平成17(ワ)505 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成19年6月13日 名古屋地方裁判所
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判決文本文25,801 文字)

平成17年(ワ)第505号損害賠償請求事件主文 被告は,原告aに対し,495万円及びこれに対する平成14年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告bに対し,165万円及びこれに対する平成14年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告cに対し,165万円及びこれに対する平成14年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告dに対し,165万円及びこれに対する平成14年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,これを6分し,その5を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。 この判決は,第1ないし第4項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告aに対し,3241万3810円及びこれに対する平成14年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告bに対し,1153万7936円及びこれに対する平成14年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告cに対し,1153万7936円及びこれに対する平成14年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告dに対し,1153万7936円及びこれに対する平成14年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,e病院(以下「被告病院」という。)において,fが,麻酔をかけられた状態でガンマナイフ治療の前提となるMRI検査を受けたところ,検査終了直後に呼吸停止状態に陥っていることが判明し,同検査から27日後に死亡したことにつき,fの遺族である原告ら fが,麻酔をかけられた状態でガンマナイフ治療の前提となるMRI検査を受けたところ,検査終了直後に呼吸停止状態に陥っていることが判明し,同検査から27日後に死亡したことにつき,fの遺族である原告らが,被告病院の医師らに,麻酔剤の使用及びMRI検査中のモニタリング等につき過失があったとして,被告に対し,損害賠償及びfが死亡した日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の遅延損害金の支払を求めた事案である。 争いのない事実等以下の事実は,当事者間に争いがないか,当該箇所に掲記の証拠により認められる。 (1) 当事者ア原告ら原告aは,fの妻であり,原告b,原告c及び原告dは,いずれもfの子である。 イ被告被告は,被告病院を開設,運営する地方公共団体である。 (2) 診療経過以下,平成14年については年の記載を原則として省略する。 アfは,昭和2年2月28日生まれであり,心筋梗塞及び糖尿病の既往を有していた。 イfは,平成12年ころから左眼瞼下垂及び左眼筋麻痺などの症状を呈していた。 平成14年6月には,g病院において,左海綿静脈洞髄膜腫の診断を受けた。 ウfは,7月5日,g病院の紹介により,被告病院を受診し,医師から,ガンマナイフ治療の適応がある旨の診断を受けた。 ガンマナイフ治療とは,放射線であるガンマ線を脳内の病変に照射し同病変を消失させる治療法をいう。ガンマ線を病変に確実に照射するために,患者の頭部をフレームで固定した上で,脳血管撮影・CT・MRIなどの検査を行い病変の座標を決定する作業が必要になる(乙A19号証)。金属製の上記フレームを頭部に装着する際に生じる痛みを緩和するために,頭部に対し麻酔をかける(甲A1号証)。 エfは,8月1日,ガンマナイフ治療のため,被告病院に入院した。同月2日に同治療を実施し,同月 の上記フレームを頭部に装着する際に生じる痛みを緩和するために,頭部に対し麻酔をかける(甲A1号証)。 エfは,8月1日,ガンマナイフ治療のため,被告病院に入院した。同月2日に同治療を実施し,同月3日に退院する予定であった。 オ8月2日の経過の概要は以下のとおりである。 (ア) 午前8時ころ,fは,麻酔前投薬である硫酸アトロピン0.5mg,ドロレプタン1ml(ドロペリドール2.5mg),フェノバール100mg及びデカドロン1mgの注射を受けた。 (イ) fは,ガンマナイフ室に搬送され,同室において,麻酔薬であるソセゴン15mg,1%キシロカインの投与を受け,頭部に頭部金属フレームを装着された。 (ウ) fは,MRI検査室に搬送され,同室において,MRI検査が実施された(以下「本件MRI撮影」という。)。同撮影の際,h放射線技師(以下「h技師」という。)は検査室内をモニターする画面のあるMRI操作室にいたが,少なくとも機械によるモニター及び医師による監視は行われなかった。 (エ) 本件MRI撮影中に,fは呼吸停止及び心停止に陥った(以下「本件事故」という。なお,呼吸停止及び心停止が発生した各時刻,先後関係等の機序については後述のとおり争いがある。)。同撮影終了後,放射線技師が,上記呼吸停止に気づいた。医師及び看護師がfをガンマナイフ室に搬送し,心肺蘇生を行ったところ,心拍が再開した。 カ本件事故後,fは昏睡状態を続け,8月6日,呼吸確保のための気管切 開を施された。 キfは,昏睡状態を続け,8月17日,完全房室ブロックによる心停止を起こし,蘇生措置を受けた。 クfは,昏睡状態のまま,8月29日,完全房室ブロックによる心停止を起こし,死亡した。 争点 (1) 事前の検査検討を怠った過失の有無ア心筋梗塞の既往の把握イ心電図の 蘇生措置を受けた。 クfは,昏睡状態のまま,8月29日,完全房室ブロックによる心停止を起こし,死亡した。 争点 (1) 事前の検査検討を怠った過失の有無ア心筋梗塞の既往の把握イ心電図の読みとり(2) 麻酔剤過剰投与の過失の有無(3) 麻酔投与後のモニターに関する過失の有無アMRI検査室搬送までの間の監視イ生体監視モニター装置による監視ウ医師による監視(4) 因果関係の存否ア本件に至る機序イ救命可能性(5) 損害 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)ア(事前の検査検討を怠った過失の有無-心筋梗塞の既往の把握)について(原告らの主張)ア被告病院の医師には,ガンマナイフ施術以前に,カンファレンスなどにおいてfの状態について十分な検討を行い,fに心筋梗塞等の既往があることを把握しておくべき注意義務があった。 イ被告病院の医師は,上記注意義務に反し,fが心筋梗塞の既往を有する ことを本件事故が発生するまで把握していなかった。このことは,本件事故発生直後に,原告dがi医師に対し,「心筋梗塞の再発ですか。」と尋ねた際,同医師が「えっ。」と驚き,「心筋梗塞をやっていたの。」と発言したことから明らかである。 (被告の主張)被告は,ガンマナイフ施術以前に,fが心筋梗塞の既往を有していることを把握していた。このことは,外来カルテ,g病院からの診療情報提供書及び看護記録に,心筋梗塞の既往がある旨の記載があることなどから明らかである。 