平成22(許)2 売却許可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件

裁判年月日・裁判所
平成22年8月25日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 平成21(ラ)1698
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判決文本文5,937 文字)

- 1 -主文本件抗告を棄却する。 抗告費用は抗告人の負担とする。 理由 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。 (1)甲府地方裁判所は,平成20年4月28日,原々決定別紙物件目録記載1,3ないし7の土地建物(以下「本件不動産」という。)を含む不動産につき,担保不動産競売の開始決定をした(同裁判所同年(ケ)第117号担保不動産競売事件。以下「本件競売事件」という。)。裁判所書記官は,本件不動産につき,期間入札の方法により執行官に売却を実施させることとし,入札期間を平成21年8月6日から同月13日まで,開札期日を同月20日午前10時と定めた。 (2)相手方は,入札書を入れて封をした封筒(以下「本件封筒」という。)を執行官に提出して,上記入札期間内に入札(以下「本件入札」という。)をした。 本件封筒には,「開札期日平成21年8月20日午前10時」,「物件番号1,3~7」と記載されていたほか,本件競売事件の事件番号とは異なる「甲府地方裁判所平成21年(ケ)第117号」との記載があった。なお,相手方が本件封筒と共に提出した入札保証金振込証明書(以下「本件証明書」という。)には,本件競売事件の事件番号である「平成20年(ケ)第117号」との記載がされており,物件番号及び開札期日についても本件競売事件のそれと一致する記載がされていた。 (3)執行官は,平成21年8月20日午前10時に開かれた本件競売事件の開札期日において,本件封筒に記載された事件番号が本件証明書に記載されたそれと一致しないことを理由に,本件封筒を開封しないまま,本件入札を無効と判断し- 2 -た。抗告人は入札価額を1900万0100円とする入札をしていたところ,執行官は,ほかに適法な入札はないものとして,抗告人を最高価買受申出人と定めた。 執行裁判所は,同月27日 効と判断し- 2 -た。抗告人は入札価額を1900万0100円とする入札をしていたところ,執行官は,ほかに適法な入札はないものとして,抗告人を最高価買受申出人と定めた。 執行裁判所は,同月27日,抗告人に対し本件不動産を売却することを許可する旨の決定(原々決定)を言い渡した。 (4)相手方は,平成21年9月2日,原々決定に対し執行抗告をした。相手方は,抗告の理由として,本件封筒に封入された入札書には入札価額として2250万円と記載されており,本件入札が最高の価額での入札であったにもかかわらず,執行官が誤ってこれを無効と判断した上,抗告人を最高価買受申出人と定めたのであるから,売却の手続に重大な誤りがあると主張した。 原審は,①相手方は民事執行法(以下「法」という。)188条,74条1項に基づき執行抗告をすることができると解した上で,②本件封筒を開封することなく,本件入札を無効と判断してされた本件不動産の売却の手続には重大な誤りがあり,法188条,71条7号所定の売却不許可事由があるとして,原々決定を取り消し,抗告人に対する売却を不許可とする旨の決定をした。 抗告代理人森本紘章,同西尾亮平,同松戸大介の抗告理由第2の1について(1)所論は,最高価買受申出人と定められなかった入札人が,自己が最高価買受申出人と定められるべきであったと主張してする執行抗告は,それが認められたとしても,新たな売却の手続が執られるだけで,上記入札人は再び買受けの申出をすることができるという事実上の利益しか有しないから,相手方は抗告の利益を有せず,執行抗告は不適法であるというのである。 (2)担保不動産競売事件の期間入札において,執行官が,最高の価額で買受けの申出をした入札人の入札を誤って無効と判断し,他の者を最高価買受申出人と定- 3 -めて開 不適法であるというのである。 (2)担保不動産競売事件の期間入札において,執行官が,最高の価額で買受けの申出をした入札人の入札を誤って無効と判断し,他の者を最高価買受申出人と定- 3 -めて開札期日を終了した場合,売却の手続に重大な誤りがあることは明らかである。この場合,執行裁判所は,誤って最高価買受申出人と定められた者に対する売却を不許可とすることとなるが,その後は,改めて期間入札を実施するほかはなく,上記入札人は再び買受けの申出をすることができるにすぎないと解することは,最高価買受申出人と定められ売却許可決定を受けられるはずであった上記入札人の保護に欠けることになり,相当でない。