令和4(わ)959 公務執行妨害、傷害、建造物侵入未遂、営利略取未遂、営利略取、逮捕監禁致傷、強盗致傷、強盗被告事件

裁判年月日・裁判所
令和5年9月1日 大阪地方裁判所
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判決文本文11,549 文字)

令和5年9月1日宣告令和4年第959号、第1657号、第2176号、第2439号、第3014号公務執行妨害、傷害、建造物侵入未遂、営利略取未遂、営利略取、逮捕監禁致傷、強盗致傷、強盗被告事件 主文 被告人を懲役12年に処する。 未決勾留日数中290日をその刑に算入する。 本件公訴事実中公務執行妨害及び傷害の点については、被告人は無罪。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人は、A、B及び氏名不詳者と共謀の上、金品窃取の目的で、令和4年3月13日午後6時56分頃、人が看守する大津市(住所省略)所在の質屋「C」の店舗正面出入口ガラス扉に向けてブロックを投げ付け、同ガラスを割って店舗内に侵入しようとしたが、同ガラスが割れなかったため、その目的を遂げなかった(令和4年3月31日付け起訴状記載の公訴事実関係。以下「大津建造物侵入未遂事件」という。)。 第2 被告人は、D及びEらと共謀の上、時計等販売店から腕時計を強取しようと考え、令和4年5月2日午後3時16分頃、京都市(住所省略)Fにおいて、Dが、同店従業員G(当時42歳)に対し、ハンマーを振り上げて、「さがっとれ。」などと申し向けて脅迫し、その反抗を抑圧した上、同店内の商品ケースを同ハンマーでたたき割り、Eが、同商品ケース内に陳列された株式会社H所有の腕時計41点(販売価格合計6921万4000円)を奪い強取した(令和4年8月26日付け起訴状記載の公訴事実関係。以下「京都強盗事件」という。)。 第3 被告人は、D、I、J、K、L及び氏名不詳者らと共謀の上、 1 Mを営利の目的で略取しようと考え、令和4年5月13日午後11時52分頃、大阪市a区(住所省略)西側路上に駐車中の自動車(軽四)の後部 被告人は、D、I、J、K、L及び氏名不詳者らと共謀の上、 1 Mを営利の目的で略取しようと考え、令和4年5月13日午後11時52分頃、大阪市a区(住所省略)西側路上に駐車中の自動車(軽四)の後部座席に 乗り込んだM(当時22歳)に対し、その顔面に催涙スプレーを噴射した上、車外に逃げ出したMに対し、その身体等を多数回蹴るなどの暴行を加え、Mを被告人らの支配下に置こうとしたが、Mが逃走したため、その目的を遂げず、その際、前記暴行により、Mに加療約1週間を要する結膜炎、角膜上皮傷害及び加療約18日間を要する腰部打撲、頸部打撲、左骨盤打撲、左顔面打撲、右肘打撲の傷害を負わせ(令和4年7月13日付け起訴状記載の公訴事実第1関係)、 2 Nを営利の目的で略取しようと考え、前記1の日時場所において、前記自動車(軽四)の後方に駐車中の普通乗用自動車運転席に乗車していたN(当時23歳)に対し、その右腕等を十手で殴打した上、その顔面に催涙スプレーを噴射するなどの暴行を加え、Nを同車に乗せたまま同車を発進させ、さらに、その両足首をロープで縛るなどしてNの行動の自由を奪って被告人らの支配下に置き、その頃から、同月14日午前2時2分頃、大阪市(住所省略)Oで、Nが警察官から発見されるまでの間、Nを同車内から脱出することを著しく困難にし、もってNを不法に逮捕監禁するとともに、営利の目的で略取し、その際、前記暴行により、Nに全治3週間を要する右前腕打撲及び右手背打撲の傷害を負わせた(令和4年7月13日付け起訴状記載の公訴事実第2関係。以下、前記1及び同2を併せて「a区営利略取未遂等事件」という。)。 第4 被告人は、パチンコ店従業員から現金を強取しようと考え、D及びPと共謀の上、令和4年5月15日午後10時47分頃、大阪市b区(住所省略)パチン を併せて「a区営利略取未遂等事件」という。)