原告らの主張イの会話については不知。 (2) 争点(1)イ(事前の検査検討を怠った過失の有無-心電図の読みとり)について(原告らの主張)アfは,心筋梗塞及び糖尿病を既往症として有した高齢の患者であったのであるから,被告病院の医師には,ガンマナイフ施術前に,十分な検査及び 過失の有無-心電図の読みとり)について(原告らの主張)アfは,心筋梗塞及び糖尿病を既往症として有した高齢の患者であったのであるから,被告病院の医師には,ガンマナイフ施術前に,十分な検査及び症例検討をすべき注意義務があった。 イ具体的には,7月5日に12誘導心電図検査が実施されたが,同検査結果からは,完全右脚ブロックと左軸偏位が認められる二枝ブロックに加えて,第1度の房室ブロックが認められた。これらの状態からは,不安・緊張・低酸素・麻酔などにより,容易に伝導障害を悪化させて完全房室ブロックの出現を始めとした心疾患の急変を容易に予見し得る。被告病院の医師には,fの上記状態を心電図検査結果から読みとり,容態が急変する危険性を認識すべき注意義務があった。 ウ被告病院の医師は,上記注意義務に反し,術前に心電図の読みとりを行わず,上記危険性を認識しなかった。 (被告の主張) ア被告病院の医師らは,fについて神経学的所見のほか,心電図,胸部X線撮影,頭蓋X線撮影,血液一般検査及び感染症検査を行ったものであり,ガンマナイフ前の検査として必要かつ十分な検査を行った。また,脳神経外科全体のカンファレンスでガンマナイフ治療の適応につき検討した。7月5日に施行された12誘導心電図検査については,同日,被告病院循環器内科医師により,読み取りと心電図診断が行われている。 イ第1度房室ブロックとは,PQ間隔(説明は後記第3の1(4))が成人で0.22秒以上の場合をいうところ,心電図上,fのPQ間隔は0.20秒であったことから,fには第1度房室ブロックは認められなかった。 (3) 争点(2)(麻酔剤過剰投与の過失の有無)について(原告らの主張)アドロレプタンは,深刻な心血管系の副作用を起こす危険があり,慎重な投与を要求される薬剤である。ドロレプタ られなかった。 (3) 争点(2)(麻酔剤過剰投与の過失の有無)について(原告らの主張)アドロレプタンは,深刻な心血管系の副作用を起こす危険があり,慎重な投与を要求される薬剤である。ドロレプタンの添付文書には,心疾患のある患者及び高齢者に対しては,慎重投与と明記されており,中でも高齢者については,減量するなどして注意することと明記されている。また,米国食品医薬品局(FDA)は,2001年12月に,ドロレプタンの使用に際しては,事前の12誘導心電図検査でQT時間延長がないことを確認した上,投与後には十分な心電図モニターが必要である旨の警告を発していた。これらのドロレプタンの危険については,平成14年2月25日の時点で周知されており,被告病院においても認識し得た。 イまた,ドロレプタンは,フェノバール及びソセゴンと併用される場合,呼吸機能を含めた中枢神経抑制効果が増幅されることになる。そのため,上記3薬剤の使用により,fの完全右脚ブロック,左脚前上枝ブロック及び第1度房室ブロックが完全房室ブロックに移行することは十分に予見できた。 ウしたがって,被告病院の医師は,高齢者,心疾患及び糖尿病という高リ スクを有したfの場合,まずはドロレプタンの低用量から投与を開始して,適宜患者の状態に適合した使用量を選ぶタイトレイション法を適用すべきだった。具体的に麻酔科臨床医としての臨床経験に基づいて判断した場合,被告病院の医師は,fに対し,フェノバール100mg,ソセゴン15mgを併用投与するとした場合,ドロレプタンについては,成人初回投与の場合の最大量である2.5mgを3分の1に減量した0.8mgから開始し,薬剤効果と呼吸抑制その他副作用等が発生していないかを確認しながら追加投与すべき注意義務があった。 エところが,被告病院の医師は,上記 大量である2.5mgを3分の1に減量した0.8mgから開始し,薬剤効果と呼吸抑制その他副作用等が発生していないかを確認しながら追加投与すべき注意義務があった。 エところが,被告病院の医師は,上記注意義務に反し,fに対し,当初からドロレプタン2.5mg,フェノバール100mg及びソセゴン15mgという過量の薬剤を投与した。 (被告の主張)アガンマナイフ治療を行う上で欠かすことのできない頭部金属フレーム装着の際に生じる強い痛みを緩和し,患者の不安を除去するためには,ドロレプタンを始めとする麻酔剤の使用が必要不可欠である。そして,ドロレプタンの投与量2.5mgは極めて標準的な量である。すなわち,米国における同剤の能書では,用法及び用量として,麻酔前投薬の場合,通常成人2.5ないし10mgを麻酔開始前30ないし60分前に筋注するとある。 我が国における同剤の添付文書では,用法及び用量として,麻酔前投薬の場合,体重1kgあたり0.05ないし0.1mgを麻酔開始30ないし60分前に筋注するとあり,fの体重46.3kgに照らすと,2.315ないし4.63mgが適量であるといえる。 イ原告らがその主張の根拠としている米国FDAの警告に対しては,臨床現場から猛反発が起こり,現在に至るまで議論が終結していないのであり,その妥当性について大きな疑問が残されている。心筋梗塞の既往については,自身医師であるfから,15年以上前のことであり,以来極めて元気 に活動している旨を聴取しており,胸苦,動悸及び不整脈の訴えも一切なかった。fは,あくまで心疾患の既往を有する者であり,心疾患を有する患者ではない。 ウドロレプタンの能書には,フェノバールとの併用により「中枢神経抑制作用が増強され覚醒が遅延することがある」との記載はあるが,呼吸機能が抑制されるとの記 る者であり,心疾患を有する患者ではない。 ウドロレプタンの能書には,フェノバールとの併用により「中枢神経抑制作用が増強され覚醒が遅延することがある」との記載はあるが,呼吸機能が抑制されるとの記載はない。また,ソセゴンの能書には,フェノバールとの併用により「本剤の作用が増強されることがある」との記述はあるが,中枢神経抑制作用を増強することになるとの記述はない。 エフェノバールの通常用量は,成人1回50ないし200mgを1日1ないし2回,すなわち1日50ないし400mgであるところ,本件における同剤の投与量は100mgであり,十分に減量された量といえる。また,ソセゴンは,麻酔補助として用いられており,その通常用量は30ないし60mgであるところ,本件における同剤の投与量は15mgであり,十分に減量された量であるといえる。 オしたがって,ドロレプタン,フェノバール及びソセゴンの本件における併用は過量な投与ではない。 (4) 争点(3)ア(麻酔投与後のモニターに関する過失の有無-MRI検査室搬送までの間の監視)について(原告らの主張)ア麻酔剤を投与した患者に対しては,医師が付き添って,持続的に絶え間なく,容態を監視すべきである。この注意義務は,麻酔剤投与後30分を経過した以降も課せられるというべきである。 具体的には,(ア)血液酸素化のチェックとして,皮膚,粘膜及び血液の色などを監視し,パルスオキシメーター等を装着すること,(イ)換気のチェックとして,胸郭の動き及び呼吸音を監視すること,(ウ)心電図モニターを用いること,(エ)血圧測定を原則として5分間隔で測定し,必要なら より頻回に測定すること,を行うべきである。 イ被告病院の医師は,上記注意義務に違反して,これらの監視や測定を行わなかった。 (被告の主張)アfは,ドロレプ として5分間隔で測定し,必要なら より頻回に測定すること,を行うべきである。 