主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第一請求一原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 二原告が被告の八王子事業所(八王子市<以下略>所在)内技術開発本部開発第三部HIC開発プロジェクトチーム(以下「HICプロジェクトチーム」という。)に勤務する義務のないことを確認する。 三被告が原告に対してなした昭和六三年五月九日付停職処分一か月(同日から同年六月八日まで。以下「本件停職処分」という。)の無効であることを確認する。 四被告は原告に対し、一五〇〇万五〇七二円及びうち二〇四万九八一七円に対する平成元年一月一日から、うち三〇一万九九二三円に対する同二年一月一日から、うち三一四万七九〇五円に対する同三年一月一日から、うち三三二万六三二八円に対する同四年一月一日から、うち三四六万一〇九九円に対する同五年一月一日から各支払済みまで年六分の割合による金員ならびに同五年七月二五日から毎月二五日限り一か月二一万四八〇〇円を各支払え。 五訴訟費用は被告の負担とする。 六四、五項につき仮執行の宣言第二事案の概要本件は、同一部門間における職場の変更を伴う異動命令を受けた既婚女子従業員が通勤時間が長くなって幼児の保育ができなくなり、家庭生活も破壊される等として、これを拒否して長期間出勤しなかったところ、これにより経営秩序が侵害されたとして停職処分及び懲戒解雇処分を受けたので、この各処分はいずれも権利の濫用で無効であるとして、前記のとおりの労働契約上の地位存在確認、異動先での勤務義務不存在確認、停職処分の無効確認及び賃金請求をなした事案である。 一争いのない事実 1 当事者関係(一) 被告は、音響機器・通信機器等の製造販売を目的とする資本金約一〇六億九 、異動先での勤務義務不存在確認、停職処分の無効確認及び賃金請求をなした事案である。 一争いのない事実 1 当事者関係(一) 被告は、音響機器・通信機器等の製造販売を目的とする資本金約一〇六億九四〇〇万円(但し、平成五年八月三一日に約二二二億四〇〇〇万円に増額)、従業員約二〇〇〇名を擁する株式会社である。 (二) 原告は、昭和五〇年七月二一日、被告(但し、当時の社名はトリオ株式会社)に雇用され、同六〇年一月一六日から東京都目黒区<以下略>所在の青葉台ビル内の技術開発本部技術開発部企画室担当として同室において庶務の仕事に従事していた。 2 異動命令原告は、昭和六三年一月二七日、上司である技術開発本部技術開発部企画室室長a(以下「a室長」という。)から同年二月一日でHICプロジェクトチームのHIC(ハイブリット・アイ・シー)の製造ラインに勤務することの内示を受け、同月一日、同室長から右異動の命令(以下「本件異動命令」という。)を受けた。 3 苦情処理委員会に対する苦情申立てと棄却裁定原告は、本件異動命令を受けた昭和六三年二月一日、被告と組合との委員各四名で構成されている苦情処理委員会に苦情の申立てをなしたところ、同月三日、右申立てを棄却するとの裁定通知を受けた。 4 本件停職処分被告は原告に対し、昭和六三年五月六日ころ到達の書面をもって、原告が本件異動命令に従った出勤をせず、このことが経営秩序侵害に該当することを理由に、懲戒規定一六条二号、一二号(同規定一六条は、「次の各号の一に該当する行為をなしたときは、停職処分または解雇処分とする。」とし、その二号は、「正当な理由なく、欠勤継続七労働日以上もしくは一か月に無届欠勤が七労働日以上におよぶとき」と定め、その一二号は、「その他前号各に準ずる程度の不都合な行為のあったとき」と定めている し、その二号は、「正当な理由なく、欠勤継続七労働日以上もしくは一か月に無届欠勤が七労働日以上におよぶとき」と定め、その一二号は、「その他前号各に準ずる程度の不都合な行為のあったとき」と定めている。)により本件停職処分に処した。 5 懲戒解雇処分被告は原告に対し、昭和六三年九月二一日付このころ到達の内容証明郵便書面をもって、原告が本件停職処分期間満了後も本件異動命令に従った出勤をせず、このことが経営秩序侵害に該当することを理由に、右懲戒規定一六条二号、一二号により同月二二日付で懲戒解雇する旨の意思表示(以下「本件懲戒解雇処分」という。)をし、同日以降原告が被告の従業員としての地位を有することを争い、同年四月以降賃金を支給しない。 二争点 1 本件異動命令の効力(一) 原告の主張本件異動命令は権利の濫用で無効である。 (1) 幼児保育の不可能による勤務不可能原告は、本件異動命令発令当時満三歳の長男bを保育園(開園時間は午前七時三〇分から午後六時まで)に預けて勤務(勤務時間は午前九時から午後五時四〇分まで)していた。ところが、本件異動命令に従うこととなると、通勤時間が一時間四五分を上回ることとなり、夫の協力にも勤務の関係上から限度があるし、第三者に保育を依頼するにしても限界があるので、長男bを保育園等に預けて継続して勤務することは明らかに不可能であるし、長男を伴って往復四時間近くを費やして通勤することも不可能である。 このように、原告が本件異動命令に従うこととなると、家庭生活が破壊され、幼児の養育の上でも大きな問題が生じるのである。 原告が転居をすることは現在の生活状況を大きく変えるという重大な不利益を被ることとなるので、転居することによって解決できることではない。 (2) 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子 原告が転居をすることは現在の生活状況を大きく変えるという重大な不利益を被ることとなるので、転居することによって解決できることではない。 (2) 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律(以下「雇用機会均等法」という。)二八条一項(但し、平成三年法第七六号による削除前のもの)の努力義務の過怠の存在雇用機会均等法二条は、職業生活と家庭生活との調和を図るという基本理念を定め、さらに、同法八条、一二条等は、雇用主に対し、女子従業員の子供の養育監護につき配慮すべきことを要請しており、被告は、同法二八条一項により、女子従業員がその乳幼児を保育所等に預ける場合の勤務時間についての配慮努力業務を負っている。 しかるに、被告は、本件異動命令を発令するにつき、原告が幼児を保育所に預けながら勤務をしているという事情を全く考慮しなかったばかりか、調査をもせず、原告がa室長に対し、本件異動命令の内示を受けた際、保育の状況等を説明したにもかかわらず、このことを考慮しようともしなかったのであるから、同法条に違背している。 