判決平成14年11月18日神戸地方裁判所平成14年(わ)第872号強盗致傷被告事件 主文 被告人を懲役3年6月に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年(2002年)7月19日午後5時10分ころ,兵庫県伊丹市ab丁目c番地所在の株式会社A・ドラッグストア「BC店」前売場において,同所の棚に陳列してあった同店店長D管理にかかる缶ビール1箱(販売価格3980円相当)を窃取して同店前駐車場に駐車中の普通乗用自動車(軽四)に積み込み,逃走しようとしたところ,これを認めた同店店員E(当時28歳)に同車の前方に立ちふさがれたことから,同人に逮捕されるのを免れるため,同車を発進させて同車前部を同人の両膝付近に衝突させ,さらに,同車のワイパーの辺りにしがみつくなどしてボンネットの上に乗ってきた同人を乗せたまま,同車を同店前路上まで走行させる暴行を加え,よって,上記暴行により,同人に加療約7日間を要する両膝挫傷の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明等) 1 弁護人は,本件自動車の動き出す前に被害者が自分からボンネットの上に乗ってきたものであって,被告人が本件自動車を被害者の両膝付近に衝突させたことはなく,被告人が本件自動車を発進走行させたのは,自らが逃走するためであって,被害者に対して積極的に暴行を加えたわけではないから,被告人が本件自動車を発進走行させた行為は事後強盗罪における暴行に当たらないし,また,被害者の負った傷害がいつどのようにしてできたのか不明であって,その程度も軽微であるから,被害者の負った傷害は事後強盗致傷罪における傷害に当たらな た行為は事後強盗罪における暴行に当たらないし,また,被害者の負った傷害がいつどのようにしてできたのか不明であって,その程度も軽微であるから,被害者の負った傷害は事後強盗致傷罪における傷害に当たらない旨主張するので,当裁判所が前示のとおり認定判断した理由について,以下補足して説明する。 2(1) 被害者であるEの検察官調書(甲4)(以下「被害者供述」という。)は,「私が本件自動車の前30センチメートルくらいのところに立ちはだかって,止まっているように言ったり合図したりしているにもかかわらず,被告人がエンジンをかけて本件自動車をゆっくりと前進させてきたので,バンパーの辺りが私の膝の辺りにドンと強く当たり,『イタッ』と思わず声が出て後ろにふらついた。被告人がなおもゆっくりと本件自動車を前進させるので,轢かれると思い,ワイパーの辺りを掴んでボンネットの上に上半身を預けるようにし,更にほふく前進するようにして上によじ登り,『泥棒』などと大声で叫んだが,被告人は自転車の走るくらいのスピードで私を乗せたまま道路を走行した。」旨いうのである。 この被害者供述は,本件自動車が発進しないようにその直前に立ちはだかっていたのに,被告人が本件自動車を前進させてきたため,衝突されて轢かれそうになった状況等を具体的かつ迫真的に述べるものであって,内容も合理的であり,そこに特に不自然な点は見当たらないこと,そのいうところは,警察官作成の現行犯人逮捕手続書(甲1)や被害者作成の被害届(甲2)の内容からみて,本件当日から一貫しているといい得ること,また,医師F作成の診断書(甲3)及び警察官作成の写真撮影報告書(甲5,6)によれば,被害者は本件当日に両膝挫傷の傷害を負っていることが認められるところ,警察官作成の実況見分調書(甲18)によれば,被害者が本件当時の体 書(甲3)及び警察官作成の写真撮影報告書(甲5,6)によれば,被害者は本件当日に両膝挫傷の傷害を負っていることが認められるところ,警察官作成の実況見分調書(甲18)によれば,被害者が本件当時の体勢を取ったときに,その受傷部位が本件車両のバンパーの位置と一致していることが認められ,被害者供述は客観的な証拠によっても裏付けられていることなどを考え併せると,上記の被害者供述は十分信用に値するということができる。 (2) これに対し,被告人の当公判廷における供述及びその検察官調書(乙11)(以下「被告人の公判供述等」という。)は,「私が本件自動車を発進させて被害者に捕まらないようにしようと思い,エンジンをかけたところ,被害者がボンネットの上に膝をそろえて座るような姿勢で飛び乗ってきたので,被害者をボンネットの上に乗せたまま本件自動車を発進させ走行したが,被害者に本件自動車を衝突させたことはない。」