平成27(ワ)15005 著作権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年1月21日 東京地方裁判所
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判決文本文7,072 文字)

平成28年1月21日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成27年(ワ)第1505号著作権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成27年10月27日判決原告A同訴訟代理人弁護士大熊裕司島川知子被告株式会社復刊ドットコム同訴訟代理人弁護士北村行夫大井法子杉浦尚子雪丸真吾芹澤繁亀井弘泰名畑淳山本夕子都行志吉田朋杉田禎浩近藤美智子 主文 原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)を複製し,頒布してはならない。 2 被告は,本件書籍及びその印刷用原版を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,737万円及びこれに対する平成27年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,別紙イラスト目録記載のイラスト(以下「本件イラスト」と総称する。)の著作者であると主張する原告が,被告に対し,被告による本件書籍の複製等が本件イラストに係る原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害すると主張して,著作権法112条に基づき本件書籍の複製の差止め及び廃棄等を,同法114条3項,民法709条に基づき損害賠償金737万円及びこれに対する不法行為の後(訴状送達日の翌日)である平成27年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める訴訟である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実) 及びこれに対する不法行為の後(訴状送達日の翌日)である平成27年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める訴訟である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者ア原告は,昭和40年頃から各種イラストを創作して雑誌,図鑑等に掲載しており,現在もイラストレーターとして活動している。(甲1)イ被告は,書籍,雑誌その他印刷物及び電子出版物の企画,製作,発行及び販売等を業とする株式会社である。 ⑵ 原告の著作権原告は,本件イラストの著作者である(別紙イラスト目録記載6,8及び9の各イラストにつき甲23,25,26。その余のイラストにつき当事者間に争いなし。)。 ⑶ 本件書籍の発行 - 3 -被告は,平成24年3月30日,本件書籍を発行した。本件書籍は,株式会社秋田書店が発行した「写真で見る世界シリーズカラー版怪獣ウルトラ図鑑」(昭和43年5月30日発行。以下「原書籍」という。)の復刻版であり,本件イラストが掲載されている。また,2ページの目次の左側に「さの氏名が記載されているが,本件イラストが掲載された各ページには著作者の氏名の表示はない。(甲16) 2 争点⑴ 本件書籍発行についての原告の許諾の有無⑵ 原告の許諾についての錯誤の有無⑶ 本件書籍における氏名表示権侵害の有無⑷ 損害額 3 争点についての当事者の主張⑴ 争点⑴(本件書籍発行についての原告の許諾の有無)について(被告の主張)被告の担当者が,平成24年1月6日,原告に対し,本件書籍の趣旨及び概要を説明し,許諾料を告げて本件書籍に本件イラストを複製して出版することについて許諾を求めたところ,原告はこれを許諾した。このこ 被告の担当者が,平成24年1月6日,原告に対し,本件書籍の趣旨及び概要を説明し,許諾料を告げて本件書籍に本件イラストを複製して出版することについて許諾を求めたところ,原告はこれを許諾した。このことは,同年2月5日に原告が許諾料の振込先を教示する電子メールを送信していることからも明らかである。 (原告の主張)原告は,担当者から本件書籍の発行及びイラストの許諾料の支払について話があった際,本件書籍の元となった原書籍の発行を知らなかったので,原書籍を見せるよう依頼したが,これを拒絶されたことから,許諾するか否かの回答を留保した。したがって,振込先の教示にかかわらず,本件書籍の発行について原告は許諾していない。 ⑵ 争点⑵(原告の許諾についての錯誤の有無)について - 4 -(原告の主張)被告の担当者は,原告への電話で本件書籍の発行について説明した際,原書籍にはイラストに名前がないので著者名が分からない旨述べた。本件イラストは,元々,雑誌の「特集ページ」に掲載されていたものであり,特集ページでは,他のページ(記事ページ)と異なり,著作者である原告の氏名(筆名を含む。以下「原告名」という。)がイラストごとに表示されていたことから,原告は,原書籍に掲載されているのは本件イラストとは別のイラストであると勘違いしたものであり,イラストごとに原告名が表示されていないことが分かっていれば,許諾の意思表示をすることがなかった。したがって,仮に原告の許諾があったと認められるとしても,意思表示の要素に錯誤があった。 (被告の主張)本件書籍に掲載されるイラストが元々雑誌の「特集ページ」とそうでないページのいずれに掲載されていたものかは原告の内心の問題にすぎず,仮に錯誤があるとしても動機の錯誤であるが,こうした動機は全く表示されて 書籍に掲載されるイラストが元々雑誌の「特集ページ」とそうでないページのいずれに掲載されていたものかは原告の内心の問題にすぎず,仮に錯誤があるとしても動機の錯誤であるが,こうした動機は全く表示されていないから,意思表示の錯誤とならない。 ⑶ 争点⑶(本件書籍における氏名表示権侵害の有無)について(原告の主張)本件イラストは,雑誌に掲載された際,イラストごとに原告の氏名が表示される「特集ページ」に掲載されていた。にもかかわらず,本件書籍では,こうしたイラスト付近にあった原告名を抹消し,目次において他の著作者と一緒に原告名が表示されている。こうした方法は,氏名の表記方法について公正な慣行に従ったものとはいえず,原告の氏名表示権を侵害する。 なお,被告は,本件書籍における表記方法は原書籍と同一である旨主張するが,原書籍(甲34)にそのような表示はなく,被告主張は前提を欠いている。 - 5 -(被告の主張)本件書籍の2ページにおいて,挿絵の著作者として原告名が記載されている。この表記方法は,原書籍(乙5)のそれと同一である上,単行本におけるイラストレーターの表記についての公正な慣行に従っており,原告の氏名表示権を侵害しない。 ⑷ 争点⑷(損害額)について(原告の主張)ア複製権侵害による損害被告は,平成24年3月30日から平成27年5月31日までに本件書籍を少なくとも1万5000部発行している。 原告は,被告に対し,10%の印税相当額を請求するのが相当であるところ,本件書籍の定価は3800円であるから,原告の損害額は,次の計算式のとおり,570万円を下らない。 (計算式)3800円×1万5000部×10%=570万円イ氏名表示権侵害に対する慰謝料本件書籍において本件イラスト付近に原告の氏名 損害額は,次の計算式のとおり,570万円を下らない。 (計算式)3800円×1万5000部×10%=570万円イ氏名表示権侵害に対する慰謝料本件書籍において本件イラスト付近に原告の氏名を表示することに何ら問題がないにもかかわらず,被告が原告名を省略して本件書籍を発行したことによって,原告は精神的苦痛を受けた。この苦痛を慰謝するのに必要な金員は,100万円を下らない。 ウ弁護士費用原告は,本件訴訟を提起するに当たり,弁護士に依頼せざるを得なかったところ,これによって生じた費用のうち,被告の行為によって通常生ずべき損害に当たる部分は,67万円を下らない。 (被告の主張)否認ないし争う。 本件書籍の発行部数は5900部である。また,本件書籍全体に占める原 - 6 -告のイラストのあるページ割合はおよそ14%にすぎない上,印税率10%はイラストの使用料として通常考えられないほど高率である。