平成13(ワ)959 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年2月24日 神戸地方裁判所
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判決文本文54,027 文字)

主文 1 被告は,原告Aに対し金440万円,原告Bに対し金220万円及びそれぞれに対する平成11年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告A及び原告Bのその余の請求並びに原告Cの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告Aに生じた費用の15分の14と被告に生じた費用の45分の14は原告Aの負担とし,原告Bに生じた費用の15分の14と被告に生じた費用の45分の14は原告Bの負担とし,原告Cに生じた費用と被告に生じた費用の3分の1は原告Cの負担とし,原告A,原告B及び被告に生じたその余の各費用は被告の負担とする。 4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し金6486万1721円,原告Bに対し金3248万0860円,原告Cに対し金550万円及びそれぞれに対する平成11年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要等本件は,平成11年2月2日午前8時15分ころ,兵庫県a郡b町cd番地先路上において,軽自動車を運転中のDが,過去に交際していたE運転の普通乗用自動車に正面衝突されて殺害され,同人も同所で自殺した事件(以下「本件殺人事件」という。)につき,Dの相続人である原告A及び原告B並びにDの伯父である原告Cが,DがEに殺害されたのは被告が管理・運営する兵庫県警察に所属する警察官(以下,単に「警察官」という。)が犯罪防止のための適切な権限行使をしなかったことによるものであるとして,被告に対して,国家賠償法1条1項に基づき,D及び原告らが被った損害の賠償並びにこれに対するDが死亡した日で 警察官」という。)が犯罪防止のための適切な権限行使をしなかったことによるものであるとして,被告に対して,国家賠償法1条1項に基づき,D及び原告らが被った損害の賠償並びにこれに対するDが死亡した日である平成11年2月2日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。 1 前提となる事実(証拠を掲記した部分以外の事実は当事者間に争いがない。)(1) 当事者原告Bは,D(昭和53年2月22日生まれ)の実母であり,原告Aは,Dの実祖母でかつ養母である。 原告Cは,Dの伯父(原告Bの兄)であり,Dの父代わりとして同人を2歳のころから事実上養育監護してきた者である。 被告は,兵庫県警察の管理及び運営を行う地方公共団体である。 (2) 事実経過ア Dは,兵庫県a郡b町内にあるスナックに勤めていたところ,平成9年夏ころ,客として店に来ていたEと知り合い交際を始めたが,暴力を振るわれるようになった。 イ Dは,平成10年4月末ないし5月初めころから,Eの暴力から逃れるために,原告Bの嫁ぎ先であるF方から120メートルほど離れた兵庫県e郡f町gh番地所在の同人所有の小屋(以下「本件小屋」という。)で暮らしていた(乙157)。 Eは,同年6月9日深夜,Dが一人で就寝していた本件小屋に窓ガラスを割って入ろうとした上,同小屋から逃げ出して隣家に助けを求めたDを道路まで引っ張り出し,その際にDが倒れてうつ伏せになったところ,そのままDの両脇を抱えて引きずり,よって,Dに対し,5日間の加療を要する左肩,両下肢擦過創の傷害を負わせた(甲2,29の1・2・4 以下,これを「α事件」という。)。 Dは病院で診 ままDの両脇を抱えて引きずり,よって,Dに対し,5日間の加療を要する左肩,両下肢擦過創の傷害を負わせた(甲2,29の1・2・4 以下,これを「α事件」という。)。 Dは病院で診断書の交付を受け,原告C,原告A及び原告B夫妻とともに兵庫県α警察署(以下「α署」という。)へ赴き,被害届を提出した。 同署警察官は,同年7月15日,α事件につきEを傷害罪の容疑で通常逮捕したが,翌日に釈放した。 同署は,同年8月10日,神戸地方検察庁β支部にα事件を書類送致した。 同支部検察官は,同年9月28日,α事件につき不起訴(起訴猶予)処分とした。 ウ Eは,平成10年12月21日夜,Dの胸部等を殴る蹴るという暴行を加え,Dに約1か月の通院加療を要する左側胸部打撲,左第5・6肋骨骨折の傷害を負わせた(甲3の1・2 以下,これを「肋骨骨折事件」という。)。Dは,翌22日病院で診断書(甲3の1)の交付を受け,23日の午前中,伯父であるG方に戻った(甲37)。しかし,EがDを訪ねて同方に押しかけて来たことから,同方の親族は,原告Cを呼び出した(甲37)。 原告Cは,Dを自宅に連れ帰り,友人のHにも来てもらって,同人とともにDを伴い,最寄りの兵庫県β警察署y交番(以下,兵庫県β警察署を「β署」,同署y交番を「y交番」という。)に赴いた。 しかし,同交番のI巡査長は,犯行現場がb町内であり,管轄が異なることから,原告Cらに対して,兵庫県γ警察署z交番(以下,兵庫県γ警察署を「γ署」,同署z交番を「z交番」という。)に行くよう指示した。 原告Cら3名はz交番に赴き,原告Cは同交番のJ警部補に対して,DがEから傷害を受けた事実 (以下,兵庫県γ警察署を「γ署」,同署z交番を「z交番」という。)に行くよう指示した。 原告Cら3名はz交番に赴き,原告Cは同交番のJ警部補に対して,DがEから傷害を受けた事実を申告し,診断書を示した。同交番のK巡査がDから,J警部補が原告Cからそれぞれ事情聴取を開始した。 その後,Eの友人であるL及びEの実父であるMが同交番に来所し,しばらくして,Eも来所したことから,Eに対する事情聴取も開始された。 双方に対する事情聴取が進む中,同警部補は,Eと原告Cを交番事務室から別々に呼び出し,話合いによる解決を勧めた。 その結果,Eは,「彼女(D)を平成10年11月21日(月曜日)の夜,自宅で殴ったり蹴ったりして,怪我させたことは,まちがいありません。そのことについては,深く反省しています。今後,二度と彼女を殴ったり,蹴ったりはしません。二度とつきまとったり電話したりすることは一切いたしません。もし,これを破るようなことがあれば,先の傷害の件で訴えられても,文句を言いません。」(上記「11月21日」との部分は,「12月21日」の誤りと認められる。)との誓約書(以下「本件誓約書」という。)を作成した(甲4)。他方,Dも,「この度の事件(傷害)でもう二度と彼(M)に電話連絡したりすることをしません。又,二度とつき合ったりはしません。」(上記「彼(M)」との部分は,「彼(E)」の誤りと認められる。)との誓約書を作成し(甲5),J警部補においてこれらを保管した。 エ Dは,平成11年1月14日午後3時45分ころ,兵庫県γ市i町jk番地の3所在のXγx店北側駐車場に停車していたD管理の軽自動車の前部座席内において,Eから覆い被さるように身体を押えつけられ,殴る蹴るな ,平成11年1月14日午後3時45分ころ,兵庫県γ市i町jk番地の3所在のXγx店北側駐車場に停車していたD管理の軽自動車の前部座席内において,Eから覆い被さるように身体を押えつけられ,殴る蹴るなどの暴行を受けた(以下,これを「X事件」という。)。 同店駐車場付近で測量作業をしていたNらがDの悲鳴を聞きつけ,Eの暴行に気付いたことから,同店店員に110番通報を依頼するとともに,自らEの暴行を止めた(甲38,乙184)。 Dは,このEの暴行により,片膝から出血するなどの傷害を負った(乙184)。 X店員から110番通報を受けた兵庫県警察本部通信司令室及びγ署は,「女性が拉致されようとしている。」「男が女を軽四に押し込もうとしている。」との無線を発し,警ら用無線自動車(以下「パトカー」という。)に現場への急行を指令し,これを受けたγ署署配のパトカー(γ2号)が,同X駐車場に到着した。 現場に臨場したO巡査長及びP巡査部長は,D及びNから事情聴取を行ったが,Dは被害申告をしないとのことであった。 オ原告Cは,平成11年1月27日夕刻,Lから,DをEに合わせるよう求める電話を受けた。原告Cはこれを拒否したが,EとLが押しかけてくると考え,同日午後6時55分ころβ署へ架電して出動を要請し,Hにも電話をかけて来てくれるよう頼んだ。しかし,警察官が来るよりも前に,EがLを伴って原告C方にやって来たので,原告Cは表に出て,Eらを追い払った(以下,これを「押しかけ事案」という。)。 その後,β署w交番(以下「w交番」という。)のQ警部補ら4名の警察官が原告C方に到着したが,既に通報から約40分が経過していた。Q警部補らは現場に到着した後,原告C いう。)。 その後,β署w交番(以下「w交番」という。)のQ警部補ら4名の警察官が原告C方に到着したが,既に通報から約40分が経過していた。Q警部補らは現場に到着した後,原告Cらにy交番に来るよう求め,原告Cもこれに応じた。 原告CはHを伴ってy交番に赴き,EもM及びLとともに同交番に赴いた。 Q警部補は,双方から事情を聴取し,原告Cが肋骨骨折事件の立件を望んでいたことから,γ署において同事件を把握していると考え,同署に行くよう指示した。 カ原告Cは,平成11年1月31日,z交番を訪れ,J警部補に対して押しかけ事案を説明して,本件誓約書のコピーの交付を求めたが,同警部補はこれを拒絶した(甲32の2,乙60 以下,これを「コピー要請事案」という。)。 キ Eは,平成11年2月2日午前8時15分ころ,兵庫県a郡b町cd番地先路上において,自ら運転する普通乗用車を出勤途中のDが運転する軽自動車に正面衝突させてDを殺害し,自らも,同所で所携の包丁で胸を刺して自殺した。 2 争点本件の争点は,①警察官の対応に国家賠償法1条1項における違法性(過失)が認められるか,②捜査懈怠等の違法(過失)行為とD死亡との間に相当因果関係が認められるか,③損害額である。 (1) 争点①(警察官の対応に国家賠償法1条1項における違法性(過失)が認められるか)について(原告らの主張)ア総論本件は,交際中の暴力が原因で女性が別れ話を切り出したことをきっかけとして,暴力的な攻撃がエスカレートし,つきまとい行為を開始するDV型ストーカーの典型である。このようなDV型ストーカーは,相手の拒否を受け入れず,病的な執着心をもっ れ話を切り出したことをきっかけとして,暴力的な攻撃がエスカレートし,つきまとい行為を開始するDV型ストーカーの典型である。このようなDV型ストーカーは,相手の拒否を受け入れず,病的な執着心をもって一方的に自分の欲求を押し付ける。その動機は,好意を寄せている相手に拒絶されたことへの恨みであり,自分を傷つけた人間を傷つけようとする。そして,次第に暴力行為がエスカレートし,最後には殺人鬼と化す。 EのDに対する種々の攻撃(暴行傷害,脅迫,強要等)も,これにあてはまるものであり,復縁強制という目的を遂げるために繰り返され,エスカレートする。かかるEの暴力の特性に鑑みれば,一つ一つの攻撃を切り離して評価するのではなく,連続する加害行為として把握され対処されなければならない。 よって,かかる加害行為に対して,警察としては,暴力を振るうことはいかなる理由があっても許されないということを加害者に伝えるために,毅然と法律に基づく権限を行使して対処することが極めて重要である。 警察に付与された法的権限は,具体的事情のもとで,警察が個人の生命,身体の保護という責務を果たすために一般の行政権限以上に適正に行使されなければならず,一定の場合に,その権限不行使は著しく不合理なものとして違法になる。すなわち,生命身体に対する重大な侵害となる犯罪行為が行われる危険が切迫しており,警察官においてそのような状況を知ることができ,権限行使により加害行為の結果を容易に回避することができた場合において,当該権限が行使されなければ,その権限不行使は著しく不合理であり,違法と評価される。 本件は,凄惨なストーカー行為に遭い,親族ではDの生命身体を守りきれないという事情の下で,γ署等にEへの厳しい対応を求めた ,その権限不行使は著しく不合理であり,違法と評価される。 本件は,凄惨なストーカー行為に遭い,親族ではDの生命身体を守りきれないという事情の下で,γ署等にEへの厳しい対応を求めたにもかかわらず,警察官らが何らの警察権限を行使しなかったのであり,かかる権限不行使は著しく不合理であり違法であった。具体的には以下のとおりである。 イ具体的な権限不行使の違法性(ア) α事件a 事実経過(a) Eは平成10年6月9日午前2時35分ころ,DがF所有の本件小屋に一人で就寝していたところ,同小屋の窓ガラスを破って侵入し,逃げるDを路上に押し倒し,うつ伏せにしながらその両脇を抱えて引きずり回し,Dに左肩,両下肢擦過創の傷害を負わせた。 (b) これに対し,α署警察官は,窓ガラスの壊れ具合等を現場で確認し,Dが同年6月9日に診断書(甲29の4)をα署に持参して襲撃を受けた状況を説明した際には,本件小屋の所有者である上記Fも同行していたのに,同人に対して住居侵入罪及び器物損壊罪についての告訴の意向も聞かずに帰らせてしまった。 そして,α署警察官は,Eの住居侵入と器物損壊という傷害に至る攻撃の危険性を物語る被疑事実には目もくれず,DとEの交際に力点を置いた調書(甲29の2)を作成し,事件から1か月以上も後の同年7月15日になってようやく傷害罪の容疑でEを逮捕したものの,逮捕時にDがE方にいたのを知るや,その日のうちに交際再開に関するDの調書(甲29の3)を作成して,翌日Eを釈放して一件落着の処理をして送検したのである。 b 行使すべきであった権限α署警察官としては, 再開に関するDの調書(甲29の3)を作成して,翌日Eを釈放して一件落着の処理をして送検したのである。 b 行使すべきであった権限α署警察官としては,かかる危険な事件の違法性を漏れなく評価するために,本件小屋の所有者であるFから事情を確認して,Eに対し,傷害罪だけでなく少なくとも住居侵入罪でも検挙すべきであった。 また,α署は,Eを釈放した後も,被害者であるDの住所地を管轄するβ署及びEの住所地を管轄するγ署にそれぞれ事件を報告し,今後同様の事件の再発を防ぐために連携を図りつつ,かつEが再度Dに対して暴行等の攻撃に及ぶことがないか的確に情報交換できる態勢を敷くべきであった。 c 権限不行使の違法性未明に窓ガラスを破って侵入し,更に逃げる被害者を追跡して暴行を加え,傷害を負わせるような行為は,極めて危険性の高い行為であり看過すべきでない。その上,Dへの事情聴取の中で,それまでにも,Eは,DがEに逆らったりするとすぐに暴力を振るってきたこと,Dが別れようとすると「納得できん。」などと言って自宅に押しかけて来たこと,そのためにDは身を隠したことが判明した。 こうして,Dの事情聴取をとおして,α事件が一過性の事件ではなく,執拗な復縁のための攻撃の一環であることが明らかになったのである。とすれば,今後更に酷い攻撃が繰り返され,Dの生命身体に対する重大な侵害となる犯罪行為が行われる差し迫った危険があったことは,α署警察官において容易に認識することができたはずである。 そして,同署警察官が上記のような権限を行使していれば,Eに対する抑止力になってその後の加害行為を回避し得たので α署警察官において容易に認識することができたはずである。 そして,同署警察官が上記のような権限を行使していれば,Eに対する抑止力になってその後の加害行為を回避し得たのであり,また,これらの権限行使は,警察として容易にできたものである。 したがって,上記の権限不行使は著しく不合理であり,違法である。 (イ) γ署逃げ込み事案a 事実経過(a) Dは,平成10年夏ころ,従姉のR方に匿ってもらっていたが,そのころ,DがRとともにRの運転する軽自動車で外出した際,Eは軽トラックでDらを追い回し始めた。Eは同車で,m町内においてDらを追い回し,袋小路に追い込むや,Dらの乗った軽自動車のボンネットに上がり「出てこんかい。」と怒鳴りながらガラスを叩いた。EはRが警察に通報した際に,一旦ひるんだものの,すぐに車での追跡を再開し,Dらがγ署に逃げ込むまで追跡を弛めなかった。 この間,Rは,再三γ署に電話をかけ,追跡の模様を報告し,γ署に逃げ込むことも告げた。 (b) Dは,γ署に逃げ込んだ後,同署の警察官に対し,Eの過去の暴力を話した上,車で追い回された経過を詳しく説明した。しかし,γ署の警察官は,Dから過去にEから暴力を受けていたことを聞きながら,今回はEが車をぶつけていないことや,殴っていないことを聴くと「後をつけられたというだけでは警察は何もできない。前に二人が交際していたこともあるし。」と述べ,何らの措置も採らなかった。「何かされないと何もできないのか。」というDの言葉にも「以前に交際関係があるからなあ。」「今は動きようがない。」と苦笑いして何もせず,記録も一切残さなかった。 た。「何かされないと何もできないのか。」というDの言葉にも「以前に交際関係があるからなあ。」「今は動きようがない。」と苦笑いして何もせず,記録も一切残さなかった。 その結果,この日の暴行被疑事件は検挙されず,またα事件は漫然と起訴猶予処分にされた。 b 行使すべきであった権限被害者であるDからの被害申告を受けたγ署警察官は,直ちにこの日の暴行について捜査に着手し,刑事訴訟法に基づきEを逮捕するか,少なくともEに対して今後同様の行為を行わない旨の厳正な警告を発するべきであった。 それとともに,γ署警察官は,α署にも逃げ込み事案を報告し,α事件に関する起訴猶予の当否の判断に重要な事情として供し得るよう,同署経由で担当検察庁に連絡するべきであった。 c 権限不行使の違法性Eは,これまでに何度もDに復縁を求めては暴行を繰り返し,同年6月にはα事件を起こし,さらに上記のとおり,γ署に逃げ込まなければならないような凶悪な暴行被疑事件を起こしたものであり,本件がDVストーカー事案であることは明らかである。そして,今後も,Eの暴行がエスカレートすることにより,Dや同伴者の生命身体に重大な危害を与えるような犯罪行為のなされる危険が切迫していることは,上記Rによる通報及びその後のDのγ署警察官に対する説明等によって,同署警察官においてこれを容易に知り得たはずである。 また,同署警察官は,α事件についてα署に照会し,相互に情報を交換することにより,同年9月28日にα事件を安易な起訴猶予処分で終わらせることなく,双方の事件につき厳正な刑事処分に向けた捜査を行い,刑事処分につなげ,併 α事件についてα署に照会し,相互に情報を交換することにより,同年9月28日にα事件を安易な起訴猶予処分で終わらせることなく,双方の事件につき厳正な刑事処分に向けた捜査を行い,刑事処分につなげ,併せて,同年7月16日に釈放した後も,Eを罪証隠滅のおそれある者として刑事訴訟法に基づいて逮捕するか,少なくとも今後同様の行為を行わないよう厳正な警告を行うなどの断固とした対処をすべきであり,これをしておれば,Eの暴走は食い止められた。 また,γ署警察官は,この日,Rから恐怖に満ちた通報を受け,DからもEの執拗な追跡の状況を詳しく聞き,事実関係を十分に把握したのであり,α署との情報交換により,上記のような措置を採ることは容易であった。 したがって,上記の権限不行使は著しく不合理であり,違法である。 (ウ) 肋骨骨折事件a 事実経過(a) Dは,平成10年12月21日,Eに胸を蹴られ「左側胸部打撲,左第5・6肋骨骨折」の傷害を負わされた。Dは,診断書の交付を受け,今度こそEを逮捕してもらおうと考え,原告C及びHに付き添われてy交番に赴いた。 Dらは,同交番において,I巡査長に対して診断書を示し,「事件にしたい。」と告げ,傷害を受けた経過を述べた。しかし,同巡査長は,加害行為地を聞いた途端「告訴するんならz交番やな。」と述べ,γ署に電話して事情聴取した内容を連絡し,同署の在署係長の指示を受けてz交番に引継ぎの電話を入れた。 そこで,Dらはz交番に赴き,同交番のJ警部補に対して,改めて診断書を示しながら告訴意思を告げた。こうしてDの事情聴取が開始し,原告Cは,事情聴取を受けるDの近くで,捜査の指揮を執るJ警部補 そこで,Dらはz交番に赴き,同交番のJ警部補に対して,改めて診断書を示しながら告訴意思を告げた。こうしてDの事情聴取が開始し,原告Cは,事情聴取を受けるDの近くで,捜査の指揮を執るJ警部補に対し,Eの暴力が執拗に繰り返されてきたこと,その中にはα事件として警察に被害届を提出したものもあることを説明し,今回の暴力がこれら復縁強制のための攻撃の一環であり,極めて悪質で危険であって,警察に介入してもらわなければ止まらないことを理解してもらおうと努めた。 そして,その後,E本人がz交番に来所し,傷害の被疑事実を認めた。 (b) しかるに,J警部補は,Dによってなされた告訴を受理せず,何らDの意思を確かめないまま,かえって原告Cに「お兄さん,ここはひとつ,わしらがEと父親をガツンとやるから,誓約書でどないや。」と持ちかけ,Eに対して厳正な対処をするつもりがあるかのように装って同人の警察に対する信頼を欺き,受理すべき告訴を棚上げにして,Eから誓約書を取る処理で幕引きを図った。 b 行使すべきであった権限J警部補は,肋骨骨折事件について,被害者であるDの告訴を受理し,直ちに捜査に着手して,被疑者Eからの事情聴取,E立会いの上での実況見分等を実施すべきであった。そして,本件のDV型ストーカー事件としての危険性を的確に把握するため,本件に先行するα事件について,α署に対する照会などを実施すべきであった。また,Eが事情聴取に応じない場合は,刑事訴訟法に基づき逮捕し,Eが事情聴取に応じた場合でも,「Dへの接近禁止,暴行・脅迫等の犯罪行為を繰り返さない旨厳正な警告」を発した上で検察庁に事件を送致すべきであった。 さらに,E き逮捕し,Eが事情聴取に応じた場合でも,「Dへの接近禁止,暴行・脅迫等の犯罪行為を繰り返さない旨厳正な警告」を発した上で検察庁に事件を送致すべきであった。 さらに,Eを逮捕しない場合には,以後のEの警告違反行動を監視し,迅速に対処(新たな犯罪が行われようとすれば直ちにこれを制止し,犯罪が行われたときは,直ちに捜査及び被害者保護等の手続を採るなど)できるよう関係警察署間で緊密な連携態勢を敷くべきであった。 c 権限不行使の違法性本件では,α事件を含め,復縁強制に基づくDに対するEの暴力が継続しており,肋骨骨折事件もその延長線上の暴力行為である。よって,本件はDV型ストーカー事案であり,放置すれば以前からの暴力が更にエスカレートし,Dの生命・身体に重大な危害が加えられる危険が切迫していた。 そして,Dは,y交番及びz交番において警察官に対してかかる事実を訴えていたのであるから,警察は上記危険の切迫について十分知り得た。とりわけ,J警部補らは,z交番において,EがDが悪いと主張して自己の暴力を正当化するのを目の当たりにし,他方で,原告Cから,身内で匿ってもEの暴力からDを守ることができないことを聴取したのであるから,Eの危険性は嫌というほど知り得たものである。 そして,仮に警察が上記権限を行使して徹底した捜査を進め,警告及びEの警告違反行動を包囲する監視網を張り巡らせたならば,警察には正面から逆らわないEであったから,その行動につき強力な牽制をなし得たはずである。また,被疑者であるEが傷害事件について自白をし,嫌疑も固まっていたのであるから,これらの措置を採ることは容易であった。 した の行動につき強力な牽制をなし得たはずである。また,被疑者であるEが傷害事件について自白をし,嫌疑も固まっていたのであるから,これらの措置を採ることは容易であった。 したがって,上記の権限不行使は著しく不合理であり,違法である。 (エ) 誓約書による処理後の対応a 事実経過J警部補は,肋骨骨折事件を誓約書によって処理した後,かかる処理を本件殺人事件の後までγ署に報告しなかった。 γ署もy交番からの連絡を受けてz交番に肋骨骨折事件の処理を指示しながら,同交番から報告が上がらないのにこれを放置し,同月25日には,原告Cからの電話で,同月23日に告訴に行った経過と誓約書の処理を聞いたにもかかわらず,z交番に対し報告を求めもしなかった。 b 行使すべきであった権限そもそも肋骨骨折事件を誓約書で処理したことそのものが違法であるが,仮にかかる処理に一片の合理性が見出せるとしても,警察としては誓約書をEに書かせて処理を終わらせた後には,以下のように権限行使をすべきであった。 すなわち,J警部補は,その場でDとEの双方に本件誓約書の写しを交付するなどして誓約内容を確認し,Eに誓約違反を行わないよう厳しく警告するとともに,Dに対しては,Eの誓約違反があれば直ちに肋骨骨折事件を立件するので,いつでも連絡するよう連絡先と担当者を教示するべきであった。 また,J警部補は,以後Eの誓約に反するつきまといや暴力が再開しないようにEを監視する態勢を警察内に作るために,直ちに事件の処理を指示したγ署に対し,肋骨骨折事件について報告すべきであった。 また,J警部補は,以後Eの誓約に反するつきまといや暴力が再開しないようにEを監視する態勢を警察内に作るために,直ちに事件の処理を指示したγ署に対し,肋骨骨折事件について報告すべきであった。 そして,これを受けてγ署は,Dの安全を確保するために,D及びEの住所や就労先などがあるβ署及びγ署管内の警察組織に肋骨骨折事件の内容とその日の処理内容を伝えるほか,関係警察署・交番相互の連絡方法を確立するなどして,緊急通報時の現場急行とEの犯罪行為の制止,現行犯逮捕を含めたあらゆる権限が適正に行使できるための監視と連携の態勢を敷くべきであった。 c 権限不行使の違法性上記のように,Eの行為が今後エスカレートすることにより,Dの生命・身体に危害が及ぶような犯罪行為が発生する危険性は切迫しており,警察もこの状況を知り得た。 そして,上記のような権限行使によりD側との信頼関係が確立されていれば,警察としてもDの要請に応じて迅速な対応を採ることができたし,Eの誓約違反行為への監視と連携の態勢が整えられていれば,X事件及び押しかけ事案で通報を受けたときも,警察として直ちに肋骨骨折事件を立件するなどEの攻撃に即時的確に対処し,もってEの攻撃がエスカレートすることを食い止めることができたはずである。 さらに,上記のようにEの誓約違反に備えて各警察署・各交番間で報告や連携態勢を敷くことは,Dの告訴を誓約書で棚上げにした以上,当然必要な処置であり,警察として容易になし得たものである。 したがって,上記の権限不行使は著しく不合理であり,違法である。 (オ) X事件a 事実経過 警察として容易になし得たものである。 したがって,上記の権限不行使は著しく不合理であり,違法である。 (オ) X事件a 事実経過(a) Dは,平成11年1月14日,買い物に立ち寄ったXでEに捕まり,車に引き入れられ,車中で車が揺れるほど激しく殴られ,測量に来ていたNら男性3人に辛うじて助けられた。Eは,Nのところへ急発進で車を後退させ,同人に轢過しかねない脅威を与えた上,Dに「覚えとけよ。」「家を燃やしたる。」という捨て台詞を吐いてその場を去った。 (b) γ署署配のパトカー(γ2号)は,X店員の緊急通報を受けながら,現場にはサイレンも鳴らさずにやって来て,E運転の白色軽トラックとX駐車場入口で出会ったにもかかわらず,同車を追跡することもしなかった。そして,加害者がDの元交際相手だと分かると「女性の拉致事案にあらず,男女間のもめ事」と報告し,Dが被害届を出さないと言っているという一事で「事案にならず」と判断し,約30分で解散した。 このとき,臨場したO巡査長らは,Dから肋骨骨折事件のことや,その後もEから度々電話があり,事件当日もEからの復縁の申出を断ると暴行を受けたこと,かかる暴行によりDが顔面から出血していた状況も確認した。 (c) しかるに,O巡査長らは,就職予定先の会社に早く行かなければならない事情がDにあったことや,不意に襲われ脅されて混乱していたDの心情などを一顧だにせず,Dが被害届を出さないと言っているという一事をもって,Eの一連の加害行為に対する介入を一切やめてしまった。 また,O巡査長らは,Dから肋骨骨折事件のことを聴取したに ず,Dが被害届を出さないと言っているという一事をもって,Eの一連の加害行為に対する介入を一切やめてしまった。 また,O巡査長らは,Dから肋骨骨折事件のことを聴取したにもかかわらず,z交番に対して同事件についての報告を求めることもしなかった。そして,z交番,β署及びy交番にX事件の発生を連絡して,その後のEの襲撃や誓約違反行為を監視する態勢を敷くこともしなかった。 b 行使すべきであった権限警察とすれば,前月に肋骨骨折事件での告訴を受けた際,二度と暴力を振るわないという誓約と引き換えに,告訴を保留にしたのであるから,Eの凶暴な誓約違反行為につき通報を受け,事実を確認した段階で,直ちに肋骨骨折事件を立件すべきであった。 加えて,X事件についてもDに改めて被害届等捜査への協力を促すなどして,これを立件すべきであった。 その上で,Eに対しては,肋骨骨折事件とX事件の両事件について,呼び出しの上被疑者として本格的な事情聴取を行い,実況見分等を実施するなどの捜査を開始し,併せて,両事件につき十分な嫌疑があり,Dや関係者に対する威迫など罪証隠滅のおそれのあるEを刑事訴訟法に基づき逮捕するか,もしくはいかなる理由があってもDに近づかず,暴行・脅迫等犯罪行為をしないよう厳正な警告を行い,その行動を監視して新たな犯罪が行われようとすれば直ちにこれを制止できるよう関係警察署間で緊密な連携態勢を敷くべきであった。 c 権限不行使の違法性X事件は,α事件以前から続く,EのDに対する復縁強制の一環として火を吹いた暴行傷害事件であり,DV型ストーカーであるEの特性に鑑みれば,今後更に加害 権限不行使の違法性X事件は,α事件以前から続く,EのDに対する復縁強制の一環として火を吹いた暴行傷害事件であり,DV型ストーカーであるEの特性に鑑みれば,今後更に加害行為がエスカレートして,暴力的攻撃が繰り返されることから,Dの生命身体に対する重大な侵害となる犯罪行為が行われる危険が迫っていた。 また,この日,緊急通報により臨場したO巡査長らは,現場でDの顔面から出血する生々しい暴行の傷跡を確認し,また現場でDから,肋骨骨折事件についても聴取したのであるから,Dに対する危険が迫っていたことを知り得た。 そして,上記権限が行使されていれば,γ署は直ちにその管轄下にあるz交番から肋骨骨折事件の処理について情報を得ることができ,Eが他にα事件も起こした悪質なDV型ストーカー事案の加害者であること,z交番で肋骨骨折事件の告訴を保留にし,誓約違反行為があれば傷害事件として立件するという処理をしていたことが明らかになったはずである。とすれば,z交番も誓約違反による対処を当然開始したであろうし,続発の誓約違反である押しかけ事案に対しても,β署及びy交番はもっと危機感を持って対処し,Eの加害行為の繰り返しと,そのエスカレートを抑止して,更なる凶悪犯罪に至ることを回避できた。 また,X事件において,被害状況を立証する資料が十分あり,Eの誓約違反行為も明らかであるから,同事件及び肋骨骨折事件の立件は容易であったし,加害行為地がγ署とβ署管内にまたがる事案であることから,これらの範囲の警察署・交番間での連携態勢を敷くことは極めて重要であり,かつ容易になし得たことである。 したがって,上記の権限不行使は著しく不合理であり,違法 ることから,これらの範囲の警察署・交番間での連携態勢を敷くことは極めて重要であり,かつ容易になし得たことである。 