なお、原告は、昭和五四年一〇月ころ高血圧症を発病し、同六一年五月二一日以降一週間に約一回通院し投薬治療を受けているといった健康状態にあったし、本件異動命令後二男を妊娠したのであるから、これらの点からも八王子事業所に通勤することが不可能であった。 (3) 業務上の必要性の欠如本件命令には業務上の必要性がなかった。 被告は、原告を本件異動命令発令前の職務に従事させておく必要があった反面、HICプロジェクトチームの人員増員の点をみると、そもそもHICプロジェクトチームの人員体制は八名が予定されていたのであって、生産も予測をはるかに上回る実績をあげていたのであり、昭和六三年四月からはさらに人員体制が九名 ームの人員増員の点をみると、そもそもHICプロジェクトチームの人員体制は八名が予定されていたのであって、生産も予測をはるかに上回る実績をあげていたのであり、昭和六三年四月からはさらに人員体制が九名となったのであるから、人員体制の面においては全く問題がなかった。したがって、原告を異動させなければならない業務上の必要性は全くなかった。 (4) 人選自体の不合理性被告が異動対象者を本社地区(原告が通勤していた職場を含む。)に限定する必要がなかったにもかかわらず、限定したこと、子供を養育している既婚女子従業員を長距離通勤を要する遠隔地の職場に配転した例がないこと等からみても、原告を本件異動の対象者として選定した過程自体不合理である。 異動対象者の点からみると、HICの製造ラインの作業は誰にでもできる内容であり、被告が昭和六三年一月一一日に製造経験がなかった派遣社員を同ラインに配置していること等からみても、被告が異動対象者の選定条件とした製造経験を有する者というのはまやかしであり、異動困難な家庭状況にある原告を配置しなければならない業務上の必要性は全くなかった。 (5) 不当な動機・目的の存在仮に本件異動命令に業務上の必要性が在したとしても、本件異動命令は、a室長の不当な動機・目的でなされた。 本件異動命令は、部内異動であるから、人事部の関与は極めて形式的であって、a室長の権限において発令されたのであるが、原告とa室長との関係は、昭和六二年八月三一日に行われた同僚の女子従業員の送別会までは比較的良好に推移していたところ、同送別会が終了した後に、同送別会で騒いだのが原告か右女子従業員かをめぐって争いとなったこと等を契機にして、a室長は原告に退職させるための数々の嫌がらせを続け、本件異動命令もこの嫌がらせないし報復人事の一環としてなされたの 送別会で騒いだのが原告か右女子従業員かをめぐって争いとなったこと等を契機にして、a室長は原告に退職させるための数々の嫌がらせを続け、本件異動命令もこの嫌がらせないし報復人事の一環としてなされたのである。 (二) 被告の主張本件異動命令が権利の濫用で無効であることは争う。 (1) 幼児保育の不可能による勤務不可能について原告が本件異動命令発令当時満三歳の長男bを保育園に預けて勤務していたことは認める。 八王子事業所に通勤するには、通勤経路が複数存在しているだけでなく、時には特急「あずさ二号」を利用することもできた。首都圏における異動については、その通勤所要時間が二時間以内であれば通勤可能というべきであり、長男の保育上格別支障となることはない。原告が通勤その他の事情で負担とするのであれば、転居することによって容易にこれを回避することができた。原告には、転居できない事情が存するのではなく、転居したくないという意思が存在するだけである。つまり、転居について支障となる客観的な事情が存在うるのではなく、転居したくないという主観的な意思が存在するにすぎない。八王子事業所近辺には原告が転居を希望すればそれに相応しい住居が存在していたし、保育園についても、八王子事業所近辺に七つの保育園があり、いずれも転園が可能であり、他の地域から通園するいわゆる「管外保育」の制度及び保育時間を延長する特例保育の制度(通常の保育時間は午前八時三〇分から午後六時までのところを午前七時三〇分から午後六時までとする。)も存在していた。 (2) 雇用機会均等法二八条一項の努力義務の過怠の存在について本件異動命令が雇用機会均等法第二八条一項に違背している、との点は争う。 被告は、同法条に違背したことはない。 被告は、原告の経歴、業務内容、家庭状況等を総合的に検討して本件異 過怠の存在について本件異動命令が雇用機会均等法第二八条一項に違背している、との点は争う。 被告は、同法条に違背したことはない。 被告は、原告の経歴、業務内容、家庭状況等を総合的に検討して本件異動命令を発出したのであって、本件異動命令には何ら違法なところはなく、原告と十分な話し合いをした上で、勤務時間、保育問題、転居問題等につきできる限りの配慮をすることを考えていたのに、原告は、この話し合いに応じる態度を示さなかった。 原告の主張は、現住居からの通勤を前提にしているが、前述したとおり転居によって原告の主張する不利益はすべて解消することができた。 原告が高血圧症に罹患していることは否認する。 原告は、毎週水曜日を自分の日として同僚らと午後一二時ころまで多量の飲酒をしているし、職場における歓送迎会等においても多量の飲酒をしていること等からみて通勤ができないような健康状態ではない。 二男の妊娠は本件異動命令発令後のことであるから、この有効性とは関係がない。 なお、被告にあっては、妊娠中の女子従業員に対し出勤時間等の点において格別の配慮をしている。 (3) 業務上の必要性の欠如について本件異動命令に業務上の必要がなかった、との点は否認する。 被告は、昭和六二年四月ころからHICの量産出荷を継続してきていたが、さらに、同年八月ころから一層の需要が見込まれたので、これに見合う生産計画を具体的に計画していた。この生産計画に対応してHICプロジェクトチームにおいては、男女各四名の配属を予定していたところ、これを充足する人員が予定通りゆかず困惑していた。しかも、右のように同年八月ころから一層の生産計画が見込まれており、これが予測にとどまらず現実化したのである。この結果、同年一〇月には決定的な人員不足となることは明らかとなっており、同六三年一月 た。しかも、右のように同年八月ころから一層の生産計画が見込まれており、これが予測にとどまらず現実化したのである。この結果、同年一〇月には決定的な人員不足となることは明らかとなっており、同六三年一月以降これが現実化したのである。このようなことから、至急にHICプロジェクトチームに製造経験を有する人員を配置する必要に迫られていたのであり、本件異動命令はこの必要性を充たすために行われたのである。 (4) 人選自体の不合理性について原告を本件異動の対象者として選定した過程自体が不合理である、との点は争う。 異動対象者が担当することとなっていた作業内容は誰にでもできる、との点は否認する。 