平成18(受)1130 不当利得返還請求事件

裁判年月日・裁判所
平成18年11月27日 最高裁判所第二小法廷 判決 その他 東京高等裁判所 平成17(ネ)5282
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判決文本文16,514 文字)

- 1 -主文 原判決を次のとおり変更する。 第1審判決を次のとおり変更する。 (1)被上告人は,上告人に対し,80万円及びこれに対する平成16年8月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)上告人のその余の請求を棄却する。 訴訟の総費用は,これを4分し,その1を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。 理由 第1事案の概要 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 (1)被上告人(以下「被上告人大学」という。)は,学校教育法所定の大学であるY大学を設置する学校法人である(以下,被上告人大学の設置するY大学を「被上告人大学」ということもある。)。 (2)上告人は,被上告人大学の平成16年度の入学試験を受験して合格し,被上告人大学が定めた入学試験要項及び入学試験の合格者に配布した入学手続要項(以下併せて「本件要項」という。)に従い,所定の期限までに,被上告人大学に対し,入学金27万円(以下「本件入学金」という。),授業料分割納入金80万円(以下「本件授業料」という。)及び後援会費5万円(以下「本件後援会費」という。)の合計112万円(以下「本件学生納付金」という。)を納付して,入学手続を行い,被上告人大学との間で在学契約(以下「本件在学契約」という。)を- 2 -締結した。 (3)本件要項には,平成16年3月25日までに入学辞退を申し出た場合には入学金を除く学生納付金を返還する旨,入学辞退を届け出る場合は所定の事項が記載された入学辞退届を郵送又は持参して提出する旨が記載されている(この学生納付金の返還を制限する記載に係る合意を,以下「本件不返還特約」という。)。 (4)上告人の母(親権者)は,平成16年3月26日,被上告人大学に入学辞退に関する問合せの電話をかけた。 いる(この学生納付金の返還を制限する記載に係る合意を,以下「本件不返還特約」という。)。 (4)上告人の母(親権者)は,平成16年3月26日,被上告人大学に入学辞退に関する問合せの電話をかけた。 (5)上告人は,平成16年4月2日に行われた被上告人大学の入学式に欠席し,これによって,本件在学契約を解除する旨の意思表示をし,被上告人大学も本件在学契約の解除を承諾した。 (6)被上告人大学は,上告人に対し,本件学生納付金のうち,本件後援会費5万円を返還した。 本件は,上告人が,被上告人大学への入学を辞退して本件在学契約を解除したなどとして,被上告人大学に対し,不当利得返還請求権に基づき,本件学生納付金相当額から返還済みの本件後援会費相当額を控除した残額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案であり,被上告人大学は,上告人との間に本件不返還特約が有効に存在することなどを主張して,上告人の請求を争っている。 第2上告代理人青山雅幸,同増田陽子の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。 (1)上告人は,平成16年4月2日に行われた被上告人大学の入学式を欠席す- 3 -ることにより,本件在学契約を解除する旨の意思表示をし,被上告人大学もこれを承諾したから,同日をもって本件在学契約は合意により解除された。 (2)本件学生納付金のうち,本件入学金は,被上告人大学への入学資格取得及び保持の対価であり,被上告人大学は,上告人に対して入学資格と保持権を付与したから,本件入学金を取得する法律上の原因を有する。したがって,上告人は,被上告人大学に対して本件入学金の返還を求めることはできない。 (3)本件学生納付金のうち,本件授業 入学資格と保持権を付与したから,本件入学金を取得する法律上の原因を有する。したがって,上告人は,被上告人大学に対して本件入学金の返還を求めることはできない。 (3)本件学生納付金のうち,本件授業料は,被上告人大学が提供する人的物的教育設備の利用及び教育的役務等の対価であり,本件在学契約は,上告人が現実に教育役務等の提供を受けるべき最初の日である入学式に欠席することによって解除され,上告人は本件授業料に対応する教育役務等の提供を受けていないから,本件不返還特約が有効と認められない限り,被上告人大学には,本件授業料を取得する法律上の原因があるとはいえない。 (4)本件在学契約は,消費者契約法2条3項所定の消費者契約に該当し,本件不返還特約は,同法9条1号にいう「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」(以下「違約金等条項」という。)