令和2(わ)568 傷害被告事件

裁判年月日・裁判所
令和5年1月19日 大津地方裁判所
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判決文本文14,863 文字)

1 令和5年1月19日宣告 大津地方裁判所刑事部判決(部分判決) 令和2年(わ)第568号等-1(令和2年(わ)第521号、令和3年(わ)第61 号、第94号)区分事件 傷害被告事件 主 文 本件区分事件の各公訴事実につき、被告人はいずれも有罪 理 由 【当裁判所が認定した事実】 第1〔令和2年11月25日付起訴状記載の公訴事実関係〕 (犯行に至る経緯等) 被告人は、平成22年10月当時、滋賀県愛知郡a町op番地q所在の被告 人方において、当時の内縁の夫、実子であるA、B及びBの子と生活していた が、その頃、Bと知り合った被害者①が、被告人方で生活を始めた。また、同 月下旬頃、Bと知り合ったKが被告人方で生活を始め、平成23年3月上旬頃 からは、Aと知り合ったLが、同月下旬頃からは、被告人の実子であるFが、 被告人方で生活を始めた。 被告人は、被害者①が仕事を辞めた平成22年12月初旬頃から、同人に対 し、食事の量を減らしたり、入浴やトイレ、外出等を制限したりするようにな り、平成23年1月頃からは、Kに指示をして被害者①と互いに殴る蹴るなど させ、同年3月以降は、FやLにも指示して、被害者①に暴力を振るわせるよ うになった。 (罪となるべき事実) 被告人は、F、K及びLと共謀の上、平成23年3月下旬頃から同年5月7 日頃までの間、被告人方において、同居中の被害者①(当時23歳)に対し、 同人が指示に従わなかった際や同人が誤って冷蔵庫の扉でBの子の指を挟んだ 際などに、F、K及びLに指示し、又は自ら、多数回にわたり、被害者①の顔 面を拳で殴り、同人を床に倒した上、その顔面を踏み付けるなどの暴行を加え、 2 よって、同人に全治約6か月間を要する鼻骨骨折、左眼窩底骨折、両側上顎骨 骨折、両側下顎骨骨折の傷害を負わ 、被害者①の顔 面を拳で殴り、同人を床に倒した上、その顔面を踏み付けるなどの暴行を加え、 2 よって、同人に全治約6か月間を要する鼻骨骨折、左眼窩底骨折、両側上顎骨 骨折、両側下顎骨骨折の傷害を負わせた(以下、これを「被害者①事件」とい う。)。 第2〔令和3年2月22日付起訴状記載の公訴事実関係〕 (犯行に至る経緯等) 被告人は、平成24年9月当時、被告人方において、A、F及びもう一人の 実子と生活していたが、同月中旬頃から、当時の交際相手であるM及びかねて Aと知り合い、被告人方にも遊びに来ていた被害者②が被告人方で生活するよ うになった。また、その頃から、被害者②やFの友人であったNも被告人方で 寝泊りするようになった。 (罪となるべき事実) 被告人は、M、F及びNと共謀の上、平成24年9月下旬頃から同年10月 6日頃までの間、被告人方において、同居中の被害者②(当時17歳)に対し、 同人が金を盗んだとか、Aをいじめたなどとして、M、F及びNに指示し、又 は自ら、多数回にわたり、手拳、木刀等で、被害者②の顔面、腹部、背部及び 足等を殴打し、足でその腹部を踏み付けるなどしたほか、エアガンでプラスチ ック弾を発射して、その顔面等に多数命中させ、仰向けに横たわった同人の腹 部に金属製ダンベルを落とすなどの暴行を加え、よって、同人に全治約117 日間を要する膵損傷、鼻骨骨折、第3胸椎骨折、顔面打撲、腹部打撲、背部打 撲、両大腿部打撲等の傷害を負わせた(以下、これを「被害者②事件」とい う。)。 第3〔令和3年3月23日付起訴状記載の公訴事実関係〕 (犯行に至る経緯等) 被告人は、平成29年2月当時、滋賀県愛知郡a町bc番地d所在の被告人 方において、Aと生活していた。 被告人は、同年2月頃、出会い系アプリを通じて被害者③と知り合い、交際 3 至る経緯等) 被告人は、平成29年2月当時、滋賀県愛知郡a町bc番地d所在の被告人 方において、Aと生活していた。 被告人は、同年2月頃、出会い系アプリを通じて被害者③と知り合い、交際 3 を始めた。被害者③は、当時、自動車メーカーで働いており、滋賀県内で一人 暮らしをしていたが、同年3月頃から被告人方で被告人らと一緒に生活するよ うになった。