平成21(行ウ)150 未支給国民年金一部不支給決定取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成22年11月12日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文36,134 文字)

- 1 - 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,362万円1462円及びこれに対する平成20年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 旧社会保険庁長官が,原告に対して平成20年3月31日付けでした厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律(平成19年法律第111号により改正された平成19年法律第109号の附則69条による改正前のもの。以下「年金時効特例法」という。)2条に基づく時効特例給付不支給決定(以下「本件不支給決定」という。)を取り消す。 3 被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成▲年▲月▲日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告は,昭和55年3月に昭和60年法律第34号による改正前の国民年金法29条の3(以下「旧国年法29条の3」という。)第1号に基づく国民通算老齢年金(以下「本件国民通老年金」という。)の受給権を取得していたA(以下「亡A」という。)の唯一の相続人であり,亡Aの死亡後である平成19年9月に本件国民通老年金の支給裁定を求めるとともに年金時効特例法に基づくいわゆる時効特例給付の申請をしたところ,旧社会保険庁長官から,本件国民通老年金の年金給付を行う旨の裁定(以下「本件裁定」という。)を受けるも,一部期間(昭和55年4月から平成14年7月まで)に係る年金給付が時効により消滅しているとされ,また,上記期間に係る年金給付について,年金時効特例法の要件を満たさないとして時効特例給付を支給しない旨の決定(本件不支給決定)を受けた(以下,この不支給とされた年金給付部分を「本件不支給部分」という。)。 記期間に係る年金給付について,年金時効特例法の要件を満たさないとして時効特例給付を支給しない旨の決定(本件不支給決定)を受けた(以下,この不支給とされた年金給付部分を「本件不支給部分」という。)。 本件は,これらを不服とした原告が,① 被告に対し,本件不支給部分に係る- 2 -本件国民通老年金の支給請求権(以下「本件未支給年金支給請求権」という。)に基づき,本件不支給部分の合計額362万1462円及びこれに対する平成20年3月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,② 旧社会保険庁長官がした本件不支給決定の取消しを求め,また,③ 旧社会保険庁職員等が亡Aに対し通算老齢年金の裁定請求を促す義務を違法に怠ったことによって亡Aが精神的損害を被ったことを理由とする亡Aの被告に対する慰謝料請求権を相続したとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づいて慰謝料500万円及び弁護士費用50万円の合計550万円及びこれに対する亡Aの死亡時(平成▲年▲月▲日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 なお,本件事案について補足するに,本件訴訟係属中に日本年金機構法(平成19年法律第109号)が平成22年1月1日に施行されたことに伴い,同日をもって日本保険機構が成立し,社会保険庁が廃止され,政府が管掌する国民年金事業等は日本年金機構が行うこととされたが,日本年金機構設立の際,現に係属する政府が管掌する国民年金事業に係る訴訟については日本年金機構への承継がないから(日本年金機構法附則12条1項,日本年金機構法施行令附則2条参照),厚生労働大臣において当該訴訟を引き継ぐこととなったものである(日本年金機構法の施行前に法令の規定により社会保険庁長官等がした裁定等の行為 金機構法附則12条1項,日本年金機構法施行令附則2条参照),厚生労働大臣において当該訴訟を引き継ぐこととなったものである(日本年金機構法の施行前に法令の規定により社会保険庁長官等がした裁定等の行為は,法令に別段の定めがあるもののほか,同法の施行後は,その法令の相当規定に基づいて,厚生労働大臣等がした裁定等とみなされる(日本年金機構法附則73条)。)。 1 関係法令の定め以下,本件に関係のある規定のみ略記する。 (1) 平成19年法律第109号による改正前の国民年金法14条(以下「旧国年法14条」という。)及び国民年金法施行規則15条ア旧国年法14条社会保険庁長官は,国民年金原簿を備え,これに被保険者の氏名,資格の取得及び喪失,保険料の納付状況その他厚生労働省令で定める事項を記- 3 -載するものとする。 イ国民年金法施行規則15条旧国年法14条に規定する厚生労働省令で定める事項は,次のとおりとする。 (ア) 被保険者(第2号被保険者にあっては,厚生年金保険の被保険者である者に限る。次号において同じ。)の基礎年金番号(1号)(イ) 被保険者の性別,生年月日及び住所(2号)(ウ) 給付に関する事項(3号)(エ) 略(4号及び5号)(2) 平成19年法律第109号による改正前の国民年金法16条(以下「旧国年法16条」という。)及び昭和61年厚生省令第23号による改正前の国民年金法施行規則28条(以下「旧国年法規則28条」という。)ア旧国年法16条給付を受ける権利は,その権利を有する者(以下「受給権者」という。)の請求に基づいて,社会保険庁長官が裁定する。 イ旧国年法規則28条旧国年法16条の規定による通算老齢年金についての裁定の請求は,通算老齢年金裁定請求書(様式第7号)に,次 権者」という。)の請求に基づいて,社会保険庁長官が裁定する。 イ旧国年法規則28条旧国年法16条の規定による通算老齢年金についての裁定の請求は,通算老齢年金裁定請求書(様式第7号)に,次の各号に掲げる書類を添えて,これを都道府県知事に提出することによって行わなければならない。(1号ないし3号及び様式第7号略)(3) 国民年金法19条1項年金給付の受給権者が死亡した場合において,その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは,その者の配偶者,子,父母,孫,祖父母又は兄弟姉妹であって,その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは,自己の名で,その未支給の年金の支給を請求することができる。 (4) 昭和60年法律第34号による改正前の国民年金法19条3項- 4 -第1項の場合において,死亡した受給権者が死亡前にその年金を請求していなかったときは,同項に規定する者は,自己の名で,その年金を請求することができる。(ただし書につき略)(5) 旧国年法29条の3通算老齢年金は,保険料納付済期間,保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間又は保険料免除期間が1年以上である者が,次の各号のいずれかに該当するに至った後に65歳に達したとき,又は65歳に達した後に次の各号のいずれかに該当するに至ったときに,その者に支給する。(ただし書につき略)ア通算対象期間を合算した期間が25年以上であること。(1号)イ略(2号ないし4号)(6) 昭和60年法律第34号による改正前の国民年金法76条(以下「旧国年法76条」という。)次の表の左覧に掲げる者については,(注・中略)26条((注・中略)29条の3(注・中略)の規定を適用する場合を含む。)中,「25年」とある 国民年金法76条(以下「旧国年法76条」という。)次の表の左覧に掲げる者については,(注・中略)26条((注・中略)29条の3(注・中略)の規定を適用する場合を含む。)中,「25年」とあるのは,それぞれ同表の右欄のように読み替えるものとする。 大正5年4月1日以前に生まれた者(45歳を超える者) 10年(以下略)(以下略)(以下略)備考この表の中欄の記載は,左欄に掲げる者を昭和36年4月1日におけるその者の年齢で表したものである。 (7) 平成19年法律第111号による改正前の国民年金法102条1項(以下「旧国年法102条1項」という。)年金給付を受ける権利は,その支給事由が生じた日から5年を経過したときは,時効によって,消滅する。 (8) 会計法(昭和22年法律第35号)ア 30条- 5 -金銭の給付を目的とする国の権利で,時効に関し他の法律に規定がないものは,5年間これを行わないときは,時効に因り消滅する。国に対する権利で,金銭の給付を目的とするものについても,また同様とする。 イ 31条(ア) 金銭の給付を目的とする国の権利の時効による消滅については,別段の規定がないときは,時効の援用を要せず,また,その利益を放棄することができないものとする。国に対する権利で,金銭の給付を目的とするものについても,また同様とする。(1項)(イ) 金銭の給付を目的とする国の権利について,消滅時効の中断,停止その他の事項(前項に規定する事項を除く。)に関し,適用すべき他の法律の規定がないときは,民法の規定を準用する。国に対する権利で,金銭の給付を目的とするものについても,また同様とする。(2項)(9) 年金時効特例法2条社会保険庁長官は,施行日(平成22年1月1日)に いときは,民法の規定を準用する。国に対する権利で,金銭の給付を目的とするものについても,また同様とする。(2項)(9) 年金時効特例法2条社会保険庁長官は,施行日(平成22年1月1日)において国民年金法による給付(これに相当する給付を含む。以下この条並びに附則第2条及び第6条において同じ。)を受ける権利を有する者又は施行日前において当該権利を有していた者(同法19条の規定により未支給の年金の支給を請求する権利を有する者を含む。)について,同法14条の規定により記録した事項の訂正がなされた上で当該給付を受ける権利に係る裁定(裁定の訂正を含む。 以下この条において同じ。)が行われた場合においては,その裁定による当該記録した事項の訂正に係る給付を受ける権利に基づき支払期月ごとに又は一時金として支払うものとされる給付の支給を受ける権利について当該裁定の日までに消滅時効が完成した場合においても,当該権利に基づく給付を支払うものとする。 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者- 6 -原告(昭和▲年▲月▲日生)は,亡A(大正▲年▲月▲日生。平成▲年▲月▲日死亡)の実弟であるところ,昭和26年2月28日,亡AとB(明治▲年▲月▲日生。昭和▲年▲月▲日死亡)とを養父母とする養子縁組をした。 