主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,585万円及びこれに対する平成14年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,585万円及びこれに対する平成14年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,関西医科大学を設置運営する被告との間で在学契約を締結し,入学金及び授業料等を納付した原告らが,後に関西医科大学への入学を取りやめ,準委任契約としての在学契約を解除したとして,不当利得による利得金返還請求権に基づき,被告に対して,入学金及び授業料等の返還として各585万円(入学金100万円,前期教育充実費250万円,施設設備費100万円,前期授業料120万円,前期実験実習費15万円)及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成14年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。これに対して,被告は,原告らと被告との間の在学契約において,一旦,納付された入学金及び授業料等は,理由の如何を問わず返還しない旨の特約があることなどを理由に,支払を拒絶している。 第3 争いのない事実等(証拠によって容易に認められる事実を含む。なお,以下,特に限定しない限り,証拠番号には枝番をすべて含むものとする。) 1 当事者(争いがない。)・原告B(以下「原告B」という。)は,平成12年2月14日,関西医科大学の一般入学試験を受験して合格した者である。 ・原告A(以下「原告A」という。)は,平成13年2月14日,関西医科大学の一般入学試験を受験して合格した者である。 ・被告は,教育基本法及び学校教育法に 入学試験を受験して合格した者である。 ・原告A(以下「原告A」という。)は,平成13年2月14日,関西医科大学の一般入学試験を受験して合格した者である。 ・被告は,教育基本法及び学校教育法に従い,関西医科大学(被告及び関西医科大学を併せて,以下,単に「被告」という。)を設置運営する学校法人である。 2 原告Bが,被告への入学を辞退した経緯・被告が,原告Bに事前に交付していた,平成12年度学生募集要項(一般入学)(乙1の1)には,以下のとおり記載されている。 ア合格者は,平成12年3月2日までに,入学時納入金の納付を含めた入学手続を完了せねばならない。 イ入学金以外の入学時納入金の納付は,平成12年3月9日まで猶予することができる。 ウ入学手続を完了した者で,平成12年3月21日までに入学辞退を申し出た者に対しては,既納付金のうちから入学金を差し引いた残額を返還する。 ・原告Bは,平成12年2月14日,被告の一般入学試験を受験し,同月25日に合格通知を受けた。(乙5)・合格通知と同時に原告Bに交付された,被告への入学に関する手続についての説明書(乙9の1)には,「平成12年3月21日(火)午後5時を過ぎてからの入学辞退については,既納入金は一切返還いたしません。」と記載されている。 ・原告Bは,乙9の1を読んだ上で,平成12年2月29日,被告に対し,入学時納入金として598万5000円(入学金100万円,前期教育充実費250万円,施設設備費100万円,前期授業料120万円,前期実験実習費15万円,父兄会入会金10万円,父兄会前期会費2万5000円,学生自治会入会金4000円,学生自治会費6000円)を支払い,入学手続を完了した。(争いがない。)・原告Bは,平成12年3月22日,旭川医科大学に合格したため,同月23 前期会費2万5000円,学生自治会入会金4000円,学生自治会費6000円)を支払い,入学手続を完了した。(争いがない。)・原告Bは,平成12年3月22日,旭川医科大学に合格したため,同月23日,被告に対して,入学を辞退する旨通知した。(乙6,弁論の全趣旨) 3 原告Aが,被告への入学を辞退した経緯・被告が,原告Aに事前に交付していた,平成13年度学生募集要項(一般入学)(乙1の2)には,以下のとおり記載されている。 ア合格者は,平成13年3月1日までに,入学時納入金の納付を含めた入学手続を完了せねばならない。 