主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人が平成15年4月16日付け15文第21号で行った宗教法人「天理教豊文分教会」の規則変更認証処分を取り消す。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人主文第1項と同旨第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,控訴人の被包括宗教法人であった天理教豊文分教会が,被包括関係を廃止し,その後名称を「天理教豊文教会」とする旨を含む規則変更の認証申請(以下「本件認証申請」という。)をし,被控訴人がこれを認証する処分(以下「本件処分」という。)をしたところ,控訴人が,①上記「天理教豊文教会」という名称の一部に控訴人の名称を用いることを認めることとなる上記規則変更は,控訴人の人格権を侵害し,また,不正競争防止法2条1項1号,2号に違反するものであるから,宗教法人法28条1項1号が規定する「その変更しようとする事項がこの法律その他の法令の規定に適合」しているとの要件が具備されていないこと,また,②上記規則変更は,天理教豊文分教会の法人規則(以下「旧規則」ともいう。)28条が規則変更に際し要求している「天理教甲府大教会代表役員の同意」を得ていないから,宗教法人法28条1項2号が規定する「その変更の手続が第26条の規定に従ってなされていること」という規則変更認証の要件が具備されていないことから,これらを看過してなされた本件処分は違法であると主張して,その取消しを求める事案である。 原審は,控訴人の上記①,②の主張を排斥し,控訴人の請求を棄却したとこ の要件が具備されていないことから,これらを看過してなされた本件処分は違法であると主張して,その取消しを求める事案である。 原審は,控訴人の上記①,②の主張を排斥し,控訴人の請求を棄却したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。 2 基礎となる事実本件における判断の基礎となる事実は,原判決5頁9行目の「所轄庁は,」の次に「認証の申請を受理した場合においては,」と加えるほか,原判決事実及び理由の「第2 事案の概要」欄の2項に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 争点及びこれに関する当事者の主張本件の争点及びこれに対する当事者の主張は,次項に控訴人の当審における補足的主張を付加するほか,原判決事実及び理由の「第3 争点」欄及び「第4争点に対する当事者の主張」欄に各記載のとおりであるから,これを引用する。 4 控訴人の当審における補足的主張(1) 原判決は,宗教法人の規則変更に係る所轄庁の審査義務の範囲は,受理した規則及び添付書類に基づく形式的審査の範囲にとどまるとし,所轄庁たる被控訴人には人格権侵害又は不正競争防止法違反を基礎づける事実につき審査すべき義務はないと判示するが,所轄庁たる被控訴人の審査権限は,「審査資料」の範囲については形式的審査主義が妥当するといえるものの,「審査の対象」については実質的審査主義が妥当するものであるから,上記原判決の判断は誤っている。 そして,本件認証申請については,①天理教の名称の著名性は公知の事実であること,②本件認証申請に係る規則変更後の法人名称が「天理教豊文教会」であることは申請書類上明らかであること,③「天理教」と「天理教豊文教会」の名称が類似していることは,名称自体の比較から明らかであること,④被控訴人が所轄する宗教法人数は平成14年12月31日 会」であることは申請書類上明らかであること,③「天理教」と「天理教豊文教会」の名称が類似していることは,名称自体の比較から明らかであること,④被控訴人が所轄する宗教法人数は平成14年12月31日現在で4422法人であるところ,うち「天理教」の名称を冠する宗教法人数は237法人(被控訴人所轄宗教法人の約5.4パーセント)に上り,その全てが控訴人の被包括法人であって,被控訴人所轄の宗教法人のなかに控訴人と無関係でありながら天理教の名称を使用する例のないことを,被控訴人は当然把握していたこと,等の事実があることを考慮すると,本件は,被控訴人において,本件認証申請に係る規則の内容が法令(特に不正競争防止法)に違反する疑いが濃いことを当然に認識すべき事案である。 しかして,被控訴人においては,宗教法人法27条に基づき提出された書類について,その証明している事実の存否に理由がある疑いを持つ場合には,その疑いを解明するための調査を行う,との審査基準を設定していたのであるから,上記①ないし④の事情を踏まえれば,本件認証申請については,上記「疑いを解明するための調査」を行う必要があるところ,本件においては,本件処分に先立ち,控訴人から被控訴人に対し,本件認証申請に係る変更後の規則における法人の名称に「天理教」と類似の表示が使用されている場合は人格権侵害及び不正競争防止法違反があるから,規則変更を認証できない旨の決定をしてほしいという趣旨の申し入れを,詳細な理由を付した申入書(甲23)を提出して行っているという事情がある。 