令和4(行コ)72 還付金(過誤納金)返還請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和5年2月16日 東京高等裁判所
ファイル
hanrei-pdf-92526.txt

判決文本文12,902 文字)

- 1 -令和5年2月16日判決言渡令和4年(行コ)第72号還付金(過誤納金)返還請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和元年(行ウ)第453号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 第2 事案の概要(略称は、原判決のものを用いる。) 1 本件は、ルクセンブルクに本店を有する外国法人である被控訴人が、内国法人である完全子会社2社(本件各子会社)がした会社分割(本件各分割)に伴い、本件各子会社がその対価として取得した分割承継法人の出資持分につき、本件各子会社の剰余金の配当として受けた分配金(本件各剰余金配当)の一部が配当とみなされる(本件各みなし配当)ため、20.42%の税率で計算された税額(当初納付額)の所得税及び復興特別所得税(所得税等)を源泉徴収により納付したところ、本件各みなし配当については、所得に対する租税及びある種の他の租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とルクセンブルク大公国との間の条約(本件租税条約)10条2項⒜(本件規定⒜)の要件をいずれも満たし、その税率は、本件規定⒜所定の限度税率(租税実施法2条5号)である5%となるから、当初納付額は過大であったと主張して、控訴人に対し、還付金合計13億9448万4302円(A社分につき11億2196万2237円、B社分につき2億7252万2065円)並びにこれらのうち1万円未満の端数を除いた部分に対する平成27年5月8日(還付の請求があった日の翌日から起算して1月を経過する日)から還付のための - 2 -支払決定の日又は充当の日までの還 これらのうち1万円未満の端数を除いた部分に対する平成27年5月8日(還付の請求があった日の翌日から起算して1月を経過する日)から還付のための - 2 -支払決定の日又は充当の日までの還付加算金(具体的な計算方法は、原判決別紙2「還付加算金目録」に記載のとおりである。)の支払を求める事案である。 原審は、被控訴人の請求を全部認容したため、これを不服として控訴人が控訴した。 2 関係法令等の定め、前提事実、争点及び当事者の主張は、以下のとおり原判決を補正し、後記3のとおり当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決の「第2 事案の概要」の1から4までに記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決11頁13行目の「を納付した」を「を源泉徴収して控訴人に納付した」に改める。 ⑵ 原判決12頁4行目の「求める金額」の次に「である合計13億9448万4302円(以下「本件請求金額」という。)」を加え、同7行目の「以下併せて「本件請求金額」という。」を削る。 ⑶ 原判決(別紙4)57頁12行目の「⑴ 」の次に「本件文言の解釈指針となる規定は、ウィーン条約31条と本件租税条約3条2項である。そして、本件租税条約3条2項は「文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、(中略)当該一方の締約国の法令における当該用語の意義を有するものとする。」と規定しているが、本件租税条約には、本件文言の解釈を可能とする「文脈」はない。また、」を加える。 ⑷ 原判決(別紙4)72頁24行目の「しかしながら、」を「政府訳文は、日本語正文が存在しない条約について、国会審議の資料として提出され、また、国民の理解のために公布の際に正文に添付されるものにすぎず、仮に後に政府がその訳が不適切であったと考えるに至ったとしても、これを改正することは予定 条約について、国会審議の資料として提出され、また、国民の理解のために公布の際に正文に添付されるものにすぎず、仮に後に政府がその訳が不適切であったと考えるに至ったとしても、これを改正することは予定されておらず、法令の解釈について上級行政機関が解釈を変更した場合には改廃が行われる解釈通達とも法的性質は異なっている上、法源 - 3 -性を有さないのであるから、租税法律主義の下、法源である正文に従った条約の適用がなされなければならない。」