主文 1 原判決中,被控訴人株式会社F銀行に関する部分を次のとおり変更する。 (1) 控訴人の主位的請求を棄却する。 (2) 被控訴人株式会社F銀行は,控訴人に対し,金411万1544円及びこれに対する平成14年11月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (3) 控訴人のその余の予備的請求を棄却する。 2 控訴人の被控訴人Sに対する控訴を棄却する。 3 訴訟費用は第1,2審を通じ,控訴人に生じた費用の2分の1及び被控訴人株式会社F銀行に生じた費用を同被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。 4 この判決は,1項(2)について仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して金411万1383円及びこれに対する平成12年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人株式会社F銀行に対する予備的請求被控訴人株式会社F銀行は,控訴人に対し,金411万1544円及びこれに対する平成12年10月13日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,控訴人が被控訴人株式会社F銀行に有していた普通預金につき,同被控訴人が控訴人の代表取締役と称するNの委任による代理人である弁護士被控訴人Sに同預金を払戻したところ,控訴人が,被控訴人株式会社F銀行において預金の払戻に応じたのは違法である,被控訴人Sにおいては故意に預金債権を侵害したなどと主張して,被控訴人らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として(被控訴人株式会社F銀行に対しては主位的請求として),連帯して払戻にかかる預金相当額の411万1383円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成12年10月13日から支払済みまで民法所定の年 て(被控訴人株式会社F銀行に対しては主位的請求として),連帯して払戻にかかる預金相当額の411万1383円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成12年10月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求め,また,預金の払戻が無効であって預金債権は消滅していない旨主張して,被控訴人株式会社F銀行に対し,予備的請求として,払戻のあった日の預金残額である411万1544円及びこれに対する払戻日の翌日である平成12年10月13日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。 本件の前提事実,争点及び争点に関する当事者双方の主張は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の「第二事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決3枚目1行目,2行目を削除し,これに代えて次のとおり加える。 「3 本件払戻前後における控訴人の代表取締役とその登記の変遷(甲1ないし3,弁論の全趣旨)」 2 原判決4枚目10行目の「事実経過等」の次に「及び上記解任決議取消訴訟提起の予告」を,同12行目の「被告銀行としては,」の次に「真正な代表者が誰であるかを確認することは容易にできる状況にあったのにその確認を怠り,しかも,控訴人においては日常的にHが被控訴人銀行との取引を行っていたことを考えると,本件払戻に応じた被控訴人銀行の判断には大きな誤りがあり,」を,同15行目の「N」の次に「や被控訴人S」をそれぞれ加える。 3 原判決4枚目16行目の末尾に「また,被控訴人銀行は,通帳や届出印の提示もなしに本件払戻をしたものであるところ,これは明らかに預金契約に違反する行為であり,不法行為を構成する。」を加える。 4 原判決4枚目21行目の末尾に「なお,控訴人は,被控 は,通帳や届出印の提示もなしに本件払戻をしたものであるところ,これは明らかに預金契約に違反する行為であり,不法行為を構成する。」を加える。 4 原判決4枚目21行目の末尾に「なお,控訴人は,被控訴人銀行において債権者不確知を理由に弁済供託をするべきであったと主張するが,債権者たる預金者はNでもHでもなく,控訴人という法人であって,代表権に争いのあることは債権者を確知しえない場合に該当しない。