平成17(行ケ)10709 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成18年4月27日 知的財産高等裁判所 3部 判決 請求棄却
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判決文本文24,147 文字)

- 1 -平成17年(行ケ)第10709号審決取消請求事件平成18年3月14日口頭弁論終結判決原告住友重機械工業株式会社訴訟代理人弁護士田中成志同平出貴和同板井典子同山田徹訴訟代理人弁理士伴俊光被告富士電機システムズ株式会社訴訟代理人弁護士辻居幸一同外村玲子訴訟代理人弁理士須田洋之主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1当事者の求めた裁判 原告特許庁が無効2005-80064号事件について平成17年8月17日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 被告主文と同旨第2当事者間に争いのない事実等(証拠を挙げた事実以外は,争いがない)。 特許庁における手続の経緯- 2 -,,「」原告は平成10年8月28日発明の名称を透明材料のマーキング方法(特許法41条に基づく優先権主張平成9年9とする発明につき特許出願をし,平成13年2月22日付け手続補正書月26日。以下「本件出願」という。)(甲10)及び同年8月17日付け手続補正書による補正を経て,同年9月1()(。 4日に設定登録特許第3231708号を受けた請求項の数は4である以下「本件特許」という。また,平成13年8月17日付け手続補正書による補正を「本件補正」といい,同補正後の明細書及び図面を「本件明細書」という。 。)被告は,平成17年3月1日,本件特許を無効にすることについて審判を請求した。 特許庁は,この請求を無効2005-80064号事件として審理し,その結果,平成17年8月17日「特許第3231708号の請求項1ないし4,に係る発明についての特許を無効とする」との審決をし,審決 特許庁は,この請求を無効2005-80064号事件として審理し,その結果,平成17年8月17日「特許第3231708号の請求項1ないし4,に係る発明についての特許を無効とする」との審決をし,審決の謄本は同月。 29日,原告に送達された(送達日は,甲1,弁論の全趣旨。 ) 特許請求の範囲(本件補正後のもの)【請求項1】厚さが2mm以下の板状のマーキング対象物を準備する工程と,前記マーキング対象物を形成する材料を透過する波長域のレーザ光を,fθレンズを用いて該マーキング対象物の内部に集光させることにより,該マーキング対象物の内部にマーキングを行う工程とを有し,前記マーキングを行う工程において,前記マーキング対象物を形成する材料の屈折率を考慮して,レーザ光の集光点が前記マーキング対象物の内部に位置するように,前記マーキング対象物の表面から前記レーザ光の集光点までの深さを制御するマーキング方法。 【請求項2】厚さが2mm以下の板状のマーキング対象物を準備する工程と,前記マーキング対象物を形成する材料を透過する波長域のレーザ光を,fθレンズを用いて該マーキング対象物の内部に集光させることにより,該マーキング- 3 -対象物の内部にマーキングを行う工程とを有し,前記マーキングを行う工程において,前記マーキング対象物の厚さ方向の中心位置よりも深い位置にのみ前記レーザ光を集光させるマーキング方法。 【請求項3】前記マーキング対象物の厚さが1mm以上である請求項1に記載のマーキング方法。 【請求項4】前記マーキング対象物の厚さが1mm以上である請求項2に記載のマーキング方法。 (以下,請求項1ないし4に係る発明を「本件発明1」ないし「本件発明4」という。また,これらを総称して「本件発明」ということがある)。 本件出願当初の明細書(甲17。以下 載のマーキング方法。 (以下,請求項1ないし4に係る発明を「本件発明1」ないし「本件発明4」という。また,これらを総称して「本件発明」ということがある)。 本件出願当初の明細書(甲17。以下,図面と合わせて「当初明細書」という)における特許請求の範囲。 【請求項1】マーキング対象物を準備する工程と,前記マーキング対象物を形成する材料を透過する波長域のレーザ光を,fθレンズを用いて該マーキング対象物の内部に集光させることにより,該マーキング対象物の内部にマーキングを行う工程とを有するマーキング方法。 【請求項2】前記マーキング対象物が,ガラスもしくはPMMAで形成されている請求項1に記載のマーキング方法。 【請求項3】前記マーキングを行う工程において,前記マーキング対象物を形成する材料の屈折率を考慮して,レーザ光の集光点が前記マーキング対象物の内部に位置するように,前記マーキング対象物の表面から前記レーザ光の集光点までの深さを制御する請求項1または2に記載のマーキング方法。 【請求項4】前記マーキング対象物が板状の形状を有し,前記マーキングを行う工程において,前記マーキング対象物の厚さ方向の中心位置よりも深い位置に前記レーザ光を集光させる請求項1~3のいずれかに記載のマーキング方法。 審決の理由- 4 -別紙審決書の写しのとおり。これを要約すれば,次のとおりである。 ( ) 本件発明1ないし4は「第4回機械材料・材料加工技術講演会講演論文 ,集」61~62頁(社団法人日本機械学会,平成8年11月1日発行。以下「引用刊行物」という)記載の発明(以下「引用発明」という)に基づ。 。 いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1ないし4についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 記載の発明(以下「引用発明」という)に基づ。 。 いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1ないし4についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 審決が,進歩性がないとの上記結論を導く過程において,本件発明1ないし4(前者)と引用発明(後者)との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。 本件発明1につき(ア)(一致点)「板状のマーキング対象物を準備する工程と,前記マーキング対象物を形成する材料を透過する波長域のレーザ光を,fθレンズを用いて該マーキング対象物の内部に集光させることにより,該マーキング対象物の内部にマーキングを行う工程とを有する,マーキング方法」である点。 (相違点1)マーキング対象物の厚さが,前者では「2mm以下」であるのに対し,後者では「10mm」である点。 (相違点2)マーキングを行う工程において,前者は「マーキング対象物を形成する材料の屈折率を考慮して,レーザ光の集光点が前記マーキング対象物の内部に位置するように,前記マーキング対象物の表面から前記レーザ光の集光点までの深さを制御する」という発明特定事項を有するのに対し,後者はこのような発明特定事項を有しない点。 