なお,原告は,亡Aの唯一の相続人である。 (甲1の1ないし5)(2) 亡Aに係る年金等についてア亡Aは,昭和36年4月から昭和42年5月までの国民年金の保険料納付済期間である73か月と同年6月から昭和50年2月までの厚生年金保険の被保険者期間93か月とを通算して(昭和60年法律第34号附則2条による廃止前の通算年金通則法(以下「通算年金通則法」という。) 付済期間である73か月と同年6月から昭和50年2月までの厚生年金保険の被保険者期間93か月とを通算して(昭和60年法律第34号附則2条による廃止前の通算年金通則法(以下「通算年金通則法」という。)4条参照),昭和60年法律第34号による改正前の厚生年金保険法(以下「旧厚年法」という。)46条の3に基づく通算老齢年金(以下「本件厚生通老年金」という。)の受給資格期間を満たしたことにより,昭和50年3月以降,本件厚生通老年金を受給していた。(甲19の4,乙3)なお,亡Aにあっては,通算年金制度を創設するための関係法律の一部を改正する法律(昭和36年法律第182号)附則7条により該当するものとみなされる旧厚年法46条の3第1号イにより,必要な受給資格期間は,10年となる。 イ亡Aは,満65歳に達した後の昭和55年3月,上記アの国民年金の保険料納付済期間73か月と,昭和42年6月から昭和55年までの厚生年金保険の被保険者期間が153月として通算して本件国民通老年金の受給権を取得した。 なお,旧国年法29条の3第1号の通算対象期間を合算した期間である「25年」は,旧国年法76条により「10年」(大正5年4月1日以前に生まれた者)と読み替えられる。 ウ亡Aは,昭和57年6月,旧厚年法42条に基づく老齢年金の受給権を取得し,昭和58年5月20日,その裁定請求を行い,同年6月23日付- 7 -けで裁定を受け,以後,老齢年金を受給し,他方,本件厚生通老年金の受給権は,同法46条の6に基づき消滅した。(甲3,19の3)亡Aは,上記裁定請求の際,国民年金の加入期間の届出をした。(甲18の3)エ本件国民通老年金の受給権については,亡Aの国民年金原簿上,同人が平成▲年▲月▲日に死亡するまでの間に裁定請求がされた形跡は,認め 定請求の際,国民年金の加入期間の届出をした。(甲18の3)エ本件国民通老年金の受給権については,亡Aの国民年金原簿上,同人が平成▲年▲月▲日に死亡するまでの間に裁定請求がされた形跡は,認められない。 (3) 原告による本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求等ア平成19年9月4日,原告は,旧社会保険庁長官に対し,亡Aの未支給の本件国民通老年金の受給権に係る裁定の請求及びその支分権たる未支給年金の支給請求をした(以下において本件国民通老年金の受給権を「基本権」と,未支給年金の支給請求権を「支分権」ということがある。)。(甲5の1・2,乙1の1)イ港北社会保険事務所長は,平成19年9月4日付けで,旧社会保険業務センター所長に対し,亡Aは「時効特例給付」の対象者と思われる旨の報告をした。(甲6)ウ旧社会保険庁長官は,平成20年1月17日,原告が上記アのとおり裁定の請求をした亡Aに係る国民年金について,本件国民通老年金の年金給付を行う旨の決定(本件裁定)をした。なお,国民年金証書中には,「平成14年7月以前分の年金は,5年以上経過しているため消滅時効によりお支払いする額の計算の基礎とはなりません。」と記載されている。(甲7の1ないし3)エ旧社会保険庁社会保険業務センター所長は,亡Aに係る本件国民通老年金の支給対象期間を平成14年8月から平成19年6月,支給金額を91万4834円とすることとし,平成20年3月14日付け未支給国民年金支給決定通知書をもって,そのころ原告に通知した。(甲8)オ旧社会保険庁長官は,平成20年3月31日,年金時効特例法の規定に- 8 -よる年金記録の改正に基づく裁定又は裁定の訂正を原因とするものではないことを理由に本件不支給決定をし,同日付け時効特例給付不支給決定通知書をもって 年3月31日,年金時効特例法の規定に- 8 -よる年金記録の改正に基づく裁定又は裁定の訂正を原因とするものではないことを理由に本件不支給決定をし,同日付け時効特例給付不支給決定通知書をもって,そのころ原告に通知した。なお,上記通知書には「過去に時効消滅によりお支払いすることができなかった年金は,厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律の規定による年金記録の訂正に基づく裁定又は裁定の訂正を原因とするものではないため」と記載されている。(甲9)(4) 審査請求,再審査請求及び本件訴訟の提起ア原告は,平成20年3月12日,同月9日付け審査請求書をもって,旧神奈川社会保険事務局社会保険審査官に対し,本件国民通老年金の受給権に係る未支給国民年金支給決定に対する審査請求をした。(甲10の1)原告は,同年4月10日,同月7日付け「審査請求の趣旨および理由の変更(第2信)」と題する書面をもって,上記審査請求に前記(3)オの本件不支給決定に対する審査請求を追加し,審査請求の趣旨及び理由を以下の①ないし③のとおり変更した。(甲10の3)① 65歳から92歳で死亡するまでの27年間の全未支給額の支給を求める。 ② 支給期間限定理由と支給金額算出根拠(時効消滅分を含め)の明示を求める。 ③ 27年間の金利加算と70歳繰下げ受給の扱いとすることを求める。 イ旧東京社会保険事務局社会保険審査官は,平成20年6月13日,上記アの審査請求(ただし,変更後のもの。)を棄却する旨の決定を行い,そのころ原告に通知された。(甲13)ウ原告は,平成20年7月2日,同月1日付け再審査請求書をもって,社会保険審査会に対し,再審査請求をした。(甲14の1)エ社会保険審査会は,平成20年12月24日,再審査請求の 。(甲13)ウ原告は,平成20年7月2日,同月1日付け再審査請求書をもって,社会保険審査会に対し,再審査請求をした。(甲14の1)エ社会保険審査会は,平成20年12月24日,再審査請求のうち,不払- 9 -期間に係る金利の支払を求める部分を却下し,その余の部分を棄却する旨の裁決をし,そのころ原告に通知された。(甲15)オ原告は,平成21年3月31日,本件訴訟を提起した。なお,前記第1の1記載の請求は,同年9月15日,当初の請求の趣旨1項(「社会保険庁長官が,原告に対し,平成20年3月14日付けでなした未支給国民年金一部不支給決定を取り消す」)を交換的に変更したものであり,変更後の請求の趣旨1項の請求額(362万1462円)の内訳は別表の「期間」欄に応じて記載された「時効消滅した額」欄の各金額のとおりである。(顕著な事実) 3 争点(1) 本件未支給年金支給請求権の有無ア本件未支給年金支給請求権の消滅時効の成否(消滅時効の起算点)イ消滅時効の主張における信義則違反の有無(2) 本件不支給決定の適法性(3) 国家賠償法に基づく損害賠償請求権の成否 4 争点に関する当事者の主張の要旨(1) 争点(1)(本件未支給年金支給請求権の有無)について(原告の主張の要旨)ア裁定前の支分権の消滅時効の起算点は「裁定時」であること(ア) 支分権の消滅時効については,会計法30条,31条が適用されるが,支分権の消滅時効の起算点は,「法律上権利行使が可能になったとき」(民法166条)である。 年金を受給するためには,旧社会保険庁長官の裁定(以下単に「裁定」という。)を受けなければならず(旧国年法16条),裁定なくして年金の給付を請求することはできないから,裁定は,支分権の行使における法律上の障害であ めには,旧社会保険庁長官の裁定(以下単に「裁定」という。)を受けなければならず(旧国年法16条),裁定なくして年金の給付を請求することはできないから,裁定は,支分権の行使における法律上の障害であり,裁定前の支分権の消滅時効の起算点は,裁定の時である。 - 10 -(イ) すなわち,基本権に対する裁定の法的性質は確認行為であり,給付主体と相手方との間の紛争を未然に防止し,給付の法的確実性を担保する見地から,行政庁による裁定によって初めて具体的権利を発生させるものである。裁定を受ける前の抽象的権利にすぎない支分権は,裁定により具体的権利になって初めてその消滅時効が起算される。また,旧国年法102条1項は,会計法30条と同じ消滅時効期間を定めているが,その趣旨は同法31条を排斥するためであり,国民年金が保険料の対価的・貯蓄的性格を有することから,できるだけ保険料の掛け捨てを防ごうとしたものであって,国民年金の上記性格を考慮すれば,基本権につき時効を援用するのが相当でない場合には,裁定時から過去5年以上前に支払期が到来した支分権についても,時効消滅をさせることに合理性はなく,全額支給されるべきである。 (ウ) 被告の主張の不合理性被告は,支分権の消滅時効の起算点を法令上の支払期の到来時点とし,同時履行の抗弁権が付着した債権等の例を挙げ,抗弁権が付着した債権であると同視できる旨主張する。しかし,抗弁権が付着した債権として被告が例示するものは,実体法上,権利行使が可能であるが,相手が任意に抗弁権を主張して履行を拒絶できるものにすぎないのに対し,裁定を経ていない支分権は,実体法上,権利行使そのものができない抽象的権利であることを看過している上,支分権を行使するに当たっての法律上の障害となる裁定は,「権利者の意思」ではなく「第三者た 対し,裁定を経ていない支分権は,実体法上,権利行使そのものができない抽象的権利であることを看過している上,支分権を行使するに当たっての法律上の障害となる裁定は,「権利者の意思」ではなく「第三者たる行政庁の意思」にかかっている点をも看過するものであって,両者は全く異なる。 また,被告は,履行遅滞の関係においては,裁定前に支払期が到来した年金支給請求権につき,「債務」(民法412条)と観念できないほどの抽象的権利であるとするにもかかわらず,消滅時効の関係においては,それを国に対する権利として,法律上権利行使が可能であると観念- 11 -するものであり,一貫した解釈とはいえない。 さらに,裁定請求するまで発生も内容(金額)も不確定な支分権について消滅時効が進行していると解するとすれば,繰下げ支給が申し出られた場合,既に支分権が発生し,消滅時効が進行していたものが,当該申出によりそもそも発生していなかったことになり,当該申出以降,金額の異なる増額された支分権が支払期ごとに発生するということとなって,合理的・統一的な説明ができない。 (エ) 年金時効特例法は根拠とならないこと被告は,年金時効特例法2条の規定をその根拠として主張するが,同条は,裁定を経ていない支分権の消滅時効の起算点については言及していないし,そもそも同法の特殊な制定経緯・背景事情からすると,これを根拠とすべきではない。 (オ) 小括本件不支給部分については,原告が裁定を受けたのが平成20年1月17日であり,原告が前記第1の1記載の請求を交換的変更により提起したのが平成21年9月15日であるから,時効消滅しておらず,原告は,被告に対し,本件未支給年金支給請求権を有する。 