イ合格者を発表する際,同時に補欠者の受験番号を発表し,合格者に欠員が生じたときは,これを補うため,補欠者の中から成績順に繰り上げ合格の発表を行う。 ウ繰り上げ合格者の入学手続期限は,合格発表日から,概ね5日以内とし,繰り上げ合格の発表と同時に本人宛に通知する。 エ入学手続を完了した者で,平成13年3月21日までに入学辞退を申し出た者に対しては,既納付金のうちから入学金を差し引いた残額を返還する。 ・原告Aは,平成13年2月14日,被告の一般入学試験を受験し,同月23日に補欠通知を,同年3月27日に繰り上げ合格通知を受けた。(乙4)・合格通知と同時に原告Aに交付された,被告への入学に関する手続についての説明書(乙9の2)には,平成13年3月28日の午後3時までに,入学時納入金の納付を含めた入学手続を完了せねばならない旨記載されているともに,「入学辞退については,既納入金は一切返還いたしません。」との記載がなされている。 ・原告Aは,乙9の2を読んだ上で,平成13年3月27日,被告に対し,入学時納入金として598万5000円(入学金100万円,前期教育充実費250万円,施設設備費100万円,前期授業料120万 。 ・原告Aは,乙9の2を読んだ上で,平成13年3月27日,被告に対し,入学時納入金として598万5000円(入学金100万円,前期教育充実費250万円,施設設備費100万円,前期授業料120万円,前期実験実習費15万円,父兄会入会金10万円,父兄会前期会費2万5000円,学生自治会入会金4000円,学生自治会費6000円)を支払い,入学手続を完了した。(争いがない。)・原告Aは,平成13年3月28日,大阪医科大学に繰り上げ合格したため,同月30日,被告に対して,入学を辞退する旨通知した。(乙7の2,弁論の全趣旨) 4 被告は,原告らに対し,各13万5000円(父兄会入会金10万円,父兄会前期会費2万5000円,学生自治会入会金4000円,学生自治会費6000円)を返還した。(争いがない。以下,入学時納入金のうち,入学金,前期教育充実費,施設設備費,前期授業料及び前期実験実習費を指して「学納金」という。)5・上記2・・のとおり,原告Bは,被告から交付された説明書(乙9の1)に目を通し,平成12年3月21日午後5時以降に入学を辞退した場合には,既に納付した学納金は一切返還されないことを認識した上で,被告に学納金を納付しているから,原告Bと被告との間には,原告Bが,平成12年3月21日午後5時以降に入学を辞退した場合には,被告は,既に納付された学納金を返還しない旨の合意が成立している。 ・上記3・・のとおり,原告Aは,被告から交付された説明書(乙9の2)に目を通し,入学を辞退した場合には,既に納付した学納金は一切返還されないことを認識した上で,被告に学納金を納付しているから,原告Aと被告との間には,原告Aが,入学を辞退した場合には,被告は,既に納付された学納金を返還しない旨の合意が成立している。(以下,5・・の合意をもって「本件 た上で,被告に学納金を納付しているから,原告Aと被告との間には,原告Aが,入学を辞退した場合には,被告は,既に納付された学納金を返還しない旨の合意が成立している。(以下,5・・の合意をもって「本件不返還特約」という。)第4 争点 1 学納金の法的性質をいかに解すべきか(そもそも,被告は,学納金を納付した後に自ら入学を辞退した原告らに対し,学納金を返還すべき義務を負いうるか。)。 ・原告らの主張学納金は,入学金を含め,すべて,原告らが被告から教育役務等を受けることについての対価(準委任契約における受任者の前払報酬)としての性質を有するものであり,原告らが,入学を辞退したことにより,被告から教育役務等の提供を受けることなく在学契約が終了した場合には,被告は,もはや学納金を保持する法律上の原因を失うから,被告は,原告らに対して,学納金を返還する義務を負いうる。 ・被告の主張学納金は,すべて,被告への入学そのものの対価としての性質を有するものであり,原告らが,学納金を納付した後に,自ら入学を辞退したからといって,既に支払われた学納金が,被告の不当利得になるわけではないから,被告が,原告らに対して,学納金を返還すべき義務を負うことはありえない。 2 本件不返還特約が,公序良俗に反して無効であるといえるか。 ・原告らの主張以下の理由から,本件不返還特約は,①他人の無思慮・窮迫に乗じて,②甚だしく不相当な財産的給付を約束させたものとして,公序良俗に反し無効である。 ア ①他人の無思慮・窮迫に乗じた点について被告は,自ら募集要項や入学手続を決定し,合格を決定する立場にあるのに対し,原告らは,後日,他の志望校に合格したために,被告への入学を辞退し,学納金の返還を受けられなくなることを覚悟した上で,被告に学納金を納めるの 要項や入学手続を決定し,合格を決定する立場にあるのに対し,原告らは,後日,他の志望校に合格したために,被告への入学を辞退し,学納金の返還を受けられなくなることを覚悟した上で,被告に学納金を納めるのか,それとも,より優先的に志望している他大学に合格できなければ浪人することを覚悟した上で,被告に学納金を納めないかという二者択一を迫られる状況にある。 このような状況下において,原告らが,被告に学納金を納付しているのは,決して本件不返還特約に対して積極的に同意したからではなく,単に,他の志望校に合格できなかった場合に浪人したくないがためにすぎない。 したがって,被告は,原告らの窮迫につけ込んで本件不返還特約を押しつけたものといえる。 イ ②甚だしく不相当な財産的給付を約束させた点について・原告らが入学を辞退したことにより,被告に実際生じる積極的損害は,せいぜい,原告らに対する各種通知の郵送費や人件費等,わずかな額に限られるのに対し,原告らは,本件不返還特約によって,入学金及び半年間の授業料等相当額の返還を受けられなくなるものである。 このように,被告が被る実際の損害額と,被告が取得する金銭との差は何十倍,何百倍にもなるものであって,明らかに不相当な財産的給付というべきである。 ・被告は,原告らの入学辞退により,学納金を取得できなくなるというリスクを負うことになるが,被告においては,そのようなリスクを回避する措置をとることが十分可能であり,にもかかわらず,何らの措置も講じず,本件不返還特約により学納金を没収することは,原告らに不当にリスクを転嫁するものに他ならない。 ・被告は,補欠者の繰り上げ合格を制度化しているから,欠員が生じることはありえず,将来にわたって得べかりし学納金が,被告の損害になることはない。 ・被告の主張 を転嫁するものに他ならない。 ・被告は,補欠者の繰り上げ合格を制度化しているから,欠員が生じることはありえず,将来にわたって得べかりし学納金が,被告の損害になることはない。 ・被告の主張ア ①他人の無思慮・窮迫に乗じた点について被告は,学生募集要項(乙1)において,3月21日までに入学辞退を申し出た者に対しては,既に納めた学納金のうち入学金を差し引いた残額を返還する旨記載しており,一律に学納金の返還を拒んでいるわけではないし,原告らは,客観的かつ冷静な判断により,被告への入学資格を得る目的で学納金を支払ったものであり,被告が原告らの無思慮や窮迫に乗じたというような事情は存在しない。 イ ②甚だしく不相当な財産的給付を約束させた点について被告の入学定員は,合計100名であり,そのうち,推薦入学試験により20名を,一般入学試験により80名を入学させることにしている。被告は,文部科学省から,入学定員を厳守するよう指導を受けており,定員を超過したり,割り込んだりした場合には,国庫補助金が減額されることになるため,是が非でも入学定員を厳守しなければならない立場にある。 そのため,被告は,一般入学試験実施後,速やかに採点を行い,正規合格者と補欠者の発表を行っている。正規合格者の入学手続期限(平成12年度は3月9日,平成13年度は3月1日)が終了した後,入学定員を割り込んでいる場合には,定員に達するまで,補欠者を成績順に繰り上げ合格させ,その後,入学辞退者が出たときは,随時,成績順に補欠者に電話連絡し,入学意思の確認ができた者を繰り上げ合格させ,最終的には,新入生健康診断の実施日(平成12年度,平成13年度は,3月29日に実施されている。)に,定員ちょうどの入学者が確定するように努力している。 しかしながら,入学式(平成11年度以 させ,最終的には,新入生健康診断の実施日(平成12年度,平成13年度は,3月29日に実施されている。)に,定員ちょうどの入学者が確定するように努力している。 しかしながら,入学式(平成11年度以降,4月3日に実施されている。)