また,後記のとおり,被控訴人銀行は,払戻請求者の代表権限を商業登記簿謄本により確認した上で本件払戻を行ったのであり,商法14条の適用等により免責されるから,通帳や届出印の提示なしに本件払戻をしたことについて何ら問題はない。」を加える。 5 原判決5枚目18行目の「通告」を「前記の回答書やその裏付資料としての報告書」と改め,同20行目の「信じた」の次に「若しくは代表者でないことについて善意であった」を加える。 6 原判決5枚目22行目の末尾に「なお,被控訴人銀行は,Hが職務執行停止の仮処分の申立てを行わなかったことを指摘するが,仮処分の申立てを行うか否かはHの判断であり,本訴である別件訴訟を提起して,それを被控訴人銀行に報告していたのであるから,控訴人が不実の登記を放置したことにはならない。」を加える。 7 原判決5枚目24行目の「債権者たる預金者は」から同6枚目2行目の「したがって,」までを削除する。 8 原判決6枚目10行目の「これを」の前に「Nの代表取締役としての職務執行停止の仮処分申請も行わず(本訴を提起しただけでは預金の払出しを止めることはできない。),」を,同11行目の「適用」の次に「若しくは禁反言,権利外観法理」をそれぞれ加える。 第3 当裁判所の判断 1 判断の前提となる事実関係は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事 はできない。),」を,同11行目の「適用」の次に「若しくは禁反言,権利外観法理」をそれぞれ加える。 第3 当裁判所の判断 1 判断の前提となる事実関係は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の「第三当裁判所の判断」一項に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決6枚目17行目の「甲4」を「甲2,4」と,同18行目の「8~29」を「7~29」とそれぞれ改める。 (2) 原判決7枚目13行目の末尾に「しかし,Nが控訴人の代表取締役に就任することなどを内容とする登記は,Hの関知しないところでNらによってその旨の社員総会決議がなされたものとされ,勝手に作出された登記であった。」を加える。 (3) 原判決7枚目23行目の「同報告書には,」の次に「上記回答書に沿った内容が記載されていたほか,」を加える。 (4) 原判決8枚目2行目の「弁護士」の前に「Nから本件預金の払戻に関して依頼を受けた」を加える。 (5) 原判決8枚目12行目の「10月12日,」の次に「Nから提出のあった」を,同16行目の「総合考慮して,」の次に「通帳や印鑑はHが保管していることは承知していたが,」を,同19行目の「振込先を」の次に「新たに開設する」をそれぞれ加える。 (6) 原判決9枚目6行目の「代表者として,」の次に「Hを控訴人の代表取締役から解任するなどの社員総会決議は適法になされた,Hは控訴人の乗っ取りを画策している等と主張して,」を加える。 (7) 原判決9枚目11行目の「他1名に対し,」の次に「Hらが控訴人の信用を毀損し,又は業務を妨害して,控訴人と継続的な取引関係にあったKの営業にも支障を来させて損害を与えたと主張して,」を加える。 2 控訴人の被控訴人銀行に対する不法行為に基づく損害賠償請求について 損し,又は業務を妨害して,控訴人と継続的な取引関係にあったKの営業にも支障を来させて損害を与えたと主張して,」を加える。 2 控訴人の被控訴人銀行に対する不法行為に基づく損害賠償請求について本件において,控訴人の被控訴人銀行に対する不法行為に基づく損害賠償請求は,被控訴人銀行が本件払戻を行ったことにより,本件預金債権が消滅し(したがって,本件払戻が有効であったことを前提とする。),控訴人が本件預金相当額の損害を被ったことを内容とするものであるが,後記のとおり,本件払戻は無効(控訴人につき預金払戻の効果は生じていない。)であり,本件預金債権は消滅しなかったものというべきであるから,被控訴人銀行の本件払戻にかかる行為は,本件預金に関する控訴人の権利を何ら侵害するものではなく,控訴人には損害が発生していないのであって,不法行為が成立することはないというべきである。なお,控訴人は,被控訴人銀行としては,本件払戻請求に対して,債権者不確知を理由に弁済供託をするべきであったと主張するが,本件預金債権の債権者は控訴人であって,その代表者がNであるかHであるかは,控訴人という法人の内部の問題であるから,その代表権限に争いのあることは債権者を確知しえない場合に該当せず,控訴人の主張は失当である。 