主文 被告人を懲役3年6月に処する。 未決勾留日数中540日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,以前交際していたAとの交際中の性交について,同人から強姦されたものと思い腹を立て,交際中のB,Bの知人のC(以下「C」という。),Cの知人のD(以下「D」という。),同じくE(以下「E」という。)及び同じくF(以下「F」という。)と順次共謀の上,Aに対して暴行・脅迫を加えるなどして同人を問い詰め,慰謝料名下に金品を強取しようと企て,平成14年7月31日午後10時50分ころ,Bが,神戸市a区b町c丁目d番e号先路上にA(当時28歳)を呼び出し,C,D,E及びFが,Aを同区b町f丁目g番先路上まで連行し,同所等において,C,D,E及びFが,こもごも,Aに対し,「Bって知ってるか。俺はBの親友なんや。何で呼ばれたかわかるか。」,「お前,レイプしたやろ。」などと申し向けて,被告人との性交についてAを問い詰めた後,E及びFが,Aに対し,手拳でその顔面及び後頭部を数回殴打し,その腹部を膝蹴りするなどの暴行を加えた上,同所付近に停めていた普通貨物自動車の座席にAを押し込み,EがAの左横に座って同人を監視しつつ,Dが同車を運転疾走させて,同年8月1日午前零時20分ころ,大阪市h区i丁目j番k号先路上まで連行し,同所において,被告人及びBが合流した後,更にAを大阪府吹田市l丁目m番n号先o川河川敷まで連行し,同日午前1時10分ころ,同所において,被告人,D,E及びFが,こもごも,Aに対し,手の平,手拳及び木刀でその顔面,胸部及び腹部等を多数回殴打するなどの暴行を加え,上記一連の暴行等により,その反抗を抑圧した上,同人を普通乗用 において,被告人,D,E及びFが,こもごも,Aに対し,手の平,手拳及び木刀でその顔面,胸部及び腹部等を多数回殴打するなどの暴行を加え,上記一連の暴行等により,その反抗を抑圧した上,同人を普通乗用自動車に同乗させて,同府堺市p町q番地先堤防上まで連行し,同日午前3時ころ,同所において,被告人,B,C,D,E及びFが,こもごも,Aに対し,「どう落とし前とるんや,どう責任取るんや,金払う気あるんか。」,「どないするんや,内臓売るか,角膜売るか,金になるぞ。」,「ここやったら沈めても分からんやろう。」,「お前,月なんぼもらっとんや。」,「慰謝料として毎月10万払えよ。」,「少ない。20万や。」,「今日の午後8時までに10万円用意しろ。」などと語気鋭く申し向けて金員を要求した後,更にAを普通貨物自動車に同乗させて,同人を大阪市r区s丁目t番u号所在の株式会社Gまで連行し,同日午前5時47分ころ,同所において,Fが,Aから現金3250円を強取し,引き続き,同人を神戸市a区b町v丁目w番x号先路上まで連行し,同日午前7時ころまでの間,走行中の自動車内及び同所付近において,D及びEが,Aから同人所有又は管理にかかる,同人の給料が振り込まれる銀行口座の普通預金通帳(口座残高281円),印鑑,外国紙幣7枚(合計5万2000ウォン,時価4472円相当)ほか3点を強取し,その際,上記一連の暴行により,同人に全治約30日間を要する左眼窩底骨折,鼻骨骨折,左外傷性結膜下血腫等の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断)第1 本件の争点等 1 弁護人らは,被告人が,BやCらとの間で,A(以下「被害者」という。)に暴行を加えたり,被害者から慰謝料名下に金品を強取することについて,事前に共謀をしたことはなかったし,被告人には本件犯行 1 弁護人らは,被告人が,BやCらとの間で,A(以下「被害者」という。)に暴行を加えたり,被害者から慰謝料名下に金品を強取することについて,事前に共謀をしたことはなかったし,被告人には本件犯行の際に解離性同一性障害による別人格が出現していたものであって,主人格が別人格の行動や感情を統制することができなかったのであるから,被告人は本件犯行当時心神喪失または心神耗弱の状態にあった旨主張する。 