イ被告病院の医師は,上記注意義務に違反して,これらの監視や測定を行わなかった。 (被告の主張)アfは,ドロレプタンなどの麻酔前投薬を投与されて以降,MRI検査室に入るまでの約40分間について,医師及び看護師の継続的な監視下にあった。 イガンマナイフ室において,fは,心電図モニター及び血圧測定装置の下で,麻酔剤の投与及び頭部金属フレームの装着がなされた。その間の約15分間,fの呼吸状態は良好で,血圧にも大きな変動は見られなかった。 このように,全身状態に問題がないと判断されたからこそ,fはMRI検査室に搬送されたのであり,麻酔剤投与後,MRI検査室へ搬送されるまでの間,麻酔後の病状監視として十分な監視・モニタリングが継続して行われたといえる。 (5) 争点(3)イ(麻酔投与後のモニターに関する過失の有無-生体監視モニター装置による監視)について(原告らの主張)ア(ア)fが,高齢で心筋梗塞及び糖尿病に罹患している患者であること,(イ)麻酔剤投与による完全房室ブロックの発生が予見されること,(ウ)麻酔後の状態であること,(エ)頭部金属フレームの装着により頭部が固定されていることから,容態が急変した場合,フレームの脱着に相当の時間を要することにかんがみれば,本件において,MRI検査に際し,fには十分な監視・モニターをつけるべき注意義務があった。 イ具体的には,MRI室内で使用可能なパルスオキシメーター(動脈血酸素濃度を連続的に計測する装置)をfに装着して,MRI検査を行うべきであった。この装置は,被告病院のように第三次救急指定病院で高次医療 を提供するレベルの病院にあっては,相当程度普及していた。 あるいは,心電図モニター,指尖容積脈波及び呼吸波形 I検査を行うべきであった。この装置は,被告病院のように第三次救急指定病院で高次医療 を提供するレベルの病院にあっては,相当程度普及していた。 あるいは,心電図モニター,指尖容積脈波及び呼吸波形モニターの少なくともいずれかをfに装着して,MRI検査を行うべきであった。被告病院が使用していたMRI装置には,これらのモニター装置が標準装備されているので,装着して使用することは容易であった。 ウところが,被告病院は,上記注意義務に反し,パルスオキシメーターをMRI検査室内に設置していなかったし,MRI装置から上記モニター装置を外していた。 (被告の主張)アMRI対応のパルスオキシメーターなどの監視装置は,本件事故当時,全く普及していなかった。したがって,被告病院が,同装置を設置していなかったことは,本件事故当時の医療水準に照らし,過失とはいえない。 イ愛知県下主要10病院のうち,平成17年3月23日現在ですら,MRI検査中のモニタリング状況は,心電図モニタリングが1件,酸素飽和度モニタリングが1件であり,呼吸モニタリングを行った例はなかったのであり,本件当時はもちろんのこと,現在でも,MRI検査中のモニタリングとしては,テレビモニターを通してのモニタリングが標準的な医療水準である。したがって,原告の主張する各モニタリングを行っていなかったことについて,過失はない。 ウ本件で使用されたMRI装置には,指尖容積脈波モニター(装置及び脈波計)は装備されていなかった。そもそも,指尖容積脈波装置は,動脈硬化等の血管性疾患を診断するための検査に用いる装置であり,モニタリング装置ではないし,脈波計はMRI検査中の使用が禁止されている。 (6) 争点(3)ウ(麻酔投与後のモニターに関する過失の有無-医師による監視)について(原告らの主張) 装置であり,モニタリング装置ではないし,脈波計はMRI検査中の使用が禁止されている。 (6) 争点(3)ウ(麻酔投与後のモニターに関する過失の有無-医師による監視)について(原告らの主張) アfのように麻酔による鎮静下にあり,しかも全身麻酔に準じた状態にある患者については,医師の監視は不可欠である。さらに,fの場合には,ガンマナイフを受けることから頭蓋フレームを装着しており,容態の急変があった場合には,同フレームの取り外しに相当の時間を要することから考えると,かかる点からも,医師が付き添っているべきであった。 イしたがって,MRI検査室内において生体監視モニター装置による監視に加えて,医師には,同室内に入って付添い,監視をすべき注意義務があった。仮に機械と医師の両方による監視が必要でないとしても,少なくとも医師の付添いによる監視をすべき注意義務があった。実際,鎮静中の患者に対する医師による付添監視は各医療機関で行われている。 仮に,医師がMRI検査室内において,MRI装置の傍らに付き添えない特段の事情が存した場合,医師には,MRI操作室においてテレビモニター画面を通じて監視すべき注意義務があった。 ウところが,被告病院の医師は,上記注意義務に反し,fがMRI検査を行う間,MRI検査室内及び操作室内におらず,操作室から放射線技師一人がfの様子を見ていたに過ぎない。放射線技師は,胸郭の動きから呼吸状態を判断できる専門的知見ないし訓練を受けておらず,しかも撮影装置の操作を行っているのであるから,十分に患者の胸郭の動きを監視できない。 (被告の主張)ア放射線技師は,MRI操作室において,撮影のための操作だけでなく,テレビモニターを通してfの呼吸状態を監視していた。 イfに施された麻酔は局所麻酔であり,全身麻酔ではないのであるか 被告の主張)ア放射線技師は,MRI操作室において,撮影のための操作だけでなく,テレビモニターを通してfの呼吸状態を監視していた。 イfに施された麻酔は局所麻酔であり,全身麻酔ではないのであるから,本件においては,MRI検査中の医師による付添監視義務が生じることはない。 ウh技師は,被告病院で行われたガンマナイフ検査前のMRI検査530 0例余りの約半数に立ち会っているベテラン技師であり,経験豊富であるだけでなく,患者の状態把握についても教育を受けていることから,患者の状態を把握する能力は極めて高く,信頼し得る。 (7) 争点(4)ア(因果関係の存否-本件に至る機序)について(原告らの主張)アfは,麻酔剤の使用による高度の鎮静効果から,意識喪失,舌根沈下,上部気道閉塞状態を発現した結果,呼吸が抑制され,8時45分から8時52分の間に呼吸停止の状態になり,これを原因として心停止が生じた。 このことは,(ア)8時45分の時点では画像上脳血流に異常が見られないのに対し,8時52分の時点では画像上脳血流の異常が見られること,(イ)8時46分ころ及び8時52分ころに撮影された画像がいずれもずれており,体動があったと考えられることから両時刻に呼吸状態に変調を来していたとみられること,(ウ)診療録(乙A1号証の2,142及び143頁)に,技師が呼吸停止を発見した後,気管内挿管までの間に心拍があったとの記載があること,から明らかである。 fは,MRI検査中いびきをかいていたが,これは睡眠状態にあったのではなく,麻酔鎮静下のために意識がないか意識障害の状態にあったことを意味する。放射線技師が膝からももを軽くたたきながら声をかけても覚醒しなかったことは,睡眠状態にはなかったことを示している。仮に8時45分から8時52分の時点で自発呼吸があった の状態にあったことを意味する。放射線技師が膝からももを軽くたたきながら声をかけても覚醒しなかったことは,睡眠状態にはなかったことを示している。仮に8時45分から8時52分の時点で自発呼吸があったとしても,係る呼吸は異常な呼吸状態(努力性呼吸)であった。 イ被告の,心停止が先行したとの主張に対しては,以下のとおり反論する。 (ア) MRI検査中,8時52分には脳の血流異常が発生していたのであるから,被告が主張するように心停止が呼吸停止に先行していた場合,心停止は8時52分以前に生じていたことになる。