主文 被告人を懲役1年6月に処する。 未決勾留日数中70日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 公安委員会の運転免許を受けないで,平成13年10月12日午前11時21分ころ,徳島県鳴門市a町b神戸淡路鳴門自動車道下り79.5キロポスト付近道路において,普通乗用自動車を運転した第2 前記日時ころ,道路標識により,その最高速度が70キロメートル毎時と指定されている前記場所付近道路において,その最高速度を38キロメートル毎時超える108キロメートル毎時の速度で前記自動車を運転して進行した第3 A(以下「A」という。)と共謀の上,Bを被保険者とする国民健康保険被保険者証(以下「本件保険証」という。)を使用し,同人になりすまして,消費者金融業者から借入れ名下に金員及びキャッシングカードを詐取しようと企て,平成14年3月8日午後4時ころ,兵庫県E市c町d丁目e番f号Cグランドビル6階所在のD株式会社E店において,Aが,Bになりすまし,行使の目的をもって,ほしいままに,同店備付けの申込みカード1通の氏名欄に「B」,現住所欄に「神戸市g区h町ij-k県営居住高層l号」等と黒色ボールペンで各冒書するなどし,もって,B作成名義の上記申込みカード1通を偽造した上,即時同所において,同店係員Fを介して,同店店長Gに対し,これをあたかも真正に成立したもののように装い,本件保険証とともに呈示して行使するなどして,金員の借入れ及び同会社発行に係るキャッシングカードの交付を申し込み,上記店長をして,真実Bが金員の借入れ及び上記キャッシングカードの交付の申込みを行っているものと誤信させ,よって,同日午後5時ころ,同所において,上記店長の 係るキャッシングカードの交付を申し込み,上記店長をして,真実Bが金員の借入れ及び上記キャッシングカードの交付の申込みを行っているものと誤信させ,よって,同日午後5時ころ,同所において,上記店長の決裁を受けた上記係員から同会社所有に係る現金10万円及びキャッシングカードであるDカード1枚の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた第4 公安委員会の運転免許を受けないで,同年4月1日午前3時20分ころ,神戸市g区m町n番地付近道路において,普通(軽4)貨物自動車を運転したものである。 (証拠の標目)-かっこ内は検察官請求証拠甲乙の番号省略(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,被告人が,A(以下「A」という。)と共謀して,判示第3の有印私文書偽造・同行使,詐欺の罪を犯した事実はなく,被告人は無罪である旨主張し,被告人もこれに沿う供述をしているので,当裁判所が前示のとおり認定した理由について,以下,補足して説明する。 2(1) 関係各証拠によれば,Aが,判示第3の日時場所において,同判示のとおり,Bを被保険者とする国民健康保険被保険者証(以下「本件保険証」という。)を使用して同人になりすまし,B作成名義の申込みカード1通を偽造行使して,消費者金融業者D株式会社E店(以下「DE店」という。)の店長らを欺き,現金10万円及びキャッシングカードであるDカード1枚を詐取したことは,間違いのないところである。 (2) そこで,証人Aの当公判廷における供述(以下「A証言」という。)が,被告人との共謀に関していうところをみてみると,概略次のとおりである。すなわち,① Aは,平成14年2月下旬ころ,被告人から,被告人の経営するH組で働いている男の名前でサラリーマン金融業者から金を借りてくる話を持ちかけられて,それに応じ,その とおりである。すなわち,① Aは,平成14年2月下旬ころ,被告人から,被告人の経営するH組で働いている男の名前でサラリーマン金融業者から金を借りてくる話を持ちかけられて,それに応じ,その2,3日後には,被告人に対して,H組で仕事に入るのに働いている人の証明がいるからということにして,その男の健康保険証のコピーを取らせてもらうようにアドバイスをした。 ② Aは,同年3月6日ころ,被告人から,健康保険証のコピーをもらえるようになったとの連絡を受けて,被告人とともに,神戸市g区oにあるセブンイレブン「神戸op丁目店」に行き,初対面のBと会い,同人から本件保険証のコピーを受け取ったが,緑色であったためそれを偽造することはできないと思い,その旨被告人に伝えた。 ③ Aは,その翌日,被告人から,本件保険証のコピーでなんとかならないかと言われて話すうち,本件保険証のカラーコピーを表裏張り合わせて使ってみようとの話になり,再度,Bから本件保険証のカラーコピーをもらおうということになった。 ④ Aは,同月8日,被告人とともに,同区h町にあるB方に行ったが,同人は不在であったので,被告人からBの妻Iに話をしてもらい,コピーを取って直ぐに返すということで,本件保険証を借り受けるとともに,保険証の住所と現住所が異なっていることから,現住所の記載されている県営住宅使用料納入通知書兼口座振替開始通知書(以下「納入通知書」という。)を借り受け,被告人とともに前記セブンイレブンに行って本件保険証をコピーした。 ⑤ Aは,その後,被告人とそのコピーを用いた偽造方法について話し合ううち,いっそのこと本物の本件保険証を使ってサラリーマン金融業者から金を騙し取る方が早いのではないかと言ったところ,被告人もそれに賛成したので,自分がBに そのコピーを用いた偽造方法について話し合ううち,いっそのこと本物の本件保険証を使ってサラリーマン金融業者から金を騙し取る方が早いのではないかと言ったところ,被告人もそれに賛成したので,自分がBになりすましてサラリーマン金融業者に行くことにし,被告人が,被告人の妻に電話をして,Bの勤務先として記載するH組にサラリーマン金融業者から確認の電話があったときには,Bは現場に行っているとの返事をしてもらうことになった。 ⑥ そこで,被告人とともにE駅の南側付近に行き,判示第3のとおり,自分がDE店に入って,同店店長らを欺き,現金10万円及びキャッシングカードであるDカード1枚を詐取し,詐取した10万円については被告人と5万円ずつ折半した。 というものである。 A証言は,その供述内容が具体的かつ合理的であるだけでなく,証人Bの当公判廷における供述が,平成14年3月6日ころ,被告人とAと会い,仕事を紹介するのに必要だと言われて,本件保険証のコピーを渡した旨いうところや,証人Iの当公判廷における供述が,同月8日,被告人とAが夫の不在中に自宅に訪ねてきて,被告人から,仕事を紹介するのにコピーを取る必要があるからと言われて,本件保険証と納入通知書を貸した旨いうところと,細かい点では違いはあるものの,ほぼ合致している上,JがDE店において用いた本件保険証はコピーではなく本物であったことや,Aが偽造した申込みカードにはBの勤務先としてH組が挙げられその電話番号が正しく記載されていることなどの客観的な事実とも符合しているのであるから,十分信用に値するものということができる。 (3) これに対し,被告人の当公判廷における供述並びにその検察官調書(乙8)及び警察官調書(乙7,17)(以下,併せて「被告人の供述」という。)は,①被告人が, するものということができる。 (3) これに対し,被告人の当公判廷における供述並びにその検察官調書(乙8)及び警察官調書(乙7,17)(以下,併せて「被告人の供述」という。)は,①被告人が,平成14年3月6日ころ,Bから本件保険証のカラーコピーをもらったのは,Aが紹介するという仕事では60歳以上の者には国から補助が出るということだったので,その証明のためであったが,Aは,白黒のコピーではなくカラーコピーが必要である旨言っていた,また,②被告人は,同月8日,AとともにB方を訪ね,同人が不在であったことから,同人の妻Iから納入通知書を借りたが,その際,本件保険証を借りたことはない,③被告人は,Bの身元引受人になっていたから,どこかから同人がH組で働いているかどうか問い合わせてきたら,実際は働いていなかったけれども,働いていると答えていた,④被告人は,Bの本件保険証を使ってDE店から現金等を詐取することをAと共謀したことはなく,Aが詐取した10万円のうちから5万円を受け取ったこともないなどというのである。 しかしながら,被告人のいうAが紹介するという仕事の話は全く具体性のないものであること,Bが60歳以上であることの証明に用いるのであれば,本件保険証の白黒コピーであってもよく,そのカラーコピーを取る必要はなかったこと,被告人が同月8日にAとともにB方に行った時までに,本件保険証がB夫婦からAに渡される機会があったとは考えられないのであるから,被告人がIから納入通知書と同じ機会に本件保険証を借り受けたのでなければ,Aがそれをその日のうちにDE店で同店店員らに示すことは不可能であったこと,被告人が,どこかからBの稼働の有無について問い合わせを受けたときに,実際は働いていないのに働いていると嘘の答えをすることまで,Aが知った上, ちにDE店で同店店員らに示すことは不可能であったこと,被告人が,どこかからBの稼働の有無について問い合わせを受けたときに,実際は働いていないのに働いていると嘘の答えをすることまで,Aが知った上,申込みカードにBの勤務先をH組としてその電話番号とともに記載したとは考えられないことなどからすると,被告人の供述は,不合理かつ不自然であって,到底これを信用することはできない。 