2 しかしながら,当裁判所は,関係各証拠によれば,被告人は,BやCらと事前に強盗の共謀をした上,本件犯行に及んだものと認められるから,本件犯行当時,被告人が一時的に心神喪失または心神耗弱の状態に陥っていたと否とにかかわらず,被告人には強盗致傷罪の共同正犯が成立するし,また,本件犯行当時,被告人には解離性同一性障害の症状が出ていたものの,被告人は心神喪失または心神耗弱の状態にはなかったとも判断したので,以下その理由を補足して説明する。 第2 強盗の共謀について 1 まず,関係各証拠によれば,以下の各事実を間違いがないものとして認定することができる。 (1) 被告人は,平成14年4月下旬ころ,テレホンクラブで被害者と知り合い,その後,被害者と交際するようになったが,被害者から同じパチンコ店に勤務するBを紹介され,3人で一緒に遊ぶなどするうち,被害者よりもBの方に好意を抱くようになった。 (2) 被告人は,同年6月18日,被害者とのデートの際に別れ話を持ち出そうと思っていたが,別れ話を切り出せないまま飲酒を重ね,相当に酔った状態でラブホテルに入り,被害者と性交するに至ったことから,そのことに嫌悪を感じ,Bに対し,その旨の携帯電話メールを送信する一方,被害者に対しては,もう別れる旨言うなどした。 (3) 被告人は,その後,被害者との交際を解消 者と性交するに至ったことから,そのことに嫌悪を感じ,Bに対し,その旨の携帯電話メールを送信する一方,被害者に対しては,もう別れる旨言うなどした。 (3) 被告人は,その後,被害者との交際を解消して,Bと交際するようになり,同年7月20日ころから,B及び被害者の勤務先の従業員寮でBと同棲するようになったが,被害者や勤務先の同僚とBとの関係が悪化したことや,被害者と同じ所に住んでいるのがいやだったことなどから,Bとともに,上記従業員寮から引っ越すことに決め,Bは,中学校時代の同級生で,勤務先のパチンコ店に客として遊びに来るなどしていたCに対し,引っ越しの手伝いを依頼し,その理由として,被告人が被害者からレイプされたからである旨を話した。 (4) 被告人,B及びCは,同月30日午前1時30分ころから,神戸市a区b町にあるファミリーレストラン「H」(以下「H」という。)において,上記引っ越しの打ち合せをしたが,その際,B及び被告人が,Cに対し,被告人が被害者からレイプされた旨それぞれ話した上,被告人は,Cに対し,被害者には日本からいなくなってほしい旨の発言をした。 (5) Cは,同日午後11時すぎころ,知人のD,E,Fを初対面のBに引き合わせ,その場において,Bが,交際している被告人が被害者からレイプされたので,被害者を痛めつけて慰謝料を取って欲しい,慰謝料が取れれば,いくらかBらに渡して,残りをみんなで分けてくれたらよいなどの話をし,Cらはこれに応じることにして,木刀を用意した上で被害者を呼び出すことにした。 (6) Cらは,木刀を用意した上,判示のとおり,同月31日午後10時50分ころから,神戸市a区b町にある上記パチンコ店の従業員寮付近の路上において,Bが呼び出した被害者に対し,被告人をレイプしたとして問い詰め,E及びFが被 した上,判示のとおり,同月31日午後10時50分ころから,神戸市a区b町にある上記パチンコ店の従業員寮付近の路上において,Bが呼び出した被害者に対し,被告人をレイプしたとして問い詰め,E及びFが被害者に暴行を加えるなどしたものの,被害者が被告人をレイプしたことを認めなかったことから,被告人及びBも加わって更に被害者を問い詰めることとし,被告人及びBが大阪市h区内においてCらと合流した後,被告人らは,大阪府吹田市内,同府堺市内等において,被害者に対し,被告人をレイプしたとして問い詰めた上,繰り返し激しい暴行を加えて,その反抗を抑圧した上,慰謝料名下に金員を支払うよう要求し,被害者をして毎月20万円を支払うことなどを約束させる一方,被害者から判示の金品を強取し,その際,被害者に判示の傷害を負わせた。 (7) 被告人は,Cらと合流した後,終始行動をともにして,自ら手拳で被害者の腹部を十数回殴打する暴行を加えたばかりでなく,E,F及びDが被害者に対して手拳や木刀で殴打するなどの激しい暴行を一方的に加えるのを見ても,それを制止するなどしなかったし,CやDらが被害者に慰謝料の支払を要求したのを止めなかっただけでなく,むしろ金額が少ないとして,毎月20万円を支払うよう被害者に要求するなどした上,その20万円については被告人が5万円,他の者らが3万円ずつ均等に配分する旨の合意に加わった。 