に改める。 3 当審における控訴人の追加主張⑴ 本件文言は、以下のとおり、利得の分配の受領者が特定される日を意味すると解釈すべきであり、本件各みなし配当(利得の分配)の受領者が特定される日とは、本件各分配が行われた日の前日である平成26年7月31日を指すと解すべきである。 ⑵ア本件租税条約3条2項は、「一方の締約国によるこの条約の適用上、この条約において定義されていない用語は、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、この条約の適用を受ける租税に関する当該一方の締約国の法令における当該用語の意義を有するものとする。」と定めているところ、この規定は、一般的な条約における用語の解釈について定めたウィーン条約31条1項との関係では、特別規定であると解されるから、本件租税条約3条2項の規定がウィーン条約31条1項の規定に優先して適用されると解すべきである。そして、本件文言は、それを構成する各用語が本件租税条約において定義されていないから、本件租税条約3条2項にいう「文脈」によって解釈すべきであり、文脈によってもその意義が明らかでない場合に限り、我が国の租税法上における用語の意義によることとなるが、本件租税条約3条2項が規定する「文脈」は、ウィーン条約31条1項が規定する「文脈」よりも広く、条 によってもその意義が明らかでない場合に限り、我が国の租税法上における用語の意義によることとなるが、本件租税条約3条2項が規定する「文脈」は、ウィーン条約31条1項が規定する「文脈」よりも広く、条約文等や締約国の合意だけでなく、規定の趣旨・目的、署名時の両締約国の意図、締約国の法制度の適切な規定、モデル条約及びコンメンタリー、パラレル条約なども含まれると解される。 イ一般に、租税条約は、既に各国において税法が規定され、具体的な課税の仕組みが法体系として確立していることを前提に、異なる法令を有する国家間における合意として締結されるものであるため、その規定は、概し - 4 -て簡潔なものとならざるを得ず、全ての取引を網羅して定められるものではなく、典型例につき簡潔な条文をもって定められるのが通常であるから、規定自体が簡潔となっている場合には、当該規定の文言に拘泥することなく、その規定の趣旨・目的をも考慮した解釈が必要となる。しかるところ、本件文言は、配当に当たり決算が行われる典型的な配当の例を念頭に簡潔な条文をもって定められたものであると解され、本件租税条約が締結された平成4年当時には制度自体が存在すらしなかった非適格分割型分割により生じるみなし配当のように配当に当たり決算が行われない例外的な場合については、本件各みなし配当「に係る」事業年度は存在しないから、国内法における用語の意義により本件文言を解釈することはできず、「文脈により別に解釈すべき場合」に当たるものとして、「theaccountingperiod」という文言に拘泥することなく、種々の配当の意義や手続等のほか、本件規定⒜において本件保有期間要件が設けられた趣旨・目的を踏まえて解釈すべきである。 本件文言中に「theaccountingperiod 泥することなく、種々の配当の意義や手続等のほか、本件規定⒜において本件保有期間要件が設けられた趣旨・目的を踏まえて解釈すべきである。 本件文言中に「theaccountingperiod」という文言が用いられたのは、利得の分配(配当)に係る会計期間(又は事業年度)が存在する場合、すなわち、配当に当たり決算が行われる典型的な配当においては、「配当の支払を受ける者が特定される日」が通常会計期間(又は事業年度)終了の日であったためにすぎない。これに対し、本件各みなし配当は、税法固有の概念であり、そのみなし配当の額の計算方法からすれば、当該みなし配当が生じた事業年度における利益計算とは独立していることは明らかであり、当該みなし配当が生じた事業年度の会計とは無関係でつながりがない。 したがって、本件文言が、一定の関連性ないし牽連性を要する「forwhich」を用いている以上、本件各みなし配当「に係る」事業年度は存在しないから、みなし配当の場合に「theaccountingperiod」 を国内法の「事業年度」として解釈した場合には、国内法の意味では本件租税条約が - 5 -一部適用できなくなるから、本件文言の解釈に当たっては、「文脈により別に解釈すべき場合」に該当するというべきである。