イ信義則上,会計法31条が適用されず,消滅時効の主張は許されないこと( したのが平成21年9月15日であるから,時効消滅しておらず,原告は,被告に対し,本件未支給年金支給請求権を有する。 イ信義則上,会計法31条が適用されず,消滅時効の主張は許されないこと(ア) 裁定請求を促す義務の存在a 年金制度全体の有効な機能という点からは,国民年金法は,裁定主義を採用する以上,少なくとも運用者である旧社会保険庁が,裁定請求を促し,請求漏れによる不支給をできるだけ防止し,保険料の徴収と年金の受給が適切に行われなければならず,旧社会保険庁は,このための最低限度の措置を採るべき法的義務を負っていると解するべきである。そして,年金制度はただでさえ複雑であるところ,通算老齢年金は,併給調整の適用がない上,昭和42年当時,同年4月5日付- 12 -け庁文発第3665号「年金たる保険給付を受ける権利の消滅時効の防止について」(以下「昭和42年通知」という。甲17)という旧社会保険庁が職員等に対して受給権者に裁定請求を促す措置を講ずべき旨の通達を発出していることから,旧社会保険庁自身においても,年金の未支給を防止する義務が存在する旨を認識していた。 b 少なくとも,亡Aに関する限り,昭和58年5月20日,亡Aは,厚生老齢年金の裁定請求の際,国民年金の加入期間も届け出ている上,平成8年3月,「基礎年金番号制度」が導入されていることに照らせば,旧社会保険庁職員において,亡Aに対し,本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求を促すことは容易であった。 (イ) 義務の懈怠と消滅時効による効果を受けることの信義則違反国民年金の運用者である旧社会保険庁は,受給権者に対して裁定請求を促す最低限度の措置を採るべき法的義務を負っているところ,通算老齢年金等の老齢年金制度は,20年以上の長きにわたって保険料を支払った者を対象と 運用者である旧社会保険庁は,受給権者に対して裁定請求を促す最低限度の措置を採るべき法的義務を負っているところ,通算老齢年金等の老齢年金制度は,20年以上の長きにわたって保険料を支払った者を対象とするものであり,年金記録等の管理が必要とされるから,消滅時効の適用は謙抑的に行われるべきであるし,上記義務の履行としては,昭和42年通知記載のように,「高齢により退職したとき」,「65歳に達したとき」等の受給権を取得する可能性が高いという形式的な条件を満たした者に対する裁定請求を促す旨の通知の発出等で足りるから,十分に可能なものである。そうであるにもかかわらず,旧社会保険庁が上記義務に違反して何らの措置を採らなかった結果,亡Aが本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求をすることを著しく困難にしたのである。 そうであるとすると,本件未支給年金支給請求権は,信義則上,消滅時効の援用が不要である旨を定める会計法31条の適用はなく,消滅時効の主張は許されない。 ウ以上から,被告は,原告に対し,本件不支給部分総額362万1462- 13 -円(支給対象期間は昭和55年4月から平成14年7月まで)を支給する義務がある。 (被告の主張の要旨)ア本件未支給年金支給請求権は時効消滅していること(ア) 行政実務受給権(基本権)については,支給事由が生じた日から5年の消滅時効に服するものとされている(平成19年法律第111号による改正前の厚生年金保険法92条,旧国年法102条)が,受給権(基本権)の消滅時効については,行政実務上,被告(国)は,時効を援用しない取扱いをしてきている。これに対し,受給権(基本権)から派生して支払期ごとに生ずる年金支給請求権(支分権)については,行政実務上,各支給期限の到来により行使が可能となるから,その消滅 効を援用しない取扱いをしてきている。これに対し,受給権(基本権)から派生して支払期ごとに生ずる年金支給請求権(支分権)については,行政実務上,各支給期限の到来により行使が可能となるから,その消滅時効は各支給期限の時から進行するものとされ,年金支給請求権(支分権)の消滅時効については,会計法31条により被告(国)は時効の利益を放棄することができず,その支給期限の到来から5年を経過したときに自動的に順次時効消滅することとされていることから,受給権(基本権)について時効を援用しない取扱いを行ったとしても,裁定時から5年以上前に支給期限が到来した年金を支給することはできないという扱いがされてきた。 (イ) 裁定の存否と法律上の障害旧国年法16条は,基本権について,裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨規定していることから,裁定がされていない場合には,当該年金の支給を受けられない。 しかし,法律上の障害があっても債権者の意思によってその障害を除くことができる場合は,債権者が自己のなすべき行為をするならば,その債権を自由に行使し得るから,債権者の権利行使の妨げにはならず,時効は進行を止めないとされる。例えば,同時履行の抗弁権(民法53- 14 -3条)が付着している債権については,履行期から消滅時効が進行するものとされる。 支分権についてみると,旧国年法16条の趣旨は,給付主体と相手方との間の紛争を防止し,給付の法的確実性を担保するため,その権利の発生要件の存否や給付金額等につき同長官が公権的に確認するのが相当であるとの見地によるものであって,裁定は,単なる確認行為にとどまるものとされていることからすると,債権者たる受給権者は,裁定の請求をして裁定を受けることにより,支分権を自由に行使し得るものということができ,裁定 よるものであって,裁定は,単なる確認行為にとどまるものとされていることからすると,債権者たる受給権者は,裁定の請求をして裁定を受けることにより,支分権を自由に行使し得るものということができ,裁定の不存在という状態は,債権者たる受給権者の意思によって除くことができるものというべきである。 したがって,本件未支給年金請求権についても,亡Aが本件国民通老年金の受給権についての裁定請求をして当該裁定を受けるという自らが行うべき行為をしさえすれば,裁定を受けることができ,支分権を行使し得たものであるから,裁定請求が可能となった時点,すなわち,亡Aが基本権を取得した時点(昭和55年3月)以降,支給期限ごとに消滅時効は進行することとなる。そして,本件未支給年金請求権は,その各支給期限から5年が経過しているから,会計法30条後段,31条1項後段により,既に時効消滅している。 (ウ) 遅延損害金の発生時点について支分権は,公法上の金銭債権ではあるが,付遅滞の要件及び効果については民法(412条,415条,419条)の規定によるものと解されるところ,裁定前に支払期が到来した支分権は,裁定を受けることによって初めて具体的な請求権として発生し,裁定後,通常の事務処理に要する合理的な期間内に支払をしないときに初めて遅滞に陥る。 したがって,裁定前に支払期が到来した期の支分権に関する遅延損害金は,各支払期日を徒過したというだけでは発生せず,裁定後,通常の事務処理に要する合理的な期間が徒過した時点において発生することに- 15 -なるから,その点で消滅時効の起算点とは時期を異にするが,これはそれらの制度趣旨が異なることによるものである。 (エ) 年金時効特例法の構造について年金時効特例法は,同法制定以前においては,当初明らかでなかった 時効の起算点とは時期を異にするが,これはそれらの制度趣旨が異なることによるものである。 (エ) 年金時効特例法の構造について年金時効特例法は,同法制定以前においては,当初明らかでなかった年金記録が年金受給権(基本権)発生から5年以上経過後に明らかとなったようなケースにおいては,この記録に基づく年金の増額分のうち,過去5年以内に支給期限が到来した年金については,増額分をさかのぼって支給することができるが,それより前に支給期限が到来した年金については,年金支給請求権(支分権)が既に時効消滅しており,増額分を支給することができなかったために設けられた特例措置である。 そうであるとすると,年金時効特例法の存在それ自体が,裁定の存否等にかかわりなく,支分権の消滅時効が進行することを示している。 (オ) 小括したがって,本件国民通老年金についても,基本権発生の要件が備わり,裁定請求ひいては裁定が可能となった時点以降においては,実際の裁定の存否にかかわりなく,支分権の消滅時効は進行することとなるから,本件未支給年金支給請求権については,各支給期限から5年が経過していることから,会計法30条後段,31条1項後段により既に時効消滅している。 イ信義則に反する事情はないこと原告は,旧社会保険庁は本件国民通老年金の受給権者たる亡Aに対して裁定を促す最低限度の措置を講ずべき義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,何ら裁定請求を促す措置を講じなかった結果,亡Aにおいて本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求を行うことが不可能になったなどとして,消滅時効の主張が信義則に反する旨主張するが,旧社会保険庁の職員において,裁定請求を促すべき職務上の法的義務があったとは認められないし,仮にこのような義務があったとしても,同職員において,亡 として,消滅時効の主張が信義則に反する旨主張するが,旧社会保険庁の職員において,裁定請求を促すべき職務上の法的義務があったとは認められないし,仮にこのような義務があったとしても,同職員において,亡- 16 -Aに対する関係でこれを怠った事実は認められないから,かかる義務違反を前提に信義則に反するとする原告の主張は理由はない。 (2) 争点(2)(本件不支給決定の適法性)(被告の主張の要旨)ア年金時効特例法2条の「記録の訂正」の対象は,旧国年法14条によって記録した事項とされているところ,裁定請求の有無がこれに該当しないことは同条の文言に照らして明らかである。 イ原告の主張は,亡Aが昭和58年5月20日付けで本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求をしたことを前提とするところ,旧国年法16条,昭和61年厚生省令第17号による改正前の国民年金法施行規則(昭和35年厚生省令第12号)28条1項柱書きが,裁定請求書を旧社会保険庁長官に提出して裁定の請求をしなければならない旨定めていることからすると,裁定の請求に当たっては,同条所定の様式による請求書又はこれと同程度の請求の意思が明確に表示された書面を提出することが必要というべきである。しかるに,亡Aは,このような請求書の提出をしていないから本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求をしていたとは認められない。