主文 1 被告は,原告に対し,1億5748万2705円及びこれに対する平成23年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とし,補助参加によって生じた費用は,これを5分し,その1を補助参加人の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,1億9702万3819円及びこれに対する平成23年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は,被告が設置,運営するA病院(以下「被告病院」という。)心療内科を受診していた原告が,原告のCT検査の結果,脳腫瘍の疑いがあったにも関わらず,同科医師らは,これを見落とし,脳腫瘍を放置したことから,脳腫瘍が拡大し,水頭症を発症し,後遺症が残ったなどと主張して,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として,1億9702万3 819円及びこれに対する原告の水頭症の発症が客観的に明らかになった時点である平成23年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(書証については特記のない限り枝番を省略する。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 ア原告は,平成元年4月生まれの女性である。 イ被告は,被告病院を設置,運営している国立大学法人である。 ウ補助参加人は,脳神経外科医であり,「B脳神経外科医院」の名称で診療所(以 ア原告は,平成元年4月生まれの女性である。 イ被告は,被告病院を設置,運営している国立大学法人である。 ウ補助参加人は,脳神経外科医であり,「B脳神経外科医院」の名称で診療所(以下「補助参加人医院」という。)を開設,運営している。 (2) 被告病院等における診療経過 ア原告は,平成18年8月24日,食欲不振及び不眠を主訴として,被告病院心療内科を受診し,神経性食欲不振症制限型と診断され,同年10月21日,体重減少及び脱水症状を呈したため,被告病院救急外来を受診し,同月26日,被告病院心療内科に入院した。 原告は,同月30日,頭部CT検査を受けたところ,右モンロー孔付近 に16ミリメートルの結節影が確認された。被告病院放射線科の医師は,頭部CT検査報告書に,第一にcentralneurocytoma(中枢性神経細胞腫)が疑われ,その他ependymoma(上衣腫),choroidplexuspapilloma(脈絡叢乳頭腫)が鑑別として挙がる旨を記載した。 被告病院心療内科医師は,頭部CT検査報告書に上記の指摘があること を見落とし,脳腫瘍に関する治療が行われないまま,原告は,同年12月5日に退院した。原告は,その後も被告病院心療内科に通院するなどしていたが,その間も脳腫瘍に関する治療は行われなかった。 (以上につき,甲A1~3,乙A1,2,4・3~6頁,5・3頁)イ原告は,平成23年11月30日に自宅で転倒し,同年12月1日,C 脳神経外科クリニックを受診し,MRI検査を受けたところ,脳梁部から第3脳室に伸びる腫瘍が確認され,水頭症を来していると診断された。(甲A18)ウ原告は,平成23年12月2日,被告病院において頭部CT,MRI検査を受け,右側脳室から第3脳室内にかけ 梁部から第3脳室に伸びる腫瘍が確認され,水頭症を来していると診断された。(甲A18)ウ原告は,平成23年12月2日,被告病院において頭部CT,MRI検査を受け,右側脳室から第3脳室内にかけて拡がる脳室内腫瘍があり,水 頭症を合併した中枢性神経細胞腫との診断を受けた。(乙A7・2,3頁) 原告は,同月5日,被告病院脳神経外科に入院し,同月7日に頭部CT検査を受け,右側脳室から第4脳室にかけて粗大な石灰化を伴う腫瘤があり,右側脳室内の病変は長径63×52×38ミリメートル大と診断された。(甲A5)(3) 補助参加人医院等における診療経過 ア原告は,平成23年12月15日,被告病院を退院し,同月20日,補助参加人医院に入院した。(甲A13・2頁,乙A9・1,2頁)イ原告は,平成24年1月3日,補助参加人医院において,D医師による脳腫瘍(右側脳室中枢性神経細胞腫)摘出術(以下「本件手術」という。)を受けた。(甲A6,13の4) ウ原告は,平成24年1月10日の時点では,水頭症なしとの診断を受けており,同日,脳室ドレナージが抜去されたが,同月18日には再度水頭症と診断され,同年2月22日,右脳室腹腔シャント術を受けた。(甲A7,13の3,20・22,24枚目)エ原告は,平成24年3月9日,補助参加人医院を退院した。(甲A13・ 2頁)オ原告は,平成24年12月6日,E病院において,感染性VPシャント機能不全に対する髄液シャント抜去術を受け,同月11日に水頭症手術(脳室腹腔シャント)を受けた。また,原告は,平成25年2月13日,補助参加人医院において,シャント機能不全症に対する右脳室腹腔シャント改 訂術を受けた。(甲A9,10,13の2)(4) 原告は,平成26年1 を受けた。また,原告は,平成25年2月13日,補助参加人医院において,シャント機能不全症に対する右脳室腹腔シャント改 訂術を受けた。(甲A9,10,13の2)(4) 原告は,平成26年1月9日まで補助参加人医院で経過観察を受け,同年2月19日以降はF脳神経外科クリニックで経過観察を受けており,平成27年6月3日,Gにおいて,脳腫瘍,水頭症,高次脳機能障害との診断を受け,同月4日,障害等級2級の精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた。 (甲A20,21,25,甲C10) (5) 被告は,平成31年4月23日の本件第3回口頭弁論期日において,原告の不法行為に基づく損害賠償請求権のうち,同年2月25日付けの請求の拡張申立書によって拡張請求された弁護士費用部分について,消滅時効を援用した。 第3 争点及び当事者の主張 被告病院心療内科の医師らに,原告の平成18年10月30日の頭部CT検査報告書(前記前提事実(2)ア)において脳腫瘍の疑いを指摘されていたにもかかわらず,かかる指摘を見落とし,平成23年12月に至るまで脳腫瘍を放置した過失(以下「本件過失」という場合がある。)があることに争いはない。 本件の争点は,①本件過失と原告の後遺障害との因果関係の有無(争点1),②損害額(争点2)及び③弁護士費用部分に係る不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効(争点3)である。 1 本件過失と原告の後遺障害との因果関係の有無(争点1)(原告及び補助参加人の主張) (1) 原告の主張ア本件過失により,原告の脳腫瘍が拡大し,水頭症を発症したことで,原告には記銘力障害・頭痛・めまい・認知症様症状・左上下肢の機能障害等の症状が生じた。原告の障害は,本件手術前から認められ,その原因は,増大した脳腫瘍, 告の脳腫瘍が拡大し,水頭症を発症したことで,原告には記銘力障害・頭痛・めまい・認知症様症状・左上下肢の機能障害等の症状が生じた。原告の障害は,本件手術前から認められ,その原因は,増大した脳腫瘍,脳外科手術の合併症,合併症として続発した水頭症による脳損傷 の複合であり,これらの合併症は,脳腫瘍が顕著な水頭症を合併するまで増大したことによる不可避的かつ連続的な経過である。 脳腫瘍が小さいときにはより侵襲性の低い手術以外の治療法選択の余地があり,また腫瘍の大小が手術の難易度や予後に影響を与えることは自明であり,脳腫瘍の増大がなければ,脳外科手術による合併症や術後合併症として の水頭症を避けることができたし,水頭症の治療として実施されたシャント 術を受けることもなかった。 イ被告の主張について(ア) 水頭症は,平成18年10月の頭部CT検査時には脳腫瘍に伴う不可避的な合併症ではなかったが,その後被告が脳腫瘍を長期間放置したことによって脳実質を圧迫・損傷又は不可避的合併症である水頭症を 発症させたにすぎない。 また,本件手術により術前の水頭症の症状に一時的な改善がみられたことが,脳室内からくも膜下腔へ至る経路の閉塞が解消されたことによるものか明らかではないし,術後の水頭症が閉塞性か交通性かも明らかでない。 (イ) 本件手術についても不適切な点はなかった。脳腫瘍摘出術において,可及的全摘を目指すことは当然であるし,客観的な資料である画像から補助参加人医院における手術手技の不適切な点は認められず,本件手術の際に脳弓が損傷したという被告の主張は憶測にすぎない。また,即時記憶の変遷のみから因果関係の有無を判断することは医学的にも誤りであ る。 (ウ) シャント感染は,シャント術の典型的な合併症であり 脳弓が損傷したという被告の主張は憶測にすぎない。また,即時記憶の変遷のみから因果関係の有無を判断することは医学的にも誤りであ る。 (ウ) シャント感染は,シャント術の典型的な合併症であり,因果関係を遮断する事情とはいえない。また,原告の症状は本件手術前から認められていたものであり,原告の現在の症状はシャント感染に伴う水頭症が悪化したためであるとの被告の主張は,原告の症状の経過の一場面を 切り取ったものにすぎない。 (2) 補助参加人の主張ア本件手術について(ア) 本件手術の際に,D医師が原告の脳弓を損傷したということはない。 即時記憶が術後に著しく低下したとの評価自体,明確なものとはいえな いし,仮にそうであっても,それだけで本件手術により脳弓を損傷したと の結論が導けるものではない。 また,D医師の術式は,脳弓障害を起こさせないのが特徴である。なお,巨大脳腫瘍による脳器質の圧迫や髄液の流通阻害による影響や,目に見えない範囲の微細な腫瘍がわずかに残存し,その影響が残る可能性はあり,その影響により,わずかな手のしびれや記銘力障害等の症状が 生じることは考えられる。 (イ) 技術が不足する医師であれば,脳弓を傷つけることを避けるために,結果として部分切除に留まることがあるが,脳腫瘍外科手術において,可能な限り全摘出を目指すことは当然である。部分削出にとどまった場合,放射線治療を行っても十分な効果は期待できないのであり,全 削出に成功しなければ,原告は,寝たきりか,よくても車いすでの生活,悪ければ限られた余命とならざるを得なかった。 (ウ) 本件過失によって腫瘍が増大したことにより摘出手術の難易度は著しく増大し,不可避的な症状が生じる可能性も高くなることは自明であり,仮に本件手術が現 れば限られた余命とならざるを得なかった。 (ウ) 本件過失によって腫瘍が増大したことにより摘出手術の難易度は著しく増大し,不可避的な症状が生じる可能性も高くなることは自明であり,仮に本件手術が現在の原告の症状に影響を与えているとすれば, それは本件過失によって増加した危険性が顕在化したことにほかならない。 イ補助参加人医院におけるシャント管理にも問題はなかった。 補助参加人は,本件手術後,原告に対し,月1~2回程度の頻度で診察を行い,MRI画像診断も行った結果として,特に変化や異常を認めなか ったし,血液検査等における炎症反応や項部硬直等の症状もなかったのであり,平成24年6月時点でシャント感染が生じていたことはあり得ない。 また,補助参加人は,同年10月以降の時期に,原告の記憶障害が悪化しているとの診断はしていない。 (被告の主張) 否認ないし争う。本件過失と現在の原告の症状との間に因果関係はない。 (1) 脳腫瘍摘出術では,脳腫瘍の大きさにかかわらず,一定割合で後遺症が発生するところ,平成18年10月の検査結果で脳腫瘍の疑いとされても,最終的には脳腫瘍摘出術を実施することになり,原告に一定の後遺症が残存していた可能性は否定できない。そして,後遺症が残存する可能性は,脳腫瘍の大きさよりも,治療方法の選択や手術の適切さによることの方がはるか に大きい。 (2) 本件手術により,原告の脳室内からくも膜下腔へ至る経路の閉塞は解消され,脳腫瘍の拡大により発生していた閉塞性水頭症の影響は完全に除去されており,本件手術後に発生した水頭症は,術前の水頭症とは異なる原因で発生したものであって,術前の水頭症が再発したものではない。脳腫瘍の 大きさには関係なく,脳腫瘍を摘出することになるところ,水頭症 り,本件手術後に発生した水頭症は,術前の水頭症とは異なる原因で発生したものであって,術前の水頭症が再発したものではない。脳腫瘍の 大きさには関係なく,脳腫瘍を摘出することになるところ,水頭症は,脳腫瘍摘出術に伴う不可避的な合併症である。 (3) 補助参加人医院での治療についてア D医師は,脳弓を損傷するおそれの高い第3脳室付近の脳腫瘍全摘出(本件手術)を行っており,本件手術後に術前にはない原告に著明な記銘力障 害が発生していることからすれば,著明な記銘力障害は本件手術の際に原告の脳弓等が損傷したことによるものとしか考えられない。 そして,腫瘍を最大限摘出すると,脳弓損傷などの重度の障害を起こすリスクが高いため,通常は深部の摘出を留めて,残存腫瘍に対して放射線治療を検討するのが妥当な治療戦略である。本件手術で摘出が過度に行わ れたことによる障害が,患者の現状に大きく影響している。 イまた,原告は,平成24年6月8日「最近頭痛が悪化している。」,同月26日「本日,午後2時頃歩行中に電気のポールにぶつかった。」などと訴えており,同年10月頃には原告の症状は「軽度の記憶障害を認めるようになり,徐々に悪化」しており,これらの時点で,シャント感染を疑 い,速やかに検査を実施し,シャント抜去やシャント再建を行うべきであ った。原告の症状は,同年1月に本件手術,同年2月にシャントを実施したことによって大幅に改善していたが,同年6月以降シャント感染によりシャントが詰まり,これに対して何の処置も施されなかったことが原因で水頭症の症状が悪化し,現在の症状の症状を発症したものである。 2 損害額(争点2) (原告の主張)原告には,記銘力障害,頭痛及びめまい等の症状が生じており,平成27年6月3日,高次脳機 水頭症の症状が悪化し,現在の症状の症状を発症したものである。 2 損害額(争点2) (原告の主張)原告には,記銘力障害,頭痛及びめまい等の症状が生じており,平成27年6月3日,高次脳機能障害と診断され,同日症状固定とされた。本件過失によって生じた損害は,以下のとおり,合計1億9702万3819円である。 (1) 治療費 103万7136円 (2) 入院雑費 23万5500円(1500円/日×157日)(3) 付添看護費 551万6500円ア入院時 102万0500円(6500円/日×157日)イ平成23年12月1日から症状固定時までの自宅付添看護費等 449万6000円(4000円/日×(1281日-157日)) (4) 入通院慰謝料 300万円(入院5月,通院22月)(5) 休業損害 1399万1448円(440万6600円/年÷365日×1159日)原告の最終学歴は高校卒業であるが,ほぼ全ての卒業生が四年制大学に進学するH高等学校の特進コースに所属していたことからすれば,原告が四年 制大学に進学する蓋然性は極めて高かったといえ,基礎収入は,平成25年賃金センサスの女性大学・大学院卒を基準とし,年額440万6600円とすべきである。 休業期間は,原告が大学卒業後,平成24年4月に就職したと仮定して,症状固定日までの1159日とすべきである。 (6) 後遺症慰謝料 2370万円 ア原告は,適切な食事摂取及び身辺の清潔保持について,自発的にできるが援助が必要な状況と診断されており,「高次脳機能障害のため,食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの」に該当する。 また,原告は,身辺の安全保持及び危機対応については援助があればできるという状況であり,社会的手続 されており,「高次脳機能障害のため,食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの」に該当する。 また,原告は,身辺の安全保持及び危機対応については援助があればできるという状況であり,社会的手続や公共施設の利用はできず,外出時常 に誰かの援助が必要と診断されているから,「重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが,1人で外出することなどが困難であり,外出の際には他人の介護を必要とするため,随時他人の介護を必要とするもの」に該当する。 したがって,原告は,労災等級認定における「高次脳機能障害のため, 生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について,随時介護を要するもの」(第2級の2の2)に該当する。 イさらに,原告は,左上下肢に麻痺及び筋力の低下が残り,左手の握力が0キログラムとなり,左手を十分に使うことができない状態である。 ウ以上によれば,原告は,後遺障害等級2級に該当する。 (7) 後遺症逸失利益 7620万9503円(440万6600円×100%×17.2944)基礎収入を年額440万6600円,労働能力喪失率を100%,就労可能期間を症状固定時(26歳)から67歳までの41年間(ライプニッツ係数17.2944)とすべきである。 (8) 将来介護費 5542万2476円(8000円/日×365日×18.9803)原告は,「精神障害を認め,日常生活に著しい制限を受けており,常時援助を必要とする」こと,また,食事摂取や身辺の清潔保持についても援助が必要と診断されていることから,生涯,近親者による身辺介護が不可欠であ る。したがって,近親者による介護費用は,症状固定時の平均余命61.0 3年(ライプニッツ係数18.9803)につき,日額8000円が認められ 涯,近親者による身辺介護が不可欠であ る。したがって,近親者による介護費用は,症状固定時の平均余命61.0 3年(ライプニッツ係数18.9803)につき,日額8000円が認められるべきである。 (9) 弁護士費用 1791万1256円(被告の主張)否認ないし争う。 (1) 治療費,入院雑費,付添看護費,入通院慰謝料及び休業損害についてア前記1において主張したとおり,現在の原告の症状と本件過失との間に因果関係はなく,これらの損害について被告が責任を負うとしても,平成24年1月3日以前に生じた損害に限られる。 イ原告の脳腫瘍はどの段階かで当然手術を行うことが必要であり,脳腫瘍 摘出のための治療費は,本件過失との間に相当因果関係が存在しない。 また,入院雑費,付添看護費,入通院慰謝料については,脳腫瘍の手術の場合,脳腫瘍の大小にかかわらず,入院治療が必要な期間は概ね30日程度であり,少なくともその期間は,損害算定の日数から除外されるべきである。 ウ I内科医院及びJ循環器内科医院(呼吸器に関するもの),Z3ウィメンズクリニック及びK薬局(外陰部に関するもの)並びにE病院及びL病院(シャント感染によるもの)の費用は,本件過失とは無関係である。 エ休業損害については,仮に原告が早期に脳腫瘍摘出術を受けたとしても,検査,入院,通院及びその後の一定期間の休業は必要であるから,本件過 失との間に因果関係はない。また,原告が通常どおり就業できていた時でさえ原告の年収は70万円程度であり,原告が70万円という収入を立証できていたとしても,休業損害の前提となる年収は70万円を基礎とすべきである。さらに,仮に大卒を前提とするとしても,一般的に初任給は低いのであるから,全年齢賃金センサスを用いる 万円という収入を立証できていたとしても,休業損害の前提となる年収は70万円を基礎とすべきである。さらに,仮に大卒を前提とするとしても,一般的に初任給は低いのであるから,全年齢賃金センサスを用いるべきではない。 (2) 後遺症慰謝料,後遺症逸失利益及び将来介護費について 原告は,長期記憶が保たれており,言語的疎通に支障がなく,文字情報の理解も支障がなく,即時記憶以外の重篤な精神疾患は発生していない。左上肢の運動機能障害があるものの,自ら日常生活動作は可能である。 そうすると,原告は,神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの(一般就労を維持できるが,作業の 手順が悪い,約束を忘れる,ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの)と考えられ,後遺障害7級が相当である。 (3) 弁護士費用は,債務不履行責任においては損害として認められない。 3 弁護士費用部分に係る不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効(争点3)(被告の主張) 弁護士費用は訴額に基づいて算定されるところ,症状固定日である平成27年6月3日には,後遺症に基づく慰謝料,逸失利益等の請求金額が確定し,弁護士費用も確定すると考えられ,同日には原告又は原告訴訟代理人が弁護士費用の損害を知ったといえる。また,同年8月10日付け請求の拡張申立書提出時には,弁護士費用が算定可能であったことが明らかであるから,遅くとも同 日には弁護士費用が確定しており,原告が弁護士費用の損害を知ったといえる。 したがって,不法行為に基づく損害賠償債務のうち,弁護士費用部分については,消滅時効が完成している。 (原告の主張)争う。平成27年8月10日付けの請求の拡張申立ての時点で,原告の請求 したがって,不法行為に基づく損害賠償債務のうち,弁護士費用部分については,消滅時効が完成している。 (原告の主張)争う。平成27年8月10日付けの請求の拡張申立ての時点で,原告の請求 の全体が訴訟の対象となっていることは明らかであり,時効中断効も原告の請求全体に及んでいる。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実(1) 平成23年12月までの被告病院等における診療経過 ア原告は,平成18年10月26日に被告病院心療内科に入院し,同月3 0日,頭部CT検査を受けたところ,右モンロー孔付近に16ミリメートル結節影が確認された。被告病院放射線科の医師は,頭部CT検査報告書に,第一にcentralneurocytoma(中枢性神経細胞腫)が疑われ,その他ependymoma(上衣腫),choroidplexuspapilloma(脈絡叢乳頭腫)等が鑑別として挙がる旨を記載した。同日のCTにおいては,明らかな水頭症 所見は認められなかった。(前記前提事実(2))被告病院心療内科医師は,頭部CT検査報告書に上記の指摘があることを見落とし,脳腫瘍に関する治療は行われず,原告は,同年12月5日,退院した。原告は,その後も被告病院心療内科に通院するなどしていたが,脳腫瘍に対する治療は行われなかった。(前記前提事実(2)) イ原告は,平成23年12月1日のC脳神経外科クリニックにおけるMRI検査では,脳梁部から第3脳室に伸びる腫瘍が確認され,水頭症を来していると診断され,同月2日の被告病院における頭部CT,MRI検査でも,右側脳室から第3脳室内にかけて拡がる脳室内腫瘍があり,水頭症を合併した中枢性神経細胞腫と診断された。(前記前提事実(2)) また,原告は,同月7日の被告病院における頭 T,MRI検査でも,右側脳室から第3脳室内にかけて拡がる脳室内腫瘍があり,水頭症を合併した中枢性神経細胞腫と診断された。(前記前提事実(2)) また,原告は,同月7日の被告病院における頭部CT検査では,右側脳室から第4脳室にかけて粗大な石灰化を伴う腫瘤があり,右側脳室内の病変は長径63×52×38ミリメートル大と診断された。(前記前提事実(2))ウ原告は,平成23年12月5日に被告病院脳神経外科に入院し,同科に おいて脳腫瘍摘出術を受ける予定であったが,手術の予定が延期されたため,早期の手術を希望し,同月15日,被告病院を退院した。(乙A9・1,2頁)エ被告病院に入院していた際の原告は,被告病院入院時から,短期記憶障害あり,頭痛あり,耳鳴りあり,めまい時々ありといった状態であり,嘔 気もみられることがあり,被告病院においては,薬の飲み忘れがあるため, 看護師管理とすることとされた。また,原告は,全検査IQ65,言語性IQ71,動作性IQ64とされたほか,退院時所見においては,意識障害についてJCSⅠ‐1(見当識は保たれているが意識清明ではない),簡易知能検査においてHDS-R19点(月以外の日時で-3,遅延再生-4,物品記憶-2,野菜の名前-2。認知症の疑いあり)とされた。(乙 A8・3頁,9・1,2,15,59,80頁)さらに,原告は,被告病院退院時には,顔面の感覚低下の自覚があり,握力は両側0キログラム,左上肢はジンジンするしびれ感があり,触ると強く痛がり,歩行はすり足様でふらつきが強いという状態であった。(乙A9・2頁) (2) 補助参加人医院等における診療経過ア原告は,平成23年12月19日,補助参加人医院を受診し,同月20日,補助参加人医院に入院した。(甲A という状態であった。(乙A9・2頁) (2) 補助参加人医院等における診療経過ア原告は,平成23年12月19日,補助参加人医院を受診し,同月20日,補助参加人医院に入院した。(甲A13・2,3頁,20・27枚目)イ原告は,平成24年1月3日,D医師による脳腫瘍(右側脳室中枢性神経細胞腫)摘出術(本件手術)を受けた。本件手術において,D医師は, 経脳梁到達法により,肉眼で見える範囲の腫瘍を全部摘出した。(甲A6,13の4,乙B6)ウ原告は,平成24年1月10日の時点では,水頭症なしとの診断を受けており,同日,脳室ドレナージが抜去されたが,同月18日には再度水頭症と診断され,同年2月22日,交通性水頭症に対する右脳室腹腔シャン ト術を受けた。(前記前提事実(3))原告は,同年1月31日には,銀行で住所を書くところで,以前の住所と一緒に書いたりして物忘れがあったと申告した。(甲A13・127頁)エ原告は,平成24年3月9日,補助参加人医院を退院した。その際の原告は,頭痛自制内,全身状態良好という状態であり,耳鳴りや嘔気も改善 していた。(甲A13・2,148,149頁,20・15枚目) オ原告は,平成24年12月5日,1週間前頃から腹痛があるなどと訴えて補助参加人医院を受診した際,水頭症の増悪が確認され,同日,イレウスの疑いでL病院に入院し,意識障害が認められたため,翌6日,E病院に救急搬送された。原告は,同日,シャント挿入部からの感染に伴う腹部症状が出現している可能性が高い,頭部所見は水頭症の増悪による意識障 害などと判断され,感染性VPシャント機能不全に対する髄液シャント抜去術を受け,同月11日には水頭症手術(脳室腹腔シャント)を受け,同月25日まで入院した。(甲A 見は水頭症の増悪による意識障 害などと判断され,感染性VPシャント機能不全に対する髄液シャント抜去術を受け,同月11日には水頭症手術(脳室腹腔シャント)を受け,同月25日まで入院した。(甲A9,13・32,33頁,16,17・32頁,20・11枚目)カ原告は,平成25年1月10日から同年2月23日まで,シャント機能 不全,急性閉塞性水頭症により補助参加人医院に入院し,同月13日,右脳室腹腔シャント改訂術を受けた。同年1月中の原告には,生年月日,住所は言えるが,病院名は言えないという症状や,薬を内服したことを10時30分には忘れていたという症状が確認された。(甲A13・39,182,192,207,220頁,13の2) キ原告は,平成26年1月9日まで補助参加人医院で経過観察を受け,同年2月19日以降はF脳神経外科クリニックで経過観察を受けていたが,平成27年6月3日,Gにおいて,脳腫瘍,水頭症,高次脳機能障害との診断を受け,同月4日,障害等級2級の精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた。(前記前提事実(4)) (3) 原告に残存した後遺障害及びその原因(甲A25,M医師,N医師及びO医師による共同鑑定(以下「本件鑑定」という。))ア認知機能障害(ア) 原告には,記銘力障害を主とした認知機能の障害が残存しており,以下のような症状が生じている。このような症状は,平成30年の本件 鑑定までの3年間程度では,ほぼ固定的であった。 a 薬を飲んだかの記憶が維持できないため,周囲の関与がなければ安定的な服薬管理ができない。また,歯を磨いた記憶が維持できないため,歯を磨いた後に再度磨く行為がみられる等がある。(甲A28,証人P(以下「P」という。)・10,11頁,証人Q(以下「Q」と ば安定的な服薬管理ができない。また,歯を磨いた記憶が維持できないため,歯を磨いた後に再度磨く行為がみられる等がある。(甲A28,証人P(以下「P」という。)・10,11頁,証人Q(以下「Q」という。)・13頁) 火の元の管理ができず鍋を焦がした出来事もあって,調理は火を使わずに電子レンジを使うか,母であるPや夫であるQが調理する状況となっている。また,洗濯に関しては,洗濯物を干すことはできるが,干したという事実の記憶が保持できず,周囲の指摘がなければそのまま放置となるほか,洗濯機のスイッチを押すことができるものの,一 旦その場を離れると洗濯機の操作をしていたことを忘れてしまう。 (甲A28)b 買い物に行くことは可能であるが,自宅に既にあるものを購入してしまうことも多く,結果として単独での買い物ができず,母又は夫の同伴が必要となっている。役所においても,先方から多くのことを言 われると混乱して遂行が難しくなるため単独で処理できない。 また,地誌的な認識も障害され,外出先から家に戻れず,スマートフォンのアプリの道案内でたどり着くなどのエピソードもあるほか,自分の部屋番号が分からなくなったこともあった。