。 第4 被告人は、パチンコ店従業員から現金を強取しようと考え、D及びPと共謀の上、令和4年5月15日午後10時47分頃、大阪市b区(住所省略)パチンコ「Q」東側路上において、景品交換所から現金を運搬していた同店従業員R(当時37歳)に対し、その顔面に催涙スプレーを噴射し、Rの肩を押さえ、Rの背中に覆いかぶさるなどの暴行を加え、その反抗を抑圧して現金104万7500円在中の手提げバッグを強取しようとしたが、Rが同手提げバッグを抱きかかえてその場にしゃがみ込むなどして抵抗したため、その目的を遂げず、その際、前記暴行により、Rに対し、全治約1週間を要する左結膜炎、左点状 表層角膜炎の傷害を負わせた(令和4年8月3日付け起訴状記載の公訴事実〔訴因変更後のもの〕関係。以下「b区強盗致傷事件」という。)。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明) 1 弁護人は、b区強盗致傷事件(判示第4)について、被告人とD及びPとの間に共謀はなく、無罪であると主張するので、当裁判所が、被告人が本件につき共同正犯の罪責を負うと判断した理由について、補足して説明する。 2 関係証拠によれば、本件における被告人の関与内容について、次のとおりと認められる。 ⑴ 被告人は、令和4年5月14日(以下、月日は全て令和4年のことである。)、Dに対し、テレグラムで、インターネットカジノ店に強盗に入ることを持ちかけてその承諾を得、また、自らあるいは人を介して闇バイトを募集し、応募してきたP及びSに対し、Dと連絡を取って合流するよう指示した。 ⑵ Dは、インターネットカジノ店への強盗は難しいと考えていたところ、5月14日夜、Dと被告人との間で、強盗先をパチンコ店の景品交換所に変更することが話題に上り、被告人は、 合流するよう指示した。 ⑵ Dは、インターネットカジノ店への強盗は難しいと考えていたところ、5月14日夜、Dと被告人との間で、強盗先をパチンコ店の景品交換所に変更することが話題に上り、被告人は、これを了承し、Dに対し、パチンコ店を検索し、下見をした上で、実行が可能であれば実行するよう指示した。Dは、インターネットで検索して表示された判示のパチンコ店(以下「本件パチンコ店」という。)に下見に向かい、被告人の指示で同店舗の外観や隣接する景品交換所の写真を被告人に送信したところ、被告人は、行けるやん、のようなことを言った。Dは、同日は下見だけのつもりであったため、強盗を実行しなかったところ、被告人は、Dに対し、パチンコ店の強盗は時間が限られることから、再度インターネットカジノ店への強盗を実行するよう指示したが、Dらはこれを実行しようとしなかった。 ⑶ 5月15日、被告人は、D及びPに集合時間を伝え、実行まで待機するよう指示した。被告人は、待機の間に、Dらに対し、景品交換所の中に消火器を噴射す ることを提案したが、Dらはその提案を受け入れなかった。Dは、本件犯行に及ぶ直前、被告人に対し、現在待機中であること、景品交換所から出てきた店員に対し催涙スプレーを噴射することなどを報告した。 ⑷ 被告人は、本件犯行後、Dから、強盗が失敗したと報告を受け、「まじかー。」「もっとちゃんとやってくれな。」などと言った。 3 以上の被告人の関与内容は、争いがなく、被告人も認めていて証拠上明らかなもののほかは、主としてD証言により認定したものであるが、D証言は、①本件当時DとPが使用していた自動車のドライブレコーダーに録音されたDとPの会話内容と符合しており、これにより強力に裏付けられていること、②Dは、本件を闇バイトとして提供する組織が関与する 言は、①本件当時DとPが使用していた自動車のドライブレコーダーに録音されたDとPの会話内容と符合しており、これにより強力に裏付けられていること、②Dは、本件を闇バイトとして提供する組織が関与する案件であると認識しており、組織の上位者に連絡、報告をし、上位者の了承を得たり指示を受けたりして行動したというDの供述は、自然なものであること、③そのほかその供述に不自然な点や破たんのないこと、④Pの証言やSの供述とも整合的であること等から、少なくとも上記の関与内容の範囲では、十分信用することができる。 