したがって,上記の権限不行使は著しく不合理であり,違法である。 (カ) 押しかけ事案a 事実経過(a) Eは,X事件から2週間足らずの平成11年1月27日,肋骨骨折事件での誓約に反し,原告C方に押しかけてきた。原告Cは危険を感じ,直ちに警察に電話して救援を求めたが,Q警部補らが到着したのは通報から40分後のことであり,既にEらが引き上げた後であった。 この日,Dは怯えて家から出られなかったが,Q警部補らはDに事情を聞こうともせずy交番に引き上げた。原告Cは,Eのあからさまな誓約違反と狂気じみた態度にこれまでにない危険を感じ,改めて肋骨骨折事件でEを取り締ってもらおうと考え,Hとともにy交番に赴いた。 y交番において原告Cは,Q警部補にα事件及び肋骨骨折事件について説明し,肋骨骨折事件では,Eに暴力やつきまといをしない旨の誓約書を作成させたにもかかわらず,Eが誓約違反で押しかけて来たことといった一連の経緯を説明した。その際,Eもy交番に来所したが,警察官に対しては謝罪するものの,自らの暴力を正当化しながら,なおもDに会いたいと繰り返していた。 (b) しかるに,Q警部補は,肋骨骨折事件の内容も誓約書の内容も確認せず,原告Cが「改めて告訴できるんですか。」と質問したところ,「告訴できるん違うんかい。なあ。」と答えただけで,何の照会も事情聴取もせず,再度事件化するならγ署に行くように指示しただけで原告Cらを帰し,事件をγ署に引き継ぐことすらしなかった。 ところ,「告訴できるん違うんかい。なあ。」と答えただけで,何の照会も事情聴取もせず,再度事件化するならγ署に行くように指示しただけで原告Cらを帰し,事件をγ署に引き継ぐことすらしなかった。 b 行使すべきであった権限警察は,押しかけ事案によって,一度ならず二度までも誓約違反がなされ,被害者の家族である原告Cがこれを訴えたのであるから,直ちに保留になっていた肋骨骨折事件を立件し,D及びEから事情を聴取するなどの捜査を開始すべきであった。これと併せて,同事件についてEを刑事訴訟法に基づき逮捕するか,もしくはDへの接近や暴行脅迫等犯罪行為を行わないよう厳正な警告を行い,加えて,Eの警告違反行動に的確に対処できるよう,関係警察署間で緊密な連絡連携の態勢を敷くべきであった。 また,Q警部補は,原告Cから,肋骨骨折事件においてEから誓約書を徴収していることを聴取したのであるから,すぐにγ署もしくはz交番に連絡して,肋骨骨折事件の処理について問い合わせ,誓約書の内容を確認し,これに則って肋骨骨折事件を自ら立件して捜査を開始するか,そうしないのであればγ署もしくはz交番にEの誓約違反行為で通報を受けた事実,Eがy交番でもDに会いたいなどつきまとい行為を窺わせる言動を繰り返している事実並びにDが肋骨骨折事件の事件化を望んでいる事実を報告し,同交番での事件処理を促す手配をすべきであった。 さらに,Dの住所,稼働先周辺の警備態勢を強化し,かつDとの間で,Eの襲撃を受けた場合の緊急通報や対処について具体的に打ち合わせ,Dの安全を確保する一方,Eの襲撃を制止し,厳しく対処できる態勢を敷くべきであった。 c 権限不行使の違法性 を受けた場合の緊急通報や対処について具体的に打ち合わせ,Dの安全を確保する一方,Eの襲撃を制止し,厳しく対処できる態勢を敷くべきであった。 c 権限不行使の違法性押しかけ事案は,過去から続く一連の復縁強制の一環であり,DV型ストーカーであるEの特性に鑑みれば,今後エスカレートして,Dの生命・身体に危害を及ぼす犯罪に発展する危険が切迫していた。 また,警察としては,この押しかけ事案はX事件に続く誓約違反行為なのであり,Eの行為が更にエスカレートし,Dの生命身体への危険が切迫していることを知り得たものである。 さらに,Q警部補においても,原告Cから,α事件に始まり,つい前月に肋骨骨折事件があり,z交番でEが誓約書を書いて処理されたことも聞いたのであるから,EのDに対する加害行為が繰り返され,その程度が相当危険なものであることは,その場で当然理解できたことである。 そして,もしQ警部補が,直ちにγ署等に連絡して,肋骨骨折事件の内容を把握し,自ら捜査するか,γ署において捜査を開始した上,警告を発し,あるいは逮捕すれば,EがDに対して再開した暴力的な攻撃を牽制することができ,更にエスカレートして重大犯罪に至ることを避け得たはずである。殊に,相変わらず警察官には謝罪を繰り返すEには,警察による断固とした態度は効果的であった。 また,こうした権限行使は,通常の警察業務の範囲内であり,容易になし得たものである。 したがって,上記の権限不行使は著しく不合理であり,違法である。 (キ) 原告Cの問い合わせへのγ署の対応a 事実経過 ある。 したがって,上記の権限不行使は著しく不合理であり,違法である。 (キ) 原告Cの問い合わせへのγ署の対応a 事実経過(a) 原告Cは,Eのあからさまな押しかけを受けながら,y交番が事件化を受け付けなかったことに危機感を持ち,その翌日(平成11年1月28日),γ署に電話して,Eが誓約に反して原告C方に押しかけてきたことを報告し,保留になっていた肋骨骨折事件の事件化について相談しようとした。 (b) しかし,γ署は原告Cの説明を全く理解できず,単にz交番に行くように指示しただけで何もしなかった。しかも,z交番に事件の報告を求めもせず,原告Cの電話の趣旨を連絡することさえしなかった。 b 行使すべきであった権限γ署は,遅くとも同日の上記電話で,前月z交番での対応を指示した肋骨骨折事件が誓約書で処理され,加害者が誓約に反して被害者宅へ押しかけ,通報する事態に至ったことを聞いたのである。 よって,γ署としては,直ちにz交番に事件の内容と処理の報告を命じ,原告Cに来署を求め詳しく経緯を聴取するとともに,同署の責任で誓約書に則り肋骨骨折事件を立件し,先に把握していたX事件とともに本格的な捜査を行うべきであった。場合によっては,Eを逮捕するか,Dへの接近や暴行傷害等犯罪行為を行わないよう厳正に警告し,Eの警告違反行動に的確に対処できるよう関係警察署間で緊密な連絡と連携の態勢を敷くべきであった。 また,Dの住所,稼働先周辺の警備態勢を強化し,かつDとの間で,Eの襲撃を受けた場合の緊急通報や対処について具体的に打ち合わせ,Dの安全を確保す 態勢を敷くべきであった。 また,Dの住所,稼働先周辺の警備態勢を強化し,かつDとの間で,Eの襲撃を受けた場合の緊急通報や対処について具体的に打ち合わせ,Dの安全を確保する一方,Eの襲撃を制止し,厳しく対処できる態勢を取るべきであった。 c 権限不行使の違法性本件は典型的なDV型ストーカー事案であり,Eの復縁強制のための暴力的攻撃が繰り返されエスカレートしており,今後Dの生命身体に危害を加えるような犯罪行為が発生する危険が迫っていたことは前記のとおりである。 そして,γ署は,z交番に肋骨骨折事件を処理させたことを初めとして,その後も原告Cから平成10年12月25日に同じ肋骨骨折事件について電話での報告と相談を受け,更にX事件では緊急通報を受けてパトカーを出動させていたのであるから,上記危険が迫っている状況は十分に知り得た。 また,本来肋骨骨折事件を管轄するγ署が,遅くとも平成11年1月28日の電話を受けた際に,Eの誓約違反に基づき,棚上げになっていた同事件への捜査等上記のような権限を行使すれば,その後のEの攻撃のエスカレートを止めることができたはずであり,客観的な証拠が揃っているこの段階で,このような措置を採ることに特段の障害はなく,容易であった。 したがって,上記の権限不行使は著しく不合理であり,違法である。 (ク) 誓約書コピーの交付要請に対する警察の対応a 事実経過原告Cは,平成11年1月28日,z交番に赴き,押しかけ事案について報告するとともに,誓約書のコピーの交付を求めた。しかし,同交番には,肋骨骨折事件の処 a 事実経過原告Cは,平成11年1月28日,z交番に赴き,押しかけ事案について報告するとともに,誓約書のコピーの交付を求めた。しかし,同交番には,肋骨骨折事件の処理の際に同席した警察官もいたにもかかわらず,J警部補が休みであったことから,誓約書の写しも渡さず,同警部補の次の出勤日を教える以外,何の処理もしなかった。 原告Cは,J警部補でなければ話は進まないと思い,肋骨骨折事件を立件してもらうために,同警部補の出勤日である同月31日に改めてz交番に赴いた。そこで,原告Cは同警部補に押しかけ事案について報告し,y交番で改めて肋骨骨折事件を立件するよう求めたが誓約書がないため話が通じなかったと述べ,誓約書の写しを求める理由を説明した。 しかし,同警部補は誓約書の写しを交付することを拒絶した。しかも,同警部補は,切実な思いで何度も足を運んだ原告Cから,Eの尋常ならざる押しかけの模様を聞きながら,誓約書のコピーの交付すら即座に理由も告げずに断り,「お兄さん,Eに女でも紹介したったらどないや。そしたら諦めるやろ。」と言い放った。 b 行使すべきであった権限肋骨骨折事件の処理に立ち会った警察官ならば,平成11年1月28日の時点で,J警部補が休みであってもγ署に報告してその指示を受け,J警部補の保管する診断書や誓約書を取り出し,押しかけ事案についてもy交番に照会し,原告Cから詳しく事情聴取して,肋骨骨折事件について直ちに立件すべきであった。また,遅くとも同月31日の時点で,J警部補は,誓約書と引き換えに告訴を保留にしていた経緯を踏まえ,誓約書に則り,直ちに肋骨骨折事件を立件すべきであった。 べきであった。また,遅くとも同月31日の時点で,J警部補は,誓約書と引き換えに告訴を保留にしていた経緯を踏まえ,誓約書に則り,直ちに肋骨骨折事件を立件すべきであった。 加えて,Dからも事情聴取してEの誓約違反行為について情報を収集し,その結果に基づきX事件についてγ署に照会し,同事件も立件すべきであった。 そして,Eを呼び出し,被疑者として肋骨骨折事件の事情聴取を行うなどの捜査を開始するほか,押しかけ事案について事情聴取し確認した上,罪証隠滅を防止するため同人を逮捕するか,もしくはいかなる理由があってもDに近づかず,暴行・脅迫等犯罪行為を決して行わないよう厳重な警告を行い,その行動を監視して警告違反行為に直ちに対処し制止できるよう関係警察署間で緊密な連携態勢を敷くべきであった。 また,Dが一人で通勤する時間帯の危険に対処するため,Dらに緊急の場合の具体的な通報と対処の方法について打ち合わせるなど安全確保のための綿密な協議を行うべきであった。 c 権限不行使の違法性本件は典型的なDV型ストーカー事案であり,Eの復縁強制のための暴力的加害行為が繰り返され,エスカレートしており,今後Dの生命身体に危害を加えるような犯罪行為が発生する危険が迫っていたことは前記のとおりである。 また,押しかけ事案が明白に誓約違反行為であることはすぐに分かったはずであるから,Dの生命身体に重大な危害が加えられる危険が切迫している事情は,J警部補以下z交番の警察官全員に当然認識できた。殊にJ警部補は,肋骨骨折事件を担当し,自身の判断で誓約書による処理をしたのであるから,押しかけ事案について事情を聴取すれば,E 切迫している事情は,J警部補以下z交番の警察官全員に当然認識できた。殊にJ警部補は,肋骨骨折事件を担当し,自身の判断で誓約書による処理をしたのであるから,押しかけ事案について事情を聴取すれば,Eの攻撃が再燃しており,Dの身に放置できない危険が迫っている事態は直ちに理解できたはずである。 そして,Dには暴力を正当化しながら,警察官には平謝りするEの行動を抑制するためには,Eに自らの行動の責任を取らせるしかないのであるから,誓約書に則り直ちに肋骨骨折事件を立件して,逮捕するか厳しい警告の上連携態勢を敷いて警告違反を監視していれば,Eが更にエスカレートすることを阻止できたはずであり,客観的な誓約違反がある以上,捜査の端緒としては十分であるため,上記の権限行使は容易になし得た。 したがって,上記の権限不行使は著しく不合理であり,違法である。 (被告の認否・反論)ア警察による事件処理の適正さについて本件においてα署,γ署,β署の各警察署は,いかなる時点においても事件を適正に処理している。具体的には以下のとおりである。 (ア) α事件についてa 事実経過EによるDに対する傷害事件(α事件)が平成10年6月9日午前2時35分ころ発生したこと,α署は,翌10日にDからの被害申告を受けて,同年7月15日,Eを傷害罪で通常逮捕したが,翌16日釈放したこと,同署長が同年8月10日に同事件につきEを神戸地方検察庁β支部に書類送致したことは認める。 b 警察の対応についてα署が同年7月15日にEを逮捕した当時,DとEは交際を再開して同棲関係にあり, 地方検察庁β支部に書類送致したことは認める。 b 警察の対応についてα署が同年7月15日にEを逮捕した当時,DとEは交際を再開して同棲関係にあり,Dが寛大処分を希望し,Eも犯行を全面自供していたことから,同署は翌16日,Eを釈放したのである。 よって,α署はα事件に対し適正に捜査し,処理したものである。 (イ) γ署逃げ込み事案について原告らが主張するγ署への逃げ込み事案については,全て否認ないし争う。 (ウ) 肋骨骨折事件及び誓約書による処理後の対応についてa 事実経過(a) Eが平成10年12月21日夜,Dに対して暴行を加え,加療約1か月を要する肋骨骨折等の傷害を負わせる事件(肋骨骨折事件)が発生したこと及びy交番のI巡査長が事件発生地がγ署管内であることから,原告Cらに対して同署z交番に届け出るように指示し,同交番に対応を要請したことは認める。 しかし,I巡査長が「告訴するんならz交番やな。」と述べたとの点は否認する。また,z交番でのやりとりは以下のとおりであり,J警部補らが原告Cらから告訴意思を示されたとの事実等は否認する。 (b) z交番では,当初傷害事件として処理するため,同交番勤務のJ警部補ほか4名のγ署員が待機した。同日午後6時ころ,Dらがz交番に到着したので,傷害事件として立件を前提にJ警部補が原告Cから,K巡査がDから,それぞれ供述調書の用紙を準備して事情聴取を開始した。J警部補は,事情聴取の中で,原告Cから「妹が自宅で胸を蹴られて肋骨を骨折した。二人は同棲しているが,この機に別れさせようと ら,K巡査がDから,それぞれ供述調書の用紙を準備して事情聴取を開始した。J警部補は,事情聴取の中で,原告Cから「妹が自宅で胸を蹴られて肋骨を骨折した。二人は同棲しているが,この機に別れさせようと思って被害届を出しに来た。」等の説明を受けた。 原告Cらから事情聴取を開始して数十分経過したころ,E,M及びLが来所した。そして,EとMがDへの謝罪や和解を求める発言を繰り返したところ,当初は厳しい態度だったDと原告Cも次第にEらの話を聞く姿勢を見せ始めた。また,J警部補らが,原告Cらから事情聴取した結果,DとEは1年半ほど交際しており,事件当時も同棲していた事実が明らかになった。そこで,J警部補は,DとEがわだかまりを残さず関係を断ち切るためには,傷害事件として立件するよりも双方の話合いによって合意が形成される方がよいと判断し,Eらと原告Cらをz交番事務室奥の通路に別々に呼び入れ,双方の意向を聞いた。すると,Eは,「悪いことをしました。治療費などは支払います。」と申し立て,原告Cも和解を受け入れてもよい旨を申し立てた。そして,Dからも和解を受け入れる旨の回答があったことから,双方とも和解することで合意した。 和解合意後,同交番勤務のS巡査部長がJ警部補に「誓約書でも書かせたら。」と進言したので,J警部補らは,Eを厳しく戒めるとともに,Eから本件誓約書を,Dからも,「二度と電話連絡しない。つき合ったりしない。」旨の誓約書の提出をそれぞれ受けた。 (c) Eは,上記和解後の同年12月26日,z交番に来所し,応対したJ警部補らに対して,Dに治療費,慰謝料として20万円を支払ったこと,その後はDとは会っていないことを説明した。 