なお、仮に「theaccountingperiod」を「会計期間」と解したとしても、本件各みなし配当の計算方法に照らせば、やはり対応する会計期間(「利益の分配に係る会計年度」)がないから、上記結論は左右されない。 ウ本件規定⒜が軽減税率を定めた趣旨は、源泉地国において配当支払法人の利得に対して課税した上に、その利得の分配である配当についても、配当受領者の居住地国において重ねて課税することは、国際投資の障害となることから、経済的二 定めた趣旨は、源泉地国において配当支払法人の利得に対して課税した上に、その利得の分配である配当についても、配当受領者の居住地国において重ねて課税することは、国際投資の障害となることから、経済的二重課税の排除を手段として、子会社から親会社に対する配当については源泉地国における配当課税の税率を5%に制限することにより国際投資の促進を図ろうとしたものである。そして、①本件租税条約が親子会社関係の判定基準について「資本」ではなく「議決権」を用いており、子会社の事業活動に参画できる議決権のある株式を保有する者に軽減税率の特典を与えていること、②本件租税条約と同様の親子会社間配当に係る軽減税率規定である新日英租税条約(平成18年改正)10条2項について、「親子関係にある法人間で行われる株式投資は、短期売買目的のための一般のポートフォリオ投資とは異なり、事業活動に係る直接投資としての性格が強く、このような配当に対する源泉地国課税の大幅な減免を通じて投資交流の促進が図られることが期待されます」との国税庁による説明がなされていることからすれば(乙39・国税庁「税制改正の解説(平成18年版)」501頁)、本件規定(a)が軽減税率を定めた趣旨は、資産運用としての証券投資とは区別される事業活動に係る直接投資の促進を図ることにあると解される。 その上で、本件規定⒜が、本件保有期間要件として、6か月の最低保有期間を設けている趣旨についてみると、一般に、保有期間要件は、経 - 6 -済交流や投資を抑制する方向に働く規定であると解されるが、本件租税条約制定当時、国内法令である法人税法23条1、4項(平成12年法律第97号による改正前のもの。)及び法人税法施行令22条の2(平成10年政令105号による改正前のもの。)が、特定株式等に係る配当等につ 定当時、国内法令である法人税法23条1、4項(平成12年法律第97号による改正前のもの。)及び法人税法施行令22条の2(平成10年政令105号による改正前のもの。)が、特定株式等に係る配当等につき、内国法人が他の内国法人の一定割合以上の株式又は出資金額を、当該内国法人が交付を受ける配当等の額の支払義務が確定する日以前6月以上引き続いて有しているとの要件を満たす場合には、益金不算入とする制度を設けており、これは企業支配的な関係のある、いわば同一企業の内部取引と考えられる配当等については課税すべきでないとする一方で、支配関係を目的としない法人が投資対象として保有する株式についてまで税が軽減されることは相当でないとの考えに基づくものであり、これと同様に、本件規定⒜は、直接投資の促進という趣旨に合致しない短期保有の株主を軽減税率の適用対象から除外し、他方で投資の促進を阻害しない程度の継続した持分保有関係を要求するにとどめる必要から、両者の適切な調和点として、法人税法が最低保有期間としていた期末配当と中間配当の間隔である6か月と同じく最低保有期間を6か月としたものと解される。 このような、本件租税条約3条2項の「文脈」を構成する本件保有期間要件が設けられた趣旨を踏まえると、上記持分保有関係の存在は、その配当に結びつく投資がされた期間において求められているものと解するのが合理的である。そして、我が国の配当又は各種のみなし配当が、いずれも、一定の時点における株主をもって当該配当等に結びつく投資をした者として当該投資の成果を分配する、又は分配されたものとみなすものであることからすると、本件文言が定める本件保有期間要件は、当該一定の時点に先立つ一定期間、具体的には最も適切と考えられる6か月間、当該持分関係が継続していることを要求するものと解 ものとみなすものであることからすると、本件文言が定める本件保有期間要件は、当該一定の時点に先立つ一定期間、具体的には最も適切と考えられる6か月間、当該持分関係が継続していることを要求するものと解するのが - 7 -合理的であり、本件文言は、かかる本件保有期間要件の起算点を明らかにしたものと解すべきである。