4 以上のとおりであるから,A証言等を含む関係各証拠を総合すると,被告人が,Aと共謀して,判示第3の有印私文書偽造・同行使,詐欺の罪を犯した事実は,優にこれを認めることができる。 (法令の適用)被告人の判示第1及び第4の各所為はいずれも平成13年法律第51号附則9条により同法による改正前の道路交通法118条1項1号,64条に,判示第2の所為は同じく改正前の道路交通法118条1項2号,22条1項に,判示第3の所為のうち有印私文書偽造の点は刑法60条,159条1項に,同行使の点は同法60条,161条1項,159条1項に,詐欺の点は同法60条,246条1項にそれぞれ該当するところ,判示第3の有印私文書偽造とその行使と詐欺の間には順次手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として最も重い詐欺罪の刑(ただし,短期は偽造有印私文書行使罪の刑のそれによる。)で処断することとし,判示第1,第2及び第4の各罪について各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,最も重い判示第3の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で,被告人を懲役1年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中70日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負 限内で法定の加重をした刑期の範囲内で,被告人を懲役1年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中70日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の事情)本件は,被告人が,共犯者と共謀し,他人になりすました共犯者において,申込みカードを偽造行使した上,サラリーマン金融業者から現金10万円等を詐取したほか,2回にわたり普通乗用自動車等を無免許運転し,うち1回については,その際,指定速度違反をもしたという,有印私文書偽造・同行使・詐欺,道路交通法違反の事案である。 被告人は,安易に金員を得ようとして,判示第3の有印私文書偽造・同行使,詐欺の罪を犯したものであって,その利欲的な動機に酌むべきものはないこと,被告人は,自ら判示第3の犯行を計画した上,その犯行に必要な健康保険証の入手を自ら積極的に行うなど,重要な役割を果たしていること,判示第3の犯行の被害は10万円と決して少ない額ではないこと,被告人は,そのうち5万円を分け前として得ているが,被害弁償は全くしていないこと,被告人は,平成8年12月から平成11年3月までの間に酒気帯び運転の罪で3回罰金刑に処せられ,平成11年4月に運転免許取消の行政処分を受けたにもかかわらず,その後も1か月に1回程度の割合で無免許運転を繰り返すうち,判示第1及び第2の無免許運転及び指定速度違反に及んだだけでなく,その処分がまだ決まらないうちに判示第4の無免許運転を重ねたものであって,被告人には無免許運転の常習性とともに交通法規軽視の人格態度が窺えること,被告人は判示第3の犯行については否認をし,反省の態度が窺えないことなどを考え併せると,被告人の刑事責任は軽くないといわざるを得ない。 してみると,被告人は判示第3の犯行の実行行 度が窺えること,被告人は判示第3の犯行については否認をし,反省の態度が窺えないことなどを考え併せると,被告人の刑事責任は軽くないといわざるを得ない。 してみると,被告人は判示第3の犯行の実行行為には及んでいないこと,その犯行による被害額は多額とはいえないこと,被告人が本件各道路交通法違反の罪については反省の態度を示していること,被告人には道路交通法違反の罪以外の前科が4犯あるものの,最終懲役刑の執行終了後本件までに約10年が経過していること,被告人が本件により5か月以上の間身柄拘束を受けていることなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,主文の実刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見・懲役2年6月)よって,主文のとおり判決する。 平成15年3月18日神戸地方裁判所第12刑事係甲 裁判官森岡安廣
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