弁護人は、D証言について、Dは、被告人に責任を負わせようとしていると主張し、上記ドライブレコーダーに録音されたDとPの会話も、あえてその部分のみをPに聞かせ、上記ドライブレコーダーに残した可能性があるなどと主張する。しかし、上記ドライブレコーダーに録音されたDとPの会話内容には、被告人が具体的な指示をしないことや被告人の指示の内容が不合理であることについて不満を述べるものや、強取に成功した場合にその金額を正しく被告人に報告しないことを相談するもの等も含まれており、他方で、被告人を怖れているとか、服従せざるを得ない状況を述べるような内容は含まれておらず、このような内容に照らせば、Dが、あらかじめ、本件犯行が発覚した場合に備え、被告人に責任を押し付けるために録音を仕組んだものとは到底考えられない。 また、弁護人は、本件犯行にD、P、被告人以外の第三者が関与していた可能性も主張する。確かに、Sを実行役として勧誘した「T」なる人物は、被告人ではな い人物である可能性があるし、本件犯行前後にDとSの間のメッセージの中で出てくる「U」なる人物も、被告人ではない可能性がある。また、PがDに自身の口座情報を送る相手を訪ねた際に、Dは、「上の人」と い人物である可能性があるし、本件犯行前後にDとSの間のメッセージの中で出てくる「U」なる人物も、被告人ではない可能性がある。また、PがDに自身の口座情報を送る相手を訪ねた際に、Dは、「上の人」と「こっち」に送るという話をしているところ、「こっち」がDや被告人以外の者である可能性も否定できない。 しかし、仮にそのような第三者がいたとしても、上記ドライブレコーダーの録音内容に照らせば、Dが連絡・報告を行い、了承や指示を受けていた人物が被告人ではないとか、そのような人物が複数おり、被告人以外の者もいたことがうかがわれるわけではなく、上記第三者の存在の可能性は、D証言の信用性を左右しない。 したがって、弁護人の主張を考慮しても、D証言の信用性は揺るがない。 4 これに対し、被告人がDに対して指示をしたことを否定する被告人の公判供述は、①上記の信用することができるD証言と相容れないものであること、②被告人は、Dがパチンコ店の景品交換所に対する強盗には関心がなかったと供述するが、それは、被告人が、Dから頻繁に本件に対する連絡を受け、本件パチンコ店及び景品交換所の写真まで送られ、本件犯行の直前にDから電話連絡を受け、本件犯行の直後にもDから強盗に失敗した旨の連絡を受けていたこと、また、このような連絡を受けていながら、Dに対して、自身に関心がないこと、関わりたくないこと、連絡をしてほしくないこと等を一切伝えず、Dらが強盗に及ぶことを止めようともしなかったことを合理的に説明するものではなく、不自然であること、③その供述内容は、全体的に曖昧であること等から、信用することができない。 5 そこで、以上の本件における被告人の関与内容を踏まえ、被告人が本件につき共同正犯の罪責を負うかどうか、すなわち、被告人とD及びPとの間に共謀があったかどうかについて検討 用することができない。 5 そこで、以上の本件における被告人の関与内容を踏まえ、被告人が本件につき共同正犯の罪責を負うかどうか、すなわち、被告人とD及びPとの間に共謀があったかどうかについて検討する。 既に述べたとおり、被告人は、Dに強盗を持ちかけた上、実行役としてPを勧誘し、Dと引き合わせ、強盗先を本件パチンコ店の景品交換所に変えることも了承した上、随時、連絡や報告を受け、了承を与え、指示をしていた。