平成30(ワ)27898 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年10月28日 東京地方裁判所
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判決文本文27,547 文字)

令和3年10月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成30年(ワ)第27898号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和3年7月8日判決 主文 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して962万0696円及びこれに対する平成27年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して88万円及びこれに対する平成27年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,原告Cに対し,連帯して88万円及びこれに対する平成27年11 月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,これを20分し,その17を原告らの負担とし,その余を被告らの負担とする。 6 この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して6092万0722円及びこれに対する平成27年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して550万円及びこれに対する平成27年1 1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,原告Cに対し,連帯して550万円及びこれに対する平成27年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告株式会社エスジー・コーポレーション(以下「被告会社」という。) の従業員であり,致死性不整脈により平成27年11月28日に死亡したE(以 下「被災者」という。)の配偶者と子である原告らが,被災者の死亡が被告会社における量的及び質 社」という。) の従業員であり,致死性不整脈により平成27年11月28日に死亡したE(以 下「被災者」という。)の配偶者と子である原告らが,被災者の死亡が被告会社における量的及び質的な過重労働に起因するものであるとして,被告会社に対し,民法709条,711条,715条及び会社法350条に基づき,同社の代表取締役である被告Dに対し,民法709条,711条及び会社法429条1項に基づき,連帯して,扶養利益喪失分,葬儀費用,慰謝料,弁護士費用の合計719 2万0722円及びこれに対する不法行為の日(被災者の死亡日)である平成27年11月28日から各支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実以外は,各項掲記の証拠又は弁論の全趣旨により認 める。)⑴ア被災者(昭和50年2月22日生)は,平成20年4月21日,被告会社に正社員として入社して勤務していたが,平成27年11月28日に自宅の浴室で倒れ,その後,都立墨東病院において死亡が確認された。被災者の死体検案書によれば,直接の死因は致死性不整脈(推定)とされ,その原因と して再発性心筋梗塞,さらにその原因として冠状動脈硬化症があるとされ,また,直接の死因ではないが,病的経過に影響を及ぼした傷病名として慢性肺気腫があるとされている。 (以上,甲5の2,甲22,弁論の全趣旨)イ原告Aは,被災者の配偶者である。原告B及び原告Cは,被災者の子であ る。 ウ被告会社は,ボタン,ファスナー,レース,リボン,テープ,コード,ゴム,裏地,芯地等の服飾資材全般の製造・販売,ファッションベルト,バッグ,アクセサリー等の服飾雑貨製 であ る。 ウ被告会社は,ボタン,ファスナー,レース,リボン,テープ,コード,ゴム,裏地,芯地等の服飾資材全般の製造・販売,ファッションベルト,バッグ,アクセサリー等の服飾雑貨製品の企画・製造販売等を業とする株式会社である。 被告会社では,被災者が勤務していた当時,20名程度の従業員が勤務し ていた。 エ被告Dは,被告会社の代表取締役である。 ⑵ 被災者が在籍した当時の被告会社の組織構成は,次のとおりである。 ア代表取締役の下に,営業1部(服飾資材及びファッション雑貨を担当),営業2部(ユニフォーム用の服飾資材等を担当)及び管理部(経理,人事,そ の他を担当)が設置されていた。 イ営業1部の部長は被告会社の取締役であるFが務め,同部には,通称営業1部チーム(服飾資材及びファッション雑貨を担当),営業2チーム(服飾資材を担当)及び営業3チーム(服飾資材及びファッション雑貨を担当)があった。 ウ被災者は,営業1部に所属し,同部のうち,Fがリーダーと呼ばれる営業員を兼任する通称営業1部チーム及びGがリーダー(営業員)を務める営業3チームの業務に営業補佐として従事していた(ただし,営業員ないし営業補佐が担当していた具体的な業務内容については争いがある。)。 ⑶ア原告Aは,平成29年1月18日,向島労働基準監督署(以下「向島労基 署」という。)に対し,被災者に係る労働者災害補償保険の給付申請を行った。同署長は,同年8月10日,被災者の死因となった致死性不整脈の発症を被告会社における業務災害(労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)7条1項1号。以下「労災」という。)と認定した。 (以上,甲21(枝番を含む。),22,弁論の全趣旨) の発症を被告会社における業務災害(労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)7条1項1号。以下「労災」という。)と認定した。 (以上,甲21(枝番を含む。),22,弁論の全趣旨) イ原告Aは,上記アの認定に基づき,令和3年6月末日までに,遺族補償年金として合計1458万3569円,葬祭料として98万3160円の支給を受けた(甲21の2ないし4,甲42,弁論の全趣旨)。 ウ原告らは,被災者の相続について放棄した(原告A本人)。 2 争点及び争点に関する当事者の主張 ⑴ 被災者が質的及び量的に過重な労働に従事していたといえるか。 (原告らの主張)ア被災者は,時間的,精神的に緊張を強いられる質的に過重な労働に従事していた。 被告会社の業務の流れは,アパレル小売,卸売企業といった取引先から商品(服飾ブランドのバッグ,アクセサリー等)の製造を「受注」し,中 華人民共和国(以下「中国」という。)の仲介業者を通じて中国内の縫製工場に「生産」を指示し,製造された商品を取引先に「納品」するというものである。 被災者は,被告会社の営業1部に所属する営業補佐として,受注段階,生産段階,納品段階の全てに関わっていた。このため,被災者は,取引先, 中国の仲介業者,検品業者等の複数の関係先とやり取りを行い,受発注金額,納期,品質等について交渉をしていくものであり,まさに生産管理に該当する業務に従事していた。すなわち,被災者は,取引先との間においては,商品の品質や受注価格に関するやり取りや納品の報告といった業務をこなしていた。 また,被災者は,中国の仲介業者との関係では,営業員が取引先から受領した仕様書に基づき,これを中国の仲介業者向けに,コスト( 注価格に関するやり取りや納品の報告といった業務をこなしていた。 また,被災者は,中国の仲介業者との関係では,営業員が取引先から受領した仕様書に基づき,これを中国の仲介業者向けに,コスト(取引先から被告会社に支払われる額)等の社外秘部分を記載しない形に記載を改めるなどした仕様書を作成し,これを同仲介業者に送付する,仲介業者に支払う仲介料の価格に関し,仲介業者への支払額の目安となっていた,取引 先から被告会社への支払額の半額程度に収まるように価格交渉を行う,納期交渉を行う,本生産指示に先立つ商品サンプルの納品時期を確認する,本生産指示に当たり,商品の不具合や修正点を伝えるなどして品質の管理に努めるといった業務をこなしていた。 