また、同年6月以降は、Aの交際相手であったOが被告人方で同 居を始めたほか、Fとその交際相手であるPもたびたび被告人方を訪れていた。 被害者③は、同年4月以降、体調不調やうつ病を理由に仕事を休むようにな ったが、被告人は、その頃から、被害者③を居候扱いし、食器洗いや洗濯など の家事をさせたり、「コツ」「下手打ち」などと呼ぶようになったりしたほか、 同人に提供する食事の量を減らし始め、一日に一回茶碗に半分くらいの量しか 与えなくなった。 (罪となるべき事実) 被告人は、Aと共謀の上、平成29年6月頃から同年10月24日までの間、 被告人方において、同居中の被害者③(当時44歳)に対し、多数回にわたり、 Aが被害者③の胸部、腹部、腕及び足等を、手拳で殴打し、足で蹴るなどし、 被告人が被害者③の腹部や臀部等を足で踏みつけたり、その首元をつかんで引 きずったりするなどの暴行を加えるとともに、これら一連の暴行等によって被 告人らを畏怖し、被告人らの意のままに従わざるを得ない状況にあった被害者 ③に対し、被告人が与える飲食物以外の摂取を禁止し、十分な飲食物を与えず にその食事を制限し、その栄養状態を悪化させて被害者③を生命に危険を及ぼ すおそれのある重度の低血糖、低体温状態に陥らせ、よって、同人に回復の見 込みのない高次脳機能障害の後遺症を伴う脳損傷の傷害を負わせた(以下、こ れを「被害者③事件」という。)。 【事実認定の補足 ぼ すおそれのある重度の低血糖、低体温状態に陥らせ、よって、同人に回復の見 込みのない高次脳機能障害の後遺症を伴う脳損傷の傷害を負わせた(以下、こ れを「被害者③事件」という。)。 【事実認定の補足説明】 1 被告人及び弁護人は、いずれの事件についても、各被害者に対し判示各事実 記載の暴行や食事制限はしておらず、これらについて各共犯者と共謀したこともな いから、被告人は無罪である旨主張する。そこで、以下、被害者、共犯者及び目撃 者らの証言等から、これらの事実を認定した理由について説明する。 4 2 被害者①事件について ⑴ 被害者①の証言内容とその信用性 ア 被害者①は、公判廷において、要旨以下のとおり証言する。 仕事を辞めた平成22年12月初旬頃から被告人の態度が変わった。命令口調に 変わり、これまで昼夜と作ってもらっていた食事も、1日1食、夜だけになり、そ の内容もおかずのない、ねこまんま一杯に変わった。被告人からは、水がもったい ないと言われ入浴もできず、トイレも許可制となり、外出も自由に出来なくなった が、被告人からは「逃げるんやったら逃げろ。やくざ使ってでも捜し出したるわ」 と言われていたので、逃げ出すことができなかった。 平成23年1月以降、被告人は、Kに「タイマンしろ」と指示して自分と戦わせ るようになり、同年3月以降、被告人の内縁の夫が仕事でいない日中、機嫌が悪い ときなどにFやLにも「やったれ」などと指示して、3人に自分の顔面を拳骨で殴 らせたり太ももやふくらはぎを蹴らせたりするようになった。被告人の指示なく3 人から暴力を振るわれることはなかった。被告人から顔を掌底打ちされ鼻血が出る こともあった。Bの子の指を冷蔵庫の扉で挟んでしまった際にも、その場で暴力を 振るわれた。同年3月頃には、口が塞がらず、左足も曲がったままで、引きずり とはなかった。被告人から顔を掌底打ちされ鼻血が出る こともあった。Bの子の指を冷蔵庫の扉で挟んでしまった際にも、その場で暴力を 振るわれた。同年3月頃には、口が塞がらず、左足も曲がったままで、引きずりな がら歩くようになった。同年4月に姉の家に逃げたが、被告人らが迎えに来て、 「次逃げたら家族もろともいてもうたるわ」と言われ連れ戻された。このままだと いつか殺されると思い、同年5月8日の朝、皆が寝ている間に被告人方の玄関に置 いてあった被告人の車の鍵を取り、無免許で車を運転して実家へ逃げた。 イ 被害者①の上記証言は、当時の心情を交え具体的に述べるもので、不自然な 点は見当たらず、被告人の指示の下でF、K及びLから日常的に暴力を振るわれた 点や被告人から食事を制限された点において、上記3名及びBの証言内容と一致し ている。また、被害者①がBの子の指を冷蔵庫の扉で挟んだことで暴行を受けたと する具体的な出来事についても、L、K及びBの証言内容と一致している。