したがって,控訴人の被控訴人銀行に対する不法行為に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 3 控訴人の被控訴人Sに対する不法行為に基づく損害賠償請求について本件において,控訴人の被控訴人Sに対する不法行為に基づく損害賠償請求は,本件払戻が行われたことにより,本件預金債権が消滅し,控訴人が本件預金相当額の損害を被ったことを内容とするものであるが,上記のとおり,本件払戻は無効であり,本件預金債権は消滅しなかっ 害賠償請求は,本件払戻が行われたことにより,本件預金債権が消滅し,控訴人が本件預金相当額の損害を被ったことを内容とするものであるが,上記のとおり,本件払戻は無効であり,本件預金債権は消滅しなかったものというべきであるから,本件払戻に関与した被控訴人Sの行為は,本件預金に関する控訴人の権利を何ら侵害するものではなく,控訴人には損害が発生していないのであって,不法行為が成立することはないというべきである。 したがって,控訴人の被控訴人Sに対する不法行為に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 4 控訴人の被控訴人銀行に対する本件預金の払戻請求(予備的請求)について(1) 前記のとおり,Hを控訴人の代表取締役から解任し,Nを代表取締役に選任するとの平成12年7月21日開催の社員総会決議は存在しなかったものであって,同月24日付でなされたその旨の登記は不実の登記であり,本件払戻当時,控訴人の代表取締役はHで,Nには代表権限がなかったものというべきであって,しかも,Hが本件払戻を承諾していないことは明らかであるから,本件払戻は無権利者に対してなされたものといわざるをえず,本件払戻は無効である。そこで,被控訴人銀行は,商法12条,14条の適用ないし類推適用により,控訴人はNが代表者ではなかったことを同被控訴人に対抗することはできない等の主張をするので,以下この点について判断する。 (2) 商法12条は,商業登記の効力について,登記すべき事項は登記及び公告の後でなければ善意の第三者に対抗することができず,また,登記及び公告の後であっても第三者が正当の事由によってこれを知らなかったときは,この第三者に対抗することができないと定めている。同条の定める第三者対抗力とは,登記当事者である会社が第三者に向 また,登記及び公告の後であっても第三者が正当の事由によってこれを知らなかったときは,この第三者に対抗することができないと定めている。同条の定める第三者対抗力とは,登記当事者である会社が第三者に向かって対抗できるかできないかの問題であるから,第三者の方から会社に向かって主張する場合には同条の適用はなく,同条は,第三者が事実と異なる不実の登記の効力を主張することを認めた規定ではない(第三者が不実の登記の外観主義的効力を主張する場合は,商法14条が問題となる。)。 本件は,Nを控訴人の代表取締役とする不実の登記がなされ,そのNからの本件払戻請求に基づいて本件預金が払い戻されたというのであるから,商法12条によって,被控訴人銀行が当該不実の登記の効力(登記されているとおりにNに代表権限があったこと)を主張することはできず,本件払戻が有効なものとなることはない。 (3) 商法14条の適用についてア商法14条は,登記と事実が相違する場合について,故意又は過失によって不実の事項を登記した者は,その事項が不実であることを善意の第三者に対抗することができないと定めている。同条が適用されるためには,原則として,当該不実の登記自体が登記の申請権者の申請に基づいてされたものであることを必要とし,そうでない場合には,登記申請権者が自ら登記申請をしないまでも何らかの形で当該登記の実現に加功し,又は当該不実登記の存在が判明しているのにその是正措置をとることなくこれを放置するなど,当該登記を登記申請権者の申請に基づく登記と同視するのを相当とするような特段の事情がない限り,同条による登記名義者の責任を肯定する余地はないものと解するべきである(最高裁昭和55年9月11日判決,民集34巻5号717頁参照)。 本件においては,前記認定に鑑み 特段の事情がない限り,同条による登記名義者の責任を肯定する余地はないものと解するべきである(最高裁昭和55年9月11日判決,民集34巻5号717頁参照)。 本件においては,前記認定に鑑みれば,本件払戻当時,Nが控訴人の代表取締役でなかったこと,さらにはNを代表取締役に選任する旨の平成12年7月21日開催の控訴人の社員総会決議が存在しないことについて,被控訴人銀行は善意であったものと認められるが,他方で,Nが代表取締役に就任し,Hを代表取締役から解任する旨の不実の登記は,Nらによって勝手に作出されたものであり,真の代表取締役であるHは何ら関与していないというのであるから,登記申請権者である控訴人の申請に基づいてされたものということはできない。 