さらに,被災者は,商品の納品に当たり,検品会社や取引先とやり取り をし,検品業務に立ち会うなどしたほか,取引先に対する納品報告も行い, 中国内の縫製工場において,生産商品の進行遅延が生じる等のトラブルが生じた際には,中国に出張することもあった。 被災者は,これらの業務を,時には,被告会社の営業員の確認や承認を経ずに,自らの判断で行うこともあった。 被災者は,上記のような業務につき,通称営業1部チームのFからのみ ならず,営業3チームのGから指示を受けてこなしていたほか,他のチームからも業務の指示がなされることがあったし,被災者は,取引先からの信頼が厚く,取引先から直接,被災者に引き合いの連絡が来たり,発注の打診がされたりすることもあった。このため,被災者は,他の同僚と比較して多数の商品の生産管理を担当していた。 また,Fは,自身が受注する服飾雑貨や副資材のうち,服飾雑貨の担当については被災者に割り振っており,Fが1か月に受注するバッグやアクセサ て多数の商品の生産管理を担当していた。 また,Fは,自身が受注する服飾雑貨や副資材のうち,服飾雑貨の担当については被災者に割り振っており,Fが1か月に受注するバッグやアクセサリーの件数は,平均で10型から15型くらいであり,その他,三面鏡メイクボックスやクッションの生産も受けていた。 以上のように,被災者は,取引先,中国の仲介業者,検品業者等,複数 の関係先と受発注金額,納期,品質等についてのやり取りを要する業務に従事していたのであり,その担当案件も多い中,被告会社の取引先であるアパレルメーカーの依頼はコスト面で厳しく,納期が絶対とされていたため,限られた時間の下,こうした取引先の希望に沿うように調整を行うという,複雑かつ困難な業務(質的に過重な業務)に従事していた。 こうした質的な過重性は,裁量や結果責任がない限り認められないものではないし,仮に,被災者が業務において最終決定権限を有していなかったとしても,業務の質的な負担が重くなかったことにはならない。 したがって,被災者は,時間的にも精神的にも緊張を強いられる質的に過重な労働に従事していたといえる。 イ被災者の労働時間は極めて長く,量的に過重な業務に従事していた。 被災者の致死性不整脈の発症前1か月ないし6か月の時間外労働時間は,別紙1「時間外労働時間主張一覧」「原告の主張」欄記載のとおりである。 被告らには,厚生労働省作成の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13年4月6日付基発第339号。 現「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日付基発0120第3号)」)に基づき,被災者 に関する基準」(平成13年4月6日付基発第339号。 現「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日付基発0120第3号)」)に基づき,被災者の労働時間を調査,把握する義務がある。 本件において,被告らはかかる義務に反し,被災者の労働時間を把握していなかったのであるから,被災者の労働時間について,原告らに不利な 認定をすべきではない。 被災者の労働時間については,被災者の送信した電子メールの送信記録や写真等がある日については,それらの最初のログの時刻を始業時刻とし,その最終のログの時刻を終業時刻とすべきである。 被告らは,被災者がTeamViewer(チームビューワー)と呼 ばれるソフト(外部から遠隔操作でパソコンを操作できるほか,様々な機能を有するソフト。以下「チームビューワー」という。)を利用して,被告会社の外部から被告会社のパソコンを遠隔操作して電子メールを送信するなどしていたとして,チームビューワーの利用が認められる部分については,電子メールの送信記録等から終業時刻を認定できないとか,チーム ビューワーの利用のため長時間中抜けしていたなどと主張する。 しかし,被告の指摘するチームビューワーのデータの抜粋(乙2)自体,オリジナルデータが存在せず,残っている資料にも転記ミスがあるなどその作成の正確性に疑義がある上,チームビューワーによる遠隔操作のためには,被告会社のパソコンの電源が入っている必要があるほか,被告会社 内でも,地下にいるとき等にはチームビューワーを利用して電子メールを 送信するなどすることもあったから,チームビューワーを利用しているからといって被告会社外にいるとは限らない。また, 内でも,地下にいるとき等にはチームビューワーを利用して電子メールを 送信するなどすることもあったから,チームビューワーを利用しているからといって被告会社外にいるとは限らない。また,仮に,チームビューワーを被告会社外で利用していたとしても,その利用による電子メールの送信等は被告会社の業務であって,業務量が過大であったため深夜に業務上必要なメールを送らざるを得なかったのであるから,黙示の業務命令に基 づく業務遂行であり,これが労働時間に含まれることに変わりはない。被告ら指摘の中抜けについても,F自身が否定しており,中抜けをしていたとはいえない。 り,被災者は恒常的に,深夜に及ぶ長時間労働や休日労働等,量的にも過 重な労働に従事させられていたといえる。 (被告らの主張)被災者が質的及び量的に過重な労働に従事していた実態はない。 ア被災者が質的に困難な業務に従事していたという事実はない。 生産管理とは,縫製工場内の商品(完成品)が出来上がるまでにおける 各工程上の仕掛品の進捗状況や品質等の管理を意味するものであり,縫製工場は,取引先の希望納期,予定生産数量,希望コスト,品質,工場の技術等を加味して,被告会社の営業員の指示に基づき,中国の仲介業者が選定していた。被告会社においては商品の大半を海外(中国)で生産しており,中国語を話すことができない被災者には,中国内の縫製工場における 生産管理などできないのであり,被災者が従事していたのは,生産管理を行う営業員の補佐であって,単なる商品(生産管理の終了した完成品)管理にすぎない。 被災者が,取引先や仲介業者との間で納期や原価に関するメールのやり取りをしていたとしても,それは,納期や原価の決定に関する裁量権を有 商品(生産管理の終了した完成品)管理にすぎない。 被災者が,取引先や仲介業者との間で納期や原価に関するメールのやり取りをしていたとしても,それは,納期や原価の決定に関する裁量権を有 する被告会社の営業員の指示に基づき,被災者が指示された内容をそのま ま送信していたにすぎず,被災者にはこれらの事項について裁量もなければ,その結果について減給,降格,厳しい叱責といった責任を問われることもなかった。 そもそも,被告会社の指示の下,業務に従事していたというためには,明示ないし黙示の業務命令が必要である。特に時間外労働においては,か かる業務命令があったかは個別に問題となるところ,被告会社の明示ないし黙示の業務命令がないにもかかわらず,チームビューワーを使用した遠隔操作等で,勤務時間内に処理することができる不要不急のメールを深夜ないし休日に送信していたにすぎず,被災者の業務内容が過酷であったわけではない。 イ被災者が長時間労働した事実はない。 被災者の致死性不整脈の発症前1か月ないし6か月の時間外労働時間は,別紙1「時間外労働時間主張一覧」「被告の主張」欄記載のとおりである。被災者の労働時間は,労災における過労死の認定基準を満たさず,時間数だけではそれほど長時間とはいえない。 原告ら主張の終業時刻を認定する証拠は不十分である。 被災者は,チームビューワーを用いて,被告会社の外部から,被告会社のパソコンにアクセスして,遠隔操作することにより,メールを送信する等の業務を行っていた。 原告らは,被災者の終業時刻の証拠として,被災者の電子メールの送信 記録等を挙げるが,その一部については,チームビューワーによって外部から遠 ルを送信する等の業務を行っていた。 原告らは,被災者の終業時刻の証拠として,被災者の電子メールの送信 記録等を挙げるが,その一部については,チームビューワーによって外部から遠隔操作されて送信されるなどしたものであるから,同記録等によって被災者の終業時刻を認定することはできない。 