境保全のための措置が同時に求められる場合が予定されていること環境基本法21条1項5号の「自然環境の保全」とは,地球環境保全をも含む概念であることを前提に,同号は,「公害及び自然環境の保全上の支障が共に生ずるか又は生ずるおそれがある場合」としており,公害問題と地球環境保全上の問題とが同時に生じる場合が条文上当然に予定されている。 (c) 環境基本法22条2項後段の規定について環境基本法22条は,環境の保全上の支障を防止するための経済的措置について規定しており,同規定においては,その対象となる「環境の保全上の支障」が,公害に当たるか否かという観点からは一切区別されていない。 イ海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(以下「海洋汚染防止法」という。)の例「公害」と「地球環境保全」の問題が唆別されていないことは,個別法を見ても分かる。 環境基本法2条2項の「地球環境保全」には例示として「海洋の汚染」 「海洋汚染防止法」という。)の例「公害」と「地球環境保全」の問題が唆別されていないことは,個別法を見ても分かる。 環境基本法2条2項の「地球環境保全」には例示として「海洋の汚染」が挙げられている。海洋汚染については海洋汚染防止法がその防止を規定しているので,同法の対象となる海洋汚染は,「地球環境保全」の問題である。 そして,同法が対象とするタンカー油濁等による海洋汚染は,タンカー輸送という事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる汚染であり,海面及び沿岸部が油濁されることにより,特に漁業に支障が生 じるという人の健康又は生活環境に係る被害が生じるから,「公害」でもある。 また,海洋汚染防止法の制定過程を見ても,もともとは,タンカー事故による甚大な海洋油濁汚染を防止する目的で昭和44年に採択された「1954年の油による海水の汚濁の防止のための国際条約」の改正を受け,昭和45年のいわゆる公害国会で公害対策基本法とともに成立したものであり,海洋汚染防止法は公害対策基本法の子法としての性格を有する。したがって,「公害」としての性格を有する海洋汚染が環境基本法の制定に伴い,「地球環境保全」の問題として新たに位置付けられたものである。 このように,環境被害の実態を見ても,「公害」と「地球環境保全」の問題が重なることがあることは明らかである。 ウまとめ以上のとおり,環境基本法の構造及び各規定の仕方をみると,同法が,「地球環境保全」と「公害」を峻別して,別個の法体系を創設していると見るべき根拠は存在しない。むしろ,構造上は,両者が並列しているといえるのであり,同法が,「公害」と地球温暖化問題のような「地球環境保全」の問題とを峻別し,環境基本法等の関係諸法において別個の法体系が創設されていると ない。むしろ,構造上は,両者が並列しているといえるのであり,同法が,「公害」と地球温暖化問題のような「地球環境保全」の問題とを峻別し,環境基本法等の関係諸法において別個の法体系が創設されているとする被告の主張は理由がない。 (2) 公害(典型7公害)該当性の柔軟な解釈ア公害等調整委員会の過去の事例環境基本法は,「公害」の定義について典型7公害を列挙している。これは,環境基本法の制定までに社会的に問題となった「公害」類型を列挙しているにすぎない。 それゆえ,産業の発展に伴い,従来想定していなかった環境問題が生ずるにつれて,公害等調整委員会では環境基本法の制定当時は典型7公害と認識されていなかったものであっても調停の対象としてきた。 例えば,低周波による被害については,当初は「騒音・振動」(典型7公害)として把握されていなかったが,被害の重大性・深刻さなどから,公害等調整委員会においても,「公害(騒音・振動)」として審理されるようになった(平成21年(ゲ)第4号三原市における低周波音による健康被害原因裁定申請事件等)。 また,化学物質過敏症という新しい疾病についても,公害等調整委員会では,化学物質過敏症を引き起こす物質の飛沫は「大気汚染」であり,「公害」であると柔軟に解釈して,審理の対象とするようになった(平成17年(ゲ)第1号茨城県α町における化学物質による健康被害原因裁定申請事件等)。 イアメリカ合衆国の大気浄化法と二酸化炭素排出公害二酸化炭素等温室効果ガスが大気浄化法(CleanAirAct)に規定する大気汚染物質となり得るかについて,アメリカ合衆国の連邦最高裁判所2007年(平成19年)4月2日判決「マサチューセッツ州外対EPA(米国環境保護局)」(甲29。 eanAirAct)に規定する大気汚染物質となり得るかについて,アメリカ合衆国の連邦最高裁判所2007年(平成19年)4月2日判決「マサチューセッツ州外対EPA(米国環境保護局)」(甲29。以下「米国最高裁判決」という。)は,温室効果ガスは「公共の健康や福祉を害すると合理的に予想される大気汚染をもたらす,または大気汚染に寄与すると判断する大気汚染物質」に当たるなどとして,二酸化炭素等温室効果ガスが大気汚染物質に当たることを肯定している。この点は,我が国における温室効果ガスの過剰排出を公害問題と捉えるかについて参考になると考えられる。 ウ公害紛争処埋法の制定過程第61回国会(昭和44年)の衆議院本会議及び産業公害対策特別委員会から第63回国会(昭和45年)の衆議院本会議及び産業公害対策特別委員会等までの審議においても,公害紛争処理法の「公害」は柔軟に広く解することを念頭において議論が交わされ同法の制定に至っている。 例えば,床次徳二国務大臣(以下「床次大臣」という。)は,「第1条 にあげておりますところの和解の仲介,調停,仲裁,そこまでの限度ならば,非常に間口の広い公害問題でありましょうとも,この機関で扱える」と答弁している(甲4の2)。 また,参考人である都留重人教授(以下「都留教授」という。)は,気候変動問題を例に挙げた上で,これも「外国では現在公害の一種として,環境破壊の一種として考えられるようになっております。したがって,産業公害というふうに限定いたします考え方をさらに広げて,環境をそこなう,環境を破壊するという形でまとめられつつあるのが,現在の国際的な動向である」と述べている(甲4の4)。 さらに,山中貞則国務大臣(以下「山中大臣」という。)は,公害紛争処理法は飽くまでも被害者の立場 境を破壊するという形でまとめられつつあるのが,現在の国際的な動向である」と述べている(甲4の4)。 さらに,山中貞則国務大臣(以下「山中大臣」という。)は,公害紛争処理法は飽くまでも被害者の立場に立つものであるから,「むずかしいケースであってもそれを何らかの型にはめて結論を出す努力をしなければならない」などと述べている(甲4の5)。 (3) 地球温暖化は「公害」に該当することア総論公害紛争処理法の対象となる「公害」とは,環境基本法2条3項に規定される「公害」と同義とされる(同法2条)。 そもそも,地球温暖化が,二酸化炭素を始めとする温室効果ガスの人為的な過剰排出による,大気中の温室効果ガスの濃度の増加によって引き起こされるものであることは,気候変動に関する政府間パネル(IntergovernmentalPanelonClimateChange。1988年(昭和63年)に世界気象機関(WMO)及び国際連合環境計画(UNEP)により設立された組織で,人為起源による気候変化,影響,適応及び緩和方策に関し,科学的・技術的・社会経済的な見地から包括的な評価を行うことを目的としている政府間パネル。以下「IPCC」という。)の報告書においても繰り返し述べられているとおり,既に国際的にも確立した科学的知見であ る。 そして,温室効果ガスの過剰排出によって引き起こされる地球温暖化による被害は,以下に概略を述べるとおり,「公害(環境基本法2条3項)」のうち,「大気の汚染」,「水質の汚濁」,「地盤の沈下」に係る被害にそれぞれ該当する。 イ二酸化炭素の過剰排出は「大気の汚染」に該当すること(ア) 「大気の汚染」の意義「大気の汚染」とは,人為的に引き起こされ,人の健康や生 被害にそれぞれ該当する。 イ二酸化炭素の過剰排出は「大気の汚染」に該当すること(ア) 「大気の汚染」の意義「大気の汚染」とは,人為的に引き起こされ,人の健康や生活環境に被害を生じさせ得る,あらゆる大気の組成・質の変化と捉えるべきである。人為的な自然環境の汚染等から生じた,人の健康や生活環境に対するあらゆる被害を防止しようというのが,公害対策基本法を前身とする環境基本法の趣旨と考えられるからである。 人の活動から生じ,その原因の排除が可能である公害と,地球の環境の変化そのものに由来する自然災害とは,その被害の原因が人為的に引き起こされたものであるか否かによって区別される。 (イ) 二酸化炭素の過剰排出は「大気の汚染」に該当することこの点,産業革命以後の人間の活動により,二酸化炭素の過剰排出が生じていることは明らかな事実であり,これによって引き起こされた,大気中の温暖化ガスの濃度の増加という大気の組成の変化は,まさに人為的なものにほかならない。 そして,この大気の組成の変化によって,地球温暖化が生じ,それによって種々の被害が発生している以上,これは,「大気の汚染」による被害としての公害というほかないのである。 (ウ) 二酸化炭素による被害の間接性ところで,地球温暖化による被害は,二酸化炭素を始めとする温室効果ガスが過剰に排出されることによって,地球温暖化が生じ,その結果 として種々の被害が発生するという順序をたどり,二酸化炭素の存在そのものから直ちに被害が発生するわけではないという意味において,二酸化炭素の排出と被害の発生との関係は間接的である。 しかし,環境基本法は,現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保を目的とし(1条),被害の発 被害が発生するわけではないという意味において,二酸化炭素の排出と被害の発生との関係は間接的である。 しかし,環境基本法は,現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保を目的とし(1条),被害の発生がその発生原因に照らして直接的であるか間接的であるかを区別していない。 また,環境基本法を具体化する法律である大気汚染防止法も,被害の経路が間接的な場合(光化学オキシダントなど)や,一定量を超えて初めて被害の発生をもたらす場合(一般粉じんなど)を規制の対象としているのであって,それが人の健康や生活環境に被害を生じさせるものである限り,被害が間接的なものであることをもって,「公害」から除外するものではない。 (エ) CO(一酸化炭素)・NOx(窒素酸化物)及びSOx(硫黄酸化物)との類似さらに,二酸化炭素は「物の燃焼に伴い発生する物質」であり,温室効果によって「人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある物質」である点で,大気汚染防止法によって規制の対象とされる「ばい煙」に該当し得るし,さらに,「自動車等の運行に伴い発生する」ガスであり,過剰な排出によって「人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある」点において,同法によって規制される,自動車排出ガスに含めて考えることも可能である。 このように,二酸化炭素は,具体化法である大気汚染防止法が規制対象とする物質と比較しても類似性が認められ,政令の定めによって規制の対象となり得るのであり,環境基本法がこれを「大気の汚染」から除外すべき埋由はない。 (オ) 熱汚染 さらには,地球温暖化によって気温が上昇し,ヒートアイランド現象などがもたらされる場合には,熱による「大気の汚染」といえ,これによる被害は人為的にもたらされたものであって「公 さらには,地球温暖化によって気温が上昇し,ヒートアイランド現象などがもたらされる場合には,熱による「大気の汚染」といえ,これによる被害は人為的にもたらされたものであって「公害」に該当する。 熱汚染による被害も,公害に含めて考えるべきことは,水質汚濁防止法が,温排水などによる熱汚染を公害と捉えていること(同法2条2項2号,3条1号)からも明らかである。 (カ) 米国最高裁判決アメリカ合衆国においては,米国最高裁判決において,大気浄化法上の「大気汚染物質(airpollutant)」の定義である「大気中に排出される,大気を汚染するすべての原因体(agent)であり,すべての物理的(physical)・化学的(chemical)実体(substance)を含む」を文字どおりに解釈し,二酸化炭素その他の温室効果ガスを大気汚染物質と認定している。 ウ二酸化炭素の過剰排出がもたらす被害は「水質の汚濁」による被害に該当すること(ア) 海洋の酸性化による被害水質の「汚濁」とは,大気汚染における「汚染」の意義と同じく,あらゆる水の組成・質の変化を意味すると考えるべきである。 二酸化炭素の過剰排出によって,大気中の二酸化炭素濃度が増加すると,その一部は海洋に吸収され,海水中の水素イオン指数(pH)の低下,すなわち海洋の酸性化を招き,貝類やサンゴの成長の阻害等,海洋生物の生態系に被害をもたらす。 これは,人為的に引き起こされた,海洋の酸性化という「水質の汚濁」によって,被害が生じる場合といえ,二酸化炭素の過剰排出による「公害」に当たる。 (イ) 熱汚染 また,水質汚濁防止法における「水質の汚濁」は,熱によるものも 濁」によって,被害が生じる場合といえ,二酸化炭素の過剰排出による「公害」に当たる。 (イ) 熱汚染 また,水質汚濁防止法における「水質の汚濁」は,熱によるものも含み,温排水についても規制対象となるところ(同法2条2項2号,3条1号),二酸化炭素の過剰排出による地球温暖化は,海水の温度の上昇をも招き,海洋の自然生態系の破壊などの生活環境に被害をもたらす。 これは,人為的に引き起こされた海水温の上昇という「水質の汚濁」によって被害が生じる場合として,二酸化炭素の過剰排出による「公害」に当たる。 エ二酸化炭素の過剰排出がもたらす被害は「地盤の沈下」による被害に該当すること(ア) 海面の上昇は「地盤の沈下」に該当すること「地盤の沈下」とは,地表面が沈む現象をいうが,地表面の高さは,一般に,標高を基準として測定される。そして,我が国においては,東京湾の平均海面(T.P)が標高の基準と定められている。すなわち,地表面の高さは,海面の高さとの相関関係で捉えるほかなく,海面が上昇すれば,相対的に,地表面は沈むことになるのであり,これは「地盤の沈下」に当たる。 地盤の沈下によって発生し得る高潮や洪水といった浸水被害の観点からみても,実質的な被害の発生の機序からも,両者は同視することが妥当である。 (イ) 二酸化炭素の過剰排出と海面上昇二酸化炭素の過剰排出により,地球温暖化が進むことによって,海水の膨張や極地などの氷床の融解が発生し,これに起因して,既に地球上において海面の上昇が生じており,IPCCの評価報告書は,海面は今後も更に上昇すると予測している。 このように二酸化炭素の過剰排出により,地球温暖化が進み,これによって海面が上昇す 球上において海面の上昇が生じており,IPCCの評価報告書は,海面は今後も更に上昇すると予測している。 このように二酸化炭素の過剰排出により,地球温暖化が進み,これによって海面が上昇することによって生じる被害は,人為的に引き起こさ れた「地盤の沈下」による被害といえ,二酸化炭素の過剰排出による「公害」といえる。 オ公害紛争処理法の制定過程においても,地球温暖化は「公害」と認識されていたこと公害調停の基礎となる法律である公害紛争処理法は,社会の経済成長に伴う公害の多発に対応し,民事裁判による司法的解決とは別に,手続の形式的厳格性を緩和し,紛争の迅速かつ適正な解決を図ることを旨とする公害紛争処理制度の確立を目指して制定された。 この公害紛争処理法の制定過程においては,衆議院の特別委員会において,参考人が公害の一例として地球温暖化を採り上げるなどしており,公害紛争処理法の制定時においても,地球温暖化は「公害」として認識されていた。 このことからも,公害紛争処埋法上の「公害」には,地球温暖化を含めて考えるべきである。 カ地球温暖化の社会的意味(公害との共通性)上記に述べたように,地球温暖化問題は人に対して被害をもたらし,それは人為的な要因に基づくという意味で,これまで社会が経験してきた公害と全く同質の現象である。 日本における公害としては,4大公害(水俣病・第2水俣病・イタイイタイ病・四日市ぜんそく)が有名であるが,その他多数の大気汚染・水質汚染等の公害による甚大な被害を経験してきた。 それらの公害問題に対する法的解決は,以下のような特徴を有すると考えられる。すなわち,①加害行為は有害物質を排出する大企業(単数又は複数)による産業活動であり,被害者は当該有害物質に た。 それらの公害問題に対する法的解決は,以下のような特徴を有すると考えられる。すなわち,①加害行為は有害物質を排出する大企業(単数又は複数)による産業活動であり,被害者は当該有害物質により生命・身体・財産等に対して被害を受ける個々の住民であること,②加害者による有害物質排出行為と被害との因果関係の証明は単純ではなく,科学による専門 的な解明が必要不可欠であること,③被害者が何のいわれもなく被害を受けるのにもかかわらず,(通常なら資力のない)一個人で加害行為や因果関係を証明することは困難を極め,逆に加害者である企業は産業活動を行い豊富な資力や人的資源を有するという状況にあっては,伝統的な不法行為の枠組では公平な解決が期待できず,それ故に公害問題に特有の被害者救済への考慮が必要不可欠であること等である。 これらの公害間題の特徴は,地球温暖化でも全く同様である。 第1に,地球温暖化においては,一方で,温室効果ガスを大量に排出する一部の加害者が存在する。そもそも被害者であっても汚染物質排出を行うこともあり(例えば,大気汚染の被害者自身が自動車を使用して大気汚染物質拡散にごく僅かに寄与することもあるだろう。),その意味で公害における被害者と加害者とは相対的な概念である。これを地球温暖化問題について見れば,確かに温室効果ガスを排出するのは一部の者ではなく全員であり,被害者となる一個人であっても微々たる量の温室効果ガスを排出している。しかしながら,そのような一個人との対比において,産業活動の結果として大量の温室効果ガスを排出する大企業は,単一主体として地球温暖化に寄与する程度が桁違いに大きく,伝統的な公害事例における汚染物質排出企業と同様に,まさに加害者と評価すべきである。他方で,地球温暖化の悪影響により現実に被害を受け 企業は,単一主体として地球温暖化に寄与する程度が桁違いに大きく,伝統的な公害事例における汚染物質排出企業と同様に,まさに加害者と評価すべきである。