主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中60日を原判決の刑に算入する。 理由 第1 控訴の趣意等 本件控訴の趣意は、弁護人佐藤圭(主任)及び同阿相裕隆共同作成の控訴趣意書及び控訴趣意書補充上申書に、これに対する答弁は検察官金山洋文作成の答弁書に、それぞれ記載されたとおりである。論旨は、訴訟手続の法令違反及び事実誤認の主張であり、公訴事実で「現金約20万9000円」と明示された被害金額について訴因変更手続を経ずに「現金(額不詳)」とい う不意打ちとなる認定をした原審には訴訟手続の法令違反があるほか、被告人が本件の犯人であると認定した原判決には事実の誤認があるというのである(以下、略称等は原判決に従い、月日のみの記載は平成28年を指す。)。 本件は、被告人が、被害者を殺害して現金を強取しようと考え、1月14日午後5時20分頃から同日午後5時51分頃までの間に、被害者方におい て、殺意をもって、その頭部等を鈍体様のもので数十回殴り、よって、その頃、被害者方において、被害者を脳挫傷により死亡させて殺害した上、被害者所有の現金(額不詳)を強取したという事案である。 第2 訴訟手続の法令違反の論旨について所論は、本件公訴事実においては、被害金額が「現金約20万9000円」 と明示されているが、原判決は「現金(額不詳)」と認定しているところ、本件において、被害金額は、被告人が1月14日午後6時35分頃に現金20万8000円を現金自動預払機(ATM)に入金したことの評価に関わる被告人の防御にとって重要な事項であり、原審検察官は、一貫して本件公訴事実どおりの被害金額を主張し、それを下回るなどの予備的主張は行ってお らず、原審裁判所も、被害金額に関する求釈明や発問等はしてい の防御にとって重要な事項であり、原審検察官は、一貫して本件公訴事実どおりの被害金額を主張し、それを下回るなどの予備的主張は行ってお らず、原審裁判所も、被害金額に関する求釈明や発問等はしていなかったと ころ、原審検察官は、被告人の犯行時の所持金が1万円を下回っており、前記入金の全てが強取金であったことを前提とする主張をしていたため、原審弁護人において、犯人であれば強取金と手持ち現金を合わせてATM入金すること自体が不合理であるという主張をする機会がなく、その機会があれば、そのような入金の可能性が排斥されて、被告人が強取金全てである現金20 万8000円を入金した可能性しか残らなくなり、1月14日午後5時53ないし54分頃にA店を訪れた時点の被告人の全財産が最大でも21万3860円であることから、被告人が自宅に数万円程度の現金を保管していた可能性を認めた原判決の説示と矛盾することとなって、犯人性の認定全般に関する評価が変わるものと思料され、また、実際に数万円単位の現金が手元に あるのであれば、複数の支払先に一部弁済をした上で、残部の返済猶予を求めるなどの現実的な行為可能性が生じて、犯行動機に大きく関わることとなるが、本件の争点の設定上、原審弁護人がこの点の主張・立証をする契機はなかったから、原判決の前記認定は、不意打ち以外の何物でもなく、訴因変更を経ずに前記認定をした原審の訴訟手続には法令違反があり、仮に訴因変 更の観点から違法ではないとしても、被告人の防御にとって重要な事項であり、公判前整理手続を経て争点として顕在化されておらず、被告人側が何らの防御活動を行っていない点について、不意打ちとなる認定をした原審の訴訟手続には法令違反がある、などと主張する。 しかし、所論が指摘する原判決の認定は、現金が被害 在化されておらず、被告人側が何らの防御活動を行っていない点について、不意打ちとなる認定をした原審の訴訟手続には法令違反がある、などと主張する。 しかし、所論が指摘する原判決の認定は、現金が被害財物であることは認 定できるが、その具体的な金額を認定することが困難であることから、本件公訴事実に掲げられた事実について、証拠上認められる限度で事実を認定したもの、すなわち公訴事実の範囲内における縮小認定であるから、不意打ちにはならない。したがって、訴因変更を要する場合には該当しないと考えられるから、被害現金の額が、被告人が現金をATMに入金した事実の評価に 関わるとしても、それをもって、前記認定が違法であるなどとはいえない。 所論は採用することができず、訴訟手続の法令違反の論旨は理由がない。 第3 事実誤認の論旨について 1 原判決の判断等原審においては、被告人が本件の犯人であるか否か、殺害行為が現金強取に向けられたものであるか否かが争点となったところ、原判決は、前者の争 点について、概要、次のとおり説示して、被告人が本件の犯人であると認定した。 ⑴ 犯行時間帯1月15日午後4時頃に被害者方で発見された被害者の遺体を解剖したB医師及び消化器等が専門のC医師の各証言によれば、胃の内容物は消化がほ とんど進んでいなかったことなどから、被害者は食事を終えてから約20分ないし30分以内に、頭部に激しい力が加わって脳に致死性の重篤な損傷が生じたと認められるところ、1月14日午後3時50分頃に配達された夕刊が被害者方居間から発見され、被害者が取り込んだものであったことから、被害者はその時間帯には生存していたといえ、娘のDによれば、被害者は早 ければ午後4時30分頃から夕食を食べ始め、15分から20分程度 居間から発見され、被害者が取り込んだものであったことから、被害者はその時間帯には生存していたといえ、娘のDによれば、被害者は早 ければ午後4時30分頃から夕食を食べ始め、15分から20分程度で食べ終えていたことや、食事に使ったと思われる食器等が台所の乾燥機内にあったことなどから、同日午後5時頃までは生存していたと認められる。