一人で通院することもできない。(甲A25,証人Q・5~7頁) c 本件鑑定の際の検査結果は,HDS-R13点,全検査IQ62,言語性IQ68,動作性IQ60,言語理解73,知覚統合66,作動記憶58,処理速度50といったものであった。 d 他方,手術以前の学校時代の自伝的記憶などの長期記憶は保たれている。また,言語的疎通に支障がなく,文字情報の理解も支障がない。 (イ) 原告の記銘力障害を主とした認知機能の障害については,脳腫瘍, 脳外科手術の合併症,合併症として続発した水頭症による ,言語的疎通に支障がなく,文字情報の理解も支障がない。 (イ) 原告の記銘力障害を主とした認知機能の障害については,脳腫瘍, 脳外科手術の合併症,合併症として続発した水頭症による脳損傷の複合であると考えられる。現在,右側脳弓の損傷は存在していると考えられ,右側脳弓につながる右側乳頭体及び海馬は左側に比してやや萎縮しており,記銘力障害に影響している可能性がある。 認知機能の障害がいつの時点でどのような程度生じたのか,資料から の判断は困難である。平成23年12月の頭部MRIにおいて,右側脳室中枢性神経細胞腫は第3脳室から第4脳室に及び,周囲組織の圧迫に加えて顕著な水頭症を合併しており,この時点で脳全体に圧迫による機能障害,微小循環不全,軸索損傷を含む微小脳組織損傷を来したと想定する。記銘力障害を主とした認知機能障害は本件手術前から存在し,術 後間もなくの時期も持続していたと考えられ,シャント不全による水頭症悪化の際にやや強くなっていた可能性がある。 イ運動感覚機能障害(身体機能障害)(ア) 原告には左上肢を中心とした運動感覚機能障害がある。左上肢の力が入りにくく,家事においては左手で皿やコップなどを把持すること が難しいため,食器等を洗うことが難しい。左上肢を挙上することはできるが,持ち上げた状態で維持して手を動かすことは難しいため,髪を洗う時は右手のみで洗っている。運動感覚機能障害のみを考慮した場合,その程度は日常生活において不便を感じ,両手を使う必要のある家事動作の一部は実施が困難であるが,利き手である右手で代償することによ り,入浴,更衣など自らの日常生活動作は十分に自立可能なレベルである。(原告・3頁)他方,現時点では顔面麻痺は認めず,歩容も問題ない。 (イ) 原告の運動機 である右手で代償することによ り,入浴,更衣など自らの日常生活動作は十分に自立可能なレベルである。(原告・3頁)他方,現時点では顔面麻痺は認めず,歩容も問題ない。 (イ) 原告の運動機能障害は脳腫瘍が原因であり,腫瘍摘出術により一定の回復が得られている。 ウその他の障害 原告には,慢性的な頭痛及び嘔気を認め,それが集中力の持続などに影響を与え,日常生活の行動に制限を来し,結果として本来の認知機能障害を修飾している。また,日常生活で機敏な行動ができないこと等が,自己嫌悪的に抑うつ気分を二次的に呈している。頭痛薬などの使用が,行動や認知機能に影響を与えている可能性もある。(原告・1頁) 原告には,左上肢に慢性的なしびれ感と痛みがあり,時に左上下肢にじんじんとしたしびれ感が生じる。左上下肢のしびれ感と痛みの程度には波があり,症状が強い時には強いしびれ感のためにトイレまで行くこともつらく感じるなど,日常生活を制限することがある。 エ原告は,前記アないしウの症状のため,専業主婦としての労働も困難で あり,企業等での就労も不可能と判断される。身体機能障害に加えて即時記憶の著明な障害を背景に遂行機能障害が顕著であり,基本的日常生活を遂行するのに,他者の注意と支援を要する。 (4) 平成18年10月30日時点での原告の脳腫瘍の治療法等(本件鑑定)平成18年10月30日時点での原告の頭部CT検査後の治療方法として 考えられるのは,まずは定期的な経過観察であるが,画像上,腫瘍の増大が明らかになる,又は,閉塞性水頭症の合併や脳圧亢進症状が出現した時点で,開頭腫瘍摘出術による病理診断と可及的な腫瘍摘出術が第一選択となる。 一般的に腫瘍のサイズが小さい方が,手術による機能予後低下や合併症の確率は低 ,閉塞性水頭症の合併や脳圧亢進症状が出現した時点で,開頭腫瘍摘出術による病理診断と可及的な腫瘍摘出術が第一選択となる。 一般的に腫瘍のサイズが小さい方が,手術による機能予後低下や合併症の確率は低い。合併症としては,脳浮腫や脳挫傷或いは不用意な出血などによ る脳機能障害で致死的な合併症を発生しやすい。 本件手術直前に左半身麻痺や異常行動が目立ってきた背景には,腫瘍の増大や水頭症の合併による脳圧亢進症状の悪化,さらには周辺脳への圧迫による右錐体路症状(左半身不全麻痺)などが顕在化してきて,かなり緊迫した状況に陥っていた可能性がある。 そのため,本件手術は,平成18年10月30日の時点での実施に比べ, 危険度は格段に高くなっていると想定される。例えば,①直視下に腫瘍を確認するための脳梁離断の距離が長くなること,②周辺の脳室内走行静脈の温存が腫瘍のサイズが大きいために確認しづらくなること,③脳梁や脈絡叢などの周辺の重要構造物との剥離が困難になること,④手術時間が長くなり,感染症のリスクが高まること,⑤既に水頭症が合併している上に,出血や摘 出物が多くなるため,術中・術後の脳室内遺残物が増え,水頭症へのリスクが増えることなどが挙げられる。 (5) 脳腫瘍に関する医学的知見ア脳腫瘍の臨床症状は,①頭蓋内圧亢進による症状,②痙攣発作(刺激症状),③腫瘍の増大ないし破壊による局所的機能障害,④腫瘍の増大或い は脳浮腫によって惹起されるテント切痕ヘルニア又は扁桃ヘルニアである。 ①の頭蓋内亢進による一般的臨床症状は,頭痛,嘔吐,うっ血乳頭と外典神経麻痺であり,腫瘍そのものの占拠容積に加え,合併する水頭症が主要因である。(甲B11,23・14,15頁)イ脳腫瘍の治療法は,手術治療,放射線治療,化学療法,その 痛,嘔吐,うっ血乳頭と外典神経麻痺であり,腫瘍そのものの占拠容積に加え,合併する水頭症が主要因である。(甲B11,23・14,15頁)イ脳腫瘍の治療法は,手術治療,放射線治療,化学療法,その他の治療法 (免疫療法,遺伝子療法など)に大別される。治療方針としては,良性,悪性の違いはあるものの,基本的になるべく小さいうちに手術で摘出する。 (甲B1)ウ手術治療について(ア) 良性腫瘍は手術全摘出により治癒するが,発生部位と大きさによ ってすべてが全摘出できるとは限らない。術後残存腫瘍がある場合,その大きさと患者年齢に応じた術後抗腫瘍治療を選択する。(甲B3)(イ) 中枢性神経細胞腫等の側脳室内腫瘍の手術の術後に出現する症状の多くの原因は,脳実質の過度の牽引であり,腫瘍と水頭症により伸展された神経線維は,牽引によるさらなる傷害には弱い。(甲B10・2 64,274頁) 中枢性神経細胞腫においては,腫瘍は側脳室に存在し,また症状を呈し発見されたときには比較的大きな腫瘍になっている場合が多く,手術摘出は必ずしも容易ではない。中枢性神経細胞腫において,全摘出ができない理由としては,腫瘍の大きさ,腫瘍の出血などが挙げられる。術後最終的にシャントが必要となる例も各報告で1~2割存在している。 (甲B3,14)中枢性神経細胞腫で手術を受けた患者82名(腫瘍容積の中央値は31.2立法センチメートル)のうち,手術関連の合併症の割合は66%であり,手術後の障害の主なものは,不全麻痺及び失語症(39%),記憶障害(29%),水頭症(26%)であったとする報告もある。(乙 B2)(6) 水頭症に関する医学的知見ア水頭症とは,何らかの原因によって髄液の循環・吸収障害が起こり,その結果,脳室の 害(29%),水頭症(26%)であったとする報告もある。(乙 B2)(6) 水頭症に関する医学的知見ア水頭症とは,何らかの原因によって髄液の循環・吸収障害が起こり,その結果,脳室の異常拡大が生じたものである。(乙B1)後天性の水頭症は,頭蓋内の出血,感染,腫瘍,出血,髄膜炎などを原 因に発症する。(甲B2・321頁)イ水頭症は発生初期から慢性期へと経時的に変化し,その臨床像も一様ではないが,大まかに大別すると,①進行性に脳室拡大を示し,髄液圧の明らかな上昇を示す群,②脳室拡大はあるものの髄液圧は正常に近づく群,③脳室拡大はあるものの髄液圧上昇はなく,脳萎縮を合併する群に分けら れる。①群の臨床症状は,基本的には頭蓋内圧亢進に由来し,頭痛,嘔気,嘔吐,さらには意識障害も来し得る。②群の時期では,正常圧水頭症の古典的3徴候である痴呆,歩行障害,尿失禁に代表されるような脳実質の機能障害に由来する症状を呈する。③群になると,高次脳機能障害の程度が強くなり,知能障害や精神障害を恒常的に残す。(甲B23・146頁) ウ水頭症に対する治療としては,多くの場合は,拡大した脳室等にカテー テルを挿入し,頭蓋内に過剰に貯留した髄液を他の体腔に流して脳圧をコントロールするシャント術を行う。その中では,脳室腹腔シャント術が最も一般的に行われている。(甲B2,5・39,40,50頁,乙B1)シャントの合併症としては,最も頻度の高いシャント閉塞や,シャント感染(5-15%程度)等があり,シャント合併症の頻度は,1年で40%, 2年で50%,10年で70%と報告されている。(乙B1)シャント感染は,シャントが人体にとって異物でできている以上,避けられない問題である。シャント感染と診断されたら,直ちに 年で40%, 2年で50%,10年で70%と報告されている。(乙B1)シャント感染は,シャントが人体にとって異物でできている以上,避けられない問題である。シャント感染と診断されたら,直ちに,シャント抜去,外ドレナージ,抗生剤の使用が一般的であり,その後,感染の消退を確認して,新しいシャントを設置して,外ドレナージを抜去する。(甲B 5・57~61頁,乙B1)エ水頭症の治療後の変化として,脳が非可逆的損傷を受けていない限り,過剰な脳室内の髄液を排除すれば菲薄化した脳外套は修復され,拡大した脳室は縮小し,脳室周囲の脳実質(特に白質)は増幅する。