一方で,被告は8時52分,8時58分及び9時05分に呼吸を確認したとも主張している。 そうすると,心停止後13分以上も呼吸があったことになり,不合理である。 (イ) 8月17日及び同月29日の完全房室ブロック発生をもって,同月2日にも完全房室ブロックが発生したと推測することはできない。なお,8月17日及び同月29日に発生した完全房室ブロックは,被告の主張する間歇性という特殊な房室ブロックではなく,一般的に見られる完全房室ブロックである。 ウただし,仮に完全房室ブロック発生により心停止が生じたとしても,それは本件麻酔剤投与によるものである。fには7月5日の心電図によれば完全右脚ブロック,左脚前上肢ブロック及び第1度房室ブロックが認められたところ,これらが存する場合には,麻酔時において完全房室ブロックに移行することは極めて頻度が高く,周知の事実とされている。 (被告の主張)アfの発見時の状況からは,心停止と呼吸停止の前後関係及び心停止の発生時期を特定することはできない。 ただし,(ア)fが,本件事故後にも,わずか1か月弱の間に2度心臓の伝導障害により心停止を起こしていること,(イ)8月17日の完全房室ブロックの際には,呼吸のある状態で 期を特定することはできない。 ただし,(ア)fが,本件事故後にも,わずか1か月弱の間に2度心臓の伝導障害により心停止を起こしていること,(イ)8月17日の完全房室ブロックの際には,呼吸のある状態で心電図上にP波のみ存在する状態が継続したこと,(ウ)8時52分実施のMRI画像に見られる脳の血流異常は心拍出量の異常を示すものではあるが,心停止があったとは必ずしもいえないこと,並びに(エ)8時52分,8時58分及び9時5分の各時点で,fの呼吸を放射線技師が確認していること,からすれば,fは,心臓の伝導障害(間歇性完全房室ブロックの反復)により,徐々に心拍出量が低下し,8時52分以降,9時8分ころまでの間のいずれかの時点で心停止の状態になり,これが原因で呼吸停止に至ったものと推測される。 イ本件事故は,fの死亡の原因ではない。救命措置及び集中治療センター における処置により,平成14年8月10日の時点では,fの状態は安定し,しっかりと自発呼吸をするまでに回復していた。 ウ原告らの,麻酔剤による呼吸抑制から呼吸停止に至ったとの主張に対しては,以下のとおり反論する。 仮に麻酔剤投与により呼吸抑制が生じたのであれば,麻酔剤の投与から間もない時間帯に生じるのが通常であるところ,fにおいては,麻酔剤が投与された午前8時25分ころから少なくとも午前9時02分ころまでの37分間,呼吸に異常は見られなかった。 エ完全右脚ブロック,左脚前上枝ブロック及び第1度房室ブロックが合併した場合には,麻酔時において完全房室ブロックを生じる頻度が高い旨の原告らの主張は,医学的知見による基礎付けのない見解であり,周知の事実ではない。また,fは2枝ブロックではあったが,第1度房室ブロックではなかった。 (8) 争点(4)イ(因果関係の存否-救命可能性)(原告らの主張 学的知見による基礎付けのない見解であり,周知の事実ではない。また,fは2枝ブロックではあったが,第1度房室ブロックではなかった。 (8) 争点(4)イ(因果関係の存否-救命可能性)(原告らの主張)ア上記麻酔剤投与に係る過失がなければ,fは呼吸停止に陥ることはなく,呼吸停止に陥っても,上記監視に係る各過失がなければ,直ちに呼吸停止を確認して早期の救命措置が可能であったから,fが以後昏睡状態を継続して死亡することはなかった。したがって,上記各過失とfの死亡という結果の間には因果関係が認められる。 イモニターに関する上記注意義務が履行されていれば,遅くとも8時58分の時点でfの急変を発見でき,直ちにMRI装置から運び出し,気道確保をした上で,急変発見から3ないし4分以内に心肺蘇生措置に着手でき,その結果低酸素脳症を来すことなく,重大な脳障害を回避し得たのであり,その後の死亡にもつながらなかった。 ウ被告の,救命可能性がなかったとする主張には,以下のとおり反論する。 (ア) MRI装置の磁場を発生する装置は緊急停止が可能であり,直ちに磁場を消滅させることは可能であった。 (イ) 緊急時においては,MRI検査室内でアンビューバッグによる補助呼吸が直ちに行われれば足りるのであり,かかる補助呼吸にスペースは要しない。また,気管内挿管であっても,MRI検査室内で行うことは可能である。よって,MRI検査室内における心肺蘇生は可能である。 (ウ) fに装着されていた金属フレームには,気道確保ができるようにする開口部が設けられていたのであり,かかる開口部を用いれば容易に気管内挿管は可能であった。仮に金属フレームを外す必要があったとしても,金属フレームを引き抜けば直ちに脱着は可能であり,同フレームを外すのに1ないし2分も時間を要することはない。 を用いれば容易に気管内挿管は可能であった。仮に金属フレームを外す必要があったとしても,金属フレームを引き抜けば直ちに脱着は可能であり,同フレームを外すのに1ないし2分も時間を要することはない。 (被告の主張)ア本件事故と死亡との因果関係については争う。救命措置及び集中治療センターでの処置により,8月10日の時点では,fの状態は安定し,しっかりと自発呼吸をするまでに回復していた。 イ睡眠と意識障害,あるいは,睡眠によるいびきと舌根沈下によるいびきを判別することは時に困難である。本件のように,不規則呼吸やシーソー呼吸が認められない場合には,たとえ医師ないし看護師が本件MRI撮影に付き添っていたとしても,放射線技師より早く急変を発見する可能性はなかった。 ウ高い磁場を有し,かつ十分なスペースの確保できないMRI検査室内で心肺蘇生術を施すことは不可能であり,同術を施行するためには,fを隣室のガンマナイフ室に移動させる必要があった。MRI装置を緊急停止させても磁場はすぐに消滅するわけではない。 しかし,放射線技師がfの呼吸停止に気づいた時点では,同人の身体は,MRI撮影用のテーブルに固定された状態であり,しかもマグネットルー ム内にあった。さらに,同人の頭部には,外すのに1ないし2分を要する金属フレームが装着されていたところ,このフレームを外さなければ気管内挿管は不可能であった。なお,fに装着された金属フレームには,患者の口を避けるように湾曲が付されているが,これは検査中の嘔吐ないし口腔内の吸引に対応するためのものであり,気道確保のためのものではない。 以上より,呼吸停止にすぐ気づいて心マッサージによる心蘇生術は直ちに開始できたとしても,気管内挿管による呼吸蘇生術が開始できるまでには早くても4ないし5分かかる。さらに,本件の場合,心 のではない。 以上より,呼吸停止にすぐ気づいて心マッサージによる心蘇生術は直ちに開始できたとしても,気管内挿管による呼吸蘇生術が開始できるまでには早くても4ないし5分かかる。さらに,本件の場合,心停止が呼吸停止に先行していたのであるから,心停止から3ないし4分以内に有効な呼吸・循環が再開された可能性はない。なお,心肺停止状態における蘇生術としてまず行われるべきは心臓マッサージであり,アンビューバッグによる補助呼吸ではない。 したがって,本件においては,fの救命可能性はなかったといえるのであり,因果関係はない。 (9) 争点(5)(損害)について(原告らの主張)ア逸失利益2836万0991円死亡前年の年収935万8272円を基礎に,平均余命年数11.07年の2分の1である5年間就労可能であったから,対応するライプニッツ係数(4.3294)を乗じた上で,生活費を30%控除すると,逸失利益は上記金額となる。 