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(本件書籍発行についての原告の許諾の有無)及び⑵(原告の許諾についての錯誤の有無)について⑴ 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア被告においては,編集長のB(以下「B」という。)が本件書籍の発行を担当していた。Bは,平成24年1月頃,原告に対し,本件イラストを掲載した本件書籍を発行することを伝えた。Bは,同年2月3日,原告に対し,本件書籍が原書籍の復刻版であることその他の本件書籍の仕様,発行時期等を記載した上で,本件イラストの復刻使用料として1万円を支払うとの申出をし,この使用料の振込先を教示願いたい旨の電子メールを送信した。(乙1)イ原告は,同月5日,Bに対し,原告名義の普通預金口座を振込先として指定し,これに続けて「以上宜しくお願い致します。」 出をし,この使用料の振込先を教示願いたい旨の電子メールを送信した。(乙1)イ原告は,同月5日,Bに対し,原告名義の普通預金口座を振込先として指定し,これに続けて「以上宜しくお願い致します。」と記載した電子メールを返信した。(乙2)ウ被告は,同年5月7日頃,原告に対し,1万円を上記口座に振り込んで支払った。また,原告は,その頃,被告から本件書籍の送付を受けた。 (乙4)エ原告は,平成26年6月頃,Bに対し,本件イラストの権利処理について説明を求めた。Bが上記ア~ウの経緯を説明したところ,原告は,同月26日,Bに対し,「今回 2年前に復刊ドットコム様には承諾した事は認識しております。」としつつも,原書籍を見た記憶がなく,原書籍の発行元である株式会社秋田書店の担当者に対して疑問や不満を抱いている旨を伝える電子メールを送信した。(乙4)⑵ 上記認定事実によれば,原告は,被告が本件書籍の内容を説明して本件イ - 7 -ラストの使用料の支払を申し出たのに対し,その振込先を伝えたものであり,さらに,本件書籍の発行を承諾したことをその2年後にも認識していたのである。そうすると,原告は,遅くとも振込先を伝えた時までに,本件書籍の内容とこれに本件イラストが掲載されていることを理解した上で,本件書籍の発行を承諾する意思表示をしたものであって,この点につき原告に錯誤があるとは認められないと判断するのが相当である。 ⑶ これに対し,原告は,①原書籍を見たことがなく,その閲覧を被告の担当者が拒んだことから,本件書籍の発行についての許諾を留保した,②上記⑴エの電子メールは振込先を伝えた事実を確認したものにすぎないとして,本件書籍の発行を許諾したことを否定する。 そこで判断するに,上記①については,本件書籍の発行の許諾が原書籍について ,②上記⑴エの電子メールは振込先を伝えた事実を確認したものにすぎないとして,本件書籍の発行を許諾したことを否定する。 そこで判断するに,上記①については,本件書籍の発行の許諾が原書籍についての許諾を必ずしも前提しないこと,原告による原書籍の閲覧を被告担当者が拒む理由が見当たらないことに加え,仮に許諾を留保しているのであれば,使用料の振込先を伝える際に許諾を留保する旨を併せて告げることに支障はないと考えられるのに,原告が何らの留保なく振込先の預金口座を伝えていることからすれば,原告の主張に係る事実を認めることはできない。 また,上記②については,本件書籍の発行を許諾しないまま振込先を伝えることを「承諾」と表現すること自体が不自然であると解される。 したがって,原告の上記各主張はいずれも採用することができない。 ⑷ 原告は,また,仮に許諾があったと認められるとしても錯誤がある旨主張する。そこで判断するに,この点に関する原告の主張は,本件イラストの掲載に当たり原告名が表示されていないことが分かっていれば許諾をしなかったなどというものであって,意思表示の動機に錯誤があった旨の主張と解される。ところが,本件の関係各証拠上,上記の動機が表示されていたことはうかがわれないから,原告の主張は失当と解すべきである。 2 争点⑶(本件書籍における氏名表示権侵害の有無)について - 8 -⑴ 本件書籍には,前記前提事実⑶のとおり,目次の左側に原告名が記載されているが,イラストごとに著作者名の表示はない。原告は,イラストの付近に原告名が表示されていないことが,氏名表示における公正な慣行に従っておらず,氏名表示権を侵害する旨主張する。 