また, 後の同年12月26日,z交番に来所し,応対したJ警部補らに対して,Dに治療費,慰謝料として20万円を支払ったこと,その後はDとは会っていないことを説明した。 また,同月末には,同交番に原告Cが来所し,J警部補に対して,示談解決したことについて謝意を伝えた。その際,原告Cは菓子折を持参し,J警部補に手渡そうとしたが,同警部補は受領を辞退した。 b 警察の対応について(a) y交番のI巡査長が原告Cらにz交番に行くように言ったのは,事案の内容から事件発生管轄署であるγ署で処理することが妥当であると判断したからであり,同警察官が告訴を受け付けずにz交番に行くように指示したというわけではない。 z交番のJ警部補ほか4名の警察官も,事件処理を前提として,警らの時間を変更して原告Cらの到着を待ち受けていたのであり,到着後も事件処理を前提として,Dらから事情聴取を行っている。 (b) 和解に至った経緯についても,上記のとおり,傷害事件として立件するよりも,和解の方が事件の解決に資すると判断したためであり,双方の意向も確認した上,和解に至ったものである。誓約書は,和解合意後にS巡査部長からの進言を受けて,J警部補らが,EとDから,その提出を受けたものであり,同警部補が誓約書を前提に和解の話を持ち出したものではない。 (c) 以上のように,肋骨骨折事件を和解で処理し,誓約書の提出を受けたことは,双方の意思に反してなされたものでない。 なお,J警部補は,肋骨骨折事件についてγ署に報告しなかったが,これは,単に同警部補が失念していたからである。EやMがDに対する暴行について深く なされたものでない。 なお,J警部補は,肋骨骨折事件についてγ署に報告しなかったが,これは,単に同警部補が失念していたからである。EやMがDに対する暴行について深く反省し,交際を絶つ旨誓約したことから,肋骨骨折事件は解決したと考え,報告を急ぐ必要はないと判断したが,時間経過とともにこれを失念したものである。Eは,肋骨骨折事件後の同月26日に同交番を訪れ,Dに和解金を支払ったこと等を同交番の警察官に説明していることや,同月末に原告Cが菓子折を持参して解決したことについて謝意を伝えていることからしても,J警部補が肋骨骨折事件が解決したと判断するのは自然であり,不合理とはいえない。 (エ) X事件についてa 事実経過(a) EのDに対する傷害事件(X事件)が,平成11年1月14日午後3時45分ころ,Xγx店北側駐車場において発生したことは認める。しかし,その後の警察の対応は以下のとおりである。 (b) P巡査部長及びO巡査長が,同日午後3時51分ころ,パトカーで同店北側駐車場に臨場した。 P巡査部長らが,パトカーの後部座席にDを乗せて事情聴取をした結果,Dは,EとXで待ち合わせをし,Eが以前のように交際して欲しいと言ったので断ったところ口論となり,Eから顔を殴られたと述べるとともに,肋骨骨折事件の概要について説明した。 P巡査部長らは,Dの目の上に血がにじんでいたことから,Dに,病院に行って診断書の交付を受け,被害申告をするように言ったが,Dは被害申告をしないと述べた。P巡査部長らは,再度被害を申告するよう促したが,Dがこれを拒んだことから,同巡査部長らは事件化せず, に,病院に行って診断書の交付を受け,被害申告をするように言ったが,Dは被害申告をしないと述べた。P巡査部長らは,再度被害を申告するよう促したが,Dがこれを拒んだことから,同巡査部長らは事件化せず,Dに対して,今後,電話があっても出たり会ったりしないこと,電話番号を変えること,何かあればすぐに110番通報すること等を指導した。 b 警察の対応について原告らは,X事件において,警察が何らの措置も講じなかったと主張するが,P巡査部長らは,上記のとおりDに被害申告をするように促したが,同人がこれをしなかったのである。また,P巡査部長らは電話番号を変えることなどを指導し,適切な対応を採っている。 そもそも適切な刑罰権行使を終局の目的とする犯罪捜査において,被害者の被疑者に対する処罰の意思表示は不可欠であり,肋骨骨折事件の経緯をDから聴取したγ署員は,事件化の必要を認めてDに被害申告を何度も促したがDは申告しなかったことから,以後の捜査を断念し,Dに対して電話番号を変えること等の防犯指導を行ったのであり,かかる措置が不合理とはいえない。 (オ) 押しかけ事案についてa 事実経過(a) EとLが平成11年1月27日原告C方を訪れ,Dに会わせるよう求める事案(押しかけ事案)が発生したことは認める。 しかし,その後の事実経過は以下のとおりである。 (b) w交番のQ警部補ら4名のβ署員が,同日午後7時40分ころDの実家に臨場したが,臨場時にEらは既に立ち去っており,付近を検索したが発見できなかった。Q警部補らがD方で原告Cから事情聴取した結果,犯罪には至らないことが判 のβ署員が,同日午後7時40分ころDの実家に臨場したが,臨場時にEらは既に立ち去っており,付近を検索したが発見できなかった。Q警部補らがD方で原告Cから事情聴取した結果,犯罪には至らないことが判明したが,詳細な事情聴取のため原告Cに管轄のy交番に行くように求めた。 Q警部補らがy交番に到着したところ,既に同交番にEらが来ており,その後,原告CとHが同交番に来所し,更にMも来所した。同交番でEは,「Dに会わせて欲しい。よりを戻したい。」と申し述べたが,原告Cが拒絶し,Q警部補も「まじめに仕事をするように。」等と説諭した。原告Cが肋骨骨折事件を事件化してもらう旨Eに申し向けたところ,Eらは謝罪して同交番を立ち去った。 Eらがy交番を立ち去った後,原告Cが「このように約束を破るんやったら事件にすることができるか。」とQ警部補に相談し,同警部補が,「γ署に行って相談しなさい。告訴事件と違うので事件にできないことはない。」と教示したところ,原告Cは,「相談に行ってみます。」と言って同交番から立ち去った。 b 警察の対応について原告らは,肋骨骨折事件について改めて告訴し,刑事事件として厳正な対処を求めるためy交番に赴いたのに警察は何らの措置を採らなかったと主張するが,原告Cが同交番において警察官に対して告訴という言葉を発した事実はない。 また,Q警部補が,γ署での相談を教示したのは,原告Cが傷害の被害届をz交番にしていると述べたことから,γ署で被害届を受理している可能性もありγ署が事件をどのように取り扱っているか不明であったこと,また,仮に被害届を出していなくてもz交番で事件について把握済みであり,事後の処理を ると述べたことから,γ署で被害届を受理している可能性もありγ署が事件をどのように取り扱っているか不明であったこと,また,仮に被害届を出していなくてもz交番で事件について把握済みであり,事後の処理を考えると発生地を管轄するγ署で処理する方が適切と判断したためである。 よって,y交番において原告Cから相談を受けたQ警部補の措置は適正なものであった。 (カ) 誓約書コピーの交付要請に対する警察の対応についてa 事実経過原告Cが平成11年1月末z交番に来所し,応対したJ警部補に本件誓約書のコピーの交付を求めたが,同警部補がこれを拒否したことは認める。 しかし,J警部補の原告Cに対する「お兄さんEに女でも紹介してやったらどないや。そしたら諦めるやろ。」との発言は否認する。同警部補は単に本件誓約書のコピー交付の要請を断ったに過ぎない。 b 警察の対応についてJ警部補は,本件誓約書は警察が提出を受けたものであり,そのコピーを交付することは適当でないと判断して交付しなかった。また,肋骨骨折事件及びX事件の事件化も原告Cの申出がなかったことから捜査しなかったのである。 よって,同警部補の措置は適正なものであった。 イ権限不行使の違法性について警察官は,上記のとおり,本件につきその各事案に応じた適法かつ適正な職務執行をしており,原告らが主張する要件に照らしても,本件において警察官がその権限を行使しなかったことが著しく不合理であるとはいえない。 (ア) 危険の切迫について原告らは,Eの暴力は次第にエスカレートし,Dの生命,身体 て警察官がその権限を行使しなかったことが著しく不合理であるとはいえない。 (ア) 危険の切迫について原告らは,Eの暴力は次第にエスカレートし,Dの生命,身体への危険は高まっていったと主張するが,押しかけ事案以後においてすら,Dは平成11年1月29日及び30日の夜間に交際相手と外出したり,携帯電話番号を変えていないこと等からしても,Dが危険の切迫を感じていたとは考えられない。原告CもDを夜間一人で外出させたのであるから,危険の切迫を感じていたとはいえない。 このように,D及び原告Cの上記行動等からすると,Dに危険が切迫していたとは到底考えられず,これに対応したJ警部補,Q警部補とも緊迫感はなかったと供述していることからしても,Dに対する危険が切迫していたとはいえない。 (イ) 予見可能性について前記のとおり原告C及びDが危険の切迫を感じていないこと,J警部補ら現場の警察官も殺人事件の発生は予想不可能であったと供述していること等から判断して,本件殺人事件につき予見可能性があったとは認められない。 原告らは,本件は典型的なDV型ストーカーであり,DV型ストーカーの行為は次第にエスカレートし,最後には殺人鬼と化すのであり,EのD殺害は予見可能であったと主張するが,DV型ストーカーが必ず殺人を敢行するわけではなく,抽象的可能性が認められるにとどまる。 よって,警察において本件殺人事件に対する具体的予見可能性はなかった。 (ウ) 結果回避可能性・補充性について本件において,仮に肋骨骨折事件等を立件したとしても本件殺人事件に対する回避可能性があったとはいえない。 なかった。 (ウ) 結果回避可能性・補充性について本件において,仮に肋骨骨折事件等を立件したとしても本件殺人事件に対する回避可能性があったとはいえない。 すなわち,仮に,警察がEを肋骨骨折事件及びX事件に係わる傷害事件で立件したとしても,再び犯罪を犯す者も相当数存在することも事実であり,本件において,立件したとしても必ずしも本件殺人事件を阻止し得たとはいえない。 また,刑事訴追は検察官の権限であり,仮に警察が立件したとしても刑事訴追されるとは限らない。 加えて,原告らは,Eに対する監視態勢を行うべきであった,あるいは警察署間の連携を図って情報交換を行うべきであったと主張するが,仮にこれらの措置を採っていたとしても殺人事件の回避可能性を示すものではなく,単なる抽象的可能性があるに過ぎない。 (エ) 国民の期待について一般論として,国民が自分たちの身の安全のため,犯罪の検挙・防止を期待していることは事実であるが,このことから直ちに,特定個人に対する規制権限行使を期待しているとはいえず,特定個人に対する規制権限行使を期待しているかどうかは,具体的事情に応じて考察すべきである。 特に,本件のように同棲していた男女間で発生し,和解が成立した傷害事件の立件まで国民が期待していたとは到底いえないのである。 (オ) 結果回避の容易性について原告らは,警察がEに対する経過観察,警察署間での情報交換等の対応を何ら講じなかったと主張するが,特別なパトロールやEの監視,Dの身辺警護については,警察官を一定期間にわたって相当数動員しなければならず,限られた警察官数で特別の態勢 警察署間での情報交換等の対応を何ら講じなかったと主張するが,特別なパトロールやEの監視,Dの身辺警護については,警察官を一定期間にわたって相当数動員しなければならず,限られた警察官数で特別の態勢を採ることは必ずしも容易ではない。 しかも,Eの行動を最もよく知るのはDにほかならないのであり,そのD本人から警察に対して肋骨骨折事件以後のEから危害を受ける可能性についての情報提供がない以上,J警部補が解決したと判断した事案について,限られた警察官数で特別の態勢を採らなかったとしても,通報があれば直ちに通常の配置に付いている警察官が原告C方等に駆けつけることができる一般的態勢にあったことからすれば,不合理とはいえない。 ウ以上のとおり,本件の場合,Dの生命,身体に危険を及ぼすことが相当の蓋然性をもって予測されるような事情もなく,ましてや危険が切迫しているような事情もなく,警察官にとって,本件のごとき事件が発生することを予測することが到底困難な状況にあったのである。このような具体的事情の下において,警察官が採った前述の措置を超えた強い措置を採らなかったとしても,その不作為は,規制権限の趣旨,目的に照らして著しく不合理であるとは到底いえず,警察官の職務上の義務違反には該当しない。よって,国家賠償法1条1項適用上違法の評価を受けない。 (2) 争点②(捜査懈怠等の違法(過失)行為とD死亡との間に相当因果関係が認められるか)について(原告らの主張)ア本件は,典型的なストーカーによる死亡事件であるところ,警察に寄せられたつきまとい事案について,警察が行為者に警告や注意を実施したものの多くが解決している統計がある。 イまた,Eは,Dや原告Cらが警察に被害申告ないし告訴を 件であるところ,警察に寄せられたつきまとい事案について,警察が行為者に警告や注意を実施したものの多くが解決している統計がある。 イまた,Eは,Dや原告Cらが警察に被害申告ないし告訴をするや否や,自ら父親らと共に警察に出頭して,言い訳しつつもひたすら警察に対して謝罪の意を表明し,恭順の姿勢を示してきたことからすれば,警察による警告等の権限行使は,Eに絶大な影響力を持ち,効果的な抑止力になったはずである。 ウ特に押しかけ事案の際,y交番において,Q警部補が,同交番に出頭してきたEに対して,肋骨骨折事件について直ちに事情聴取を開始し,厳重な警告をなし,β署,γ署及びz交番に対して,押しかけ事案の報告をし,さらに,肋骨骨折事件などEの過去のDに対する同種事犯に関する事件照会を行い,Eの行動を監視すると共に,D本人に対して緊急連絡先や警察担当者を具体的に教示するなど,適切に対応していれば,本件殺人事件が未然に防げたことは明白である。 エまた,遅くとも,原告Cが,肋骨骨折事件の後でz交番においてEが書いた誓約書のコピーの交付を求めて同交番に赴いた平成11年1月31日時点において,警察がEに対する同事件についての捜査,すなわち呼び出し,警告,任意取調べを開始していれば,その2日後にDを襲撃し死に至らしめるような行為には及ばなかった。 これは,Eが,これまでもDらが警察に告訴,被害申告をすれば,少なくとも2,3週間はおとなしくしていたことが,過去の事件経過から判明していることからしても明らかである。 オ他方,被害者であるDをEから守るということについて,警察はことごとくDを失望させる対応をし,これによりDの警察への信頼を完全に喪失させたのである。 しかし,もし オ他方,被害者であるDをEから守るということについて,警察はことごとくDを失望させる対応をし,これによりDの警察への信頼を完全に喪失させたのである。 しかし,もし警察が,当初からDの立場に立って,その被害状況を理解し,Dの信頼を得る対処をしていれば,本件殺人事件当日の朝,Dが通勤途中にガソリンスタンドに立ち寄った際,DはEが自動車でつきまとってくるのを発見したのであるから,直ちに同スタンドの従業員に助けを求め,警察に緊急通報して警察官が緊急臨場するのを待つこともできた。そうであれば同日午前8時15分ころにDが死亡することもなかった。 カ以上のとおり,警察は,唯一,EのDに対する暴力的攻撃を制止できた国家機関であったにもかかわらず,その権限不行使により,Eのつきまとい行為を助長し,暴行の態様をエスカレートさせ,Dの警察への信頼を完全に打ち砕き,Dを死に至らしめた。 よって,警察の前記各違法行為,捜査の懈怠等から,DがEによって死亡に至らしめられるという損害が発生したことは明らかである。 (被告の反論)争う。 ア本件において,Eに対する規制権限を行使していれば,本件殺人事件は回避できたとする原告らの主張は,単なる抽象的可能性に過ぎず,高度の蓋然性をもって結果を回避し得たとはいえない。 