一方で、被害者の親族であるEの証言等によれば、同日午後6時30分頃までに被害者方へ電話をかけたが誰も出ず、その後も被害者方にかけられた電話に出る 者はいなかったことから、被害者は同時刻頃までには受傷していたと考えられる。以上によれば、本件の犯行時間帯は、1月14日午後5時頃から同日午後6時30分頃と認められる。 ⑵ 犯人像被害者は、あらかじめ訪問の連絡があったときを除いて普段から玄関ドア を施錠していたが、事件後は玄関ドアが開錠されており、玄関以外から人が 入り込んだ形跡や玄関ドアの鍵がこじ開けられた形跡はなく、土足痕もなかった。被害者は居間の絨毯上で血まみれになって横たわり、周囲には血痕が飛び散り、被害者が普段履いていたスリッパは被害者が居間で過ごすときに脱いでいた絨毯のそばの位置にあったことから、犯人は、被害者が鍵を開けた玄関ドアから靴を脱いで立ち入り、居間まで上がり込んだ後に犯行に及ん だと認められ、犯人が、被害者から来客として家の中に招き入れられた人物であると推認される。 ⑶ 被告人が1月14日に被害者方を訪れる約束をしていたこと被告人は、事件当時、被害者から18万円を借りており、1月13日に被害者と通話した記録があるところ、被害者の知人であるFの証言やGの検察 官調書によれば、被害者は、Fらと話をした際に、被告人が1月14日に被害者方に来る予定があるから家を空 り、1月13日に被害者と通話した記録があるところ、被害者の知人であるFの証言やGの検察 官調書によれば、被害者は、Fらと話をした際に、被告人が1月14日に被害者方に来る予定があるから家を空けられない旨話していた事実が認められる。被害者が、認知能力の低下から、被告人が電話で借金を「近いうちに返しに行く」と言ったのを、1月14日に来ると勘違いしたり聞き間違えたりした可能性をいう原審弁護人の主張は、被害者の親族や知人らが被害者に認 知症の症状が出ていたことはないと証言し、被害者が一人暮らしで問題なく日常生活を営むことができており、被告人との通話の中で具体的な日付が出ていなかったとすれば1月14日と勘違いすることも考え難いことなどから、抽象的な可能性を指摘するにすぎない。以上によれば、被告人は、被害者との間で、1月14日に被害者方を訪れる約束をしていたと認められる。 ⑷ 犯行時間帯における被告人の行動被告人が1月14日に使用していたセフィーロA32前期型と類似する車両(類似車両)が同日午後5時15分頃から同日午後5時18分頃にかけてA店、H店及びI店の前の道路を順次通過した後、同日午後5時20分頃、被害者方近くの本件J店前の道路を通過した。これらの店の防犯カメラ映像 等に基づいて車両識別鑑定を行ったKの証言や、被告人車両に係る車種を製 造した会社の社員であるLの証言によれば、被告人車両と類似車両のテールランプやブレーキランプ、ナンバーの取り付け位置、コーナーリングランプとウインカーの位置関係等がほぼ一致することから、類似車両の車種は、被告人車両と同じセフィーロA32前期型と認められる。 そして、本件J店の防犯カメラ映像等によれば、類似車両は、1月14日 午後5時20分頃、被害者方から約400m離れた ら、類似車両の車種は、被告人車両と同じセフィーロA32前期型と認められる。 そして、本件J店の防犯カメラ映像等によれば、類似車両は、1月14日 午後5時20分頃、被害者方から約400m離れた本件J店付近の交差点(本件交差点)を右折して被害者方がある方向へ向かったと認められる。原審弁護人は、類似車両が本件交差点を直進した可能性を指摘するが、類似車両は、2車線あるうちの右側車線に位置し、類似車両が先頭になって信号待ちをしていたときに後続車が来て停止し、その後、信号が青になり、類似車 両が発進した後に後続車も発進したがすぐに停止したことも踏まえると、類似車両は右折待ちのために本件交差点直前で一時停止したというべきであるから、類似車両が右折したとの認定は左右されない。 そして、セフィーロA32前期型が平成6年8月から平成9年1月にかけて製造された車種であり、事件当時は生産終了から約19年経過していたこ とや、被告人が1月14日の夕方頃に被告人車両を運転して外出し、同日午後5時51分頃に被害者方から直線距離で約1kmの距離にあるH店前の道路を、被害者方がある方向から被告人方がある方向へ通過していたことを併せ考えれば、類似車両と被告人車両は同一の車両であり、かつ、被告人が運転していたというべきである。 以上によれば、被告人は、被告人車両を運転し、1月14日午後5時20分頃に被害者方から約400m離れた本件交差点を右折して被害者方方向に向かい、その約30分後に被害者方方向から戻ってきたと認められる。 ⑸ 被告人が1月14日午後6時35分頃に現金20万8000円をATMに入金したこと ア被告人の当時の経済状況 被告人は、本件当時、母親と同居しつつ、ラーメン店(本件飲食店)で勤務し、遅くとも平成27年 6時35分頃に現金20万8000円をATMに入金したこと ア被告人の当時の経済状況 被告人は、本件当時、母親と同居しつつ、ラーメン店(本件飲食店)で勤務し、遅くとも平成27年7月以降、ほぼ毎週、給与の一部の前払制度(給与前払サービス)を利用し、手数料540円を負担して1ないし3万円程度の前払金の振込を受け、これを直ちに出金することを繰り返し、前払金控除後の給与も、振込を受けると直ちに出金することがほとんどで、被告人の預 金残高は、給与等の振込直後を除いて、常時1000円未満であった。 