また、上記ドライブレコーダーに録音されたDとPの会話は、強取に成功した場合には被告人に分け 前が分配されることを前提とするものであって、被告人は、金銭の獲得を意図して本件犯行に関与したと認められる。 そうすると、本件犯行について被告人とD及びPとの間に意思連絡があったことは明らかである。また、被告人の関与内容は、客観的にみて本件犯行の実現のために重要なものである上、本件犯行前の「V」なる人物とのインターネットカジノ店への強盗に関するやり取りを踏まえると、被告人にはもともと店舗に関わる強盗により金銭を得ることについては積極的意図があったと認められること、Dらに了承を与えて指示をしたことも積極的な態度の表れと認められること等からすれば、被告人は、本件犯行を、自分たちの犯罪として、D及びPと共に行ったといえるから、被告人は、本件犯行をD及びPと共謀していたと認められ、被告人は本件につき共同正犯の罪責を負う。 (公務執行妨害・傷害事件につき被告人を無罪とした理由) 1 公務執行妨害・傷害事件(令和4年3月29日付け起訴状)の公訴事実は、要旨、「被告人は、令和4年2月13日午前5時56分頃、大阪府守口市(住所省略)先路上において、酒気を帯びた状態で自動車(以下「本件自動車」という。)に乗車し、同車の運転席ドアを閉め、同車のエン 要旨、「被告人は、令和4年2月13日午前5時56分頃、大阪府守口市(住所省略)先路上において、酒気を帯びた状態で自動車(以下「本件自動車」という。)に乗車し、同車の運転席ドアを閉め、同車のエンジンをかけ、大阪府守口警察署地域課勤務の巡査長W(当時33歳。以下「W警察官」という。)が、被告人に対し、運転席ドアのドアノブ(以下「本件ドアノブ」という。)を持って運転席ドアを開け、運転しないように指示するなどした際、W警察官が本件ドアノブを持って運転席ドアを開け、運転席のすぐ横に立っていることを認識しながら、本件自動車を急発進させ、W警察官に、本件自動車に引っ張られて走ることを余儀なくさせて路上に転倒させる暴行を加え、もってW警察官の職務の執行を妨害するとともに、前記暴行により、W警察官に加療約1週間を要する両膝関節打撲傷の傷害を負わせた」というものである。 甲188によれば、このうち、被告人が、前記日時、場所において、被告人に対して本件自動車を運転しないように指示するなどの職務を行っていたW警察官が、 本件ドアノブを持って運転席ドアを開け、運転席のすぐ横に立っている状況下で、本件自動車を急発進させ、その結果、W警察官が前記傷害を負った事実は、これを明らかに認定することができる。 本件で問題となるのは、被告人が、本件の実行行為と解される、W警察官が本件ドアノブを持って運転席ドアを開けていた状況下で本件自動車を急発進させたことについて、被告人が、前記状態を認識、認容していたかどうか、すなわち、被告人に故意があったかどうかである(なお、弁護人は、被告人の行為は、W警察官に本件自動車に引っ張られて走ることを余儀なくさせるものではない旨主張するが、上記状況下で本件自動車を急発進させる行為が公務執行妨害罪及び傷害罪の実行行為であり、 弁護人は、被告人の行為は、W警察官に本件自動車に引っ張られて走ることを余儀なくさせるものではない旨主張するが、上記状況下で本件自動車を急発進させる行為が公務執行妨害罪及び傷害罪の実行行為であり、公訴事実の「W警察官に、車に引っ張られて走ることを余儀なくさせた」旨の記載は、上記実行行為から傷害の結果発生に至る事実経過というべきものである。そして、「余儀なくさせた」かどうかにかかわらず、被告人の行為とW警察官の傷害との間に因果関係が認められることは明らかである。)。 しかし、当裁判所は、被告人には故意が認められないと判断したので、以下、その理由を説明する。 2 被告人は、本件当時、相当程度酒に酔った状態であったと認められる。しかし、被告人は、W警察官らと、本件発生の前、7分間以上にわたり、飲酒運転、運転席ドアの開閉やロック、エンジンボタン等についてやり取りをしており、被告人が、W警察官やX警察官(以下「X警察官」という。)