令和5年3月24日判決言渡同日原本交付裁判所書記官令和4年(ワ)第5905号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和5年1月13日判決原 告株式会社東海医科 同訴訟代理人弁護士大 野 聖 二被告 A 同訴訟代理人弁護士越野周治同髙本紗斗美同訴訟復代理人弁護士益田綾乃 同訴訟代理人弁理士髙橋明同日比敦士 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する令和4年4月9日(訴状送達の日の翌日)から支払い済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、発明の名称を「皮下組織および皮下脂肪組織増加促進用組成物」とする特許権を有する原告が、被告が製造している血液豊胸を行うための薬剤が、特許発明の技術的範囲に属するとして、民法709条及び特許法102条2項に基づき、被告に対して1000万円及び不法行為の後の日である令和4年4月9日 (訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損 害金を請求する事案である 2 前提事実(当者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)ア原告は、医療機器の販売・賃貸等を業とする株式会社である。(争いなし)イ被告は、平成31年頃から個人事業主として、美容医療を扱う医院を開業 し、 全趣旨によって容易に認められる事実)ア原告は、医療機器の販売・賃貸等を業とする株式会社である。(争いなし)イ被告は、平成31年頃から個人事業主として、美容医療を扱う医院を開業 し、院長として現在に至るまで運営を続けている。(争いなし)原告は、以下の特許権(以下、「本件特許権」といい、本件特許権に係る特許を「本件特許」という。)を有している。 特許番号特許第5186050号発明の名称皮下組織および皮下脂肪組織増加促進用組成物 出願日平成24年2月24日登録日平成25年1月25日本件特許権の特許請求の範囲の請求項1、請求項4の記載は、以下のとおりである(以下、請求項4に記載された発明を「本件発明」といい、本件特許に係る明細書を「本件明細書」という)。 ア請求項1自己由来の血漿、塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)及び脂肪乳剤を含有してなることを特徴とする皮下組織増加促進用組成物。 イ請求項4豊胸のために使用する請求項1~3のいずれかに記載の皮下組織増加促 進用組成物からなることを特徴とする豊胸用組成物。 本件において、原告は、被告が製造する薬剤が、請求項4記載の発明のうち、請求項1記載の発明を引用する発明の技術的範囲に属すると主張しており、前記の請求項は次のとおり分説することができる。 A 自己由来の血漿、塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)及び脂肪乳剤 を含有してなることを特徴とする B 豊胸のために使用するC 皮下組織増加促進用組成物。 被告は、令和元年6月20日に医院を開院し、同月から令和2年5月まで、血液豊胸の施術の準備をするため、薬剤を製造した上で、生体外で種々の実験を行った。被告は、同年6月から同 織増加促進用組成物。 被告は、令和元年6月20日に医院を開院し、同月から令和2年5月まで、血液豊胸の施術の準備をするため、薬剤を製造した上で、生体外で種々の実験を行った。被告は、同年6月から同年11月まで、被告が製造した薬剤をモニ ターに投与し、同年12月から、被告が製造した薬剤を用いた血液豊胸の施術を開始し、現在までこれを継続している。 本件特許権は、令和3年1月25日、特許料の未納によって権利が消滅した。 (甲1、乙11、弁論の全趣旨) 3 争点 被告は、「無細胞プラズマジェル」のほか、塩基性線維芽細胞増殖因子であるトラフェルミンと脂肪乳剤であるイントラリポスを調合した薬剤(構成要件A)を製造したか(争点1)被告が製造した薬剤に自己由来の「血漿」(構成要件A)が含まれているか(争点2) 被告による薬剤の製造は医療行為に該当しないか(争点3)損害(争点4)本件発明は産業上利用することができる発明に該当せず、本件特許には無効とすべき事由があるか(争点5)サポート要件を欠くため、本件特許には無効とすべき事由があるか(争点6) 被告による令和2年11月までの施術における薬剤の製造が、試験研究に当たるか(争点7) 4 争点に対する当事者の主張被告は、「無細胞プラズマジェル」のほか、塩基性線維芽細胞増殖因子であるトラフェルミンと脂肪乳剤であるイントラリポスを調合した薬剤(構成要件A) を製造したか(争点1)について (原告の主張)被告が製造した薬剤は、自己由来の血漿をジェル化した「細胞胞プラズマジェル」のほか、トラフェルミンとイントラリポスを含有する、注射により注入する薬剤である。 トラフェルミンは、「塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)」であり の血漿をジェル化した「細胞胞プラズマジェル」のほか、トラフェルミンとイントラリポスを含有する、注射により注入する薬剤である。 トラフェルミンは、「塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)」であり、イ ントラリポスは「脂肪乳剤」であるから、同薬剤は「塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)及び脂肪乳剤を含有してなる」ものである。 被告において、令和3年4月8日と同月26日に血液豊胸の施術を受けたモニター(以下「本件被施術者」という。)に交付されたモニター同意書には、被験者に投与されるものにはトラフェルミン及びイントラリポスを含んでいる ことが記載されている。被告はそのホームページにおいて、「INJECTION注入薬剤について・・・当院では無細胞プラズマジェルに加えて成長因子と乳化剤を組み合わせております。」と記載しており、INJECTION注入薬剤について、無細胞プラズマジェルに加えて成長因子と乳化剤が組み合わされていることが記載されている。そして、本件被施術者が被告に差し入れた 令和3年4月26日付け「注入式豊胸手術承諾書及び申込書(誓約書)」にも「□自己の血液を200ccあるいは400cc採取し、血球成分を除去したものをジェル化し、胸に戻し豊胸する手術です。 □充填剤として成長因子と一部ヒアルロン酸製剤と栄養剤等を含む薬剤を使用します。」と記載されている。また、本件被施術者は、2種類の薬剤を別々に投与されるとの説明を受け ていない。 以上によれば、被告が製造した薬剤には成長因子であるトラフェルミンと乳化剤であるイントラリポスが含まれており、これらを2種の薬剤として別々に投与しているとの被告の主張は虚偽である。 被告は、本件発明の実施例のとおりに薬剤を調合すると、湯葉状に凝固する と主張するが、被 ントラリポスが含まれており、これらを2種の薬剤として別々に投与しているとの被告の主張は虚偽である。 被告は、本件発明の実施例のとおりに薬剤を調合すると、湯葉状に凝固する と主張するが、被告の実験条件は本件発明の実施例と同一ではないから失当で ある。 (被告の主張)被告が実施する血液豊胸の施術には、血小板を完全に除去した血漿(NCP)である無細胞プラズマジェルのほか、成長因子その他の薬剤を混合した薬剤(以下「A剤」という。)と乳化剤・栄養剤等を含有する薬剤(以下「B剤」と いう。)の2種類を用い、A剤とB剤は患者の体内へ別々に投与されるため、患者の体外でこれらの薬剤が調合されることはない。A剤には、少なくとも脂肪乳剤が含有されていない。B剤には患者に応じて脂肪乳剤が含まれる場合と含まれない場合があるものの、少なくとも自己由来の血漿、塩基性繊維芽細胞増殖因子(b-FGF)は含まない。したがって、被告が施術に用いているA剤 とB剤のいずれも構成要件Aを満たさない。 被告は、少なくとも被告の施術が確立した後は、別紙薬剤注入手順記載のとおり、まず、A剤を胸の奥に注入し、次にB剤を胸の皮膚表面近傍に注入し、さらに、その間の空間に、A剤とB剤が、胸の首側から腹側にかけて交互に配置されるように注入していくという施術をしている。被告があらかじめこれら の薬剤を調合せず、別々に投与する理由は、①血漿(NCP)を用いた実験によって、これと他の薬剤をあらかじめ混合しておくと、混合物が凝固してしまう場合や、粘度が高くなってしまい、器具によっては注入が困難になるという知見を得ていたこと、②別剤にしておくことで、患者ごとに薬剤の成分や量の調整が容易になること、③被告の経験から、しこり等の何らかの不具合が生じ た場合 い、器具によっては注入が困難になるという知見を得ていたこと、②別剤にしておくことで、患者ごとに薬剤の成分や量の調整が容易になること、③被告の経験から、しこり等の何らかの不具合が生じ た場合に、多数の成分を含む薬剤を一度に投与していると原因の究明が困難になると考えたからである。 