に当たる。 (5)在学契約の解除が4月1日以降にされるときは,被上告人大学が追加募集をして入学者を補充することは通常困難であり,この解除によって得ることができなくなった授業料を他の学生から収受する授業料によって補てんすることはできないから,被上告人大学は,在学契約を解除した学生から得ることを予定していた1年分の授業料を失い,これに相応する損害を受けることになる。したがって,上告人が納付した本件授業料は,本件在学契約と同種の在学契約の解除に伴い被上告人大学に生ずべき平均的な損害の額(消費者契約法9条1号)を超えるものではな- 4 -い。また,本件不返還特約が民法1条2項の原則に反するということもできない。 そうすると,本件不返還特約は,消費者契約法9条1号及び同法10条が定めるいずれの無効事由にも該当せず,有効である。そして,被上告人大学においては,本件要項において,入学辞退に いうこともできない。 そうすると,本件不返還特約は,消費者契約法9条1号及び同法10条が定めるいずれの無効事由にも該当せず,有効である。そして,被上告人大学においては,本件要項において,入学辞退について書面による届出を求め,しかも,期限後の入学辞退を認めていないのであるから,上告人の母が被上告人大学に電話をかけた際に,書面で入学辞退を申し出るよう被上告人大学が同人に告知すべき信義則上の義務を負っていたともいえない。したがって,被上告人大学は,上告人に対して,本件授業料を返還する義務を負わない。 しかしながら,原審の上記判断のうち,上告人が被上告人大学に対して本件入学金の返還を求めることができないとした部分は是認することができるが,(5)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。なお,判断の前提となる事実は,原審の認定した事実並びに公知の事実及び裁判所に顕著な事実である。 (1)総論ア在学契約の性質大学(短期大学を含む。以下同じ。)は,学術の中心として,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させること等を目的とする(学校教育法52条,69条の2第1項)ものであり,大学を設置運営する学校法人等(以下においては,大学を設置運営する学校法人等も「大学」ということがある。)と当該大学の学生(以下においては,在学契約又はその予約を締結したがいまだ入学していない入学試験合格者を含めて「学生」ということがある。)との間に締結される在学契約は,大学が学生に対して,講義,実- 5 -習及び実験等の教育活動を実施するという方法で,上記の目的にかなった教育役務を提供するとともに,これに必要な教育施設等を利用させる義務を負い,他方,学生が大学に対して,これらに対する対価を支払う義務を負う 実験等の教育活動を実施するという方法で,上記の目的にかなった教育役務を提供するとともに,これに必要な教育施設等を利用させる義務を負い,他方,学生が大学に対して,これらに対する対価を支払う義務を負うことを中核的な要素とするものである。また,上記の教育役務の提供等は,各大学の教育理念や教育方針の下に,その人的物的教育設備を用いて,学生との信頼関係を基礎として継続的,集団的に行なわれるものであって,在学契約は,学生が,部分社会を形成する組織体である大学の構成員としての学生の身分,地位を取得,保持し,大学の包括的な指導,規律に服するという要素も有している。このように,在学契約は,複合的な要素を有するものである上,上記大学の目的や大学の公共性(教育基本法6条1項)等から,教育法規や教育の理念によって規律されることが予定されており,取引法の原理にはなじまない側面も少なからず有している。以上の点にかんがみると,在学契約は,有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約と解するのが相当である。 イ在学契約の成立時期大学は,一般に,学則や入学試験要項,入学手続要項等(以下,入学試験要項や入学手続要項等を併せて「要項等」と総称する。)において,当該大学の入学試験の合格者について,入学に先立ち,入学金(入学料),授業料等の諸費用(これらを併せて「学生納付金」,「入学時納入金」,「校納金」等の名称が付されていることがある。以下においては「学生納付金」という。)の納付や必要書類の提出などの入学手続を行う期間を定めており,この期間内に所定の入学手続を完了しなかった者の入学を認めないものとする一方,上記入学手続を行った者については,入学予定者として取り扱い,当該大学の学生として受け入れる準備を行っているもの- 6 -であるから,特段の事情のない限り,学生が 者の入学を認めないものとする一方,上記入学手続を行った者については,入学予定者として取り扱い,当該大学の学生として受け入れる準備を行っているもの- 6 -であるから,特段の事情のない限り,学生が要項等に定める入学手続の期間内に学生納付金の納付を含む入学手続を完了することによって,両者の間に在学契約が成立するものと解するのが相当である。