の2週間以上前にあたる3月21日を過ぎてから,新たな入学辞退者が出た場合には,欠員を補充する十分な時間的余裕がなく,仮に,定員を確保することができなかった場合,中途補充が認められない以上,被告は,6年間,定員割れの状態で学校運営を行わざるを得なくなる。 このような被告の被りうる損害の大きさに鑑みれば,本件不返還特約には,合理的理由があるものといえ,原告らに対し,甚だしく不相当な財産的給付を約束させたものといえないことは明らかである。 第5 争点に対する判断 1 争点1(学納金の法的性質をいかに解すべきか〔そもそも,被告は,学納金を納付した後に自ら入学を辞退した原告らに対し,学納金を返還すべき義務を負いうるか。〕)。 ・大学の入学試験を受験して合格した者が,学生募集要項等の定める日時までに,大学に対して必要書類の提出とともに学納金を納入して入学手続を行った場合,特段の事情のない限り,この手続の履践によって,学生と大学との間で,双務有償の無名契約である在学契約が成立するものと解するのが相当である。 ・そして,学納金には,大別して,入学時にのみ支払われる入学金と授業料その他毎年支払われるべき金員の二種類が存在することは公知の事実である。(さらに,一般的に,授業料その他の金員と比較して,入学金の額が低額であることも,当裁判所に顕著な事実である。)・このような学納金のうち,前期教育充実費,施設設備費,前期授業料,前期実験実習費については,その名目の相違や金額の多寡,そして,前述のように,学生が,入学後において 判所に顕著な事実である。)・このような学納金のうち,前期教育充実費,施設設備費,前期授業料,前期実験実習費については,その名目の相違や金額の多寡,そして,前述のように,学生が,入学後においても,毎年支払うべき金員であるという性格に鑑みると,これらの金員は,入学後において,被告から教育役務等の提供を受けることの対価としての性質を有するものと解すべきである。 この点,被告は,学納金が,すべて入学そのものの対価であると主張する。 しかし,入学金はともかく,その他の費用も含めた学納金全額を,入学又は入学しうる地位ないし資格の対価とみることは,各費用の名目及び金額の大きさからして相当でないし,仮に,学納金全額が,入学又は入学しうる地位ないし資格の対価であるとするならば,原告らは,少なくとも,入学初年度の前期中は,無償で被告から教育役務を受けているものと解せざるを得ないが,そのような理解が大学運営の実態に反するものであることは明白である。 よって,被告の上記主張は採用することができない。 ・次に,学納金のうち入学金については,その名目や,学生が,入学時に一度だけ支払うべき金員であるという性格,そして,多くの大学において,入学金とその他の学納金とで,入学金の方が低額であり,納付時の取扱い(納付時期,分割納入制度・納付後の返還の有無)にも区別がなされており(弁論の全趣旨),実際に,被告においても,前記争いのない事実等に記載のとおり,区別された取扱いがなされている(平成12年度は,入学金の納付期限が3月2日,入学金以外の学納金の納付期限が3月9日とされており,さらに,平成12年度,平成13年度ともに,3月21日までであれば,既納付金のうち入学金以外の金員は返還するとされている。)こと,「私立大学の入学手続時における学生納付金の取り扱いについて」 ており,さらに,平成12年度,平成13年度ともに,3月21日までであれば,既納付金のうち入学金以外の金員は返還するとされている。)こと,「私立大学の入学手続時における学生納付金の取り扱いについて」(文管振第251号昭和50年9月1日文部大臣所轄各学校法人理事長あて文部省管理局長文部省大学局長通知・乙2,以下「文部省通知」という。)においても,「入学料以外の学生納付金については,合格発表後,短期間内に納入させるような取扱いは避けることとし,」とされており,文部行政においても,入学金については,その他の学納金とは別の性質を有するものと捉えられてきたことが窺われる。 このような事情からすれば,入学金は,その他の学納金とは異なり,大学から教育役務等の提供を受けること自体の対価ではなく,当該大学に入学しうる地位ないし資格の対価(一種の権利金)としての性質を有するものと解するのが相当である。 