また,単に国民年金の加入期間を申告しただけでは,同条所定の様式による請求と同程度に請求の意思が明確に表示されたとはいえない。 ウしたがって,本件不支給決定は,適法である。 (原告の主張の要旨)ア年金時効特例法2条は,旧国年法14条の規定により「記録した事項の訂正」がされた場合を適用対象としており,旧国年法14条は記録事項の詳細を国民年金法施行規則15条に委任していると 主張の要旨)ア年金時効特例法2条は,旧国年法14条の規定により「記録した事項の訂正」がされた場合を適用対象としており,旧国年法14条は記録事項の詳細を国民年金法施行規則15条に委任しているところ,同条3号は,「給付に関する事項」を記録事項として掲げている。そして,この「給付に関する事項」には,給付履歴に加えて,給付の前提となる裁定請求を行った年月日及び裁定年月日が含まれる(甲19の3,甲3参照)。 イ昭和58年5月20日,亡Aは,厚生老齢年金の裁定請求を行った際,- 17 -併せて国民年金の加入期間も申告しているところ,当該国民年金の加入期間は当該裁定請求に何ら関係がないから,当該国民年金の加入期間に応じて受給することができる年金の裁定請求する意思を有していたことは明らかであり,経験則に照らしても,当該国民年金の加入期間の申告は,本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求として扱うべきである。 本件のように,過去に裁定請求をしていたにもかかわらず,裁定請求として扱われていないことが明らかとなった場合には,裁定請求の日を昭和58年5月20日に訂正した上で裁定を行い,裁定がされていないことになっていた国民年金記録を訂正して裁定年月日を記録し,過去の未支給分の年金を支給する必要がある。これは,実質的には,裁定自体を行わずに放置していた事案であるから,保険料の納付期間の記録ミスに比べても保険者の過失の程度が大きい。 しかるに,亡Aの年金記録には,昭和58年5月20日に本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求が行われた旨の記載がないから,当該記載は訂正されるべきであり,原告は,その訂正された記録に基づいて未支給の年金給付を受ける地位にある。 ウしたがって,原告の未支給年金の請求は,訂正された年金記録に基づく未支給年金の給 ら,当該記載は訂正されるべきであり,原告は,その訂正された記録に基づいて未支給の年金給付を受ける地位にある。 ウしたがって,原告の未支給年金の請求は,訂正された年金記録に基づく未支給年金の給付請求であり,年金時効特例法2条が適用され,消滅時効の規定は適用されないから,本件不支給決定には違法があり,取り消されるべきである。 (3) 争点(3)(国家賠償法に基づく損害賠償請求権の成否)(原告の主張の要旨)ア旧社会保険庁は,亡Aに対し,昭和42年通知が要求していた裁定を促す具体的措置を採らず,また,昭和58年の亡Aに係る厚生老齢年金の裁定時及び平成8年4月から平成9年1月にかけての基礎年金番号制へ統合するための年金記録の整理時等において,本件国民通老年金の受給権に係る裁定を促す具体的な機会があったにもかかわらず,一切裁定を促す措置- 18 -を採らなかった。 旧社会保険庁には,上記違法行為について,少なくとも過失がある。 イ亡Aは,上記旧社会保険庁職員が裁定請求を促すことを違法に怠っていたために貧しい生活を強いられ,これにより精神的苦痛を受けていたのであって,これを慰謝する慰謝料の額は500万円を下らない。弁護士費用は50万円を相当とする。 (被告の主張の要旨)ア国家賠償法1条1項の「違法」を判断するに当たっては,① 当該公務員が,損害を被ったとされる個別の国民との関係において,職務上の法的義務を負っていること,② このような職務上の法的義務がある場合において,同義務に違反し,当該個別の国民に損害を与えたことが必要とされるが,本件においては,① 当該公務員の職務上の法的義務は認められず,② 仮にこのような義務があったとしても,これを怠った事実も認められない。 (ア) 裁定請求を促すべき職務上の法的義務は とされるが,本件においては,① 当該公務員の職務上の法的義務は認められず,② 仮にこのような義務があったとしても,これを怠った事実も認められない。 (ア) 裁定請求を促すべき職務上の法的義務は認められないこと旧国年法16条は,裁定は,職権で行うものではなく,受給権者の請求に基づいて行うべき旨規定しているから,裁定請求をするか否かを判断するのは受給権者であり,受給権者が自らの権利についてその責任の下にこれを行使する建前が採られていることは明らかである。他方,国民年金法において,行政庁たる旧社会保険庁に対して受給権の行使を促すよう定める規定は存在しない。したがって,国民年金法が,旧社会保険庁に対し,積極的に裁定請求を含めて受給権の行使を促すなど,何らかの義務を課す目的を有するものとは考えられない。 昭和42年通知(甲17)は,受給権の行使に対して一定の望ましい配慮を求めたものではあるが,具体的な配慮や指導の時期,内容等が明示されていないことから明らかなとおり,何らかの義務を定めたものではない。 - 19 -通算老齢年金(旧国年法29条の3)制度が複雑であるとしても,国民年金法等により本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求を促すべき職務上の法的義務が導かれると解することはできない。 (イ) 上記アの法的義務が存在したとしても,その義務の懈怠はないこと仮に,亡Aが,昭和58年6月23日,旧厚年法42条に基づく老齢年金の受給権に係る裁定を受けた時点において,旧社会保険庁の職員が亡Aに対し,本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求を促すべき職務上の法的義務を負っていたとしても,亡Aは,同年5月20日の上記裁定に係る請求の際,国民年金の加入期間の届出をしているから(甲18の3,19の4),同年金に加入していた事実を認識して を促すべき職務上の法的義務を負っていたとしても,亡Aは,同年5月20日の上記裁定に係る請求の際,国民年金の加入期間の届出をしているから(甲18の3,19の4),同年金に加入していた事実を認識しており,裁定請求をすることは可能であったから,亡Aが裁定請求をしなかったのは自己責任によるものであって,旧社会保険庁の職員が裁定請求を促すべき職務上の法的義務を怠ったことによるものではない。甲19の3には「通算老齢年金の裁定請求漏れの原因が,社会保険事務所の不親切な対応にあったとすれば,誠に申し訳ございません。」とあるが,これは,あくまでも,不親切な対応があった可能性を踏まえ,その旨記載したものにすぎず,旧社会保険庁において,その職員が何らかの説明や対応を執らなかった旨認めた事実はない。 イ原告主張の損害は,争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について(1) 争点(1)ア(本件未支給年金支給請求権の消滅時効の成否(消滅時効の起算点))についてア(ア) 国民年金制度は,憲法25条2項の規定の趣旨を実現するため,老齢,障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止することを目的とし(国民年金法1条),保険方式により被保険者の拠出した保険料を基として年金給付を行うこと(同法- 20 -2条,87条等)を基本として創設されたものである(最高裁昭和60年(行ツ)第92号平成元年3月2日第一小法廷判決・集民156号271頁参照)。そして,社会保障関係給付の一つである国民年金について,その受給権が実体法上いつどのようにして発生するか,行使可能になるかや請求の手続をどのようなものとするか等は立法政策にゆだねられているところ,国民年金法18条1項は,「年金給付の支給は,これを支給すべき事由が生じた日 いつどのようにして発生するか,行使可能になるかや請求の手続をどのようなものとするか等は立法政策にゆだねられているところ,国民年金法18条1項は,「年金給付の支給は,これを支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始め」ると規定しながら,旧国年法16条は,年金給付を含め給付を受ける権利(支払期ごとに年金の支給を受ける権利である支分権を発生させる根拠となる権利である基本権であり,以下「受給権」ともいう。)について,受給権者の請求に基づき旧社会保険庁長官が裁定するものとしている。これは,画一公平な処理により無用の紛争を防止し,給付の法的確実性を担保するため,その権利の発生要件の存否や金額等につき同長官が公権的に確認するのが相当であるとの見地から,基本権たる受給権について,同長官による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものである(最高裁平成3年(行ツ)第212号同7年11月7日第三小法廷判決・民集49巻9号2829頁参照)。 (イ) 国に対する権利で金銭の給付を目的とするものについては,会計法が,5年間これを行わないときに時効により消滅するとし(30条),別段の定めがないときは,時効の援用を要せず,また,その利益を放棄することができないとしている(31条1項)。 これを国民年金についてみると,上記のとおり,旧国年法16条は,給付を受ける権利は,その権利を有する者の請求に基づいて旧社会保険庁長官が裁定する旨を規定するところ,同条にいう給付を受ける権利(基本権)の行使は支給事由が生じた時から可能であり,基本権の消滅時効に関しては,旧国年法102条(1項)に会計法上の定めとは別の定めが置かれ,基本権は,支給事由が生じた日から5年を経過したときに時- 21 -効により消滅するものとされている。他方,受給権者の具 に関しては,旧国年法102条(1項)に会計法上の定めとは別の定めが置かれ,基本権は,支給事由が生じた日から5年を経過したときに時- 21 -効により消滅するものとされている。他方,受給権者の具体的な年金給付の支給請求権(支分権)については,平成19年法律第111号による国民年金法の改正前は,基本権と異なり,消滅時効に関する別段の定めは置かれていなかった。したがって,上記改正前において,支分権の消滅時効は,会計法の適用を受け,消滅時効期間の5年を経過すると援用を要することなく直ちに消滅し,被告が時効利益の放棄をすることも認められない(同法30条,31条1項)ものとされていたと解される。 そして,年金支給を受ける権利(支分権)の消滅時効は,一般の私人間の金銭債権と同様に,「権利を行使することができる時」から進行するとされる(会計法31条2項後段,民法166条1項)ところ,原告は,受給権についての裁定を受けていないことが,年金の支給請求という権利行使についての法律上の障害である旨主張するので,以下,検討する。 