なお,要項等において,入学金とそれ以外の学生納付金とで異なる納付期限を設定し,入学金を納付することによって,その後一定期限までに残余の学生納付金を納付して在学契約を成立させることのできる地位を与えている場合には,その定めに従って入学金を納付し,入学手続の一部を行った時点で在学契約の予約が成立する一方,残余の手続を所定の期間内に完了した時点で在学契約が成立し,これを完了しなかった場合には上記予約は効力を失うものと解するのが相当である。もっとも,入学手続を完了して在学契約を締結した者が当該大学の学生の身分を取得するのは,当該大学が定める入学時期すなわち通常は入学年度の4月1日であり,大学によって教育役務の提供等が行われるのも同日以降であるから,双務契約としての在学契約における対価関係は,同日以降に発生することになる。 ウ学生納付金の性質大学が学則や要項等において,入学手続の際に納付すべきものと定めている学生納付金には,一般に,①入学金,②授業料(通常は初年度の最初の学期分又は初年度分)のほか,③実験実習費,施設設備費,教育充実費などの費目の金員,更には,④学生自治会費,同窓会費,父母会費,傷害保険料などの諸会費等(以下「諸会費等」という。)が含まれるところ,これらのうち②及び③(以下併せて「授業料等」という。)は,その費目の名称に照らしても,一般に,教育役務の提供等,在学契約に基づく大学の学生に対する給 (以下「諸会費等」という。)が含まれるところ,これらのうち②及び③(以下併せて「授業料等」という。)は,その費目の名称に照らしても,一般に,教育役務の提供等,在学契約に基づく大学の学生に対する給付の対価としての性質を有するものと解され,④の諸会費等も,一般に,学生が大学において教育を受け,あるいは学生の地- 7 -位にあることに付随して必要となる費用として納付されるものであって,その使途が具体的に明示されているにすぎないものと解される。これに対して,①の入学金は,入学時にのみ納付することとされていて,要項等において,他の学生納付金と納付期限に差異が設けられていることも多い上,一定の期限までに入学辞退を申し出た場合に入学金以外の学生納付金のみを返還する旨定められていることが多いなど,一般に他の学生納付金とは異なる取扱いがされており,法令上も授業料とは別に位置付けられている(学校教育法施行規則4条1項7号等)。 また,我が国においては,大学の入学の時期は,原則として学年の初めすなわち4月1日とされ(学校教育法施行規則72条,44条及び各大学の学則の定め),新入生を募集する時期も限定されているが,各大学,学部あるいは入学試験の種類等によって試験日が様々であるために,同一年度に複数の大学,学部を併願受験することが可能であることから,大学の入学試験の受験者の相当数が複数の大学,学部を併願受験し,合格した大学,学部の中から自己の志望等を勘案して実際に入学する大学,学部を選択している。そして,合否の発表日や入学手続の期間も各大学,学部あるいは入学試験の種類等によって様々に定められているため,受験した大学,学部の入学試験に合格した者は,当該大学,学部への入学についての志望の強さ,併願受験した他大学,他学部の入学試験の合否の結果あるいはその見通し, 類等によって様々に定められているため,受験した大学,学部の入学試験に合格した者は,当該大学,学部への入学についての志望の強さ,併願受験した他大学,他学部の入学試験の合否の結果あるいはその見通し,入学についての志望の強さ等を勘案して,当該合格した大学,学部について,入学金の納付を含む入学手続の全部又は一部を行って在学契約又はその予約(以下,これらを併せて「在学契約等」という。)を締結するかどうかを決定することが通例である。入学試験合格者においては,在学契約等を締結することにより,在学契約等を締結した大学から正当な理由なくこの在学契約等を解除されない地位,すなわ- 8 -ち当該大学に入学し得る地位を確保した上で,併願受験した他大学,他学部の入学試験の合否の結果を待って最終的に入学する大学,学部を選択する(入学手続の全部又は一部を行ったが入学しないこととした大学,学部については,残余の入学手続を行わず,あるいは入学辞退を申し出る。)こととし,また,他大学,他学部の入学試験が不合格となった場合でも,先に入学し得る地位を確保しておいた大学,学部に入学して,いわゆる浪人生活を回避するということが広く行われている。一方,大学としては,入学金の納付を含む入学手続の全部又は一部を行って在学契約等を締結した学生については,当該学生が現実に当該大学に入学するかどうかにかかわらず,入学予定者として扱い,当該大学の学生として受け入れるための事務手続等を行うことになる。 