したがって、本件文言は、当該配当に結びつく投資がされた期間を画する起算点である「利得の分配の受領者が特定される日」を意味すると解釈するのが相当である。本件各みなし配当のように、非適格分割型分割によって生じるみなし配当については、その所得の金額が非適格分割型分割の行われる直前の株主の株式の保有状況を基に算定され、非適格分割型分割が行われる直前の株主に対してみなし配当という所得が生じることとなり、当該分割の直前時点においてその受領者が特定されることとなるから、利得の分配の受領者が特定される日とは、非適格分割型分割の直前の日(前日)を指すと解するのが相当である。そして、日本とルクセンブルクによって選択された一定の時点(起算点)に先立つ一定期間の継続した持分関係を要求する本件規定の規定振りからすれば、配当と無関係な配当後の投資期間(株式保有期間)を含むような起算点(本件文言)の解釈は不合理であって、本件規定は、株主に対し、本件文言を起算点としてそれに先立つ一定期間の継続的な株式保有を求めていることは明らかである。 エ本件租税条約3条2項の「当該一方の締約国の法令」とは、条約適用時(租税が課される時点)の法令を意味すると解すべきところ、本件条約の公布時における我が国の法令においては、「計算期間」という用語は存在していなかったため、本件租税条約の「theaccountingperiod」との文言の政府訳文が「事業 べきところ、本件条約の公布時における我が国の法令においては、「計算期間」という用語は存在していなかったため、本件租税条約の「theaccountingperiod」との文言の政府訳文が「事業年度」となっているにすぎない。そして、本件租税条約の同文言は、英語と日本語が共に正文とされている他の条約において採用されていたように、「計算期間」と訳することも可能であって、むしろ、我が国の法令上、「事業年度」(法人税法13条1項)は、法人の財産及び損益の計算の単位となる期間であり、配当とは直接の関連性がない用語であるのに対し、「計算期間」(法人税法23条5項、同法施行令2 - 8 -2条の2第2項)は、親子会社間の配当の減免規定の適用を受ける際に必要とされる株式の保有期間を画する用語であるから、本件と関連性が強いということができ、本件文言を解釈するに当たって参照されるべき我が国の法令用語ということができる。また、加盟国で広く採用されている見解に合わせてモデル条約の1995年(平成7年)改訂において、「当該一方の締約国の法令」が条約適用時(租税が課される時点)の法令であることが明文化されたことを踏まえると、本件租税条約においても、「当該一方の締約国の法令」とは、適用時(租税が課される時点)の法令を意味するものと解される。したがって、本件租税条約の「theaccountingperiod」との文言は、法人の財産及び損益の計算の単位となる期間である「事業年度(会計期間)」ではなく、親子会社間の配当の減免規定の適用を受ける際に必要とされる株式の保有期間を画する用語である「計算期間」と訳するのが相当であり、我が国の法令上、計算期間とは、「その配当等の額の支払を受ける直前に当該配当等の額を支払う他の内国法人により支払われた配当等の額( 式の保有期間を画する用語である「計算期間」と訳するのが相当であり、我が国の法令上、計算期間とは、「その配当等の額の支払を受ける直前に当該配当等の額を支払う他の内国法人により支払われた配当等の額(括弧内略)の支払に係る基準日の翌日(括弧内略)からその支払を受ける配当等の額の支払に係る基準日までの期間」(法人税法施行令22条の2第2項)を意味するから、その終了の日とは基準日を意味するのであり、このような我が国の法令の用語の意義からしても、本件文言は、利得の分配の受領者が特定される日を意味すると解すべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、被控訴人の請求は理由があり認容すべきであると判断する。その理由は、以下のとおり原判決を補正し、後記2のとおり当審における控訴人の追加主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「第3 当裁判所の判断」の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決13頁10行目の「採用されている。」