令和1(ワ)35167 独占禁止法に基づく差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年9月30日 東京地方裁判所
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判決文本文24,480 文字)

- 1 - 令和3年9月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和元年(ワ)第35167号独占禁止法に基づく差止等請求事件口頭弁論終結日令和3年7月16日判決 主文 1 被告は,原告エレコム株式会社に対し,151万3884円及びこれに対する令和2年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告エレコム株式会社のその余の請求及び原告カラークリエーション株式会社の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告カラークリエーション株式会社に生じた費用の全部及び被告に生じた費用の16分の1を原告カラークリエーション株式会社の負担とし,原告エレコム株式会社に生じた費用の25分の23及び被告に生じた費用の8分の7を原告エレコム株式会社の負担とし,原告エレコム株式会社及び被告に生じたその余の費用を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告商品目録記載のインクジェットプリンタにつき,インクカートリッジを入れた直後の電流を計測する機構を設け,一定以上の電流を検出 した場合に当該カートリッジをカートリッジとして認識しない構造とすることにより,原告らと原告らのインクカートリッジ販売事業に係る顧客との間の取引を妨害してはならない。 2 被告は,原告エレコム株式会社に対し,1572万9364円及びこれに対する令和2年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等- 2 - 1 事案の要旨本件は,被告の製造するインクジェットプリンタにおいて使用可能なインクカートリッジ(以下,単に「カートリッジ」 よる金員を支払え。 第2 事案の概要等- 2 - 1 事案の要旨本件は,被告の製造するインクジェットプリンタにおいて使用可能なインクカートリッジ(以下,単に「カートリッジ」という。)の製造販売を行っている原告らが,被告が,その製造販売する5種類のインクジェットプリンタについて,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。) に違反(抱き合わせ販売等〔独禁法2条9項6号ハ,不公正な取引方法〔昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。〕10項〕又は競争者に対する取引妨害〔独禁法2条9項6号へ前段,一般指定14項〕に該当し,独禁法19条に違反)して,合理的な理由なく設計変更(後記本件設計変更)を行い,原告らの製造するカートリッジを認識しないようにすることに より,原告らを上記各プリンタにおいて使用可能なカートリッジの市場から不当に排除したなどと主張して,被告に対し,①独禁法24条に基づき,上記各プリンタに上記設計変更を行うことの差止めを求めると共に,②原告エレコム株式会社が,被告に対し,上記独禁法違反の不法行為に基づく損害賠償として,後記3⑸の損害合計1572万9364円及びこれに対する不法行為の日以後 である訴状送達の日の翌日(令和2年2月1日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によ り認められる。 ⑴ 当事者等ア原告カラークリエーション株式会社(以下「原告カラークリエーション」という。)は,カートリッジやOAサプライ用品の販売,輸出入等を目的とする株式会社であり められる。 ⑴ 当事者等ア原告カラークリエーション株式会社(以下「原告カラークリエーション」という。)は,カートリッジやOAサプライ用品の販売,輸出入等を目的とする株式会社であり,被告が製造するインクジェットプリンタ用のカート リッジの輸入,販売等を行っている。 - 3 - イ原告エレコム株式会社(以下「原告エレコム」という。)は,OAサプライやOA機器の開発,製造,販売等を目的とする株式会社であり,被告が製造するインクジェットプリンタ用のカートリッジの販売等を行っている。 ウ被告は,プリンタや複合機等の通信・プリンティング機器の製造及び販 売を主たる業とする株式会社である。 (以上につき,争いのない事実)⑵ 被告の製造するインクジェットプリンタにおいて使用可能なカートリッジ等ア被告の製造するインクジェットプリンタは,着脱可能なカートリッジを 装着して印刷を行うものである。被告の製造する特定の型番のインクジェットプリンタにおいて使用可能なカートリッジは,他社が製造したインクジェットプリンタにおいて使用することはできず,また,被告の製造する他の型番のインクジェットプリンタにおいても,使用できない場合がある。 イ被告の製造するインクジェットプリンタにおいて使用可能なカートリッ ジ又はこれに充てんするインク(以下「カートリッジ等」という。)には,下記からまでがあり,原告らは下記記載の互換品カートリッジを販売している。 純正品カートリッジ被告が自ら製造販売するカートリッジである。 リサイクル品カートリッジ使用済みの純正品カートリッジを回収してクリーニングを行った後に,互換イン ッジ被告が自ら製造販売するカートリッジである。 リサイクル品カートリッジ使用済みの純正品カートリッジを回収してクリーニングを行った後に,互換インクを充てんして販売されるカートリッジである。 詰替え用インク使用済みの純正品カートリッジを充てんするためのインクである。 互換品カートリッジ- 4 - 被告以外の業者が,被告の製造するプリンタで使用することができるように設計,製造及び販売をするカートリッジである。 (以上につき,争いのない事実)⑶ 被告によるインクジェットプリンタの販売状況ア被告は,遅くとも平成30年9月以降,型番「DCP-J577N」,型 番「MFC-J898N」及び型番「DCP-J978N」のインクジェットプリンタ(以下,順に「本件プリンタ1」,「本件プリンタ2」,「本件プリンタ3」という。)を販売している。 イ被告は,平成31年3月以降,型番「MFC-J998DN」及び型番「MFC-J998DWN」のインクジェットプリンタ(以下,順に「本 件プリンタ4」,「本件プリンタ5」といい,本件プリンタ1から本件プリンタ5までを併せて「本件各プリンタ」という。)を販売している。 (以上につき,争いのない事実)⑷ 本件各プリンタの設計及びその変更ア本件各プリンタには,カートリッジ装着時等に,プリンタとカートリッ ジとの間の回路に3.3Vの電圧をかけ(以下,この回路を「3.3V回路」という。),プリンタがカートリッジの情報を読み取る機能(以下「本件認証機能」という。)が備えられている(争いのない事実)。 イ被告は,平成30年12月頃以降に製造した本件プリ .3V回路」という。),プリンタがカートリッジの情報を読み取る機能(以下「本件認証機能」という。)