イまた,Dの死亡は,Eの故意による犯罪行為によって生じたもので,特別の事情によるものであるから,γ署やβ署の警察官らの行為とD殺害との因果関係が肯定されるためには,警察官らにおいてEによるD殺害を予見し又は予見し得たことが必要である。 しかしながら,Dに対する殺人が行われる危険は切迫していなかったのであり,警察官がEによ 定されるためには,警察官らにおいてEによるD殺害を予見し又は予見し得たことが必要である。 しかしながら,Dに対する殺人が行われる危険は切迫していなかったのであり,警察官がEによるD殺害の意思を知り,又は知ることができなかったのであるから,警察官においてEによるD殺害を予見し,又は予見し得なかったことは明らかである。 ウしたがって,いずれにしても本件において警察官の権限不行使とDの死亡との間には相当因果関係はない。 (3) 争点③(損害額)について(原告らの主張)ア相続分(ア) Dの慰謝料金3000万円Dは長期にわたり繰り返しEから暴行及び傷害を受け,生活を破壊され生命の危険を感じる中,警察に救いを求めたにもかかわらず,警察がDの訴えに対し十分な対応を採らなかったために,Eに殺害されるに至ったのである。進行する犯罪の被害者として,自らの生命を守ってもらうために警察に救助を求めながら,その職務怠慢によりみすみす殺されてしまったDの恐怖感,無念さ,絶望感は想像を絶するものである。 その精神的苦痛を金銭的に評価すれば,金3000万円を下らない。 (イ) Dの逸失利益金8701万0155円Dは,死亡当時満20歳の健康な女子であり,67歳までの47年間就労可能であった。その間,少なくとも1年に496万7100円の収入を得ることができた。 そこで,これを基礎に,生活費控除を3割とし,中間利息をライプニッツ方式で控除してDの死亡による逸失利益を算定すると,以下の計算式のとおり8701万0155円となる。なお,ライプニッ そこで,これを基礎に,生活費控除を3割とし,中間利息をライプニッツ方式で控除してDの死亡による逸失利益を算定すると,以下の計算式のとおり8701万0155円となる。なお,ライプニッツ係数算定のための中間利息控除の利率については,現在の我が国の金利情勢に鑑み,年3パーセントとして計算すべきである。 計算式:4,967,100×(1-0.3)×25.024707=87,010,155(ウ) 原告A及び原告Bの相続以上より,Dの損害は,上記(ア)及び(イ)の合計1億1701万0155円となる。 Dの法定相続人は,原告A,原告B及びTの3名であるが,同人らは平成11年9月8日遺産分割協議をし,D死亡に基づく損害賠償請求権等一切について,原告Aが3分の2,原告Bが3分の1を各相続することに合意した。 よって,原告Aは7800万6770円,原告Bは3900万3385円の損害賠償請求権をそれぞれ相続した。 イ原告ら固有の損害(ア) 葬儀費用原告A及び原告Bは,Dの葬儀費用として,各相続分に応じて合計150万円(原告A:100万円,原告B:50万円)を支出した。 (イ) 原告Cの慰謝料原告CはDの父親代わりとして長年Dと同居し養育してきた者であり,EのDに対する暴行等の執拗さを知り,Dの身の安全を心配し,Dに付き添い又は代理して警察に行くなどDを守ろうと必死に警察の真摯な対応を求め続けてきた。 しかるに,警察に適切な措置を講じてもらえなかった上,「お兄さん,Eに女でも紹介したったらどないや 代理して警察に行くなどDを守ろうと必死に警察の真摯な対応を求め続けてきた。 しかるに,警察に適切な措置を講じてもらえなかった上,「お兄さん,Eに女でも紹介したったらどないや。」といった暴言まで浴びせられ,その2日後にDを殺害されるに至った無念さは察するに余りある。 よって,かかる原告Cの精神的苦痛を慰謝するには,500万円が相当である。 ウ損益相殺原告A及び原告Bは,D死亡により,各相続分に応じて,自賠責保険による保険金として合計3006万7574円(原告A:2004万5049円,原告B:1002万2525円)の支払いを受けた。 エ弁護士費用原告らは,本件訴訟の追行を弁護士に委任しているが,本件訴訟の難易度その他諸般の事情に照らし,各原告について請求額の1割程度,すなわち,原告Aについては590万円,原告Bについては300万円,原告Cについては金50万円の弁護士費用が,本件と相当因果関係のある損害として認められるべきである。 オまとめ以上より,原告らの損害は以下のとおりとなる。 (ア) 原告A 金6486万1721円(イ) 原告B 金3248万0860円(ウ) 原告C  金550万0000円(被告の主張)いずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 事実認定前記前提となる事実,証拠(甲1~7,10,15~21,24~26,28~40,43,44,46,乙1~6,8~28,30~58,60,62~67,69~73,95~101,104~106,141~148,150~167,169,170,172~1 ,24~26,28~40,43,44,46,乙1~6,8~28,30~58,60,62~67,69~73,95~101,104~106,141~148,150~167,169,170,172~177,180~182,184~191〔枝番のある書証については,いずれも枝番を含む。〕,証人H,同U,同J,同Q,原告C本人〔ただし,いずれも以下の認定に反する部分を除く。〕)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 (1) α事件に至る経過Dは,平成9年2月19日から働いていた兵庫県a郡b町内にあるスナックに,同年4月ころ客として来るようになったEと次第に親しくなり,同年11月ころ肉体関係を結び,平成10年1月ころから,Eの住むマンションで同棲生活を始めた。しかし,同棲開始後しばらくすると,EはDに対して命令口調になり,Dがこれに逆らうと暴力を振るうようになった。そこで,DはEと別れる決心をして,原告C方に戻った。 ところが,Eは別れることに納得せず,原告C方に押しかけてきた。そのため,Dは,平成10年4月中旬か下旬ころ,原告Bの知人であるV方に一時避難し,その後,同月下旬か同年5月上旬ころからはF所有の本件小屋で暮らし始めた。 その間も,Eは,Dの携帯電話に度々電話してDに復縁を迫った。Dは,Eが以前吸っていたシンナーをやめていたので,再度交際してもよいと考え,週に1度程度の頻度で会うようになった。 しかし,Dは,同年5月中旬ころ,Eが再びシンナーを吸っていたことを知ったことから,再び別れる決心をし,その旨電話で伝えたが,Eは納得しなかった。 (2) α事件について同年6月9日午前2時30分ころ,Dが本件小屋で就寝していたところ, 知ったことから,再び別れる決心をし,その旨電話で伝えたが,Eは納得しなかった。 (2) α事件について同年6月9日午前2時30分ころ,Dが本件小屋で就寝していたところ,玄関を叩く音が聞こえた。その後,しばらくしてDは,部屋の腰高窓の網戸を開けて中に入ろうとするEを発見した(この日,Dは窓を開けていた。)。Dは入って来ないように言ってEを外に突き落とし,窓を閉めた。ところが,Eは窓ガラスを手拳で叩き割り,中に入ろうとしたので,Dは怖くなって玄関から逃げ出し,斜め向かいのW方に助けを求めた。 しかし,EはDを追いかけて捕まえ,道路に引っ張り出した。その際,Dが倒れてうつ伏せになったので,EはそのままDの両脇を抱えて2,3メートル引きずった。この騒ぎを聞きつけたWがEを止めたが,この際の暴行によりDは5日間の加療を要する左肩,両下肢擦過創の傷害を負った。 Dは,同日午前中,病院で診断書の交付を受け,原告C及び同B夫妻とともにα署へ赴いて,被害届を提出した。 その後,DはF方母屋で暮らしていたが,同年6月下旬ころから,Eとの同棲を再開した。 Dに対する上記傷害事件(α事件)について,α署は同年7月15日,傷害罪でEを通常逮捕したが,逮捕時にDはE宅で同棲しており,Dが寛大処分を望んだことから,翌16日,Eを釈放した。 その後,同署は同年8月10日,同事件を神戸地方検察庁β支部に書類送致し,同支部検察官は,同年9月28日,同事件につき不起訴処分(起訴猶予)とした。 (3) γ署逃げ込み事案ア Dは,同年6月下旬ころからEとの同棲を再開したものの,その後もEから暴力を振るわれたことから,E方を抜け出し,従姉であるR方で )とした。 (3) γ署逃げ込み事案ア Dは,同年6月下旬ころからEとの同棲を再開したものの,その後もEから暴力を振るわれたことから,E方を抜け出し,従姉であるR方で匿ってもらうこととなった。 EはR方に来たり,Rに電話をかけて,Dが来ていないか尋ねるなどしたが,約2週間後の同年7月ころには電話も訪問もなくなった。そこで,DがRとともに同人運転の軽自動車で外出したところ,Eが軽トラックに乗って現れ,Dらを追い回し始めた。Eは,m町内において,Dらを袋小路に追い込むや,Dらの乗った軽自動車のボンネットに上がり,Dに「出てこんかい。」などと怒鳴ってガラスを叩いた。Rが警察へ通報したところ,Eはボンネットを降りて,自分の車を後退させたので,Rは路地から車を出すことができた。しかし,Eは,Rの車が路地から出るや,すぐに追跡を再開し,Dらがγ署に逃げ込むまで追跡をやめなかった。この間,Rは,γ署に電話をかけ,追跡の模様を報告し,電話で連絡を取りながらγ署へ逃げ込んだ。 イ Dらが同署に逃げ込んだ後,Dは同署の警察官に対し,Eの過去の暴力について話した上,車で追い回された経過を説明したが,同警察官はEが車をぶつけていないことや,Dらを殴っていないことを聞くと,「後をつけられたというだけでは警察は何もできない。前に二人が交際していたこともあるし。」などと述べて,それ以上の措置を採らなかった。 (4) Dの妊娠その後,DはRが留守の間に,前触れもなく突然同人方から出て行った。 同年9月中旬ころ,DはRが働いている喫茶店に訪ねて来て,E方にいることを告げた。さらに,DはRに対して,Eに監視されていること,妊娠しているかも知れないことを打ち明け,Rの説得に 同年9月中旬ころ,DはRが働いている喫茶店に訪ねて来て,E方にいることを告げた。さらに,DはRに対して,Eに監視されていること,妊娠しているかも知れないことを打ち明け,Rの説得に応じてE方から逃げ出すことにした。 Dは,Rの助けで逃げ帰り,その2,3日後である同月14日にX産婦人科で診察を受けた結果,子宮内に胎のうが確認された。Rは,同月18日,Eと会って同人を説得し,中絶同意書(甲30の2)に署名押印させた。 Dは,翌19日に同産婦人科において人工妊娠中絶手術を受け,同月21日に退院し,しばらくR方で暮らしたが,同年10月ころ再び同人方を出て行った。 (5) 肋骨骨折事件ア Dは,同年12月19日から,原告Aの母の葬式を手伝うため,伯父であるG方と原告C方を行き来していたところ,Eから「別れてやるから,荷物を取りに来い。」との電話を受けた。 ところが,Eは,同月21日夜,自宅にやって来たDに対し,その胸部等を殴る蹴るという暴行を加え,約1か月間の通院加療を要する左側胸部打撲,左第5・6肋骨骨折の傷害を負わせた。 Dは,翌22日に病院で診断書(甲3の1)の交付を受け,23日午前中にG方に戻った。しかし,EがDを探して同方にも押しかけて来たことから,G方の親族が原告Cを呼び出した。 イ原告CはDを自宅に連れ帰り,友人のHにも来てもらって,同人とともにDを伴って,同日午後5時ころ,最寄りのy交番に赴いた。そして,原告Cが同交番のI巡査長に対し,上記21日夜の傷害の事実を告げたところ,同巡査長は,犯行現場がb町内であり,管轄が異なることから,管轄のあるz交番へ届け出るよう教示するとともに,同交番に連絡して,Dらへの対応を要請 巡査長に対し,上記21日夜の傷害の事実を告げたところ,同巡査長は,犯行現場がb町内であり,管轄が異なることから,管轄のあるz交番へ届け出るよう教示するとともに,同交番に連絡して,Dらへの対応を要請した。 y交番から連絡を受けたz交番では,J警部補ほか4名のγ署員が待機していたところ,Dらは,同日午後6時ころ同交番に到着した。そこで,J警部補が原告Cから,K巡査がDから,それぞれ事情聴取を開始した。 原告Cは,J警部補に対して,診断書を示し,比較的落ち着いた様子で,DがEによる暴行で肋骨骨折等の傷害を受けたことや,これに至る経緯について説明し,今回の事件を刑事事件として立件して欲しい旨を申し立てた。Dは,K巡査に対して事情を説明したが,事件化については特に意見を述べなかった。 そのうち,E,M及びLが,Dが警察に被害を届けることをどこからか聞きつけてz交番に訪れた。同交番には,まずMとLが来所し,MはDと原告Cに対して,謝罪を繰り返し,治療費を支払うから許して欲しいと懇願した。 その後,Eも同交番に現れたことから,原告CはEに対して,声を荒げて「どないしてくれるんや。」という意味のことを言ったが,それ以上激高して口論するようなことはなく,Dも特に反応を示さなかった。 J警部補は,被害者側及び加害者側双方からの事情聴取の結果,EとDが以前に同棲していた経緯があり,Mがしきりに謝罪し治療費も支払うと述べたこと,これに対してDら被害者側が比較的冷静であることなどから,話合いでの解決が妥当と考えた。 そこで,同警部補は,原告CとH,EとMをそれぞれ交番事務室から別々に呼び出した。ここで,同警部補は,原告Cらに対して,Eを「ガツンとやる から,話合いでの解決が妥当と考えた。 そこで,同警部補は,原告CとH,EとMをそれぞれ交番事務室から別々に呼び出した。ここで,同警部補は,原告Cらに対して,Eを「ガツンとやる。」などと述べ,Eには二度とこのようなことをしないように注意することを伝え,話合いによる解決を勧めたところ,原告Cらは「お願いします。」と答えた。 他方,同警部補は,EとMから,治療費及び慰謝料を支払う意思があること,Mが今後Eを監督することなどを確認した。 同警部補は話合いによる解決をすることにつき,Dにも確認したところ,Dもこれに同意した。 そこで,同交番の警察官らは,Eに,「彼女(D)を平成10年11月21日(月曜日)の夜,自宅で殴ったり蹴ったりして,怪我させたことはまちがいありません。そのことについては深く反省しています。今後,二度と彼女を殴ったり,蹴ったりはしません。二度とつきまとったり電話したりすることは一切いたしません。もしこれを破るようなことがあれば,先の傷害の件で訴えられても,文句を言いません。」(上記「11月21日」との部分は,「12月21日」の誤りと認められる。)との本件誓約書を作成させた。他方,EがDに電話をかけてきて欲しくない旨申し立てたので,警察官らは,Dにも,Eに二度と電話連絡したり付き合うことはしないという内容の誓約書を作成させた。上記各誓約書は,J警部補がE及びDからそれぞれ提出を受け,同警部補においてこれらを保管することとした。 その後,原告Cらは同交番を後にした。その際,Eも同時に帰ろうとしたが,J警部補はこれを引き留め,Eに対して,今後二度とDにつきまとわないように,また,暴力を振るわないように警告した。 なお,Dは,同日から,H方に避 の際,Eも同時に帰ろうとしたが,J警部補はこれを引き留め,Eに対して,今後二度とDにつきまとわないように,また,暴力を振るわないように警告した。 なお,Dは,同日から,H方に避難することとなった。 ウ Eは,同年12月25日原告C方を訪れて,20万円支払うと述べた。 原告Cは,金はいらないからDから離れるように言って,Eを追い返した。原告Cは,このことを警察に報告し,今後の対応について相談しようと同日γ署に電話をかけたが,肋骨骨折事件については,同署に報告がなされていなかった。