他方,執行官による上記の誤りがあるからといって,既に行われた売却の手続全体が瑕疵を帯びると解する理由はなく,当該瑕疵が治癒されれば当初の売却の手続を続行するのに何ら支障はない。 そうすると,上記の場合には,執行裁判所は,誤って最高価買受申出人と定められた者に対する売却を不許可とした上で,当初の入札までの手続を前提に改めて開札期日及び売却決定期日を定め,これを受けて執行官が再び開札期日を開き,最高価買受申出人を定め直すべきものと解するのが相当である。このことは,当初の開札期日において開札されないまま無効と判断された入札があるため,当該入札が最高の価額での入札である可能性を否定することができない場合についても,同様である。そして,執行裁判所は,再度の開札期日を経て最高価買受申出人と定められた入札人について,売却不許可事由がない限り,売却許可決定をすべきこととなる。なお,法及び民事執行規則(以下「規則」という。)には,入札人に対し買受けの申出の保証を再度提供させることを予定した規定は置かれていないが,執行裁判所は,改めて開札期日を定めるに当たり,期限を定めて買 お,法及び民事執行規則(以下「規則」という。)には,入札人に対し買受けの申出の保証を再度提供させることを予定した規定は置かれていないが,執行裁判所は,改めて開札期日を定めるに当たり,期限を定めて買受けの申出の保証を提供させ,執行官はその提供をした入札人の入札のみを有効なものと扱えば足りるのであるから,この点は上記のように解する妨げにはならない。 したがって,自らが最高の価額で買受けの申出をしたにもかかわらず,執行官の- 4 -誤りにより当該入札が無効と判断されて他の者が最高価買受申出人と定められたため,買受人となることができなかったことを主張する入札人は,法188条,74条1項に基づき,この者が受けた売却許可決定に対し執行抗告をすることができるというべきである。 (3)これを本件についてみると,相手方は,自らが抗告人の入札額を上回る最高の価額で本件入札をしたにもかかわらず,執行官が誤ってこれを無効と判断した上,抗告人を最高価買受申出人と定めたため,抗告人に対し売却を許可する旨の原々決定がされ,これにより本件不動産を買い受けることができなかったと主張していることは前記1(4)のとおりであるから,相手方は,原々決定に対し執行抗告をすることができるというべきである。前記2①の原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。 同第2の2について(1)所論は,本件入札は,本件封筒に記載された事件番号と本件証明書に記載されたそれとが一致していないから,無効であるというのである。 (2)規則173条1項,47条は,期間入札における入札は,入札書を入れて封をし,開札期日を記載した封筒を執行官に提出することによってするものと定めている。規則が上記封筒に開札期日の記載を求めるのみで,事件番号や物件番号の記載を求めていないのは, 入札は,入札書を入れて封をし,開札期日を記載した封筒を執行官に提出することによってするものと定めている。規則が上記封筒に開札期日の記載を求めるのみで,事件番号や物件番号の記載を求めていないのは,開札期日の記載があれば当該封筒を開封すべき開札期日を特定することができるため,入札書の記載から判明する事件番号や物件番号については記載の必要がないからであると解される。 そうすると,当該封筒を開封すべき開札期日を特定することができるのであれば,当該封筒に記載された事件番号がその添付書類に記載されたそれと一致してい- 5 -ないとしても,当該入札が無効であるということはできず,執行官は開札期日において当該封筒を開封することを要するものというべきである。 (3)これを本件についてみると,相手方が提出した本件封筒には,開札期日として「平成21年8月20日午前10時」と明記されていたところ,同日時には本件競売事件の開札期日が指定されており,その事件番号と本件封筒に記載されていたそれとは,年の記載を除き一致していたこと,本件証明書に記載された事件番号,物件番号及び開札期日は,いずれも本件競売事件のそれと一致していたことは,前記1のとおりであることに加え,本件封筒に記載されていた事件番号に対応する事件の開札期日が平成21年8月20日又はこれに近接する日に指定されていたことはうかがわれない。 以上の事情に照らすと,本件封筒を開封すべき開札期日は平成21年8月20日午前10時と特定することができるから,本件封筒に記載された事件番号が本件証明書に記載されたそれと一致しなくても,本件入札が無効であるということはできない。しかるに,執行官は,本件入札を無効と判断した上で,抗告人を最高価買受申出人と定めたのであるから,本件不動産の売却の手続には重大な誤りがあり,法 なくても,本件入札が無効であるということはできない。