- 1 -主文 原判決を次のとおり変更する。 被控訴人は,控訴人に対し,20万円及びこれに対する平成16年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 控訴人のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを25分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1控訴の趣旨 原判決を取り消す。 被控訴人は,控訴人に対し,500万円及びこれに対する平成16年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2事案の概要 審理経過等(1)控訴人は,原審において,平成16年8月当時13歳であったところ,同年7月から同年8月6日にかけて発生した放火,不審火に関して,触法少年としてA警察署に補導され,児童相談所から触法少年として家庭裁判所に送致され,その後,家庭裁判所において不処分決定を受けたが,その手続の過程において,被控訴人の公務員である司法警察員らによる違法な身柄拘束(①児童通告がなかったこと,②警察による電話通告は許されていないこと,③仮に,電話通告が許容されるとしても,その要件を満たしていないこと,④一時保護手続が違法であったこと),違法な調査(①控訴人を呼び出す際に親の確認を得ていないこと,②取調べ時に親の立ち会いを求めていないこと,③質問方法等,取調方法が不適切であったこと,④共犯関係がないのに調査をしたこと),審判において虚偽の証- 2 -拠を提出する違法行為が行われたことによって,精神的損害を受けたとして,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,その損害賠償を求めた。 (2)原判決は,控訴人が違法であると主張する点にはいずれも理由がないとして,控訴人 れたことによって,精神的損害を受けたとして,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,その損害賠償を求めた。 (2)原判決は,控訴人が違法であると主張する点にはいずれも理由がないとして,控訴人の請求を棄却した。 (3)控訴人は,原判決を不服として控訴した。 (4)控訴人は,当審において,違法事由を,前記違法な身柄拘束の③(電話通告の要件を満たしていないこと)及び④(一時保護手続の違法)並びに違法な調査の①(控訴人を呼び出すのに親の確認を得ていないこと)及び②(取調べ時に親の立ち会いを求めていないこと)に限定した。 前提事実(証拠掲記のないものは,当事者間に争いがない。)(1)当事者控訴人は,平成3年w月x日生まれの男子であり,平成16年8月当時,13歳であった。 (2)火災の発生平成16年7月から8月(以下,特に断りのない限り,日付は平成16年を指す。)にかけて,沖縄県A市a近辺において不審火が続発していた。A警察署は,その犯人を検挙すべく捜査に当たった。 当時の主な不審火は,次のとおりであった。 ア日時7月22日場所A市ab丁目i番j号L駐車場焼損物軽乗用自動車イ日時8月1日場所A市kb丁目l番m号有限会社M駐車場焼損物普通乗用貨物自動車ウ日時8月6日場所A市ab丁目n番o号N1階玄関先- 3 -焼損物原動機付自転車エ日時8月6日場所A市ab丁目p番q号O方敷地内焼損物物置(3)調査から審判までの経緯アA警察署では,前記(2)の不審火について捜査をしていたところ,同署D警部補(以下「D警部補」という。),E巡査(以下「E巡査」という。また,D警部補及びE巡査の両名を「D警部補ら」という。)は,控訴人の知人から得た情報をもとに,8月7日午後3時 いたところ,同署D警部補(以下「D警部補」という。),E巡査(以下「E巡査」という。また,D警部補及びE巡査の両名を「D警部補ら」という。)は,控訴人の知人から得た情報をもとに,8月7日午後3時30分ころ,控訴人宅を訪ね,控訴人の母親に,「息子さんから話を聞きたいことがあるので,F交番で話を聞いて良いですか。」と述べた上,控訴人をA警察署F交番(以下「F交番」という。)へ任意同行した。 同日午後4時ころ,D警部補らがF交番において控訴人から事情を聴取したところ,控訴人は,一連の不審火を認める内容の供述をした。 D警部補らは,控訴人をA警察署刑事第一課へ同行した。そこで,控訴人は,9個所に火を付けたことを認める旨の「じぶんがもやしたところ」と題する書面を作成した。 D警部補らは,同日午後5時ころ,控訴人を立会人として,現場引き当たり調査を行った。(甲10)イA警察署少年課の少年係長であるG警部補(以下「G警部補」という。)は,8月7日午後4時15分ころ,沖縄県B児童相談所(以下「B児童相談所」という。)に,電話で,控訴人を補導したところ,一連の不審火に関与がありそうであり,事情聴取を行っている,一時保護委託を依頼してほしい旨の連絡をした。 B児童相談所の相談課長であるH(以下「H課長」という。)は,同日午後5時ころ,A警察署に対し,一時保護の委託を連絡した。(乙6,12)ウ控訴人は,8月7日,A警察署の保護室に泊められた。 エG警部補は,翌8日午前11時ころから,控訴人の事情聴取を行い,控訴人- 4 -の申述書を作成した。 オA警察署長は,同日午後4時ころ,B児童相談所長に対し,控訴人の身柄とともに,児童通告書を持参した。児童通告書の通告理由は,前記(2)の各不審火は控訴人が火を点けたものであるというものであった。(甲17)カ ,同日午後4時ころ,B児童相談所長に対し,控訴人の身柄とともに,児童通告書を持参した。児童通告書の通告理由は,前記(2)の各不審火は控訴人が火を点けたものであるというものであった。(甲17)カB児童相談所長は,8月9日,那覇家庭裁判所に対し,控訴人を前記(2)の各事実を審判に付すべき事由として送致した。同日,那覇家庭裁判所裁判官は,控訴人に対し,観護措置決定を行った。 キその後,那覇家庭裁判所において,8月13日,同月23日,9月1日に控訴人の審判が開かれた。触法事実の有無(前記(2)の各事実への控訴人の関与の有無)について審理が行われた。その結果,那覇家庭裁判所は,9月29日の第4回審判において,控訴人に対し,触法事実なしの理由で不処分とする決定をした。 (甲1,14~16)第3当事者の主張 身柄拘束における違法(1)電話通告の要件を満たしていないことについて(控訴人の主張)ア一時保護が身柄拘束という人権侵害を伴うものである以上,電話通告は,デュープロセスの観点から,①急を要し,児童通告書を作成して通告するいとまがない場合,②触法事実の特定と通知,③児童通告書の追完,④必要性と相当性(遠隔地,深夜,交通不便等で通告書を届けることが不可能など)の要件を備えることが必要である。