以上の諸事情及び入学金という名称に照らすと,入学金は,その額が不相当に高額であるなど他の性質を有するものと認められる特段の事情のない限り,学生が当該大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有するものであり,当該大学が合格した者を学生として受け入れるための事務手続等に要する費用にも るものと認められる特段の事情のない限り,学生が当該大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有するものであり,当該大学が合格した者を学生として受け入れるための事務手続等に要する費用にも充てられることが予定されているものというべきである。そして,在学契約等を締結するに当たってそのような入学金の納付を義務付けていることが公序良俗に反するということはできない。 エ在学契約等の解除(ア)教育を受ける権利を保障している憲法26条1項の趣旨や教育の理念にかんがみると,大学との間で在学契約等を締結した学生が,当該大学において教育を受けるかどうかについては,当該学生の意思が最大限尊重されるべきであるから,学生は,原則として,いつでも任意に在学契約等を将来に向かって解除することが- 9 -できる一方,大学が正当な理由なく在学契約等を一方的に解除することは許されないものと解するのが相当である。なお,学校教育法施行規則67条は,学生の退学は,教授会の議を経て学長が定める旨規定し,各大学の学則において,学生の側からの退学(在学契約の解除)について学長等の許可を得ることなどと定めている場合があるが,上記説示に照らすと,これらの定めをもって,学生による在学契約の解除権の行使を制約し,あるいは在学契約の解除の効力を妨げる趣旨のものと解すべきものではない。 (イ)入学手続を完了して大学と在学契約を締結した学生が,併願受験して合格した他大学に入学する意思を固めたことやその他の理由で,先に在学契約を締結した大学に入学する意思を失い,入学辞退を申し出ることは,在学契約の解除の意思表示と評価することができる。 (ウ)入学辞退(在学契約の解除)は,その学生の身分,地位に重大な影響が生ずるものであり,また,大学は多数の学生に係る事務手続を取り扱っているから 在学契約の解除の意思表示と評価することができる。 (ウ)入学辞退(在学契約の解除)は,その学生の身分,地位に重大な影響が生ずるものであり,また,大学は多数の学生に係る事務手続を取り扱っているから,個別の学生の入学辞退の意思は,書面等によりできるだけ明確かつ画一的な方法によって確認できることが望ましいといえるけれども,入学辞退の方式を定めた法令はなく,入学辞退の申出が当該学生本人の確定的な意思に基づくものであることが表示されている以上は,口頭によるものであっても,原則として有効な在学契約の解除の意思表示と認めるのが相当である。そして,上記のとおり,学生は原則としていつでも任意に在学契約を解除することができることにかんがみると,要項等において,所定の期限までに書面で入学辞退を申し出たときは入学金以外の学生納付金を返還する旨を定めている場合や,入学辞退をするときは書面で申し出る旨を定めている場合であっても,これらの定めが,書面によらなければ在学契約解除の効- 10 -力が生じないとする趣旨のものであると解することはできない。 なお,要項等に,「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす」,あるいは「入学式を無断欠席した場合には入学を取り消す」というような記載がある場合には,学生が入学式を無断で欠席することは,特段の事情のない限り,黙示の在学契約解除の意思表示をしたものと解するのが相当である。 (エ)在学契約は,解除により将来に向かってその効力を失うから,少なくとも学生が大学に入学する日(通常は入学年度の4月1日)よりも前に在学契約が解除される場合には,学生は当該大学の学生としての身分を取得することも,当該大学から教育役務の提供等を受ける機会もないのであるから,特約のない限り,在学契約に基づく給付の対価としての授業料等を大学が 除される場合には,学生は当該大学の学生としての身分を取得することも,当該大学から教育役務の提供等を受ける機会もないのであるから,特約のない限り,在学契約に基づく給付の対価としての授業料等を大学が取得する根拠を欠くことになり,大学は学生にこれを返還する義務を負うものというべきであるし,同日よりも後に在学契約が解除された場合であっても,前納された授業料等に対応する学期又は学年の中途で在学契約が解除されたものであるときは,いまだ大学が在学契約に基づく給付を提供していない部分に対応する授業料等については,大学が当然にこれを取得し得るものではないというべきである。また,諸会費等についても,一般に前示のような費用として大学に納付されるものであって,在学契約の締結に当たって授業料等と併せて納付すべきものとされていることに照らすと,在学契約が解除されて将来に向かって効力を失った場合,原則として,その返還に関して授業料等と別異に解すべき理由はなく,諸会費等の中には大学が別個の団体に交付すべきものが含まれているとしても,それだけでは大学には利得がないとして大学がその返還義務を免れる理由にはならないというべきである。