そうすると,本件認証申請に係る規則の内容が宗教法人法28条1項1号の要件を具備していないことは明らかであり,被控訴人としては,天理教豊文教会の「天理教」の名称使用を控訴人が許諾する余地がないことは控訴人提出の申入書 申請に係る規則の内容が宗教法人法28条1項1号の要件を具備していないことは明らかであり,被控訴人としては,天理教豊文教会の「天理教」の名称使用を控訴人が許諾する余地がないことは控訴人提出の申入書によって知悉しており,それゆえ,本件認証申請に係る規則の内容が同法28条1項1号の要件を備えていないとの判断をすることは容易であった。したがって,本件処分は,同法28条1項1号の要件を具備していない規則の変更を認証したものであり,違法である。 (2) 原判決は,本件処分前の天理教豊文分教会の法人規則(旧規則)28条が要求する規則変更の際の天理教甲府大教会代表役員の同意について,宗教法人法26条1項後段の趣旨から,本件認証申請については不要である旨判示するが,宗教法人法26条1項後段の規定は,それぞれの信教の自由が衝突し教義上の利害が鋭く対立する被包括宗教法人と包括宗教法人との間を調整する規定として厳格に解すべきであり,みだりに拡張解釈ないし類推解釈することは許されないのであり,天理教甲府大教会が控訴人とは別個の法人格を有する宗教法人であり,その代表役員の同意は控訴人の下部行政機関の同意と同視することはできないこと等からすれば,原判決の安易な判断は,それ自体,宗教上の結社の自由(憲法20条1項)を侵害するものとして,違憲の誹りを免れない不当なものである。 第3 当裁判所の判断 1 被控訴人(所轄庁)の審査義務の範囲について宗教法人法28条1項は,規則の変更の認証申請を受理した場合は,同法14条1項の規定に準じ当該規則の変更に関する決定をしなければならない旨を規定するが,そもそも宗教法人の設立に関して同法14条1項のような規定が設けられたのは,宗教法人が法人格を取得するにあたり,所轄庁が審査に名を借り,宗教団体の宗教活動又は宗教上の結 ればならない旨を規定するが,そもそも宗教法人の設立に関して同法14条1項のような規定が設けられたのは,宗教法人が法人格を取得するにあたり,所轄庁が審査に名を借り,宗教団体の宗教活動又は宗教上の結社の自由に干渉したり,これを侵害するなどのことがあってはならないためであって,同法13条によって認証申請書及び規則その他同条各号所定の書類を添付することが求められていることにかんがみれば,所轄庁としては,受理した規則及びその添付書類の記載によって,当該申請に係る事案が同法14条1項各号所定の要件を具備しているかどうかについての審査をすれば足りると解するのが相当である。 このことは,同法14条1項の規定に準じるとされている規則の変更の認証の場合も同様であり,当該申請に係る事案が同法28条1項各号所定の要件を具備しているかどうかを,受理した規則及び添付書類の記載によって審査すれば足りると解すべきである。もちろん,所轄庁の審査は,宗教法人として組織上の要件等を具備しているか否かの観点から審査するものであるから,これらの添付書類が証明しようとする事実の真実の存在を肯首させるに足りる適切な文書でなければならないのは当然のことであって,仮に証明しようとする事実が虚偽であることを所轄庁が知っていた場合や証明しようとする事実の存在に所轄庁が理由ある疑いを持つ場合には,単に形式的に証明文言の記載のある文書が調っているだけでは足りないというべきであり,所轄庁としては,当該申請に係る事案が同法28条1項各号に掲げる要件を備えているかどうかを判断するのに必要な限度で,添付書類の記載内容を超えて実質的な審査をすることは可能ではあるが,そのような特別な事情がない限り,所轄庁には,受理した規則及びその添付書類の記載以外の事項までも審査する義務まではないというべき ,添付書類の記載内容を超えて実質的な審査をすることは可能ではあるが,そのような特別な事情がない限り,所轄庁には,受理した規則及びその添付書類の記載以外の事項までも審査する義務まではないというべきである。 そして,同法28条1項は,規則の変更の認証の要件の一つとして,その変更しようとしている事項が宗教法人法その他の法令の規定に適合していること(1号)を挙げているが,その趣旨は,設立に当たって同法14条1項2号の要件の具備の審査を経て規則の認証を受けながら,設立後に規則を変更することにより,法人格を付与する宗教団体としては適切でない程度に不備で法令に違反するような規則をもつ宗教法人が出現するのを排除することにあると解される。