平成13年(ワ)第10007号損害賠償請求事件口頭弁論終結の日平成13年12月25日判決原告アルプス電気株式会社訴訟代理人弁護士飯田秀郷同栗宇一樹同早稲本和徳同七宇賢彦同鈴木英之被告横河電機株式会社訴訟代理人弁護士大場正成同嶋末和秀 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,金7625万4950円及びこれに対する平成13年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 争いのない事実(1) 被告は,昭和58年10月21日,熱転写プリンタに関する実用新案登録の出願をし,平成4年11月25日登録された(登録番号第1939711号,以下「本件実用新案権」といい,その考案を「本件考案」という。)。 (2) 被告は,平成8年11月26日,カシオ計算機株式会社(以下「カシオ計算機」という。)に対して3億1500万円及び遅延損害金の支払等を求める訴訟を提起した(当庁平成8年(ワ)第23184号実用新案権侵 被告は,平成8年11月26日,カシオ計算機株式会社(以下「カシオ計算機」という。)に対して3億1500万円及び遅延損害金の支払等を求める訴訟を提起した(当庁平成8年(ワ)第23184号実用新案権侵害差止請求事件,以下「前訴」という。)ところ,原告は同訴訟に補助参加をした。原告は被告に対し被告が本件実用新案権に基づいて原告製のプリンタユニットの製造及び販売の差止めを求める権利を有しないこと等の確認を求める訴訟(当庁平成10年(ワ)第7031号差止請求権不存在確認等請求事件)を提起し,両事件は併合されたが,当裁判所は平成12年7月14日,本件実用新案登録が出願前公然実施により無効であることを理由に前訴について請求を棄却し,上記反訴について請求を認容する判決をした。 これに対し,被告は,同月26日,東京高等裁判所に対して控訴を提起した(東京高等裁判所平成12年(ネ)第4343号実用新案権侵害差止等請求控訴事件)が,平成13年2月6日に上記控訴を取り下げたので上記判決が確定した。 (3) 特許庁は,本件実用新案権につき,無効審判(平成11年審判第35544号)において,平成12年12月14日,無効とする旨の審決をし,同審決は審決取消訴訟の出訴期間満了により確定した。 2 本件は,被告がカシオ計算機に対して本件実用新案権に基づき前訴を提起し,原告が補助参加したところ,当裁判所において出願前公然実施を理由に請求棄却の判決がされ,これに対して被告が控訴を提起したが結局控訴取下げにより確定したことから,被告の前訴提起及び控訴提起が不法行為に当たり,これにより,原告が前訴に対する応訴に要した費用や控訴の応訴に要した費用及び無効審判請求に要した費用等の損害を受けたとして,民法709条の不法行為による損害賠償を求めている事案である。 為に当たり,これにより,原告が前訴に対する応訴に要した費用や控訴の応訴に要した費用及び無効審判請求に要した費用等の損害を受けたとして,民法709条の不法行為による損害賠償を求めている事案である。 3 争点(1) 被告の前訴提起及び控訴提起は不法行為となるかどうか。 (2) 消滅時効の成否。 (3) 損害の発生及び数額。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)について【原告の主張】(1) 被告は,被告が製造し,日本電気株式会社(以下「NEC」という。)に対してOEM供給した製品において,本件考案を出願前に公然実施しており,本件実用新案登録は無効であったにもかかわらず,本件実用新案権に基づき,前訴を提起したものであって,権利が事実的,法律的根拠を欠くものであるにもかかわらず,訴えを提起した。しかも,本件実用新案登録の出願日前にNECに対してOEM供給をしていたのは被告であるから,被告は,本件実用新案登録が無効であることを知っていたというべきである。 不法行為の成否に当たっては1個の企業組織体全体としての故意又は過失の成否を検討すべきであり,1個の法人格を有する被告が行った一連の行為について個々の担当者の知不知や過失の有無は考慮されるべきではなく,このことは特許権侵害訴訟における損害賠償請求の場合に個々の担当者の知不知が問題とされないのと同様である。 また,被告は,原告が上記公然実施の事実を指摘した後も訴訟を続行し,敗訴判決後これを不服として控訴を提起したものである。 したがって,前訴提起及び控訴提起は不法行為に当たる。 (2) 前訴の提起は原告とカシオ計算機との間のプリンタユニット取引を妨害する目的で行われたものであるから,独占禁止法2条9項6 したがって,前訴提起及び控訴提起は不法行為に当たる。 (2) 前訴の提起は原告とカシオ計算機との間のプリンタユニット取引を妨害する目的で行われたものであるから,独占禁止法2条9項6号,一般指定15項の禁止する取引妨害行為であり,不法行為に当たる。 (3) なお,前訴における当裁判所の事実認定が微妙なものであるかどうかは,判決書に記載されているわけではないし,仮にそうであるとしても,当事者が争点として争い,その結果,判決で認定され確定した以上,その認定事実については決着済みであり,それを前提に被告の権利行使の適法性が判断されなければならない。 【被告の主張】(1) 前訴提起の違法性について次のア及びイのとおり,本件実用新案登録に原告主張の公然実施の事実が存在することには合理的疑いがあり,被告が上記無効理由を知りながら前訴を提起したものではないし,通常人であれば容易に上記無効理由を知り得たといえるものでもないから,前訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとはいえない。したがって,被告が前訴を提起したことに違法性はない。 ア被告の調査(ア) 被告は,カシオ計算機に対して本件実用新案権侵害の警告をした平成6年から平成7年当時,NECへのOEM供給に関する被告の社内記録を調査したが,被告は昭和63年までにプリンタを含む情報機器事業から完全に撤退し,関係書類もほとんど廃棄されていた。 被告は昭和61年ころにはNECからOEM供給を打ち切られており,被告がビジネス上のルートによりNECの担当部署の協力を求めることは困難な状況にあった。 (イ) 被告は,本件考案の考案者を中心に,出願当時の社内担当者のヒアリング調査 られており,被告がビジネス上のルートによりNECの担当部署の協力を求めることは困難な状況にあった。 (イ) 被告は,本件考案の考案者を中心に,出願当時の社内担当者のヒアリング調査を行った。また,被告は,社内調査として,①NEC熱転写プリンタPC-8824,8825(以下「PC-8824」,「PC-8825」という。)に関する販売開始時期調査,②PC-8825の製造番号の調査,③PC-8824,8825に関する出荷記録調査,④特許出願経過調査,⑤PC-8824,8825に関する技術資料調査を行った。その結果,①本件考案は,NECへOEM供給した最初の製品には実施されておらず,改良としてソフトウェアの変更によってされたものであることを確認し,②NECへOEM供給した最初の製品には多くのトラブルが発生し,納品検査でもNECから何度も不具合を指摘され,納品後に多くの製品を回収して修理したこと等が判明した。 (ウ) 以上のとおり被告の調査では出願前公然実施の事実は認められなかった。 イ原告の対応(ア) 原告と被告との交渉経過は,別紙原告主張交渉経過一覧表記載のとおりである。被告は,同経過一覧表から明らかなように,原告の態度があたかも当初主張していた公然実施の主張を撤回したかのような態度であったので,原告の当初の主張は事実に基づいていなかったものと判断し,前訴を提起した。 (イ) 原告は,前訴において,PC-8824の実機の現物を提出せず,写真,ビデオ,分析結果等の資料のみを提出したにすぎなかった。 (2) 控訴提起の違法性について前訴においては公然実施の事実を示す直接証拠が提出されたわけではなく,前訴提起前に被告に提示されたことのない間接証拠の積み したにすぎなかった。 (2) 控訴提起の違法性について前訴においては公然実施の事実を示す直接証拠が提出されたわけではなく,前訴提起前に被告に提示されたことのない間接証拠の積み重ねによって極めて微妙な事実認定がされたものである。のみならず,被告は前訴口頭弁論終結後のPC-8824の実機の検証により公然実施の事実の不存在を推認せしめる新たな事実を発見し,弁論再開の申立ても行ったが,前訴では弁論が再開されず,これを主張立証する機会が与えられなかった。 このような状況の下,間接証拠の評価について控訴審の判断を受けることは,憲法で保障された当然の権利であり,控訴の提起には違法性がない。 2 争点(2)について【被告の主張】前訴への補助参加事件の弁護士報酬契約の締結日は平成8年12月20日であり,遅くとも同日までに原告は加害者及び損害を知ったというべきである。仮にそうでないとしても,原告はPC-8824の公然実施の事実を主張した平成9年10月3日までには裁判上主張できる程度の確度をもって上記公然実施の事実を認識していたのであるから,遅くともこの日までには加害者及び損害を知ったものである。 