主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 (以下略語は原判決に準ずる。)第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人ら(1) 原判決を取り消す。 (2) 甲事件被控訴人愛知県知事が名古屋市に対して平成12年8月8日付けでなした名古屋市高速度鉄道第4号線山下通・新瑞橋間建設工事事業に係る事業認定処分(平成12年愛知県告示第643号)を取り消す。 (3) 乙事件被控訴人愛知県収用委員会が控訴人らに対して平成13年11月20日付けでなした名古屋市高速度鉄道第4号線山下通・新瑞橋間建設工事事業に係る土地使用裁決(12愛収第2-21号)を取り消す。 (4) 訴訟費用は,甲,乙両事件を通じ,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。 2 被控訴人ら主文同旨第2 事案の概要 1 本件は,名古屋市高速度鉄道第4号線(4号線)山下通・新瑞橋間建設工事事業(本件事業)に関し,被控訴人愛知県知事(被控訴人知事)により土地収用法(法)に基づく本件事業の認定処分(本件処分)がなされたところ,その起業地の一部(本件土地)を共有する控訴人らが,①本件処分後における国の補助金の凍結により起業者名古屋市において建設工事を遂行する十分な能力を欠くに至ったこと,②建設工事の結果行われることとなる地下鉄の運行により控訴人らが受忍限度を超える振動被害を被ること,③地下鉄敷設ルートに関する控訴人らの代替案(本件代替案)を考慮しないまま本件処分がなされたこと等から,本件処分が法20条の定める要件を欠き違法である旨主張して,その取消しを求め(甲事件),併せて,被控訴人愛知県収用委員会(被控訴人委員会)が行った本件土地を使用し,明け渡す旨の裁決(本件裁決)も違法な本件処分を前提としたものであって違法である旨主張して, その取消しを求め(甲事件),併せて,被控訴人愛知県収用委員会(被控訴人委員会)が行った本件土地を使用し,明け渡す旨の裁決(本件裁決)も違法な本件処分を前提としたものであって違法である旨主張して,その取消しを求めた(乙事件)抗告訴訟である。 原審において,①につき主張自体が失当であり,②につき控訴人らに受忍限度を超える振動被害が生ずるとは認め難く,③につき本件代替案は重大な問題点を抱えている等とされ,結局,本件処分に関する被控訴人知事の判断に裁量権の逸脱又は濫用は認められないとされて,控訴人らの請求がいずれも棄却されたことから,控訴人らがこれを不服として控訴した。 2 争いのない事実等,争点及び争点についての当事者の主張は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1及び2のとおりであるから,これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,本件処分及び本件裁決は適法であり,控訴人らの請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり改め,次項に加えるほか,原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」のとおりである。 原判決30頁17行目の末尾に「そして,上記争いのない事実等の事実(原判示)及び弁論の全趣旨によれば,本件処分は法20条2号に定める要件を満たしていたものと認められるところである。」を,31頁19行目の「(乙イ1,4の1)」の次に「及び弁論の全趣旨」をそれぞれ加える。 2 控訴人らの当審における主張について(1) 控訴人らは,地下鉄4号線の工事計画は,昭和36年に告示された地下鉄5路線の1つをほぼ当時の計画のままで踏襲したものであるところ,当時その計画を審議した都市交通審議会名古屋部会においては,昭和60年に名古屋市の人口が350万人,地下鉄による1日の輸送量を210万人と推定して地下鉄5路線の計画を採択し 襲したものであるところ,当時その計画を審議した都市交通審議会名古屋部会においては,昭和60年に名古屋市の人口が350万人,地下鉄による1日の輸送量を210万人と推定して地下鉄5路線の計画を採択したものであるところ,現在の名古屋市の人口は210万人,1日の地下鉄利用者は112万人に過ぎないこと,名古屋市における地下鉄事業の累積赤字は4000億円をはるかに超え,平成14年度一般会計当初予算の約40パーセントに達しており,地下鉄4号線完成時には5000億円を超えると予想されても不思議ではないことから,本件事業は,交通事業財政,ひいては名古屋市の財政全体の命取りになるとしか考えられないものであり,かような事業に合理性,公益性はない旨主張する。 