本件発明2につき(イ)- 5 -上記(ア)記載の一致点及び相違点1に加えて次の相違点。 (相違点3)マーキングを行う工程において,前者は「マーキング対象物の厚さ方向の中心位置よりも深い位置にのみ前記レーザ光を集光させる」という発明特定事項を有するのに対し,後者はこのような発明特定事項を有しない点。 本件発明3につき(ウ)上記(ア)記載の一致点及び相違点1,2に加えて次の相違点。 (相違点4)マーキング対象物の厚さが,前者では「1mm以上」であるのに対し,後者ではこのような特 有しない点。 本件発明3につき(ウ)上記(ア)記載の一致点及び相違点1,2に加えて次の相違点。 (相違点4)マーキング対象物の厚さが,前者では「1mm以上」であるのに対し,後者ではこのような特定がなされていない点。 本件発明4につき(エ)上記(ア)ないし(ウ)記載の一致点及び相違点1,3,4。 ( ) 本件補正は,本件出願に係る願書に最初に添付した明細書又は図面(当初 明細書)に記載した事項の範囲内においてしたものではないから,本件発明1ないし4についての特許は,特許法17条の2第3項(平成14年法律第24号による改正前の規定。以下同じ)に規定する要件を満たさない補正をした特許出願についてなされたものである。 第3原告主張の取消事由の要点審決は,特許法29条2項違反の判断について,本件発明1,2と引用発明との相違点1についての判断を誤り(取消事由1-1,本件発明1と引用発)明との相違点2についての判断を誤り(取消事由1-2,本件発明1の格別)の作用効果を看過し(取消事由1-3,本件発明2と引用発明との相違点3)についての判断を誤った(取消事由1-4)ものであり,また,特許法17条の2第3項に規定する要件についての判断を誤った(取消事由2)ものであるから,取り消されるべきである。 取消事由1(特許法29条2項違反の判断について)- 6 -( ) 取消事由1-1(本件発明1,2と引用発明との相違点1についての判断 の誤り)引用刊行物記載の装置と,本件発明のマーキング方法に用いられる装置とでは,原理的な構成には差異はないとしても,引用刊行物記載の装置に対してレンズをfθレンズとし,大きな口径の開口比の大きなレンズを用いて,レーザ光の焦点を対象物のどの位置にするかの制御が必要であるから,引用発明のマーキング方法に用い ても,引用刊行物記載の装置に対してレンズをfθレンズとし,大きな口径の開口比の大きなレンズを用いて,レーザ光の焦点を対象物のどの位置にするかの制御が必要であるから,引用発明のマーキング方法に用いられる装置そのままで,2mm以下の対象物に対してその対象物の表面にクラックが表れないようなマーキングをすることはできない。 したがって,審決が,相違点1について「甲第1号証(判決注:引用刊,行物。本訴における甲3の1)記載の発明のマーキング方法に用いられる装置と,本件発明1ないし4のマーキング方法に用いられる装置との間に,構。 ,,成上の差異は認められないそうすると甲第1号証記載の発明においても厚さ2mm以下の対象物にマーキングを施すことは可能であるということができ,また,甲第1号証記載の発明を厚さ2mm以下の対象物のマーキングに適用することを阻害する要因も見当たらない(審決書5頁下から8行~」下から3行)と判断したことは,誤りである。 ( ) 取消事由1-2(本件発明1と引用発明との相違点2についての判断の誤 り)(),,審決が認定するように審決書6頁6行~7行屈折率nの材料に対し実際の集光点までの深さが表面から集光点までの見かけ上の深さのn倍となることは技術常識であり,比較的厚い対象物に対して集光点の深さを制御する際にマーキング対象物の屈折率を考慮することは,当業者にとって当然の配慮にすぎないかもしれないが,従来内部マーキングを達成できなかった薄い対象物に対して,この屈折率を考慮した集光点の深さ制御を行うことは,当業者にとって当然の配慮とはいえない。 - 7 -当業者にとって当然の配慮というならば例えば本件明細書の段落 「」,【】(,), に記載の従来技術特開平4-71792号公報乙 て当然の配慮とはいえない。 - 7 -当業者にとって当然の配慮というならば例えば本件明細書の段落 「」,【】(,), に記載の従来技術特開平4-71792号公報乙1において2.3mm厚さの透明基板への内部マーキングが達成できていたはずであるが,現実に達成できなかったのは,このような薄い透明基板への内部マーキングを行うに際し「マーキング対象物の屈折率を考慮」した集光点の深さ,制御という技術思想が当業者に認識されていなかったからにほかならない。 例えば,マーキング対象物の厚さが2mmの場合には,表面から集光点までの見かけ上の深さを中点,すなわち厚さ方向に表面から深さ1mmの位置,. ,であるとすると屈折率を考慮した集光点の深さは表面から15mm前後裏面からわずかに0.5mmしかない位置であり,相当微妙な位置制御が要求され,マーキング対象物の厚さが1mmの場合には,さらに微妙な位置制御が要求される。このような薄いマーキング対象物に対して,屈折率を考慮した集光点の深さ制御を行うことは,その必要性と重要性を認識して意図的に行わない限り,実施されるものではない。従来は,このような必要性と重要性が認識されていなかったので「マーキング対象物の屈折率を考慮」し,た集光点の深さ制御は,薄いマーキング対象物に対して当業者が当然に配慮する事項ではなかった。 してみると,薄い対象物,特に本件発明で規定している厚さ2mm以下の薄い対象物に対してのマーキングについて「マーキング対象物の屈折率を,考慮することは,当業者にとって当然の配慮に過ぎない(審決書6頁9行」~10行)とする審決の判断は,誤りである。 ( ) 取消事由1-3(本件発明1の格別の作用効果の看過) 上記( )に述べたとおり,従来は厚さが2.3mm程度 然の配慮に過ぎない(審決書6頁9行」~10行)とする審決の判断は,誤りである。 ( ) 取消事由1-3(本件発明1の格別の作用効果の看過) 上記( )に述べたとおり,従来は厚さが2.3mm程度の薄いマーキング 対象物に対して,現実に,屈折率を考慮した集光点の深さ制御が配慮されておらず,このような薄いマーキング対象物に対して内部マーキングが達成できていなかった。 - 8 -本件発明1は「厚さが2mm以下」という,従来,内部マーキングの対,象外であったか,あるいは内部マーキングが達成できていなかった厚さ範囲の薄いマーキング対象物に対して「マーキング対象物の屈折率を考慮」し,た集光点の深さ制御という手法により,内部マーキングが達成できるようにしたものである。すなわち「マーキング対象物の厚さが2mm以下」とい,う要件が前提にあり,その限定された厚さのマーキング対象物に「マーキ,ング対象物の屈折率を考慮」した集光点の深さ制御という特定の手法を適用することにより,目的(課題(本件明細書段落【0009)を達成でき)】たものである。 