したがって,被告は民法724条による消滅時効を援用する。 【原告の主張】本件のような不当訴訟に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,当該訴訟の判決が確定したときであると解されるところ,前訴の判決は被告が平成13年2月6日に控訴を取り下げたことにより確定したから,前訴の消滅時効の起算点は同日と考えるべきである。したがって,本件において不法行為に基づく損害賠償請求権は,時効消滅していない。 3 争点(3)について【原告の主張】(1) 前訴に要した費 の起算点は同日と考えるべきである。したがって,本件において不法行為に基づく損害賠償請求権は,時効消滅していない。 3 争点(3)について【原告の主張】(1) 前訴に要した費用ア弁護士費用着手金 900万円着手金に対する消費税 37万円成功報酬 1800万円成功報酬に対する消費税 90万円イ弁理士費用手数料 100万円手数料に対する消費税 3万円ウカシオ計算機の弁護士費用等弁護士費用等 209万9000円弁護士費用等に対する消費税 10万4950円(2) 反訴に要した費用弁護士費用着手金 900万円着手金に対する消費税 45万円成功報酬 1800万円成功報酬に対する消費税 90万円(3) 控訴に対する応訴に要した費用弁護士費用着手金 450万円着手金に対する消費税 22万5000円 費用弁護士費用着手金 450万円着手金に対する消費税 22万5000円(4) 本件訴訟に要した費用弁護士費用着手金 100万円着手金に対する消費税 5万円成功報酬 760万円成功報酬に対する消費税 38万円(5) 第1回無効審判(平成8年審判第13421号)に要した費用及びその審決に対する審決取消請求訴訟(東京高等裁判所平成9年(行ケ)第335号)に要した費用弁理士費用無効審判請求書作成費用及び審決取消請求訴訟手数料 72万円上記費用及び手数料に対する消費税 3万6000円(6) 第2回無効審判(平成11年審判第35544号)に要した費用弁護士費用着手金 60万円着手金に対する消費税 3万円成功報酬 60万円成功報酬に対する消費税 3万円(7) 第3回無効審判(平成11年審判第35686号)に要した費用弁護士費用着手金 60万円着手金に対す 3回無効審判(平成11年審判第35686号)に要した費用弁護士費用着手金 60万円着手金に対する消費税 3万円(8) 合計 7625万4950円【被告の主張】争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)について(1) 事実経過証拠(甲1ないし8,15,16,18,19,乙1,3,6ないし10,12,13,15,17,20ないし23,27,30,証人A)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 ア被告は,昭和58年10月21日,本件実用新案登録の出願をし,平成4年11月25日登録された。 ところで,被告における出願手続は,被告の知的財産権室が明細書を作成して,自社内で行っており,発明者は発明者用のマニュアルを参照して発明提案書に必要事項を記入し,所属長の決裁を受けた上で,被告の知的財産権室に提出していた。そして,上記発明者用のマニュアルでは,まもなく提案内容が外に出てしまう場合など出願を急ぐ場合は提案書に出願期限を記載することが定められていた。本件考案の考案者であるBも提案書に出願期限を記載していた。 イ被告は,平成6年8月10日,知的財産権室室長名で,カシオ計算機に対し,同社のワープロと本件実用新案権との関係について検討を求める旨の書面を発し,同年12月12日,カシオ計算機から交渉を依頼された原告に対し,カシオ計算機のワープロに搭載されている熱転写プリンタと本件実用新案権との関係について検討を求める旨の書面を発した。これに対し,原告は,平成7年2月22日,特許 算機から交渉を依頼された原告に対し,カシオ計算機のワープロに搭載されている熱転写プリンタと本件実用新案権との関係について検討を求める旨の書面を発した。これに対し,原告は,平成7年2月22日,特許法務部部長名で,被告に対し,「貴実用新案の請求の範囲に対し,弊社がカシオ計算機株式会社殿に納入しております熱転写プリンタは,構造,ならびに作用効果において差があり,貴実用新案には関係するものではないと思料いたしております。」と返答した。 