被告人は、親戚や知人から借金をし、返済しては新たに借り入れることを繰り返し、没交渉状態にあった伯母である被害者からも、平成27年10月26日に突然訪ねて10万円を借り、一度2万円を返済したが、同年12月25日に更に10万円を借りているほか、同月21日には、滞納していた市 道民税に関して1月15日までに納付額の連絡がなければ給与を差し押さえると通告され、平成27年12月25日には、料金1万6359円の未納を理由に携帯電話の利用が停止され、上司から借りた2万円でこれを支払っている。 被告人は、同日から1月12日までの間、前払金及び給与として合計13 万8000円の収入を得る一方で、レンタカー代合計2万2840円や上司への前記2万円の返済、5回ほどのパチスロでの遊興に支出しており、1月13日、前払金1万8000円の振込を受けて同額を出金し、預金残高は134円となり、その出金した現金をパチスロで費消した後の同日午後6時2分頃には、被告人の財布内には紙幣が入っていなかった。 被告人の借財は、1月14日時点で、いとこのMから20万円、親戚のNから5万円、被害者から18万円、同僚に紹介されたOから14万円、知人のPか 、被告人の財布内には紙幣が入っていなかった。 被告人の借財は、1月14日時点で、いとこのMから20万円、親戚のNから5万円、被害者から18万円、同僚に紹介されたOから14万円、知人のPから5万円に上り、そのほか、市道民税25万2100円を滞納し、闇金業者との和解交渉を依頼した法律事務所(本件法律事務所)に対して4万9000円の報酬支払債務を負っており、これらの総額は92万1100円 であった。 イ 1月14日の犯行時間帯以降の被告人の言動被告人は1月14日午後5時54分頃、被害者方から直線距離で約1.3kmの距離にあるA店でたばこ等を購入した際、五千円札で支払をし、同日午後6時29分頃、Oに対して1月15日に7万円を返済する旨の電話をし、同日午後6時35分頃、Q店のATMで、216円の手数料を支払って被告 人の預金口座に20万8000円を入金し(本件入金)、その約8分後の同日午後6時43分頃、R店に移動し、108円の手数料を支払って同口座から2万7000円を出金し、同日午後6時46分頃から同日午後8時1分頃までパチンコ店に滞在し、1月15日午前10時5分頃、同口座から13万円を出金するとともに、本件法律事務所に対して支払期限が到来していた報 酬の分割金合計3万円を送金し、同日午前11時頃、Oに対して7万円を返済し、釧路市役所に電話をかけて1万円なら市道民税を納付できると伝えた。 ウ被告人が入金した20万8000円の原資被告人は、前記のとおり、平成27年12月25日の時点で、携帯電話の料金も支払えないほど経済的に困窮し、それまでの経緯をみても、借金の総 額を増加させる一方であった上、市道民税や前記報酬も支払えていなかったのであるから、同日以降、急に蓄財できるようになったとは考え難く、同日 ほど経済的に困窮し、それまでの経緯をみても、借金の総 額を増加させる一方であった上、市道民税や前記報酬も支払えていなかったのであるから、同日以降、急に蓄財できるようになったとは考え難く、同日から本件入金までの間も、給与前払サービスを利用したり、前記報酬の支払やPに対する借金の返済について猶予を求めたりしていたことに加え、1月13日の時点で預金残高が134円であり、引き出した前払金もすぐにパチ スロで全額費消し、その直後には財布の中に紙幣はなく、他に被告人に見るべき資産はなかったから、仮に自宅に現金を保管していたとしても、多く見積もってせいぜい数万円程度にとどまると考えられる。さらに、被告人が、これまで預金口座で所持金を管理してはいなかったにもかかわらず、急に20万8000円もの大金を入金し、その約8分後に、あえて別の店舗のAT Mに移動してその一部を引き出すなどの不審な行動をとっていることからも、 入金した20万8000円は、1月14日当日に何らかの方法でその大部分をまとめて取得し、直ちにその全額を入金したことが強くうかがわれる。そうすると、20万8000円のうちの全部又は少なくとも十数万円は、被告人が1月14日当日に給与以外の方法で入手した現金に由来するものといえる。 エ弁護人の主張について弁護人は、本件入金に係る現金20万8000円は、平成27年12月25日から1月12日までの間に振り込まれた被告人の前払金や給与の合計13万8000円、被害者からの借入金10万円、パチスロで平成27年12月29日に得た7万3000円とそれ以外の日に得た1万円を原資として被 告人方で管理していた現金であると主張し、被告人もこれに沿う供述をするが、被告人が弁護人の主張する平成27年12月29日のパチスロの直 た7万3000円とそれ以外の日に得た1万円を原資として被 告人方で管理していた現金であると主張し、被告人もこれに沿う供述をするが、被告人が弁護人の主張する平成27年12月29日のパチスロの直後にPに対し借金の返済の猶予を求める連絡をしていることなどから、パチスロで8万円以上もの現金を得たとする被告人の供述は鵜呑みにできない。 