加えて、 怪我の状況についての証言は、医療機関の診断内容や、CT画像等を基にした理学 5 博士の意見と整合しており、その信用性は高いと認められる。 ウ これに対し、弁護人は、被害者①の証言について、①11年以上前の出来事 に関する証言であり、当然に記憶の減退があると考えられ、現に被告人らに渡して いた生活費の額に関し供述の変遷がある、②具体的な暴行の内容やその際の被害者 ①の様子、外出の有無等について、他の証言と食い違いがある、③Fら3人から鼻 は殴られてないと証言するが、鼻骨骨折を負っていることと矛盾する、④医療機関 を受診した際、怪我の原因についてうその説明をしており、9年以上経過して被害 申告に至っていることからしても、供述経過が不自然である、⑤被害者①証言の裏 付けとなるF、K及びLの証言も、相互に変遷や食い を受診した際、怪我の原因についてうその説明をしており、9年以上経過して被害 申告に至っていることからしても、供述経過が不自然である、⑤被害者①証言の裏 付けとなるF、K及びLの証言も、相互に変遷や食い違い、不合理な点がある上、 同人らには被告人に不利な供述をする動機がある、などと主張する。 しかしながら、①及び②については、前記のとおり、殴る蹴るといった主たる暴 行の内容や被告人の指示といった核心部分の証言がFらの証言と一致していること からすれば、その他の暴行の具体的な態様や暴行と関わりのない仔細な部分につい て、時間の経過に伴う記憶の変化や他の証言との食い違いがあるとしても、証言全 体の信用性を否定する事情には当たらず、同様に、③についても、被害者①が具体 的な暴行態様の全てを記憶していないとしても不自然ではない。また、④について は、タイミングが違えば自分が加害者になっていたかもしれず、Fらが捕まると思 って病院ではけんかをしたなどと説明したという被害者①の証言は十分首肯できる し、関係証拠によれば、被害者①は、医療機関に対し、軟禁状態でありすぐに病院 に来ることができなかったとか、全身の至るところを殴られたなどと本件被害の内 容に沿う申告もしていることが認められ、その供述経過が不自然であるとはいえな い。そして、⑤については、互いに口裏合わせをしたと認められないFらが、被告 人の指示等、供述の核心部分について概ね一致した供述をしていることに照らすと、 弁護人の主張する虚偽供述の動機を踏まえても、Fらの供述は信用できるものであ るといえる。 以上のとおり、弁護人の主張はいずれも採用できない。 6 ⑵ 被告人の公判供述の信用性 被告人は、被害者①に対し怪我をするような暴行をしたり、3人に暴力を振るう よう指示したことはない、被告人方での食事は自分やBが作って はいずれも採用できない。 6 ⑵ 被告人の公判供述の信用性 被告人は、被害者①に対し怪我をするような暴行をしたり、3人に暴力を振るう よう指示したことはない、被告人方での食事は自分やBが作っていたが、食事を減 らしたり、入浴やトイレ、外出を制限したこともなく、ヤクザを使って脅したりも していない、Lが被害者①を蹴ったり、Kが背中を叩いたりするところを見たこと はあるが、大きなけんかではなかった、被害者①が足を引きずっていたのは気付い ていたが、顔の怪我は分からなかったなどと供述する。 しかしながら、被告人の供述は、被害者である被害者①、共犯者であるK及びL はもとより、実子であるF及びBの証言とも食い違っており、被害者①に生じた怪 我の状況について合理的な説明ができない点において、信用することができない。 特に、当時被害者①が、顎が外れて口が閉じない状態となっていたことは、F、L 及びKの証言や診察に当たった医師の供述調書からも明らかであり、広いとはいえ ない被告人方で同居しながら、そのような被害者①の状態について認識していなか ったとする被告人の供述は不自然といわざるを得ない。 ⑶ なお、公訴事実のうち、被告人らが被害者①に対し、床に倒した上、その顔 面を踏み付ける暴行を加えた点について、被害者①自身はそのような暴行を受けた 記憶がないと証言しているが、同暴行があったとする点においてL及びKの証言が 一致しており、当該証言部分の信用性を否定すべき理由はないから、この点を含め、 公訴事実のとおりの暴行があったと認定できる。 ⑷ 以上のとおり、信用できる被害者①の証言等によれば、被告人が被害者①に 対し、Fらとともに判示第1記載の暴行を行い、傷害を負わせたと認められる。 3 被害者②事件について ⑴ 被害者②の証言内容とその信用性 ア 被害者②は、公判廷 証言等によれば、被告人が被害者①に 対し、Fらとともに判示第1記載の暴行を行い、傷害を負わせたと認められる。 3 被害者②事件について ⑴ 被害者②の証言内容とその信用性 ア 被害者②は、公判廷において、要旨以下のとおり証言する。 平成24年9月17日、被告人からAの自転車のかごにあったお金を盗ったと言 われ、マクドナルドに呼び出された後、被告人方で暴力を振るわれた。それ以降家 7 に帰ることもできず、被告人やMから、お金を盗った、掃除をしてない、Aの手を 振り払ったなどと言われ、M、F及びNから、手や木刀でしばかれたり蹴られたり、 エアガンで撃たれたり、ダンベルを腹に落とされるなどの暴力を振るわれるように なった。FとNは、被告人やMから指示されてやっていた。被告人はその様子を楽 しそうに見ていたが、エアガンや木刀を使って直接暴力を振るってくるときもあっ た。暴力はほぼ毎日で、食事も途中から食べさせてもらえなかったが、携帯電話機 を取られており人に連絡できなかった。逃げ出す前日の暴行が一番ひどかった。お 腹の痛みがひどく、息もできないほどになり、同年10月7日、トイレに行くと言 って静かに被告人方を出て、近くの母親の知人宅に逃げ込んだ。被告人方では被告 人の立場が一番上で、Mより被告人のほうが怖かった。被告人からは神戸の山口組 の事務所に連れて行くなどと言われていた。 イ 被害者②の上記証言は、暴行の内容や暴行を受けるに至った経緯等について 具体的に供述するもので、当時の負傷状況に関する客観的証拠とも整合するほか、 その経緯や暴行態様等の根幹部分においてF、Mらの証言内容とも一致する。また、 被告人方からエアガンやその弾、ダンベルが発見されたこと、被害者②の携帯電話 機が被告人方に残されていたこととも整合しており、その信用性は高いと認められ る。 ウ らの証言内容とも一致する。また、 被告人方からエアガンやその弾、ダンベルが発見されたこと、被害者②の携帯電話 機が被告人方に残されていたこととも整合しており、その信用性は高いと認められ る。 ウ これに対し、弁護人は、被害者②の証言は、①10年以上前の出来事であり、 証人自身も記憶の曖昧さを自認している、②MやFが被害者②事件で検挙された平 成24年当時は、捜査機関に対し被告人からの暴力の話はしておらず供述の変遷が ある、③ダンベルの重さを誇張したり、受診歴についてうそをついたりしており、 供述態度に問題がある、④M及びFの証言も、平成24年当時からの変遷や他の証 言との食い違いがある上、被告人に不利な供述をする動機があるから信用すること ができない、などと主張している。 しかしながら、①については、被害者②は覚えていないことなどはその旨述べて、 記憶にある範囲で証言しているし、前記のとおり、その証言の核心部分は、共犯者 8 らの証言と一致し、客観的証拠等とも整合している。また、②については、関係証 拠によれば、MやFも検挙当時は被告人の関与を秘していたことが認められ、当時 の被害者②の被告人に対する恐怖心等を踏まえれば、被害者②が、被告人の行為に ついて供述していなかったとしても、本件公判証言全体の信用性を損なうものでは ない。そして、③についても、時間の経過とともに、暴行以外の周辺事情について、 記憶に曖昧な点等が生じたとしてもやむを得ないと考えられる。さらに、④につい て、Mは、平成24年当時は、被告人からAのために自分をかばってほしい旨口止 めされ、Aを可愛がっていたことや、被告人に身元引受人となってもらい仮釈放を 得たいなどと考え、これに応じた旨相応の理由を述べており、口裏合わせをしたと は認められないMらが、被告人の指示等という供述の核心部分について概 っていたことや、被告人に身元引受人となってもらい仮釈放を 得たいなどと考え、これに応じた旨相応の理由を述べており、口裏合わせをしたと は認められないMらが、被告人の指示等という供述の核心部分について概ね一致し た供述をしていることに照らすと、弁護人の主張は採用することができない。 ⑵ 被告人の公判供述の信用性 被告人は、直接被害者②に暴力を振るったことはないし、Fらに暴力を振るうよ う指示したこともない、食事制限もしていない、Mら3人、特にMが被害者②に強 い暴力を振るうことはあったが、そのときには止めに入っていた、自分よりMのほ うが立場が上で、被害者②やFらはMを怖がっていた、山口組の事務所の話もMが していたなどと供述する。 しかしながら、このような被告人の供述は、暴力が始まるきっかけが被告人の 「やったってくれへん」とか「懲らしめたって」などといった発言であったとする FやMの証言に明らかに反している。FやMは、被害者②事件に関し既に保護処分 や刑事処分を終えており、あえて被告人を罪に陥れるような証言をする理由は存し ない。被告人の公判供述は、被害者②が被告人方から逃げ出した後、被告人自身が 被害者②を探しに行ったり、木刀を捨てに行ったりしていることと整合しないし、 被害者②の怪我の状況とも矛盾しており、信用することができない。 ⑶ 以上のとおり、信用できる被害者②の証言等によれば、被告人が被害者②に 対し、Mらとともに判示第2記載の暴行を行い、傷害を負わせたと認められる。 9 4 被害者③事件について ⑴ 関係者の証言内容 F、A、P及びOの証言のうち、相互に一致ないし整合する(Aの被害者③に対 する暴力の点については後述)と認められる証言内容は、以下のとおりである(以 下、平成29年の出来事については年の記載を省略する。)。 ア 暴行につ のうち、相互に一致ないし整合する(Aの被害者③に対 する暴力の点については後述)と認められる証言内容は、以下のとおりである(以 下、平成29年の出来事については年の記載を省略する。)。 ア 暴行について 被害者③が仕事に行かなくなってしばらくすると、被告人の被害者③に対する扱 いが彼氏から居候に対するものへと変わり、呼び方もそれまで下の名前で呼ばれ ていたのが、骸骨の「コツ」などと呼ばれるようになった。6月以降、被告人と Aは、被害者③に対し暴力を振るうようになり、Aは被害者③の近くを通るたび に被害者③の胸、肩、腕等を殴ったり、足等を蹴ったりしていた。また、被告人 も被害者③の腹部を踏み付けるようにして蹴ったり、後ろから腕を使って首を絞 めたりしていた。被告人が被害者③の身体を羽交い絞めにして、Aが被害者③を 殴ったり、2人で一緒に暴力を振るったりすることもあった。Aが暴力を振るっ ているとき、被告人は面白そうに見ながら「もっとやれ」などと言っていた。 イ 食事制限について 被害者③が仕事に行かなくなってから、被害者③の食事の量は減らされ、1日 1食、茶碗の半分ほどのご飯やねこまんま一杯になった。被害者③の食事内容は 被告人が決めていた。被害者③が与えられた食事を残すことはなく、時折被告人 の目を盗んでお菓子を食べたりしていたが、それが被告人に見つかると怒られた り、暴力を振るわれたりしていた。8月頃Pが被告人方にシュークリームを買っ て行った際、被害者③は被告人がトイレに行った隙に急いで食べており、その理 由について被告人から怒られるからと言っていた。ラーメン屋では被告人と被害 者③が2人で一杯のラーメンを食べることもあった。被告人は被害者③に対し、 仕事してないのに食べれると思うなよなどと言っていた。 ⑵ 被害者③の身体の状況等 10 関係証拠に では被告人と被害 者③が2人で一杯のラーメンを食べることもあった。被告人は被害者③に対し、 仕事してないのに食べれると思うなよなどと言っていた。 ⑵ 被害者③の身体の状況等 10 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 ア 救急搬送時の状況 被告人は、10月24日午後4時頃 、被害者③が呼び掛けに反応しないことに 気づき、Pに連絡したところ、同人から連絡を受けたFとその知人が被告人方を訪 れ、同日午後9時49分に119番通報がされた。約1時間後に臨場した救急隊が、 布団に横たわる被害者③の容態を確認したところ、呼吸数は10回/分、脈拍は4 0回/分で、測定された体温は28度であった。救急搬送の際、被害者③は一時心 停止となり、r病院における心肺蘇生により一命を取り留めたが、言葉の理解、記 憶、発語等に関する脳の高次機能に障害が残った。 