異動対象者の選定基準として製造現場経験者及び年齢四一ないし四二歳までの者としたのであるが、製造現場経験を有する者を選定基準の一つとしたのは、異動対象者が担当することとなっていた作業は、HIC生産工程一二の作業区分のうち七区分であり、これらの作業は易しいものもあるが、やや難しいものもあるから、製造現場経験を有しない者であっては数日の研修期間を設ける必要があり、この研修等のために上司が作業時間を割くことにもなるので、製造現場の経験を有する者とでは大きな相違がある。 右基準に合ったのは原告以外にはいなかった。 (5) 不法な動機・目的の存在について全部否認する。 本件異動命令がa室長との職場における人間関係による等ということは全く理由がない。本件異動命令は、HICプロジェクトチームの課長から増員要請がなされ、八王子事業所の各部内とも異動できる従業員はいなかったので、本社地区(原告の勤務していた職場をも含む。)の女子従業員をも含めて人選した結果、原告がその対象者と決定されたのである。 a室長には、本件異動命令について何らの決定権限がなかったのであり、人事部 、本社地区(原告の勤務していた職場をも含む。)の女子従業員をも含めて人選した結果、原告がその対象者と決定されたのである。 a室長には、本件異動命令について何らの決定権限がなかったのであり、人事部のアシスタントマネージャーから原告を本件異動の対象者とすることについての職場の都合と原告の生活事情について質問を受けたことに対し、業務上支障は生じない旨及び生活上著しく不利益を受けることはない旨答えたに過ぎない。 2 本件停職処分の効力(一) 原告の主張本件停職処分には、手続的及び実体的違法が存するので、無効である。 (1) 手続的違法就業規則五〇条は、「従業員が次の各号の一に該当するときは、別に定める懲戒規定により、これを懲戒する。」と定めている。そして、これを受けた懲戒規定二条は、「従業員の懲戒は懲戒審査委員会(以下「委員会」という。)の審査を経て社長がこれを行う。」と定め、同規定一一条一項は、「委員会が必要と認めた場合または被審査者から申し出があった場合は、被審査者を委員会に出席されて当該事件について陳述させることができる。」と定めており、懲戒事由に該当する行為をした従業員に懲戒審査委員会における意見陳述の機会を保障し、同規定一七条一項は、「従業員に懲戒にあたるような行為があると認めたとき、上司または担当役員は、すみやかにその真相を調査し、次の書類を添え、人事部長を経て社長に上申しなければならない。(1)事実調査(2)当該従業員自筆の顛末書」と定め、同条三項は、「第一項第二号の顛末書は、本人に当該事件の内容を詳記させるものとし、他の者の意見を強制して記述させてはならない。また、本人から委員会における陳述の申し出があった場合は、その理由を記載した陳述届を顛末書に添えて提出させるものとする。」と定め、右従業員の意見陳述の機会を保障して 見を強制して記述させてはならない。また、本人から委員会における陳述の申し出があった場合は、その理由を記載した陳述届を顛末書に添えて提出させるものとする。」と定め、右従業員の意見陳述の機会を保障している。 しかるに、被告は、原告を本件停職処分に処するに際し、原告に右手続的保障を与えなかったから、本件停職処分は、右手続規定に違背した違法な処分である。 (2) 実体的違法本件停職処分は、処分事由なくしてなされた。 原告には、前述したとおり、本件異動命令に従うこととなると受忍限度をはるかに超える不利益が生じたから、本件異動命令を拒否する正当な理由があった。 原告のように未成熟な子供を養育しなが労働する女性には保育権があり、本件異動命令は保育権を侵害してなされた。 (二) 被告の主張(1) 手続的違法について就業規則五〇条及び懲戒規定二条、一一条一項、一七条一項及び三項に原告主張のとおりの定めがあることは認めるが、本件停職処分が右手続規定に違背した違法な処分である、との点は争う。 同規定同条項は、原告に手続的保障を与えているものではなく、原告の主張は、同規定一七条一項を勝手に解釈しているにすぎない。同条一項の添付書類は、その必要に応じて一号の書面若しくは二号の書面のいずれか一方を特別にその双方を必要とするときはその双方を添付させるものである。 原告は、本訴に先立つ仮処分申請事件において詳細な主張をなし、懲戒審査委員会はこれら書面で事情を十分把握しており、改めて原告から事情を聴取する必要はなかったのである。 また、被告は、本件停職処分になすに先立ち原告に懲戒処分の警告を幾度となく発している。 (2) 実体的違法につて本件停職処分が処分事由なくしてされた、との点は否認する。 被告が本件停職処分なした事由は次のとおりである。 就業規則 立ち原告に懲戒処分の警告を幾度となく発している。 (2) 実体的違法につて本件停職処分が処分事由なくしてされた、との点は否認する。 被告が本件停職処分なした事由は次のとおりである。 就業規則三六条一項は、従業員が異動を命ぜられ時は、速やかに異動先に着任すべきことを規定しているので、同条項に従い、原告は、速やかにHICプロジェクトチームに勤務すべき義務を負っていた。しかるに、原告は、昭和六三年三月九日以降は無届欠勤に準ずる行為を継続して就労を拒否し続けた。そこで、被告は原告に対し、同年三月八日付このころ到達の書面と同月三〇日付このころ到達の警告書で出勤を求めたにもかかわらず、原告は、これを無視して出勤しなかったので、前記懲戒規定一六条二号、一二に号により本件停職処分に処した。 3 本件懲戒解雇処分の効力(一) 原告の主張本件懲戒解雇処分は、解雇権の濫用として無効である。 本件は異動命令は、本件停戦処分について述べたとおり無効であり、原告にはこれを拒否する正当の理由が存した。 したがって、原告が無断で欠勤したことを理由としてなされた本件懲戒解雇処分は、就業規則の適用を誤ったものであるから、解雇権の濫用として無効である。 (二) 被告の主張原告は、本件停職処分期間経過後も引き続き欠勤に準じる行為を継続したため、被告は原告に対し、昭和六三年四月二三日、同年七月二七日、出勤するように警告したが、原告は、出勤しなかった。そこで、被告は、原告の無断欠勤に準じる行為の継続が六八日間にも及んだので、同年九月一六日、懲戒審査委員会を開催し、審議の結果、原告の右行為は被告の経営秩序を著しく侵害するものであるとの結論に達し、前記懲戒規定一六条二号、一二号により本件懲戒解雇処分とした。 4 賃金請求権の有無(一) 原告の主張原告は被告に対し、本 、原告の右行為は被告の経営秩序を著しく侵害するものであるとの結論に達し、前記懲戒規定一六条二号、一二号により本件懲戒解雇処分とした。 4 賃金請求権の有無(一) 原告の主張原告は被告に対し、本件異動命令発令前の職場に労務提供している。 