平成21(行ヒ)401 損害賠償(住民訴訟)請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年7月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 大阪高等裁判所 平成20(行コ)38
ファイル
hanrei-pdf-81502.txt

判決文本文5,514 文字)

- 1 - 主文 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき,第1審判決を取り消し,被上告人の請求を棄却する。 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 理由 上告補助参加代理人松本岳ほかの上告受理申立て理由2(2)について 1 本件は,上告補助参加人(以下「参加人」という。)が堺市から支払を受けた平成12年度から同16年度までの期間における介護保険法上の居宅介護サービス費及び居宅介護サービス計画費は,参加人が不正の手段により受けた指定居宅サービス事業者及び指定居宅介護支援事業者の各指定を前提としており,参加人は偽りその他不正の行為によりその支払を受けたものであるから介護保険法(平成17年法律第77号による改正前のもの。以下同じ。)22条3項に基づきその返還義務を負うとして,同市の住民である被上告人が,参加人に対するその返還請求をするよう上告人に求める住民訴訟である(なお,原審における被上告人の主張の内容等に照らすと,本件の請求の対象は専ら同項に基づく返還請求であると解される。)。 2(1) 介護保険法によれば,指定居宅サービス事業者及び指定居宅介護支援事業者は,都道府県知事が指定する(同法41条1項,46条1項)。 (2) 居宅要介護被保険者(要介護認定を受けた被保険者のうち居宅において介護を受けるもの。以下「被保険者」という。)が指定居宅サービス事業者から指定居宅サービス(上記(1)の指定に係る居宅サービス事業を行う事業所により行われ- 2 -る居宅サービス)を受けた場合には,所定の居宅介護サービス費が市町村から被保険者に支給される(介護保険法41条1項,4項)。また,被保険者が指定居宅介護支援事業者から指定居宅介護支援(上記(1)の指定 居宅サービス)を受けた場合には,所定の居宅介護サービス費が市町村から被保険者に支給される(介護保険法41条1項,4項)。また,被保険者が指定居宅介護支援事業者から指定居宅介護支援(上記(1)の指定に係る居宅介護支援事業を行う事業所により行われる居宅介護支援)を受けた場合には,所定の居宅介護サービス計画費が市町村から被保険者に支給される(同法46条1項,2項)。 そして,上記指定居宅サービス又は上記指定居宅介護支援がされた場合において,市町村は,被保険者が上記各事業者(以下,両者を併せて「事業者」という。)に支払うべき費用につき,被保険者に支給すべき額の限度において,これを被保険者に代わり当該事業者に支払うことができ(介護保険法41条6項,46条4項),当該事業者から上記居宅介護サービス費又は上記居宅介護サービス計画費の請求があったときは,所定の基準に照らして審査した上,これを支払うものとされる(同法41条9項,46条6項。以下,事業者に対して支払われる上記居宅介護サービス費又は上記居宅介護サービス計画費を併せて「介護報酬」という。)。 (3) 上記(1)の指定は,事業を行う者の申請により,事業所ごとに行われるが(同法70条1項,79条1項),都道府県知事は,申請者が厚生労働省令で定める基準を満たしていないなど所定の事由に該当するときには,指定をしてはならない(同法70条2項,79条2項)。そして,上記基準に係る事項の一つとして,原則として事業所ごとに専らその職務に従事する常勤の管理者を置かなければならないことが定められている(指定居宅サービス等の事業の人員,設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)6条,94条,指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号。平成18年厚生労働省令第3 ビス等の事業の人員,設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)6条,94条,指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号。平成18年厚生労働省令第33号による改正前のもの)3条)。 - 3 -(4) 市町村は,事業者が偽りその他不正の行為により介護報酬の支払を受けたときは,当該事業者に対し,その支払った額につき返還させるほか,その返還させる額に100分の40を乗じて得た額の加算金を支払わせることができる(介護保険法22条3項)。 また,都道府県知事は,事業者に介護報酬の請求に関して不正があったときなど所定の事由がある場合には,当該事業者に係る指定を取り消すことができる(同法77条1項,84条1項)。事業者が不正の手段により指定を受けたときも,上記事由の一つとされている(同法77条1項6号,84条1項7号)。 3 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1) 参加人は,平成12年3月,その開設した通所介護の事業を行う事業所及び訪問介護の事業を行う事業所について,大阪府知事からそれぞれ指定居宅サービス事業者の指定を受け,同15年9月,その開設した居宅介護支援の事業を行う事業所について,同知事から指定居宅介護支援事業者の指定を受けて(以下,上記各事業所を併せて「本件各事業所」といい,各事業所に係る指定を併せて「本件各指定」という。),これらに係る事業を営み,本件各指定がされてから平成16年度までの間(以下「本件期間」という。),本件各事業所に係る事業について堺市から介護報酬の支払を受けた。 (2) 本件各指定に当たり,参加人は,その理事の夫であるBを本件各事業所の管理者として申請していた。Bは,本件各事業所の所在地から約10㎞離れた場所に設置されている幼稚園 報酬の支払を受けた。 (2) 本件各指定に当たり,参加人は,その理事の夫であるBを本件各事業所の管理者として申請していた。Bは,本件各事業所の所在地から約10㎞離れた場所に設置されている幼稚園の事務長であったが,本件各指定に係る申請に当たって大阪府知事に提出した経歴書には,Bが上記事務長である旨の記載はされていなかった。 - 4 -(3) 被上告人は,平成17年6月,Bには本件各事業所の管理者としての勤務実態がないから本件各指定は無効であり,堺市が本件各指定を前提として参加人に支払った介護報酬の全額が不当利得となるから,その返還請求をすべきであるとして,堺市監査委員に対して監査請求をしたが,同年8月,同請求が棄却されたため,同年9月,上記介護報酬の全額の返還及びその一部に係る加算金の支払をそれぞれ請求するよう求めて本訴を提起した。 他方,上告人は,大阪府知事による調査結果を受けて,参加人に対し,平成17年8月,訪問介護の事業を行う事業所におけるサービス提供記録への虚偽記載によってされた本件期間中の介護報酬の不正請求分542万円余の返還及びこれに100分の40を乗じて得た額の加算金の支払をするよう請求し,また,同18年1月,通所介護の事業を行う事業所における所定の基準に基づく減算等をせずにされた本件期間中の介護報酬の不適正請求分3135万円余の返還をするよう請求し,堺市は参加人から各請求に係る弁済を受けた。 なお,本訴の請求のうち,上記弁済に係る金員の支払を求める部分は,第1審においてその訴えが取り下げられ,また,上記加算金の支払を求める部分は,その請求を棄却すべきものとした原判決に対する被上告人からの不服申立てがなく,いずれも当審における審理判断の対象とはなっていない。 4 原審は,上記事実関係の下において,次のとお を求める部分は,その請求を棄却すべきものとした原判決に対する被上告人からの不服申立てがなく,いずれも当審における審理判断の対象とはなっていない。 4 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人の請求を一部認容すべきものとした。 参加人は,大阪府知事に対して本件各事業所に係る指定の申請をするに当たって,その管理者となるBが前記幼稚園の事務長であることを経歴書に記載すれば,管理者が常勤であることを求めた前記基準に抵触して指定がされなくなると考え,- 5 -あえて当該経歴を記載しないで秘匿するという不正の手段により本件各指定を受けたものと推認され,本件各指定を受けたことを前提として受領した本件期間中の介護報酬は,偽りその他不正の行為により支払を受けた(介護保険法22条3項)ものに当たると解される。したがって,参加人は,堺市に対し,上記介護報酬全額から前記返還された額を控除した残額につき返還義務を負うというべきである。 5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 介護報酬は所定の要件と基準を満たす場合に市町村から事業者に対して支払われるものであり(介護保険法41条,46条),これを欠いた支払が事業者に対してされた場合には,市町村は事業者に不当利得の返還を求め得ると解される。