したがって,全ての法令について法令違反の疑いがあるというだけで,同法28条1項1号所定の要件を具備していないとして,その規則の変更の認証を拒否することは,所轄庁が審査に名を借り,宗教団体の宗教活動又は宗教上の結社の自由に干渉したり,これを侵害するという事態を招くおそれがあり,制度の趣旨に反することになるし,また,そのために当該規則の法適合性を全ての法令について厳格に審査しなければならないとすることも,所轄庁にあらゆる法令の調査や解釈を要求するものであり,不可能を強いるものであるから,法令適合性の審査の対象となる法令には自ずと限界があってしかるべきである。 2 争点1(宗教法人法28条1項1号の要件該当性)について控訴人は,天理教豊文分教会が控訴人との被包括関係廃止後もその名称の一部に控訴人の名称を使用することは,控訴人の人格権を侵害し,不正競争防止法2条1項1号,2号に違反する違法なものであり,その違法性は本件認証申請に係る申請書類等から明らかであるから,本件処分は,宗教法人法28条1項1号の要件 ことは,控訴人の人格権を侵害し,不正競争防止法2条1項1号,2号に違反する違法なものであり,その違法性は本件認証申請に係る申請書類等から明らかであるから,本件処分は,宗教法人法28条1項1号の要件を備えない規則の変更を認証したものとして違法である旨主張する。 しかし,不正競争防止法2条1項1号及び2号所定の不正競争は,対等な営業者間の競争が存在することを前提として,その中の不公正な競争のあり方を規制することを目的としているところ,本件のような,宗教法人法26条1項後段所定の宗教法人が被包括関係を廃止しようとする場合に,規則の変更についての同法28条1項1号所定の要件の審査において,不正競争防止法2条1項1号,2号該当を理由に規則の変更の認証をしないことは,被包括関係を廃止しようとする宗教法人と包括宗教法人団体との間の対等な競争関係の成立を許さない結果を生ずるのであって,対等な営業者間の競争が存在することを前提とする不正競争防止法が予定した以上の効果を生ずることになり適切でない。規則の変更の効果が生じた後に,控訴人が現に行っているように,営業者間の(例えば,包括宗教団体と被包括関係を廃止した宗教法人との間の)不正競争防止法に基づく訴訟で争えば足りるものと解される。 また,宗教団体の名称と同一あるいは類似する名称を他の団体,とりわけ宗教団体に使用されない利益(自然人でない控訴人が本件において人格権と主張するのは要するにこのような利益を指すものと解される。)は法的に保護される場合があるものではあるけれども,宗教団体の名称は教義,宗教上の理念,信条を端的に表現するものとして,それらと深くかかわるものであり,とりわけ,本件のような宗教法人法26条1項後段所定の宗教法人が被包括関係を廃止しようとする場合に,宗教法人の規則の ,宗教上の理念,信条を端的に表現するものとして,それらと深くかかわるものであり,とりわけ,本件のような宗教法人法26条1項後段所定の宗教法人が被包括関係を廃止しようとする場合に,宗教法人の規則の変更についての同法28条1項1号所定の要件の具備の審査に当たって,上記の意味での宗教団体がその名称について有する利益を考慮し,被包括関係の廃止を含む規則の審査の認証をしないことは,信教の自由,信教に関する結社の自由に及ぼす影響が大であることにかんがみ,他の宗教団体がその名称について有する利益の侵害が明白である場合に限り,法令の規定に適合しているとはいえないものと解するのが相当である。 確かに,本件認証申請に係る規則の変更は,控訴人との被包括関係廃止後の名称を「天理教豊文教会」とするもので,その名称の一部に控訴人の名称が使用されているものではある。しかしながら,このような名称使用が明白に法令に適合しないということはできない。 そうすると,控訴人と天理教豊文分教会の間において,民事的に同一又は類似の名称の使用による控訴人の利益の侵害又は不正競争防止法違反の問題が争われる余地があるとしても,本件認証申請は宗教法人法28条1項1号の要件を具備しているものといわざるを得ない。 したがって,上記控訴人の主張は理由がない。 3 争点2(宗教法人法28条1項2号の要件該当性)について控訴人は,本件認証申請は,本件処分前の天理教豊文分教会の法人規則(旧規則)28条により要求されている「天理教甲府大教会代表役員の同意」を得ることなくなされたものであるから,本件処分は,宗教法人法28条1項2号に定める「その変更の手続が第26条の規定に従ってなされていること」という要件を具備しない規則の変更 大教会代表役員の同意」を得ることなくなされたものであるから,本件処分は,宗教法人法28条1項2号に定める「その変更の手続が第26条の規定に従ってなされていること」という要件を具備しない規則の変更を認証したものであり,違法である旨主張する。 