が備えられている(争いのない事実)。 イ被告は,平成30年12月頃以降に製造した本件プリンタ1から本件プリンタ3まで並びに本件プリンタ4及び本件プリンタ5(以下,併せて「本 件新プリンタ」という。)において,プリンタとカートリッジとの間に新たな回路(以下「1.5V回路」という。)を設け,カートリッジ装着時等に,本件認証機能を作動させるより先に,1.5V回路に1.5Vの電圧をかけて電流量を計測し,一定の電流量(以下「本件基準電流量」という。)を超える電流量を検知した場合には,3.3V回路に電流を流すことなく, 「インクを検知できません 01」というエラーメッセージを表示するよ- 5 - うにした(以下「本件設計変更」という。)(乙2,弁論の全趣旨)。 ⑸ 原告ら及び被告によるカートリッジの販売状況ア被告は,本件各プリンタにおいて使用可能な「LC3111」シリーズという名称の純正品カートリッジ(以下「本件純正品カートリッジ」という。)を販売している(争いのない事実)。 イ原告らは,本件設計変更前の本件プリンタ1から本件プリンタ3まで(以下「本件旧プリンタ」という。)において使用可能な互換品カートリッジを販売していたが,平成31年3月頃以降,本件新プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジを販売している(争いのない事実,弁論の全趣旨)。 3 争点及び争点に対する当事者の主張 本件の争点は,⑴本件設計変更に正当化理由がないか否か,⑵本件設計変更が抱き合わせ販売等に当たるか否か,⑶本件設計変更が競争者に対する取引妨害に当たるか否か,⑷本件設計変更により原告らに著しい損害を生じるおそれがあ 件設計変更に正当化理由がないか否か,⑵本件設計変更が抱き合わせ販売等に当たるか否か,⑶本件設計変更が競争者に対する取引妨害に当たるか否か,⑷本件設計変更により原告らに著しい損害を生じるおそれがあるか否か及び⑸原告エレコムに生じた損害の有無及び金額であり,各争点に対する当事者の主張は,次のとおりである。 ⑴ 本件設計変更に正当化理由がないか否か(争点⑴)(差止請求及び原告エレコムの損害賠償請求に共通の争点)(原告らの主張)本件設計変更は,以下のとおり,互換品カートリッジを市場から排除することを目的とするものである。 ア安全性(過電流の防止)のために本件設計変更を行う必要がないこと異物が混入した場合でも,流れる電流量は,被告ICチップにおいて想定されている範囲内であるし,3.3V回路は電流制限がなされており,35mA以上の電流が流れることはない。 また,被告製プリンタの基盤にあるトランジスタに3.3Vの電圧を4 時間かけてもトランジスタは損傷しなかった。さらに,本件旧プリンタに- 6 - ICチップの4種類のピンを人為的に短絡させたカートリッジを装着する実験を行ったところ,「インクを検知できません」というエラーメッセージが表示され,その後,短絡を解消すれば,正常に印刷できる状態に戻った。すなわち,本件旧プリンタが高電流により損傷することはなく,また,短絡が生じた場合には,それを検出することができた。 イ本件設計変更は過電流防止のための措置と考えられないこと(1.5V回路を新設する必要性がないこと)仮に過電流を防止する必要があるとしても,電流量を測定するための抵抗を3.3V回路に設ければ足り,費用をかけて新たに1.5V回路を設 ないこと(1.5V回路を新設する必要性がないこと)仮に過電流を防止する必要があるとしても,電流量を測定するための抵抗を3.3V回路に設ければ足り,費用をかけて新たに1.5V回路を設ける必要はないし,むしろ,3.3V回路に抵抗を設けた方が,印刷の都 度電流量を確認することができる(なお,3.3V回路内に設ける抵抗の値を小さくすれば,3.3V回路にかかる電圧を本件純正品カートリッジに搭載されるICチップ〔以下「被告ICチップ」という。〕の推奨動作条件内とすることもできる。)。 異物の混入等により過電流が生じる場合,正常時に流れる電流量の4倍 以上の電流が流れるから,本件基準電流値を小さくしないと異物を検知できないものではない。 ウ本件設計変更が互換品排除目的であることを疑わせる事情があること 被告は,カートリッジの販売数が一年で最多となる時期(12月の年賀状商戦の時期)に,本件旧プリンタの発売後わずか3か月後であるに もかかわらず本件設計変更を行った。 本件基準電流量(0.169mA)は,原告らの製造する互換品カートリッジに搭載されていたICチップ(以下「原告らICチップ」という。)に1.5Vの電圧をかけた際に流れる電流量よりはるかに低く設定されている。 1.5V回路において本件基準電流量を上回る電流が流れた際のエラ- 7 - ーメッセージが「インクが検知できません 01」というものであり,電流量に言及していない。 被告の本件設計変更の目的に係る主張が変遷している。 (被告の主張)本件設計変更は,以下のとおり,過電流の防止を目的として行われたもの であり,互換品カートリッジを排除することを目的とする 計変更の目的に係る主張が変遷している。 (被告の主張)本件設計変更は,以下のとおり,過電流の防止を目的として行われたもの であり,互換品カートリッジを排除することを目的とするものではない。 ア本件設計変更の経緯被告の製造するプリンタについて,平成29年11月,被告ICチップに接着剤が付着したために動作不良が生じたとの報告が,平成30年1月頃,非導電性の異物が被告ICチップ周辺に混入したために接触不良が生 じたとの報告があった。 本件旧プリンタには,3.3V回路に電流が流れる前に異常な電流を検知するなどの機能がなかったところ,導電性の異物がカートリッジに搭載されたICチップ周辺に混入した場合には過電流が生じる可能性があることから,被告は,平成30年1月中旬より本件設計変更に係る回路の設 計内容を検討し,同年2月,本件設計変更を行うことにし,同年7月,本件設計変更の導入を決定した。 イ 1.5V回路を新たに設けることが過電流防止の目的に資すること 1.5V回路に電圧をかけて過電流が流れた場合には当該カートリッジに異常が生じていると想定されること,1.5V回路に短絡等の異常 が生じた場合に1.5V回路を流れる電流が3.3V回路に流れてしまう可能性があること,また,ICチップのVI特性には個体差が見られることから,上記個体差が小さく,かつ電流値がゼロに近くなるような電圧(1.5V)をかけて過電流が流れているか否かを計測するのが合理的である。 また,回路に流れる電流量を測定するためには,回路に抵抗を設け,- 8 - 抵抗の前後での電圧差を測定することが一般的であり,また,異常を見落とすことがないよう電圧差を大きくするにはそれなりに大きい抵抗値の る電流量を測定するためには,回路に抵抗を設け,- 8 - 抵抗の前後での電圧差を測定することが一般的であり,また,異常を見落とすことがないよう電圧差を大きくするにはそれなりに大きい抵抗値の抵抗を設ける必要があるところ,3.3V回路に抵抗を設けると,プリンタが動作する際に当該抵抗において電圧が消費されてしまい,3. 3V回路の電圧が,被告ICチップの製造者の保証する推奨動作条件の 電圧の下限を下回ってしまう。したがって,3.3V回路とは別に1. 