イ被控訴人銀行は,Hにおいて,上記の不実の登記がなされてから本件払戻までの間,その登記の存在を知っていたにもかかわらず,Nの代表取締役としての職務執行停止の仮処分申請も行わないで,これを放置していたとして,商法14条の適用ないし類推適用により,控訴人はNが代表者ではなかったことを被控訴人銀行に対抗することはできないと主張する。 しかしながら,Hは,平成12年8月31日に上記の不実の登記がなされていることを知り,被控訴人銀行から通帳や印鑑の喪失設定についての照会がなされたことも相俟って,それから10日後には被控訴人銀行に出向き,控訴人においてNを代表取締役に選任した事実も,Hを代表取締役から解任した事実もなく,その旨の登記は不実の登記であること,近日中に社員総会決議の取消を求める訴えを提起する予定であることを,被控訴人銀行からの照会状に対する回答書をもって伝えており,また,直ちにY弁護士に事件処理を依頼した上,同様の内容が記載された同弁護士作成の報告書を上記回答書と併 る訴えを提起する予定であることを,被控訴人銀行からの照会状に対する回答書をもって伝えており,また,直ちにY弁護士に事件処理を依頼した上,同様の内容が記載された同弁護士作成の報告書を上記回答書と併せて提出している。加えて,Hは,それから1か月も経たない同年10月7日に,社員総会決議の取消を求めて別件訴訟を提起しており,本件払戻が行われたのはその後であることにも照らすと,控訴人の正当な代表者であるHが,不実の登記の存在を知りながら,これを放置していたと評価することはできないというべきである。 被控訴人銀行は,HがNの代表取締役としての職務執行停止の仮処分申請をしなかったことを挙げて,控訴人が不実の登記を放置していたと主張する。確かに,被控訴人銀行の指摘するとおり,本案である別件訴訟を提起しただけでは預金の払出しを確実に止めることはできないし,Y弁護士の作成した上記報告書には,Nの代表取締役としての職務執行停止の仮処分を申し立てる予定である旨記載していながら,結局はHにおいて仮処分の申立てをしなかったものである。しかし,代表取締役の職務執行停止の仮処分命令は,仮の地位を定める仮処分命令として,原則として口頭弁論又は仮処分債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ,これを発することができないのであって(民事保全法23条2項,4項),Nが少なくともその当時はHと徹底的に対立し,Hを解任するなどした社員総会決議は適法になされたとして,自己の正当性を強く主張していたことに照らすと,仮にHがNの職務執行停止の仮処分を申し立てたとしても,その結論を得るまで相当な日数を要することが予想され,本件払戻がなされるまでに所期した仮処分命令を得ることができたかどうかは疑問である。 また,前記認定のとおり,本件払戻当時における控訴 ,その結論を得るまで相当な日数を要することが予想され,本件払戻がなされるまでに所期した仮処分命令を得ることができたかどうかは疑問である。 また,前記認定のとおり,本件払戻当時における控訴人の商業登記上の代表取締役はNであったが,これに先立つ平成12年7月17日,Nがk支店を訪れて,自己が控訴人の代表者であるからHによって本件預金が引き出されないようにしてほしいと要望してきたときは,Nは商業登記上も代表取締役でなかったのであって,この事実は,同月27日にHから商業登記簿謄本の提出がなされたことによって,被控訴人銀行にも判明していたものである。したがって,Nが控訴人の代表者であると虚偽の申立てをしてきたことが多分に疑われる状況下において,それから間もない時期に再びNが控訴人の代表者として本件預金の払戻を求めてきたのであり,Hからも前記のとおりの申告がなされていたことを考え合わせると,本件払戻の時点では商業登記上はNが代表取締役になっていたとはいえ,Nの代表権限には疑わしい点があったものというべきであって,代表取締役に関する商業登記の記載を安易に信じてはならない事情があったものである(Nが弁護士を同道していたからといって,このような事情があったことに変わりはない。)。ところで,被控訴人銀行がNの本件払戻請求に応じた理由の1つとして,払戻がなされた日までにHが職務執行停止の仮処分を申し立てなかったことが挙げられているが,被控訴人銀行がHに対して職務執行停止の仮処分を申し立てなければNの要求に応じざるをえなくなるなどと通告した(同被控訴人がそのような通告をしたにもかかわらず,Hにおいて仮処分を申し立てなかったという)事実はないし,いわんや同被控訴人がHに対して仮処分の申立てをする意向であるか否かを問い合わせた事実もなく,Hが同被 がそのような通告をしたにもかかわらず,Hにおいて仮処分を申し立てなかったという)事実はないし,いわんや同被控訴人がHに対して仮処分の申立てをする意向であるか否かを問い合わせた事実もなく,Hが同被控訴人に対して具体的な時点を表明して仮処分を申し立てると通告した事実もない。