他方で,地球温暖化の悪影響により現実に被害を受ける被害者が多数存在する。被害者の典型がツバルの住民である。ツバルの住民は,ごく僅かな温室効果ガスしか自ら排出しない一方で,甚大な被害を受けており,この理不尽さに鑑みれば,彼らを被害者と評価する以外ない(上記①)。 また,第2に,加害者が排出する温室効果ガスが地球温暖化という地球規模の現象を介して被害者に被害を与える様子は,有機水銀が魚を介して人の健康被害を惹起するのと同じく,目に見えるわけではなく,複雑な自然現象を科学的に解明しなければ説明できないものである(上記②)。 第3に,温室効果ガスを大量に排出する加害者は皆,産業活動の一環として化石燃料を大量に消費してそれによる利益を得ている者であり,例外なく,資金的にも人的にも豊富な資源を有している。それに対して,地球温暖化により被害を受けるのは,微力な一個人である。豊富な資金を有しながら加害行為たる産業活動を継続する加害者との対比において,地球温暖化に対してほとんど全く寄与していないにもかかわらず,一方的に被害を受ける者たちが迅速に救済を受けるべき必要性は,極めて高い(上記③)。 以上,要するに,地球温暖化における加害と被害との状況は,伝統的な公害の利害状況と全く同質であり,伝統的な公害における加害と被害との関係が一地域に限られていたのに対して,地球温暖化問題ではそれが全地球的な規模に拡大したにすぎないのである。この点から,地球温暖化問題は,いわば「現代型」公害ともいえる。 2 被害の具体性(1) 地球温暖化の将来予測・被害の確実性(IPCC)原告らは,こ 拡大したにすぎないのである。この点から,地球温暖化問題は,いわば「現代型」公害ともいえる。 2 被害の具体性(1) 地球温暖化の将来予測・被害の確実性(IPCC)原告らは,このまま二酸化炭素の排出が放置されれば,地球温暖化は確実に進行するとともに,それに伴って著しい気候変動が生じるため,原告1人1人に対して被害が具体的に生じると主張している。この被害発生の確実性,削減の必要性は科学の要請である。 IPCCは,1990年(平成2年)以来,第1次から第4次までの評価報告書をまとめ,第5次の評価報告書も作成中である。2007年(平成19年)の第4次評価報告書では,「気候システムの温暖化には疑う余地がなく,大気や海洋の世界平均温度の上昇,雪氷の広範囲にわたる融解,世界平均海面水位の上昇が観測されていることから今や明白である。」と報告し,人為的な活動により世界の気温が上昇していることを明らかにした(2013年(平成25年)に取りまとめられた第1作業部会報告書(甲31)で は,気候システムの観測された変化を検討し,気候変動をもたらした要因,そして,将来の気候変動について記述がなされているが,同報告書は,人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の主な要因であった可能性が極めて高い(95%以上の確率)と指摘し,温室効果ガスの継続的な排出は,更なる温暖化と気候システム全ての要素の変化をもたらし,気候変動を抑制するには,温室効果ガス排出量の大幅かつ持続的な削減が必要であると,第4次評価報告書に続いて警鐘している。)。そして,地球温暖化の進行とともに異常気象の頻度が増し,極端さを増し,熱波,熱中症による被害,洪水,土砂災害の被害,海面上昇による被害,種の絶滅,生物の生息・生育状況の変化,農業,漁業への悪影響ももたらさ 地球温暖化の進行とともに異常気象の頻度が増し,極端さを増し,熱波,熱中症による被害,洪水,土砂災害の被害,海面上昇による被害,種の絶滅,生物の生息・生育状況の変化,農業,漁業への悪影響ももたらされるのである(2014年(平成26年)に取りまとめられた第2次作業部会報告書(甲32)では,第4次評価報告書以降に公表された新たな知見を基に,観測された影響と将来の影響,及び,脆弱性について地域・分野別に,より具体的に評価するとともに適応策についても実際の適用を念頭に整理されており,現在既に温暖化の影響が広範囲に観測されていることが示されるとともに,気候の変動性に対する生態系や人間システムの著しい脆弱性を明らかにしており,また,将来に関しては,温暖化の進行がより早く,大きくなると,適応の限界を超える可能性があることも指摘している。)。 かつては大気により二酸化炭素を吸収する能力が有限であるなどという考えがなかったところから,先進国による二酸化炭素の過剰な排出が何らかの被害を生み出すなどという発想などなかった。しかしながら,現在では先進国の,とりわけ大口排出者であるエネルギー転換部門の過剰排出が,気候変動による危害をもたらすという考えにたどり着いたというべきである。それは,気候変動に関する国際連合枠組条約(以下「気候変動枠組条約」という。)が効力を発生させている今日の国際社会においては,エネルギー転換部門である電力会社の過剰な二酸化炭素の排出とこれから起こり得る気候変 動被害とは法的にも相当因果関係に立つという認識に立っているということを意味するのである。 本件各申請に係る調停の被申請人ら(本件電力会社ら)は,二酸化炭素の排出につき,日本全体の33.8%,世界の1%以上を占める,まさに大口排出者である。これに加え,排出量を削減す 意味するのである。 本件各申請に係る調停の被申請人ら(本件電力会社ら)は,二酸化炭素の排出につき,日本全体の33.8%,世界の1%以上を占める,まさに大口排出者である。これに加え,排出量を削減する手段が極めて明確で,削減量についても巨大な可能性を有している。本件電力会社らの排出量の削減によって,原告らにもたらされる被害は確実に軽減される関係にあるといえる。 (2) 生物の生息域の減少,絶滅ア自然生態系分野(ア) 自然生態系被害人は自然生態系の一部として進化し,文化を築き上げてきた。高度に文明が発展している現代においても,人は生態系から経済的,文化的資源を得ており,欠くことができない存在である。自然生態系も,地球の歴史の中で,環境の変化に適合してきたが,適合性にも限度があり,生息適地を変えるのにも限度がある。特に植物は動物と異なり,自ら移動ができず,適合できなければ絶滅を待つだけとなる。 急速な温暖化は,自然生態系を破壊し,その結果,自然生態系の一部として進化してきた人の文化,生活を破壊する危険性をはらんでいる。 (イ) 自然の権利原告らはホッキョクグマなどを含めた自然生態系の利益を代弁して擁護するのであり,それは同時に自然的利益を享受する利益の防御でもある。 よって,本件は「自然の権利」を主張するものである。 イホッキョクグマ(ア) ホッキョクグマの生態ホッキョクグマは北極圏にのみ生息する世界最大のクマであり生涯の ほとんどを氷で覆われた海の上で過ごす。主食はアザラシで,氷の上のアザラシに忍び寄って狩りを行う。そのため,ホッキョクグマの生息地における流氷の存在は,ホッキョクグマが狩りを行う上で必要不可欠なものである。 で覆われた海の上で過ごす。主食はアザラシで,氷の上のアザラシに忍び寄って狩りを行う。そのため,ホッキョクグマの生息地における流氷の存在は,ホッキョクグマが狩りを行う上で必要不可欠なものである。 (イ) 地球温暖化の北極圏における影響IPCC第4次評価報告書によると,北極圏は地球温暖化による平均気温の上昇率が地球上でもとりわけ高い。また,アメリカ合衆国のGFDL(地理的流体動力研究所)は,このまま地球温暖化が進むと,2050年(平成62年)には北極圏の結氷範囲が1900年代の80%に減少すると予想している。 (ウ) 温暖化によるホッキョクグマの被害氷上を主な生息地とするホッキョクグマにとって地球温暖化の影響は極めて深刻である。具体的には,氷上で狩りのできる期間の短縮や,主食のアザラシの捕獲不十分,ひいては母グマの栄養不足による子グマの発育への深刻な影響がある。その結果,ホッキョクグマの総個体数は減少し,ICUN(国際自然保護連合)やアメリカ合衆国では,絶滅の危機が高まっているとの意見も出始めている。したがって,ホッキョクグマに対する被害は極めて具体的かつ現実的であるといえる。 ウその他(サンゴの白化,シカの分布域拡大)温暖化による生物の生息域に与える影響は,世界各地でのサンゴの白化現象や日本の中山間地でのシカの分布域の拡大という形でも生じている。 (3) 海面水位の上昇温暖化が進行すれば,海面水位が上昇し,特に沿岸域では高潮や浸水による被害の増加が懸念されている。 ア海岸域の喪失(ツバルの例)小島しょは特に海面上昇によるぜい弱性が高く,太平洋島しょ国の一つ であるツバルは,海面上昇による影響が最も目に見える形で現れてい いる。 ア海岸域の喪失(ツバルの例)小島しょは特に海面上昇によるぜい弱性が高く,太平洋島しょ国の一つ であるツバルは,海面上昇による影響が最も目に見える形で現れている。 (ア) 海岸線の浸食ツバルにおける海岸線浸食の進行は,砂浜の喪失やアダン,ヤシの木の流失などに現れている。現地調査の結果,海岸線が住宅直近に至っている家も存在することが確認された。住民らからの聞き取りによれば,最近10年から20年程度の浸食の進行が著しい。フナフティ環礁では,1942年(昭和17年)作製の地図で確認できるビリビリ島が,現在は既に消失している。 (イ) 海水の浸水被害ツバルでは,島内部での浸水も進行している。現地調査でも,海水が内陸の地面から噴き出して辺り一帯を水浸しにしてしまう現象が確認されており,これにより民家の床下も浸水被害を受けている。また,海水により作物の収穫が激減するという状況に陥っている。海抜0ないし3m程度の高さしかないこの国では,潮位の上昇は直ちに生活に影響を及ぼす。 (ウ) 海水温の上昇さらに,海水温の上昇により,島を構成するさんご礁が白化し,付近に生息する魚類の減少や魚種の変化を引き起こしている。 (エ) 環境難民化の危機海面上昇の懸念の中,50年以内に人の住めない土地になることが危惧されたことにより,2000年(平成12年)2月,ツバル政府は,およそ30年以内に国民全員を国外へ移住させることを目標に,オーストラリアとニュージーランドヘ国民の受け入れを要請した。これは「環境難民」としての国外脱出にほかならない。 イ世界的な状況世界各地の海面水位の測定記録などに基づき算出された1870年(明 ラリアとニュージーランドヘ国民の受け入れを要請した。これは「環境難民」としての国外脱出にほかならない。 イ世界的な状況世界各地の海面水位の測定記録などに基づき算出された1870年(明 治3年)以降の世界平均海面水位の推移は,世界平均の海面水位が長期的に上昇していることを示しており,20世紀を通じた海面水位の上昇量は0.17±0.05mと見積もられている。 ウ今後予測される現象(ア) 海面水位の上昇今後,温暖化の進行に伴い,世界の平均海面水位は更に上昇すると予測されている。グリーンランドの氷床及び西南極氷床が完全に融解すれば,それぞれ,最大7m及び5mの海面水位の上昇が起こるとされている。 日本において,標高10m以下の沿岸地域に住む人口の割合は27%であり,約2700万人が海面水位の上昇のリスクを負う可能性がある。 (イ) 高潮による被害温暖化によって40cmの海面水位の上昇が生じれば,それは気圧40hpの減少による潮位の上昇に相当する。日本では,三大湾(東京湾,伊勢湾及び大阪湾)の奥部において,古くに開発された埋立地とその周辺で高潮による浸水の危険性が高いと指摘されている。 エ小括ツバルの例に見られるように,温暖化がもたらす海面水位の上昇は,日々の生活に対し直接的な影響を及ぼすものであり,本件のツバル国民らである原告らについて,既に具体的な被害は生じているということができる。 (4) 水資源の影響地球温暖化の水資源に対する影響は,①豪雨の増加影響に伴う,洪水被害の増加,斜面災害の増加,貯水池の土砂堆積問題,②気温上昇に伴う積雪水資源の減少,渇水頻度の増加に伴う水供給の変化が挙げられる。そして,こ れらの影 響は,①豪雨の増加影響に伴う,洪水被害の増加,斜面災害の増加,貯水池の土砂堆積問題,②気温上昇に伴う積雪水資源の減少,渇水頻度の増加に伴う水供給の変化が挙げられる。そして,こ れらの影響によって,具体的被害が原告ら各人に生じる。 ア豪雨の増加(ア) 洪水被害の増加温暖化により,2030年(平成42年)頃には50年に一度の豪雨が30年に1回の頻度に,100年に一度の豪雨が50年に1回の頻度に増加すると予想されている。この豪雨の頻度の増加により,特に大都市圏や太平洋沿岸,山岳地域の豪雨の頻度と強度が大きくなり洪水のリスクが増大する。これにより当該地域住民に対し生命,身体の安全及び財産に甚大な被害が生じるのであり,このような具体的被害が原告らの各人にも及ぶのである。 (イ) 斜面災害の増加温暖化により,豪雨による斜面崩壊発生危険地域は都市周辺にまで迫り,特に中国地方や東北地方の都市圏郊外ではそのリスクが高まる。 (ウ) 貯水池の土砂堆積温暖化による斜面災害に伴う土砂生産への影響をみてみると,関東から九州へ,西南日本を縦断する大断層である中央構造線に沿って大きな土砂生産量の増加する地域が拡大し,特に北アルプスから南アルプスにかけては土砂生産量の増加する危険性が高い。これにより土砂災害の危険性が高まり,生命,身体の安全及び財産に甚大な被害が生じる。 また,これによりダム湖の堆砂が増加し,洪水調整機能を減少させるとともに,栄養塩の流出に伴う水質悪化が加速されることになる。 イ渇水被害の増加等(ア) 気温上昇に伴う積雪水資源の減少北陸から東北の日本海側で,温暖化により積雪水資源が減少する。東北地方の米の収穫 が加速されることになる。 イ渇水被害の増加等(ア) 気温上昇に伴う積雪水資源の減少北陸から東北の日本海側で,温暖化により積雪水資源が減少する。東北地方の米の収穫量は全国の4分の1以上であり,全国で最大の米生産地域であるところ,この広大な水田域における水需要を支えているの が,融雪量,積雪水資源である。そのため,温暖化が進行すると,新潟や秋田など米所で代かき期の農業用水となる融雪水が不足する可能性がある。 (イ) 渇水頻度の増加影響(水供給の変化)将来の需要推定値を用いて100年後の水需給バランスを計算したところ,北海道・東北の東岸で水需給バランスが現状よりもひっ迫することが推定され,九州南部と沖縄の水資源は特にひっ迫することが示された。これは降雨の減少が大きいことと,気温の上昇に伴う蒸発量の増加が大きいためである。将来予測に伴う不確実性を考慮しても,九州南部が他の地域より水資源の確保が相対的に困難な状況になることは間違いないとされている。 ウまとめ以上のように,地球温暖化の水資源に対する影響としては,①豪雨の増加影響に伴う洪水被害の増加,斜面災害の増加及び貯水池の土砂堆積問題,②気温上昇に伴う積雪水資源の減少及び渇水頻度の増加に伴う水供給の変化がある。これらの影響は原告ら各人の生命,身体の安全及び財産に具体的被害を生じさせるものである。 (5) 災害ア台風の強度の増大による高潮災害の増大地球温暖化による海水温の上昇,大気の不安定化,蒸発散量の増加等により,台風が大型化,強大化するといわれている。この増大した台風により,高潮,高波,強風が引き起こされ,特に沿岸域での高潮災害が増大すると予想される。 イ海 の不安定化,蒸発散量の増加等により,台風が大型化,強大化するといわれている。この増大した台風により,高潮,高波,強風が引き起こされ,特に沿岸域での高潮災害が増大すると予想される。 イ海岸の浸水堤防などの護岸構造物がないと仮定すると,東京湾,伊勢湾及び大阪湾沿岸において,浸水する可能性のある面積は,満潮位に温暖化による59 cmの海水面の上昇(IPCC第4次評価報告書A1F1シナリオにおける2100年(平成112年)時の予測)と,台風等による高潮分を加えた潮位となった場合,現在の2.7倍になると予想されている。 ウ豪雨の発生頻度の増加温暖化により,2030年(平成42年)頃には50年に一度の豪雨が30年に1回の頻度に,100年に一度の豪雨が50年に1回の頻度に増加すると予想されている。 また,温暖化により,現在においても,狭い範囲に短い時間で集中的に降る豪雨の頻度が増加している。そして,街地や河川において,局地的な大雨とこれによる増水を原因とする災害が報告されている。 エ洪水の増加台風の強度や豪雨の発生頻度が増加すると,河川の上流からの流量が増加し,沿岸の都市部における洪水氾濫のリスクも増大する。豪雨の頻度の増加により,特に大都市圏や太平洋沿岸,山岳地域の豪雨の頻度と強度が大きくなり,洪水のリスクが増大する。 オ沿岸浸食,砂浜の消失温暖化に伴う海面上昇により,日本全国の海岸線が後退し,砂浜が浸食される。30cmの海面上昇により消失する砂浜の価値は1兆3000億円に達すると推定されている。また,消失する砂浜の損害は,砂浜の利用客数が多く,レクリエーション価値が高い神奈川県,新潟県及び沖縄県の砂浜での損害が大きくなると見積もられている。 は1兆3000億円に達すると推定されている。また,消失する砂浜の損害は,砂浜の利用客数が多く,レクリエーション価値が高い神奈川県,新潟県及び沖縄県の砂浜での損害が大きくなると見積もられている。 カまとめこのように,温暖化が原因と考えられる台風,豪雨及び洪水により,既に日本でも死傷者が多数発生し,住宅や家財といった財産を毀損された人々も多数生じている。 (6) 食料分野の危機 自然生態系と同様に,食料も自然環境の影響を大きく受けており,気温の上昇によって害虫の個体数が増加したり,生産に適した環境が減少するなどの理由で,生産量が大きく変化することが予想されている。そして,1℃から3℃までの上昇であれば,潜在的な食料生産量は増加するが,それ以上の上昇となると,潜在的な食料生産量は減少に転じると予想されている。 このように,食料生産量は温暖化と密接に関連しており,食料の減少は,それを業とする人にとっては営利利益の問題であり,そうでない人にとっても生存に直結する重大な問題である。 (7) 熱被害地球温暖化による健康への被害については,直接的な影響と間接的な影響が考えられる。そして,直接的な影響としては,①熱ストレスによる死亡リスク,②熱ストレスの代表疾患である熱中症の発症リスクがあり,間接的な影響としては,③感染症の増加リスクがある。 ア熱ストレスによる死亡リスク日最高気温がある気温(至適気温)のときに熱ストレスによる死亡率が最低となり,気温が至適気温よりも高くても低くても,死亡率は高くなることが明らかとなっている。 日本の平均気温は,平成10年から100年当たりおよそ1.1℃の割合で上昇しており,それに伴い熱帯夜や猛暑日の日数も増加している。 