これに対して,学生が大学に入学し得る地位を取得する対価の性質を有する入学金については,その納付をもって- 11 -学生は上記地位を取得するものであるから,その後に在学契約等が解除され,あるいは失効しても,大学はその返還義務を負う理由はないというべきである。 オ不返還特約の性質(ア)ところで,一般に,大学は,要項等において,「いったん納付された学生納付金は理由のいかんを問わず返還しない」,あるいは「所定の期限までに入学辞退を申し出た場合に限り,入学金以外の学生納付金を返還する」などと定めており,この場合,学生納付金を納付して特定の大学と在 納付金は理由のいかんを問わず返還しない」,あるいは「所定の期限までに入学辞退を申し出た場合に限り,入学金以外の学生納付金を返還する」などと定めており,この場合,学生納付金を納付して特定の大学と在学契約等を締結した学生は,特段の事情のない限り,これらの定めを理解,認識した上で学生納付金を納付したものと認められるから,当該学生と当該大学との間では,在学契約等に関し,上記定めに従った特約(以下「不返還特約」という。)が成立したものと認められる。 (イ)上記のとおり,入学金については,その納付後に在学契約等が解除され,あるいは失効しても,その性質上大学はその返還義務を負うものではないから,不返還特約のうち入学金に関する部分は注意的な定めにすぎない。 (ウ)一方,不返還特約のうち授業料等に関する部分は,在学契約が解除された場合に本来は大学が学生に返還すべき授業料等に相当する額の金員を大学が取得することを定めた合意である。そして,前記のような我が国における大学の入学試験及び受験者の大学選択の実情の下では,入学試験に合格した者が在学契約等を締結しても,実際に当該大学に入学するかどうかは多分に不確実なものであるが,私立大学においては,学生から納付を受ける授業料等がその支出を賄う主要な財源であって,もう一つの重要な財源である国庫補助金も,在学者数や入学者数が収容定員や入学定員を大きく超過し又は大きく下回る場合には,減額されたり支給を受けられなくなったりする(私立学校振興助成法5条2号,3号,6条,日本私立学校振- 12 -興・共済事業団が定める「私立大学等経常費補助金取扱要領」等)上,大学は,その設置運営について法令の規制及び所轄庁による監督を受け,学則に定める収容定員等に応じて大学設置基準(短期大学においては短期大学設置基準)所定の人的物的教育 経常費補助金取扱要領」等)上,大学は,その設置運営について法令の規制及び所轄庁による監督を受け,学則に定める収容定員等に応じて大学設置基準(短期大学においては短期大学設置基準)所定の人的物的教育設備を整える義務を負っており(学校教育法3条,学校教育法施行規則66条),入学者数が減少したからといって経費を削減することは容易ではない。しかも,大学が新入生を募集する時期は限られており,その時期を過ぎてから新入生を追加入学させることは困難であるし,大学における修業年限は,相当長期間(通常4年又は6年。短期大学においては2年又は3年。)に及ぶ(学校教育法55条,69条の2第2項)ので,修業年限の途中からの中途入学者(いわゆる学士入学を含む編入学によって入学する者)を受け入れることも必ずしも容易とはいえない。 また,入学者数の確保を図ろうとするあまり,入学辞退者が多数出ることを予想して学力水準の低い者の入学を許すことになれば,当該大学における教育研究や当該大学に対する社会的な評価の面で支障や不利益が生ずるおそれもある。これらの事情を考慮すると,不返還特約は,入学辞退(在学契約の解除)によって大学が被る可能性のある授業料等の収入の逸失その他有形,無形の損失や不利益等を回避,てん補する目的,意義を有するほか,早期に学力水準の高い学生をもって適正な数の入学予定者を確保するという目的に資する側面も有するものといえる。 以上によれば,不返還特約のうち授業料等に関する部分は,在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めの性質を有するものと解するのが相当である。この点は,不返還特約のうち諸会費等に関する部分についても,基本的に妥当するものと解される。 したがって,不返還特約(授業料等及び諸会費等に関する部分。以下同じ。)が- 13 -有効と認められる以 この点は,不返還特約のうち諸会費等に関する部分についても,基本的に妥当するものと解される。 したがって,不返還特約(授業料等及び諸会費等に関する部分。以下同じ。)が- 13 -有効と認められる以上は,大学は授業料等及び諸会費等の返還義務を負わないというべきである。 