平成18(ワ)1561 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年3月26日 名古屋地方裁判所
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判決文本文42,259 文字)

平成20年3月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成18年(ワ)第1561号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成20年1月30日判決主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は原告に対し330万円を支払え。 第2事案の概要本件は,被告のホームヘルプサービス事業を利用していた原告が,被告が平成17年3月限りで同制度を廃止し,利用契約を解除したことにつき,①被告がホームヘルプサービス事業を廃止したこと自体が違法な措置であった,②ホームヘルプサービス利用契約の債務不履行又は不法行為に当たると主張して,被告に対して,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案である。 前提事実等当事者間に争いのない事実,証拠(甲1,10の2,14の1,26の2,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 当事者等ア原告(昭和25年生)は,幼少のころに失明した視覚障害者である。 原告は,平成元年から同17年3月まで,週に1回3時間,被告の職員ヘルパーによるホームヘルプサービスを利用していた(なお,具体的な利用状況については,下記(3)のとおり。)。 なお,原告は,平成17年4月以降は,ホームヘルパーの資格を有する友人に介護を依頼していたが,その後,平成19年11月以降,民間事業者に介護を委託している。 イ被告は,ホームヘルプサービス事業を実施してきたが,平成17年3月に同事業を廃止した。 (2) 被告のホームヘルパー制度の沿革ア介護保険導入前のホームヘルパー制度被告のホームヘルパー制度は,昭和34年の伊勢湾台風直後,被災高齢者の生活援助を行う家庭奉仕員制度に端を発する。当初,家庭奉仕員は社会福祉協議会の嘱託職員という身分であった。その後, ムヘルパー制度被告のホームヘルパー制度は,昭和34年の伊勢湾台風直後,被災高齢者の生活援助を行う家庭奉仕員制度に端を発する。当初,家庭奉仕員は社会福祉協議会の嘱託職員という身分であった。その後,被告が,ホームヘルパーを被告正規職員として雇用し,利用者に派遣するというホームヘルパー制度が発足した。 被告がホームヘルパー制度を創設した当初は,ホームヘルパー派遣は全て措置によって行われた。職員ヘルパーの派遣対象となっていたのは,高齢者宅,障害者(児)宅であり,日曜・祝日を除く午前9時から午後5時までの時間内が派遣可能時間であった(なお,1週間あたりの利用時間には上限があった。)。 イホームヘルパー制度の変化(ア) ホームヘルパー制度に対する民間の参入平成元年ころ,A市社会福祉協議会(以下「社協」という。)が「なごやかスタッフ」制度を創設し,ホームヘルパー派遣を開始した。 社協は,派遣開始当初は被告と同じ条件でホームヘルパーを派遣していたが,平成10年ころから1週間の利用上限を撤廃し,また,日曜日の派遣も行うようになり,派遣時間帯も午前8時から午後8時までとし,スポット派遣(服薬介助だけ,おむつ替えだけ等)やロングステイなど多彩な形で派遣を行うようになった。 (イ) 介護保険制度の導入平成12年4月の介護保険制度導入により,直接契約制度が導入され,ホームヘルパー派遣も措置だけではなくなり,ホームヘルパーは訪問介護員として介護保険制度の中で位置付けられ,サービスとして把握されるようになり,応益負担(サービスに応じた費用負担)が原則となった。 その結果,民間事業者がサービス提供主体(事業者)として多数参入し,一方で被告は,ホームヘルプサービス事業を縮小し,職員ヘルパーの派遣先も減少した。職員ヘルパーが派遣されなくなった利用者は,民間事業者 結果,民間事業者がサービス提供主体(事業者)として多数参入し,一方で被告は,ホームヘルプサービス事業を縮小し,職員ヘルパーの派遣先も減少した。職員ヘルパーが派遣されなくなった利用者は,民間事業者を使うよう説明を受けた。 (3) 原告のヘルパー利用,被告との契約及び契約終了アホームヘルプサービスの利用開始原告は,平成元年,被告のホームヘルプサービスの利用を開始した。その当時は,全てのサービスを職員ヘルパーが担っていた。その後,それまで平日の日中だけであったサービス時間帯が,休日や夜間にも拡大し,従来2時間単位であったのが1時間単位になった。また,おむつ交換や薬の服用などのニーズに応えるために,スポット派遣が導入された。 なお,このころ被告から原告に対して,職員ヘルパーと社協等のヘルパーのどちらがいいか尋ねられたことがあったが,原告が職員ヘルパーを希望したため,原告の下には引き続き職員ヘルパーが派遣された。 イ支援費制度の導入と原被告間の契約締結平成15年4月の支援費制度施行によって,多くの民間事業者がホームヘルプサービス事業に参入した。その中で,被告も各区に事業所を開設し,職員ヘルパーによるサービスを始めた。「A市障害者ホームヘルプサービス事業所」の事業の目的は,障害者・児の心身の特性を踏まえて,その有する能力に応じた居宅での日常生活を営むことができるよう,身体介護及び家事援助全般にわたる援助を行うことであった。 支援費制度によって措置から契約に変わったことから,原告と被告は,平成15年4月1日付けで,「身体障害者居宅介護サービス利用契約」(以下「本件契約」という。)を締結した(甲1)。 原告は,被告との本件契約により,毎週水曜日午前9時から12時まで職員ヘルパーの派遣を受け,家事援助として,衣類の洗濯・補修,住居等の掃除・整理整 (以下「本件契約」という。)を締結した(甲1)。 原告は,被告との本件契約により,毎週水曜日午前9時から12時まで職員ヘルパーの派遣を受け,家事援助として,衣類の洗濯・補修,住居等の掃除・整理整頓,生活必需品の買物,関係機関等の連絡,その他(文書の代読,代筆)というサービスを受けられることになった。 ウ本件契約の終了(ア) 被告は,平成17年2月23日,原告に対し,「区役所のホームヘルプをご利用の皆様へ」と題する書面(甲2)を手渡し,同年3月末日をもって本件契約を終了させる旨を通知し,あわせて次の民間事業者を選定してもらうために,「事業の実施地域別居宅介護(ホームヘルプ)事業所一覧」(甲3)を手渡した。その際,原告には,点字版もあわせて渡された。「区役所のホームヘルプをご利用の皆様へ」の書面中には,次の内容が記載されていた。 記「本事業の廃止にともないまして,区役所のヘルパーさんは4月からは来れなくなりますが,代わりに他の民間ヘルプ事業所からヘルパーさんが来るようになります。サービスの内容は今までどおりと変わりませんし,利用者負担額も変わりません。 新しくどこの事業者からヘルパーさんに来てもらいたいのか,ご相談しながら決めていきたいと思います。」(イ) その後,被告は,原告から,上記一覧表ではどの事業者を選択してよいかどうかの判断ができないという強い要望を受けたため,特段の配慮として,過去の事業者実地指導の折,特に運営が良好であったと認められた4事業者を教示した。 (ウ) 平成17年4月5日,被告の担当係長が,原告に電話をし,原告が新たな事業者との契約が円滑に行えるよう,事業者調整などの援助を行うことを伝えた。 (エ) その後,原告から,被告に対し,本件契約の打切りが契約違反であるとして,職員ヘルパー制度と同等のホームヘルパー たな事業者との契約が円滑に行えるよう,事業者調整などの援助を行うことを伝えた。 (エ) その後,原告から,被告に対し,本件契約の打切りが契約違反であるとして,職員ヘルパー制度と同等のホームヘルパー派遣を行うことを求める申入れが行われたが,被告は原告の要求に応じなかった。 争点及び争点に対する当事者の主張(1) 被告がホームヘルプサービス事業を廃止したこと自体の違憲・違法性(原告の主張)被告がホームヘルプサービス事業を廃止したことは,地方公共団体としての責務に反する。すなわち,法律等で定められている地方公共団体の責務は,憲法上の責務を果たすために法令が義務づけたものであり,地方公共団体があえてこれらの義務違反の行動を取った場合には適用違憲の問題が発生する。 支援費制度及び障害者自立支援法によるサービスの給付内容は,最低限度の定型化されたものに切り縮められる。それゆえ,従来の措置制度において受給できていた給付が受給できなくなった場合には,生存権に関わる福祉の給付水準を国が切り下げた場合に当たり,そのような法律の合憲性は厳格な合理性審査の基準に服すべきである。 このように合憲性に疑いのある法律に基づく事業者として最低限の公的福祉を提供してきた被告が,ホームヘルプサービス事業において,その事業を廃止し,何ら公的責任を果たそうとしないのが本件である。憲法25条2項が要請する責務は,民法上では公序となる。そのような公序に真っ向から反する被告の行為が強度の違法性を有することは明らかといわなければならない。 ア支援費制度における障害者の人権・権利保障上の問題点社会福祉基礎構造改革に沿って実施された支援費制度の趣旨は,表向きは,利用者と事業者の対等性確保による利用者の権利性の向上,自己決定と選択の保障にあるとされた。しかしその背景には,規制緩和 の問題点社会福祉基礎構造改革に沿って実施された支援費制度の趣旨は,表向きは,利用者と事業者の対等性確保による利用者の権利性の向上,自己決定と選択の保障にあるとされた。しかしその背景には,規制緩和と市場原理の導入による福祉サービスにおける国家財政縮小を求める政策的意図があることは否定できないのであり,福祉サービスの市場化と増大する福祉予算の削減という要請に応えるものとなっている。 そのため,憲法25条に基礎をおく社会福祉制度への公的責任の後退と利用者である高齢者・障害者への自己責任の転嫁という批判・危惧が指摘されてきた。 また,権利性については,契約に基づく市民法上の権利義務関係にすぎないものとされ,憲法に基づく社会権としての権利保障の要請に応えるものとして捉えられないおそれも指摘されてきた。 さらに,福祉サービスの提供がほかの消費者問題等と決定的に異なるのは,利用者にとって福祉サービスを受けることは生存や日常生活の維持に不可欠であり,生存を確保するためにサービスを利用せざるを得ないものであること,しかも施設であれば24時間,在宅や通所のサービスであっても一定の時間,サービス提供者と継続的な関係を維持しなければならないという特殊な関係性を有していることである。この関係性から,そもそも利用者自身が,事業者と対等な関係に立って,自己に適切なサービスを選択して契約を締結したり,サービスの提供内容について要望や苦情を出してサービスの質の改善を求めることには,内在的・本質的な制約がある。 その上,根本的な問題は,このシステムの大前提として確保されるべき自明の条件が満たされていないことである。つまり,現状では,高齢者・障害者のいずれに対しても,サービス提供体制が絶対的に不足しているのである。十分なサービス基盤がない中では,自ら選択することも自己決 自明の条件が満たされていないことである。つまり,現状では,高齢者・障害者のいずれに対しても,サービス提供体制が絶対的に不足しているのである。十分なサービス基盤がない中では,自ら選択することも自己決定することも困難であり,苦情申立てなどによるサービスの質の改善も望まれない。障害者福祉におけるサービス供給基盤の遅れは深刻であり,各地方公共団体における障害者福祉計画の進捗を見ない中,障害者に自己選択を迫るやり方は,その前提を欠くおそれがある。 以上のように,利用制度の改革だけでは,利用者の自己決定や選択権の保障にも,日常生活や社会生活維持のために必要な援助を受ける権利の保障にも,直接つながるものではなく,むしろ自己決定イコール自己責任として従来の措置制度より後退するおそれすらあるのであり,そのようなことがないよう国,地方公共団体が国際準則及び憲法,法律で確認された責務を果たさなければならない。 