ウ被告では,知的財産権室に,本件実用新案侵害警告プロジェクトチームを結成し,そのチームが調査や原告との交渉を担当した。A,Cらが,同チームのメンバーであった。Aは,平成7年4月ころ,Bから,最初の製品について不具合を指摘されたので,その改良として考案したとの説明を受けた。 エ原告の交渉担当者であるDらは,同年6月13日,被告の交渉担当者であるAとCに対して,昭和58年8月30日発行の電波新聞に掲載されているNECのプリンタ等の広告を提示し,同広告に掲載されているPC-8825は被告がOEM供給契約によりNEC向けに製造していたものであり,本件考案と同様の動作を行うから,本件実用新案登録は無効であると主張した。 これに対し,Aらは,「販売当初の製品には本件考案の構成を採用していなかったはずである。」と返答した。 なお,PC-8824は,PC-8825とは,漢字ROMの水準が異なるのみの機種であり,上記広告にも掲載されていた。 オ被告知的財産権室室長(担当C)は,同年6月28日,原告特許法務部部長宛に書面を送付し,その中で,上記無効理由が確認できないとし,その理由として,「当社PC-8824,8825は,私もサーマルヘッドを社内供給していた立 担当C)は,同年6月28日,原告特許法務部部長宛に書面を送付し,その中で,上記無効理由が確認できないとし,その理由として,「当社PC-8824,8825は,私もサーマルヘッドを社内供給していた立場にあり,製品については知っていましたが,貴社からの提示資料が不明瞭であったため資料を提示された時は当社製品との判断が付きませんでした。」と記載し,さらに「貴社主張の無効理由について明確な資料がありましたら,ご提示戴きたく思います。」と記載した。 原告特許法務部部長(担当D)は,同年7月19日,被告知的財産権室室長宛に書面を送付し,その中で,本件考案は出願前に販売が開始されていたNECの製品PC-8825に開示されていたと記載した。 なお,Cは,PC-8824,8825のサーマルヘッドの品質改善を担当していたことから,PC-8824,8825を知っていたが,本件実用新案登録の出願やPC-8824,8825の出荷には関わっておらず,本件考案が出願前に公然実施されていたかどうかを知る立場にはなかった。 カ原告の交渉担当者は,同年8月9日,被告の交渉担当者であるAらに対し,原告がNECから入手したPC-8825の実機及びそれが空送り動作をすることについてのビデオを見せた。上記PC-8825の販売日等が明らかでなかったので,Aらが,原告の交渉担当者に対し,上記販売日等を示す証拠を提示するように求めたところ,原告の交渉担当者は,NECに上記証拠の調査を依頼中で,入手できたら提示すると返答した。 なお,NECのホームページにおけるプリンタの商品情報には,PC-8825の出荷日は昭和59年1月と記載されている。 キ Aらは,以後社内において,PC-8824,8825の販売や技術に関する ECのホームページにおけるプリンタの商品情報には,PC-8825の出荷日は昭和59年1月と記載されている。 キ Aらは,以後社内において,PC-8824,8825の販売や技術に関する資料の調査,本件実用新案登録の出願記録の調査などを行ったが,被告は昭和63年までにプリンタを含む情報機器事業から完全撤退していたことや被告内のレコードマネジメント運動(文書削減運動)により書類が廃棄されていたことなどから,PC-8824,8825の販売や技術に関する資料や本件実用新案登録の出願記録を見つけることができず,PC-8824,8825の実機も見つけることができなかった。しかし,Bからは,PC-8824,8825は,当初不具合が発生したこと,本件考案は,当初の製品について不具合を指摘されたことから,その改良として考案したこと,本件考案について出願前の公然実施はなかったと思うとの説明を受けた。 また,被告は,当時は既にNECとの取引はなかったのに対し,原告は,NECからPC-8825の実機を入手するなどしており,NECから資料を入手できたら提示すると述べていたので,被告は,原告がNECから資料を入手して提示するのを待つこととし,NECに対して調査を依頼することはなかった。 ク原告は,同年10月6日の交渉において,被告に対し,本件考案は先願明細書記載の発明と同一であり,実用新案法3条の2により無効であると主張した。 また,同年12月15日には,原告から和解金の提示がされた。 ケ原告は,平成8年8月9日,上記クの無効理由により無効審判を請求した(平成8年審判第13421号)。