被告ウェブページには、原告が指摘する記載はあるが、「組み合わせる」という用語は、薬剤の分野では、複数の薬剤を別々に患者に投与することをも意味するから、同記載から被告がA剤及びB剤を別々に投与しているとの主張が虚 偽であるとはいえない。 被告が製造した薬剤に自己由来の「血漿」(構成要件A)が含まれているか(争点2)について(原告の主張)本件明細書には、「血漿」の定義規定はない。辞典によれば、血漿は、「血漿・・・血液から赤血球その他の細胞成分を取り除いた液体を血漿といい、単にプラズ マ(Plasma)とも略す。」、「血液中から血球を取り除いた成分」とされており、血漿は、「血液から血球成分である赤血球、白血球並びに血小板を取り除いた血液に含まれる液体成分」を意味する。 被告が用いている細胞成分を完全に除いた無細胞プラズマジェルである血漿(NCP)は、まさに「血液から血球成分である赤血球、白血球並びに血小 板を取り除いた血液に含まれる液体成分」であり、構成要件Aの「血漿」に該当する。 (被告の主張)本件特許の出願経過を参酌すると、本件発明における「(自己由来の)血漿」とは、血小板をほとんど含まない乏血小板血漿(PPP)のみを意味すると解 釈される。 被告は無細胞プラズマジェルを使用しているが、これは乏血小板血漿(PPP)ではなく、細胞成分を完全に除いた血漿(NCP)から作成しているから、無細胞プラズ のみを意味すると解 釈される。 被告は無細胞プラズマジェルを使用しているが、これは乏血小板血漿(PPP)ではなく、細胞成分を完全に除いた血漿(NCP)から作成しているから、無細胞プラズマジェルは、本件発明における「血漿」には当たらない。 被告による薬剤の製造は医療行為に該当しないか(争点3)について (原告の主張)本件で、原告は、被告による「生産」を問題にしており、「生産」の該当性を判断する対象となる行為は、医師が採取した血液を素材とし、それを用いて、本件発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出すまでの工程に相当する行為である。この行為は、医師以外の者も当然に行い得るものであり、被告によ る薬剤の製造は、治療行為に該当するものではなく、医師の治療行為に基づく 免責を受け得るものではない。したがって、これに特許権の効力が及ぶ。 医療行為に使用するための医薬品、治療器具等は、医師以外の者が当然に「生産」でき、それをたまたま医師が行ったとしても、治療行為として免責を受けるものではない。 (被告の主張) 医療行為に特許権を及ぼすことは許されない。 被告が「血液豊胸」の施術を行う際に使用するA剤は、患者の血液を採取し、細胞成分を完全に除いた血漿(NCP)を原料として含んでいる。A剤を作製する際には、患者の血液を採取する必要があるところ、血液を採取する行為は、医師法17条に規定される「医業」(医療行為)に該当し、医師でなければ行う ことができない。このため、被告が施術を行うに当たり薬剤を製造する行為は、必然的に医療行為に該当することとなり、被告は、医師として当該製造行為を行っている。 被告による上記の薬剤の製造行為は、被告が医師として行う医療行為であるから、特許権の効力が及ば 製造する行為は、必然的に医療行為に該当することとなり、被告は、医師として当該製造行為を行っている。 被告による上記の薬剤の製造行為は、被告が医師として行う医療行為であるから、特許権の効力が及ばない。 損害(争点4)について(原告の主張)被告は、被告が製造した薬剤によって、少なくとも1000万円の利益を得た。よって、原告は、被告に対して、1000万円の損害賠償を請求する(特許法102条2項)。 (被告の主張)否認ないし争う。 本件発明は産業上利用することができる発明に該当せず、本件特許に無効とすべき事由があるか(争点5)について(被告の主張) 本件発明は、「自己由来の血漿」を構成要素として含む組成物に係る発明(物 の発明)である。「自己由来の血漿」とは、自己の血液を採取し、常法、遠心分離して得た血漿である(【0025】)。