細胞構築の面からも早期の治療が推奨されるが,どの時点で不可逆的になるかの明確な 指標はない。(甲B12・1787頁) 2 本件過失と原告の後遺障害との因果関係の有無(争点1)について(1) 検討ア原告には,記銘力障害を中心とする認知機能障害や,左上肢を中心とした運動感覚機能障害,慢性的な頭痛,嘔気などといった症状が残存してお り(前記1(3)),これらの症状は,原告がGにおいて,脳腫瘍,水頭症,高次脳機能障害との診断を受けた平成27年6月3日の時点で,症状固定していたものと認められる(前記1(2)キ,(3)ア)。 そして,原告の上記症状のうち記銘力障害を主とした認知機能の障害の原因として考えられるのは,脳腫瘍及びこれによって発症した水頭症,脳 外科手術(本件手術)の合併症,合併症として続発した水頭症である(前 記1(3)ア)。また,原告の左上肢を中心とした運動感覚機能障害の原因は,脳腫瘍であり(前記1(3)イ),頭痛や嘔気は,水頭症の症状と考えられる(前記1(6)イ)。 被告には,本件過失があるところ,本件過失がなければ,原告は,定期的な とした運動感覚機能障害の原因は,脳腫瘍であり(前記1(3)イ),頭痛や嘔気は,水頭症の症状と考えられる(前記1(6)イ)。 被告には,本件過失があるところ,本件過失がなければ,原告は,定期的な経過観察によって,早期に脳腫瘍の増大を発見し,本件手術よりも早 期に腫瘍摘出術を受けることができたものと認められる(前記1(4))。 そして,本件過失により脳腫瘍が大幅に増大するまで放置された結果,本件手術の危険度が格段に高くなり,術後の水頭症のリスクも増大したことからすれば(前記1(4)),上記のように早期に腫瘍摘出術を受けていれば,平成27年6月3日時点における原告の症状の発生を防止すること ができた蓋然性が高いものと認められる。 イ被告は,平成18年10月の検査結果を受けて原告の脳腫瘍が発見されていたとしても,最終的には脳腫瘍摘出術を実施することになり,原告に一定の後遺症が残存していた可能性は否定できない旨主張するところ,中枢性神経細胞腫に対する脳腫瘍摘出術には一定の確率で合併症が生じるこ とが報告されている(前記1(5)ウ)。 しかし,中枢性神経細胞腫で手術を受けた患者(腫瘍容積の中央値は平成18年10月当時の原告の脳腫瘍より大きい31.2立法センチメートル)のうち,手術関連の合併症の割合は66%であり,手術後の障害の主なものは,不全麻痺及び失語症(39%),記憶障害(29%),水頭症 (26%)であったとする報告もあり(前記1(5)ウ),脳腫瘍摘出術の際に手術後の合併症がほぼ確実に生じるともいえないし,水頭症が脳腫瘍摘出術において高確率で発生するものともいえない。また,脳腫瘍摘出術においては,一般的に腫瘍のサイズが小さい方が,手術による機能予後低下や合併症の確率は低いなどとされており(前記1(4),(5)ウ 瘍摘出術において高確率で発生するものともいえない。また,脳腫瘍摘出術においては,一般的に腫瘍のサイズが小さい方が,手術による機能予後低下や合併症の確率は低いなどとされており(前記1(4),(5)ウ), 平成18年10月時点では原告の脳腫瘍もごく小さかったことからすれば, 適時に脳腫瘍摘出手術を行っていれば,原告に平成27年6月3日時点における高度の後遺症が残存していた可能性は低いというべきである。そうすると,上記の点は,本件過失と原告の症状との因果関係を否定するものではない。 なお,原告の症状は,平成24年12月から平成25年2月にかけての シャント感染やシャント機能不全による水頭症の悪化の際に,悪化した可能性がある(前記1(2)エないしカ,(3)ア)。もっとも,平成24年2月に行われたシャント術は,水頭症の治療として多くの場合に行われるものであるし,シャント術においては,シャント閉塞やシャント感染といった合併症は,1年で40%,2年で50%などという相当な割合で生 じるものであるから(前記1(6)ウ),補助参加人医院においてシャント術を受けたことが,本件過失と原告の症状との因果関係を左右するものではない。 ウそうすると,本件過失と原告の症状との間には因果関係があるものと認められる。 なお,本件鑑定は,記銘力障害を主とした認知機能障害は,右側脳弓損傷のみによって生じているとはいえないとするのに対し,R医師の意見書(乙B5)は,脳弓の損傷が原告の顕著な即時記憶障害の原因である旨を述べる。もっとも,前記のとおり,脳腫瘍及びこれによって発症した水頭症,脳外科手術(本件手術)の合併症,合併症として続発した水頭症のい ずれについても,少なくとも本件過失が大きく寄与したものといえるから,仮に脳弓 のとおり,脳腫瘍及びこれによって発症した水頭症,脳外科手術(本件手術)の合併症,合併症として続発した水頭症のい ずれについても,少なくとも本件過失が大きく寄与したものといえるから,仮に脳弓の損傷が原告の顕著な即時記憶障害の主たる原因であるとしても,本件過失と原告の認知機能障害との因果関係が認められるとの前記判断は左右されない。 (2) 本件手術における過失に関する被告の主張について 被告は,D医師は,脳弓を損傷するおそれの高い第3脳室付近の脳腫瘍全 摘出(本件手術)を行っており,本件手術後に術前にはない原告に強い記銘力障害が発生していることからすれば,本件手術の際に原告の脳弓等が損傷したことによるものとしか考えられない旨主張した上,腫瘍を最大限摘出すると,脳弓損傷などの重度の障害を起こすリスクが高いため,通常は深部の摘出を留めて,残存腫瘍に対して放射線治療を検討するのが妥当な治療戦略 である旨や,本件手術では摘出が過度に行われたことによる障害が,患者の現状に大きく影響している旨を主張する。 ア脳弓の損傷についてR意見書は,本件手術前と比較して,現在,原告の即時記憶に明確な差が生じているところ,手術操作により両側の脳弓損傷が生じた場合,原告 にみられたような特徴的な即時記憶障害が生じることや,水頭症による認知機能障害の場合,意識状態が比較的清明に保たれている際に顕著な即時記憶障害が前面に生じることはないこと,水頭症や腫瘍による圧迫により即時記憶障害の場合,適切な手術により可逆的な経過をたどる可能性が高いところ,原告の即時記憶障害が不可逆的な転帰を辿っていること等から, 本件手術の際に脳弓が損傷したものとしている(乙B5)。 しかし,本件鑑定においては,右側脳弓損傷の原因が,右側脳室中枢 いところ,原告の即時記憶障害が不可逆的な転帰を辿っていること等から, 本件手術の際に脳弓が損傷したものとしている(乙B5)。 しかし,本件鑑定においては,右側脳弓損傷の原因が,右側脳室中枢性神経細胞腫と水頭症による圧迫で生じていたのか,手術操作によるものかは判断できないとしており,水頭症においても不可逆的な脳損傷を生じることを示す文献もあることからすると(前記1(6)エ),原告の右側脳 弓損傷が,右側脳室中枢性神経細胞腫と水頭症による圧迫によって生じた可能性は否定できない。また,本件鑑定は,本件手術前と現在とでは即時記憶障害の程度の差は大きいが,認知機能の中の即時記憶だけを抽出してその原因を特定することは困難であるなどとしている。そうすると,原告の即時記憶障害から,本件手術の際に原告の脳弓が損傷されたものと断定 することはできない。 イ本件手術における過失について(ア) 本件鑑定は,手術記録及びその後の経過を追った頭部CTやMRIの画像より,脳機能の障害を残すような重篤な合併症は確認できず,水頭症を含めて,今回の一連の手術手技に不適切な点は確認できないとする。また,本件鑑定は,本件手術において肉眼で見える範囲の腫瘍の 全部の摘出を目指した点についても,本腫瘍に対する基本的な治療方針は脳腫瘍の全摘出であり,腫瘍が残存した場合には,残存腫瘍に対する放射線治療や化学療法での標準的な治療法は確立されておらず,その後徐々に増大してくれば脳室内閉塞による水頭症などの脳圧亢進症状の合併や脳深部の圧迫による様々な精神神経症状が懸念されるとした上,不 適切であるとはいえないとする。 これに対し,R意見書は,両側脳弓が損傷された場合には即時記憶の低下を来すなど日常生活に多大な影響を及ぼすため,術中所見 精神神経症状が懸念されるとした上,不 適切であるとはいえないとする。 これに対し,R意見書は,両側脳弓が損傷された場合には即時記憶の低下を来すなど日常生活に多大な影響を及ぼすため,術中所見により腫瘍の摘出に際して両側脳弓を損傷する可能性があると判断されれば,原告の腫瘍は放射線治療も有効であることから,無理な全摘は目指さず, 損傷を避ける範囲の摘出に留めるべきである旨を述べる(乙B5)。 (イ) ActaNeurochir(2013年発行)に掲載された論文(乙B2)は,中枢性神経細胞腫で手術を受けた患者82名(腫瘍容積の中央値は31.2立法センチメートル)を調査した結果,5年無増悪群は全摘群(39例)で92.1%,亜全摘群(43例)で55. 3%であった,全摘出術は,亜全摘術と比べ,術後合併症の割合の増加は認めなかったなどとした上,中枢性神経細胞腫に対する最大限の外科的切除が,良好なベネフィットリスク比を提供することが強調されたとしている。 他方,「巨大な中枢性神経細胞腫に対する治療戦略」(乙B4・平成 27年発行)と題する論文は,巨大な中枢性神経細胞腫(直径5.0c m各以上で,両側の側脳室に位置し,少なくとも一つの脳室の壁面に広範囲で付着していた。)13症例を調査したところ,全切除(+放射線治療)と比較して,部分切除(+ガンマナイフ放射線手術)の方が,より良好な結果が得られ,部分切除(+ガンマナイフ放射線手術)が,より良好な治療選択であることを示唆した,再発性,又は残存腫瘍は,ガ ンマナイフ放射線手術によって効果的に治療されることができるなどとしている。 