また、弁護人は、被告人は給与前払いサービスの利用を手元の現金の多寡 に関係なく毎週のように行っていたし、Pや本件法律事務所に対する支払猶予の申入れについても被告人にとって優先順位の低い返済を後回しにしていただけであるから、いずれも手元に現金がなかったことを推認させる事情ではない旨主張するが、被告人が毎週のように同サービスを利用していた時期はいずれも、滞納していた市道民税の督促を受けたり闇金業者とも関わり続 けていたりした時期であり、当時から経済的に困窮していたとうかがわれるから、毎週のように同サービスを利用していたことは、むしろ常に経済的に困窮していたことを推認させるものであるし、弁護人の主張を前提にすると、被告人は18万円以上に及ぶ所持金がありながらPに借金の支払猶予を申し入れたことになり、優先順位を考慮したとしても、不自然さは拭えないから、 いずれの指摘も被告人が経済的に困窮していたとの推認を妨げるものではな い。 ⑹ 犯行時間帯後の不審なインターネット検索脳神経外科が専門のS医師及び解剖医のB医師の証言によれば、被害者は受傷後に舌根沈下が生じ、いびき様の音を発していたと認められ、被害者方の複数個所から犯人に由来すると推認される足跡型のルミノール反応が検出 されており、犯人は被害者に対する暴行後、一定時間被害者方を物色し、その際に被害者が発するいびき様の音を聞いていた 被害者方の複数個所から犯人に由来すると推認される足跡型のルミノール反応が検出 されており、犯人は被害者に対する暴行後、一定時間被害者方を物色し、その際に被害者が発するいびき様の音を聞いていたと認められるところ、被告人は、犯行時間帯の直後である1月14日午後8時33分頃には、自身のスマートフォンで「イビキをかいたら」「イビキをかくとき」との語句でインターネット検索をし、T病院呼吸器科の「激しいイビキの方は要注意!!」 というホームページを閲覧したほか、1月15日午前10時20分頃、スマートフォンで「あしもん」と入力した上で「足紋」と変換してインターネット検索をしており、これら二つをいずれも本件犯行のすぐ後に調べるというのは、被告人が本件犯行と関係していないのであればあまりに偶然が過ぎるというべきであるから、この事実は被告人が本件犯行に関わっていることを 相当に推認させる。 ⑺ 総合評価以上のとおり、被告人は、犯行時間帯である1月14日午後5時20分頃、被害者方から約400m離れた本件交差点を右折して被害者方方向へ向かい、同日午後5時51分頃に被害者方方向から戻ってきており、あらかじめ同日 に被害者方を訪れる約束をしていたことを踏まえると、被告人が犯行時間帯に被害者方に行ったことが強くうかがわれる。そして、被告人が犯行時間帯の直後に入金した20万8000円のうちの全部又は十数万円については、被告人が同日中に何らかの方法で入手したものと認められるところ、証拠上、被告人が被害者から入手する以外の方法で十数万円以上の現金をその日に取 得したことをうかがわせる事実は見当たらない。その上、被告人は、その入 金の約8分後には、あえて別の店舗のATMに移動してその一部を引き出すなどの不審な行動をとっていること その日に取 得したことをうかがわせる事実は見当たらない。その上、被告人は、その入 金の約8分後には、あえて別の店舗のATMに移動してその一部を引き出すなどの不審な行動をとっていることや、犯行時間帯の直後に「イビキをかいたら」などと、また、翌15日にも「足紋」と重ねて本件犯行に関連する検索を行うなど、被害者の殺害に関連する不審な行動に及んでいることからすれば、被告人が入金した20万8000円のうちの全部又は少なくとも十数 万円は、犯行時間帯に被害者から入手したものであると考えられ、被告人が本件の犯人であることが強く推認される。 仮に、被告人が犯人でないとすると、被告人は、犯行時間帯において、被害者方を訪問する約束をした上で、被害者方から約400m離れた本件交差点を右折して被害者方方向へ向かったものの、約束を反故にして被害者方を 訪問せず、被害者から取得する以外の方法で十数万円程度の現金を取得して、これを突如預金口座に入金し、その後、前記のような本件犯行に関連する検索をたまたま複数回行った一方で、偶然にも被告人以外の第三者が犯行時間帯に来客として被害者方を訪れ、被害者を殺害したことになるが、このような偶然が重なり合うことはおよそ考えられず、前記事実関係は被告人が犯人 でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは、少なくとも説明が極めて困難なものというほかない。 以上によれば、被告人が本件の犯人であると認められる。 ⑻ 被告人の供述の信用性これに対し、1月14日に被害者方に行ったことはなく、同日夕方頃に全 財産を持って外出したのはコンビニエンスストアに行くためであったとか、Oに借金を返済するためであったとしつつ、Oとは事前に約束をしていなかったなどとする被告人の供述は不合理であり、場 頃に全 財産を持って外出したのはコンビニエンスストアに行くためであったとか、Oに借金を返済するためであったとしつつ、Oとは事前に約束をしていなかったなどとする被告人の供述は不合理であり、場当たり的で全体として信用性に欠けるもので、信用できない。 ⑼ 弁護人の主張 弁護人は、1月14日午後5時20分頃から同日午後5時51分頃までの 間に、本件J店付近から被害者方に移動し、被害者と居間でやりとりをした後に被害者を鈍体様のもので数十回殴って殺害し、被害者方内を物色して現金を強取し、返り血を台所で洗うなどした後、A店まで移動するというのは、時間的に不可能に近い旨主張するが、犯人の合理的行動として、犯行発覚を免れるために長時間現場にとどまることを嫌い、急いで行動したということ も十分に考えられるし、本件犯行前の被害者とのやりとりもごく短時間であった可能性は残るから、前記時間帯に本件犯行を行うことが不可能であったとの合理的疑いは生じない。 