イ上記アのとおり,国民年金制度においては,受給権(基本権)とこれに基づき発生する年金の支給を受ける権利(支分権)とが観念されるが,年金の支給を受けるためには受給権(基本権)の確認行為である裁定を要するとされるから,受給権についての裁定を受けていないことは,消滅時効の起算点との関係で,(裁定前の)年金の支給を受ける権利(支分権)の行使についての法律上の障害に当たるとも考えられる。 しかしながら,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)は,裁定を受けない限り,現実に支給を受けることはできないという意味で具体的な権利ということはできないものの,受給権の発生要件や年金給付の支給時期・金額について明確な規定(国民年金法18 (支分権)は,裁定を受けない限り,現実に支給を受けることはできないという意味で具体的な権利ということはできないものの,受給権の発生要件や年金給付の支給時期・金額について明確な規定(国民年金法18条1項,旧国年法26条,27条,29条の3,29条の4)が設けられていることや前記のとおり裁定が確認行為であることに照らすと,年金給付の支給事由が生じた後は,受給権者が受給権についての裁定請求をしないままに経過した場合においても,その支給事由が生じた日の属する月の翌月から支給を始めるべきも- 22 -のとして,年金支給を受ける権利(支分権)は順次潜在的・抽象的には発生するものと観念することができる。他方,受給権者は,受給権についての裁定請求をして行政庁の裁定を受けさえすれば,直ちに,当該裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)を行使することができるものであるから,上記の場合における裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)(裁定を受けさえすれば,現実に行使することができる権利)については,一定期間継続した権利不行使の状態という客観的事実が生じているとみることができる。そうであるとすれば,このような客観的事実に基づいて,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)が時効により消滅するものと解することは,一定期間継続した権利不行使の状態という客観的な事実に基づいて権利を消滅させ,もって法律関係の安定を図るという消滅時効制度の趣旨(最高裁昭和48年(オ)第647号同49年12月20日第2小法廷判決・民集28巻10号2072頁参照)にかなうものということができる。上記アのとおり,国民年金制度は,被保険者が,老齢,障害又は死亡によってその生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止することを意図したものであるが,年金の受給は被保険者(受給権 できる。上記アのとおり,国民年金制度は,被保険者が,老齢,障害又は死亡によってその生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止することを意図したものであるが,年金の受給は被保険者(受給権者)の利益のためのものであり,旧国年法16条も受給権者の「請求に基いて」と規定し,受給権者からの権利行使がされることを前提としていると解されることに照らせば,受給権者が受給権についての裁定請求をせず,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)の行使がされない状態が一定期間にわたって継続している以上,その事実に基づいて権利を消滅させることが直ちに国民年金制度に背理するということもできない。また,このような状態は,上記のとおり,受給権者において受給権についての裁定請求をすることにより行政庁の裁定を受ければ解消することができ(もとより,受給権についての裁定は行政庁によりされるものであるが,上記のとおり受給権の発生要件や年金給付の支給時期・金額については明確な規定が設けられているから,上記裁定は,上記のア(ア)のとおり給付主体と相手方- 23 -との間の紛争を防止し,給付の法的確実性を担保する見地から行われる確認行為にすぎず,裁定及びその後にされる支給の額,時期に行政庁の裁量的判断は含まれないと解される(仮に受給権者において裁定請求をしたにもかかわらず行政庁が裁定をしない場合には,受給権者において不作為の違法確認の訴えや義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条5項,6項2号)を提起することにより対処が可能である。)。),他方,年金の支給を受ける権利(支分権)を行使するに当たっては,受給権者において,裁定請求をすることのほかに特段の行為や負担を要するものでもなく,裁定請求をすることがちゅうちょされる事情もうかがわれないから,権利の性質に照らしても,そ を行使するに当たっては,受給権者において,裁定請求をすることのほかに特段の行為や負担を要するものでもなく,裁定請求をすることがちゅうちょされる事情もうかがわれないから,権利の性質に照らしても,その権利行使が現実に期待のできるものであるということもできる。 上記諸点にかんがみると,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)については,受給権についての裁定請求をして行政庁の裁定を受けない限り,現実にその支給を受けることはできないが,そのような障害は受給権者において裁定請求をしさえすれば除くことができるものということができるから,たとえ受給権についての裁定請求がされず行政庁の裁定がされていないとしても,その消滅時効の進行を止めるものではないというべきである。 このように解することは,近時制定された年金時効特例法(2条)が,年金記録の訂正を受けて行われる新たな裁定(又は裁定の訂正)による上記訂正に係る受給権に基づき支払うものとされる支分権のうち,5年以上前に支払期が到来している分については,会計法30条の適用により当然に時効消滅しているとされることを回避するため,「支払期月ごとに又は一時金として支払うものとされる給付の支給を受ける権利について当該裁定の日までに消滅時効が完成した場合においても,当該権利に基づく給付を支払うもの」(年金時効特例法2条)であって,「時効制度の趣旨を乗り越えて回復を図るという異例の立法措置」として講じられたものである- 24 -こと(乙2)とも整合するものということができる。 なお,基本権たる年金受給権については,前記ア(イ)のとおり,旧国年法102条により5年の消滅時効に服するものとされ,これについて民法の規定により時効を援用することが可能ではあるものの,基本権たる年金受給権について消滅時効を援用 ては,前記ア(イ)のとおり,旧国年法102条により5年の消滅時効に服するものとされ,これについて民法の規定により時効を援用することが可能ではあるものの,基本権たる年金受給権について消滅時効を援用することは保険者に対しては酷な結果となるとして,行政実務上,被告(国)は,時効を援用しない取扱いをしてきている(本件においても,亡Aが本件国民通老年金の受給権を取得した昭和55年3月から5年以上を経過した平成19年9月4日付けの原告による裁定請求に対し,旧社会保険庁長官は,基本権について消滅時効を援用すると受給権者に酷な結果となるため,原告が裁定請求をした亡Aに係る本件国民通老年金の受給権について裁定をするとともに消滅時効の援用をしない旨を明らかにしている(前提事実(3)ウ参照)。)。このような取扱いをするのも,上記のとおり,支分権たる年金支給請求権については,裁定請求をした日からさかのぼって5年より前に支給期限が到来していた年金給付分は時効によって消滅しており,支給をすることができないと解されることを前提としているものと推測されるところである(仮に上記解釈と異なる解釈を採るべきこととなれば,基本権についての時効を援用するかどうか等の取扱いに変更が生ずる可能性も否定できない。)。 ウ上述したところからすれば,年金給付の支給事由が生じ,受給権が発生すれば,その裁定前であったとしても,当該受給権から潜在的に発生する支分権は,上記のような意味において,その行使につき法律上の障害がなく,権利の性質上,その権利行使が現実に期待のできるものであるということができ,「権利を行使することができる」(民法166条1項)状態にあるものというべきである。 そして,前記ア(イ)のとおり,支分権については会計法の適用を受けるものとされていたと解されるから,上 ができ,「権利を行使することができる」(民法166条1項)状態にあるものというべきである。 そして,前記ア(イ)のとおり,支分権については会計法の適用を受けるものとされていたと解されるから,上記のような支分権も,時効期間が経過すれば援用を要することなく直ちに消滅したこととなる。 - 25 -そうすると,本件のように,時効期間満了前に裁定請求を行わなかった受給権者の基本権について,被告が消滅時効を援用しない場合であっても,同基本権から生じる支分権は,裁定請求前においては,時効期間の満了により順次時効消滅するものといわざるを得ない。 なお,基本権たる年金受給権について裁定がされた場合には,支給期限が到来している年金支給請求権のうち時効期間の経過によって消滅しているものを除いたものについては,裁定時から新たに時効が進行するものと解されるが,それは,裁定によって現実の支給を受け得る権利となったことによって初めて時効が進行を開始するというのではなく,裁定がされると,基本権たる年金受給権が公権的に確認されるだけでなく,時効期間未経過の年金支給請求権についても一種の債務承認がされたものということができるため,それまで進行していた時効は中断されその時点から改めて時効が進行するものと解することができる。 