また、血液検査の結果、被害者③の血糖値は下限を大きく下回る数値であり、栄 養状態を示す総蛋白、アルブミン及びコリンエステラーゼの各値も正常値を下回っ ており、重度の低血糖、低栄養状態と認められた。 なお、被害者③には、低栄養の原因となるような器質的な疾患などはなかった。 イ 被害者③の体重の推移 被害者③は、平成28年11月の健康診断時、身長163.9cm、体重53. 2kgであったが、7月6日に精神科クリニックを受診した際の体重は43kg、 同月31日の受診時は40kg、救急搬送後の10月25日時点では32kgであ り、同時点において、頬がこけ、胸や腰の骨が浮き出るほどの極度のるい痩の状態 であった。 ウ 被害者③の骨折状況 理学博士である証人Yが、10月24日に撮影された被害者③のCT画像を検 討したところ、同人の肋骨7箇所と頚椎1箇所に受傷後40日以上が経過した骨 折と、肋骨に受傷後30日から120日が経 の骨折状況 理学博士である証人Yが、10月24日に撮影された被害者③のCT画像を検 討したところ、同人の肋骨7箇所と頚椎1箇所に受傷後40日以上が経過した骨 折と、肋骨に受傷後30日から120日が経過した骨化性筋炎があること、他方、 平成28年9月の健康診断時のレントゲン写真では、少なくとも上記肋骨の骨折 のうち3箇所は存しないことが認められた。 ⑶ 関係者の証言の信用性 11 Fらの上記証言は、暴行や食事制限の内容について具体的に述べるもので、相 互にその信用性を高め合う関係にあり、内容的にも不自然、不合理な点は見当た らない。また、これらの証言内容は、上記救急搬送時の被害者③の身体の状況や 体重の変遷状況等とも整合している。さらに、F、P及びOについては、いずれ もあえて被告人に不利な供述をする理由は存しない。 なお、Aは、他の証人と異なり、A自身が被害者③に対し暴行を加えた事実を 否定する趣旨の供述をしているが、Aは被害者③事件に関し被告人とともに刑事 責任を問われており、自己の関与に関する部分についてはわい小化して供述して いると考えられる。そして、Aの証言は、この点を除いては他の証人の供述と一 致しているし、Aが殊更に被告人に不利な事実を供述しているとも認められない から、Aの証言も、他の証人の証言と一致する限度において信用することができ る。 これに対し、弁護人は、①被告人がAとともに暴力を振るったとするFとPの 証言は、Aの裁判で同人らが証言した内容と異なっており信用できない、②食事 制限についての各証言について、Pらは時折被告人方を訪れるだけで、AとOも 自室で被告人らとは別に食事を取っていたから、見ている範囲は限定的であった はずである、③Pの証言は、同人の知的障害の影響により検察官の誘導に基づい たものとなっており、全体的な信用性に乏し 、AとOも 自室で被告人らとは別に食事を取っていたから、見ている範囲は限定的であった はずである、③Pの証言は、同人の知的障害の影響により検察官の誘導に基づい たものとなっており、全体的な信用性に乏しいなどと主張する。 しかしながら、①については、Pは、Aの裁判時にも被告人らが一緒になって 暴力を振るった場面を見たと述べていたようであり、単にその回数の点に変遷が あるにすぎないし、Fの証言も、そのようなPの証言する暴行態様と一致してい ることからすれば、その信用性は高いといえる。また、②については、各証人の 見ている範囲は限定的だとしても、互いに整合しており、これらを総合すると、 前記のとおりの事実が認められる。③についても、Pが尋問の際にスムーズに証 言できない場面はあったものの、同人が検察官等に迎合したり、殊更に虚偽の証 言をしたりする状況は見受けられないし、前記⑴のPの証言部分は、他の証人の 12 証言とも一致しており、十分信用できると認められる。弁護人の上記主張はいず れも採用することができない。 ⑷ 被告人の公判供述の信用性 被告人は、被害者③に怪我をするような暴力を振るったり、食事制限をしたり したことはない、Aと被害者③は、じゃんけんをして負けたほうの肩を叩いたり お尻を蹴ったりしていたが遊びだと思っていた、私は、被害者③に小馬鹿にされ た際、被害者③のことを数回手で払ったり、リビングから玄関に引きずったり、 遊びで柔道技を掛け合ったりしただけである、被害者③の体重減少はうつ病が原 因だと思っていた、被害者③の食事は1日1食から2食作っていたが、被害者③ はお菓子のほうがいいなどと言ってご飯を食べないときもあった、被害者③が救 急搬送された後、医師から被害者③はパンが喉に詰まって意識を失ったと聞いた などと供述する。 