旨いうのである。 しかしながら,被告人は,本件当日やその翌日の警察官に対する弁解録取書(乙14,15)では,被害者に本件自動車を衝突させたことを認めていたが,警察官調書(乙8)では,被告人が本件自動車を動かした時に,被害者がボンネットの上に飛び乗ってきたので,被害者に本件自動車を衝突させていないと思う旨供述を変え,被告人の公判供述等では上記のように更に微妙に供述を変化させているのであって,被告人の公判供述等のいうところは,当初からの一貫した供述ではなく,次第に自己に有利な方向に変遷させた上でなされたものであること,被告人の公判供述等によれば,まだ本件自動車を発進してもいないうちに,被害者が,本件自動車の前に立ちふさがるだけでなく,そのボンネットの上に飛び乗ったということになるのであるが,本件自動車のボンネットにはかなりの角度がついていて だ本件自動車を発進してもいないうちに,被害者が,本件自動車の前に立ちふさがるだけでなく,そのボンネットの上に飛び乗ったということになるのであるが,本件自動車のボンネットにはかなりの角度がついていて,その上に乗っていることが容易ではないと思われることからすると,被害者がその段階でボンネットの上に乗ったというのは考え難いこと,また,本件自動車の発進を妨げるためにボンネットの上に乗ることがあり得るとしても,足はバンパーに乗せるなどして乗るのではないかと思われ,被告人の公判供述等がいう膝をそろえて座るような姿勢で飛び乗るというのはいかにも不自然であること,そして,本件自動車のボンネットの上には被害者が飛び乗ったときについたと思われるような顕著な痕跡も認められないことなどを総合して考えると,上記の被告人の公判供述等をそのまま信用するわけにはいかない。 (3) してみると,上記の被害者供述のいうとおり,被害者が,本件自動車の前30センチメートルくらいのところに立ちはだかって,止まっているように言ったり合図したりしているにもかかわらず,被告人は,エンジンをかけて本件自動車をゆっくりと前進させ,そのバンパーの辺りを被害者の膝の辺りに衝突させた上,なおもゆっくりと本件自動車を前進させ,ワイパーの辺りにしがみつくなどしてボンネットの上に乗ってきた被害者を乗せたまま走行したものと認めることができる。 3 上記認定の事実によれば,被告人が本件自動車を発進走行させたのは,自ら逃走するためだけの行為に止まらず,被告人を逮捕しようとする被害者に対する積極的な暴行であるともいうべきところ,事後強盗罪における逮捕を免れるための暴行といい得るためには,逮捕者の逮捕遂行の意思を制圧するに足りるものであって,強盗罪における暴行と同程度のものでなければならないことは,弁護人 もいうべきところ,事後強盗罪における逮捕を免れるための暴行といい得るためには,逮捕者の逮捕遂行の意思を制圧するに足りるものであって,強盗罪における暴行と同程度のものでなければならないことは,弁護人の主張するとおりであるけれども,被告人は,被害者が本件自動車の前30センチメートルくらいのところに立ちはだかっているにもかかわらず,本件自動車をゆっくりと前進させ,そのバンパーの辺りを被害者の膝の辺りに衝突させた上,なおもゆっくりと本件自動車を前進させ,ワイパーの辺りにしがみつくなどしてボンネットの上に乗ってきた被害者を乗せたまま道路上に出て合計30メートル以上にわたって走行したものであって,本件自動車の速度がゆっくりとしたものであり,また走行距離も短かかったとしても,軽装かつ素手の被害者にとって,本件自動車を停止させることは物理的に不可能であり,むしろ,本件自動車に轢過されたり,本件自動車から転落したりして,傷害を負う危険性も小さくなかったのであるから,被告人の前記のような暴行は,逮捕者による逮捕行為の継続を不可能にし,逮捕者の逮捕遂行の意思を制圧するに足りる行為であるというべきであって,事後強盗罪における暴行に当たることが明かである。 