5年生存率について全摘出術が亜全摘+放射線治療を上回る一方,5年間局所制御率は,亜全摘+放射線治療が全摘出術上回ったという結果を 射線手術によって効果的に治療されることができるなどとしている。 5年生存率について全摘出術が亜全摘+放射線治療を上回る一方,5年間局所制御率は,亜全摘+放射線治療が全摘出術上回ったという結果を報告する論文もある(甲B20・平成19年発行)。また,いくつか の研究では中枢性神経細胞腫の完全切除は進行のないより長い生存率と有意に関連していたが,完全切除が全生存率と著しく相関するかどうかは議論の余地があるとする論文もある(甲B22・平成25年発行)。 (ウ) 前記(イ)のように,中枢性神経細胞腫に対して,全切除と,亜全摘出術ないし部分切除と放射線治療を組み合わせる方法の優劣につい ては,本件手術以前から議論の対象となり,本件手術後においても,両様の方向性を示す論文の両方が発表されている状況にあり,本件手術が行われた平成24年1月当時,原告にみられたような巨大な中枢性神経細胞腫に対して,一般的に全摘出ではなく亜全摘出ないし部分切除と放射線治療を組み合わせる方法を採るべきであるという医学的知見が確立 していたものとは認められない。 また,肉眼的全切除を行うというD医師の術中の判断についても,脳腫瘍摘出術が一定の頻度で後遺障害を生じる手術であること自体は否定しがたい上,本件手術は,脳腫瘍が既に大きく増大しており,平成18年10月時点と比べても危険度が格段に高い手術となっていたことも踏 まえると(前記1(4),(5)ウ),仮に本件手術の際に原告の脳弓 が損傷されていたとしても,直ちに,D医師に過失があったと断定することはできない。 ウ本件過失と原告の認知機能障害との因果関係について仮に,D医師の過失によって本件手術の際に原告の脳弓が損傷されていたとしても,本件過失によって,原告の脳腫瘍が大幅に増大する ことはできない。 ウ本件過失と原告の認知機能障害との因果関係について仮に,D医師の過失によって本件手術の際に原告の脳弓が損傷されていたとしても,本件過失によって,原告の脳腫瘍が大幅に増大するまで放置 され手術が困難になるとともに,脳腫瘍摘出術の合併症等のリスクが大幅に高まったのであるから(前記1(4)),本件過失と原告の認知機能障害との因果関係は否定されない。このことは,仮にR意見書の述べるように原告の即時記憶障害の原因が脳弓損傷であるとしても,異なるところはない。 エ以上のとおり,被告の前記主張を踏まえても,本件過失と原告の認知機能障害との間の因果関係が認められるとの前記判断は左右されない。 (3) 補助参加人医院におけるシャント管理に関する被告の主張について被告は,補助参加人医院においては,平成24年6月や10月の時点で,シャント感染を疑い,速やかに検査を実施し,シャント抜去やシャント再建 を行うべきであったなどと主張する。 そして,原告は,平成24年6月8日,補助参加人医院において,最近頭痛が悪化していると申告し,同月26日には,歩行中に電気のポールにぶつかった旨を申告している(甲A20・13枚目)。また,原告はE病院においては,同年10月ないし11月頃からは,軽度の記憶障害を認めるように なり,これが徐々に増悪した旨の申告をしている(甲A9)。そして,同年12月から平成25年2月頃までの間に確認されたシャント感染やシャント不全の際の水頭症悪化の際に,記銘力障害を中心とした認知機能障害がやや強くなっていた可能性がある(前記1(2),(3)ア)。 もっとも,原告の平成24年6月の時点の上記の訴えが,シャント感染を 強く疑わせるものであるとはいえないし,同月以降,シャント感染がさらに っていた可能性がある(前記1(2),(3)ア)。 もっとも,原告の平成24年6月の時点の上記の訴えが,シャント感染を 強く疑わせるものであるとはいえないし,同月以降,シャント感染がさらに 悪化したこともうかがわれない。また,補助参加人医院において,同年10月ないし11月頃に,原告から記憶障害ないしその悪化の申告を受けていたことはうかがわれない。さらに,シャント感染の主な徴候は軽度発熱とCRPの上昇であるとされるところ(乙B1),同年6月以降の原告に,これらの症状が生じていたこともうかがわれない。 したがって,同月や同年10月ないし11月の時点で,原告にシャント感染が生じていたことがうかがわれるとはいえないし,補助参加人においてシャント感染を疑い,これに対する治療を行うべき義務があったとはいえない。 被告の前記主張は採用できない。 (4) よって,本件過失と原告の後遺障害(記銘力障害を中心とする認知機 能障害,左上肢を中心とした運動機能障害,慢性的な頭痛,嘔気等)との間の因果関係が認められる。 3 損害額(争点2)について(1) 治療費合計74万4306円前記2で検討したとおり,本件過失と平成27年6月3日に症状固定した 原告の後遺障害との因果関係が認められるから,本件手術以降も含め,本件過失に起因する同日までの治療費について,本件過失と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 そうすると,本件過失と相当因果関係のある治療費の額は,以下のとおり,74万4306円と認められる。 ア C脳神経外科クリニック,被告病院及び補助参加人医院合計52万7456円原告が平成23年12月1日にC脳神経外科クリニックを受診した際の治療費1万0614円及び同月に被告病院に入通院した際の治療 脳神経外科クリニック,被告病院及び補助参加人医院合計52万7456円原告が平成23年12月1日にC脳神経外科クリニックを受診した際の治療費1万0614円及び同月に被告病院に入通院した際の治療費合計8万4228円は(甲C1の1),本件過失と相当因果関係のある損害と認 められる。 また,原告が同月から平成26年1月までの間に補助参加人医院へ入通院した際の治療費については,原告の脳の疾患に対する治療のための費用と認められるものの,本件過失がなかった場合でも,原告については定期的な経過観察の後には脳腫瘍摘出術が必要となったと考えられ(前記1(4)),弁論の全趣旨によれば,手術のためには少なくとも30日程度 の入院が必要だったと認められるから,原告が補助参加人医院に支払った治療費合計52万8295円から,本件手術が行われた平成24年1月の入院の分である9万5681円を控除した43万2614円について(甲C1の1~1の10,1の12~1の15,2の1~2の4,7の1),本件過失と相当因果関係のあるものと認める。 原告が被告病院に入院した際の食事代4680円及び補助参加人医院に入院した際の食事代8万8400円は(甲C1の1~1の4,1の14,1の15),食事代は入院の存否に関わらず要する費用であることや,原告が別途入院雑費を請求していることからすれば,本件過失と相当因果関係のあるものとは認められない。 イ S薬局及びT薬局合計3405円(甲C1の1)原告が平成23年12月にS薬局に支払った573円及び同月にT薬局に支払った2832円は,原告が同月に脳腫瘍以外の疾患を原因とする医療機関の受診をしたことはうかがわれないこと,同月時点での原告の症状は本件過失の結果として相当程度悪化したものであったこ 月にT薬局に支払った2832円は,原告が同月に脳腫瘍以外の疾患を原因とする医療機関の受診をしたことはうかがわれないこと,同月時点での原告の症状は本件過失の結果として相当程度悪化したものであったことから,本件過 失と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 ウ E病院及びL病院合計11万2515円(甲C1の13)原告が平成24年12月にシャント感染によりE病院に入通院した際の治療費9万4356円は,本件過失と相当因果関係のあるものと認められる。もっとも,入院の際の食事代1万1700円は,前記アと同様,本件 過失と相当因果関係のあるものとは認められない。 また,原告は,同月5日にイレウスの疑いでL病院に入院しているところ,翌6日に救急搬送された先のE病院では,シャント感染に伴う腹部症状が出現している可能性が高いと判断されており(前記1(3)),L病院を受診した際の症状は,シャント感染が原因であると考えられる。したがって,L病院を受診した際の治療費1万8159円も,本件過失と相当 因果関係のある損害と認められる。 なお,被告は,脳腫瘍が小さくても脳腫瘍摘出後にシャントが必要となることもあれば,脳腫瘍が大きくてもシャントが必要ないこともあり,状況に応じてシャントが実施されるだけである旨を主張した上,脳腫瘍の大きさとシャント実施の間に因果関係はなく,シャント感染による費用は本 件過失とは無関係である旨主張する。しかし,前記1(4)のとおり,本件過失により,脳腫瘍摘出術後の水頭症のリスクも増大したと考えられるから,本件手術後の水頭症及びその合併症であるシャント感染による治療費についても,本件過失と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 エ U病院及びV薬局a店合計1880円( れるから,本件手術後の水頭症及びその合併症であるシャント感染による治療費についても,本件過失と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 エ U病院及びV薬局a店合計1880円(甲C7の8,7の13)原告は,平成25年10月9日,U病院脳神経外科に1010円,V薬局a店に870円をそれぞれ支払っており,これらは,本件過失と相当因果関係のある損害と認められる。 オ F脳神経外科クリニック及びK薬局b店合計8万7180円(甲C7 の2,7の9)原告が,平成26年2月から平成27年5月までの間に,F脳神経外科クリニックに支払った5万0150円及び同クリニックの処方箋をもとにK薬局b店に支払った3万7030円は,本件過失と相当因果関係のある損害と認められる。 