イ慰謝料2600万円fは,3日間の入院予定で治療を受けたにもかかわらず,突如帰らぬ人となったのであり,本人の精神的苦痛は筆舌に尽くし難く,慰謝料としては上記金額を下ることはない。 ウ葬儀費用366万6630円 エ弁護士費用460万円オ相続原告らは,fが有する上記合計6262万7621円の損害賠償請求権を,原告aが2分の1,原告b,原告c及び原告dがそれぞれ6分の1の割合で相続した。 カ原告ら固有の慰謝料各100万円キ原告ら固有の弁護士費用各10万円(被告の主張)争う。 第3争点に対する判断 当該箇所に掲記の証拠及び弁論の全趣旨から,以下の事実が認められる。 (1) 前医における心臓の検査fは,被告病院受診前,g病院において,心エコー検査を受けた。同検査の結果,fの心臓は,左室前壁,中隔及び 所に掲記の証拠及び弁論の全趣旨から,以下の事実が認められる。 (1) 前医における心臓の検査fは,被告病院受診前,g病院において,心エコー検査を受けた。同検査の結果,fの心臓は,左室前壁,中隔及び心突部の壁運動が低下し,左室駆出率が24%と低下していた(甲A5及び同6号証)。左室駆出率とは,心臓の収縮機能の指標であり,年間死亡率は駆出率35%以下で上昇し始め,25%以下になると著明に上昇する(甲B32号証)。 このことは,fが本件事故に近接した時点で陳旧性前壁中隔心筋梗塞又は心筋症を発症していたことを意味する(甲A6号証)。 ただし,上記検査を実施したこと及びその検査結果は,被告病院の医師らには知らされていなかった(j医師証言)。 (2) 既往歴の把握被告病院の診療録及びg病院からの診療情報提供書には心筋梗塞及び糖尿病の既往の記載があり(乙A1号証5頁),j医師は,同提供書を見ながらfに問診を行い,被告病院のカルテ既往歴欄に心筋梗塞及び糖尿病と記載した(j医師証言及び乙A1号証4頁)。 (3) 被告病院における術前検査7月5日,fは,被告病院において,一般血液検査,胸部X線写真,頭蓋X線写真,心電図,スクリーニング,感染症検査の各検査を受けた(乙A1号証6頁)。 (4) 心疾患に関する医学的知見ア房室ブロックとは,心房興奮が心室に伝導される過程の障害をいい,その程度により第1度ないし第3度に分類されている。 最も軽度な第1度房室ブロックは,心房興奮が心室に伝導されるまでに要する時間である房室伝導時間が延長するものをいう。房室伝導時間の心電図による判断基準は,P波(心房の興奮により生じる波)が発生してからQRS波(心室の興奮により生じる波)が発生するまでの時間であるPQ間隔で計測し,文献によって異なるが,PQ間隔が0.20秒から 電図による判断基準は,P波(心房の興奮により生じる波)が発生してからQRS波(心室の興奮により生じる波)が発生するまでの時間であるPQ間隔で計測し,文献によって異なるが,PQ間隔が0.20秒から0. 22秒以上とされている(甲B16号証の2,3,乙B1号証)。第1度房室ブロックの場合,それ自体に対する治療は特に必要ではなく,基礎心疾患があればその治療を行う(甲B16号証の1,2)。 第2度房室ブロックは,房室伝導が間欠的に欠落したものをいい,第3度房室ブロック(完全房室ブロック)は,房室伝導が完全に中断されたものをいう(甲B16号証の3)。第3度房室ブロックの場合,心電図上には,P波とQRS波が互いに無関係に,それぞれ独自の周期で出現するという形で現れる(甲B16号証の3)。第3度房室ブロックに至ると,アダムス・ストークス症候群(意識消失発作),急死,心不全出現の危険がある(甲B16号証の2)。 イ右脚ブロックとは,右脚の興奮伝導が障害された状態をいう。そのうち,QRS時間(QRS波が発生して消滅するまでの時間)が0.12秒以上のものを完全右脚ブロックという。 左脚ブロックは,左脚の興奮伝導が障害された状態をいい,左脚前枝ブ ロックと左脚後枝ブロックに分類される(乙B1号証)。 (5) 本件MRI撮影の経緯(甲A4号証の1ないし6,乙A8,9,10号証,乙A11ないし13号証の各1,2,乙A18号証)アfは,ガンマナイフ室に搬送された後,心電図モニター及び血圧監視装置が装着された。 イ8時40分fは,医師1名及び技師1名により,ガンマナイフ室からMRI検査室へ搬送された。医師により,ガドリニウム造影剤が静脈注射された。 その際,ガンマナイフ室で装着されていた心電図モニター及び血圧監視装置が外された。 ウ8時43分ころ頭部 マナイフ室からMRI検査室へ搬送された。医師により,ガドリニウム造影剤が静脈注射された。 その際,ガンマナイフ室で装着されていた心電図モニター及び血圧監視装置が外された。 ウ8時43分ころ頭部造影MRI矢状断撮影が施行された(1分20秒)。 同MRI画像上は脳の血流に異常は見られない(甲A4号証の1)。 エ8時45分ころ頭部造影MRI軸位撮影が施行された(6分06秒)。 同撮影の途中,fの体動により,画像がずれた。 同MRI画像上は脳の血流に異常は見られない(甲A4号証の2及び3)。 オ8時52分ころ頭部造影MRI冠状断撮影が施行された(6分06秒)。 同撮影中も,fの体動により画像がずれた。 同MRI画像上,脳の血流の低下が見られる(乙A11号証の2,甲A4号証の4及び5)。 同撮影終了後,h技師が,fに対し,膝又は腿を軽くたたいて声をかけたが,fはいびきをかいており,返答がなかった。 カ8時58分ころ 頭部造影MRI軸位撮影が施行された(6分06秒)。 同撮影の途中である9時00分ころ,h技師は,別の患者に着替え場所を指示するなどの対応をしていた。 同MRI画像上,脳の血流の更なる低下が見られる(甲A4号証の6)。 キ9時05分ころ頭部造影MRI軸位撮影が施行された(3分20秒)。 ク9時08分ころ上記頭部造影MRI軸位撮影が終了した。h技師がMRI室内に入ると,fの呼吸が停止し,チアノーゼを起こしていた。 ケ9時10分ころfがガンマナイフ室に搬送され,心肺蘇生が開始された。心電図モニターを装着したが,心拍は認められなかった。 エピクイック(エピネフリン製剤)が投与され,頭部フレームが外され,気管内挿管が行われた。さらに,エピクイックが再度使用され,メイロン100mlが点滴静注された。しばらくして,心拍,血圧ともに戻っ エピクイック(エピネフリン製剤)が投与され,頭部フレームが外され,気管内挿管が行われた。さらに,エピクイックが再度使用され,メイロン100mlが点滴静注された。しばらくして,心拍,血圧ともに戻った。 コ9時45分以降脈拍及び血圧安定。集中治療室に搬送された。 自発呼吸再開するも,神経学的には昏睡状態。 争点(1)ア(事前の検査検討を怠った過失の有無-心筋梗塞の既往の把握)について上記に認定したとおり,被告病院のカルテにはfが心筋梗塞の既往を有していることの記載があった。また,術前のカンファレンスにおいて,同既往の存在は担当医に周知されていた(j医師証言)。 以上の事実からすれば,原告dの,i医師が心筋梗塞を把握していないかのような発言をしたとの供述(甲B40号証及び原告d本人尋問結果)は直ちに信用することはできない。ほかに,被告病院の医師らがfの心筋梗塞の既往を 把握していなかったと認めるに足りる証拠はない。 よって,被告病院の医師らに心筋梗塞の既往を把握していなかった過失は認められない。 争点(1)イ(事前の検査検討を怠った過失の有無-心電図の読み取り)について(1) 7月5日に実施された心電図検査の結果によれば,fのPQ間隔は0.20秒であったと認められる(乙A2号証及び同B5号証)。 また,同心電図からは,fが右脚完全ブロックと左軸偏位の二枝ブロックを発症していたことも認められる(争いのない事実)。 (2) 被告病院では,循環器科の医師が上記心電図の読みとりを行い,右脚完全ブロックと左軸偏位の二枝ブロックと判断した。なお,同循環器科医師及び被告病院の他の医師も,fを第1度房室ブロックとは判断していない。 (3) 上記に認定した医学的知見によれば,第1度房室ブロックの発生を判断するPQ間隔は,文献により0.20秒以上と 循環器科医師及び被告病院の他の医師も,fを第1度房室ブロックとは判断していない。 (3) 上記に認定した医学的知見によれば,第1度房室ブロックの発生を判断するPQ間隔は,文献により0.20秒以上とするものから0.22秒以上とするものまで分かれている。第1度房室ブロックの場合それ自体は特に治療を要しないことからすれば,判断基準に上記程度の幅があっても特段問題はない。とすれば,被告病院の医師らが,第1度房室ブロックの有無について,PQ間隔0.22秒以上を基準に判断することも合理的な裁量の範囲内であるといえる。したがって,fは第1度房室ブロックではなかったとする被告病院の医師らの判断は誤りとはいえない。 (4) 以上より,被告病院の医師らには,心電図の読みとりを怠った過失は認められない。 争点(2)(麻酔剤過剰投与の過失の有無)について(1) ドロレプタンは,1ml中にドロペリドール2.5mgを含有する注射液であり,麻酔前投薬のほか,局所麻酔の補助や導入麻酔剤として使用される薬剤である。 通常の用法,用量は,単独で麻酔前投薬として使用する場合,成人0.02ないし0.04ml/kgを投与することとされている(甲B2号証)。fの場合,本件当時の体重は46.3kgであったから(乙A1号証135頁),0.926ないし1.852mlということになる。使用上の注意として,心疾患のある患者及び高齢者については,慎重投与が求められている。高齢者に対する投与については,加えて減量するなど注意することとされている。 重大な副作用として,循環器に関連する項目では,不整脈・期外収縮・QT延長(心電図異常)・心室頻拍・心停止(いずれも頻度不明)が挙げられている(乙B4号証)。 (2) ソセゴンは,1ml中にペンタゾジン15mgを含有する薬剤であり,麻酔前投 ,不整脈・期外収縮・QT延長(心電図異常)・心室頻拍・心停止(いずれも頻度不明)が挙げられている(乙B4号証)。 (2) ソセゴンは,1ml中にペンタゾジン15mgを含有する薬剤であり,麻酔前投薬及び麻酔補助剤として使用される。 麻酔前投薬及び麻酔補助に用いられる場合の用法,用量は,通常ペンタゾジン30ないし60mgを筋肉内,皮下又は静脈内に注射する。高齢者の場合,薬剤の高い血中濃度が持続する傾向が認められていることから,低用量から投与を開始するとともに,投与間隔を延長するなど慎重に投与することとされている。また,重大な副作用として,呼吸抑制が挙げられている(以上甲B6号証)。 (3) フェノバールは,1ml中にフェノバルビタール0.1gを含有する薬剤で,不安緊張状態の鎮静作用などがある。 通常の用法,用量は,成人につき1回フェノバルビタール50ないし200mgを1日1ないし2回,皮下又は筋肉内注射する。高齢者の場合,呼吸抑制,興奮,抑うつ,錯乱等が現れやすいので,少量から投与を開始するなど慎重に投与することとされている。さらに,心障害のある患者に対しては,血圧低下や心拍数の減少を起こすおそれがあるので,慎重に投与することとされている。また,重大な副作用として,呼吸抑制が挙げられている(以上,甲B3号証)。 (4) 被告病院では,通常ガンマナイフ治療のための麻酔薬及び麻酔前投薬として,本件当時,麻酔前投薬として,硫酸アトロピン0.5mg,ドロレプタン1ml(2.5mg),フェノバール100mg及びデカドロン1mgを注射し,ガンマナイフ室に移動後にソセゴン15mg,セルシン5mg(フェノバールと類似の効能がある。)と,局所麻酔薬として1%キシロカインを注射するという方法が基本になっていた(乙B18号証)。 そして,本件では,前提と に移動後にソセゴン15mg,セルシン5mg(フェノバールと類似の効能がある。)と,局所麻酔薬として1%キシロカインを注射するという方法が基本になっていた(乙B18号証)。 そして,本件では,前提となる事実で認定したとおり,fに対し,硫酸アトロピン0.5mg,ドロレプタン2.5mg,フェノバール100mg及びデカドロン1mgの注射が行われ,その後,ソセゴン15mg,1%キシロカインの投与がなされた。 (5) fは,本件当時75歳という高齢であった。また,上記認定のとおり,被告病院医師らは,fが二枝ブロックという心臓の異常を有していることを把握していた。さらに,ソセゴン及びフェノバールは,重大な副作用として呼吸抑制を挙げている。とすれば,被告病院医師らはfに対し,ドロレプタン,ソセゴン及びフェノバールを同時に投与する場合には,減量するなどして,慎重に投与する必要があった。 ところで,fに投与されたドロレプタンは1mlであるところ,これは通常投与量のほぼ下限量であり,フェノバールの投与量は100mgであり,これも通常投与量の下限に近い量である。一方,ソセゴンの投与量は15mgであり,通常投与量を大幅に下回るものであるし,セルシンは投与されていない。 これら薬剤は,高齢者に対しては慎重投与すべきとされているものの,どの程度減量すべきであるとまで指示されていないので,減量の程度は,医師の合理的裁量に委ねられる。本件でfに投与されたドロレプタン,ソセゴン及びフェノバールについては,被告病院における通常の投与量であって,高齢者で心臓に異常を有しているfを意識したものではなく,さらに減量することも考えられるものの,通常用量の下限に近い量かそれを下回る量であった から,合理的裁量を超えて過量であったとまで認めることはできない。 (6) この点原告らは したものではなく,さらに減量することも考えられるものの,通常用量の下限に近い量かそれを下回る量であった から,合理的裁量を超えて過量であったとまで認めることはできない。 (6) この点原告らは,fに投与されたドロレプタンは過量であったと主張し,その根拠としてk医師の意見書(以下「k意見書」という。甲B1号証)を挙げている。 k意見書が,本件におけるドロレプタンの投与量が過量であるとする根拠のうち,厚生労働省による「麻酔薬及び麻酔関連薬使用ガイドライン」は,本件以後である平成15年4月に出されたものであることから,これが本件当時医療水準になっていたとは認められず,根拠とすることが適当でない。 また,米国FDAによる警告は,平成13年12月に出されているが,これを日本に紹介した日本麻酔科学会ニュースレター(平成14年2月発行,甲B11号証)は,同学会員にのみ配布されるものであり(乙B7号証),被告病院には存在しなかった(弁論の全趣旨)ことを考えると,これも根拠とすることが適当でない。そうすると,k意見書は,結局のところ,本件事故当時の医療水準を基に書かれたものとはいい難く,これにより直ちに,本件ドロレプタンの使用量につき過失があったと判断することはできない。 (7) 以上のとおりであり,他にこの点についての過失を認めるに足りる証拠はないから,ドロレプタン,ソセゴン及びフェノバールの投与量につき過失は認められない。 争点(3)ア(麻酔投与後のモニターに関する過失の有無-MRI検査室搬送までの間の監視)について上記認定のとおり,fに上記各薬剤が投与されてから,MRI検査室に搬送されるまでの間は,心電図モニターを装着した上で医師による監視が行われていた。また,この間,fは意識がはっきりしており,特段の異常はうかがわれなかった。