エ以上に対し,原告は,① 基本権について裁定を経ていない支分権は抽象的権利にすぎず,裁定により具体的権利となるから,裁定があった時点から支分権の消滅時効が起算される,② 被告は,裁定前の支分権を抗弁権が付着した債権と同視できる旨主張するが,裁定を経ていない支分権は,実体法上,権利行使そのものができない抽象的権利であることを看過している上,支分権の権利者である受給権者の意思において裁定請求をすることは可能であるものの,基本権を認める 裁定を経ていない支分権は,実体法上,権利行使そのものができない抽象的権利であることを看過している上,支分権の権利者である受給権者の意思において裁定請求をすることは可能であるものの,基本権を認める旨の裁定がされるか否かは,「権利者の意思」ではなく「第三者たる行政庁の意思」にかかっている点を看過している,③ 旧国年法102条1項の趣旨は会計法31条を排斥する点にあり,国民年金が保険料の対価的・貯蓄的性格を有していることを考慮しても,基本権につき時効を援用しない場合に支分権を時効消滅させることは不合理である,④ 被告は,裁定前の支分権は履行遅滞に陥らないとして「債務」(民法412条)と観念できないほどの抽象的権利であるとする一方,消滅時効の関係においては,裁定前の支分権であっても支給- 26 -期限の到来によって国に対する権利として行使をし得るものと観念し,一貫しない,⑤ 裁定前の支分権であっても支給期限から消滅時効が進行していると解するとすれば,繰下げ支給を希望する者については,いったんは支分権について消滅時効が進行していたものが繰下げ支給の申出によってそもそも発生していなかったこととなり,合理的かつ統一的な説明ができない,⑥ 被告は,年金時効特例法2条の規定を根拠とするが,同法の特殊な制定経緯・背景事情を有する上,同条は裁定を経ていない支分権の消滅時効の起算点については言及していないことからすると,これを根拠とすべきではない,などと主張する。 (ア) ①及び②について原告主張の諸点は,前記イで説示した理由から,いずれも前記イの解釈を左右するものとはいえず,原告の上記主張には理由がない。 (イ) ③について上記ア(イ)のとおり,基本権の消滅時効に関しては,旧国年法102条に会計法上の定めとは別の定めが置かれているから 釈を左右するものとはいえず,原告の上記主張には理由がない。 (イ) ③について上記ア(イ)のとおり,基本権の消滅時効に関しては,旧国年法102条に会計法上の定めとは別の定めが置かれているから,会計法の適用はなく,基本権は,旧国年法102条1項により支給事由が生じた日から5年を経過したときに援用を要すべき時効により消滅する。これに対し,支分権の消滅時効は,会計法の適用を受け(旧国年法102条1項の適用がないことは,その改正後の国民年金法102条1項において,「年金給付を受ける権利(当該権利に基づき支払期月ごとに又は一時金として支払うものとされる給付の支給を受ける権利を含む。第3項において同じ。)」として支分権が明記されたこととの対比からも明らかである。),消滅時効期間の5年を経過すると援用を要することなく直ちに消滅し,被告が時効利益の放棄をすることも認められないこととなると解される(会計法30条,31条1項)。 そうすると,少なくとも裁定後の支分権は,旧国年法102条1項の規定にもかかわらず,会計法の規定により消滅時効期間の経過により絶- 27 -対的に消滅することが予定されており,支分権について,国民年金の対価的・貯蓄的性格を根拠として同法の消滅時効制度の適用がないとすることはできない。また,旧国年法102条1項が基本権と支分権について別異の時効制度の対象としていたことからすれば,基本権について時効を援用するのが相当でない場合であっても,同項の趣旨から直ちに裁定前の支分権が時効消滅しないとの解釈を導くことはできない。加えて,基本権について消滅時効を援用せずに裁定がされた場合,それによって裁定請求からさかのぼって5年前以降に支給期限の到来する支分権は基本権の消滅時効に伴う消滅を免れ,支給すべきことが確認されることにな 基本権について消滅時効を援用せずに裁定がされた場合,それによって裁定請求からさかのぼって5年前以降に支給期限の到来する支分権は基本権の消滅時効に伴う消滅を免れ,支給すべきことが確認されることになり,少なくともその限度では旧国年法102条1項の趣旨に沿って国民年金の対価的・貯蓄的性格が保護されることになるということができる一方,それよりも前に支給期限の到来していた支分権については,前述のように,そもそも基本権を取得すれば直ちに裁定請求をして権利行使をすることができ,そのようにして裁定を受けていた場合には,支給期限の到来から5年の経過によって時効により消滅するものであったことに照らせば,基本権につき時効を援用しない場合であってもこれらの支分権の時効消滅を認めることが不合理であるということはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (ウ) ④について裁定前の支分権は,当然のことながら裁定がない以上,年金給付の支給を受けることができないから,各支払期を徒過したというだけでは,遅滞に陥っているということができず,債務不履行を観念することができない。そうすると,支分権としての年金支給請求権について遅延損害金が発生するのは裁定後通常の事務処理に要する合理的な期間が経過した時又はその後の各支払期が経過した時であるのに対し,裁定前の年金支給請求権の消滅時効は各支払期からそれぞれ進行することになる。しかし,遅延損害金は,義務の履行が遅滞した結果として生じた損害の填- 28 -補であるのに対し,消滅時効は権利の不行使という事実状態について法的効果が付与される結果としての権利の消滅をいうのであって,両者は,それぞれ異なる制度であり,その趣旨も異なるから,その起算点についても統一的に解する必然性はない。 したがって 実状態について法的効果が付与される結果としての権利の消滅をいうのであって,両者は,それぞれ異なる制度であり,その趣旨も異なるから,その起算点についても統一的に解する必然性はない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (エ) ⑤についていわゆる繰下げ支給は,老齢基礎年金において,保険料納付済期間等が法定の期間を満たす者が厚生労働大臣(平成19年法律第109号による改正前は,社会保険庁長官)にその支給開始の時期を遅らせることを申し出ることによって各年の年金額を増加させることができる制度(国民年金法28条参照。なお,亡Aについて適用され得る昭和60年法律第34号による改正前の国民年金法28条の2においては,65歳に達する前にあらかじめ申し出ることが要件とされていた。)であるところ,本来の支給開始時期よりも後の繰下げ支給の申出を認める制度の下では,老齢基礎年金の受給権(基本権)の取得に伴って本来の支給期限に個々の年金の支給を受ける権利(支分権)が潜在的に発生し,その消滅時効がそれぞれ進行していたにもかかわらず,繰下げ支給の申出により,これが変更され,繰下げ支給を前提とした新たな支給期限から改めて時効期間を起算することとなるが,このような繰下げ支給の制度そのものが,所定の資格を有する受給権者からの申出によって支給期限や支給額を変更することを認めるものである以上,繰下げ支給の申出があった場合に上記のような変更がされることを理由に,そのような申出がない状態での年金の支給を受ける権利(支分権)の発生や消滅時効の進行を否定すべきであるということはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (オ) ⑥について確かに年金時効特例法は裁定を経ていない支分権の消滅時効を規律す- 29 -るた きであるということはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (オ) ⑥について確かに年金時効特例法は裁定を経ていない支分権の消滅時効を規律す- 29 -るために制定された法律ではない。 しかし,原告が主張するように,裁定前の支分権の消滅時効の起算点が裁定時であるとすると,裁定がされない限り,支分権たる年金支給請求権の消滅時効は進行しないことになる以上,記録の訂正が行われた場合であっても新たな裁定又は裁定の訂正がされるまでは,支分権たる年金支給請求権の消滅時効は進行しないこととなり,年金時効特例法2条が設けられた趣旨を整合的に説明することができないから,同法が,国民年金法等の解釈として原告主張のような見解が採られることを前提としていないことは明らかである。 したがって,原告の上記主張には理由がない。 (カ) 小括以上によれば,原告の年金支給請求権(支分権)のうち,上記裁定請求をした日からさかのぼって5年よりも前に支給時期が到来していた部分については,消滅時効により消滅したものというべきであり,本件未支給年金支給請求権は,時効消滅したものといわざるを得ない。 (2) 争点(1)イ(消滅時効の主張における信義則違反の有無)ア原告は,上記(1)のとおり,本件未支給年金支給請求権が時効消滅していたとしても,① 国民年金法が,拠出制の年金給付を主体とし,強制的に保険料を徴収し,年金給付は拠出保険料に対する対価的又は貯蓄的な性格を有していることに加え,年金制度の複雑さを前提とする昭和42年通知による裁定請求の促しや近時の裁定請求書の事前送付(甲31)等に照らせば,そもそも裁定主義を採用し,裁定請求を受給権者の意思にゆだねている点で,受給権者において自己に年金受給権が発生したこと,又は少な る裁定請求の促しや近時の裁定請求書の事前送付(甲31)等に照らせば,そもそも裁定主義を採用し,裁定請求を受給権者の意思にゆだねている点で,受給権者において自己に年金受給権が発生したこと,又は少なくともその可能性があることを認識する必要があり,これを把握し得る被告(旧社会保険庁)において,これを告知する義務があり,また,② 本件において,亡Aが厚生年金の裁定請求をした昭和58年5月20日の時点では,既に昭和42年通知が発出されている以上,旧社会保険庁職員は- 30 -通算老齢年金が併合支給される点について注意喚起をする義務があるところ,亡Aは同日において国民年金の加入期間の届出をしているから,年金の受給ができるのであれば受給したいという意思があったことは明らかであり,被告(旧社会保険庁)において,これを裁定請求として扱わなかったにすぎないから,被告による時効消滅の主張は信義則に反している旨主張する。 イ(ア) ①についてしかし,国民年金が拠出保険料に対する対価的又は貯蓄的性格を有しているとしても,そのことや原告の主張する上記事情が必然的に受給権者に受給権の発生又はその可能性を告知させる義務を旧社会保険庁(又はその職員)に負わせることになるわけではない。そして,旧国年法16条は,「給付を受ける権利は,その権利を有する者(注・中略)の請求に基いて,社会保険庁長官が裁定する。」と規定し,裁定を受給権者の請求にゆだねている一方,同法には,行政庁たる旧社会保険庁又はその職員に対して,受給権の行使を促すことを求める規定は存在しない。 また,(旧国民年金法(旧厚生年金保険法)による通算老齢年金の制度は,国民年金又は厚生年金保険それぞれの制度のみでは老齢年金の受給要件を満たさない者に,他の制度の期間を通算して老齢年金の受給要件を満た ,(旧国民年金法(旧厚生年金保険法)による通算老齢年金の制度は,国民年金又は厚生年金保険それぞれの制度のみでは老齢年金の受給要件を満たさない者に,他の制度の期間を通算して老齢年金の受給要件を満たしたものとみなして給付を行うものであるが,)国民年金と厚生年金保険は,互いに独立した制度として運営されているため,それぞれの裁定が連動して行われる仕組みになっていないし,昭和58年当時は基礎年金番号制度による各被保険者の保険経歴の一元的把握の体制もできていなかった。