しかるに,執行官は,本件入札を無効と判断した上で,抗告人を最高価買受申出人と定めたのであるから,本件不動産の売却の手続には重大な誤りがあり,法188条,71条7号所定の売却不許可事由があるというべきである。これと同旨の前記2②の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官金築誠志の補足意見がある。 裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。 私は,執行官が,最高の価額で買受けの申出をした入札人の入札を誤って無- 6 -効と判断し,他の者を最高価買受申出人と定めて開札期日を終了した場合(以下「執行官が入札を誤って無効と判断した場合」という。)には,執行裁判所は,当初の入札までの手続を前提に改めて開札期日等を定め,これを受けて執行官が再び開札期日を開くべきであるとする法廷意見に賛成するものであるが,このような手続の具体的な内容については,これまであまり論じられていなかったところであるので,この点について補足して意見を述べておくこととしたい。 執行官が入札を誤って無効と判断した場合に改めて行われる売却の手続は,飽くまで当初の手続の瑕疵を治癒するために,その限度で行われるものであって,当初の入札までの手続を前提に改めて開札期日を開いて最高価買受申出人を定め直すものにすぎない。そうだとすると,新たに売却実施処分(法188条,64条3項参照)を経る必要はなく,改めて開札期日及び売却決定期日が指定されれば足りると解するのが相当である。なお,通常の売却の手続においては,売却決定期日は,裁判所書記官が売却実施処分と同時に指定するものとされ(法188条,64条4項),開札期日も裁判所書記官が定 されれば足りると解するのが相当である。なお,通常の売却の手続においては,売却決定期日は,裁判所書記官が売却実施処分と同時に指定するものとされ(法188条,64条4項),開札期日も裁判所書記官が定めるものとされているが(規則173条1項,46条1項),これは定型的に行われる売却の手続を前提とするものである。 執行官が入札を誤って無効と判断した場合に改めて行われる売却の手続は,通常の売却の手続と異なる非定型的なものであるから,売却決定期日の変更や取消しの権限が執行裁判所にあると解されているのに準じて,再度の開札期日及び売却決定期日を指定する権限は,執行裁判所にあると解するのが相当である(法20条,民訴法93条参照)。 また,当初の開札期日の終了に伴い,買受けの申出の保証は,誤って最高価買受申出人と定められた入札人等の提供したものを除き,入札人に返還されているのが- 7 -通常であろうから,執行裁判所は改めて開札期日を定めるに当たって,買受けの申出の保証を再度提供する期限を定めるのが相当である。 次に,裁判所書記官は,規則37条各号に掲げる者に対し,開札期日及び売却決定期日を開く日時及び場所を通知するとともに(規則173条1項,49条,37条参照),当初の売却の手続において適法な入札をした入札人のうち,最高の価額で買受けの申出をしたもの及びこの価額を前提とすれば次順位買受けの申出をすることができる価額で買受けの申出をしたものに対しては,上記日時等に加え,買受けの申出の保証を再度提供するために必要な事項(提供の期限,方法等)を通知して,再度の売却の手続に参加する機会を与える必要があると解される。 他方,執行官が入札を誤って無効と判断した場合に改めて行われる売却の手続においては,当初の入札を有効なものと扱い,新たな入札は予定されていないの の手続に参加する機会を与える必要があると解される。 他方,執行官が入札を誤って無効と判断した場合に改めて行われる売却の手続においては,当初の入札を有効なものと扱い,新たな入札は予定されていないのであるから,公告(法188条,64条5項,規則173条1項,49条,36条1項),公示等(規則173条1項,49条,36条2項)は,いずれも不要である。 執行官は,当初の入札のうち,上記2のとおり執行裁判所が定めた期限までに買受けの申出の保証を再度提供した入札人の入札を有効と扱った上で,再び開札期日を開くことになる。執行官が,開札期日において,入札の適法性を審査し,最高価買受申出人を定めなければならないこと,執行裁判所が,売却決定期日において,売却不許可事由の有無を審査し,売却の許可又は不許可を言い渡さなければならないことなどは,通常の売却の手続と異なるところはない。 私の考える手続の概要は以上のとおりであるが,実務の実情に応じて柔軟な運用が行われることが望まれよう。 - 8 -(裁判長裁判官金築誠志裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官横田尤孝裁判官白木勇)

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