また、弁護人は、被害者方に存在した現金は確実に20万円を下回っていたから、本件入金に係る20万8000円が被害者方から入手したものと認 められない旨主張するが、証拠上、被害者方に存在した現金が20万円を下回っていたなどとは断定できず、かえって、被告人が平成27年10月に突然被害者方を訪れた際に、被害者がその場で10万円を渡すことができたことに照らせば、自宅内に相応の蓄えを有していたことがうかがわれる。 次に、弁護人は、本件当時の被告人はさして窮境にあったとはいえず、殺 人を犯してまで現金を工面しなければならないほどに追い詰められていたとは考え難いと主張するが、被告人は携帯電話料金すら支払えない状況に陥っていた中、市道民税の滞納に関して給与を差し押さえられる可能性がある してまで現金を工面しなければならないほどに追い詰められていたとは考え難いと主張するが、被告人は携帯電話料金すら支払えない状況に陥っていた中、市道民税の滞納に関して給与を差し押さえられる可能性があることを伝えられ、闇金業者からも多数回の電話があったことなどから、相当に経済的にひっ迫し、追い詰められていたといえ、本件犯行の動機を形成した としても不自然ではない。 その他弁護人が主張するところを検討しても、被告人が犯人であるとの認定に合理的疑いは生じない。 2 当裁判所の判断⑴ 原判決の前記認定は、論理則、経験則等に照らし、おおむね不合理な 点はなく、当裁判所も是認することができる。 ⑵ これに対し、所論は、以下のとおり指摘して、被告人が本件の犯人であると認めた原判決には事実の誤認があると主張する。 ア被害者は、受傷後死亡するまで30分内外、少なくとも20分以上の時間を要しており、犯人は、被害者の死亡直前に、被害者の頭にビニール袋をかぶせていることから、犯人はどんなに少なくみても、被害者方に20分 以上とどまったことになるし、A店を1月14日午後5時15分45秒に通過した類似車両が本件J店付近の本件交差点を右折して防犯カメラの画角を外れたのが同日午後5時20分33秒であることからすると、犯人が被害者方からA店まで車で移動するには、被害者方を出て車を発進させる時間などを考慮しなくても、5分程度を要し、そこに被害者が犯人を招き入れた行為 に要する時間、犯人による被害者に対する防御創傷を抜きにしても40発以上の殴打行為、被害者にビニール袋をかぶせた後の諸行為にかかる時間も加えると、それだけでも30分程度の時間を要することになるから、被告人が本件犯行を行うことは、時間的に不可能又は著しく困難である。原判決の 打行為、被害者にビニール袋をかぶせた後の諸行為にかかる時間も加えると、それだけでも30分程度の時間を要することになるから、被告人が本件犯行を行うことは、時間的に不可能又は著しく困難である。原判決の犯人が「急いで行動した」という指摘は、それによって、被害者の受傷から死 亡までの時間が短くなるわけではなく、被害者に対する殴打行為も大幅に時間を短縮できるものではないことなどから、観点がずれているとしかいえず、また、「被害者とのやりとりもごく短時間であった可能性は残る」との指摘については、争点化されておらず、仮に被告人が金銭に窮して被害者方を訪問したのであれば、まずは更なる借財を申し込むなどすることが考えられる から、やりとりがごく短時間であったとはいえないし、原判決は、実行行為に掛かる時間にすら言及しておらず、本件犯行が時間的に不可能又は著しく困難ではないことを示していない。 イ被告人は、被害者に対し、「近いうちに行くよ」という被害者の勘違いを誘引するような言動はしたが、訪問時間を決めないで約束することは考 えにくいなどの理由から、被害者と1月14日に被害者方を訪れる約束はし ていない旨一貫して述べており、そのような約束はなかった。被害者は認知症にり患していたところ、文献に記載のとおり、軽度の認知症であれば日常生活はほぼ介助なしで生活でき、対人関係では支障があるが、特定の相手であれば電話は可能ともされる一方、時間の見当識には支障が生じるとされており、被害者自身がノートに物忘れや日にちの勘違いに関する記載をしてい るのであるから、被害者が、「近いうち」を「明日」の「14日」と曲解し、被告人の来る日を勘違いしたり誤った日と思い込んだりした可能性がある。 ウ本件J店の防犯カメラ映像には、同店付近の本件交差点を類 のであるから、被害者が、「近いうち」を「明日」の「14日」と曲解し、被告人の来る日を勘違いしたり誤った日と思い込んだりした可能性がある。 ウ本件J店の防犯カメラ映像には、同店付近の本件交差点を類似車両が右折する瞬間はもちろん、右折待ちをしている場面も映っていないところ、事件当時の路面は雪で覆われており、車線の区別は著しくつきにくく、右側 車線は右折専用ではないこと、ルート変更を思いつくなどして、右折から直進に切り替えることもあり得ること、後続車が雪で停止線等を目視できずに同交差点のかなり手前で停止した可能性が排斥できず、後続車の位置はその前方に右折待ちをする車が存在したことを必ずしも意味しないことからすれば、類似車両が同交差点を右折したとは認定できない。 エ ①被告人は、平成27年12月11日に当時の交際相手に10万円を交付しているが、同月に被害者への借金の返済はしておらず、また、他にも給与等を引き出した後にパチスロで遊興するなどしているが、被害者のみならず他の親族へも借金の返済はしていないというように、お金があるから借金を返済するという生活は送っておらず、現金がある状態になった直後に返 済猶予を求める連絡をすることはおかしいという経験則に従わない生活をしていたことは明らかであるから、被告人が有していた現金に関する原判決の推認は被告人の行動原理に沿わないものであり誤っている。