被災者は,被告会社の就業時間中に長時間中抜けしていたことがある。 被災者は,例えば,平成27年11月27日,午後7時33分から午後 9時34分まで,2時間以上にわたり,チームビューワーを利用して外部 から被告会社のパソコンを遠隔操作していた(乙2)。このことからすれば,被災者は,被告会社の就業時間中に長時間の中抜けをしていたことがあり,この点も終業時間を認定するに当たり考慮すべきである。 上記を踏まえると,被災者の労働時間については,原告らが被災者の労働時間の根拠としている電子メールの送信記録等(甲17ないし19)の うち,被災者がチームビューワーによって遠隔操作して電子メールを送信するなどした部分(乙2)を除外し,残りの部分について,退勤記録(甲6)や上記電子メールの送信記録等に基づき,その最も遅い時刻を終業時刻として,算定すべきであるが,被災者が中国に出張していた平成27年6月11日から同月16日及び同年9月24日から同月28日までのう ち,土曜日と日曜日については,中国の工場が休みであり,特段の業務指示もなかったことから労働時間に含めるべきではない。 以上のほか,被災者が,チームビューワーによる外部遠隔操作をしていることから,被告会社での就業時間中に,長時間中抜けしていたといえる日については,この中抜けの直近の時刻を終業時刻とすべきである。 り,被災者が量的に ムビューワーによる外部遠隔操作をしていることから,被告会社での就業時間中に,長時間中抜けしていたといえる日については,この中抜けの直近の時刻を終業時刻とすべきである。 り,被災者が量的に過重な労働に従事していたとはいえない。 ⑵ 被告会社は,被災者の労働時間を適切に把握し,適切な措置を講じるべき注意義務に違反したといえるか(不法行為の成否)。 (原告らの主張) 労働者が長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知のところであり,使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。 具体的には,使用者は,①労働者の労働時間,業務状況や心身の健康状態を 適切に把握した上で,②労働時間や業務内容を軽減し,配置変更や人員体制を拡充する等,適切な措置を講じるべき義務を負う。 被災者は,上記のとおり,質的・量的に過重な労働に従事させられていたところ,被告会社は,客観的かつ簡易な方法であるタイムカードで被災者の労働時間を管理することを怠った。また,被災者の出勤時刻の記録を作成せず,退 勤時刻の記録もラウンド数字で記録するのみで,極めて杜撰で不正確であった。 さらに,被災者が送信したメール等によって,被告会社は被災者の長時間労働を認識していたにもかかわらず,何ら調査しなかった。したがって,被告会社は,被災者の労働時間を調査・把握する義務を一切履行しておらず,労働者の労働時間,業務状況や心身の健康状態を適切に把握すべき義務に違反した。 被告会社は,上記のとおり,被災者の長時 被告会社は,被災者の労働時間を調査・把握する義務を一切履行しておらず,労働者の労働時間,業務状況や心身の健康状態を適切に把握すべき義務に違反した。 被告会社は,上記のとおり,被災者の長時間労働を認識していたにもかかわらず,業務量の軽減,人員の補充,休暇の取得などの是正措置を講じることなく放置していた。被告DやFが早く帰るよう注意しただけでは不十分である。 したがって,被告会社は,被災者の労働時間や業務内容を軽減し,配置変更や人員体制を拡充する等,適切な措置を講じるべき義務に違反した。 このような被告会社の義務違反行為は,被災者の遺族である原告らに対する不法行為(民法709条,711条)を構成する。 (被告会社の主張)ア本件では,そもそも被災者に過重な勤務実態がなかった。被災者が自身の判断で外部からの遠隔操作等によって深夜にメールを送信することを防ぐ ことは不可能ないし著しく困難であり,他の従業員の業務実態からしても,被災者が過重な業務に従事していたことを被告会社が認識・予見することはできなかった。したがって,被告会社に結果予見義務が認められない。 イ仮に結果予見義務が認められたとしても,次のとおり,被告会社には結果回避義務違反も認められない。 被告会社は,始業時刻を朝礼終了時の営業部長からの報告,終業時刻を営 業部長又は責任者による退勤表の作成という方法で把握しており,不十分な点は否めないが,適切に把握することを怠ったことはない。 被災者が,退社後に居酒屋等に行き,飲食後に会社に戻って作業等をしていることがあると聞いて注意をしたことがあるが,被災者は,その際に,早く帰宅したくない事情がある旨説明し,執務態度を変えようとしなかったた め,無理強いすることなく簡 に会社に戻って作業等をしていることがあると聞いて注意をしたことがあるが,被災者は,その際に,早く帰宅したくない事情がある旨説明し,執務態度を変えようとしなかったた め,無理強いすることなく簡単に注意するにとどめた。また,被告会社は,営業員以外の営業補佐が長時間残業していた場合は,上司から担当の営業員に対し,営業補佐を早く帰し,営業員自身が残務処理するよう強く叱責していたから,適切な注意を与えていた。 被告会社は,被災者の負担を軽減するべくHを採用して被災者の業務を分 担させ,Hが平成27年6月末に退職した後は,同人が担当していた業務をFが引き取り,被災者の業務量が増えることはなかった。他に被災者と同じ業務量をこなしていた従業員は,特に残業することはなかったし,調査会社のデータによれば,被告会社は同業他社の従業員と比べて労働密度が低かったが,そのような状況でも被告会社はHを採用するなど被災者の業務量を軽 減しようと努力していた。また,長時間労働の実態がなかったのであるから,休暇を取得させる等して心身の健康を損なわないよう注意すべきであったとの原告らの主張は,前提が誤っている。 ⑶ 被告Dが被災者の労働時間を適切に把握し,適切な措置を講じるべき注意義務に違反したといえるか(不法行為の成否)。 (原告らの主張)被告Dは,被告会社の代表取締役として,同社の従業員の労働条件及び休暇の付与等業務全般を統括管理していた。また,被告Dは,同社の事務所に毎日出勤し,被災者ら従業員に対し,実際に指揮命令を行っていたのであるから,被告Dは,その職責上,被災者の不注意を予測して,不可抗力以外の万全の措 置を講じ,労働の提供過程において,その生命,身体及び健康を保護すべき一 般的注意 を行っていたのであるから,被告Dは,その職責上,被災者の不注意を予測して,不可抗力以外の万全の措 置を講じ,労働の提供過程において,その生命,身体及び健康を保護すべき一 般的注意義務を負っていた。 そして,被告Dは,上記の一般的注意義務に基づき,被災者に対し,条理又は取締役としての善管注意義務に基づき,労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務及び長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務を負っていた。 被告Dは,被災者ら従業員の出勤時刻を何ら記録せず,退勤時刻も自己申告でラウンド数字を記載させるのみで,実労働時間を正確に把握するための措置を講じたり,そのような体制を構築することはなかった。その結果,被災者の長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採ることはなかった。 したがって,被告Dは,労働者の生命・健康を損なうことがないような体制 を構築すべき義務及び長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務を怠った。 このような被告Dの義務違反行為は,被災者の遺族である原告らに対する不法行為(民法709条,711条)を構成する。 (被告Dの主張) 被告Dは,始業時刻を朝礼終了時の営業部長からの報告,終業時刻を営業部長又は責任者による退勤表の作成という方法で把握していた。 被告D,部長,リーダー職にある従業員は,取引先等との予定がない日は,営業員以外の経理事務社員や被災者のような営業補佐員が全員退勤したことを確認した後に帰宅するようにしていた。