2 ところで,被告人が共犯者らと事前に強盗の共謀をした旨いう直接証拠は,B及びCの各供述のみであるから,これらの供述によって,被告人が共犯者らと事前に強盗の共謀をしたことが認められるかどうかについて検討する。 (1) Bの供述をみるに,その検察官調書謄本(甲53)の概要は,「自分が被害者と話をして,慰謝料を要求しても,被害者からレイプはしていないと言い返され とが認められるかどうかについて検討する。 (1) Bの供述をみるに,その検察官調書謄本(甲53)の概要は,「自分が被害者と話をして,慰謝料を要求しても,被害者からレイプはしていないと言い返されてしまうだけであり,中学校時代から悪で通っていたCに頼めば,被害者を痛めつけて金を取ってきてくれるだろうと思い,Cに頼むことにした。被告人とBがHでCと会った際,被告人が被害者からレイプされたことを話し,被害者を日本からいなくさせてもらいたい旨を言うと,Cは,『そんなやつはほんまにいわさなあかんな。慰謝料取ったらなあかんな。』と言ってくれ,被害者を痛めつけてもらって慰謝料を取ってもらうことが決まった。」旨いうものである。 (2) また,Cの供述をみるに,第7回及び第8回公判調書中の証人Cの各供述部分の概要は,「被告人とBとHで会った際に,被告人とBから,被告人が被害者からレイプされたので,被害者を痛めつけて慰謝料を取り,被告人につきまとわないようにしてほしいと頼まれた。被害者を痛めつける話や慰謝料を取る話をしたのはBであったが,被告人も横にいて,被害者を『日本から追い出してほしい。』などと言っていた。自分が『そんなやつはほんまにいわさなあかんな。』などと言ったことはない。」旨いうものであるが,その検察官調書謄本(甲57―不同意部分のうち補助証拠として取り調べた部分を除く。)では,被告人やBから被害者を痛めつけて慰謝料を取ってほしいと頼まれたときの話として,「被害者が本当に被告人をレイプしたのであれば,レイプをしたということで被害者を痛めつけてでも慰謝料を取ることができる,Bや被告人に協力して慰謝料を取ってやったら自分にも分け前がもらえるはずだと思い,Bと被告人に『そんなやつはほんまにいわさなあかんな,慰謝料取ったらなあかんな。』と言ってやっ 謝料を取ることができる,Bや被告人に協力して慰謝料を取ってやったら自分にも分け前がもらえるはずだと思い,Bと被告人に『そんなやつはほんまにいわさなあかんな,慰謝料取ったらなあかんな。』と言ってやったのでした。」旨述べている。 (3) そこで,B及びCの上記の各供述の信用性について検討するに,以下に述べるところからして,十分信用できるものと認められる。 ① B及びCの上記の各供述は,被告人とBがCとHで会った上記1の(4)の際に,被害者を痛めつけて慰謝料を取るとの話がなされたことについていうところが,よく符合しているだけでなく,それまでの経緯からしてそのような話がされるのは自然な流れであるし,また,その後,上記1の(5)で認定したように,Cがその日のうちに知人のDらをBに引き合わせ,被害者を痛めつけて慰謝料を取りこれを分けるとの話ができたというのもごく自然な流れとして理解できる。 ② 特に,Bの供述は,被害者を痛めつけて慰謝料を取ってもらうことをCに依頼しようと考えるに至った経緯や,Hにおいて被害者を痛めつけた上で慰謝料を取ることが決まった際の状況等について,自分の心情や各人の言動を交えて具体的にいうものである。 ③ また,Cの供述には,被害者から慰謝料を取るという話を誰がしたのかなどの点において,Bの供述と食い違う部分がみられ,また,「そんなやつはほんまにいわさなあかんな,慰謝料取ったらなあかんな。」と言ったかどうかの点については,上記のとおり,供述に変遷がみられるものの,Hにおいて被害者を痛めつけ慰謝料を取る話が出たという部分については,捜査・公判段階を通じて一貫性があり,動揺がみられない。 ④ B及びCの各供述全体をみても,被告人の役割や言動等をことさらに誇張しているような様子は窺えないか 取る話が出たという部分については,捜査・公判段階を通じて一貫性があり,動揺がみられない。 ④ B及びCの各供述全体をみても,被告人の役割や言動等をことさらに誇張しているような様子は窺えないから,B及びCが,自己らの責任を軽減するために,Hにおいて被害者を痛めつけ慰謝料を取る話が出たなどと,被告人に不利となる虚偽の供述をあえてしたとは考えられない。 ⑤ そして,被告人は,上記1の(6)(7)で認定したように,本件犯行に際し,自ら被害者に暴行を加え,被害者から慰謝料を取ることにも積極的に関わっているのであるが,後述するように,被告人には,本件犯行当時,解離性同一性障害による別人格が出現していたとしても,その別人格は主人格の記憶や感情を引き継いで行動していたものと認められることからすると,被告人が本件犯行において上記のような行動に出たのは,被告人に別人格が出現する以前の段階で,被告人が被害者に暴行を加え慰謝料を取ることについて,既に共犯者らと共謀を遂げていたとみるのが合理的である。 これらを考え併せると,B及びCの上記の各供述が,被告人とBがCとHで会った際に,被害者に暴行を加えて慰謝料を取るとの話をした旨いうところは十分信用できるというべきである。 (4) 弁護人らは,Bの供述のうち,平成14年(わ)第916号事件(被告人C関係のもの)における証人B尋問調書謄本(甲93)(以下「Bの別件証言」という。)及び第4回公判調書中の証人Bの供述部分(以下「B証言」という。)が,いずれもHにおいては被害者から慰謝料を取るという話は出なかったと述べていることからして,Bの前記検察官調書謄本がHにおいて被害者から慰謝料を取るという話が出たというところは,信用できないと主張する。 なるほど,Bの別件証言及 という話は出なかったと述べていることからして,Bの前記検察官調書謄本がHにおいて被害者から慰謝料を取るという話が出たというところは,信用できないと主張する。 なるほど,Bの別件証言及びB証言は,「被告人とBがHでCと会った際には,被害者から慰謝料を取る話はしていない。」旨いうものではあるが,「HでCと会った後,被告人から,被害者から慰謝料を取りそこからCらに報酬が支払えるなどと言われたので,Cらに慰謝料の話をした。」旨いうものでもあって,本件犯行前に,被告人とBとの間で,被害者から慰謝料を取るという話をしたこと自体は認めているのであるから,Bの別件証言及びB証言も,被告人が事前に共犯者らと強盗の共謀をしていたことを否定するものではない。また,Cの供述は,前記のとおり,Hにおいて被害者を痛めつけた上で慰謝料を取る話が出たという部分については,捜査・公判段階を通じて一貫している上,Cが被告人やBとHで会った後,Dらにレイプの話や慰謝料を取る話をしてから,再度Bと会ってDらを引き合わせた旨もいうのであり,第6回公判調書中の証人F及び同Dの各供述部分がこの点に関していうところとも符合しているのであるから,Cの上記の供述は信用できるとみるべきところ,Cがその段階でDらに慰謝料の話をしているのは,既にHにおいて被害者から慰謝料を取る話が出ていたからであるとみるのが合理的である。 そうだとすると,Bの別件証言及びB証言のうち,HでCと会った後,被告人が被害者から慰謝料を取った分からCらに報酬を支払うなどと言ったことはあり得ないではないとしても,Hにおいて被害者から慰謝料を取るという話が出なかった旨いう部分は,そのままには信用できないというべきである。 (5) これに対し,被告人の検察官調書(乙10)及び警察官調書(乙6)の概要は Hにおいて被害者から慰謝料を取るという話が出なかった旨いう部分は,そのままには信用できないというべきである。 (5) これに対し,被告人の検察官調書(乙10)及び警察官調書(乙6)の概要は,「被告人とBがCとHで会った際に,BがCに対し,被告人が被害者にレイプされ,被害者を許せない旨言うと,Cは,『木刀とか持っているし,俺が何人か連れてボコボコにしたるから。』