したがって、原告は被告に対し、左のとおりの賃金請求権(但し、これに支払済みまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を付帯請求する。)を有する。 (1) 基本給① 昭和六三年四月から平成元年三月まで毎月一六万八〇〇〇円② 平成元年四月から同二年三月まで毎月一七万七一〇〇円③ 同二年四月から同三年三月まで一八万七六〇〇円④ 同三年四月から同四年三月まで毎月一九万八〇〇〇円⑤ 同四年四月から同五年三月まで毎月二〇万七三〇〇円⑥ 同五年四月から毎月二一万四八〇〇円(2) 一時金① 昭和六三年夏期一時金(但し、二八万六九六三円は支給済みなので残額分)九万二六一七円② 同年末一時金四四万五二〇〇円③ 平成元年夏期一時金四四万五二〇〇円④ 同年末一時金四七万六八二三円⑤ 同二年夏期一時金四四万六八二三円⑥ 同年末一時金四八万一三八二円⑦ 同三年夏期一時金四八万一三八二円⑧ 同年末一時金五〇万〇一四八円⑨ 同四年夏期一時金五〇万〇一四八円⑩ 同年末一時金五〇万一二五一円⑪ 同五年夏期一時金五〇万一二五一円(二) 被告の主張賃金の支給日が毎月二五日であることは認めるが、本件停職処分及び本件懲戒解雇処分はいずれも有効であるから、原告にその主張する賃金請求権のあることは否認する。 被告は原告に対し、昭和六三年夏期一時金として二九万五〇八五円を支給した。 原告主張の支給額は雇用保険料等の控除後の金額である。 第三争点に対する判断一本件異動命令の有効性について原告は、本 被告は原告に対し、昭和六三年夏期一時金として二九万五〇八五円を支給した。 原告主張の支給額は雇用保険料等の控除後の金額である。 第三争点に対する判断一本件異動命令の有効性について原告は、本件異動命令は権利の濫用で無効である旨主張するので、以下、原告の主張に沿いながら検討する。 1 幼児保育の不可能による勤務不可能について(一) 現住居から八王子事業所に通勤することの困難性証拠(甲一四、乙七の一及び三一、原告本人の供述)によると、次の事実を認めることができる。 原告は、本件異動命令発令前の企画室勤務当時、夫cと長男b(昭和五九年六月一五日生れ)の三人家族で、少なくとも約五〇分を要して通勤していた。夫cは、いわゆる外資系の通信機器等の輸入及び製造販売会社(所在地は、東京都港区<以下略>にあり、通勤利用駅は営団地下鉄日比谷線広尾駅で、同駅から右会社までは徒歩で約五分にある。通勤所用時間として約四〇分を要していた。)に勤務し、販売のための技術的サポートを仕事とし、勤務時間は午前九時から午後五時四五分まで(但し、残業で遅くなることが多い。)であったが、毎週水曜日の午前八時から米国にある開発部との定例の電話会議があるため、一時間早く出勤しなければならなかった。そして、海内外の出張(機器の故障に対応するための出張の場合は、予め予定されておらず、前日に命令されることが多い。)もあり、本件異動命令発令前一年間の出張は、延べ出張回数一九回で、延べ出張日数は八七日間(うち海外が五九日間)に及んでいる。 長男bの保育園の送迎は、保育園における保育時間は午前七時三〇分から午後六時までであって、水曜日は夫cの出勤時間が早いために原告が保育園に送り、その他の日は夫cが送り、迎えについては、原告の勤務終了時間が午後五時四〇分までなのでできないため、月、 前七時三〇分から午後六時までであって、水曜日は夫cの出勤時間が早いために原告が保育園に送り、その他の日は夫cが送り、迎えについては、原告の勤務終了時間が午後五時四〇分までなのでできないため、月、火、木及び金曜日については一か月一万円でかっての同僚に依頼し、さらに同人に同人の出勤時間間際の午後六時五〇分まで自宅での保育を依頼し、水曜日については、保育園のパート勤務の保母に月一万円で迎えと午後八時までの自宅での保育(含む夕食)とを依頼している。 原告がHICプロジェクトチームに勤務することとなった場合、通勤経路として横浜線経由と中央線経由とがある。始業時間は午前八時五五分であるから、横浜線経由の場合、東急大井町線旗の台駅を午前六時五六分の電車に乗車しなければならず、そのためには自宅から同駅まで徒歩で約一〇分を要するので自宅を同六時四五分に出なければならない。そして、JR横浜線八王子駅着同八時二一分、同駅からは通勤バスと八高線の利用との二通りがあり、通勤バス利用の場合には同駅発同八時二五分に乗車して八王子事業所着は同八時四五分となり、総通勤時間は約二時間を要する。八高線利用の場合には同駅発高崎行同八時三二分、北八王子駅着同八時三七分で、同駅から八王子事業所まで徒歩約三分で、八王子事業所着は同八時四〇分ころとなり、総通勤時間は約一時間五五分を要する。帰宅は、終業時間は午後五時三五分なので、通勤バス利用の場合は同事業所同五時五〇分、八高線利用の場合は北八王子駅発同五時五三分に乗車し、右と略同時間を要し、自宅に到着するのは同七時四〇分ころとなる。中央線経由の場合、旗の台駅発午前七時一二分、五反田駅着同七時一九分、JR同駅発同七時二三分、同新宿駅着同七時三六分、同駅発同七時三八分、同豊田駅着同八時二六分、通勤バス同駅発同八時三〇分、八王子事業所 経由の場合、旗の台駅発午前七時一二分、五反田駅着同七時一九分、JR同駅発同七時二三分、同新宿駅着同七時三六分、同駅発同七時三八分、同豊田駅着同八時二六分、通勤バス同駅発同八時三〇分、八王子事業所着同八時四五分となり、自宅からの総通勤時間としては約一時間四三分を要する。帰宅は、通勤バス同事業所発午後五時五〇分に乗車し、自宅に到着するのは同七時三五分ころとなる。 (二) 転居による通勤の可能性(1) 転居の可能性と転居先住居の確保の容易性証拠(乙七の二ないし四、証人dの証言)によると、次の事実を認めることができる。 八王子事業所の近辺には原告が転居を希望すればそれに相応する月額賃料約七万円の住居が多数存在している。 原告は、転居のできない理由として、夫は通勤時間として四〇ないし五〇分範囲内でなければならないとの考え方をしているとか、家主に恵まれている、長男の友達関係および地域の友人関係を失いたくない、転居してまで通う職場ではない等と供述しているにとどまる。 他方、転居による夫の通勤は、居住地を八王子、豊田、日野、立川の各市と定めた場合、中央線経由で勤務先会社まで約一時間(但し、居宅から乗車駅までの時間を含まない。)である。 (2) 転居による保育園保育の可能性証拠(乙四ないし六及び九、証人dの証言)によると、次の事実を認めることができる。 八王子事業所の所在する八王子市内には同事業所から徒歩約一五分の範囲内に三つの保育園があり、被告の送迎バスを利用して約二〇分の範囲内に一つの保育園があり、同事業所に隣接する日野市ないし同事業所から徒歩で約二〇分の範囲内に一つ、徒歩と路線バスとを利用して約二〇分の範囲内に二つの保育園がそれぞれある。