本件においては,以下のとおり,これらの電話通告の要件を備えていない。 イ急を要し,児童通告書を作成して通告するいとまがない場合について沖縄県警察の少年警察活動に関する訓令(以下「訓令」という。)54条ただし書が「急を要し,児童通告書(規範別記様式第20号)を作成して通告するいとまがない場合」と規定する要件であり,通告書を作成していては保護目的を達成でき- 5 -ないと思われる緊急事態を意味する。 触法少年が「もう帰る。」と言っているよう 第20号)を作成して通告するいとまがない場合」と規定する要件であり,通告書を作成していては保護目的を達成でき- 5 -ないと思われる緊急事態を意味する。 触法少年が「もう帰る。」と言っているような事情があれば格別,本件の場合,控訴人は,それまでの警察の調査に応じ,帰宅する様子は全くなかった以上,通告書を起案している間,任意で警察署に待機させ,身柄付きで児童相談所に連行することは可能且つ容易であった。 8月7日の時点で児童通告書を起案できなかったのは,取調べが終了しておらず,警察が触法事実を把握できていなかったからである。いわば警察が主観的に通告書を作成することができなかったからにすぎない。 したがって,本件は,「急を要し,児童通告書(規範別記様式第20号)を作成して通告するいとまがない場合」に該当しない。 ウ触法事実の特定と通知について通告に児童通告書が要求されているのは,通告を受けた児童相談所をして一時保護の必要性等を判断させるためであるから,電話通告の場合であっても,児童通告書に記載されるべき程度の触法事実を特定して通知する必要がある。すなわち,触法事実を大まかにでも特定するに足りる事実(日時,場所,行為ないし結果)とその裏付け証拠の概略を告げることが最低限必要である。 ところが,本件においては,G警部補がB児童相談所に電話連絡をした8月7日午後4時15分の時点では,未だ引き当たり調査にさえ出発しておらず,G警部補も控訴人の事情聴取を全く行っていない段階であって,A警察署は触法事実を特定して覚知していなかった。G警部補は,B児童相談所に対し,触法事実を大まかにでも特定するに足りる事実を伝えていない。 したがって,本件の通知は,触法事実の特定が欠けている。 エ児童通告書の追完についてやむを得ず電話で児童通告をした場合には,緊急措置 し,触法事実を大まかにでも特定するに足りる事実を伝えていない。 したがって,本件の通知は,触法事実の特定が欠けている。 エ児童通告書の追完についてやむを得ず電話で児童通告をした場合には,緊急措置である電話通告を適法ならしめる担保として,事後速やかに児童通告書が追完されなければならない(訓令54条ただし書)。児童通告を受理すれば,場合によっては引き続き一時保護が予定- 6 -されるわけで,その必要性判断のために,また,一時保護がなくとも,事後的に電話通告受理の是非を決裁権者(児童相談所長)が判断するために,書面化された児童通告書の作成と提出が必要である。 そして,追完される児童通告書には,先に電話通告された事実が記載されることが絶対的に必要になる。電話で通告した際に児童通告の要件を満たしていたか,一時保護(委託)の必要性があったかを決裁権者が事後的に判断するための追完である以上,当然のことである。 本件において,A警察署が電話通告後に作成した児童通告書は,8月8日付けの「身柄付き通告」を内容とするもの1通である。同通告書は,8月8日までに把握した事実関係に基づいて作成されている。8月7日午後4時15分の時点で児童通告をしたことの是非,適否ないし合法性を検証するための児童通告書は作成されていない。 したがって,本件では,電話通告について児童通告書の追完がなされていない。 オ必要性と相当性について電話通告は,あくまで例外的措置であるため,その必要性と相当性が要求される。 児童相談所が警察署から遠隔地にあるか,深夜,交通不便等で,身柄付き通告をするいとまがないことが求められる。この電話通告の必要性と相当性については,警察が一時保護委託を受けることのできる場合の要件と共通するので,後述するが,本件で,必要性及び相当性を満たしていないことはあき いとまがないことが求められる。この電話通告の必要性と相当性については,警察が一時保護委託を受けることのできる場合の要件と共通するので,後述するが,本件で,必要性及び相当性を満たしていないことはあきらかである。 カしたがって,8月7日の電話通告は,上記適法性の要件をことごとく欠いており,違法である。 (被控訴人の主張)アA警察署が8月7日に電話通告を行ったのは,控訴人が放火という重大事件を自供しており,このまま帰宅させた場合,再非行を繰り返すおそれが認められ,緊急に身柄を確保しなければ,保護の機会を失し,また,放火はいずれも深夜に発生している事案で,控訴人の行状等からして,保護者に監護させることが不適当と- 7 -認められ,更に当日は土曜日だったこともあり,緊急性・要保護性が認められたことから,電話による児童通告を行ったものである。 A警察署が行った電話通告は,訓令54条ただし書に沿って行われており,適法である。 イ控訴人の主張は,調査と捜査を混同した独自の見解によるものであり,失当である。 (2)一時保護手続の違法について(控訴人の主張)ア一時保護とは,触法少年などを緊急に保護し,児童の処遇方針を決定するために行動を観察し,又は短期の指導を行うために,児童相談所長又は都道府県知事が「必要があると認めるとき」(児童福祉法33条1項,2項)に行う行政処分である。一時保護には,当事者の同意や家庭裁判所の承認が必要とされないと解されているから,親子が司法手続によらなければ分離されないという児童の権利に関する条約の趣旨(同条約9条1項)に鑑みれば,児童福祉法33条にいう「必要があると認めるとき」は極めて限定的にかつ厳格に解釈される必要がある。 そして,一時保護は,児童相談所に付設された一時保護所で行われるべきものであり,警察への一時 みれば,児童福祉法33条にいう「必要があると認めるとき」は極めて限定的にかつ厳格に解釈される必要がある。 そして,一時保護は,児童相談所に付設された一時保護所で行われるべきものであり,警察への一時保護委託が許されるのは,「児童相談所が遠隔の地にあり,又は夜間のため児童を児童相談所の一時保護所に引き渡すことが出来ない場合」(昭和25年7月31日児発505号厚生省児童局長通知,昭和26年1月17日児発12号厚生省児童局長通知)に限られると解される。