から運転しないように注意された際、「分かってる、せえへんよ。」などと言い、W警察官らが運転席ドアを開けた際、寒いのでドアを閉めるように言うなど、W警察官らとの間である程度やり取りができていたこと、被告人が本件後パトカーに追われながらも本件自動車を運転して実家まで行くなどすることができていることからすると、被告人が周囲の状況を認識できないほど酒に酔っていたとはいえず、W警察官らが本件自動車のそばにいることは認識していたと認められる。 しかし、このことが、W警察官が本件ドアノブや運転席ドアをつかんでいたこと の認識(相当程度の可能性の認識をいう。以下同じ。)に直ちに結び付くものではない。また、被告人が酒に酔った状態であったことに加え、W警察官及びX警察官の各証言によれば、両警察官が本件自動車の運転席に座って (相当程度の可能性の認識をいう。以下同じ。)に直ちに結び付くものではない。また、被告人が酒に酔った状態であったことに加え、W警察官及びX警察官の各証言によれば、両警察官が本件自動車の運転席に座っていた被告人に対し、本件ドアノブをつかんでいる旨あるいは運転席ドアを半ドアの状態にしている旨を説明した際、被告人は反応を示さず、終始前方を見て両警察官らに顔や視線を向けることもなかったと認められる。そうすると、前記の事情から被告人は運転席ドアの開閉やロックにつき関心を持っていたと考えられることを考慮しても、被告人が、本件自動車を発進させる動作を開始する前の時点で、W警察官が本件ドアノブや運転席ドアをつかんでいることを認識していたと認めるには疑問が残る。 そして、防犯カメラ映像やパトカーの車載カメラ映像によれば、本件自動車が発進するのと、W警察官が運転席ドアを開けたのとでは、後者が若干早いものの、ほぼ同時であることが認められる。自動車を発進させる動作には一定の時間を要することも考慮すると、被告人が、運転席ドアが開いた後、そのことを本件自動車を発進させる前に、直接認識することは困難である。 もっとも、上記のとおり、それ以前に、被告人は、エンジンボタンを押そうとしたり、ドアロックをかけようとしたりした際に、W警察官らに運転席ドアを開けられて制止されることが複数回あったのであるから、本件自動車を発進させようとすれば、警察官に運転席ドアを開けられて制止されることを予測することができたと考えられ、被告人が、本件自動車を発進させた際、W警察官が運転席ドアを開けようとして本件ドアノブや運転席ドアをつかんでいる可能性を認識していた可能性はある。しかし、本件自動車を発進させる前のどの時点でエンジンボタンが押されたかは証拠上明らかではなく、押されてから本件自動車 うとして本件ドアノブや運転席ドアをつかんでいる可能性を認識していた可能性はある。しかし、本件自動車を発進させる前のどの時点でエンジンボタンが押されたかは証拠上明らかではなく、押されてから本件自動車が発進するまでにある程度の時間が経過していた可能性があり、被告人が、エンジンボタンを押したが警察官が運転席ドアを開けてくる状況にはないと認識していた可能性も否定できない。そうすると、被告人が、本件自動車を発進させた際、W警察官が運転席ドアを開けようとして本件ドアノブや運転席ドアをつかんでいる可能性を認識していなかった疑い が残る。 なお、本件自動車の発進後につき検討すると、W警察官が運転席ドアを開けて強い口調で「止まれ。」などと声を掛けたこと、同ドアが開いたことにより外の冷気が車内に入ったと考えられること、被告人がW警察官が転倒した後間もなく、自ら同ドアを閉めたと認められること(車載カメラ映像によれば、本件自動車からW警察官が手を離した後、いったん運転席ドアがほぼ閉まったが、その後間もなく、同ドアが再び開かれてまた閉まったことが認められ、これは、被告人が意図的に同ドアを閉め直したものと認められる。)