特許庁は,平成9年11月25日,無効審決をしたところ,被告は,平成10年6月5日,訂正審判の請求をし(平成10 8年8月9日,上記クの無効理由により無効審判を請求した(平成8年審判第13421号)。特許庁は,平成9年11月25日,無効審決をしたところ,被告は,平成10年6月5日,訂正審判の請求をし(平成10年審判第39040号),特許庁は同年7月28日訂正審決をし,東京高等裁判所は,同年10月7日,上記無効審決を取り消す旨の判決をした。特許庁は,平成11年3月16日,上記無効審判請求(平成8年審判第13421号)について,請求不成立の審決をした。 なお,原告は,平成8年8月1日,NEC各社の製品の修理等を行う日本電子応用株式会社からPC-8824の実機を入手した。 コ被告は,平成8年11月26日,取締役会の決定を経て,前訴を提起した。カシオ計算機は,前訴の第1回口頭弁論期日前の平成9年1月9日,原告に対し訴訟告知をし,原告が補助参加した。原告は,同年10月3日付け準備書面においてPC-8824による公然実施を主張し,同日付けで,証拠として,PC-8824の印字動作を撮影したビデオテープを当裁判所に提出した。 原告は,前記クのとおり,本件考案は先願明細書記載の発明と同一であり,実用新案法3条の2により無効であると主張し始めてからは,上記準備書面における主張まで,上記公然実施の主張をしなかった。 原告は,平成11年10月4日,上記公然実施を無効理由とする無効審判(平成11年審判第35544号)を請求し,さらに,同年11月24日,公知文献に基づく進歩性欠如を無効理由とする無効審判(平成11年審判第35686号)を請求した。 サ前訴において,被告は,PC-8824の発売当初には,本件考案は実施されておらず,実施されたのは,本件実用新案登録の出願後であるとの主張をした。 5686号)を請求した。 サ前訴において,被告は,PC-8824の発売当初には,本件考案は実施されておらず,実施されたのは,本件実用新案登録の出願後であるとの主張をした。 当裁判所は,平成12年7月14日,被告による上記主張を認めるに足りる証拠はないとして,PC-8824による公然実施を理由に前訴につき請求棄却の判決をした。 シ前訴においては,原告から,PC-8824の実機は,証拠として提出されていなかった。Aは,平成12年5月31日,特許庁においてPC-8824の実機を見聞した。そして,被告は,同年6月15日,この見聞に基づいて,①上記実機に搭載されているRのバージョンが1.4とされていること,②上記実機に搭載された主回路基板のうち,「B9807LC」と表示された基板は被告が製造していないことを理由に,当裁判所に対して口頭弁論再開の申請をしたが,当裁判所は,口頭弁論を再開せず,上記タのとおり請求棄却の判決をした。 ス特許庁は,同年12月14日,PC-8824による公然実施を理由として無効審決をした。 被告は,同年7月26日,上記シの判決を不服として控訴を提起したが,平成13年2月6日,控訴を取り下げたので,前訴は確定した。 (2) 本件考案の公然実施について前記(1)認定の事実並びに証拠(甲1,2)及び弁論の全趣旨によると,被告はPC-8824をNECに対してOEM供給していたこと,同社は昭和58年4月以降,同プリンタを市場において販売していたこと,同プリンタは本件考案の構成要件をすべて充足し,同様の作用効果を奏すること,したがって,本件考案は,本件実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されたPC-8824の熱転写プリンタの構成 こと,同プリンタは本件考案の構成要件をすべて充足し,同様の作用効果を奏すること,したがって,本件考案は,本件実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されたPC-8824の熱転写プリンタの構成と同一であり,本件実用新案登録には,実用新案法3条1項2号所定の無効理由が存し,平成5年4月23日法律第26号による改正前の実用新案法37条1項1号により無効であること,以上のとおり認められる。 (3) 前訴提起及び控訴提起の不法行為該当性についてア法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは,法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから,裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず,不法行為の成否を判断するにあたっては,いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされることは当然のことである。