これは,一時保護は,児童保護を目的とした身柄拘束であり,制度的に捜査・調査活動とは質,内容及び目的を異にすること,保護担当者も警察官より児童相談所職員の方が適任であること等から導かれる当然の限定である。 イしかしながら,警察実務及び児童相談所の扱いの実際は,触法の疑いがある少年について,警察は,児童相談所に電話さえすればその後24時間のフリーパスが与えられ,その間,調査が自由にできるとしか思っておらず,児童相談所が遠隔- 8 -の地にあるとか,夜間のため引き渡すことができないとかいった事情もないのに,自ら一時保護委託を求め,そして,児童相談所も,これを検証することなく受け付け,一時保護委託をしている。言い換えれば,実務においては,一時保護の本来の目的を離れ,調査目的での一時保護が横行している。警察が調査目的で一時保護制度を利用することは,一時保護制度が予定する目的に反する制度の濫用,違法な措置である。 ウ本件においては,A警察署とB児童相談所の位置関係は遠隔ではなく,通告の時刻も午後4時ころと深夜ではなく,B児童相談所の対応能力についても当直がおり,一時保護所の収容人員にも空きがあったと考えられ,B児童相談所が控訴人を受け入れることについて問題はなかったから,控訴人を身柄付きで児童相談所に はなく,B児童相談所の対応能力についても当直がおり,一時保護所の収容人員にも空きがあったと考えられ,B児童相談所が控訴人を受け入れることについて問題はなかったから,控訴人を身柄付きで児童相談所に引き渡すことが極めて容易であった。それにもかかわらず,A警察署長が,触法事実も特定できていなかった8月7日午後4時ころ,G警部補に対し,一時保護の委託を受けるように指示し,その後,一時保護委託の時間を使って引き当たり調査等を行い,その成果が8月8日付け児童通告書に記載されていること,B児童相談所も,事案の概要を把握するために警察の継続調査が必要と考えていたこと等からすれば,一時保護委託が調査目的で行われたことは明らかである。 エ以上のように,本件一時保護は,児童保護目的ではなく,調査目的でなされた違法な身柄拘束である。 オなお,一時保護(委託)をするか否かは,児童相談所が判断することではあるが,実務における実態が警察主導であることからすれば,本件のように,警察から一時保護の委託要請を行ったケースにおいて,一時保護の委託が許容される要件を満たしていなかった場合の責任は警察がこれを負うべきである。 (被控訴人の主張)ア昭和26年1月17日児発厚生省児童局長通知に規定されている「警察が行う一時保護とは,警察官が発見した児童又は一般人から警察が引き受けた児童で,児童相談所が遠隔の地にあり,又は夜間のため児童を児童相談所の一時保護所に引- 9 -き渡すことが出来ない場合をいう。」は例示規定であって,「児童相談所が遠隔の地にあること」又は「夜間のために児童を児童相談所の一時保護所に引き渡すことが出来ない場合」のみに限定した規定ではない。「児童相談所が直ちに引き取ることが不可能であるような事情がある場合」(昭和25年7月31日児発第505号厚生省児童 児童相談所の一時保護所に引き渡すことが出来ない場合」のみに限定した規定ではない。「児童相談所が直ちに引き取ることが不可能であるような事情がある場合」(昭和25年7月31日児発第505号厚生省児童局長通知)には,一時保護の委託が認められる。 休日において,緊急対応の必要性の判断と対応,他機関あっせんの必要性の判断と対応などの受付面接を行うインテイクワーカー等の児童福祉司と一時保護の手続を職務とする相談課長が不在である場合には,厚生省児童局通知の「児童相談所長がこれを直ちに引き取ることが不可能である場合」に該当する。 イ一時保護の委託の判断について,沖縄県児童相談所事務提要(以下「事務提要」という。)には,「夜間,休日等で責任者が不在の場合は,休日出勤職員は保護課等の職員と連絡をとり,一時保護の必要性,可能性及び緊急性について慎重に検討し,一時保護の是非及び当面の対応を決める。」,「家出,浮浪,触法行為等で,一時保護所での対応が困難であると思われる場合は警察署に一時保護を委託する。」と規定されている。 ウ本件について,B児童相談所は,控訴人が放火という重大事件を自供しており,このまま帰宅させた場合,再非行を繰り返すおそれが認められ,緊急に身柄を確保しなければ,保護の機会を失し,また本件の放火はいずれも深夜に発生している事案で控訴人の行状等からして,保護者に監護させることが不適当と認められたこと,土曜日で限られた人員での当直体制であり,インテイクワーカー,相談課長は不在であったことなどを総合的に判断して警察への一時保護の委託を決定した。 B児童相談所の一時保護の委託の決定は,控訴人の保護目的のため,事務提要等に沿って行われたものであって,適法である。 エ一時保護期間中に,家庭裁判所又は児童相談所長が処遇判断を行うための資料を収集するために 所の一時保護の委託の決定は,控訴人の保護目的のため,事務提要等に沿って行われたものであって,適法である。 エ一時保護期間中に,家庭裁判所又は児童相談所長が処遇判断を行うための資料を収集するために調査したからといって,一時保護の保護目的が失せられるということにはならない。控訴人の保護のための調査であり,調査も保護目的の中に含- 10 -まれる。 調査の違法(1)控訴人を呼び出す際に親の確認を得ていないことについて(控訴人)少年の呼出しについては,「少年警察活動推進上の留意事項について」との依命通達(警察庁乙生発第4号。以下「依命通達」という。)でも,「用件を明らかにした書面によりこれを行い,保護者の納得を得て行うように努める。」とされているから,警察官には,少年を呼び出す際は親等に明確に用件を告げ,当該用件での呼出しについて親の納得を得ることが求められている。 したがって,D警部補らは,控訴人の母親に対し,放火等の容疑で事情聴取をする旨告げてからその同意を取り(あるいは取るべく努力をして),控訴人を連行する必要があった。 ところが,D警部補らは,何ら控訴人の母親に用件を告げず,「連行していいですか。」と漠然と尋ね,それに対する承諾を得たにすぎず,だまし討ち的に控訴人を連行して自白を得ている。 本件は,親の確認を得ていない違法な調査である。 (被控訴人)控訴人を自宅からF交番へ任意同行した際には,未だ放火事件の被疑者ではなく,参考人として任意同行したものである。そのために母親に放火事件で事情聴取する旨告げる必要はなかった。また,D警部補らは,控訴人の母親に「息子さんから話を聞きたいことがあるので,F交番で話を聞いてもよいですか。」と申し入れ,母親の了解を得て,控訴人もこれに応じたことから,控訴人をF交番へ任意同行したものである らは,控訴人の母親に「息子さんから話を聞きたいことがあるので,F交番で話を聞いてもよいですか。」