そして,介護保険法22条3項は,事業者が上記支払を受けるに当たり偽りその他不正の行為をした場合における介護報酬の不当利得返還義務についての特則を設けたものと解される。そうすると,事業者が同項に基づき介護報酬の返還義務を負うものと認められるためには,その前提として,事業者が介護報酬の支払を受けたことに法律上の原因がないといえる場合であることを要するというべきである。 前記事実関係によれば,参加 報酬の返還義務を負うものと認められるためには,その前提として,事業者が介護報酬の支払を受けたことに法律上の原因がないといえる場合であることを要するというべきである。 前記事実関係によれば,参加人は,本件期間において,本件各指定を受けた上で本件各事業所における事業を行っていたものであるところ,参加人が不正の手段によって指定を受けたという指定当初からの瑕疵の存在を理由とする大阪府知事による本件各指定の取消しはされておらず,また,参加人が大阪府知事から本件各指定を受けるに当たっての原審の認定に係る前記3(2)の経緯も,本件各指定を無効とするほどの瑕疵の存在をうかがわせるものとはいえない。そうすると,参加人が前記の既に返還済みの部分を除いた介護報酬の支払を受けたことにつき,不正の手段- 6 -によって指定を受けたことの一事をもって,直ちに法律上の原因がないということはできず,他に法律上の原因がないことをうかがわせる事情もない。 以上によれば,参加人は,堺市に対し,被上告人の請求に係る介護保険法22条3項に基づく介護報酬の返還義務を負うものではないというべきである。 6 これと異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決中上告人敗訴部分を取り消した上,同部分につき被上告人の請求を棄却すべきである。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宮川光治の補足意見がある。 裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。 都道府県知事が事業者に係る指定を取り消す行為は,介護保険法の条項(77条1項,84条1項)から明らか なお,裁判官宮川光治の補足意見がある。 裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。 都道府県知事が事業者に係る指定を取り消す行為は,介護保険法の条項(77条1項,84条1項)から明らかなとおり,裁量行為である。これは利用者に対するサービスの継続性・安定性の確保という要請を考慮する必要があるからであると理解できる。本件当時においても,指定取消処分に至るまでには,多段階にわたる指導や監査の過程があり,指導に従い是正されるなどした場合には,指定の取消しがなされないこともあり得たところである。なお,平成17年法律第77号により新設された介護保険法76条の2,83条の2は,各1項において,都道府県知事の措置勧告について定め,各2項以下に,勧告に従わない場合の措置を公表・命令・公示と段階的に定め,同法77条,84条は,各1項において,期間を定めてその指定の全部又は一部の効力を停止することができる旨を規定している。指定取消処- 7 -分は最後の手段という位置付けとなっている。 記録によれば,大阪府知事は参加人に対し管理者を改善する等の措置を講ずるよう改善指導を行っており,参加人はこれに従い新たな管理者を配置した事実がうかがわれる。大阪府知事は,事業者としての適性判断と介護サービスを受けている利用者のニーズを総合的に考慮して,参加人について指定取消処分を行わなかったとみることができるであろう。このように,大阪府知事が被上告人の主張する不正な手段により指定を受けたという事由で指定取消処分をしていないにもかかわらず,参加人が支払を受けた介護報酬について裁判所が上記事由の一事をもって返還義務を肯定することは,実質上,指定取消処分と同じ効果を生じさせることとなり,大阪府知事の裁量権を否定するに等しく,相当でないと思われる。 (裁判長裁判官 ついて裁判所が上記事由の一事をもって返還義務を肯定することは,実質上,指定取消処分と同じ効果を生じさせることとなり,大阪府知事の裁量権を否定するに等しく,相当でないと思われる。 (裁判長裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志裁判官横田尤孝裁判官白木勇)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る