ところで,宗教法人法26条1項は,前段において,宗教法人は,規則を変更しようとするときは,規則で定めるところによりその変更のための手続をし,その規則の変更について所轄庁の認証を受けなければならないとし,後段において,宗教法人が被包括関係の廃止をしようとするときは,当該関係の廃止に係る規則の変更に関し,当該宗教法人の規則中に当該宗教法人を包括する宗教団体が一定の権限を有する旨の定めがある場合でも,その権限に関する規則の規定によることを要しないと定めている。上記後段は,被包括関係の廃止は,信教の自由の原則に内在する宗教団体結成の自由及びその活動の自由に関わる事柄であることから,これに関する当該宗教法人の意思を包括宗教団体が拘束すべきではないという趣旨に基づくものである。 そして,前記引用に係る原判決「基礎となる事実」(4)のとおり,天理教甲府大教会は,控訴人の被包括宗教法人であるから,いわば控訴人の構成員として控訴人の規範に拘束される関係にあり,実際に,天理教甲府大教会の規則(甲22)中に,控訴人の教規及び規則中,天理教甲府大教会に関係がある事項に関する規定は同教会についてもその効力を有すると定めるとともに(同規則32条),また,その代表役員は,控訴人の教規及び規程により同教会の教会長に就任した者をあてるとし(同規則7条1項),代表役員が辞任しようとするときは,控訴人の代表役員の承認を得なければならない(同条2項)として,天理教甲府大教会の代表役員の任免にも控訴人の関与が認められ 任した者をあてるとし(同規則7条1項),代表役員が辞任しようとするときは,控訴人の代表役員の承認を得なければならない(同条2項)として,天理教甲府大教会の代表役員の任免にも控訴人の関与が認められることや,その規則の変更,合併及び解散をしようとするときにも控訴人の代表役員の承認を得なければならないと定めていること(同規則29条,30条)からすれば,天理教甲府大教会が控訴人と別個の法人格を有する宗教法人であるとしても,控訴人の意思によって極めて強い影響を受ける団体であることは明らかである。 そうすると,前記のような宗教法人法26条1項後段の趣旨からすれば,規則の変更に天理教甲府大教会の同意を必要とする旧規則28条が,同法26条1項後段所定の「当該宗教法人を包括する宗教団体が一定の権限を有する旨の定め」に該当することは明らかである。 控訴人は,同法26条1項後段の規定は,それぞれの信教の自由が衝突し教義上の利害が鋭く対立する被包括宗教法人と包括宗教法人との間を調整する規定として厳格に解すべきであり,みだりに拡張解釈ないし類推解釈することは許されない旨主張するが,同規定をそのように解するべきであることは当然であるものの,それは同規定が宗教法人が被包括関係の廃止をしようとするときの当該関係の廃止に係る規則の変更に関する認証の場合に限定して適用されるべきで,それ以外の場合に拡張解釈ないし類推解釈することは許されないという趣旨でそのように解すべきである。しかしながら,当該規則が同法26条1項後段所定の「当該宗教法人を包括する宗教団体が一定の権限を有する旨の定め」に該当するか否かの判断は,同規定の拡張解釈ないし類推解釈の問題ではなく,同規定そのものの解釈・適用の問題であるから,控訴人の主張は本件の場合に当てはまるものではな 体が一定の権限を有する旨の定め」に該当するか否かの判断は,同規定の拡張解釈ないし類推解釈の問題ではなく,同規定そのものの解釈・適用の問題であるから,控訴人の主張は本件の場合に当てはまるものではなく,本件の場合,前記認定の事実に照らせば,旧規則28条が同法26条1項後段にいう「一定の権限を有する旨の定め」であることはことは明らかである。 したがって,本件認証申請には同法26条1項後段が適用され,旧規則28条の規定によることを要しないから,天理教甲府大教会の代表役員の同意は不要であり,本件認証申請が28条1項2号の要件を具備するものであることは明らかであって,その不備をいう上記控訴人の主張は理由がない。 4 以上によれば,前記引用に係る原判決「基礎となる事実」のとおり,天理教豊文分教会は,本件認証申請がなされた平成15年1月16日の2か月以上前の日である平成13年7月3日に控訴人との被包括関係を廃止する旨の公告をし,同時に,控訴人に対し同事項を通知し(宗教法人法28条2項,26条2項,3項参照),また,本件認証申請にあたり,上記各公告,通知をしたことを証する書類等の必要書類を添付したのであり(同法27条参照),宗教法人法所定の要件が充足されていると認められるから,これに基づき行われた本件処分は適法である。 5 よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第14民事部裁判長裁判官西田美昭裁判官高野伸裁判官小池喜彦 美昭 裁判官 高野伸 裁判官 小池喜彦
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