しかしながら、被告人の上記 ③ はお菓子のほうがいいなどと言ってご飯を食べないときもあった、被害者③が救 急搬送された後、医師から被害者③はパンが喉に詰まって意識を失ったと聞いた などと供述する。 しかしながら、被告人の上記供述も、関係証人の証言と悉く食い違っており、 前記被害者③の救急搬送時の状況等の客観証拠と整合しておらず、到底信用する ことができない。 ⑸ 弁護人の主張について 弁護人は、上記被告人の公判供述のとおり、被害者③は、うつ病による食欲不振 のために体が弱った上で、パンを喉に詰まらせて意識不明になったもので、被告人 の行為と被害者③の傷害結果には因果関係がないと主張するので、以下、これらの 点について付言する。 ア 被害者③がうつ病が原因で食欲不振になった可能性について 関係証拠によれば、被害者③は、4月18日、5月15日、7月6日及び同月3 1日に精神科クリニックを受診したこと、4月18日の受診時には、職場の人間関 係や不眠等を訴え、うつ病状態との診断を受けたこと、7月6日の受診の際に食欲 不振を訴えて、うつ病の診断を受け、その旨の診断書が作成されたこと、前記のと おり同日の受診時の体重は43kg、同月31日の受診時の体重は40kgであっ 13 たことが認められる。 そして、s教授である証人Zは、人間が生命維持活動に支障を来すまで食事の 摂取を自ら控えることは極めて例外的であるところ、診療記録上被害者③のうつ の程度は軽度付近に位置づけられるもので、体重減少の程度と見合っておらず、 その原因はうつ病以外であると考えられる旨証言する。Z教授は、豊富な臨床経 験を有する専門家であり、被害者③の診療録を踏まえて、専門的知見に基づく合 理的な説明をしていることからすれば、上記証言には高度の信用性が認められる。 そうすると、被害者③がうつ病が原因で食欲不振になったとの る専門家であり、被害者③の診療録を踏まえて、専門的知見に基づく合 理的な説明をしていることからすれば、上記証言には高度の信用性が認められる。 そうすると、被害者③がうつ病が原因で食欲不振になったとの弁護人の主張は 採用できず、上記経緯等を踏まえれば、被害者③の体重減少はうつ病が原因だと 思っていた旨の被告人の供述も信用することができない。 イ パンを喉に詰まらせて意識障害になった可能性について 医師で法医学者である証人Xは、被害者③が脳損傷の傷害を負った原因につい て、同人は心停止によって脳を含む全身への血液供給がされなくなった結果、脳 損傷、具体的には低酸素脳症となったと考えられる、心停止の原因として考えら れるのは低体温症である、人間は体温が低下すると正常な活動が出来なくなり、 30度前後を下回ると死に至るといわれていることから、当時腋下温が28度で あった被害者③は死に至っておかしくない状態といえる、低体温症の原因は、低 栄養、またこれによって生じる低血糖と考えられる、低血糖により脳に運ばれる 糖が少なくなり、体温調節が正常に行えなくなることから低体温となる旨証言す る。 そして、パンによる窒息の可能性について、同証人は、口腔内にパンがあった としてもそれが咽頭喉頭や気道に詰まったとの所見はないし、パンを除去した後 も呼吸数や心拍数の変化はないことなどから、誤嚥による窒息が原因とみること に根拠がないと証言する。 このようなX医師の証言は、被害者③の診療録や搬送記録に基づき合理的な説 明をするもので、その信用性は高いと認められる。 14 そうすると、被害者③がパンを喉に詰まらせて意識障害に陥ったとの弁護人の 主張は採用できない。そして、前記のとおり、被害者③は、救急搬送される前ま で、被告人らによる食事制限によって一定の継続した期間十分な栄養摂取が行え ③がパンを喉に詰まらせて意識障害に陥ったとの弁護人の 主張は採用できない。そして、前記のとおり、被害者③は、救急搬送される前ま で、被告人らによる食事制限によって一定の継続した期間十分な栄養摂取が行え ない状態であったことからすると、被害者③の低体温による心停止、これによる 脳損傷の傷害は被告人らの行為によって生じたものと認められる。 ⑹ Aとの間で傷害の共同正犯が成立することについて 信用できるFらの前記証言によれば、被告人は、被害者③に対し、自ら暴力を 振るったほか、Aが被害者③に暴行を加えているのを面白そうに見たり、Aの暴 行を助長させるような言葉掛けをしたりし、Aと二人がかりで被害者③に暴行を 加えたこともあったことや、これらの日常的な暴行によって被告人らに従わざる を得ない状況にあった被害者③に対し、十分な食事を与えず、被告人が許す食事 以外の食べ物の摂取を禁じていたことが認められる。 また、Aも、被害者③に対し、日常的に殴る蹴るなどの暴行を繰り返しており、 その程度も相当強度なものであったと認められ、被告人と意思を通じた上で、自 らも強度な暴行を繰り返すことで、被害者③を支配し、被告人らの意のままに従 わざるを得ない状況に置いていたということができる。 そして、Aは、被告人が被害者③の食事を制限していたことや、被害者③が極 度に痩せていったことを認識しながら、被告人を止めることや被害者③に食事を 与えることをせず、衰弱しつつある被害者③に対し、強度な暴行を続けたのであ るから、Aは、被告人による被害者③への食事制限についても了承した上、この ような状況を利用し、被害者③に対する暴力的支配を継続しつつ、自らの欲求を 満たしていたもので、判示第3の事実全体について、自己の犯罪として積極的に 関与していたと評価できる。 そうすると、被告人とAとの間で、被害者 し、被害者③に対する暴力的支配を継続しつつ、自らの欲求を 満たしていたもので、判示第3の事実全体について、自己の犯罪として積極的に 関与していたと評価できる。 そうすると、被告人とAとの間で、被害者③に対し暴行を加えることはもとよ り、被告人らの意のままに従わざるを得ない状況にあった被害者③に対し食事を 制限したことについても共謀が成立すると認められる。 15 ⑺ 以上によれば、被告人が、Aと共謀の上、被害者③に対し、判示第3記載の 暴行や食事制限を行い、傷害を負わせたと認められる。 【罪となるべき事実に関連する情状に関する事実】 1 被害者①事件について 被害者①は、被告人方に残り続けたら殺されると思い、平成23年5月8日、被 告人方を逃げ出し、翌9日整形外科を受診した後、同月11日t病院を受診し、入 院した。同病院では、上下顎骨の一部が粉砕骨折しており、顎が閉まらない咬合不 全であるとして、その整復手術等が行われたが、下顎の神経損傷による下唇の知覚 鈍麻が残ることとなった。 2 被害者②事件について 被害者②は、言葉にできないほどの痛みを感じ、平成24年10月7日、被告人 方から逃げ出して、母の知人方を訪れた。そのとき被害者②の顔等には複数の点状 の傷があり、鼻や頬が腫れている状態であった。被害者②は、同日、t病院に入院 し、翌日、押しつぶされた膵臓の一部を切除し臓器を繋ぐ手術を受けた。 被害者②は、公判において、「被告人に対する適正な処罰を求める」旨証言し た。 3 被害者③事件について 被害者③は、平成29年10月24日に救急搬送された後、同年12月以降、簡 単な会話ができる状態まで回復し、平成30年1月にはリハビリテーション病院に 転院したが、言葉の理解、記憶、発語等に関する脳の高次機能に傷害が残った。 被害者③は、現在、グループホ 年12月以降、簡 単な会話ができる状態まで回復し、平成30年1月にはリハビリテーション病院に 転院したが、言葉の理解、記憶、発語等に関する脳の高次機能に傷害が残った。 被害者③は、現在、グループホームに入所して毎日デイサービスに通っている。 身体障害4級の認定を受け、障害年金を受給しており、ある程度歩いたり、食事と かはでき、会話も何とかできるが、自分で買い物をしたり、乗り物に乗ったりする ことはできない。また、被害者③事件当時の記憶は何もない。 被害者③の父は、公判において、「被告人には裁きを受けてもらわないといけな い。私たち夫婦はどんな裁きを受けようとも生涯許すことはできない。できるわけ 16 がない」旨証言した。 令和5年1月20日 大津地方裁判所刑事部 裁判長裁判官 畑 山 靖 裁判官 沖 敦 子 裁判官 中 野 彩 華

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