の次に「そして、上記コメンタリーは、ウィーン条約32条にいう「解釈の補足的な手段」として、モ - 9 -デル条約に倣った条約の解釈に際しても参照されるべき資料ということができるものである(最高裁平成20年(行ヒ)第91号同21年10月29日第一小法廷判決・民集63巻8号1881頁参照)。」を加える。 ⑵ 原判決17頁12行目末尾に「この点、モデル条約2010年版のコメンタリーは、その理由について、第10条に関するパラグラフ16において、主として配当の軽減税率規定をできるだけ広く適用したいとの点にあるとする一方で、「一定のOECD加盟国の国内法令は、受領法人が受取配当につき軽減又は免除を受ける要件として、当該法人が株式を保有すべき最低限の期間を定めている。この観点から、締約国は同様の 点にあるとする一方で、「一定のOECD加盟国の国内法令は、受領法人が受取配当につき軽減又は免除を受ける要件として、当該法人が株式を保有すべき最低限の期間を定めている。この観点から、締約国は同様の条件をそれらの条約に含めることができる。」とし、各締約国が保有期間要件を設けるかどうか、また、どのような保有期間要件を設けるかは、各締約国の選択に委ねるものとしていた。(乙18)」を加える。 ⑶ 原判決18頁25行目末尾に改行の上、次のとおり加える。 「 カ 2010年版のモデル条約10条3項のコメンタリーのパラグラフ23では、同項に関し、「OECD加盟国の法の間には大きな差異があることを考慮すると、「配当」を完全かつ網羅的に定義することは不可能である。(中略)1963年条約草案の改訂過程において、国内法令に言及しない解決策を見いだすために徹底的な研究が行われた。この研究においては、会社法及び租税法の分野における加盟国間のいまだ残されている相違点に照らせば、配当の概念を国内法令から独立して定義づけることは可能とは思われない、という結論に至っている。」とされており、また、同パラグラフ28では、「配当とされる支払には、年次株主総会によって決定される利得の分配のみならず、金銭又は金銭的価値を有するその他の便益、例えば無償株や、特別配当金、清算分配金及び隠れた利益配当が含まれる。支払法人が居住者とされる国が、かかる便益を配当として - 10 -課税する限りにおいて本条に規定する救済措置が適用される。かかる便益が、法人の生み出した当期の利得から支払われたものであるか、準備金(すなわち、過去の事業年度の利得)から支払われたものであるかは重要なことではない。通常、いかなる形態のものであれ、構成員の権利を減少させる効果を生む法人 期の利得から支払われたものであるか、準備金(すなわち、過去の事業年度の利得)から支払われたものであるかは重要なことではない。通常、いかなる形態のものであれ、構成員の権利を減少させる効果を生む法人による分配、例えば資本の払い戻しを構成する支払は配当とはみなされない。」とされている。(甲44)⑸ 租税条約に関する解説書である、クラウス・フォーゲル「租税条約」(第4版及び第5版)では、租税条約に「最低保有期間」の定めがある場合として2つの代表的なパターンを紹介しており、一つは、日本が締結した租税条約によくみられるものとして、本件文言を用いた「利得の分配に係る会計期間の終了の日に先立つ6か月」(sixmonthsimmediate1ybeforetheendoftheaccountingperiodforwhichthedistributionofprofitstakeplace)との規定で、配当の受領者は利得の分配の時点では最低保有期間の要件を充たしていることは必要がないが、もう一つの例は、2016年のアメリカのモデル租税条約のように「配当の支払を受ける者が特定される日をその末日とする6か月」(foraperiodofsixmonthsendingonthedateonwhichtheentitlementtothedividendsisdetermined)との規定で、配当を行うことを正式に決定した時点に最低保有期間の要件を充たしている必要がある、との解説がされており、両者の文言を対照して、意味が異なると分析し、本件文言については「利得の分配に係る会計期間の終了の日に先立つ6か月」を意味するものであるとする内容となっている。