上記のように,Nの代表権限について疑わしい点があったのであるから,被控訴人銀行においてHが職務執行停止の仮処分を申し立てなかったことを本件払戻請求に応じる理由とするのであれば,少なくとも仮処分の申立てについて期限を定めてこれを行ったかどうか,行うかどうかの回答を求めるなどしてHの意向を十分に確認するべきであって,被控訴人銀行がそのような措置を取らなかったことからしても,Hが仮処分を申し立てなかったことを問題視することはできない。 以上のとおり,HがNの代表取締役としての職務執行停止の仮処分申請をしなかったことをもって,控訴人が不実の登記を放置していたということはできず,被控訴人銀行の上記主張は採用することができない。 ウしたがって,本件においては,不実の登記を登記申請権者の申請に基づく登記と同視するのを相当とするような特段の事情の存在を認めることはできないのであって,商法14条の適用ないし類推適用を肯定することはできない。 また,被控訴人銀行は,禁反言若しくは権利外観法理にも言及するが,商法14条は,登記と事実が相違する場合の商業登記の効力について,禁反言や権利外観法理の思想を具現化した規定であると解されるのであって,商法14条の適用が否定される以上,禁反言や権利外観法理からしても本件払戻を有効ということはできない。さらに,控訴人の前記社員総会決議が不存在であることについて,被控訴人銀行が善意かつ無過失であったとしても(但し,上記判示の事 上,禁反言や権利外観法理からしても本件払戻を有効ということはできない。さらに,控訴人の前記社員総会決議が不存在であることについて,被控訴人銀行が善意かつ無過失であったとしても(但し,上記判示の事情からみても,本件は被控訴人銀行にこの点で過失がなかったとはいいがたい事例である。),そのことだけを捉えて本件において民法93条や同法478条が適用になる余地はない。 なお付言するに,被控訴人銀行は,別件訴訟の確定まで本件預金の払戻を留保しなければならないとすれば,払戻の遅滞による遅延損害金の支払いという不利益を同被控訴人に負わせることになって不合理である旨主張するが,前記認定及び説示に照らすと,Nが本件払戻請求をなすに至る経緯に加えて,Nの代表権限について疑うべき客観的な事情があり,かつHが別件訴訟を提起していたことからすると,被控訴人銀行が本件預金の払戻を拒絶したからといって,履行遅滞の責任を負うものではないと解する余地も十分にあるのであって,被控訴人銀行の上記主張は当たらないし,仮に遅延損害金支払の不利益が生ずるおそれがあったとしても,そのことは本件払戻が控訴人につき効果が生じたというための根拠としてはいまだ不十分である。 (4) 以上の次第であるから,控訴人の被控訴人銀行に対する本件預金の払戻請求は理由がある。ただし,控訴人は,本件払戻の日の翌日である平成12年10月13日から遅延損害金が発生すると主張するが,本件預金は,控訴人の払戻請求を行ったときに遅滞に陥るものと解するべきところ,本件記録によれば,控訴人は,被控訴人銀行に対し,平成14年11月25日に同被控訴人が受領した準備書面をもって,本件預金の払戻請求を行ったことが認められ,それ以前に,控訴人の権限がある者がその払戻請求をしたことを認めるに足りる証拠はないか 対し,平成14年11月25日に同被控訴人が受領した準備書面をもって,本件預金の払戻請求を行ったことが認められ,それ以前に,控訴人の権限がある者がその払戻請求をしたことを認めるに足りる証拠はないから,同日の翌日である同月26日から遅延損害金が発生するというべきである。 第4 結論よって,控訴人の被控訴人らに対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないが,控訴人の被控訴人銀行に対する予備的請求は,本件預金の残額である411万1544円及びこれに対する平成14年11月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。したがって,原判決中,これと異なる被控訴人銀行に関する部分を主文1項のとおり変更し,控訴人の被控訴人Sに対する控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第3民事部裁判長裁判官小林克已裁判官内藤正之裁判官吉岡茂之
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