と言ってくれたので,被告人も被害者には日本からいなくなってほしいとの気持ちを話し,Cに被害者を痛い目に遭わせてくれるようお願いしたが,被害者を痛めつけて,慰謝料を取るという話が出た記憶はない。」旨いうものであり,第8回及び第9回公判調書中の被告人の各供述部分の概要も,「被告人とBがCとHで会った際に,Cからレイプの話を聞かれたが,何と答えたか覚えていない。Cが木刀を持っているから殴るという話は聞いたが,被害者から慰謝料を取るという話を聞いた記憶はない。」旨いうものであって,いずれも,本件犯行前に強盗の共謀をした事実を否定するものである。 しかし,被告人の上記の供述は,以下に述べるとおり,そのままには信用することができない。 ① 被告人の上記の供述によれば,Cは,何の利益も期待できないのに,Bに頼まれたからとはいえ,それまで関係のなかった被告人がレイプされたことに関して,わざわざ人を呼び寄せてまで,何の恨みもない被害者に暴行を加えることを承諾したことになるのであって,容易に納得できる話ではない。 ② B及びCの上記の各供述のように,Hにおいて被害者を痛めつけ慰謝料を取る話が出ていたのであれば,Cが被告人やBとHで会った後,Dらにレイプの話や慰謝料を取る話をしてから,上記1の(5)で認定したように,Cがその日のうちに知人のDらをBに引き合わせ 痛めつけ慰謝料を取る話が出ていたのであれば,Cが被告人やBとHで会った後,Dらにレイプの話や慰謝料を取る話をしてから,上記1の(5)で認定したように,Cがその日のうちに知人のDらをBに引き合わせ,被害者を痛めつけて慰謝料を取りこれを分けるとの話ができたというのが自然な流れとして理解できるのに対し,被告人の上記の供述によれば,被告人の意向を無視して,BやCらが勝手に被害者から慰謝料を取ろうとしたことになるが,Cらはともかくとしても,被告人と同棲していて親密な関係にあったBがそのような行為に出るとは考え難い。 ③ また,被告人は,上記1の(6)(7)で認定したように,本件犯行に際し,自ら被害者に暴行を加え,被害者から慰謝料を取ることにも積極的に関わっているのであるが,そのことからは,被告人にとって,被害者に暴行を加え慰謝料を取ることが決して意外なことではなかったことが窺えるというべきである。 これらを考え併せると,被告人の上記の供述のうち,被告人とBがCとHで会った際に,被害者から慰謝料を取るという話を聞いた記憶はない旨いうところは,そのままには信用することができない。 (6) そうだとすると,B及びCの上記の各供述によって,被告人とBがCとHで会った際に,被害者に暴行を加えて慰謝料を取ることについて話し合われたとの事実が認められるのであるから,上記1の(5)で認定したように,Cがその日のうちにDらをBに引き合わせ,被害者を痛めつけた上で慰謝料を取りこれを分けるとの話ができたとの事実を考え併せると,被告人がB,C,D,E及びFと順次共謀の上,被害者に暴行・脅迫を加えて慰謝料を取ることを企て,本件犯行に及んだものであることは間違いがないと認めることができる。 3 以上のとおりであって,被告人は,共犯者らと事前に強 及びFと順次共謀の上,被害者に暴行・脅迫を加えて慰謝料を取ることを企て,本件犯行に及んだものであることは間違いがないと認めることができる。 3 以上のとおりであって,被告人は,共犯者らと事前に強盗の共謀をした上,本件犯行に及んだものと認められるから,既にこの点において,被告人に強盗致傷罪が成立することが明らかである。 第3 責任能力について 1 被告人は,前示のとおり,共犯者らと事前に強盗の共謀をした上,本件犯行に及んだものであるから,仮に,本件犯行当時,被告人が心神喪失または心神耗弱の状態にあったとしても,被告人には強盗致傷罪の共同正犯が成立するけれども,被告人が,上記第2の1の(6)(7)で認定した強盗(致傷)の実行行為に及んだ際,心神喪失または心神耗弱の状態にあったとすれば,実行正犯としての責任については,これを問うことができないか軽減して考えるべきことになるから,なお,本件犯行当時の被告人の責任能力について,検討を加えることとする。 