と申し入れ,母親の了解を得て,控訴人もこれに応じたことから,控訴人をF交番へ任意同行したものである。抜き打ち的に控訴人を連行して自供を得たものではない。 (2)取調べ時に親の立ち会いを求めていないことについて(控訴人)少年の取調べについて,依命通達は,やむを得ない場合を除き,保護者その他適- 11 -切な者を立ち会わせることを要求している。少年の呼出しや取調べについて様々な制限ないし遵守事項が求められているのは,大人に迎合しやすい少年による虚偽自白を防ぎ,もってえん罪を防止するためである。したがって,警察は,可能な限り取調べに親を同席させ,虚偽自白を防止する義務がある。 本件では,具体的な目的を告げない呼出しの上で,親の立ち会いなしで取調べを行っている。呼出しの際に,母親から異議がなかったからといって,取調べに対する親の承諾を得て,その取調べに同席を求める義務を果たしているとはいえない。 (被控訴人)少年の取調べに立会人をおくことが求められるのは,少年には防御力が不足しているので,これを補うためといわれている。特に中学生くらいでは,一般的には,社会的な意味での防御力が備わっているとはいい難いので,保護者の立会いを求めることが基本である。しかしながら,保護者等が同席し,場合によっては,そそのかすような言動をとることによって,本人にその気がなかったのに供述を拒否したり,逆に,親の前では真実が言えず,あえてうその供述をしたりすることもあり得る。事件の内容,少年の性格,あるいは同行してきた親等の性格,態度などから総合的に判断して,立会人を置くかどうかを決することになる。 本件では,控訴人は,当初,2件については否定し,それ以外の件について自供を 内容,少年の性格,あるいは同行してきた親等の性格,態度などから総合的に判断して,立会人を置くかどうかを決することになる。 本件では,控訴人は,当初,2件については否定し,それ以外の件について自供をしたが,母親に会った後に一連の放火は自分がやっていないなどと供述していることから,母親を立ち会わせた場合,真実を聞き出すことは困難と判断して立ち会いさせなかったものである。 損害(控訴人)控訴人は,前記各不法行為により,肉体的精神的に大きな苦痛を負った。その慰謝料としては,500万円が相当である。 (被控訴人)争う。 - 12 -第4認定事実前記第2の2の前提事実,証拠(甲1,8,9,10,13ないし17,乙5,13,17,19ないし21,原審証人I,同J,同G,当審証人H,原審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 事務提要(1)事務提要は,平成2年厚生省において策定された児童相談所運営指針を踏襲し,沖縄県の実情に即して,沖縄県が作成したものである。 (2)事務提要には,緊急の場合(夜間・休日等の場合)における一時保護の手続につき,「夜間,休日等で責任者が不在の場合は,休日出勤職員は保護課等の責任者と連絡をとり,一時保護の必要性,可能性及び緊急性について慎重に検討し,一時保護の是非及び当面の対応を決める。」と規定され,続いて「家出,浮浪,触法行為等で,一時保護所での対応が困難と思われる場合は警察に一時保護を委託する。」と規定されている。 (3)事務提要には,受理会議について,「受理会議は原則として週1回開催するが,緊急を要するケースについては臨時に関係者間で決める。緊急に一時保護を要し,協議する時間のないときは受理会議の手続きをせずに所長の指示により必要な処理をし,最も近い受理会議に報告す 1回開催するが,緊急を要するケースについては臨時に関係者間で決める。緊急に一時保護を要し,協議する時間のないときは受理会議の手続きをせずに所長の指示により必要な処理をし,最も近い受理会議に報告する。」と規定されている。 (4)また,一時保護の委託に関し,事務提要には,「法33条の規定により児童を一時保護する必要があるときは,児童相談所付設の一時保護所を利用すべきであるが,ケース担当者が次の各号のような理由で委託一時保護が適当な児童と判断した場合には,所長は当該児童を警察署,病院,児童福祉施設,その他適当な者に対して委託して一時保護を実施することができる。」と規定され,委託一時保護に該当すると思われるケースの例として,「夜間発生したケース等で,直ちに一時保護所に連れてくることが著しく困難な児童」,「警察署へ一時保護の委託が妥当と認められる児童」等が挙げられている。 B児童相談所における一時保護手続の運用- 13 -(1)B児童相談所(B市r町s)においては,相談課が,相談の受付から一時保護手続までの初期対応を担当していた。相談課は,課長1名,児童福祉司13名(うち2名がインテイクワーカー)が所属している。 (2)受付面接は,通常,相談課所属のインテイクワーカーが行う。不在の場合は,相談課職員の他の児童福祉司等が行っていた。受付面接の内容としては,児童記録票に記載する基本的事項の把握,受付面接時の子どもや保護者等の様子の把握等をし,緊急対応の必要性の判断とその対応を行い,受理会議にその結果を提出する。 (3)受理会議は,相談課長が主宰し,所長,各課長及び受付相談員が参加し,一時保護の要否等を検討する。 (4)休日や夜間の電話による児童通告について,当直勤務者は,相談課の職員が不在で,保護課の職員だけで,一時保護中の児童の面倒 し,所長,各課長及び受付相談員が参加し,一時保護の要否等を検討する。 (4)休日や夜間の電話による児童通告について,当直勤務者は,相談課の職員が不在で,保護課の職員だけで,一時保護中の児童の面倒をみることが主な担当職務になっており,事案の調査,診断,一時保護の要否の判断ができないことから,相談課長に連絡をすることになっていた。相談課長は,当直員からの連絡を受けると,当直員が警察から把握した事項を確認し,通告者である警察に電話を入れ,必要事項を聴取するとともに,保護課長等関係課長と調整するなどして一時保護の要否を判断して一時保護の必要があれば,通常児童相談所付設の一時保護所を使用し,一時保護所が満杯の場合や警察署長等に委託保護することが適当と判断した場合は,警察署長等に一時保護の委託をし,所長に対しては事後的に報告し承認を得ることになっていた。 触法少年事案の運用状況沖縄県に所在するB児童相談所及びC児童相談所において,警察からの児童通告に基づく触法少年について一時保護を行った件数は,平成15年度から平成17年度までの間に合計23件があった。 警察からの通告は,土曜日が3件,日曜日が1件,公休日が1件,平日の執務時間外が18件であり,平日の執務時間内に通告が行われた事案はなかった。 - 14 -3年間に通告があった23件全件について,警察署長への一時保護の委託が行われている。 本件に関する経過(1)不審火の発生A市内では,7月から8月にかけて,前提事実(2)に記載のとおりの不審火,放火が発生していた。 (2)D警部補らは,前記の不審火に関して,8月7日(土曜日)午前10時30分から,発生現場付近の少年等から聞き込みをしていたところ,同日午後2時ころ,控訴人の知人である少年から,自分の知っている少年で,他人の家にロケット 不審火に関して,8月7日(土曜日)午前10時30分から,発生現場付近の少年等から聞き込みをしていたところ,同日午後2時ころ,控訴人の知人である少年から,自分の知っている少年で,他人の家にロケット花火を投げ込んだり,公園の草に火をつけて燃やしたりしたことがある者がいる,その少年は,控訴人である旨の供述を得た。 そこで,D警部補らは,同日午後3時30分ころ,控訴人から事情を聞くために控訴人宅へ赴き,控訴人の母親に対して,「息子さんから話を聞きたいことがあるので,F交番で話を聞いて良いですか。」と告げたところ,控訴人の母親は,これを承諾した。D警部補らは,控訴人をF交番へ任意同行した。 (3)D警部補らは,8月7日午後4時ころ,F交番において,控訴人から事情を聴取した。D警部補らの事情聴取に対して,控訴人は,ゴミ箱等を花火を使って燃やしたことがある旨述べ,「昨日も,僕の家の近くのアパート駐車場のそばにある他人の物置に火をつけて燃やした。」などと述べるに至った。 そこで,D警部補らは,控訴人から更に詳しく事情を聴取するため,F交番から自動車で15分ほどのA警察署(沖縄県A市tb丁目u番v号)へ控訴人を同行した。 D警部補らは,控訴人に対し,A警察署刑事第一課において,控訴人が火をつけたところを紙に書いて説明するように求めた。控訴人は,8月7日午後4時25分ころ,9個所に放火したことを認める旨の「じぶんがもやしたところ」と題する書面を作成した。 - 15 -D警部補,K巡査部長,E巡査及びJ巡査は,8月7日午後4時40分ころから,控訴人を連れ,現場引き当たり調査を行った。 (4)他方,8月7日午後4時過ぎころ,A警察署少年課の少年係長であるG警部補は,A警察署刑事第一課長から,控訴人が一連の放火について自供をし,8月6日の放火2件についても自 当たり調査を行った。 (4)他方,8月7日午後4時過ぎころ,A警察署少年課の少年係長であるG警部補は,A警察署刑事第一課長から,控訴人が一連の放火について自供をし,8月6日の放火2件についても自供しているとの説明を受けた。G警部補は,控訴人を「保護者に監護させることが不適当である児童」であると認め,B児童相談所へ電話で児童通告し,控訴人からの事情聴取が未了であったので,B児童相談所長から一時保護の委託を受ける必要があると考えた。そこで,G警部補は,A警察署少年課長へ電話で連絡し,また,A警察署長,刑事第一課長にも同様の報告をし,それぞれ,その了解を得た。 その上で,G警部補は,8月7日午後4時15分ころ,B児童相談所に電話で連絡し,当直担当者であるPに対し,電話で,控訴人を補導したところ,一連の不審火に関与がありそうであり,事情聴取を行っており,一時保護の委託を依頼してほしい旨を伝えた。 (5)8月7日におけるB児童相談所の勤務体制は,午前6時から午後2時までの勤務者,午前7時30分から午後5時15分までの勤務者,午前10時から午後8時までの勤務者,午後3時から翌日の午前6時までの勤務者が各1名で担当していた。また,一時保護所には,男女各10名(合計20名)の定員のところ,男7名,女7名の計14名の児童が在籍していた。 G警部補から連絡を受けたPは,H課長に対し,A警察署から電話による通告があった旨を電話連絡した。 H課長は,午後5時ころ,A警察署に電話を入れ,G警部補から事情を聞いた。 G警部補は,「控訴人は中学2年生,13歳で,7月20日からA市a一帯で発生した放火を自供している。昨晩,発生した放火2件も自供しており,さらに放火する虞があり,保護者に引き渡すわけにはいかない。」旨説明した。 H課長は,控訴人が連続放火という重大事件を らA市a一帯で発生した放火を自供している。昨晩,発生した放火2件も自供しており,さらに放火する虞があり,保護者に引き渡すわけにはいかない。」旨説明した。 H課長は,控訴人が連続放火という重大事件を自供していること,放火は夜間発- 16 -生しており,一歩間違えば他人の生命,財産に危険が及ぶおそれがあること,少年にこれ以上罪を重ねさせる訳にはいかないので保護することが本人のためにも良いこと,事案の概要を把握するために警察の継続調査が必要と認められたこと,放火事案であることから家庭裁判所に送致になる公算が高く,警察に委託した方が,逃走のおそれがないことなどから,児童相談所運営指針に規定する緊急保護の要件の一つである「子どもの行動が自己又は他人の生命,身体,財産に危害を及ぼし若しくはそのおそれのある場合」に該当し,一時保護の必要性と緊急性があると判断した。また,当日が土曜日で限られた人員での当直体制であり,インテイクワーカー,相談課長であるH課長自身も休みとなっていたことから,事務提要に規定する警察署への一時保護の委託の要件である「夜間発生したケース等で,直ちに一時保護所に連れて来ることが著しく困難な児童」であり,「警察署へ一時保護の委託が妥当と認められる児童」に該当すると判断した。H課長は,その際,相談課の職員の中に,出勤し,受入対応が可能な者がいるか等については検討しなかった。 H課長は,G警部補に対し,控訴人について,A警察署長に一時保護の委託をする旨伝えた。 (6)G警部補は,8月7日午後7時過ぎ,控訴人を刑事第一課から少年課に連れてきて,少年課執務室において,控訴人から事情聴取した。その際,控訴人は,G警部補に対し,触法事実を認める供述をした。G警部補は,その後,控訴人の母親に電話をかけ,控訴人をA警察署で一時保護する旨連絡した ,少年課執務室において,控訴人から事情聴取した。その際,控訴人は,G警部補に対し,触法事実を認める供述をした。G警部補は,その後,控訴人の母親に電話をかけ,控訴人をA警察署で一時保護する旨連絡した。 控訴人の母親は,8月7日午後9時ころ,A警察署で,控訴人と面談した。控訴人は,母親に対し,泣きながら調査状況等について話した。 控訴人は,同日,A警察署の保護室に泊められた。 (7)H課長は,翌8月8日(日曜日)午前9時ころ,所長に電話による報告を行い,所長から,委託時間は24時間とし,H課長と相談課の地区担当児童福祉司が出勤して対応するように指示を受けた。H課長は,所長からの指示をA警察署に電話し,委託時間は24時間とし,その後は身柄付きで児童相談所へ送致するよう- 17 -依頼した。 (8)G警部補は,8月8日午前11時ころから,改めて控訴人の事情聴取を行った。控訴人は,一連の放火を認める趣旨の供述を行った。そのため,G警部補は,その旨記載した控訴人の申述書を作成し,かつ控訴人の供述を途中までテープ録音した。 (9)その後,A警察署長は,8月8日午後4時ころ,控訴人が自供した事実のうち,被害届出がなされている事案を触法事実として児童通告書を作成し,B児童相談所長に対し,身柄付きで送致を行った。児童通告書には,処遇意見として,「触法少年には,常習的な火遊びが認められ,性格の矯正,理非弁別指導が必要と認められるので,児童支援施設に収容し矯正させる必要がある。」と記載されている。 (10)B児童相談所は,H課長と児童福祉司が受入対応を行った。H課長が控訴人の母親から,児童福祉司が控訴人から,それぞれ2時間程度事情聴取の調査を行った。控訴人が通学する中学校にも電話で事情聴取した。控訴人は,放火について「やっていない。」と否認していたが, 課長が控訴人の母親から,児童福祉司が控訴人から,それぞれ2時間程度事情聴取の調査を行った。控訴人が通学する中学校にも電話で事情聴取した。控訴人は,放火について「やっていない。」と否認していたが,「放火したかどうかはっきりさせよう。」と説得し,一時保護所へ入所させた。 (11)B児童相談所長は,8月9日,那覇家庭裁判所に控訴人を送致し,那覇家庭裁判所裁判官は,同日,控訴人に対し,観護措置決定をした。 その後,那覇家庭裁判所は,8月13日から同年9月1日まで,3回にわたって,審判を開いて審理し,その上で,9月29日,控訴人に対し,触法事実なしを理由として,不処分の決定をした。 第5当裁判所の判断当裁判所は,前記認定の事実関係の下において,控訴人の主張する違法事由のうち,一時保護委託はその要件を欠くから,A警察署において控訴人を24時間身柄拘束したことは違法であり,控訴人がこれによって被った損害を賠償する責任があるが,その余の違法事由は失当である,と判断する。その理由は,以下のとおりで- 18 -ある。 一時保護について(1)児童相談所長が行う児童に対する一時保護については,児童福祉法33条1項に「児童相談所長は,必要があると認めるときは,第26条第1項の措置をとるに至るまで,児童に一時保護を加え,又は適当な者に委託して,一時保護を加えることができる。」と規定されている。一時保護は,棄児,被虐待児童,触法少年などを緊急に保護し,児童の処遇方針を決定するために行動を観察し,又は短期の指導を行うために,児童相談所長が行う行政処分であり,児童の健全な育成を目的とするものである。 (2)児童相談所長は,前記のとおり,「適当な者に委託して,一時保護を加えることができる。」とされており,「適当な者」の範囲については法令上の制限はなく,一 の健全な育成を目的とするものである。 (2)児童相談所長は,前記のとおり,「適当な者に委託して,一時保護を加えることができる。」とされており,「適当な者」の範囲については法令上の制限はなく,一時保護の制度趣旨から適当といえる者であれば,委託が可能であると解される。ただし,児童の一時保護を行うことは児童相談所の主たる業務であり(平成17年改正前の児童福祉法15条1項4号),児童を一時保護するための施設として一時保護所が児童相談所に付設されている(同法17条)から,一時保護は,一時保護所で行うのが原則であり,他の者に委託して行う場合は,一時保護所においては,一時保護を実施することができないか,他の者に委託して実施した方が一時保護の目的に資することが明らかな場合など例外的な場合に限定されると解すべきである。 (3)警察も少年警察活動については,少年の非行の防止及び保護を通じて少年の健全な育成を図ることを目的としている(少年警察活動規則1条1項)ものの,一時保護は,児童の健全な育成を目的とする児童相談所長が行う行政処分であって,少年の犯罪捜査・触法調査を目的とするものではないから,警察署長への一時保護の委託は,一時保護所における一時保護では対応できず,警察署に一時保護を委託するしか他に方法がない場合に限定されると解すべきである。 昭和25年7月31日児発第505号厚生省児童局長通知において,「一時保護- 19 -を要する児童が警察官,公吏によって発見され,児童相談所がこれを直ちに引き取ることが不可能であるような事情にある場合には,児童相談所長はその児童の一時保護を警察署長に委託することが出来る。」とされ,また,昭和26年1月17日児発第12号厚生省児童局長通知において,警察官が発見した児童又は一般人から警察が引き受けた児童で,児童相談所 の児童の一時保護を警察署長に委託することが出来る。」とされ,また,昭和26年1月17日児発第12号厚生省児童局長通知において,警察官が発見した児童又は一般人から警察が引き受けた児童で,児童相談所が遠隔の地にあり,又は夜間のため児童を児童相談所の一時保護所に引き取ることができない場合には,一時保護を警察署長に委託することができる旨通知されたのは,いずれも上記の趣旨に基づき,限定的な運用をすべきことを通知したものであると解される。 なお,控訴人は,警察署長への一時保護の委託は,児童相談所が遠隔の地にあり,又は夜間のため児童を児童相談所の一時保護所に引き取ることができない場合に限定されると主張しているが,当該児童が反抗的態度を示し,逃走のおそれが強く,触法少年以外にも保護されている児童がいる一時保護所においては対応が困難な場合などにも,警察署長に対し,一時保護を委託することが許される場合もあり得ると解されるから,控訴人主張の場合に限定されるとすることはできない。 (4)また,一時保護は,児童の健全な育成を目的に児童相談所長が行う行政処分であって,刑事手続とその性質を異にし,その行政目的に応じた手続がとられるべきであるから,児童の行動の自由等を制限することにはなるが,一時保護の手続において,控訴人が主張するように刑事手続と同等の要件や手続によること,例えば,緊急逮捕手続や逮捕・拘留事実の特定と同様に律することを直ちに要求するものではないと解すべきである。 (5)以下,上記一時保護の趣旨及び前記認定事実に基づき,控訴人の主張について検討する。 電話通告の違法について(1)児童福祉法25条本文には,要保護児童を発見した者は児童相談所に通告すべき旨規定されているところ,児童通告の方法について定められてはいない。一時保護が児童にとって重大な 話通告の違法について(1)児童福祉法25条本文には,要保護児童を発見した者は児童相談所に通告すべき旨規定されているところ,児童通告の方法について定められてはいない。