高くても低くても,死亡率は高くなることが明らかとなっている。 日本の平均気温は,平成10年から100年当たりおよそ1.1℃の割合で上昇しており,それに伴い熱帯夜や猛暑日の日数も増加している。 平均気温の上昇や,熱帯夜や猛暑日の増加は,至適気温より高い日の増加を意味し,熱ストレスによる死亡率の増加が強く予想される。 イ熱中症の発症リスク熱中症は,体温調整機能の破綻により起こるが,その発生には外部気温等が影響をしている。そして,同じ温熱条件下でも,生理調整機能に比較的余力のある若い健常者に比べて,調整能力に余力のないハイリスク集団(高齢者,乳幼児等)においては,熱中症の発症リスクは高い。 このように,温暖化による人への影響は直接的であり,夏場の熱中症患者が搬送されたというニュースなどからも明らかなように,今まさに原告らそれぞれに被害が生じているのである。 ウ感染症の増加リスク感染症は蚊などを介して感染するが,温暖化により蚊の分布域の北限は北上しており,感染・流行リスクは増大している。 (8) 社会への影響温暖化により自然生態系が破壊され,食料の生産量が減少したり,水資源が減少することなどによって,限りある資源をめぐる獲得競争が激化し,紛争に発展する危険性がある。そして,紛争へ発達する危険性は社会的基盤のぜい弱な地ほど高くなる。紛争によって脅かされるのは,人の文化,生活であり,それは資源の乏しい日本においても例外ではない。 (9) 上記被害が日本に住所を有する原告ら個々人において個別に生じていること日本に住所を有する第1事件原告らの各人の住所地の状況やその周辺のハザードマップ,気候に関するデータ,各人の年齢や聴取した内容を基に,温暖化によって上述の 人において個別に生じていること日本に住所を有する第1事件原告らの各人の住所地の状況やその周辺のハザードマップ,気候に関するデータ,各人の年齢や聴取した内容を基に,温暖化によって上述の高潮被害,水資源への影響,熱被害等が日本在住の原告個々人において個別に生じていること,又はその危険性が高まることについては,別紙5に記載のとおりである。 3 気候享受権の侵害(1) 気候享受権の定義人は誰もが,温室効果ガス濃度が人類にとって危険ではないレベルで安定した大気組成の中で生きる権利を有している。これは,温室効果ガスの濃度が人類の生存や生命・健康の維持にとって必要不可欠であることから生じる権利である。この権利は,自然権思想が生まれ発展してきた歴史の中で認識されてこなかったものではあるが,それは,これまでの歴史の中で温室効果 ガスの濃度が上昇すると人類の生存が脅かされることになるという事実が認識されてこなかったからである。気候享受権は,人間の活動の大規模化により地球の大気組成までも変えてしまう時代になったことと,科学の発展により温室効果ガス濃度が大気組成に占める割合が人類の生存や健康に対して持つ重要性が判明してきたことに伴い,自然権として認められるべき新しい権利である。 (2) 気候享受権に基づく差止め請求ア気候享受権への侵害行為に対して差止め請求が可能とされるべきこと人は,自己の生命や身体を危険にさらす全ての行為を排除する権利を有するのと同様に,気候享受権に基づき,温室効果ガスを排出することにより,あるいは温室効果ガスの森林や海洋による吸収を阻害することにより人の生命や健康(人類の生存ともいえる。)を危機にさらす活動(以下「危険排出活動」という。)を排除するよう国家に対して することにより,あるいは温室効果ガスの森林や海洋による吸収を阻害することにより人の生命や健康(人類の生存ともいえる。)を危機にさらす活動(以下「危険排出活動」という。)を排除するよう国家に対して要求できる権利及びかかる活動を一定限度まで抑制するよう第三者に対して要求できる権利を包含する。気侯享受権は,個人の生存の基盤となる権利であり,以上のような性質を有するものであるため,その侵害者がたとえ私人であっても,当然に差止めを求めたり,損害賠償を請求したりすることができるのである。 なお,仮に,気候享受権をもって,私人が直接私人に対して差止め等を求めることができないと考えられる場合であっても(すなわち,同権利は,第一義的には,国家に対して,健康的で健全な生活を営める程度の安定した大気組成の中で生活することができるよう,温室効果ガスの危険排出活動に対する具体的な施策を策定し実施するよう求めることができるとの国家に対する請求権の性質を有するものと考え,その上で,第二義的に,国家による具体的な施策が策定・実施された場合,又は国家によるかかる具体的な対策がなされなかったとしても,危険排出活動に対する抑制 基準や対策方法などが,科学的・客観的な根拠を伴って,具体的な施策を待たなくても社会的に広く認知されるに至っているような場合には,国家の具体的な施策が存在しなくとも,人は,危険排出活動を行っている私人に対して,危険排出活動の抑制,差止めを求めることができる,と考えるとの考え方に立った場合であっても),これまでの地球温暖化・気候変動に関する科学的研究の到達点,国際連合の場における議論状況などを踏まえれば,現時点においては既に,2020年(平成32年)までに少なくとも1990年(平成2年)比25%削減,2050年(平成62年)までに少 学的研究の到達点,国際連合の場における議論状況などを踏まえれば,現時点においては既に,2020年(平成32年)までに少なくとも1990年(平成2年)比25%削減,2050年(平成62年)までに少なくとも同年比80%削減という中長期目標に向け,日本国内の大口排出事業者は,少なくとも上記の目標数値に見合った具体的な削減義務が課せられていると考えるべきである。 したがって,人は,かかる削減義務を果たそうとしない大口排出事業者に対して,気候享受権に基づき,温室効果ガスの危険排出活動の差止めを求めることができる(私人に対しても具体的な請求権を有する)と考えるべきである。 イ安定的大気組成を実現するために差し止められるべき具体的な排出量大気中の温室効果ガス安定化の具体的な数値目標は,「気候系に対する人類による危険な干渉を阻止するレベル」と定義されるところ,それは,大気中温室効果ガス濃度(二酸化炭素換算)を475ppmとすべきである(西岡秀三編著『日本低炭素社会のシナリオ』〔日刊工業新聞社〕19頁)。 次に,気候享受権から排除できる対象である「危険排出活動」とは,温室効果ガスを排出し又は吸収を阻害する人類の活動のうち,大気中温室効果ガス濃度(二酸化炭素換算)を将来的に475ppmに安定させるという中長期的目標に反し人類の生存・健康・財産を危機にさらすことに寄与したと評価される程度のものであり,例えば,団体(企業)又は関連性の ある団体(企業)の集まりでもって年間1000万t(二酸化炭素換算)以上の排出をしていれば,それは世界の温室効果ガス全排出量の0.03%以上であって,かかる団体が475ppmに安定させるための大幅な排出削減を行わないのであれば,人類の生存・健康・財産を危機にさらすことに有意に寄与しているというのに十 室効果ガス全排出量の0.03%以上であって,かかる団体が475ppmに安定させるための大幅な排出削減を行わないのであれば,人類の生存・健康・財産を危機にさらすことに有意に寄与しているというのに十分な量である。 ウ特定の侵害行為(排出行為)と被害との間の具体的な因果関係の証明が不要なこと地球温暖化の進行により,甚大な被害が予想されることから,人類にとって,温室効果ガス排出を大幅に削減し大気中の温室効果ガスの濃度を一定レベル(例えば,475ppm〔二酸化炭素換算〕)に安定させることは,いまや緊急の課題となっている。実効的な温室効果ガスの排出抑制を一刻も早く実現しなければ,温室効果ガス濃度は年々上昇していくことは確実であり,その結果,地球上の全ての人の生命・健康を危機に陥れることも明らかになっているのである。しかも,とりわけ先進国が一刻も早く温室効果ガス排出抑制対策をとらなければ,かかる被害の発生は確実である上,仮に直ちに対策をとったとしても,ある程度の被害発生は避けられないがゆえに(近い将来,多くの人命や健康が確実に奪われると予測されている。),上記被害発生は差し迫っているといえる。そのため,人類は,緊急に温室効果ガスの排出抑制のための対策を採るべき状況にあるといえる。この点,短期的可視的な生命等に対する侵害(例えばピストルによる殺人行為)に対してその危険排除を即効的に実現する必要があるのは当然のことであり,それは,個人の尊厳あるいは生存権等から説明するまでもないことである。これと同様に,気候享受権も,人類の生存等を確実に危険にさらす侵害行為を抑制しようとするものである。 すなわち,温室効果ガス大量排出という人類の生存等に対する侵害行為は,それが長期的・潜在的であるとしても,地球温暖化を促進し,人類の に危険にさらす侵害行為を抑制しようとするものである。 すなわち,温室効果ガス大量排出という人類の生存等に対する侵害行為は,それが長期的・潜在的であるとしても,地球温暖化を促進し,人類の 生存等を危険にさらしていることが科学的に確実な方法で証明されている(IPCC第4次評価報告書参照)のであるから,それは短期的可視的な生命等に対する侵害(例えば殺人行為)と何ら質的に変わることではない。 むしろ,前述の熟成した科学的知見を踏まえれば,人にピストルを向けて拳銃を発射しようとする行為を人の生命侵害との因果関係をわざわざ問題とせずして禁止する(差し止める)のと同様に(ピストルから発射された弾丸が,0.1秒ではなく10年又は20年先に確実に被害者に到達する場合にも,それが確実に被害者に到達するのであれば,禁止しない理由はない。),地球温暖化及び気候享受権の文脈においても,個別の人の生存・健康等が特定の侵害行為により危機にさらされているという個別の因果関係の具体的な証明がなくとも,その科学的に明白な危険性を根拠に,人が温室効果ガス排出抑制を具体的に請求できるべきである。 4 その他の要件(1) 根本的な解決の可能性についてア根本的な解決の可能性の要件は不要であること(ア) 公害紛争処理制度の趣旨公害等調整委員会は,本件各却下決定において,公害紛争処理制度が「特定の原因者と特定の被害者との間に生じた具体的な紛争の解決を図る制度である」として,「国内の排出主体の一部である被申請人らのみとの間における互譲により根本的に解決できる問題ではない」とした。 しかしながら,公害調停による解決が,当該公害問題の根本的な解決に直結しなければならないという定めは一切存在せず,これを調停の要件とするこ おける互譲により根本的に解決できる問題ではない」とした。 しかしながら,公害調停による解決が,当該公害問題の根本的な解決に直結しなければならないという定めは一切存在せず,これを調停の要件とすることはできない。 そもそも,公害紛争処理制度では,裁判等それまでの紛争処理手続で問題の根本的解決が困難と思われるような事案であっても,行政との連 携を図ることで当該公害問題の全体的な解決に向けた方策を探ることが制度の根幹であるとされている。このような制度趣旨に鑑みれば,公害調停の根本的解決の可能性を要件とした上で,これを漫然と否定し,調停の申立て自体を却下することは許されない。 (イ) 公害紛争処理法制定時の議論公害紛争処理法制定時の議論では,以下に述べるように,同法の理念や,公害問題の性質から,特定の者との関係だけでは解決が難しい事案についても,広く調停の申請を受け付け,行政措置その他と関連して全体的な解決が図られるべき旨が述べられている。 a 第61回国会の衆議院産業公害対策特別委員会における金澤良雄東京大学教授の発言(昭和44年6月25日。甲4の3)同人の発言は,そもそも公害紛争の解決は,調停のみにより根本的な解決を図ることは難しく,調停等の公害紛争処理法上の手続を契機として,行政権限の発動など他の方策と緊密な関連を持ちながら,全体として合理的な公害の紛争処理が行われるべきことを述べたものである。したがって,公害の性質から,調停のみでの公害紛争の根本的解決が図られるべきことは,立法の当時より期待されていなかったものであることが分かる。むしろ,同法上の手続のみでは,公害紛争の根本的な解決が図られないことが当初より予期されていたからこそ,同法48条に行政機関への意見の申出の制度が創られ,行 されていなかったものであることが分かる。むしろ,同法上の手続のみでは,公害紛争の根本的な解決が図られないことが当初より予期されていたからこそ,同法48条に行政機関への意見の申出の制度が創られ,行政機関との連携による,紛争全体の合理的な解決を図ることが求められているといえる。 よって,公害調停のみによる紛争の根本的解決を,公害調停開始の要件とすることは失当である。 b 第63回国会の参議院公害対策特別委員会における山中大臣の発言(昭和45年5月6日。甲4の5) 山中大臣は,公害問題について,自分たちが何かしなければならないという意味での原因者であることを認めている者と,調停という場で話合いをすることによって,紛争の解決を目指すべきことを述べている。 大気汚染や水質汚濁などの公害問題において,因果関係を特定するのは困難であるが,原因の一部を担っていることを認める排出者がいる場合に,司法権によらず,行政として調停の機会を設けることができれば,その中で解決を図ることができる事案が存在する。公害紛争処理制度は,そのような司法権によっては救済困難な被害者のための制度であることを明言している。 また,同日の会議において,片山武夫委員からの,自動車交通量の多い工業地帯において,健康を害するような事態が起きたが,自動車の排気ガスが原因なのか煙突からの排煙が原因なのか,すぐには判断できないというような事案の場合,どのような対応ができるのかという趣旨の質問に対し,行政として被害者の立場に立ち,積極的に解決に向けた取組をすべき旨を明らかにしている。公害紛争処理法が,法制度上,被害者の立場に立って考えるよう設計されていることを明らかにし,排出源が多様で,法的な因果関係が特定できない,有効な解決策について特定できないというよ 明らかにしている。公害紛争処理法が,法制度上,被害者の立場に立って考えるよう設計されていることを明らかにし,排出源が多様で,法的な因果関係が特定できない,有効な解決策について特定できないというような場合であっても,公害紛争処理制度によって,「結論を出す努力」をし,被害者のために,解決に向けた取組をすべき旨を明言したのである。 上記各発言のように,山中大臣は,公害の原因が複数あり,因果関係の証明が困難な事案であっても,被害者のために,公害紛争処理制度を活用すべきであるとしているのである。確かに,公害原因物質が複数ある場合には,一部の者との話合いでは,問題を根本的に解決することは難しい。しかし,同制度の中で,原因者として何かしなけれ ばならないと考えている者との間で,話合いの機会を持つことにより,解決に向けた取組を行うことが有効であることを認めている。そして,被害者のための制度である公害紛争処理制度では,このような事案にも積極的に取り組むべきとしているのである。 c 第63回国会の衆議院産業公害対策特別委員会における都留教授の発言(昭和45年4月10日。甲4の4)都留教授の発言は,公害問題の特徴と,それに対応するための制度の必要性を述べたものである。 量が増えることによって質的な変化をもたらし,その結果,人体に対する悪影響を及ぼすという特徴を持つ公害問題においては,複数の排出源がある場合には,特定の排出源のみを対象として,解決のための話合いを持ったとしても,他の排出源の排出抑制が図られなければ,事案の解決にはつながらない場合も存在している。しかし,そのような場合であっても,何ら取組をしないのではなく,これに対する対策として,新しい枠組みが必要であると指摘しているのであり,その一つの枠組みが公害 決にはつながらない場合も存在している。しかし,そのような場合であっても,何ら取組をしないのではなく,これに対する対策として,新しい枠組みが必要であると指摘しているのであり,その一つの枠組みが公害調停であるとしているのである。 すなわち,このような量の質への転化という特徴を持つ公害問題につき,一部の原因者との間でも調停を行い,当事者の互譲により,調停の当事者たる排出事業者に防除対策を行わしめるとともに,行政との連携を図ることによって,その他の排出源を含めた全体的な解決を図るような枠組みの有用性を指摘している。かかる発言は,前述の山中大臣の発言と問題意識を共にするものであり,このような場合にも,公害紛争処理制度が積極的な役割を果たすべきことを明らかにするものである。 イ 「根本的」な解決の可能性までは要求されないこと(ア) 公害調停の制度趣旨 本件各却下決定の理由では,当事者の「互譲により根本的に解決できる問題ではない」ということを挙げている。しかし,前述のとおり,問題となった事象が当事者の互譲によって根本的に解決可能かということを公害調停の要件とするのは,明らかに誤りである。仮に,公害調停の開始の要件として解決の可能性が考慮されるとしても,「根本的」な解決の可能性までその要件と考えるのは,明らかに誤りである。 そもそも,公害調停制度が導入された背景には,四大公害病を始めとした公害問題が社会問題化した際に,公害問題を司法において事後的に解決することの限界が認識されるに至ったことがある。司法による解決は,対立当事者間の紛争を厳格な手続によって事後的に解決することを特色とするのであり,継続的に広範囲で損害が発生し,原因と損害の間の因果関係の立証に困難を伴うなどの特色を有する公害問題について迅 は,対立当事者間の紛争を厳格な手続によって事後的に解決することを特色とするのであり,継続的に広範囲で損害が発生し,原因と損害の間の因果関係の立証に困難を伴うなどの特色を有する公害問題について迅速に対応するには難しい面があった。このような公害問題の司法による解決の限界を補うため,行政が専門的知識に基づいて柔軟迅速かつ適正な解決を図ることを目的として公害紛争処理制度が設計され,公害調停制度も導入されたのである。 このような背景の下,公害問題の柔軟迅速かつ適正な解決を図ることを目的として公害調停制度が導入されたことからすれば,その申立ての段階で厳格な要件を課し,実質審理にすら入らず門前払いすることを容易にするような解釈はすべきではない。 仮に,当事者の互譲によって問題全体の根本的解決が図られないとしても,問題となっている状況の改善につながるような可能性があるのであれば,調停を開始することが必要である。調停自体によって,公害問題の全体的な解決が実現できないとしても,その審理や行政との連携を通じて,問題の解決につながることが期待できるのであり,それこそが柔軟な解決を図るという制度趣旨にも合致するものといえる。 