②被告人は、平成27年3月頃に本件飲食店で働き始めてからすぐに給与前払サービスの利用を始めており、被告人が経済的に困窮していない時期に同サービスを利用 していないとする証拠はなく、同サービスについては同年7月からの利用履 歴があるが、同月及び同年8月の被告人の負債は市道民税の未納分25万2100円であり、釧路市役所から被告人の 利用 していないとする証拠はなく、同サービスについては同年7月からの利用履 歴があるが、同月及び同年8月の被告人の負債は市道民税の未納分25万2100円であり、釧路市役所から被告人の勤務先である本件飲食店に給与照会が入ったのが同年12月であるから、被告人が同年7月及び同年8月に経済的に困窮して負債の返済に追われていたとはいえず、被告人は経済的に困窮していない時期にも同サービスを利用していたのであるから、被告人が同 サービスを利用していたことは経済的に困窮していたことを推認させるものではない。③原判決は、1月13日の時点で被告人が自宅に現金を保管していたとしても、多く見積もってせいぜい数万円程度にとどまると認定しているが、「数万円程度」には幅があり、7万円以上あればOへの返済が可能となるなど、犯行動機の形成という点のみでも多様な考え方が可能となってし まうし、被告人がATMに入金した20万8000円の一部に第三者から得た現金が含まれるとする場合、第三者から得た現金と自己資金とを同時に入金する点に重大な疑問が生じ、その疑問の程度は、自己資金が多くなればなるほど高まるから、前記のような抽象化した認定は許されない。 オ被告人が行ったいびきに関するインターネット検索については、ある 日話題になったことを後日気になって検索することは、往々にしてあり得ることであるから、1週間後の検索が不自然であるとはいえず、また、被告人は、医療機関のサイトを見ており、いびきの原因や止め方を調べた可能性は排斥できないし、仮に被害者がいびきをかいていたとしても、犯行後にとれる対策などないから、犯人であれば事件後にいびきに関する検索をする可能 性が高いという推論も成り立たず、いびきに関する検索は本件犯行の犯人と結び付くものとはい かいていたとしても、犯行後にとれる対策などないから、犯人であれば事件後にいびきに関する検索をする可能 性が高いという推論も成り立たず、いびきに関する検索は本件犯行の犯人と結び付くものとはいえない。 カ動機に関して、被告人は、携帯電話料金の支払を遅滞することが日常的にあったほか、1月14日時点で給与の差押手続を具体的に取られたわけではなく、給与は全額差し押さえられるものでもない上、当時本件飲食店の 勤続年数は1年未満であり、給与の差押えを受けることで事実上退職に至っ ても殊更困るものではなく、当時の被告人の生活状況からは、収入がなくても衣食住には困らなかったから、給与を失うことで強盗殺人を犯すほど追い詰められた状況ではなく、また、同月時点で闇金業者への借金があった証拠はなく、闇金業者から多数回の電話があり被告人からも電話していたことをもって、「相当に経済的にひっ迫し、追い詰められていた」と評価するのは 不合理であるし、被告人にとって、被害者は直近に2回もお金を貸してくれた相手であり、被害者が被告人に対し直接借財を拒絶した事実もないから、被害者を殺害してまで金員を奪うことは合理的ではなく、被害者方にどれくらいの金銭があるか事前に知り得たという証拠はないから、少なくとも強取を前提に被害者方を訪問することは、およそ想定できない。 キ Uは、被害者が、平成27年12月25日に被告人にお金を貸した件について、「小樽旅行の旅費だよと言って貸してあげた」と言っていた旨証言しており、被害者は、同月29日にV信用組合の預金口座から10万円を出金し、その際、担当者に「生活費で下ろした分では間に合わなくて」と述べているから、被害者が自宅内に相応の蓄えを有していたとの原判決の認定 は誤りである。 ク被害者の殺害態 から10万円を出金し、その際、担当者に「生活費で下ろした分では間に合わなくて」と述べているから、被害者が自宅内に相応の蓄えを有していたとの原判決の認定 は誤りである。 ク被害者の殺害態様や現場状況からは、犯人が衣服や顔面等に一切返り血を浴びていないことはあり得ず、被告人は、1月14日も眼鏡を着用しており、被告人が犯人であれば犯行時も眼鏡を着用していたはずであるが、被告人の眼鏡からはルミノール反応が出ていないし、被告人の行動経過が明ら かで、罪証隠滅をする時間が見当たらないことからすると、被害者の血液が付着したであろう靴下や衣服をいつどのように処分したのかも不可思議である。 ケ Uは、午後5時半から午後5時40分頃に被害者方を訪れた際に、被害者が夕食を食べていることが2回あったなどと証言しており、被害者は午 後5時半過ぎ、あるいは少なくとも午後5時を過ぎた時間に夕食を食べてい たことがあると認められるから、Dの証言に従って1月14日における被害者の夕食開始時刻を午後4時半から午後5時と認定した原判決は誤っており、被害者が同日午後5時を過ぎてから夕食を開始したとすれば、被告人が犯行を行うことは著しく困難である。 ⑶ しかし、以下のとおり、前記⑵の所論はいずれも採用することができ ない。 アについては、B医師が、被害者が負った傷の状況、受傷後死亡するまでのおおよその時間、被害者の頭部にビニール袋がかぶせられた時の被害者の状態等について証言するところを踏まえても、被告人が、1月14日午後5時20分頃に車両を運転して本件交差点を右折し、被害者方に赴いて、本件 犯行に及んだ後、同日午後5時51分頃に車両を運転してH店前に至ることが、時間的に不可能であるとはいえない。