2 関係各証拠によれば,被告人は,摂食障害,境界性人格障害等の診断を受けて,精神神経科で入院治療を受けたり通院治療を受けたりしていたものであるが,平成14年7月5日,医療法人Iにおいて,主治医のJ医師に対し,「別の自分がでてきて何かをしゃべっている時がある。自分を責めだして苦しくなると,別の人格にかわるみたい。」などと訴えて,J医師より,解離性同一性障害と診断されていたところ,本件犯行当時である同年8月1日午前1時10分ころ,o川河川敷において,被害者に対し,同年6月18日の性交はレイプではないのかなどと問い詰めた後,しばらくの間意識を失ったような状態になってから,言葉遣いや態度がそれまでと変わって,被害者を「おまえ」と呼んだり,自分も殴りたいなどと言って被害者の腹部を手拳で十数回殴打する暴 どと問い詰めた後,しばらくの間意識を失ったような状態になってから,言葉遣いや態度がそれまでと変わって,被害者を「おまえ」と呼んだり,自分も殴りたいなどと言って被害者の腹部を手拳で十数回殴打する暴行を加えたり,慰謝料として毎月20万円を支払うよう被害者に要求したりするなどしたが,同年8月1日午前1時10分ころから同日午前7時ころにBと同棲していた部屋で目を覚ますまでの記憶がない旨述べていることが認められる。 3 被告人の本件犯行当時の精神状態等について鑑定した医師K作成の鑑定書及び証人Kの当公判廷における供述(以下併せて「K鑑定」という。)は,被告人は,DSM―Ⅳ―TRによる解離性同一性障害の診断基準(①:2つまたはそれ以上の,はっきりと他と区別される同一性またはパーソナリティ状態の存在,②:これらの同一性またはパーソナリティ状態の少なくとも2つが反復的に患者の行動を統制する,③:重要な個人的情報の想起が不能であり,それは普通の物忘れでは説明できないほど強い,④:この障害は,物質または他の一般身体疾患の直接的な生理学的作用によるものではない)を形式的には満たしているが,解離性同一性障害が存在していようがいまいが,交代人格(別人格)が現れていようがいまいが,その個人の犯行時の精神状態を検討して責任能力を考えるべきところ,被告人が解離性同一性障害の診断基準を形式的には満たしているのは,被告人がそれまで呈してきた解離性障害,転換性障害,強迫性障害,摂食障害等と同様,境界性人格障害の一表現形に過ぎないのであるから,被告人の本件犯行当時の精神状態には,被告人の一般的な行動制御能力の問題があっただけであり,被告人は自己の行為の是非を弁別しそれに従って行動することが困難な状態に陥っていたわけではないとして,被告人は完全責任能力であった旨を示唆する 被告人の一般的な行動制御能力の問題があっただけであり,被告人は自己の行為の是非を弁別しそれに従って行動することが困難な状態に陥っていたわけではないとして,被告人は完全責任能力であった旨を示唆する。 これに対し,証人Jの当公判廷における供述(以下「J証言」という。)は,被告人はDSM―Ⅳ―TRによる解離性同一性障害の診断基準を満たしているところ,DSM―Ⅳ―TRによるⅠ軸診断である解離性同一性障害とⅡ軸診断である境界性人格障害とは並立する病名であるから,K鑑定のように,前者は後者の一表現形に過ぎないというべきではなく,解離性同一性障害による別人格が発現しているときに,主人格が別人格の行為を関知し統制できなければ,その責任能力を問うべきではないとして,被告人は本件犯行当時責任無能力であった旨を示唆する。 4 ところで,解離性同一性障害の上記診断基準の①は「2つまたはそれ以上の,はっきりと他と区別される同一性またはパーソナリティ状態の存在」というものであって,主人格と別人格との間には相互に連続性がないのが原則であるところ,K鑑定及びJ証言によれば,本件犯行当時,被告人には別人格が出現していたとはいい得るものの,被告人の行動はその前後のいずれにおいても,被害者からレイプされたことに関して被害者に暴行を加え慰謝料を取るというものであったことからすると,別人格はそれまでの主人格の記憶や感情を引き継いで行動していたことは明らかであって,主人格から別人格の方向には人格の連続性があるといわざるを得ないし,また,解離性同一性障害の診断基準の②は「これらの同一性またはパーソナリティ状態の少なくとも2つが反復的に患者の行動を統制する」というものであるが,被告人は本件犯行以後に記憶がなくなったりしたことはなく,人格交代が生じていないと認められるの らの同一性またはパーソナリティ状態の少なくとも2つが反復的に患者の行動を統制する」というものであるが,被告人は本件犯行以後に記憶がなくなったりしたことはなく,人格交代が生じていないと認められるのであるから,これらのことからすると,被告人が解離性同一性障害であるとは一応認められるものの,典型的な解離性同一性障害ではないといわざるを得ない。 