一時保護が児童にとって重大な処分であることに照らせば,緊急事態である場合など- 20 -特段の事情がない限りは,書面により通知が行われることが手続の適正を確保するためにも適切であると解される。訓令54条は,「触法少年の児童相談所等への通告は,規範第215条の定めるところにより行うものとする。ただし,急を要し,児童通告書(規範別記様式第20号)を作成して通告するいとまがない場合は,口頭又は電話をもって通告した後,児童通告書を作成するものとする。」旨規定しているのも,上記趣旨による規定であると解される。 (2)そこで,本件での電話による児童通告が訓令54条ただし書の「急を要し,児童通告書を作成して通告するいとまがない場合」に該当するか否かを検討する(控訴人は,本件について一時保護が必要であったこと自体は争っていないところであり,一時保護が必要であったことは肯定することができる。)。 本件の場合,先に認定したように,控訴人が,D警部補らに対し,放火の件について話をしたのが8月7日土曜日の午後4時ころであり,自供した内容が,深夜の放火事案であり,前日の晩の放火も自供していたという状況や控訴人の家庭事情・親の監護能力からすれば,その時点で控訴人を一時保護する必要性・緊急性があったことを認めることができる。そして,その時点から通告書を作成した上で児童相談所に通告をするとした場合には,相当な時間を要すると推認され,当時13歳であった控訴人を,任意という前提で,警察署に相当時間留め置く事態になることが予測されるから,通告書を作成することなく,直ちに電話による通告を行い,児童相談所にお 時間を要すると推認され,当時13歳であった控訴人を,任意という前提で,警察署に相当時間留め置く事態になることが予測されるから,通告書を作成することなく,直ちに電話による通告を行い,児童相談所において,控訴人を一時保護するか否か,また,一時保護するのであれば,児童相談所の一時保護所に受け入れるのか,A警察署長に一時保護の委託をするのか等の対応の検討を行ってもらう必要性・相当性があったと認めることができる。 したがって,本件においては,「急を要し,児童通告書を作成して通告するいとまがない場合」に該当すると認められる。 (3)控訴人は,電話通告による場合も,触法事実の特定が必要であるのに,本件では特定していない,あるいは,電話通告の後の通告書は,電話による児童通告の適否,合法性を検証判断するため,電話通告時の事実関係に基づき作成しなけれ- 21 -ばならないのに,その後の調査に基づき通告書が作成されている旨主張している。 しかしながら,前記認定のとおり,H課長は,児童相談所の宿直を通じて得たG警部補の説明のほか,8月7日の午後5時ころ,G警部補に電話し,G警部補から事情を聞いた上で,一時保護の要否を判断しており,児童相談所において,一時保護の要否を判断するに足りる事実関係の通知がなされていると認められる。一時保護の判断に必要な触法事実の特定を欠いていたと認めることはできない。また,一時保護において緊急逮捕手続と同様な手続をとることを要求するまでの根拠はないから,電話による児童通告の適否を事後的に判断するために児童通告書を作成することが求められていると解することはできず,電話通告後の調査結果に基づき児童通告書を作成したことをもって一時保護の委託が不適法になるとすることもできない。 (4)以上によれば,A警察署による電話通告は,緊急の必要性が と解することはできず,電話通告後の調査結果に基づき児童通告書を作成したことをもって一時保護の委託が不適法になるとすることもできない。 (4)以上によれば,A警察署による電話通告は,緊急の必要性があって行われており,控訴人が違法であると主張する点はいずれも採用できない。 一時保護の違法について(1)認定事実によれば,H課長は,G警部補からの説明に基づき,控訴人については,一時保護をする必要性があると判断した上で,当日が土曜日であり,保護課長であるH課長もインテイクワーク担当者も不在であることから,A警察署長に控訴人について一時保護の委託をしていると認められる。 (2)しかしながら,次のとおり,控訴人をA警察署長への一時保護委託をする要件があったと認めることができない。 すなわち,①A警察署とB児童相談所は,隣接市に位置しており,遠隔地であるとは認められない(時間にして30分もあれば行き来できると認められる。)。 ②A警察署からの電話通告があったのが午後4時ころであり,夜間とは言えない。 ③8月7日,B児童相談所の付設の一時保護所には,男女各10名の定員であるところ,男女各7名が在籍しており,定員には余裕があった。④電話の通告があったのは土曜日であり,B児童相談所では宿直勤務者しかおらず,電話通告を受け- 22 -ても一時保護を判断する担当者は不在であったと認められる。しかし,前記認定のとおり,電話連絡を受けたH課長は,G警部補からの電話による説明で一時保護が必要であると判断している(一時保護委託においても,児童相談所は,一時保護の処分をするか否かを判断した上で委託を判断すべきであって,一時保護委託をするからといって一時保護の必要性の判断が不必要になるものではないし,身柄付きの送致を受けた際に改めて一時保護の必要性の調査をす 処分をするか否かを判断した上で委託を判断すべきであって,一時保護委託をするからといって一時保護の必要性の判断が不必要になるものではないし,身柄付きの送致を受けた際に改めて一時保護の必要性の調査をするものではない。一時保護の委託をする際に,一時保護の必要性は判断されなければならない。)から,実際に児童を受け入れるに際に必要な手続は一時保護の趣旨,一時保護所での日常生活上の注意事項等の事務的な説明にとどまることになるし(乙19。したがって,実際の受入れ事務手続は,課長職でなくても対応可能であろう。),翌日曜日に出勤したH課長と児童福祉司が控訴人を受け入れるに際して行った実際の業務(控訴人と保護者から2時間程度の事情聴取が行われているが,すでに一時保護処分は決定されており,受入れの際に控訴人の将来の処遇を決定するための調査までを行う必要はないと思料されるから,直ちに土曜日に控訴人を受け入れる面接にも同程度の調査が必要であったとは認められない。)を考慮しても,8月7日の土曜日にH課長あるいはその代わりの担当者が出勤して一時保護が決定された控訴人を受け入れる手続をとることが不可能であったとまで認めることは困難である(仮に,夜間でもないのに,一時保護する児童を受け入れる職員を出勤させる体制が事実上とれなかったとすれば,緊急性を要する一時保護の権限を有する児童相談所が自己の勤務体制の不備・準備不足を理由に一時保護を第三者に委託したことなり,本来許されるべきことではない。)。