被告Dを含め,部長,リーダー職は 5名いたことから,責任者が不在という事態は生じないようにしていた。 被告Dが帰宅する際は,被災者はほとんど社内におらず,被災者の上司,同 にしていた。被告Dを含め,部長,リーダー職は 5名いたことから,責任者が不在という事態は生じないようにしていた。 被告Dが帰宅する際は,被災者はほとんど社内におらず,被災者の上司,同僚からは退社したと聞いていたため,注意しようがなかった。 被告Dは,被災者が中抜けした後,会社に戻って遅くまで勤務している日があると聞き及んだため,Fを通じて被災者に対し,早く帰宅するよう指導した。 しかし,被災者は,帰宅したくない事情があると述べたため,それ以上詮索し, 強く指導することはなかった。 被告Dは,社長就任後,勤務時間の短縮及び従業員の福利厚生の充実を目的として,平成23年1月5日,バースデー休暇の制度を設けた。被災者も平成27年5月11日に同休暇を取得した。このように,被告Dも,積極的に勤務時間の短縮に取り組んでいた。 ⑷ 被告Dが被災者の労働時間を適切に把握し,適切な措置を講じるべき注意義務を果たすに当たって,任務懈怠及び重過失があったか(会社法429条1 項)。 (原告らの主張)上記⑶のとおり,被告Dは,被災者の長時間労働を認識していたにもかかわらず,被災者ら従業員の実労働時間を正確に把握するための措置を講じたり, そのような体制を構築することがなかった。また,被災者の長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採ることもなかった。 したがって,被告Dは,重大な過失により,労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務及び長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務を怠った。 (被告Dの主張)否認ないし争う。 ⑸ 被告会社についての民法715条及び会社法350条の責任の成否(原告らの主張) する措置を採る義務を怠った。 (被告Dの主張)否認ないし争う。 ⑸ 被告会社についての民法715条及び会社法350条の責任の成否(原告らの主張)被告会社の代表取締役である被告Dの注意義務違反は,被告会社の業務の執 行につき行われたものであることから,同社は,民法715条及び会社法350条の責任を負う。 (被告会社の主張)争う。 ⑹ 因果関係の有無 (原告らの主張) 致死性不整脈は,労災認定基準の対象疾患に該当する。被災者が従事した過重な労働は,著しい疲労の蓄積をもたらして脳・心臓疾患の発症の基礎となることは経験則的に明らかであり,被災者の致死性不整脈の発症が,被告会社における量的及び質的に過重な労働に起因するものであることは明らかである。 被災者の飲酒,喫煙や慢性肺気腫は,致死性不整脈を発症させる原因になる とは認められない。 (被告らの主張)致死性不整脈は労災認定基準の対象疾患ではない。 また,他の従業員はほとんど残業していないこと,メールの内容が不要不急であること,被災者の自己判断で勤務時間内に送信できるものをあえて遅い時 間に処理していたことなどを考えると,被災者は,長時間労働や質的に困難な労働に従事していないこと等から,因果関係は認められない。 さらに,被災者は基礎疾患として慢性肺気腫を有しており,当該基礎疾患,過度の飲酒及び過剰喫煙が致死性不整脈との関係で一定の因果性を有している。 ⑺ 損害の有無及びその額(原告らの主張)ア原告A扶養利益喪失分 4506万3690円次の計算式のとおり,上記金額が扶養利益喪失分とな 有している。 ⑺ 損害の有無及びその額(原告らの主張)ア原告A扶養利益喪失分 4506万3690円次の計算式のとおり,上記金額が扶養利益喪失分となる。 (計算式)(1万6386円(被災者の基礎収入(向島労基署が認定した被災者の死亡前3か月間の平均賃金である給付基礎日額))+822円(賞与分の算定基礎日額))×365日×7.1078(原告Cが大学を卒業する予定の2025年3月までのライプニッツ係数)×(1-0. 3)+(1万6386円+822円)×365日×(14.6430 -7.1078)(2025年4月から被災者が67歳に達するまでのライプニッツ係数)×(1-0.4)=5964万7259円-1458万3569円(被災者の労災認定に基づき,令和3年6月末日までに遺族補償年金として支給を受けた額)=4506万3690円葬儀費用 32万7032円 原告Aは,被災者の葬儀費用として131万0192円を支出し,そのうち労働者災害補償保険の一時金として葬儀費用98万3160円の支給を受けた。 なお,社会儀礼上相当額の香典は,損益相殺の対象とならない。 慰謝料 1000万円 判例上,休業損害や死亡逸失利益等の経済的損害に対する賠償とは別に,近親者には精神的苦痛に対する慰謝料が認められている。 弁護士費用 553万合計 6092万0722円イ原告B 慰謝料 500万円判例上,休業損害や死亡逸失利益等の経済的損害に対する賠償とは別に,近親者には精神的苦痛に対する慰謝料が認められている。 弁護士費用 50万円合計 550万円 判例上,休業損害や死亡逸失利益等の経済的損害に対する賠償とは別に,近親者には精神的苦痛に対する慰謝料が認められている。弁護士費用 50万円合計 550万円 主文 ウ原告C慰謝料 500万円判例上,休業損害や死亡逸失利益等の経済的損害に対する賠償とは別に,近親者には精神的苦痛に対する慰謝料が認められている。弁護士費用 50万円合計 550万円 (被告らの主張) ア原告A 不知。なお,仮に扶養利益を算定するとしても,被災者が60歳以降も同じ給与水準であることを前提に算定するのは相当でなく,6割程度に減じられるべきである。 不知。なお,香典等を受領しているのであれば,損益相殺されるべきである。慰謝料額は否認し,その余は不知。なお,扶養利益の賠償がされれば,精神的損害も填補されたと考えるべきである。 不知。 争う。 イ原告B 慰謝料額は否認し,その余は不知。なお,原告Aに対する扶養利益の賠償には原告Bの分が含まれるから,原告Bの精神的損害も填補されると考えるべきである。 不知。 争う。 ウ原告C 慰謝料額は否認し,その余は不知。なお,原告Aに対する扶養利益の賠償には原告Cの分が含まれるから,原告Cの精神的損害も填補されると考えるべきである。 不知。 争う。 ⑻ 過失相殺及び素因減額の可否 (被告らの主張)被告Dは,被災者に対し,早期に帰宅するよう指示していたが,被災者 不知。 争う。 ⑻ 過失相殺及び素因減額の可否 (被告らの主張)被告Dは,被災者に対し,早期に帰宅するよう指示していたが,被災者は,自らの判断で時間外労働に及んでいた。また,被災者は,基礎疾患として慢性肺気腫を有し,健康診断において経過観察と診断され,左肩痛に心筋梗塞や狭心症の疑いがあったにもかかわらず,過剰な飲酒並びにタール及びニコチン含 有量の多いタバコの喫煙をやめなかった。 これらの事情を考慮すれば,被災者の過失は8割を下ることはなく,原告らの請求との関係においては,被害者側の過失として考慮されるべきである。 (原告らの主張)被災者の飲酒や喫煙は,通常想定される範囲を外れないものであり,過失相 殺の事由にならない。また,心電図検査の結果,「経過観察」と診断されたことについては,要精密検査や要治療ではなく,診断後も恒常的に長時間労働に従事していたにもかかわらず,特に日常生活に異常はなかった。発症前の左肩痛にしても,心筋梗塞や狭心症の疑いがあるとする医学的な根拠はない。同様に,慢性肺気腫が被災者の死亡の誘因になったとも認められない。 被告Dや被災者の上司は,被災者の終業時刻が深夜になっていることを認識しながら,絶対的な業務量の削減や人員配置の見直しなど長時間労働を是正する具体的な措置を現実に講じなかったのであるから,被災者の長時間労働を黙認していた被告らが,被災者の自己責任を理由に過失相殺を主張することは許されない。 ⑼ 労災保険法附則64条1項1号に基づく履行猶予の額(被告らの主張)労災保険法附則64条1項1号によれば,損害の発生時から年金給付に係る前払一時金給付を受けるべき時までの損害の発生の時にお 法附則64条1項1号に基づく履行猶予の額(被告らの主張)労災保険法附則64条1項1号によれば,損害の発生時から年金給付に係る前払一時金給付を受けるべき時までの損害の発生の時における法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該前払一時金給 付の最高限度額に相当となるべき額の限度で,その損害賠償の履行の猶予を求 めることができる。 前払一時金の最高限度額は,給付基礎日額の1000日分に相当する額である(労災保険法60条2項)ことから,本件では,被災者の平均賃金給付基礎日額である1万6386円の1000日分である1638万6000円である。また,労災保険法附則64条1項1号の「損害の発生時」は,被災者の死 亡時である平成27年11月28日,「前払一時金を受けるべき時」は,遺族補償給付の支給決定日である平成29年8月10日である。 そして,次の計算式に従って算出される履行猶予額から,損益相殺の対象となっている既払いの遺族補償年金を控除した96万3089円について履行が猶予される。 (計算式)履行猶予額=前払一時金の最高限度額-(前払一時金の最高限度額×損害の発生時から年金給付に係る前払一時金給付を受けるべき時までの損害の発生の時における法定利率により計算される額)(原告らの主張) 労災保険法附則64条1項に基づく履行猶予の適用は特段争わないが,本件において履行猶予を求めることができるのは,40万8499円である。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め られる。 ⑴ 被告会社における業務の流れは次のとおりである。(乙4, 3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め られる。 ⑴ 被告会社における業務の流れは次のとおりである。(乙4,5,証人H,証人F,弁論の全趣旨)ア営業員がアパレル小売・卸売企業に営業活動を行って受注する。 イ被告会社において,中国の縫製工場に対し,発注,指示書の作成,材料手 配に関する価格交渉を行う。材料の手配は,基本的に,指示書をもとに中国 の縫製工場又は中国の仲介業者が行う。 ウ中国の縫製工場又は仲介業者が,被告会社に対し,サンプルを納品する。 エ発注元のアパレル小売・卸売企業が,被告会社に対し,本生産指示ないし修正指示を行う。 オ被告会社が,中国の仲介業者ないし縫製工場に対し,本生産指示ないし修 正指示を行う。 カ中国の縫製工場は,検品会社(アパレル小売・卸売企業の認定,指定する会社)に対し,納品する。被告会社の担当者は,検品会社における検品に立ち会う。 キ検品会社は,発注元のアパレル小売・卸売企業に対し,納品する。 ⑵ア被災者は,被告会社に入社する以前は,株式会社神商会に勤務し,鞄の生産管理を担当していた(争いのない事実)。 イ被災者の被告会社における労働条件は,始業時刻が午前9時,終業時刻が午後6時,休憩時間が午前11時55分から午後0時55分と定められていた(甲4)。 ウ被告会社では,毎朝午前8時45分から朝礼が行われていた(争いのない事実)。 エ被告会社は,被災者の在籍した当時,従業員の労働時間についてタイムカード等の機械で管理しておらず,管理職において退勤時刻をラウンド数字の時間で管理表に記録していた (争いのない事実)。 エ被告会社は,被災者の在籍した当時,従業員の労働時間についてタイムカード等の機械で管理しておらず,管理職において退勤時刻をラウンド数字の時間で管理表に記録していた(甲6,弁論の全趣旨)。また,被告会社の出入 口については,共用カードキーと鍵が用意され,従業員がこれを使用して出入りできるようになっていた(甲38)。 オ被災者は,チームビューワーを使用し,被告会社の外から同社内のパソコンにアクセスして,業務を行うことがあった。 なお,被告会社は,被災者がチームビューワーを使用していたことを同人 の死亡後に認識した。 (以上,乙1ないし3,10の1ないし3,証人H,弁論の全趣旨)。 カ被告会社は,平成24年7月,被災者の負担を減らすため,Hを採用して通称営業1部チームに配属し,被災者の担当していた業務を分担することとした。 Hは,平成27年6月,被告会社を退職した。 (以上,争いのない事実)。 ⑶ 原告Aは,平成29年1月18日,向島労基署に対し,被災者に係る労働者災害補償保険の給付申請を行った。同署長は,同年8月10日,被災者の致死性不整脈発症前1か月から6か月の各月の時間外労働時間を次のとおり認定し,本件を労災と認定した。 なお,向島労基署は,被告会社の所定労働時間を午前9時から午後6時,休憩時間を午後0時から午後1時,所定休日を土曜,日曜及び祝祭日とし,始業時刻を朝礼の時刻であった午前8時45分,営業部長の確認をもとに作成された管理表上の退勤時間を基礎としつつ,①パソコンファイルのログ記録,②メールの送信記録等に基づき,①と②が隣接した時間に行われていると判断でき る日については被告会社で就業していたと判断し,①と②のいずれか遅い 間を基礎としつつ,①パソコンファイルのログ記録,②メールの送信記録等に基づき,①と②が隣接した時間に行われていると判断でき る日については被告会社で就業していたと判断し,①と②のいずれか遅い方の時間を終業時刻として,被災者の労働時間を推計した。 (以上,甲21(枝番を含む。),22)ア発症前1か月 87時間55分イ発症前2か月 86時間01分 ウ発症前3か月 81時間24分エ発症前4か月 77時間00分オ発症前5か月 99時間28分カ発症前6か月 101時間42分⑷ア被災者は,死亡するまで約20年にわたって喫煙し,被告会社に勤務して いた頃は,1日当たり20本程度喫煙していた(甲22,原告A本人,弁論 の全趣旨)。 イ被災者は,概ね毎日,ビール500ml程度の飲酒をしていた(甲22,原告A本人)。 ウ被災者が平成26年11月29日に受診した人間ドックの結果成績表には,心電図及び尿検査の結果について「経過の観察を必要とします。」との診 断医のコメントが付されているほか,診察の結果について「異常所見なし(禁煙をお勧めします)。」との記載がある(甲20)。 ⑸ア向島労基署は,平成29年9月13日,被告会社に対し,時間外労働に関する協定がないにもかかわらず,1週間について40時間,1日について8時間を超えて労働させていること,賃金台帳に労働時間数を記入していない こと等の違反事項があるとして,当該事項の是正を勧告するとともに,被告会社において始業時刻が把握されないなど,労働時間を適正に把握しているとは認められない状況があること等の事項があるとして,当該事項の改善措置をとるよう指導した(乙8の1・2)。 イ被告会社は, 会社において始業時刻が把握されないなど,労働時間を適正に把握しているとは認められない状況があること等の事項があるとして,当該事項の改善措置をとるよう指導した(乙8の1・2)。 イ被告会社は,平成29年11月7日までに,向島労基署長に対し,上記ア の事項を是正ないし改善した旨報告した(乙8の3ないし5)。 ⑹ 厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長作成の「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等について(基労補発第31号)によれば,長期間にわたる疲労の蓄積が脳・心臓疾患の発症に影響するものと考えられるようになってきたことから,医学的な検討 を踏まえ,これも業務による明らかな過重負荷として考慮することとし,評価期間として発症前概ね6か月より前の業務の取扱いを検討し,発症前1か月間に概ね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価されるが,就労実態が多種多様であることから,このことをも って直ちに特に過重な業務に就労したと判断することが適切ではない場合も あることを踏まえ,このような場合にはそれ以外の負荷要因も考慮して特に過重な業務に就労したとするかを判断するものとされている。