これらの事 投与されてから,MRI検査室に搬送されるまでの間は,心電図モニターを装着した上で医師による監視が行われていた。また,この間,fは意識がはっきりしており,特段の異常はうかがわれなかった。これらの事実のほか,被告病院医師らによる麻酔後MRI検査室搬送までの間の監視が不十分であったことを示す証拠はなく,この点に関する過失は認められない。 争点(3)イ(麻酔投与後のモニターに関する過失の有無-生体監視モニター装置による監視)について(1) パルスオキシメーターとは,手足の指に簡単に装着することで,動脈血のヘモグロビンの酸素飽和度を非侵襲的かつ連続的にモニターする装置である(甲B10号証112頁)。通常のパルスオキシメーターは,そのままではMRI画像に対する干渉作用のためMRI検査室内では使用できない(同324及び325頁)が,MRI室内で使用可能なパルスオキシメーターも存在する(甲A3号証)。 (2) 被告が,本件で使用していたMRI検査装置はGE横河メディカルシステム株式会社製のSIGNAAdvantagever5.7であり(争いのない事実),同装置には,心電図モニター及び呼吸モニターが標準装備されていた。 上記心電図モニターは,心電図が捉えた心臓の電気的活動をトリガ信号として使用するMR画像撮影のための装置であり,様々のフィルタ処理が行われているため,患者の診断や治療に使用してはならないとされている。上記呼吸モニターも,呼吸補正法(呼吸動作から生じるゴーストアーチファクトを減少させる機能)を用いてMR画像を撮影するためのものであり,生理学的なモニタリングに使用してはならないとされている(以上につき,乙B10号証の2)。また,通常の脈波計測装置は,MRI装置との併用が禁止されている(乙B15ないし17号証)。 (3) 原告ら 生理学的なモニタリングに使用してはならないとされている(以上につき,乙B10号証の2)。また,通常の脈波計測装置は,MRI装置との併用が禁止されている(乙B15ないし17号証)。 (3) 原告らによる調査によれば,愛知県内の,被告病院と規模が同等かそれ以上と考えられる病院に対するアンケートでは,平成16年末当時,MRI撮影中のモニタリングにパルスオキシメーターを導入している病院はなく,心電図モニターを装着している病院が3病院存在した(甲B12号証,原告d本人尋問結果)。一方,被告が平成17年3月23日に調査した11病院では,MRI中に心電図モニター及び呼吸モニターを行っているのは被告病院のみであった(乙B3号証)。 (4) 以上の事実のほか,本件事故が発生した平成14年当時,MRI検査中に同検査室内で使用可能なパルスオキシメーターを装備すること,心電図・呼吸・酸素飽和度の各モニター装置を使用することが医療水準であったと認めるに足りる証拠はない。したがって,本件でこれらのモニター装置が使用されなかった点につき,被告に過失は認められない。 争点(3)ウ(麻酔投与後のモニターに関する過失の有無-医師による監視)について(1) 前記に認定したとおり,fは,高齢者であり,かつ心臓病の既往を有していた上,被告病院医師が把握していた範囲でも二枝ブロックという心臓の異常を抱えていたから,被告病院医師は,ドロレプタン,ソセゴン及びフェノバール等の投与により,何らかの副作用が生じる可能性があることを予見して,fの経過を慎重に観察する必要があった。また,MRI検査技師に患者急変に対応するための知識があったとしても,医師や看護師等のそれとは程度が異なると考えられる上,同技師は画像を正確に撮影するため,モニターと撮影中の画像を写す画面とを交互に見 ,MRI検査技師に患者急変に対応するための知識があったとしても,医師や看護師等のそれとは程度が異なると考えられる上,同技師は画像を正確に撮影するため,モニターと撮影中の画像を写す画面とを交互に見なければならない。さらに,本件MRI撮影の最中に実際起きたように,同技師は,次の撮影患者に対応するために短時間ながらも席を外すことがある。これらの事情に加え,ガンマナイフ治療前のMRI撮影では,患者の頭部にフレームがとりつけられており,同撮影中に呼吸が停止した場合には,MRI撮影室の外に患者を搬出した上で,金属製の器具を使用して同フレームを外してから気管内挿管をすることになり(乙B22号証及びj医師証言),通常の救命作業よりも多く時間を要することも併せ考えれば,本件においては,可及的速やかに急変を発見し,これに対応できる態勢を整えておく必要があったものと認められる。 (2) MRI室内には強力な磁場が存在すること,モニターを通じて一定の監視は可能であることから,通常の場合,被告病院において撮影中に医師が同室内に入って監視することはない(乙B22号証)。愛知県下の他の病院にお いても,麻酔下にある患者のMRI撮影の際,MRI検査室内に入っての監視を行っている病院は2病院のみである(甲B12号証)。 これらの事実に加え,本件における麻酔は局所麻酔であり意識のある状態でのMRI撮影が予定されていたこと,実際にもMRI検査室に入るまではfの意識があったこと(j医師証言)なども考えると,本件MRI撮影において,被告病院の医師がMRI検査室内に入ってfの容態を監視すべき義務があったとまでは認められない。 (3) 一方,被告病院では通常ガンマナイフ前のMRI検査には医師又は看護師が立ち会っていたところ,本件では同時に2件のガンマナイフを実施する予定であ 監視すべき義務があったとまでは認められない。 (3) 一方,被告病院では通常ガンマナイフ前のMRI検査には医師又は看護師が立ち会っていたところ,本件では同時に2件のガンマナイフを実施する予定であったために立ち会わなかったにすぎないこと(j医師証言),他の病院でも麻酔をかけた患者のMRI検査には医師が操作室において付き添う病院がほとんどであること(甲B12号証)が認められる。そうすると,被告病院の医師は,MRIの操作室において,fの容態を監視すべき義務があったと認められる。 (4) しかるに,被告病院医師らは,MRI検査中,操作室でfの容態を監視することを怠ったから,この点につき過失が認められる。 争点(4)ア(因果関係の存否-本件事故に至る機序)について被告病院医師が本件MRI撮影の際,操作室からfの容態を監視することを怠った過失(以下「本件過失」という。)とfの死亡との因果関係の存否の判断の前提として,本件事故に至った機序について検討する。 (1) 考え得る機序の一つは,fが本件MRI撮影中に,完全房室ブロックを起こし,心停止に陥った結果,呼吸機能に異常が生じ,呼吸も停止したというものである。 この機序を裏付ける根拠としては,(ア)前記認定のとおり,8時52分からの撮影の最中にfの血流の低下すなわち心拍出量の低下が生じていたこと,(イ)fは8月17日及び同月29日にも完全房室ブロックを起こしていると ころ,これらのときには,心停止しながら呼吸はある状態であったこと(j医師証言),(ウ)本件MRI撮影中,h技師が心肺停止のfを発見するまでの間ずっと,同人に正常な呼吸があったと判断していること(乙A18号証)が挙げられる。 しかし,心拍出量の低下は,呼吸機能の悪化によっても生じうるものである。また,前記判断のとおり,放射線技師に での間ずっと,同人に正常な呼吸があったと判断していること(乙A18号証)が挙げられる。 しかし,心拍出量の低下は,呼吸機能の悪化によっても生じうるものである。また,前記判断のとおり,放射線技師による急変の判断は,たとえ経験の豊富な技師であっても,医師がMRI室内で監視するほどには正確に監視することが難しいと思われ,本件MRI撮影開始から18分後という短時間で膝又は腿をたたいても起きないほどの深い睡眠に陥ること(8時58分からの軸位撮影直前なので,そのころの時刻になる。)