公害紛争処理法48条は,公害等調整委員会及び都道府県公害審査会が行政庁に対して公害防止に関する施策の改善について意見を述べることを認めており,公害紛争処理法自体が紛争解決機関と行政機関の連携による公害問題の解決を求めているものといえる。 以上のような公害調停の制度趣旨からいっても,公害調停の要件として,「根本的」解決可能性を要求することは明らかに誤りであり,公害調停やその後の行政との連携なども通じて,問題の解決につながる可能性があるのであれば公害調停を開始すべきである。 (イ) 一部原因者を被申請者とする調 要求することは明らかに誤りであり,公害調停やその後の行政との連携なども通じて,問題の解決につながる可能性があるのであれば公害調停を開始すべきである。 (イ) 一部原因者を被申請者とする調停本件各申請は,二酸化炭素の大量排出者である本件電力会社らを相手として二酸化炭素の排出削減を求めるものであるが,二酸化炭素の排出者は,本件電力会社ら以外にも存在するのであり,その意味で,気候変動問題についての一部の原因者を相手にした調停であるといえる。本件各却下決定においては,このような一部の原因者を相手にしているという意味で,当事者の互譲により問題の根本的解決を図ることができないといっているものと解される。 しかしながら,スパイクタイヤの問題に関する公害調停では,一部のスパイクタイヤの製造メーカーを相手にするものであったが,調停を行っており,問題の根本的解決ができないとして却下の決定がされることはなかった。 そして,かかる公害調停をきっかけとして,スパイクタイヤに対する行政機関による使用規制,立法機関による法律の制定につながったのであり,公害調停自体が問題の根本的な解決につながらなくても,公害調停を行うことに大きな意義があることを示しているといえる。 また,大気汚染の問題については,原因物質の排出者は多数存在するという特質がある。しかし,かかる問題については,一部の排出者であ る工場のみを相手方とする民事訴訟や調停も,当然に受け付けられ,実質的な審理が行われている。したがって,公害調停のみ,一部の原因者に対する申立てであることを理由として,却下されるのは不当である。 このような点からいっても,公害調停の要件として,「根本的」解決を求めることは誤りである。 (ウ) 米国最高裁判決について であることを理由として,却下されるのは不当である。 このような点からいっても,公害調停の要件として,「根本的」解決を求めることは誤りである。 (ウ) 米国最高裁判決について米国最高裁判決は,EPA(米国環境保護局)の自動車からの二酸化炭素の排出に関する規則制定権が問題とされたものである。かかる判決においても,争訟性を前提とする訴訟対象事項であるにもかかわらず,訴訟によって「根本的に解決できる問題」に限定することはせず,相手方が対策をとることによって,地球温暖化の進行を遅らせることができるのであれば,原告適格を認めることができると述べられているのである。 一方,本件は,公害問題の柔軟な解決を目的の一つとしている公害調停の申立てであるから,その調停開始の要件は,訴訟の要件のように厳格な争訟性の判断は求められていないというべきである。米国最高裁判決に照らしても,公害調停開始の要件として,問題の「根本的」な解決可能性を求めるのは誤りである。 (エ) 小括以上のとおり,公害調停の開始の要件として,問題の「根本的」な解決の可能性を求めるのは誤りであり,仮に,問題の解決の可能性が考慮されるとしても,問題の「根本的」な解決の可能性まで求められるものではなく,公害調停や行政機関との連携などを通じて,問題の改善や解決の可能性があるのであれば,公害調停を開始すべきであり,それこそが公害調停制度の趣旨に合致する運用である。 ウ公害調停による解決の可能性 (ア) 公害調停における解決の可能性の意義本件各却下決定の理由の一つとして,地球温暖化問題が,当事者の互譲のみによって根本的な解決ができないことが挙げられている。仮に,公害調停の要件として解決の可能 おける解決の可能性の意義本件各却下決定の理由の一つとして,地球温暖化問題が,当事者の互譲のみによって根本的な解決ができないことが挙げられている。仮に,公害調停の要件として解決の可能性が考慮されるとしても,以下に述べるように,本件電力会社らを相手にした公害調停によって,地球温暖化問題が解決する可能性が認められるのであり,本件各申請に係る調停は,地球温暖化問題の全体的解決に効果的に結び付く,公害調停の趣旨に合致した紛争であるといえる。 a 本件電力会社らによる二酸化炭素の排出の削減後述するように,本件電力会社らは,二酸化炭素の大量排出業者である。このような大量排出業者である本件電力会社らが,二酸化炭素の排出量を大幅に削減すれば,それのみで地球温暖化問題の全面的な解決はできないとしても,大気中の二酸化炭素の濃度を下げることができるのであり,それによって被害の減少及び防止に役立つといえる。その意味で,本件各申請に係る調停は,地球温暖化問題の解決につながる可能性があるといえる。 b 公害調停による個別被害の救済・軽減そもそも,公害調停の目的は,地球温暖化問題の全面的解決ではなく,地球温暖化によって申請人にもたらされる個別の被害の救済,軽減にある。したがって,公害調停における解決可能性についても,公害調停が,個別被害の救済,軽減につながるかという視点から考慮する必要がある。 c 本件各申請に係る調停による波及効果また,公害調停による解決の可能性を検討するに当たっては,公害調停が及ぼす波及効果についても考慮に入れる必要がある。 前述のとおり,スパイクタイヤ問題の公害調停の事例では,スパイ クタイヤの一部製造メーカーに対する公害調停の申立 に当たっては,公害調停が及ぼす波及効果についても考慮に入れる必要がある。 前述のとおり,スパイクタイヤ問題の公害調停の事例では,スパイ クタイヤの一部製造メーカーに対する公害調停の申立てがきっかけとなり,行政機関による規制や,立法府による規制法の制定などが実現し,スパイクタイヤ問題の全体的解決につながった。 公害紛争処理機関と行政や他の機関が連携することによる公害問題解決の実現は,公害紛争処理法自体が期待するものである(同法48条参照)。そして,本件においても,本件電力会社らは日本国内における二酸化炭素の大量排出業者であり,日本国内でも有数の大企業である。このような本件電力会社らが積極的に二酸化炭素の排出の削減を行うとすれば,他の業種への影響も期待される上に,行政機関もより積極的に温暖化問題への対策に取り組むことが期待できる。したがって,本件各申請に係る調停がきっかけとなって,日本における温暖化対策が進展し,状況が大きく改善される可能性がある。このように,本件各申請に係る調停による波及効果が大きく広がるとすれば,本件各申請に係る調停によって,個別被害の救済や軽減においても大きな成果が上がることが期待できる。 よって,仮に本件各申請に係る調停による解決の可能性を考慮するとしても,その可能性は公害調停のみによる効果にとどまるのではなく,波及効果をも含めた,より広い意味での効果に着目し考慮すべきである。そして,本件各申請に係る調停が及ぼすであろう波及効果も考慮すれば,本件各申請に係る調停が温暖化問題の解決に直結する可能性があることは十分に認められる。 (イ) 本件各申請に係る調停による解決の可能性についての根拠a 本件電力会社らの二酸化炭素の排出量本件各申請に係る調停は,本件電力会社 とは十分に認められる。 (イ) 本件各申請に係る調停による解決の可能性についての根拠a 本件電力会社らの二酸化炭素の排出量本件各申請に係る調停は,本件電力会社らに二酸化炭素の排出の削減を求めるものであるが,被申請人である本件電力会社らはいずれも日本国内における二酸化炭素の大量排出者である。 日本における平成19年度の二酸化炭素の排出量を例にとると,二酸化炭素の全排出量のうち,電力などのエネルギー転換部門が33. 8%を占めている。また,事業所ごとの排出量を見ても,発電所が,温室効果ガスの全排出量のうち30.3%を占めている。 このように本件電力会社らは,日本における二酸化炭素の排出量の大きな部分を占めており,その占める割合は,現在に至るまで大きな変化はない。したがって,このような大量排出者である被申請人らが,温室効果ガスの排出の削減を積極的に進めるとなれば,温暖化問題に与える影響も決して小さなものとはいえない。 b 電力会社の排出削減義務上記のように,日本における本件電力会社らの温室効果ガス排出の割合は非常に高いものであるが,その一方,被申請人である本件電力会社らは,地域ごとにほぼ独占的に電力を売ることによって大きな利益を上げている。すなわち,地球温暖化に大きく寄与しながら,自らは多額の経済的利益を上げているのである。 汚染者負担の原則からすれば,地球を大量の温室効果ガスを排出することによって汚染しながら,多額の利益を上げている電力会社は,温室効果ガスの排出を削減し,地球温暖化を防止する義務があるといえる。 c 本件電力会社らの排出削減能力電力会社における二酸化炭素の排出量の大部分を占めるの 電力会社は,温室効果ガスの排出を削減し,地球温暖化を防止する義務があるといえる。 c 本件電力会社らの排出削減能力電力会社における二酸化炭素の排出量の大部分を占めるのが火力発電所からの排出である。そして,火力発電所における二酸化炭素の排出量を分析すると,石炭火力発電所が,単位燃料当たりの二酸化炭素の排出量が最も多く,液化天然ガス(LNG)発電所は最も少ない。 また,発電効率の点からいっても,石炭火力発電よりも,LNG火力発電の方が優れている。発電量1kW時当たりの二酸化炭素の排出量 (kg-CO2/kWh)を比較すると,LNG火力発電の平均値は,0.43kg-CO2/kWhであるのに対し,石炭火力発電の平均値は,0.86kg-CO2/kWhである。 このような各発電設備の性能の差から,従来型の石炭火力発電所を最新型のLNG火力発電所に転換することで,従来の発電量を維持しながら,二酸化炭素の排出量を約60%削減することが可能となる。 また,このような設備の転換に加え,電力使用のピーク時に電気料金単価を高くするなどの変動型電力料金の導入などにより,電力会社が需要者を省エネに誘導する方法の採用や,再生可能エネルギーによる発電の導入などにより,電力会社が温室効果ガスの大幅な排出削減を行うことは可能なのであり,その能力も十分に有している。 d 海外の情勢(a) 世界における地球温暖化に対する危機意識と気候変動枠組条約に基づく取組地球温暖化問題に対しては,世界的にその危機意識が共有されている。IPCCは,これまで4度にわたり地球温暖化問題に関する評価報告書を作成しているが(5度目については作成中),その都度,今後,地球温暖化の進行が,人間活動に ,世界的にその危機意識が共有されている。IPCCは,これまで4度にわたり地球温暖化問題に関する評価報告書を作成しているが(5度目については作成中),その都度,今後,地球温暖化の進行が,人間活動に大きな影響を与えることを指摘している。2007年(平成19年)のIPCC第4次評価報告書においては,気温上昇が,工業化以前と比して「2-3℃を超えると世界のあらゆる地域が純便益の滅少または純費用の上昇が生じる可能性が高い」とされている。 そして,気温上昇を2℃以下に抑えるためには,2050年(平成62年)までに世界の温室効果ガスの排出量を半減させ,先進国においては80%以上の排出削減が必要といわれている。 このような地球温暖化に関する国際的な科学的分析を踏まえ,2 010年(平成22年)の気候変動枠組条約締約国会議(COP16)において,「全地球平均気温の上昇を工業化以前の水準に比して2度未満に抑制するよう世界の温室効果ガスの排出量を削減するために,世界の温室効果ガス排出量の大幅削減が科学に従ってかつIPCC第4次評価報告書に記載されているように必要とされており,締約国は,この長期目標を達成するために緊急の行動をとるべきである」と合意された(カンクン合意)。 したがって,このような合意に基づき,日本を含む諸外国は,地球温暖化抑制のための具体的な行動を求められるのであり,今後は,このような長期目標を達成するための国際的な法的仕組み作りが進められることになる。 (b) 世界における再生可能エネルギー発電の爆発的普及このような国際的状況を踏まえ,世界各国において地球温暖化問題に対する取組が積極的に行われている。特に,温室効果ガスは,世界的に見ても,発電部門に 生可能エネルギー発電の爆発的普及このような国際的状況を踏まえ,世界各国において地球温暖化問題に対する取組が積極的に行われている。特に,温室効果ガスは,世界的に見ても,発電部門において大量に排出されていることは共通しており,温暖化抑制のための再生可能エネルギーによる発電の導入が世界的規模で広がっている。 特に,再生可能エネルギーによる発電の導入目標値を掲げている国は,2010年(平成22年)には96か国に上っている。多くの国は,2020年(平成32年)から2030年(平成42年)頃までに10%から20%程度の導入という目標を掲げているが,トンガ共和国のように2020年(平成32年)までに100%という高い目標を掲げている国も存在する。 世界各国において,国家の政策として,再生可能エネルギーによる発電の普及策がとられる中で,風力発電や太陽光発電による発電量は,飛躍的に増加している。ヨーロッパ各国では,気候変動問題 に積極的に取り組んでおり,ドイツ,スペイン,イタリアなどは再生可能エネルギーによる発電割合が非常に大きな伸びを示している。 このような傾向は,先進国に限らず,中国やインドにも及んでいる。2010年(平成22年),中国では,風力発電と太陽光発電の新規導入量において世界1位となり,総発電容量の26%が再生可能エネルギーによって賄われるに至っている。また,インドも,風力発電設備容量において世界第5位となっている。 (c) 世界における日本及び被申請人らの役割このような世界的規模での地球温暖化問題への取組に比較し,日本において,その対策が遅れていることは明らかである。世界的情勢においては,再生可能エネルギーの爆発的導入によるエネルギー 請人らの役割このような世界的規模での地球温暖化問題への取組に比較し,日本において,その対策が遅れていることは明らかである。世界的情勢においては,再生可能エネルギーの爆発的導入によるエネルギー転換がすさまじい勢いで進んでおり,それがそのまま気候変動問題に対する最も有効な政策となっているのであり,日本においても,同様のエネルギー転換が求められているといえる。 日本の温室効果ガスの排出量は,世界中の温室効果ガス排出量の3ないし4%を占めている。本件電力会社らの日本における温室効果ガスの排出量は,全体の約30%に及んでいるのであり,日本における発電所からの二酸化炭素の排出量を見ると,イタリアやオーストラリア1国当たりの排出量に相当する量の二酸化炭素を排出していることとなる。このように世界的に見ても大量排出者といえる被申請人である本件電力会社らが,温室効果ガスの排出の削減に取り組むことは,非常に大きな意義を有するといえる。 世界的に地球温暖化問題への取組が加速していく中で,日本の電力会社が温室効果ガスの排出の削減の義務を果たしていくことが求められているのであり,日本の電力会社が積極的に排出の削減に取 り組むことによって,地球温暖化による被害の抑制,軽減につながっていくことは明らかである。 (ウ) 小括以上のとおり,被申請人である本件電力会社らが温室効果ガスの排出の削減に積極的に取り組むことは,地球温暖化による個別的被害の抑制,軽減につながるのであり,本件各申請に係る調停による直接的効果及び波及効果を考えれば,本件各申請に係る調停による温暖化問題の解決可能性が認められることは明らかである。 本件電力会社らは,温室効果ガスの排出量を削減する能力がある上に,世界的に見ても,地球温暖化対策におい ,本件各申請に係る調停による温暖化問題の解決可能性が認められることは明らかである。 本件電力会社らは,温室効果ガスの排出量を削減する能力がある上に,世界的に見ても,地球温暖化対策において電力会社が果たすべき役割の重要性が認識されているなかで,被申請人である本件電力会社らに求められる削減義務は非常に重いものである反面,大きな期待がかかっているともいえる。そのような意味で,本件各申請に係る調停は,地球温暖化問題の解決に直結するものである。 (2) 利益侵害との間の相当明確な関係ア公害調停の申請の段階において「相当明確な関係」の要件は不要であること(ア) IPCC第4次評価報告書によれば,地球温暖化は確実に進行しており,気候変動に伴う被害が発生しつつある。人類が何かしらの手を打ったとしても気候変動に伴う被害を回避しきることはできない。本件各申請に係る調停の被申請人らである本件電力会社らエネルギー転換部門が何もしなければ,事態は更に悪化し,原告らも含めて人類全体に気候変動による被害をもたらす。被害は確実に発生し,被申請人らが二酸化炭素の排出量を削減すれば被害は確実に緩和される。この点における因果関係は明確である。 (イ) ところで,本件各申請に係る調停は,公害調停である。公害紛争処理 法は,多くの公害問題が,明確な因果関係を証明することが非常に困難であることに鑑みて,因果関係の立証が困難であるような事案についても,国民の生命,身体,財産等を守るため,公害問題を迅速に解決することを目的として設置されたのである。その点では,公害調停の申請の段階において「相当明確な関係」要件は不要である。こうした経緯は,国会における公害紛争処理法の審議において,これまでの公害問題が,裁判等の従来の法的 設置されたのである。その点では,公害調停の申請の段階において「相当明確な関係」要件は不要である。こうした経緯は,国会における公害紛争処理法の審議において,これまでの公害問題が,裁判等の従来の法的手続を通じて解決を図ろうとすると,様々な要件,とりわけ因果関係の立証・究明が困難であるため,被害者の救済までに非常に時間を要することへの対策が緊急の課題であったとされており,早急に被害者の救済を実現するために制定されたのが,本件の紛争処理制度であるということが明言されていることからも明らかである。 イ 「相当明確な関係」があること(ア) 本件電力会社らの二酸化炭素・温室効果ガス排出量,国内総排出量に対する割合は,前記(1)ウ(イ)aに記載のとおりである。 日本は平成19年度における世界のエネルギー起源の二酸化炭素の排出量の4.3%を排出している。