5 ところで,解離性同一性障害者の行為の責任能力をどうみるかについては,①解離性同一性障害の診断があれば常に責任無能力であるとする見解,②主人格が別人格の行為を関知・統制できない場合には責任無能力であるとする見解,③犯行時の人格にかかわらず,正邪を弁識し行為を法に従わせる能力を欠く場合のみが責任無能力であるとする見解とに分かれているところ,K鑑定は③の見解に立っているのに対し,J証言は②の見解に立っているのであるが,当裁判所は,人格が交代するごとに別個の個人が存在するわけではなく,一個の個人が存在するにすぎないから,その個人の犯行時の精神状態を検討することによって責任能力を判断すべきであり,特に,別人格がそれまでの主人格の記憶や感情を引き継いで行動していて,主人格から別人格の方向には人格の連続性があるような場合にまで,別人格の際に行われた行為の責任能力を別人格であるというだけで否定するのは不当であるから,③の見解を採用すべきであると考える。 6 そして,本件犯行当時の被告人の精神状態についてみるに,前記認定のとおり,被告人は,共犯者らと事前に強盗の共謀をした上,本件犯行に及んだものであることに加え,被告人の行動は主人格から別人格になる前後のいずれにおいても,被害者からレイプされたことに関して被害者に暴行を加え慰謝料を取るというものであって,被告人が別人格になった後の行動も,強盗の共謀に沿った合目 人の行動は主人格から別人格になる前後のいずれにおいても,被害者からレイプされたことに関して被害者に暴行を加え慰謝料を取るというものであって,被告人が別人格になった後の行動も,強盗の共謀に沿った合目的的なものであったといい得ることからすると,本件犯行当時の被告人の精神状態は,その主人格のときに比べて粗暴な傾向が認められるとはいえ,是非弁別能力及びその弁別に従って行動する能力が欠けていなかったのはもとより,これらの能力が著しく減退する状態にも至っていなかったものと認めるのが相当である。 7 以上のとおりであって,弁護人らの上記主張は採用することができず,被告人は,本件犯行当時,心神喪失または心神耗弱の状態にはなかったのであるから,本件犯行における実行正犯としての責任についても,これを問われなければならない。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法60条,240条前段に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択し,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で,被告人を懲役3年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中540日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,以前交際していた被害者との交際中の性交について,同人から強姦されたものと思い腹を立て,交際中の共犯者Bほか4名と共謀して,被害者を痛めつけた上で慰謝料名下に金品を強取しようと企て,被害者に対して判示のとおりの暴行を加えるなどして,反抗を抑圧した上,その金品を強取し,その際,傷害も負わせたという強盗致傷の事案である。 被告人は,被害者との交際中の性交について,同人とよ 企て,被害者に対して判示のとおりの暴行を加えるなどして,反抗を抑圧した上,その金品を強取し,その際,傷害も負わせたという強盗致傷の事案である。 