5V回路を設ける必要があった。 1.5V回路を設けるために要する費用は,プリンタ1台当たり約0. 02米ドルと安価であり,1.5V回路を新設したことは経済的にも不自然でない。 ウ被告に互換品排除目的がないこと原告らを含む互換品カートリッジ製造業者においても,1.5Vの電圧をかけた際に本件基準電流量を下回る電流量が流れるようなICチップを搭載した互換品カートリッジを製造することは可能であるし,本件設計変更は,被告における通常の製品の品質向上の取り組みの一環として行わ れ,その試作,評価,部品の製造等の日程の都合上,本件旧プリンタ発売の約3か月後に行うことになったにすぎないから,本件設計変更は,互換品カートリッジを排除する目的で行われたものではない。なお,本件設計変更を施した本件プリンタ1から本件プリンタ3までの発売時期は,年末ではなく平成31年1月以降である。 ⑵ 本件設計変更が抱き合わせ販売等に当たるか否か(争点⑵)(差止請求及び原告エレコムの損害賠償請求に共通の争点)(原告らの主張)ア本件設計変更は,被告の製造するプリンタにおいて,互換品カートリッジを使用できない状態にするものであるから,被告の製造するプリンタの 購入者に 通の争点)(原告らの主張)ア本件設計変更は,被告の製造するプリンタにおいて,互換品カートリッジを使用できない状態にするものであるから,被告の製造するプリンタの 購入者に対し,当該プリンタの供給を受けるのに併せて,当該プリンタと- 9 - は別個の商品である純正品カートリッジの購入を余儀なくさせるものである。 イ「不当に」(一般指定10項)とは,従たる商品市場における競争者が排除されて自由な競争を阻害するおそれがあるか否か,顧客の商品選択の自由を妨げるおそれのある競争手段であり,従たる商品の市場におけ る能率競争の観点から見て不公正であるか否かという観点から判断される。 被告の製造する本件各プリンタの使用者にとって,購入するカートリッジの選択肢となるものは,当該プリンタにおいて使用可能なカートリッジ等であるから,検討対象となる市場は,本件各プリンタにおいて使 用可能なカートリッジ等の市場である。 原告ら互換品カートリッジ販売業者及び被告は,市場において競争関係にあるところ,本件設計変更により,互換品カートリッジ販売業者は,本件旧プリンタにおいて使用可能であった互換品カートリッジを販売することができなくなった上,本件新プリンタにおいて使用可 能な互換性カートリッジの開発に費用を要した。 原告らは,本件設計変更を認識するまでの間,本件新プリンタにおいて使用不能な互換品カートリッジを販売し続けることになったところ,これを購入し,本件新プリンタにおいて使用することができなかった消費者は,これ以降,上記経験や風評に基づいて,原告らの製造する互換 品カートリッジを選択しなくなる。 場において,互換品カートリッジは,供給数量や利便性に ことができなかった消費者は,これ以降,上記経験や風評に基づいて,原告らの製造する互換 品カートリッジを選択しなくなる。 場において,互換品カートリッジは,供給数量や利便性において純正品カートリッジと競争上劣位することがなく,むしろ安価であるという点において競争優位性があるところ,互換品カートリッジ販売業者が上記市場から排除された場合,純正品カートリッジを製造販売 する被告は,その価格を自由に決定し,維持することが可能になる。 - 10 - 以上により,本件設計変更は,市場から原告らを含む互換品カートリッジ販売業者を排除しており,上記市場における原告らのシェア率が高いことも加味すると,自由な競争を減殺するおそれを生じさせるものである。 前記⑴(原告らの主張)欄記載のとおり,本件設計変更には技術上の 必要性等の合理的な理由はなく,単にの市場から互換品カートリッジ販売業者を排除する目的で行われたものであるから,本件設計変更は,カートリッジの価格や品質における競争を通じて行うべき能率競争の観点から見て不公正である。 したがって,本件設計変更は,「不当に」(一般指定10項)行われた といえる。 ウ以上により,本件設計変更は,抱き合わせ販売等(独禁法2条9項6号ハ,一般指定10項)に当たり,独禁法19条に違反する。 (被告の主張)ア被告の販売するプリンタと純正品カートリッジとは併せて販売されてい ないし,上記プリンタの使用者は,被告及び原告ら以外の第三者が販売する互換品カートリッジを購入し,使用することが可能であるから,純正品カートリッジの購入が被告の販売するプリンタの使用の条件とはなっていない。 したがって,本 び原告ら以外の第三者が販売する互換品カートリッジを購入し,使用することが可能であるから,純正品カートリッジの購入が被告の販売するプリンタの使用の条件とはなっていない。 したがって,本件設計変更は,抱き合わせ販売等の行為に当たらない。 イ互換品カートリッジ販売業者は,プリンタ及び純正品カートリッジの製造販売業者がプリンタ又はカートリッジの仕様を変更した場合,当該変更に対応した互換品カートリッジを開発しなければならなくなるが,これは,互換品カートリッジの製造販売業に内在するリスクであって,直ちに独禁法上の問題が生じるものではない。上記変更が独禁法違反と なり得るのは,①客観的に互換品カートリッジ販売業者を排除するとい- 11 - う目的を有していることが明らかであり,②実際に互換品カートリッジ販売業者の製品を使用することを困難にする排除の効果を有しており,③互換品カートリッジ販売業者を排除する以外に合理的な理由が存在しない場合に限られ,独禁法違反が認められるのは,反競争効果が認められる場合に限られる。 前記①,③については,前記⑴(被告の主張)欄記載のとおり,本件設計変更には,過電流を防止し,本件新プリンタの安全性を高めるという合理的な理由があり,客観的に互換品カートリッジ販売業者を排除するという目的を有しているとはいえない。 前記②については,消費者が,プリンタよりもカートリッジの買替 え費用の方が高額になることを踏まえ,プリンタとカートリッジの費用を考慮して購入するプリンタを選択していることからすると,日本におけるインクジェットプリンタ用のカートリッジの市場における排除効果を検討すべきである。そうすると,原告らは,インクジェットプリンタ用のカートリ 購入するプリンタを選択していることからすると,日本におけるインクジェットプリンタ用のカートリッジの市場における排除効果を検討すべきである。そうすると,原告らは,インクジェットプリンタ用のカートリッジを販売し続けているのであるから,本件設計変更によ って上記市場から排除されるおそれは認められない。 仮に,被告の製造販売するプリンタにおいて使用可能なカートリッジの市場を検討するとしても,原告らは本件設計変更の3か月後には本件新プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジを開発しており,原告らよりも早く上記互換品カートリッジを販売していた互換品カートリ ッジ販売業者もいたのであるから,本件設計変更には,互換品カートリッジ販売業者の排除効果は認められない。 したがって,本件設計変更は,前記①②③をいずれも満たさず,抱き合わせ販売等に該当して独禁法に違反したとはいえない。 ⑶ 本件設計変更が競争者に対する取引妨害に当たるか否か(争点⑶)(差止請 求及び原告エレコムの損害賠償請求に共通の争点)- 12 - (原告らの主張)被告は,本件設計変更により,前記⑵(原告らの主張)欄記載の市場において,競争関係にある互換品カートリッジ業者が互換品カートリッジを販売することを妨害しており,また,本件設計変更には,前記⑴(原告らの主張)欄記載のとおり,技術上の必要性等の合理的な理由はない。 したがって,被告による本件設計変更は,競争者に対する取引妨害(一般指定14項)に該当し,独禁法19条に違反する。 (被告の主張)事実は否認し,主張は争う。 ⑷ 本件設計変更により原告らに著しい損害を生じるおそれがあるか否か(争 点⑷)(差止請求に関する争点) 違反する。 (被告の主張)事実は否認し,主張は争う。 ⑷ 本件設計変更により原告らに著しい損害を生じるおそれがあるか否か(争 点⑷)(差止請求に関する争点)(原告らの主張)ア当該事業者が市場から排除されるおそれがある場合等には,「著しい損害」(独禁法24条)に係る要件を充足する。 イ原告らは,本件設計変更後,本件新プリンタにおいて使用可能な互換品 カートリッジを販売しているが,被告は,今後も被告が製造するプリンタにおいて設計変更を行う意思を表明しており,再び設計変更が行われれば,原告らを含む互換品カートリッジ販売業者は再び市場から排除される。また,原告らが,設計変更により販売できない在庫を抱えることを懸念して,互換品カートリッジの販売拡大を控えたこと,本件設計変更により,原告 らの販売する互換品カートリッジに対する信用が損なわれたことからすると,原告らには,市場から排除されるおそれがある。 したがって,原告らには「著しい損害」(独禁法24条)が認められる。 (被告の主張)ア 「著しい損害」(独禁法24条)の要件は,高度な違法行為により,損害 賠償では回復しがたい損害が生じる場合に限って認められるべきである。 - 13 - イ本件設計変更は,異常な電流量を検知するという有用性を有していること,カートリッジ業界の一般的な開発能力を有する事業者であれば,合理的期間内にこれに適合したカートリッジを開発できるものであり,実際,原告らを含む互換品カートリッジ業者が現在,本件設計変更に適合した互換品カートリッジを販売していること,本件設計変更によって互換品カー トリッジに対する信用を毀損したともいえないことから,本件設計変更には,高度な違法性は ジ業者が現在,本件設計変更に適合した互換品カートリッジを販売していること,本件設計変更によって互換品カー トリッジに対する信用を毀損したともいえないことから,本件設計変更には,高度な違法性は認められない。 ウまた,本件設計変更において本件基準電流量は,本件純正品カートリッジを基に定められているから,今後,被告において本件基準電流量を変更するはずがない。 ⑸ 原告エレコムに生じた損害の有無及び金額(争点⑸)(原告エレコムの損害賠償請求に関する争点)(原告エレコムの主張)原告エレコムは,本件設計変更により,次のアからオまでの合計1572万9364円の損害を被った。 ア販売店に対する返金 141万0102円原告エレコムは,本件設計変更により,本件新プリンタにおいて使用できない互換品カートリッジを販売店から回収して廃棄することを余儀なくされた。販売店に対する返金額合計141万0102円は原告エレコムに生じた損害である。 イ購入者に対する返金 1万4684円原告エレコムは,本件設計変更により,互換品カートリッジを購入した者から,上記カートリッジが本件新プリンタにおいて使用できないとの苦情を受け,返金(合計1万4684円)を余儀なくされた。 ウ信用毀損による損害 682万5226円 原告エレコムは,本件設計変更により,互換品カートリッジが本件新プ- 14 - リンタにおいて使用することができないとの評判が立ち,信用を毀損された。信用毀損により原告エレコムが被った損害は682万5226円を下回らない。 エ逸失利益 604万9 用することができないとの評判が立ち,信用を毀損された。信用毀損により原告エレコムが被った損害は682万5226円を下回らない。 エ逸失利益 604万9410円原告エレコムは,被告の不法行為により,再度の設計変更を懸念して互 換品カートリッジの販売規模を縮小せざるを得なくなり,これにより604万9410円(「LC3111」の前のシリーズの互換品カートリッジの年間販売利益と「LC3111」シリーズの互換品カートリッジの年間販売利益の差額)の損害を被った。 オ弁護士費用 142万9942円 (被告の主張)事実は否認し,争う。 ア販売店に対する返金原告エレコムは,販売店からカートリッジを回収する義務を負っておらず,自らの経営上の判断としてその回収及び返金を行ったにすぎない。 イ購入者に対する返金原告エレコムの主張する購入者からの苦情は,カートリッジ1本のみが認識されないというものであるから,本件設計変更とは関係がなく,これに係る返金額は,本件設計変更によって生じた損害ではない。 ウ信用毀損による損害 本件設計変更によって原告エレコムの信用が毀損され,損害が生じたことの具体的主張立証がない。 エ逸失利益原告エレコムが自らの経営上の判断により諦めた利益にすぎないから,これを被告が負担すべき法的根拠は存在しない。 第3 当裁判所の判断- 15 - 1 認定事実前記第2の2の前提事実に加え,各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴ カートリッジ等の特徴等アリサイクル品カートリッジは,その製 - 1 認定事実前記第2の2の前提事実に加え,各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴ カートリッジ等の特徴等アリサイクル品カートリッジは,その製造に使用済みの純正品カートリッ ジが必要であるため,その製造及び販売数量が回収した使用済みの純正品カートリッジの数量に限られる。また,詰替え用インクは,プリンタの使用者が自ら充てんの作業を行うため,その作業において手が汚れるなどの不都合がある上,インクの充てんに必要な機械を購入する必要が生じる場合がある。(争いのない事実) イ純正品カートリッジは,プリンタ製造業者が自ら製造販売をするため信頼性が高いが,高価である。他方,互換品カートリッジは,製造販売数量に限定がなく,詰替え作業に係る手間や負担がない上,純正品カートリッジに比べて安価である。 互換品カートリッジの製造業者は,プリンタ及び純正品カートリッジの 製造業者が新たなプリンタを発売したり,それらの仕様を変更した場合,これを入手し,その変更点を分析し,上記プリンタにおいて利用できる互換品カートリッジを開発し,製造しなければならない。 (争いのない事実,弁論の全趣旨)ウ着脱可能なカートリッジを装着して使用するインクジェットプリンタ では,ある程度の期間使用する場合,プリンタ本体よりもカートリッジの買替え費用の方が高額になる(弁論の全趣旨)。 ⑵ 本件旧プリンタにおける回路の仕組みア本件旧プリンタにおいては,プリンタの電源を入れると,3.3V回路に3.3Vの電圧の電流が流れ,プリンタにおいてカートリッジの情報を 読み取る(本件認証機能)(前提事実⑷ア)。 - 16 - イまた,本件旧プリンタで印刷を行う場合,ASIC(集積回路)を経由し 圧の電流が流れ,プリンタにおいてカートリッジの情報を 読み取る(本件認証機能)(前提事実⑷ア)。 - 16 - イまた,本件旧プリンタで印刷を行う場合,ASIC(集積回路)を経由してプリンタヘッドに電流を流す回路に電流が流れる。加えて,紙一枚の印刷を終えるごとに,3.3V回路に電流が流れ,カートリッジに搭載されているICチップ及びプリンタのASICに3.3Vの電流を流し,ICチップのメモリ内のインク残量に関する情報を書き換えるとともに,A SICにインク残量の情報を送っている。(弁論の全趣旨)⑶ 本件設計変更の経緯ア被告は,平成29年11月,本件各プリンタより古い型の被告製プリンタ(本件設計変更は施されていない。)に関し,カートリッジに搭載されたICチップに接着剤等が付着したことを原因とする接触不良について,平 成30年1月中旬までに,ゴミ,異物により,ICチップとの接点が取れていないことを原因とする不具合について報告を受けていた(乙32,38)。 イ被告は,平成30年2月,被告の製造するインクジェットプリンタに1. 5V回路を追加する設計変更(本件設計変更)を決定した(乙41)。 ウ被告は,本件設計変更の検討当初,1.5V回路に入れる抵抗を1000Ωとしていたが,平成30年5月頃,1.5V回路に流れる電圧が低下しすぎることが判明したため,470Ω程度に変更し,その後,被告ICチップに1.5Vの電圧を流した際に流れる電流量に基づいて,本件基準電流量を約0.169mAと決定した(甲25,乙45,弁論の全趣旨)。 エ被告は,平成30年9月,本件旧プリンタの販売を開始したが,同年12月以降,本件設計変更を施した本件プリンタ1から本件プリンタ3までを販売するようになった。また,被告は, の全趣旨)。 エ被告は,平成30年9月,本件旧プリンタの販売を開始したが,同年12月以降,本件設計変更を施した本件プリンタ1から本件プリンタ3までを販売するようになった。また,被告は,平成31年3月,本件設計変更を施した本件プリンタ4及び本件プリンタ5の販売を開始した。 (前提事実⑶,甲63〔甲63によれば,本件設計変更を施した本件プリンタ3が遅 くとも平成30年12月には販売されていた。〕)- 17 - ⑷ 本件設計変更の内容本件設計変更により,本件新プリンタにおいては,プリンタの電源を入れた時及びカートリッジを交換した時に1.5V回路に1.5Vの電圧がかかり,その際に流れる電流量が本件基準電流量(約0.169mA)を超えた場合,「インクを検知できません 01」というエラーメッセージが表示され ることとなった(前提事実⑷イ,前記⑶ウ)。 ⑸ 本件設計変更後の事情本件設計変更の結果,原告らが販売していた本件旧プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジを2本以上本件新プリンタに装着した際,エラーメッセ-ジが表示されるようになった(乙2,弁論の全趣旨)。 そのため,原告らは, 平成31年3月頃以降,本件新プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジを開発し,販売している(前提事実⑸イ)。 ⑹ 本件設計変更に関する実験結果等ア原告カラークリエーションが,本件各プリンタより古い型の被告製プリンタ(本件設計変更は施されていない。)に,人為的に短絡を生じさせた カートリッジを装着する実験を行ったところ,短絡箇所のあらゆる組み合わせにおいて,「インクを検知できません」とのエラーメッセージが表示され,また,その後短絡を解消して再びカートリッジを装着したところ,正常にテスト印刷を行うことがで ところ,短絡箇所のあらゆる組み合わせにおいて,「インクを検知できません」とのエラーメッセージが表示され,また,その後短絡を解消して再びカートリッジを装着したところ,正常にテスト印刷を行うことができた。被告も再現実験を行ったところ,原告カラークリエーションの実験結果と同様の結果が生じた。 また,原告カラークリエーションが,上記プリンタの本件各プリンタのものと同じトランジスタに3.3Vの電圧を,抵抗を入れずに4時間通電する実験を行ったところ,上記通電の後も正常にテスト印刷を行うことができ,プリンタ本体に損傷は見られなかった。(甲5,甲6)原告らにおいて,原告らICチップ20枚と被告ICチップ20枚に それぞれ一枚ずつ様々な電圧をかける実験を行ったところ,1.5Vの- 18 - 電圧をかけた場合,被告ICチップには平均約0.0027mAの電流が,原告らICチップには平均約0.077mAの電流が流れた。また,3.3Vの電圧をかけた場合,被告ICチップには平均約0.71mAの電流が,原告らICチップには平均約0.81mAの電流が流れた。 (甲26) 被告において,被告ICチップ30枚にそれぞれ一枚ずつ1.5Vの電圧をかける実験を行ったところ,被告ICチップによる個体差は認められるものの,いずれも0.05mAを下回っていた(乙24)。 ウ 1.5V回路に流れる電流量は,装着したカートリッジの本数によって異なり,本数を増やせば上記電流量は増加する。原告らにおいて,原告ら ICチップ1枚,原告らICチップ4枚,被告ICチップ1枚及び被告ICチップ4枚の使用時にそれぞれ1.5Vの電圧をかける実験を行ったところ,これらのICチップに流れた電流値(ICチップ4枚の使用時には合計電流値)は平均して,順に,約0.1m Cチップ1枚及び被告ICチップ4枚の使用時にそれぞれ1.5Vの電圧をかける実験を行ったところ,これらのICチップに流れた電流値(ICチップ4枚の使用時には合計電流値)は平均して,順に,約0.1mA,約0.38mA,計測不可(ごく微小)及び約0.01mAであった。(甲24,弁論の全趣旨) エ被告において,過電流が生じる場合の実験として,被告ICチップに台所用漂白剤を塗布した上で3.3Vの電圧をかける実験及び被告ICチップに鉛筆線を加えた上で3.3Vの電圧をかける実験を行ったところ,前者においては16.80mAの電流が,後者においては23.00mAの電流が流れた(乙12)。 オ被告は,ホームページの「よくあるご質問(Q&A)」の「FAQ」において,カートリッジを交換した際にプリンタの液晶パネルに「インクを検知できません」と表示された場合について,「取り付けたインクカートリッジが正しくセットされていない。」等の原因として考えられる事柄を記載し,また,「ブラザー純正以外の他社製インクカートリッジをご利用の場合は, ブラザー純正インクカートリッジに交換してみてください。」と記載する一- 19 - 方,異物の混入や付着等に関する記載は一切していない(甲15)。 ⑺ 原告エレコムの販売店に対する返金原告エレコムは,本件旧プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジを家電量販店等の販売店に卸していたが,本件設計変更により本件新プリンタで使用不能になったため,上記販売店に対し返金をした上で上記互換品カ ートリッジの返品を受けて破棄した。その返金額は別表記載のとおり合計136万1574円である(前提事実⑸イ,甲20,21,38,39,53から60まで〔枝番を含む。以下同じ。