(甲46、49、乙60の1~2 おり、両者の文言を対照して、意味が異なると分析し、本件文言については「利得の分配に係る会計期間の終了の日に先立つ6か月」を意味するものであるとする内容となっている。(甲46、49、乙60の1~2頁)」⑷ 原判決20頁18行目末尾に「なお、控訴人は、本件文言の解釈に当たり、法源性を有しない仮訳にすぎない政府訳文を参照することは許されないと主 - 11 -張するが、政府訳文は、国会審議の資料とされ、また、条約の公布の際にも正文とともに官報に掲載されるものであって、日本国内においては、本件租税条約の日本語による内容に関する日本政府の認識を公的に示したものとして効力を有するものといえるから、前記のとおり、本件租税条約2条3項に基づき、「日本の法令における当該用語の意義」を検討するに際して、これを参照することは相当というべきである。」を加える。 ⑸ 原判決22頁25行目の「繰り返しは」の次に「経済的二重課税として」を加える。 ⑹ 原判決23頁25行目の「定められていなかったところ、」を「定められておらず、定めるか否かは各締約国の裁量に委ねられていたところ、」に改める。 ⑺ 原判決26頁20行目の冒頭から同25行目の「いうことができる。」までを「以上のとおり、本件租税条約には本件文言を定義した規定は存在しないため、まず、本件租税条約に定められている条文解釈規定である本件租税条約3条2項の文脈(ウィーン条約31条1項)により本件文言を解釈することとし、日本の法令における用語の意義に基づいて本件文言を解釈すると、その意義は、「利得の分配に係る会計期間の終了の日」と解することができるところ、このような本件文言の解釈につき、本件租税条約には、これと別段の解釈をすべきものとする文脈はないと認められる。そして、本件文言に関す 利得の分配に係る会計期間の終了の日」と解することができるところ、このような本件文言の解釈につき、本件租税条約には、これと別段の解釈をすべきものとする文脈はないと認められる。そして、本件文言に関する上記の解釈は、条約解釈の一般的規則であるウィーン条約31条1項により、本件文言を正文によって、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従って解釈した場合、その意義が、「利得の分配(配当)が行われる会計期間の終期」と解されることと実質的に一致するところであって、相当であるというべきである。」に改める。 原判決28頁14行目の「前記1⑵イ」の次に「、⑸」を加える。 2 当審における控訴人の追加主張に対する判断 - 12 -⑴ 控訴人は、本件文言は本件租税条約3条2項の「文脈」により解釈すべきであり、同項の「文脈」は、ウィーン条約31条1項が規定する「文脈」よりも広い意味を持つものであると主張する。 本件租税条約の条文である本件文言については、まず本件租税条約3条2項に基づいて解釈するのが相当であるのは、前記補正の上引用した原判決説示のとおりであるが、本件租税条約3条2項の「文脈」と、条約に関する一般規定であるウィーン条約31条1項にいう「文脈」とを別異に解すべき根拠は明らかではなく、控訴人の上記主張は採用できない。 ⑵ 控訴人は、本件各みなし配当は、本件租税条約制定当時には制度自体存在しなかったものであるし、本件各みなし配当には、利得の分配に係る会計年度は存在しないから、「theaccountingperiod」という文言に拘泥しない解釈が求められると主張する。 しかし、本件租税条約において「配当」を定義している10条3項は、「配当」を株式その他利得の分配を受ける権利から生ずる ntingperiod」という文言に拘泥しない解釈が求められると主張する。 しかし、本件租税条約において「配当」を定義している10条3項は、「配当」を株式その他利得の分配を受ける権利から生ずる所得及びその他の持分から生ずる所得であって分配を行う法人が居住者とされる締約国(源泉地国)の税法上株式から生ずる所得と同様に取り扱われるものをいうと包括的に定め、これに該当する限り、本件租税条約10条の適用があることを予定している。