からすると、被告人は、本件自動車を発進させた後、W警察官が転倒するまでの間のどこかの時点で、運転席ドアが開いていることを認識したとは考え得る。しかし、被告人車両の発進からW警察官の転倒までは3秒間程度しかなく、被告人が、W警察官が転倒するまでの間に、運転席ドアが開いていることを認識し、W警察官が本件ドアノブや運転席ドアをつかんでいることも認識した上で、なお、本件自動車を走行させ続けることにしたとみることにも疑いが残るといわざるを得ない。 3 以上によれば、被告人に公務執行妨害、傷害の故意があったと認めるには合理的疑いが残る。よって 識した上で、なお、本件自動車を走行させ続けることにしたとみることにも疑いが残るといわざるを得ない。 3 以上によれば、被告人に公務執行妨害、傷害の故意があったと認めるには合理的疑いが残る。よって、公務執行妨害・傷害事件については犯罪の証明がないことになるから、刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする(なお、本件については、被告人に過失犯が成立する可能性があるが、検察官に過失犯を訴追する意思があるとは認められない。)。 (法令の適用)省略(量刑の理由) 1 大津建造物侵入未遂事件(判示第1)は、犯罪組織による組織的、計画的な犯行であり、その態様も、大きく重いコンクリート製ブロックをガラス扉に投げ付けるという粗暴なものである。被告人は、インターネット上で「闇バイト」を検索してつながった上位者(「Y」なる者)の指示に従い、実行役の取りまとめ役として、 他の実行役に犯行の準備、実行につき具体的に指示・命令をしており、その責任は、上位者よりは相当低いものの、他の実行役らよりは相当重いといえる。 京都強盗事件(判示第2)も、同一の犯罪組織による組織的、計画的な犯行であり、その態様は、営業中の時計店内で、ハンマーを振り上げて店員を脅し、商品ケースを次々と叩き割って多数の高級腕時計を奪い取った、極めて粗暴なものである。 強奪した腕時計の価格は合計6900万円以上にも達している上、店員に与えた恐怖心も大きいことからすると、結果も重大である。被告人は、この事件においても、同じ上位者の指示に従っていたが、自ら勧誘したDら実行役2名に対し、犯行の準備、実行を通じて、採るべき行動や犯行方法を具体的かつ詳細に指示しており、その指示が上位者からの指示をそのまま伝達したものであることを考慮しても、実行役との関係で主導的な役割を果た に対し、犯行の準備、実行を通じて、採るべき行動や犯行方法を具体的かつ詳細に指示しており、その指示が上位者からの指示をそのまま伝達したものであることを考慮しても、実行役との関係で主導的な役割を果たしたことは明らかであるし、自らの利得として奪い取った腕時計のうち1点及び現金46万円を得ていることからすると、その責任は、上位者よりは相当低いものの、実行役らよりはやや重いといえる。 a区営利略取未遂等事件(判示第3)も、組織的、計画的な犯行である上、その態様は、被害者らを誘い出した上、多数の実行役らが、催涙スプレーを噴射する、金属製の凶器で殴るなどの凶器を用いた危険な暴行を執ように加え、さらに、拉致に成功した被害者に対しては足をロープで縛るなどの強度の身体拘束を加えるというものであって、甚だ悪質である。被害者らの負ったけがは重傷ではないが、与えた恐怖心は大きく、結果も軽視できない。被告人は、本件において、それまでとは別の氏名不詳者から拉致のための実行役の紹介を依頼され、実行役のうち3名を勧誘して参加させる、被害者1名を現場まで誘い出して自動車の後部座席に誘導する、実行役から被害者1名を拘束した旨の報告を受けてもう1名の被害者を呼び出すよう指示する、共犯者に対して、拉致に成功した場合に被害者を高値で売る相手を探すように依頼するなど、主体的に関与し、重要な役割を果たしている。