イ利用制度において利用者の権利擁護のため求められている公的責任(ア) そこで,新しい利用制度において,利用者が事業者と対等の関係で,自己決定・選択や権利行使を実現できるという状況を実現するためには,前提として行政の責任によるサービス供給基盤の整備が不可欠であるとともに,事業者と利用者の実質的な対等関係を構築し,利用者の権利と利益を確保するための利用者支援の制度と具体的実践が不可欠となる。 また,契約関係になじまない困難を抱えた者のための公的機関による積極的な介入の体制や措置制度の活用といったセーフティネットの整備,契約関係だけに委ねずに,契約内容の法令等での規制や事業者のコンプライアンス・ルールの確立などが必須である。 (イ) これらは,社会保障についての権利,相当な食糧,医療及び住居を内容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善に の規制や事業者のコンプライアンス・ルールの確立などが必須である。 (イ) これらは,社会保障についての権利,相当な食糧,医療及び住居を内容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についての全ての者の権利,到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を保障する,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約9条,11条及び12条,障害者の可能な限り通常のかつ十分満たされた相当の生活を送ることができる権利を保障する「障害者の権利宣言」3項,健康で文化的な最低限度の生活を保障する憲法25条,個人の尊厳,自己決定権を保障する憲法13条によって要請されている。 国は,憲法はもちろんのこと,上記国際人権規約や国際法令に基づき課された責務であるとの認識を持ちつつ,これらの責務を果たさなければならない。 (ウ) また,地方公共団体は,住民に身近な行政機関として,個々の住民の個別のニーズに応じたきめの細かい行政を行うことができるのであり,住民の生存権確保に向けた積極的な施策を実施すべき義務を有しているというべきである。このことは,地方自治法1条の2第1項が「地方公共団体は,住民の福祉の増進を図ることを基本として,地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」と規定していることからも明らかである。地方公共団体の基本的な役割が以上のようなものであるとするならば,地方公共団体は,国際準則及び憲法で確認された障害者の権利の実現という国の責務を,国とともに共同して負担しているものと考えられる。 より具体的には,前述した国際準則及び憲法の規定を受けて,障害者基本法は,3条において基本的理念を定め,4条において国及び地方公共団体の責任を明確に定めている。身体障害者福祉法も,3条において国及び地方公共団体の責任を明確に 準則及び憲法の規定を受けて,障害者基本法は,3条において基本的理念を定め,4条において国及び地方公共団体の責任を明確に定めている。身体障害者福祉法も,3条において国及び地方公共団体の責任を明確に定め,14条の2において地方公共団体の責任を更に明確にしている。 (エ) また,前述したように,利用者にとっては,福祉サービスを受けることが生存や日常生活の維持に不可欠であり,生存を確保するためにサービスを利用せざるを得ず,このような点からも,セーフティネットの整備が要請される。 従来の身体障害者福祉法等に基づく措置制度はこのセーフティネットの整備の1つとして直接に地方公共団体が住民に福祉を提供するものであった。これが現在の支援費制度へ移行したからといって,地方公共団体が住民福祉に責任を負っている本質に何ら変わりはない。本件に即していえば,被告は一事業者としての契約上の責務だけでなく,同時に地方公共団体としても原告に対する責任を負っているのである。 一事業者としての契約上の責務についても,地方公共団体としての責務がその解釈に影響を与える。 (オ) この点,セーフティネットを経済面から具現化する1つである生活保護法は,保護を廃止できる場合として「被保護者が保護を必要としなくなったとき」(26条前段)としているところ,これは,単に働ける状態にあるだけではなく,現実に就職し,最低生活を上回る給料が継続的に手元に入ってくることが必要であるとして(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知「生活保護法による保護実施要領の取扱いについて」第7の問12),行政のセーフティネットを保障すべき責務に鑑み,廃止事由を厳格に定めている。 利用者にとって福祉サービスを受けることが生存や日常生活の維持に不可欠である場合に廃止事由が厳格に定められているという ),行政のセーフティネットを保障すべき責務に鑑み,廃止事由を厳格に定めている。 利用者にとって福祉サービスを受けることが生存や日常生活の維持に不可欠である場合に廃止事由が厳格に定められているということ及びその根拠となる地方公共団体の責務は,本件においても地方公共団体が事業者となった場合の事業廃止については制限される方向で解釈されなければならない,ということにつながるものである。 ウ国・地方公共団体の公的責任の内容具体的に,上記憲法規定及び国際準則に基づき国・地方公共団体が負担すべき責務の内容が問題となる。 (ア) まず,国は,制度として,生活保護制度,失業保険制度,健康保険制度,公的年金制度,社会福祉制度等を構築すべき責務を負担している。 (イ) 次に,国・地方公共団体は,公的費用でこれらの制度を運営すべき責務を有する。生存権は,歴史的にも所得の再分配として構築されてきた人権規定である。したがって,税収と公的保険制度のいずれを利用して公的費用負担を賄うかはともかく,社会福祉,社会保障等の費用は,公的費用で賄う必要がある。 (ウ) さらに,国・地方公共団体は,社会福祉,社会保障制度等を構築し,公的費用でこれを運営するのみならず,そのサービス提供に直接責任を負うべきである。これは2つのことを意味する。 第1に,国・地方公共団体は,社会福祉,社会保障制度等を利用する必要があるのに,これを利用しない人があるときは,直接にサービスに結びつける責務を負っている。生存権は,国民の権利であるとともに,その実現は国の責務でもあり,サービスの利用を本来必要とするのに,これを利用しない人を発見したときには,積極的に働きかけ,具体的なサービスに結びつける責務があると解されるからである。 第2に,社会福祉,社会保障等のサービスは,一定の場合には,国・地方公共 のに,これを利用しない人を発見したときには,積極的に働きかけ,具体的なサービスに結びつける責務があると解されるからである。 第2に,社会福祉,社会保障等のサービスは,一定の場合には,国・地方公共団体が直接提供する義務を負う。採算性の問題などにより民間事業者が参入せず,又は民間事業者のサービス内容が不十分であり,自己決定・自立・社会参加を保障するサービス,障害者の福祉を増進するサービスを受けられない国民がある場合には,それらの人たちの生存権を保障するため,国・地方公共団体は直接にサービスを提供する責務を負っていると解される。 エ民間事業者の問題点及びこれがサービスの質に与える影響(ア) ヘルパーに対する待遇の劣悪さ及びこれがサービスの質に与える影響aヘルパーに対する待遇の劣悪さ民間事業者(こと会社組織の場合)は,営利を追求するため,可能な限りコストを抑えようとして賃金等の人件費を必然的に削ることになる。よって,一般にヘルパーの賃金は低く,各種の手当等もない。 また,民間事業者は,需要の変動により職員数を調整できるよう,ヘルパーを正社員として採用することを避け,必要なときだけに利用し簡単に解雇できる非正規採用のヘルパーで業務を運営しようとし,その代表的なものが登録型ヘルパーである。その結果,ヘルパーの身分保障は不安定になる。その他の待遇も劣悪となる。 bアンケート調査の結果中央社会保障推進協議会及び全国労働組合総連合が,平成15年に全国のホームヘルパーを対象に行ったアンケート調査の結果(甲27,28,以下「ヘルパーアンケートの結果」という。)からも,ホームヘルパーから,賃金や身分保障等について不満の声が多く挙がっている。 まず,ヘルパーの賃金の低さについて,年間130万円未満と収入が著しく低い,収入確保のために複数の事務所を いう。)からも,ホームヘルパーから,賃金や身分保障等について不満の声が多く挙がっている。 まず,ヘルパーの賃金の低さについて,年間130万円未満と収入が著しく低い,収入確保のために複数の事務所を掛け持ちせざるを得ない,転職を考えるときもある等収入が低くて生活が成り立たないことを訴える声が多い。 また,移動・書類作成の時間が勤務時間に加味されない,事例検討会・ケアカンファレンスの時間は時給が出ない,職種手当や業務手当が出ない,賞与がない,利用者の入所・入院等があればたちまち仕事が減り,賃金が減る,経験年数が増えても昇給せず,同じ単価である等の訴えもある。これにより,実際にサービスをしている時間分の時給しか支払われないこと,各種手当がないこと,経験を積んでも単価は上がらないことが明らかになっている。 さらに,身分保障については,身分の保障がない,登録制ではなく,せめて月雇用にしてほしい,1年間の委託契約であり,退職金も出ない,子供が大きくなったらフルで働きたいのに,正社員になれない,と身分の不安定さを訴える声が目立つ。 その他にも,週2日の休みがとれない,休憩や昼食もろくに取れない,有休休暇が取れない,雇用保険や社会保険などがない,通勤中や仕事中の事故について保障がないなど,不満の声は尽きない。 c待遇の劣悪さがサービスの質に与える影響労働に見合った賃金があり身分保障が安定して初めて,人は自己の職業に誇りを持ち意欲的に仕事に取り組める。ホームヘルパーも同じである。賃金が低く身分保障も不安定であれば,ヘルパーのやる気が削がれる。 そして,ホームヘルプサービスの質を支えるのは一人一人のヘルパーであるから,ヘルパーのやる気が削がれれば,当然にホームヘルプサービスの質が低下することになる。 また,一般的に男性は家庭の中心になって家計を支える ムヘルプサービスの質を支えるのは一人一人のヘルパーであるから,ヘルパーのやる気が削がれれば,当然にホームヘルプサービスの質が低下することになる。 また,一般的に男性は家庭の中心になって家計を支える役割を担っているから,賃金や身分保障等の待遇が悪ければホームヘルパーになることを躊躇することになる。とすれば,ホームヘルプを担うのは女性のみとなる。これでは力仕事等の男性ならではのサービスを取り入れることができず,サービスの多様化を図るのが困難となる。このことも,ホームヘルプサービスの質の低下につながる。 さらに,女性であっても,余りに待遇が悪ければよりよい待遇のいい職場を求めて短期間のうちにヘルパーを辞めることになる。とすれば,経験を積んで技能に習熟することができず,ヘルパーとして熟練しない。そして,ホームヘルプサービスを支えるのは一人一人のヘルパーだから,ヘルパーが習熟しなければホームヘルプサービスの質も上がらない。 d以上より,民間事業者におけるホームヘルパーの待遇は劣悪であり,そのことがホームヘルプサービスの質を低いものにしている。 (イ) 直行・直帰型によるヘルパー間の交流不足及びこれがサービスの質に与える影響a直行・直帰型によるヘルパー間の交流不足民間事業者の目的は営利の追求なので,一般的に利益に直結しないことはやりたがらない。 ヘルパー同士の連携や,先輩ヘルパーから後輩ヘルパーへのアドバイス等,ヘルパー間の交流は,利益には直結しない。ヘルパー間の交流の時間を設けてその時間の時給を支払うことは,民間事業者にとって,無駄以外の何物でもないことになる。 そのため,民間事業者の多くではいわゆる直行・直帰型が採られ,ホームヘルパーが事業所によることなく直接自宅から現場へ向かうことになっている。それゆえヘルパー間の交流の機会は全くな もないことになる。 そのため,民間事業者の多くではいわゆる直行・直帰型が採られ,ホームヘルパーが事業所によることなく直接自宅から現場へ向かうことになっている。それゆえヘルパー間の交流の機会は全くない。 よって,民間事業者では,ヘルパー同士の連携や,先輩ヘルパーから後輩ヘルパーへのアドバイス等,ヘルパー間の交流がない場合が多く,たくさんのヘルパーたちが孤立を強いられている。 bヘルパーアンケートの結果直行・直帰型によるヘルパー間の交流不足については,ホームヘルパーからも疑問視する声が挙がっている。 