4 また,上記認定の事実によれば,被害者の負った傷害は,被告人が本件自動車を被害者の膝付近に衝突させた際に生じたものと認めるのが相当なところ,その傷害は,なるほど比較的軽微なものではあるけれども,関係各証拠によれば,被害者は,受傷後約4時間後から両膝が痛み出し,左膝の少し内側の部分がはれてきていたので,病院に行き,加療約7日間を要する両膝挫傷との診断を受け,外用剤(湿布薬)と内服剤(2日分)を処方してもらったこと,被害者は,これらを使用したほか,外用剤(湿布薬)についてはその他のものも含めて受傷後1週間くら 加療約7日間を要する両膝挫傷との診断を受け,外用剤(湿布薬)と内服剤(2日分)を処方してもらったこと,被害者は,これらを使用したほか,外用剤(湿布薬)についてはその他のものも含めて受傷後1週間くらいは使用し続けていたこと,本件の翌日には被害者の左膝の内側にはやや黒ずんだ痕が認められ,また,本件の1週間後にもまだ圧痛が残っていたことが認められるのであるから,これが強盗致傷罪における傷害に当たることも明らかである。 5 以上のとおりであるから,被告人には判示のとおりの強盗致傷罪の成立を認めることができる。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法240条前段に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択し,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で,被告人を懲役3年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,ドラッグストアにおいて缶ビール1箱を盗んだ上,自動車で逃走しようとして,被害者に自車の前方に立ちふさがれたことから,逮捕を免れるため,判示のとおりの暴行を加えて傷害を負わせたという強盗致傷の事案である。 被告人は,缶ビールが店外に置かれていて店員の目が届かず盗みやすかったことから,缶ビール1箱を盗み出した上,これを被害者に発見されると,捕まらないように逃走しようと考えて,判示の犯行に及んだものであって,犯行の動機は,自己の欲望や保身を優先させた身勝手なものであるから,酌量の余地に乏しいこと,被告人は,軽装で素手の被害者が自動車の直前に立っていることを認識しながら,自動車を前進させて被害者に衝突させ,さらに,身の危険を感じてボンネットの上に飛び乗った被害 から,酌量の余地に乏しいこと,被告人は,軽装で素手の被害者が自動車の直前に立っていることを認識しながら,自動車を前進させて被害者に衝突させ,さらに,身の危険を感じてボンネットの上に飛び乗った被害者を乗せたまま,30メートル以上にわたって走行しているのであって,犯行態様は,被害者の生命身体を害する危険を伴う悪質なものであること,被害者は,商品を盗まれた上,自動車を衝突させられて傷害を負わされ,ボンネットの上に乗ったまま自動車を走行させられる危険な目に遭ったものであって,その被害感情には厳しいものがあること,被告人は,平成9年12月と平成11年4月に窃盗で検挙された前歴があるにもかかわらず,同種犯行に及んでいるのであって,安易に窃盗に及ぶ傾向が窺えること,自己の刑事責任を軽減するため,不合理な弁解を述べていることなどを考え併せると,その犯情はよくなく,被告人の刑事責任は軽くないといわざるを得ない。 しかしながら,窃取された被害品は販売価格3980円のものであって,被害額は小さく,しかもその被害品は被害店舗に還付されていること,被害者の負った傷害の程度は幸いにして比較的軽微であること,被告人が自動車を走行させた速度はゆっくりであり,その走行距離は短く,しかも危険を感じて自発的に停止させているのであって,その暴行の程度は高いものではないこと,被告人は事実を一部争っているものの,本件を犯したこと自体については反省していること,被告人の元夫の姉が被告人の今後の監督を誓っていること,被告人には幼い2人の子供がおり,その養育に当たるべき立場にあること,被告人はまだ26歳と若年であって,これまで前科はなく,今後の更生も期待できることなどの,被告人のために酌むべき事情もまた認められるので,酌量減軽の上,主文の刑に処するに止めることにする。 (検察官の科 人はまだ26歳と若年であって,これまで前科はなく,今後の更生も期待できることなどの,被告人のために酌むべき事情もまた認められるので,酌量減軽の上,主文の刑に処するに止めることにする。 (検察官の科刑意見懲役7年)よって,主文のとおり判決する。 平成14年11月18日神戸地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官森岡安廣裁判官前田昌宏裁判官伏見尚子
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