カ在学契約等への消費者契約法の適用消費者契約法は,同法2条1項に定める消費者と同条2項に定める事業者との間で締結される契約を消費者契約として,包括的に同法の適用対象としており(同条3項),営利目的,非営利目的を問わず,公法人や公益法人を含むすべての法人が上記の事業者としての「法人」(同条2項)に該当するものと解されるから,在学契約の当事者である学生及び大学(学校法人等)は,それぞれ上記の消費者及び事業者に当たる。したがって,同法施行後に締結された在学契約等は,同条3項所定の消費者契約に該当することが明らかであり,このことは,在学契約が前記のように取引法の原理にはなじまない側面を有していることによって左右されるものではないというべきである。 そうすると,消費者契約に該当する在学契約に係る不返還特約は,違約金等条項に当たるというべきである。 キ不返還特約の公序良俗違反該当性前記のとおり,不返還特約は,在学契約の解除によって大学が被る可能性のある授業料等の収入の逸失その他有形,無形の損失や不利益等を回避,てん補する目的,意義を有するほか,早期に学力水準の高い学生をもって適正な数の入学予定者を確保するという目的に資する側面も有するものというべきであって,一概にその合理性を否定することはできない。そして,このような不返還特約は,長年にわたりほとんどの私立大学の在学契約において設けられてきたものであり,入学試験受験者は,要項等によって不返還特約の存在及びその内容を認識,理解した上 はできない。そして,このような不返還特約は,長年にわたりほとんどの私立大学の在学契約において設けられてきたものであり,入学試験受験者は,要項等によって不返還特約の存在及びその内容を認識,理解した上で,そ- 14 -の自由な意思に基づき,受験する大学を決定し,更に,合格した大学について学生納付金を納付するかどうか,学生納付金を納付した大学について入学辞退をするかどうかを,その利害得失を勘案しながら,それぞれ決定しているものである。また,不返還特約に係る授業料等及び諸会費等は,一般に入学年度の最初の学期分ないし1年分のものである。 以上によれば,不返還特約は,その目的,意義に照らして,学生の大学選択に関する自由な意思決定を過度に制約し,その他学生の著しい不利益において大学が過大な利益を得ることになるような著しく合理性を欠くと認められるものでない限り,公序良俗に反するものとはいえないというべきである。 ク不返還特約の消費者契約法上の効力(ア)消費者契約法9条1号の規定により,違約金等条項は,「当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害」(以下「平均的な損害」という。)を超える部分が無効とされるところ,在学契約の解除に伴い大学に生ずべき平均的な損害は,一人の学生と大学との在学契約が解除されることによって当該大学に一般的,客観的に生ずると認められる損害をいうものと解するのが相当である。そして,上記平均的な損害及びこれを超える部分については,事実上の推定が働く余地があるとしても,基本的には,違約金等条項である不返還特約の全部又は一部が平均的な損害を超えて無効であると主張する学生において主張立証責任を負うものと解すべきである。 (イ)ところで,前記のとおり,学生の大学選択に関する自由な意思決定は十分に尊重さ 特約の全部又は一部が平均的な損害を超えて無効であると主張する学生において主張立証責任を負うものと解すべきである。 (イ)ところで,前記のとおり,学生の大学選択に関する自由な意思決定は十分に尊重されなければならず,大学の入学試験に合格した者が常に当該大学と在学契約等を締結するとは限らないし,在学契約等を締結した学生が実際に当該大学に入- 15 -学するかどうかも多分に不確実なものである。そこで,一般に,各大学においては,入学試験に合格しても入学手続を行わない者や入学手続を行って在学契約等を締結した後にこれを解除しあるいは失効させる者が相当数存在することをあらかじめ見込んで,合格者を決定し,予算の策定作業を行って人的物的教育設備を整えている。また,各大学においては,同一学部,同一学科の入学試験を複数回実施したり,入学者の選抜方法を多様化したりするなどして,入学者の数及び質の確保を図ることに努め,あるいは,補欠合格(追加合格)等によって入学者を補充するなどの措置を講じている。このような実情の下においては,一人の学生が特定の大学と在学契約を締結した後に当該在学契約を解除した場合,その解除が当該大学が合格者を決定するに当たって織り込み済みのものであれば,原則として,その解除によって当該大学に損害が生じたということはできないものというべきである。なお,一人の学生の在学契約の解除に伴い,大学においては,当該学生の受入れのために要した費用が無駄になったり,事務手続をやり直すための費用を要したりすることもあるが,これらは入学金によって賄われているものということができる。 したがって,当該大学が合格者を決定するに当たって織り込み済みのものと解される在学契約の解除,すなわち,学生が当該大学に入学する(学生として当該大学の教育を受ける)ことが客観的にも高い とができる。 