したがって,相違点1及び相違点2を組み合わせて,従来達成できていなかった技術事項を達成したのであるから,従来達成できていなかったことを達成できたという点で,まさに格別の作用効果が得られたのである。 ( ) 取消事由1-4(本件発明2と引用発明との相違点3についての判断の誤 り)審決は,相違点3について「発生した亀裂が表面に到達しないように集,光点の深さ位置を設定することの必要性は,当業者が容易に看取し得るものである。発生した亀裂が表面に到達しないような集光点の位置は,実験等によって当業者が容易に見出すことができるものであり,その結果として『マーキング対象物の厚さ方向の中心位置よりも深い位置にのみ ものである。発生した亀裂が表面に到達しないような集光点の位置は,実験等によって当業者が容易に見出すことができるものであり,その結果として『マーキング対象物の厚さ方向の中心位置よりも深い位置にのみレーザ光を集光させる』ことは,当業者が容易に採用し得る設計に過ぎない。また,亀裂が集光点から光源側に向かって成長することを考慮すれば,集光点の表面からの位置を深めに選定することは当業者が容易に想到し得るものでありマ,,『ーキング対象物の厚さ方向の中心位置よりも深い位置にのみレーザ光を集光させる』ことは,集光点の位置を深めに選定するうえで,当業者が容易に採用し得る設計に過ぎない(審決書6頁下から3行~7頁8行)と判断す。」るが,誤りである。 - 9 -「発生した亀裂が表面に到達しないように集光点の深さ位置を設定すること」及びその必要性は,引用刊行物には記載も示唆もされておらず,例えば本件明細書の段落【0006】に記載の従来技術も,単に透明基板の内部にレーザ光を集光させるというだけで,発生した亀裂が表面に到達しないように,集光点の位置を決め,クラックの長さを決めるという問題を認識していないのであって,この問題の認識がない限り,実験等により,最適な集光点の位置を求めることはない。 また,従来の厚い対象物においては,クラックは点であり,大きさをもったものと考える必要がなかったのであるから,従来技術においては,集光点の表面からの位置を深めに選定するなどということを想到し得ない。 取消事由2(特許法17条の2第3項の要件についての判断の誤り)( )審決は,当初明細書には,マーキング対象物の厚さに関して, 1 (ア)a(段落【0009「本発明の目的は,薄い透明基板へのマーキン. 】)グに適したマーキング方法を提供することである, )審決は,当初明細書には,マーキング対象物の厚さに関して, 1 (ア)a(段落【0009「本発明の目的は,薄い透明基板へのマーキン. 】)グに適したマーキング方法を提供することである,。」b(段落【0013「厚さ1~2mmのガラス基板にマーキングを. 】)行うと,基板内部のみならず,表面にもクラックが発生してしまうことが判明した,。」c(段落【0017「透明ガラス基板1として,例えば厚さ10m. 】)mの合成石英基板を使用する,。」d(段落【0031「厚さ2mmのPMMA基板にマーキングを行. 】)ったところ,,」との記載が認められるとしている(審決書8頁末行~9頁9行。 )当初明細書には,審決が摘示した上記記載事項a~dに加えて,e.従来のマーキング対象物の表面にマークをすることの問題点(段落【000 ,f.従来の技術によっては,表面にクラックが発生してしまうと】)いう問題点(段落【0005,g.十分厚い透明材料にマーキングす】)- 10 -ることはできるが,薄い透明基板等へのマーキングには,特に上述のマーキング対象物の表面にクラックが発生してしまうという問題点のために,十分厚い透明材料にマーキングすることはできるが,薄い透明基板等へのマーキングには適さないこと(段落【0008,h.ガラス基板内部】)のクラックは,ガラス基板の厚さ方向に長さ約500μmとなっていること(段落【0012)が説明されている。 】上記のとおり,当初明細書には,マーキング対象物の表面にクラックを作ることなく対象物の内部にマークする課題及び解決方法が示されているのであるから,このクラックとマーキング対象物の厚さの関係が重要な問題でありクラックの長さからみてマーキングがむずかしくなる薄さが薄,「い」 象物の内部にマークする課題及び解決方法が示されているのであるから,このクラックとマーキング対象物の厚さの関係が重要な問題でありクラックの長さからみてマーキングがむずかしくなる薄さが薄,「い」基板であることは,当業者であれば当初明細書に記載され説明されているものと十分に理解可能である。記載事項hにあるようなガラス基板内部のクラックは,特に特性が急峻に変わるような臨界性はないものの,ガラス基板の厚さ方向に長さ約500μmとなっているのであれば,内部マーキング対象物の基板の厚さとしては,この500μmを超える長さであり,またこれよりも大きく500μmのクラックがさほど困難なく作れる厚さよりも薄いものであること,すなわち500μmよりも厚い1mm以上であり,500μmのクラックがさほど困難なく作れる厚さよりも薄い「2mm以下」であることが説明されている。 さらに,当初明細書には,本件発明の目的に対応する従来技術の課題(イ)として23mmの基板にマーキングすることの困難性を挙げている段,. (落【0006)のであるから,記載事項aは,それだけで「薄い」透明】基板が2mm以下のものであると厚さの具体的数値範囲を記載していなくても「薄い」が2mm以下の厚さを示していることは当初明細書に説明,されている。 審決は,記載事項bについて「凸レンズを用いたマーキングの評価実(ウ),- 11 -験の結果について問題点を述べたものであるが,本件発明がこの問題点を解決するものであるとの明示的な記載は見当たら」ない(審決書9頁12行~14行)と判断するが,当初明細書では,発明の実施例を説明する最初のところで500μmというクラックの長さにふれて「厚さ1~2m,mのガラス基板にマーキングを行う」ことの困難性を説明し(段落【00 ,これに対 が,当初明細書では,発明の実施例を説明する最初のところで500μmというクラックの長さにふれて「厚さ1~2m,mのガラス基板にマーキングを行う」ことの困難性を説明し(段落【00 ,これに対して,本件発明を実施すると「本発明の実施例による】),と,レーザ光の集光点の位置制御の精度を高めることができる。以下,本発明の実施例について説明する(段落【0015)と説明している。 。」】これは,本件発明が記載事項bの問題点を解決するものであることを当初明細書において明示的に説明しているのであって,段落【0013】において直接これを記載していないというにすぎないから,審決の前記判断は誤りである。 ( ) PMMA(ポリメチルメタクリレート)の実施例は2mm厚の対象物のも のであるが,PMMAには通常紫外線吸収剤が含有されており(当初明細書の段落【0032,エネルギー吸収が大きくなって,クラック長が大き】)くなるので不利である。当初明細書には,その不利なPMMAで2mm厚に対して内部マーキングできたことが記載されており,通常紫外線吸収剤を含有しないガラス基板では,PMMAよりも内部マーキングしやすくなる。