そこで,原告Cはこれまでの経緯及び肋骨骨折事件について説明して,Eの申出に対する対応について相談したところ,同署警察官から,金銭の趣旨を明確にして双方署名押印すれば問題ないという助言を受けたので,原告Cは和解書(甲31)を作成し,同月28日,Eに署名押印させるとともに,同人から20万円を受領した。 なお,これに先立つ同月26日,原告Cは菓子折を持参してz交番を訪れたが,J警部補は菓子折の受領を辞退した。原告Cは,「今後もよろしくお願いします。」と述べて帰宅した。 (6) X事件ア Dは,平成11年1月14日午後3時45分ころ,Eから電話で呼び出されて軽自動車でXγx店北側駐車場に赴いたところ,同軽自動車の前部座席内において,Eから覆い被さるように身体を押えつけられ,殴る蹴るの暴行を受けた。 そのころ,偶然,駐車場付近で測量作業をしていたNが,Dの悲鳴を聞きつけ,声のする方を見たところ,軽自動車が激しく揺れており,その中で,男が女を殴りつけているのが見えたことから,急いで同店店員に110番通報を依頼し,部下とともにEの暴行を止めた。 Dは,このEの暴行により,額 自動車が激しく揺れており,その中で,男が女を殴りつけているのが見えたことから,急いで同店店員に110番通報を依頼し,部下とともにEの暴行を止めた。 Dは,このEの暴行により,額と口元にアザが残り,そのどちらかから出血し,ストッキングが破れ片膝から出血するという傷害を負った。さらに,ニットのセーターの肩口が破れ,首にもアザが残った。 イ X店員から110番通報を受けた兵庫県警察本部通信司令室及びγ署は,「女性が拉致されようとしている。」「男が女を軽四に押し込もうとしている。」との無線を発し,拉致事件としてパトカーに現場への急行を指令した。これを受けたγ署署配のパトカー(γ2号)が,同X駐車場に到着した。同パトカーで現場に臨場したO巡査長及びP巡査部長は,同X駐車場入口付近で同駐車場から出てくるE運転の白色の軽トラックを現認したが,同車両が手配車両とは異なっていたことから(指令では誤ってDの軽自動車が手配車両とされていた。)これを追わず,駐車場内に残っていたDとNらから事情聴取を行った。 同警察官らの事情聴取に対して,Dは,ついさっき白色軽トラックで立ち去った知り合いの男から,Dの車の中で話をしようと言われたが,車内に入るのを拒んだ旨説明したので,同警察官らは本件は拉致事件ではなく男女間のもめ事と考え,その旨兵庫県警察本部通信司令室に報告した。 続けて,Dは同警察官らに対し,加害者がEであること,Eとは暴力が原因で数か月前に別れたが度々復縁を迫られていたこと,当日Eから携帯電話に連絡があり,X駐車場で待ち合わせ,再度復縁話をされたが断ったところ,顔面を殴られるなどの暴行を受けたことを説明した。 同警察官らは,被害申告をするようDに何度か勧めたが,Dは以前 絡があり,X駐車場で待ち合わせ,再度復縁話をされたが断ったところ,顔面を殴られるなどの暴行を受けたことを説明した。 同警察官らは,被害申告をするようDに何度か勧めたが,Dは以前にEから肋骨骨折の傷害を受け,z交番で誓約書を提出するなどして示談が成立しているので,今回も事件にして欲しくないと答え,また,今日は今度就職する予定の会社で制服の採寸があり,早く行かなければならないと言って,同警察官らの勧めに応じなかった。 そこで,同警察官らはDに対して,携帯電話の電話番号を変えること,何かあればすぐに110番通報することなどの防犯指導を行ったところ,Dは軽自動車に乗って現場を立ち去った。 同警察官らはz交番に赴き,当日の勤務がJ警部補らではなかったので同交番の記録を確認すると,確かに肋骨骨折事件の届けがあり,処理結果が記載してあった。しかし,同警察官らは,γ署幹部には,かかる被害届が出ていることは報告せず,また,z交番勤務の警察官らにX事件があったとの報告もしなかった。 (7) 押しかけ事案ア原告Cは,平成11年1月27日夕刻,LからDをEに会わせるよう求める電話を受けた。これに対し,原告Cは,前年12月23日のz交番で既に話は終わっており,もう話すことはないとしてこれを拒否した。ただ,原告CはEとLが押しかけてくるものと考え,同日午後6時55分ころβ署へ電話をかけて出動を要請し,Hにも電話して,来てくれるよう頼んだ。 しかし,警察が来るよりも前に,EがLを伴って原告C方にやって来た。Lは勝手口を叩き,DをEに会わせるよう求めたが,原告Cはこれを拒否し,なおもLが引き下がらないので,表に出て,車に乗っていたEに対して,もはや話し合うべきことはな Lを伴って原告C方にやって来た。Lは勝手口を叩き,DをEに会わせるよう求めたが,原告Cはこれを拒否し,なおもLが引き下がらないので,表に出て,車に乗っていたEに対して,もはや話し合うべきことはないこと,警察に出動を要請したことを伝え,話があれば親を連れてy交番に来るように告げてEらを追い払った。 イその後,w交番のQ警部補ら4名の警察官が原告C方に到着したが,既に通報から40分が経過していた。原告Cは,Q警部補らに対して,Dが以前付き合っていた男(E)から暴力を受けるので別れたが,しつこく追いかけてくること,当日もEがDに会わせるよう求めたことなどを説明した。また,原告CはEが付近にいるかも知れないと申し立てたので,Q警部補らは付近を捜索したが,発見には至らなかった。そこで,同警部補は,原告Cから詳しく事情を聞くためにy交番に来るよう求めた。 原告CがHを伴ってy交番に赴いたところ,EもLを伴って同交番にやって来て,Dに会わせろなどと言い,原告Cと口論になった。 原告CはQ警部補に対して,肋骨骨折事件のことや,同事件をz交番において誓約書で処理したことを説明し,同事件を再度事件化できるか質問した。これに対し,Q警部補は,「親告罪と違うからできるんちゃうんか。なあ。」と同僚に意見を求め,再度事件化は可能である旨答えた。ただ,同警部補は,同事件はγ署において把握しているものと考え,同署に行ってその旨申し立てるよう指示した。 ウ Dは同日夜,Hの息子で友人のUに対し,電話で押しかけ事案の経緯を報告し,警察の対応について,警察は何度話しても何度行っても何もやってくれないと不満を述べた。 (8) 誓約書のコピー交付の拒絶原告Cは,Q警部補の指示に従い,翌28 経緯を報告し,警察の対応について,警察は何度話しても何度行っても何もやってくれないと不満を述べた。 (8) 誓約書のコピー交付の拒絶原告Cは,Q警部補の指示に従い,翌28日,γ署に電話をかけたが,同署では肋骨骨折事件のことを把握していなかった。そこで,同署は,原告Cに対して,直接z交番に行くよう指示した。 原告Cは,同署の指示を受けて,同日のうちにz交番に赴いたが,J警部補が休みであったことから,居合わせた警察官に対して,本件誓約書のコピーの交付を求めた。しかし,同警察官は,原告Cに対してJ警部補の出勤日を教え,その日に出直すよう指示した。 原告Cは,同月31日,改めてz交番を訪れ,J警部補に対して押しかけ事案を説明して,本件誓約書のコピーの交付を求めたが,同警部補はこれを拒絶した。その際,同警部補は原告Cに対し,Eに他の女性を紹介すればDにつきまとうこともなくなるであろうという内容の言葉を述べた。 (9) 本件殺人事件Dは平成11年2月2日午前8時過ぎころ,出勤中にガソリンスタンドで給油をしていたところ,Eの車を発見した。Dが出発するとEが後をつけてきたので,Dは,平成8年春ころからの交際相手で,その後もときどき相談や連絡をしていたYに携帯電話で電話して助けを求めた。Yは,Dから頼まれてすぐに警察に通報したが,Dの居場所が分からなかったことから要領を得ず,再度Dに電話をした。しかし,Dからの通話は,Eの車が正面から迫ってくることを伝えたのを最後に途絶えた。Dは,同日午前8時15分ころ,兵庫県a郡b町cd番地先路上において,時速約25キロメートルの速度で自ら運転中の軽自動車に,Eの運転する普通乗用車に時速約70キロメートルの速度で正面から衝 途絶えた。Dは,同日午前8時15分ころ,兵庫県a郡b町cd番地先路上において,時速約25キロメートルの速度で自ら運転中の軽自動車に,Eの運転する普通乗用車に時速約70キロメートルの速度で正面から衝突され,その場で胸部大動脈断裂等に基づく失血等により死亡し,もって,Eに殺害された。そして,その直後,Eは,同所において所携の包丁で自らの胸を刺して自殺した。 (10) Dの法定相続人は,原告A,原告B及びTの3名であるが,同人らは平成11年9月8日遺産分割協議をし,Dの死亡に基づく損害賠償請求権等一切について,原告Aが3分の2,原告Bが3分の1を各相続することに合意した。 (11) ストーカー事案に対する警察庁の取り組みについてア警察庁は,平成9年6月30日,つきまとい事案が殺人事件や殺人未遂事件につながったケースが平成8年中に8件あり,平成9年1月から同年4月末までの間にも,つきまとい事案検挙件数53件のうち,殺人事件の検挙が3件あったこと(甲15,19)及び性犯罪にエスカレートしたケースも少なくないことを明らかにし,同日開催された全国の性犯罪捜査指導官を集めた会議において,全国の警察本部に対し,殺人や強制わいせつ等の重大犯罪を未然に防ぐ観点から,相談窓口を充実させるとともに,事案を認知した場合は,被害者の視点に立って,的確な事件化措置を講ずるよう,全国の警察本部に指示した(甲15,17,18)。 そして,同年7月から開始された「性犯罪捜査強化月間」では,1か月の間に,傷害事案2件,住居侵入2件など6件を検挙したことが報告されている(甲16)。 イ平成9年11月10日に発行された「警察學論集」において,前警察大学校警察政策研究センター主任教授山口県警察本部警務部長のZは,「いわゆ 件を検挙したことが報告されている(甲16)。 イ平成9年11月10日に発行された「警察學論集」において,前警察大学校警察政策研究センター主任教授山口県警察本部警務部長のZは,「いわゆる『ストーカー問題』管見(4・完)―英米における『ストーキング防止法』の概要について―」という論文の中で,「ストーキングの大きな特徴は,エスカレートすることである。当初は,厄介で煩わしいけれども,未だ法には抵触しないものであったものが,妄想に駆られた,危険な,暴力的な,そして生死に係わる行為にまでエスカレートしていく。したがって,ストーキングの被害者にとって,潜在的な暴力行為に対して身を守る適当な手段が必要となる。」と説明している(甲20の3)。 (12) 平成12年5月24日,ストーカー行為等の規制等に関する法律が成立し,同年11月24日から施行された。 2 争点①(警察官の対応に国家賠償法1条1項における違法性(過失)が認められるか)に対する判断(1) 警察官の規制権限不行使と国家賠償法1条1項の違法性について原告らは,α署,γ署,β署の警察官が,Eの犯罪防止のための各種規制権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項における違法であると主張する。 ところで,同規定は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときは,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを定めるものである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第1小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。 そこで,原告らが,その不行使が違法であると主張する各規制権限について,被害者Dに対して警察が職務上負担する法的義務とな 11月21日第1小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。 そこで,原告らが,その不行使が違法であると主張する各規制権限について,被害者Dに対して警察が職務上負担する法的義務となり得るかについて,検討する。 まず,警察法2条1項は「警察は,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防,鎮圧及び捜査,被疑者の逮捕,交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当たることをもってその責務とする。」と規定し,警察官職務執行法1条1項は,「警察官が警察法に規定する個人の生命,身体及び財産の保護,犯罪の予防,公安の維持並びに他の法令の執行等の職権職務を忠実に遂行するために,必要な手段を定めることを目的とする。」と規定し,同法2条以下においてその行使し得る手段を規定していることからすれば,警察は,犯罪の防止,鎮圧を目的として,警察官職務執行法が規定する各種の権限のほか,そのために必要かつ相当な規制権限を行使する一般的権限を有するものと認められる。そうとすれば,特定の個人等に対して,犯罪による加害行為がまさに行われ,あるいは行われる危険が切迫しているような場合で,その権限行使が容易にできるような場合にあっては,警察による犯罪の予防,鎮圧のために必要な規制権限の行使は,警察に与えられた公益上の義務の行使であると同時に,当該個人等に対する法的義務としての権限の行使でもあると解される場合もあるというべきである。 もっとも,上記各種権限のうち,犯罪捜査権限は,直接的には,具体的な個々の犯罪の発生の予防,鎮圧を目的としたものではなく,過去の犯罪の事実関係を明確にし,犯人に対する適切な刑罰権を行使することによって,将来の犯罪の一般的予防を図り,もって国家及び社会の秩序維持という公益を図ることを主たる目的として付 たものではなく,過去の犯罪の事実関係を明確にし,犯人に対する適切な刑罰権を行使することによって,将来の犯罪の一般的予防を図り,もって国家及び社会の秩序維持という公益を図ることを主たる目的として付与されたものであって,既に発生した犯罪被害者の損害の回復を目的とするものではなく,犯罪捜査によって犯罪被害者の受ける被害感情の慰謝等は,公益上の見地に立って行われる捜査によって反射的にもたらされる事実上の利益というべきであることからすれば,原則として,警察が,犯罪被害者との関係において,法的義務として,当該犯罪についての捜査義務を負うことはないというべきである。しかしながら,犯罪捜査は将来発生するおそれのある犯罪の具体的な予防,鎮圧を直接目的とするものではないとしても,犯罪の一般的予防がその目的中に包摂されていることは前記したとおりである。そして,当該被疑者が将来において特定の被害者に対して犯罪を遂行するおそれが高度に認められる場合に,既に発生した犯罪を捜査することにより,当該被疑者に対して単なる警告以上の心理的影響を及ぼし,将来の犯罪遂行を抑制し得る効果があることも事実である。そうとすれば,それにもかかわらず,警察が何らの捜査もせずに当該被疑者において漫然と犯罪を遂行させたような場合には,これにより侵害された被害者の利益はもはや事実上の利益というべきではなく,まさに法的保護に値する具体的利益というべきである。 したがって,上記のように当該被疑者が特定の被害者に対して更に犯罪を遂行するおそれが高度に認められるような場合には,犯罪の予防,鎮圧の目的のために認められた行政警察権に基づく規制権限の行使と並んで,司法警察権に基づく捜査権限の行使についても,その行使が,当該被害者が更なる犯罪被害に遭うことを防ぐ手段の一つとして,当該被害 鎮圧の目的のために認められた行政警察権に基づく規制権限の行使と並んで,司法警察権に基づく捜査権限の行使についても,その行使が,当該被害者が更なる犯罪被害に遭うことを防ぐ手段の一つとして,当該被害者との関係において法的義務となる場合もあるというべきである(ただし,司法警察権に基づく捜査権限の行使が,犯罪の予防,鎮圧名下に濫用されてはならないことは当然であり,とりわけ,被疑者の逮捕といった身柄拘束を伴うような強制捜査権限が,犯罪の予防,鎮圧名下に濫用的に行使されるようなことは,絶対にあってはならない。