〕[なお,原告エレコムは2種類のデー 品を受けて破棄した。その返金額は別表記載のとおり合計136万1574円である(前提事実⑸イ,甲20,21,38,39,53から60まで〔枝番を含む。以下同じ。〕[なお,原告エレコムは2種類のデータを提出しているところ,いずれか一方が他方より正確であると判断することができないため,重複している部分については,より低額の範囲で認定 する。])。 ⑻ 原告エレコムの購入者に対する返金原告エレコムは,平成30年12月から平成31年6月までの間に,互換品カートリッジを購入した者から,上記互換品カートリッジが本件新プリンタで認識されないとの苦情を受け,上記購入者に返金をして上記互換品カー トリッジを回収した。その返金の合計額は,1万4684円である(甲62から66まで)。 2 争点⑴(本件設計変更に正当化理由がないか否か)について⑴ 本件設計変更の必要性本件旧プリンタを含む本件設計変更が施されていない被告製プリンタで は,既に短絡が生じたカートリッジを装着した際にエラーメッセージが表示されるようになっており,過剰な電流量が流れたことによる当該プリンタ本体の損傷事例等の報告がないこと(弁論の全趣旨,認定事実⑶ア参照),また,抵抗を入れずにトランジスタに3.3Vの電圧を4時間かけても損傷しなかったこと(認定事実⑹ア)が認められ,これらの事実からすれば,既に販売 されており,かつ発売開始から数か月しか経っていなかった本件旧プリンタ- 20 - に本件設計変更を行う具体的な必要性があったとは認められない。 この点,被告は,ICチップ周辺に非導電性の異物が混入したことにより接触不良となった事例があり,そこから導電性の異物が混入するなどして過電流が生じるおそれを着想して本件設計変更を行った旨主張する。しか の点,被告は,ICチップ周辺に非導電性の異物が混入したことにより接触不良となった事例があり,そこから導電性の異物が混入するなどして過電流が生じるおそれを着想して本件設計変更を行った旨主張する。しかし,被告の主張する必要性は抽象的なものにすぎない上,被告の主張によれば, そもそも非導電性の異物の混入による接触不良の事例があったにもかかわらず,非導電性の異物の混入による接触不良に対応する設計変更は何らされず(被告は技術的な理由から係る設計変更を導入するに至らなかった旨を主張し,これを立証するための証拠〔乙44〕を提出するが,当該証拠は被告の上記主張を必ずしも裏付けるものとは認められず,被告の上記主張を採用す ることはできない。),かえって事例のない導電性の異物の混入に対応するために本件設計変更をしたという不自然な経緯になるところ,なぜそのようなことになったのか合理的な説明もされていないこと,また,わざわざ導電性の異物の混入に対応するために,発売開始から数か月しか経っていない本件旧プリンタに本件設計変更をしたにもかかわらず,顧客に対する説明(ホー ムページ上の「よくあるご質問Q&A」の「FAQ」)において,エラーが出た際の原因として考えられる事柄として,異物の混入について何ら言及していないこと等に照らすと,この点に関する被告の主張を採用することはできない。 ⑵ 本件設計変更の内容について 本件設計変更により定められた本件基準電流量は,約0.169mAであるところ(認定事実⑷),本件旧プリンタの損傷可能性との関係で格別の根拠があるとはいえず(認定事実⑹参照。なお,1.5V回路に本件基準電流量を超える電流量が流れた場合に当該カートリッジがプリンタ本体を損傷させるとは認められない。),本件設計変更後,被告の製造する純 拠があるとはいえず(認定事実⑹参照。なお,1.5V回路に本件基準電流量を超える電流量が流れた場合に当該カートリッジがプリンタ本体を損傷させるとは認められない。),本件設計変更後,被告の製造する純正品カートリッ ジでも本件基準電流量を超える電流量が流れてエラーメッセージが表示され- 21 - た例すら存在したことが認められる(乙17,18)。他方,原告らが本件設計変更前に販売していた互換品カートリッジを2本以上装着した状態で1. 5V回路に1.5Vの電圧がかかった場合には,同互換品カートリッジに搭載されていたICチップの性質上,同回路に流れる電流量は,確実に本件基準電流量を超え,エラーメッセ-ジが表示される結果となっていた(認定事 実⑸,⑹ウ)。以上の事実からすれば,本件基準電流量の設定には,導電性の異物が混入するなどして生じる過電流を防止する観点から合理的な理由は認められない。 ⑶ 互換品排除目的を推認させるその他の事情ア被告のホームページにおいては,本件設計変更によって表示されるエラ ーメッセージについて,互換品カートリッジを使用していることが原因である可能性を説明しており(認定事実⑹オ),互換品カートリッジの使用の排除が強く意識されていることが認められる。 イそもそも,プリンタ及びその純正品カートリッジの製造業者と互換品カートリッジの製造業者とは,信頼性及び価格の点において競争関係にあり, プリンタ及びその純正品カートリッジの製造業者は,プリンタの仕様を変更することによって,互換品カートリッジ製造業者に対し,発売された上記プリンタを入手し,その仕様変更の内容を分析し,これに適合した新たな互換品カートリッジを開発し,製造する作業が必要となる状況を作出できるという関係にある(認定事実⑴イ)。加 者に対し,発売された上記プリンタを入手し,その仕様変更の内容を分析し,これに適合した新たな互換品カートリッジを開発し,製造する作業が必要となる状況を作出できるという関係にある(認定事実⑴イ)。加えて,インクジェットプリンタ では,一定以上の期間使用する場合,一般に,プリンタ本体よりもカートリッジの買替え費用の方が高額になるところ(認定事実⑴ウ ),プリンタ及びその純正品カートリッジの製造業者は,我が国においては,これまで,顧客へのプリンタの販売価格を抑えて販売台数を増やし,比較的利益率の高いカートリッジを継続して販売することで,全体として収益を上げるビ ジネスモデルを用いることが多かったことからすれば(公知の事実),純正- 22 - 品カートリッジよりも廉価で販売されることが多い互換品カートリッジの売上げが増加することは,上記製造業者にとって,上記ビジネスモデルを成り立たせにくくするという観点からも経済的打撃が大きく,上記製造業者と互換品カートリッジの製造業者との間には,単なるカートリッジの信頼性及び価格の競争関係という以上の構造的な競争関係が存在している。 ウ本件設計変更は,既に発売済みで,発売開始から数か月しか経っていない本件プリンタ1から本件プリンタ3までをも対象として行われた。 ⑷ このように,①本件設計変更は,原告らと被告との間に構造的な競争関係が存在する中で(前記⑶イ),具体的な必要性がないにもかかわらず(前記⑴),既に発売されており,かつ発売開始から数か月しか経っていなかった本件プ リンタ1から本件プリンタ3までをも対象として行われたものであること(前記⑶ウ),②本件設計変更により定められた本件基準電流量の設定には,被告の主張する目的に照らして合理的な理由が認められず,かえって互換品 ら本件プリンタ3までをも対象として行われたものであること(前記⑶ウ),②本件設計変更により定められた本件基準電流量の設定には,被告の主張する目的に照らして合理的な理由が認められず,かえって互換品カートリッジを排除するためには有効に機能すること(前記⑵)に加え,前記⑶アの事情も考慮すれば,本件設計変更は,原告らを含む互換品カートリ ッジの製造業者に対し,本件設計変更に適合した新たな互換品カートリッジを開発し,製造する作業が必要となる状況を作出することによって,互換品カートリッジの販売を困難にする目的で行ったものと認められる。 