本件発明では,いずれも対象物の材質を限定しておらず,内部マーキングしにくいPMMAで2mm厚に対して内部マーキングをすることができており,それよりも内部マーキングしやすい材質に対しては,より薄い対象物であっても内部マーキングできるということを示している。 ( ) 本件発明の実施例について述べたとされる記載事項cにおいて,マーキン グ対象物の厚さが10mmとされているが,本件発明における「マーキング対象物を形成する材料の屈折率を考慮して,レーザ光の集光点が前記マーキング対象物の内部に位置するように,前記マーキング対象物の表面から 象物の厚さが10mmとされているが,本件発明における「マーキング対象物を形成する材料の屈折率を考慮して,レーザ光の集光点が前記マーキング対象物の内部に位置するように,前記マーキング対象物の表面から前記- 12 -レーザ光の集光点までの深さを制御する」ことを説明したものであって,本件発明が厚さ10mmの対象物へのマーキングを目的とするものであるということではない。 審決は「記載事項dも本件発明の実施例について述べたものであるが,,ここで『厚さ2mm』がマーキング対象物の厚さの上限に当たることを示唆する記載は見当たらない(審決書9頁18行~20行)と認定する。し。」,,かし本件発明は2mm以下の厚さのマーキング対象物を対象としているがそれより厚いマーキング対象物に対して「マーキング対象物を形成する材料の屈折率を考慮して,レーザ光の集光点が前記マーキング対象物の内部に位置するように,前記マーキング対象物の表面から前記レーザ光の集光点までの深さを制御するマーキング」を行えないということではない。ただ2mmより厚い対象物に対しては,本件発明の方法を用いなくても対象物の内部にマーキングを行えるということである。 ( ) ガラスのようなマーキング対象物にとっての標準は,一般の板ガラスの3 mmの厚さがシェアの7割程度を占めており,これが当業者にとって普通の厚さである(甲14~甲16。ガラス基板としてこれよりも薄ければ,す)なわち3mmよりも薄いところの「2mm以下」の厚さを当業者は「薄い」と理解するものである(甲21~甲30。また,当業者は,本件特許の技)術の現実の対象としての「薄い」対象物とは,これから技術的応用が行われる液晶基板やプラズマディスプレイパネル(PDP)基板であり,これらは2mm以下の厚さのものであると理解するは ,本件特許の技)術の現実の対象としての「薄い」対象物とは,これから技術的応用が行われる液晶基板やプラズマディスプレイパネル(PDP)基板であり,これらは2mm以下の厚さのものであると理解するはずである(甲13。 )( ) 以上のとおりであるから,本件出願当初の明細書等に,マーキング対象物 の厚さを「2mm以下」とすることも「1mm以上」とすることも記載されていたとすることはできないとする審決の判断は,誤りである。 第4被告の反論の要点審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。 - 13 - 取消事由1(特許法29条2項違反の判断について)( ) 取消事由1-1(本件発明1,2と引用発明との相違点1についての判断 の誤り)について引用刊行物において,厚さ1.0~1.1mmのガラスは,厚さ10mmの合成石英ガラスと共にレーザ光を利用したマーキング装置による加工の対象物として記載されており,当該マーキング装置を用いたガラスの内面加工において,内面加工用の対象物として具体的に記載されている厚さ10mmの合成石英ガラスに代えて,表面加工用の対象物として記載されている厚さ1.0~1.1mmのガラスを使用することを妨げるような記載は,引用刊行物中には一切見当たらない。 本件発明1は「厚さが2mm以下のマーキング対象物」にマーキングす,るために,格別の工程を採用するものではないから「厚さが2mm以下」,であることに格別の技術的意義はない。 したがって,引用刊行物記載の装置と本件発明1に用いられる装置に構成上の差異は認められず,対象物を厚さ2mm以下に限定することは,当業者,。 にとって格別の創意を要するものではないとする審決の判断に誤りはない原告は,引用刊行物記載の装置を用いて2mm以下の対象物にマーキングでき ず,対象物を厚さ2mm以下に限定することは,当業者,。 にとって格別の創意を要するものではないとする審決の判断に誤りはない原告は,引用刊行物記載の装置を用いて2mm以下の対象物にマーキングできない理由として,レンズをfθレンズとし,大きな口径の開口比の大きなレンズを用いる必要があると主張するが,引用刊行物にはfθレンズが記載されており,また,大きな口径の開口比の大きなレンズは,本件発明1,2の構成要件ではない。よって,原告の主張は失当である。 ( ) 取消事由1-2(本件発明1と引用発明との相違点2についての判断の誤 り)について原告は,①厚い対象物に対し集光点の深さを制御する際にマーキング対象物の屈折率を考慮することは当業者にとって当然の配慮だが,薄い対象物を対象物とする場合には当業者にとって当然の配慮とはいえないこと,②従来- 14 -技術(乙1)において2.3mmの透明基板内部へのマーキングが達成できなかったのは,薄い対象物を対象物とする場合には当業者にとって屈折率を考慮することが当然の配慮ではなかったこと,及び③薄い対象物の場合相当微妙な位置制御が要求されること,を主張するが,本件明細書の段落【0006】において従来技術とされている特開平4-71792号公報の実施例では,2.3mmの透明基板内部へのマーキングは達成されている。また,マーキング対象物の厚さが10mmの場合に当業者がその屈折率を考慮するにもかかわらず,2mm以下の場合に,微妙な位置制御が要求されるとしても,当業者が屈折率を敢えて考慮しない理由はない。 ( ) 取消事由1-3(本件発明1の格別の作用効果の看過)について 原告は,相違点1及び相違点2を組み合わせることによる格別の作用効果を主張するが「従来は厚さが2.3mm程度の薄いマーキング対象物に対, 事由1-3(本件発明1の格別の作用効果の看過)について 原告は,相違点1及び相違点2を組み合わせることによる格別の作用効果を主張するが「従来は厚さが2.3mm程度の薄いマーキング対象物に対,して,現実に,屈折率を考慮した集光点の深さ制御が配慮されておらず,このような薄いマーキング対象物に対して内部マーキングが達成できていなかった」という誤った認識に基づくものであり,根拠がない。 。 ( ) 取消事由1-4(本件発明2と引用発明との相違点3についての判断の誤 り)について原告は,発生した亀裂が表面に到達しないように集光点の深さ位置を設定すること及びその必要性は,引用刊行物に記載も示唆もされていない,と主張するが,引用刊行物には,亀裂が光源側に向かって成長すると記載されている(62頁左欄20行~21行)のであるから,それが表面まで達する可能性については言及されていないとしても,そのようなリスクを軽減するためにマーキング対象物の厚さ方向の中心位置よりも深い位置にレーザ光を集光させる程度のことは,当業者が容易になし得ることである。 