したがって,法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは,原則として正当な行為であり,提訴者が敗訴の確定判決を受けたことのみによって,直ちに当該訴えの提起をもって違法ということはできないというべきである。一方,訴えを提起された者にとっては,応訴を強いられ,そのために,弁護士に訴訟追行を委任しその費用を支払うなど,経済的,精神的負担を余儀無くされるのであるから,応訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴えの提起は,違法とされることのあるのもやむをえないところである。 以上の観点からすると,民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において,上記訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易 違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。けだし,訴えを提起する際に,提訴者において,自己の主張しようとする権利等の事実的,法律的根拠につき,高度の調査,検討が要請されるものと解するならば,裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でないからである(最高裁判所第三小法廷昭和63年1月26日判決・民集42巻1号1頁参照)。 そして,法人の知不知は原則として代表者について決すべきであることからすると,提訴者が法人の場合に,提訴者が,同人の主張した権利等が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したということができるかどうかは,原則として,法人の代表者について決すべきである(事案によっては,代表者から権限を与えられて行為をした者について決すべき場合もあろうが,次のイで述べるとおり,本件は,そのような事案ではない。)。 イ以上を本件についてみると,被告の前訴提起は本件実用新案権に基づくものであるが,本件考案はPC-8824の実機において出願前に公然実施されていたと認められる以上,本件実用新案登録は無効であることが明らかである。したがって,前訴の提起は事実的,法律的根拠を欠いていたものといえる。 前記(1)認定のとおり,被告は,前訴を,取締役会の決定を経て,提起したのであるから,本件において,提 かである。したがって,前訴の提起は事実的,法律的根拠を欠いていたものといえる。 前記(1)認定のとおり,被告は,前訴を,取締役会の決定を経て,提起したのであるから,本件において,提訴者が,同人の主張した権利等が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したということができるかどうかは,被告の代表者について決するのが相当である。 前記(1)認定の事実によると,被告は原告からPC-8825による公然実施を指摘されてから,担当者であるAらが,社内で,PC-8824,8825による出願前公然実施の有無を調査したこと,しかし,関係書類は廃棄されており,実機も見つからなかったこと,本件考案の考案者からは,PC-8824,8825は,当初不具合が発生し,本件考案は,当初の製品について不具合を指摘されたことから,その改良として考案したものであり,本件考案について出願前の公然実施はなかったと思うとの説明があったこと,以上の事実が認められる。 前記(1)認定の事実によると,平成7年8月9日の交渉では,PC-8825の販売日等は明らかでなく(むしろ前記認定のとおりNECのホームページには,本件実用新案登録の出願後の日が出荷日とされている。),原告は,被告に対して,この点について,NECに証拠の調査を依頼中で,入手できたら提示すると返答していたところ,同年10月6日の交渉からは,本件考案は先願明細書記載の発明と同一であり,実用新案法3条の2により無効であるとの主張をし始め,その旨の無効審判請求もしたものの,出願前公然実施の点については,前訴において,平成9年10月3日付け準備書面において主張するまで主張せず,同日付け準備書面で主張した内 無効であるとの主張をし始め,その旨の無効審判請求もしたものの,出願前公然実施の点については,前訴において,平成9年10月3日付け準備書面において主張するまで主張せず,同日付け準備書面で主張した内容も,当初主張していたPC-8825とは異なるPC-8824についての主張であったことが認められる。