したがって,本件電力会社らの二酸化炭素の排出量は,世界の二酸化炭素の排出量の1%以上を占めていることになり,世界の地球温暖化への非常に大きな寄与度であることが分かる。例えば,京都議定書では,2008年(平成20年)から2010年(平成22年)までの期間で先進国全体の温室効果ガスの総排出量を,1990年(平成2年)に比べて少なくとも5%削減することを目標にしており,本件電力会社らの排出量がいかに温暖化に寄与しているかは明白である。被申請人である本件電力会社らを含む日本の発電所の二酸化炭素の排出量は,世界の二酸化炭素の排出量(主としてエネルギー起源)の約1.2ないし1.4%を占め,欧州の人口5000万人ないし6000万人の先進国や1つの新興国の排出規模,途上国の人口約 6.6億人の5か国の二酸化炭素の排出量に相当するのである(甲22)。 本件電力会 欧州の人口5000万人ないし6000万人の先進国や1つの新興国の排出規模,途上国の人口約 6.6億人の5か国の二酸化炭素の排出量に相当するのである(甲22)。 本件電力会社らが二酸化炭素の排出を抑制すれば,原告らに対する利益侵害も相当程度低減する関係にあるのである。 (イ) 本件電力会社らの排出削減義務の存在前記(1)ウ(イ)b及びcに記載のとおりである。 (ウ) 本件電力会社らの排出削減可能性・排出削減能力a 石炭火力発電設備のLNG火力設備への変更石炭火力発電所は二酸化炭素の排出係数が高く,発電効率も悪い。 一方,LNG火力発電所は二酸化炭素排出係数,発電効率ともに数値は大きく火力発電所を上回る。 本件電力会社らが石炭火力発電の設備を最新型LNG火力発電設備に置き換えれば,大幅な二酸化炭素の排出削減量を大幅に削減することが可能である。 すなわち,仮に,国内の石炭火力発電所の全てをP15系列のような最新型LNG火力発電所に転換すれば,従来のままの発電量を維持しながら,二酸化炭素の排出量を60%削滅することが可能となる。 b 省エネの促進本件電力会社らがデマンドレスポンス,インセンティブベースといった方式に電力供給方式を変更することによって需要者に省エネを促し,電力に由来する二酸化炭素の排出量を削減することが可能である。 c まとめ火力発電所の二酸化炭素削減対策には,上記のほか,燃料転換,再生可能エネルギー利用,廃熱利用など多くの対策がある。 本件電力会社らは国内で最も大口の二酸化炭素排出者であり,温室 効果ガスの排出削減義務を負うだけでな ほか,燃料転換,再生可能エネルギー利用,廃熱利用など多くの対策がある。 本件電力会社らは国内で最も大口の二酸化炭素排出者であり,温室 効果ガスの排出削減義務を負うだけでなく,現実的にも温室効果ガスの排出量を削滅することのできる様々な手段を有するのであり,被申請人らはその努力によって,大幅に二酸化炭素の排出量を削減することが可能である。 5 本件各申請の意義本件においては,公害調停の申請に対する却下の決定の違法性が争点であり,かようないわば審理以前の段階での処分については,本件各申請に係る申請書の内容が真実であることを前提に本件各却下決定の違法性が審査されなければならない。 本件において,原告らは,地球温暖化がもたらす気候変動が確実に個々の原告に被害をもたらすものであること,被申請人らである本件電力会社らが排出量を削減すれば二酸化炭素の排出量は抑制され,気候変動に伴う被害もまた確実に軽減するものであることを主張した。本件電力会社らの不法行為は,過剰な排出行為であり,原告らが保全を求める権利は,人格権であり,財産権であり,更に気候享受権である。法的構成は単純明快であり,明確に要件事実が主張されているのであるから,申請の時点での却下は違法というほかはない。 特に,本件が公害調停であることは非常に重要なことである。公害調停の制定過程及びその立法趣旨からすれば,公害等調整委員会は常に被害者に救済的に解釈する義務がある。公害調停が加害行為と被害との因果関係は調停手続の過程において解明されることを前提としていることしている以上,申請段階での申請人の主張は相当程度緩やかであることが許容される。また,具体的な主張,立証は調停の過程で行われればすむのであって,申請時点で全てのことが明らかにされている していることしている以上,申請段階での申請人の主張は相当程度緩やかであることが許容される。また,具体的な主張,立証は調停の過程で行われればすむのであって,申請時点で全てのことが明らかにされている必要はない。 訴訟にしろ,調停にしろ,一般に紛争,事件については,一部の解決であっても解決なのであるから,根本解決でなければ手続を進めないというのは不合理としかいいようがない。まして,公害調停については,一部の加害者との調 停であっても他の制度と関連して根本解決につながることも期待されているのだから,一部の解決であったり,調停自体で根本的な解決を目指すものでなくとも,手続開始を拒絶する理由はない。この点でも本件各却下決定は違法である。 仮に本件各申請に係る調停が奏功して被申請人らである本件電力会社らが温室効果ガス削減に努めるなら,他の大量排出者が大手を振って温室効果ガスを排出することは,心理的に,また,倫理的に抑制され,それによる排出削減の波及効果も期待できるという点でも,調停の意義は大きい。 その上,地球温暖化対策が国際的にも国内的にもほとんど進展していない(その意味で,環境基本法が目指すところの「地球環境保全」の手法が全く機能していないことは明らかである。)現状に鑑みれば,被害者の立場から加害者各自に対して調停や訴訟等で排出削減を求めるのが,被害救済のほぼ唯一の手法だといっても過言ではない。そして,産業革命以降の化石燃料消費という長い歴史の結果として発生している地球温暖化問題が,一朝一夕に解決できるわけはなく,各加害者の排出削減という個別の行為を地道に積み重ねることが地球温暖化対策として有効であって,本件各申請に係る調停は,その重要な第一歩なのである。 以上のように大きな意義を有する本件各申請を却下 害者の排出削減という個別の行為を地道に積み重ねることが地球温暖化対策として有効であって,本件各申請に係る調停は,その重要な第一歩なのである。 以上のように大きな意義を有する本件各申請を却下するのであれば,現代型公害である地球温暖化に対する救済手段はなくなり,現在及び将来の被害者は被害発生に対して手をこまねいて見ているだけしか方法がないことになるのである。 付言するに,本件は「公害調停」の申請に関するものであるところ,訴訟手続が加害行為や因果関係の証明を厳密に要求され長期間を要するのに対して,公害調停は被害者の救済を迅速かつ適正に行うことに特徴があるとされる。地球温暖化問題が現代型公害であることは既に述べたとおりであるが,このような公害調停の利点は,地球温暖化問題についても適合するのであって,まさに 公害調停になじむ案件であった。それにもかかわらず,本件各申請を却下するのは,公害調停制度の存在意義を没却するものであって,到底認め難い。 (被告の主張の要点) 1 公害紛争処理制度が予定する調停の対象公害紛争処理法は,「公害に係る紛争について,あっせん,調停,仲裁及び裁定の制度を設けること等により,その迅速かつ適正な解決を図ることを目的」とし(同法1条),「公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合においては,当事者の一方又は双方は,公害等調整委員会規則で定めるところにより中央委員会に対し,政令で定めるところにより審査会等に対し,書面をもって,あっせん,調停又は仲裁の申請をすることができる。(以下略)」こととしている(同法26条1項)。 同法が規定している「公害」とは,環境基本法2条3項に規定する「公害」,すなわち,「環境の保全上の支障のうち,事業活動その他の人 ることができる。(以下略)」こととしている(同法26条1項)。 同法が規定している「公害」とは,環境基本法2条3項に規定する「公害」,すなわち,「環境の保全上の支障のうち,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁(略),土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下(略)及び悪臭によって,人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。(略))に係る被害が生ずること」をいう(同法2条)。 したがって,公害紛争処理法26条1項に基づいて公害紛争処理制度としての調停の申請を行うことができるのは,環境基本法2条3項所定の「公害」に関し,「公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合」に限られている。 2 本件各却下決定が適法であること(1) はじめに原告らは,本件各申請に際し,申請の理由として前提事実(2)ア及びイ並びに(3)アのとおり述べたところ,かかる事情は,詰まるところ,地表から放出された赤外線の一部を吸収することにより温室効果をもたらすとされて いる二酸化炭素等のいわゆる温室効果ガスの排出による地球温暖化問題を指摘しているものと解される。 しかし,公害紛争処理法及び環境基本法の下における公害紛争処理制度を踏まえると,本件各申請に係る地球温暖化問題は,公害紛争処理法2条,環境基本法2条3項所定の「公害」としてではなく,環境基本法2条2項所定の「地球環境保全」に関わる問題として位置付けられていると解すべきである。 (2) 環境基本法は,「公害」と地球温暖化問題のような「地球環境保全」の問題とを峻別して規律していること地球温暖化問題は,二酸化炭素等の様々な温室効果ガ ていると解すべきである。 (2) 環境基本法は,「公害」と地球温暖化問題のような「地球環境保全」の問題とを峻別して規律していること地球温暖化問題は,二酸化炭素等の様々な温室効果ガスの排出主体の環境保全に向けた施策の展開が求められること,国内対策だけでは完結せず国際的な施策の展開が必要とされること,排出源対策と吸収源対策が連携して講じられる必要があり,対策構造の面で従来の環境問題とは本質的な相違があることから,従前の公害対策基本法制による公害対策や自然環境保全法制による保全対策といった分野別の対策では的確かつ効果的に解決を図ることはできず,温暖化の防止という一つの目的の下で解決されるべき問題として理解すべきであり,このような考え方に基づき,環境基本法は,「公害」(同法2条3項)の概念とは別に,「地球環境保全」という概念を新たに設け,これを「人の活動による地球全体の温暖化又はオゾン層の破壊の進行,海洋の汚染,野生生物の種の減少その他の地球の全体又はその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全であって,人類の福祉に貢献するとともに国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するもの」と定義付けるとともに(同条2項),地球環境保全等に係る固有の規定を整備している(同法32条ないし35条)。さらに,個別法においても地球環境保全等に関する対策が設けられており,例えば,地球温暖化対策の推進に関する法律において,二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出抑制等による地球温暖化対策の推進を 目的として,様々な施策が規定されている。 一方で,公害対策については,環境基本法は,公害防止計画の作成及び達成の推進(同法17条及び18条),公害に係る紛争処理制度の創設(同法31条1項)を国あるいは地方公共団体の責務としているほか 一方で,公害対策については,環境基本法は,公害防止計画の作成及び達成の推進(同法17条及び18条),公害に係る紛争処理制度の創設(同法31条1項)を国あるいは地方公共団体の責務としているほか,大気汚染防止法等の個別規制法により規制等が図られている。 このように,「地球環境保全」施策と「公害」対策とは本質的な相違があるとの前提の下で,環境基本法等の関係諸法において別個の法体系が創設されていることに照らせば,現行法制度上,地球温暖化問題は,公害紛争処理法2条,環境基本法2条3項所定の「公害」としてではなく,環境基本法2条2項所定の「地球環境保全」に関わる問題として位置付けられていると解すべきである。 そして,公害等調整委員会が,本件各却下決定の理由において,地球温暖化問題は,「一義的には,同条第2項(引用注:環境基本法2条2項)の『地球環境保全』として取り組まれるべき課題であると考える」(甲1ないし3)としたのも,上記の趣旨に基づくものである。 (3) 公害調停の対象は,公害紛争処理法26条1項所定の調停等により解決が可能な個別,具体的な紛争に限定されると解すべきこと公害紛争処理法に基づく公害紛争処理制度は,環境基準の設定,公害防止計画,各種規制措置等と併せて,環境基本法の下における公害対策法制の一環として組み込まれている制度であり,換言すれば,公害に係る個別の具体的な紛争の解決を目的とし,特定の原因者と特定の被害者との間に生じた具体的な紛争の解決を図ることを目的とした制度として設計されている。他方,二酸化炭素等の排出による地球温暖化問題は,日常生活や様々な規模,種類及び地域における事業活動のほか人の日常生活も含めた人類全体の多様な活動から生じる環境負荷の集積によって生じる問題であり,申請人である原告らと国内の排出主体 温暖化問題は,日常生活や様々な規模,種類及び地域における事業活動のほか人の日常生活も含めた人類全体の多様な活動から生じる環境負荷の集積によって生じる問題であり,申請人である原告らと国内の排出主体の一部である被申請人ら(本件電力会社ら)との間にお ける互譲だけで根本的な解決を図ることができる問題ではない。 公害等調整委員会が,本件各却下決定の理由として,地球温暖化問題は,「被申請人らのみとの互譲により根本的に解決できる問題ではない」としたのは,上記の趣旨に基づくものである。 このことは,同法26条1項が規定する「公害に係る被害」の観点からみても明らかといえる。すなわち,同法2条所定の「公害」とは,環境基本法2条3項に規定されているとおり,「大気の汚染・・・及び悪臭によって・・・被害が生ずること」をいい,公害紛争処理法26条1項が規定する「公害に係る被害」については,現に生じている被害のみならず,将来発生する被害を含むと解されているのであって,同法は,相当程度に具体的に,明確な公害と被害(損害)との関係が認められる事案を公害紛争処理の対象とすることを予定しているといえる。この点,漠然とした具体性に乏しい被害まで「公害に係る被害」に含め,これを調停の対象としても,公害に係る個別の具体的紛争の解決を目的とする公害紛争処理制度の下では適切な紛争の解決は望み難いところであって,同法26条1項は,一定の事実とそれによって生じる利益の侵害との間に相当明確な関係が存在していることを調停の対象としての適格要件としていると解すべきである。しかるに,本件各申請に係る申請書における記載からは,何らかの汚染物質が大気中に排出される「大気の汚染」等により原告らの個々の生活環境等にもたらされる被害及び被申請人らの事業活動との結び付きが客観的に相当程 本件各申請に係る申請書における記載からは,何らかの汚染物質が大気中に排出される「大気の汚染」等により原告らの個々の生活環境等にもたらされる被害及び被申請人らの事業活動との結び付きが客観的に相当程度明らかであるとはいえないから,本件各申請に係る被害は,同項所定の「公害に係る被害」に該当しないと解すべきである。 (4) 小括以上のとおり,本件各申請は,「公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合」に当たらず,公害紛争処理法26条1項に基づく調停の申請の要件を満たさないから不適法であり,かつ, その欠陥は補正することができないというべきである。 そして,同項に基づく調停申請が不適法で,その欠陥を補正することができない場合,そのような公害調停の申請についても手続を進めなければならないとすることは,社会経済上容認し難いといえるから,公害調停制度に内在する制約として,公害紛争処理法の解釈として不適法でその欠陥を補正することができず,的確な調停が望み得ないような場合には,当該公害調停の申請は却下することができると解するのが相当である(東京高等裁判所平成12年2月10日判決・判例タイムズ1031号175頁参照)。 よって,公害等調整委員会が公害調停申請の適法要件を欠くとして本件各申請を却下したことは適法である。 3 原告らの主張に対する反論(1) これまでの公害調停の事例を踏まえても,本件各申請が公害調停の対象となるとは解し得ないこと原告らは,公害等調整委員会がこれまでに公害調停の審理の対象とした低周波や,化学物質過敏症に関する公害紛争事件を挙げ,本件においても「公害」に該当するか否かの判断は,柔軟に解釈して,地球温暖化による被害を「公害」と認めて審理すべきである旨な 停の審理の対象とした低周波や,化学物質過敏症に関する公害紛争事件を挙げ,本件においても「公害」に該当するか否かの判断は,柔軟に解釈して,地球温暖化による被害を「公害」と認めて審理すべきである旨などの主張をする。 しかしながら,原告らが挙げる事例は,いずれも,被申請人の事業活動等による申請人の個々の生活環境の悪化・健康への影響という,調停申請の適法要件である「公害に係る被害」(公害紛争処理法26条1項)についての主張が,客観的に相当程度明らかであるという点において本件各申請とは全く異なるものである。 よって,原告らの主張は理由がない。 (2) 公害対策基本法等の制定過程の議論を前提としても,同法2条の「公害」に「地球温暖化」が含まれるとは解釈し得ないことア原告らは,同法等の制定時の国会質疑における国務大臣あるいは参考人 等の発言を引用した上で,①「地球温暖化」は「公害」に当たる,②「相当程度に具体的に明確な公害と損害(被害)との関係」を,当該問題を公害調停の対象とするための条件とすべきではない,③公害紛争処埋制度が被害者のための制度であることからすれば,当事者間の互譲のみによって問題の根本的解決を図ることが難しいとしても,そのことを理由として却下することは失当である旨を主張し,本件各却下決定が違法であると主張する。 イ原告らが引用する各国務大臣の発言は,いずれも,同法等の制定過程であった昭和44年ないし昭和45年当時の発言であって,公害紛争処埋制度を定めるに当たっての政府の考え方を示したものである。 