そうであるとすると,そもそも裁定請求を忘れている者すべてに対して保険者が個別的に注意を喚起するなどの措置を採ることは事実上不可能であったというべきである。 したがって,原告の上記①の主張は失当である。 (イ) ②について- 31 -a 確かに,昭和42年通知(甲17)には,「被保険者が(注・中略)65歳に達したとき,死亡したときなどには早期に年金裁定請求を行うよう関係者を指導されたいこと」などの原告の主張に沿うとも理解し得る記載がある。しかし,上記通知は,旧社会保険庁がその職員に対してした通知であり,これをもって職員をして職員以外の者に対して何らかの法的義務を負わせる性格のものではないし,具体的な配慮や指導の時期,内容等が明示されていないことから明らかなとおり,何らかの法的義務を定めたものでもない。 また,旧国年法29条の3に規定する通算老齢年金の受給権発生の有無が明確でないとする原告の主張はあながち否定できるものではないが,通算年金通則法12条は,「通算老齢年金又は通算退職年金を受ける権利の消滅時効は,公的年金各法の規定にかかわらず,受給権者が公的年金制度の被保険者又は組合員若しくは農林漁業団体職員協同組合の任意継続組合員である期間は,進行しない。」と規定し,基 職年金を受ける権利の消滅時効は,公的年金各法の規定にかかわらず,受給権者が公的年金制度の被保険者又は組合員若しくは農林漁業団体職員協同組合の任意継続組合員である期間は,進行しない。」と規定し,基本権たる受給権の時効消滅が回避される制度を採用していたことにかんがみれば,これを超えて,国民年金法等により,上記通算退職年金の受給権に係る裁定請求を促すべき職務上の法的義務が導かれると解することはできない。さらに,昭和36年の厚生省年金局長通達「通算年金通則法及び通算年金制度を創設するための関係法律の一部を改正する法律の施行について」(甲21)において,併合支給についての注意喚起がされているが,それも,裁定請求がされた場合等に,旧社会保険庁の職員において,併合支給の点に留意して判断すべきとされているにすぎない。 したがって,これをもって裁定請求を促すべき職務上の法的義務が発生すると解することはできない。 b 亡Aに係る事情をみるに,確かに,亡Aは,昭和58年5月20日,旧厚生年金法42条に基づく老齢年金の受給権に係る裁定請求をした- 32 -際,国民年金の加入期間の届出をしている(甲18の3,19の4)。 しかし,昭和61年厚生省令第17号による改正前の厚生年金法施行規則30条2項8号は,厚生年金保険法に基づく老齢年金についての裁定請求書には,請求者が通算老齢年金又は特定老齢年金の受給権者であったときは,通算老齢年金証書又は特例年金証書を添えなければならないとしており,前記前提事実(2)アのとおり,亡Aが,当該裁定請求当時,本件厚生通老年金の受給権者であったことからすると,亡Aの上記国民年金の加入期間の届出は,上記規定に基づき当該裁定請求に伴ってされたものと推認することができる。そして,本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求をす 金の受給権者であったことからすると,亡Aの上記国民年金の加入期間の届出は,上記規定に基づき当該裁定請求に伴ってされたものと推認することができる。そして,本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求をするためには後記2(1)のとおり旧国年法規則28条1項所定の請求書又はこれに準じた書面によることを要することも併せ考慮すると,上記請求書等によらず,単に厚生年金保険法に基づく老齢年金の受給権に係る裁定請求に伴ってされた国民年金の加入期間の届出をもって本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求とみることはできないし,厚生年金と国民年金が別の制度として存在していた以上,厚生年金保険法に基づく老齢年金の裁定請求をした者に対し国民年金法に基づく通算老齢年金の裁定請求を促す義務があるということもできない。むしろ,上記事実からすれば,亡Aにおいて,当時,国民年金に加入していた事実を認識しており,裁定請求をすることが可能であったというべきであるし,仮に上記国民年金の裁定請求をする意図でその加入期間を届け出たというのであれば,その後の支給状況等をもって確認等の手続を採ることも可能であったというべきであることをも考慮すれば,上記国民年金の加入期間の届出がされたという一事をもって旧社会保険庁の職員の対応に義務の懈怠があったとは認められない。 したがって,上記事情によれば,被告が消滅時効の援用を行うことは信義則に反し許されないとする原告の上記②の主張に理由はない。 - 33 -(3) 以上によれば,本件未支給年金支給請求権(逆から言うと,本件不支給部分に係る支給義務)は既に時効期間の経過により消滅しており,被告において,信義則上,上記消滅時効の効果を主張することが許されないという事情も認められない。 よって,原告の被告に対する本件国民通老年金の本件不支給 )は既に時効期間の経過により消滅しており,被告において,信義則上,上記消滅時効の効果を主張することが許されないという事情も認められない。 よって,原告の被告に対する本件国民通老年金の本件不支給部分相当額の支払請求には理由がない。 2 争点(2)(本件不支給決定の適法性)について(1) 年金時効特例法2条は,前記第2の1(9)のとおり規定している。そして,年金時効特例法による訂正の対象は,旧国年法第14条の規定により「記録した事項」とされるところ,同条は,「社会保険庁長官は,国民年金原簿を備え,これに被保険者の氏名,資格の取得及び喪失,保険料の納付状況その他厚生労働省令で定める事項を記載するものとする。」と規定し,これを受けた国民年金法施行規則15条3号は「給付に関する事項」を国民年金原簿に記載する旨定めている。 そして,裁定請求の受付及び裁定の各年月日も「給付に関する事項」に含まれると解されるから(乙1の2参照),以下,この観点から,本件において「給付に関する事項」に訂正があったといえるか検討する。 (2) 前記前提事実,証拠(甲3,18の3,甲19の3・4)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア昭和58年5月20日,亡Aは,旧厚生年金法42条に基づく老齢年金の裁定請求を行い,同年6月23日付けでその裁定を受けているところ,上記裁定請求の際,本件厚生通老年金の受給権者であったことから,その年金証書を上記裁定請求書に添付して(昭和61年厚生省令第17号による改正前の厚生年金保険法施行規則30条2項8号),国民年金の加入期間の届出をした。(甲3,18の3,19の3)イ(ア) 平成20年5月2日,旧社会保険庁社会保険業務センター中央年金相談室相談業務課上席相談官が,原告に対し,書面で原告からの質問に- 加入期間の届出をした。(甲3,18の3,19の3)イ(ア) 平成20年5月2日,旧社会保険庁社会保険業務センター中央年金相談室相談業務課上席相談官が,原告に対し,書面で原告からの質問に- 34 -答えているところ,その中に以下の記載が存する。(甲18の3)「A様は,昭和58年5月に厚生年金保険老齢年金の裁定請求手続ママきをされ,昭和58年6月23日に裁定しました。その裁定請求において,厚生年金と国民年金の加入期間のママ届け出がありました。」「A様は国民年金の加入を知っていたことになりますので,年金時効特例法の規定(年金記録の訂正に係る受給権に基づく支払いを行う)に該当いたしません。」(イ) 平成20年6月12日,旧社会保険庁社会保険業務センター中央年金相談室相談業務課上席相談官が,原告に対し,書面で原告からの質問に答えているところ,その中に以下の記載が存する。(甲19の3)「老齢年金の裁定の基礎となった年金記録は,別紙の「厚年資格-給付記録」(注・甲19の4)として記録されており,それには昭和36年3月~昭和42年5月までの国民年金記録が記載されています。このため,A様は国民年金の加入を知っていたと判断されたものです。」「A様に,通算老齢年金の裁定請求をするよう指導しなかった理由は不明です。老齢年金の裁定時において,指導が不足していたことが推測されます。」「年金を実際に受けるためには本人の請求を必要としますが,請求漏れのないようにするため,社会保険庁は丁寧な指導をすることが求められています。この方針についても当初から変わりありません。通算老齢年金の裁定請求漏れの原因が,社会保険事務所の不親切な対応にあったとすれば誠に申し訳ありません。」(3) 上記(2)の認定事実によれば,昭和58年5月20日, 当初から変わりありません。通算老齢年金の裁定請求漏れの原因が,社会保険事務所の不親切な対応にあったとすれば誠に申し訳ありません。」(3) 上記(2)の認定事実によれば,昭和58年5月20日,亡Aにおいて,社会保険事務所において対応に当たった担当者に対し,亡Aの国民年金の加入期間を届け出たことが認められるものの,これを本件国民通老年金の裁定請求として,旧国年法規則28条1項所定の請求書又はこれに準じる請求書においてしたことをうかがわせる証拠はなく,亡Aが,同日,本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求をしたと認めることはできない。 - 35 -(4)ア以上に対し,原告は,① 旧国年法14条,国民年金法施行規則15条3号は「給付に関する事項」を記録事項とし,これには給付履歴に加え,給付の前提となる裁定請求をした年月日の記載及び裁定年月日等が記載されているところ(甲3,甲19の3),裁定請求は必ずしも書面でされる必要はないから,昭和58年5月20日,亡Aは国民年金の加入期間を申告して本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求をしているにもかかわらず,年金記録上,亡Aが上記裁定手続等を行った旨の記録がないから上記年金記録は訂正されるべきであり,また,② 年金時効特例法の趣旨は,年金業務のミスを原因とする不利益を被保険者たる国民の不利益に帰することを防止することにある以上,裁定請求をしているにもかかわらず,これを裁定請求と扱わないという原始的な保険者のミスは,年金時効特例法の趣旨に照らし,同法により当然保護されるべきであって,原告は,この訂正された年金記録に基づいて未支給の年金給付を受ける地位にある旨主張する。 イ(ア) ①について上記(1)のとおり,裁定請求の受付及び裁定の各年月日も「給付に関する事項」(国民年金法施行規則1 された年金記録に基づいて未支給の年金給付を受ける地位にある旨主張する。 