しかし,上記認定(原判示)のとおり,名古屋市の交通体系は典型的な自動車型交通体系であり,自動車による道路混雑,排ガスや騒音等の環境問題,駐車問題が発生しており,その解決のためには,高速かつ大量の輸送を可能にする都市高速鉄道の整備拡充が必要かつ有効であるところ,環状線である地下鉄4号線の完成により,効率的で質の高い都市高速鉄道のネットワークを構築することができ,沿線の学校群,病院施設,大規模集客施設に係る大量の輸送需要に応えるのみならず,放射状路線である既設地下鉄と連携して利用者の不便を解消し,都市中心域に集中する鉄道利用者を分散し,既設地下鉄路線の混雑を緩和し,都市中心域に流入する道路交通の地下鉄への転換を促進し,都市中心部の交通渋滞,違法駐車,大気汚染,自動車騒音の軽減に寄与し得る等の点で,地下鉄4号線の名古屋大学・新瑞橋を結節させる事業の一部である本件事業が公共の利益を増進させることは明らかである。そして,昭和36年当時の需要予測が過大で,本件事業遂行により名古屋市の財政赤字が増大するとしても 名古屋大学・新瑞橋を結節させる事業の一部である本件事業が公共の利益を増進させることは明らかである。そして,昭和36年当時の需要予測が過大で,本件事業遂行により名古屋市の財政赤字が増大するとしても,そのことから上記の公共の利益が減少,消滅するものではないし,また,法20条3号,4号に関しては,事業認定の申請を受けた県知事は,起業地が当該事業の用に供されることによって得られるべき公共の利益の有無,これによって失われる私的ないし公共の利益の有無,起業地につき収用又は使用という手段を採る必要性などを考慮することが要請されているのであって,事業遂行後における起業者の財政赤字の増大を考慮することは,むしろ他事考慮というべきであって,同条各号の趣旨と整合しないものである。 そうすると,名古屋市の財政赤字の増大等により,同条各号において考慮すべき本件事業の公益性が否定されるものとは解されないのであって,控訴人らの主張は採用できない。 (2) 控訴人らは,本件の地下鉄事業につき,前提として都市計画決定が不可欠であるところ,同事業については,昭和36年2月8日に戦後復興都市計画路線を「変更・追加・廃止決定」したのみで,計画の策定もなく,都市計画審議会で審議した形跡もなく,新たな都市計画決定がなされたものではないし,上記昭和36年の変更等決定については都市交通審議会名古屋部会の結論採択・答申の1年も前に決定された違法がある旨主張する。 しかし,上記認定(原判示)によれば,本件の地下鉄施設は,これに関し鉄道事業免許を取得した名古屋市が建設する鉄道施設であって,法3条7号の施設に該当し,都市計画決定の有無にかかわらず土地収用法の適用が可能な施設であると認められる上,法20条は,事業認定処分に際し,当該事業が同条の規定に沿う公益性等の要件を備えることを要求す 条7号の施設に該当し,都市計画決定の有無にかかわらず土地収用法の適用が可能な施設であると認められる上,法20条は,事業認定処分に際し,当該事業が同条の規定に沿う公益性等の要件を備えることを要求するものの,当該事業につき都市計画決定が先行することを前提とするものではなく,適法な都市計画決定の存在が事業認定処分の要件となるものではないから,仮に本件事業の対象となる地下鉄施設に関する定めのある都市計画決定が違法であったとしても,その違法性が法20条に基づく土地収用法上の事業認定処分に承継されるものとは解されない。 したがって,都市計画決定の違法性の有無を検討するまでもなく,控訴人らの主張は採用することができない。 (3) 控訴人らは,名古屋市交通局原案の計画ルートはやむを得ない状況下で最適なルートを採用したとは到底考えられないこと,山崎川の河川の地下を通ることに具体的な問題点はないこと,客の乗り心地などは,控訴人らが財産を強制的に奪われる不利益,日常的に振動にさらされる不利益などを考えれば大したことではないこと,当該地区の住民は過去に民有地の地下を通らない代替ルートを提案したが交通局は無視してきたことなどから,計画ルートに合理性がない旨主張する。 しかし,原判示のとおり,計画ルートについて起業者提示の案によっても,控訴人らに受忍限度を超える振動被害を被らせるものとは認められない上,控訴人らの代替案には,河床下に縦断的にトンネルを設ける点において現行の治水行政上の基準と整合しないこと,多くのS字状曲線を設ける点においてレールの構造が複雑になり,運行の安全性の問題が生じ,運行速度の制限,保守点検の増加,乗り心地の悪化などが生ずることといった難点があると認められるから,被控訴人知事が,代替案を採用せず,起業者提示の計画ルートを前提とする事業 運行の安全性の問題が生じ,運行速度の制限,保守点検の増加,乗り心地の悪化などが生ずることといった難点があると認められるから,被控訴人知事が,代替案を採用せず,起業者提示の計画ルートを前提とする事業計画が本件土地の適正かつ合理的な利用に寄与すると判断したことについて,裁量権の逸脱又は濫用が存すると認めることはできない。 