なお,それまで「一次性心停止」及び「不整脈による突然死等」とされていたものについては,「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うこととされた。 また,厚生労働省労働基準局長による「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負 傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発第1063号平成13年12月12日改正基発0507第3号平成22年5月7日)においても,上記同様の基準が維 血管疾患及び虚血性心疾患等(負 傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発第1063号平成13年12月12日改正基発0507第3号平成22年5月7日)においても,上記同様の基準が維持されている。 (以上,甲28,31) 2 争点⑴(被災者が質的及び量的に過重な労働に従事していたといえるか。)に ついて⑴ 厚生労働省労働基準局長による「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」は,医師等の専門家による検討会を経て作成されたものであることから,本件においても,被災者の死亡原因である致死性不整脈について業務起因性が認められるか否かについては,同基準に 準拠しつつ,検討するのが相当である。 ⑵ 質的過重性についてア被告会社の業務の流れは上記認定事実⑴のとおりであるところ,被災者が送信していたメール(甲17,18,36,37)の内容からすれば,被災者は,営業補佐として,単に営業員であるFやGの指示を転送するにとどま らず,一定程度,生産管理に係る業務(取引先との受注コストに関するやり取り,仲介業者との価格交渉,中国の縫製工場における品質管理等)についてある程度主体的に判断する業務に従事していたことが認められる。 被災者と同様に営業補佐として勤務していた証人Hは,営業補佐が取引先と受注コストについてやり取りすること,仲介業者との価格のやり取りは基 本的に営業補佐が交渉すること,それを営業員の指示,許可や事前確認を受 けてやるかどうかはケースバイケースであり,指示等を受けるかどうかは上代(取引先であるアパレル小売・卸売企業の売値)が決まっているかどうかである旨供述及び陳述(甲33)するが,これとも整合する。そうすると,被災者は,一定程度裁量を であり,指示等を受けるかどうかは上代(取引先であるアパレル小売・卸売企業の売値)が決まっているかどうかである旨供述及び陳述(甲33)するが,これとも整合する。そうすると,被災者は,一定程度裁量をもって業務を行う場面が存在し,被告らが述べるように,単なる営業員の判断を伝達するような補助業務にとどまるものとは 認められない。 イ他方で,被災者がアパレル小売・卸売企業からの受注について,営業上のノルマを課されていたといった事情は見受けられず,業務についての最終的な責任を営業員が負うことを考えると,被災者が,時間的にも精神的にも緊張を強いられる質的に過重な労働に従事していたとまでは認められない。 また,証拠(甲7の1ないし3)によれば,被災者は,平成27年1月22日から同年2月5日,同年6月11日から同月16日,同年9月21日から同月28日の期間,中国に出張したことが認められるが,出張報告書の記載内容等からすれば,縫製工場における進捗状況の確認とその内容の視察であり,トラブルの解決について何らかの責任を負う内容の業務とは認められ ず,その他,本件全証拠によっても,被災者が質的に困難な業務に従事していたと認めることができない。 ウ以上の事情を考慮すれば,致死性不整脈の発症前6か月における被災者の職務は,単なる補助業務の域を超えるものではあり,相応に困難な面もあったとはいえるが,これを超えて,質的に過重な労働に従事していたとまでは 認められない。 ⑶ 量的過重性についてア被告会社においては,タイムカード等による機械的な出退勤管理は行われておらず,始業時刻の記録は全く存在しない上,終業時刻の管理も,上司によってラウンド数字で記載された管理表で管理しているのみであって,さら に,従業員が ード等による機械的な出退勤管理は行われておらず,始業時刻の記録は全く存在しない上,終業時刻の管理も,上司によってラウンド数字で記載された管理表で管理しているのみであって,さら に,従業員がカードキー及び鍵を使って事務所に出入りできる状況にあった ことからすれば,被告会社による上記管理表の記載のみに依拠して被災者の労働時間を算出することはできない。そこで,上記認定事実⑵のとおり,被告会社では朝礼が毎朝午前8時45分から行われていたことから原則として始業時刻を8時45分としつつ,被災者が送信したメール(甲17,18,36,37),被災者が被告会社で使用するパソコンのアクセスデータ(甲1 9の1ないし3),被災者が業務中に撮影したと思われる写真(甲29の1ないし36)等の記録が存在し,これらの資料が,被災者が被告会社の業務を行う際に記録されるものであることを考慮して,メール,ファイル及び写真の各ログの記録が存在する場合は,始業時刻を最初のログの時刻,終業時刻を最後のログの時刻として推計するのが相当である。 イなお,上記ログのうち,チームビューワーによる遠隔操作でなされたメール,ファイル及び写真の各ログの記録については,被災者が事務所内にいなかった可能性があるが,その一方で,被災者が自宅でチームビューワーを操作していたとも考え難い(原告Aは,被災者が自宅で仕事をしている様子を見ていない旨供述している。)ことに加え,被災者が自転車通勤であったこ と(原告A本人)からすると,帰宅途中でチームビューワーを利用していたとも考え難く,事務所内の自席ではない場所で操作していた可能性も否定できない。いずれにしろ,チームビューワーを操作して行っていた内容が被告会社の業務であることは明らかであるから,当該時点において たとも考え難く,事務所内の自席ではない場所で操作していた可能性も否定できない。いずれにしろ,チームビューワーを操作して行っていた内容が被告会社の業務であることは明らかであるから,当該時点において業務を行っていたものといえ,終業時刻についても当該時点と認めるのが相当である。 被告らは,被災者がチームビューワーを利用して送信していたメールが,内容的に急ぐものではなく,翌日の処理でも足りるものであったことから,終業時刻を上記のように考えるのは公平を欠く旨を主張するが,そもそも,被告会社において従業員の出退勤時刻を管理すべき義務があることに加え,事務所の鍵を従業員が自由に利用できる状況にするなど,従業員の判断で残 業を行い得る状況にしていたことからすると,被告会社が従業員の業務に従 事する時間を十分に管理していなかったことに起因して,上記のような出退勤時刻が不明な状況が生じたものといえ,公平を欠くとはいえない。また,被災者が残業を行うにあたって,被告会社が明示又は黙示に残業を命じる業務命令を出した形跡は認められないが,上記のように従業員の判断で残業し得る状況になっていたことに鑑みれば,この点は上記認定を左右しない。 ウこの他,被告らは,被災者が時間を空けてチームビューワーを利用していたこと(例えば平成27年11月27日には午後7時33分から午後9時34分まで被災者のスマートフォンでチームビューワーによる遠隔操作がされていたこと)から,その間,被災者は中抜けをしていたと主張する。 しかし,被告らが中抜けを主張する日について,その中抜けとされるチー ムビューワーの利用時刻後に,被災者が被告会社の事業場内で勤務をしていたといえ,同利用時点で被災者が被告会社での業務を終業していたわけではなかった 主張する日について,その中抜けとされるチー ムビューワーの利用時刻後に,被災者が被告会社の事業場内で勤務をしていたといえ,同利用時点で被災者が被告会社での業務を終業していたわけではなかったこと,証拠(乙2)によれば,被告らが中抜けと指摘するチームビューワーによる遠隔操作は,その間,継続的になされており,この間も事業場外において,労務を提供していたともいえること等からすれば,それらの 時間を労働時間とすべきでないとはいえない。 