しかし,現在,環境基本法は「公害」と地球温暖化問題のような「地球環境保全」の問題とを峻別し,「地球環境保全」施策と「公害」対策とは本質的な相違があるとの前提の下で環境基本法等の関係諸法において別個の法体系が ,環境基本法は「公害」と地球温暖化問題のような「地球環境保全」の問題とを峻別し,「地球環境保全」施策と「公害」対策とは本質的な相違があるとの前提の下で環境基本法等の関係諸法において別個の法体系が創設されている。これを関係法の改正経過に照らしてみれば,公害紛争処理法2条は,「この法律において「公害」とは,環境基本法(平成5年法律第91号)第2条第3項に規定する公害をいう。」と規定しているところ,環境基本法が施行されたのは平成5年であり,それに伴い,同年法律92号により公害紛争処理法2条も上記のとおり改正されたものである。 このように,原告らが引用する国会質疑は,上記のような新たな法体系が創設される以前のものであるから,現在の同法及び環境基本法のいう「公害」の意義を解釈する手掛かりとはなり得ない。 また,参考人である都留教授らの各発言も,上記と同様である上,公害紛争処理制度の在り方に関する自らの見解を審議の参考として述べたものにすぎないから,公害紛争処理法及び環境基本法のいう「公害」の解釈を左右するものではない。 ウ公害紛争処理法に基づく調停の申請において,公害等調整委員会は,被申請人の事業活動等による申請人の個々の生活環境の悪化・健康への影響という,調停申請の適法要件である「公害に係る被害」(同法26条1項)に係る主張が,客観的に相当程度明らかな事件については,国会の議論等も踏まえ,間口を広くし,迅速な被害者の救済を実現するため調停手続を進行することとしており,このことは原告らが挙げる過去の事例からも明らかである。 これに対し,本件各申請は,大気中の温室効果ガスの濃度がこのまま放置されて上昇し,地球の平均気温が2℃以上上昇した場合には,異常気象に伴う洪水,疫病,熱中症などをもたらすほか,多くの種の絶滅を招き,地 に対し,本件各申請は,大気中の温室効果ガスの濃度がこのまま放置されて上昇し,地球の平均気温が2℃以上上昇した場合には,異常気象に伴う洪水,疫病,熱中症などをもたらすほか,多くの種の絶滅を招き,地球に住む人々の生命,身体,自然生態系に深刻な打撃を与えることを理由として,本件電力会社らに対し,各自事業活動に伴う二酸化炭素の排出量を平成2年比29%削減することを求めるとするものであり,「公害に係る被害」(公害紛争処理法26条1項)の主張が客観的に相当程度明らかにされているとはいえない。 エ公害紛争処理制度を設けた趣旨が,公害紛争が加害行為と被害との因果関係の立証,故意過失の立証等が他の紛争の場合に比して困難な場合が多いという点にあるとしても,地球温暖化問題は国際的な問題として取組がなされ,我が国においても「地球温暖化対策の推進に関する法律」が制定されるなど,政府全体として取組がされているのであって,地球温暖化の問題は調停において当事者の互譲により根本的な解決を図ることができる問題ではない。 オ以上のとおり,いわゆる地球温暖化問題は,公害紛争処理法2条,環境基本法3条2項の「公害」としてではなく,同法2条2項所定の「地球環境保全」に関わる問題として位置付けられていると解すべきであって,原告らの上記アの主張は,専らその政策的意見を述べるものにとどまるとい うべきである。 (3) その他の原告らの主張について原告らは,地球温暖化問題の実情等について述べるが,それらを踏まえたとしても,本件各申請に係る「地球温暖化」問題は公害紛争処理法26条1項所定の「公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合」には当たらないとの被告の主張を左右するものでない。 第5 当裁判所の判断 1 第 は公害紛争処理法26条1項所定の「公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合」には当たらないとの被告の主張を左右するものでない。 第5 当裁判所の判断 1 第1事件原告らのうち別紙2原告目録(1)記載のものが本件却下決定2の取消しを求めることの適法性について第1事件原告らのうち別紙2原告目録(1)記載のものは,公害等調整委員会が平成23年11月28日付けでした本件却下決定2の取消しを求めるものであるが,上記の決定の対象である調停の申請に係る申請人はP14ほか9名の個人等であって,上記の原告らは含まれていない(前提事実(2)イ)。 また,一件記録を精査しても,他に,上記の原告らについて,本件却下決定2を取り消すことによって回復される法律上の利益を有すると認めるに足りる証拠ないし事情は見当たらない。 よって,上記の原告らには,本件却下決定2の取消しを求めることについて原告適格(行政事件訴訟法9条)は認められないから,本件各訴えのうち第1の1(2)記載の請求に係る部分は,訴訟要件を欠く不適法な訴えである。 2 本件却下決定1及び本件却下決定3の適法性について(1) 公害紛争処理法は,公害に係る紛争について,あっせん,調停,仲裁及び裁定の制度を設けること等により,その迅速かつ適正な解決を図ることを目的とするものであり(同法1条),上記のあっせん,調停又は仲裁の申請は,公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合においてすることができるものとされている(同法26条1項)。 そして,同法において,「公害」とは,環境基本法2条3項に規定する公害をいうものとされているところ(公害紛争処理法2条),環境基本法2条3項は,同法において公害とは,環境の保全 項)。 そして,同法において,「公害」とは,環境基本法2条3項に規定する公害をいうものとされているところ(公害紛争処理法2条),環境基本法2条3項は,同法において公害とは,環境の保全上の支障のうち,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む。),土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下(鉱物の掘採のための土地の掘削によるものを除く。)及び悪臭によって,人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。)に係る被害が生ずることをいう旨を定めている。その上で,同法は,公害の防止等について特に言及するものとして,事業者の公害の防止の責務(8条1項),大気の汚染等に係る環境上の条件について定められた基準に関し政府において公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることによりそれが確保されるよう努める義務(16条4項),特定の地域における都道府県知事による公害防止計画の作成等に関する事項(17条及び18条),大気の汚染の原因となる物質の排出等の行為に関し国において事業者等の遵守すべき基準を定めること等により行う公害を防止するために必要な規制の措置等を講ずる義務(21条1項1号,2号及び5号),公害に係る紛争の処理及び被害の救済に関する事項(31条),国等により実施される公害等に係る支障を防止するための事業についての費用の負担に関する事項(37条)並びに公害対策会議の設置等に関する事項(45条及び46条)を定めている。また,公害を防止するために必要な規制については,「大気の汚染」につき大気汚染防止法等が,「水質の汚濁」につき水質汚濁防止法等が,「土壌の汚染」につき土壌汚染対策法等 5条及び46条)を定めている。また,公害を防止するために必要な規制については,「大気の汚染」につき大気汚染防止法等が,「水質の汚濁」につき水質汚濁防止法等が,「土壌の汚染」につき土壌汚染対策法等が,「騒音」につき騒音規制法等が,「振動」につき振動規制法等が,「地盤の沈下」につき工業用水法及び建築物用地下水の採取の規制に関する法律等が,「悪臭」につき悪臭防止法等がそれぞれ個別的に制定されている。これらの規定は,平成5 年法律第92号による廃止前の公害対策基本法及び公害紛争処理法を含むその関連法令の規定の踏襲又は承継をするものである。 (2) ところで,環境基本法2条2項は,上記(1)のとおり環境の保全上の支障の一種とされる「公害」とは別に,人の活動による地球の全体又はその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全であって,人類の福祉に貢献するとともに国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するものを「地球環境保全」と定義し,地球環境保全に包含されるものとして,人の活動による地球全体の温暖化又はオゾン層の破壊の進行,海洋の汚染,野生生物の種の減少に係る環境の保全を挙げており,「地球全体の温暖化」に係る環境の保全に関する法律として,地球温暖化対策の推進に関する法律が制定されていて,二酸化炭素を温室効果ガスの一種とし(同法2条3項1号),それの排出の抑制等を推進するための施策等について定められている。これらのことからすると,環境基本法は,地球全体の温暖化の進行に係る環境の保全に関する施策等については,「地球環境保全」に関する事項として位置付けているものと解される。そして,同法は,地球環境保全について,国際的協調等に配慮した特別の事項(5条,22条2項後段,32条から35条まで)を定めるほかは,公害の防止を含めた環境の保 として位置付けているものと解される。そして,同法は,地球環境保全について,国際的協調等に配慮した特別の事項(5条,22条2項後段,32条から35条まで)を定めるほかは,公害の防止を含めた環境の保全についての基本理念(3条から5条まで)及びこれにのっとっての国等の責務(6条から9条まで)を定め,また,やはり公害の防止を含めた環境の保全に関する施策の策定及び実施並びに環境基本計画の作成に関する事項(14条及び15条)を定めて,このうち環境の保全に関する施策の策定及び実施については「各種の施策相互の有機的な連携を図りつつ総合的かつ計画的に行わなければならない」と規定する(14条)などしている。 同法は,平成5年に制定され,これに伴って既に述べたように公害対策基本法が廃止されたものであるが,このことについては,近年の社会経済活動の拡大等を背景として,地球全体の温暖化を含む地球規模の環境問題等が新 たに注目されるようになったところ,このような問題には,主として国民の日常生活や事業者の通常の事業活動による環境への負荷によって生ずるものであるという特徴があり,公害対策基本法の下において一定の役割を果たしてきた国内における事業者に対する規制等の施策を中心とした公害対策又は自然環境保全対策といった分野別の対策による対応では的確かつ効果的な解決を図ることができないものであって,我が国の社会の在り方全体を環境に配慮したものに変えていくことが必要となり,各種の施策を例えば温暖化の防止の目的に係る施策体系の下に有機的な連携を図りつつ総合的かつ計画的に講じていくことが必要とされ,地球規模の環境問題等に対応するための国際的取組を的確に位置付けることも必要とされるほか,従来の事業者に対する規制等の手法を中心として組み立てられたもの以外の各種の施策を 講じていくことが必要とされ,地球規模の環境問題等に対応するための国際的取組を的確に位置付けることも必要とされるほか,従来の事業者に対する規制等の手法を中心として組み立てられたもの以外の各種の施策を的確に体系的に位置付けることが必要とされたとの事情を基礎とするものである(甲8,9)。 もっとも,既に述べたとおり,環境基本法の下においても,公害対策基本法の下において紛争の処理等を含めて形成され一定の役割を果たしてきた公害の防止に関する施策等に係る一連の制度及び規律は基本的に維持されており,人の活動により環境に影響を及ぼす事態であっても,それが上記の一連の制度及び規律の中核を成すものとして定められた「公害」に当たるか否かに応じ,それらの適用の有無等に差が生ずることは,環境基本法及びその関連法令のもとより前提とするところであると解するのが相当である。そして,特定の事態がこれらの法令の規定する「公害」に当たるか否かについては,それがそのような事態への現行の法制度下での対応の在り方の選択に係る立法政策的な決定を基礎とする事項であることにも照らし,これらの法令において「公害」の内容として規定されているところの文言を踏まえて判断すべきものであると解される。 (3) 本件申請1及び本件申請3において,原告らは,「二酸化炭素は,それ自 体としては有毒ガスとはいえない。」等とした上で,「大気中の二酸化炭素の濃度が上昇すると,気温が上昇し,温暖化(気候変動)が起こる。」等として,平均気温の上昇を2℃以内に抑えるため,我が国における二酸化炭素の主要な排出者である本件電力会社らに対し,気候享受権に基づき,その排出量を削減するよう差止めを求めると主張していたものであり(乙1,3),このような原告らの前提とするところについては,本件申請1につき 要な排出者である本件電力会社らに対し,気候享受権に基づき,その排出量を削減するよう差止めを求めると主張していたものであり(乙1,3),このような原告らの前提とするところについては,本件申請1につきその主張の趣旨を明らかにするものとして提出した平成23年11月1日付けの意見書(前提事実(2)オ)においても,異なるところはなかったものと認められる(乙6)。 その上で,原告らは,上記の意見書において,本件各訴えにおいて主張しているのと同様に(第4の(原告らの主張の要点)の1(3)参照),本件電力会社らによる二酸化炭素の排出が環境基本法2条3項の「大気の汚染」,「水質の汚濁」及び「地盤の沈下」に当たると主張していたものであるが(乙6),同法2条3項が「公害」を「相当範囲にわたる」「環境の保全上の支障」の一種と定義していることを前提に,同法21条1項1号の「大気の汚染,水質の汚濁(中略)の原因となる物質の排出,(中略)地盤の沈下の原因となる地下水の採取その他の行為」との文言や,同号の規定に対応して定められた大気汚染防止法,水質汚濁防止法等におけるそれらの意義に係る規定等の文言に照らすと,「大気の汚染」又は「水質の汚濁」に係る行為は,周囲のそれとは異なる温度の水の排出その他いわゆる毒性等を含む物質又はそのような物質の生成の原因となる物質の排出等をして当該排出等に係る物質等の影響が及ぶ相当範囲にわたり大気又は水の状態等を人の健康の保護又は生活環境の保全の観点から見て従前よりも悪化させるものをいい,「地盤の沈下」に係る行為は,地下水の採取等の地表面の高さを従前のそれよりも低下させる原因となるものをいうものと解するのが相当であって,既に述べたようにそれ自体としては上記に述べたような意味で有害なものとは いえない二酸化炭素の地球全体の大 さを従前のそれよりも低下させる原因となるものをいうものと解するのが相当であって,既に述べたようにそれ自体としては上記に述べたような意味で有害なものとは いえない二酸化炭素の地球全体の大気中での濃度の変化による地球全体の温暖化を機序とする原告らの主張するところが,これらに当たらないことは明らかというべきである。 以上と異なる原告らの主張は,本件各申請におけるものとは基礎となる事実関係等を異にする事例等と比較するか,又は平成5年の環境基本法の制定により既に述べたような法制上の整理がされる前の事情若しくは他国の法令の定め等を前提とするものであって,採用することができない。 (4) 以上によれば,本件申請1及び本件申請3については,いずれも,その主張するところが「公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合」に該当するものであったとは認められないから,これらを却下した本件却下決定1及び本件却下決定3は適法というべきである。 第6 結論以上の次第であって,本件各訴えのうち本件却下決定2の取消しの請求に係る部分は,不適法であるからこれを却下し,本件各訴えのその余の部分に係る原告らの請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官八木一洋 裁判官品川英基 裁判官髙畑桂花 (別紙5) 1 高潮による被害のおそれが高い原告(1) 西日本地域の予測「地球温暖化『日本への影響』-最新の科学的知見-」(甲7の2・52頁以下)の報告は,三大湾及び西日本に (別紙5) 1 高潮による被害のおそれが高い原告(1) 西日本地域の予測「地球温暖化『日本への影響』-最新の科学的知見-」(甲7の2・52頁以下)の報告は,三大湾及び西日本における地球温暖化による高潮被害の予測である。日本の三大湾(東京湾,伊勢湾及び大阪湾)は,奥部に大規模な低地を持ち,そこに大都市圏の一部が広がり,多くの人口と資産が集積している。また,西日本地域(中国地方,四国地方及び九州地方)は,他の地域に比べて台風が来襲する頻度が高く,中心的な都市が沿岸に多く集まっていることから,この2つが同報告における予測の対象とされている。 ア原告P16原告P16は,瀬戸内海に面した香川県坂出市β町に居住する。 沿岸からの距離は約2.5kmであり,上記報告においては,海面が60cm上昇し,高潮偏差が1.3倍になった場合の浸水予測地域に含まれている。すなわち,海面が60cm上昇した場合には同人の居住地は浸水すると予測されており,生命・身体,財産に対する危険は大きいといえる。 イ原告P17原告P17は,別府湾に面した大分市γ町に居住する。沿岸からの距離は約4kmであり,上記の報告においては,海面が60cm上昇し,高潮偏差が1.3倍になった場合の浸水地域に含まれている。 (2) 他の沿岸域居住者日本では,海に面する市町村に人口の46%が居住しており,上記2名のように具体的な研究報告の中で浸水地域に含まれることが明確でないない者であっても,沿岸からの距離が3km圏内という比較的海岸から近距離に居住している者は,以下のとおり原告の中に多数含まれている。これら沿岸域 に居住する者は,高潮による浸水リスクを特に大きく抱えているものといえる。 内という比較的海岸から近距離に居住している者は,以下のとおり原告の中に多数含まれている。これら沿岸域 に居住する者は,高潮による浸水リスクを特に大きく抱えているものといえる。 ア原告P18沖縄県那覇市居住。東シナ海に面しており,沿岸からの距離約200m。 イ原告P19新潟県村上市居住。日本海に面しており,沿岸からの距離約3km(甲10の29)。 ウ原告P20千葉市δ区居住。東京湾に面しており,沿岸から距離約1.5km(甲10の8)。 エ原告P21青森県むつ市居住。