また,原告は,従来技術においては,発生した亀裂が表面に到達しないように,集光点の位置を決め,クラックの長さを決めるという問題を認識して- 15 -おらず,集光点をどの位置にするかという実験等を行うはずがないと主張するが「クラックの長さを決める」ということは,本件発明2においても構,成要件とされておらず,本件明細書においても「クラック6の長さは,f,θレンズ14の焦点距離によっても影響を受ける(第5欄44行~46。」行)と記載されるのみであるから,原告の主張は失当である。 取消事由2(特許法17条の2第3項の要件についての判断の誤り)について( ) 原告は,記載事項a~dの他に当初明細書の段落【 。」行)と記載されるのみであるから,原告の主張は失当である。 取消事由2(特許法17条の2第3項の要件についての判断の誤り)について( ) 原告は,記載事項a~dの他に当初明細書の段落【0002【000 】, 【0008】及び【0012】を挙げて記載事項aにおける「薄い」】,透明基板が「2mm以下」の厚さであると特定できると主張するが,500,【】,μmのクラックは段落0012記載の特定の条件の下の数値にすぎず本件発明の対象物を2mm以下に限定する根拠にはならない。 ( ) 原告は,当初明細書の段落【0032】の記載を挙げ,内部マーキングし にくいPMMAで2mm厚に対して内部マーキングをすることができており,それよりも内部マーキングしやすい材質に対しては,より薄い対象物であっても内部マーキングできるということを示していると主張する。 しかし,当初明細書の段落【0032】の記載からは,段落【0031】に実施例として記載されているPMMAが紫外線吸収剤を含有しているものとは特定できないし,本件発明の発明者の論文である引用刊行物の62頁左欄下6行には「紫外域では吸収のある通常のガラスに対しては」と記載さ,れており,通常のガラスは紫外線吸収剤を含有しているとされている。 したがって「内部マーキングしにくいPMMAで2mm厚に対して内部,マーキングをすることができており,それよりも内部マーキングしやすい材質に対しては,より薄い対象物であっても内部マーキングできるということを示している」という原告の主張は,全く根拠がないものである。 。 ( ) 原告は,記載事項cについて「マーキング対象物を形成する材料の屈折率 - 16 -を考慮して,レーザ光の集光点が前記マーキング対象物の内部に位置するように,前記マー ないものである。 。 ( ) 原告は,記載事項cについて「マーキング対象物を形成する材料の屈折率 - 16 -を考慮して,レーザ光の集光点が前記マーキング対象物の内部に位置するように,前記マーキング対象物の表面から前記レーザ光の集光点までの深さを制御する」ことを説明したものと主張するが,記載事項cに当たる当初明細書の段落【0017】から,どのように解釈するのか全く不明であり,失当である。 ( ) 原告は「薄い」マーキング対象物とは,液晶基板やプラズマディスプレ ,イパネル(PDP)基板であり,これらは2mm以下の厚さのものと当業者が理解するはずである旨を主張するが,当初明細書には「液晶基板やプラ,ズマディスプレイパネル(PDP)基板」に関する記載はなく,甲13~甲16に基づく原告の主張は理由がない。 ( ) 当初明細書には,厚さ10mmの合成石英基板を使用した場合及び厚さ2 mmのPMMA基板を使用した場合に,当該明細書に開示された方法に従ってマーキング対象物の内部にマーキングを行って,マークを形成することができることが記載されているにすぎない。一方,当初明細書には,厚さが2mmよりも薄いマーキング対象物を使用して,その内部にマークを形成することについての記載は一切ない。同様に,厚さ1mm以上のマーキング対象物を使用することが好ましい旨の記載も,当初明細書には一切ない。したがって,当初明細書等に記載のないこれらの事項を追加する補正は,新規事項の追加に該当し,許されないものであり,審決の認定判断に誤りはない。 第5当裁判所の判断 取消事由2(特許法17条の2第3項の要件についての判断の誤り)について本件事案にかんがみ,取消事由2について,まず,検討する。 ( ) 前記第2(当事者間に争いのない事実等)の2,3に記載のとお 取消事由2(特許法17条の2第3項の要件についての判断の誤り)について本件事案にかんがみ,取消事由2について,まず,検討する。 ( ) 前記第2(当事者間に争いのない事実等)の2,3に記載のとおり,本件 「」補正後の特許請求の範囲における請求項1及び2中の厚さが2mm以下のマーキング対象物(以下「補正事項1」という,及び請求項3及び4中。)- 17 -のマーキング対象物の「厚さが1mm以上である(以下「補正事項2」と」いう)は,当初明細書の特許請求の範囲に記載されていない事項である。 。 また,甲17(当初明細書)によれば,これらの事項が本件出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に明示的に記載されていないことは,明らかである(原告も,このことは争っていない。 。)すなわち,審決は,当初明細書には,マーキング対象物の厚さに関して,a(段落【0009「本発明の目的は,薄い透明基板へのマーキン. 】)グに適したマーキング方法を提供することである,。」b(段落【0013「厚さ1~2mmのガラス基板にマーキングを. 】)行うと,基板内部のみならず,表面にもクラックが発生してしまうことが判明した,。」c(段落【0017「透明ガラス基板1として,例えば厚さ10m. 】)mの合成石英基板を使用する,。」d(段落【0031「厚さ2mmのPMMA基板にマーキングを行. 】)ったところ,,」との記載が認められるとしているところ(審決書8頁末行~9頁9行,原)告は,当初明細書には,審決が摘示した上記記載事項a~dに加えて,e. 従来のマーキング対象物の表面にマークをすることの問題点(段落【000 ,f.従来の技術によっては,表面にクラックが発生してしまうとい】)う問題点(段落【0005,g.十 a~dに加えて,e. 従来のマーキング対象物の表面にマークをすることの問題点(段落【000 ,f.従来の技術によっては,表面にクラックが発生してしまうとい】)う問題点(段落【0005,g.十分厚い透明材料にマーキングするこ】)とはできるが,薄い透明基板等へのマーキングには,特に上述のマーキング対象物の表面にクラックが発生してしまうという問題点のために,十分厚い透明材料にマーキングすることはできるが,薄い透明基板等へのマーキングには適さないこと(段落【0008,h.ガラス基板内部のクラックは,】)ガラス基板の厚さ方向に長さ約500μmとなっていること(段落【0012)が説明されているなどとして,審決の判断を誤りであると主張してい】- 18 -る。 そこで,原告の主張につき,検討する。 ( ) 当初明細書の記載 当初明細書(甲17)には,次の各記載がある。 「特開平3-124486号公報に,ガラスの内部にレーザ光を集光さ(ア)せて,その表面に損傷を与えることなくマーキングを行う方法が開示されている。