なお,原告が同年6月25日にF脳神経外科クリニックに支払った46 0円及び同日にK薬局b店に支払った2030円は,いずれも症状固定日後の支出であり,また治療内容も投薬,経過観察などとされており(甲A21・9頁),本件過失と相当因果関係のある損害とは認められない。 カ G 1万1870円(甲C7の15)原告が平成27年4月9日から同年6月1日までにGに支払った1万1 870円は,本件過失と相当因果関係のある損害と認められる。 キ I内科医院及びJ循環器内科医院 0円原告が平成23年12月19日に本件手術前の呼吸機能及び心機能の評価のためにI内科医院及びJ循環器内科医院を受診した際の治療費合計1万0083円は(甲A14,15,甲C1の1),本件過失がなか った場合でも,脳腫瘍摘出術が必要となり,原告が支出することになっていた可能性も十分に考えられるから,本件過失と相当因果関係のある損害とは認められない。 ク W,X内科 ),本件過失がなか った場合でも,脳腫瘍摘出術が必要となり,原告が支出することになっていた可能性も十分に考えられるから,本件過失と相当因果関係のある損害とは認められない。 ク W,X内科胃腸科及びY調剤薬局 0円原告は,平成25年7月から平成27年3月までの間にWの肛門科を受 診し,4万6240円を支払っている(甲C7の3)。また,原告は,平成25年7月及び同年12月にX内科胃腸科に合計3420円を支払い,同年7月にはX内科胃腸科の処方によりY調剤薬局に620円を支払っている(甲C7の5,7の12)。 もっとも,平成25年2月以降3年半以上の間,シャント改訂術は必要 なかったというのであるし(証人Q・19頁),原告が平成26年4月に左腹部痛を訴えた際も,症状は便通により改善したなどとして,シャントを原因とする腹痛とは断定されていない(甲A21・5~7頁)。そうすると,同クリニックの受診が,原告が補助参加人医院を平成25年7月17日に受診した際に右腹部痛を訴え,同クリニックへの情報提供を受けた ことによって開始していることを踏まえても(甲A20・4枚目),上記 の通院における原告の腹部症状と本件過失や脳室腹腔シャントとの関連性は明らかではないものといわざるを得ない。 したがって,W,X内科胃腸科及びY調剤薬局の治療費は,本件過失と相当因果関係のある損害とは認められない。 ケ Z3ウィメンズクリニック及びK薬局c 0円 原告は,Z3ウィメンズクリニックに,平成24年8月ないし同年10月に合計5025円,平成26年3月及び同年6月に合計8006円をそれぞれ支払っている。また,原告は,K薬局cに,平成24年8月ないし10月に合計1万1385円,平成26年3月及び同年6月には同クリニックの処 25円,平成26年3月及び同年6月に合計8006円をそれぞれ支払っている。また,原告は,K薬局cに,平成24年8月ないし10月に合計1万1385円,平成26年3月及び同年6月には同クリニックの処方により合計1430円をそれぞれ支払っている(甲C1の9~ 1の11,7の4,7の10)。しかし,これらの治療費は,原告が同クリニックにおいて平成24年に希発月経及び月経困難症の治療を受けているほかは(甲A12・2,9,10頁),治療の具体的な内容が明らかではなく,いずれも原告の脳の疾患との関連性が明らかではないから,本件過失と相当因果関係のある損害とは認められない。 コ Z皮ふ科d四ツ角クリニック薬局及びZ1d四ツ角店並びにZ2泌尿器科・皮フ科クリニック及びK薬局e 0円原告は,平成26年7月23日,Z皮ふ科d四ツ角クリニックに1060円,薬局Z1d四ツ角店に870円をそれぞれ支払い(甲C7の6,7の14),平成27年6月30日,Z2泌尿器科・皮フ科クリニックに1 060円,K薬局eに680円をそれぞれ支払っているが(甲C7の7,7の11),これらは,治療の具体的な内容や,原告の脳の疾患との関連性は明らかではない上,症状固定後の支出も含まれているから,本件過失と相当因果関係のある損害とは認められない。 (2) 入院雑費 19万0500円 本件過失によって生じた原告の入院期間は,以下のとおり合計157日で ある(前記1(1),(2))。もっとも,本件過失がなかったとしても,原告に対しては,経過観察を行った上,適時に脳腫瘍摘出術を行うこととなるのであり(前記1(4)),弁論の全趣旨によれば,その場合には,手術のために少なくとも30日程度の入院を要していたと認められる。 したがって,本件過失と相当因果 ,適時に脳腫瘍摘出術を行うこととなるのであり(前記1(4)),弁論の全趣旨によれば,その場合には,手術のために少なくとも30日程度の入院を要していたと認められる。 したがって,本件過失と相当因果関係のある入院雑費は,日額1500円 として,127日分に相当する19万0500円と認めるのが相当である。 (計算式)1500円/日×(157日-30日)=19万0500円ア平成23年12月5日から同月15日まで(被告病院)イ平成23年12月20日から平成24年3月9日まで(補助参加人医院)ウ平成24年12月6日から同月25日まで(E病院) エ平成25年1月10日から同年2月23日まで(補助参加人医院)(3) 付添看護費合計419万7500円ア入院時 82万5500円前記(2)のとおり,原告は,平成23年12月以降,157日の入院をしているところ,本件過失がなかった場合であっても,脳腫瘍摘出術の ために30日程度の入院を要していたと考えられる。 そして,証拠(乙A8・8頁)及び弁論の全趣旨によれば,前記の入院期間中,原告の夫であるQ又は母であるPが原告に付き添ったことが認められるから,本件過失と相当因果関係のある付添看護費は,日額6500円として,82万5500円と認めるのが相当である。 (計算式)6500円/日×(157日-30日)=82万5500円イ症状固定時までの自宅付添看護費及び通院交通費 337万2000円前記1(3)の原告の記銘力障害を中心とした認知機能障害や左上肢の運動感覚機能障害等の程度や,平成27年6月3日に症状固定するまでの間も,原告が補助参加人医院やF脳神経外科クリニックで経過観察を受け ていたことからすれば(前記1(2)),原告は,平成23年12月以降 能障害等の程度や,平成27年6月3日に症状固定するまでの間も,原告が補助参加人医院やF脳神経外科クリニックで経過観察を受け ていたことからすれば(前記1(2)),原告は,平成23年12月以降, 症状固定にいたるまでの間,入院していない期間についても,家族による日常の生活の看護や,通院時の付添いを要する状態であったと認められる。 また,同月以降,原告は,補助参加人医院やF脳神経外科等の病院に通院しており(前記1(2)),その際の通院交通費の支出を余儀なくされたことが認められる。 そして,原告の症状は,少なくとも平成24年12月ないし平成25年2月の水頭症の悪化より前は,症状固定時ほどには重いものではなかったと考えられ,Qも,平成23年より平成29年の時点の方が原告の症状は悪くなっている旨証言していることや(証人Q・17頁),補助参加人医院やF脳神経外科への通院の頻度等も踏まえると,症状固定時までの通院 看護費,自宅付添看護費及び通院交通費としては,平成23年12月1日から平成27年6月3日までの1281日から原告が入院していた157日を除いた1124日について,平均して日額3000円を本件過失と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 (計算式)3000円/日×1124日=337万2000円 (4) 入通院慰謝料 300万円被告病院の医師らの過失による症状が顕在化した平成23年12月以降の原告の入通院期間及び原告の症状の程度等からすれば,入通院慰謝料としては300万円が相当と認められる。 (5) 休業損害 741万9658円 ア原告が通学していたH高等学校の特進コースは,平成19年3月時点においては同高校の上位1割ないし2割程度に該当していたところ,同高校においては,卒業生 ) 休業損害 741万9658円 ア原告が通学していたH高等学校の特進コースは,平成19年3月時点においては同高校の上位1割ないし2割程度に該当していたところ,同高校においては,卒業生全体の6割以上が4年制大学に進学している状況にあり(甲C8,9),本件過失がなかった場合,原告が4年制大学に進学し,就職した可能性は高かったものといえる。 もっとも,高校卒業後,4年制大学を卒業して就職するまで5年以上を 要する者も一定数いるものと考えられる上,原告には,本件過失がなかった場合であっても,脳腫瘍の影響により一定の体調不良が存した可能性も考えられるし,一定期間の入院を伴う手術が必要となる可能性も十分に考えられる(前記1(4))。そうすると,本件過失がなかった場合に,原告が平成24年4月までに大学を卒業して就職することができたかは,必 ずしも明らかではないものといわざるを得ない。 したがって,原告の休業損害は,基礎収入を平成25年賃金センサスの女性,大学・大学院卒の20歳から24歳までの金額と25歳から29歳まで金額の平均値を基準に年額341万0800円とし,原告が平成25年4月までに大学を卒業して就業した場合の症状固定日までの期間(平成 25年4月1日から平成27年6月3日までの794日)について認めるのが相当である。 (計算式)341万0800円/年÷365日×794日≒741万9658円イなお,被告は,原告が高校卒業後にキャンペーンガールとして稼働した 1年半程度の年収が最大70万円程度であった旨主張したことを根拠に,原告が通常どおり就業できていた時でさえ原告の年収は70万円程度である旨を主張するが,この収入額は,脳腫瘍が既に発生していた段階での収入額であり,本件過失がなかった場 あった旨主張したことを根拠に,原告が通常どおり就業できていた時でさえ原告の年収は70万円程度である旨を主張するが,この収入額は,脳腫瘍が既に発生していた段階での収入額であり,本件過失がなかった場合でも,原告の年収が70万円程度にとどまったとは考え難い。