そして、いずれの保育園も転園については継続保育ということから優先的扱いを受けることができ、うち二 で約二〇分の範囲内に一つ、徒歩と路線バスとを利用して約二〇分の範囲内に二つの保育園がそれぞれある。そして、いずれの保育園も転園については継続保育ということから優先的扱いを受けることができ、うち二つの保育園については定員に余裕があり、また、他の地域から通園する、いわゆる「管外保育」の制度もあり、保育時間も通常の保育時間が午前八時三〇分から午後五時までのところを午前七時三〇から午後六時まで延長できる特例保育の制度を設けている保育園もある。 (三) 当裁判所の判断以上の認定事実によると、原告は、本件異動命令発令当時、満三歳の長男を保育しながら夫とともに各別会社に勤務しており、長男の保育については、保育園に入園させており、この送りについては、水曜日は夫の勤務の都合上原告がなし、それ以外の日は夫がなし、迎えと原告が帰宅するまでの間は、月、火、木および金曜日は、原告の元の同僚に依頼しているが、これも同人の勤務の関係で午後六時五〇分までであり、水曜日は、右保育園の保母に依頼し、さらに、同人に午後八時までの自宅での保育(含む夕食)を依頼しているというのである。このような原告の保育の状況からすれば、原告が八王子事業所に通勤するということとなれば、通勤時間は最短時間の中央線経由でも約一時間四三分を要し、このため、出勤は、自宅を午前七時一〇分ころに出なければならず、帰宅は、午後七時三五分ころとなるというのであるから、保育状況に変化がなく、現住居から通勤するという限りにおいては、水曜日に保育園に送ること、月、火、木及び金曜日の午後六時五〇分ころから原告が帰宅する同七時三五分ころまでの保育とができないこととなる。この限りにおいて、原告の主張にも首肯し得る点がないではないが、右の保育のできない時間帯につき、経済的負担を度外視するならば、さらに、第三者に依頼す 同七時三五分ころまでの保育とができないこととなる。この限りにおいて、原告の主張にも首肯し得る点がないではないが、右の保育のできない時間帯につき、経済的負担を度外視するならば、さらに、第三者に依頼することが可能であったのではないかとの疑問があるし、後期認定のとおり、被告は、原告との間で、通勤時間及び保育問題等につき十分話し合ってできる限りの配慮をしようと考えていたというのであるから、いかなる場合にも現住居からの通勤が不可能であったなどということはできない。原告の主張する健康問題も、後述するとおり、この障害事由になるとは認められないし、二男の妊娠も、本件異動命令後のことであるから、この有効性の判断材料とはならない。 以上の点を別としても、原告が八王子事業所近辺に転居をすれば原告の主張する保育問題等は容易に解決することができたといえる。 原告は、転居のできない理由とし、現在の生活状況を変えることは非常な不利益を伴うからである等と主張及び供述するが、なるほど、転居に伴って多少の不利益の伴うことは否定し得ないが、原告の主張及び供述することは転居のできない客観的障害事由ということはできないし、転居先住居の点においても、また、保育園の転園の点においても容易に確保できたというのであるから、被告の従業員であるという立場からすれば、転居という方法によって本件異動命令に協力すべきであったといえる。 原告の供述する夫の通勤時間についても、居住地を八王子、豊田、日野、立川の各市に定めた場合、電車で約一時間(但し、居宅から乗車駅までの時間を含まない。)であるというのであるから、都内及びその周辺の昨今の住宅事情を考慮すれば、右の程度の通勤時間は、格別異を唱える事由とはいえず、これを理由に反対するということは、原告の被告における従業員であるという立場に対する非協 であるから、都内及びその周辺の昨今の住宅事情を考慮すれば、右の程度の通勤時間は、格別異を唱える事由とはいえず、これを理由に反対するということは、原告の被告における従業員であるという立場に対する非協力的な態度であると評されても止むを得ない。 以上のとおりであるから、この点に関する原告の主張は採用しない。 2 雇用機会均等法二八条一項(但し、平成三年法第七六号による改正前のもの。 以下同じ)の努力義務の過怠について雇用機会均等法二八条一項は、女子を雇用している事業主は、女子従業員が育児のために退職しなくてもすむように、育児休業その他の育児に関する便宜の供与をなすよう努めなければならないことを定めているから、被告においても、同条項の趣旨に従い、原告に対し、原告の長男の保育につき、保育園等に預ける場合の勤務時間について配慮しなければならない。 しかし、原告は、本件異動命令に従って八王子事業所において就労していたというなら格別、本件異動命令自体を拒否していたのであるから、同条項の適用される場面とはならず、同条項違背の問題とはならない。 なお、原告は、その主張するような高血圧症に罹患していることを認めることができる(甲七及び八、原告本人の供述)が、このために通勤が困難であると認めることはできないし、二男の妊娠も、本件異動命令後のことであるから、この有効性の判断材料とはならない。 また、原告の主張する保育上の問題点等は格別困難を伴わない転居によって容易に解決することのできたことは前述したとおりであるし、証拠(証人e及び同dの各証言)によれば、被告は、本件異動命令に先立ち、原告の経歴、家庭状況及び通勤時間等を総合的に検討した結果、通勤可能と判断していたが、予想に反して本件異動命令を拒否されたので、事態の打開を図るため、原告との間で、勤務時間、保 件異動命令に先立ち、原告の経歴、家庭状況及び通勤時間等を総合的に検討した結果、通勤可能と判断していたが、予想に反して本件異動命令を拒否されたので、事態の打開を図るため、原告との間で、勤務時間、保育問題及び転居問題等について十分話し合い、できる限りの配慮をしたいと考えていたが、原告は、この話し合いに積極的に応じようとせず、訴訟によって決着を図る姿勢を堅持していたことを認めることができる(但し、原告のこの姿勢の是非を論難しようとするものではない。)。 よって、この点に関する原告の主張は理由がない。 3 業務上の必要性の欠如について証拠(乙一一、証人e、同d及び同fの各証言)によると、次の事実を認めることができる。 (一) HICプロジェクトチーム増員の必要性について被告は、昭和六〇年五月の常務会の決定に従い、新規事業として同六二年三月から被告のカーオーディオ事業本部向けにHICの生産を人員五名で開始した。しかし、同年五月における同年八月から九月にかけての需要見通しが当初の予想を大幅に増加しため、生産計画の変更と人員三名を増員した八名体制とする必要があった。