そして、前記説示のとおり、本件租税条約10条3項と同様の内容であるモデル条約10条3項のコメンタリー(パラグラフ23)によれば、同項の「配当」の概念を、締約国の国内法令から独立して定義づけることは可能とは考えられないとされているから、この「配当」の概念が、本件租税条約適用時の国内法に関連づけられることは当然に想定されているものと解され、また、同コメンタリー(パラグラフ28)では、「配当」とされる支払に関し、支払法人が配当として支払う便益が、法人の生み出した当期の利得から支払われたものであるか、準備金(すなわち、過去の事業年度の利得)から支払われたものであるかは重要なことではない、とされている。 - 13 -したがって、本件各みなし配当には、利得の分配に係る会計年度は存在しないから、「theaccountingperiod」という文言に拘泥しない解釈が求められるとする控訴人の主張を採用することはできない。 ⑶ア控訴人は、本件租税条約3条2項の「文脈」に該当する、本件保有期間要件が設けられた趣旨に照らせば、本件文言は、利得の分配の受領者が特定される日を意味すると解すべきであると主張する。 イこの点に関し、本件保有期間要件が規定された趣旨は、本件規定⒜が、親子会社間配当に関し、経済的二重課税を軽減 本件文言は、利得の分配の受領者が特定される日を意味すると解すべきであると主張する。 イこの点に関し、本件保有期間要件が規定された趣旨は、本件規定⒜が、親子会社間配当に関し、経済的二重課税を軽減し、国際投資を促進する趣旨で定められていることから、その趣旨に照らし、軽減税率の適用対照として想定されない株主が源泉地国において軽減税率の適用を受けようとする濫用的な事例への対策として設けられたものと解される。そして、前記のとおり、2010年版のモデル条約10条のコンメンタリー(パラグラフ16)では、保有期間要件を定めるかどうか、保有期間要件を定める場合にはその具体的な内容をどのように定めるかは、租税条約締約国の選択に委ねられるとされており、本件文言はその代表的な定め方の一つを採用しているものと認められる。そして、2017年に改訂されたモデル条約の10条2項⒜では、新たに保有期間要件として、「当該配当の受益者が、当該配当の支払の日を含む365日の期間を通じて、当該配当を支払う法人の資本の25%以上を直接に所有する法人(以下略)」という規定例を示しており、配当の支払日に先立つ期間において持分を継続保有していることを必要であるとはしていない。 ウそうすると、本件保有期間要件が規定された趣旨を「文脈」として本件文言を解釈すれば、持分保有関係の存在は、その配当に結びつく投資がされた期間において求められているから、本件保有期間要件は、当該一定の期間に先立つ6か月間、当該持分関係が継続していることを要求するものであるとする控訴人の主張は、前提を欠くものといえ、採用することがで - 14 -きない。 ⑷ 控訴人は、本件保有期間要件の趣旨等に照らせば、本件租税条約の「theaccountingperiod」との文言は、親子会社間の配 え、採用することがで - 14 -きない。 ⑷ 控訴人は、本件保有期間要件の趣旨等に照らせば、本件租税条約の「theaccountingperiod」との文言は、親子会社間の配当の減免規定の適用を受ける際に必要とされる株式の保有期間を画する用語である「計算期間」と訳するのが相当であり、我が国の法令上、計算期間とは「その配当等の額の支払を受ける直前に当該配当等の額を支払う他の内国法人により支払われた配当等の額(括弧内略)の支払に係る基準日の翌日(括弧内略)からその支払を受ける配当等の額の支払に係る基準日までの期間」(本件各みなし配当がされた平成26年8月1日時点における法人税法施行令22条の2第2項)を意味し、その終了の日とは基準日を意味するから、本件文言は利得の分配の受領者が特定される日を意味すると解すべきであると主張する。 しかし、控訴人の上記主張は、本件租税条約の文脈により本件文言を解釈すべきであるとしながら、国内法である法人税法における用語により本件文言の解釈を行うものであって矛盾があり、採用することができないというべきである。 その他、控訴人が、本件文言について、前記のとおり判示した解釈と異なる解釈をすべきであると主張する点については、いずれも採用することができない。 3 以上の次第で、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第7民事部 裁判長裁判官矢尾和子 - 15 - 裁判官藤井聖悟 裁判官三輪恭子 裁判官藤井聖悟 裁判官三輪恭子

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る