この点,原告らは,入学金も,被告から教育役務を受けることについての対価であると主張し,その論拠として,経理上及び使途の点において,入学金とその他の学納金とが区別されていないこと,合格者が入学資格の取得や保持を必要としない編入学や転入学の手続においても入学金を徴収していること,仮に,入学金を,入学しうる地位ないし資格の対価であるとすれば,原告らと被告との間で,在学契約とは別個の入学地位取得保持契約なるものが締結されたものと考えざるを得ないが,両契約の関係及び具体的成立時期等につき合理的説明がつかないことなどを挙げている。 しかしながら,一旦,大学に納付された金員が,その後,いかなる用途に用いられるか,又,大学の経理上どのように扱われるかという点は,必ずしも当該金員の性質を直接に左右するものではないし,編入学や転入学の場合においても,入学という行為を経 員が,その後,いかなる用途に用いられるか,又,大学の経理上どのように扱われるかという点は,必ずしも当該金員の性質を直接に左右するものではないし,編入学や転入学の場合においても,入学という行為を経ることに何ら変わりはなく,入学しうる地位ないし資格を観念することは可能である(あくまで,入学しうる地位ないし資格の対価というのであり,いわゆる「すべり止め」の対価というわけではない。)。また,入学金を,入学しうる地位ないし資格の対価と捉え,その他の学納金を,教育役務等の提供を受ける対価と捉えたからといって,必ずしも,在学契約とは別個の入学資格取得保持契約なるものを観念しなければならない必然性はなく,在学契約の意思解釈として,入学金とその他の学納金の性質とを別意に合意したものと理解することは十分に可能である。 以上からすれば,原告らの上記主張を採用することはできない。 ・したがって,学納金のうち,前期教育充実費,施設設備費,前期授業料,前期実験実習費については,実際に被告に入学し,被告から教育役務等の提供を受けることの対価としての性質を有するものであるから,原告らが入学を辞退し,被告から教育役務等の提供を受けることなく在学契約が終了した以上,本来的には,原告らに返還されるべき金銭であると解すべきである(ただし,原告らと被告との間には,本件不返還特約が存在するため,別途,係る特約の有効性を検討する必要がある。)。 これに対し,入学金については,入学しうる地位ないし資格を得たことの対価としての性質を有するものであり,原告らは,被告に対して入学手続を完了しており(第3,2・,3・),既に,反対給付としての入学しうる地位ないし資格を取得している以上,その後に,原告らが,自ら入学を辞退した場合に,被告が,入学金を返還すべき義務を負うことはないものと解 ており(第3,2・,3・),既に,反対給付としての入学しうる地位ないし資格を取得している以上,その後に,原告らが,自ら入学を辞退した場合に,被告が,入学金を返還すべき義務を負うことはないものと解すべきである。 2 争点2(本件不返還特約が,公序良俗に反して無効であるといえるか。)・この点,原告らは,本件不返還特約は,①他人の無思慮・窮迫に乗じて,②甚だしく不相当な財産的給付を約束させたものであるから,公序良俗に反し無効である旨主張する。 ・しかしながら,証拠及び弁論の全趣旨並びに争いのない事実によれば,以下の事実が認められる。 ア・被告の入学定員は,合計100名であり,被告は,そのうち,推薦入学試験により20名を,一般入学試験により80名を入学させている。(乙1,弁論の全趣旨)・被告は,文部科学省から,入学定員を厳守するよう指導を受けており,定員を超過したり,逆に定員を割り込んだりした場合には,国庫補助金が減額される可能性がある。(弁論の全趣旨)・入学式の時点で欠員が生じている場合には,中途補充が認められない以上,被告は,以後,6年間にわたり欠員が生じたまま学校運営を行わざるを得ない。(弁論の全趣旨)イ平成9年度から平成13年度までの間において,被告は,学生からの納付金(入学金,教育充実費,施設設備費,授業料,実験実習費)として,毎年,平均して約28億円の収入を得るとともに,国庫補助金等として,平均して約28億円の収入を得ており,この2つが,被告の帰属収入(平均して約62億円)の約90パーセントを占めている。