イ(ア) ①について上記(1)のとおり,裁定請求の受付及び裁定の各年月日も「給付に関する事項」(国民年金法施行規則15条3号)として旧国年法14条により国民年金原簿に記載されると解されるが(乙1の2参照),社会保障関係給付においては,その受給を受ける手続についても立法政策にゆだねられており,法令に規定された方法以外の方法でこれを受給することは予定されていないところ,上記(1)のとおり旧国年法規則28条1項柱書きは所定の請求書をもって裁定請求をすることを要する旨定めている以上,裁定請求書によらない裁定請求は認められない(裁定請求書等がなくても保護を受け得る場合は生活保護法7条ただし書(「要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。」)のように明文に定められている場合に限られる。)から,請求書によらなくても裁定請求をし得るとする原告の主張は失当- 36 -である。 また,亡Aにおいては,昭和58年5月20日,厚生年金に関して裁定請求をした際,国民年金の加入期間を届け出ているものの,これをもって本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求とみることができないことは,上記(2)及び(3)のとおりである。 したがって,原告の上記主張には理由がない。 (イ) ②について上記(2),(3)のとおり,亡Aにおいて,昭和58年の時点において裁定請求をしていたと認めることはできないから,原告の主張はその前提において失当といわざるを得ない。なお,年金時効特例法2条の趣旨は上記1(1)イのとおりであって,同条を適用して行う支給は例外的措置である以上,同条の適用を広く拡張して認めることはできず,この点において原告の主張を採 るを得ない。なお,年金時効特例法2条の趣旨は上記1(1)イのとおりであって,同条を適用して行う支給は例外的措置である以上,同条の適用を広く拡張して認めることはできず,この点において原告の主張を採用することはできない。 したがって,上記原告の主張には理由がない。 (5) まとめしたがって,本件において,亡Aは昭和58年5月20日に本件国民通老年金の裁定請求をした事実は認められない以上,亡Aの年金記録に訂正されるべき点はなく,旧社会保険庁長官において,年金時効特例法(2条)の規定による年金記録の訂正に基づく裁定又は裁定の訂正を原因とするものではないことを理由としてした本件不支給決定は適法である。 3 争点(3)(国家賠償法に基づく損害賠償請求権の成否)について(1) 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるから,公務員による公権力の行使に係る行為に同項にいう違法があるというためには,公務員が,当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要である- 37 -と解される(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,同平成18年(受)第263号同20年4月15日第三小法廷判決・裁判所時報1458号1頁参照)。 (2) そして,原告は,① 難解な年金制度において裁定主義を採用していることからすると,裁定又はその前提として国民年金の加入期間を告知して裁定請求を促すことが義務付けられており,② 昭和42年通知(甲17)を根拠として,あるいは,旧国年法29条の 定主義を採用していることからすると,裁定又はその前提として国民年金の加入期間を告知して裁定請求を促すことが義務付けられており,② 昭和42年通知(甲17)を根拠として,あるいは,旧国年法29条の3の通算老齢年金の受給権発生の有無が必ずしも明確ではないことから,旧社会保険庁の職員には裁定請求を促すべき職務上の法的義務があったとした上で,③ 亡Aに対する応対において,亡Aに対し,本件国民通老年金の裁定請求を促すべき職務上の法的義務が存在したとして,これら義務に違反して年金の受給を妨げたと主張するので,前記1(2)のとおり被告(旧社会保険庁職員を含む。)の対応において原告に対する信義則違反を構成するような事実は認められないところではあるが,以下,上記(1)の観点から,念のため国家賠償法1条1項に基づく被告の賠償責任の有無について検討する。 (3)ア ①について旧国年法16条は,「給付を受ける権利は,その権利を有する者(注・中略)の請求に基いて,社会保険庁長官が裁定する。」と規定し,裁定は受給権者の請求に基づくものとして規定する一方,同法には,行政庁たる旧社会保険庁又はその職員に対して,受給権の行使を促すことを求める規定は存在しない。そうであるとすると,旧社会保険庁の職員に受給権を取得した者に対しその行使を促すべき法的義務はないというべきである。 (前記1(2)イ(ア)参照)イ ②について確かに,昭和42年通知(甲17)には,「被保険者が(注・中略)65歳に達したとき,死亡したときなどには早期に年金裁定請求を行うよう関係者を指導されたいこと」などと記載され,受給権の行使に対して一定- 38 -の配慮を求める記載が存在し,原告の主張に沿うものと解する余地もある。 しかし,昭和42年通知は,旧社会保険庁職員に対してされた れたいこと」などと記載され,受給権の行使に対して一定- 38 -の配慮を求める記載が存在し,原告の主張に沿うものと解する余地もある。 しかし,昭和42年通知は,旧社会保険庁職員に対してされた通知であって,職員をして対外的に法的義務を負わせるものではないし,その内容においても,具体的な配慮や指導の時期,内容等が明記されておらず,何らかの法的義務を定めたものではないというべきである。 また,旧国年法29条の3に規定する通算老齢年金の受給権発生の有無が明確でないと主張する点は,あながち否定できるものではないが,通算年金通則法12条は,「通算老齢年金又は通算退職年金を受ける権利の消滅時効は,公的年金各法の規定にかかわらず,受給権者が公的年金制度の被保険者又は組合員若しくは農林漁業団体職員協同組合の任意継続組合員である期間は,進行しない。」と規定し,基本権たる受給権の時効消滅が回避される制度を採用していたことにかんがみれば,これを超えて,国民年金法等により,上記通算退職年金の受給権に係る裁定請求を促すべき職務上の法的義務が導かれると解することはできない。 さらに,昭和36年の厚生省年金局長通達「通算年金通則法及び通算年金制度を創設するための関係法律の一部を改正する法律の施行について」(甲21)において,併合支給についての注意喚起がされているも,旧社会保険庁の職員において,併合支給の点に留意して判断すべきとされているにすぎない。 したがって,これをもって裁定請求を促すべき職務上の法的義務が発生すると解することはできない。(前記1(2)イ(イ)a参照)ウ ③について確かに,前記前提事実(2)ウのとおり,亡Aは,昭和58年5月20日,旧厚生年金法42条に基づく老齢年金の受給権に係る裁定請求をした際,国民年金の加入期間の届 (イ)a参照)ウ ③について確かに,前記前提事実(2)ウのとおり,亡Aは,昭和58年5月20日,旧厚生年金法42条に基づく老齢年金の受給権に係る裁定請求をした際,国民年金の加入期間の届出をしている(甲18の3,19の4)。 しかし,前記1(2)イ(ア)のとおり,昭和58年当時,厚生年金と国民年金が別の制度として存在していた以上,厚生年金の裁定請求をした者に対- 39 -し国民年金の裁定請求を促す義務があるということもできない。また,上記のとおり亡Aは,国民年金の加入期間の届出をしている以上(甲18の3,19の4),亡Aにおいて,当時,国民年金に加入していた事実を認識しており,裁定請求を行うことが可能であった(なお,当該届出が本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求に当たらないことは,前記2(2)及び(3)のとおりである。)。 そして,原告は,昭和58年6月の裁定時又は平成8年4月から平成9年1月までの基礎年金番号への統合を促す年金記録の整理時において,亡Aの本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求を促すべき職務上の法的義務違反があった旨主張するが,そのような義務を定めた規定は存在しない。 なお,「通算老齢年金の裁定請求漏れの原因が,社会保険事務所の不適切な対応にあったとすれば誠に申し訳ありません。」(甲19の3)と記載した文書が旧社会保険庁社会保険業務センター中央年金相談室相談業務課上席相談官から原告にあてて送付されているが,上記記載をもって,旧社会保険庁において,その職員が何らかの説明や対応を採らなかったことやそれが法的義務に違反したものであることを認めたものはいえない。 したがって,亡Aが旧厚生年金法42条に基づく老齢年金の受給権に係る裁定請求をした際,その応対をした旧社会保険庁(旧社会保険事務所)職員等 的義務に違反したものであることを認めたものはいえない。 したがって,亡Aが旧厚生年金法42条に基づく老齢年金の受給権に係る裁定請求をした際,その応対をした旧社会保険庁(旧社会保険事務所)職員等が亡Aに対して本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求を促すべき職務上の法的義務を負っていたということはできないし,その義務に違反したということもできない。(前記1(2)イ(イ)b参照)エ小括したがって,昭和58年5月20日に亡Aが厚生年金に関して裁定請求をした際,担当した職員がより親切に対応してくれていれば,亡Aにおいて本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求を行うことが可能であったのではないかという原告の不満は理解することはできるものの,旧社会保険庁の職員において,亡Aに対し本件国民通老年金の受給権に係る裁定請求- 40 -を促す法的義務を負っていたとは認められないし,そのような義務に違反したとも認められないから,亡Aの当該受給権が旧社会保険庁の職員の義務違反行為により侵害されたとする原告の主張にはいずれも理由がない。 (4) まとめ以上より,亡Aにおいて,本件国民通老年金の受給資格を有しているにもかかわらず,旧社会保険庁職員が裁定請求を促す措置を採らず,亡Aの本件国民通老年金の受給権を侵害し,これによって亡Aに精神的苦痛を与えたとして,亡Aが被った精神的苦痛に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権を相続した旨の原告の主張には理由がない。 第4 結論よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官川神 裕 主文 訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官川神裕 裁判官林史高 裁判官新宮智之

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