したがって,捜査権限の不行使に関しては,それが適正な捜査権限の行使として当然に要請されていたものかどうかがまず検討されなければならず,その上で,その行使が,犯罪の予防の見地からも法的義務として要請されていたものといえるかが検討されなければならない。)。 以上の次第で,犯罪防止のために警察に認められた各種規制権限の不行使は,特定の個人等に対して犯罪による加害行為がまさに行われ,あるいは行われる危険が切迫し,かつ,その権限行使が容易にできるにもかかわらず,これが行われないといった,その権限の不行使が著しく不合理と認められる場合には,当該個人に対する関係で,国家賠償法1条1項の違法評価を受けるというべきである。そして,警察官の規制権限不行使が著しく不合理であるかどうかは,①被侵害利益に対する侵害の危険性ないし切迫性,②当該警察官における当該危険性の認識ないし認識可能性,③被侵害利益の重大性,④当該規制権限行使による結果回避可能性,⑤当該規制権限行使に対する期待可能性等の各事情を総合考慮して判断すべきである。 (2) 本件における具体的検討ア α事件について原告らは,警察は,Eを傷害罪だけで 制権限行使に対する期待可能性等の各事情を総合考慮して判断すべきである。 (2) 本件における具体的検討ア α事件について原告らは,警察は,Eを傷害罪だけでなく,少なくとも住居侵入罪でも検挙すべきであったと主張するが,α事件では,建造物損壊罪,住居侵入罪,傷害罪の成立が考えられるとしても,警察官が,そのうちの最も重い犯罪である傷害罪のみで検挙し,住居侵入罪では検挙しなかったことが特に不合理なものであったとは認めがたい。のみならず,傷害罪だけでなく住居侵入罪でも検挙していたとしても,それによって,本件殺人事件の発生を回避し得たものとも認めがたい。 また,原告らは,α署としては,Eを釈放した後も,被害者であるDの住所地を管轄するβ署及びEの住所地を管轄するγ署にそれぞれ事件を報告し,今後同様の事件の再発を防ぐために連携を図りつつ,かつEが再度Dに対して暴行等の攻撃に及ぶことがないか的確に情報交換できる態勢を作るべきであったと主張する。 確かに,前記認定のとおり,Dはα事件において暴行を受ける以前にも,Eから複数回にわたって暴力を受けていたことが認められる。 しかしながら,Dは当時警察にEへの寛大な処分を求めていたことからすると,警察がEのDに対する従前の暴力行為について把握することは困難であったと認められること,α事件における傷害の犯行態様は,転倒したDを引きずったというものであって,Dの身体に暴力を加えることを直接的な目的としたものではないこと,犯行の結果も加療5日間の左肩,両下肢擦過創という比較的軽微なものであることを総合すると,α事件の発生当時において,Eが危険性の高いDV型ストーカーであって,その後Dの生命身体に対する重大な加害行為を行 の結果も加療5日間の左肩,両下肢擦過創という比較的軽微なものであることを総合すると,α事件の発生当時において,Eが危険性の高いDV型ストーカーであって,その後Dの生命身体に対する重大な加害行為を行う危険性があったと認定することは困難であるし,仮にそうであったとしても,警察がこれを認識予見することができたと認めることはできない。そうすると,α事件を処理したα署が,関係各署にこれを報告して連携を図る態勢を採らなかったからといって,これをもって著しく不合理であると認定することはできない。 よって,原告ら主張のα事件に関する規制権限不行使が著しく不合理なものであったとは認められない。 イ γ署逃げ込み事案について原告らは,γ署は,直ちにこの日の暴行について捜査に着手し,Eを逮捕するか,少なくともEに対して今後同様の行為を行わない旨の厳正な警告を発し,α署にもこの日の暴行事件が発生したことを報告して,α事件に関する起訴猶予の当否の判断に重要な事情として供し得るよう,同署経由で担当検察庁に連絡するべきであったと主張する。 しかしながら,Eは軽トラックを用いてD及びRが乗車する車両を追い回し,同車両のボンネットに上がりガラスを叩いたとはいうものの,EがDらの車両に自車を衝突させたわけではなく,また,Dらの身体に対して直接加害行為を行ったわけでもないことからすれば,これにつき,直ちにEを逮捕しなければならなかったとまではいえないし,α事件とγ署逃げ込み事案の事実を総合しても,Eが危険性の高いDV型ストーカーであって,Dの生命身体に対する重大な加害行為に及ぶ危険性があるとまで認めるのは困難である。また,仮にかかる危険性が客観的には存在したとしても,警察がこれを認識予見することができ 高いDV型ストーカーであって,Dの生命身体に対する重大な加害行為に及ぶ危険性があるとまで認めるのは困難である。また,仮にかかる危険性が客観的には存在したとしても,警察がこれを認識予見することができたとまでは認めることができない。そうとすれば,確かに,警察官としてはEに対して厳正な警告を発し,Dから事情を聴取してα署及びα事件を担当する検察庁にこれを報告することが望ましかったとは認められるものの,これをしなかったことが,本件殺人事件の発生という結果回避との関係で著しく不合理であって違法性を帯びるとまでは認めることはできない。 よって,原告ら主張の規制権限不行使が著しく不合理とは認められない。 ウ肋骨骨折事件について原告らは,J警部補は,肋骨骨折事件について,被害者であるDの告訴を受理して直ちに捜査に着手し,Eが任意の事情聴取に応じない場合はEを逮捕し,Eが事情聴取に応じた場合はEに対してDへの接近を禁止し,暴行・脅迫等の犯罪行為を繰り返さない旨厳正な警告を発した上で,検察庁に事件を送致すべきであったのに,受理すべき告訴を棚上げにして,Eから本件誓約書を取る処理で済ませたことが違法であると主張する。 確かに,前記認定のとおり,Eはα事件の後,γ署逃げ込み事案を起こしたのみならず,α事件の約半年後には,Dに殴る蹴るの暴行を加えて約1か月間の通院加療を要する左側胸部打撲,左第5・6肋骨骨折の傷害を負わせる肋骨骨折事件を惹起させたのであり,かようなα事件以後のEの一連の行為や,肋骨骨折事件における暴行の程度や結果の深刻さなどに照らすと,EがいわゆるDV型ストーカー的な行動に出ていたと認めることができる。 しかしながら,他方で,前記認定のとおり,Eは,z交 骨折事件における暴行の程度や結果の深刻さなどに照らすと,EがいわゆるDV型ストーカー的な行動に出ていたと認めることができる。 しかしながら,他方で,前記認定のとおり,Eは,z交番において,Dに対して謝罪し,治療費を支払うことを約束した上,今後Dに二度とつきまとわない旨の本件誓約書も作成し,後日,Dに対して20万円を支払って示談していることからすれば,当時,Dの生命身体に対する加害行為の具体的かつ切迫した危険性が存在していたとまでは認めることができない。 しかも,被害者であるD自身が肋骨骨折事件の事件化を望んでいたことを窺うに足りる証拠はなく,むしろ,z交番に到着当初から,肋骨骨折事件の事件化については消極的であったとさえ認められること,原告Cも,z交番において「告訴」(告発の意味を含む。)すると発言したと認めるに足りる証拠はなく,かえって,前記認定のとおり,当初厳しい態度で事件化を望んだ原告Cも,M及びEの謝罪によって態度を軟化させたことが認められる。 以上の事実を総合すると,当時,J警部補らが,肋骨骨折事件を直ちに事件化して捜査に着手することなく,DとEがわだかまりを残さず別れるために,Dの意思を確認した上で和解を試みたことも,あながち不合理とはいえないし,同警部補らは,原告Cらが退所した後,Eに対して今後Dに暴力を振るわないことについて警告もしていることを併せ考えると,警察が,肋骨骨折事件を本件誓約書で処理し,直ちに捜査を開始しなかったことが,著しく不合理なものであったとは認められない。 また,原告らは,Eを逮捕しない場合には,以後のEの警告違反行動を監視し,迅速に対処できるよう関係警察署間で緊密な連携態勢を整えるべきであったと主張する。 ない。 また,原告らは,Eを逮捕しない場合には,以後のEの警告違反行動を監視し,迅速に対処できるよう関係警察署間で緊密な連携態勢を整えるべきであったと主張する。 しかしながら,かかる特別の警戒態勢を構築することは必ずしも容易ではないと推認されること,γ市内においては,110番通報があれば直ちに通常の配置についている警察官が駆けつけることができる一般的態勢にあったと認められることに鑑みれば,特定の個人のために原告らが主張するような特別な態勢を構築しないことが違法となるのは,当該個人の生命身体に対する具体的かつ切迫した危険が認められる場合に限られると解さざるを得ない。そして,上記のとおり,当時,未だそのような具体的かつ切迫した危険が発生していたとは認められない以上,警察が原告らが主張するような特別の警戒態勢を採らなかったことが著しく不合理であるとは認められない。 エ誓約書による処理後の対応について原告らは,警察としては,誓約書による処理の後,本件誓約書の写しをDとEの双方に交付するなどして誓約内容を確認し,Eに誓約違反を行わないよう厳しく警告するとともに,Dに対しては,緊急時の連絡先と担当者を教示し,更にEを監視する態勢を警察内に作るために,γ署に対して,肋骨骨折事件について報告すべきであったと主張する。 しかし,前記認定のとおり,z交番においてJ警部補らはEに対して誓約違反を行わないように警告しており,警告義務違反は認められない。 また,前記認定のとおり,未だDの生命に対して具体的かつ切迫した危険性が発生していたとは認められないことに加えて,肋骨骨折事件後,Eがz交番に来所して示談した旨報告し,原告Cも菓子折を持参して同交番に来 ,前記認定のとおり,未だDの生命に対して具体的かつ切迫した危険性が発生していたとは認められないことに加えて,肋骨骨折事件後,Eがz交番に来所して示談した旨報告し,原告Cも菓子折を持参して同交番に来所していることからすると,J警部補らが本件が解決したと判断したこともあながち不当とはいえない。そうすると,J警部補としては,本件誓約書の写しを双方に交付して,Dに緊急時の連絡先と担当者を教示し,かつ,肋骨骨折事件とその処理内容をγ署に報告した方がより適切であったといえるけれども,これらの措置を講じなかったことが著しく不合理であり,違法であるとまでは認めることができない。 なお,原告らは,γ署は,β署及びγ署管内の警察組織に同事件及びその処理内容を周知するほか,関係警察署・交番相互の連絡方法を確立するなどして,緊急通報時の現場急行とEの犯罪行為の制止,現行犯逮捕を含めたあらゆる権限が適正に行使できるための監視と連携の態勢を整えるべきであったと主張する。 しかしながら,前記のとおり,そのような態勢を採らなかったことが違法となるのは,当該個人の生命身体に対する具体的かつ切迫した危険のある場合に限られると解すべきであるところ,そのような危険の発生が認められないのは,この時点においても同様であるから,かかる態勢を採らなかったことが著しく不合理とはいえない。 オ X事件について原告らは,警察としては,肋骨骨折事件に引き続きX事件が発生した以上,直ちに肋骨骨折事件及びX事件を立件して捜査を開始し,Eに対しては,被疑者として事情聴取等を行い,両事件につき十分な嫌疑があり,Dや関係者に対する威迫など罪証隠滅のおそれもある以上,同人を刑事訴訟法に基づき逮捕するか,又はいかなる理由があってもDに近づかず,暴行・脅迫 者として事情聴取等を行い,両事件につき十分な嫌疑があり,Dや関係者に対する威迫など罪証隠滅のおそれもある以上,同人を刑事訴訟法に基づき逮捕するか,又はいかなる理由があってもDに近づかず,暴行・脅迫等犯罪行為をしないよう厳正な警告を行い,その行動を監視して新たな犯罪が行われようとすれば直ちにこれを制止できるよう,関係警察署間で緊密な連携態勢を敷くべきであったと主張する。 前記認定のとおり,Eは,肋骨骨折事件において,二度とDにつきまとわず,暴力も振るわないことを誓約したにもかかわらず,その約3週間後にまたもやX事件を犯してDに傷害を負わせていること,X事件における犯行態様は執拗,大胆かつ悪質であり,たまたま近くにいた者に暴行を止められたことによって大事には至らなかったものの,誰にも止められなかったならば,Dに対して更なる傷害を加えたかも知れないこと,Eのα事件以降の一連の行為に照らすと,EはいわゆるDV型ストーカー的な行為を繰り返しており,今後もDの生命身体に対する加害行為が行われる具体的かつ切迫した危険性があったと認められる。 そして,γ署署配のパトカーで現場に臨場したO巡査長及びP巡査部長としては,Dから十分な事情聴取をすれば,α事件以降の経緯を把握することができたはずであり,また,前記認定のとおり,同警察官らは,当日,z交番に赴いて肋骨骨折事件及び誓約書による処理の事実を確認したのであるから,Dの生命身体に対する具体的かつ切迫した危険性の存在を認識,予見することができたはずであると認められる。 そうすると,警察としては,Eの更なる加害行為を防止するために,Eに対して厳重に警告すべきであったと認められる。また,原告らが主張する,関係警察署間における緊密な連携態勢についても,確か そうすると,警察としては,Eの更なる加害行為を防止するために,Eに対して厳重に警告すべきであったと認められる。また,原告らが主張する,関係警察署間における緊密な連携態勢についても,確かにこれは必ずしも容易ではないと認められるが,上記のDの生命身体に対する具体的かつ切迫した危険性に鑑みれば,そのような措置を講ずべきであったと認められる。 ところが,前記認定のとおり,警察は,Eに対し今後の加害行為を止めるように警告をすることをしなかった。のみならず,O巡査長及びP巡査部長は,γ署幹部に対しては肋骨骨折事件について報告せず,z交番の警察官らに対してはX事件について報告しなかったため,γ署においても,z交番においても,α事件からX事件に至るまでのEの一連の犯行・行動を全体として把握することができなかった。警察のこれらの行政警察活動の不作為は,Dの生命身体に対する具体的かつ切迫した危険性の存在に鑑みると著しく不合理であって違法であると認められる。 もっとも,犯罪捜査権限の不行使については,Dは当日警察官に何度か促されたにもかかわらず,被害申告の意思がないことを明確に示したこと,以後もDは警察に対して事件化を望む行動を採っていないこと,DがUに対して警察に対する不満を述べたのは押しかけ事案が発生した後であること,警察としては,傷害事件を立件する上で,被害者の被疑者に対する処罰意思は重要であり,これを無視して立件することは必ずしも相当ではないことからすれば, 警察が,肋骨骨折事件及びX事件について直ちに立件して捜査を開始しなかったことが著しく不合理であるとまでは認められない。 カ押しかけ事案について原告らは,X事件の後,更に押しかけ事案まで発生した以上 いて直ちに立件して捜査を開始しなかったことが著しく不合理であるとまでは認められない。 カ押しかけ事案について原告らは,X事件の後,更に押しかけ事案まで発生した以上,警察としては,直ちに肋骨骨折事件及びX事件を立件してE及びDらから事情を聴取するなどの捜査を開始し,Eを逮捕するか,もしくはEに対してDに暴行脅迫等犯罪行為を行わないよう厳正な警告を行うべきであったし,また,Eの警告違反行動に的確に対処できるよう,関係警察署間で緊密な連携の態勢を敷くべきであったと主張する。また,原告らは,押しかけ事案発生の通報を受けて現場に赴き,肋骨骨折事件等のEの犯行について説明を受けたQ警部補としては,自らこれらの事件の捜査を開始するか,もしくはγ署ないしz交番に押しかけ事案について報告し,Dが肋骨骨折事件の事件化を望んでいる事実を報告して,事件処理を促すべきであったと主張する。