(乙8)ウ平成9年度から平成13年度までの間において,被告は,人件費として,毎年,平均して約58億円を支出しており,これに,教育研究費,管理経費及び借入金等の利息等としての支出を加えると,平均して約81億 平成9年度から平成13年度までの間において,被告は,人件費として,毎年,平均して約58億円を支出しており,これに,教育研究費,管理経費及び借入金等の利息等としての支出を加えると,平均して約81億円を支出している。(乙8)エ平成9年度から平成13年度までの間における,被告の正規合格者数,補欠者数(補欠者とは,正規合格者の発表と同時に発表され,正規合格者が入学を辞退した場合に,成績順に順次繰り上げ合格の対象となる者である。),補欠次位(補欠次位とは,補欠者の繰り上げ合格によってもなお,定員が確保できなかった場合に,補欠者以外から,成績順に繰り上げ合格の対象となる者である。)及び繰り上げ合格者数等の状況は,別紙1,2のとおりである(争いがない。)。これによると,ほぼ毎年,正規合格者のうち,実際に被告に入学する者は30パーセントにも満たない(なお,平成12年度は,正規合格者157名のうち,実際に被告に入学した者は,わずか27名〔約17パーセント〕であったため,被告は,平成13年度において,学納金納付期限を,従前の3月9日から3月1日に繰り上げたところ,同年度の正規合格者157名の約31パーセントに当たる49名が,実際に被告に入学した。)こと,学納金納付後に入学を辞退する者が20名以上いること,補欠者から繰り上げ合格した者の中にも,学納金納付後に入学を辞退する者が複数名存在すること,例年,3月30日ころに至るまで,補欠者の繰り上げ合格を10回程度実施することによって定員を確保していることが,それぞれ認められる。 オ文部省通知によると,「…ついては,今後少なくとも入学料以外の学生納付金については,合格発表後,短期間内に納入させるような取扱いは避けることとし,例えば,入学式の日から逆算しておおむね2週間前の日以降に徴収することとする等の配 は,今後少なくとも入学料以外の学生納付金については,合格発表後,短期間内に納入させるような取扱いは避けることとし,例えば,入学式の日から逆算しておおむね2週間前の日以降に徴収することとする等の配慮をすることが適当と考えますので,善処されるよう願います。」とされている。(乙2)・上記の事実を前提に,本件不返還特約が公序良俗に違反するか否かを検討するに,被告は,100名という入学定員を定めており,仮に,定員を超過したり,逆に欠員が生じた場合には,本来支給されるはずの国庫補助金を減額される可能性があるし,入学式までに欠員を補充できなかった場合,6年間欠員のまま,学校運営を行わざるを得なくなるから,その間,被告は,欠員分の入学金,授業料等を取得できないという損害を被ることになる(・ア)。 しかるに,被告が,帰属収入の約90パーセントを学生からの納付金と国庫補助金に依存していることや(・イ),恒常的な赤字状態にあること(・イウ)などに鑑みれば,学生からの納付金や国庫補助金による収入が減少することは,被告にとって大きな痛手となるであろうことは容易に推認できる。 また,被告においては,平成9年度から平成13年度までの間,ほぼ毎年,正規合格者のうち実際に入学する者の割合が30パーセント未満であり,学納金を納付した後に入学を辞退する者が20名以上存在するほか,欠員補充のために繰り上げ合格させた者の中にさえ,学納金を納付した後に入学を辞退する者が複数名存在するという状況であったこと,さらに,被告は,定員ちょうどの入学者を確保するために,例年,3月30日ころまで,10回程度も,補欠者の繰り上げ合格を実施していたこと(・エ)などからすれば,被告は,定められた定員を厳守するために,小刻みに,繰り上げ合格を連続して実施していることが窺われる。 以上のよう まで,10回程度も,補欠者の繰り上げ合格を実施していたこと(・エ)などからすれば,被告は,定められた定員を厳守するために,小刻みに,繰り上げ合格を連続して実施していることが窺われる。 以上のような状況において,被告が,繰り上げ合格による欠員補充が困難となる一定時期以降,受験生から納付された学納金を返還しない旨の取扱いをすることによって,欠員が生じること及び欠員が生じた場合に発生する損害を可及的に回避しようと試みることは,全く不合理であるとは言い切れない。 ・アこの点,原告らは,被告に入学しない場合に返還されないことを承知の上で,学納金を納めるか,それとも,より優先的に志望している他大学に合格できなければ浪人することを覚悟した上で,被告に学納金を納めないかという二者択一を迫られる状況にあり,本件不返還特約は,このような原告らの窮迫した状況につけ込んで押しつけられたものである旨主張する。 たしかに,原告らからすれば,受験したすべての大学の合否が明らかになった後,その結果を踏まえて入学すべき大学を選択し,その選択した一つの大学についてのみ入学手続をとることが可能であれば,心理的・経済的負担も軽く済み,それが一番望ましいことはいうまでもない。 しかし,前記争いのない事実等によると,原告らは,少なくとも,より優先的に志望している他大学に合格できなかった場合には,被告に入学したいとの希望を有していたからこそ,本件不返還特約の存在を知りながら,他大学の合格発表がなされる前に,あえて被告に対して入学手続を行ったものと推認しうるのであって,ただ単に,いわゆる浪人生活を送ることを回避したいとの消極的理由のみから,やむを得ず被告への入学手続を行ったものとまで認めることはできない。 したがって,その限りにおいて,原告らは,自らの自由意思に基づいて いわゆる浪人生活を送ることを回避したいとの消極的理由のみから,やむを得ず被告への入学手続を行ったものとまで認めることはできない。 したがって,その限りにおいて,原告らは,自らの自由意思に基づいて被告に学納金を納め,入学手続をとったものといわざるを得ないから,学納金を納めるか浪人を覚悟するかという二者択一を迫られる窮迫した状況にあったとする原告らの主張は認めることができない。 イまた,原告らは,欠員の発生により学納金を取得できなくなるリスクに対して,何らの措置も講じていない被告が,本件不返還特約に基づき,原告らが納めた学納金を没収することは,原告らに不当にリスクを転嫁するものに他ならない旨主張する。 しかしながら,上記・エで認定したとおり,被告は,度重なる補欠者の繰り上げ合格を実施するなど,定員ちょうどの入学者を確保するための相応の措置を講じており,欠員発生によるリスクの回避を本件不返還特約のみに依存しているわけではない。 なお,被告が,平成12年度及び平成13年度において,既納付者に対する入学金以外の学納金の返還期限を3月21日に設定したこと(乙1,9の1)については,平成12年度及び平成13年度における被告の入学式が4月3日に実施されていることからすれば,実質的に見て,文部省通知(・オ)が定める「入学式の日から逆算しておおむね2週間前の日以降に徴収」という基準にも反しておらず,特段不合理であるとまではいえない。 したがって,被告が,欠員発生により発生するリスクを,不当に原告らに転嫁しているとまではいえず,原告らの上記主張は認めることができないウさらに,原告らは,被告は,補欠者の繰り上げ合格を制度化しているから,欠員が生じることはありえず,将来にわたって得べかりし学納金が,被告の損害になることはない旨主張する。 しかし ができないウさらに,原告らは,被告は,補欠者の繰り上げ合格を制度化しているから,欠員が生じることはありえず,将来にわたって得べかりし学納金が,被告の損害になることはない旨主張する。 しかし,入学式の間近になってから入学辞退者が出たような場合には,被告が,新たに補欠者の繰り上げ合格を実施する十分な時間的余裕がなく,その結果,欠員が生じうる可能性はあるから,欠員が生じることがあり得ないことを前提とする原告らの上記主張は認めることができない。 ・以上を総合すれば,本件不返還特約は,いまだ公序良俗に反するとまではいえないものと解さざるを得ず,争点2について原告らの主張を認めることはできない。 3 よって,学納金のうち,入学金については,そもそも被告は返還義務を負わず,入学金以外の学納金についての本件不返還特約は有効である。 第6 結論したがって,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第12民事部裁判長裁判官中村・次裁判官宮武康裁判官藪崇司 (添付の「別紙1,2」は省略した。)
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