そうすると、本件には被告人及び上記の実行役3名のほかにも多くの者が関わっており、被告人は実行役の全員に対しては報告を受け指示をする立場にはなかったこと、具体的な 犯行方法を指示したとは認められず、積極的に危険な暴行を加えてけがをさせることを意図していたとも認められないことを考慮しても、被告人の責任は、実行役の中心となった共犯者Dに劣らないといえる。 b区 行方法を指示したとは認められず、積極的に危険な暴行を加えてけがをさせることを意図していたとも認められないことを考慮しても、被告人の責任は、実行役の中心となった共犯者Dに劣らないといえる。 b区強盗致傷事件(判示第4)は、犯罪集団による犯行とまではいえないものの、複数の共犯者により、事前の計画や下見の上で行われた、一定の計画性を有する犯行である。その態様も、催涙スプレーを噴射し、被害者の身体を押さえ付けるなどした粗暴で危険なものである。現金の強奪には至っておらず、被害者の負ったけがも軽傷にとどまっているが、与えた恐怖心は大きく、結果も軽視できない。被告人は、本件において、先に説示したとおり、実行役1名に強盗を持ち掛け、他の実行役を勧誘し、実行役から随時連絡、報告を受け、了承を与え、指示をするなどしており、実行役が被告人の意見や指示にとらわれずに行動していた面も見られることを考慮しても、その責任は、実行役の中心となった共犯者Dと同等以上に重いといえる。 2 このように、被告人は、短期間に、組織性や計画性のある犯行に繰り返し関与した上、そのいずれにおいても、実行役と同等以上の責任を負うべき関与をしている。しかも、被告人は、大津建造物侵入未遂事件の犯行後間もなく逮捕され、保釈された後にもその後の事件への関与を繰り返している上、大津建造物侵入未遂事件では実行役の1人であったものの、次の京都強盗事件では実行役に対する指示役となり、その次のa区営利略取未遂等事件では、被告人に指示をするような上位者はおらず、最後のb区強盗致傷事件では、上位者はもちろん、被告人と同列の立場の共犯者もいない中で、実行役を集めて犯行に至らせているのであって、被告人の犯行への関与の在り方は、他律的なものから、次第に自律的、自発的なものへと変化しており、その犯罪傾向の深 被告人と同列の立場の共犯者もいない中で、実行役を集めて犯行に至らせているのであって、被告人の犯行への関与の在り方は、他律的なものから、次第に自律的、自発的なものへと変化しており、その犯罪傾向の深化を示している。そして、その過程で闇バイトとしての実行役の募集により、若者を次々と犯罪に引き入れたことも非難に値する。 被告人が本件各犯行に及んだ経緯や動機についてみると、被告人は、経済面や家庭面で恵まれない状況に陥った中で、金銭目当てで犯行に関与したと認められるが、 その置かれていた状況自体には同情の余地があるとしても、他の手段を考慮せずに軽率かつ安易に犯罪行為によって多額の金銭を得ようとしたことは到底正当化できるものではないから、量刑上酌むことはできない。 以上の犯情に鑑みたとき、本件は、同種事案(処断罪が強盗致傷の共謀共同正犯で、同種の事件を複数回繰り返したことを中心とする事案)の中でも重い方の事案というべきである。 3 一般情状について検討すると、被告人は、b区強盗致傷事件については不合理な供述をして事実を否認しており、十分反省しているとはいえないが、他の3事件については事実を認め、被害者らに申し訳ないことをした旨述べて一定の反省の態度を示していること、母親が公判廷で被告人の社会復帰を支援すると述べていること、前科がないことは、被告人に有利に酌むべき事情である。 そこで、これらの事情も考慮した上で、被告人に対しては、主文の刑を科すのが相当であると判断した。 (求刑―懲役15年)令和5年9月4日大阪地方裁判所第13刑事部 裁判長裁判官 岩 﨑 邦生 裁判官 設樂大輔 裁判官 上田 事部 裁判長裁判官 岩崎邦生 裁判官 設樂大輔 裁判官 上田郁也

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