エそうすると,被災者は,致死性不整脈の発症前6か月の期間において,別紙2「労働時間集計表」「労働時間(始業~終業)」欄記載の時間に被告会社の業務に従事し,その時間外労働時間は,各期間の「時間外労働時間数」「合計」欄記載のとおりとなり,発症前1か月(平成27年10月29日~同年 11月27日)が102時間27分,発症前2か月(同年9月29日~同年10月28日)が88時間35分,発症前3か月(同年8月30日~同年9月28日)が93時間52分,発症前4か月(同年7月31日~同年8月29日)が77時間23分,発症前5か月(同年7月1日~同月30日)が108時間12分,発症前6か月(同年6月1日~同月30日)が127時間 25分であったと認められる。 オしたがって,被災者は,致死性不整脈の発症前6か月において,量的に過重な労働に従事していたことが認められる。 ⑷ 以上によれば,被災者は,致死性不整脈の発症前6か月において,量的に過重な労働に従事していたものといえ,また,その間に担当していた業務も単純な補助作業ではなく,限られた範囲ではあるが裁量権を有するなど,判断を迫 られる仕事をしていたことからすると,業務内容として相応の負荷が存在するといえることから,被災者が 担当していた業務も単純な補助作業ではなく,限られた範囲ではあるが裁量権を有するなど,判断を迫 られる仕事をしていたことからすると,業務内容として相応の負荷が存在するといえることから,被災者が致死性不整脈を発症したことについては,業務起因性が認められる。 3 争点⑵(被告会社は,被災者の労働時間を適切に把握し,適切な措置を講じるべき注意義務に違反したといえるか(不法行為の成否)。)及び争点⑻(過失相殺 及び素因減額の可否)について⑴ 労働者が長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知のところであり,使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄 積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解される(最高裁平成10年(オ)第217号,平成10年(オ)第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 具体的には,使用者は,①労働者の労働時間,業務状況や心身の健康状態を適切に把握した上で,②労働時間や業務内容を軽減し,配置変更や人員体制を 拡充する等,適切な措置を講じるべき義務を負うものと解すべきである。 証拠(甲17,18,36,37)によれば,被災者は,被告DやFをメールのCCに入れ,深夜や休日にメールを送信しているほか,被告DやFも,深夜にメールを送信していることを認識した上,口頭で注意した旨主張ないし供述していることからすれば,被告会社は,被災者の長時間労働を認識しており, 業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積し,心身の健康を損なう危 険性を十分に認識することができ 供述していることからすれば,被告会社は,被災者の長時間労働を認識しており, 業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積し,心身の健康を損なう危 険性を十分に認識することができたといえる。 それにもかかわらず,上記認定事実⑵のとおり,被告会社は,従業員の労働時間を適切に把握していないことから,被告会社は,労働者の労働時間,業務状況や心身の健康状態を適切に把握する注意義務に違反している。 また,被告会社は,被災者の業務上の負担を減らすため,Hを採用し,被災 者の業務を分担させるなど,被災者の業務を軽減する措置をとったと述べるが,Hは,平成27年6月末に退職しており,その後,被災者が致死性不整脈を発症するまでの約5か月間は,Hの補充要員が入っていない。被告会社は,Hが担当していた業務を,Fが引き取り,被災者に分担させることはなかった旨主張するが,それを認めるに足りる的確な証拠はない上,上記2のとおり,いず れにせよ被災者の業務状況が改善された形跡が見られないことを考えれば,被告会社において,適切な措置を講じるべき義務を果たしたものとも認められない。 なお,被告会社は,被災者に対して口頭で注意したが,被災者に帰宅したくない事情があり,執務態度が変わらなかった旨主張するが,本件全証拠によっ てもそうした事情を認めることはできないから,被告会社の主張を採用することはできない。 ⑵ これに対し,上記認定事実⑷のとおり,被災者が平成26年11月29日に受診した人間ドックの結果成績表には,心電図及び尿検査の結果について「経過の観察を必要とします。」との診断医のコメントが付されているほか,診察 の結果欄に「異常所見なし(禁煙をお勧めします)。」との記載がある。一方で,被災者の死体検案書(甲5の2)によれ て「経過の観察を必要とします。」との診断医のコメントが付されているほか,診察 の結果欄に「異常所見なし(禁煙をお勧めします)。」との記載がある。一方で,被災者の死体検案書(甲5の2)によれば,被災者の解剖所見では,陳旧性の心筋梗塞巣が見られており,再発性心筋梗塞と診断されていることからすると,被災者は,死に至った平成27年11月28日の急性心筋梗塞の前にも,心筋梗塞を発症していた可能性が高い。さらに,被災者は相当程度喫煙をしていた ことがうかがわれるほか,被災者は慢性肺気腫であったとされており,これと 喫煙があいまって死因に影響を与えた可能性は相当程度あるといえる。また,上記認定事実⑵オのとおり,被災者は,チームビューワーを使用して会社外で業務を行うこともあったと考えられ,被告らが被災者死亡後にチームビューワー使用の事実を把握したことを考えると,被災者の行動自体が被告らが適切に対応できなかった原因の一部となっている。 したがって,被災者には相応の過失が認められるところ,その遺族による損害賠償請求においても公平の見地から当該過失を考慮すべきであり,上記の諸事情を考慮すれば,その過失相殺の割合は,2割と認めるのが相当である。なお,上記の諸事情を過失相殺として考慮する以上,慢性肺気腫の罹患等の諸事情を別途素因減額事由として,過失相殺的な調整を行う必要はない。 4 争点⑶(被告Dが被災者の労働時間を適切に把握し,適切な措置を講じるべき注意義務に違反したといえるか(不法行為の成否)。),争点⑷(被告Dが被災者の労働時間を適切に把握し,適切な措置を講じるべき注意義務を果たすに当たって,任務懈怠及び重過失があったか(会社法429条1項)。)及び争点⑸(被告会社についての民法715条及び会社法350条の責 の労働時間を適切に把握し,適切な措置を講じるべき注意義務を果たすに当たって,任務懈怠及び重過失があったか(会社法429条1項)。)及び争点⑸(被告会社についての民法715条及び会社法350条の責任の成否)について ⑴ 被告Dは,被告会社の代表取締役として,同社の従業員の労働条件及び休暇の付与等業務全般を統括管理し,同社の事務所に毎日出勤し,被災者ら従業員に対し,実際に指揮命令を行っていたのであるから,被告Dは,その職責上,被災者の生命,身体及び健康を保護すべき一般的注意義務を負っていたものと解される。 そして,被告Dは,上記の一般的注意義務に基づき,被災者に対し,取締役としての善管注意義務に基づき,労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務及び長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務を負っていたと解するのが相当である。 ⑵ 上記3のとおり,被告Dは,被災者の長時間労働を認識しつつ,被災者ら従 業員の出退勤時刻を的確に把握する措置を講じていなかった結果,被災者の長 時間勤務による過重労働を抑制する措置を採ることもなかったのであるから上記義務を果たしていたとは認められない。なお,被告Dは,バースデー休暇の制度を設けるなど,従業員の健康に配慮していた旨主張するが,被災者が同休暇を取得していたとしても,同人の業務状況に改善は見られなかったのであるから,十分な措置を講じたものとはいえない。 