したがって,本件設計変更に正当化理由は認められない。 3 争点⑵(本件設計変更が抱き合わせ販売等に当たるか否か)について ⑴ 「商品…の供給に併せて他の商品…を自己…から購入させ…ること」(独禁法2条9項6号ハ,一般指定10項)に当たるには,主たる商品の供給に併せて従たる商品を自己から購入させることが必要であるというべきである。 そして,主たる商品を購入した後に必要となる補完的商品(従たる商品)に係る市場において特定の商品を購入させる行為もこれに含まれるというべき であり,また,ある商品を購入するに際し,客観的にみて少なからぬ顧客が- 23 - 行為者から従たる商品の購入を余儀なくされるような場合には,当該従たる商品を購入させたと解すべきである。 これを本件についてみると,前提事実⑵から⑸まで及び弁論の全趣旨によれば,本件各プリンタにおいて使用可能なカートリッジ等は,本件各プリンタを購入した後に必要となる補完的商品であると認められるところ,本件設 計変更により,本件純正品カートリッジ以外のカートリッジは本件新プリンタにおいて使用不能になり,本件新プリンタの購入者は,本件新プリンタに 必要となる補完的商品であると認められるところ,本件設 計変更により,本件純正品カートリッジ以外のカートリッジは本件新プリンタにおいて使用不能になり,本件新プリンタの購入者は,本件新プリンタにおいて使用するカートリッジを購入するに際し,本件純正品カートリッジを購入せざるを得なくなったことが認められる。 したがって,本件設計変更は,「商品…の供給に併せて他の商品…を自己… から購入させ…ること」に当たるというべきである。 ⑵ 前記⑴の行為を「不当に」(独禁法2条9項ハ,一般指定10項)行ったとは,当該行為に公正な競争を阻害するおそれがあることをいい,公正競争阻害性の判断に当たっては従たる商品の市場における競争について検討すべきであり,当該行為に正当化理由が認められるか否かも考慮すべきである。 これを本件についてみると,前提事実⑵アのとおり,特定のプリンタにおいて使用可能なカートリッジは一定の範囲のものに限定されるのであるから,需要者からみた商品の代替性の観点から,従たる商品の市場は,被告の製造する本件新プリンタにおいて使用可能なカートリッジ等の市場であるといえる。 そこで,上記市場における公正な競争を阻害するおそれがあるか否かについて検討すると,本件設計変更により,互換品カートリッジは本件新プリンタにおいて使用することができなくなったのであるから,本件設計変更は,互換品カートリッジ販売業者を上記市場から排除するおそれがある。加えて,本件においては,主たる商品は被告が製造販売する商品であること,原告ら を含む互換品カートリッジ販売業者は,上記市場において相当程度高いシェ- 24 - アを有していたといえること(前提事実⑵,認定事実⑴,甲11,18から22まで)が認められる。そして,前記2のとおり, 換品カートリッジ販売業者は,上記市場において相当程度高いシェ- 24 - アを有していたといえること(前提事実⑵,認定事実⑴,甲11,18から22まで)が認められる。そして,前記2のとおり,本件設計変更には,技術上の必要性等の正当化理由は認められないのであるから,本件設計変更には,上記市場における公正な競争を阻害するおそれがあると認められる。 ⑶ 以上によれば,本件設計変更は,抱き合わせ販売等に当たるというべきで あり,このように独禁法に違反して公正な競争を阻害する行為を行い,競業者に損害を与えることは,競業者である原告エレコムに対する不法行為を構成する。 なお,本件設計変更が争点⑵の観点から不法行為を構成することは既に判示したとおりであるから,争点⑶については判断を要しない。 4 争点⑷(本件設計変更により原告らに著しい損害を生じるおそれがあるか否か)について⑴ 独禁法24条にいう「著しい損害を生じ,又は生ずるおそれがある」とは,同条所定の独禁法違反行為が,損害賠償請求が認められる場合より高度の違法性を有する場合をいい,その判断においては,当該違反行為及び損害の態 様及び程度等を総合考慮して判断すべきものと解される。 ⑵ これを本件についてみると,被告の独禁法違反行為は,本件新プリンタに1.5V回路を新たに設けることにより原告らを含む互換品カートリッジ販売業者の販売するカートリッジを本件新プリンタにおいて使用不能な状態にするという態様であり(前提事実⑵ア,認定事実⑷),後記5のとおり,原告 エレコムは本件設計変更により金銭的損害を被ったことが認められるものの,原告らは,本件設計変更の約3か月後(平成31年3月頃)には本件設計変更に対応し,本件新プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジを販売 件設計変更により金銭的損害を被ったことが認められるものの,原告らは,本件設計変更の約3か月後(平成31年3月頃)には本件設計変更に対応し,本件新プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジを販売していることが認められるから(認定事実⑸),原告らは,本件設計変更により本件新プリンタにおいて使用可能なカートリッジを短期間販売できなかっ たにすぎず,その金銭的損害が事後的な損害賠償請求等による救済により回- 25 - 復しがたい程度であるとまではいえない。 また,同月頃以降,本件設計変更による排除効果は失われているところ,被告が,本件設計変更後,本件基準電流量の変更を含む本件新プリンタの設計変更を行ったと認めるに足りる証拠はなく,本件基準電流量が被告ICチップに流れる電流量に基づいて決定されていること(認定事実⑶ウ,⑷)に も鑑みると,被告が原告カラークリエーションに対し,本件基準電流量の設定変更を含む本件新プリンタに関する損傷防止機能の更新及びこれに伴う設計変更を決定しており,今後順次実施することになった旨を通知したこと(甲5)から直ちに,被告が今後も本件新プリンタにつき,電流量を検知する機構を設けて,一定以上の電流を検出した場合に,当該カートリッジを認識し ない構造とするという態様の独禁法違反行為を行うと認めることはできない。 この点,原告らは,本件設計変更により互換品カートリッジに対する信用が損なわれたから,本件新プリンタにおいて使用可能なカートリッジ等の市場から排除されるおそれがあると主張するが,後記5⑶のとおり,原告らが本件設計変更により,上記市場から継続的に排除されるなどの事後的に回復 し難いほどの信用毀損を被ったと認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件設計変更によって原告らに「著しい損害を 告らが本件設計変更により,上記市場から継続的に排除されるなどの事後的に回復 し難いほどの信用毀損を被ったと認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件設計変更によって原告らに「著しい損害を生じ,又は生ずるおそれがある」とは認められないから,独禁法24条に基づく設計変更の差止めを求める原告らの請求は理由がない。 