そこで、HICプロジェクトチームの課長f(以下「f課長」という。)は、八王子事業所における総務及び人事に関する業務を担当していた人事部八王子事業所管理室マネージャーd(以下「dマネージャー」という。)に右生産計画変更と人員増員計画とを伝え、増員の人選を依頼した。この依頼を受けたdマネージャーは、八王子事業所内で人選を進めたところ、当時偶々工務グループがコスト高で製造を中止することとなっていたので、同グループに所属していたgを同年六月一日付でHICプロジェクトチームに異動させることができ、六名体制とすることができた。しかし、他の二名の増員については同年八月に至るもなお見通しが立たず、 たので、同グループに所属していたgを同年六月一日付でHICプロジェクトチームに異動させることができ、六名体制とすることができた。しかし、他の二名の増員については同年八月に至るもなお見通しが立たず、このため予定生産量の達成ができないため、支障の生ずるおそれがでてきた。このような状況にあったにもかかわらず、同月における翌六三年一一月までの需要見通しが三倍強に増産することが必要となった。そこで、f課長は、右の需要見込みに対応する生産計画の変更と人員増員計画とを立案し、昭和六二年八月開催のマネージャー会で、右計画とこれを実施するために、同年一一月ころから同六三年一一月ころまでにさらに生産要員二名を加えた一〇名体制としなければならない旨報告するとともに、h技術開発本部開発第三部長にも一〇名体制にするための増員要請を依頼した。 八王子事業所管理室では、右増員要員を同年七月からは同事業所内のカーオーディオ、ホームオーディオの各製造部門のすべての部門にわたって、マネージャーを中心として検討させ、どの部門も人員不足の状況にあったが、カーオーディオ事業部から生産に従事していたi(当時約二〇歳)を同年八月二一日付で、同事業部から生産技術担当のjを同年九月一日付でそれぞれ異動させることができ、八名体制とすることができた。 (二) 増員及び補充要員の必要性しかし、さらに二名の増員が必要であったところ、同年一〇月二〇日ころ、f課長に対し、右iは、貧血症が回復しない、との理由で、右jは、毎日同じ仕事で面白くない、との理由で、それぞれ同年一二月末ころまでに退職する旨の意思を表明し、f課長の慰留にも応じようとしなかった。そこで、f課長はh部長に対し、同年一〇月二〇日ころ、早急に右二名の補充をしないと製造部門に非常な迷惑を掛けることとなるので、補充をして欲しい旨要 思を表明し、f課長の慰留にも応じようとしなかった。そこで、f課長はh部長に対し、同年一〇月二〇日ころ、早急に右二名の補充をしないと製造部門に非常な迷惑を掛けることとなるので、補充をして欲しい旨要請し、また、事前折衝として、右退職の件をdマネージャーに報告し、右二名の補充をしないと重大な支障が生ずるので早急に補充手続を進めて欲しい旨要請するとともに、右の補充要員は即戦力となる者、すなわち、熟練を必要とすることから製造現場経験者でありかつ、目視の検査業務を行うことから年令にして四〇歳未満の者を希望するとの条件を付した。この要請を受けたdマネージャーは、当時、八王子事業所内での補充は非常に困難な状況にあったが、HICの増産のために補充は不可欠であると理解していたので、補充要員の人選を進め、同年一二月二〇日、取りあえずの応援としてホームオーディオの生産に約一七年間携わっていた女子従業員k(当時三〇歳)を配置させることができた。しかし、残る一名の補充については到底見通しの立たない状況にあった。このようなことから、需要を大幅に下回る生産しかできず、関係部門に著しい影響を及ぼし、各部門から苦情が寄せられたので、dマネージャーは、昭和六三年一月一一日、製造経験がなかった派遣社員一名を配置してみたものの、同社員は、同月二九日、退職してしまった。 (三) 当裁判所の判断右認定したところによると、被告のHICの増産の必要性は、当初五名の人員体制で生産を開始したものの、生産開始の間もなくのころから需要が飛躍的に増大したため、生産計画の変更及び増員計画の変更とを昭和六二年五月と同年八月とにせざるを得ず、同年一一月ころから同六三年一一月ころにかけて一〇名体制とすることが必要不可欠であったというのである。しかし、このための要員配置が容易でなかったというのであ 和六二年五月と同年八月とにせざるを得ず、同年一一月ころから同六三年一一月ころにかけて一〇名体制とすることが必要不可欠であったというのである。しかし、このための要員配置が容易でなかったというのであり、しかも、折角配置することのできたi、jの二名が同六二年一二月末ころまでに退職する旨の意思を表示したというのである。この二名の補充は、増員の必要性以上に必要不可欠であったといえる。 したがって、HICプロジェクトチームに人員を増員すること、退職者二名の補充をすることの必要性は極めて大きかったといえる。 したがって、HICプロジェクトチームに人員を増員する必要性はなかった旨の原告の主張は理由がない。 4 人選自体の不合理性について証拠(乙一一、証人e、同d、同f及び同aの各証言)によると、次の事実を認めることができる。 (一) 人選選定基準について人事部は、退職者二名の補充要員の人選基準として、HICプロジェクトチームの要望に沿い、即戦力となる者、すなわち、製造現場経験者であること、年令は四〇歳未満である者とした。製造現場経験者としたのは、この経験のない者では教育期間が必要であるが、この教育のためには人員を割くのが困難な状況にあり、作業するうえでも困難を伴うことからであり、また、年令を四〇歳未満としたのは、目視検査等があるので、老眼等の目の衰えている者では検査等が困難であることによるからである。 なお、右補充要員が担当する予定となっていた作業内容は、HIC生産工程一二の作業区分のうち七区分である。すなわち、①レーザートリミング工程(基板を機械のテーブルに乗せカバーを締めると自動でトレミングする。帰ってきた基板を取り出しケースに入れる。)、②基板分割工程(三インチの基板に溝が入っており、その溝に沿って人手で分割する。)、③端子装着工程( のテーブルに乗せカバーを締めると自動でトレミングする。帰ってきた基板を取り出しケースに入れる。)、②基板分割工程(三インチの基板に溝が入っており、その溝に沿って人手で分割する。)、③端子装着工程(機械のコンベアに分割した基板を乗せる。)、④洗浄工程(洗浄状態を確認しバケットに入れる。)、⑤印刷工程(ロット番号をHICに捺印する。)、⑥外観検査工程(規定に基づき目視による外観検査)、⑦包装工程(導電マット上にHICを整列し箱詰めする。)であり、作業の難易度は、⑤と⑥とがやや難しく、その他は易しい部類に属する。 (二) 人選選定経緯について被告は、人事に関する重要な事項の決裁者及び決裁手続につき、「組織人事決裁規定」を定めており、この定める決裁基準によれば、役職者以外の一般作業員の部門内異動については、部門長が上申し、人事部において立案し、担当役員が調整し、人事部長が決裁することとなっている。 前記認定のとおり、f課長からi、jの退職に伴う二名の要員補充依頼の事前折衝を受けたdマネージャーは、f課長に至急正式な要請手続を経ることを述べるとともに、他のアシスタントマネージャーとともに各部のマネージャーと折衝しながら八王子事業所内で人事記録に基づいて右条件に合った従業員を選定する作業を進めた。しかし、同事業所内において余剰人員はなく、異動可能な人員もなかった。 このように、同事業所内での異動は全く見通しがたたない状況にあったが、同年一一月四日ころ、l人事部長はdマネージャーに対し、右条件に合った女子従業員二名の人選をするように指示したが、dマネージャーはl人事部長に対し、八王子事業所内で二名を選定することは非常に困難であるから本社地区で一名を選定して欲しい旨要請した。この要請を受けたl人事部長は、同年一一月一二日ころ、人事部人事セクションマ ーはl人事部長に対し、八王子事業所内で二名を選定することは非常に困難であるから本社地区で一名を選定して欲しい旨要請した。この要請を受けたl人事部長は、同年一一月一二日ころ、人事部人事セクションマネージャーe(以下「eマネージャー」という。)に対し、補充要員二名のうち一名については八王子事業所において検討するので、他の一名を他の事業所から人選すること、人選に当たっては担当業務から特別の能力を必要としないが、即戦力となる者(製造現場経験者)であること、目視検査等をも含むことから年令四〇歳未満の者であることの指示をした。そこで、eマネージャーは、同日からmアシスタントマネージャー及び人事担当者らをして人選の検討に当らせた。計測器の設計・生産をしていた相模事業所においては人員不足で補充の必要がある状況にあり、無線機の設計・生産をしていた東京事業所においても同事業所の業務を子会社の山形ケンウッドに移管しつつあり、職場に残留している者は必要最小限度の人員しかいなかったため、異動可能者は見当らなかった。このようなことから、人選対象者を本社地区(但し、原告の勤務していた職場をも含む。以下、同じ。)の従業員とすることとせざるを得なかった。そこで、人事部は、本社地区所属の約六〇名の女子従業員の人事記録及び自己申告書(これには異動の希望の有無、異動した場合の障害事項等を記載するようになっていた。)に基づき、同従業員のうちから製造現場経験者及び年齢四〇歳未満までの者を選定したところ、原告のみがこれに該当した。原告は、被告に雇用される前は被告の関連会社で通信機器の製造業務に従事していたことがあり、被告に中途採用者として雇用された後も右製造経験を生かして約七年間に亘り通信機器の製造業務に携わっていたし、年令的にも三四歳であったので、この点からも適任とされたので 造業務に従事していたことがあり、被告に中途採用者として雇用された後も右製造経験を生かして約七年間に亘り通信機器の製造業務に携わっていたし、年令的にも三四歳であったので、この点からも適任とされたのである。そこで、eマネージャーは、さらに原告の通勤時間及び家庭状況等を総合的に検討した結果、家庭生活上の点をも含めて格別支障となるような事情は認められないと判断した。そこで、mアシスタントマネージャーは、同年一二月二日、a室長に原告を異動した場合における業務上の支障の有無、原告の生活上の支障の有無等を確認したところ、a室長は、いずれも支障となる事情は見受けられない旨回答した。 このようなことから、原告を本件異動の対象者として選定し、異動手続を進め、同年一二月二四日、l人事部長は、原告を本件異動対象者と決定し、同六三年一月一四日、n本部長に対し、原告に同年二月一日付をもって本件異動命令を発令するので、その内示をするように依頼し、この依頼をうけた同部長はa室長に対し、同月二六日、原告に対し本件異動命令を内示するよう命じ、この命を受けたa室長は原告に対し、翌二七日、本件異動命令の内示をした。 (三) 当裁判所の判断右認定したところによると、被告がHICプロジェクトチームの補充要員二名の選定基準とした製造現場経験者及び年令四〇歳未満の者ということは、作業内容の点からみて、それ自体に不合理なところはない。 原告の主張する製造経験のない派遣社員については、前記3の(二)で認定したとおり、配置後一八日後に退職してしまっており、証人fの証言によれば、右退職理由は製造経験のなかったことによるのではないかとのことであるが、この真実の理由については本件全証拠によるも明らかではないものの、派遣社員の右配置をもって、原告の主張するように製造現場経験者との基準がまやか 造経験のなかったことによるのではないかとのことであるが、この真実の理由については本件全証拠によるも明らかではないものの、派遣社員の右配置をもって、原告の主張するように製造現場経験者との基準がまやかしであるということはできないし、また、補充要員が担当することとなっていた作業内容は、前記認定したとおり七工程であって、誰でもができる作業であるということはできず、一般的に製造経験を有する者の方がこれを有しない者より戦力となることは経験則上明らかである。 次に、原告は、右補充要員として原告を選定した過程自体不合理である旨主張するが、被告人の人事部担当者は、異動可能者のなかから右選定基準に従い選定作業をしたところ、原告しか該当者がいなかったというのであるから、この点に不合理なところはなく、また、他にこの不合理な点を認めるに足りる証拠もない。 したがって、この点に関する原告の主張も理由がない。 5 不当な動機・目的の存在について原告は、本件人事異動命令は、a室長が原告を退職させるための嫌がらせないし報復人事の一環としてなした旨主張し、原告もこれに沿い、具体的に勤怠届出表の件等数項目に亘り供述をし、本件異動命令は、原告がa室長の陰湿な苛めにもめげずに勤務していたので、最後の手段としてなされた旨供述している。 しかし、前記認定したところによれば、本件人事異動の対象者の選定は、l人事部長の命により人事部において作業をし、同部長において決定したというのであり、しかも、a室長は、本件人事異動に係わる立場になかったのであるから(証人aの証言)、原告の右供述は、証拠(乙一二及び一三、証人aの証言)と対比したとき、原告の単なる主観的感情ないし憶測・誤解に基づいた見解を述べているにすぎないから、にわかには信用できない。 