被告人は,被害者との交際中の性交について,同人とよく話し合うこともしないまま,同人から強姦されたものと一方的に決めつけて,共犯者Bとともに,共犯者Cに対し,被害者を痛めつけた上で慰謝料名下に金品を強取することを依頼し,更に共犯者D,同E及び同Fを加え,本件犯行に及んだものであって,その犯行に至る経緯及び動機に酌量の余地は乏しいこと,共犯者らは,最初の現場において,被害者を4人がかりで取り囲み,同人がその場から逃げようとするや殴る蹴るの暴行を加えて,人気のない河川敷まで連行し,被告人ら6名が取り囲む中,被害者に強姦の事実を認めさせるべく,被害者が意識もうろうになるまで手拳や木刀等で一方的に多数回殴打するなどの暴行を加えた上,更に場所を移した後,被告人ら6名が,こもごも,被害者に対し,金員を要求し,被害者に当日午後8時までに10万円を支払い,毎月5日に20万円を支払う旨約束させるとともに,現金及び通帳等の財物を強取したものであって,その犯行態様は,悪質かつ執拗であり,その暴行の程度にも激しいものがあること,被告人らは,被害者から銀行の通帳,印鑑,パスポートなどを強取して,被害者による金銭の支払を担保しようとし,また,被害者に対し,警察に言えば殺すと申し向けて脅すなどして,本件犯行が発覚しないようにもしていたこと,被害者は,このような手酷い目に遭わなければならないような落ち度はなかったにもかかわらず,本件犯行により,判示の金品を強取されただけでなく,判示の傷害を負わされた上,殺されるかもしれないという恐怖を感じさせられたものであって,その肉体的・精神的苦痛は大きいこと,被告人は,Bともども共犯者 犯行により,判示の金品を強取されただけでなく,判示の傷害を負わされた上,殺されるかもしれないという恐怖を感じさせられたものであって,その肉体的・精神的苦痛は大きいこと,被告人は,Bともども共犯者Cほか3名を本件犯行に引き込んだばかりでなく,被害者に対し,自らも暴行を加えたり,金銭を要求したりしていることなどを併せ考えると,犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 しかしながら,被告人が本件犯行に及ぶに至った背景には,当時交際していたBの影響が大きいことは否定できないこと,本件犯行による財産的損害はそれほど大きくなく,現金以外の被害品はすべて被害者に還付されていること,被害者に対する暴行は,主として共犯者らが行ったものであり,被告人による暴行は,被害者の腹部を手拳で十数回殴打したというものであって,それほど強度なものとまではいえないこと,被告人は,本件犯行当時,責任能力に欠けるところがないにしても,解離性同一性障害の症状が現れるなど,その精神状態は良好なものではなかったし,今後も専門家による治療が必要であること,被告人の側から,被害者に対し,損害金として金60万円が支払われており,共犯者のB,C,Dの側からも,被害者に対し,示談金等として少なくとも合計金70万円が支払われていること,被告人は,自らの不用意な言動が本件の発端となったことについて,反省の態度を示しているほか,被害者に対し,謝罪の手紙を送るなどして,被害感情の緩和に向けて努めてきていること,被害者も現在では被告人の寛大な処分を求めていること,被告人の両親が,被告人の治療等のため,早期の社会復帰を望んでいること,被告人はいまだ若年であり,これまで前科前歴がないこと,本件により2年近くの期間身柄を拘束されていることなどの,被告人のために酌むべき事情も認められるので 療等のため,早期の社会復帰を望んでいること,被告人はいまだ若年であり,これまで前科前歴がないこと,本件により2年近くの期間身柄を拘束されていることなどの,被告人のために酌むべき事情も認められるので,酌量減軽の上,主文の刑に処するに止めることとする。 (検察官の科刑意見懲役7年)よって,主文のとおり判決する。 平成16年7月28日神戸地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官森岡安廣裁判官川上宏裁判官酒井孝之
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