⑤控訴人は警察における調査に対して反抗的な態度を示すなどはしておらず,控訴人を一時保護所に受け入れることが困難な事情があったとも認められない。⑥以上の諸事情からすれば,電話通告を受けた後,B児童相談所において,控訴人を一時保護所に受け入れることが不可能ないしは著しく困難であ 保護所に受け入れることが困難な事情があったとも認められない。⑥以上の諸事情からすれば,電話通告を受けた後,B児童相談所において,控訴人を一時保護所に受け入れることが不可能ないしは著しく困難であったとは認められない。他方,⑦G警部補は,児童相談所に電話通告をした際に,継続調査の必要性があるので,一時保護の委託をするように要請し,H課長- 23 -も,警察による継続調査が必要であることを一時保護の必要性の一要素と考えていたとうかがえ,平成15年度から平成17年度において,触法少年について警察署から通告があった事案については,B児童相談所及びC児童相談所では,全件について警察署長に一時保護の委託をするという運用がなされていたことなどからすれば,児童相談所が控訴人をA警察署長へ一時保護委託をしたのは,控訴人を一時保護所に受け入れることが困難か否かについて十分な検討をすることなく,警察における調査継続の必要性に配慮しての判断であったと推測できる。 (3)触法少年の場合には,家庭裁判所に送致されることになる場合が多く,触法事実の有無に関する調査は,児童相談所も行うことができるものの,その調査能力については事実上の限界があり,警察による調査が十分に行われる必要性があること自体は否定できない。事案の解明をすることは,触法事実のない者を誤って処分しないためにも,また,触法事実のある者についても適切な保護を施し,その健全な育成を図るためにも必要であることも肯定できる。触法少年については,調査のための強制力の行使が認められておらず,任意の手続である調査により事案の解明を図る必要があり,児童相談所・警察にとって,限られた時間の中で十分な調査を尽くすことが容易なことではないことは理解し得るところではある。 しかしながら,警察の調査を継続する必要があるから 事案の解明を図る必要があり,児童相談所・警察にとって,限られた時間の中で十分な調査を尽くすことが容易なことではないことは理解し得るところではある。 しかしながら,警察の調査を継続する必要があるからといって,調査継続の便宜のために本来の目的と異なる一時保護(一時保護は,犯罪捜査や触法事実の調査のために設けられた制度でないことは明らかである。)を利用し,一時保護の委託を警察署長に対して行うことは,法律が予定していないところであり,許されないといわざるをえない。警察による調査方法については,警察の触法事件についての調査権限が児童相談所に身柄付き通告を行うことによって直ちに消滅するものではなく,児童が一時保護所に受け入れられた後においても,児童相談所における調査と調整をしながら,児童から事情を聴取するなどの任意の調査活動を行うことができると解されるから,触法少年に関する調査についての立法的解決がされていない現行法の下においては,一時保護所における受入れが不可能ないし著しく困難な事情- 24 -がない限りは,当該児童に対する一時保護は原則どおり一時保護所で行いつつ,調査について,警察と児童相談所が調整を図っていくべきであるとするしかない。 (4)以上によれば,A警察署長への控訴人の一時保護の委託は,一時保護所への受入れが不可能ないし著しく困難な事情がなかったにもかかわらず,触法事実の調査の便宜のために一時保護の委託がされたものであり,児童相談所長の一時保護の委託に関する裁量を逸脱して濫用した無効な処分であったと認められるから,A警察署長がこの一時保護委託に基づき控訴人をA警察署に拘束したことは違法であったと評価される。 調査の違法控訴人は,呼出しの際に親の確認を得ていないこと及び取調べ時に親の立ち会いを求めていないことから違法であると主 委託に基づき控訴人をA警察署に拘束したことは違法であったと評価される。 調査の違法控訴人は,呼出しの際に親の確認を得ていないこと及び取調べ時に親の立ち会いを求めていないことから違法であると主張している。 この点については,D警部補らの捜査が依命通達の趣旨に十分に沿っていたか否かには疑問も残るが,控訴人に対する取調べの際に,D警部補らが強圧的な調査を行ったと認められないことは原判決29頁8行目から同頁25行目に記載されたとおりであること,控訴人が調査を拒否したり,母親の立ち会いを希望したりはしていなかったこと,呼び出しの際,母親が同行を希望したのにそれを阻止したというような事情まではなく,控訴人の母親も,交番において,D警部補が母親の立ち会いなく控訴人から話を聞くことについては承諾していたとはいえることなどからすれば,違法な調査であったとまでは評価できない。 したがって,調査の違法に関する控訴人の主張は採用できない。 以上の検討によれば,控訴人の主張中,A警察署長に一時保護の委託がされ,24時間身柄を拘束されたことについての違法を主張する点については理由がある。 そして,控訴人が,本来,一時保護所において保護されるべきところを,警察署において身柄が拘束されたことによって,一定の精神的苦痛を受けたことは推認できるが,その身柄拘束の時間,一時保護の必要性(すなわち拘束自体の必要性)は肯定できること,警察で身柄拘束中に行われた現場引き当たり調査や事情聴- 25 -取が控訴人の任意の意思に反して強制されたとまでは認められないことなどの諸事情に照らせば,控訴人の上記苦痛を慰謝する金額は,20万円をもって相当と認める。 以上のとおり,上記認定・説示した違法な身柄拘束行為は,被控訴人の公権力の行使に当たる公務員が,その職務として行ったも 照らせば,控訴人の上記苦痛を慰謝する金額は,20万円をもって相当と認める。 以上のとおり,上記認定・説示した違法な身柄拘束行為は,被控訴人の公権力の行使に当たる公務員が,その職務として行ったものと認められるから,控訴人は,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金20万円及び不法行為日の後である平成16年8月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 第6 結論 よって,控訴人の請求は上記の範囲で理由があるから,本件控訴に基づき,原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所那覇支部民事部裁判長裁判官小林正明裁判官唐木浩之裁判官木山暢郎
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