陸奥湾に面しており,沿岸からの距離約3km(甲10の13)。 オ原告P22千葉県船橋市居住。東京湾に面しており,沿岸からの距離約800m(甲10の15)。 カ原告P23兵庫県明石市居住。瀬戸内海に面しており,沿岸からの距離約3km(甲10の18)。 キ原告P24神戸市ε区居住。大阪湾に面しており,沿岸からの距離約500m(甲10の20)。 ク原告P25鹿児島県奄美市居住。東シナ海に面しており,沿岸からの距離約2.5km(甲10の21)。 ケ原告P26長崎県諫早市居住。大村湾に面しており,沿岸からの距離約500m(甲10の22)。 (3) 小括以上のとおり,本件電力会社らの事業活動によって地球温暖化が進行することで,高潮による被害が増加し,原告らの生命・身体及び財産に対する危害が生じるというおそれは,将来の海面上昇と高潮被害に関する科学的な予測,そして原告らの居住地域に鑑みると,相当程度に具体的なものである。 したがって,本件電力会社ら 身体及び財産に対する危害が生じるというおそれは,将来の海面上昇と高潮被害に関する科学的な予測,そして原告らの居住地域に鑑みると,相当程度に具体的なものである。 したがって,本件電力会社らの事業活動と原告らの生活環境等にもたらされる被害との結びつきは,客観的に相当程度明らかであるといえる。 2 洪水被害(1) 温暖化により,2030年(平成42年)頃には50年に一度の豪雨が30年に1回の頻度に増加すると予想されている。また,温暖化により,同年頃には100年に一度の豪雨が50年に1回の頻度に増加すると予想されている。 以下,原告らのうち豪雨の増加影響により洪水被害を受けるおそれが高くなる原告について,その被害の内容を述べる。 なお,以下では,「50年に一度の豪雨」や「100年に一度の豪雨」の数値を表す単位として「確率降水量」を用いる。確率降水量とは,ある再現期間に1回起こると考えられる降水量のことであり,再現期間とは,ある現象が平均的に何年に1回起きるかを表した値をいう。例えば,再現期間100年の確率降水量が日降水量で200mmという地点では,日降水量200mm以上の大雨が平均すると100年に1回の確率で起こり得ることを意味する(甲11の1)。「日降水量」とは,当日の00時00分ないし24時00分の降水量を指す。これに対し,「24時間降水量」とは,前日の00時10分から当日の24時00分までの間における連続する24時間で最も 多くなる降水量を計算したものである。日をまたいで多くの降水があった場合は,24時間降水量が日降水量より多くなる(甲11の2)。確率降水量には,日降水量で表されるものと,24時間降水量で表されるものがあるが,以下の記述における確率降水量は,日降水量の数値を記載している。 24時間降水量が日降水量より多くなる(甲11の2)。確率降水量には,日降水量で表されるものと,24時間降水量で表されるものがあるが,以下の記述における確率降水量は,日降水量の数値を記載している。 また,以下においては,各原告の居住地又は勤務地の各地域における確率降水量を述べるが,これは,気象庁が発表している,全国51地点における明治34年(1901年)から平成18年(2006年)の日降水量のデータから統計的に推定した30年,50年,100年及び200年の確率降水量の一覧表に基づいている(甲11の3)。 ア原告P27原告P27は,愛知県名古屋市に在住している。名古屋における再現期間30年の確率降水量は216mm,50年の確率降水量は242mm,再現期間100年の確率降水量は280mmである(甲11の3)。 上述のように,地球温暖化の影響により2030年(平成42年)頃には50年に一度の豪雨が30年に1回の頻度に増加し,100年に一度の豪雨が50年に1回の頻度に増加するのであるから,2030年ころには,名古屋において30年に1回の可能性で起こる降水量が216mmから242mmに,50年に1回の可能性で起こる降水量が242mmから280mmに増加するということになる。 名古屋市の日降水量で,観測史上最も多かったのは428.0mm(平成12年(2000年)9月11日)で,2位が240.1mm(明治29年(1896年)9月9日),3位が217.5mm(平成3年(1991年)9月19日)である(甲12の1)。名古屋市における再現期間30年の確率降水量216mmとほぼ同様である。 日降水量217.5mmを記録した3位の平成3年9月19日の大雨の際は,雨により愛知県各地で被害が発生し,死者2人,負傷者1人,住居 ける再現期間30年の確率降水量216mmとほぼ同様である。 日降水量217.5mmを記録した3位の平成3年9月19日の大雨の際は,雨により愛知県各地で被害が発生し,死者2人,負傷者1人,住居 全壊2世帯,住居半壊9世帯,床上浸水3897世帯,床下浸水1万2488世帯,被災者数1万1901人,田畑被害(流出・埋没・冠水)1760ha,公共土木施設被害額498万3603千円,鉄道不通区間7路線という甚大な被害が発生している(甲12の2)。日降水量217.5mmの大雨でこのような被害が生じているところ,地球温暖化によりその降水量が増加すれば,その被害はさらに大きくなるのである。 原告P27の住所は天白川から約200mしか離れていない場所に位置し,名古屋で平成12年9月11日に記録した過去最大の観測雨量(1時間最大97mm,24時間最大534.5mm)が名古屋市全域に降った場合に0.2ないし0.5mの浸水が予想される地域に指定されている(甲10の4-3)。 したがって,原告P27は,現時点において大雨が降れば浸水する危険性が高い地域に居住しているところ,地球温暖化により降水量が増加すれば,その居住地が浸水する危険性は更に増大するのである。 イ原告P28原告P28は北海道札幌市に居住している。同市における再現期間30年の確率降水量は139mm,再現期間50年の確率降水量は151mm,再現期間100年の確率降水量は167mmである(甲11の3)。 地球温暖化の影響により,2030年(平成42年)頃には,当該地域において30年に1回の可能性で起こる降水量が139mmから151mmに,50年に1回の可能性で起こる降水量が151mmから167mmに増加するのである。 札幌市の日降水量で,観測史上最も多か て30年に1回の可能性で起こる降水量が139mmから151mmに,50年に1回の可能性で起こる降水量が151mmから167mmに増加するのである。 札幌市の日降水量で,観測史上最も多かったのは207.0mm(昭和56年(1981年)8月23日)で,2位が170.0mm(同年8月4日),3位が155.9mm(昭和37年(1962年)8月3日)である(甲13の1)。札幌市における再現期間50年の確率降水量151 mmとほぼ同様である日降水量155.9mmを記録した3位の大雨の際には,札幌市において,床上浸水813戸,床下浸水8821戸,流失埋没田畑4.92ha,冠水浸水田畑4371.0ha,河川災害23か所,道路被害129か所・橋梁被害41か所,その他被害29か所,全壊6戸,半壊3戸という甚大な被害が生じている(甲13の2)。日降水量155.9mmの大雨でこのような被害が生じているところ,地球温暖化によりその降水量が増加すれば,その被害は更に大きくなるのである。 原告P28の居住地は琴似川と琴似発寒川の間の地域に位置し,琴似川からは約500mしか離れていない場所に位置している。そして,100年に1回程度起こる大雨が降った場合に0.5m未満の浸水が発生する危険性が地域に指定されている(甲10の7-3)。 したがって,原告P28は,現時点において大雨が降れば浸水する危険性が高い地域に居住しているところ,地球温暖化により降雨量が増加すれば,その居住地が浸水する危険性は更に増大するのである。 (2) 他の原告について以下の他の原告も,原告P27及び原告P28と同様に,現時点において大雨が降れば浸水する危険性が高い地域に居住又は勤務しているところ,地球温暖化により降雨量が増加すれば,その 原告について以下の他の原告も,原告P27及び原告P28と同様に,現時点において大雨が降れば浸水する危険性が高い地域に居住又は勤務しているところ,地球温暖化により降雨量が増加すれば,その居住地又は勤務地が浸水する危険性が更に増大する。 ア原告P29原告P29の居住地は蟹江川から約100mしか離れていない場所に位置している。そして,同居住地は,100年に1回程度起こる大雨が降った場合に0.5m未満の浸水が発生する危険性が高い地域に指定されている(甲10の9-3)。 イ原告P30原告P30は千葉県松戸市において勤務している。原告P30の勤務先 の住所は,江戸川の東側に位置し,千葉県松戸市のハザードマップにおいて「浸水が2.0~5.0mの区域」と指定されている範囲の中にある(甲10の11-3)。 ウ原告P31原告P31は,東京都目黒区の京浜運河から流れる川の近くに居住している。同居住地は,同区のハザードマップにおいて,平成12年9月に発生した大雨(総雨量589mm,時間最大雨量114mm)が降った場合に0.2~0.5mの浸水が発生する危険性が高い地域に指定されている(甲10の12-3)。 エ原告P32原告P32は,石川県白山市に居住している。原告P32の居住地は手取川から東へ約100mしか離れていない場所に位置している。手取川は,暴れ川として知られ,過去幾度となく洪水・氾濫を繰り返している。 実際,手取川は,石川県白山市のハザードマップにおいて「浸水想定区域の指定の対象となる河川」とされている(甲10の14-3)。そのような河川から100mほどしか離れていない原告P32の居住地は,大雨が降れば手取川の氾濫により浸水する危険性が高いといえる。 オ原告P33原 川」とされている(甲10の14-3)。そのような河川から100mほどしか離れていない原告P32の居住地は,大雨が降れば手取川の氾濫により浸水する危険性が高いといえる。 オ原告P33原告P33は,山口市に居住している。そして,原告P33の居住地から約500m離れたところには前田川及び吉敷川が流れている。また,同居住地の南へ約200mの位置に椹野(ふしの)川が流れている。これらの河川に挟まれて全体が低地になっており,水田も多い。椹野川は昭和47年頃に氾濫したことがあり,その後複数回にわたって河川改修されたことがある。平成21年7月21日ころ,近所のζ地区で椹野川に流入する河川が氾濫し,ボートが出て救助活動が行われたということがあった。このように原告P33の居住地付近は河川の氾濫による浸水の危険性が極め て高い地域である。実際,原告P33の居住地は,山口市の防災マップにおいて,24時間の総雨量270ミリの概ね100年に1回発生する洪水を想定した場合0.0~0.5m浸水する地域として指定されている地域に含まれている(甲10の19-3)。 カ原告P24原告P24は,神戸市において勤務している。そして,原告P24の勤務地は神戸港の近くであり,大雨が降った場合の浸水の危険性が高い。実際,神戸市のハザードマップにおいて,同勤務地は,100年に1回程度の大雨が降った場合,0.5m未満ではあるが浸水する地域に指定されている(甲10の20-3)。 このように,以上の原告らは,現時点においても大雨が降れば浸水する危険性が高い地域に居住又は勤務している。したがって,地球温暖化により降雨量が増加すれば,その居住地又は勤務地が浸水する危険性が更に増大するのである。 3 斜面災害(1) 豪雨が増加すれば洪水被害だけでなく 住又は勤務している。したがって,地球温暖化により降雨量が増加すれば,その居住地又は勤務地が浸水する危険性が更に増大するのである。 3 斜面災害(1) 豪雨が増加すれば洪水被害だけでなく,土砂崩壊や地すべりなどの斜面災害も増加する。上述のとおり,地球温暖化により原告各地においても豪雨が増加すると予想されるところ,斜面災害発生の危険性も増加することになる。特に,以下の原告においては,その居住地がハザードマップにおいて斜面災害発生の危険性が高い地域に指定されているところ,地球温暖化により降雨量が増加すれば,その居住地における斜面災害発生の危険性は更に増大する。 ア原告P19原告P19は,新潟県村上市に居住している。同居住地は,そのすぐ南東側に山があり,斜面となっている。大雨による斜面災害の危険が高く,新潟県村上市のハザードマップにおいて,原告P19の居住地はがけ崩れ 発生危険区域に指定されている(甲10の6-3)。 したがって,原告P19は,現時点において大雨が降れば斜面災害が発生する危険性が高い地域に居住しているところ,地球温暖化により降雨量が増加すれば,その居住地において斜面災害が発生する危険性は更に増大するのである。 イ原告P32原告P32は,石川県白山市に居住している。同居住地は,大雨による斜面災害の危険が高く,同市のハザードマップにおける土砂災害危険区域付近に位置している(甲10の14-3)。 したがって,原告P32は,現時点において大雨が降れば斜面災害が発生する危険性が高い地域に居住しているところ,地球温暖化により降雨量が増加すれば,その居住地において斜面災害が発生する危険性は更に増大するのである。 ウ原告P17原 災害が発生する危険性が高い地域に居住しているところ,地球温暖化により降雨量が増加すれば,その居住地において斜面災害が発生する危険性は更に増大するのである。 ウ原告P17原告P17は,大分市に居住している。同居住地は,大雨による斜面災害の危険が高く,同市のハザードマップにおいて,原告P17の居住地は急傾斜地崩壊箇所に指定されている(甲10の27-3)。 したがって,原告P17は,現時点において大雨が降れば斜面災害が発生する危険性が高い地域に居住しているところ,地球温暖化により降雨量が増加すれば,その居住地において斜面災害が発生する危険性は更に増大するのである。 4 渇水頻度の増加影響-水供給の変化(1) 地球温暖化による渇水被害の増加は全国において生じ得ることであり,原告ら全員についてその被害が及ぶリスクがあると考えられるが,原告らのうち以下の原告については特に渇水被害が及ぶリスクが高い。 ア原告P16 原告P16は,香川県坂出市に居住している。原告P16の居住地域では渇水が深刻な問題となっており,特に,平成7年(1995年)ころに生じた渇水では給水制限がなされた。その際には,食器を水で洗わなくてすむよう,喫茶店の皿が紙の皿になったほどであった。 このように,原告P16は,渇水頻度の高い地域に居住しているところ,地球温暖化により渇水頻度が増加することにより,渇水による危害が生じる危険性は更に増大するのである。 イ原告P18九州南部と沖縄の水資源は特に需給バランスがひっ迫することが推定されている(甲7の2)。 そして,原告P18が居住する沖縄では現在においても水不足が深刻な問題となっている。 このように,原告P の水資源は特に需給バランスがひっ迫することが推定されている(甲7の2)。 そして,原告P18が居住する沖縄では現在においても水不足が深刻な問題となっている。 このように,原告P18は,現在において渇水頻度の高い地域に居住しているところ,地球温暖化により渇水頻度が増加することにより,渇水による危害が生じる危険性は更に増大する。 (2) 小括以上のように,被申請人らの事業活動により生じる地球温暖化によって,洪水被害の増加,斜面災害の増加,渇水頻度の増加に伴う水供給の変化といった現象が生じ,原告各人に対してその生命,身体及び財産に危害が生じる危険性が高まる。地球温暖化の被害は原告各人において具体的に生じるのである。 したがって,被申請人らの事業活動と原告らの生活環境等にもたらされる被害との結び付きは,客観的に相当程度明らかといえるのである。 5 原告らの熱中症による被害(1) 数値についてア以下,原告ら個別の被害を検討するにあたり,原告らの住所地における 8月の平均気温と8月平均気温上昇率,猛暑日及び熱帯夜の増加率を検討している。数値のデータについては,気象庁のウェブページより引用している。 これらの統計から,今後は今まで以上に平均気温だけでなく猛暑日及び熱帯夜の日数が増える傾向にあり,熱中症発症リスクが上昇傾向にあることが読み取れる。 イなお,8月の平均気温上昇率,猛暑日及び熱帯夜の増加率について,ヒートアイランド現象が原因と指摘されるかもしれない。 しかし,IPCC第4次報告書において,20世紀の間に全球の地表温度は0.74℃上昇したと結論づけており,気候システムの温暖化には疑う余地がなく,温暖化の原因が大気の人為的な影響,すなわ しかし,IPCC第4次報告書において,20世紀の間に全球の地表温度は0.74℃上昇したと結論づけており,気候システムの温暖化には疑う余地がなく,温暖化の原因が大気の人為的な影響,すなわち温室効果ガス濃度の上昇に伴うものであることがかなり高い(99%の確率)と結論している。その上でIPCC第4次報告書は将来予測を行い,化石燃料を重視しつつ高成長型社会に人類が進むのであれば,21世紀末には気温は4℃上昇するとしている。また,8月の平均気温上昇率では,都市化の影響が小さいと見られる17地点の平均値が,猛暑日及び熱帯夜の増加率では,都市化の影響が少なく観測所の移転がない15地点について平均した日数がとられているが,いずれも増加の傾向が見られる。更に,気象庁のウェブページでも,8月の平均気温上昇率について,「長期的な気温上昇傾向には,二酸化炭素をはじめとする人為起源の温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化が影響しています」と記述している。 したがって,8月の平均気温上昇率,猛暑日及び熱帯夜の増加率について,ヒートアイランド現象の影響を完全に否定することはできないが,かといって,温暖化の影響を受けていることを否定することもできない。そして,今後も化石燃料を重視しつつ高成長型社会を目指すのであれば,将来に向かっても平均気温は上昇していくのであり,8月の平均気温,猛暑 日及び熱帯夜も温室効果ガスの増加に伴う温暖化により,上昇,増加していくことは疑う余地はない。 ウ 8月の平均気温上昇率,猛暑日及び熱帯夜の増加率について,原告らの住所地の数値がない場合は,8月の平均気温上昇率については中小都市の数値を,猛暑日及び熱帯夜の増加率については,15地点平均の数値を引用している。 (2) 原告らの被害について 原告らの住所地の数値がない場合は,8月の平均気温上昇率については中小都市の数値を,猛暑日及び熱帯夜の増加率については,15地点平均の数値を引用している。 (2) 原告らの被害についてア原告P33(ア) 基本情報年齢:65歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):27.2℃最高気温(平成24年):35.9℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P33からの聴き取りでは,平成24年の夏はとても暑かったとのことであり,夏の暑さがこたえるとのことである。そして,近所の人で少し年上の人が熱中症により救急車で運ばれるなどしており,熱中症に対する不安は大きくなっている。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にあり,原告P33の年齢を考えると,熱中症の発症リスクは現時点でも高いが,今後は更に高まっていくことになる。 イ原告P25(ア) 基本情報年齢:52歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):28.4℃ 最高気温(平成24年):34.4℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P25からの聴き取りでは,平成23年9月に熱中症を一度発症しており,平成24年の夏もとても暑かったとのことで,熱中症に対する不安も抱えている。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にある。原告P25の 月に熱中症を一度発症しており,平成24年の夏もとても暑かったとのことで,熱中症に対する不安も抱えている。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にある。原告P25の年齢からすれば,現時点では熱中症の発症リスクがそれほど高くないとしても,将来的には平均気温などは上昇し,一方で年を重ねることで体温調整機能は低下していくことから,熱中症の発症リスクは確実に増大することになる。 ウ原告P20(ア) 基本情報年齢:80歳代8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):26.7℃最高気温(平成24年):35.4℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にある。原告P20の年齢を考えると,今後も気温上昇が続く以上,熱中症の発症リスクがより高まっていくことは確実である。 エ原告P27(ア) 基本情報年齢:74歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):27.8℃ 最高気温(平成24年):36.9℃8月平均気温上昇率:2.4℃/100年猛暑日の増加率:2.4日/10年熱帯夜の増加率:3.5日/10年(イ) 原告P27からの聴き取りでは,昔は夏でも蚊帳をつって寝ることができたが,最近ではクーラーなしでは過ごせないとのことである。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にあり,原告P27の年齢を考えると,熱中症の 帳をつって寝ることができたが,最近ではクーラーなしでは過ごせないとのことである。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にあり,原告P27の年齢を考えると,熱中症の発症リスクは現時点でも高いが,今後は更に高まっていくことになる。 オ原告P28(ア) 基本情報年齢:60歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):22.3℃最高気温(平成24年):32.9℃8月平均気温上昇率:1.2℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にある。原告P28の年齢からすれば,現時点では熱中症の発症リスクが高くないとしても,将来的には平均気温などは上昇し,一方で年を重ねることで体温調整機能は低下していくことから,熱中症の発症リスクは確実に増大することになる。 カ原告P30(ア) 基本情報年齢:40歳代8月平均気温(平成11年ないし平成22年):26.5℃ (近隣の船橋市のデータ)最高気温(平成24年):35.2℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P30からの聴き取りでは,子どもの頃はそれほど酷暑ではなかったが,最近は猛暑日が増えたとのことである。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にある。原告P30の年齢か 0からの聴き取りでは,子どもの頃はそれほど酷暑ではなかったが,最近は猛暑日が増えたとのことである。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にある。原告P30の年齢からすれば,現時点では熱中症の発症リスクが高くないとしても,将来的には平均気温などは上昇し,一方で年を重ねることで体温調整機能は低下していくことから,熱中症の発症リスクは確実に増大することになる。 キ原告P34(ア) 基本情報年齢:67歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):27.0℃(近隣の岡崎市のデータ)最高気温(平成24年):36.9℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にあり,原告P34の年齢を考えると,熱中症の発症リスクは現時点でも高いが,今後は更に高まっていくことになる。 ク原告P23(ア) 基本情報 年齢:72歳8月平均気温(平成4年ないし平成22年):27.6℃最高気温(平成24年):35.4℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P23からの聴き取りでは,もともとクーラーは使用していなかったが,一昨年から使用するようになり,昨年は夏の暑さで気分を悪くすることもあったとのことである。統計的にも,住所地の平均気温は (イ) 原告P23からの聴き取りでは,もともとクーラーは使用していなかったが,一昨年から使用するようになり,昨年は夏の暑さで気分を悪くすることもあったとのことである。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にあり,原告P23の年齢を考えると,熱中症の発症リスクは現時点でも高いが,今後はより高まっていくことになる。 ケ原告P24(ア) 基本情報年齢:43歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):28.3℃最高気温(平成24年):36.9℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P24からの聴き取りでは,気温の上昇は感じており,周りの家でもクーラーを使う人が増えてきたとのことである。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にある。原告P24の年齢からすれば,現時点では熱中症の発症リスクが高くないとしても,将来的には平均気温などは上昇し,一方で年を重ねることで体温調整機能は低下していくことから,熱中症の発症リスクは確実に増 大することになる。 コ原告P26(ア) 基本情報年齢:71歳8月平均気温(平成8年ないし平成22年):28.2℃(近隣の大村市のデータ)最高気温(平成24年):36.6℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P26 24年):36.6℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P26の聴き取りでは,6年前までクーラーは使っていなかったが,95歳の母がいるため,最近では使うようになったとのことである。住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にあり,原告P26の年齢を考えると,熱中症の発症リスクは現時点でも高いが,今後はより高まっていくことになる。 サ原告P17(ア) 基本情報年齢:44歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):27.3℃最高気温(平成24年):35.2℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P17からの聴き取りでは,気候変動などの影響が生じており,この先どうなるかわからないという不安があるとのことである。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向 にある。原告P17の年齢からすれば,現時点では熱中症の発症リスクが高くないとしても,将来的には平均気温などは上昇し,一方で年を重ねることで体温調整機能は低下していくことから,熱中症の発症リスクは確実に増大することになる。 シ原告P19(ア) 基本情報年齢:77歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):25.3℃最高気温(平成24年):37.0℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年 気温(昭和56年ないし平成22年):25.3℃最高気温(平成24年):37.0℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にあり,原告P19の年齢を考えると,熱中症の発症リスクは現時点でも高いが,今後はより高まっていくことになる。 ス原告P22(ア) 基本情報年齢:73歳8月平均気温(平成11年ないし平成22年):26.5℃最高気温(平成24年):35.2℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P22の聴き取りでは,将棋の子ども教室の理事長をしており,11年前まではクーラーがなくても将棋をさせたが,徐々に夏の暑さで将棋がさせなくなり,ついに我慢できずにクーラーを購入したとのこと である。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にあり,原告P22の年齢を考えると,熱中症の発症リスクは現時点でも高いが,今後はより高まっていくことになる。 セ原告P35(ア) 基本情報年齢:56歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):25.5℃最高気温(平成24年):34.7℃8月平均気温上昇率':2.5℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P35か 年):34.7℃8月平均気温上昇率':2.5℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P35からの聴き取りでは,かつては涼しく,クーラーも不要であったが,最近は自宅や職場でクーラーを使うようになったとのことである。 統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にある。原告P35の年齢からすれば,現時点では熱中症の発症リスクが高くないとしても,将来的には平均気温などは上昇し,一方で年を重ねることで体温調整機能は低下していくことから,熱中症の発症リスクは確実に増大することになる。 ソ原告P16(ア) 基本情報年齢:56歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):26.9℃(近隣の滝宮市のデータ)最高気温(平成24年):36.6℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年 猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P16からの聴き取りでは,小学校の教員をしているが,ここ数年は9月の運動会の練習が暑すぎてできないとのことである。また,9月に限らず,夏の時期は暑すぎるので,体育の時間は極力屋外ではなく屋内で行うようにするなど,熱中症に気を配っているとのことである。 2000年代半ば頃から夏の暑さが耐えられないほどになってきて,暑すぎで授業に集中できず,食欲も減退していったため,平成23年9月からはクーラーが設置されたとのことである。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾 ほどになってきて,暑すぎで授業に集中できず,食欲も減退していったため,平成23年9月からはクーラーが設置されたとのことである。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にある。原告P16の年齢からすれば,現時点では熱中症の発症リスクが高くないとしても,将来的には平均気温などは上昇し,一方で年を重ねることで体温調整機能は低下していくことから,熱中症の発症リスクは確実に増大することになる。 タ原告P32(ア) 基本情報年齢:68歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):27.0℃(近隣の金沢市のデータ)最高気温(平成24年):36.8℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 原告P32からの聴き取りでは,これまではクーラーを購入せず,扇風機で乗り切ってきたが,平成24年は暑すぎでクーラーを購入しようと考えたとのことである。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛 暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にあり,原告P32の年齢を考えると,熱中症の発症リスクは現時点でも高いが,今後はより高まっていくことになる。 チ原告P36(ア) 基本情報年齢:65歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):27.8℃(近隣の名古屋市のデータ)最高気温(平成24年):36.9℃8月平均気温上昇率:2.4℃/100年猛暑日の増加率:2.4日/ (近隣の名古屋市のデータ)最高気温(平成24年):36.9℃8月平均気温上昇率:2.4℃/100年猛暑日の増加率:2.4日/10年熱帯夜の増加率:3.5日/10年(イ) 原告P36からの聴き取りでは,これまで熱中症になりかけたことはなかったが,平成23年9月に熱中症にかかり,以後水分補給を心がけているとのことである。そして,塩分の採取を心がけているが,今後も温暖化が進行するとまたいつ同じ症状になるか心配とのことである。統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にあり,原告P36の年齢を考えると,熱中症の発症リスクは現時点でも高いが,今後はより高まっていくことになる。 ツ原告P37(ア) 基本情報年齢:39歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):27.8℃最高気温(平成24年):36.9℃8月平均気温上昇率:2.4℃/100年猛暑日の増加率:2.4日/10年 熱帯夜の増加率:3.5日/10年(イ) 原告P37からの聴き取りでは,平成24年の夏頃,暑さで体調不良となった。最近はクーラーが必要な生活となり,日中は常にクーラーを使用しており,夜もタイマーが切れると暑さで目が覚めることも増え,睡眠不足を感じることも増えているとのことである。また,水分を意識的に取るのを怠ると,夏ばての症状が出やすくなったとのことである。 統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にある。原告P37の年齢からすれば,現時点では熱中症の発症リスクが高くないとしても,将来的には平均 すくなったとのことである。 統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にある。原告P37の年齢からすれば,現時点では熱中症の発症リスクが高くないとしても,将来的には平均気温などは上昇し,一方で年を重ねることで体温調整機能は低下していくことから,熱中症の発症リスクは確実に増大することになる。 テ原告P18(ア) 基本情報年齢:61歳8月平均気温(昭和56年ないし平成22年):28.7℃最高気温(平成24年):33.3℃8月平均気温上昇率:0.9℃/100年猛暑日の増加率:0.4日/10年熱帯夜の増加率:1.4日/10年(イ) 統計的にも,住所地の平均気温は上昇し,猛暑日及び熱帯夜の日数も増加傾向にある。原告P18の年齢からすれば,現時点では熱中症の発症リスクが高くないとしても,将来的には平均気温などは上昇し,一方で年を重ねることで体温調整機能は低下していくことから,熱中症の発症リスクは確実に増大することになる。 (3) 小括現時点で原告らに熱中症の症状が発症していることは具体的な被害と考え られるし,仮に,温暖化による被害とは言い切れないとしても,今後も平均気温が上昇していくことからすれば,温暖化による被害として熱中症を見過ごすことはできない。 原告らが現在生活する居住地においても,平均気温及び猛暑日,熱帯夜の日数は年々増加している。そして,特に65歳以上の成人に関しては,他の年齢層より低い25℃付近より熱中症の発症リスクが増加し始め,33℃を境に熱中症の発症リスクが急激に増加しているのであり,猛暑日及び熱帯夜の増加はすなわち熱中症の発症リスクの増加に直 関しては,他の年齢層より低い25℃付近より熱中症の発症リスクが増加し始め,33℃を境に熱中症の発症リスクが急激に増加しているのであり,猛暑日及び熱帯夜の増加はすなわち熱中症の発症リスクの増加に直結している。 熱中症が時には生命を奪う危険性もあることを考えると,抽象的な危険性にとどまらず,「公害に係る被害」が客観的に相当程度明らかになっているといえるのであり,平均気温の上昇を食い止めるためにも本件電力会社らによる早急な解決・対応が求められる。

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