患者から、血液を採取する行為は、医師法17条に規定される「医業」(医療行為)に該当し、医師でなければ行うことのできない行為であり、本件発明に係る組成物を生産する行為は、医療行為に該当する。 また、本件発明の組成物は、皮下(例えば、乳腺と大胸筋膜の間)に注入して使用される(【0017】及び【0041】)。組成物を皮下に注入する行為も、医師法17条に規定される「医業」(医療行為)に該当し、本件発明に係る組成物を使用する行為も、医療行為に該当する。 そして、本件発明の組成物は、施術を受ける患者から採取された血液を原料 として生産され、同じ患者の皮下に注入して使用されるものであり、保存ができるものではなく、本件発明の組成物を生産する行為と使用する行為は、同一の医療機関において行われる。このため、本件発明の組成物について、特許法2条3項1号に規定された 使用されるものであり、保存ができるものではなく、本件発明の組成物を生産する行為と使用する行為は、同一の医療機関において行われる。このため、本件発明の組成物について、特許法2条3項1号に規定された「生産」及び「使用」以外の実施の態様、すなわち、「譲渡等(譲渡及び貸渡し)」、「輸出」、「輸入」、「譲渡等の申出」といった態 様の実施行為が行われることはありえず、他方、「製造」及び「使用」の2つの実施態様は、いずれも医療行為に該当する。 したがって、本件発明を実施しようとする場合、必ず医療行為を行うこととなる。医療行為に係る発明の特許性は否定されていることから、本件発明は、「産業上利用することができる発明」に該当しない。 よって、本件特許は、特許法29条1項柱書の規定に違反してされたものであり、無効理由を有する。 (原告の主張)特許法2条3項1号に規定する「生産」は、「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す 行為をいうものと解される。 本件発明について、「生産」行為に該当するためには、医師が採取した血液を素材として、本件発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出せば足りる。血液を採取する医師の行為は、「生産」行為に含まれるものではなく、その評価の対象外である。したがって、本件発明の「生産」は、医師以外の者が行うことができるものであり、本件発明は特許法29条1項柱書に違反しない。 サポート要件を欠くため、本件特許に無効とすべき事由があるか(争点6)について(被告の主張)本件発明において、「自己由来の血漿」に関しては、何らの限定も付されておらず、患者から採取した血漿と、その他2成分を含有する豊胸用の皮下組織増加 促進用組成物であ について(被告の主張)本件発明において、「自己由来の血漿」に関しては、何らの限定も付されておらず、患者から採取した血漿と、その他2成分を含有する豊胸用の皮下組織増加 促進用組成物であれば、文言上、本件発明の技術的範囲に包含される。 他方、本件特許の出願過程において、訴外Bは、平成24年7月25日付けの意見書及び同年9月13日付の審判請求書において、本件発明の血漿は、乏血小板血漿(PPP:PlateletPoorPlasma)を意味すると主張した。そうすると、本件発明においては、乏血小板血漿以外の血漿を構成要素と する組成物にまで、発明の範囲を拡張ないし一般化することは到底できず、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。よって、本件特許は、特許法36条6項1号の規定に違反してされたものである。 (原告の主張)前記で主張したとおり、本件発明の対象が乏血小板血漿(PPP)に限定 されるべきとする被告の主張の前提が誤っている。 被告による令和2年11月までの施術に係る薬剤の製造が、試験研究に当たるか(争点7)について(被告の主張)被告は、令和元年6月から令和2年5月までの期間、血液豊胸の施術を行う ための準備として、生体外で種々の実験を行っていた。その後も、被告は、令 和2年6月から同年11月までの間、モニターを対象にA剤、B剤を投与していたのであるから、令和2年11月までの被告の行為は、試験又は研究のためにする特許発明の実施(特許法69条1項)に該当し、本件特許権の効力は及ばない。 (原告の主張) 被告が試験研究による実施しか行っていないと主張する令和2年8月11日の時点で、被告は、そのホームページに「3Way血液豊胸」を美容医療のメニューの1つとし は及ばない。 (原告の主張) 被告が試験研究による実施しか行っていないと主張する令和2年8月11日の時点で、被告は、そのホームページに「3Way血液豊胸」を美容医療のメニューの1つとして掲げ、費用も、「片側100cc注入(左右合計20cc¥800、000」等と表示しており、現在の料金である「¥880、000」と同等の費用を設定していた。 したがって、被告の主張している試験研究の期間においても、被告の医院は、施術メニューとして「血液豊胸」を掲げ、通常の施術費用を設定していたものであり、これが試験研究のための実施とは到底いえない。 第3 当裁判所の判断 1 本件発明 本件発明は、「従来の豊胸術で使用されていた乳房インプラント、例えば、コヒーシブシリコン(cohesivesilicon)、或いはシリコンジェルバッグにより懸念される破裂、発癌の可能性を回避し、また、ヒアルロン酸注入で生じるヒアルロン酸の皮下組織化による硬結を回避して、乳腺周囲に脂肪組織を生成、増加させることにより、乳房の皮下に皮下組織、脂肪組織の蓄積、増大を図る、安全で自 然な方法による自己組織の回復、容貌の回復が得られる皮下組織および/または皮下脂肪組織増加促進用組成物である豊胸用組成物、豊胸方法を提供することを課題」(本件明細書【0012】)とするものであり、その課題を解決する、自己由来の血漿、塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)及び脂肪乳剤を含有してなることを特徴とする豊胸のために使用する皮下組織増加促進用組成物の発明 である。 2 被告は、「無細胞プラズマジェル」のほか、塩基性線維芽細胞増殖因子であるトラフェルミンと脂肪乳剤であるイントラリポスを調合した薬剤(構成要件A)を製造したか(争点1)について 。 2 被告は、「無細胞プラズマジェル」のほか、塩基性線維芽細胞増殖因子であるトラフェルミンと脂肪乳剤であるイントラリポスを調合した薬剤(構成要件A)を製造したか(争点1)について前記1のとおり、本件発明は、組成物の発明であり、その組成物は、「自己由来の血漿、塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)及び脂肪乳剤を含有し てなることを特徴とする」(構成要件A)ものであるところ、原告は、被告が、「無細胞プラズマジェル」のほか、塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)であるトラフェルミンと、脂肪乳剤であるイントラリポスを調合した上で、被施術者に投与していたとして、それらが含まれる薬剤を製造したと主張する。 これに対し、被告は、血漿及び成長因子その他の薬剤を混合した薬剤と乳化 剤・栄養剤等を含有する薬剤の2種類の薬剤は患者の体内に別々に投与していて、それらを調合した薬剤を製造したことはない旨主張する。 証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア被告は、令和3年4月8日及び同月26日に本件被施術者に対して「モニター」として血液豊胸の施術を実施した。 そのときに交付された「副作用」から始まる書面には、「・・・乳房再生豊胸ではトラフェルミン○Rを使用しますが、この薬剤に含まれるエデト酸によるアレルギーがあります。また、イントラリポリスには大豆蛋白質は含まれていませんが・・・・」との記載があり、同人にトラフェルミン及びイントラリポスが投与されることを前提とする記載があった。トラフェルミンは、 遺伝子組換え塩基性繊維芽細胞増殖因子として臨床的に使用されている薬剤である。イントラリポスは、脂肪乳剤の一種である。 また、本件被施術者に交付された「注入式豊胸手術承諾書及び申込書(誓約書)」には 伝子組換え塩基性繊維芽細胞増殖因子として臨床的に使用されている薬剤である。イントラリポスは、脂肪乳剤の一種である。 また、本件被施術者に交付された「注入式豊胸手術承諾書及び申込書(誓約書)」には、「□自己の血液を200ccあるいは400cc採取し、血球成分を除去したものをジェル化し、胸に戻し豊胸する手術です。 □充填剤 として成長因子と一部ヒアルロン酸製剤と栄養剤等を含む薬剤を使用しま す。」との記載があった。 被告は、本件被施術者に対して、トラフェルミンとイントラリポスの2種類の薬剤について、別々に投与することについて説明しなかった。 (この項につき、甲2、5、6)イ被告のホームページには、令和3年7月21日時点で被告で実施している 血液豊胸の施術の説明が掲載されており、そのうち、「INJECTION注射について」の項目には次の記載があった。 「血液を採取し、遠心分離器にかけてしこりの原因となる血小板(血液に含まれる細胞成分の一種)を完全に抜き取ります。従来の方法では自己血から遠心分離で抽出したPPPジェルと呼ばれる素材に否めませんでしたが、 当院では、更に無細胞化させた無細胞プラズマジェルをすることでしこりの原因を回避しております。また、術後のしぼみのリスクを回避するため、当院では無細胞プラズマジェルに加えて成長因子と乳化剤を組み合わせております。更に定着率の向上を図り、上記の組合わせにとろみをつける効果のある当院独自の補強材を加えることで、体内への吸収率を抑え、またお胸自 体の若返りやハリの効果が期待できます。・・・」また、上記記載に続いて、輸液パックの模式図と胸に薬剤入りの注射器を突き刺している模式図が並べて掲載されており、その下には、「当院では、しこり発生の原因となるTPP( 果が期待できます。・・・」また、上記記載に続いて、輸液パックの模式図と胸に薬剤入りの注射器を突き刺している模式図が並べて掲載されており、その下には、「当院では、しこり発生の原因となるTPP(乏血小板血漿)ジェルは一切使用せず、採取した血液から細胞成分を除去した「無細胞プラズマジェル」を使用しており ます。そのため、術後にしこりができることはなく、非常に柔らかなバストが完成します。・・・」との記載があった。(甲3)前記アによれば、被告は、少なくとも令和3年4月8日と同月26日に本件被施術者に対して血液豊胸の施術をした際、塩基性繊維芽細胞増殖因子を含むトラフェルミンと、脂肪乳剤の一種であるイントラリポスを投与したと認め られる。また、同イ及び弁論の全趣旨によれば、被告は、このとき、血小板を 含む細胞成分を完全に除去した血漿からなる「無細胞プラズマジェル」も投与したことが認められる(なお、当事者間において「無細胞プラズマジェル」が構成要件Aの「血漿」に当たるか否かは争いがある。前記第2の4)。 ここで、前記アの「副作用」から始まる書面等には、トラフェルミン、イントラリポスを投与することが記載されているが、これらを含む薬剤を調合し た上で、これを被施術者に投与することが記載されているものではない。また、「注入式豊胸手術承諾書及び申込書(誓約書)」の記載が、そこに記載された成分を調合した上で投与されている旨の記載であるとまでみることはできない。 したがって、前記アの書面の記載によって、被告がトラフェルミン、イントラリポスをあらかじめ調合した上で投与していたと認めることはできない。 ア原告は、被告がトラフェルミン、イントラリポスをあらかじめ調合した上で投与していた根拠として、前記イの被 、イントラリポスをあらかじめ調合した上で投与していたと認めることはできない。 ア原告は、被告がトラフェルミン、イントラリポスをあらかじめ調合した上で投与していた根拠として、前記イの被告のホームページの記載を指摘する。 しかし、被告のホームページには、「INJECTION注射について」の項目に、注射の内容物の説明が記載されているのであるが、その投与の具体 的な手法については何ら記載がない。「・・・当院では無細胞プラズマジェルに加えて成長因子と乳化剤を組み合わせております。」との記載はあるものの、当該箇所を冒頭から読むと、他の施術と比べた場合の被告の施術の優位性の根拠として、「無細胞プラズマジェル」を用いることが強調されており、その後、付加的にその他の成分も「組み合わされている」と記載されている にすぎない。このことからすると、上記の「組み合わされている」という文言は、単に身体にこれらの薬剤がいずれも投与されるといった以上の意味は持たないと読むのが自然といえるものであって、上記文言から、原告が主張する事実を認めることはできない。 また、被告のホームページにおいては、上記記載の後に注射器を突き刺し ている模式図があるところ、そこでは、注射が複数回されることが記載され ているわけではない。しかし、これは、単に胸に注射を突き刺して薬剤を投与するイメージ図の域を超えないものであって、この記載をもって、被告においては、単一の薬剤による注射が1回だけされることが前提にされているとみることまではできない。 