さらに,原告らは,Dの住所,稼働先周辺の警備態勢を強化し,今後同様の事件の再発を防ぐために,γ署,β署の各警察署間で連携を図り,かつDとの間で,Eの襲撃を受けた場合の緊急通報や対処について具体的に打ち合わせ,Dの安全を確保する一方,Eの襲撃を制止し,厳しく対処できる態勢を採るべきであったと主張する。 上記のごとく,X事件発生の時点において既にDの生命身体に対する具体的かつ切迫した危険性が発生していたと認められる上に,Eは,同事件の約2週間後に更に押しかけ事案に及び,Dに会わせろなどと言って原告C方に押しかけてきたのであるから,肋骨骨折事件及びX事件について何ら反省しておらず,Dの生命身体に対する危険はますます具体化し切迫していたと認められる。そして,当時,原告CがQ警部補に対し,肋骨骨折事件や誓約書による処理の事実を説明した 折事件及びX事件について何ら反省しておらず,Dの生命身体に対する危険はますます具体化し切迫していたと認められる。そして,当時,原告CがQ警部補に対し,肋骨骨折事件や誓約書による処理の事実を説明したことに鑑みると,警察としても上記危険性を認識し得たと認められるから,Eに対して更なる加害行為をやめるよう厳正な警告を行うと共に,関係警察署間で連携を図り,DがEの襲撃を受けた場合の緊急通報や対処について,具体的に打ち合わせるなどの防犯対策を実施すべきであったものと認められる。 また,押しかけ事案発生の時点においては,原告Cが肋骨骨折事件の事件化を強く望んだこと,Dも,Uに対して警察の対応に不満を述べていたことからすれば,警察が適切な対応を採っていれば警察に対しても事件化を求める意思を表明していたと推認されること,X事件についてもEに対する十分な嫌疑が認められること,前記認定のとおり,既に平成11年1月当時,いわゆるストーカー事案に対して,事案を認知した場合は,被害者の視点に立って,的確な事件化措置を講ずるよう全国の警察本部が指示を受けていたことからすれば,警察としては両事件について直ちに捜査を開始すべきであったと認められる。また,それは,Dに対する更なる犯罪被害の防止の観点からもこれが要請されていたものといえる。しかるに,警察は何らの捜査も開始しなかったのであり,かかる権限不行使は著しく不合理なものというべきである。 以上のように,押しかけ事案において,警察としてはEに対して厳重に警告し,Dに対してはその安全を確保すべく緊急の通報先を教示し,警察署間においても連携態勢を整え,肋骨骨折事件及びX事件について捜査に着手すべきであったと認められるから,警察の当該権限不行使は著しく不合理であり,国家賠償法1 を確保すべく緊急の通報先を教示し,警察署間においても連携態勢を整え,肋骨骨折事件及びX事件について捜査に着手すべきであったと認められるから,警察の当該権限不行使は著しく不合理であり,国家賠償法1条1項における違法と認められる。 3 争点②(捜査懈怠等の違法(過失)行為とD死亡との間に相当因果関係が認められるか)に対する判断前記認定のとおり,警察官には,X事件発生の時点において,更なる加害行為に及ばないようにEに厳重に警告し,また,関係各警察署間に緊密な連携態勢を構築すべきであったのにこれらの義務を怠り,また,押しかけ事案発生の時点においても,Eに対して厳重に警告し,かつ,Dに対しては緊急の通報先を教示すると共に,肋骨骨折事件及びX事件についての捜査に着手すべきであったのにこれらの義務を怠ったという過失が認められる。 そして,原告らは,つきまとい行為者に警察が警告ないし注意した事件の多くが解決していること,本件においても,Eが警察に対しては恭順の姿勢を示していたことから,警察がEに対して警告し,また,捜査を開始していれば,これらが効果的な抑止力になり,Dの死亡という最悪の結果を回避することができたのであるから,警察官の過失とDの死亡との間には相当因果関係があると主張する。 そこで,以下,前記警察官の過失とDの死亡との間の相当因果関係の有無について判断する。 訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものである(最高裁昭和48年(オ た関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものである(最高裁昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第2小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照)。したがって,国家賠償法上の規制権限不行使における因果関係の存否の判断においても,経験則に照らして全証拠を総合的に検討し,当該公務員が当該規制権限を行使しておれば,結果を回避し得たであろう高度の蓋然性が証明されれば,上記規制権限不行使と結果との間の因果関係が認められるということができる。 そこで,警察がX事件及び押しかけ事案の時点において,前記認定の各権限を行使した場合,Dの死亡という結果を回避し得たであろう高度の蓋然性が認められるかを検討する。 Eは,α事件によって逮捕され,肋骨骨折事件においても警察からDに近づかないように警告を受けて,本件誓約書まで提出したにもかかわらず,その後もX事件や押しかけ事案を引き起こしたのであって,遅くともこの時点では,いわゆるDV型ストーカー的な行為を繰り返していることが明確となり,Dに対する更なる危険の切迫を認めることができる。しかしながら,本件殺人事件は,EがDを殺害し,その場で所携の包丁で自らの胸を刺して自殺するという,いわば思い詰めた上での覚悟の犯行であり,これまでの加害行為の単なる延長とは言い難い犯行であったと認められる上に,押しかけ事案からわずか1週間後,X事件からみても3週間後に引き起こされたものである。 そうとすれば,X事件や押しかけ事案の時点において,警察が,Eに対し厳重な警告を行い,また,肋骨骨折事件やX事件の捜査に着手していたとしても,果たして,それが抑止力となって,上記のよ 。 そうとすれば,X事件や押しかけ事案の時点において,警察が,Eに対し厳重な警告を行い,また,肋骨骨折事件やX事件の捜査に着手していたとしても,果たして,それが抑止力となって,上記のような思い詰めた上での覚悟の犯行と思える本件殺人事件の発生をも止めることができたといえるかは疑問の余地があり,Dの死亡という結果を回避し得たであろう高度の蓋然性を認めることは困難である(なお,Eを逮捕勾留により身柄拘束していれば,平成11年2月2日の本件殺人事件を回避することができたといえるのではないかとの疑問が生じないではない。しかし,肋骨骨折事件及びX事件につき,捜査に着手すべきであったとはいえ,本件全証拠によっても,この時点で,Eの逮捕が捜査上必要不可欠なものとして選択されなければならなかったとまでは認められず,したがって,逮捕権の不行使が違法であったとまでは認められないから,この点から,警察官の過失とDの死亡との間に相当因果関係があると認めることはできない。)。 また,原告らは,警察が,Dの立場に立ってその被害状況を理解し,Dの信頼を得ていれば,本件殺人事件当日,Dが,Eを発見した時点で警察に通報し,結果を回避し得たと主張する。 しかしながら,前記のとおり,Dは肋骨骨折事件の際には告訴意思を表明せず,X事件の際にも警察に対して事件化して欲しくないと述べているのであって,Eとの問題に関して積極的に警察の助けを求める意識があまりなかったことが推認される。また,Dは,X事件の際に警察官からいつでも110番通報するように指導されたのに,本件殺人事件当日の午前8時過ぎころガソリンスタンドでEを発見した際にも警察に通報せず,また,ガソリンスタンドの従業員に助けを求めることもなく,一人で自動車を運転して 通報するように指導されたのに,本件殺人事件当日の午前8時過ぎころガソリンスタンドでEを発見した際にも警察に通報せず,また,ガソリンスタンドの従業員に助けを求めることもなく,一人で自動車を運転して出発していることからすると,この時点においてはD自身未だ身の危険を感じていなかったものと認められる。そうすると,仮に警察が緊急通報先や担当者を教示していたとしても,DがEの車を認めた上記の時点でγ署等に通報したともの認めることはできない。そして,その後,Dは,Eの運転する車から追跡された時点で身の危険を感じてYに携帯電話で連絡し,警察への通報を要請していることからすると,警察が事前に緊急通報先を教示していれば,Dがこの時点で緊急連絡先に通報したであろうとは認められるものの,Dがその後の同日午前8時15分ころにEに殺害されていることに鑑みると,たとえDが緊急通報先に連絡したとしても,Eに殺害されるまでの間に警察官が現場に到着し得たかどうか疑わしいし,仮に到着できていたとしても,思い詰めた上での覚悟の犯行と考えられる本件殺人事件を制止し得たかどうかは疑わしいといわざるを得ず,よってDの死亡を回避できたであろう高度の蓋然性を認めることは困難である。 以上の次第で,警察が上記規制権限を行使したとしても,高度の蓋然性をもって本件殺人事件を回避し得たとは認められないから,前記警察官の過失とDの死亡との間に相当因果関係を認めることはできない。 4 損害賠償責任の有無について上記のとおり,警察には上記規制権限不行使の過失が認められるが,同過失とDの死亡という結果との間に相当因果関係を認めることはできない。 しかしながら,そうとしても,警察が適切な規制権限を行使していたならば,被害者がその死亡の時点においてなお生存していた 失とDの死亡という結果との間に相当因果関係を認めることはできない。 しかしながら,そうとしても,警察が適切な規制権限を行使していたならば,被害者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性が証明されるときには,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めることができると解するのが相当である。なぜなら,生命を維持することは人間にとって最も根元的な利益であるから,上記生存可能性は,法によって保護されるべき利益というべきであり,警察の規制権限不行使によってその法益が侵害されたと認められるからである。 そして,上記認定のとおり,適切な権限が行使されたとしても,本件殺人事件の発生を阻止することができた高度の蓋然性までを認めることはできないものの,警察から厳重な警告を受け,又は肋骨骨折事件等について取調べを受けることによって,Eが本件殺人事件の実行を躊躇する相当程度の可能性についてはこれを認めることができるというべきであるし,また,警察がDに対して緊急連絡先をあらかじめ告知していれば,本件殺人事件当日,DがガソリンスタンドでEを発見した時点で警察に緊急通報をし,警察官が現場に臨場することによって,本件殺人事件の発生に至らずDが生存し得た相当程度の可能性は認めることができるというべきである。 以上の次第で,Dは,警察官の過失によって,本件殺人事件により死亡した時点においてなお生存し得た可能性を侵害されたことを理由に,被告に対して損害賠償を求めることは,認められるというべきである。 5 争点③(損害額)に対する判断(1) Dに生じた損害前記認定のとおり,警察は,X事件,押しかけ事案以降,Dの生命身体に対する重大な加害行為が行われる具体的危険が切迫しているにもかかわらず,採るべき 断(1) Dに生じた損害前記認定のとおり,警察は,X事件,押しかけ事案以降,Dの生命身体に対する重大な加害行為が行われる具体的危険が切迫しているにもかかわらず,採るべき措置を採らなかったために,Dは本件殺人事件の時点においてなお生存し得た可能性を侵害されたことが認められる。 しかし,警察はD及び原告Cの相談を全く無視したわけではなく,肋骨骨折事件においてはEに対して警告を発し,二度とDに暴力を振るわず,つきまとったり電話しないという内容の本件誓約書を作成させており,また,X事件においてはDに対する防犯指導をするなど一定の対応はしていたものと認められる。また,前記認定のとおり,D自身,Eから度重なる被害を受けながらも,毎回,警察に対する被害申告に関しては消極的な姿勢を示し続け,このことが警察のEに対する積極的な対応を困難にしたという側面もないではない。 そこで,上記事情やその他本件に表れた一切の事情を総合考慮すると,本件においてDが上記可能性を侵害されたことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料は,600万円と認めるのが相当である。 (2) 相続前記認定のとおり,Dの法定相続人は,原告A,同B及びTの3名であり,同人らは平成11年9月8日遺産分割協議をし,D死亡に基づく損害賠償請求権等一切について,原告Aが3分の2,原告Bが3分の1を各相続することに合意した。 よって,かかる相続分に従い,原告Aにおいて400万円,同Bにおいて200万円の損害賠償請求権をそれぞれ相続したものと認める。 なお,原告A及び同Bは,Dの死亡後,自賠責保険による保険金として合計3000万円余りを受領しているが,上記生存の可能性を侵害されたことによる損害 権をそれぞれ相続したものと認める。 なお,原告A及び同Bは,Dの死亡後,自賠責保険による保険金として合計3000万円余りを受領しているが,上記生存の可能性を侵害されたことによる損害賠償請求権との関係では,損益相殺の対象とはならないというべきである。 (3) 葬儀費用原告A及び同Bは,原告Aが100万円,原告Bが50万円をそれぞれ支出した葬儀費用についても賠償を求めるが,前記認定のとおり,警察官の過失とDの死亡との間の相当因果関係を認定することができない以上,Dの死亡による葬儀費用についてもまた相当因果関係を認めることはできない。 (4) 原告Cの損害原告Cは,Dの父親代わりとして,Dを守ろうと警察の対応を求め続けたにもかかわらず,適切な措置を講じてもらえなかったことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料を請求する。 しかしながら,国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを定めるものである。そうすると,本件において警察が国家賠償法上の法的義務を負う相手方は,被害者であるDであって,原告Cではないというべきである。 よって,原告Cの慰謝料請求を認めることはできない。 (5) 弁護士費用本件事案の難易,性質等を総合すると,原告A及び同Bが支払うべき弁護士費用のうち原告Aにおいて40万円,同Bにおいて20万円の範囲で前記違法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 (6) まとめ以上より,原告A及び同Bが被告に対して請求できる損害賠償請求権の価 同Bにおいて20万円の範囲で前記違法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 (6) まとめ以上より,原告A及び同Bが被告に対して請求できる損害賠償請求権の価額は,原告Aにおいて440万円,同Bにおいて220万円となる。 6 以上の次第で,原告A及び同Bの本訴請求は,いずれも主文の限度で理由があるからこれを認容し,同原告らのその余の請求及び原告Cの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,よって,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判長裁判官上田昭典裁判官太田敬司裁判官北岡裕章

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