したがって,当該大学が合格者を決定するに当たって織り込み済みのものと解される在学契約の解除,すなわち,学生が当該大学に入学する(学生として当該大学の教育を受ける)ことが客観的にも高い蓋然性をもって予測される時点よりも前の時期における解除については,原則として,当該大学に生ずべき平均的な損害は存しないものというべきであり,学生の納付した授業料等及び諸会費等は,原則として,その全額が当該大学に生ずべき平均的な損害を超えるものといわなければならない。 これに対し,学生による在学契約の解除が,上記時点以後のものであれば,その- 16 -ような時期における在学契約の解除は,当該大学が入学者を決定するに当たって織り込み済みのものということはできない。そして,大学の予算は年度単位で策定されていて(私立学校法48条等),当該年度の予算上の支出計画を変更するなどして人的物的教育設備を縮小したり,支出すべき費用を減少させたりすることは困難であること,一般に在学契約に基づく大学の学生に対する給付も1年を単位として準備されていることなどに照らすと,当該大学は,原則として,上記解除により,学生が当該年度に納付すべき授業料等及び諸会費等(ただし,在学契約に基づき大学が給付を提供した部分があるときは,これに対応する分を除く。)に相当する損害を被るものというべきであり,これが上記時期における在学契約の解除に伴い当該大学に生ずべき平均的な損害ということができる。したがって,上記時期に在学契約を解除した学生の納付した初年度に納付すべき授業料等及び諸会費等については,原則として,当該大学に生ずべき平均的な損害を超える部分は存しないものというべきである。 (ウ)そして,国立大学及び公立大学の後期日程入学試験の合格者の発表が例年3月24日ころまでに行われてお は,原則として,当該大学に生ずべき平均的な損害を超える部分は存しないものというべきである。 (ウ)そして,国立大学及び公立大学の後期日程入学試験の合格者の発表が例年3月24日ころまでに行われており,そのころまでには私立大学の正規合格者の発表もほぼ終了していること,補欠合格者の発表もほとんどが3月下旬までに行われているという実情の下においては,大多数の入学試験の受験者においては,3月下旬までに進路が決定し,あるいは進路を決定することが可能な状況にあって,入学しないこととした大学に係る在学契約については,3月中に解除の意思表示をし得る状況にあること,4月1日には大学の入学年度が始まり,在学契約を締結した者は学生としての身分を取得することからすると,一般に,4月1日には,学生が特定の大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるものというべ- 17 -きである。そうすると,在学契約の解除の意思表示がその前日である3月31日までにされた場合には,原則として,大学に生ずべき平均的な損害は存しないものであって,不返還特約はすべて無効となり,在学契約の解除の意思表示が同日よりも後にされた場合には,原則として,学生が納付した授業料等及び諸会費等は,それが初年度に納付すべき範囲内のものにとどまる限り,大学に生ずべき平均的な損害を超えず,不返還特約はすべて有効となるというべきである。 ケ不返還特約等の消費者契約法10条該当性前記のとおり,不返還特約のうち平均的な損害を超える部分に限って消費者契約法9条1号によって無効とされるのであり,前記の不返還特約の目的,意義に照らすと,同号によって無効とならない部分が,同法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当しないことは明らかである。また, 特約の目的,意義に照らすと,同号によって無効とならない部分が,同法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当しないことは明らかである。また,入学金の納付の定めは,入学し得る地位を取得するための対価に関する定めであるから,同条にいう「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」には該当せず,同条適用の要件を欠くものというべきである。 (2)各論以上を本件についてみると,次のようにいうことができる。 ア記録によれば,上告人の母が平成16年3月26日に被上告人大学に電話をかけた際,電話に応対した被上告人大学の職員が,上告人の母に対し,授業料の返還を受けるための入学辞退届は同月25日必着で提出しなければならない旨及び入学式に出席しなければ入学辞退として取り扱う旨述べた事実は,当事者間に争いが- 18 -なく,これと異なる主張立証もない本件においては,そのとおりの事実があったものと認められる。このような事実関係の下において,上告人は,同年4月2日に行われた被上告人大学の入学式に欠席することによって本件在学契約を解除する旨の意思表示をしたのであるから,被上告人大学の承諾を待たずに,上記意思表示によって本件在学契約は解除されたものというべきである。