したがって,控訴人らの主張は採用できない。 (4) 控訴人らは,振動被害がないことの立証責任は被控訴人らにあるとした上で,本件評価書(乙イ4の1,2)につき,①観測の際に現に生じた振動値の10パーセントを考慮していないこと,②被控訴人らが周波数帯毎の振動特性を把握したとの証拠はないこと,③コンピューターを用いて解析したとの証拠がないこと,④「仮に,京葉線のトンネル重量に継ぎ手,ボルト類等の重量が含まれていないとしても,そのことは本件事業区間における複心円シールドトンネルの振動予測値に何ら影響を及ぼすものではない」とする原審の判断は誤りであること,⑤車輪の摩耗により地表振動は10デシベル程度増加するとの文献,レールの摩耗により振動レベルが10デシベル増加するとの文献,レールの摩耗の削正により振動レベルが6デシベル軽減した事例の報告があるのに,車輪,レールの摩耗による振動の増加がないと扱ったことには重大な誤りがあること,⑥ハスケルのマトリックス法を用いることの妥当性の立証責任は被控訴人らにあるのに,原判示はその妥当しないことの立証を控訴人らに求めていること,⑦ハスケルのマトリックス法を用いた計算の過程が不明である以上合理的な予測はなされていないと認定すべきであるのに原判示はそうしていないこと等から,原判示に誤りがあり,本件評価書が信用できない旨主張する。 ところで,本件のような地下鉄建設工事に関する収用対象事業性の認定に当 されていないと認定すべきであるのに原判示はそうしていないこと等から,原判示に誤りがあり,本件評価書が信用できない旨主張する。 ところで,本件のような地下鉄建設工事に関する収用対象事業性の認定に当たり,当該事業が法20条3号の要件(事業計画が本件土地の適正かつ合理的な利用に寄与すること)を判断する前提として,事業認定庁は,建設工事遂行後の地下鉄運行の結果,起業地の所有者に生ずる振動被害の程度について,事実認定を行う必要があるが,その事実認定は,将来発生するであろう振動被害の程度を処分時において科学的に予測する方法によることとなる。しかし,地下鉄運行による振動の地表への伝播,増幅等の予測は,事の性質上,専門技術的検討を踏まえて行わざるを得ないのであって,その専門技術的検討の内容や方法は事業認定庁の専門技術的裁量に委ねられるというべきであるから,その専門技術的検討の過程に過誤や社会通念上不合理な判断がない限り,事業認定処分に裁量権の逸脱又は濫用による違法が存すると解することはできないというべきである。 これを本件についてみるに,被控訴人知事は,本件処分の前提として,本件評価書に依拠して,控訴人らが一般的条件下で受忍限度を超える振動被害を被るものではないと認定したものとみられる。そして,控訴人らの主張する上記①については,本件評価書において,観測の際に現に生じた振動値の上下10パーセントのデータを考慮しない点が一般的条件下での振動被害を予測する上で合理性があることは原判示(35頁)のとおりであること,上記②,③の被控訴人らが周波数帯毎の振動特性を把握したことやコンピューターを用いて解析したことについては,これがなされていないことの合理的な証拠はなく,直ちに過誤があるとは認められないこと,上記⑤の車輪やレールの摩耗による地表振動の増加に を把握したことやコンピューターを用いて解析したことについては,これがなされていないことの合理的な証拠はなく,直ちに過誤があるとは認められないこと,上記⑤の車輪やレールの摩耗による地表振動の増加については,本件評価書は,きめ細かい車両の点検・整備,軌道の保守・管理によりそのような振動増加の事態を防止し得ると判断したものと解されるが,この点に誤認や不合理な判断があると断ずべき証拠はないこと,上記⑥,⑦のハスケルのマトリックス法を用いることが不合理であることの立証はなく,また,その計算過程に過誤があることの立証もないこと,上記④の原判示の「仮に,京葉線のトンネル重量に継ぎ手,ボルト類等の重量が含まれていないとしても,そのことは本件事業区間における複心円シールドトンネルの振動予測値に何ら影響を及ぼすものではない」という判断は,原判示の理由(原判決38頁18行目から39頁3行目までのとおり)で誤りはなく,結局本件評価書に過誤や社会通念上不合理な判断があると認めることはできない。 したがって,控訴人らの主張は採用できない。 (5) そのほか,控訴人らがるる主張する点を考慮しても,上記認定判断を左右するに足りない。 第4 結論よって,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからいずれも棄却し,控訴費用は控訴人らに負担させることとして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第1部裁判長裁判官田村洋三裁判官小林克美裁判官戸田久
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