まず,ヘルパー同士の連携不足については,(一人の利用者に対し)週に複数のヘルパー活動がなされているのに連携されていないのは問題だ,利用者を取り巻く人との連携がないと一人で悩みを抱えることになる等の意見が出されている。 また,先輩ヘルパーから後輩ヘルパーへのアドバイスがもらえない点については,仕事上,何があっても相談できない,いつもひとりぼっちで,精神的に落ち込んだりしている,サービス内容等が自己満足で終わってしまうという不満が上がっている。 cヘルパー間の交流不足がサービスの質に与える影響同じ家庭に複数のヘルパーが派遣される場合,ヘルパー同士の連携がなければ,サービスに重複が生じたり,ヘルパーごとに異なるやり方を押しつけられて利用者に混乱を来す。 よって,ヘルパー同士の連携がなければ,ホームヘルプサービスの質は低下することになる。 また,利用者と一対一で向き合うホームヘルパーの仕事は,利用者との人間関係や自分の仕事のやり方等,悩みが尽きないものである。 社会的に見て困難な状況に陥っている利用者(高齢者・障害者等)の生活上の問題を解決するに当たって,相談できる先輩ヘルパーがいなければ,悩みを独りで抱え込んだまま,無力感にさいなまれることにな る。 社会的に見て困難な状況に陥っている利用者(高齢者・障害者等)の生活上の問題を解決するに当たって,相談できる先輩ヘルパーがいなければ,悩みを独りで抱え込んだまま,無力感にさいなまれることになる。結局は利用者の生活上の問題も解決されず,ホームヘルプサービスの質は低下せざるを得ない。 よって,先輩ヘルパーから後輩ヘルパーへのアドバイスがなければ,ホームヘルプサービスの質は低下することになる。 d以上から,民間事業者の多くが直行・直帰型を採っているためにヘルパー間の交流が不足し,そのことがホームヘルプサービスの質を必然的に低いものにしてしまうのである。 (ウ) 民間事業者の理念の低さ及びこれがサービスの質に与える影響a民間事業者には福祉の理念が欠如している民間事業者の目的は営利の追求であるから,民間事業者の下では福祉が商品化され,儲かることが最も大事という考え方がはびこることとなる。 こうなれば,福祉の理念などなく,あるのは,いかにして多くの利益を上げるかという,利潤追求の目的のみである。 よって,多くの場合,民間事業者には福祉の理念がない。 bヘルパーアンケートの結果実際,ホームヘルパーからも,民間事業者の福祉に対する理念のなさについて疑問の声が挙がっている。 全国展開の大きな事業所で働いていたが,理念のなさにはあきれた,(その現れとして)事例検討は全く行っていない,事業所はFAXで予定表を送って機械的にヘルパーを動かしているだけ,このようなことを許さないためにチェック機関があってもいい,商品化される福祉についていつでも疑問を感じている,儲かることが最も大事という風潮を感じる等々,現場で働くホームヘルパーの実感が伝わってくる。 c民間事業者の理念のなさがサービスの質に与える影響ホームヘルプサービスの目的は,生活を改善して利用者 ,儲かることが最も大事という風潮を感じる等々,現場で働くホームヘルパーの実感が伝わってくる。 c民間事業者の理念のなさがサービスの質に与える影響ホームヘルプサービスの目的は,生活を改善して利用者の自立を支援することにある。サービスを提供する事業所が,しっかりとした福祉の理念に基づいてホームヘルパーを統率してこそ,かかる目的の達成が可能となる。 これに対し,事業所に福祉の理念がなく利潤のみを追求するようになると,ホームヘルパーの人件費や身分保障等は削れるだけ削り,ヘルパー間の交流等利益に直結しないものはどんどん省くこととなる。 また,その一方で,他の事業所に利用者を奪われることを避けるため,利用者の生活改善・自立支援のために有効かを顧みることなく,利用者のいいなりになってサービスを提供してしまうことも生じうる。 結果として,ホームヘルプサービスの質は著しく低下し,ホームヘルパーは単なる家事手伝いになってしまう。 d以上から,民間事業者には福祉の理念はなく,そのことがホームヘルプサービスの質を低いものにしている。 (エ) 研修制度の不備及びそれがサービスの質に与える影響a研修制度の不備研修の内容を充実させたり,ヘルパーが実際に研修に参加できる体制を整えたりすることは,無駄な出費を生むものであり,営利という目的に反する。よって,民間事業者は,研修の内容充実やヘルパーが研修に参加できる体制づくりなどは行わず,研修はたとえ行われたとしても形ばかりのものなる。 bヘルパーアンケートの結果実際,ホームヘルパーからも,民間事業所の研修制度について疑問の声が挙がっている。具体的には,研修を年に数回実施しているが,マンネリ化しているように思う,ヘルパーとしていろんな研修に参加していきたいが,1日仕事を休んでいかなければならない,収入が安定して の声が挙がっている。具体的には,研修を年に数回実施しているが,マンネリ化しているように思う,ヘルパーとしていろんな研修に参加していきたいが,1日仕事を休んでいかなければならない,収入が安定していないのに1日休んで参加することが難しい,まだまだ学び足りないことがたくさんある,等である。 c研修制度の不備がサービスの質に与える影響ホームヘルプサービスの目的は,生活を改善して利用者の自立を支援する点にある。 そこで研修では,かかる目的達成のためにヘルパーとしてどのようにサービスを提供していくべきかについての指導がなされることとなる。しかるに,研修の内容が充実していなかったり,せっかく研修が催されても実際に参加するのが困難なようでは,ヘルパーの独断でサービスを行うことになり,言われたことを場当たり的に行う,単なる家事手伝いになりがちである。 よって,ホームヘルプサービスの質は低下することになる。 d以上から,民間事業者は研修制度が不備であり,そのことがホームヘルプサービスの質を低いものにしている。 (オ) サービスの細分化・限定化・定型化(マニュアル化)及びそれがサービスの質に与える影響aサービスの細分化・限定化・定型化(マニュアル化)民間事業者は,より多くの利益を上げるために,事業を細分化・限定化・定型化(マニュアル化)して,効率よく回していかなければならない。 まず,業務を細分化することにより,本来であれば一人のヘルパーが行うべき業務を複数のヘルパーで分担することが可能になる。例えば,一人の利用者を複数のヘルパーで担当する場合がこれに当たる。 これにより,パートのヘルパーで対処することが可能となり,ヘルパーを正社員にしなくて済み,人件費が削減できる。 次に,業務を限定化することにより,余分な仕事をやらなくて済む。 余分な仕事とは, たる。 これにより,パートのヘルパーで対処することが可能となり,ヘルパーを正社員にしなくて済み,人件費が削減できる。 次に,業務を限定化することにより,余分な仕事をやらなくて済む。 余分な仕事とは,手間がかかる割に利益の上がらない仕事である。例えば話し相手等がこれに当たる。 また,業務を定型化(マニュアル化)することにより,熟練した技術を持たない者でもマニュアルに従えば業務を行うことができる。これにより,正社員として訓練を受けた者ではなく,きちんと訓練を受けていないパートのヘルパーで業務を回すことができ,人件費を削減できる。 以上のように,業務を効率化し,人件費や時間を削減して利益を上げようとするのが民間事業者のやり方である。 bヘルパーアンケートの結果実際に,ホームヘルパーからも,事業の細分化,限定化,定型化(マニュアル化)について疑問視する声が挙がっている。 具体的には,細分化について,1軒の家に何人ものヘルパーが訪問する,気が付く人と付かない人の差があったり,利用者から別のヘルパーの悪口を聞いたりすることがあり,とても難しく感じることもある等の意見がある。 また,限定化について,制限時間内で介助しなければならず,見守り・話し相手ができない,利用者の現状を踏まえた適切な援助計画を立て,仕事を進めるとき,2時間で効率的なサービスを提供する厳しさを感じるという疑問が挙げられている。 さらに,定型化(マニュアル化)について,家事援助と身体介護をきっちり線引きされてから,家事援助で入っているときに身体介護を頼まれても断らざるを得ずつらいとの悩みが訴えられている。これは,家事援助と身体介護を形式的に分けて,それぞれについてサービスの内容を定型化(マニュアル化)したことの弊害といえる。 c事業の細分化,限定化,定型化(マニュアル化)がサービ 訴えられている。これは,家事援助と身体介護を形式的に分けて,それぞれについてサービスの内容を定型化(マニュアル化)したことの弊害といえる。 c事業の細分化,限定化,定型化(マニュアル化)がサービスの質に与える影響ホームヘルプサービスの目的は,生活を改善して利用者の自立を支援する点にある。そして,利用者一人一人は違う人間であり,生活スタイルや個性が異なる。それゆえ,生活の改善や自立の支援の意味も,利用者ごとに違うはずである。 とすれば,ホームヘルプサービスの質を保つためには,利用者一人一人の個性や生活スタイルに合わせたきめ細やかなサービスが必須となる。しかるに,事業が細分化,限定化,定型化(マニュアル化)されれば,利用者の個性や生活スタイルに合わせたきめ細やかなサービスに逆行することになる。 よって,事業の細分化,限定化,定型化(マニュアル化)により,ホームヘルプサービスの質は低いものになる。 d以上から,民間事業者では,事業が細分化,限定化,定型化(マニュアル化)されて,ホームヘルプサービスの質が低いものとなる。 (カ) まとめ以上見たように,現場で働くホームヘルパーの視点から見ても,民間事業者には様々な問題点があり,そのためにはホームヘルプサービスの質は低いものになっている。 その結果,被告によるホームヘルプサービスと,民間事業者によるそれとでは,その質に大きな差が生じている。 よって,被告が原告との契約を打ち切ったことが許容される理由として,被告に代わって民間事業者が原告と契約を結んだとしても,同程度の質と量を有するホームヘルプサービスを提供できることを挙げることは認められない。 オ小括以上のとおり,国及び地方公共団体の公的責任は,憲法25条,13条及び前述した国際準則から導かれるものであって,サービス提供のシステムが ビスを提供できることを挙げることは認められない。 オ小括以上のとおり,国及び地方公共団体の公的責任は,憲法25条,13条及び前述した国際準則から導かれるものであって,サービス提供のシステムが措置制度から契約による利用制度に移行したとしても何ら変わるべきものではなく,福祉サービスの利用方法に変更があったにすぎない。国や地方公共団体は,支援費制度の下でも,福祉サービスの枠組みを構築し,公的費用でこれを運営し,サービス利用を必要とする障害者に対して直接にサービスを提供すべき責務を負担している。 そして,特に地方公共団体は,住民に身近な行政機関として,個々の住民の個別のニーズに応じたきめの細かい行政を行うことができるのであって,住民の生存権確保に向けた積極的な施策を実施すべき義務を負担している。 また,その公的責任の内容として,採算性の問題などにより民間事業者が参入せず,又は民間事業者のサービス内容が不十分であり,自己決定・自立・社会参加を保障するサービス,障害者の福祉を増進するサービスを受けられない住民がある場合には,それらの人たちの生存権を保障するため,地方公共団体は直接にサービスを提供する責務を負っているのである。 (被告の主張)ア憲法,国際規約,法律等の権利性について(ア) 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約について経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約は,9条,11条及び12条において,原告が指摘するような権利を保障する規定をしている。しかしながら,これらの規定は,締結国において,社会保障についての権利が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,右権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し,具体的権利を付与すべきことを定めたも 策により保護されるに値するものであることを確認し,右権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し,具体的権利を付与すべきことを定めたものではない。 