また、DやUの証言等に照らすと、 運転して本件交差点を右折し、被害者方に赴いて、本件 犯行に及んだ後、同日午後5時51分頃に車両を運転してH店前に至ることが、時間的に不可能であるとはいえない。また、DやUの証言等に照らすと、被害者方には本件の凶器となるような金槌様のものはなく、犯人は凶器を用意して被害者方に赴いたと考えられることに加え、後記のとおり、被害者は被告人に対して更なる金銭の貸付を拒んでいたことがうかがえることや、被 告人が平成27年12月25日に被害者方を訪れる前に「殺人事件何を調べる」などの語句でインターネット検索していたことなどを踏まえると、金銭に窮した被告人が、検索情報等を参考にして事前に捜査に対する準備をした上で被害者方を訪問し、被害者とのごく短時間のやりとりの後、直ちに犯行に着手したと考えても不合理ではないから、その可能性があると指摘した原 判決に誤りはない。 イについては、被害者が認知症治療薬を服用していたことは認められるものの、所論指摘の認知症に関する文献の記載は、軽度の認知症において生じ得る症状を一般的に説明したものにすぎないと解され、被害者自身のノートの記載についても、第二日曜日と第三日曜日を勘違いした旨などの記載はあ るが、これは誰にでも起こり得ることであって、直ちに認知症により時間の 見当識に支障が生じていたことを示すものとはいえない。かえって、被害者の親族や知人らは、被害者に認知症の症状が出ていたことはない旨証言しており、被害者は対人関係にも支障がなかったことがうかがわれ、被害者の認知能力が低下していたことを示す具体的事情は見当たらないし、「近いうち」を「明日」の「14日」と誤解したというのも、通話の中で具体的な日付が 出ていないにもかかわらずそのように誤解したことを疑わせる具体的根拠はなく、被 示す具体的事情は見当たらないし、「近いうち」を「明日」の「14日」と誤解したというのも、通話の中で具体的な日付が 出ていないにもかかわらずそのように誤解したことを疑わせる具体的根拠はなく、被害者が勘違い等をした可能性があるとする所論は、抽象的な可能性を指摘するものにすぎない。 ウについては、原判決が説示するとおり、本件J店の防犯カメラ映像等によれば、類似車両は、本件J店の北西側に面した直線道路の2車線あるうち の右側車線を南西方向に進行し、本件交差点に差し掛かって先頭で信号待ちをしていたときに、後続車が来て類似車両の後方で停止し、その後、対面信号が青になり、類似車両が発進した後、後続車も発進したがすぐに停止したものと認められるから、前記防犯カメラ映像に右折等の状況そのものが映っていないことや、前記右側車線が直進も可能であることを踏まえても、類似 車両は右折待ちをするために本件交差点直前で一時停止したものと推認できるというべきであり、所論が指摘するその余の点は、抽象的な可能性を指摘するものにすぎない。 エ①については、被告人は、親族からの借金については返済を怠り、交際相手の歓心を買うことや自身の遊興を優先させていたとはいえても、本件飲 食店の上司(店長)や、同僚から紹介されたOに対しては、借金を返済していた上、まとまった金員が手元にあった1月15日には、現に、Oに対して借金のうち7万円を返済し、本件法律事務所に対して支払期限の到来していた報酬の分割金3回分の合計3万円をまとめて支払い、釧路市役所に電話をかけて滞納していた市道民税につき1万円なら納付できると伝えているので あるから、被告人が「お金があるから借金を返済する」という行動はとって いないとする所論は当を得たものとはいえない。 エ②につい いた市道民税につき1万円なら納付できると伝えているので あるから、被告人が「お金があるから借金を返済する」という行動はとって いないとする所論は当を得たものとはいえない。 エ②については、被告人は、平成27年7月6日から本件の2日前である1月12日までの間、ほぼ毎週、540円の手数料を負担してまで給与前払サービスを利用し、おおむね1万円ないし3万円程度の前払金の振込を受けると、直ちにこれを出金していたものであり、その上、それと重なる時期 に、借金を増加させ、滞納していた市道民税の納付や本件法律事務所への報酬の支払につき督促を受けてこれらを支払うことができず、携帯電話料金すら支払えないこともあったほか、闇金業者との関わりを続けていたものであるから、これらの事情は、被告人が経済的に困窮していたことを推認させるものというべきである。 エ③については、確かに、1月13日時点の被告人に数万円程度の自宅保管金があった可能性を認めた原判決の認定は、何の根拠もないものと認められるし、そもそも、その頃、被告人に臨時収入があったことをうかがわせる事情は何ら見受けられず、当時の被告人の生活状況に照らせば、仮に数万円程度の現金があれば、優先的に返済をしていた借金先等への支払に充てる か、遊興費に費消するなどしていたと考えられるから、同日時点で被告人の所持金はほとんどなかったと考えるのが相当であり、そうすると、被告人がATMに入金した20万8000円には自己資金は含まれないと解され、所論の指摘は当たらないというべきである。ただし、同日時点の被告人の所持金がほとんどなかったと認定し、これに基づき強取金額を認定することは、 原判決からの不利益変更に当たるから、しないこととする。 