この方法では,内部の破壊しきい値が表面の破壊しきい値の5~20倍のガラス材料の内部に,表面においてはその破壊しきい値を超えることなく,内部においてその破壊しきい値を超えるようにレーザ光を照射する。…しかし,内部と表面との破壊しきい値が同程度のガラス材料の内部においてのみしきい値を超えるようにレーザ光を集光させることは困難である。表面において破壊しきい値を超えると,表面にクラックが発生してしまう(段落【0004】~【0005)。」】「特開平4-71792号公報に,透明基板の内部に焦点を結ぶようにレーザ光を照射し,透明基板の内部を選択的に不透明にするマーキング方法が開示されている。この方法では,絶縁破壊により透明材料を不 】「特開平4-71792号公報に,透明基板の内部に焦点を結ぶようにレーザ光を照射し,透明基板の内部を選択的に不透明にするマーキング方法が開示されている。この方法では,絶縁破壊により透明材料を不透明化する。その実施例では,数百μmの幅にわたって厚さ約2.3mmの石英基板の内部が不透明になり,これを表面から見ると白い符号として識別することができる。レーザ光の焦点の深さを精密に制御することは困難であ,。」(【】)るため薄い透明材料へのマーキングには適さない段落0006「また,特表平6-500275号公報には,比較的厚肉の材料をマーキングの対象とした三次元マーキングの可能性が示唆されている(段。」落【0007)】「発明が解決しようとする課題】上述の透明材料内部へのマーキング【方法では,十分厚い透明材料にマーキングすることはできるが,薄い透明基板等へのマーキングには適さない。本発明の目的は,薄い透明基板への- 19 -マーキングに適したマーキング方法を提供することである(段落【0。」008】~【0009)】「課題を解決するための手段】本発明の一観点によると,マーキング【対象物を準備する工程と,前記マーキング対象物を形成する材料を透過する波長域のレーザ光を,fθレンズを用いて該マーキング対象物の内部に集光させることにより,該マーキング対象物の内部にマーキングを行う工。 ,程とを有するマーキング方法が提供されるfθレンズを用いているためレーザ光の光軸を振った場合にも,マーキング対象物の表面から集光点までの深さをほぼ一定に維持することができる。このため,マーキング対象物のある範囲内のほぼ一定の深さの位置にマーキングすることが可能になる(段落【0010】~【0011)。」】「発明の効果】以上説明したよ ぼ一定に維持することができる。このため,マーキング対象物のある範囲内のほぼ一定の深さの位置にマーキングすることが可能になる(段落【0010】~【0011)。」】「発明の効果】以上説明したように,本発明によれば,レーザ光を透【明材料の内部に集光させることにより表面に達しないクラックを発生させることができる。クラックが表面に達しないため,マーキングによる透明材料の破片や粉末の発生を防止できる。また,fθレンズを用いてレーザ光を集光しているため,レーザ光を走査しても集光点の深さをほぼ一定に保つことができる。さらに,歪の少ない模様を描くことが可能になる」。 (段落【0034】~【0035)】「発明の実施の形態】本発明の実施例を説明する前に,本願発明者の(イ)【行った評価実験について説明する。焦点距離100mmの凸レンズを使用してNd:YLFレーザの4倍高調波(波長262nm)をガラス基板内部に集光させた。4倍高調波のレーザ光のビーム径は3mm,1ショットあたりのエネルギは0.4mJである。このとき,ガラス基板の内部に幅約100μmの面内方向のクラックが生じるとともに,そのクラックを起点としてガラス基板の厚さ方向にも長さ約500μmのクラックが生じて。 ,いることが判明した厚さ1~2mmのガラス基板にマーキングを行うと- 20 -,。 基板内部のみならず表面にもクラックが発生してしまうことが判明した,,基板表面にクラックが発生すると基板の機械的強度が低下するとともに基板からパーティクルが飛散する。…基板表面にクラックを生じさせることなく基板内部にマーキングを行うためには,レーザ光の集光点の深さ方向の位置制御をより厳密に行う必要があると考えられる(段落【00。」12】~【0014)】「図3(A)に示すように, せることなく基板内部にマーキングを行うためには,レーザ光の集光点の深さ方向の位置制御をより厳密に行う必要があると考えられる(段落【00。」12】~【0014)】「図3(A)に示すように,通常の凸レンズを用いた場合には,レーザ(ウ)光の光軸がレンズの光軸に対して傾くと,凸レンズの収差の影響により集光点17が浅い位置に移動する。このため,広い範囲にマークを形成することが困難である。図3(B)に示すように,fθレンズを用いると,レーザ光の光軸が基板面に対して傾いた場合にも,その集光点Qまでの深さをほぼ一定に保つことができる。このため,基板表面を損傷させることなく,薄いガラス基板の比較的広い範囲にマークを形成することができる。 また,集光点Qの面内方向の移動距離が,fθレンズ入射前のレーザ光の光軸の傾きの変化に比例するため,歪の少ない模様を描くことが可能になる(段落【0025】~【0026)。」】「図1は,本発明の実施例で用いるマーキング装置の斜視図を示す。マ(エ)ーキング装置10は,レーザ光源11,ビーム整形器12,ガルバノミラー13,fθレンズ14を含んで構成される。…レーザ光源11は,例えばNd:YLFレーザの4倍高調波(波長262nm)を出力する。出力されるレーザ光のパルス幅は約10msである。fθレンズ14として,例えば焦点距離50mmのものを使用する。透明ガラス基板1として,例えば厚さ10mmの合成石英基板を使用する(段落【0016】~【0。」017)】「上記実施例では,ガラス基板の表面ではなく,その内部にマークを形成するため,ガラス基板の破片及びパーティクルの発生を防止することが- 21 -できる。このため,清浄な状態でマーキングを行うことができ,生産ラインへのパーティクル等の混入を防止することが クを形成するため,ガラス基板の破片及びパーティクルの発生を防止することが- 21 -できる。このため,清浄な状態でマーキングを行うことができ,生産ラインへのパーティクル等の混入を防止することができる(段落【002。」7)】「上記実施例では,ガラス基板にマーキングを行う場合を説明した。次に,ポリメチルメタクリレート(PMMA)基板にマーキングを行う他の実施例について説明する。使用したマーキング装置の基本構成は,図1に示すものと同様である。ただし,fθレンズ14として,焦点距離28mmのものを用い,レーザ光としてNd:YLFレーザの2倍高調波を用いた。レーザ光の1ショットあたりのエネルギは,0.5mJである。厚さ2mmのPMMA基板にマーキングを行ったところ,基板表面に損傷を与えることなく,基板内部にのみマークを形成することができた(段落。」