は不自然であり,上記血流の低下が見られた8時58分の時点のいびきは異常な呼吸状態であった可能性も高いこと,からすれば,h技師の判断が正しかったのか疑問が残る。 したがって,上記(ア)ないし(ウ)のみでは,本件において,完全房室ブロックによる心停止が呼吸停止に先行した可能性はあっても,高度の蓋然性があるとまで認定するには証拠が足りない。 (2) 考え得るもう一つの機序は,呼吸抑制が先に生じ,その結果心拍出量が低下し,心停止に陥ったというものである。 この機序を裏付ける根拠としては,8時58分の時点のいびきは異常な呼吸状態であった可能性が高いこと,fには,呼吸抑制の副作用があるソセゴン及びフェノバールが投与されていたこと,が挙げられる。 しかし,いびきをかくよりも前の時点である8時52分には心拍出量の低下が生じていること,及び,上記(1)でも検討したとおり完全房室ブロックが発生した可能性も認められることなどを考慮すると,こちらの機序についても,高度の蓋然性をもって認定するには証拠が足りない。 (3) 上記検討の結果からすれば,結局のところ,本件事故に至る機序は不明といわざるを得ない。 上記のとおり,本件事故に至る機序が不明なことを踏まえた上で,本件過失とfに生じた死 りない。 (3) 上記検討の結果からすれば,結局のところ,本件事故に至る機序は不明といわざるを得ない。 上記のとおり,本件事故に至る機序が不明なことを踏まえた上で,本件過失とfに生じた死亡という結果との間に因果関係があるか検討する。 この点,死亡の直接の原因は,8月29日に起きた完全房室ブロックであるところ(争いのない事実),fは,もともと二枝ブロックを有し,定義によっては第1度房室ブロックを有していたともいえ,心駆出率が低下していた上,本件事故時にも完全房室ブロックが発生していた可能性が否定できないことなどの事情を考えると,本件事故がなくても,上記完全房室ブロックを起こした可能性は十分考えられる。 したがって,上記過失とfの死亡との間に因果関係を認めるに足りる証拠はない。 そこで,本件過失とfが昏睡状態に陥ったこととの因果関係について検討する。 (1) この点,確かに,睡眠によるいびきと異常な呼吸状態の区別は難しい場合があること(原告d尋問結果),及び放射線科医でなければ脳血流の異常をMRI検査中に判断するのは難しいこと(j医師証言)などを考えれば,医師が監視していたとしても,8時58分時点のいびきをもって直ちに異常と判断して救命措置を開始できたかは定かではない。しかし,上記いびきの時点から9時08分にチアノーゼの状態で発見されるまでの間に,fの状態は徐々に悪化していたはずである。そうであれば,本件MRI検査中,心停止と呼吸停止のいずれが先に発生していたとしても,医師が監視していれば,h技師が心肺停止を発見した9時08分よりは遅くとも数分早くfの異常に気づき,その時点で撮影を中止して,救命措置を開始していたものと認められる。 (2) そして,脳の機能を保持するためには,5分以内の血流再開が必要といわれているところ(乙 遅くとも数分早くfの異常に気づき,その時点で撮影を中止して,救命措置を開始していたものと認められる。 (2) そして,脳の機能を保持するためには,5分以内の血流再開が必要といわれているところ(乙B22号証),ガンマナイフ室への移動に10秒程度(j医師証言),頭部金属フレームを外すのに1ないし2分を要するとして も,心臓マッサージは先に開始できるのであり,少なくとも異変の発見から5分以内に血流を再開させることは十分可能であると認められる。 (3) 以上からすれば,医師が監視していたとしても,即時に異変を発見できたとは限らないから,fが脳の機能を完全に回復したとは認められないが,より早く救命措置を開始できれば,その後の障害の程度も軽くなるので,一定の後遺障害は残ったとしても,昏睡状態には陥らずに済んだと認められる。 とすれば,本件過失がなければ,fが昏睡に陥らずに済んだといえるから,本件過失とfの昏睡状態との間には因果関係が認められる。 争点(5)(損害)について(1) fの損害は,本来は一定の後遺障害が残る程度であったにもかかわらず,昏睡状態に陥ったことによる損害である。もっとも,本来どの程度の後遺障害が残ったかどうかを的確に認定することは困難であるが,少なくとも心停止又は呼吸停止の一方が生じたのであるから,就労に著しい困難を生じさせる程度の後遺障害は残った可能性は高いものと考えられる。 なお,fは,本件事故の27日後に,本件過失とは因果関係の認められない完全房室ブロックにより死亡しているが,本件過失の時点で近い将来における同人の死亡が客観的に予測されていたとまでは認め難いので,fが昏睡状態のまま,平均余命を全うすることを前提として,損害を算定するものである。 (2) 逸失利益本件事故以前のfの収入は,医師としての活動に基づく 客観的に予測されていたとまでは認め難いので,fが昏睡状態のまま,平均余命を全うすることを前提として,損害を算定するものである。 (2) 逸失利益本件事故以前のfの収入は,医師としての活動に基づく給与と不動産収入であると認められる(甲C2号証)。上記認定のとおり,本件過失がなくても,fは,医師として働き続けることは困難であると考えられる。また,不動産収入については,fの状態のいかんにかかわらず発生するものと考えられる。 したがって,本件過失と相当因果関係のある逸失利益を認めるに足りる証 拠はない。 (3) 慰謝料本件過失がなければ,一定の後遺障害で済んだにもかかわらず,昏睡状態に陥ったこと,そもそもは手術日も含めて3日間で退院できる予定であったこと,その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すれば,慰謝料は900万円とするのが相当である。 (4) 葬儀費用上記に認定判断したとおり,上記過失と死亡との間に因果関係は認められないから,葬儀費用は上記過失と因果関係のある損害とは認められない。 (5) そうすると,fの損害額は,900万円となるので,相続により,原告aが450万円,原告b,原告c及び原告dが,それぞれ150万円の損害賠償請求権を取得したことになる。 (6) また,本件過失がなくても,fには,一定の後遺障害が残ったのであるから,fが昏睡状態に陥ったことについて,これにより原告らに,fが死亡した場合に比肩するほどの精神的損害が生じたということはできず,遺族固有の慰謝料は認められない。 (7) 弁護士費用原告らの弁護士費用は,原告aについて45万円,原告b,原告c及び原告dについてそれぞれ15万円と認めるのが相当である。 第4 結論 以上のとおりであり,原告らの請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却することとし て45万円,原告b,原告c及び原告dについてそれぞれ15万円と認めるのが相当である。 第4 結論 以上のとおりであり,原告らの請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条及び64条を,仮執行の宣言につき同法259条をそれぞれ適用し,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部 裁判長裁判官永野圧彦裁判官寺本明広裁判官大野千尋

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