したがって,同規約は,障害者対策として特定の施策を実現すべき地方公共団体の義務を規定したものとはいえない。 以上のとおり,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約に基づいて,被告に,原告の主張するような一事業者としてホームヘルプサービスの提供をすべき義務はない。 (イ) 「障害者の権利宣言」について(国連総会決議の法源性について)「障害者の権利宣言」は,3項において,原告指摘の権利を保障する規定をしている。しかし,この宣言は,国際連合ないしその機関の考え方を表明したものであって,加盟国に対して法的拘束力を有するものではない。 したがって,同宣言は,障害者対策として特定の施策を実施すべき地方公共団体の義務を規定したものとはいえない。 以上のとおり,「障害者の権利宣言」に基づいて,被告に,原告の主張するような一事業者としてホームヘルプサービスの提供をすべき義務はない。 (ウ) 憲法13条・25条について生存権を規定する憲法25条は,国権の作用に対し,一定の目的を設定し,その実現のための積極的な発動を期待するという性質のものである。そして,憲法13条についても,行政府の国民に対する政治的責務を示した綱領規定であって,その内容は国政についての指導原理を抽象的に示したものにすぎない。 したがって,憲法13条・25条の規定は,障害者対策として特定の施策を実施すべき国・地方公共団体の義務を規定したものとはいえない。 そして,ホームヘルプサービスの利用関係について,地方公共団体が自らの判断・決定により当該サービスの提供を行う措置制度とするか, の施策を実施すべき国・地方公共団体の義務を規定したものとはいえない。 そして,ホームヘルプサービスの利用関係について,地方公共団体が自らの判断・決定により当該サービスの提供を行う措置制度とするか,それとも,当該サービスにつき,利用者が事業者と直接契約を結び,その利用に要した費用を地方公共団体が支給する支援費制度とするかは,立法府である国の裁量の範囲に属する事柄と見るべきである。 以上のとおり,被告には,憲法13条・25条の規定に基づいて,原告に対し,一事業者としてホームヘルプサービスの提供をすべき義務はないのである。 (エ) 地方自治法について地方自治法1条の2は,国と地方公共団体の役割を定めたもので,その性格は,原則規定,方針規定であり,地方公共団体に特定の施策を実施すべき義務を規定したものではないし,同条1項の「住民の福祉」とは,障害者福祉,老人福祉等の社会保障・社会援護等を包括するものとして一般に用いられている狭義の福祉を指すのではなく,より広く住民全体の利益,地域における公共の利益を指すものである。 したがって,地方自治法1条の2は,障害者対策として特定の施策を実施すべき地方公共団体の義務を規定したものとはいえない。 以上のとおり,被告には,地方自治法1条の2の規定に基づいて,原告に対し,一事業者としてホームヘルプサービスの提供をすべき義務はないのである。 (オ) 障害者基本法・身体障害者福祉法について障害者基本法及び身体障害者福祉法における原告引用の諸規定は,いずれも,国・地方公共団体に対して施策の基本方針を示し,又は抽象的な責務を規定するにとどまり,障害者対策として特定の施策を実施すべき国・地方公共団体の義務を規定したものとはいえない。 以上のとおり,被告には,これらの諸規定に基づいて,原告に対し,一事業者としてホームヘ を規定するにとどまり,障害者対策として特定の施策を実施すべき国・地方公共団体の義務を規定したものとはいえない。 以上のとおり,被告には,これらの諸規定に基づいて,原告に対し,一事業者としてホームヘルプサービスの提供をすべき義務はないのである。 イ国・地方公共団体の公的責任の内容について上記のとおり,被告は,原告が引用する憲法,国際準則,地方自治法,障害者基本法及び身体障害者福祉法の諸規定に基づいて,具体的に義務を負っていないのであるから,そもそも原告が主張するような①社会福祉,社会保障制度を構築し,公的費用でこれを運用する義務,②直接にサービスを提供しなければならないといった法的な義務は発生しない。 ウ被告による事業者の把握,指導等被告は,平成17年法律123号による改正前の身体障害者福祉法17条の21及び「支援費制度による指定居宅支援事業者等指導監査実施要綱」(平成16年4月1日施行,乙12)に基づき実施する指導監査において,同要綱第5の2(2)により指定居宅支援事業者に関係資料(乙13)を提出させるなどして,その実態把握を行っている。 平成16年度の身体障害者居宅介護事業にかかる指導監査の対象事業者数は,164箇所あるが,被告は,そのうち実地指導を38箇所,書面指導を57箇所について行い,指導監査を実施した結果,身体障害者福祉法に基づく指定居宅支援事業者等の人員,設備及び運営に関する基準(平成14年6月13日厚生労働省令78号,乙8,以下「基準省令」という。)に照らし,不適切だと判明した事例について合計160件の指摘を行うとともに,是正改善を指導している。 また,指導監査を行った結果,基準省令に照らし,不適切だと判明した事例について指導を行った割合は,監査項目の「第5変更の届出等」の26.3%が最高であり,大方の事業者が基 是正改善を指導している。 また,指導監査を行った結果,基準省令に照らし,不適切だと判明した事例について指導を行った割合は,監査項目の「第5変更の届出等」の26.3%が最高であり,大方の事業者が基準省令で定める基準を満たし,質の高いサービス提供を行っていることが分かる。 秘密保持については,被告は,民間事業者が個人情報の適切な取扱いを行っているかどうかの実態把握をしており,指導監査を実施した結果,7件の指摘を行った。 エそもそも,支援費制度への移行後も,被告が,事業の監督,サービス提供体制の基盤整備など,支援費制度下における公的責任を果たすこととは別に,ホームヘルプサービス事業を実施していたのは,民間事業者による十分なサービス提供が不透明であるという状況を勘案したものである。 そして,被告が,本件ホームヘルプサービス事業を廃止したのは,支援費制度開始以後,民間事業者の数が大幅に増加し,市内のニーズを満たすサービス提供体制が確保されたことに加え,厳しい財政状況下における被告の市政運営の方針として,「民間にできることは民間に委ねる。」,「サービスの提供の実施主体については民間活力を積極的に導入する。」といった公的関与の在り方に関する点検指針,行財政改革計画及び定員管理計画等の考え方が採られたこと,さらには行政評価の外部評価において本件ホームヘルプサービス事業は,「民間に委ねるべき」との評価を受けたこと等を総合的に勘案し,政策判断として行ったものである。 なお,憲法25条の規定の趣旨に応えて具体的にどのような措置を講ずるかの選択決定は,地方公共団体の広い裁量に委ねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるとされているのである。 オ民間企業のホー の広い裁量に委ねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるとされているのである。 オ民間企業のホームヘルプサービスの実態について(ア) 介護技術の研さん及び守秘義務についての研修の実施状況愛知視覚障害者協議会がA市内のホームヘルパー派遣民間事業者及び愛知県内の社会福祉協議会に対して行ったアンケート結果(甲18,以下「民間事業者等アンケートの結果」という。)によっても,8割以上の事業者において職員に対し,介護技術の研さんのための研修が実施されており,守秘義務についての研修も約8割の事業者が実施している。 (イ) ホームヘルプサービスの提供とケースワークについてケースワークは,常に利用者の心身の状況,その置かれている環境等の的確な把握に務め,利用者又はその家族に対し,適切な相談及び助言を行うこととほぼ同義であり,このことは,ホームヘルプサービス(指定居宅介護)の方針に合致する(基準省令23条4号)。 また,ホームヘルプサービスの提供の目的は,障害者の自立と社会参加を促進し,身体障害者の福祉の増進を図るものであるといえるから,ホームヘルプサービスの提供自体がケースワークといってよい。 カ原告は,被告がコスト削減のために,利用者や職員団体の意見を聞くこともなく一方的に事業の撤退,ホームヘルパー職の廃職を強行したことは,公的責任の放棄であり,許されるものではないと主張する。 しかし,被告のホームヘルプサービス事業は,地方公共団体が自らの判断・決定により当該サービスの提供(あるいは社会福祉法人などへの委託)を行う措置制度の下で,職員ヘルパーの派遣及び社会福祉協議会等への委託により行われてきたが,平成12年4月から契約方式とする介護保険制度の導入によ サービスの提供(あるいは社会福祉法人などへの委託)を行う措置制度の下で,職員ヘルパーの派遣及び社会福祉協議会等への委託により行われてきたが,平成12年4月から契約方式とする介護保険制度の導入により,高齢者世帯については役割を終えたものとされ,障害者世帯に対する派遣だけに対象が絞られた。 このように,被告のホームヘルプサービス事業は,法制度及び社会情勢の変化を受け,変わってきたのである。 したがって,平成15年4月から障害者福祉の領域も契約方式とする支援費制度が導入されたこと(法制度の変更)及び市内のニーズを満たすサービス提供体制が確保されたことや行財政改革計画及び外部評価(社会情勢の変化)を総合的に勘案し,被告が直営のホームヘルプサービス事業を廃止したことは,これまでの経緯に照らしても自然な流れであるといえる。 キ結語被告が,憲法,国際準則,地方自治法,障害者基本法及び身体障害者福祉法の諸規定に基づいて,一事業者としてホームヘルプサービスを提供しなければならないとする法的な責務はない。 また,支援費制度における被告の責務(公的責任)は,サービス自体を提供することではなく,事業の監督,サービス提供体制の基盤整備及び利用の促進など契約によるサービス利用制度の管理責任の一部並びに支援費を支給することである。 なお,措置制度から契約利用制度への移行に伴い,サービスの給付内容が切り下げられた事実はない。 支援費制度による障害者福祉サービス提供の基本原則は,第1に,障害者の自己決定を尊重し,利用者本位のサービスの提供を基本として,事業者・施設との対等な関係に基づき,障害者自らがサービスを選択できるようにすること,第2に,事業者・施設も,行政からの受託者ではなく,サービス提供の当事者として,利用者によるサービス選択に応えるべく,サービスの質の向 関係に基づき,障害者自らがサービスを選択できるようにすること,第2に,事業者・施設も,行政からの受託者ではなく,サービス提供の当事者として,利用者によるサービス選択に応えるべく,サービスの質の向上に努めるようにすることである。 さらに,支援費制度の導入により地方公共団体の障害者福祉サービス提供に関わる公的責任は,サービス自体を提供する責任から,事業の監督,サービス提供体制の基盤整備及び利用の促進など契約によるサービス利用制度の管理責任の一部並びに支援費を支給する責任へと変化した。 したがって,被告が,ホームヘルプサービス事業を廃止したことは,公的責任を果たそうとしないことだとする原告の主張は失当である。 (2) 被告の本件契約の解除の効力・違法性(原告の主張)ア介護保険制度下での職員ヘルパー制度介護保険制度の下,職員ヘルパーは介護保険制度と関係なく派遣できるという強みを生かし,通常の派遣だけでなく,緊急ケース(介護保険制度のケアマネージャーにつなぐまでの間に介入が必要な利用者など)の対応を担ったほか,要介護度の認定調査などを行うようになった。 また,支援費制度が導入された後には,職員ヘルパーがケアマネージャー的役割を担い(介護保険制度と異なり,支援費制度にはケアマネージャーがいない。),それまでホームヘルパー制度を利用してこなかった利用者がホームヘルパーを利用するかどうかの判断をするに当たり,とりあえず職員ヘルパーを派遣して利用者に判断の材料を提供したり,職員ヘルパーと民間事業者ヘルパーが複数で対応している利用者について,ケースワークを行うなどの役割を果たしてきた。 イ職員ヘルパー制度の存在意義・必要性民間事業者から派遣されるホームヘルパーと職員ヘルパーとは同じホームヘルパーのように見えるが,利用者にとっては両者は大きく異なるも うなどの役割を果たしてきた。 