【0031)】( ) 当初明細書の記載から理解できる事項 当初明細書の上記( )(ア)の記載からは,従来,レーザ光を透明材料の内(ア) 部に集光させることにより,該マーキング対象物の内部にマーキングを行う技術が存在し(段落【0004】~【0007,その中には,厚さ】)約2.3mmの石英基板の内部にマーキングを行えるようにしたものもあったが,十分厚い透明材料にマーキングすることはできるものの,レーザ光の焦点の深さを精密に制御することは困難である(段落【0006)】ため,薄い透明基板等へのマーキングには適さないものであった,との課題の下に,薄い透明基板へのマーキングに適したマーキング方法を提供することを目的とし(段落【0008】~【0009,fθレンズを用】)いることにより,透明材料の表面に達しないクラックを発生させ,レーザ光を走査しても集光点の深さをほぼ一定に保ち ング方法を提供することを目的とし(段落【0008】~【0009,fθレンズを用】)いることにより,透明材料の表面に達しないクラックを発生させ,レーザ光を走査しても集光点の深さをほぼ一定に保ち,歪の少ない模様を描くことが可能になる(段落【0010】~【0011【0034】~【0】, ,とした発明(以下「当初発明」という)が,記載されている】)。 - 22 -ことが理解できる。 当初明細書の上記( )(イ)の記載からは,当初発明の背景として,ビーム(イ) 径3mm,1ショット当たりのエネルギが0.4mJとしたNd:YLFレーザの4倍高調波を,焦点距離100mmの凸レンズを用いてガラス基板内部に集光させたものでは,ガラス基板の内部に幅約100μmの面内方向のクラックが生じるとともに,そのクラックを起点としてガラス基板の厚さ方向にも長さ500μmのクラックが生じ,1~2mmのガラス基板にマーキングするとクラックが基板内部のみならず,表面にも発生することが判明し,基板表面にクラックを生じさせることなく基板内部にマーキングを行うためには,レーザ光の集光点の深さ方向の位置制御を厳密にする必要があったことが理解できる。 当初明細書の上記( )(ウ)の記載からは,通常の凸レンズを用いた場合に(ウ) は,レーザ光の光軸がレンズの光軸に対して傾くと,凸レンズの収差の影響により集光点が浅い位置に移動するため,広い範囲にマークを形成することが困難であるところ,当初発明は,fθレンズを用いることにより,レーザ光の光軸が基板面に対して傾いた場合にも,その集光点までの深さをほぼ一定に保つことができるため,基板表面を損傷させることなく,薄いガラス基板の比較的広い範囲にマークを形成することができ,また,集光点の面内方向の移動距離が,fθレン にも,その集光点までの深さをほぼ一定に保つことができるため,基板表面を損傷させることなく,薄いガラス基板の比較的広い範囲にマークを形成することができ,また,集光点の面内方向の移動距離が,fθレンズ入射前のレーザ光の光軸の傾きの変化に比例するため,歪の少ない模様を描くことを可能にしたものであり,この点にfθレンズを用いることの技術的意義があるものと理解できる。 当初明細書の上記( )(エ)の記載からは,当初発明の実施例として,例え(エ) ばNd:YLFレーザの4倍高調波,焦点距離50mmのfθレンズ,1,,,0mmの石英基板を使用することまた焦点距離28mmのfθレンズ1ショット当たりのエネルギが0.5mJであるNd:YLFレーザの2- 23 -倍高調波,厚さ2mmのPMMA基板を使用して,基板表面に損傷を与えることなく内部にのみマーキングできたことが記載されているものと理解できる。 ( ) 原告主張の取消事由についての検討 原告は,当初明細書には,マーキング対象物の表面にクラックを作(ア)(あ)ることなく対象物の内部にマークする課題及び解決方法が示されているのであるから,このクラックとマーキング対象物の厚さの関係が重要な問題であり,クラックの長さからみてマーキングがむずかしくなる薄さが「薄い」基板であることは,当業者であれば当初明細書に記載され説明されているものと十分に理解可能であり,ガラス基板内部のクラックが,ガラス基板の厚さ方向に長さ約500μmとなっているのであれば,内部マーキング対象物の基板の厚さとしては,この500μmを超える長さであり,またこれよりも大きく500μmのクラックがさほど困難なく作れる厚さよりも薄いものであること,すなわち500μmよりも厚い1mm以上であり,500μmのクラックがさほど 00μmを超える長さであり,またこれよりも大きく500μmのクラックがさほど困難なく作れる厚さよりも薄いものであること,すなわち500μmよりも厚い1mm以上であり,500μmのクラックがさほど困難なく作れる厚さよりも薄い「2mm以下」であることが説明されている,と主張する。 確かに,当初発明が,薄い透明基板へのマーキングに適したマーキング方法を提供することを目的とするものであり(前記( )(ア)参照,ガ )ラス基板の厚さ方向に長さ500μmのクラックが生じることが当初明細書に説明されている(前記( )(イ)参照。 )しかし,長さが500μmのクラックが生じるとされるのは,当初明細書の段落【0012】に記載された特定の条件のレーザ,凸レンズを用いてガラス基板内部に集光させた場合(ビーム径3mm,1ショット当たりのエネルギが0.4mJとしたNd:YLFレーザの4倍高調波を,焦点距離100mmの凸レンズを用いてガラス基板内部に集光させ- 24 -た場合前記( )(イ)( )(イ)参照であり当初明細書甲17にク。 ,),()「 ラック6が基板表面2まで到達するとガラス基板1が割れ易くなるため,クラック6が基板表面2まで到達しないように,集光点Qの深さ,及びレーザ光3のエネルギを制御する必要がある。また,クラック6の長さは,fθレンズ14の焦点距離によっても影響を受ける(段落。」【0020)と記載されていることに照らせば,クラックの長さは,】レーザ光のエネルギやfθレンズ14の焦点距離によっても影響を受けるものと認められるからレーザ光やレンズの条件によらず一般にガ,,「ラス基板の厚さ方向に長さ500μmのクラックが生じる」と理解することはできない。 そうすると,ガラス基板の厚さ方向に生じ けるものと認められるからレーザ光やレンズの条件によらず一般にガ,,「ラス基板の厚さ方向に長さ500μmのクラックが生じる」と理解することはできない。 そうすると,ガラス基板の厚さ方向に生じるクラックの長さが500μmであることを前提とする原告の前記主張は,その前提において採用し得ないものというべきである。 加えて,当初明細書(甲17)には「また,クラック6は,集光点,Qからレーザ光の入射する基板表面2に向かって延びるため,集光点Q,。」の深さH2を基板1の厚さの1/2よりも深くすることが好ましい(段落【0022)との記載はあるものの,この記載からは,クラッ】クは基板表面に向かって延びるので集光点位置を深くすることが好ましいことが理解できるにとどまり,それ以上に,基板の厚さとガラス基板の厚さ方向に生じるクラックの長さとの関係を示唆するものではなく,他にそのような示唆を認めるに足りる記載も存在しないまして ,。 ,「mm以下「1mm以上」という具体的な厚さについて,ガラス基板の」厚さ方向に生じるクラックの長さとの関連において理解することが可能な記載が,当初明細書に存在すると認めることは到底できない。 (い) 原告は,当初明細書には,本件発明の目的に対応する従来技術の課題として,2.3mmの基板にマーキングすることの困難性を挙げて- 25 -いるとも主張する。 当初明細書には,厚さ約2.3mmの石英基板の内部にマーキングを行えるようにしたものもあったが,十分厚い透明材料にマーキングすることはできるものの,レーザ光の焦点の深さを精密に制御することは困難である旨記載されている(前記( )(ア)参照。ここで,レーザ光の焦 ),,点の深さを精密に制御することの困難性について具体的に考察すると通常の凸レンズを用 の深さを精密に制御することは困難である旨記載されている(前記( )(ア)参照。ここで,レーザ光の焦 ),,点の深さを精密に制御することの困難性について具体的に考察すると通常の凸レンズを用いた場合には,レーザ光の光軸がレンズの光軸に対して傾くと,凸レンズの収差の影響により集光点が浅い位置に移動するため,広い範囲にマークを形成することが困難であり,十分厚い透明材料にマーキングすることはできるものの,レーザ光の焦点の深さを精密に制御することは困難であったことをいうものと解される(前記( )(ウ) 参照。 )一方,当初発明については,fθレンズを用いることにより,透明材料の表面に達しないクラックを発生させ,レーザ光を走査しても集光点の深さをほぼ一定に保ち,歪の少ない模様を描くことを可能にしたものとされ(前記( )(ア)(ウ)参照,その実施例としては,十分厚い透明材 )料である10mmの石英基板及び厚さ2mmのPMMA基板について,基板表面に損傷を与えることなく内部にのみマーキングできたとされている(前記( )(エ)参照。これに照らせば,当初明細書に記載された厚 )さ2mmのPMMA基板の実施例というのは,透明基板内部にマーキングできた厚さの下限の例(最も薄い例)を示したものと理解することはできても,これをもって厚さの上限値(最も厚い限度の数値)を示しているものと理解することは到底できない。 上記のとおり,当初明細書に,従来技術の課題として2.3mmの基板にマーキングすることの困難性が挙げられているとしても,これをもって,マーキング対象物の厚さの上限値を2mmとすることが,当初明- 26 -細書に記載された事項から当業者が自明に理解できるということは,到底できない。 (う) 原告は,本件発明が記載事項b(厚さ1~2mm ング対象物の厚さの上限値を2mmとすることが,当初明- 26 -細書に記載された事項から当業者が自明に理解できるということは,到底できない。 (う) 原告は,本件発明が記載事項b(厚さ1~2mmのガラス基板に「マーキングを行うと,基板内部のみならず,表面にもクラックが発生してしまうことが判明した)の問題点を解決するものであることが,。」当初明細書において明示的に説明されていると主張する。 しかし,当初明細書には,基板表面に損傷を与えることなく内部にのみマーキングできたものとして厚さ2mmのPMMA基板を使用した場合の実施例が記載されているものの,厚さ1~2mmのガラス基板ないし透明基板の表面に損傷を与えることなく内部にのみマーキングできたことを示す記載は一切存在しないのであるから,原告の主張は,失当というほかはない。 原告は,通常紫外線吸収剤が含有され,内部マーキングしにくいPMM(イ)Aで2mm厚に対して内部マーキングをすることができており,通常紫外線吸収剤を含有しないガラス基板内部はマーキングしやすいから,より薄い対象物であっても内部マーキングできると主張し,また,当初明細書に実施例としてマーキング対象物の厚さが10mmとされているのは,本件発明が厚さ10mmの対象物へのマーキングを目的とするものであるということではなく,ただ2mmより厚い対象物に対しては,本件発明の方法を用いなくても対象物の内部にマーキングを行えるということであるとも主張する。 しかし,そもそも,当初明細書には1~2mmの厚さの材料に対してマ,,ーキングが可能である旨の記載が一切存在しない上原告の上記各主張はいずれも当初明細書における具体的な記載に基づかない主張というほかはなく,採用する余地はない。 原告は,甲13~甲16,甲21~甲30を挙げて が可能である旨の記載が一切存在しない上原告の上記各主張はいずれも当初明細書における具体的な記載に基づかない主張というほかはなく,採用する余地はない。 原告は,甲13~甲16,甲21~甲30を挙げて,一般の板ガラスに(ウ)- 27 -おいては3mmの厚さがシェアの7割程度を占めることに照らせば,ガラスのようなマーキング対象物について,当業者は,3mmよりも薄い「2mm以下」の厚さを「薄い」と理解するものであり,また,当業者は,本件特許の技術の現実の対象としての「薄い」対象物とは,2mm以下の厚さの液晶基板やプラズマディスプレイパネル(PDP)基板であると理解する旨を主張する。 しかし,前記のとおり,そもそも,当初明細書には1~2mmの厚さの。 ,材料に対してマーキングが可能である旨の記載が一切存在しない加えて補正が適法かどうかは,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内かどうかにより決せられるものであるところ,原告の主張する板ガラスの標準的な厚さや液晶基板,プラズマディスプレイパネルに関する事項は当初明細書に記載されているものではなく,また,これらの事項が当初明細書の記載から当業者が当然に理解することのできる事項であると認めるに足りる証拠もない。原告の主張は,採用できない。 ( ) 小括 以上によれば,当初明細書には,厚さが2mmよりも薄いマーキング対象物を使用してその内部にマークを形成することについての記載及び厚さ1mm以上のマーキング対象物を使用することが好ましい旨の記載は,一切存在せず,当初明細書を見た当業者においてこれらの事項が明らかに理解できるような記載があると認めることもできない。したがって,補正事項1及び2が当初明細書に記載された事項の範囲内であるとすることはできないから,本件発明1ないし4につ いてこれらの事項が明らかに理解できるような記載があると認めることもできない。したがって,補正事項1及び2が当初明細書に記載された事項の範囲内であるとすることはできないから,本件発明1ないし4についての特許が特許法17条の2第3項に規定する要件を満たさない補正をした特許出願に対してされたものであるとの審決の判断に誤りはない。 結論 そうすると,原告主張のその余の取消事由について判断するまでもなく,本- 28 -件発明1ないし4についての特許を無効にするとの審決の結論に誤りがあるということはできない。その他,審決に,これを取り消すべき誤りは見当たらない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官佐藤久夫裁判官三村量一裁判官古閑裕二

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