この点の被告の主張は採用できない。 (6) 後遺障害慰謝料 2370万円ア検討(ア) 認知機能障害について(前記1(3))a 本件過失により,原告には,記銘力障害を中心とする認知機能障害が発生し,①周囲の関与がなければ安定的な服薬管理ができない,② 歯を磨いた後に再度磨く行為がみられる等がある,③火の元の管理が できず鍋を焦がした出来事もあって,調理は火を使わずに,電子レンジを使うか,母や夫が調理する状況となっている,④洗濯物を干したという事実の記憶が保持できず,周囲の指摘がなければそのまま放置となる,⑤洗濯機のスイッチを押した後,一旦その場を離れると洗濯機の操作をしていたことを忘れてしまうといった症状が生じている。 また,原告は,買い物に行くことは可能であるが,自宅にすでにあるものを購入してしまうことも多く,結果として単独での買い物ができず,母又は夫の同伴が必要となっている。さらに,地誌的な認識も障害され,外出先から家に戻れず,スマートフォンのアプリの道案内でたどり着くなどのエピソードもある。 b このような記銘力障害を中心とする認知機能障害により,原告は,生命維持に必要な身の回りの生活動作の多くについては,一応自立して行うことができるものの,服薬や洗濯,料理,買い物等については,家族の看視ないし援助が必要な状態となっており,一人での外出にも,相当の困難が伴う状態である。 c 深刻な記銘力障害を有し,一人での外出自体にも のの,服薬や洗濯,料理,買い物等については,家族の看視ないし援助が必要な状態となっており,一人での外出にも,相当の困難が伴う状態である。 c 深刻な記銘力障害を有し,一人での外出自体にも相当の困難が伴い,洗濯や料理といった家事についても家族の看視ないし援助が必要であるという状態等に鑑みれば,長期記憶が保たれており,言語的疎通に支障がなく,文字情報の理解も支障がないことを踏まえても,原告は,ごく軽易な労務を含めても,一般企業における就労や家事労働者とし ての稼働は極めて困難になっているものと考えられる。 (イ) また,原告には左上肢を中心とした運動感覚機能障害があり,左手で物を把持することは難しく,左上肢を挙上することはできるが,持ち上げた状態で維持して手を動かすことは難しい状態となっている。 このような運動感覚機能障害は,利き手である右手で代償することに より,入浴,更衣など自らの日常生活動作は十分に自立可能なレベルで はあるが,両手を使って行う必要のある家事動作の一部の実施を困難にし,日常生活動作においても,一定の不都合を生じさせるものである。 (ウ) これらに加えて,原告には,慢性的な頭痛,嘔気や,左上肢の慢性的なしびれ感と痛み等も残存している。 (エ) 以上のような認知機能障害と運動感覚機能障害等の症状を併せて 考えると,原告の後遺障害の程度は,後遺障害等級2級に相当するものということができ,後遺障害慰謝料としては,2370万円が相当である。 イなお,D医師は,平成27年9月に原告を直接診察した際,動作・歩行状態は正常で,ふらつきもなく,筋力検査の結果からも,四肢不全麻痺は 全く認められなかった,質問の受け答えにも何ら支障はなく,少し物忘れしやすいといった状態にあるとしても,障 た際,動作・歩行状態は正常で,ふらつきもなく,筋力検査の結果からも,四肢不全麻痺は 全く認められなかった,質問の受け答えにも何ら支障はなく,少し物忘れしやすいといった状態にあるとしても,障害の程度としてはごく軽度なものに留まるというのが神経学的診断結果である,手術結果や術後の経過,直接診察した結果から判断すれば,高次脳機能障害が残存した旨の診断書に記載されているような重篤な状況にあるとは到底考えられないなどと供 述する(乙B6)。 しかし,D医師の上記供述は,客観的な裏付けを欠くものであるし,原告は,礼節を保ちながら穏やかな会話が可能であり,簡単な会話程度のコミュニケーションでは認知機能障害が深刻だとは感じられない可能性があり,また,両下肢の運動機能障害は回復が得られているのであるから(本 件鑑定),D医師の供述によっても,原告に前記ア(ア)のような記銘力障害を主とした認知機能障害や左上肢の運動感覚機能障害が生じていることが否定されるものではない。 (7) 逸失利益 7620万9503円前記(5)で検討したとおり,本件過失がなかった場合,原告が4年制大 学に進学し,就職した可能性は高かったものといえるから,基礎収入は,平 成25年賃金センサスの女性,大学・大学院卒,全年齢の金額を参考に,年額440万6600円と認めるのが相当である。また,症状固定した平成27年6月3日当時26歳であった原告の就労可能年数は,67歳までの41年(ライプニッツ係数17.2944)と認めるのが相当である。 そして,前記(6)のとおり,原告は,一般企業での就労や家事労働者と しての稼働は極めて困難であるから,労働能力喪失率は100%と認められる。 したがって,逸失利益は,7620万9503円と認められる。 ( )のとおり,原告は,一般企業での就労や家事労働者と しての稼働は極めて困難であるから,労働能力喪失率は100%と認められる。 したがって,逸失利益は,7620万9503円と認められる。 (計算式)440万6600円×17.2944≒7620万9503円(8) 将来介護費 2771万1238円 前記(6)のとおり,原告は,記銘力障害を中心とした認知機能障害により,服薬や洗濯,料理等の家事,外出については,家族の看視ないし援助を必要とする状態であり,付添いなしでの外出にも相当の困難が伴う状態である。他方で,原告は,食事,入浴,洗顔等の日常生活動作の多くについては,家族の関与のもとで,シャンプーやリンスが終った合図を定めるなど様々な 工夫をする必要があるものの,一応は自立して行うことができるようになっているし(甲A28),家族が常に原告とともに在宅しなければならない状態であるとも認められない。 そうすると,将来介護費としては,平成27年6月3日の症状固定時26歳であった原告の平均余命61.03年(ライプニッツ係数約18.980 3)につき,日額4000円を本件過失による損害と認めるのが相当である。 (計算式)4000円/日×365日×18.9803≒2771万1238円(9) 弁護士費用 1431万円(10) 合計 1億5748万2705円 4 弁護士費用部分に係る不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効(争点3) について被告は,症状固定日である平成27年6月3日又はその後の請求の拡張申立書の日付である同年8月10日には弁護士費用が確定しており,原告が弁護士費用の損害を知ったといえるから,不法行為に基づく損害賠償請求権のうち,原告請求の弁護士費用については,消滅時効が完成してい 立書の日付である同年8月10日には弁護士費用が確定しており,原告が弁護士費用の損害を知ったといえるから,不法行為に基づく損害賠償請求権のうち,原告請求の弁護士費用については,消滅時効が完成している旨主張する。 しかし,一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨を明らかにして訴えを提起した場合,訴え提起による消滅時効中断の効力は,その一部についてのみ生じ,残部には及ばないが,そのような趣旨が明示されていないときは,請求額を訴訟物たる債権の全部として訴求したものと解すべく,この場合には,訴えの提起により,同債権の同一性の範囲内において,その全部につき時効中 断の効力を生ずるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和45年7月24日第二小法廷判決・民集24巻7号1177頁参照)。 そして,原告の弁護士費用の請求と,原告が平成27年8月10日付け請求の拡張申立書において行った請求は,原告の被告に対する同一の不法行為に基づく損害賠償請求権に係るものである。また,同請求の拡張申立書において, 原告は不法行為に基づく損害賠償請求権の一部について判決を求める旨を明示しておらず,同損害賠償請求権の全部について請求したものと解される。したがって,平成27年8月の請求拡張の申立てにより,不法行為に基づく損害賠償請求権全体について,弁護士費用部分も含めて時効中断効が生じている。 よって,原告の不法行為に基づく損害賠償請求権のうち,弁護士費用部分に ついても,消滅時効は完成していない。 5 まとめよって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,1億5748万2705円及びこれに対する平成23年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。また, 原告の被告に対 基づく損害賠償として,1億5748万2705円及びこれに対する平成23年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。また, 原告の被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権は,上記の額を上回る ものではない。 第5 結論以上によれば,原告の請求は,前記第4の5の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,被告の求める仮執行免脱宣言は,相当でないから付さないこととする。 福岡地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官波多江真史裁判官武富可南裁判官武内譲司
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