イ職員ヘルパー制度の存在意義・必要性民間事業者から派遣されるホームヘルパーと職員ヘルパーとは同じホームヘルパーのように見えるが,利用者にとっては両者は大きく異なるものである。職員ヘルパー制度の存在意義・必要性は,民間事業者と対比して,①専門性,②公共性,③福祉性(人間性)の3点に大きく集約することができる。 (ア) 専門性職員ヘルパーは,被告正規職員として雇用を保障され,職員ヘルパー同士は毎朝福祉事務所で顔を合わせてから各家庭へ出かけ,毎夕同事務所に戻ってくるため,ケースワークが日常的に可能であった。加えて,研修も定期的に行われていた。そのため,職員ヘルパーが有している専門性は極めて高いものであった。派遣対象となっている高齢者と障害者(特に障害者)は一人一人ヘルパーを必要とする中身が異なっているため,ホームヘルパーには専門性が求められるが,職員ヘルパー制度はその専門性に対応できる制度であった。 しかしながら,サービスの対価を得て派遣される民間事業者ヘルパーの場合,対価の対象となる派遣時間(実際にヘルパーとして働いている時間)だけが基準となるため,経験を共有,蓄積するためのケースワーク及び研修が行われることはほとんど見込むことはできない。より根本的にいえば,誰でも参入できる民間事業ということは,誰にでもできる範囲でしか仕事をしないということであり,一人一人の必要に応じるための専門性は必然的に欠けざるを得ない。 (イ) 公共性これは職員ヘルパーが被告正規職員であったことから,最終的な責任は被告が負う(公的責任を負う)ということである。 利用者としては,職員ヘルパーは地方公務員として法律上守秘義務を負っていること,守秘義務に違反すればその身分を失う可能性があることから,秘密は守られると信頼することができ を負う)ということである。 利用者としては,職員ヘルパーは地方公務員として法律上守秘義務を負っていること,守秘義務に違反すればその身分を失う可能性があることから,秘密は守られると信頼することができた。ホームヘルパーは利用者の家に入って仕事をするのであり,利用者にしてみれば,ホームヘルパーに対しては台所のごみを隠すこともできないほどその生活を知られてしまう。とりわけ,原告のような視覚障害者の場合は,自宅に届いた郵便物の仕分をヘルパーに頼む必要があるが,それは銀行関係の書類のような高度な個人情報が含まれている。したがって,守秘義務は極めて重要である。 また,苦情対応についても公的責任があるということは重要である。 利用者としては,何かあった場合の苦情を被告に対して述べることができ,被告は行政として住民の苦情に対応することで,信頼してヘルパーを利用することができたのである。 しかしながら,民間事業者によるヘルパー派遣については公的責任はない。事業者は対価に見合うだけの責任しか負わず,事業者に雇用されている各ヘルパーは,支払われている賃金に見合うだけの責任しか負わない。いずれも被告が職員ヘルパーを派遣することによって利用者に対して負っていた公的責任に比べれば圧倒的にその責任度合いは小さいのであり,民間事業者及び民間事業者によって派遣されるヘルパーの責任度合いが小さいことの不利益は全て利用者に転嫁されてしまうのである。 例えば,守秘義務については,一応,民間事業者が雇用するヘルパーも負っているが,職員ヘルパーのように守らせるための制度を欠いており,利用者として信頼できる程度には達していない。実際に,民間ヘルパー利用者は自分のところに派遣されるヘルパーが他所の家庭の事情を話す(ということはつまり,自分の家庭の事情も他所の派遣先で話されているとい 者として信頼できる程度には達していない。実際に,民間ヘルパー利用者は自分のところに派遣されるヘルパーが他所の家庭の事情を話す(ということはつまり,自分の家庭の事情も他所の派遣先で話されているということである。)という経験をしている。 さらにいえば,職業倫理としても,仮にあるヘルパーがある事業者から解雇されたとしても,これだけたくさん民間事業者が参入している現状においては,すぐに他の事業者に雇用されることが可能であり,職員ヘルパーのような高い職業倫理を望むこともまた不可能である。 苦情対応についても,民間事業者に対して苦情を言えばヘルパー個人との関係が悪化するだけでなく,当該事業者との契約を続けることができなくなるのを覚悟で言わなければならない。被告に対する苦情申出・対応とは大きく異なるのである。 (ウ) 人間性(福祉性)職員ヘルパーは行政の福祉担当者として,ヘルパー業務を行ってきた。 ホームヘルプサービス事業が福祉である重要性は,ヘルパー業務が対価性を持たないという点にある。採算を考えれば,手間がかかる困難なケースには対応せず放置する,ということになるが,被告の職員ヘルパー制度においては利用者(住民)に必要な福祉を提供してきた。介護保険制度下において,職員ヘルパーが緊急ケースを担当したのも,職員ヘルパーが福祉担当者だからである。 一方,民間事業者の行うホームヘルパー制度はサービス事業である。 それは,利用者が支払う対価に応じて時間単位で「切り刻む」ということであり,人間としての生活の質(QOL)の向上ということを望むことはできない。 ホームヘルパー制度が福祉であるということは,特に障害者については,一生通して必要なものであるから深刻な問題である。 ウ本件契約について(ア) 本件契約1条には,利用者が可能な限り,その居宅において,その パー制度が福祉であるということは,特に障害者については,一生通して必要なものであるから深刻な問題である。 ウ本件契約について(ア) 本件契約1条には,利用者が可能な限り,その居宅において,その有する能力に応じて自立した日常生活を営むことができるよう,事業者が利用者に対し,入浴・排泄及び食事などの介護,洗濯掃除等の家事,生活等に関する相談及び助言,その他の生活全般にわたるサービスの提供を行うことを目的とすることが定められている。 サービスの内容は,平成17年法律123号による改正前の身体障害者福祉法4条の2第2項に規定される「身体障害者居宅介護等事業」の定めによるとされている(本件契約1条)。身体障害者福祉法は,身体障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため,身体障害者を援助し,及び必要に応じて保護し,もって身体障害者の福祉の増進を図ることを目的としており(同法1条),本契約は身体障害者福祉法の目的に沿って規定されているのである。 それゆえ,本件契約は事業者ではなく利用者本位に規定されている。 利用者本位とする根拠は,利用者が健康で文化的かつ自立した日常生活を営むためには,弱い立場である利用者に配慮しなければ,利用者を守れないとの理念によるのである。 (イ) 利用者本位の契約内容は,①居宅介護計画の作成と変更(4条),②利用者の生命,身体等の安全に対する配慮(11条),③守秘義務(12条)等の諸条項に現れている。 そして,契約の終了に関する事項については,①契約の自動更新の定め(3条),②契約の終了(13条),③利用者からの中途解約(14条),④利用者からの契約解除(15条),⑤事業者からの契約解除(16条),⑥この契約に定めのない事項についての解決法(22条)等において,より一層利用者本位に定められている。 エ被告が身体障害 条),④利用者からの契約解除(15条),⑤事業者からの契約解除(16条),⑥この契約に定めのない事項についての解決法(22条)等において,より一層利用者本位に定められている。 エ被告が身体障害者居宅介護サービス事業を継続する義務(ア) 本件契約に定められた契約期間平成15年4月1日から支援費制度が導入されたことに伴い,本件契約においては,契約期間は同日から平成16年3月31日までとされ,契約満了の2週間前までに,利用者から事業者に対して,契約を終了したいとの申出がない限り,支援費支給決定がなされた支給量及び支給期間の範囲内で本契約と同様の内容で自動的に更新する旨定められていた(本件契約3条)。 (イ) 被告がホームヘルプサービス事業を継続する義務既に述べてきたとおり,被告が行政としてホームヘルパーを派遣することには,民間事業者によるヘルパー派遣では補うことができない固有の意味がある。原告にとっては,被告が事業者として職員ヘルパーを派遣していたことは「目の代わり」を頼まなければならないヘルパーが地方公務員として守秘義務を負っているということが特に大きな意味であり,それは民間事業者によって派遣される身分の不安定なヘルパーによっては代替することが不可能である。 そして,被告はホームヘルパー派遣に終了期限を設けずに本件契約を締結しているのであって,被告にはホームヘルプサービス事業を継続する義務があった。 オ本件契約に定められた契約終了事由に該当する事情のないこと(ア) 本件契約において,契約終了事由としては,13条ないし16条に規定されており,本件において被告は,16条3号に基づいて契約が終了したと主張するが,本件契約16条3号は「天災,災害その他やむを得ない理由により,サービスを提供することができない場合」には契約が終了する旨規 り,本件において被告は,16条3号に基づいて契約が終了したと主張するが,本件契約16条3号は「天災,災害その他やむを得ない理由により,サービスを提供することができない場合」には契約が終了する旨規定しているが,本件においてはそのような事情は認められない。 (イ) この点については,民法161条の解釈が参考となる。すなわち,民法161条においては,「天災その他避けることができない事変のため」と定められているところ,当該文言は「大雪・洪水・戦乱などによる交通の閉塞,戦乱・地震などによる裁判事務の休止等,当事者によって避けることのできない外部的な事変が発生した場合」を指すと解されている。 そして,本件契約16条3号についても,「天災,災害その他やむを得ない理由」は,当事者双方において避けることのできない外部的な事変が発生した場合,と限定して解釈されなければならない。 しかしながら,被告が一方的にホームヘルプサービス事業を打ち切った平成17年3月末日時点において,当事者双方において避けることができないような外部的事変は発生していない。 したがって,被告によるホームヘルプサービス事業の打切りは,本件契約16条3号の解除事由に当たらない。 (ウ) 本件契約解除文言の解釈仮に被告がホームヘルプサービス事業を廃止したことの違法性が認められないとしても,事業廃止の効果が及ぶ利用者との関係での契約解除が違法かどうかとは別の次元の問題である。事業廃止については,行政の裁量があり,その裁量権の行使が憲法規範の制約に違反せず,裁量権の濫用がない場合には,有効と判断されることになる。しかし,その場合でも,その事業廃止によって契約の打切りの効果を受ける利用者との関係では,別途その必要性や手続等において,独自の制約を考慮して違法性の有無が検証される必要がある。 そ ることになる。しかし,その場合でも,その事業廃止によって契約の打切りの効果を受ける利用者との関係では,別途その必要性や手続等において,独自の制約を考慮して違法性の有無が検証される必要がある。 そして,第2の違法性との関係では,被告は,一事業者としての立場から原告との間で自ら契約解除事由を自己制約しているのであり(被告は公的責任主体としての立場を自覚した上で自己制約を行っていると思われる。),その意味で契約書記載の解除事由に拘束されるのである。 ところが,被告は,違法性についての以上の2つのレベルを区別せず,混同させた上で議論を行っている。そもそもここでの議論は,契約書記載の契約解除事由についての主張であるにもかかわらず,被告は突如,行政としての広範な裁量を持ち出したのである。確かに行政は,広範な裁量を有するが,それはあくまでも公権力の主体である行政の権力行使に関わる場面であって,一私人の立場での契約解釈に突如として,行政権の広範な裁量を持ち出すことはレベルの混同というほかない。本件で問題となっている契約当事者としての被告は,一事業者であることを自ら宣明している。一私人にすぎない一事業者としての契約当事者の契約解除の違法性を議論するに当たって,行政としての裁量権を持ち出すことなどできないはずである。 (エ) 被告の契約文言の解釈の誤りa自己拘束としての契約私的自治の原則の下では,契約当事者は強行法規に違反しない限り,どのような合意を行うことも可能である。契約解除事由を限定し,一定の事由がある場合を除いて,一方的契約解除ができないという契約を作成することも法的には全く問題なく,契約当事者はこの契約に拘束されることになる。