5 争点⑸(原告エレコムに生じた損害の有無及び金額)について ⑴ 販売店に対する返金 136万1574円本件設計変更により原告エレコムが販売店に対して余儀なくされた返金の合計額136万1574円(認定事実⑺)は,本件設計変更により原告エレコムに生じた損害と認められる(原告エレコムが販売店に対して上記互換品カートリッジを回収すべき法的な義務を負っていないことは上記認定を左右 しない。)。 - 26 - ⑵ 購入者に対する返金 1万4684円ア本件設計変更により原告エレコム製の互換品カートリッジが本件新プリンタにおいて使用不能になったこと(認定事実⑸)からすれば,当該互換品カートリッジが本件新プリンタで認識されないとの苦情を受けた場合,原告エレコムにおいて当該互換品カートリッジを回収した上でその代金の 返金を余儀なくされることは通常想定されるから,互換品カートリッジが,特定の製造業者の特定の型番のインクジェットプリンタごとに設計及び製造されており(前提事実⑵ア),回収したカートリッジが一度は購入者によりプリンタに装着された中古品となってしまった以上,上記返金の合計額1万4684円(認定事実⑻)は,本件設計変更によって原告エレコムに 生じた損害と認めることができる。 イこの点,被告は,前記苦情がカートリッジ 品となってしまった以上,上記返金の合計額1万4684円(認定事実⑻)は,本件設計変更によって原告エレコムに 生じた損害と認めることができる。 イこの点,被告は,前記苦情がカートリッジ1本の交換に関するものであることから,本件設計変更との関連性が認められないと主張する。しかし,本件設計変更により,本件新プリンタは,互換品カートリッジを2本以上装着するとエラーメッセージを表示し,当該互換品カートリッジをカート リッジとして認識しなくなるのであるから(認定事実⑸),本件新プリンタの使用者は,当該プリンタに2本目の互換品カートリッジを装着した時点でエラーメッセージが表示され,原告エレコムに対して苦情の連絡をすることになるのであって,その苦情は,カートリッジを1本交換した際にも発生することになるのであるから,被告の上記主張は採用できない。 ⑶ 信用毀損による損害零円本件設計変更により原告エレコムの販売する互換品カートリッジが本件新プリンタで使用不能になっており(認定事実⑸),原告エレコムの信用が低下した可能性自体は否定できないものの,後記⑷のとおり,本件設計変更により原告エレコムの互換品カートリッジの売上が減少したと認めるに足りる証 拠はないし,その他一切の証拠を検討しても,本件設計変更により原告エレ- 27 - コムに金銭により賠償されなければならない程の無形の損害が生じたと認めるに足りる事情までは認定することができない。 ⑷ 逸失利益零円原告エレコムは,本件設計変更により,互換品カートリッジの販売の規模を縮小せざるを得なくなった旨主張し,「LC3111」の前のシリーズの互 換品カ 零円原告エレコムは,本件設計変更により,互換品カートリッジの販売の規模を縮小せざるを得なくなった旨主張し,「LC3111」の前のシリーズの互 換品カートリッジの年間販売利益と「LC3111」シリーズの互換品カートリッジの年間販売利益の差額の支払を求める。 この点,本件設計変更により原告エレコムの販売する互換品カートリッジが本件新プリンタにおいて使用不能になり(認定事実⑸),本件新プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジを開発し,販売するまでに約3か月を 要したこと(認定事実⑸)が認められ,少なくとも上記約3か月の間については,本件旧プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジの販売を促進できない状況であったと認めることはできる(甲63)。しかし,上記互換品カートリッジに係る損害については前記⑴及び⑵において被告の賠償責任が認められている。また,上記互換品カートリッジも本件旧プリンタにおいて は使用可能であり,本件設計変更後に一斉に回収されたわけではなく(甲53から56まで),その販売を中止したと認めるに足りる証拠はない。さらに,本件設計変更の約3か月後に発売された本件新プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジについては,その販売の規模を縮小したと認めるに足りる証拠はない。そうすると,前記⑴及び⑵において認めた範囲を超えて,本 件設計変更により原告エレコムに逸失利益の損害が生じたと認めることはできない。 ⑸ 弁護士費用 13万7626円原告エレコムは,本件訴訟の提起,追行を弁護士に委任しているところ,本件訴訟の内容,前記⑴及び⑵の認容額等を考慮すれば,被告の不法行為と 相当因果関係のある弁護士費用は13万762 626円原告エレコムは,本件訴訟の提起,追行を弁護士に委任しているところ,本件訴訟の内容,前記⑴及び⑵の認容額等を考慮すれば,被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は13万7626円とするのが相当である。 ⑹ 損害額合計 151万3884円以上によれば,被告の本件設計変更という不法行為により原告エレコムに生じた損害の額は,合計151万3884円である。 第4 結論したがって,原告エレコムの請求は主文1項記載の限度で理由があるからその限度でこれを認容し,原告エレコムのその余の請求及び原告カラークリエーションの請求は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第8部 裁判長裁判官朝倉佳秀 裁判官川村久美子 裁判官近江弘行は,転官につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官朝倉佳秀 (別紙)被告商品目録 被告が販売する,下記1から5まで記載の型番のインクジェットプリンタ。 記 1DCP-J577N 2MFC-J898N 3DCP-J978N 4MFC-J998DN 5MFC-J998DWN以上 (別表)年月返金額平成31年1月1869円平成31年2月5615円平成31年3月16万6127円平成31年4月6万4177円令和元年5月1万7057円令和元年6月60万9948円令和元年7月 69円平成31年2月5615円平成31年3月16万6127円平成31年4月6万4177円令和元年5月1万7057円令和元年6月60万9948円令和元年7月27万2992円令和元年8月7万7168円令和元年9月4万3846円令和元年10月8万2258円令和元年11月1202円令和元年12月1800円令和2年1月3413円令和2年2月300円令和2年3月4616円令和2年4月6912円令和2年5月1139円令和3年2月1135円合計136万1574円以上

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