そこで判断するに,前記前提事実⑶に加え,証拠(個別に摘示するほか,甲16)及び弁論の全趣旨によれば,次の事 いことが,氏名表示における公正な慣行に従っておらず,氏名表示権を侵害する旨主張する。 そこで判断するに,前記前提事実⑶に加え,証拠(個別に摘示するほか,甲16)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア本件書籍は,テレビ番組「ウルトラセブン」及び「ウルトラマン」に登場する主人公,武器,怪獣等を専ら子供向けに紹介する図鑑であり,本文は約170ページで,ほとんどのページにイラスト又は写真が掲載され,これに説明文が付されている。本件イラストは,本件書籍中21ページにわたり掲載されており,見開きページのほぼ全体を占めるもの,ページの下部に小さく表示されたものなどがある。 イ本件書籍には,目次のページの「さし絵」欄に原告を含む6名の氏名が列記されているが,本件イラスト及びその他のイラストのいずれについても,イラストが掲載されたページ内又はその付近に当該イラストの作成者の氏名が記載されたものはない。 ウ本件書籍は昭和43年5月30日に初版が発行された原書籍(乙5)をほぼそのまま復刻したものであり,本件書籍における上記イのイラスト作成者の表示方法は,原書籍におけるものと同一である(なお,昭和53年9月30日発行の原書籍の24版(甲34)には,目次のページに上記「さし絵」欄の氏名の記載がないが,これが初版と異なるものとされた事情は本件の証拠上明らかでない。)。 エ本件イラストは,原書籍の発行以前に他の雑誌に掲載された原告のイラストをそのまま,又はレイアウトを一部修正するなどして,本件書籍に使用したものである。上記雑誌に掲載された際,原告の氏名は,当該イラストの付近に記載される場合(別紙イラスト目録記載1~7,10~13の - 9 -各イラスト)と,雑誌の最終ページに「絵」として他のイラスト作成者の氏名と列記される場 ,原告の氏名は,当該イラストの付近に記載される場合(別紙イラスト目録記載1~7,10~13の - 9 -各イラスト)と,雑誌の最終ページに「絵」として他のイラスト作成者の氏名と列記される場合(同8及び9の各イラスト)があった。(甲18~30)⑵ 上記事実関係によれば,本件イラストは,原告以外の者が作成したイラスト及び記述した文書と共に本件書籍の一部を構成するにとどまるのであって,復刻版である本件書籍の元となった原書籍の作成に当たり,その素材として,既に雑誌に発表されていた原告作成のイラストが使用されたものとみることができる。そうすると,本件書籍のような複数の者のイラストが掲載されている書籍において,その作成者の氏名をイラストごとに個別に表示することを省略し,これを特定のページにおいてまとめて表示することが公正な慣行に反するということはできず,氏名表示権を侵害することはないと判断するのが相当である。 ⑶ これに対し,原告は,雑誌の「特集ページ」に掲載されていた本件イラスト付近にあった原告名を抹消したことなどから氏名表示権の侵害がある旨主張するが,以上に説示したところに照らし,これを採用することはできない。 3 結論以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川 浩 二 裁判官藤原典子 - 10 -裁判官萩原孝基 - 11 -(別紙)書籍目録 題号カラー版怪獣ウルトラ図鑑[復刻版]著者C発行者D発行所株式会社秋田書店発売元被告発行年月 -(別紙)書籍目録 題号 カラー版怪獣ウルトラ図鑑[復刻版] 著者 C 発行者 D 発行所 株式会社秋田書店 発売元 被告 発行年月日 平成24年3月30日 初版発行 平成25年2月28日 5刷発行 -(別紙)イラスト目録 1 ウルトラセブンの必殺わざ総まくり 2 これが地球防衛軍だウルトラホーク出動せよ! 3 ウルトラ警備隊の戦闘兵器ウルトラホーク1号 4 ウルトラ警備隊のていさつ兵器ウルトラホーク3号 5 ウルトラ警備隊の宇宙兵器ウルトラホーク2号 6 これが地球防衛軍だこれがひみつ地下基地だ! 7 ペガッサ星人のマンモス宇宙都市 8 ガマクジラ 9 ペスター 10 金食い怪獣カネゴン 11 シャプレー星人の円盤 12 ベル星人の円盤 13 カネゴンのアイディア工作法

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