その意味で契約書における契約解除事由の厳格な限定は,解除権という自らの権利行使を契約書所定の一定の理由に限定す を作成することも法的には全く問題なく,契約当事者はこの契約に拘束されることになる。その意味で契約書における契約解除事由の厳格な限定は,解除権という自らの権利行使を契約書所定の一定の理由に限定するという意味で,自己拘束を意味するのである。 b本件契約の契約解除事由の限定の意味支援費制度,それに続く自立支援法の下では,それまでの措置を原則とする制度から,契約を原則とし,国や地方公共団体は費用支援やサービスの質の担保責任(監督責任を含む。)を負う立場になったとしても,「やむを得ない場合には」「措置」により自ら福祉サービスを実施する責任を残している。被告の主張は,このような法制度全体の仕組みの一部のみを取り上げ,あたかも全面的に公的責任が免除されたかのように議論する点で誤っている。 本件契約において,契約解除の事由を厳格に絞った理由は,上記の公的責任を踏まえたものと理解できる。憲法上も,それを具体化した法律上も,公的責任を負う地方公共団体は,事業者の不在を理由にして自らの福祉サービス提供の責任を免れることはできない。そのために,自ら一事業者として事務所を立ち上げる際,その契約の中に事業者側からの一方的な契約解除事由を厳格に限定したものと解される。 それは,支援費制度実施の際に厚生労働省自身が契約制度に変わることによって,事業者による福祉サービスの利用を受けられない障害者が出ないように,申出があった場合の拒否の禁止や自らがサービスを提供できない場合の他事業者の紹介義務を設けたことと同趣旨である。 以上のように事業者による一方的な契約解除事由を限定した趣旨から考えて,被告が主張するように,本件契約13条5号は,被告が,ヘルプサービス事業を継続しているにもかかわらず,一部(特定)の利用者との契約を終了する際に適用され,事業自体の廃止の場合には た趣旨から考えて,被告が主張するように,本件契約13条5号は,被告が,ヘルプサービス事業を継続しているにもかかわらず,一部(特定)の利用者との契約を終了する際に適用され,事業自体の廃止の場合には16条3号が適用されるなどという解釈ができる余地は全くない。 被告の契約解釈は,以上のとおり異なるレベルの問題を混同した上で,行政の裁量を表に出して,自己拘束である契約まで自らの都合に合わせて拡張しようとするものであり,到底,成り立つ解釈ではない。 カ期間の定めのない継続的契約の解約の法理に対する反論被告は,本件契約解除について,期間の定めのない継続的契約の解約の法理を類推し,一定の予告期間を経た上でなされており,契約期間の中途で解除したわけではないとか,期間の定めのない継続的契約の解約の法理を類推し,原告が民間業者への移行をスムーズに行うことができるように,一定の予告期間を設けた上で,解約告知を行ったものであると主張する。 しかしながら,本件契約は明確に期限を1年と定めた上,自動更新によって「利用者から事業者に対して,契約を終了したいとの申出がない限り」「本契約と同様の内容で自動的に更新」とされている(3条2項)。 被告は,本件契約が実質的に期間の定めのない継続的契約であるとするが,明文の規定に反してそのように解釈することができる理由が不明である。 そもそも,本件において,「期間の定めのない継続的契約の解約の法理」なるものは当てはまらない。契約はそれぞれの性質によって解釈されるべきなのであり,被告が述べるように一般的に「期間の定めのない継続的契約の解約の法理」なるものを想定できるものではない。 そして,ここで重要なことは,本件契約が,原告の生活基盤を支える契約であり,その社会的機能からみて,その関係の継続性・拘束性が普通の契約関係以上に要請さ 約の法理」なるものを想定できるものではない。 そして,ここで重要なことは,本件契約が,原告の生活基盤を支える契約であり,その社会的機能からみて,その関係の継続性・拘束性が普通の契約関係以上に要請される場合にまさに当てはまるということである。被告が述べるように本件契約が実質的には期限の定めのない継続的契約であるという趣旨が,本件契約の継続性をより高める方向に働くのであればまだしも,全く正反対に被告を本件契約の継続性・拘束性から解放させる方向で解釈することはできないはずである。 だからこそ,本件契約3条2項において,「利用者から事業者に対して,契約を終了したいとの申出がない限り」「本件契約と同様の内容で更新します」とされ,本来,事業者からの契約終了の申出は予定されていないのである。 被告の主張は,ホームヘルプサービス契約の性質を全く考慮していないばかりでなく,法解釈上も誤りである。 キ本件契約に付随する信義則上の義務違反被告は原告に対し,ホームヘルプサービス事業を一方的に打ち切ったところ,その態様や打切り後の対応についても,被告において損害賠償責任を負う。 すなわち,まず,ホームヘルプサービス事業打切りについて,本件契約当事者である原告とは一度も,直接の協議さえ行っていない。被告が事業者として事業を継続する責任を負っている直接の対象は原告であるから,ホームヘルプサービス事業を本件契約に定めのない理由で打ち切ろうとするのであれば原告の意見を聞くことは不可欠である。 また,被告は本件契約解除に当たり,平成17年3月末にホームヘルプサービス事業打切りを予定しながら,そのわずか1か月前の同年2月23日になって,初めて原告に対して本件契約解除を通知する,という極めて急な対応を採った。原告にとって,ヘルパーはどんな人が来てもらってもよいというもの を予定しながら,そのわずか1か月前の同年2月23日になって,初めて原告に対して本件契約解除を通知する,という極めて急な対応を採った。原告にとって,ヘルパーはどんな人が来てもらってもよいというものではない。「目の代わり」になって,自分宛のあらゆる郵便物を見せてもよい人かどうか,視覚障害者のことを理解して仕事ができるヘルパーであるか等の事情をよく見極めての契約が必要である。そのための時間が1か月ではとても足りないことは明らかである。 そして,本件契約打切りの後の引継ぎについても,被告はただ事業者名と住所の書いてある紙を渡しただけであり,原告が本件契約と同程度の質のホームヘルプ派遣を受けるための配慮は全く行われなかった。 被告には本件契約に付随して,原告の生活の質がきちんと保たれていくように配慮する信義則上の義務がある。したがって,仮に本件契約を契約外の理由で打ち切るのであれば原告と事前によく協議し,今後原告が必要とするホームヘルパー派遣をうけることができるような準備を被告においても講じなければならない。 しかしながら,以上において述べたとおり,被告はホームヘルプサービス事業を一方的に打ち切り,本件契約を破棄するについて原告に対し,原告の生活の質が本件契約利用時と同じ程度に保たれていくということについて全く配慮しなかった。 この点についても,被告には契約に付随する信義則上の義務違反がある。 ク被告の不法行為責任被告による本件契約の一方的な解除は,単なる債務不履行にとどまらない。それはまず第1に,被告による職員ヘルパー派遣が原告の生活,健康に直結する分野の問題であるからであり,そのために原告は金銭によって填補できない被害を被っている。第2に,一方的に解除したという点が問題になる。本件は,契約が続いている中で契約どおりに職員ヘルパーを派遣し る分野の問題であるからであり,そのために原告は金銭によって填補できない被害を被っている。第2に,一方的に解除したという点が問題になる。本件は,契約が続いている中で契約どおりに職員ヘルパーを派遣しなかったという問題ではなく,被告が契約に定められていない事由により突然契約を打ち切ったというのが本件の債務不履行の内容である。 したがって,被告は債務不履行責任のみならず,併せて本件契約の不当破棄についての不法行為責任を負う。 (被告の主張)ア本件契約16条3号の「やむを得ない理由」による解除(ア) 被告が本件契約を解除したのは,障害者ホームヘルプサービス事業の廃止が,本件契約16条3号の「やむを得ない理由によりサービスを提供することができない場合」に該当するからである。原告は,同号の解釈に当たり,民法161条の解釈が参考になるとするが,同条は,天災等による時効の停止について定めたもので,本件とは明らかに性質が異なる。 (イ) 支援費制度の導入により,被告の障害者福祉サービス提供に関わる公的責任は,サービス自体を提供する責任から,事業の監督,サービス提供体制の基盤整備及び利用の促進など契約によるサービス利用制度の管理責任及び支援費を支給する責任に変化した。 平成15年4月1日からの障害者支援費制度の導入に当たり,被告がホームヘルプサービス事業を継続し,職員ヘルパー制度を存続したのは,民間事業者の参入のめどが立たない状況を勘案し,サービスの提供体制の整備に責任を持つ被告の立場を踏まえ,自ら直接サービスを提供する直営のホームヘルプサービス事業を継続したものである。 (ウ) しかし,その後,民間事業者の数が大幅に増加し,市内のニーズを満たすサービス提供体制が確保されたことに加え,厳しい財政状況下における被告の市政運営の方針として,「民間でできるこ ものである。 (ウ) しかし,その後,民間事業者の数が大幅に増加し,市内のニーズを満たすサービス提供体制が確保されたことに加え,厳しい財政状況下における被告の市政運営の方針として,「民間でできることは民間に委ねる。」,「サービス提供の実施主体については民間活力を積極的に導入する。」といった公的関与の在り方に関する点検指針,行財政改革計画及び定員管理計画等の考え方が採られたこと,さらには行政評価の外部評価において本件ホームヘルプサービス事業は,「民間に委ねるべき」との評価を受けたこと等を総合的に勘案し,平成16年度(平成17年3月31日)をもって,本件ホームヘルプサービス事業を廃止するという政策判断を行ったものである。 (エ) このような政策判断に基づく事業の廃止が,契約違反となり許されないというのは,余りに現実を直視せず,非常識で不当な主張であるといわなければならない。 イ職員ヘルパー制度の存在意義・必要性について(ア) 専門性についてホームヘルプサービス事業を行う者は,基準省令で定める基準を満たした上で指定居宅支援事業者としての指定を受ける必要があり,誰でも参入できるわけではない。 そして,居宅介護は,漫然かつ画一的に提供されることがないよう,個々の利用者の身体その他の状況及びその置かれている環境に応じて適切に提供されなければならず,事業者は,その提供するサービスの質の評価を行い,常にその改善を図らなければならず,さらには,介護技術の進歩に適応した適切なサービスが提供できるよう,常に新しい技術を習得する等研さんを行う必要がある(乙8)。 また,基準省令23条4号には,指定居宅介護事業所の従業者は,「常に利用者の心身の状況,その置かれている環境等の的確な把握に努め,利用者又はその家族に対し,適切な相談及び助言を行う。」とあり, 。 また,基準省令23条4号には,指定居宅介護事業所の従業者は,「常に利用者の心身の状況,その置かれている環境等の的確な把握に努め,利用者又はその家族に対し,適切な相談及び助言を行う。」とあり,まさにケースワークは職員ヘルパーであっても民間事業者のホームヘルパーであっても,等しくその業務の一環といえるのである。 以上のとおり,民間事業者のホームヘルパーの場合,経験を共有・蓄積するためのケースワーク及び研修が行われることはほとんど見込むことはできないとする原告の主張は,失当である。 さらに,指定居宅介護事業者は,居宅介護計画(介護保険制度におけるケアプランに当たるもの)を作成する「サービス提供責任者」を1名以上おかなければならないものとされている(基準省令5条2項)。職員ヘルパーにも,居宅介護計画を作成する者があったと思われるが,それは職員ヘルパー固有の業務ではなく,民間ヘルパーと同様,指定居宅支援事業者の従業員としての業務である。 また,基準省令16条においては,指定居宅介護事業者は,指定居宅介護を提供するに当たって,他の居宅支援事業者等との密接な連携に努めなければならない旨定められている。職員ヘルパーは,職員ヘルパーと民間事業者ヘルパーが複数で対応している利用者について,他の事業者等との密接な連携に努めつつ,ホームヘルプサービスを提供していたが,それは,上述のとおり,指定居宅支援事業者の従業員としての役割であり,職員ヘルパー特有の役割ではない。