他に、原告の右主張事実を認めるに足りる証 (乙一二及び一三、証人aの証言)と対比したとき、原告の単なる主観的感情ないし憶測・誤解に基づいた見解を述べているにすぎないから、にわかには信用できない。 他に、原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はないから、この点に関する原告の主張も理由がない。 二本件停職処分の有効性について 1 手続的違法について就業規則五〇条及びこれを受けた懲戒規定二条、一一条、一七条には原告の主張するとおりの定めがなされていることは争いがない。 しかし、懲戒規定一一条の定める陳述は、懲戒審査委員会の裁量によってこれをさせるか否かを決定することができ、同規定一七条の定める書類の添付は、上司または担当役員に対する義務を定めたもので、被審査者に対する手続的保障を定めたものではないから、仮に、この添付義務違背があったとしても、本件停職処分の効力には何らの影響を及ぼすことはないと解することができる。 したがって、この点に関する原告の主張も理由がない。 2 実体的違法について前述したところから明らかなとおり、原告は本件異動命令に従うべき義務があったのであり、就業規則三六条一項(乙三三の一)も速やかな着任義務を明記している。 原告の主張する保育権の侵害は、前述した原告と被告との間で勤務時間等についての話し合い、原告の転居等によって容易に解決することができたと考えられるのであるから、これが実体法上認められるか否かを検討するまでもなく、理由がない。 次に、証拠(甲九、乙二〇及び二一、証人d及び同fの各証言)によると、次の事実を認めることができる。 原告は、昭和六三年二月一日、苦情処理委員会に本件人事異動に関し苦情の申立てをした。同委員会は原告から事情を聴取したうえ、申立てを棄却する旨の裁定をし、翌三日、同委員会を代表してe委員が苦情の申立てを棄却する旨の裁定通知書 日、苦情処理委員会に本件人事異動に関し苦情の申立てをした。同委員会は原告から事情を聴取したうえ、申立てを棄却する旨の裁定をし、翌三日、同委員会を代表してe委員が苦情の申立てを棄却する旨の裁定通知書を手渡した。 原告は、苦情処理委員会の棄却裁定後においても有給休暇の届け出をなして欠勤し、同月八日、本件異動命令発令前の職場に出てそれまで使用していた事務机の整理をする等し、翌九日以降有給休暇の届け出をして出勤せず、そして、原告の保有する有給休暇のすべてを取り尽くした同年三月九日以降も欠勤した。そこで、被告は原告に対し、同月八日、同日付書面で、原告から申請された同月九日以降の欠勤については理由がなく認められないこと、これ以上の欠勤を継続すれば相応の処分をせざるを得ない旨を通知したが、原告は、その後も出勤しなかったので、被告は、さらに同月三〇日付このころ到達の警告書と題する書面で、赴任すべき日から既に五六日間に亘って就業規則に違反する重大な義務違反を続けており、このことは重大な経営秩序違反である、また、被告の負担は多大であり、被告の原告に対する懲戒処分に関する猶予にも限界があり、直ちに本件異動命令に従うように警告するので、これをも無視すれば、やむを得ず懲戒処分に踏み切らざるを得ない旨の警告をした。しかし、原告は、これをも無視して出勤しなかった。 そこで、被告は、同年四月二九日、懲戒審査委員会規則に従った懲戒審査委員会を開催して検討のうえ、原告の右行為は正当な理由のない人事異動の拒否及び三六日間の無届け欠勤に準ずる行為に該当するとして、前述の懲戒規定により本件停職処分とした。 右認定したところによると、原告は、有給休暇をすべて取り尽くした後も被告の再三に亘る本件異動命令に従うべき旨の警告を無視して三六日間に亘り欠勤し続け、この結果、被告の経 より本件停職処分とした。 右認定したところによると、原告は、有給休暇をすべて取り尽くした後も被告の再三に亘る本件異動命令に従うべき旨の警告を無視して三六日間に亘り欠勤し続け、この結果、被告の経営秩序に重大な支障を与えたというのである。 そうすると、原告の右行為は、前記懲戒規定一六条二号、一二号に該当することは明らかであり、他に本件停職処分が被告の懲戒権を濫用してなされたことを認めるに足りる証拠もない。 したがって、本件停職処分は有効であり、原告のこの点に関する主張も理由がない。 三本件懲戒解雇処分の有効性について原告は、有効な本件異動命令に従うべき義務を負っていたことは前述したとおりであるところ、証拠(乙二二及び二三、証人d及び同fの各証言)によると、次の事実を認めることができる。 原告は、本件停職処分による停職期間経過後も引き続き欠勤行為を継続したため、被告は原告に対し、同年六月二三日付このころ到達の再警告書と題する書面をもって、停職期間満了後一一日間の無断欠勤を継続しており、本件異動命令に従い直ちに赴任するよう警告する、これを無視すればやむなく重大な決意をもって厳重な処分に踏み切らざるを得ない旨警告したが、原告は、これをも無視して出勤せず、さらに、被告は、同年七月二七日付このころ到達の再々警告書と題する書面をもって、直ちにHICプロジェクトチームに勤務すべきこと、これを無視すれば、被告は、本件停職処分以上の重い処分をもって臨まざるを得ないこと、原告が申請した仮処分事件で主張したこと及び本訴で主張していることと相違する主張があれば同年八月五日までに懲戒審査委員会宛て顛末書として提出すべきこと、同日開催予定の懲戒審査委員会の結論に従い懲戒処分を行うことを警告した。しかし、原告は、この警告にも従わず出勤しなかったので、被告は ば同年八月五日までに懲戒審査委員会宛て顛末書として提出すべきこと、同日開催予定の懲戒審査委員会の結論に従い懲戒処分を行うことを警告した。しかし、原告は、この警告にも従わず出勤しなかったので、被告は、同年九月一六日、懲戒審査委員会を開催し、審議した結果、原告の右行為は被告の経営秩序を著しく侵害するものであるとの結論に達し、本件懲戒解雇処分とした。 右認定したところによると、原告は、本件停職処分期間満了後も被告の二度に亘る出勤命令及びこれを無視した場合の懲戒処分の警告にもかかわらず、これを無視して出勤しなかったというのであり、原告のこの欠勤には正当な理由のないことは前述したところから明らかである。 そうすると、原告の右行為は、前記懲戒規定一六条二号、一二号に該当し、他に本件懲戒解雇処分が懲戒権を濫用してなされたことを認めるに足りる証拠もない。 したがって、本件懲戒解雇処分は有効であり、原告のこの点に関する主張も理由がない。 四結論以上説示したところから明らかなとおり、本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないので、主文のとおり判決する。
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