したがって,被告Dは,被告会社の代表取締役として労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務及び長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る注意義務を怠ったというべきであり,同時に,取締役としての任務を懈怠し,そのことについて重大な過失が認められる。 とがないような体制を構築すべき義務及び長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る注意義務を怠ったというべきであり,同時に,取締役としての任務を懈怠し,そのことについて重大な過失が認められる。 ⑶ また,被告会社の代表取締役である被告Dの注意義務違反は,被告会社の業 務の執行につき行われたものであることから,同社は,民法715条及び会社法350条の責任を負うというべきである。 5 争点⑹(因果関係の有無)について⑴ 上記2のとおり,被災者の致死性不整脈の発症については,業務起因性を認めることができる。 なお,前記「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等について」によれば,致死性不整脈は従来から認定基準の対象疾患とされていた「不整脈による突然死等」に該当すると解されるところ,それを「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うことに改正されたほか,認定基準に掲げる対象疾患から除外されたとは認められな いから,この点に関する被告らの主張を採用することはできない。 ⑵ 前記認定事実⑷のとおり,被災者は,死亡するまで約20年にわたって喫煙し,被告会社に勤務していた頃は,1日当たり20本程度喫煙していたこと,被災者は,概ね毎日,ビール500ml程度の飲酒をしていたこと,被災者が平成26年11月29日に受診した人間ドックの結果成績表には,心電図及び 尿検査の結果について「経過の観察を必要とします。」との診断医のコメント が付されているほか,診察の結果について「異常所見なし(禁煙をお勧めします)。」との記載があること,東京都監察医務院の監察医が作成した被災者の死体検案書には,「直接には死因には関係しないがⅠ欄(注:直接死因等が記載された欄)の について「異常所見なし(禁煙をお勧めします)。」との記載があること,東京都監察医務院の監察医が作成した被災者の死体検案書には,「直接には死因には関係しないがⅠ欄(注:直接死因等が記載された欄)の傷病経過に影響を及ぼした傷病名等」として慢性肺気腫と記載されていることがそれぞれ認められ,これらが被災者の致死性不整脈の発症に一定 程度寄与した可能性は否定できないが,それをもって被告における長時間の過重労働との因果関係が否定されるものではない。 6 争点⑺(損害の有無及びその額)及び争点⑼(労災保険法附則64条1項1号に基づく履行猶予の額)について⑴ 原告A ア扶養利益喪失分 証拠(甲21の1)によれば,被災者の基礎収入は,死亡前3か月間の平均賃金である給付基礎日額1万6386円及び賞与分である算定基礎日額822円と認めるのが相当である。 そして,証拠(甲24,原告A本人)によれば,被災者は,一家の支柱 として主に家計を支え,原告A,当時大学3年生であった次女の原告B,当時中学1年生であった三女の原告Cの3名を扶養していた。他方で,証拠(甲24,原告A本人)によれば,原告Aにも収入があることが認められ,それらの事情を考慮すれば,被災者の生活費控除率を40%とし,原告Aの扶養利益に関する損害は,被災者の逸失利益の50%に相当するも のと考えるのが相当である。被災者の死亡時の年齢が40歳であることからすれば,ライプニッツ係数は27年に相当する14.6430とするのが相当である。 そうすると,原告Aの扶養利益喪失分の損害は,次の計算式のとおり,2759万1453円(1円未満切捨て。以下同じ。)と認めるのが相当で ある。 (扶養利益喪失分の計算式) そうすると,原告Aの扶養利益喪失分の損害は,次の計算式のとおり,2759万1453円(1円未満切捨て。以下同じ。)と認めるのが相当で ある。 (扶養利益喪失分の計算式)(1万6386円+822円)×365日×14.6430×(1-0. 4)×0.5≒2759万1453円 過失相殺後の金額2207万3162円 計算式:2759万1453円×(1-0.2) 損益相殺的な調整後の金額748万9593円計算式:2207万3162円-1458万3569円(遺族補償年金)(前提事実⑶イ) イ葬儀費用弁論の全趣旨によれば,原告Aは,被災者の葬儀費用として131万0192円を支出したことが認められ,同額が損害と認められる。 なお,社会儀礼上相当額の香典は損益相殺の対象とならず,本件全証拠によっても,原告Aが相当額を超える香典を受領したと認めることはでき ないから,葬儀費用から香典を控除すべきとする被告らの主張を採用することはできない。 過失相殺後の金額104万8153円計算式:131万0192円×(1-0.2) 損益相殺的な調整後の金額6万4993円計算式:104万8153円-98万3160円(葬祭料,前提事実⑶イ)ウ固有慰謝料 ,証拠(甲25,原告A本人)及び弁論の全趣旨に基 づき認められる諸事情を考慮すると,原告Aの精神的苦痛を慰謝する固有の慰謝料として200万円を認めるのが相当である。 過失相殺後の金額160万円計算式:200万円×(1-0.2) エ小計 原告Aの精神的苦痛を慰謝する固有の慰謝料として200万円を認めるのが相当である。 過失相殺後の金額160万円計算式:200万円×(1-0.2) エ小計 オ労災保険法附則64条1項に基づく履行猶予の額を考慮した金額874万6087円(履行猶予の額の計算式) 履行猶予額=前払一時金の最高限度額-(前払一時金の最高限度額×損害の発生時から年金給付に係る前払一時金給付を受けるべき時までの損害の発生の時における法定利率により計算される額)1638万6000円-(1638万6000円×(365+256)÷365×0.05)≒1499万2068円 1499万2068円-1458万3569円(既払い遺族補償年金)=40万8499円(最終的な損害額の計算式)915万4586円-40万8499円=874万6087円カ弁護士費用 上記オで算出された本件の損害賠償額が874万6087円であること,その他本件に現れた一切の事情を総合すると,弁護士費用相当損害金として87万4609円を本件と相当因果関係のある損害と認める。 キ総合計962万0696円 ⑵ 原告B 証拠(甲26)及び弁論の全趣旨に基づき認められる諸事情を考慮し,原告Bの固有慰謝料は100万円と認定するのが相当である。したがって,過失相殺を考慮し,原告Bの損害として,次の計算式のとおり,88万円を認めるのが相当である。 (計算式) 100万円×(1-0.2)+8万円=88万円⑶ 原告C証拠(甲27)及び弁論の全趣旨に基づき認められる諸事情を考慮し,原告Cの固有慰謝料は 当である。 (計算式) 100万円×(1-0.2)+8万円=88万円⑶ 原告C証拠(甲27)及び弁論の全趣旨に基づき認められる諸事情を考慮し,原告Cの固有慰謝料は100万円と認定するのが相当である。したがって,過失相殺を考慮し,原告Cの損害として,次の計算式のとおり,88万円を認めるの が相当である。 (計算式)100万円×(1-0.2)+8万円=88万円 7 結論よって,原告らの請求は,被告らに対し連帯して,原告Aについて962万0 696円,原告B及び原告Cについてそれぞれ88万円並びにこれらに対する不法行為の日(被災者の死亡日)である平成27年11月28日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し,その余をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第31部 裁判長裁判官金澤秀樹 裁判官増子由一 裁判官若山哲朗

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