ホームヘルプサービスの提供は,民間事業者によって派遣されるヘルパーであろうと職員ヘルパーであろうと,基準省令で定める同じ基準の内容で行われることとされており,利用者にとって何ら異なるものではない。 (イ) 公共性について原告の主張する「公共性」は,職員ヘルパーにも民間ヘルパーにも存在する。 と,基準省令で定める同じ基準の内容で行われることとされており,利用者にとって何ら異なるものではない。 (イ) 公共性について原告の主張する「公共性」は,職員ヘルパーにも民間ヘルパーにも存在する。 指定居宅介護事業者は,利用者からの苦情に迅速かつ適切に対応するために,苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置を採らなければならないほか,苦情について,地方公共団体の調査に協力するとともに,地方公共団体から指導又は助言を受けた場合には,当該指導又は助言に従って必要な改善を行わなければならないとされている(基準省令36条,乙8)。 さらに,事業者が法令等に違反したとき,不当に利益を図ったとき,又は事業に係る者(利用者など)を不当に処遇したときは,都道府県知事は,事業の制限又は停止を命ずることができる(身体障害者福祉法40条)とされており,措置制度から契約利用制度に移行するに当たり,障害福祉サービスの質を補償するための措置が整備されている。 民間事業者の個人情報の保護に関する取扱いは,厚生労働省が平成16年11月30日に各都道府県知事,政令指定都市及び中核市市長宛に個人情報の適正な取扱いの確保に関する活動を支援するための指針として「福祉関係事業者における個人情報の適正な取扱いのためのガイドライン」(乙9・以下「指針」という。)を定め,通知した。指針によれば,社会福祉事業を実施する民間事業者は,個人情報の取扱いに当たり,法令,「個人情報の保護に関する基本方針」(平成16年4月2日閣議決定)及び指針に示す項目を遵守しなければならないこととされている。 加えて,従業者に対し,社会福祉事業を実施する民間事業者に課せられた義務として,①就業期間中はもとより離職後も含めた守秘義務を課すなど従業者の個人情報保護に関する規定の整備を行うこと及び②取り る。 加えて,従業者に対し,社会福祉事業を実施する民間事業者に課せられた義務として,①就業期間中はもとより離職後も含めた守秘義務を課すなど従業者の個人情報保護に関する規定の整備を行うこと及び②取り扱う個人データの適切な保護が確保されるよう,従業者に対する教育研修の実施等を行うことが課せられている。 このように,社会福祉分野における民間事業者及びその従業員は,多数の利用者やその家族について,他人が容易には知り得ないような個人情報を詳細に知りうる立場にあることから,個人情報の適正な取扱いを保障する仕組みが整備されているのである。 ホームヘルプサービスの提供に当たる者の資格は,「指定居宅介護及び基準該当居宅介護の提供に当たる者として厚生労働大臣が定めるもの」(平成15年3月24日厚生労働省告示第110号,乙8)において,第1号から第18号にあるように高い知識,技術及び職業倫理を身につけたものでなければならないとされている。 したがって,民間事業者のホームヘルパーに高い職業倫理性を望むことは不可能とする原告の主張は失当である。 (ウ) 人間性(福祉性)について人間性(福祉性)は職員ヘルパーにも民間ヘルパーにもある。 平成15年度の支援費制度への移行により,職員ヘルパーは,平成17年法律123号による改正前の身体障害者福祉法17条の4に規定する指定居宅支援事業者である被告の従業者として,ホームヘルプサービスを提供することとなった。 しかし,近隣住民等からの通報により,要介護認定を受けていないケースや民間事業者との契約が済んでいないケースで,直ちにホームヘルプサービスが必要と認められるケースが発見された場合,人道的・福祉的な観点から,ハンドサービスを行っていた(乙7)。だがそれは,職員ヘルパーとして固有の職責があったわけではなく,社会福祉事務所の ルプサービスが必要と認められるケースが発見された場合,人道的・福祉的な観点から,ハンドサービスを行っていた(乙7)。だがそれは,職員ヘルパーとして固有の職責があったわけではなく,社会福祉事務所の職員の一員として行っていた相談業務の一環である。 ウ付随的な信義則上の義務について(ア) 本件契約は,期限の定めのない継続的契約と実質的に異なるところはなく,このような契約については,信義則上,一定の期間を定めて解約告知を行えば,適法に終了する。 (イ) また,被告は,本件契約解除に当たり,民間事業者にスムーズな移行ができるよう配慮を行っている。 被告は,原告に対し,「区役所のホームヘルプをご利用の皆様へ」と題する書面(甲2)及び事業所一覧表(甲3)を手渡し,点字版もあわせて渡している。事業所一覧表を手渡したのは,支援費制度は契約制度であるため,特定の事業者をあっせんすることは適当でないと判断したからである。しかし,その後,被告は,原告から,事業所一覧表ではどの事業者を選択してよいかどうかの判断ができないという強い要望を受けたため,特段の配慮として,過去の事業者実地指導の折,特に運営が良好であったと認められた4事業者を教示している。 また,被告は,平成17年4月1日以後も,原告が円滑に民間事業者と契約を締結し,その実施するホームヘルプサービスを受けることができるよう,可能な限りの努力をしていた。 (ウ) このように,被告は,契約の解除及びその後のいずれにおいても,可能な限りの誠実な対応を行っているから,原告の信義則上の義務に違反したという主張は不当である。 エ不法行為責任について本件契約解除に何ら違法性はないのであるから,債務不履行責任はもとより,被告が不法行為責任を負うこともない。 (3) 損害及び額(原告の主張)ア慰謝料原告に である。 エ不法行為責任について本件契約解除に何ら違法性はないのであるから,債務不履行責任はもとより,被告が不法行為責任を負うこともない。 (3) 損害及び額(原告の主張)ア慰謝料原告にとって,被告による職員ヘルパー派遣は極めて重要であったにもかかわらず,被告は何らの配慮もなく,契約に定められていない事項によりホームヘルプサービス事業を打ち切った。それにより,原告は生活に著しい支障を来しているのであり,被告には原告に対し,その責任を賠償する責任がある。 また,本件は,これまで述べたような本件契約上の義務及び本件契約に付随する義務に被告が違反したというだけの事件ではない。 「措置から契約へ」のうたい文句の下,導入された支援費制度に基づくホームヘルプサービス事業について,まさにその契約において当事者である原告が選んだ福祉の内容が被告により,契約に定めていない事由によって一方的に打ち切られたということが,原告の契約に対する信頼を大きく裏切った。原告にとって生きていく上で福祉は一生欠かせないものであるのに,このような契約違反によって契約で定めた福祉の内容が勝手に変えられてしまうことができるのだとしたら,原告は一生,安心して生活していくことができない。そのため,原告は甚大な精神的苦痛を被っている(民法709条,710条)。 原告が被告による本件契約打切りによって被った精神的苦痛は金銭に換算することはできないが,あえて換算するに300万円を下ることはない。 イ弁護士費用原告は再三にわたり被告に対し,本件契約打切りに対する契約違反を訴え,今後の対応についての協議などを申し入れてきたが,被告が応じなかったため弁護士を依頼した上で本訴訟を提起せざるを得なかった。 原告が支出した弁護士費用は30万円を下ることはない。 (被告の主張)原告の主張 対応についての協議などを申し入れてきたが,被告が応じなかったため弁護士を依頼した上で本訴訟を提起せざるを得なかった。 原告が支出した弁護士費用は30万円を下ることはない。 (被告の主張)原告の主張は争う。 第3当裁判所の判断 被告のホームヘルプサービス事業廃止の違憲・違法性(1) 憲法25条違反の有無についてア憲法25条は,いわゆる福祉国家の理念に基づき,すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営みうるよう国政を運営すべきこと(1項)並びに社会的立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきこと(2項)を国の責務として宣言したものであるが,同条1項は,国が個々の国民に対して具体的・現実的に右のような義務を有することを規定したものではなく,同条2項によつて国の責務であるとされている社会的立法及び社会的施設の創造拡充により個々の国民の具体的・現実的な生活権が設定充実されてゆくものであると解すべきこと,そして,同条にいう「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは,極めて抽象的・相対的な概念であって,その具体的内容は,その時々における文化の発達の程度,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに,同条の規定の趣旨を現実の立法として具体化するに当たっては,国の財政事情を無視することができず,また,多方面にわたる複雑多様な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするから,同条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は,立法府の広い裁量にゆだねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するに適しない事柄であるというべきである(最高裁昭和23年9月29日大法廷判決・刑集2巻10号1235頁,最 合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するに適しない事柄であるというべきである(最高裁昭和23年9月29日大法廷判決・刑集2巻10号1235頁,最高裁昭和57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁)。 そして,国の立法等に基づき,地方公共団体が行う具体的施策についても,同様に広い裁量が認められるものである。 イこの点,原告は,本件は所得保障ではなく,サービスの提供自体の問題であることから,行政の裁量は所得保障が問題となる場合に比べて狭いものであると主張する。 確かに,高齢者や障害者においては,日常生活において介護を必要とする者も少なからずおり,そのような者においては,介護サービスを受けること自体が,健康で文化的な最低限度の生活を維持するために必要といえることもある。その意味で,介護サービスを受けられることが,生存権保障の一内容となっていることは否定されるものではない。 しかし,所得保障の面から国民の文化的・健康的な最低限度の生活を維持する場面と,(行政が直接提供するかどうかは別として)介護サービスを受けることで国民の文化的・健康的な最低限度の生活を維持する場面とでは,行政が国民の生活を保障するという目的のために人的又は物的財源を割くという意味で違いがあるとはいえない。 そうであるならば,行政における裁量の大きさという意味ではその広狭に違いはないといえる。したがって,原告の上記主張は採用できない。 ウそこで,行政機関としての被告がホームヘルプサービス事業を廃止したことが,その裁量を明らかに逸脱・濫用し,著しく合理性を欠くといえるかどうかを検討する。 (ア) 証拠(乙3の1,2,乙4の1,2,乙5の1ないし3,乙17の1,2)によれば,次の事実が認められる。 A市内においてホームヘ に逸脱・濫用し,著しく合理性を欠くといえるかどうかを検討する。 (ア) 証拠(乙3の1,2,乙4の1,2,乙5の1ないし3,乙17の1,2)によれば,次の事実が認められる。 A市内においてホームヘルプサービス事業を営む民間事業者の数は,平成15年度以後大幅に増加し,平成17年当初において約230に達し,利用者数も平成17年当初において5000人を超えていた。これに対し,被告が実施していたホームヘルプサービス事業は,平成16年度においてヘルパーが32人であり,その利用者数も50名余りであった。 そこで,被告は,A市内の障害者のホームヘルプの需要を満たすだけの民間事業者の数が確保されたと考え,厳しい財政状況下における市政運営の方針として,サービス提供の実施主体については民間活力を積極的に導入するという,行財政改革計画及び定員管理計画等の考え方が採られたこと等を勘案し,平成16年度(平成17年3月31日)をもって,ホームヘルプサービス事業を廃止するという政策判断を行った。 (イ) この点,原告は,職員ヘルパー制度におけるヘルパーと,民間事業者におけるヘルパーとでは,事業の構造的な視点からみて,前者の方が優れていることから,民間事業者のヘルパーが質・量ともに十分であるとの被告の主張は成り立たないと主張し,そのような状況の下で職員ヘルパー制度を廃止したことは被告の行政裁量の逸脱であると主張する。 確かに,証拠(甲15ないし18(枝番含む。)及び原告本人)によれば,原告を含め,被告のホームヘルプサービス事業における職員ヘルパーを利用していた者が職員ヘルパーの対応に満足していたが,一方で,民間事業者のヘルパーの中には,利用者から見て満足のいく対応とはいえない者がいること,民間事業者等アンケートの結果からすると,民間事業者の視覚障害者への対応は,事 ーの対応に満足していたが,一方で,民間事業者のヘルパーの中には,利用者から見て満足のいく対応とはいえない者がいること,民間事業者等アンケートの結果からすると,民間事業者の視覚障害者への対応は,事業者によって異なっていることが認められる。 しかし,証拠(甲18の1ないし16)によれば,民間事業者等アンケートの結果によっても,相当程度の割合の民間事業者が視覚障害者への対応を行い,視覚障害者へのヘルプについてヘルパー間での連絡や意見交換を行っている事業者も一定程度あることが認められ,また,現在の事業所数から考えれば,ヘルパーの数としても著しく不足しているともいい難いし,証拠(乙10の1ないし3)によれば,A市健康福祉局障害施設課が平成17年8月に実施した利用者(障害者)に対するアンケートでは,7割以上が質・量ともに満足又はやや満足との回答をしていることが認められる。 そうすると,民間事業者のホームヘルプサービス事業について,地方公共団体による同事業と比較して,質的な面で構造的に劣っているとは直ちに認められず,利用者において満足しているかどうかは,公的なものか民間のものかという構造的な違いというより,契約している業者や実際に介護に当たっているヘルパー各自の現状での意欲,能力等の個別の事情から生じている面も大きいといわざるを得ない。 (ウ) 上記のような認定事情からすれば,被告において自らがホームヘルプサービスを提供することを廃止し,民間事業者による同サービスを利用してもらい,支援費を支給することにしたことが,著しく裁量を逸脱したと認めることはできない。 したがって,被告がホームヘルプサービス事業を廃止したことが,憲法25条に違反するということまではいえない。 (2) 憲法13条違反の有無について上記(1)認定の事情からすれば,被告がホーム ない。 したがって,被告がホームヘルプサービス事業を廃止したことが,憲法25条に違反するということまではいえない。 (2) 憲法13条違反の有無について上記(1)認定の事情からすれば,被告がホームヘルプサービス事業を廃止したことが,個人としての尊厳を害し,憲法13条に違反する恣意的かつ不合理な措置であるといえないことも明らかであるから,この点に関する原告の主張も採用できない。 (3) 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約について同規約9条は,「この規約の締約国は,社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」と規定しているが,これは締約国において,社会保障についての権利が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,当該権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではない(最高裁平成元年3月2日第一小法廷判決・裁判集民事156号271頁参照)。 したがって,同規約自体に具体的権利性があるとはいえず,原告の権利主張の根拠とはなり得ない。よって,原告の主張を採用することはできない。 (4) 障害者の権利宣言について国際連合第30回総会における障害者の権利宣言は,国際連合ないしその機関の考え方を表明したものであって,加盟国に対して法的拘束力を有するものではない。したがって,同宣言も,原告の権利主張の根拠とはなり得るものではなく,この点についての原告の主張は採用できない。 (5) 地方自治法1条の2について原告は,当該条項に基づいて,被告においてホームヘルプサービス事業を継続すべき義務が生じる旨主張する。しかし,同条は,憲法上の地位を与えられた地方公共団体が広く地域における行政を担うものであるということ は,当該条項に基づいて,被告においてホームヘルプサービス事業を継続すべき義務が生じる旨主張する。しかし,同条は,憲法上の地位を与えられた地方公共団体が広く地域における行政を担うものであるということを宣言的に明らかにするとともに,その趣旨を達成するため,抽象的に国に対して義務を課す規定である。そうであれば,同条を根拠として,被告に原告主張のような義務が認められるということはいえない。 したがって,原告の主張は採用できない。 (6) 障害者基本法,身体障害者福祉法についてさらに,原告は,障害者基本法1条,3条及び4条,並びに身体障害者福祉法3条及び14条の2を根拠として,被告においてホームヘルプサービス事業を継続すべき義務が生じる旨主張する。 しかし,障害者基本法1条及び3条は,障害者福祉における国及び地方公共団体の基本的な理念を述べているに過ぎず,同法4条も,国及び地方公共団体の一般的な責務を定めているにとどまり,個人の具体的権利については他の法律等を通じて実現させる趣旨であると考えられ,同規定から直ちに被告の具体的義務が生じるものと解することはできない。 また,身体障害者福祉法3条及び14条の2も,国及び地方公共団体の一般的な責務や,地方公共団体における障害者支援の体制についての一般的責務を定めたにすぎないのであって,被告が具体的に何らかの福祉政策を実施すべき義務が生ずるものではない。 したがって,原告の主張を採用することはできない。 (7) 小括以上のとおり,被告がホームヘルプサービス事業を廃止したことが,憲法,国際法規及び国内法規に反し違憲・違法であると認めることはできないから,原告のこの点における請求は理由がないと考える。 被告による本件契約解除の効力及び不法行為の成否について(1) 被告による本件契約の解除の有効性について ・違法であると認めることはできないから,原告のこの点における請求は理由がないと考える。 被告による本件契約解除の効力及び不法行為の成否について(1) 被告による本件契約の解除の有効性についてア被告が原告に対し,平成17年2月23日に,同年3月末日をもって本件解約を解除したことが,本件契約16条3号の「天災,災害その他やむを得ない理由によりサービスを提供することができない場合」に該当し,被告の行った解除が有効であるかという点を検討する必要がある。 イところで,本件契約16条3号は,被告に帰責性のない事由によってホームヘルプサービス事業を継続できなくなった場合に,契約を解除することができる旨を定めたものと解すべきである。 なぜなら,被告に帰責性のない事由によって,被告が本件契約に基づく義務を履行できない状態になった場合にも,被告において本件契約を解除できないとなると,被告に対して不可能を強いる結果となるからである。 このことは,社会的弱者保護ということを考慮に入れたとしても同様に考えざるを得ない。 この点,原告は,事業廃止については,本件契約16条3号に明記されていない事情であり,それを理由に解除することはできない旨主張する。 しかし,本件契約16条3号は,やむを得ない理由により事業の継続ができない状況における当事者の解除を定めたものであり,天災,災害というのはあくまでもその例示であって,サービスを提供することができなくなる全ての場合を想定して記載することは事実上不可能である。したがって,事業廃止がその中に記載されていないというだけで,本件契約16条3号の解除事由に該当しないとはいえず,原告の主張を採用することはできない。 また,原告は,本件契約のような場合,雇用契約,賃貸借契約等の継続的契約などと同様に,利用者保護の観点から,契約 約16条3号の解除事由に該当しないとはいえず,原告の主張を採用することはできない。 また,原告は,本件契約のような場合,雇用契約,賃貸借契約等の継続的契約などと同様に,利用者保護の観点から,契約終了事由については厳格に捉える必要があると主張する。 確かに,本件契約は,福祉主義の観点から,被告が実施していたホームヘルプサービス事業に基づき,個別の利用者との間で締結されてきたものであり,利用者の利益を考える必要はある。しかし,本件契約は職員ヘルパー制度という公的な制度を前提として初めて存続し得るものであることも間違いないところである。そのため,契約条項を利用者の側から考えたとしても,本件契約16条3号に明記された事情以外であっても,被告が本件契約を続行できない事情があれば契約解除事由に当たると考える。したがって,この点についても原告の主張を採用することはできない。 ウそこで,被告に帰責性のない事由によって,被告が本件契約に基づく義務を履行できなくなったかどうかについて検討する。 被告が本件契約を解除したのは,被告がホームヘルプサービス事業を廃止したためであり,これ自体は被告の政策的判断によるものであるが,前記1判断のとおり,被告のホームヘルプサービス事業の廃止は,行政の有する裁量の範囲内であり,違憲・違法とはいえないのであるから,その結果,本件契約の前提となる制度そのものが消滅し,被告に帰責性のない事由によって,被告が本件契約に基づく義務を履行できなくなった場合に該当するといえる。 この点について,原告は,ホームヘルプサービス事業を廃止したことが行政裁量として許されても,本件契約上の債務不履行になるか否かは次元の異なる問題である旨主張する。確かに,事業を廃止したこと自体の違法性と,本件契約上の債務不履行になるか否かは,法的には異なる問 が行政裁量として許されても,本件契約上の債務不履行になるか否かは次元の異なる問題である旨主張する。確かに,事業を廃止したこと自体の違法性と,本件契約上の債務不履行になるか否かは,法的には異なる問題であるが,本件契約は,被告がホームヘルプサービス事業を行うことを前提として締結されているものであり,その廃止が違法とはいえない以上,もはや被告が本件契約上の債務を履行することは不可能であり,それは本件契約の解除事由の解釈としても,被告に帰責性のない事由であると解するほかなく,原告の主張は採用できない。 そうすると,本件においては,本件契約16条3号のやむを得ない理由がある場合に当たるというべきである。 エしたがって,本件においては,本件契約16条3号のやむを得ない理由がある場合に当たり,被告には本件契約における債務不履行があるとはいえず,被告による本件契約の解除は有効である。 (2) 付随的義務違反の有無ホームヘルプサービス事業自体についての存廃は飽くまで行政としての被告がその裁量に基づいて判断していくものであるところ,前記のとおり,被告に裁量の逸脱は認められないことから,契約当事者としての被告に,契約を継続させる義務は生じない。 そして,前記のとおり,被告は原告に対し,事前にホームヘルプサービス事業の廃止を連絡して事業者一覧表を渡し,さらに被告が適当であると考える事業者をアドバイスするなど,原告が民間事業者を利用するための対応をしていることを併せ考えれば,被告の対応に信義則上の義務違反があるとまでは認められない。 したがって,原告の主張は採用できない。 (3) 不法行為の成否上記のとおり,被告による本件契約の解除に何ら違法性があるわけではないから,上記解除が不当なものであり,不法行為が成立するとの原告の主張は採用できない。 結論 きない。 (3) 不法行為の成否上記のとおり,被告による本件契約の解除に何ら違法性があるわけではないから,上記解除が不当なものであり,不法行為が成立するとの原告の主張は採用できない。 結論 以上のとおりであり,その余について検討するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官永野圧彦裁判官田邊浩典裁判官奥田大助

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