上記意思表示が書面によるものではないことをもって,この判断は左右されない。 イ本件学生納付金のうち,本件授業料は,在学契約に基づく被上告人大学の学生に対する給付の対価としての性質を有するものであるが,本件入学金は,被上告人大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有するものであり,被上告人大学が合格した者を学生として受け入れるための事務手続等 の対価としての性質を有するものであるが,本件入学金は,被上告人大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有するものであり,被上告人大学が合格した者を学生として受け入れるための事務手続等に要する費用にも充てられることが予定されているものというべきである。そして,本件入学金の納付の定めについては消費者契約法10条も適用されない。他に前記(1)ウにおいて説示する原則と異なる事情や特段の事情もうかがわれない。 そうすると,その余の点について判断するまでもなく,上告人の請求のうち,本件入学金の返還を求める部分は理由がない。 ウ本件不返還特約のうち,本件授業料に関する部分は,在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めの性質を有するものと解される。 エ本件在学契約は消費者契約に当たり,本件不返還特約(本件授業料に関する部分。以下同じ。)は,違約金等条項に当たる。 オ被上告人大学の主張によれば,上告人の母は,平成16年3月26日に被上告人大学に電話をかけた際に,上告人が他の大学から補欠合格の連絡を受けたが,被上告人大学への入学を辞退できるか,辞退した場合,授業料は返してもらえるか- 19 -を問い合わせたというのである。そして,上記電話に応対した被上告人大学の職員は,授業料の返還を受けるための入学辞退届は同月25日必着で提出しなければならない旨及び入学式に出席しなければ入学辞退として取り扱う旨同人に述べたこと,上告人は,同年4月2日の被上告人大学の入学式に欠席することによって本件在学契約を解除する旨の意思表示をしたことは,上記のとおりである。そして,本件において,前記(1)クにおいて説示する原則と異なる事情も証拠上うかがわれないから,同年3月31日までの在学契約の解除については,被上告人大学に生ずべき平均的な損害はなく,本件 である。そして,本件において,前記(1)クにおいて説示する原則と異なる事情も証拠上うかがわれないから,同年3月31日までの在学契約の解除については,被上告人大学に生ずべき平均的な損害はなく,本件不返還特約は無効であるところ,上記のような事実関係によれば,被上告人大学の職員の上告人の母に対する上記発言により,上告人は,既に入学辞退を決めていたのに,その手続を3月31日まで執らずに4月2日の入学式に欠席することにより済まそうとしたものと推認され,結果的に上告人において同年3月31日までに本件在学契約を解除する機会を失わせたものというべきであるから,被上告人大学において,本件在学契約が同年4月1日以降に解除されたことを理由に,本件不返還特約が有効である旨主張して本件授業料の返還を拒むことは許されないものというべきである。そうすると,被上告人大学は,上告人に対し,本件授業料80万円を返還する義務を負う。 カしたがって,被上告人大学の職員が上告人の母に対して上記アのように述べた事実を認定することなく,その結果,本件授業料に係る請求を認めなかった原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨のうち,上告受理申立ての理由2の2項(3)は,この趣旨をいうものとして理由があるが,その余の論旨は,以上の判断に反する限度においていずれも理由がない。原判決中,上告人の請求のうち本件授業料に係る請求を棄却した部分は破棄を免れない。 - 20 -第3 結論 以上によれば,上告人の本訴請求は,被上告人大学に対し,80万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成16年8月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきであるから,原判決を主文のとおり変更することとする。 よって,裁判官全員一 達の日の翌日である平成16年8月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきであるから,原判決を主文のとおり変更することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官古田佑紀裁判官滝井繁男裁判官津野修裁判官今井功裁判官中川了滋)

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