被告のホームページの上記箇所には、被告が上記の2種類の薬剤について、 これらを別々に注入していることを明示する記載はない。しかし、被告ホームページの上記箇所は、被告が自身の施術の優位性の根拠と 被告のホームページの上記箇所には、被告が上記の2種類の薬剤について、 これらを別々に注入していることを明示する記載はない。しかし、被告ホームページの上記箇所は、被告が自身の施術の優位性の根拠として「無細胞プラズマジェル」をアピールする趣旨のものであり、そのために分かりやすい説明や模式図を掲載しているといえるものであって、そこにおいて、薬剤の具体的な投与の方法を問題としているものではない。このことを考慮すると、 上記の2種類の薬剤を別々に投与していたとしても、ホームページで、そのような投与の方法を記載しなかったことがことさらに不自然であるとも認められない。 したがって、被告のホームページの記載をもって、被告が、トラフェルミンとイントラリポスをあらかじめ調合した上で投与していたことを認める には足りない。 イまた、被告は、本件被施術者に対して、トラフェルミンとイントラリポスの2種類の薬剤を別々に投与することを説明しなかった(前記ア)。 もっとも、本件被施術者に対し、単一の薬剤が投与される旨が説明されたことも認められない。副作用やアレルギーその他の観点から、投与される薬 剤のそれぞれについて説明すること自体は重要であったことはうかがえるものの、当時、一般的に、複数の成分について、単一の薬剤ではなく複数の薬剤に分けて別々に投与することによってことさらに副作用等のリスクが上がるといった知見があったなどの事情を認めるに足りる証拠はなく、複数の有効成分を投与するときに、それを別々の薬剤に分けて投与することを説 明しないことがことさらに不自然であったとは認めるに足りない。 したがって、被告が本件被施術者に対してトラフェルミンとイントラリポスの2種類の薬剤を別々に投与することを説明しなかったことをもっ いことがことさらに不自然であったとは認めるに足りない。 したがって、被告が本件被施術者に対してトラフェルミンとイントラリポスの2種類の薬剤を別々に投与することを説明しなかったことをもって、被告が、これらをあらかじめ調合した上で投与していたと認めるには足りない。 ウ被告は、本件訴訟の当初から、細胞成分を完全に除去した血漿(NCP)を用いた実験によって、これと血液豊胸に係る他の薬剤をあらかじめ混合し ておくと、混合物が凝固してしまったり、粘度が高くなってしまったりして、器具によっては注入が困難になるという知見を得ていたため、あらかじめこれらの成分を混合して作成した薬剤を投与することは避けたと主張する。そして、本件明細書の実施例記載のとおり各成分を混合するとそれらの成分が湯葉状になるとの記載がある実験結果の報告書(乙12)を提出する。同報 告書における実験が本件明細書に記載のとおりの方法で行われたことを裏付ける証拠はないが(適切な条件であっても上記事象が生ずるかは明らかでない。)、少なくとも、これらによれば、被告が、これらの成分をあらかじめ混合しておくと凝固等してしまうと考えてそのような方法を避けようと考えていたことがうかがわれる。 以上の事情を考慮すると、被告は、その血液豊胸の施術において、本件被施術者に対して、「無細胞プラズマジェル」のほか、トラフェルミン、イントラリポスを投与したことは認められるものの、被告がこれらの成分が同時に含まれる薬剤を調合してこれを本件被施術者に投与したことを認めるに足りない。したがって、被告が構成要件Aを充足する薬剤を製造してこれを本件被施術者に 投与したとは認められない。 また、その他の関係各証拠によっても、被告が構成要件Aに該当する成分を同時に含む薬剤を調合し がって、被告が構成要件Aを充足する薬剤を製造してこれを本件被施術者に投与したとは認められない。また、その他の関係各証拠によっても、被告が構成要件Aに該当する成分を同時に含む薬剤を調合して、製造していたことを認めるに足りない。 第4 結論 以上によれば、被告が構成要件Aを充足する薬剤を製造したとは認められないから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官柴田義明 裁判官佐伯良子 裁判官仲田憲史 (別紙) 薬剤注入手順 [1] [2] [3]
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