以上の事実からすると,原告の対応は,原告が平成9年10月3日付け準備書面において主張するまでは,被告において,原告は当初主張していた出願前公然実施の主張を撤回したともとれるものであったというべきである。 以上のような事実を前提として,被告は,取締役会の決定により,前訴を提起したものと認められる。そうすると,被告の代表者は,前訴を提起するに当たり,被告の主張した権利等が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知っていたということができないのはもとより,通常人であれば容易にそのことを知りえたとまでいうこともできない。その他,前訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる事情は認められない。 前記(1)認定の事実によると,前訴において,被告は,PC-8824の発売当初には,本件考案は実施されておらず,実施されたのは,本件実用新案登録の出願後であるとの主張をしたが,一審判決は,その主張を認めず,PC-8824による公然実施を理由に前訴につき請求棄却の判決をしたこと,被告は,それに先立って,特許庁においてPC-8824の実機を見聞したことに基づいて,上記主張を裏付ける事実について主張立証するために口頭弁論再開の申請をしたが,当裁判所は,口頭弁論を再開しなかったこと,以上の事実が認められる。以上の事実に,既に認定した前訴の提起に至る事実を総合すると,前訴の一審判決に対する控訴の提起についても,裁判制度の 申請をしたが,当裁判所は,口頭弁論を再開しなかったこと,以上の事実が認められる。以上の事実に,既に認定した前訴の提起に至る事実を総合すると,前訴の一審判決に対する控訴の提起についても,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとまでは認められない。 ウ原告は,不法行為の成否に当たっては1個の企業組織体全体としての故意又は過失の成否を検討すべきであり,1個の法人格を有する被告が行った一連の行為について個々の担当者の知不知や過失の有無は考慮されるべきではなく,このことは特許権侵害訴訟における損害賠償請求の場合に個々の担当者の知不知が問題とされないのと同様であると主張する。 しかしながら,民事訴訟の提起が不法行為となる場合について,前記認定のような要件が必要とされるのは,既に述べたとおり,裁判制度の自由な利用を阻害しないようにするためであるから,このような前記要件が必要とされる趣旨からすると,訴え提起時における法人の代表者等の認識が問題とされるべきであり,それを考慮することなく,1個の企業組織体全体としての故意又は過失によって不法行為の成否を決することはできないというべきである。なぜならば,訴え提起時に法人の代表者等について,前記要件がないにもかかわらず,訴えの提起が不法行為となるとすると,裁判制度の自由な利用が著しく阻害されることになるからである。 (4) 独占禁止法違反の主張について被告は,本件実用新案権を有していたのであり,また,前記(3)で述べたとおり,被告は,本件実用新案権に基づく請求が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知っていたとか,通常人であれば容易にそのことを知りえたということはできないから,前訴の提起は,原告とカシオ計算機との間のプリンタユニット取引を不当 く請求が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知っていたとか,通常人であれば容易にそのことを知りえたということはできないから,前訴の提起は,原告とカシオ計算機との間のプリンタユニット取引を不当に妨害したものであるとは認められない。したがって,前訴の提起が,独占禁止法2条9項6号,一般指定15項の禁止する取引妨害行為であり,不法行為に当たるということはない。 2 以上の次第であるから,その余の争点について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。 東京地方裁判所民事第47部裁判長裁判官森義之裁判官内藤裕之裁判官上田洋幸(別紙)原告主張交渉経過一覧表
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