オについては、原判決も、いびきに関する検索の 時点の被告人の所持金がほとんどなかったと認定し、これに基づき強取金額を認定することは、 原判決からの不利益変更に当たるから、しないこととする。 オについては、原判決も、いびきに関する検索のみであれば、本件犯行とは関係なく偶然に検索したということも考えられる旨説示しており、その上で、被告人が、本件犯行と関連する「イビキ」及び「足紋」という二つの語句をいずれも犯行時間帯の直近である日時に検索したことは、被告人が本件 犯行と関係していないのであれば余りに偶然が過ぎるとして、この事実は被 告人が本件犯行に関わっていることを相当に推認させるとしているのであって、その評価は不合理ではない。 カについては、被告人は、平成27年12月25日には、携帯電話料金すら支払えない状況に陥り、同月21日には、滞納していた市道民税に関して1月15日までに納付額の連絡がなければ給与を差し押さえる旨通告され、 差押え禁止部分を除くとはいえ、唯一の収入源である給与の一部を失いかねない状況にあったほか、平成27年11月11日から1月13日までの間、本件法律事務所からメール等で繰り返し報酬の分割金の支払の督促を受け、支払猶予を求めるなどしていたものであり、1月14日時点での借金や滞納の総額は92万1100円と多額に上っていた上、闇金業者から嫌がらせを 受けて困り本件法律事務所に和解交渉を依頼したことがあったにもかかわらず、平成27年12月8日から1月12日までの間、闇金業者から多数回にわたり電話をかけられたというだけでなく、被告人からも電話をかけて、闇金業者と関わり続けていたものであるから、被告人が、本件当時、相当に経済的にひっ迫し、追い詰められていたといえると指摘して、被告人が被害者 を殺害して現金を入手する動機を形成したとしても 、闇金業者と関わり続けていたものであるから、被告人が、本件当時、相当に経済的にひっ迫し、追い詰められていたといえると指摘して、被告人が被害者 を殺害して現金を入手する動機を形成したとしても不自然ではないとした原判決の説示は不合理ではない。加えて、被害者は、1 月5日に、義理の姉のGに対し、被告人に20万円を貸しており、毎月2万円ずつ返済する約束だったが、最初の1回だけは返してくれたものの、その後は返してくれず、それでも何度も借りに来るので、お金を貸すことを断ると、「現金がなかった らカードあるべや」と言われ、本当に困っている旨相談していたものであり、被害者は被告人に対して更なる金銭の貸付を拒んでいたことがうかがえること、被告人が平成27年10月に突然被害者方を訪れた際、被害者はその場で10万円を渡すことができたのであるから、被告人において、少なくとも同程度の現金が被害者方にあることは十分予想できたこと、被告人が、 同年12月25日の段階で、被害者方を訪れる前に、「殺人事件何を調べ る」「足跡は残る」「指紋採取」等の語句をインターネット検索し、表示されたサイトを閲覧するなどしていたことも踏まえると、被告人が被害者を殺害して現金を入手する動機を形成していたということも十分想定できるというべきである。 キについては、所論指摘の被害者の発言によっても、平成27年12月2 5日の時点で、被害者が自宅内に被告人に貸した10万円には満たないが相応の額といえる程度の現金を旅費以外に保管していた可能性は否定されないし、被害者は、同年10月に被告人が突然被害者方を訪れた際には、その場で現金10万円を渡すことができたことなども踏まえると、被害者が自宅内に相応の蓄えをしていたことがうかがわれるとした原判決の説示に誤りはな 、同年10月に被告人が突然被害者方を訪れた際には、その場で現金10万円を渡すことができたことなども踏まえると、被害者が自宅内に相応の蓄えをしていたことがうかがわれるとした原判決の説示に誤りはな い。 クについては、被告人が本件の犯人である場合の犯行当時の服装等は不明であるし、本件は計画的な犯行であり、犯行直後に、例えば、浴びた返り血を上着で隠すなど、着衣等の状態から容易には犯行の痕跡が分からないようにすることも含め、事前に相応の準備をしていたと考えられるほか、被告人 は、犯行時間帯の後、コンビニエンスストア等の複数の店舗を順次訪れるなど、自由に行動していたのであるから、被害者の血液等が付着した衣類等を捨てるなどして罪証隠滅をする機会がなかったということはできない。 ケについては、Uは、同人が夕食を食べてから被害者方に行くことがあり、午後5時過ぎくらいに夕食を食べ終わってから20分後くらいの午後5 時半頃から午後5時40分頃までの間に被害者方に到着していたこと、その際、被害者が夕食を食べていることと食べ終わっていることがあったが、基本的には食べ終わっており、食べている途中だったことは2回あって、遅いねと聞くと、サークルか何かで帰ってくる時間が遅くなった旨を言っていたことを証言しているが、この証言をもって、被害者にサークル等の予定があ ったことのうかがえない1月14日に、午後5時を過ぎてから夕食を開始し た疑いがあるとはいえず、Dの証言に基づいて同日に被害者が夕食を食べたおおよその時間帯を推定した原判決が不合理であるとはいえない。 所論はいずれも採用できず、事実誤認の論旨は理由がない。 第4 結論よって、刑事訴訟法396条、刑法21条により、主文のとおり判決する。 令和6年7月16日 第4 結論 よって、刑事訴訟法396条、刑法21条により、主文のとおり判決する。 令和6年7月16日札幌高等裁判所刑事部 裁判長裁判官成川洋司 裁判官高杉昌希 裁判官並河浩二
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